JP3859309B2 - 紙パルプ製造工程のスライム発生状況を評価する方法およびスライムコントロール方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は紙パルプの製造工程における白水あるいはパルプスラリーにおけるスライムの発生状況を評価し、その結果からスライムコントロールを行う方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
紙パルプ製造工程においては、多量の水と多種多様な有機薬品とを使用し、さらに適度な温度にあるために、微生物の繁殖にとっては極めて好ましい環境にある。これら微生物のあるものは粘着性物質を分泌し、これが系内の固形物と一緒になり塊状あるいは泥状の所謂スライムを形成する。スライムは、多くの場合、白水ピット、チェスト、ストックインレット、配管等の表面に発生、付着し、これがある時剥離して白水中やパルプスラリー中に混入し紙に取り込まれると紙切れを起こしたり、あるいは紙やパルプに斑点となって製品の品質を著しく低下させるなど数々の弊害をもたらしている。
【0003】
スライムの発生を防止するためには、各種のスライムコントロール剤が使用されている。工程中のスライムの発生状況を評価する方法、あるいはスライムコントロール剤の効果を評価する方法は、工程水を採取しその中の菌数測定を行いその結果から推測するのが一般的である。しかし、菌数の測定は、培地を使用して、一定期間微生物を増殖させてから、その数を計測するもので、その測定には数日間要するのが普通である。そのため、即時に現場の状況を測定評価することはできず、迅速な対応がとれない欠点がある。さらに、菌数測定では、対象とする菌によって使用する培地が異なるため、培養後の菌相は、培養前とは異なる欠点がある。
【0004】
このほか、工程水中に適当なテストピースを吊り下げ、テストピース表面にスライムを付着させ、その量を測定し評価する方法、酸化還元電位を測定する方法等が提案されてきた。いずれも簡便な方法であるが、テストピースを吊り下げる方法は、一定期間のスライム付着状況を診るには、手軽で好都合な方法はあるが、連続的に工程をモニターするには多数のテストピースを浸潰しなければならず、実用的ではない。一方、酸化還元電位を測定する方法は、連続的にスライムの発生・付着状況を測定できるが、スライムの発生量の変化以上に紙パルプの製造工程で使用する薬品により大きく変動し、正確さに欠ける欠点がある。
【0005】
【本発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、紙パルプ製造工程において、白水あるいはパルプスラリー中のスライムの発生状況を連続的に評価し、即時に対応するスライムコントロール剤の注入量を変えてスライムコントロールする方法を提供することにある。
【0006】
【課題を解決する手段】
本発明者らは、ステンレス表面にスライムが形成するとスライム中の微生物の増殖により有機酸を生じる結果、ステンレス表面が腐食を生じこの部分に微量の腐食電流が流れることに着目し、この微量電流かスライム発生状況を知ることができるという知見を得、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち請求項1の発明は、スライムを付着し易くするようにステンレスワイヤーを網状、コイル状とした、あるいはステンレス表面に多数の溝や凹凸を持つ板状、パイプ状、棒状を含む適当な形態をしたステンレスを一つの電極とし、これを銀電極と組合せて指示電極とし、一方白金電極と銀電極を組合せて参照電極とし、これら両電極を同じパイプ内に設置してなるスライムモニター装置に、紙パルプ製造工程における白水あるいはパルプスラリーを流通させ、該指示電極と該参照電極の電極間電位差から紙パルプ製造工程のスライム発生状況を評価する方法である。
【0008】
請求項2の発明は、指示電極と参照電極を設置したパイプ内を白水あるいはパルプスラリーを0.2〜10cm/sの線速度で流通させてなる、請求項1記載のスライム発生状況を評価する方法である。
【0009】
請求項3の発明は、指示電極と参照電極の電極間電位差と、スライムコントロール剤の注入装置を連結させることにより、該電極間電位差により該スライムコントロール剤注入量を制御することを特徴とする紙パルプ製造工程のスライムコントロール方法である。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下に本発明について詳細に説明する。
