JP3840204B2 - 超音波探触子及びその製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は超音波探触子及びその製造方法に関し、特に、生体の超音波診断において用いられる積層型アレイ振動子の構造及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術及びその課題】
複数の振動素子が配列されたアレイ振動子として、2Dアレイ振動子(スパース型2Dアレイ振動子を含む)、1.5Dアレイ振動子などが知られている。そのようなアレイ振動子においては、それを構成する各振動素子のサイズが非常に小さくなる。このため、各振動素子の電気インピーダンスが極めて高くなり、各振動素子とケーブル(あるいは装置本体)との間で、電気的なインピーダンス整合がとれなくなる。その結果、著しい感度ロスという問題が生じてしまう。
【0003】
そこで、各振動素子を積層型とする技術が提案されている。この技術によると、各振動素子は、複数の圧電層及び複数の電極層を所定順序で積層した積層体として構成される。具体的には、積層体の下面に下面電極層が設けられ、積層体の上面に上面電極層が設けられ、隣接する2つの圧電層の間に内部電極層が設けられる。そして、それらの複数の電極層における奇数番目の電極層が例えばシグナル電極層とされ、偶数番目の電極層が例えばグランド電極層とされる。複数のシグナル電極層と複数のグランド電極層との間に電圧信号が印加される。この構成によれば、振動素子の電気的なインピーダンスを下げることができる。
【0004】
上記のような積層型の振動素子については、複数の電極層に対する電気的な接続が問題となる。特に、複数の内部電極層に対してリードあるいは電極層をどのように接続するのかが問題となる。1つの従来例としては、ビア(振動素子の例えば中央を垂直に通過した細い導電線)を用いる方法があげられる。しかし、振動素子の面積は非常に小さく、そこに事後的に加工を施すのには製作的に困難が伴い、実用的でないという問題がある。
【0005】
これに関し、以下の特許文献1には、複数の積層型振動素子からなるアレイ振動子が開示されている。各積層型振動素子の第1側面には、グランド内部電極層に接続されたグランド側面電極層が形成され、各振動素子の第2側面(第1側面と反対側の側面)には、シグナル内部電極層に接続されたシグナル側面電極層が形成されている。このため上記問題を解消、低減することができる。そのアレイ振動子において、隣接する2つの振動素子間に着目すると、一方側振動素子のシグナル側面電極層と他方側振動素子のグランド側面電極層とが互いに近接し、且つ、それらの形成範囲は垂直方向にずれている。アレイ振動子の特性を向上するためには、電気的な絶縁性をより向上することが望まれている。また、アレイ振動子の製造に当たって、位置決め精度を向上できること、製造を容易にすること(例えば、対向する一対の側面電極層を同時形成できるようにすること)、が望まれている。また、振動素子内で良好な電場を形成することが望まれている。
【0006】
従来において、複合化及び積層化された積層体を作成する場合に、まず最初に、水平方向に複数の部材を接着することにより、各複合化プレートが形成され、次に、複数の複合化プレートが相互に接着されて積層される。このような方法では、複数の複合化プレート相互間における水平方向の位置決め誤差が生じやすい。そのような位置決め誤差が生じると、各振動素子の特性が劣化する。下記の特許文献2には、複合化及び積層化された積層体を製造する従来方法が示されている。
【0007】
【特許文献1】
特開2001−29346号公報
【特許文献2】
米国特許第6088894号公報
【0008】
本発明の目的は、複合化及び積層化された良好な性能を有する積層型アレイ振動子を備えた超音波探触子及びその製造方法を提供することにある。
【0009】
本発明の他の目的は、積層型アレイ振動子を備えた超音波探触子の製造を容易化することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
(1)本発明に係る超音波探触子は、複数の振動素子を有するアレイ振動子を含み、前記各振動素子は、水平方向に連結された少なくとも1つの圧電部及び少なくとも1つの樹脂部を有し、前記圧電部は、垂直方向に所定順序で積層された複数の圧電層及び複数の水平電極層と、前記複数の水平電極層に対して所定の接続関係をもって電気的に接続された一対の垂直電極層と、を有し、前記樹脂部は、垂直方向に連続性をもった充填層として構成され、前記各振動素子が垂直方向に積層化され且つ水平方向に複合化される。
【0011】
上記構成によれば、各振動素子は少なくとも1つの積層型圧電部と少なくとも1つの樹脂部とを有する。樹脂部は、垂直方向における個々の階層ごとに分断されているのではなく、垂直方向に連続性を有する充填層として構成されているので、基本的に、水平方向の位置決め誤差は生じない。また、樹脂部は充填層として構成されているので、例えば、既に形成された積層体に対する溝形成及び材料充填によって簡便に形成できる。そのような場合、積層型の圧電部についても、それを構成する複数の層について水平方向の位置決め誤差の問題は基本的に生じない。ここで、超音波振動子は、1Dアレイ振動子、1.5Dアレイ振動子、2Dアレイ振動子などである。コンベックス形状を有するアレイ振動子の場合、各振動子における超音波伝播方向が垂直方向に相当する。
【0012】
複合化された超音波振動子は、一般に、広帯域化という利点を有するが、その反面、電気的インピーダンスが大きくなって感度が低下するという問題を有する。上記のような手法によって、超音波振動子を複合化すると共に積層化し、これによって、超音波振動子を広帯域化しつつ、その電気的インピーダンスを下げることが可能となる。これにより、感度を向上できる。また、上記のように位置決め精度が良好であるので、その意味でも超音波振動子の性能を向上できる。
【0013】
望ましくは、前記圧電部は、更に、前記複数の圧電層及び前記複数の水平電極層で構成される圧電部本体の両側面と、前記一対の垂直電極層と、の間に設けられた一対の垂直絶縁層を含む。
【0014】
一対の垂直電極層は、第1及び第2垂直電極層で構成される。一対の垂直絶縁層は、第1及び第2垂直絶縁層で構成される。複数の水平電極層は、互い違いに設けられた複数の第1水平電極層及び複数の第2水平電極層で構成される。第1垂直電極層は、複数の第1水平電極層に接続されるが、第1垂直絶縁層によって複数の第2水平電極層における内部電極層から絶縁される。第2垂直電極層は、複数の第2水平電極層に接続されるが、第2垂直絶縁層によって複数の第1水平電極層における内部電極層から絶縁される。それらの垂直絶縁層によって圧電部本体内における電場の乱れを軽減又は解消できる。第1及び第2垂直絶縁層は垂直方向に広がる面状の絶縁層である。
