JP3848183B2 - flo2変異の形質が導入された低アレルゲン植物およびその作出方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、flo2変異の形質が導入された低アレルゲン植物およびその作出方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
食品が原因となって起こるアレルギーは、乳幼児でのアトピー性皮膚炎、小児喘息、成人での重度の難治性皮膚炎、さらに、ソバ(蕎麦)アレルギーや食物摂取後の運動によって起こるアレルギーに見られるような、即時型で時には全身性のアナフィラキシー症状を呈するものなど、急性のものから慢性のものまで多種多様である。
【0003】
食物アレルギーは、昭和30年代から増え始め、年々増加し難治化してきている。主なアレルゲンとして牛乳・卵・大豆(油)などが良く知られているが、最近は米、小麦などの穀物アレルギーが非常に増加している。
【0004】
食物アレルギーは腸内にある異物が腸壁を通り抜けて体内に侵入したとき、過敏な免疫的排除反応を起こすことにより生じる。このときの異物をアレルゲンという。過敏な免疫的排除反応による食物アレルギーが起きるのは、アレルゲンが身体に侵入してきた時に、アレルギーを引き起こす抗体(IgE)が作られやすい状態にあるためと言われている。親にアレルギー体質がある時、子にもこの体質が引き継がれやすく、同じ食物を繰り返し摂っていると、食物アレルギーになりやすい。また、一度食物アレルギーが成立すると、他のアレルゲンが吸収されやすくなり、次々とアレルギーを引き起こしやすい状態になることが知られている。
【0005】
アレルゲンとなりやすいタンパク質は、異物性(アレルゲン性)の強い分子量7000〜1万以上のタンパク質で、一般に消化性が悪い。これらは概して安定であり、炊飯等の処理によってもほとんど変化しない。このアレルゲンをたくさん含む食品を、タンパク質の消化不良を起こすほど多量に、繰り返し食べることによって食物アレルギーが起きると言われている。
【0006】
食物アレルギーの治療は、原因物質を除去することが基本である。患者はアレルゲンを含む食品を摂取しないことが肝要であり、患者が食する除去食は、最初は、厳密な除去から始められ、アレルギー体質が改善されるに従って、徐々にゆるめる方法がとられている。そのため、アレルギー患者にとってアレルゲン除去食品は必須の食品である。
【0007】
1988年頃から横浜市立大医学部、東京大学農学部、名古屋大学農学部を中心に米アレルギーの研究成果が精力的に報告されている。コメアレルギーは、白米中に含まれるさまざまなアレルゲンタンパク質によって引き起こされる。これらのアレルゲンタンパク質は、米蛋白のうちグロブリン(食塩水で溶質される蛋白)に主要抗原があることが判明している。このうち、16kDaアレルゲンタンパク質がもっとも強くアレルギーを引き起こすことが知られている。この遺伝子については、名古屋大学の松田らにより構造が明らかになっており、遺伝子の機能について詳細な解析がなされている(T. Matsuda et al. Agri. Biol. Chem. 52, 1465-1470 (1988))。
【0008】
低アレルゲン米を調製するためには、アレルゲンタンパク質の含有量の少ない品種の育成や、白米中に含まれるアレルゲンタンパク質を人工的に除去することが試みられている。これまでに、白米に含まれるタンパク質を酵素分解し、アレルゲンタンパク質を完全に除去したものが資生堂により開発され、特定保健用食品として市販されている。この他に、全国農業協同組合連合会などにより、高圧処理と洗浄で米蛋白(特に、グロブリン)を減らしたAカット米や高度精白米(蛋白の多い米表面を白米以上に削った米:削り米、丸米、酒米、低アレルギー米の名称もある)なども開発されている。
【0009】
しかしながら、このような人工的に加工した低アレルゲン米は、酵素処理その他の操作により食味性が著しく損なわれることが多い。また通常のコメに比べて生産コストが高く、小売り価格も非常に高いものとなっているため、これらの患者にとって経済的負担が大きい。
【0010】
最も好ましいものは遺伝的にアレルゲンタンパク質の生産が欠損した米であるが、現在に至るまで実用化された例はない。一方、遺伝子組換え技術により、アンチセンス・アレルゲン遺伝子を導入した組換え体イネが作成されており、その有効性が証明されている(Y. Tada et al. FEBS Lett. 391, 341-345(1996))が、やはり未だ実用化に至っていない。
【0011】
ところで、イネは品種ごとに、穀粒中に含まれるアレルゲンタンパク質の量が異なることが知られている。これはアレルゲンタンパク質をコードする遺伝子の発現量の違いによるものと考えられている。アレルゲンタンパク質遺伝子の発現を制御するプロモーター、エンハンサーはかなり強力なものであり、この遺伝子は未熟種子特異的に大量に発現する(T. Adachi et al. Plant Mol. Biol. 21, 239-248 (1993))。アレルゲンタンパク質遺伝子のような組織特異的な発現を制御するために、特定の転写制御因子が存在する。
【0012】
