JP3839334B2 - 衝撃特性、耐食性に優れたCr−Mo−V系鋼 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、電子部品製造用高温超高圧機器、例えば人工水晶製造用オートクレーブといった高温超高圧の腐食環境下で使用される容器およびその部材に好適な衝撃特性、耐食性に優れたCr−Mo−V系鋼に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、高温超高圧の腐食環境下で使用されるオートクレーブなどの材料としては、C、Si、Mn、Mo、Cr、Vといった元素を微量添加した組成のCr−Mo−V系鋼が採用されている。該鋼は、鋼塊溶製、鍛造後、焼入、焼戻熱処理工程を経て製造され、1000MPaに近い室温引張強度を有する。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
従来材の成分系の材料は、上記のように高強度である反面、シャルピー吸収エネルギーは、50℃の試験温度で10〜15Jと非常に低靭性である。しかも靱性の改善に有効であるNiは高価であると同時に、水晶などの育成には性能に悪影響を及ぼすことから添加を控えている。またこの材料は粘性変形した非金属介在物であるMnSの他、ストリーク状のマクロ、ミクロ偏析が多いのが特徴であり、機械的性質のバラツキの原因となる可能性があった。
すなわち、上記材料は高強度、低靭性の性質を有し、しかも偏析が多く、非金属介在物も粘性変形して内在していることから、機械的性質のバラツキの原因となるばかりか、苛酷な腐食環境では材料(機器)の安全性が損なわれかねない問題点を含んでいる。
【0004】
上記材料によって電子部品製造用高温超高圧機器を構成する場合、例えば内面が苛性ソーダにさらされる強アルカリ環境においては、初回の供用時に表面に耐食性皮膜を形成し、その後高温、高圧での長期運転に供する。このような苛酷な腐食環境においては上記偏析やMnSなどの粘性非金属介在物を起点として松葉状に表面が腐食されることがあり、切り欠きとなって残存する可能性がある。高温超高圧圧力機器の起動、停止時など圧力変動が生じる場合においては表面処理が不十分で腐食性流体が直接鋼に接触する場合には、このような松葉状腐食による表面切り欠きから亀裂の発生、進展要因となり得る。
【0005】
本発明は、上記のような従来の課題を解決するためになされたものであり、微量合金元素バランスの調整、適正な熱処理条件の選定により信頼性に優れた高温超高圧圧力機器用材料を提供することを目的としている。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明の構成においては、Cr−Mo−V系鋼をベースとする多くの試験材を用いて、引張特性、シャルピー衝撃特性、非金属介在物の形態観察、密度差による偏析傾向に及ぼす合金元素の影響について詳細な検討を実施した。その結果、主要合金元素の含有量のバランスを適正化することにより、従来の高強度を維持しつつ、低温靭性を改善することを可能としたものである。また、所望により、上記鋼に加えCaを微量添加して鋼中に含まれる微量SをCaSとして球状化し、MnSのような粘性変形する非金属介在物の形成を抑制する。さらに得られた成分系を用いて凝固計算を行い、溶鋼中の密度差による偏析形態から合金元素のバランスを適正化することにより、マクロ、ミクロ偏析を抑制する新規な合金組成を見出し、本発明に至った。
【0007】
すなわち、上記課題を解決するため本発明の衝撃特性、耐食性に優れたCr−Mo−V系鋼のうち、請求項1記載の発明は、質量%で、C:0.05〜0.50%、Si:0.20%以下、Mn:0.80〜1.50%、Ni:0.30%以下、Cr:1.0〜2.0%、Mo:1.3〜2.0%、V:0.10〜0.50%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなることを特徴とする。
【0008】
請求項2記載のCr−Mo−V系鋼の発明は、請求項1記載の成分に加えて、Caを0.005%以下含有することを特徴とする。
【0009】
