JP3853050B2 - 窒化アルミニウム中の酸素の分析方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、窒化アルミニウム中の酸素の分析方法、詳しくは窒化アルミニウム中の内部酸素を測定する技術に関する。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】
粒状又は粉状の窒化アルミニウム原料に焼結助剤を加え、高温で焼結させることにより製造された焼結体は電気絶縁性と高い熱伝導性を併せ持つため、高熱伝導性基板などに利用される。熱伝導率は単結晶の場合、六方晶のc軸方向で、300W/(m・k)を示すことが知られている。
しかしながら、工業製品の場合、通常、焼結体という多結晶体で使用するので、130W/(m・K)程度に低下する。結晶粒のランダム配向、結晶粒界の第二相の存在、結晶中に溶解する不純物元素などの影響により熱伝導率が低下することが知られている。
特に上記要因の中でも不純物元素である酸素の影響は大きく、窒素原子を置換して粒内に固溶する際、アルミニウム原子の空孔を生成し、格子歪みを引き起こすと考えられている。酸素の固溶量は2000℃で最大1.6wt%(2×1021個/cm3 ) と言われる。格子歪みが格子振動(フォノン)を散乱し熱伝導率を低下させる要因の一つとなっている。
【0003】
従って、窒化アルミニウム粉の酸素量、特に内部酸素(粒内固溶酸素)量を知ることは焼結体の物性を制御する上で重要であり、窒化アルミニウム原料粉の外部酸素(表面酸素)と結晶粒内に固溶している内部酸素の正確な測定方法が望まれていた。
【0004】
従来、不活性ガス融解−赤外線吸収法(ヘリウムなどの不活性ガス雰囲気下で測定試料をグラファイト坩堝の中で3000℃程度の温度で熱処理し、酸素がグラファイト炭素と結合することにより生成する二酸化炭素を赤外線検出器で測定し、予め求めておいた検量線より酸素濃度を算出する)による窒化アルミニウムの酸素の分析方法において、窒化アルミニウム原料粉の粒子外部と内部の酸素の化学状態が異なると推定されることから、酸素の抽出条件を変えることにより外部酸素と内部酸素の分別定量を行う方法が試みられてきた。
従来の方法である連続昇温法すなわち、窒化アルミニウム粉を徐々に加熱し、連続的に昇温する方法で外部酸素と内部酸素を分別定量する方法(THOMAS A,MULLER G,cfi/Ber.DKG ,67,4 ,146-149 (1990)及びTHOMAS A,MULLER G:J.Eur.Ceram.Soc.,8 ,1 ,11-19 (1991))は、酸素の化学的結合形態の差を利用した方法であるが、(1)内部酸素と外部酸素の2つの酸素のピークが近接しているため分離の判断基準が明確でなく、また、2つのピーク重なりが多く、正確さに問題があること、(2)抽出される窒素(N2)量が窒化アルミニウム中の窒素の約70%程度であり、窒化アルミニウムの分解が不十分であることなどにより各成分を正確に定量する上では十分な分析方法ではなかった。
【0005】
本発明者らは、上記課題の解決を図るため鋭意検討した結果、窒化アルミニウム中の酸素を不活性ガス融解−赤外線吸収法により分析する方法において、第一段階として、窒化アルミニウムの分解により窒素ガスが発生しない温度まで昇温加熱し、該温度で一定時間保持することにより、先ず窒化アルミニウムの外部酸素を測定し、次いで、第二段階として、窒化アルミニウムが完全に分解する温度まで昇温加熱し、窒化アルミニウム中の粒子内部の結晶体に固溶する内部酸素を精度良く測定できるという知見を得て、本発明に至ったものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
すなわち、本発明は、(1)窒化アルミニウム中の酸素を不活性ガス融解−赤外線吸収法により分析する方法において、第一段階として、窒化アルミニウムの分解による窒素ガスが発生しない温度まで昇温加熱し、該温度で一定時間保持することにより窒化アルミニウムの外部酸素を測定し、次いで、第二段階として窒化アルミニウムが分解する温度まで昇温加熱し、窒化アルミニウム中の内部酸素を測定することを特徴とする窒化アルミニウム中の酸素の分析方法、(2)窒化アルミニウム中の酸素を不活性ガス融解−赤外線吸収法により分析する方法において、第一段階として、炭素を予め窒化アルミニウムに添加し、その後、窒化アルミニウムの分解による窒素ガスが発生しない温度まで昇温加熱し、該温度で一定時間保持後、降温することにより窒化アルミニウムの外部酸素を測定し、次いで、第二段階として、金属助燃剤を添加し、その後、窒化アルミニウムが分解する温度まで瞬時に昇温加熱し、窒化アルミニウム中の内部酸素を測定することを特徴とする窒化アルミニウム中の酸素の分析方法である。