日本型イネの品種「金南風(キンマゼ)」をニトロソ化合物(MNU)で処理して得られた突然変異体の中に胚乳が粉質であるもの、すなわち穀粒中に含まれるデンプンの質的な変化をもたらす変異体が見つかり、Floury2部位における突然変異(以下flo2と略す)と名付けられた(H. Satoh and T. Omura, Rice Genetics, 707-717 (1986))。flo2変異をもったイネには、EM36系統、EM37系統などがあげられる。
【0013】
この変異体では、デンプン生合成に関わる遺伝子群の発現量が総じて低下しており、その中でもとりわけデンプン枝つけ酵素遺伝子の発現量が顕著に下がっていることがわかっている(T. Kawasaki et al. Plant Physiol. 110, 89-96 (1996))。しかしながら、flo2変異は一因子の欠損変異であると考えられており、この変異により、デンプン枝つけ酵素遺伝子のみならず顆粒結合型デンプン合成酵素、デンプン枝切り酵素などをコードする遺伝子の発現量も低下する。
【0014】
flo2変異の遺伝子座は第4染色体であり、上記のデンプン生合成に関わる遺伝子群とは異なる遺伝子座に座乗していることが明らかになっている。このことからFloury 2遺伝子は未熟種子における組織特異的なデンプン生合成を制御する制御因子をコードするものと考えられている(T. Kawasaki et al. Plant Physiol. 110, 89-96 (1996))。
【0015】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、このflo2変異が植物のアレルゲンタンパク質の発現を抑制しているとの知見に基づくものである。従って、本発明の目的は、flo2変異の形質が植物に導入された低アレルゲン植物およびその作出方法を提供することにある。
【0016】
【課題を解決するための手段】
最近のゲノム解析技術が向上したことにより、さまざまな組織で特異的に発現する遺伝子群を網羅的に解析することが可能になってきている。その一つの手法としてマイクロアレイを用いた解析法が開発されている(村松正明、那波宏之監修、細胞工学別冊ゲノムサイエンスシリーズ第1巻、DNAマイクロアレイと最新PCR法、秀潤社 2000年)。野生型と変異体における発現量の差異を調べることで、その変異が関与する遺伝子を網羅的に提示することが可能である。
【0017】
本発明者らは、潜在的なFloury 2遺伝子がコードする因子により制御されている未知の遺伝子群を網羅的に同定するために、マイクロアレイを利用してflo2変異体における遺伝子の発現の解析を行った。その結果、本発明者らは、flo2変異体においては、16kDaアレルゲンタンパク質の発現量が著しく低下していることを明らかにした。このことは、潜在的なFloury 2遺伝子によりコードされている因子がイネの16kDaアレルゲンタンパク質遺伝子の発現量を正に制御していることを意味する。また、本発明者らは、flo2変異体イネの穀粒中における16kDaアレルゲンタンパク質の検出を行い、flo2変異体においては16kDaアレルゲンタンパク質の量が野生型に比べておよそ50%以上減少していることを明らかにした。次に、本発明者らは、flo2変異体を利用した雑種イネの作成を試みた。flo2変異体を母本とし、野生型イネを父本とした交配をおこなった結果、flo2形質を示した個体に含まれる16kDaアレルゲンタンパク質の量はすべて野生型と比較して50%以下に減少していることが判明した。
【0018】
即ち、本発明者らは、flo2変異体が低アレルゲンであることを実証するとともに、flo2変異の形質を導入することで、新たな低アレルゲン品種を作出することが可能であることを実証し、これにより本発明を完成するに至った。flo2変異の形質を保持する植物体あるいは該植物体を品種育成の母本または父本とすることにより作出された新たな品種は、低アレルゲン食品などへの応用が期待される。
【0019】
本発明は、より詳しくは、
(1) flo2変異の形質が導入された低アレルゲン植物、
(2) flo2変異体との交配により作出された、(1)に記載の低アレルゲン植物、
(3) 植物がイネである、(1)または(2)に記載の低アレルゲン植物、
(4) flo2変異体であるイネEM36系統またはイネEM37系統との交配により作出された、(3)に記載の低アレルゲン植物、
(5) 16kDaアレルゲンタンパク質の発現が減少している、(3)または(4)に記載の低アレルゲン植物、
(6) (1)から(5)のいずれかに記載の低アレルゲン植物の繁殖材料、
(7) flo2変異の形質を植物に導入することを特徴とする、低アレルゲン植物の作出方法、
(8) flo2変異の形質の植物への導入がflo2変異体との交配により行なわれる、(7)に記載の方法、
(9) 植物がイネである、(7)または(8)に記載の方法、
(10) flo2変異の形質のイネへの導入が、flo2変異体であるイネEM36系統またはイネEM37系統との交配により行なわれる、(9)に記載の方法、および
(11) flo2変異の形質のイネへの導入により16kDaアレルゲンタンパク質の発現が減少する、(9)または(10)に記載の方法、
を提供するものである。
【0020】
【発明の実施の形態】
本発明は、flo2変異の形質が導入された低アレルゲン植物を提供する。
【0021】
