JP3845209B2 - レンズ研磨方法とその装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、レンズを高精度に球面加工する研磨方法とその装置に係わり、詳しくは電気泳動現象を利用した研磨方法とその装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、微細砥粒を分散させた研磨液中に、レンズを浸漬した状態で研磨加工を行う研磨方法および研磨装置として、実開平6−5855号公報所載の技術(従来技術1)が開示されている。図12を用いて、この技術を説明する。図12において、図示しない研磨装置本体の支持台には、容器108が固着されている。容器108の底面中心部には、孔108aが穿設され、この孔108aに回転下軸101が回転自在に装着されている。この回転下軸101の上端には、レンズ103を貼付して保持する研磨下皿102が取着されている。
【0003】
また、回転下軸101は、回転駆動されるように、図示しない駆動源に接続されている。一方、研磨下皿102に保持されたレンズ103の上部には、レンズ103の加工面と密接するように成形された研磨上皿105が配設されている。この研磨上皿105には、加工面側にピッチ層106があり、研磨上皿105の外周側には、研磨上皿105の自重を軽減するように浮力を発生させるフロート111が装着されている。研磨上皿105の上部には、凹部105aが形成され、この凹部105aに揺動上軸104が係合されている。揺動上軸104は、揺動できるように、図示しない駆動源に接続されている。また、容器108内には、レンズ103および研磨上皿105が浸漬されるレベルまで砥粒を分散した研磨液107が貯留されている。
【0004】
上記構成の研磨装置を用いたレンズ103の研磨加工では、図示を省略した駆動源により回転下軸101を回転させるとともに、揺動上軸104を揺動運動させる。また、揺動上軸104は、回転下軸101の方向に加圧される。これにより、研磨上皿105がレンズ103の表面に沿って揺動運動するとともに、研磨下皿102の回転および揺動上軸104からの加圧も加わり、研磨加工が進行する。
【0005】
一方、電荷を帯びた微細砥粒を拡散させてなる懸濁液に通電することにより、懸濁液中の微細砥粒を電気泳動現象により電極部材に凝着させて研磨加工を行う研磨方法については、1989年度精密工学会春季大会学術講演論文集(p18〜19)に開示された技術(従来技術2)がある。この従来技術2では、図13において、回転駆動されるように回転軸114が図示しない駆動源に接続されている。この回転軸114の下端には、黄銅製で円盤状のプラス電極117が接続されており、容器120に貯留された懸濁液119中に浸漬されている。一方、マイナス電極115も容器120の内壁に取着され、懸濁液119中に浸漬されている。プラス電極117は回転軸114を介して電源113のプラス端子に、マイナス電極115は電源113のマイナス端子にそれぞれ接続されている。また、ソーダガラスからなる加工物118が、容器120内に設置された取付け具121に取着され、懸濁液119中に浸漬されている。
【0006】
上記構成の研磨装置を用いた加工物118の研磨加工では、プラス電極117とマイナス電極115との間に電源113から直流電圧を印加することにより、電気泳動現象が起こり、懸濁液119中の電荷を帯びた微細砥粒であるコロイダルシリカ116が円盤状のプラス電極117に引き寄せられていく。そして、プラス電極117を取り巻くように、コロイダルシリカ116が付着し、ある程度蓄積したシリカ層と加工物118が接触した後、ソーダガラスからなる加工物118表面に対して機械的な除去作用をなし、研磨加工を行うことができる。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかるに、上記従来技術には、つぎのような問題点があった。