JP3851602B2 - 骨形成治療デバイス - Google Patents
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Description
【発明が属する技術分野】
本発明は、骨形成治療デバイスに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
医療の分野では、いわゆる人工骨、人工皮膚、人工臓器に対する研究が注目を集めており、これらについて、既に臨床の現場でも種々の立場から新たな挑戦が行われており、ここ数年技術的にも多大な伸展を示している。
【0003】
特に、同種移植に関しては、需要が供給を大きく上回る状態が慢性的に持続していることに加え、未知の感染症などの問題もある。
【0004】
これらを回避するため、このような同種組織の移植に代わるものとして、人工的に製造した人工組織・人工臓器の開発が待望されている。この点に関しては、骨移植においても同様である。
【0005】
骨の形成過程、修復過程について、多くの研究者によって解明され、その制御の要となる骨誘導因子の発見・同定・分離に加え、遺伝子工学的手法での骨誘導因子の生成が可能となり、その作用機序についての知見も集積されている。
【0006】
この骨誘導因子としては、transforming growth factor b(TGFb)のsuper familyに属する骨形態形成タンパク質(bone morphogenetic protein:BMP)が多くの研究者の注目を集めている。このBMPは、皮下組織または筋組織内の未分化間葉系細胞に作用して、これを骨芽細胞や軟骨芽細胞に分化させ、骨または軟骨を形成させる活性タンパク質であり、その基礎的検討が開始されている。
【0007】
例えば、特許文献1には、BMP自体またはBMPをコードするDNAを、マトリックス材料(担体)に担持(適用)した移植体材料が開示されている。
【0008】
しかしながら、BMPはタンパク質であることから失活し易く、また、BMPをコードするDNAを単独で用いても、前記未分化間葉系細胞への取り込みが極めて低く、十分な骨形成が効率よくなされないという問題がある。
【0009】
【特許文献1】
特表2001−505097号公報
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、優れた骨形成能を有する骨形成治療デバイスを提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
このような目的は、下記(1)〜(8)の本発明により達成される。
【0012】
(1) 正負両荷電を有するハイドロキシアパタイトまたはリン酸三カルシウムを主としてなる基体と、
骨形態形成タンパク質(BMP)をコードする塩基配列および発現プラスミド由来の塩基配列を含む核酸と、
該核酸を保持する正荷電リポソームおよび負荷電リポソームのうちの少なくとも一方のリポソームとを含み、
前記リポソームは、前記基体に担持されており、さらに、該リポソームに、前記核酸が保持されていることを特徴とする骨形成治療デバイス。
【0013】
本発明によれば、優れた骨形成能を有する骨形成治療デバイスを提供することができるとともに、前記核酸を発現プラスミド由来の塩基配列を含むものとすることにより、未分化間葉系細胞、炎症細胞、線維芽細胞のような骨形成に関与する細胞内におけるBMPの発現効率を極めて高くすることができる。
また、ベクターとして、非ウィルス由来のベクターであるリポソームを用いることにより、限局した部位に比較的大量の核酸を容易かつ確実に供給することができ、また、患者のより高い安全性を確保することができる。さらに、リポソームは、細胞膜の構成成分に近い成分で構成されるため、細胞膜への結合(融合)が比較的容易かつ円滑になされるため、核酸の前記骨形成に関与する細胞への取り込みの効率をより向上させることができる。
さらに、ハイドロキシアパタイトまたはリン酸三カルシウムは、骨の無機質主成分と同様の構造であるため、これらのものを主としてなる基体は、特に優れた生体適合性を有するものとなる。
【0014】
(2) 前記骨形態形成タンパク質は、BMP−2である上記(1)に記載の骨形成治療デバイス。
