JP3856674B2 - クラッチ・ロータ用ブランクの応力歪み及び加工硬化の解消方法 - Google Patents

クラッチ・ロータ用ブランクの応力歪み及び加工硬化の解消方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、クラッチ・ロータ用ブランク、即ち、同心円状に外形抜き及び穴あけのプレス加工を施して得た同心円状ブランクに内側円筒部及び外側円筒部を鍛造成形するクラッチ・ロータ鍛造成形工程に先立って、特にその工程で成形される内側円筒部に発生するおそれのある割れを防止すべく、上記同心円状ブランクの内周縁に前記プレス加工の工程で生じている応力歪み及び加工硬化を解消するためのクラッチ・ロータ用ブランクの応力歪み及び加工硬化の解消方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
クラッチ・ロータは、クラッチ・ロータ用ブランク、即ち、図4(a)に示すように、中央穴を備えた同心円状のブランクを順次プレス加工して、図4(b)に示すように、まずこれに内側円筒部を鍛造成形し、次いで図4(c)に示すように、外側円筒部を鍛造成形することにより製造するものである。
また上記クラッチ・ロータ用ブランクは、図4(a)に示すように、所定金属材料の板材からプレス機械による外形抜き及び穴あけによって同心円状に中央穴のあいた同心円状ブランクに加工されているものである。
【0003】
そしてこのようなクラッチ・ロータ用ブランクは、上記のような金属材料板材から外形抜き及び穴あけのプレス工程で同心円状ブランクに加工される過程で、その外周縁及び内周縁に応力歪みや加工硬化が生じ、これがその後のクラッチ・ロータ成形のための鍛造工程に悪影響を与え、特に内側円筒部の鍛造成形過程で割れを発生させる原因となっている。
【0004】
そこで上記鍛造成形工程に先立つ前処理として、プレス機械で加工されたクラッチ・ロータ用ブランクの内周縁の応力歪みや加工硬化を解消する方法を実施する工程を必要とすることとなり、現在までのところ、その方法として、▲1▼ブランクを無酸化焼鈍炉に入れて焼鈍加工をすることによりその内周縁の加工硬化等を解消する方法、▲2▼プレス機械によりブランクの内周縁をシェービング加工することにより応力歪みや加工硬化の生じている部位を除去する方法、▲3▼旋盤によりブランクの内周縁を切削することにより応力歪みや加工硬化の生じている部位を除去する方法等があり、それぞれ対象ブランクの形状その他の性質に応じて適宜選択され実行されている。
【0005】
しかし上記▲1▼の無酸化焼鈍炉での焼鈍加工は、クラッチ・ロータ用ブランクを全面的に焼鈍加工するものであり、割れ原因を解消する対策とはなるもののブランク材料の強度が低下し、これによって成形されるクラッチ・ロータの外側円筒部にベルト掛け用の溝が多数形成される場合には、特に高速回転時にローター破損を引き起こすおそれがある。またこの方法はブランクに応力歪みや加工硬化の生じている内周縁や外周縁ばかりでなく、全体を焼鈍するものであり、エネルギーの無駄が大きく必要以上に処理コストが嵩むものとなる。
【0006】
また▲2▼のプレス機械による応力歪みや加工硬化の生じているブランク内周縁のシェービング加工による方法は、シェービング代を一つ一つのブランクの内周縁の応力歪みや加工硬化層に対応させることが事実上不可能であり、かつその生じている加工硬化層の形状に合わせることも不可能であるから、その加工後の内周縁に加工硬化層等が残ってしまうおそれは極めて高い。またシェービング・ポンチの使用による摩耗度の変化のため、応力歪み及び加工硬化層の削除による縁仕上げ精度管理が難しい。たとえば、シェービング・ポンチの摩耗度が高くなり、その切れ具合が悪くなると、これによるシェービング加工が応力歪みや加工硬化を新たに発生させるおそれもある。
【0007】
