JP3840770B2 - 精製アクリル系重合体溶液の製造方法 - Google Patents

精製アクリル系重合体溶液の製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、精製アクリル系重合体溶液の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
一般にアクリロニトリルの重合はラジカル重合であり、工業的にアクリロニトリル重合体を得るプロセスには、均一系である溶液重合と不均一系である水系懸濁重合に大別される。
【0003】
一般にラジカル重合の反応速度は反応の進行が進むにつれて遅くなるので、高転化率を得るためには、大型の装置、あるいは長い反応時間を必要とし工業的に不利であるため、転化率を90%前後で打ち切るのが経済的にも有利である。このため、重合体溶液は未反応のモノマーを含んでいるので、未反応のモノマーが後に続く紡糸工程に持ち込まれると、モノマーが大気中に排出され、作業環境の悪化を引き起こし、好ましくなく、未反応モノマーを十分に除去することが必要である。
【0004】
一般に、溶液重合は均一重合であるため、水系不均一重合で必要となるポリマーの分離、乾燥、溶解工程がなく、水系不均一重合に比較して工程が簡略であるという利点があるが、溶液重合で製造したアクリル系重合体溶液は高粘度であるため、未反応モノマーの除去率を高くすることが比較的困難であるのが現状である。
【0005】
従来、溶液重合での未反応モノマーの除去は、重合を打ち切り、未反応モノマーを含む重合体溶液を、減圧した脱気槽の内壁に薄膜にして供給し、未反応モノマーを除去する方法が一般的であるが、この方法では未反応モノマーの除去率がそれほど高くなく、除去率を上げるためには、供給する重合体溶液を高温にすることや、脱気槽を高真空にする必要がある。ところが、前者では製品の着色を引き起こし好ましくなく、後者においても装置が大型になることや、除去率が大きく上がらないなど、コストの面からも不利である。しかも、この方法を用いて未反応モノマーの除去率を上げると、未反応モノマーと同時に溶媒の一部も除去され、その結果、重合体溶液のポリマー濃度が上がりすぎ、粘度も上昇し、後に続く紡糸工程では、ポリマー濃度が上がりすぎると好ましくないことが多く、このために、未反応モノマーを除去した後、重合体溶液のポリマー濃度を適正にするため、溶媒での希釈が必要な場合もある。また、除去率が比較的低いままで後に続く紡糸工程に重合体溶液を持ち込むと、紡糸工程からモノマーが大気に排出され、この大気排出を減らすためには、紡糸浴の密封化や、蒸散したモノマーの回収、焼却などいずれも装置が高価であったり、ランニングコストが高いなどの欠点があり、より少ない工程での未反応モノマーの高除去率を得る抜本策が望まれている。
【0006】
特開昭52-43894号公報には、重合体溶液からの未反応モノマーの回収方法として、ジメチルスルホキシド、あるいはジメチルホルムアミドの蒸気を重合体溶液と向流接触させて未反応モノマーの除去する方法が開示されているが、ここに記載の方法を単に実施しても、未反応モノマーの蒸発率が約95%程度であったり、あるいは、ポリマーが適正に濃縮されているか否かわからない等の問題点があった。また、この特開昭52-43894号公報には、充填塔ではなく、棚段の塔を用いて実施した例が開示されているが、かかる方法をアクリル系重合体溶液のような高粘度の溶液に使用すると、塔頂と塔底の圧力損失が大きくなり、ポリマーが適正に濃縮されることがなく、さらに、重合体溶液の表面更新が比較的少なく、未反応モノマーの回収率が上がらない等、種々好ましくない問題を有するものである。また、充填塔についての具体的な条件についての記載はなく、未反応モノマーの除去率も大きくできなかったのが実情である。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、かかる従来技術の背景に鑑み、溶液重合における重合体溶液から、未反応モノマーを極めて高い除去率で除去し、実質的に紡糸工程からのモノマーの大気排出がなく、しかも重合体溶液を少ない工程で適正な濃度に濃縮する精製アクリル系重合体溶液の製造方法を提供せんとするものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明は、かかる課題を解決するために、次のような手段を採用するものである。