従来技術1では、加圧、研磨上皿の重量および浮力のバランスを取らねばならず、加工条件が出しにくく、なおかつ、回転下軸の回転数および揺動上軸の揺動回数を一定以上あげると、微細砥粒を含んだ研磨液が飛散するという現象が発生する。すなわち、回転下軸の回転数、揺動上軸の揺動回数を通常の研磨加工に比べて低く設定せざるをえず、その結果、加工品質は優れているが、加工速度は遅いという問題点があった。また、形状精度の出し方としては、ピッチ層の形状に大きく左右されるため、ピッチ層の形状が適正でない場合には、レンズ形状の測定、ピッチ層の形状修正、および試し研磨加工というルーチン作業を余儀なくされる。さらに、加工条件によっても形状精度に狂いが生じるため、加圧、揺動回数、回転数という加工条件にも、常に注意しなければならない。よって、作業自体が煩わしいという問題点も挙げられる。
【0008】
一方、従来技術2では、円盤状のプラス電極をレンズ形状に見合った形状にすることにより、研磨加工は可能であるが、微細砥粒がある程度凝着された砥粒層となってから研磨加工を行わなければならない。これは、プラス電極(材質は黄銅)が直接レンズ面に接触した場合、キズ、バリ等の欠陥が生じるからである。すなわち、プラス電極とレンズとの間に、常に微細砥粒が介在する状態を維持しなければ、レンズ面に欠陥を生じさせてしまう。また、プラス電極とレンズ面との間は、砥粒層が介在するだけの隙間を維持する手段を設けねばならないが、この場合も、一定の隙間をあけて回転軸をレンズ面と平行に移動させなければならず、機械的に制御が困難になる。加えて、レンズ面に対する加圧が、微細砥粒の蓄積に伴う圧力増加しか望めず、加工能率の低下は避けられない。
【0009】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みてなされたもので、請求項1に係る発明の課題は、レンズを研磨液中にて研磨加工するにあたって、高能率で、かつ高精度のレンズを得るレンズ研磨方法を提供することである。請求項2に係る発明の課題は、上記レンズ研磨方法を実施するためのレンズ研磨装置を提供することである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために、請求項1に係る発明は、帯電した微細砥粒を分散した研磨液に通電して、電気泳動現象により、前記微細砥粒と逆の極性を有する研磨工具に前記微細砥粒を付着させ、前記研磨工具にてレンズ表面を研磨するレンズ研磨方法において、前記研磨工具は、輪帯状に形成された導電性部材と非導電性部材とが交互に配置され、各導電性部材に導電性弾性体を貼付するとともに、各導電性部材に通電して前記導電性弾性体の表面に前記微細砥粒を付着させて研磨する。
【0013】
請求項2に係る発明は、帯電した微細砥粒を分散した研磨液中にレンズを浸漬した状態で研磨するレンズ研磨装置において、前記研磨液中に浸漬したレンズを保持するレンズ保持具と、該レンズ保持具を回転させる主軸と、前記研磨液を貯留する容器と、一方の電極として機能し、輪帯状に形成された導電性部材と非導電性部材とが交互に配置され、各導電性部材に導電性弾性体を貼付するとともに、各導電性部材に通電して前記導電性弾性体の表面に前記微細砥粒を電気的に付着するようにした研磨工具と、前記研磨液中に浸漬する他方の電極と、前記研磨工具に接続する電極ブラシと、それぞれの電極間に電荷を与える電源とを備えた。
【0017】
請求項1に係る発明のレンズ研磨方法では、研磨工具は、輪帯状に形成された導電性部材と非導電性部材とが交互に配置され、各導電性部材に導電性弾性体を貼付するとともに、各導電性部材に通電して導電性弾性体の表面に微細砥粒を付着させて研磨することにより、輪帯状に分割された導電性部材にそれぞれ異なる電圧をかけて、研磨工具中心部や外周部に付着する微細砥粒の砥粒層の厚さをそれぞれ制御しつつ研磨加工する。
【0018】
