JP3843803B2 - エンジン用シリンダヘッドのバルブシート接合方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明はエンジンのシリンダヘッドにおける吸気口や排気口のポート開口部に吸気弁や排気弁のバルブシートを接合するエンジン用シリンダヘッドのバルブシート接合方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
シリンダヘッドのポート開口部にシリンダヘッドとは別体のバルブシートを接合した一般的なシリンダヘッド部分の概略構造を図9に示す。
【0003】
同図において、1はアルミニウム合金によって鋳造されたシリンダヘッドで、このシリンダヘッド1に、燃焼室形成用の凹陥部2が下向きに開口して設けられるとともに、この凹陥部2に一端が開口する吸気、排気両ポート3,4が設けられている。
【0004】
この両ポート3,4には、ポペット式の吸気弁5、排気弁6が設けられ、かつ、両ポート開口部7,8に両弁4,5のバルブシート9,9が接合されている。
【0005】
従来、上記バルブシート9をポート開口部7,8に接合する方法として、特開平8−296416号公報に示されているように、バルブシート9をポート開口部7,8にセットした状態で抵抗溶接する抵抗溶接法が公知である。
【0006】
この抵抗溶接法は、バルブシート9をシリンダヘッド1に加圧しながらこれらの間に通電することにより、接触部分の電気抵抗熱によって両者の母材を溶融させ、その際に発生する原子の拡散作用によって溶融反応層を形成し、接合する方法である(詳しくは上記公報参照)。
【0007】
この抵抗溶接法によると、バルブシート9をポート開口部7,8に圧入する圧入法等と比べて、シリンダヘッド1におけるポート間の壁厚が小さくてよいためポート径を大きくできる等の利点がある。その半面、抵抗溶接法によると、溶接に当たってバルブシート9をポート開口部7,8に正確に位置決めしなければならないという独特の課題がある。
【0008】
上記公知技術では、この位置決め手段として、シリンダヘッドにガイド棒をポート開口部の中心部を通る状態で設け、このガイド棒で溶接電極をガイドすることにより、この電極に吸着保持されたバルブシートを間接的にポート開口部に位置決めする手段をとっている。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、このようにガイド棒を用いる公知技術によると、シリンダヘッドに対するガイド棒の取付精度、ガイド棒を受け入れる電極側のガイド穴の精度、電極に対するバルブシートの位置精度等の多重の精度を要求されるため、最終的なバルブシートの位置に誤差が生じ易く、しかも位置決め操作が面倒となる点から実用に適さなかった。
【0010】
そこで本発明は、バルブシートを簡単にしかも正確に位置決めすることができるエンジン用シリンダヘッドのバルブシート接合方法を提供するものである。
【0011】
【課題を解決するための手段】
請求項1の発明は、エンジン用シリンダヘッドのポート開口部に、シリンダヘッドとは別体のバルブシートを接合するエンジン用シリンダヘッドのバルブシート接合方法であって、上型と下型の一方に凹部を備えた金型を用いてシリンダヘッドを鋳造することにより、シリンダヘッドの複数のポート開口部間に位置決め用の突起をシリンダヘッドと一体に形成し、このシリンダヘッドのポート開口部にバルブシートを、上記突起により位置決めした状態で抵抗溶接によって接合し、上記バルブシートの仕上げ加工時に上記突起を切削除去するものである。
【0012】
上記方法によると、凹部を備えた金型を用いてシリンダヘッドを鋳造することにより、シリンダヘッドのポート開口縁部に上記凹部に対応する位置決め用の突起をシリンダヘッドと一体に設け、この突起をガイドとしてバルブシートを位置決めするため、公知のガイド棒方式と比較して、位置決め操作が遙かに簡単となる。
【0013】
しかも、金型における突起形成用の凹部についてのみ精度を確保すればよいため、ガイド棒方式と比較して誤差が生じにくい。このため、バルブシートを正確に位置決めすることができる。
【0014】
また、シリンダヘッドの鋳造時に、凹部によって形成される位置決め用の突起に、溶湯中に含まれる空気や不純物が広い範囲から自然に集まるため、鋳造不良を防止する効果が得られる。
【0015】
ただし、突起は燃焼室上部に位置するため、この突起がエンジンの運転時に空気の流れを阻害したりヒートポイントとなったりするおそれがある。
【0016】
この点、本発明ではこの突起を仕上げ加工段階で切削除去するため、上記のような問題が一切生じない。
【0017】
一方、突起を複数のポート開口部間に設けるため、一つの突起を隣り合う二つのバルブシートの位置決め用に共用して突起数を少なくすることができる。さらに、1気筒4バルブの場合に、隣り合うポート開口部間に突起を設けることにより、バルブシートを直角二方向から位置決めできるため、位置決め操作がより簡単となる。