【0015】
BMP−2は、特に、未分化間葉系細胞の骨芽細胞への分化を誘導する作用に優れる。
【0018】
(3) 前記核酸を、前記基体の体積1mLあたり1〜100μgとなるよう用いる上記(1)または(2)に記載の骨形成治療デバイス。
これにより、より迅速な骨形成を促すことができる。
【0019】
(4) 前記核酸を前記リポソームに保持させた後、該リポソームを前記基体に担持させることにより得られたものである上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の骨形成治療デバイス。
【0025】
(5) 前記リポソームと前記核酸との配合比は、重量比で1:1〜20:1である上記(1)ないし(4)のいずれかに記載の骨形成治療デバイス。
【0026】
これにより、コストの増大や細胞毒性の発生を防止しつつ、核酸の未分化間葉系細胞、炎症細胞、線維芽細胞のような骨形成に関与する細胞への取り込みの効率を十分に大きくすることができる。
【0027】
(6) 前記基体は、ブロック体である上記(1)ないし(5)のいずれかに記載の骨形成治療デバイス。
【0028】
これにより、骨形成治療デバイスが早期に移植部位から散逸するのを防止することができるとともに、骨形成をブロック体の形状に沿って進行させることができる。
【0029】
(7) 前記基体は、多孔質体である上記(1)ないし(6)のいずれかに記載の骨形成治療デバイス。
【0030】
これにより、核酸およびベクターを、より容易かつ確実に基体に担持させることができるとともに、未分化間葉系細胞、炎症細胞、線維芽細胞のような骨形成に関与する細胞が基体内に侵入し易くなり、骨形成にとって有利である。
【0031】
(8) 前記多孔質体の空孔率は、30〜95%である上記(7)に記載の骨形成治療デバイス。
【0032】
これにより、基体の機械的強度を好適に維持しつつ、未分化間葉系細胞、炎症細胞、線維芽細胞のような骨形成に関与する細胞の基体内への侵入がさらに容易となり、基体をより好適な骨形成の場とすることができる。
【0035】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の骨形成治療デバイスについて詳細に説明する。
【0036】
本発明の骨形成治療デバイスは、骨形態形成タンパク質(BMP)をコードする塩基配列を含む核酸と、ベクターと、基体とを含むものであり、生体内に移植して骨形成治療を行うものである。
【0037】
ここで、本明細書中における「骨形成」とは、骨形成および軟骨形成の双方を含み、未分化間葉系細胞に対して骨芽細胞や軟骨芽細胞(以下、骨芽細胞で代表する)の分化を誘導することによる骨形成や軟骨形成のことを言う。
【0038】
また、「骨形成治療」とは、医科領域および歯科領域において、骨組織や軟骨組織の形成や補填を要する疾患の予防や治療を行うこと、あるいは、症状を改善させることを言う。
【0039】
また、BMPをコードする塩基配列としては、通常、cDNAが用いられるため、以下では、BMPをコードする塩基配列を、「BMP cDNA」と言う。
【0040】
本発明におけるBMPとしては、未分化間葉系細胞に対して骨芽細胞への分化を誘導することにより骨形成を促す活性を有するものであればよく、特に限定されないが、例えば、BMP−1、BMP−2、BMP−3、BMP−4、BMP−5、BMP−6、BMP−7、BMP−8、BMP−9、BMP−12(以上、ホモダイマー)、もしくは、これらのBMPのヘテロダイマーまたは改変体(すなわち、天然に存在するBMPのアミノ酸配列において1以上のアミノ酸が欠失、置換および/または付加されたアミノ酸配列を有し、かつ、天然に存在するBMPと同じ活性を有するタンパク質)等が挙げられる。これらの中でも、BMPとしては、特に、BMP−2が好ましい。BMP−2は、特に、未分化間葉系細胞の骨芽細胞への分化を誘導する作用に優れるため、得られる骨形成治療デバイスは、特に高い骨形成能を示す。
【0041】
