JP3845767B2 - ファルネシル酢酸を有効成分とする角結膜疾患治療剤 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ファルネシル酢酸またはその塩を有効成分とする角結膜疾患治療剤に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
生体には粘膜を保護するための防御機構が備わっており、粘膜の上皮細胞は常に外分泌腺から分泌されるムチンを含んだ粘稠な外分泌液で覆われている。眼においては涙液がその役割を果たしている。涙液層は油層、水層およびムチン層の3層から成り、角結膜上皮細胞はムチン層と接している。ムチン層を構成するムチンは結膜杯細胞および角結膜上皮細胞より分泌される糖タンパクで、涙液の乗りを良くして角膜や結膜の湿潤性を保つ働きがある。
【0003】
ドライアイは眼乾燥症状を呈し、涙液の異常により角膜上皮障害をきたす疾患である。ドライアイ患者の症状としては、眼乾燥症状、角膜充血、掻痒感、異物感等があり、重度になると視力障害を起こすこともある。ドライアイの発症原因として、涙液分泌の減少、涙液層の不安定化などが考えられているが未だ解明されていない。
【0004】
このようなことから、涙液中へのムチン分泌の促進作用を有する物質が存在すれば、ドライアイを始めとし、角結膜上皮に障害が認められる角膜炎、結膜炎、角膜上皮剥離および角膜潰瘍等の角結膜疾患の治療に有用であることが期待される。
【0005】
ところで、特開平9−194363号には、ファルネシル酢酸とゲラニオールとのエステルであるゲファルナートが眼組織におけるムチンの産生・分泌を促進する作用を持ち、ドライアイをはじめとする角結膜疾患に有効であることが開示されている。
【0006】
しかしながら、ゲファルナートのフリーのカルボン酸体であるファルネシル酢酸の眼科分野の応用についての報告はなく、角結膜疾患に対してどの様な作用を有するかは全く知られていない。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、ファルネシル酢酸の角結膜疾患に対する薬理効果を見いだすことは非常に興味ある課題であった。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者等はファルネシル酢酸の新たな薬理作用を見いだすために、ムチンの産生・分泌の促進作用について検討したところ、ファルネシル酢酸は顕著なムチンの産生・分泌の促進作用を有することを見いだした。また、ファルネシル酢酸はゲファルナートよりも遙かに低濃度でもゲファルナートと同等の効果を有することが判明した。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明は下記式で示されるファルネシル酢酸またはその塩を有効成分とするドライアイ、角膜炎、結膜炎、角膜上皮剥離、角膜潰瘍等の角結膜疾患治療剤に関するものであるが、それらの作用効果は後述の薬理試験の項で詳細に説明する。
【0010】
【化1】
Figure 0003845767
【0011】
本化合物における塩とは医薬として許容される塩であれば特に制限はなく、ナトリウム、カリウム、カルシウム等のアルカリ金属またはアルカリ土類金属との塩、アンモニウム塩、ジエチルアミン、トリエタノールアミン等の有機アミンとの塩などが挙げられる。
【0012】
ファルネシル酢酸またはその塩の投与剤型としては、点眼液や眼軟膏等の点眼剤、注射剤等が挙げられ、汎用されている技術を用いてファルネシル酢酸またはその塩を製剤化することができる。例えば、点眼液は、塩化ナトリウム、濃グリセリン等の等張化剤、リン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム等の緩衝化剤、ポリソルベート80、ポリエキシエチレン硬化ヒマシ油60、マクロゴール4000等の界面活性剤、クエン酸ナトリウム、エデト酸ナトリウム等の安定化剤、塩化ベンザルコニウム、パラベン等の防腐剤、水酸化ナトリウム、塩酸等のpH調整剤等を必要に応じて用い調製することができる。pHは中性付近に調整することが望ましく、浸透圧比は1.0付近に調整することが望ましい。
【0013】
投与量は症状、年齢、剤型等によって適宜選択できるが、点眼液であれば0.0001〜3%(W/V)、好ましくは0.001〜1%(W/V)のものを1日1回〜数回点眼すれば良い。