請求項5、6または7に係る発明のレンズ研磨装置では、前記研磨液中に浸漬したレンズを保持するレンズ保持具と、該レンズ保持具を回転させる主軸と、前記研磨液を貯留する容器と、一方の電極として機能し、レンズ加工面側の表面に弾性体を固着して、この弾性体表面またはレンズ加工面側の表面に、前記微細砥粒を電気的に付着するようにした研磨工具と、前記研磨液中に浸漬する他方の電極と、前記研磨工具に接続する電極ブラシと、それぞれの電極間に電荷を与える電源とを備えたことにより、研磨工具に付着する微細砥粒の数量を増加させ、研磨砥粒の砥粒層の厚さを制御する。
【0019】
請求項6に係る発明のレンズ研磨装置では、上記作用に加え、研磨工具が、輪帯状に形成された導電性部材と非導電性部材とが交互に配置され、各導電性部材に導電性弾性体を貼付するとともに、各導電性部材に通電する印加電圧をそれぞれ異なるように制御可能に構成したことにより、研磨工具中心部や外周部に付着する微細砥粒の砥粒層の厚さをそれぞれ容易に制御する。
【0020】
請求項7に係る発明のレンズ研磨装置では、上記作用に加え、研磨工具に対向して配設されたレンズ保持具を、前記微細砥粒の極性と同一の極性の前記他方の電極としたことにより、電極と研磨工具との間の間隔を短縮させ、かつ一定に維持する。
【0021】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の形態において説明するレンズ研磨方法およびその装置は、研磨液中の微細砥粒の電気泳動現象を利用し、電極に接着された弾性体の表面上または電極表面上に微細砥粒を均一に凝着し、保持した状態で研磨加工がなされるので、表面粗さが小さく、高精度のレンズの研磨加工に最適である。また、電気的条件を変化させることにより、レンズ形状の制御や加工速度の制御も可能となり、従来の研磨工具の形状修正や加工条件の変更によるレンズの形状補正を行わなくとも、容易にレンズ形状を修正することができる。
【0022】
また、本発明の実施の形態における説明は、凸球面のレンズについてのみ説明するが、凹球面のレンズについても、同様の構成にて、研磨加工を行うことができ、その作用効果においても差が生じることはない。さらに、本説明においては、研磨液中にて研磨加工を行うように記載しているが、両電極間に安定的に研磨液を供給できれば、従来の研磨液をかけ流しにて研磨加工を行う方式を用いても、その作用効果に差が生じることはない。以下、具体的な実施の形態について説明する。
【0023】
(実施の形態1)
図1〜図3は実施の形態1を示し、図1はレンズ研磨装置の縦断面図、図2は研磨工具の下面の部分拡大図、図3は研磨工具の下面の他の例の部分拡大図である。
【0024】
図1において、容器9の内部には、帯電した微細砥粒2が分散された研磨液13が貯留されている。容器9の材質は、研磨液13によって浸食されないものがよい。微細砥粒2は、帯電していればよく、コロイダル状のものが好ましい。微細砥粒2の粒径は、コロイダル状として安定的な粒径であれば問題なく、1〜100nmがよい。微細砥粒2の材質は、レンズを研磨加工する際に、高能率で高品質が望まれるため、コロイダル酸化セリウム、コロイダルシリカ、コロイダルアルミナ、コロイダルジルコニアなどが用いられる。研磨液13が貯留された容器9の中央には、凸球面を有するレンズ1がレンズ保持具としてのレンズ枠11に保持され、レンズ枠11は主軸10に連結されている。主軸10は、図示しない駆動源に接続されており、研磨加工を行うときに回転駆動される。
【0025】
レンズ1を研磨加工する研磨工具12として、導電性弾性体5を電極3に導電性接着剤にて貼付したものが使用され、電極3と導電性弾性体5とにより研磨工具12を構成している。導電性弾性体5には、いずれも金属粉やカーボンファイバーなどを混入した導電性樹脂や導電性研磨布などが使用される。導電性弾性体5の表面5aは、図2に示すように、通常のピッチ研磨に用いる凹状の刻み目が網目状に形成された表面であればよい。また、図3に示す導電性弾性体5Aのように、通常のシート研磨に用いる穴あきの発泡ポリウレタン(ポリウレタンシートの表面に穴hが散在して形成されている)の様になっていてもよい。電極3は鋳鉄製で、レンズ加工面側3aは、レンズ1の球面形状に相似しており、導電性弾性体5の厚さ分だけ、曲率半径を変えたものである。具体的には、レンズ1の曲率半径をR、導電性弾性体5の厚さをt、電極3の曲率半径をR′とすると、R′=R+tとなっている。また、当然ながら、レンズが凸球面の場合、電極3のレンズ加工面側3aは凹球面である。