【0015】
望ましくは、前記各振動素子は、第1水平方向及び第2水平方向の一方について複合化される。望ましくは、前記各振動素子は、第1水平方向及び第2水平方向の両方について複合化される。
【0016】
(2)本発明に係る製造方法は、複数の圧電部材及び複数の内部電極部材を有する積層体に対して、水平方向に並んだ複数の複合化溝を形成し、各複合化溝内に樹脂材料を充填し、これにより、複合化された積層体を形成する工程と、前記複合化された積層体に対して、複数の垂直電極層を形成する工程と、前記複数の垂直電極層の形成後に、前記複合化された積層体に対して、一対の表面電極部材を形成する工程と、前記一対の表面電極部材の形成後に、前記複合化された積層体を複数の振動素子に分割する工程と、を含む。
【0017】
本発明に係る製造方法は、複数の圧電部材及び複数の内部電極部材を有する積層体に対して、複数の垂直電極層を形成する工程と、前記複数の垂直電極層の形成後に、前記積層体に対して、一対の表面電極部材を形成する工程と、前記一対の表面電極部材の形成後に、前記積層体に対し、水平方向に並んだ複数の複合化溝を形成し、各複合化溝内に充填材料を充填し、これにより、複合化された積層体を形成する工程と、前記複合化された積層体を複数の振動素子に分割する工程と、を含む。
【0018】
本発明に係る製造方法は、複数の圧電部材及び複数の内部電極部材を有する積層体に対して、複数の垂直電極層を形成する工程と、水平方向に並んだ複数の複合化溝を形成し、各複合化溝内に樹脂材料を充填する工程と、を有し、複合化された積層体を形成する工程と、前記複合化された積層体に対して、一対の表面電極部材を形成する工程と、前記一対の表面電極部材の形成後に、前記複合化された積層体を複数の振動素子に分割する工程と、を含む。
【0019】
本発明に係る製造方法は、複数の圧電部材及び複数の内部電極部材を有する積層体に対して、Y方向に並んだ複数の複合化溝を形成し、各複合化溝内に充填材を充填し、これにより、Y方向に複合化された積層体を形成する工程と、前記Y方向に複合化された積層体に対して、X方向に並んだ複数の垂直電極層を形成する工程と、X方向に並んだ複数の複合化溝を形成し、各複合化溝内に樹脂材料を充填する工程と、を有し、二次元に複合化された積層体を形成する工程と、前記二次元に複合化された積層体に対して、一対の表面電極部材を形成する工程と、前記一対の表面電極部材の形成後に、前記二次元に複合化された積層体を複数の振動素子に分割する工程と、を含む。
【0020】
本発明に係る製造方法は、複数の圧電部材及び複数の内部電極部材を有する積層体に対して、複数の垂直電極層を形成する工程と、X方向に並んだ複数の複合化溝を形成し、各複合化溝内に充填材料を充填する工程と、を有し、X方向に複合化された積層体を形成する工程と、前記X方向に複合化された積層体に対して、一対の表面電極部材を形成する工程と、前記一対の表面電極部材の形成後に、前記X方向に複合化された積層体に対して、Y方向に並んだ複数の複合化溝を形成し、各複合化溝内に充填材料を充填し、これにより、二次元に複合化された積層体を形成する工程と、前記二次元に複合化された積層体を複数の振動素子に分割する工程と、を含む。
【0021】
上記の各製造方法によれば、あらかじめ形成された積層体に対して複数の樹脂部を形成するので、従来のような事後的接着による位置決め誤差の問題は生じない。また、溝形成及び材料充填を行って複数の樹脂部を簡便に形成できる。
【0022】
アレイ振動子の製造プロセス中、温度上昇等によって圧電材料の分極が減少し、あるいは消失する可能性がある。そのような場合には、再分極工程が追加的に実施される。この再分極工程の実施時に、上記の第1絶縁手段及び第2絶縁手段があることにより、分極は歪みにくくなる。第1絶縁手段及び第2絶縁手段の材料の比誘電率が振動素子の材料の比誘電率に比べて小さい程、この効果は大きい。例えば、その比率は1/1000程度であるのが好ましい。
【0023】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0024】
図1には、超音波探触子の製造プロセスの第一例がフローチャートとして示されている。この第一例は参考例であって複合化を行うものではないが、後の第二例〜第五例の理解の必要上、第一例について詳述する。
【0025】
この超音波探触子は、生体を超音波診断する超音波診断装置に対してプローブケーブルを介して接続され、超音波の送受波を行うことによりエコーデータを取り込むプローブである。ちなみに、この超音波探触子は、生体の表面上に当接して用いられるものであってもよいし、生体の体腔内に挿入して用いられるものであってもよい。以下に、その超音波探触子の製造プロセスを説明し、それに併せて、超音波探触子(特にアレイ振動子)の構造上の特徴について説明する。
【0026】
図1に示すS101の工程に先立って、図2に示すような分極済みの積層体(積層アッセンブリ)10が用意される。積層体10を構成する複数の部材はあらかじめ相互に接着されている。具体的には、積層体10は、図2に示されるように、全体として、平板状の形状を有し、具体的には、複数の圧電部材(圧電体)12,14,16を有する。それらの中で、隣接する2つの圧電部材12,14(14,16)の間に、水平電極部材としての内部電極部材18,20が設けられている。この積層体10における、X方向のサイズは例えば20mmであり、Y方向のサイズは例えば20mmであり、Z方向のサイズは例えば0.51mmである。ちなみに、圧電部材12,14,16の材料としては、公知のPZTなどの圧電材料をあげることができる。もちろん、それ以外の材料(例えば複合材料)で各圧電部材12,14,16を構成するようにしてもよい。なお、図2〜図9においては、図面における左右方向がX方向(第1水平方向)であり、図面における上下方向がZ方向(垂直方向)である。Z方向は超音波の送受波方向に相当する。
【0027】
図1に示されるS101では、図3に示されるように、複数の基礎溝22,24が形成される。具体的には、積層体10の上面10A側から、X方向に一定間隔2×Tをもって、複数の基礎溝(第1溝)22が形成される。この場合において、複数の基礎溝22におけるピッチは、複数の振動素子におけるピッチの2倍とされる。上記と同様に、積層体10の下面10B側から、X方向に一定間隔2×Tをもって複数の基礎溝(第2溝)24が形成される。それらの複数の基礎溝24におけるピッチも複数の振動素子におけるピッチの2倍である。ただし、複数の基礎溝22と複数の基礎溝24は、X方向において互い違いに形成されている。複数の基礎溝22及び複数の基礎溝24は、それぞれY方向に伸長した矩形の溝である。すなわち、それらの基礎溝22,24は互いに平行である。ここで、それらの基礎溝22,24の幅W1は、後述する特定構造(対向構造、隣合せ構造)(後の図9における符号200U,200Dを参照)を構築できる限りにおいて、適当な大きさに設定され、例えば、そのW1は0.08mmである。なお、積層体10は、一般に、積層されたn個の圧電部材によって構成され、ここでnは望ましくは奇数であり、特に望ましくは3である。
