JP3849438B2 - 拡管用油井鋼管 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、主として油井あるいはガス井(以下、単に「油井」と総称する。)に用いられる鋼管で、さらに詳しくは、井戸中にて拡管加工し、そのまま使用することのできる拡管後の耐食性に優れた油井鋼管に関する。
【0002】
【従来の技術】
油井の掘削においては、多数のケーシングと呼ばれるパイプを坑井中に埋設して、坑井の壁の崩落を防止する。坑井の掘削では、ある深さに達するまでドリリングによって穴が掘られた後、掘削された坑井の中に、壁の崩落を防止する目的で、ケーシングが挿入される。このようにして、井戸は、順次ドリリング作業を続けて掘り進められるが、次の段階の深さまで掘り進めた時に埋設されるケーシングは、先に埋設されたケーシングの中を通して降下されるために、後から深い部分に埋設されるケーシングの直径は、先に埋設されたケーシングの直径よりも小さくする必要がある。
【0003】
このようにして掘削された油井では、坑井上部のケーシングの直径は大きく、深度が深くなるにしたがって、小さい直径のケーシングとなり、その中に、最終的に油あるいはガスの生産のために用いる鋼管(チュービング)が通されることになる。このため、所定の深度にまで掘り進めた時に確保するべきチュービングの直径から逆算して、坑井上部のケーシングの直径が決定されることになる。
【0004】
このようなことから、深度の深い井戸を掘削する場合には、坑井上部のケーシングサイズは大きくなり、掘削に要する費用も増加する。
【0005】
このため、特表平7−507610号公報に記載されているように、坑井内においてケーシングを半径方向に膨張させることで、多段構造になったケーシング毎の直径の差を小さく抑え、結果として坑井上部のケーシングサイズを小さくする工夫がなされている。この方法は、必要としている鋼管の外径よりも小さな鋼管を井戸内に挿入し、井戸内で拡管加工を施し、必要な鋼管の外径にまで加工するものである。この方法を採用することにより、前記したように坑井上部でのケーシングの直径を小さく抑えることができ、井戸の掘削にかかるコストを削減できる。
【0006】
このように、井戸内で鋼管を拡管する場合には、鋼管は、拡管による加工を受けた状態のままで油やガスといった生産流体の環境下に曝されるため、加工後に熱処理を加えることができず、冷間での拡管加工を受けたままでの耐食性が要求される。しかし、冷間加工後の耐食性に関する知見は見当たらない。一般的には、冷間加工を加えると耐食性は劣化するとされている。
【0007】
一方、鋼管が拡管などの冷間加工を受けずに、焼入れ焼戻し処理のみを受けた状態における鋼の耐食性、特に湿潤硫化水素環境下における耐硫化物応力割れ性(以下「耐SSC性」ともいう。)に関しては、種々の検討がなされている。
【0008】
例えば特開昭61−223164号公報には、C、Si、Mn、Cr、Mo、Nb、ZrおよびAlなどの鋼成分の含有量を規定し、MnおよびCr含有量の間の関係も規定した上で、適切な熱処理を施すことにより、ASTMオーステナイト結晶粒度番号8.5以上の細粒の結晶粒度を有する耐SSC性に優れた油井用高強度鋼が記載されている。
【0009】
一般的に、細粒鋼を得るためには、誘導加熱法などの急速加熱手段を用いて1回以上の焼入れを施すことが有効であることは知られているが、特開昭60−177126号公報には、下記のような細粒鋼の製造法が記載されている。
【0010】
すなわち、同公報には、焼入れ処理の際の加熱速度が、1℃/秒程度以下の遅い加熱速度の場合であっても、前記のような特定成分含有量を有する鋼を、熱間加工の後に、Ac3 点以上でオーステナイト結晶粒の粗大化開始温度以下の温度に加熱後、焼入れ処理を少なくとも2回以上繰り返すことにより、十分に細粒の低温変態組織が得られることが示されている。
【0011】