請求項3記載のCr−Mo−V系鋼の発明は、請求項1または2に記載の発明において、高温超高圧機器の全部または一部を構成することを特徴とする。
【0010】
以下、本発明における成分の限定範囲について詳細に説明する。
C:0.05〜0.50%
Cはマトリックス中に固溶してマルテンサイト変態を促進する元素であり、焼入れ性確保のためには不可欠である。同時にFe、Cr、Mo、Vなどと結合して炭化物を形成して、高温強度を高めるためにも不可欠の元素である。すなわち高温用部材として最低限必要である強度、硬さなどを保証するためには必須の元素である。その効果を発揮するためには最低0.05%以上の含有量が必要である。しかしながら多すぎる含有は炭化物の過度の粗大化を招きやすく、高温強度の低下をもたらすために、0.05〜0.50%の範囲に限定する。なお、同様の理由で、さらに下限を0.20%、上限を0.40%に限定するのが望ましい。
【0011】
Si:0.20%以下
Siは合金の溶解・精錬を行う際に脱酸元素として使用され、その結果、不純物として不可避的に含有することになる。しかしSiは炭化物の粗大化を促進するなど、合金の靭性を低下させる。従って極力低下することが望ましく、Siの含有量を0.20%以下に限定する。なお、同様の理由でさらに0.10%以下とするのが望ましい。
【0012】
Mn:0.80〜1.50%
MnはSiと同様に脱酸元素として有益な元素であり、焼入れ性の向上にも寄与する。その効果を発揮するためには最低0.80%以上の含有量が必要である。しかしながら多すぎる含有は靭性の劣化を招いたり、高温強度を低下させるので、その含有量は1.50%以下に限定する。なお、同様の理由で、さらに下限を1.00%、上限を1.30%に限定するのが望ましい。
【0013】
Ni:0.30%以下
Niは靭性を向上させたり、焼入れ性を高めたりするためには有効な元素である。しかしながら多すぎる含有は水晶などの育成において、その製品性能に悪影響を及ぼすことが知られている。従ってその含有量は0.30%以下に限定する。なお、上記作用を得るために、下限は0.10%とするのが望ましく、上記と同様の理由によりさらに上限を0.20%とするのが望ましい。
【0014】
Cr:1.0〜2.0%
Crは耐酸化性や高温での耐食性を確保するとともに、Cと結合して炭化物を形成することにより合金の強度を高めるために、高温用部材としては必要不可欠の添加元素である。その効果を発揮するために最低1.0%以上の含有が必要である。しかしながら多すぎる含有はδフェライトの生成を促進して、靭性の低下や高温強度の低下を招くので上限を2.0%とする。従ってその含有量を1.0〜2.0%の範囲に限定する。
【0015】
Mo:1.3〜2.0%
Moはマトリックス中に固溶して高温強度を向上させるとともに、炭化物の微細析出を促進し、かつその凝集を防止する効果がある。その効果を発揮するために1.3%以上の含有が必要である。しかしながら多すぎる含有はδフェライトの生成を促進して、靭性の劣化や高温強度の低下を招くので上限を2.0%とする。従ってその含有量は1.3〜2.0%の範囲に限定する。なお、同様の理由で、さらに下限を1.35%、上限を1.70%に限定するのが望ましい。
【0016】
V:0.10〜0.50%
VはCと結合して炭化物を形成し、高温強度や耐磨耗性の向上に寄与する。その効果を発揮させるためには、最低0.10%以上の含有が必要である。しかしながら多すぎる含有は炭化物の過度の粗大化を招きやすくなり、逆に高温強度の低下をもたらすため上限を0.50%とする。従ってVの含有量は0.10〜0.50%の範囲に限定する。なお、同様の理由で、さらに下限を0.20%、上限を0.40%に限定するのが望ましい。
【0017】
Ca:0.005%以下
CaはCa−Siとして酸化物や硫化物を形成するため、脱酸、脱硫元素として所望により使用される。しかしながら多すぎる含有は靭性を低下させる。従ってその含有量は0.005%以下の範囲に限定する。なお、同様の理由で上限をさらに0.003%に限定するのが望ましい。また、上記効果を確実に得るためにはCaを5.0ppm以上含有するのが望ましい。
【0018】