【0026】
また、電極3の凹部3bは、図示しない駆動源により揺動駆動される揺動上軸7と繋がっており、揺動上軸7が揺動することによって、レンズ1の表面形状に沿って揺動する。この揺動の際、レンズ1の加工面と導電性弾性体5の表面5aとは、常に研磨液13中に位置するように、液面13aが調節されている。揺動上軸7は、導電性の材料(金属)からなり、揺動上軸7の外周には電極ブラシ8が当接している。電極ブラシ8は、導電性があり、揺動上軸7に接していれば、形状・材質は問わない。電極ブラシ8は、さらに直流電源6に電気ケーブルによって接続されている。直流電源6は図示しない専用回路によって電圧を変更することができる。また、直流電源6は、もう一方の電極4に接続されており、電極4は研磨液13中にレンズ1および研磨工具12からある一定間隔の離れた位置に浸漬されている。電極4の形状は任意であり、材質は導電性のもので、例えばカーボン、導電性樹脂、金属が用いられる。
【0027】
なお、微細砥粒2を凝着させるための電極3は、導電性弾性体5および揺動上軸7との接触面以外は絶縁されており、レンズ枠11、主軸10など研磨液13と接する部材も、非導電性材料を用いるか、もしくは、表面を塗装して絶縁する必要がある。
【0028】
つぎに、上記構成の研磨装置を用いたレンズ研磨方法について説明する。図1において、図示しない駆動源を駆動することにより、主軸10、レンズ枠11およびレンズ枠11に保持されたレンズ1が回転する。また同時に、揺動上軸7を揺動させることにより、研磨工具12が揺動し、レンズ1の研磨加工が進行する。このとき、直流電源6より各電極間に電圧を印加する。印加電圧は1〜100V程度がよい。電極3および電極4の極性は、、微細砥粒2が帯電している極性による。すなわち、微細砥粒2がマイナスに帯電していた場合(具体的には、コロイダルシリカ、コロイダル酸化セリウムの場合)、電極3をプラス電極とし、電極4をマイナス電極とする。これにより、マイナスに帯電している微細砥粒2はプラスの極性である電極3の方に引き寄せられていく。電極3は、研磨液13内で導電性弾性体5との接触面以外は絶縁した状態にあるため、結果的に導電性弾性体5の表面5aに微細砥粒2が凝着することになる。
【0029】
特に、導電性弾性体5の表面5aには網目状に凹状の刻み目、または導電性弾性体15の表面15aには穴15bなどの凹状部が形成されているので、この部分に微細砥粒2が補足されることになるから、常に微細砥粒2が介在されるようになって砥粒保持力が増し、研磨加工にとって好都合である。この状態で研磨加工が行われるが、帯電した微細砥粒2の凝着量および導電性弾性体との付着力は電気的なものであるため、電気的条件(電圧)を制御することによって、微細砥粒2の付着量および付着力を制御することができる。一方、帯電した微細砥粒2の極性がプラスの場合(具体的には、コロイダルアルミナなどの場合)、電極3をマイナス電極とし、電極4をプラス電極とする。
【0030】
これにより、微細砥粒2は導電性弾性体5の表面に凝着し、砥粒層を形成した状態で加工が進行する。また、レンズ1の加工面を形成する曲率半径が砥粒層の厚さ分だけ微小変化するため、研磨加工されるレンズ1の曲率半径が砥粒層の厚さ分だけ変化することになる。これを利用すると、レンズ1の曲率半径を非常に微小の値だけ操作することができる。加えて、電気的条件(電圧)により微細砥粒2の付着量が制御できるので、レンズの形状が変化する速度も制御できる。
【0031】