更に▲3▼の旋盤によるブランク内周縁の切削加工による方法は、シェービング加工による方法と同様に切削代を一つ一つのブランクの加工硬化層等に対応させることは困難であり、加工後の内周縁に加工硬化層等が残ってしまうおそれが高い。またこの方法では、加工工程に比較的長い時間を要し、大量生産の工程には不向きでもある。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、以上のような従来の前処理方法の問題点を解決し、確実にクラッチ・ロータ製造用の同心円状ブランクの内周縁に生じている応力歪みや加工硬化を解消し得、かつそれが必要な強度を失わず、スピーディに、しかも経済的に行い得るクラッチ・ロータ用ブランクの応力歪み及び加工硬化の解消方法を提供することを解決の課題とするものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明の1(請求項1)は、所定金属板材から外形抜き及び穴あけのプレス工程で同心円状ブランクに形成されたクラッチ・ロータ用ブランクについて、その中央穴周縁に生じている応力歪み及び表面加工硬化を解消するべく、上記クラッチ・ロータ用ブランクの中央穴周縁のみを高周波誘導加熱により誘導加熱し、その後、徐冷することによるクラッチ・ロータ用ブランクの応力歪み及び加工硬化の解消方法に於いて、
前記中央穴周縁のみの高周波誘導加熱による加熱を、
高周波電源装置から高周波電流の供給を受ける複数の穴周縁上部加熱用の誘導子コイル及びこれらの穴周縁上部加熱用の誘導子コイルと同数の穴周縁下部加熱用の誘導子コイルを交互に配列しておき、
前記クラッチ・ロータ用ブランクを、その中央穴を各誘導子コイルと上下一致させながら、順次、上記配列の上記穴周縁上部加熱用の誘導子コイルについてはその直下に、上記穴周縁下部加熱用の誘導子コイルについてはその直上に、各々一時停止させながら移動させ、それぞれ一時停止している間に穴周縁上部加熱用の誘導子コイルにより該クラッチ・ロータ用ブランクの中央穴周縁上部の高周波誘導加熱を行い、穴周縁下部加熱用の誘導子コイルにより該クラッチ・ロータ用ブランクの中央穴周縁下部の高周波誘導加熱を行い、こうして該クラッチ・ロータ用ブランクの中央穴周縁上下部を段階的に温度上昇させ、誘導子コイル列の最後端の誘導子コイルによる高周波誘導加熱が終了した時点で、該クラッチ・ロータ用ブランクの中央穴周縁の必要な温度への均一な加熱が完了するように行うこととしたクラッチ・ロータ用ブランクの応力歪み及び加工硬化の解消方法である。
【0011】
本発明の(請求項)は、本発明の1のクラッチ・ロータ用ブランクの応力歪み及び加工硬化の解消方法に於いて、
前記徐冷を、加熱の完了したクラッチ・ロータ用ブランクを保温箱に収納して放置することにより行うこととしたものである。
【0012】
【発明の実施の形態】
本発明は、基本的に、クラッチ・ロータ用ブランクの中央穴周縁のみを高周波誘導加熱により誘導加熱し、その後、徐冷することにより、上記中央穴周縁に生じている応力歪み及び加工硬化を解消する、クラッチ・ロータ用ブランクの応力歪み及び加工硬化の解消方法である。
【0013】
前記クラッチ・ロータ用ブランクは、製造対象であるクラッチ・ロータに適する所定金属板材から外形抜き及び穴あけのプレス工程で同心円状ブランクに加工されるものであり、その外周縁及び中央穴周縁にはそれらのプレス工程による応力歪み及び加工硬化が生じており、特に後者の中央穴周縁の応力歪み及び加工硬化は、その後のクラッチ・ロータ成形のための冷間鍛造工程に悪影響を与える。
【0014】
前記クラッチ・ロータ用ブランクは、これを冷間の鍛造成形工程により、その中央部には内側円筒部を、周側部には外側円筒部を、それぞれ張り出させたクラッチ・ロータに成形するものであり、前記応力歪み及び加工硬化が中央穴周縁に生じていると、上記内側円筒部の成形の際に、これに割れが生じるおそれが極めて高いものである。
【0015】
本発明は、既述のように、このようなクラッチ・ロータ用ブランクの中央穴周縁の応力歪み及び加工硬化を解消する方法であり、エネルギー効率の観点や全体の強度を低下させないようにする観点等から、鍛造成形工程で問題となる中央穴周縁のみに焼鈍処理を施すこととしたものである。
【0016】