このようなことから、本発明で用いるBMP cDNAとしては、前述のような各種BMPを産生(発現)し得る塩基配列を含むものであればよい。すなわち、BMP cDNAとしては、天然に存在するBMPをコードする塩基配列と同一、または、天然に存在するBMPをコードする塩基配列において1以上の塩基が欠失、置換および/または付加されたものであればよい。また、これらのものは、1種または2種以上を組み合わせて用いるようにしてもよい。
【0042】
このようなBMP cDNAは、例えば、特表平2−500241号公報、特表平3−503649号公報、特表平3−505098号公報等に記載の方法に従って、入手することができる。
【0043】
また、このような核酸は、発現プラスミド由来の塩基配列を含むもの、すなわち、BMP cDNAを発現プラスミドに組み込んだ(導入した)ものであるのが好ましい。
【0044】
以下では、BMP cDNAを発現プラスミドに組み込んだものを、「組換えプラスミド」と言い、この組換えプラスミドを、BMP cDNAをコードする塩基配列を含む核酸の代表として説明する。
【0045】
このような組換えプラスミドを用いることにより、これを取り込んだ未分化間葉系細胞、炎症細胞、線維芽細胞等(以下、これらを総称して、「骨形成に関与する細胞」と言う。)内におけるBMPの発現効率を、極めて高くすることができる。
【0046】
発現プラスミドには、遺伝子組工学技術の分野で広く用いられるものの中から選択することができ、例えば、pCAH、pSC101、pBR322、pUC18等の1種または2種以上を組み合わせてを用いることができる。
【0047】
また、この組換えプラスミドには、適宜、BMPの発現を適切に制御する塩基配列(DNA断片)を導入することができる。
【0048】
発現プラスミドに、BMP cDNAを含む各種の塩基配列を組み込む方法には、公知の方法を用いることができる。
【0049】
ここで、図1に、組換えプラスミド(キメラDNA)の一例を示す。
図1に示す組換えプラスミドは、BMP−2 cDNAを、発現プラスミドであるpCAHに導入したものである。
【0050】
この組換えプラスミドは、Amp(アンピシリン)に耐性を示すDNA断片を含むとともに、サイトメガロウィルス(CMV)由来のエンハンサー・プロモーターを含むDNA断片と、BMP−2 cDNAの下流域には、SV40由来の転写終結信号を含むDNA断片とが組み込まれている。
【0051】
用いる組換えプラスミド(核酸)の量は、特に限定されないが、後述する基体の体積1mLあたり1〜100μg程度であるのが好ましく、10〜70μg程度であるのがより好ましい。用いる組換えプラスミドの量が少な過ぎると、迅速な骨形成を促すことができない場合がある。一方、用いる組換えプラスミドの量を前記上限値を超えて多くしても、それ以上の効果の増大が見込めない。
【0052】
ベクターは、組換えプラスミド(核酸)を保持し、骨形成に関与する細胞への組換えプラスミドの取り込みを促進する機能を有するものである。ベクターを用いることにより、骨形成に関与する細胞への組換えプラスミドの取り込みの効率がより向上し、結果として、より迅速な骨形成が促される。
【0053】
ベクターとしては、ウィルス由来でないベクター(すなわち、非ウィルス由来のベクター)、アデノウィルスベクター、レトロウィルスベクターのようなウィルス由来のベクターのいずれを用いてもよいが、非ウィルス由来のベクターを用いるのが好ましい。非ウィルス由来のベクターを用いることにより、限局した部位に比較的大量の組換えプラスミドを、容易かつ確実に供給することができ、また、感染を起こさないことから患者のより高い安全性を確保することができるという利点もある。さらに、非ウィルス由来のベクターを用いる方法は、ウィルスベクターや細胞を用いるex vivo等の方法では、ウィルスベクターや細胞への核酸の導入操作、核酸を導入したウィルスベクターや細胞を増殖させる操作等が必要であるのに対し、これらの操作を必要としないことから、時間と手間とを低減できるという点においても優れている。
【0054】
非ウィルス由来のベクターとしては、種々のものを用いることができるが、リポソーム(脂質膜)を用いるのが好適である。リポソームは、細胞膜の構成成分に近い成分で構成されるため、細胞膜への結合(融合)が比較的容易かつ円滑になされる。このため、組換えプラスミドの骨形成に関与する細胞への取り込みの効率をより向上させることができる。
【0055】