【0007】
【発明の実施の形態】
以下、さらに詳しく本発明を説明する。
本発明でいう外部酸素とは、粒状あるいは粉体の窒化アルミニウム粒子表面に存在する不定形の酸素含有化合物、つまり主成分としてアルミニウムの酸化物類に含まれる酸素であり、内部酸素とは粒子の大部分を占める窒化アルミニウム結晶の結晶格子中に取り込まれている固溶酸素のことである。
これら二種類の酸素は化学結合状態が異なっていると推定され、化学的に不安定な外部酸素を、ヘリウムやアルゴンガスなどの不活性ガス雰囲気下、グラファイト坩堝中で窒化アルミニウムが分解せず、かつ外部酸素のみが坩堝のグラファイトと反応し一酸化炭素や二酸化炭素に変化するような温度で除去した後、粒子内部に固溶している酸素をより高温で窒化アルミニウムの完全分解により抽出するものである。
【0008】
一般に窒化アルミニウム粒子の表面は窒化アルミニウムが空気中の水分と反応する加水分解により様々な形態の酸化物に覆われていると考えられる。酸化物の例を示せば、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム、Al−O−Nのような結合を持つアルミニウム・オキシ・ナイトライド等である。これらの酸化物は非結晶物質である非晶質の形態で存在しており、結晶性窒化アルミニウムの内部に置換固溶している酸素に比較して、化学的には不安定であると考えられる。
【0009】
本発明に用いる窒化アルミニウムの試料の形態としては、塊状、粒状、粉状、などが挙げられるが、これらのうち好ましいのは、粒状又は、粉状である。
【0010】
本発明の分析方法の第一段階について説明する。
先ず2つのピークを分離する手段であるが、第1段階として外部酸素のみを分解しグラファイト坩堝の炭素と結合して二酸化炭素を生成させる温度で加熱分解させれば良い。外部酸素のみを分解する加熱条件は窒化アルミニウムが分解しない、すなわち窒化アルミニウムの分解により窒素ガスが発生しない最高の温度に設定すればよく、分析装置へ付属している窒素ガス検出器で測定しながら条件を設定することができる。
しかし、この温度は実際には測定が困難なのでグラファイト坩堝へかける電力値で温度に読み代え設定することができる。
【0011】
窒化アルミニウムの種類や製造方法によっても異なるが、外部酸素のみが分解する温度、つまり外部酸素のみが分解する電力値は、装置やグラファイト坩堝の形状・肉厚などより異なるが、窒素の発生を目安に実験すると2000W〜3000Wが好ましく、この中でも最も窒素ガスの生成量の少ない約2400W〜2600Wが特に好ましい。
【0012】
外部酸素のみが分解する電力値のかけ方として、(1)窒素の発生しない最高電力値まで瞬時に電力をかけ一定時間保持する方法、(2)窒素の発生しない最高電力値まで一定の速度で上昇させ一定時間保持する方法、(3)窒素の発生しない最高電力値まで一定の速度で上昇させる方法などが挙げられるが、窒化アルミニウム粒子の最表部から結晶粒子表面へ徐々に十分な炭素を供給しながら過不足無く分解反応を進行させるために窒素の発生しない最高電力値まで一定速度で電力をかけ、すなわち昇温し、一定時間保持する(2)の条件が好ましい。
ここで一定時間とは、外部酸素の抽出が、ほぼ終了するまでに要する時間を示すが、この時間的長さは外部酸素量により変化するが20秒〜40秒が好ましい。
【0013】
また、外部酸素分解終了前後の電力のかけ方として、外部酸素である二酸化炭素のピークの出方を測定しながら決めるのが最も好ましく、ピークが下降し始めてから下降速度が落ちてきた時点で、つまり傾斜が緩やかになってきた時点で電力を下げる方法、或いはその時点でも下げずにそのまま保持しておく方法などが挙げられる。次に測定される内部酸素のピークと完全に分離を行うとすれば、外部酸素に相当するピークが下降し始めてから下降速度が落ちてきた時点、つまり傾斜が緩やかになってきた時点で電力を下げる方法が、2つのピークの重なり部分が無くなり好ましい。