本発明において「flo2変異」とは、イネ未熟種子におけるアレルゲンタンパク質遺伝子の発現量を調節する因子である第4染色体のFloury 2遺伝子座における変異、およびイネ以外の植物の対応する変異を意味する。flo2変異を保持するイネとしては、EM36系統やEM37系統などがあげられる。flo2変異の形質の導入を行う植物の種類としては、特に制限はない。flo2変異が存在する植物であって、その変異の形質の導入により低アレルゲン化を図りたい所望の植物を本発明に適用することが可能である。好ましくはイネ科植物であり、最も好ましくはイネである。
【0022】
本発明において「flo2変異の形質が導入された」とは、Floury 2遺伝子が機能しないあるいは機能が低下している状態に植物が改変されたことを意味する。
【0023】
flo2変異の形質の植物への導入は、例えば、flo2変異体との交配により行うことができる。交配に用いるための好ましいイネ系統としては、例えば、flo2変異体であるイネEM36系統やイネEM37系統を例示することができる。交配により付与されたflo2変異の形質を支配する遺伝子(群)はメンデルの法則に示されるように後代にいおいて分離する。そこで世代を更新しつつ、対象としている品種にflo2変異の形質を支配する遺伝子(群)がホモの状態で加わり、分離することがない系統を選抜により作り上げる。flo2変異の形質が他の不良な形質と分離しない場合には、両形質を支配する遺伝子(群)が同一の染色体上に存在している(連鎖)と考えられる。この場合には、分裂の際に起こる染色体の組換えにより、flo2変異の形質を支配する遺伝子(群)だけが、母親の相同な染色体上に移動した後代を選抜する。両親として用いる品種の間で遺伝子(群)に差があるほど、交雑後の後代で分離してくる遺伝子(群)の組み合わせは多くなり、扱うべき後代の個体数も増加する。それゆえ、交雑に用いる両品種は同じ形質、及びそれを支配する遺伝子(群)も持ち合わせており、flo2変異の形質及びその形質を支配する遺伝子(群)においてのみ異なるものを選ぶことが好適である。
【0024】
交雑によって得た個体の後代で、Floury 2遺伝子を付与された作物や品種を効率よく選抜するために、いくつかの方法が考えられる。関与する遺伝子が1〜2個と少なく、形質の検定が簡単なときは、戻し交雑法を適用する。この方法は付与したい形質を持つ品種を父親として得たF1に母親とした品種を繰り返し交配しつつ世代を進め、その間に目的とする形質について選抜を続け、遺伝的背景がほぼ母親と同じになったときに自殖を行い、形質を支配する遺伝子座がホモ化したものを選抜するという操作からなる。目的とする形質が比較的少数の遺伝子によって支配されているときは系統育種法を用いる。これは支配によって得た雑種(F1)の後代において、様々に分離してくる遺伝子型の中から個体を選抜し、それを系統栽培することを繰り返しつつ、系統間の比較を行い、優良な遺伝子型を選抜し固定する方法である。
【0025】
選抜に要する年限を短縮しようとする目的で葯培養育種法が行われることがある。F1個体上の葯に含まれる花粉は、両親の染色体を任意に組み合わせた単相世代である。この花粉を葯培養法により個体に分化させ、半数体の植物体を得ることが出来る。この個体の染色体を倍加すれば直ちに、純系が得られるので育種年限は短縮される。
【0026】
人工的な方法としては、遺伝子組換え、細胞融合による雑種の育成等がある(参照「新しい植物育種技術」中島哲夫 監修、養賢堂)。
【0027】
Floury 2遺伝子は、当業者に公知の方法、例えば、精密な遺伝子地図を作製して染色体歩行を行う手法や、タギングによりflo2変異体を生じさせ、flo2遺伝子を標識する手法などにより同定すること可能である。Floury 2遺伝子が同定された場合には、Floury 2遺伝子の発現を抑制するためのDNAを適当なベクターに挿入して、これを植物の細胞に導入し、これにより得られた形質転換植物細胞を再生させることにより、植物にflo2変異の形質を導入することができる。
【0028】
ここで「Floury 2遺伝子の発現の抑制」には、遺伝子の転写の抑制およびタンパク質への翻訳の抑制が含まれる。また、遺伝子の発現の完全な停止のみならず発現の減少も含まれる。
【0029】
本発明において、植物の内在性遺伝子の発現の抑制は、当業者においては、例えばアンチセンス技術を利用する方法によって行うことができる。植物細胞におけるアンチセンス効果は、エッカーらが一時的遺伝子発現法を用いて、電気穿孔法で導入したアンチセンスRNAが植物においてアンチセンス効果を発揮することで初めて実証した(Ecker, J. R. and Davis, R. W. Proc.Natl.Acad.USA83: 5372, 1986)。その後、タバコやペチュニアにおいても、アンチセンスRNAの発現によって標的遺伝子の発現を低下させる例が報告されており(Krol, A. R. et. al., Nature 333: 866, 1988)、現在では植物における遺伝子発現を抑制させる手段として確立している。アンチセンス核酸が標的遺伝子の発現を抑制する作用としては、以下のような複数の要因が存在する。すなわち、三重鎖形成による転写開始阻害、RNAポリメラーゼによって局部的に開状ループ構造がつくられた部位とのハイブリッド形成による転写抑制、合成の進みつつあるRNAとのハイブリッド形成による転写阻害、イントロンとエキソンとの接合点でのハイブリッド形成によるスプライシング抑制、スプライソソーム形成部位とのハイブリッド形成によるスプライシング抑制、mRNAとのハイブリッド形成による核から細胞質への移行抑制、キャッピング部位やポリ(A)付加部位とのハイブリッド形成によるスプライシング抑制、翻訳開始因子結合部位とのハイブリッド形成による翻訳開始抑制、開始コドン近傍のリボソーム結合部位とのハイブリッド形成による翻訳抑制、mRNAの翻訳領域やポリソーム結合部位とのハイブリッド形成によるペプチド鎖の伸長阻止、および核酸とタンパク質との相互作用部位とのハイブリッド形成による遺伝子発現抑制等である。これらは、転写、スプライシング、または翻訳の過程を阻害して、標的遺伝子の発現を抑制する(平島および井上「新生化学実験講座2核酸IV 遺伝子の複製と発現」, 日本生化学会編, 東京化学同人, pp.319-347, 1993)。