前記中央穴周縁のみの高周波誘導加熱は、上記中央穴周縁のみに焼鈍処理を施す手段であるが、これは、対象となるクラッチ・ロータ用ブランクを、その中央穴が誘導子コイルに近接するように位置決めし、次いで、該誘導子コイルに所定周波数の高周波電流を流し、これによって該クラッチ・ロータ用ブランクの中央穴周縁に高周波磁界を与えてうず電流を発生させ、かつ、うず電流損による発熱を生じさせることで行うものである。こうして該クラッチ・ロータ用ブランクの中央穴周縁にのみ発熱を生じさせ、その部位のみを加熱するものである。加熱温度は、云うまでもなく、材質等に応じて決まる応力歪みや加工硬化を解消できる温度である。
【0017】
なお高周波磁界は、クラッチ・ロータ用ブランクの中央穴周縁の必要な範囲内に均一に与える必要があるが、これを一度の動作で行うためには、たとえば、その中央穴内から平均に与え得る磁界を発生させる必要があり、そのような磁界を発生しうる誘導子コイルを製作することは事実上困難である。
【0018】
そこで、誘導子コイルを、これが発生する高周波磁界をクラッチ・ロータ用ブランクの中央穴周縁に対してその一面側から与え得るものに構成し、このような誘導子コイルによってクラッチ・ロータ用ブランクの中央穴周縁に対して、交互に一面側からと他面側から高周波磁界を与え、該中央穴周縁の必要な範囲に全体として均一な高周波磁界を与え、これによるうず電流損の発熱を必要な範囲内で均一に生じさせるようにすることができる。一面側からと他面側からの高周波磁界は、上記のように交互に、かつそれぞれ複数回に分けて与えるものとする。勿論、均一に加熱する趣旨であるから、両面に対して同一回数である。
【0019】
のような構成によるクラッチ・ロータ用ブランクの中央穴周縁のみの高周波誘導加熱による加熱は、次のような形態で実現する。
即ち、高周波電源装置から高周波電流の供給を受ける複数の穴周縁上部加熱用の誘導子コイル及びこれらの穴周縁上部加熱用の誘導子コイルと同数の穴周縁下部加熱用の誘導子コイルを交互に配列しておき、
前記クラッチ・ロータ用ブランクを、その中央穴を各誘導子コイルと上下一致させながら、順次、上記配列の上記穴周縁上部加熱用の誘導子コイルについてはその直下に、上記穴周縁下部加熱用の誘導子コイルについてはその直上に、各々一時停止させながら移動させ、それぞれ一時停止している間に穴周縁上部加熱用の誘導子コイルにより該クラッチ・ロータ用ブランクの中央穴周縁上部の高周波誘導加熱を行い、穴周縁下部加熱用の誘導子コイルにより該クラッチ・ロータ用ブランクの中央穴周縁下部の高周波誘導加熱を行い、こうして該クラッチ・ロータ用ブランクの中央穴周縁上下部を段階的に温度上昇させ、誘導子コイル列の最後端の誘導子コイルによる高周波誘導加熱が終了した時点で、該クラッチ・ロータ用ブランクの中央穴周縁の必要な温度への均一な加熱が完了することとなるようにする。
【0020】
こうしてクラッチ・ロータ用ブランクの中央穴周縁に対して上面側(一面側)からと下面側(他面側)から高周波磁界を同一複数回与えることができることとなり、上記のように、中央穴周縁の必要な範囲の必要な温度への均一な加熱が良好にできることとなる。
なおクラッチ・ロータ用ブランクの中央穴周縁に対する高周波磁界は、一面側と他面側からそれぞれ一回ずつでも均一に与えたことになるが、これを複数回に分け、段階的に温度を上昇させるようにすることにより、熱応力による歪みの発生を極力抑えることができる。
【0021】
このようにクラッチ・ロータ用ブランクは、その中央穴周縁のみの適正な加熱を行った後、前記のように、徐冷するべきであるが、これは、従来の種々の方法で行うことができる。たとえば、保温箱に収納して放置することにより行うことができる。
【0022】
したがって本発明のクラッチ・ロータ用ブランクの応力歪み及び加工硬化の解消方法によれば、対象のクラッチ・ロータ用ブランクの中央穴周縁のみを高周波誘導加熱により誘導加熱し、その後、徐冷することにより必要部位のみを焼鈍するものであり、当然、これによって中央穴周縁の応力歪み及び加工硬化を解消することができるとともに、全体を加熱するものでないためエネルギーの無駄がなく、経済的でもある。またクラッチ・ロータ用ブランクの全体を焼鈍するものでないため、その強度を失うこともない。更に加熱が短時間で行えるため、大量生産にも適するものである。