【0014】
【実施例】
[薬理試験]涙腺・瞬膜・ハーダー腺摘出ウサギドライアイモデルを用いてファルネシル酢酸のドライアイに対する効果を調べた。
【0015】
(ウサギドライアイモデルの作製)
涙腺・瞬膜・ハーダー腺摘出ウサギドライアイモデルを、Girbardらの方法(Invest.Ophthalmol.Vis.Sci 28:225-228 (1987))を参照して作製した。即ち、ウサギに5%塩酸ケタミン注射液と2%塩酸キシラジン注射液の7:1混合物を1mL/Kg注射して全身麻酔を施した。0.4%塩酸オキシブプロカイン点眼液を点眼し、眼窩骨に沿って下眼瞼皮膚を約5mm切開した後、結膜嚢の外側から涙腺を摘出した。切開部の皮膚を4-0縫合糸で縫合し、接合部にオフロキサシン眼軟膏を塗布した。次に、ハーダー腺を瞬膜と共に引き出すようにして摘出した。最後にこの摘出部にオフロキサシン眼軟膏を塗布した。
【0016】
(点眼液の調製)
ファルネシル酢酸点眼液は、ファルネシル酢酸を下記に示す基剤で希釈して0.75、7.5および75μMになるように調製した。ゲファルナート点眼液はゲファルナートを同じ基剤で希釈して7.5mMになるように調製した。得られた点眼液はいずれもpH7.4、浸透圧1.0のものであった。
【0017】
基剤 (100mL中)
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油40 0.3g
NaHPO・2HO 1.0g
エデト酸ナトリウム 0.05g
NaCl 0.4g
滅菌精製水 適量
【0018】
(投与)
ファルネシル酢酸点眼液を涙腺・瞬膜・ハーダー腺摘出ウサギに1日6回50μLずつ、2週間点眼した(1群4匹8眼)。対照群として基剤を、比較群としてゲファルナートを同様に点眼した。
【0019】
(評価方法)
ドライアイに対する効果はローズベンガル取り込み量を測定して評価した。ウサギに5%塩酸ケタミン注射液と2%塩酸キシラジン注射液の7:1混合物を1mL/Kg注射して全身麻酔した後、目瞼を開瞼器で開瞼状態にし、結膜嚢を1%ローズベンガル含有生理食塩水で満たした。10秒間保持した後、生理食塩水で洗眼した。5%ペントバルビタール注射液を注射して安楽死させ、眼球を摘出した。内径8mmのトレパンで角膜片を作製し、1mLの2M水酸化ナトリウム中に入れ、遮光下で一日放置して角膜組織を完全に溶解させた。得られた組織溶解液の波長560nmにおける吸光度を分光光度計で測定した。
【0020】
ローズベンガルは、角結膜のムチン層の無い部分を染色する。これは、ムチン層があるとローズベンガルの角結膜組織への浸透が妨げられるが、ムチン層が無ければ容易に角結膜組織に到達できるためである。従って、ドライアイによりムチン層が減少すると角膜組織のローズベンガルの取り込み量が増え、組織溶解液の吸光度が大きくなる。
【0021】
(結果)
上記吸光度の測定結果を表1に示す。ファルネシル酢酸投与群では、基剤投与群よりもローズベンガル取り込み量が明らかに少なく、また、ほぼ濃度依存的にローズベンガル取り込み量を減少させた。さらに、ファルネシル酢酸(75μM投与群)は、ゲファルナート(7.5mM投与群)の約1/100の濃度でもゲファルナートと同等の効果を示すことが判明した。以上のことからファルネシル酢酸がムチンの産生・分泌を促進するので、ドライアイ等の角結膜疾患に有用である。
【0022】
【表1】
Figure 0003845767
【0023】
【発明の効果】
上記の薬理試験の結果から明らかなように、ファルネシル酢酸はムチンの産生・分泌を促進させる効果を有し、ドライアイ、角膜炎、結膜炎、角膜上皮剥離、角膜潰瘍等の角結膜疾患治療剤として有用である。

Claims (5)

  1. ファルネシル酢酸またはその塩を有効成分とする角結膜疾患治療剤。
  2. 角結膜疾患がドライアイ、角膜炎、結膜炎、角膜上皮剥離または角膜潰瘍である請求項1記載の角結膜疾患治療剤。
  3. 剤型が点眼剤である請求項1または2記載の角結膜疾患治療剤。
  4. ファルネシル酢酸またはその塩の濃度が0.001〜1%(W/V)である請求項3記載の角結膜疾患治療剤。
  5. ファルネシル酢酸またはその塩を有効成分とするムチン産生促進剤。
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