【0018】
【発明の実施の形態】
本発明の実施形態を図1〜図8によって説明する。
【0019】
この実施形態では、4気筒でかつ各気筒に吸気、排気両ポートが2つずつ(計4つ)設けられるエンジンのシリンダヘッドを適用対象として例にとっている。
【0020】
図1はシリンダヘッド鋳造用の金型を示す。
【0021】
この金型は、上型11と、下型12と、溶湯(溶融状態のシリンダヘッド材料。たとえばアルミニウム合金)が貯留される保持炉13と、この保持炉13内の溶湯を両型11,12間のキャビティ(図示しない)に注入するための圧力をかける圧力室14とを具備している。
【0022】
上型11には、図2に示すように、各気筒ごとに二つずつの吸気、排気両ポートを形成するポート形成部15…をはじめとするシリンダヘッド形成用の凹凸部分が設けられるとともに、ポート開口部が形成される側の面における各ポート形成部15…間に、四角形の凹部16…が設けられている。
【0023】
この金型により、従来と同じ工程を経て、図3に示すように二つずつの吸気、排気両ポート17,18及びそれぞれのポート開口部19,20を備えたシリンダヘッド21が鋳造される。図3中、Aは図示しないシリンダブロックとの接合合わせ面の外形線である。なお、シリンダ各部の細かな構造の図示と説明は省略する。
【0024】
この鋳造時に、図2の凹部16…に溶湯が入り込むことによって隣り合うポート開口部間(吸気ポート開口部間及び吸、排気ポート開口部間に、凹部16…に対応する四角柱状(四角錐または四角錐台状としてもよい)の位置決め用の突起22…がシリンダヘッド21と一体に形成される。
【0025】
また、鋳造時に、溶湯中に含まれる空気や不純物が広い範囲から突起22…に自然に集まるため、鋳造不良が発生するおそれが低くなる。
【0026】
図4(イ)〜(ニ)に、このシリンダヘッド21の各ポート開口部19,20にリング状のバルブシート23を接合する手順を示している。なお、図4は、シリンダヘッド21の上下方向の向きを、金型の向きに合わせて、図8に示す本来の向きとは逆にして示している。
【0027】
まず、図4(イ)に示すようにバルブシート23を抵抗溶接用の電極24の先端に保持し、電極24とともにポート開口部19,20にセットする。なお、図4において、電極24は、図の簡略化のために吸気ポート開口部側のみについて示しているが、排気ポート開口部側も同様にセットされる。
【0028】
このとき、ポート開口縁部に突起22…が設けられているため、図5にも示すようにこの突起22…にバルブシート23の外周面を押し当てるだけで、バルブシート23をポート開口部19,20の所定の位置に簡単に位置決めすることができる。
【0029】
しかも、金型(この実施形態では上型11)における突起形成用の凹部16…についてだけ、その位置、寸法の精度を確保すればよいため、公知のガイド棒方式と比較して位置決めに関する最終的な誤差が生じにくい。このため、バルブシート23を正確に位置決めすることができる。
【0030】
さらに、突起22…を各ポート開口部間に設けているため、一つの突起22を隣り合う二つのバルブシート23,23の位置決め用に共用して突起数を少なくすることができる。このため、金型の加工、及び後に突起22…を切削除去する加工が容易となる。
【0031】
電極24の概略構成を図6,7に示す。
【0032】
この電極24には、チャック(たとえばコレットチャック)25が設けられ、バルブシート23がこのチャック25により電極先端に保持される。
【0033】
また、バルブシート23には、図8に示すように表面面全体に共晶合金(たとえばアルミニウム合金と銅の合金)のメッキが施されて共晶合金層26が形成されている。
【0034】
次に、図4(ロ)に示すように、電極24により、バルブシート23を図4中に一点鎖線で示すポート軸心Oと一致する方向(二重線矢印方向)でポート側に加圧しながら、電極24とシリンダヘッド21との間に通電して抵抗溶接を行う。
【0035】
この抵抗溶接の原理は前述しまた特開平8−296416号公報に示された通りであって、シリンダヘッド21とバルブシート23の接触界面に発生する抵抗熱でシリンダヘッド母材及びバルブシート母材の接触部分が溶融して塑性流動を起こすことにより、図4(ハ)に示すようにバルブシート23がシリンダヘッド側に沈み込み、最終的にバルブシート23がシリンダヘッド21に所定の沈み込み状態で接合される。
【0036】
なお、この溶接時に、バルブシート表面にコーティングされた共晶合金層26が、低い温度で固相から液相に変わって、接触界面での原子の拡散、シリンダヘッド21及びバルブシート23両者の母材の塑性流動を活発化させ、仕上がりの接合強度を高める効果を発揮する。