リポソームとしては、例えば、表面に組換えプラスミドを吸着する形態の正荷電リポソーム、内部に組換えプラスミドを封入する形態の負荷電リポソーム等を用いることができる。これらのリポソームは、単独または組み合わせて用いることもできる。
【0056】
正荷電リポソームは、例えば、DOSPA(2,3-dioleyloxy-N-[2(sperminecarboxamido)ethyl]-N,N-dimethyl-1-propanaminium trifluoroacetate)のようなポリカチオン性脂質を主としてなるものである。なお、正荷電リポソームとしては、例えば、QIAGEN社製の「SuperFect」等の市販品を用いることができる。
【0057】
一方、負荷電リポソームは、例えば、3−sn−ホスファチジルコリン、3−sn−ホスファチジルセリン、3−sn−ホスファチジルエタノールアミン、3−sn−ホスファチダルエタノールアミン、または、これらの誘導体のようなリン脂質を主としてなるものである。
【0058】
また、これらのリポソームには、例えばコレステロール等の脂質膜を安定化する添加剤を添加するようにしてもよい。
【0059】
なお、リポソームとしては、特に、正荷電リポソームを用いるのが好ましい。正荷電リポソームは、その内部に組換えプラスミドを封入する操作を必要としないことから、骨形成治療デバイスの作製時間の短縮に有利である。
【0060】
用いるベクターの量は、特に限定されないが、ベクターと組換えプラスミド(核酸)との配合比が、重量比で1:1〜20:1程度であるのが好ましく、2:1〜10:1程度であるのがより好ましい。用いるベクターの量が少な過ぎると、ベクターの種類等によっては、組換えプラスミドの骨形成に関与する細胞への取り込みの効率を十分に大きくすることができない場合がある。一方、用いるベクターの量を前記上限値を超えて多くしても、それ以上の効果の増大が見込めないばかりでなく、細胞毒性が生じる場合がある。また、コストの増大を招き好ましくない。
【0061】
また、本発明の骨形成治療デバイスは、生体適合性を有する基体を有している。この基体は、未分化間葉系細胞から分化した骨芽細胞による骨形成の場(フィールド)となる。
【0062】
基体の形態は、ブロック体(塊状物)が好適である。ブロック体(例えば焼結体等)は、形状安定性を有しており、生体に骨形成治療デバイスを移植した際に、骨形成治療デバイスが早期に移植部位から散逸するのを防止することができるとともに、骨形成をブロック体の形状に沿って進行させることができるので、特に、移植部位が比較的大きな骨欠損部等である場合に有効である。
【0063】
なお、基体の形態は、骨形成治療デバイスの適用部位(移植部位)に応じて、適宜選択するようにすればよく、例えば、粉末状、顆粒状、ペレット状(小塊状)等であってもよい。このような形態の基体を用いる場合には、組換えプラスミド(核酸)およびベクターと混合した組成物を、骨形成治療デバイスとすることができ、かかる骨形成治療デバイスを、骨欠損部に充填する(詰め込む)ようにして用いることができる。
【0064】
また、基体は、多孔質なもの(多孔質体)であるのが好ましい。基体として多孔質体を用いることにより、組換えプラスミド(核酸)およびベクターを、より容易かつ確実に基体に担持させることができるとともに、骨形成に関与する細胞が基体内に侵入し易くなり、骨形成にとって有利である。
【0065】
この場合、その空孔率は、特に限定されないが、30〜95%程度であるのが好ましく、55〜90%程度であるのがより好ましい。空孔率が前記範囲とすることにより、基体の機械的強度を好適に維持しつつ、骨形成に関与する細胞の基体内への侵入がさらに容易となり、基体をより好適な骨形成の場とすることができる。
【0066】
また、基体の構成材料としては、生体適合性を有するものであればよく、特に限定されないが、例えば、ハイドロキシアパタイト、フッ素アパタイト、炭酸アパタイト、リン酸二カルシウム、リン酸三カルシウム、リン酸四カルシウム、リン酸八カルシウムのようなリン酸カルシウム系化合物、アルミナ、チタニア、ジルコニア、イットリア等のセラミックス材料、チタンまたはチタン合金、ステンレス鋼、Co−Cr系合金、Ni−Ti系合金等の各種金属材料等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0067】