【0030】
本発明で用いられるアンチセンス核酸は、上記のいずれの作用で標的遺伝子の発現を抑制してもよい。一つの態様としては、mRNAの5'端近傍の非翻訳領域に相補的なアンチセンス核酸を設計すれば、遺伝子の翻訳阻害に効果的であろう。しかし、コード領域もしくは3'側の非翻訳領域に相補的な核酸も使用し得る。このように、遺伝子の翻訳領域だけでなく非翻訳領域の配列のアンチセンス核酸を含むDNAも、本発明で利用されるアンチセンスDNAに含まれる。使用されるアンチセンスDNAは、適当なプロモーターの下流に連結され、好ましくは3'側に転写終結シグナルを含む配列が連結される。
【0031】
本発明のアンチセンス核酸は、例えば、ホスホロチオネート法(Stein, C. A.et. al., Nucleic. Acids. Res. 16: 3209-3221, 1988)等により調製することが可能である。調製された核酸は、公知の方法で、所望の植物へ形質転換できる。アンチセンス核酸の配列は、形質転換する植物が持つ内在性遺伝子またはその一部と相補的な配列であることが好ましいが、遺伝子の発現を有効に阻害できる限り、完全に相補的でなくてもよい。アンチセンス核酸は、標的とする遺伝子の転写産物に対して好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の相補性を有する。アンチセンス核酸を用いて、効果的に標的遺伝子の発現を阻害するには、アンチセンス核酸の長さは、少なくとも15塩基以上であり、好ましくは100塩基以上であり、さらに好ましくは500塩基以上である。通常、用いられるアンチセンス核酸の長さは5kbよりも短く、好ましくは2.5kbよりも短い。
【0032】
内在性遺伝子の発現の抑制は、リボザイムを利用して行うことも可能である。リボザイムとは触媒活性を有するRNA分子のことをいう。リボザイムには種々の活性を有するものがあるが、中でもRNAを切断する酵素としてのリボザイムの研究により、RNAの部位特異的な切断を目的とするリボザイムの作製が可能となった。
【0033】
一般にリボザイムには、グループIイントロン型や、RNasePに含まれるM1RNAのように400ヌクレオチド以上の大きさのものもあるが、ハンマーヘッド型やヘアピン型と呼ばれる40ヌクレオチド程度の活性ドメインを有するものもある(小泉誠および大塚栄子, タンパク質核酸酵素, 35: 2191, 1990)。例えばハンマーヘッド型リボザイムの自己切断ドメインは、G13U14C15のC15の3'側を切断するが、活性にはU14が9位のAと塩基対を形成することが重要とされ、15位の塩基はCの他にAまたはUでも切断されることが示されている(Koizumi, M. et. al., FEBS Lett. 228: 225, 1988)。リボザイムの基質結合部を標的部位近傍のRNA 配列と相補的になるように設計すれば、標的RNA中のUC、UUまたはUAという配列を認識する制限酵素的なRNA切断リボザイムを作出することが可能である(Koizumi, M.et. al., FEBS Lett. 239: 285, 1988、小泉誠および大塚栄子, タンパク質核酸酵素, 35: 2191, 1990、Koizumi, M. et. al., Nucleic. Acids.Res. 17: 7059, 1989)。
【0034】
また、ヘアピン型リボザイムも、本発明の目的のために有用である。ヘアピン型リボザイムは、例えばタバコリングスポットウイルスのサテライトRNAのマイナス鎖に見出される(Buzayan, J. M. Nature 323: 349, 1986)。このリボザイムも、標的特異的なRNA切断を起こすように設計できることが示されている(Kikuchi, Y and Sasaki, N. Nucleic Acids Res. 19: 6751, 1992、菊池洋, 化学と生物,30: 112, 1992)。
【0035】