すなわち、本発明の精製アクリル系重合体溶液の製造方法は、少なくともアクリロニトリルを含むモノマーを溶液重合して得られる重合体溶液を、減圧せしめた充填塔の上部から供給するとともに、充填塔の下部から重合体溶液の溶媒の蒸気を前記重合体溶液と向流接触させるように供給し、前記重合体溶液から未反応モノマーを除去して精製重合体溶液を製造する方法において、充填塔頂と充填塔底の圧力の差を10Torr以下とし、10〜350m 2 /m 3 の比表面積を有する充填物を充填することを特徴とするものである。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明は、前記課題、つまり未反応モノマーの高除去率および実質的に紡糸工程からのモノマーの大気排出が回避でき、しかも重合体溶液を少ない工程で適正な濃度に濃縮することができるという課題について、鋭意検討したところ、モノマー除去手段として充填塔による向流接触手段を用い、かつ、その充填塔頂と充填塔底の圧力の差を特定な範囲の減圧条件下に制御したところ、かかる課題を一挙に解決することを究明したものである。
【0010】
本発明の精製アクリル系重合体溶液の製造方法を図1を用いて説明する。未反応モノマーを含む重合体溶液を熱交換器5にて加熱し、該溶液を充填塔1の上部から塔内に供給する。該充填塔下部に設けられたリボイラー2で溶媒を加熱しその蒸気を塔内に供給し、溶媒の蒸気と重合体溶液とを向流接触させ重合体溶液中の未反応モノマーを除去し、溶媒の蒸気と除去したモノマーの混合物を吸収塔3で有機溶媒に吸収させる。また、エゼクター4を用いて真空を発生させ、吸収塔3と充填塔1を減圧し、充填塔頂と充填塔底の圧力差を10Torr以下とする。このようにして未反応モノマーを除去し、精製したアクリル系重合体溶液をポンプ6を用いて抜き出す。
【0011】
この製造方法を用いることで重合体溶液中の未反応モノマーを極めて高い除去率で除去することができ、さらにポリマー濃度を適正な濃度に濃縮することができる。
【0012】
本発明において、重合体溶液の溶媒としては、ジメチルスルホキシド(以下DMSOと略)、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどの有機溶媒が好ましく使用される。
【0013】
本発明において、アクリロニトリルを溶液重合して得られる重合体溶液中には、他のエチレン性二重結合を有するモノマーを1種以上含んでいてもよく、他のエチレン性二重結合を有するモノマーには、例えば、塩化ビニル等のハロゲン化ビニル;酢酸ビニル等のビニルエステル;アクリル酸、メタクリル酸、及びこれらのエステルまたは塩;マレイン酸、フマル酸、及びこれらのエステルまたは無水物;ブタジエン、クロロプレン、イソプレン等のジエン系単量体;スチレン、アクリロニトリル、ハロゲン化ビニリデン、ビニルエーテル等を使用することができる。
【0014】
重合方法としては、バッチ重合、連続重合のいずれでもよく、該重合体溶液のポリマー濃度は15〜30重量%程度が好ましく採用され、このとき重合体溶液の45℃における粘度は、50〜1000ポイズ程度の範囲のものがよい。また、重合体溶液中の未反応モノマーの濃度は、1〜8重量%であるのが好ましい。
【0015】
本発明において、重合体溶液は熱交換器を通して加熱され、充填塔に供給される。供給時の重合体溶液の温度を高くすると未反応モノマーの除去率を上げることができ、さらにはポリマー濃度を濃縮することにおいても有効であるが、温度を高くしすぎると、重合体溶液の着色を引き起こし、さらには紡糸して得られる繊維が着色するので、60〜120℃程度の条件が好ましく採用される。
【0016】
本発明において、充填塔とは塔内に充填物が充填されている塔のことであり、重合体溶液は一般の溶液と比較して粘度が非常に高いので、塔内に均一に重合体溶液を分散させることが比較的困難であり、充填塔内に均一に重合体溶液を供給するためには、パイプ型、オリフィス型、トラフ型、ノッチ型、ラダー型、トーナメント型等の分散器が適宜使用される。また、塔内での熱損失を防ぐために、塔内でのこれら分散器や分散器の導入配管の少なくとも一部を保温することも好ましく行われる。充填塔に重合体溶液を供給する場合、充填塔の単位断面積当たりの処理量は供給する重合体溶液の粘度によって大きく影響を受ける。使用する重合体溶液の粘度に応じた充填物や分散器を選択すればよい。
【0017】
充填塔の塔頂とは、充填物の最上段部よりも上部で塔本体との空間のことであり、充填塔の塔底とは、充填物の最下部よりも下部で塔本体との空間のことである。
【0018】