これらの中でも、基体の構成材料としては、リン酸カルシウム系化合物、アルミナ、ジルコニア等のセラミックス材料(いわゆる、バイオセラミックス)が好ましく、特に、ハイドロキシアパタイトまたはリン酸三カルシウムを主材料とするものが好ましい。
【0068】
ハイドロキシアパタイトやリン酸三カルシウムは、骨の無機質主成分と同様の構造であるため、特に優れた生体適合性を有している。また、正負両荷電を有しているため、特に、ベクターとしてリポソームを用いる場合には、このリポソームを基体に長時間、安定的に担持させることができる。その結果、リポソームに吸着または封入された組換えプラスミド(核酸)も基体に長時間、安定的に保持されることになり、より迅速な骨形成に寄与する。また、骨芽細胞との親和性も高いことから新生骨を維持する上でも好ましい。
【0069】
このような基体は、種々の方法により作製(製造)することができる。基体として、セラミックス材料で構成される多孔質ブロック体を作製する場合を一例に説明すると、このような多孔質ブロック体は、例えば、セラミックス材料の粉体を含むスラリーを、骨欠損部等の移植部位に対応した形状に、例えば圧縮成形等により成形した成形体を得、かかる成形体を焼結(焼成)することによって作製することができる。
【0070】
以上のような骨形成治療デバイスは、組換えプラスミド(核酸)およびベクターを基体に接触させることにより作製(製造)することができる。具体的には、骨形成治療デバイスは、例えば、組換えプラスミドおよびベクターのいずれか一方を含む液体(溶液または懸濁液)をそれぞれ、または、組換えプラスミドおよびベクターの双方を含む液体を基体に供給すること、あるいは、これらの液体に基体を浸漬すること等により、容易に作製することができる。
【0071】
なお、基体として、粉末状、顆粒状、ペレット状等のものを用いる場合には、例えば、基体とバインダーと前述したような液体とを混練した混練物を、成形することにより骨形成デバイスを作製することもできる。
【0072】
このような骨形成治療デバイスを、例えば骨欠損部等の移植部位に埋設(適用)すると、この骨形成治療デバイスの近傍に存在する骨形成に関与する細胞が、その細胞内に組換えプラスミド(核酸)を取り込む。これらの細胞内では、組換えプラスミドを鋳型として順次BMPが産生され、このBMPにより、未分化間葉系細胞の骨芽細胞への分化が誘導され、その結果、骨形成が進行する。
【0073】
特に、本発明では、ベクターを併用することにより、骨形成に関与する細胞内への組換えプラスミド(核酸)の取り込みの効率が向上して、結果として、より迅速な骨形成がなされる。
【0074】
以上、本発明の骨形成治療デバイスの好適な実施形態について説明したが、本発明は、これに限定されるものではない。
【0075】
前記実施形態では、骨形態形成タンパク質(BMP)をコードする塩基配列を含む核酸として、BMP cDNAを発現プラスミドに組み込んだ組換えプラスミドを代表に説明したが、本発明におけるBMPをコードする塩基配列を含む核酸としては、例えば、BMP cDNA(発現プラスミドに組み込まないもの)、BMPのmRNA、あるいは、これらに任意の塩基を付加したもの等であってもよい。
【0076】
【実施例】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
【0077】
(実施例)
1.組換えプラスミドの調整
公知の方法により、ヒトBMP−2 cDNA(ヒトBMP−2をコードする塩基配列)と、所望の塩基配列とを、発現プラスミドに組み込んで、図1に示すような組換えプラスミドを得た。
そして、この組換えプラスミドを、次のようにして増殖させた。
【0078】
まず、室温で、組換えプラスミドを、DH5α(Competent Bacteria)の懸濁液200μLに添加した。
【0079】
次に、この混合液をLB寒天培地に添加して、37℃×12時間、培養した。
次に、この培養終了後、LB寒天培地に増殖したコロニーの中から比較的大きいコロニーを選択し、これをAmp(アンピシリン)を含むLB寒天培地に移植し、さらに37℃×12時間、培養した。