本実施の形態によれば、電気泳動現象を利用して微細砥粒を研磨工具に凝着させながら研磨加工を行うことにより、加工能率を上げるとともに、高精度のレンズを得ることができる。また、電気的条件(電圧)を変化することによって、レンズの形状精度の補正及びその変化の速度を容易に制御することができる。
【0032】
(実施の形態2)
図4〜図7は実施の形態2を示し、図4は研磨工具の下面図、図5は図4のA−A′断面図、図6および図7は図5のB部拡大図である。本実施の形態は、実施の形態1と研磨工具のみが異なり、他の部分は同一のため、異なる部分のみ説明し、同一部分の図と説明を省略する。また、図4〜図7においても、同一の部材には同一の符号を付し説明を省略する。
【0033】
図4および図5において、研磨工具17は、電極3とこの電極3の加工面側3aに貼付された非導電性弾性体16とから構成されている。非導電性弾性体16には、図4に示すように、8ヶ所の切欠き16aが形成されており、切欠き16aの部分には、電極3の加工面側3aが露出した状態となり、露出部3cが形成されている。非導電性弾性体16の材質は、通常の研磨加工に用いる材料であって、非導電性のものを用いる。例えば、発泡ポリウレタンのシートに切欠きを設けたものを電極3の加工面側3aに貼付するか、非導電性のピッチを薄く電極3の加工面側3aに付着させ、切欠きに相当する露出部3cを設けてもよい。なお、非導電性弾性体16の厚さは1mm以下が望ましい。露出部3cの面積、形状などは、研磨加工するレンズの形状や大きさなどにより、適宜に設定する。レンズ研磨装置のその他の構成は実施の形態1と同様である。
【0034】
上記構成の研磨装置を用いたレンズ研磨方法を説明する。実施の形態1の研磨工具12に替えて、研磨工具17を用い、実施の形態1と同様に、研磨液13中にてレンズ1の研磨加工を行う。このとき、直流電源6より各電極間に電圧を印加する。これにより、非導電性弾性体16の表面16bとレンズ1の加工面との間には、通常の研磨加工と同様に微細砥粒2が巻き込まれた状態で研磨加工が行われる。しかし、非導電性弾性体16には導電性がないため、微細砥粒2が電気的に付着することはない、一方、電極3の露出部3cは、導電性のため、帯電した微細砥粒2が電気的に付着した状態になる。このとき、電気的条件(電圧)を制御することによって、露出部3cに付着する微細砥粒2の付着量および付着力を制御することができる。
【0035】
仮に、10Vの電圧をかけた際、図6に示すように、露出部3cに付着した微細砥粒の層が非導電性弾性体16の厚さを越えるものとすると、露出部3cのある部分が加工能力の高い部分となって作用する。一方、10Vより低い電圧の場合(もしくは電圧をかけない場合)、図7に示すように、露出部3cに凝着した微細砥粒2の層が非導電性弾性体16の厚さを越えないとすると、露出部3cが研磨加工能力の低い部分として作用する。すなわち、露出部3cを研磨工具17の一部として作用させるか作用させないかを電気的条件(電圧)によって操作することができる。また、電極3の露出部3cが金属であったとしても、レンズ1に直接接触しているのは、非導電性弾性体16のみなので、レンズ1へのキズ、バリなどの欠陥が発生することはない。その他の作用は実施の形態1と同様である。
【0036】
本実施の形態によれば、実施の形態1と同様に、電気泳動現象を利用して微細砥粒を研磨工具に付着させながら研磨加工を行うことにより、加工能率を上げるとともに、高精度のレンズを得ることができる。また、電極の露出部を研磨工具の一部として作用させるか、作用させないかを電気的条件(電圧)によって操作できることにより、レンズの形状精度の補正およびその変化の速度を容易に制御することができる。
【0037】
本実施の形態では,非導電性弾性体に切欠きを設けたが、これに替えて、複数の孔を設けて、電極の露出部を形成してもよい。
【0038】
(実施の形態3)
図8〜図9は実施の形態3を示し、図8はレンズ研磨装置の縦断面図、図9は研磨工具の下面の拡大図である。本実施の形態は、実施の形態1と研磨工具および給電機構のみが異なり、他の部分は同一のため、同一の部材には同一の符号を付し説明を省略する。