【0028】
また、各基礎溝22の深さL1は、上面10Aから見て2番目の内部電極部材20の手前までの深さとされ、例えばそのL1は0.3mmである。これは、各基礎溝24の深さL1についても同様であり、深さL1は下面10Bから見て2番目の内部電極体18の手前までの深さである。このような基礎溝22,24の形成により、内部電極体18は複数の要素18Aに分割され、これと同様に、内部電極体20も複数の要素20Aに分割される。ちなみに、基礎溝22,24を形成する場合には、例えばダイシングソーなどの切削加工器具を用いることができる。これは後述する各種の溝の形成に当たっても同様である。
【0029】
図1のS102では、図4に示されるように、S101で形成された複数の基礎溝22,24に対して、絶縁材26,28が充填される。この絶縁材26,28は、それを薄く形成した場合においても耐電圧レベルの高い材料であるのが望ましく、例えばポリイミド樹脂やエポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂などを用いることができる。図4においては、基礎溝22に充填された絶縁材が符号26で示されており、一方、基礎溝24に充填された絶縁材が符号28で示されている。
【0030】
図1のS103では、図5に示されるように、各基礎溝22,24に対応してそれぞれ切削溝(第3溝30,第4溝32)が形成される。具体的には、図5において、各基礎溝22に充填された絶縁材料26に対して、その中央部を突き抜けるように切削溝30が切削加工により形成される。これと同様に、各基礎溝24に充填された絶縁材28に対しても、その中央部を貫くように切削溝(連絡溝、第4溝)32が形成される。ここで、各切削溝30,32の幅W2は上記の基礎溝22,24の幅W1よりも小さく、例えば0.04mmである。また切削溝30の深さL2は、基礎溝22の深さL1を超えてさらに上面から2番目の内部電極部材20を切断する深さとして設定され、例えばL2は0.36mmである。これは切削溝32についても同様であり、下面側から2番目の内部電極部材18を貫くようにその深さL2が設定されている。それらの切削溝30,32の形成により、各基礎溝22,24の内部には、図示のように、その溝内の各側面に一定の厚みで垂直方向に広がる面状の側面絶縁層(垂直絶縁層)26A,26B,28A,28Bが残存することになる。後に図9等で示すように、各側面絶縁層は、圧電部本体の各側面と各垂直電極層との間に配置される部材となる。また、それらの切削溝30,32の形成より、上述した各部分18A,20A(図5参照)はさらに二分割されることになり、具体的には、水平電極層としての複数の内部電極層18B,20Bが形成される。S102〜S103は、CVD法などによる絶縁膜の形成工程として置き換えることができる。
【0031】
なお、図5に示す工程において、各切削溝30,32の深さをあまり大きくすると、積層体10自体が分断されてしまうため、そのような分断が生じない程度に各切削溝30,32の深さL2を設定するのが望ましい。
【0032】
図1に示すS104では、図6に示すように、各切削溝30,32の内部における各側面上に面状の導電膜34,36が形成される。この導電膜34,36は例えば無電解メッキ法や蒸着法などを利用して形成することができる。各導電膜34,36は、最終的に、一対の垂直電極層(側面電極層など)をなすものである。図6に示す段階においては、導電膜34が内部電極層20Bに対してコンタクト部100を介して電気的に接続されており、一方、導電膜34は内部電極層18Bに対して垂直絶縁層26A,26Bにより絶縁されている。これは導電膜36についても同様であり、その導電膜36はコンタクト部102によって内部電極層18Bに電気的に接続されている。なお、図6に示す工程において、切削溝30,32内に導電性部材を充填し、必要な切削加工を行うことにより、導電膜34,36を形成するようにしてもよい。
【0033】
図1に示すS105では、図7に示すように、各切削溝30,32の内部に、具体的には各導電膜34,36によって囲まれる空間内に、補強材38,40が充填される。この補強材38,40は導電膜34,36を覆ってそれらを保護する部材として機能する。補強材38,40は絶縁性を有する材料によって構成される。その補強材38,40は、熱硬化性をもった高分子材料、重合体材料、樹脂材料などを用いて構成するのが望ましい。なお、補強材38,40が複合化のための材料として用いられてもよく、それに関しては後に詳述する。
【0034】
図1に示すS106では、図8に示されるように、まず、積層体10の上面10A及び下面10Bに対して、それらを平面にするための研磨加工が施される。そのような加工により、導電膜34,36の端面が上方又は下方へ向けて適正に露出することになる。その後、スパッタ法や蒸着法などを利用して、上面10A及び下面10Bに対して、一定の厚みをもって、水平電極部材としての上面電極部材42及び下面電極部材44が形成される。この場合においては、各導電膜34の端面はコンタクト部104を介して上面電極部材42に電気的に接続され、これと同様に、各電極膜36の端面もコンタクト部106を介して下面電極部材44に電気的に接続される。
【0035】
図1のS107では、積層体10の下面側にバッキング51が接着される。後述するように、そのバッキング51は多数の信号線を内蔵したものであり、積層体10へのバッキング51の接着にあたっては例えば導電性接着剤などが利用される。
【0036】
そして、S108では、S107で形成された組立体(バッキング51付きの積層体10)に対し、図9及び図10に示されるように、複数の分離溝が切削加工により形成される。ここで、図10は、図9に示すA−A’断面を示すものであり、図10における左右方向はY方向であり、その上下方向はZ方向である。
【0037】
具体的には、上述した補強材38の中央部を貫通するように、幅W3をもって、上面側から複数の分離溝46,48がX方向に一定間隔で形成される。ここで、各分離溝(第5溝)46,48は、Y方向に伸長している。各分離溝46は、上面側に変位した各第1特定構造(第1対向構造)200Uに対して形成されるものであり、各分離溝48(第6溝)は、下面側に変位した各第2特定構造(第2対向構造)200Dに対して形成される。各特定構造200U,200Dについては、後に詳述するが、各特定構造200U,200Dは、分離溝46,48に対して左右対称構造を有する。ここで、それらの分離溝46,48の幅W3は、上記の補強材38の幅よりも小さく、例えばそのW3は、0.03mmである。また、それらの分離溝46,48の深さL3は、少なくとも、バッキング51における電極部材60を貫通する深さに設定され、例えば、そのL3は0.6mmである。