【0011】
本発明は、白水あるいはパルプスラリー等の工程水を連続的に金属表面に接触させたとき、その金属表面に微生物が付着し、付着した金属表面が嫌気性雰囲気となり、付着微生物中の嫌気性微生物が増殖し、有機酸を分泌する結果、該金属表面に腐食が進行し腐食電流が流れることを利用している。すなわち、その腐食電流の大小でスライム付着状況を判断しようとするものである。
【0012】
本発明のスライムモニター装置は、紙パルプ製造工程から白水あるいはパルプスラリーを分岐して、指示電極と参照電極を取り付けたパイプに流し、該電極間電位差をもって該工程のスライムの発生状況を知ることができるようにしている。
【0013】
本発明における指示電極は、ステンレス電極と銀電極からなっている。ステンレス電極は、スライムを付着し易くするように、例えばステンレスワイヤーを網状、コイル状とした、あるいはステンレス表面に多数の溝や凹凸を持つ板状、パイプ状、棒状等の形態にしたものである。網状、コイル状または表面の溝や凹凸の大きさ、凹凸の程度は特に限定されるものではないが、例えば網状のものとしては、ステンレス金網を円筒状あるいは板状にしたもので、20メッシュ以上の目の細かさが好ましく、さらに好ましくは40〜200メッシュ、より好ましくは60〜150メッシュのものある。コイル状に巻いたものしては、直径0.1〜1mmのステンレスワイヤーをステンレス、ガラスあるいはアクリルなど任意の棒、パイプあるいは円筒に密に巻いたものが挙げられる。板状、パイプ状、棒状の場合、その表面を粗に加工したものであり、特に棒状の場合には表面に約0.1〜5.0mm、さらに好ましくは0.5〜2.0mmピッチの細目のねじ切りを行い凹凸にしたものなどがある。このようにスライムを付着し易くするために表面を粗にするのはステンレス電極全体に及ぶ必要はなく、ステンレス電極の一部で十分である。
【0014】
本発明におけるステンレス電極の大きさは、パイプ内のステンレス電極によってパイプ内の流れに不均一性が生じなければ、特に限定されるのもではない。例えば棒状の場合は、直径3〜10cmで長さが5〜15cm程度であり、網状の場合、網の部分の大きさ5〜15cm×5〜15cmのものを丸めて円筒状にしたものが好ましい。
【0015】
本発明に使用するステンレスの材質は、SUS−201、SUS−302、SUS−304、SUS−316、SUS−317などがあり、価格、加工性、入手のしやすさから、SUS−304、SUS−316が好ましい。
【0016】
本発明の指示電極における銀電極は、市販のものが使用でき、例えば東亜電波工業(株)製「TYPE HA−101」が挙げられる。
【0017】
本発明における参照電極は、銀電極と白金電極との組み合わせである。銀電極、白金電極のそれぞれは市販のものが使用でき、銀電極は指示電極に用いたものと同じでよく、白金電極は例えば東亜電波工業(株)製「TYPE HP−105」が挙げられる。
【0018】
参照電極に用いる電極は、銀・塩化銀電極、水素電極、甘コウ電極、硫酸第一水銀電極、酸化水銀電極なども使用可能であるが、取り扱いが簡単な点で、白金電極−銀電極の組合せが最も適している。
【0019】
図1はスライムモニター装置を例示した略図であって、ステンレス電極(2)と銀電極(4)を組み合わせた指示電極、および銀電極(5)と白金電極(6)を組合せた参照電極は、同じパイプ内であるアクリル製逆L字円筒パイプ(7)内に設置する。該パイプ(7)の被測定液流入口(1)および流出口(8)のそれぞれの端部はフランジ部(9)を形成している。
【0020】
ステンレス電極(2)の設置は、被測定液流入口(1)からの円筒パイプ(7)(外径:50mm、肉厚:3mm、長さ:400mm)内の白水やパルプスラリーの流れに沿ってパイプ軸と平行に取り付けるのが好ましく、パイプ内の流れに不均一性が生じないように留意すれば、特に限定されるものではない。指示電極を構成する銀電極(4)はパイプに対し垂直に挿入し、ステンレス電極スライム付着部分(3)表面と銀電極(4)の先端との間隔は、約2〜5mmとして設置する。
【0021】
参照電極の銀電極(5)と白金電極(6)の設置は、図1に示すように、双方がパイプの表面から垂直にパイプ軸方法に突き刺すように設置し、パイプ軸付近でその先端が互いに約2〜10mm離れるように設置する。