【0039】
図8において、研磨工具22は、電極23A、23B、23Cと、導電性弾性体25A、25B、25Cと、絶縁部材18A、18Bとから構成されている。すなわち、電極23A、23B、23Cは輪帯状に分割されており、非導電性材料からなる絶縁部材18A、18Bが電極23A、23B、23Cのそれぞれの間に介装され、互いに絶縁されるとともに一体化されている。また、電極23A、23B、23Cの加工面側23a、23b、23cには、導電性接着剤によって導電性弾性体25A、25B、25Cがそれぞれ貼付されている。導電性弾性体25A、25B、25Cは、図9に示すように、輪帯状に分割され、それぞれ絶縁部材18A、18Bによって、互いに絶縁された状態になっている。また、電極23Aの上部には、凹部23dが形成されており、揺動上軸7に繋がれており、研磨工具22が揺動駆動される。
【0040】
電極23A、23B、23Cには、電極ブラシ28A、28B、28Cがそれぞれ独立して接触しており、各電極ブラシ28A、28B、28Cは、それぞれの直流電源26A、26B、26Cに接続されている。直流電源26A、26B、26Cは、それぞれ所望の電圧等に設定できる専用回路を備えている。すなわち、輪帯状に分割された電極23A、23B、23Cに、所望の電圧を印加することができる。また、電極23A、23B、23Cは電極4にそれぞれ接続されている。その他の構成は、実施の形態1と同様である。
【0041】
上記構成の研磨装置を用いたレンズ研磨方法を説明する。実施の形態1の研磨工具12に替えて、研磨工具22を用い、実施の形態1と同様に、研磨液13中にてレンズ1の研磨加工を行う。このとき、各直流電源26A、26B、26Cより各電極間に電圧を印加する。これにより、各導電性弾性体25A、25B、25Cの各表面とレンズ1の加工面との間には、実施の形態1と同様に微細砥粒2が付着した状態で研磨加工が行われる。しかし、それぞれ分割された電極23A、23B、23Cの電気的条件(電圧)を制御することによって、研磨工具22の中心部から周辺部に至る表面に付着する微細砥粒2の付着量および付着力を制御することができる。
【0042】
仮に、中心部から周辺部へ10V、5V、2Vの電圧を印加した場合、研磨工具22の中心部により多く微細砥粒2が付着し、研磨工具22の周辺部は中心部と比較すると微細砥粒2は付着量が少ない。逆に、研磨工具22の周辺部から中心部へ10V、5V、2Vの電圧を印加したとすると、研磨工具22の周辺部により多くの微細砥粒2が付着し、研磨工具22の中心部は微細砥粒2の付着量が少ない。すなわち、各直流電源26A、26B、26Cの電気的条件(電圧)を制御することにより、研磨工具22のどの部分に多くの微細砥粒2を付着させるかを制御することができる。その他の作用は実施の形態1と同様である。
【0043】
本実施の形態によれば、実施の形態1と同様に、電気泳動現象を利用して微細砥粒を研磨工具に付着させながら研磨加工を行うことにより、加工能率を上げるとともに、高精度のレンズを得ることができる。また、研磨工具のどの部分により多くの微細砥粒を付着させるか操作することにより、レンズの形状精度の補正を容易に行うことができる。また、電気的条件(電圧)を変化させることにより、形状精度が変化する速度を制御することができる。
【0044】
本実施の形態では、研磨工具を電気的に3分割しているが、研磨工具の大きさにより、2分割または4分割以上にしてもよい。
【0045】
(実施の形態4)
図10〜図11は実施の形態4を示し、図10はレンズ研磨装置の縦断面図、図11はレンズを貼付したリセス皿の上面の拡大図である。本実施の形態は、実施の形態1とレンズ保持具および給電機構のみが異なり、他の部分は同一のため、同一の部材には同一の符号を付し説明を省略する。
【0046】