しかし、これらの知見は、熱処理のままでの耐食性におよぼす結晶粒度の影響に関するものであり、冷間加工後の耐食性におよぼす結晶粒度の影響に関する記載は見られない。先にも述べたように、冷間加工が加わると、定性的には耐SSC性は劣化するとされているが、この耐SSC性の劣化に対して冷間加工前の鋼管の結晶粒径がどのように影響するかについては、知られていない。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記の従来技術における問題点を解決するためになされたものであり、その課題は、油井井戸中にて拡管加工し、そのまま使用することのできる拡管後の耐食性に優れた油井鋼管を提供することにある。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の課題を達成するために、油井管として用いられている炭素鋼および低合金鋼に対して、半径方向に膨張させる拡管による冷間加工を加えた後の耐食性について鋭意検討を重ね、下記のa)〜c)の知見を得て、本発明を完成させた。
【0014】
a)冷間加工前の鋼管(以下「素管」ともいう。)の結晶粒度が小さいほど、冷間加工後の鋼管の耐食性の劣化が小さい。
【0015】
b)冷間加工後の鋼管の耐食性の劣化を防止するためには、素管の降伏強度が高い場合ほど、素管の結晶粒度を小さくする必要がある。
c)耐食性の劣化を防止するための素管の適正結晶粒度の範囲は、素管の降伏強度の関数として求めることができる。
【0016】
上記の知見に基づいて完成させた本発明の要旨は、下記の拡管後の耐食性に優れた拡管油井鋼管にある。
【0017】
(1)質量%で、C:0.10〜0.45%、Si:0.1〜1.5%、Mn:0.10〜3.0%、P:0.03%以下、S:0.01%以下、sol.Al:0.05%以下およびN:0.010%以下を含有し、残部はFeおよび不純物からなり、さらに、拡管加工前の鋼管の強度と結晶粒径とが下記(1)式により与えられる関係を満足する拡管加工後の耐食性に優れた拡管用油井鋼管。
【0018】
ln(d)≦−0.0067YS+8.09・・(1)
ここで、YSは拡管加工前の鋼管の降伏強度(MPa)、dは拡管加工前の鋼管の結晶粒径(μm)を表す。
(2)Feの一部に代えて、質量%で、Cr:0.2〜1.5%、Mo:0.1〜0.8%、V:0.005〜0.2%のうちの1種または2種以上を含有する前記(1)に記載の拡管用油井鋼管。
(3)Feの一部に代えて、質量%で、Ti:0.005〜0.05%、Nb:0.005〜0.03%のうちの1種または2種を含有する前記(1)または(2)に記載の拡管用油井鋼管。
(4)Feの一部に代えて、質量%で、Ca:0.001〜0.005%を含有する前記(1)〜(3)のいずれかに記載の拡管用油井鋼管。
【0019】
なお、前記(1)において、結晶粒径とは、結晶粒の平均直径を表す。
【0020】
【発明の実施の形態】
従来、硫化水素を含んだ環境下において使用される油井管の耐食性は、NACE TM−0177で規定される試験法によって評価されている。NACE TM−0177におけるA法は、酢酸酸性とした5%NaCl溶液中において、試験片に単軸方向の引張り応力を負荷した状態で、1atmのH2Sガスをバブリングさせながら、1ヶ月間の浸漬試験を行い、その期間中における硫化物応力割れ(以下「SSC」ともいう。)の発生の有無を調査するものである。ここで、負荷する応力は、規格最小降伏強度(「SMYS」ともいう。)の85%とするのが一般的である。
【0021】
そこで、本発明者らは、種々の強度と結晶粒度を有する炭素鋼および低合金鋼について、半径方向の拡管を行った後に試験片を採取し、TM−0177法にしたがって腐食試験を行った。応力負荷方向は、素管の長手方向(L方向)とした。
【0022】
硫化水素環境下での腐食はSSCによるものである。腐食反応に伴って湿潤硫化水素環境から鋼中に侵入する拡散性水素(鋼中水素)濃度が、SSC発生の閾値となる限界水素濃度(Cth)を超えると、割れが発生し、これは水素脆性によるものであることが知られている。したがって、腐食試験後の鋼中水素濃度を調査することにより、それぞれの材料の耐食性が評価できる。
【0023】
そこで、上記の試験においては、硫化水素環境における水素の侵入量すなわち鋼中水素濃度を測定した。その結果、拡管による冷間加工を加えた試験片においては、素管の結晶粒度の小さい方が、鋼中水素濃度が低いことを新たに知見した。すなわち、素管の結晶粒度が小さいほど、冷間加工後の試験片における硫化水素環境に浸漬後の鋼中水素濃度が低く、したがって限界水素濃度を超えずに、耐SSC性が良好であることが判明した。
【0024】