【0038】
図10に示すように、積層体10には、Y方向に並んだ複数の分離溝50も形成される。各分離溝50は、X方向に伸長している。各分離溝50の幅及び深さは、分離溝46,48の幅W3及び深さL3と同じである。ちなみに、複数の分離溝50は、複数の分離溝46,48の形成の前あるいは後に形成される。
【0039】
複数の分離溝46,48とは異なるサイズで複数の分離溝50を形成することも可能である。ただし、複数の分離溝50の形成に際しても、少なくとも積層体10及び電極部材60が切断される深さまで切削を行う必要がある。各分離溝46,48,50に対して、絶縁材料、音響分離材料、補強材料などを充填するようにしてもよい。
【0040】
図9において、バッキング51について説明すると、そのバッキング51は、大別してバッキング材料52、その上面に設けられた電極部材60、及び、バッキング材料52内にマトリクス状に設けられた複数の信号線58によって構成される。複数の信号線58は、複数の振動素子の二次元配列に対応した配列で設けられている。各信号線58は、その内部のシグナルリードとして機能する芯材56と、それを取り囲む被覆層54と、によって構成される。
【0041】
以上のように、積層体10に対して、X方向に並んだ複数の分離溝46,48を形成し、且つ、積層体10に対して、Y方向に並んだ複数の分離溝50を形成すると、それによって、積層体10が複数の振動素子に分割される。その状態では、図2に示した圧電部材12は、複数の圧電層12Aに分割されており、これと同様に、圧電部材14,16についても、それぞれ複数の圧電層14A,16Aに分割されている。また、図2に示した内部電極部材18,20についても、複数の内部電極層18B,20Bに分割されている。また、上述したように、バッキング51における電極部材60も複数に分割され、これにより複数の電極パッド60Aが構成されている。電気的な接続関係については後に図12を用いて説明する。
【0042】
図11には、図9に示すB−B’断面が示されている。上述したように、複数の分離溝46(あるいは48)の形成により、X方向(図中の左右方向)に隣接する振動素子ペアごとに、そのペアを構成する2つの振動素子の端部に跨って、特定構造200が形成される。特定構造200としては、グランド用の第1特定構造200Uと、シグナル用の第2特定構造200Dとがある(図9参照)。それらの特定構造200U,200Dは、互いに上下対称の関係にある。また、それらの特定構造200U,200Dは、それぞれが、その中心面(具体的には、分離溝46,48の中心に仮想的に存在する垂直面)に対して面対称の構造を有する。
【0043】
図11に示すように、特定構造200は、一方側振動素子に形成された垂直電極層(側面電極層)34Aと、他方側振動素子に形成された垂直電極層(側面電極層)34Bと、それらの垂直電極層34A,34Bの間に存在するギャップ領域と、を有する。より詳しくは、特定構造200は、一方側振動素子に形成された垂直絶縁層26A、垂直電極層34A及び側面補強層38Aと、他方側振動素子に形成された垂直絶縁層26B、垂直電極層34B及び側面補強層38Bと、側面補強層38A,38Bの間に存在する分離溝46と、で構成される。この例では、ギャップ領域は、側面補強層38A,38B及び分離溝46,48を合わせた領域として定義される。後述する他の例では、ギャップ領域は、複合化用の充填層、及び分離溝46を合わせた領域として定義される。
【0044】
図1におけるS109では、以上のように複数の振動素子からなるアレイ振動子が形成された後、そのアレイ振動子の上面側に例えば銅箔などによって構成されるグランド電極部材が設けられ、更に、その上に二次元配列された複数の整合層が設けられる。そのように形成された組立体が図示されていない探触子ケース内に配置される。
【0045】
図12には、アレイ振動子における電気的な接続関係が模式的に示されている。ここで、振動素子202,204に着目する。振動素子202,204はそれらの間を境として互いに対称の構造を有している。振動素子202においては、上方から奇数番目に存在する上面電極層42A及び内部電極層20Bに対して、垂直電極層34Bが電気的に接続されている。また、上方から偶数番目に存在する内部電極層18B及び下面電極層44Aに対して、垂直電極層36Aが電気的に接続されている。よって、下面電極層44Aにシグナルリードを接続し、上面電極層42Aにグランド電極部材を接続すれば、振動素子202をいわゆる積層型振動素子として機能させることができる。振動素子204においても、上記同様に、上方から奇数番目に存在する上面電極層42A及び内部電極層20Bに対して、垂直電極層34Aが電気的に接続されている。また、上方から偶数番目に存在する内部電極層18B及び下面電極層44Aに対して、垂直電極層36Bが電気的に接続されている。
【0046】
振動素子202における垂直電極層36Aと、振動素子204における垂直電極層36Bは対称関係にあるためにその製作は容易である。また、振動素子202における垂直電極層36Aと、振動素子204における垂直電極層36Bは近接対向しているが、互いに同じ極性を有しているので、絶縁性の面で有利である。
【0047】
上記実施形態に係る超音波探触子によれば、積層型振動素子を利用することができるので、電気的なインピーダンスを低減することができ、また垂直電極層を利用するので振動素子における振動面積のロスあるいは振動効率の低下といった問題を軽減又は解消することができる。すなわち高感度化を図ることが可能となる。さらに、上述した製造プロセスによれば、2種類の特定構造を互い違いに設定して、各積層型振動素子に対して確実に電気的接続を行える。更に、対向する2つの垂直電極層の極性が同じであるので、シグナルラインとグランドラインとの間の耐電圧レベルを上げることができる。
【0048】
以下に、超音波探触子の製造プロセスの他の幾つかの例について説明する。以下に説明する各製造プロセスは、上記製造プロセスと同様に、複数の特定構造を構築する工程を有し、一方、上記製造プロセスとは異なり、積層体を複合化する工程を有する。なお、それぞれの例において、同様の構成には同一符号を付することにする。
【0049】
まず、図13〜図20を用いて、超音波探触子の製造プロセスの第二例について説明する。この例は、積層体に対する複合化を前もって行うことを特徴としている。
【0050】