【0023】
【実施例】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施例を説明する。
図1〜図3は本発明を適用した実施例を示しており、図1は、高周波誘導加熱装置にクラッチ・ロータ用ブランクをセットした状態を示す平面説明図、図2は図1のA−A線断面説明図、図3(a)は要焼鈍部位を示すクラッチ・ロータ用ブランクの一部断面説明図、図3(b)は要焼鈍部位を示すクラッチ・ロータ用ブランクの平面説明図である。
図4(a)はクラッチ・ロータ用ブランクの概略斜視図、図4(b)はクラッチ・ロータ用ブランクから内側円筒部のみを成形した段階の部材を示した概略斜視図、図4(c)は内側円筒部及び外側円筒部の双方を成形してなるクラッチ・ロータの概略斜視図である。
【0024】
この実施例のクラッチ・ロータ用ブランクの応力歪み及び加工硬化の解消方法は、図3(a)及び(b)に示すように、クラッチ・ロータ用ブランク1の中央穴2の周縁3のみを高周波誘導加熱により誘導加熱し、その後、徐冷することにより、上記中央穴2の周縁3に生じている応力歪み及び表面加工硬化を解消するものである。
【0025】
この実施例で対象とするクラッチ・ロータ用ブランク1は、外径が90〜200mm、厚みが8〜14mmで鋼板から形成されたものである。
図3(a)及び(b)に示すように、該クラッチ・ロータ用ブランク1の中央穴2の周縁3に於いて、良好に焼鈍すべき範囲は、その肉厚内中心付近の内周からの寸法L1で約10mm、両面付近の内周からの寸法L2で約15mm程度までとするのが適当であり、この実施例ではこれを目標とする。また上記焼鈍すべき範囲の加熱温度は、その材質及び焼鈍目的等との関係で、700〜730℃とする。
【0026】
まず初めに、この実施例で用いる高周波誘導加熱装置から説明する。
この高周波誘導加熱装置は、図1及び図2に示すように、クラッチ・ロータ用ブランク1をその上に沿って直線的にスライド移動させるための二条のスライドレール4、4と、その長さ方向に沿ってその中央上部と中央下部とに交互に配した6個の誘導子コイル5、5…と、上記スライドレール4、4の長さ方向に沿って6個のクラッチ・ロータ用ブランク1、1…を定間隔で同時に移送し、かつ各々を上記誘導子コイル5、5…の直下又は直上に正確に位置決めする送り機構6と、前記誘導子コイル5、5…をそれぞれ該当する位置に支持するアーム部材7、7…と、前記誘導子コイル5、5…に流す高周波電流を発生する電源装置を備えた装置本体8とで構成したものである。
【0027】
前記誘導子コイル5、5…は、先に述べ、図1及び図2に示すように、6個のそれを前記スライドレール4、4の長さ方向に沿って定間隔で配する。既述のように、該スライドレール4、4の上方中央に位置する誘導子コイル5と下方中央に位置する誘導子コイル5とは交互に配する。先頭の誘導子コイル5を上方に配した場合は、2番目のそれは下方に配し、3番目のそれは上方に配する如くである。なお図1中、先頭は右端であり、各構成要素は右端から1番目、2番目と数えて指し示す。
【0028】
図2に示すように、上方の誘導子コイル5、5、5はそれぞれ前記スライドレール4、4上でそれぞれ前記送り機構6の各一対の挟持片6a、6aによって位置決めされたクラッチ・ロータ用ブランク1、1、1の直上に位置するように配するものである。該誘導子コイル5、5、5はクラッチ・ロータ用ブランク1、1、1と相互の中心を一致させ、かつ該クラッチ・ロータ用ブランク1、1、1の上面との間隔が1.5mmとなるように位置決めしてある。この間隔は狭いほど能率が良いが、無用な短絡事故を避けるためこの実施例ではこの間隔とした。
【0029】
図2に示すように、下方の誘導子コイル5、5、5はそれぞれ前記スライドレール4、4上でそれぞれ前記送り機構6の各一対の挟持片6a、6aによって位置決めされたクラッチ・ロータ用ブランク1、1、1の直下に位置するように配するものである。該誘導子コイル5、5、5はクラッチ・ロータ用ブランク1、1、1と相互の中心を一致させ、かつ該クラッチ・ロータ用ブランク1、1、1の下面との間隔が1.5mmとなるように位置決めしてある。