【0080】
その後、Ampを含むLB寒天培地で増殖したDH5αの細胞膜を破壊し、その溶液から、組換えプラスミドを精製分離した。
【0081】
2.ハイドロキシアパタイト多孔質焼結体(基体)の製造
公知の湿式合成法によりハイドロキシアパタイトを合成し、ハイドロキシアパタイトスラリーを得た。
【0082】
このハイドロキシアパタイトスラリーを噴霧乾燥して平均粒径15μm程度の粉体を得た。その後、この粉体を700℃×2時間、仮焼成した後、汎用粉砕装置を使用し、平均粒径12μm程度に粉砕した。粉砕したハイドロキシアパタイト粉体と水溶性高分子とを含む混合液を発泡させるために撹拌し、ペースト状とした。なお、ハイドロキシアパタイト粉体と水溶性高分子とは、重量比5:6で混合した。
【0083】
このペースト状混練物を型に入れて、水溶性高分子をゲル化させるため80℃で乾燥し、成形体を製造した。成型体を汎用旋盤等の加工機械を使用し直径10mm×厚さ3mm(体積:約0.24mL)の円盤状に加工した。
【0084】
この円盤状成形体を1200℃、大気中で2時間焼成し、ハイドロキシアパタイト多孔質焼結体を得た。
【0085】
なお、ハイドロキシアパタイト多孔質焼結体は、空孔率70%であった。この測定は、アルキメデス法により行った。
【0086】
3.骨形成治療デバイスの作製
この組換えプラスミドを含有するリン酸緩衝液と、ベクターである正荷電リポソーム(QIAGEN社製、「SuperFect」)を含有するリン酸緩衝液とを用意し、組換えプラスミドが10μg、正荷電リポソームが40μgとなるように、ハイドロキシアパタイト多孔質焼結体に含浸させた。
これにより、骨形成治療デバイスを得た。
【0087】
(比較例)
組換えプラスミドを用いない以外は、前記実施例と同様にして、骨形成治療デバイスを作製した。
【0088】
<評価>
1.評価実験
18羽の家兎(平均体重3.0kg)を用意した。各家兎には、それぞれ、次のような手術を施した。
【0089】
まず、家兎に対して、25mg/kgペントバルビタールナトリウム(アボットラボラトリー社製、「ネンブタ−ル」)を静脈内投与することにより麻酔した。
【0090】
次に、家兎の頭皮に切開を入れ、尾側を茎とする幅2.5cm×長さ3.0cmの皮弁として挙上した。
【0091】
次に、露出した骨膜に2〜3mmの切開を入れ、かかる部分に骨膜剥離子を当てて、直径約3mmの部分を剥離して頭蓋骨を露出させた。
【0092】
次に、露出した頭蓋骨の正中付近を、頭蓋骨穿頭器を用いて開頭し、硬膜は温存するように、その直上まで頭蓋骨を除去した後、完全に止血した。なお、頭蓋骨の厚さは約3mmであり、開頭部分の直径は約1.2cmとした。
【0093】
次に、開頭を行った家兎を9羽ずつの計2群に分け、第1群の各家兎には、それぞれ、実施例の骨形成治療デバイスを、第2群の各家兎には、それぞれ、比較例の骨形成治療デバイスを移植した後、皮弁を元の位置へ戻して縫合した。
【0094】
そして、手術が行われた各家兎を、それぞれ、個別のケージに入れて飼育した。
【0095】
2.評価結果
手術後3、6、9週目に、それぞれ、各群の家兎を3羽ずつ、前記同様の麻酔薬を過量投与することにより屠殺した。
【0096】
その後、頭蓋骨を直上の皮膚とともに一塊として切除し、採取した組織を直ちに10%中性緩衝ホルマリン液に浸して固定した後、ポリエステル樹脂に埋入した。次に、このポリエステル樹脂に埋入した組織を、厚さ50μmとなるように薄切研磨した後、cole−HE染色を行った。これにより、組織標本を得た。
【0097】
得られた各組織標本について、それぞれ、次のようにして骨形成率を測定した。すなわち、各組織標本を、それぞれ、デジタルカメラ(DP−12)付き実体顕微鏡システムSZX−12(オリンパス社製)で撮影した。次に、photoshop_ver4.0(アドビ社製)を使用し、撮影した画像データから新生骨部分をデジタル処理により抽出し、さらにSCIONイメージ(Scion社製)を用いて、画像解析の手法により前記抽出された新生骨部分の面積を計測数値化して骨形成率を求めた。
【0098】