図13には、製造プロセスがフローチャートとして示されている。S201では、積層体が複合化される。これを具体的に説明する。図14には積層体10が示されている。この積層体10は、図2に示した積層体10と同一であるが、図14と図2とでは、断面の方向が異なっている。図15に示すように、積層体10の下面側に、接着材料302を利用してベース部材300が接合される。次に、図16に示すように、積層体10に対して、その上面側から複数の複合化用の溝304がY方向に一定間隔をもって形成される。その溝304の深さは、積層体10の全体を越えて、ベース部材300が若干切削される程度である。複数の溝304の形成により、圧電部材12,14,16は複数の要素12B,14B,16Bに分割され、同時に、複数の内部電極部材18,20も複数の要素18B,20Bに分割される。この段階において、複数の圧電部305が形成される。各圧電部305は、垂直方向に積層された要素12B,14B,16B,18B,20Bで構成される。ベース部材300によって複数の圧電部305がバラバラに分離してしまう問題が防止されている。次に、複数の溝304に対して、充填材料としての樹脂材料が充填され、その樹脂材料を硬化させるために積層体10が加熱される。これにより、複数の樹脂層(樹脂部)306が形成される。樹脂材料は、例えば、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂などを主成分とする複合化のための材料である。複数の樹脂層306が形成された後に、ベース部材300が積層体10から取り除かれる。その状態が図17に断面図として示されている。図17では、複合化された積層体が符号310で示されている。図18は積層体310の斜視図である。図18においては後に形成される複数の基礎溝22,24が破線で示されている。
【0051】
図13に示すS202では、図1に示したS101〜107の工程が実行される。次に、積層体310から、1Dアレイ振動子を作成する場合には、S203からS204の工程が実行され、一方、積層体310から、2Dアレイ振動子を作成する場合には、S203からS205の工程が実行される。
【0052】
S204の工程では、図19に示されるように、積層体310に対して、X方向に並んだ複数の分離溝46,48が形成される。各分離溝46,48はY方向に伸長する溝である。各分離溝46は、各特定構造(グランド用特定構造)200Uごとに、その中心位置に形成される。各分離溝48は、各特定構造(シグナル用特定構造)200Dごとに、その中心位置に形成される。図19における積層体310において、Y方向には、互い違いに複数の圧電部305及び複数の樹脂部306が結合している。X方向には、複数の振動素子310Aが並んでいる。そして、隣接する2つの振動素子ごとにそれらに跨って、特定構造200U又は200Dが構築されている。以上により、X方向をアレイ方向とし、かつY方向に積層された1Dアレイ振動子が構成される。
【0053】
一方、S205の工程では、図20に示されるように、積層体310に対して、X方向に並んだ複数の分離溝46,48と、Y方向に並んだ複数の分離溝50と、が形成される。各分離溝46,48はY方向に伸長する溝である。各分離溝50はX方向に伸長する溝である。それらの分離溝46,48,50の形成によって、二次元配列された複数の振動素子310Bが構成される。より詳しくは、各分離溝46は、各特定構造(グランド用特定構造)200Uごとに、その中心位置に形成される。各分離溝48は、各特定構造(シグナル用特定構造)200Dごとに、その中心位置に形成される。各分離溝50は、圧電部305又は樹脂部306のいずれかを二分割するように形成され、あるいは、圧電部305と積層部306の境界に形成される。図20に示す例では、各分離溝50によって、圧電部(全体)305が二分割され、これによって、Y方向の一方側振動素子に含まれる圧電部(一方側半分)305Aと、Y方向の他方側振動素子に含まれる圧電部305B(他方側半分)と、が形成されている。以上により、Y方向に複合化された2Dアレイ振動子が構成される。
【0054】
図13のS206では、図1のS109と同様に、積層体310に対して、他の部材が設けられる。なお、Y方向における圧電部及び樹脂部についての個数、サイズ及びピッチは任意に定めることができる。例えば、1つの振動素子に対して、より多くの個数の圧電部及び樹脂部を設けるようにしてもよい。図19及び図20においては、図9などに示されていた電極部材60、複数の信号線58などは図示省略されている。このことは、後に示す図22,23,31,32,34,35についても同様である。
【0055】
次に、図21〜図23を用いて、超音波探触子の製造プロセスの第三例について説明する。この例は、積層体に対する複合化を事後的に行うことを特徴としている。
【0056】
図21には、製造プロセスがフローチャートとして示されている。S301では、図1に示したS101〜S107の工程が実行される。S302では、複数の特定構造、上面電極部材及び下面電極部材が形成され、且つ、バッキングが接合された積層体に対して、Y方向に並んだ複数の複合化用の溝が形成される。ここで、その複数の複合化用の溝はそれぞれがX方向に伸長した溝である。S303では、複数の複合化用の溝に対して複合化用の樹脂材料が充填され、その樹脂材料は加熱により硬化される。
【0057】
S303の後、1Dアレイ振動子を形成する場合には、S304からS305が実行される。S305では、図22に示されるように、X方向に並ぶ複数の分離溝46,48が形成される。各分離溝46,48はY方向に伸長した溝である。これによって、X方向に並んだ複数の振動素子320Aが構成される。各振動素子320Aは、Y方向に交互に並んだ複数の圧電部326及び複数の樹脂部324によって構成される。各樹脂部324は、上述したように、複合化用の溝322に対して樹脂材料を充填することによって形成されたものである。上面電極部材42及び下面電極部材44を形成した後に、複数の溝322が形成されるために、上面電極層42及び下面電極層44も複数の溝322によって複数の電極層に切断される(図22には複数の上面電極層42Bが示されている)。よって、各樹脂層(樹脂部)324の上面325A及び下面325Bには、上面電極層及び下面電極層は設けられていない。
【0058】