図10において、レンズ保持具としてのリセス皿32が主軸10に取着されている。リセス皿32には、凸球面を有するレンズ31が多数貼りされ、研磨液13中に浸漬されている。レンズ31の貼り付け数は5個になっているが、レンズ31の曲率半径などから貼り付け数が限定される場合があるので、その際は貼り付け数を適宜に設定する。また、リセス皿32の材質は導電性を有する材料とし、黄銅等の金属やカーボン等の導電性樹脂が用いられる。
【0047】
主軸10には、電極ブラシ33が当接している。主軸10は、導電性を有する材料からなり、金属が好ましい。主軸10が研磨液13と接触する部位は塗装などにより絶縁されている。また、電極ブラシ8、33は、電気ケーブルにより直流電源6に接続されている。また、電極ブラシ8、33の極性は、実施の形態1〜3と同様に、研磨液13中で帯電している微細砥粒2の極性と合致させる。例えば、微細砥粒がマイナスに帯電していると仮定した場合、電極ブラシ8がプラス側、電極33がマイナス側となる。逆に、微細砥粒2がプラスに帯電していると仮定すると、電極8がマイナス側、電極33がプラス側となる。すなわち、電極ブラシ8は帯電している微細砥粒2の極性と反対の極性で、電極ブラシ33は帯電している微細粒子2の極性と同一の極性となる。その他の構成は、実施の形態1と同様である。
【0048】
上記構成の研磨装置を用いたレンズ研磨方法を説明する。実施の形態1と同様に、研磨工具12を用いて、研磨液13中にてレンズ31の研磨加工を行う。このとき、直流電源6より各電極ブラシ8、33を通じて電極3およびリセス皿32間に電圧を印加する。これにより、実施の形態1と同様に、導電性弾性体5に付着した微細砥粒2により研磨加工を行うことができる。さらに、リセス皿32が電極として作用するため、研磨工具12とより接近した位置で電気エネルギーを供給できるとともに、研磨工具12とリセス皿32との距離が一定なので、より安定的に電気エネルギーを供給することができる。また、実施の形態1と同様に、導電性弾性体5の表面5aに付着する砥粒層の厚さを電気的条件(電圧)により微小変化させることにより、レンズの曲率半径を微小変化させることもできる。その他の作用は実施の形態1と同様である。
【0049】
本実施の形態によれば、実施の形態1と同様に、電気泳動現象を利用して微細砥粒を研磨工具に凝着させながら研磨加工を行うことにより、加工能率を上げるとともに、高精度のレンズを得ることができる。また、リセス皿が電極として作用し、より安定的に電気エネルギーを供給できることにより、研磨工具に凝着する微細砥粒を安定的に供給することができる。すなわち、実施の形態1よりさらに高能率に研磨加工が行える。また、実施の形態1と同様に、レンズの曲率半径を微小変化させることが可能なので、従来の多数貼りのレンズ研磨加工において、リセス皿の中心付近のレンズの曲率半径と、周辺付近のレンズの曲率半径との差が生じる場合も、電気的条件(電圧)の変化により形状精度の補正及びその変化の速度を容易に制御することができる。
【0050】
本実施の形態では、レンズ保持具としてリセス皿を用いたが、実施の形態1〜3と同様に、単一のレンズを保持するレンズ枠を用いてもよい。
【0051】
なお、上述の具体的な実施の形態から、つぎのような構成の技術的思想が導き出される。
(付記)
(1) 前記輪帯状に形成された各導電性部材に、各々異なる電圧を印加して研磨加工することを特徴とする請求項4記載のレンズ研磨方法。
【0052】
付記(1)のレンズ研磨方法によれば、請求項4の効果に加え、レンズの形状精度の補正を高能率かつ容易に行うことができる。
【0053】
【発明の効果】
請求項1または2に係る発明によれば、導電性弾性体の表面の砥粒密度は非常に高くなる上、適度な砥粒保持力を併せもった状態で研磨加工をするので、加工能率を上げるとともに、高精度のレンズを得ることができる。また、電気的条件の変化により、レンズの形状精度の補正及びその変化の速度を容易に制御することができる。
【0054】
請求項2に係る発明によれば、上記効果に加え、電極と研磨工具との間の間隔を短縮させ、研磨工具に凝着させる微細砥粒の数を増加させるので、より高能率に研磨加工を進行させる。
【0055】