この理由は以下のように考えられる。
【0025】
素管における転位密度がほぼ同程度の細粒鋼と粗粒鋼に対して、冷間加工を加えると、粒内の転位は粒界に移動し、粒界に集積することになるが、結晶粒が小さい場合には、単位結晶粒における転位の数が少なく、かつ、粒界の界面積は大きいことから、粒界に集積する転位の数は少なくなる。これに対して、粗粒鋼の場合は、より広い領域を有する粒内の転位がすべて粒界に移動して集積することになるため、局部的にトラップされる水素量が増大し、したがって、水素脆性の感受性は、細粒鋼の場合に比べて、一層大きくなるものと考えられる。
【0026】
また、高強度材ほど、硫化水素環境下に浸漬させた場合の鋼中水素濃度が高く、割れ臨界水素濃度が低くなることから、SSC感受性が高い。そのため、冷間加工後の耐SSC性を確保するためには、素管の強度が高いほど、素管の結晶粒度を細かくする必要のあることが判明した。
【0027】
なお、これらの調査および検討は、下記(2)式で定義される半径方向の拡管率を5〜30%の範囲で変化させて行った。
ER={(RA−RB)/RB}×100・・・(2)
ここで、ERは半径方向の拡管率(%)、RAは拡管後の管の半径(cm)、RBは拡管前の素管の半径(cm)を表す。
その結果、素管の結晶粒度が細かいほど、拡管後に採取した試験片による腐食試験後の鋼中水素濃度は低く、また、これらの関係は、いずれの拡管率の場合においても同様であることが判明した。
【0028】
また、拡管率が高いほど鋼中水素濃度は高くなる傾向にあることも判明したが、通常の油井における拡管法では、拡管率は25%程度が限界であるとされていることから、拡管率が25%の拡管用鋼管において、SSCが発生しないための限界条件となる素管の結晶粒径と素管の強度との関係につき調査検討を行った。図1は、拡管加工後の鋼管のSSC発生の有無におよぼす素管の結晶粒径および降伏強度の関係を表すグラフである。なお、この関係は、本発明で規定する鋼の化学成分を満足する後述の鋼番号1〜13の鋼を用いた試験番号1、1(a)、2〜4、4(a)、5〜9、9(a)、および10〜13、ならびに3(b)、4(b)、6(b)、9(b)、10(b)および13(b)の鋼管による調査検討で得られたものである。
【0029】
同図中において、○印の点は、NACE TM−0177 A法による評価でSSCが発生しなかった場合を示し、●印の点は、同評価でSSCが発生した場合を示す。
【0030】
同図より、拡管加工後の鋼管の耐食性は、素管の降伏強度と素管の結晶粒度の関数として表されることがわかる。本発明者らは、NACE TM−0177 A法による評価でSSCが発生しないための限界となる素管の結晶粒度と、素管の降伏強度との関係が下記(1)式により表されることを見出した。
【0031】
ln(d)≦−0.0067YS+8.09・・(1)
ここで、YSは素管の降伏強度(MPa)、dは素管の結晶粒径(μm)を表す。
【0032】
すなわち、素管の結晶粒度と素管の降伏強度とが前記(1)式により与えられる関係を満足すれば、25%の拡管加工を行った後の鋼管においてSSCが発生せず、拡管加工後も十分に耐食性が確保できることが判明した。
なお、本発明者らは、拡管加工後の鋼管の耐食性におよぼす拡管加工後の降伏強度と結晶粒度との関係についても調査検討を行い、SSCが発生しないための限界となる拡管加工後の鋼管の降伏強度と同結晶粒度との間にも、前記(1)式が適用できることを確認した。
【0033】
次に、本発明に係る鋼管の範囲を前記のとおり定めた理由につき説明する。
(A)化学組成
C:
Cは、鋼の強度を確保し、また十分な焼入れ性を得るために必要な元素である。これらの効果を得るためには、含有量を0.10%以上とする必要がある。含有量が0.10%未満では、必要とされる強度に対して低温での焼戻しとなるためにSSC感受性が大きくなり、好ましくない。一方、0.45%を超えて含有されると、焼入れ時の焼割れ感受性が増大し、また靭性も劣化する。そこで、C含有量の範囲を0.10〜0.45%とした。含有量の好ましい範囲は、0.15〜0.3%である。
【0034】
Si:
Siは、脱酸剤としての効果および、焼戻し軟化抵抗を高めて強度を上昇させる効果を有する元素である。含有量が0.1%未満ではこれらの効果が十分に得られない。一方、1.5%を超えて多量に含有されると熱間加工性が著しく劣化する。そこで、Si含有量の範囲を0.1〜1.5%とした。含有量の好ましい範囲は、0.2〜1.0%である。