すなわち、本発明によれば、以下の作用を得ることができる。
(1)従来の高強度を維持しつつ、靭性値を改善する。
(2)非金属介在物を複合球状化に形態制御することにより粘性変形を抑制する。
(3)鋼中のマクロ、ミクロ偏析を軽減する。
【0019】
この結果、本発明のCr−Mo−V系鋼は、高温超高圧の腐食環境下で使用される機器、部材への好適な材料として提供され、電子部品製造用高温超高圧機器、例えば人工水晶製造用オートクレーブ用材料として優れた特性を発揮する。
【0020】
【実施例】
以下、本発明の実施例を詳細に説明する。
表1に示す組成を有する供試材を真空誘導溶解炉により50kg鋼塊に溶製した。溶製した各鋼塊は、拡散均質処理を施した後に熱間鍛造により厚さ30mm×幅120mmの板材とした。この板材から採取した試験片に、焼入れ処理として、960℃で3時間の熱処理を施した後に空冷し、焼戻処理として660℃で24時間の熱処理を施した後に炉冷した。
【0021】
得られた各試験材の室温強度を引張試験、靭性をシャルピー衝撃試験により評価した。図1に一部試験材毎の強度−靭性バランスを従来鋼に比較して示した。
図から明らかなように発明材(No.2〜5)は従来鋼(No.1)よりも衝撃特性に優れており、強度も極端な低下は認められていない。またCaの添加により強度、靭性の差異は認められない。
【0022】
次に、表2、図2は各試験材の清浄度と非金属介在物の形態を比較したものである。Ca無添加材においては確認された介在物形態は全てA系の粘性変形したMnを主とする硫化物であったのに対し、Caを添加することにより介在物形態が複合球状あるいは、C系のCaなどを主とする硫化物に変化し、より粘性変形がしにくいことが確認される。
【0023】
また図3は凝固計算による偏析形態確認結果を示したものである。Si、Mn、Cr、Moの含有量を適正化した本発明材は密度差がちょうど沈降型から浮上型に移行する範囲(0.0012〜0.002g/m3)にあり、従来材および比較材に比べて鋼塊軸心の成分濃化は大幅に改善され、同時に鋼塊中間層の逆V偏析も軽減することが確認された。
【0024】
【表1】
【0025】
【表2】
【0026】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明のCr−Mo−V系鋼によれば、質量%でC:0.05〜0.50%、Si:0.20%以下、Mn:0.80〜1.50%、Ni:0.30%以下、Cr:1.0〜2.0%、Mo:1.3〜2.0%、V:0.10〜0.50%を含有し、さらに所望によりCaを0.005%以下含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなるので、従来の高強度を維持しつつ、靭性値を改善し、非金属介在物を複合球状化に形態制御することが可能で、介在物の粘性変形抑制、鋼中のマクロ、ミクロ偏析軽減を可能にする信頼性に優れた高温超高圧機器および部材を提供できる。従って、機器全体の安全性の向上とともに、長寿命化のためには極めて有効である。
【図面の簡単な説明】
【図1】 各試験材の室温強度と50℃のシャルピー吸収エネルギーのバランスを示すグラフである。
【図2】 各種鋼の非金属介在物形態を比較した顕微鏡写真を模した図である。
【図3】 凝固計算により各種鋼の偏析形態を比較したグラフである。
Claims (3)
- 質量%で、C:0.05〜0.50%、Si:0.20%以下、Mn:0.80〜1.50%、Ni:0.30%以下、Cr:1.0〜2.0%、Mo:1.3〜2.0%、V:0.10〜0.50%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなることを特徴とする衝撃特性、耐食性に優れたCr−Mo−V系鋼。
- 請求項1記載の成分に加えて、Caを0.005%以下含有することを特徴とする衝撃特性、耐食性に優れたCr−Mo−V系鋼。
- 高温超高圧機器の全部または一部を構成することを特徴とする請求項1または2に記載の衝撃特性、耐食性に優れたCr−Mo−V系鋼。
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