【0030】
前記アーム部材7、7…は、各誘導子コイル5を以上の各位置に固定するとともに、その内部に各誘導子コイル5に前記電源装置からの高周波電流を流すための導体を備えたものである。
【0031】
前記電源装置は、前記誘導子コイル5、5…に流す高周波電流を生成する手段であり、この実施例では、対象のクラッチ・ロータ用ブランク1の前記のような材質、寸法及び加熱深さ、並びに加熱時間及び加熱回数等との関係から25KHzの周波数の高周波電流を生成するように構成した。同様の趣旨から、該クラッチロータ用ブランク1の前記必要範囲内を最終的に既述の700〜730℃程度に加熱すべく、出力は、先頭(図1中右端)の誘導子コイル5と2番目の誘導子コイル5とに対しては20KWとし、それら以外の誘導子コイル5、5…に対しては15KWとしてある。
【0032】
また前記送り機構6は、図1及び図2に示すように、その一対が前記スライドレール4、4に載っているクラッチ・ロータ用ブランク1を挟持しうる状態で対面する6対の挟持片6a、6a…を、該スライドレール4、4に沿って定間隔で配してなるものであり、対面する各一対の挟持片6a、6aの間隔の拡縮及び前記スライドレール4、4に沿った方向の一定間隔の往動作及び復動作をそれぞれ連動して行うように構成したものである。
【0033】
上記一対の挟持片6a、6aは、図1に示すように、相互の対面側が平面から見てV形又は逆V形に凹んだ形状に構成され、両者の間隔を狭めることで、前記スライドレール4、4上に載ってその間に位置するクラッチ・ロータ用ブランク1を挟持しうるようになっている。このとき、挟持されるクラッチ・ロータ用ブランク1は、前記スライドレール4、4の幅方向中央に位置決めされる。
【0034】
各一対の挟持片6a、6aは、それが挟持するクラッチ・ロータ用ブランク1が、それぞれ前記各誘導子コイル5の直上又は直下に正確に相互の中心を上下一致させて位置させうるように位置関係を設定する。既述のように、各一対の挟持片6a、6aは、前記スライドレール4、4に沿って一定間隔の往動作及び復動作を連動して行うように構成してあるが、その一定間隔は正確に前記隣接する誘導子コイル5、5間の間隔と一致させる。
【0035】
したがって前記スライドレール4、4上に載せられ、先頭の一対の挟持片6a、6aの前記一定間隔前までパーツフィーダー及びプッシャー等により移送されてきたクラッチ・ロータ用ブランク1は、送り機構6の各一対の挟持片6a、6aが連動して拡開状態で復動作することにより、先頭の一対の挟持片6a、6aがその位置まで移動し、次いで連動して間隔縮小動作が行われると、先頭の一対の挟持片6a、6aによって挟持され、その後、該先頭の挟持片6a、6aが他のそれらと連動して往動作し、前記一定間隔進行すると、該先頭の挟持片6a、6aに挟持されているクラッチ・ロータ用ブランク1は、先頭の誘導子コイル5の直下に移動しそこに確実に位置決めされる。
【0036】
一定時間(後述するようにこの実施例では3秒)の後、各挟持片6a、6aは連動して拡開動作し、これによって先頭の一対の挟持片6a、6aに挟持されていたクラッチ・ロータ用ブランク1は、先頭の誘導子コイル5の直下で、スライドレール4、4上に放置されることとなる。その状態で、各挟持片6a、6aは連動して復動作し、また先頭の一対の挟持片6a、6aの間に、前記最初のクラッチ・ロータ用ブランク1の後にパーツフィーダー及びプッシャー等により移送されてきたクラッチ・ロータ用ブランク1が位置することとなり、これがまた連動する間隔縮小動作でその間隔が縮小した先頭の一対の挟持片6a、6aで挟持され、既述の経過をたどって、先頭の誘導子コイル5の直下に運ばれ、そこに確実に位置決めされる。
【0037】
先頭の誘導子コイル5の直下に先に運ばれてきていた最初のクラッチ・ロータ用ブランク1は、再度先頭の一対の挟持片6a、6aが、上記のように、新たなクラッチ・ロータ用ブランク1を挟持する際に、同時に、2番目の一対の挟持片6a、6aにより挟持され、連動して各一対の挟持片6a、6aが往動作する際に、該2番目の一対の挟持片6a、6aによって2番目の誘導子コイル5の直上に移送され、そこに確実に位置決めされる。