一方、S303の後、2Dアレイ振動子を形成する場合には、S304からS306が実行される。S306では、図23に示されるように、X方向に並ぶ複数の分離溝46,48と、Y方向に並ぶ複数の分離溝50が形成される。各分離溝46,48はY方向に伸長した溝である。各分離溝50はX方向に伸長した溝である。これによって、X方向及びY方向の二次元に並んだ複数の振動素子320Bが構成される。各振動素子320Bは、Y方向に交互に並んだ少なくとも1つの圧電部326及び少なくとも1つの樹脂部324によって構成される。各樹脂部324は、上述したように、複合化用の溝322に対して樹脂材料を充填することによって形成されたものである。各分離溝50は、いずれかの圧電部又は樹脂部を二分する位置に形成され、あるいは、いずれかの圧電部及び樹脂部の境界位置に形成される。図23の例では、各圧電部が各分離溝50によって二分割され、これによって2つの圧電部326Aが形成されている。上面電極部材42及び下面電極部材44を形成した後に、複数の溝322が形成される点は、図22に示した例と同じである。図21のS307では、図22及び図23に示した複数の振動素子320に対して、他の部材が接合される。
【0059】
次に、図24〜図32を用いて、超音波探触子の製造プロセスの第四例について説明する。この例は、複数の特定構造の形成と同時に、積層体に対するX方向の複合化を行うことを特徴としている。
【0060】
図24には、製造プロセスがフローチャートとして示されている。S401では、図1に示したS101と同様に、積層体に対して複数の基礎溝が形成される。具体的には、図25に示す積層体10(図2に示した積層体10と同じ)に対して、その上面からX方向に一定の間隔で複数の幅広の基礎溝が形成され、その下面からX方向に一定の間隔で複数の幅広の基礎溝が形成される。それらの基礎溝の幅は、複合化のために必要な大きさに設定され、図3に示した通常の場合よりも、大きく設定される。
【0061】
次に、S402では、S102と同様に、各基礎溝の内部に絶縁材が充填され、その絶縁材が硬化される。S403では、S103と同様に、複数の切削溝が形成される。これによって、各基礎溝内に一対の垂直絶縁層が形成される。S404では、S104と同様に、各基礎溝の内面上に導電膜が形成される。その状態が図26に示されている。導電膜34,36は、垂直絶縁層26A,26B,28A,28Bの内面に形成されている。
【0062】
図24のS405では、図27に示すように、まず、積層体10の下面に対して接着材料302を用いてベース部材300が接合され、次に、各切削溝30,32を積層体10の全体にわたって貫通溝とするための加工が施される。すなわち、各切削溝30については、上から3番目の圧電部材16を部分的に切削する加工が施され、各切削溝32については、上から1番目の圧電部材12を部分的に切削する加工が施される。これによって、図28に示すように、積層体10に対して、複数の複合化用の溝329が形成される。また、S405では、それらの複合化用の溝329に対して、複合化のための樹脂材料330が充填され、その樹脂材料330が加熱されて硬化される。樹脂材料330は樹脂層つまり樹脂部を構成する。
【0063】
図24のS406では、図29に示すように、ベース部材300が積層体10から取り除かれる。これにより、複合化された積層体332が得られる。次に、図30に示すように、積層体332に対して、上面電極部材42及び下面電極部材44が形成される。また、下面電極部材44に対してバッキングが接着される。
【0064】
1Dアレイ振動子(タイプA)を形成する場合には、S407からS408が実行される。S408では、複数の特定構造の中心位置に対応して、X方向に並んだ複数の分離溝46,48が形成される。これによって、図31に示すように、複数の振動素子332AがX方向に並んだ1Dアレイ振動子が構成される。図31における符号334は1つの振動素子332Aを示し、符号336は圧電部を示している。符号338は、圧電部36の両隣に形成された一対の樹脂部を示している。このように、各振動素子332Aは、X方向に複合化されている。
【0065】
一方、1Dアレイ振動子(タイプB)を形成する場合には、S407からS409が実行される。S409では、Y方向に並んだ複数の分離溝50が形成される。各分離溝50はX方向に伸長した溝である。これによって、図32に示すように、複数の振動素子332BがY方向に並んだ1Dアレイ振動子が構成される。各振動素子332Bは、その長手方向がX方向であり、その方向に複合化されている。図32において、第1の観点から見れば、各振動素子332Bは、複数の要素(区分に相当)340,341を連結した部材である。隣接する2つの要素340,341に跨って特定構造200U’又は200D’が形成されており、その特定構造200U’又は200D’は中央部分に樹脂層(樹脂部)344を有する。この図32に示す例では、樹脂層344は分離溝を有していないが、観念的には、樹脂層344は、一方側の部分340に属する部分343Aと、他方側の部分341に属する部分343Bとに分けられる。第2の観点から見れば、各振動素子332Bは、X方向に互い違いに設けられた複数の圧電部342及び複数の樹脂部344を連結した部材である。
【0066】
他方、2Dアレイ振動子を形成する場合には、S407からS410が実行される。S410では、複数の特定構造の中心位置に対応して、X方向に並んだ複数の分離溝が形成され、また、Y方向に並んだ複数の分離溝が形成される。これによって、X方向に複合化された圧電体が、X方向及びY方向に整列した複数の振動素子に分割される。つまり、図31に示す圧電体332に対して、更に、Y方向に並んだ複数の分離溝(図10に示した複数の分離溝50に相当する)を形成することにより、複数の振動素子が構成される。図24のS411では整合層の形成など他の加工が施される。
【0067】
次に、図33〜図35を用いて、超音波探触子の製造プロセスの第五例について説明する。この例は、積層体に対するX方向及びY方向の複合化を特徴としている。
【0068】
図33には、製造プロセスのフローチャートが示されている。Y方向についての積層体に対する事前複合化を行う場合、S501からS502が実行され、次にS503が実行される。具体的には、S502では、図13に示したS201が実行され、圧電体に対してY方向の複合化を施す加工が実施される(図17及び図18参照)。そして、S503では、図24に示したS401〜S406の工程が実行され、X方向に並んだ複数の特定構造の構築と同時に、X方向に並んだ複数の樹脂層が形成される。これによって、X方向及びY方向の両方向に複合化された圧電体が構成される。
【0069】
一方、Y方向に事後複合化を行う場合、S501からS504が実行され、次にS505が実行される。具体的には、S504において、図24に示したS401〜S406の工程が実行され(図30参照)、次に、S505では、図21で示したS302及びS303と同様に、Y方向に複数の複合化用の溝が形成され、各溝に対して複合化用の樹脂材料が充填される。これによって、X方向及びY方向の両方向に複合化された圧電体が構成される。
【0070】