【0035】
Mn:
Mnは、鋼の焼入れ性を増し、鋼管の強度確保のために有効な元素である。含有量が0.10%未満ではその効果が得られず、強度および靭性がともに低下し、また、耐SSC性も劣ることとなる。一方、3.0%を超えて多量に含有されるとMnの偏析が多くなって靭性を低下させる。そこで、Mn含有量の範囲を0.10〜3.0%とした。含有量の好ましい範囲は、0.3〜1.5%である。
【0036】
P:
Pは、鋼中に不純物として含まれる元素であり、その含有量が0.03%を超えると粒界に偏析して靭性を低下させる。そこで、P含有量を0.03%以下とした。含有量は少なければ少ないほどよく、好ましくは0.015%以下である
S:
Sは、鋼中に不純物として含まれる元素である。MnやCaなどの元素と硫化物系の介在物を形成し、靭性を劣化させることから、その含有量は少なければ少ないほどよい。含有量が0.01%を超えると靭性の劣化が著しくなるので、含有量を0.01%以下とした。好ましくは0.005%以下である。
【0037】
sol.Al:
Alは、脱酸剤として使用される元素である。sol.Al含有量が0.05%を超えて含有されても、脱酸効果が飽和するばかりでなく、かえって靭性の低下を招くので、含有量の範囲を0.05%以下とした。上記の効果を得るためには、含有量は0.001%以上であることが好ましい。
【0038】
N:
Nは、鋼中に不純物として含まれる元素であり、AlやTiなどの元素と窒化物を形成する。特に、AlNやTiNが多量に析出すると靭性が劣化する。また、耐SSC性も悪化する。そこで、N含有量は0.010%以下とした。N含有量は少なければ少ないほどよく、好ましくは、0.008%以下である。
【0039】
Cr、MoおよびV:
これらの元素は、適正量を含有させることにより、焼入れ性を向上させ、強度を確保するために有効な元素である。焼入れ性の向上による強度確保の効果を得たい場合には、これらの元素のうちの1種または2種以上を下記に示す含有量の範囲で含有させることにより、それらの効果を得ることができる。一方、適正量を超えて過度に含有させると、これらの元素は粗大な炭化物を形成しやすく、かえって、靭性や耐食性の劣化をきたす場合が多い。
【0040】
なお、Crは、上記の効果に加えて、高温炭酸ガス環境中における腐食速度の低減にも効果を有する元素である。同様に、Moは、Pなどの粒界偏析による脆化を抑制するのにも効果を有し、Vは、焼戻し時の軟化抵抗を高めるのにも効果を有する。
含有させる場合のこれらの元素の含有量の範囲は、上記の理由に基づき、以下のとおりとした。
【0041】
Cr含有量の範囲は0.2〜1.5%である。また、好ましい範囲は0.3〜1.0%である。
Mo含有量の範囲は0.1〜0.8%である。また、好ましい範囲は0.3〜0.7%である。
V含有量の範囲は0.005〜0.2%である。また、好ましい範囲は0.008〜0.1%である。
【0042】
TiおよびNb:
これらの元素は、適量を含有させることにより、TiNまたはNbCを形成し、高温域における結晶粒の粗大化を防止する効果を有する元素である。結晶粒の粗大化防止の効果を得たい場合には、これらの元素のうちの1種または2種を下記に示す含有量の範囲で含有させることにより、それらの効果を得ることができる。一方、適正量を超えて過度に含有させると、TiCの生成量が増加して靭性が劣化する原因となるのでよくない。
含有させる場合のこれらの元素の含有量の範囲は、上記の理由に基づき、以下のとおりとした。
【0043】
Ti含有量の範囲は0.005〜0.05%である。また、好ましい範囲は0.009〜0.03%である。
【0044】
Nb含有量の範囲は0.005〜0.03%である。また、好ましい範囲は0.009〜0.07%である。
【0045】
Ca:
Caは、硫化物の形態制御に寄与し、靭性改善などに有効な元素である。硫化物の形態制御による靭性改善の効果を得たい場合には、0.001%以上を含有させることにより、その効果が得られる。一方、0.005%を超えて含有させると、介在物が多量に生成し、孔食の起点となるなど耐食性の面で悪影響が現れる。そこで、含有させる場合のCa含有量の範囲を0.001〜0.005%とした。含有量の好ましい範囲は、0.002〜0.004%である。