標的を切断できるよう設計されたリボザイムは、例えば、植物の細胞中で転写されるようにカリフラワーモザイクウイルスの35Sプロモーター等のプロモーターおよび転写終結配列に連結される。しかし、その際、転写されたRNAの5'末端や3'末端に余分な配列が付加されていると、リボザイムの活性が失われてしまうことがある。このようなとき、転写されたリボザイムを含むRNAからリボザイム部分だけを正確に切り出すために、リボザイム部分の5'側や3'側に、トリミングを行うためのシスに働く別のトリミングリボザイムを配置させることも可能である(Taira, K. et. al., Protein Eng. 3: 733, 1990、Dzianott, A. M. and Bujarski, J. J. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86:4823, 1989、Grosshans, C. A. and Cech, R. T. Nucleic. Acids. Res. 19: 3875, 1991、Taira, K. et. al., Nucleic. Acids. Res. 19: 5125,1991)。また、このような構成単位をタンデムに並べ、標的遺伝子内の複数の部位を切断できるようにして、より効果を高めることもできる(Yuyama, N. et. al., Biochem. Biophys. Res. Commun. 186: 1271, 1992)。このようなリボザイムを用いて本発明で標的となる遺伝子の転写産物を特異的に切断し、該遺伝子の発現を抑制することができる。
【0036】
内在性遺伝子の発現の抑制は、さらに、標的遺伝子配列と同一もしくは類似した配列を有する核酸の形質転換によってもたらされる共抑制によっても達成されうる。「共抑制」とは、植物に標的内在性遺伝子と同一若しくは類似した配列を有する遺伝子を形質転換により導入すると、導入する外来遺伝子および標的内在性遺伝子の両方の発現が抑制される現象のことをいう。共抑制の機構の詳細は明らかではないが、植物においてはしばしば観察される(Curr.Biol. 7: R793, 1997、Curr.Biol. 6: 810, 1996)。
【0037】
本発明の上記核酸を用いて、flo2遺伝子が共抑制された植物体を得るためには、例えばFloury 2遺伝子若しくはこれと類似した配列を有するDNAを発現するベクターDNAを目的の植物へ形質転換し、得られた植物体からflo2変異体の形質を有する植物、即ち、低アレルゲン化された植物を選択すればよい。共抑制に用いる遺伝子は、標的遺伝子と完全に同一である必要はないが、少なくとも70%以上、好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上(例えば95%以上)の配列の同一性を有する。
【0038】
さらに、本発明における内在性遺伝子の発現の抑制は、標的遺伝子のドミナントネガティブの形質を有する遺伝子を植物へ形質転換することによっても達成することができる。ドミナントネガティブの形質を有する遺伝子とは、該遺伝子を発現させることによって、植物体が本来持つ内在性の野生型遺伝子の活性を消失もしくは低下させる機能を有する遺伝子をいう。
【0039】
Floury 2遺伝子の発現を抑制するための核酸の植物細胞への導入は、当業者においては、公知の方法、例えばアグロバクテリウム法、電気穿孔法(エレクトロポーレーション法)、パーティクルガン法により実施することができる。
【0040】
上記アグロバクテリウム法を用いる場合、例えばNagelらの方法(Microbiol. Lett. 67: 325, 1990)が用いられる。この方法によれば、組み換えベクターをアグロバクテリウム細菌中に形質転換して、次いで形質転換されたアグロバクテリウムを、リーフディスク法等の公知の方法により植物細胞に導入する。本発明の核酸がDNAである場合、上記ベクターは、例えば植物体に導入した後、該DNAが植物体中で発現するように、発現プロモーターを含む。一般に、該プロモーターの下流には本発明のDNAが位置し、さらに該DNAの下流にはターミネーターが位置する。この目的に用いられる組み換えベクターは、植物への導入方法、または植物の種類に応じて、当業者によって適宜選択される。上記プロモーターとして、例えばカリフラワーモザイクウイルス由来のCaMV35S、トウモロコシのユビキチンプロモーター(特開平2-79983号公報)等を挙げることができる。
【0041】
また、上記ターミネーターは、カリフラワーモザイクウイルス由来のターミネーター、あるいはノパリン合成酵素遺伝子由来のターミネーター等を例示することができるが、植物体中で機能するプロモーターやターミネーターであれば、これらに限定されない。
【0042】
上記核酸を導入する植物は、外植片であってもよく、これらの植物から培養細胞を調製し、得られた培養細胞に導入してもよい。上記核酸を導入する植物細胞としては、例えば葉、根、茎、花および種子中の胚盤等の植物細胞、カルス、懸濁培養細胞等が挙げられる。
【0043】
形質転換された植物細胞を効率的に選択するために、組み換えベクターは、適当な選抜マーカー遺伝子を含む、もしくは選抜マーカー遺伝子を含むプラスミドベクターと共に植物細胞へ導入するのが好ましい。この目的に使用する選抜マーカー遺伝子は、例えば抗生物質ハイグロマイシンに耐性であるハイグロマイシンホスホトランスフェラーゼ遺伝子、カナマイシンまたはゲンタマイシンに耐性であるネオマイシンホスホトランスフェラーゼ、および除草剤ホスフィノスリシンに耐性であるアセチルトランスフェラーゼ遺伝子等が挙げられる。
【0044】
組み換えベクターを導入した植物細胞は、導入された選抜マーカー遺伝子の種類に従って適当な選抜用薬剤を含む公知の選抜用培地に置床し培養する。これにより形質転換された植物培養細胞を得ることができる。
【0045】