上記の二次元複合化の後、1Dアレイ振動子(タイプA)を形成する場合には、S506,S507を経て、S508が実行される。そのS508では、X方向に並んだ複数の分離溝が形成される。ここで、各分離溝はY方向に伸長した溝である。これによって、X方向に並んだ複数の振動素子が構成される。それらの複数の振動素子は、後に説明する図34に示される構成から、複数の分離溝50を除いたものに相当する。
【0071】
上記の二次元複合化の後、1Dアレイ振動子(タイプB)を形成する場合には、S506,S507を経て、S509が実行される。そのS509では、Y方向に並んだ複数の分離溝が形成される。ここで、各分離溝はX方向に伸長した溝である。これによって、Y方向に並んだ複数の振動素子が構成される。それらの複数の振動素子は、後に説明する図34に示される構成から、複数の分離溝46,48を除いたものに相当する。
【0072】
上記の二次元複合化の後、2Dアレイ振動子(タイプA)を形成する場合には、S506,S510を経て、S511が実行される。そのS511では、X方向に並んだ複数の分離溝が形成され、また、Y方向に並んだ複数の分離溝が形成される。これによって図34に示す二次元アレイ振動子が構成される。具体的には、二次元に複合化された積層体350に対して、X方向に複数の分離溝46,48が形成される。各分離溝46,48は、Y方向に伸長した溝であり、各特定構造200U,200Dごとに形成される。ある1つの振動素子350Aに着目した場合、その振動素子350Aは、X方向においては圧電区間336と、その両側に形成された2つの樹脂区間338とで構成される。符号334は、X方向における振動素子350Aの全幅を示している。その振動素子350Aは、Y方向においては、2つの圧電区間351と1つの樹脂区間352とで構成される。よって、上方から見て、振動素子350Aは、H形状を有する樹脂部と矩形の2つの圧電部とで構成される。図34に示す構成は一例であり、例えば、Y方向に所望数の圧電区間及び樹脂区間を設けるようにしてもよい。
【0073】
上記の二次元複合化の後、2Dアレイ振動子(タイプB)を形成する場合には、S506,S510を経て、S512が実行される。そのS512では、X方向に並んだ複数の分離溝が間引き形成され、また、Y方向に並んだ複数の分離溝が間引き形成される。具体的には、二次元に複合化された積層体350に対して、X方向に複数の分離溝48が形成される。各分離溝48は、Y方向に伸長した溝であり、各特定構造200Dごとに形成される。つまり、図3に示す例では、各特定構造200U(図34参照)については分離溝46は形成されていない。もちろん、複数の特定構造の並びの中で、図3に示すように1つおきの特定構造に対して分離溝を形成するのではなく、m(mは2以上)個おきの特定構造に対して分離溝を形成するようにしてもよい。一方、複数の分離溝50は、任意の間隔で形成することができ、Y方向について、1つの振動子当たり、より多くの圧電区間351及び樹脂区間352を設けるようにしてもよい。
【0074】
図35に示す例では、ある1つの振動素子350Bに着目した場合、その振動素子350Bは、X方向においては、2つの圧電区間402と、それらの圧電区間402に挟まれる樹脂区間406と、2つの圧電区間の両側に設けられた2つの樹脂区間404と、で構成される。符号400は、X方向における振動素子350Bの全幅を示している。その振動素子350Bは、Y方向においては、3つの圧電区間351と、2つの樹脂区間352とで構成される。よって、上方から見て、振動素子350Bは、6(=2×3)個の圧電部と、それらの圧電部の間に存在する格子形状をもった樹脂部と、で構成される。図35に示す構成は一例であり、例えば、X方向及びY方向に、より多くの圧電区間、樹脂区間を設定するようにしてもよい。
【0075】
図35に示す例では、X方向について、隣接する2つの振動素子の間に特定構造200Dが形成され、また振動素子350Bの中央部に特定構造200U’が形成されている。特定構造(素子間の特定構造)200Dと特定構造(素子内部の特定構造)200U’とを対比した場合、素子間の特定構造200Dが分離溝46を有するのに対し、素子内部の特定構造200U’が分離溝を有しない点で異なる。しかし、素子間の特定構造200Dと素子内部の特定構造200U’は、同極性をもった面対称な一対の垂直電極層を有する点で共通する。特に、両者は、絶縁性を良好にできる点、構造の構築が容易である点、で共通する。
【0076】
上記の第二例〜第五例によれば、積層化及び複合化されたアレイ振動子を実現できる。特に、積層化の後に複合化を行うので、垂直方向に並ぶ各部材間において水平方向の位置決め誤差を排除できる。また、その複合化も溝形成及び材料充填によって行えるので容易に実現できる。
【0077】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、新しい構造及び良好な性能を有するアレイ振動子を提供でき、また、そのための効率的な製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 超音波探触子の製造プロセスの第一例を説明するためのフローチャートである。
【図2】 積層体を示す断面図である。
【図3】 基礎溝が形成された積層体を示す断面図である。
【図4】 絶縁材料が充填された積層体を示す断面図である。
【図5】 切削溝が形成された積層体を示す断面図である。
【図6】 導電膜が形成された積層体を示す断面図である。
【図7】 補強材が充填された積層体を示す断面図である。
【図8】 上面電極部材及び下面電極部材が設けられた積層体を示す断面図である。
【図9】 アレイ振動子のX−Z断面を示す断面図である。
【図10】 アレイ振動子のY−Z断面を示す断面図である。
【図11】 図9に示すB−B’断面を示す断面図である。
【図12】 各振動素子における電気的な接続関係を説明するための模式図である。
【図13】 超音波探触子の製造プロセスの第二例を説明するためのフローチャートである。
【図14】 積層体を示す断面図である。
【図15】 ベース部材が暫定的に接合された積層体を示す断面図である。
【図16】 複数の複合化用溝が形成された積層体を示す断面図である。
【図17】 樹脂材料が充填された後の積層体を示す断面図である。
【図18】 Y方向に複合化された積層体を示す斜視図である。
【図19】 Y方向に複合化された積層型1Dアレイ振動子を示す斜視図である。
【図20】 Y方向に複合化された積層型2Dアレイ振動子を示す斜視図である。
【図21】 超音波探触子の製造プロセスの第三例を説明するためのフローチャートである。
【図22】 上面電極部材及び下面電極部材を設けた後に積層体に対してY方向に複合化を行うことにより製作された積層型1Dアレイ振動子を示す斜視図である。
【図23】 上面電極部材及び下面電極部材を設けた後に積層体に対してY方向に複合化を行うことにより製作された積層型2Dアレイ振動子を示す斜視図である。