【0022】
指示電極と参照電極との間の距離は同一水系内であれば、特に限定されるものではないが、水系の電気抵抗や、パイプ内の流れの影響を考慮すると、20cm以下、好ましくは15〜2cmである。これより大きく離れていると、感度が鈍くなり、実用上好ましくない。また、1cm以下では、パルプスラリーの詰まりが多くなり、実用的ではない。
【0023】
本発明のスライムモニター装置に使用するパイプの径は、特に限定されないが、パイプ内の滞留や沈殿物の発生・堆積を避けるためには、直径3〜10cmが好ましい。また、電極がパイプ外部より観察できるように透明のパイプを使用するのが好ましいが、不透明のパイプを用いる場合には電極部に観察窓を設置し中の状況が観察出来るようにする。もし電極部にパルプなどの固形物が付着しているときは、小さなブラシなどで取り除く。この掃除のために電極部周辺に掃除用のネジ込み式の窓(図1では(10))を付けておくことが好ましい。使用するパイプの材質は、ステンレス、ガラス、塩化ビニル、アクリル等、特に限定されないが、加工性、強度、外部からの観察が容易なこと等の理由からアクリルが好ましく使用される。
【0024】
本発明のスライムモニター装置のパイプに流入する白水あるいはパルプスラリーの流量は、線速度にして0.05〜15cm/秒、好ましくは、0.2〜10cm/秒、より好ましくは0.5〜5cm/秒である。5cm/秒以下の線速度では、白水あるいはパルプスラリー中の固形物が電極に付着し正確な測定値が得られない。また、線速度が15cm/秒以上ではステンレス電極に付着したスライムが、流入水によって剥離することがあり、長期的なモニタリングができず、好ましくない。
【0025】
スライムモニターに流入するパルプスラリーのパルプ濃度は、1.0重量%以下、好ましくは0.5重量%以下が好ましい。1.0重量%を越えると電極にパルプが詰まり、正確な測定ができない。
【0026】
本発明のスライムモニター装置において、白水、あるいはパルプスラリーの流れの方向は、水平方向、垂直方向のどちらでもよいが、混入してきた空気の蓄積を避けるために、電極の設置部分を垂直方向に対し5〜45度の傾斜をつけることが好ましいことがある。電極部分に空気が蓄積すると電位が安定しなく、スライイムモニターの信頼性に欠けることとなる。
【0027】
本発明において、参照電極と指示電極の電位差の読み取りは、該電位差に見合った電位計を用いればよく、特に限定されるものではないが、通常の場合その電位差は+500mV〜−500mVである。
【0028】
本発明のもう一つの実施の態様は、前述のスライムモニター装置における指示電極と参照電極の電極間電位差と、スライムコントロール剤の注入量を連結させることにより、該スライムコントロール剤注入量を制御することである。
【0029】
本発明のスライムモニター装置における指示電極と参照電極の電極間電位差は、系中にスライムが発生し、ステンレス電極にスライムが付着すると電流が流れ、該電位差が大きくなることである。そこで、電位差が予め設定した値以上に大きくなったときスライムコントロール剤の注入を行い、また設定値以下となったときスライムコントロール剤の注入を止めることによるスライムコントロール剤の注入制御、あるいは該電位差の値と比例的にスライムコントロール剤注入量を制御することができる。スライムコントロール剤の注入量は用いるスライムコントロール剤の種類、工程の状況などを考慮し経験的に決定される。
【0030】
スライムモニター装置に導入される白水あるいはパルプスラリーは、スライムトラブルとなる箇所の白水あるいはパルプスラリーであり、例えば、マシン白水、ワイヤーピット白水、ストックインレットスラリーなどがある。これらをバイパスを造ってモニタリング装置に導入し、指示電極と参照電極の電位差の経時変化をレコーダーに記録していく。スライムが付着していないときの電位差は、個々の抄紙機や白水、パルプスラリーによって異なるため、一概に決めることはできないが、スライムモニター装置を作動させた時の電位差:Vo=(指示電極電位)−(参照電極電位)を基準とすれば、白水、パルプスラリーを流すことによってステンレス電極にスライムの付着が起こり、微生物の増殖による腐食電流が発生するようになると、指示電極電位V1が徐々に増加し始める。V1が、Voよりも約50〜100mV以上の大きさになり、この時はスライムトラブルの危険性が高いと判断され、スライムコントロール剤の増添あるいはより有効なスライムコントロール剤への切り替えが、必要になった時となる。ここで、スラムコントロール剤を増添あるいはより有効な薬剤に変えるとV1は、急速にVoに近い値まで低下し、スライムを抑制したことを示す。V1の低下が少ないときは、薬剤を添加しても増殖傾向にあるスライムの増殖を抑制できなかったか、あるいは殺菌できなかったことを示している。