【0014】
さらに製造方法の異なる窒化アルミニウムの種類や形状などによっては、外部酸素の抽出ピークの分離を良くするために分解補助剤である助燃剤を添加するのが好ましい。助燃剤にはグラファイト粉末や金属助燃剤であるニッケルやスズなどが挙げられるが、化学的に不安定な外部酸素のみを選択的に分解促進するという点で、分解の穏やかなグラファイト粉末が特に好ましく、グラファイト粉末を添加することで外部酸素の抽出ピークをシャープにさせることができ、ピーク分離条件を改善するという点でも好適である。
【0015】
次に本発明の第二段階について説明する。
内部酸素は外部酸素が抽出された後に測定される酸素であるから、外部酸素を測定する様な穏やかな条件では内部酸素の抽出は不十分となるため、窒化アルミニウムを分解することができる高い温度に設定する必要がある。この場合、窒化アルミニウムを完全に分解することができる高い温度に設定することが最も好ましい。窒化アルミニウムを完全に分解することのできる電力は、装置やグラファイト坩堝の形状・肉厚などより異なるものの、窒化アルミニウム中の全酸素や全窒素を測定する場合とほぼ同じ条件であり、その値は5000W〜6000Wであり、その中でも5500W〜5800Wが好ましい。
【0016】
窒化アルミニウムが分解する電力のかけ方としては、(1)瞬時に電力をかけ一定時間保持する方法、(2)一定の速度で上昇させ一定時間保持する方法、(3)設定電力まで一定の速度で上昇させる方法などが挙げられるが、内部酸素による二酸化炭素、つまり酸素の抽出ピークを、先に出てくる外部酸素の抽出ピークと分離させるため、更に長時間過酷な温度条件にさらし装置の電極部に負担をかけないためにも、また窒化アルミニウムを短時間で速やかに分解させる迅速性の点からも、(1)の瞬時に電力をかけ一定時間保持する方法が好ましい。
【0017】
さらに製造方法の異なる窒化アルミニウムの種類や形態によっては内部酸素を効率的に抽出するために分解補助剤である助燃剤を添加するのが好ましい。助燃剤にはグラファイト粉末や金属助燃剤であるニッケル、スズ、タングステン、銅、及び鉄などが挙げられる。化学的に安定な内部酸素を効率的に分解促進するという点で、ニッケル金属やスズ金属が好ましい。
また、製造方法の異なる窒化アルミニウムの種類や形態によっては、ニッケルとスズを混合して用いると特に好ましい結果を得ることができる。
【0018】
【実施例】
以下、本発明を実施例によってさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
実施例1〜3および比較例1〜3
実施例1〜3
予めグラファイト粉10mgをグラファイトルツボに加え2900℃で脱ガスした。試料として用いた窒化アルミニウムは原料に金属アルミニウムを用い、窒化後粉砕したものである。試料として窒化アルミニウム粉A(平均粒径:3.0μm)、これを分級した粗粒品B(平均粒径:6.1μm)、中粒品C(平均粒径:1.6μm)を、それぞれ10mg、グラファイトルツボに投入後、500℃から1900℃に相当する2500Wまで40秒間かけて昇温後、2500Wで30秒間ホールドした。その後加熱を一度停止し、試料投入口から助燃剤としてニッケル0.8gをグラファイト坩堝に大気に開放することなく添加後、再度5700Wまで瞬時に昇温し、この温度で40秒間保持し分析を行った。装置は酸素窒素同時分析装置(LECO社製 TC−436型)を使用した。その結果を表1に示す。また、本発明の分析方法による昇温パターン及び抽出ピークの例を図1に示す。
【0019】
比較例1〜3
〔従来技術の文献法のトレース〕
従来技術である連続昇温法すなわち、窒化アルミニウム粉を徐々に加熱し、連続的に昇温する方法で外部酸素と内部酸素を分別定量する方法(THOMAS A,MULLER G,J.Eur.Ceram.Soc.,8,1,11-19(1991)のトレースを行った。