【0037】
また、このバルブシート表面に共晶合金層26を設けておくと、図4(イ)及び図5に示す位置決め段階で、シリンダヘッド21(ポート開口縁部)に対するバルブシート23の滑りが良くなるため、このバルブシート23を突起22に滑り当てて位置決めする操作が容易となる。
【0038】
そして、最終仕上げ加工として、図示しない切削手段(たとえば周知の研削機械)により、シリンダヘッド21を切削してその不要部分を除去し、このとき同時に、図4(ニ)に示すようにすべての突起22…も切削除去する。
【0039】
このように、突起22…を仕上げ段階で除去するため、この突起22…がエンジン運転時に空気の流れを阻害したりヒートポイントとなったりするおそれがない。
【0040】
他の実施形態
(1)上記実施形態では、図1,2に示す金型上型11側に位置決め突起形成用の凹部16…を設けたが、逆に下型13側にこの凹部16…を設けてもよい。
【0041】
(2)上記実施形態では、各気筒における全ポート開口部間に計四つの突起23…を設けたが、この突起23を両吸気ポート開口部同士、及び両排気ポート開口同士の間のみ、あるいは吸、排気両ポート開口部間のみに設けてもよい。
【0042】
(3)同突起23は、四角柱状(または四角錐、四角錐台状)に限らず円柱状(または円錐状、円錐台状)に形成してもよい。
【0043】
(4)本発明は、上記実施形態で例示した4気筒で各気筒4バルブ式のエンジンのシリンダヘッドに限らず、他の形式のエンジン用シリンダヘッドにも上記同様に適用することができる。
【0044】
【発明の効果】
上記のように本発明によると、凹部を備えた金型によってシリンダヘッドを鋳造することにより、シリンダヘッドのポート開口縁部に上記凹部に対応する位置決め用の突起をシリンダヘッドと一体に形成し、この突起をガイドとしてバルブシートを位置決めするため、公知のガイド棒方式と比較して、位置決め操作が遙かに簡単となり、バルブシート接合作業の能率を向上させることができる。
【0045】
しかも、金型における突起形成用の凹部に付いてのみ精度を確保すればよいため、位置決めに関する誤差が生じにくく、バルブシートを正確に位置決めすることができる。
【0046】
また、シリンダヘッドの鋳造時に、凹部によって形成される位置決め用の突起に溶湯中に含まれる空気や不純物が広い班から自然に集まるため、鋳造不良を防止する効果が得られる。
【0047】
さらに、突起は仕上げ加工段階で切削除去するため、この突起がエンジンの運転時に空気の流れを阻害したりヒートポイントとなったりするおそれがない。
【0048】
一方、突起を複数のポート開口部間に設けるため、一つの突起を隣り合う二つのバルブシートの位置決め用に共用して突起数を少なくすることができる。さらに、1気筒4バルブの場合に、隣り合うポート開口部間に突起を設けることにより、バルブシートを直角二方向から位置決めできるため、位置決め操作がより簡単となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の実施形態方法に使用される金型の概略構成を示す正面図である。
【図2】 同金型における上型の底面図である。
【図3】 同方法によって鋳造されたシリンダヘッドの概略平面図である。
【図4】 (イ)(ロ)(ハ)(ニ)は同シリンダヘッドにバルブシートを接合する手順を説明するための部分断面図である。
【図5】 図4(イ)のバルブシートを位置決めする段階の拡大水平断面図である。
【図6】 同方法に使用される電極とこれに保持されたバルブシートの正面図である。
【図7】 同底面図である。
【図8】 図4(イ)の一部拡大図である。
【図9】 シリンダヘッドのバルブ取付部分の拡大断面図である。
【符号の説明】
11 金型の上型
12 同下型
16…位置決め用突起を形成するための上型の凹部
17 吸気ポート
18 排気ポート
19… 吸気ポートの開口部
20… 排気ポートの開口部
21 シリンダヘッド
22… 突起
23… バルブシート
24 電極
25 電極先端にバルブシートを保持するためのチャック
26 バルブシートの共晶合金層
Claims (1)
- エンジン用シリンダヘッドのポート開口部に、シリンダヘッドとは別体のバルブシートを接合するエンジン用シリンダヘッドのバルブシート接合方法であって、上型と下型の一方に凹部を備えた金型を用いてシリンダヘッドを鋳造することにより、シリンダヘッドの複数のポート開口部間に位置決め用の突起をシリンダヘッドと一体に形成し、このシリンダヘッドのポート開口部にバルブシートを、上記突起により位置決めした状態で抵抗溶接によって接合し、上記バルブシートの仕上げ加工時に上記突起を切削除去することを特徴とするエンジン用シリンダヘッドのバルブシート接合方法。
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