【0031】
【実施例】
以下に実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明はこれに制限されるものではない。
【0032】
なお、実施例において使用したスライムモニター装置は図1におけるステンレス電極(2)は直径1.3cm、長さが18cmで、先端部分より5cmのところまで1mmのピッチ幅でネジを切った形態のSUS−304からなり、銀電極(4)と白金電極(6)はそれぞれ東亜電波工業(株)製「TYPE HA−101」、「TYPE HP−105」を使用した。ステンレス電極(2)の先端と銀電極(4)の先端との間隔および銀電極(4)の先端と白金電極(6)の先端との間隔は、それぞれ5mm、5mmとし、そして指示電極と参照電極との間の距離は7cmとして設置した。
【0033】
[実施例1]
生産量300トン/日の中質紙の製造ラインにおいて、ワイヤー下白水ピット、マシンテェストにスライムコントロール剤を添加してスラムイムコントロールを行っている中性抄紙機の白水循環ラインから白水を一部分岐し、上記したスライムモニター装置に線速度5cm/秒で流した。この時の電位差(mv)と菌数(個/ml)の推移を図2に、電位差(mv)と成紙斑点数・欠点数(個/日)の推移を図3に示した。
【0034】
この結果、本発明のスライムモニター装置の電位差と、白水中の菌数、さらに製造された紙の成紙斑点数・欠点数に大きな相関関係が認められ、水系中のスライムの増殖状況の状況を十分に把握することができることが示された。
【0035】
【発明の効果】
以上説明したように本発明により、紙パルプ製造工程における白水あるいはパルプスラリー中のスライムの発生状況を連続的に評価できるようになり、かつスライムモニター装置の指示とスライムコントロール剤の注入量制御装置を連結することにより該工程のスライムコントロールは極めて容易、確実となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 スライムモニター装置を例示する図面。
【図2】 スライムモニター装置の電位差と白水中の菌数の推移を示す図面。
【図3】 スライムモニター装置の電位差と成紙斑点数・欠点数の推移を示す図面。
【符号の説明】
(1) 被測定液流入口
(2) 指示電極を構成するステンレス電極
(3) 指示電極を構成するステンレス電極スライム付着部分
(4) 指示電極を構成する銀電極
(5) 参照電極を構成する銀電極
(6) 参照電極を構成する白金電極
(7) アクリル製円筒(外径:50mm、肉厚:3mm、長さ:400mm)
(8) 被測定液流出口
(9) フランジ部
(10) 掃除のための窓
Claims (3)
- スライムを付着し易くするようにステンレスワイヤーを網状、コイル状とした、あるいはステンレス表面に多数の溝や凹凸を持つ板状、パイプ状、棒状を含む適当な形態をしたステンレスを一つの電極とし、これを銀電極と組合せて指示電極とし、一方白金電極と銀電極を組合せて参照電極とし、これら両電極を同じパイプ内に設置してなるスライムモニター装置に、紙パルプ製造工程における白水あるいはパルプスラリーを流通させてなる、該指示電極と該参照電極の電極間電位差から紙パルプ製造工程のスライム発生状況を評価する方法。
- 指示電極と参照電極を設置したパイプ内を白水あるいはパルプスラリーを0.2〜10cm/sの線速度で流通させてなる、請求項1記載のスライム発生状況を評価する方法。
- 請求項1または2における指示電極と参照電極の電極間電位差と、スライムコントロール剤の注入装置を連結させることにより、該電極間電位差により該スライムコントロール剤注入量を制御することを特徴とする紙パルプ製造工程のスライムコントロール方法。
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