本発明における充填物は、金属製、プラスチック製、陶器製等があるが、空隙率と強度の点からも金属製が好ましい。また、充填物の単位体積当たりの表面積すなわち比表面積が10〜350m2 /m3 のものが好ましく、規則充填、不規則充填のどちらでもよいが、充填物の形状は、実質的に円筒形や楕円筒形であるものが好ましく使用され、これらの側面には、穴が空いていたり、コの字等の切り込みを入れて切り込み部分を内側、あるいは外側に折り返すなどして、どのような角度で充填されても下から供給される蒸気を遮らないように加工されているものが好ましく使用される。かかる円筒形の充填物としては、例えば、特開平1-171617号公報に記されているようなものを使用することができる。また、楕円筒形の充填物としては、例えば、特開昭54-84872号公報に記されているようなものを使用することができる。かかる充填物の直径は、一般には大きい方が圧力損失が小さいが、この場合、充填体積当たりの充填物の表面積が小さく、十分な除去率を得るためには充填高を高くしなければならなくなり、設備費が高くなるなど好ましくないので、適切な大きさの充填物を選択するのが好ましい。また、充填物としてドッドウェル社製のカスケード・ミニ・リング(登録商標)などが好ましく使用される。
【0019】
重合体溶液は一般の溶液と比較して粘度が非常に高く、充填塔に重合体溶液を供給すると、塔内で均一な流れを作ることが困難であり、また、比較的小さい塔径の充填塔に大量の重合体溶液を供給すると、塔底から供給される蒸気の抵抗が大きくなり、その結果、塔頂と塔底の圧力の差が大きくなり好ましくない。さらに、充填物の比表面積を大きくしたり、充填物を充填する高さを高くしたりすると、やはり、塔底から供給される蒸気の抵抗が大きくなり、その結果、塔頂と塔底の圧力の差が大きくなり好ましくない。充填物と、充填する高さ、また、塔径に対する重合体溶液の処理量は、処理したい重合体溶液の特性に適合するように選定する必要がある。このとき、塔頂と塔底の圧力差が10Torrより大きいと、塔内での重合体溶液が均一に流れなくなる可能性が大きく、その結果、重合体のポリマー濃度を適正に濃縮することができないばかりか、未反応モノマーの除去率も安定しない。そこで、安定した運転と未反応モノマーの除去を考慮すると6Torr以下がより好ましい。さらに、重合体溶液の濃縮をより進行させるためには3Torr以下がさらに好ましい。なお、装置の設備費、ランニングコストの観点から塔頂と塔底の圧力差は0.1Torr以上とするのがよい。
【0020】
塔頂の圧力は低ければ低いほど、未反応モノマーの除去率を上げることと、重合体溶液の濃縮に有利であるが、高真空を維持するためには高価な装置が必要であったり、ランニングコストが高い等の問題もあり、工業的には30〜5Torrが好ましく採用される。
【0021】
充填塔の下部からは重合体溶液の溶媒をリボイラー等の加熱器で加熱しその蒸気を充填塔に供給する。未反応モノマーの除去率を上げることを考慮すると、該蒸気と重合体溶液は充填塔内では向流接触させる必要がある。また、リボイラーに供給する溶媒の添加量は多い方が好ましいが、装置、ランニングコストの点から、充填塔に供給する重合体溶液の体積に対して、5〜50体積%が好ましい。さらに、溶媒の蒸気を充填塔内に導入するときに、発生した溶媒の蒸気をさらに熱交換器等で過熱させたり、圧力を上げて導入させると、除去率を上げることができ、さらに、ポリマー濃度の濃縮の観点からも好ましい。
【0022】
本発明を用いて精製アクリル系重合体溶液を製造する場合、ポリマー濃度を適正な濃度に安定して濃縮したい場合は、充填塔から抜き出される重合体溶液の粘度を粘度計で連続的に測定し、この粘度と充填塔に供給する重合体溶液の温度をカスケードさせることが好ましい。
【0023】
本発明により、精製されたアクリル系重合体溶液は、モノマー濃度が非常に低く、具体的には0.05重量%以下にすることが可能である。しかも紡糸原液として適正に濃縮されており、しかも、このモノマー除去と重合体溶液の濃縮を一工程で行うことができる。
【0024】
【実施例】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明する。
【0025】
実施例1