なお、骨形成率の測定は、ハイドロキシアパタイト多孔質焼結体の面方向(厚さ方向に垂直な方向)の端部から5mm×(ハイドロキシアパタイト多孔質焼結体の厚さ3mm+硬膜側へ2mmの部分)の範囲について行った。
この結果を表1に示す。
【0099】
【表1】
【0100】
表1に示すように、実施例の骨形成治療デバイスは、極めて骨形成能に優れるものであった。
これに対し、比較例の骨形成治療デバイスは、骨形成能に劣るものであった。
【0101】
このように、ハイドロキシアパタイト多孔質焼結体と、組換えプラスミドと、正荷電リポソームとを併用することにより、極めて優れた骨形成能を有する骨形成治療デバイスが得られることが明らかとなった。
【0102】
また、基体として、ハイドロキシアパタイト多孔質焼結体に代わり、リン酸三カルシウム多孔質焼結体を用いて骨形成治療デバイスを作製して、前記と同様の評価実験を行った結果、前記とほぼ同様の評価結果が得られた。
【0103】
また、BMPをコードする塩基配列として、ヒトBMP−2をコードする塩基配列に代わり、ヒトBMP−1、ヒトBMP−2、ヒトBMP−3、ヒトBMP−4、ヒトBMP−5、ヒトBMP−6、ヒトBMP−7、ヒトBMP−8、ヒトBMP−9またはヒトBMP−12をコードする塩基配列を用いて骨形成治療デバイスを作製して、前記と同様の評価実験を行った結果、前記実施例とほぼ同様の評価結果が得られた。
【0104】
【発明の効果】
以上述べたように、本発明によれば、極めて迅速な骨形成を可能とし、早期の骨形成治療に貢献することができる。
【0105】
このため、各種骨形成治療に際し、遊離骨移植を行う必要がなくなり、採骨部が不要となることから、より安全かつ確実で、合理的な手術が可能となる。
【0106】
このようなことから、手術時間や入院期間の短縮を図ることができ、トータルの医療コストの削減、治療クオリティーの向上、患者のQOLの向上を図ることができる。
【0107】
特に、本発明では、ベクターを併用することにより、未分化間葉系細胞、炎症細胞、線維芽細胞のような骨形成に関与する細胞内への核酸の取り込みの効率が向上して、結果として、より迅速な骨形成がなされ、前記効果がより向上する。
【0108】
また、基体としてブロック体を用いることにより、基体の形状に沿って骨形成が良好に進行するので、移植部位が比較的大きな骨欠損部等である場合に有効である。
【0109】
また、基体として、遺伝子治療に特化した多孔質体を用いることにより、核酸およびベクターを、より容易かつ確実に基体に担持させることができるとともに、各種の骨形成に関与する細胞が基体内に侵入し易くなり、骨形成にとって有利である。
【0110】
また、本発明の骨形成治療デバイスは、保存、取扱いや手術時の加工等が容易である。
【図面の簡単な説明】
【図1】組換えプラスミドの一例を示す遺伝子地図である。
Claims (8)
- 正負両荷電を有するハイドロキシアパタイトまたはリン酸三カルシウムを主としてなる基体と、
骨形態形成タンパク質(BMP)をコードする塩基配列および発現プラスミド由来の塩基配列を含む核酸と、
該核酸を保持する正荷電リポソームおよび負荷電リポソームのうちの少なくとも一方のリポソームとを含み、
前記リポソームは、前記基体に担持されており、さらに、該リポソームに、前記核酸が保持されていることを特徴とする骨形成治療デバイス。 - 前記骨形態形成タンパク質は、BMP−2である請求項1に記載の骨形成治療デバイス。
- 前記核酸を、前記基体の体積1mLあたり1〜100μgとなるよう用いる請求項1または2に記載の骨形成治療デバイス。
- 前記核酸を前記リポソームに保持させた後、該リポソームを前記基体に担持させることにより得られたものである請求項1ないし3のいずれかに記載の骨形成治療デバイス。
- 前記リポソームと前記核酸との配合比は、重量比で1:1〜20:1である請求項1ないし4のいずれかに記載の骨形成治療デバイス。
- 前記基体は、ブロック体である請求項1ないし5のいずれかに記載の骨形成治療デバイス。
- 前記基体は、多孔質体である請求項1ないし6のいずれかに記載の骨形成治療デバイス。
- 前記多孔質体の空孔率は、30〜95%である請求項7に記載の骨形成治療デバイス。
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