(B)結晶粒度および降伏強度
すでに述べたとおり、NACE TM−0177法による評価でSSCが発生しないための限界となる素管の結晶粒度と、素管の降伏強度との関係は前記(1)式により表されることが判明したので、これを本発明における素管の結晶粒度と降伏強度の適正範囲とした。
なお、SSCが発生しないための限界となる拡管加工後の鋼管の降伏強度と、拡管後の結晶粒度との間にも、前記(1)式の関係が適用できることを確認した。
【0046】
前記のような細粒鋼を得る方法は、特に限定されるものではない。例えば、誘導加熱法等を用いた急速加熱による焼入れを行った後に、焼戻し処理を施しても良いし、Ac3 変態点以上でオーステナイト結晶粒粗大化開始温度以下の温度域からの焼入れ処理を2回以上繰り返した後に、焼戻し処理を行う方法によってもよい。
【0047】
また、前記のように、TiやNbなどの結晶粒の粗大化防止に寄与する元素による効果が期待でき、通常の焼入れ焼戻し処理による方法であっても、前記(1)式の関係を満足するのであれば、それらの方法によってもかまわない。
【0048】
本発明に係る油井鋼管は、井戸内において拡管される油井管を対象とするものであり、素管となる鋼管自体の製造方法について特に限定するものではない。例えば、電縫鋼管(ERW鋼管)や継目無鋼管(シームレス鋼管)はもちろん、その他の鋼管においても適用することができる。
【0049】
【実施例】
表1に示す成分組成を有する16種類の鋼を溶製した。
【0050】
【表1】
これらの鋼を用いて熱間鍛造により直径80mm、長さ300mmのバー材を作製し、このバー材から外削および、くり貫き加工をして、外径75mm、肉厚10mm、長さ300mmのシームレス鋼管を作製した。この鋼管に、焼入れ焼戻し処理を2回繰り返して施し、細粒組織を有する鋼管を得た。
【0051】
なお、鋼管の熱処理は以下のとおり行った。
【0052】
鋼管を900〜1000℃に加熱後焼入れ、650〜750℃にて焼戻す処理を2回繰り返す方法を標準としたが、表2に示す試験番号1(a)、4(a)および9(a)では、2回目の焼入れ温度を1回目よりも50℃低くする方法とし、試験番号3(b)、4(b)、6(b)、9(b)、10(b)および13(b)では、1回の焼入れ焼戻し処理とし、焼き入れ温度を1050℃と高めにして、それぞれ結晶粒径を変化させた。
【0053】
上記のようにして得られた鋼管にプラグを挿入して、半径方向に25%の拡管加工を行い、拡管後の鋼管を得た。
〔耐硫化物腐食割れ性の評価〕
NACE TM−0177法により以下のとおり実施した。
【0054】
拡管加工後の鋼管から、直径:2.54mm、平行部長さ:25.4mmの丸棒の単軸方向引張り型の腐食試験片を切り出して、表面を研磨後、下記の環境下における腐食試験を行い、定荷重条件下における破断の有無により、SSCの発生状況を評価した。
腐食試験環境:5%NaCl+0.5%酢酸溶液中に試験片を浸漬。試験片に単軸方向の引張り応力(規格最小降伏強度の85%:表2中に記載)を負荷し、1atmのH2Sガスをバブリングさせながら、720時間保持した。
〔結晶粒径〕
50個の結晶粒の切片を測定して平均切片Lを求め、その値を1.12倍した値を平均粒径(直径)d(μm)とした。
〔降伏強度〕
JIS Z 2241に規定された引張り試験方法に準じて試験した。なお、試験片は、JIS Z 2201に規定された12B号試験片(幅:25mm、標点距離:50mm、厚さ:10mm)を使用し、0.2%耐力により評価した。
〔靭性〕
JIS Z 2242に規定されたシャルピー衝撃試験方法に準じて試験した。なお、試験片は、JIS Z 2202に規定された幅:5mmのサブサイズの4号試験片を使用し、破面遷移温度により評価した。
【0055】
表2に、各試験番号および鋼番号についての降伏強度、靭性、結晶粒径、腐食試験時の負荷応力および耐SSC性の各試験結果ならびに、(1)式左辺の値および(1)式右辺の値を示した。
【0056】
【表2】
鋼番号1〜13の鋼を用いた試験番号1、1(a)、2〜4、4(a)、5〜9、9(a)、および10〜13の鋼管は本発明例であり、鋼番号3、4、6、9、10および13の鋼を用いた試験番号3(b)、4(b)、6(b)、9(b)、10(b)および13(b)ならびに試験番号14〜16の鋼管は比較例である。