【0038】
以下同様にして、最初のクラッチ・ロータ用ブランク1は、順次、隣接する一対の挟持片6a、6aにより、3番目の誘導子コイル5の直下、4番目の誘導子コイル5の直上、5番目の誘導子コイル5の直下、6番目の誘導子コイル5の直上に移送され、更にその後方に押し出される。また動作開始時は一個のクラッチ・ロータ用ブランク1のみの移送が行われるが、順次、同時移送できる個数が増加し、6個目を受け取った後は常に6個同時の移送が行われることとなる。なおこの送り機構6では、一区間(隣接する誘導子コイル5、5間)の移送時間は0.5秒弱である。もっとも送り機構6の各一対の挟持片6a、6aは往復動作をしているので、前記3秒の停止時間の後、次の誘導子コイル5の対応位置に移送するまでには1秒を要することとなる。
【0039】
なおこの実施例では、先に述べたように、この送り機構6の入り口側、即ち、図1中、右側のスライドレール4、4上で、先頭の誘導子コイル5から隣接する誘導子コイル5、5の間隔だけ前の位置まで加熱対象のクラッチ・ロータ用ブランク1を図示しないパーツフィーダー及びプッシャーで送り込むようにしてある。またこの送り機構6の出口側、即ち、図1中、左側のスライドレール4、4の末端には加熱処理済みのクラッチ・ロータ用ブランク1を滑り落とすシュート9を接続し、かつその下方に該加熱処理済みクラッチ・ロータ用ブランク1を受け取る容器を配してある。
【0040】
この実施例は、以上の高周波誘導加熱装置及びその他の若干の器具を用いて以下のように実施する。
まず処理対象のクラッチ・ロータ用ブランク1は、前記し、図1に示すように、前記パーツフィーダー及びプッシャーにより、先頭の誘導子コイル5の一区間分前の位置に供給され待機している。クラッチ・ロータ用ブランク1は、送り機構6により順次ここから高周波誘導加熱装置内に移送されると、引き続いて同位置に供給され待機することとなっている。
【0041】
上記位置に待機しているクラッチ・ロータ用ブランク1は、前記したように、送り機構6の先頭の一対の挟持片6a、6aによってまず先頭の誘導子コイル5の直下に移送され、この位置に正確に位置決めされる。即ち、該クラッチ・ロータ用ブランク1は、その中央穴2の中心が該誘導子コイル5の中心と正確に上下一致した状態で位置決めされる。
【0042】
このように位置決めされると同時に前記電源装置から25KHzの高周波電流が該先頭の誘導子コイル5に流され、その直下に位置決めされたクラッチ・ロータ用ブランク1の中央穴2の周縁3に上面側から高周波磁界が与えられ、主として上面側にうず電流損による発熱を生じさせる。なおこのときの前記電源装置からの出力は、既述のように、20KWである。上記高周波電流は該誘導子コイル5に3秒間流され、当然、これによって生じる高周波磁界が3秒間該クラッチ・ロータ用ブランク1の中央穴2の周縁3に上方から与えられる。
【0043】
上記3秒間が経過すると、前記のようにして、2番目の一対の挟持片6a、6aにより該クラッチ・ロータ用ブランク1は2番目の誘導子コイル5の直上に移送され、その位置に正確に位置決めされる。これと同時に先頭の一対の挟持片6a、6aにより新たなクラッチ・ロータ用ブランク1が先頭の誘導子コイル5の直下に運び込まれ、その位置に正確に位置決めされる。この実施例では、この移送動作は単純な近距離の往復動作であるため、送り機構6によって約1秒で行われる。
【0044】
このように正確にそれぞれ1番目の誘導子コイル5の直下、2番目の誘導子コイル5の直上に、それぞれクラッチ・ロータ用ブランク1が位置決めされると、1番目と2番目のそれぞれの誘導子コイル5、5に、同様に、25KHzの高周波電流が流され、これが3秒間継続される。その出力は20KWである。
【0045】
したがって2番目の誘導子コイル5の直上に配されたクラッチ・ロータ用ブランク1はその中央穴2の周縁3に下面側から高周波誘導磁界が与えられ、主として下面側にうず電流損による発熱を生じさせる。こうして2番目の誘導子コイル5の直上に位置するクラッチ・ロータ用ブランク1は、その中央穴2の周縁3に於いて、両面ともにほぼ同様の温度に加熱された状態となる。