アクリロニトリル93.8mol%、アクリル酸メチル6mol%、メタリルスルホン酸ナトリウム0.2mol%をDMSOを溶媒として重合し、未反応モノマーを3.5重量%含むポリマー濃度21.6重量%、45℃における粘度が150ポイズのアクリル系重合体のDMSO溶液を熱交換器で90℃に加熱し、塔頂圧力10Torrの充填塔に供給した。充填塔には(直径/円柱の高さ)が3、直径43mm、比表面積155m2 /m3 のステンレス製の充填物を充填高2mで充填した。塔底からはDMSOの蒸気を供給量に対して25vol%を供給した。このときの塔底の圧力は11Torrであった。ガスクロマトグラフィを用いて、塔底より抜き出された重合体溶液のモノマー濃度を測定したところ、0.04重量%であった。また、塔底より抜き出された重合体溶液のポリマー濃度は22.2重量%であった。
【0026】
実施例2
実施例1と同様のアクリル系重合体のDMSO溶液を熱交換器で90℃に加熱し、塔頂圧力10Torrの充填塔に供給した。
【0027】
充填塔には(直径/円柱の高さ)が3、直径43mm、比表面積155m2 /m3 のステンレス製の充填物を充填高4mで充填した。塔底からはDMSOの蒸気を供給量に対して25vol%を供給した。このときの塔底の圧力は12Torrであった。ガスクロマトグラフィを用いて、塔底より抜き出された重合体溶液のモノマー濃度を測定したところ、0.02重量%であった。また、塔底より抜き出された重合体溶液のポリマー濃度は22.0重量%であった。
【0028】
実施例3
実施例1と同様のアクリル系重合体のDMSO溶液を熱交換器で90℃に加熱し、塔頂圧力10Torrの充填塔に供給した。
【0029】
充填塔には(直径/円柱の高さ)が3、直径25mm、比表面積257m2 /m3 のステンレス製の充填物を充填高2mで充填した。塔底からはDMSOの蒸気を供給量に対して25vol%を供給した。このときの塔底の圧力は13Torrであった。ガスクロマトグラフィを用いて、塔底より抜き出された重合体溶液のモノマー濃度を測定したところ、0.01重量%であった。また、塔底より抜き出された重合体溶液のポリマー濃度は21.8重量%であった。
【0030】
比較例1
実施例1と同様のアクリル系重合体のDMSO溶液を熱交換器で90℃に加熱し、塔頂圧力10Torrの充填塔に実施例1の3倍量供給した。
【0031】
充填塔には(直径/円柱の高さ)が3、直径25mm、比表面積257m2 /m3 のステンレス製の充填物を充填高2mで充填した。塔底からはDMSOの蒸気を供給量に対して25vol%を供給した。このときの塔底の圧力は21Torrであった。ガスクロマトグラフィを用いて、塔底より抜き出された重合体溶液のモノマー濃度を測定したところ、0.06重量%であった。また、塔底より抜き出された重合体溶液のポリマー濃度は20.9重量%であった。
【0032】
【発明の効果】
本発明のアクリル系精製ポリマー溶液の製造方法によれば、溶液重合における未反応モノマーを含む重合体溶液から、未反応モノマーを極めて高い除去率で除去し、しかも、この1工程で同時に重合体溶液を適正な濃度に濃縮することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のアクリル系精製ポリマー溶液の製造方法を実施するための装置の一例を示す概略図である。
【符号の説明】
1:充填塔
2:リボイラー
3:吸収塔
4:エゼクター
5:熱交換器
6:ポンプ

Claims (5)

  1. 少なくともアクリロニトリルを含むモノマーを溶液重合して得られる重合体溶液を、減圧せしめた充填塔の上部から供給するとともに、充填塔の下部から重合体溶液の溶媒の蒸気を前記重合体溶液と向流接触させるように供給し、前記重合体溶液から未反応モノマーを除去して精製重合体溶液を製造する方法において、充填塔頂と充填塔底の圧力の差を10Torr以下とし、10〜350m 2 /m 3 の比表面積を有する充填物を充填することを特徴とする精製アクリル系重合体溶液の製造方法。
  2. 前記アクリロニトリルが、80mol%以上の含有量を有するものである請求項1記載の精製アクリル系重合体溶液の製造方法。
  3. 前記充填塔頂と充填塔底の圧力の差が、3Torr以下である請求項1記載の精製アクリル系重合体溶液の製造方法。
  4. 前記重合体溶液が、その45℃における粘度が50〜1000ポイズである請求項1記載の精製アクリル系重合体溶液の製造方法。
  5. 前記重合体溶液が、15〜30重量%の重合体濃度を有するものであり、かつ、未反応モノマーの濃度が1〜8重量%であるものである請求項1記載の精製アクリル系重合体溶液の製造方法。
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