Floury 2遺伝子の発現を抑制するための核酸を導入した形質転換細胞からの植物体の再生は、植物細胞の種類に応じて当業者に公知の方法で行うことが可能である(Toki et. al., Plant Physiol. 100: 1503-1507, 1995)。例えばイネにおいては、形質転換植物体を作出する手法については、ポリエチレングリコールによりプロトプラストへ遺伝子導入し、植物体(インド型イネ品種が適している)を再生させる方法(Datta, S. K. et. al., In Gene Transfer To Plants (Potrykus I and Spangenberg Eds.) pp66-74, 1995)、電気パルスによりプロトプラストへ遺伝子導入し、植物体(日本型イネ品種が適している)を再生させる方法(Toki et. al., Plant Physiol. 100:1503-1507, 1992)、パーティクルガン法により細胞へ遺伝子を直接導入し、植物体を再生させる方法(Christou et. al.,Bio/technology, 9: 957-962, 1991)およびアグロバクテリウムを介して遺伝子を導入し、植物体を再生させる方法(Hiei et. al., Plant J.6: 271-282, 1994)等、いくつかの技術が既に確立し、本願発明の技術分野において広く用いられている。本発明においては、これらの方法を好適に用いることができる。
【0046】
形質転換植物体中の導入された外来核酸の存在は、公知のPCR法やサザンハイブリダイゼーション法によって、または植物体中の核酸の塩基配列を解析することによって確認することができる。この場合、形質転換植物体からの核酸の抽出は、公知のJ.Sambrookらの方法(Molecular Cloning, 第2版, Cold SpringHarbor laboratory Press, 1989)に準じて実施することができる。
【0047】
一旦、染色体内に本発明の核酸が導入された形質転換植物体が得られれば、該植物体から有性生殖または無性生殖により子孫を得ることが可能である。また、該植物体やその子孫あるいはクローンから繁殖材料(例えば種子、果実、切穂、塊茎、塊根、株、カルス、プロトプラスト等)を得て、それらを基に該植物体を量産することも可能である。
【0048】
このような交配や遺伝子工学的手法により作出された低アレルゲン植物体は、その好ましい態様として、イネ16kDaアレルゲンタンパク質または他の植物における対応するタンパク質の発現が減少している。このような植物体もしくはその一部、あるいはこれを加工したものは、低アレルゲンの食品その他の製品として有用である。例えば、アレルギー患者の主食としてのコメ、健康食品としての低アレルゲン米、特定のアミノ酸摂取が制限された人のための食品、この米を加工したモチ、あられ、かきもち、ライスバーガーを例示できる。また、この米は、酒米としての利用も考えられる。その他の利用としては、例えば、粉に加工して製造されたうどん、そばなどの麺類、パン、ビスケット類等を例示することができる。
【0049】
【実施例】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明するが、これらは本発明を限定することを意図するものではない。
【0050】
[実施例1] 野生型イネおよびflo2変異体イネから調製されたRNAを用いたマイクロアレイ実験とこれによる変異体で特異的に発現量が変化した遺伝子の検出 flo2変異体であることがすでに同定されているイネ系統、EM37の未熟種子(開花後2週間のもの)5.0gより、定法に従い(F. M. Ausubel et al. (eds.) Current Protocols in Molecular Biology, section 4 "Preparation and analysis of RNA", John Wiley & Sons, Inc., 1987)、346μgのRNAを調製した。同様に4.9gの野生型イネ(品種:金南風(キンマゼ))の未熟種子(開花後2週間のもの)より320μgのRNAを調製した。EM37系統はキンマゼの種子にメチルニトロソウレアを処理することによって得られた突然変異体である(T. Kawasaki et al. Plant Physiol. 110, 89-96 (1996))。それぞれのRNAを40μgを用いて以下の方法でマイクロアレイによる発現解析をおこなった。
【0051】
cDNAマイクロアレイの作製に用いたcDNAクローンは、農業生物資源研究所とSTAFF研究所の共同プロジェクトRice Genome Research Programによって単離され、部分配列が決定されたイネcDNAクローン(Yamamoto and Sasaki Plant Mol. Biol. 35, 135-44 (1997))の中から選出された、8987個の独立cDNAクローンである。これらのインサート部分のPCR産物を精製した後、アレイスポッター(GenerationIII;Amersham-Pharmacia社)を用い、アミノシランでコーティングされたスライドガラス(Type 7;Amersham-Pharmacia社)上に反復スポットした。