【0046】
他方、同時に、先頭(1番目)の誘導子コイル5の直下に位置決めされたクラッチ・ロータ用ブランク1は、先に述べたとおりに、その上面側に高周波磁界が与えられ、これによって発生するうず電流損で発熱することとなる。
【0047】
上記3秒間が経過すると、また前記のようにして、2番目の誘導子コイル5の直上に位置していたクラッチ・ロータ用ブランク1は、3番目の一対の挟持片6a、6aにより3番目の誘導子コイル5の直下に移送され、その位置に正確に位置決めされる。1番目と2番目の各一対の挟持片6a、6a…は、それぞれ先に説明した通りの動作をする。
【0048】
前記3番目の誘導子コイル5の直下に位置決めされたクラッチ・ロータ用ブランク1は、前記のように位置決めされると、該誘導子コイル5に25KHzの高周波電流が流され、これも同様に3秒間継続される。ただしその出力は15KWである。勿論、同時に1番目と2番目の各誘導子コイル5、5にも25KHzの高周波電流が流され、これも、云うまでもなく、3秒間継続される。その出力は先に述べたように、20KWである。
【0049】
この後は、前記3番目の誘導子コイル5の直下で3秒間の高周波磁界が与えられたクラッチ・ロータ用ブランク1は、引き続いて、4番目の一対の挟持片6a、6aによって4番目の誘導子コイル5の直上に移送して位置決めされ、ここで3秒間の高周波磁界を与えられ、更に5番目の一対の挟持片6a、6aによって5番目の誘導子コイル5の直下に移送して位置決めされ、ここで3秒間の高周波磁界を与えられ、更にまた6番目の一対の挟持片6a、6aによって6番目の誘導子コイル5の直上に移送して位置決めされ、ここで3秒間の高周波磁界を与えられる。
【0050】
3番目以降の誘導子コイル5に流される高周波電流の周波数、出力電力及び継続時間は同様であり、25KHz、15KW、3秒間である。3番目から6番目の誘導子コイル5、5…の位置関係から、高周波磁界は交互に上面側からと下面側から与えられることになり、徐々にかつ平均に温度が上昇し、最終的に、クラッチ・ロータ用ブランク1は、その中央穴2の周縁3に於いて概ね700〜730℃の加熱を実現できることとなった。一面側と他面側とを交互に加熱するものであるが、1面側3回、他面側3回とし、少しずつ分けて徐々に温度を上げることとしたので、熱応力による歪みの発生等も殆ど抑制できるものとなっている。
【0051】
以上の先頭のクラッチ・ロータ用ブランク1に引き続いて送り機構6の各一対の挟持片6a、6a…で順次対応する誘導子コイル5の直下又は直上に送られ、かつ位置決めされるクラッチ・ロータ用ブランク1についても、該先頭のクラッチ・ロータ用ブランク1と全く同様の過程を経て加熱処理されることは、云うまでもない。
【0052】
6番目の誘導子コイル5で高周波磁界が与えられ、加熱されたクラッチ・ロータ用ブランク1は、次のクラッチ・ロータ用ブランク1が該6番目の誘導子コイル5の直上に運び込まれる際に、6番目の一対の挟持片6a、6aの後端で後方に押し出され、前記シュート9を滑り落ち、加熱処理済みクラッチ・ロータ用ブランク1受け取り用の容器に集積されることとなる。
【0053】
上記容器に集積された加熱処理済みクラッチ・ロータ用ブランク1、1…は、該容器とともに定期的に取り出され、そのまま保温箱に入れられて約4時間放置され、徐冷される。
【0054】
こうしてクラッチ・ロータ用ブランク1の中央穴2の周縁3のみについて、上面側(一面側)からと下面側(他面側)から高周波磁界が最初の各1回は強い磁界が、後の各2回はそれより弱い磁界が与えられ、短時間の内に、徐々にかつ平均に温度の上昇が図られ、上記のように、中央穴2の周縁3の前記した必要な範囲に700〜730℃の温度への加熱が良好に行われ、更にその後、簡易な形態で徐冷が行われ、中央穴2の周縁3のみの良好な焼鈍が完了することとなったものである。
【0055】
【発明の効果】