本発明例である試験番号1、1(a)、2〜4、4(a)、5〜9、9(a)、および10〜13の鋼管は、いずれも、本発明で規定する鋼の化学組成および前記(1)式により与えられる関係を満足しており、炭素鋼および低合金鋼のいずれの鋼管においても、SSCは発生していない。また、靭性にも優れている。
とくに、Cr、MoおよびVの1種または2種以上を含有する試験番号4、4(a)、5、6、9、9(a)、11および13の鋼管は、耐SSC性に優れるとともに、降伏強度が高く、靭性にもより優れている。
【0057】
TiおよびNbの1種以上を含有する試験番号7、8、9、9(a)、12および13の鋼管は、結晶粒が細粒化されており、耐SSC性に優れるとともに、靭性にもより優れている。
Caを含有する鋼番号10〜13の鋼を用いた試験番号10〜13の鋼管は、耐SSC性に優れるとともに、硫化物の形態制御の効果により、靭性にもより優れている。
【0058】
また、焼入れ温度を変化させて結晶粒を細粒化した試験番号1(a)、4(a)および9(a)では、結晶粒径がそれぞれ、試験番号1、4および9の50〜70%程度にまで小さくなっており、いずれの鋼管もより優れた靭性を有する。
【0059】
これに対して、鋼番号14〜16の鋼を用いた試験番号14〜16の鋼管は、それぞれ、鋼の化学組成のうちのC、MnおよびN含有量が、本発明で規定する鋼の化学組成の範囲から外れているため、結晶粒径と降伏強度との関係が前記(1)式で与えられる関係を満足はするものの、いずれの鋼管についてもSSCが発生している。
【0060】
また、焼入れ温度を変化させて結晶粒を粗大化した試験番号3(b)、4(b)、6(b)、9(b)、10(b)および13(b)の鋼管は、いずれも、降伏強度と結晶粒径との関係が本発明で規定する前記(1)式により与えられる関係を満足せず、SSCが発生している。
【0061】
【発明の効果】
本発明の拡管用油井鋼管は、井戸中にて拡管加工し、そのまま使用することのできる拡管後の耐食性に優れた油井鋼管であり、拡管施工をともなう油井の掘削用鋼管として好適である。本鋼管を使用することにより、油井の掘削費用を大幅に低減でき、産業の発展に寄与するところ大である。
【図面の簡単な説明】
【図1】拡管加工後の鋼管の硫化物応力割れ発生の有無におよぼす素管の結晶粒径および降伏強度の関係を表すグラフである。
Claims (4)
- 質量%で、C:0.10〜0.45%、Si:0.1〜1.5%、Mn:0.10〜3.0%、P:0.03%以下、S:0.01%以下、sol.Al:0.05%以下およびN:0.010%以下を含有し、残部はFeおよび不純物からなり、さらに、拡管加工前の鋼管の強度と結晶粒径とが下記(1)式により与えられる関係を満足することを特徴とする拡管加工後の耐食性に優れた拡管用油井鋼管。
ln(d)≦−0.0067YS+8.09・・(1)
ここで、YSは拡管加工前の鋼管の降伏強度(MPa)、dは拡管加工前の鋼管の結晶粒径(μm)を表す。 - Feの一部に代えて、質量%で、Cr:0.2〜1.5%、Mo:0.1〜0.8%、V:0.005〜0.2%のうちの1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の拡管加工後の耐食性に優れた拡管用油井鋼管。
- Feの一部に代えて、質量%で、Ti:0.005〜0.05%、Nb:0.005〜0.03%のうちの1種または2種を含有する請求項1または2に記載の拡管加工後の耐食性に優れた拡管用油井鋼管。
- Feの一部に代えて、質量%で、Ca:0.001〜0.005%を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の拡管加工後の耐食性に優れた拡管用油井鋼管。
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JP2001065898A JP3849438B2 (ja) | 2001-03-09 | 2001-03-09 | 拡管用油井鋼管 |
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