前記の各材料から抽出したtotal RNA(40μg)を含む40μlの反応溶液(組成は500nM Oligo-(dT)25mer primer、1X Super Script buffer、10mM DTT、50μM Cy5-dCTP、100μM dATP, dGTP, dTTP、50μM dCTP;試薬は、いずれもAmersham-Pharmacia社製)に、逆転写酵素400units(Super ScriptII;Amersham-Pharmacia社)を加えて、42℃暗所で2.5時間、逆転写反応を行うことにより、Cy5標識されたfirst strand cDNAを合成した。これらfirst strand cDNAをアルカリ処理した後、QIAquick PCR精製キット(Qiagen社)でfirst strand cDNAを精製した後、OligoA80(3μg)を加えて70℃暗所で45分反応させ、first strand cDNAのOligo-(dT) 25mer primer領域をマスクした。これにExpressHyb buffer(Clonetech社)を加えて、上記のイネcDNAマイクロアレイ1セット(ガラススライド2枚)に滴下し、カバーガラスで被覆して過湿状態の恒温槽内に静置し、60℃・暗黒条件下で4時間ハイブリダイゼーション反応を行った。反応終了後、カバーガラスを一次洗浄液(1X SSC、0.2% SDS;55℃)の中で除去し、新たな一次洗浄液で55℃・10分間暗黒条件下で洗浄後、二次洗浄液(0.1X SSC、0.2% SDS)で55℃・10分間暗黒条件下での洗浄を2回行った。更に、0.1X SSCで2回、milliQ水で1回リンスし、プレート遠心器(900rpm、4分間)で水滴を除去した後、フルオロイメージアナライザー(FLA-8000;フジフィルム社)を用いて蛍光シグナルの測定を行った。蛍光シグナルの定量化には、コンピュータソフトウエアArrayGauge(フジフィルム社)を用いた。
【0052】
マイクロアレイ解析の結果を表1に示す。これにより、野生型とEM37系統の間で4倍以上の顕著な発現量の差が認められた遺伝子はおよそ200であった。
【0053】
【表1】
【0054】
[実施例2] flo2変異体イネにおけるアレルゲンタンパク質遺伝子の発現量の解析
実施例1で述べたマイクロアレイ実験により、野生型イネ「金南風」とEM37系統の間で、発現量の差異が認められた約200種の遺伝子について、それぞれの遺伝子の発現量をノ−ザン分析あるいはRT-PCR(RNAを用い、逆転写酵素を使用してcDNAを得、これをPCRにより分析する手法:島本功、佐々木卓治監修、細胞工学別冊植物細胞工学シリーズ第7巻、新版植物のPCR実験プロトコール、秀潤社、1997年)により解析した。まず、野生型イネ「金南風」およびEM37系統より実施例1に記載の方法によりRNAを調製した。一方、発現量に差異が認められた約200の遺伝子のうち、45の遺伝子について塩基配列をもとに合成したプライマーを用いて、以下に述べる方法でRT-PCRによる解析を実施した。RT-PCRはたとえば東洋紡より市販されているReverTraDashなどが使用可能であった。
【0055】
野生型、EM37のそれぞれのイネから得られたRNA、1.0μgを用いて、これを標的RNAとし、逆転写酵素による反応をおこない、cDNAを得た。この反応生成物のうち0.1μgを用いて、PCRを行った。PCRのプライマーは実施例1で、野生型イネとEM37系統の間で顕著な発現量の差が認められた遺伝子、および対照としてアクチン遺伝子に対応するそれぞれのプライマーを用いた。PCRの反応条件は酵素に付随の仕様書に従った。
【0056】
その結果、マイクロアレイ解析によりEM37系統で野生型イネよりも顕著な発現量の低下が検出された遺伝子は、上記のRT-PCRによる解析でも実際に転写産物が減少していることが確認された。さらに、これらの遺伝子のうち、表2に示されるプライマーの組み合わせによって転写産物が特異的に増幅される16kDaアレルゲンタンパク質遺伝子の発現量が顕著に低下していることが明らかになった(図1)。
【0057】
【表2】
【0058】
発現量の減少は、同じRNAを用いたノ−ザン分析によっても確認された。ノ−ザン分析はCurrent Protocols in Molecular Biologyに記載の方法(F. M. Ausubel et al. (eds.) Current Protocols in Molecular Biology, section 4 "Preparation and analysis of RNA", John Wiley & Sons, Inc., 1987)に従って実施し、16kDaアレルゲンタンパク質遺伝子より転写された転写物を特異的に検出するために、16kDaアレルゲンタンパク質のcDNAをプローブとして用いた。このことからflo2変異体での16kDaアレルゲンタンパク質遺伝子の発現量の低下が明らかとなった。
【0059】
[実施例3] flo2変異体イネの穀粒中のアレルゲンタンパク質の検出