したがって本発明の1のクラッチ・ロータ用ブランクの応力歪み及び加工硬化の解消方法によれば、対象のクラッチ・ロータ用ブランクの中央穴周縁のみに高周波磁界を与えて誘導加熱し、その後、徐冷することにより必要部位のみを焼鈍するものであり、これによって中央穴周縁の応力歪み及び加工硬化を解消することができる。またこのように全体を加熱するものでないためエネルギーの無駄がなく、経済的である。更に全体を焼鈍するものでないため、その必要な強度を失うこともない。加えて加熱が短時間で行えるため、大量生産にも適するものである。
【0056】
更に本発明ののクラッチ・ロータ用ブランクの応力歪み及び加工硬化の解消方法によれば、クラッチ・ロータ用ブランクの中央穴周縁に対して上面側(一面側)からと下面側(他面側)から高周波磁界を同一複数回与えることができることとなり、上記のように、中央穴周縁の必要な範囲の必要な温度への均一な加熱が良好にできることとなる。
またクラッチ・ロータ用ブランクの中央穴周縁に対する高周波磁界を、一面側と他面側から複数回に分けて与え、段階的に温度を上昇させるようにすることにより、熱応力による歪みの発生を極力抑えることができる。
【0057】
本発明ののクラッチ・ロータ用ブランクの応力歪み及び加工硬化の解消方法によれば、徐冷が簡単な器具により良好に行い得られるものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】高周波誘導加熱装置にクラッチ・ロータ用ブランクをセットした状態を示す平面説明図。
【図2】図1のA−A線断面説明図。
【図3】 (a)は要焼鈍部位を示すクラッチ・ロータ用ブランクの一部断面説明図。
(b)は要焼鈍部位を示すクラッチ・ロータ用ブランクの平面説明図。
【図4】 (a)はクラッチ・ロータ用ブランクの概略斜視図。
(b)はクラッチ・ロータ用ブランクから内側円筒部のみを成形した段階の部材を示した概略斜視図。
(c)は内側円筒部及び外側円筒部の双方を成形してなるクラッチ・ロータの概略斜視図。
【符号の説明】
1 クラッチ・ロータ用ブランク
2 中央穴
3 周縁
4 スライドレール
5 誘導子コイル
6 送り機構
6a 挟持片
7 アーム部材
8 装置本体
9 シュート

Claims (2)

  1. 所定金属板材から外形抜き及び穴あけのプレス工程で同心円状ブランクに形成されたクラッチ・ロータ用ブランクについて、その中央穴周縁に生じている応力歪み及び表面加工硬化を解消するべく、上記クラッチ・ロータ用ブランクの中央穴周縁のみを高周波誘導加熱により誘導加熱し、その後、徐冷することによるクラッチ・ロータ用ブランクの応力歪み及び加工硬化の解消方法に於いて、
    前記中央穴周縁のみの高周波誘導加熱による加熱を、
    高周波電源装置から高周波電流の供給を受ける複数の穴周縁上部加熱用の誘導子コイル及びこれらの穴周縁上部加熱用の誘導子コイルと同数の穴周縁下部加熱用の誘導子コイルを交互に配列しておき、
    前記クラッチ・ロータ用ブランクを、その中央穴を各誘導子コイルと上下一致させながら、順次、上記配列の上記穴周縁上部加熱用の誘導子コイルについてはその直下に、上記穴周縁下部加熱用の誘導子コイルについてはその直上に、各々一時停止させながら移動させ、それぞれ一時停止している間に穴周縁上部加熱用の誘導子コイルにより該クラッチ・ロータ用ブランクの中央穴周縁上部の高周波誘導加熱を行い、穴周縁下部加熱用の誘導子コイルにより該クラッチ・ロータ用ブランクの中央穴周縁下部の高周波誘導加熱を行い、こうして該クラッチ・ロータ用ブランクの中央穴周縁上下部を段階的に温度上昇させ、誘導子コイル列の最後端の誘導子コイルによる高周波誘導加熱が終了した時点で、該クラッチ・ロータ用ブランクの中央穴周縁の必要な温度への均一な加熱が完了するように行うこととしたクラッチ・ロータ用ブランクの応力歪み及び加工硬化の解消方法。
  2. 前記徐冷を、
    加熱の完了したクラッチ・ロータ用ブランクを保温箱に収納して放置することにより行うこととした請求項1のクラッチ・ロータ用ブランクの応力歪み及び加工硬化の解消方法。
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