予めグラファイト粉10mgをグラファイトルツボに加え2900℃で脱ガスした。試料として窒化アルミニウム粉A(平均粒径:3.0μm)、これを分級した粗粒品B(平均粒径:6.1μm)、中粒品C(平均粒径:1.6μm)をそれぞれ約10mg、グラファイトルツボに量り取った。その後、500Wで10秒間加熱し、吸着ガスの脱ガスを行った後、5700Wまで100秒かけて昇温し、その間に発生した二酸化炭素の量を測定し酸素含有量に換算した。この100秒の昇温中、初期に発生する酸素が窒化アルミニウム粒子の最表面に存在する酸化物由来の酸素であり、遅れて発生するのが窒化アルミニウム結晶に固溶する内部酸素に相当することから、予め測定したバックグランドを差し引いたこれら2つの測定ピークの谷に相当する部分から垂線を引き、2つのピークを分離した。それそれのピーク面積を比例配分することにより内部酸素量と外部酸素量を算出した。装置は酸素窒素同時分析装置(LECO社製 TC−436型)を使用した。結果を表1に示す。
【0020】
【表1】
【0021】
表1より、本発明の分析方法による金属アルミニウムを窒化することによって得られた窒化アルミニウム粉試料の酸素分析の結果、各試料の内部酸素量は、0.26%〜0.32%であった。回収率を全量分析法で求めた窒素量から計算すると、ほぼ100%であり、窒化アルミニウムは完全に分解しており、内部酸素量が比較的正確に求められた。
【0022】
また、併せて従来の技術による分析値も示した。従来の技術による分析値は本法に較べ低い値を示す。理由は、先にも述べたとおり、不活性ガス融解−赤外線吸収法による窒化アルミニウムの酸素の分析方法において、連続昇温法すなわち、窒化アルミニウムを徐々に加熱し、連続的に昇温する方法で外部酸素と内部酸素を分別定量する方法では窒素の抽出率が含有量に対して70%程度であり、窒化アルミニウムの分解が一部不十分となっている。
従って、酸素は完全に窒化アルミニウム中から100%抽出できているわけではなく低値となる。
【0023】
実施例2
〔製造方法の違いによる窒化アルミニウムの評価〕
予めグラファイト粉10mgをグラファイトルツボに加え2900℃で脱ガスした。試料として酸化アルミニウムを還元窒化したD品10mgをグラファイトルツボに投入後、500℃から1900℃に相当する2500Wまで40秒間昇温後、2500Wで30秒間ホールドした。その後加熱を一度停止し、助燃剤としてニッケル0.8gを添加後、再度5700Wまで瞬時に昇温し、この温度で40秒間保持し分析を行った。装置は酸素窒素同時分析装置(LECO社製 TC−436型)を使用した。その結果を表2に示す。
【0024】
【表2】
【0025】
本発明の分析方法は、製法が異なる窒化アルミニウム、例えば酸化アルミニウムの還元窒化により得られる高純度窒化アルミニウム中の内部酸素を精度良く測定可能であり、これにより実施例1〜3に示す金属アルミニウムの窒化により得られるデータとの比較も可能で、標準偏差など分析精度を考慮すると分析値から窒化アルミニウムの製法を推定することも可能である。
【0026】
【発明の効果】
本発明の窒化アルミニウム中の酸素の分析方法は、1回の分析時間が十数分であることから、迅速でより簡便に真値に近い内部酸素量を測定することができるので、窒化アルミニウム焼結体の物性を制御するのに役立つ。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の分析方法による昇温パターン及び抽出ピークの例を図1に示す。
Claims (1)
- 窒化アルミニウム中の酸素を不活性ガス融解−赤外線吸収法により分析する方法において、第一段階として、炭素を予め窒化アルミニウムに添加し、その後、窒化アルミニウムの分解による窒素ガスが発生しない温度まで昇温加熱し、該温度で一定時間保持後、降温することにより窒化アルミニウムの外部酸素を測定し、次いで、第二段階として、金属助燃剤を添加し、その後、窒化アルミニウムが分解する温度まで瞬時に昇温加熱し、窒化アルミニウム中の内部酸素を測定することを特徴とする窒化アルミニウム中の酸素の分析方法。
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JP32282097A JP3853050B2 (ja) | 1997-11-25 | 1997-11-25 | 窒化アルミニウム中の酸素の分析方法 |
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