野生型イネ「金南風」およびEM37系統の種子、それぞれ5粒をとり、頴を取り除き、玄米とした。それぞれの玄米を、1粒ごとに乳鉢と乳棒を用いてすりつぶした。次に、粉砕した玄米にタンパク質抽出用緩衝液(1%トリトンX-100, 10%グリセロール, 100mM MES, 2mM メルカプトエタノール, 1mM PMSF)300μlを加えて懸濁し、これをタンパク質粗抽出液とした。このタンパク質粗抽出液のうち15μlをとり、15%SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動によりタンパク質の分離をおこなった。SDS-アクリルアミドゲル電気泳動のための試料の調製およびSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動法はCurrent Protocols in Molecular Biologyに記載の方法(F. M. Ausubel et al. (eds.) Current Protocols in Molecular Biology, section 10 "Analysis of Proteins", John Wiley & Sons, Inc., 1987)に従って実施した。
【0060】
電気泳動後、アクリルアミドゲルより電気的方法により玄米中のタンパク質をナイロンメンブラン(アマシャム・ファルマシア・バイオテク社のイモビロンPなどが使用可能である)に転写し、これを抗マウス・イネ16kDaアレルゲンタンパク質モノクローナル抗体と反応させた。反応後、定法に従ってウエスタン分析法により抗原抗体反応が生じたタンパク質に対応するバンドを検出した。ウエスタン分析にはVector社のベクタステインABCキットなどが使用可能であった。
【0061】
ウエスタン分析の結果、EM37に含まれる16kDaアレルゲンタンパク質の量は、野生型に比べておよそ50%以上の減少が認められた(図2)。このことから、EM37が低アレルゲン米であることが証明された。
【0062】
[実施例4] flo2変異体を利用した雑種イネの作成
EM37を母本とし、野生型イネ(品種:Kasalath(カサラス))を父本とした交配をおこなった。交配の結果、8粒のF1種子(雑種1代目)が得られた。翌年、これらのF1種子のうち2粒を栽培し、それぞれ890粒、625粒のF2種子を得た。flo2変異は種子の胚乳に見かけ上の変化が生じるが、これらのF2種子の一部にflo2形質が遺伝していた。前者のF2集団のうち、flo2形質を示したのは199個体、野生型の形質を示したものは681個体であった。後者のF2集団では、flo2形質を示したのは162個体、野生型の形質を示したものは463個体であった。これらの個体数は全体のおよそ4分の1であり、flo2変異が劣性変異としてメンデルの法則に従った遺伝することが確認された。
【0063】
これらのF2種子の中から、flo2形質を示した玄米を任意に10粒を選択し、これらを個別に破砕し、含まれるアレルゲンタンパク質の量を、実施例3に示したウエスタン分析法により検定した。その結果、これらのflo2形質を示した個体に含まれる16kDaアレルゲンタンパク質の量はすべて50%以下に減少していることが明らかになった。
【0064】
【発明の効果】
アレルギー患者にとって、良食味で安価な低アレルゲン米の開発が切実な要望であるが、本発明によって得られる低アレルゲン植物は、食物アレルギー患者の主食として食用に供することができる。また、これを利用した加工食品は、アレルゲン低減食品として、食物アレルギー患者のみならず、多くの人の食品に利用できる。さらに、低アレルゲン植物の育成のための母本または父本としての利用価値が高い。
【0065】
【配列表】
【図面の簡単な説明】
【図1】 16kDaアレルゲン・タンパク質遺伝子およびアクチン遺伝子の転写産物に関するRT-PCRの結果を示す写真である。図中、それぞれKおよびEは「金南風」(野生型)、EM37系統(flo2変異体)のそれぞれから調製したRNAについてRT-PCRを行った結果を示す。NKおよびNEは、対照として「金南風」、EM37系統それぞれのRNAについて混入するDNAの検出を行ったもの。
【図2】 16kDaアレルゲン・タンパク質に関するウエスタン分析の結果を示す写真である。図中、上段の2つはSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動の結果をCoomasie Blue色素により染色したもの。下段はそれらに対するウエスタン分析の結果を示す。ウエスタン分析でもちいた抗体は16kDaおよび14kDaのタンパク質を検出する。このうち16kDaタンパク質が主たるアレルゲンタンパク質である。
Claims (7)
- アレルゲン低減食品の製造における、イネEM36系統もしくはイネEM37系統に由来するflo2変異を有するイネの使用。
- アレルゲン低減食品が16kDaアレルゲンタンパク質の低減したものである、請求項1記載の使用。
- イネEM36系統もしくはイネEM37系統に由来するflo2変異を有するイネを原材料に含むことを特徴とするアレルゲン低減食品(ただし、イネ EM36 系統もしくはイネ EM37 系統から得られるコメを除く)。
- アレルゲン低減食品が16kDaアレルゲンタンパク質の低減したものである、請求項3記載の食品。
- イネEM36系統もしくはイネEM37系統に由来するflo2変異の形質を植物に導入することを特徴とする、低アレルゲンイネの作出方法。
- flo2変異の形質のイネへの導入がflo2変異体であるイネEM36系統またはイネEM37系統との交配により行なわれる、請求項5に記載の方法。
- flo2変異の形質のイネへの導入により16kDaアレルゲンタンパク質の発現が減少する、請求項5または6に記載の方法。
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