請求項3に係る発明によれば、研磨工具の露出部への微細砥粒の凝着量を加減して、研磨作用面積を制御しつつ研磨加工するので、加工能率を上げるとともに、高精度のレンズを得ることができる。また、電気的条件の変化により、レンズの形状精度の補正及びその変化の速度を容易に制御することができる。
【0056】
請求項4に係る発明によれば、輪帯状に分割された導電性部材にそれぞれ異なる電圧をかけて、研磨工具中心部や外周部に凝着する微細砥粒の砥粒層の厚さをそれぞれ制御しつつ研磨加工するので、加工能率を上げるとともに、高精度のレンズを得ることができる。また、研磨工具のどの部分により多くの微細砥粒を付着させるか操作できることにより、レンズの形状精度の補正を容易に行うことができる。また、電気的条件を変化させることにより、レンズの形状精度の変化する速度を制御することができる。
【0057】
請求項5、6または7に係る発明によれば、研磨工具に凝着する微細砥粒の数量を増加させ、研磨砥粒の砥粒層の厚さを制御するので、請求項1、2、3、または4に係る発明のレンズ研磨加工を容易に実施することができる
【0058】
請求項6に係る発明によれば、上記効果に加え、研磨工具中心部や周辺部に凝着する微細砥粒の砥粒層の厚さをそれぞれ容易に制御できるので、レンズの形状精度の補正を容易に行うことができる。また、電気的条件を変化させることにより、レンズの形状精度の変化する速度を制御することができる。
【0059】
請求項7に係る発明によれば、上記効果に加え、電極と研磨工具との間の間隔を短縮させ、かつ一定に維持するので、より高能率に研磨加工を進行させる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施の形態1のレンズ研磨装置の縦断面図である。
【図2】実施の形態1の研磨工具の下面の部分拡大図である。
【図3】実施の形態1の研磨工具の下面の他の例の部分拡大図である。
【図4】実施の形態2の研磨工具の下面図である。
【図5】実施の形態2の図4のA−A′断面図である。
【図6】実施の形態2の図5のB部拡大図である。
【図7】実施の形態2の図5のB部拡大図である。
【図8】実施の形態3のレンズ研磨装置の縦断面図である。
【図9】実施の形態3の研磨工具の下面の拡大図である。
【図10】実施の形態4のレンズ研磨装置の縦断面図である。
【図11】実施の形態4のレンズを貼付したリセス皿の上面の拡大図である。
【図12】従来技術1のレンズ研磨装置の縦断面図である。
【図13】従来技術2の研磨装置の概略構成図である。
【符号の説明】
1 レンズ
2 微細砥粒
5 導電性弾性体
5a 表面
12 研磨工具
13 研磨液
Claims (2)
-
帯電した微細砥粒を分散した研磨液に通電して、電気泳動現象により、前記微細砥粒と逆の極性を有する研磨工具に前記微細砥粒を付着させ、前記研磨工具にてレンズ表面を研磨するレンズ研磨方法において、
前記研磨工具は、輪帯状に形成された導電性部材と非導電性部材とが交互に配置され、各導電性部材に導電性弾性体を貼付するとともに、各導電性部材に通電して前記導電性弾性体の表面に前記微細砥粒を付着させて研磨することを特徴とするレンズ研磨方法。 - 帯電した微細砥粒を分散した研磨液中にレンズを侵漬した状態で研磨するレンズ研磨装置において、
前記研磨液中に浸漬したレンズを保持するレンズ保持具と、
該レンズ保持具を回転させる主軸と、
前記研磨液を貯留する容器と、
一方の電極として機能し、輪帯状に形成された導電性部材と非導電性部材とが交互に配置され、各導電性部材に導電性弾性体を貼付するとともに、各導電性部材に通電して前記導電性弾性体の表面に前記微細砥粒を電気的に付着するようにした研磨工具と、
前記研磨液中に浸漬する他方の電極と、
前記研磨工具に接続する電極ブラシと、
それぞれの電極間に電荷を与える電源と、
を備えたことを特徴とするレンズ研磨装置。
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