【図24】 超音波探触子の製造プロセスの第四例を説明するためのフローチャートである。
【図25】 積層体を示す断面図である。
【図26】 基礎溝、絶縁材料及び導電膜が形成された積層体を示す断面図である。
【図27】 ベース部材が暫定的に接合された積層体を示す断面図である。
【図28】 複合化用の樹脂材料が充填された積層体を示す断面図である。
【図29】 ベース部材が取り外された積層体を示す断面図である。
【図30】 上面電極部材及び下面電極部材が設けられた積層体を示す断面図である。
【図31】 X方向に複合化され、X方向に分離された積層型1Dアレイ振動子を示す図である。
【図32】 X方向に複合化され、X方向に分離された積層型2Dアレイ振動子を示す図である。
【図33】 本発明に係る製造プロセスの第五例を説明するためのフローチャートである。
【図34】 X方向及びY方向に複合化された積層型2Dアレイ振動子の一例を示す斜視図である。
【図35】 X方向及びY方向に複合化された積層型2Dアレイ振動子の他の例を示す斜視図である。
【符号の説明】
10 積層体、12,14,16 圧電部材、18,20 内部電極部材、22,24 基礎溝、26,28 絶縁材料、26A,26B 垂直絶縁層、34A,34B 垂直電極層、38A,38B 側面補強層、30,32 切削溝、34,36 導電膜、38,40 補強材、42 上面電極部材、44 下面電極部材、46,48,50 分離溝、51 バッキング、200U,200U’ グランド用の第1特定構造、200D,200D’ シグナル用の第2特定構造、305,326,336,342,351,402 積層型圧電部、306,324,338,343,352,404 樹脂部、310,332 複合化された積層体、330 樹脂材料。

Claims (9)

  1. 複数の振動素子を有するアレイ振動子を含み、
    前記各振動素子は、水平方向に連結された少なくとも1つの圧電部及び少なくとも1つの複合化用の樹脂部を有し、
    前記圧電部は、垂直方向に所定順序で積層された複数の圧電層及び複数の水平電極層と、前記複数の水平電極層に対して所定の接続関係をもって電気的に接続された一対の垂直電極層と、を有し、
    前記圧電部は、更に、前記複数の圧電層及び前記複数の水平電極層で構成される圧電部本体の両側面と、前記一対の垂直電極層と、の間に設けられた一対の垂直絶縁層を有し、
    前記樹脂部は、垂直方向に連続性をもった充填層として構成され、
    前記各振動素子が垂直方向に積層化され且つ水平方向に複合化され、
    隣接する振動素子間において、ギャップ領域を介して隣り合う、一方の振動素子が有する垂直電極層及び垂直絶縁層と、他方の振動素子が有する垂直電極層及び垂直絶縁層と、が当該ギャップ領域を中心として対称の位置関係にあることを特徴とする超音波探触子。
  2. 請求項1記載の超音波探触子において、
    前記各垂直絶縁層は垂直方向に広がる面状の形態を有することを特徴とする超音波探触子。
  3. 請求項1記載の超音波探触子において、
    前記各振動素子は、第1水平方向及び第2水平方向の一方について複合化されたことを特徴とする超音波探触子。
  4. 請求項1記載の超音波探触子において、
    前記各振動素子は、第1水平方向及び第2水平方向の両方について複合化されたことを特徴とする超音波探触子。
  5. 複数の圧電部材及び複数の内部電極部材を有する積層体に対して、水平方向に並んだ複数の複合化溝を形成し、各複合化溝内に樹脂材料を充填し、これにより、複合化された積層体を形成する工程と、
    前記複合化された積層体に対して、複数の垂直電極層を形成する工程と、
    前記複数の垂直電極層の形成後に、前記複合化された積層体に対して、一対の表面電極部材を形成する工程と、
    前記一対の表面電極部材の形成後に、前記複合化された積層体を複数の振動素子に分割する工程と、
    を含むことを特徴とする超音波探触子の製造方法。
  6. 複数の圧電部材及び複数の内部電極部材を有する積層体に対して、複数の垂直電極層を形成する工程と、
    前記複数の垂直電極層の形成後に、前記積層体に対して、一対の表面電極部材を形成する工程と、
    前記一対の表面電極部材の形成後に、前記積層体に対し、水平方向に並んだ複数の複合化溝を形成し、各複合化溝内に充填材料を充填し、これにより、複合化された積層体を形成する工程と、
    前記複合化された積層体を複数の振動素子に分割する工程と、
    を含むことを特徴とする超音波探触子の製造方法。
  7. 複数の圧電部材及び複数の内部電極部材を有する積層体に対して、複数の垂直電極層を形成する工程と、水平方向に並んだ複数の複合化溝を形成し、各複合化溝内に樹脂材料を充填する工程と、を有し、複合化された積層体を形成する工程と、
    前記複合化された積層体に対して、一対の表面電極部材を形成する工程と、
    前記一対の表面電極部材の形成後に、前記複合化された積層体を複数の振動素子に分割する工程と、
    を含むことを特徴とする超音波探触子の製造方法。
  8. 複数の圧電部材及び複数の内部電極部材を有する積層体に対して、Y方向に並んだ複数の複合化溝を形成し、各複合化溝内に充填材を充填し、これにより、Y方向に複合化された積層体を形成する工程と、
    前記Y方向に複合化された積層体に対して、X方向に並んだ複数の垂直電極層を形成する工程と、X方向に並んだ複数の複合化溝を形成し、各複合化溝内に樹脂材料を充填する工程と、を有し、二次元に複合化された積層体を形成する工程と、
    前記二次元に複合化された積層体に対して、一対の表面電極部材を形成する工程と、
    前記一対の表面電極部材の形成後に、前記二次元に複合化された積層体を複数の振動素子に分割する工程と、
    を含むことを特徴とする超音波探触子の製造方法。
  9. 複数の圧電部材及び複数の内部電極部材を有する積層体に対して、複数の垂直電極層を形成する工程と、X方向に並んだ複数の複合化溝を形成し、各複合化溝内に充填材料を充填する工程と、を有し、X方向に複合化された積層体を形成する工程と、
    前記X方向に複合化された積層体に対して、一対の表面電極部材を形成する工程と、
    前記一対の表面電極部材の形成後に、前記X方向に複合化された積層体に対して、Y方向に並んだ複数の複合化溝を形成し、各複合化溝内に充填材料を充填し、これにより、二次元に複合化された積層体を形成する工程と、
    前記二次元に複合化された積層体を複数の振動素子に分割する工程と、
    を含むことを特徴とする超音波探触子の製造方法。
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