JP3837818B2 - Frp厚肉エネルギー吸収体 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、厚肉筒状体のエネルギー吸収体に係り、特に、外周面の剥れを防止し安定したエネルギ吸収ができるFRP厚肉エネルギー吸収体に関する。
【0002】
【従来の技術】
図5に示す繊維複合材料(FRPという)の中空筒状体のエネルギー吸収体1aは図6に示すように、軸線方向に沿って圧縮力を受けると図示のように荷重作用端に圧潰8が生じ、多くのエネルギーを吸収する。また、図7に示すように、横軸に変位をとり、縦軸に荷重をとると、圧縮力の作用時には図示のように当初に最大荷重Pmaxが発生して圧潰が始まり、圧潰により以下、平均荷重Pmeanに近いほぼ安定した荷重が作用する。エネルギー吸収量Eは図7の斜線で示した面積に相当するため、Pmean/Pmaxの値が大きいとEは大きくなる。そして、かゝるエネルギー吸収体1aでは、一般に内径に対して比較的薄肉の場合には前記のPmean/Pmaxが大きく安定したエネルギー吸収が行なわれるということが知られている。
【0003】
また、図8に示すように、エネルギー吸収量Eは荷重作用方向の繊維配向量によって異なるということが知られている。エネルギー吸収体1aは荷重作用方向(0°配向,又は軸方向という)とこれと直交する方向(90°配向,又は周方向という)に沿って繊維を配向した織布からなる。図8の曲線Cは図9(a)に示すように0°配向の繊維配向量が90°配向の繊維配向量よりも多い場合の荷重−変位曲線を示し、曲線Fは図9(b)に示すように0°配向と90°配向の繊維配向量がほぼ等しい場合の荷重−変位曲線を示す。図示のように、0°配向の繊維配向量が90°配向のものより多いとエネルギー吸収量が大きいということが知られている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
以上の説明は、内径D(図5)に対する肉厚t(図5)が比較的薄い薄肉の筒状体のエネルギー吸収体1aに適用されるものであり、前記のものは内径Dが40[mm]で肉厚tが約5[mm]程度の場合のデータである。一方、図10に示すように、例えば内径Dが35[mm]に対して肉厚tが7.5[mm]程度の比較的厚肉の筒状体のエネルギー吸収体1bの場合には次のような問題点がある。
【0005】
すなわち、一般に構造物等に使用されるエネルギー吸収体1bは厚肉の筒状体からなり、かつ図10に示すように0°配向が90°配向よりも繊維配向量の多い朱子織織布からなる。しかしながら、この厚肉のエネルギー吸収体1bに圧縮荷重が作用すると、その荷重作用端が大きく圧潰変形すると共に、大きなクラックが生じ外層部が一定の厚みだけ剥がれ、大きな破片6が剥離する。そのため、図11の曲線Gに示すように圧潰時に大きな荷重低下点7が複数回生じ、エネルギー吸収が十分に行なわれず、エネルギー吸収も不安定になるという問題点がある。
【0006】
以上のことから、特に厚肉のエネルギー吸収体の場合には、外層部に剥離が発生せず、エネルギー吸収の安定化とエネルギー吸収量の増大を図ることが重要な課題となる。この課題に関連する公知技術として特開平6−307477号公報が挙げられる。この「エネルギー吸収部材」は、一方向に引き揃えられた補強繊維を内層側に設け、外層側に補強繊維織物を配設した多層の補強繊維層を有するものからなる。以上の構造により、エネルギー吸収時の部材の破壊が一定のメカニズムで円滑に開始し、安定、かつ信頼性の高いエネルギー吸収が行なわれるものである。しかしながら、この「エネルギー吸収部材」は後に説明する本発明のエネルギー吸収体のように特に厚肉の筒状体に適用されるものではなく、繊維の配向構造も大きく相異し、大荷重時におけるエネルギー吸収を効果的に行なわせるものではない。
【0007】
本発明は、以上の事情に鑑みて創案されたものであり、厚肉に形成され、エネルギー吸収量が大で外層側の剥離もなく、安定したエネルギー吸収ができ、例えば、車両の衝突時等の大荷重作用時にも乗員空間を確保して乗員の安全を図り得るFRP厚肉エネルギー吸収体を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明は、以上の目的を達成するために、荷重作用方向(0°配向,又は軸方向という)とこれに直交する方向(90°配向,又は周方向という)にそれぞれ繊維を配列する繊維複合材料(FRPという)から形成される厚肉筒状体からなり、その肉厚tと内径Dとの比t/Dが0.09以上であるエネルギー吸収体であって、該エネルギー吸収体は、内層部と外層部とからなり、該外層部における90°配向の繊維配向量が0°配向の繊維配向量よりも多く、前記内層部における0°配向の繊維配向量が90°配向の繊維配向量よりも多く、前記外層部の厚さtoが肉厚tの10乃至15%であることを特徴とするものである。
【0009】
t/D>0.09の厚肉の筒状体のエネルギー吸収体の肉厚tの10乃至15[%]に当る外層部の90°配向の繊維配向量を0°配向の繊維配向量よりも大とし、残りの内層部の0°配向の繊維配向量を90°配向の繊維配向量よりも大とすることにより、厚肉の筒状体であっても外層部側の剥離が防止され、従来技術のように大きな荷重低下点が生じない。このため、エネルギー吸収が十分に行なわれると共に、安定したエネルギー吸収が行なわれる。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、本発明のFRP厚肉エネルギー吸収体の実施の形態を図面を参照して詳述する。図1に示すように、本発明のエネルギー吸収体1は厚肉筒状体からなり、図示のように外層部3と内層部4からなる。なお、圧縮荷重の作用側にはトリガー2が形成され、円滑な圧潰が行なわれるようにしてある。なお、本発明のエネルギー吸収体1は厚肉の筒状体に適用されるものであるが、厚肉の筒状体の範囲は実験的に次のようにして求められる。すなわち、本発明は荷重−変位曲線においてPmax後における荷重低下点7(図11)が発生するような厚肉の筒状体について効果的なものである。そこで、t/Dが0.120,0.106,0.091,0.083,0.036の筒状体について圧潰テストを行なって荷重−変位曲線を求めたところ、0.083以下では荷重低下点7が発生しないことがわかった。そこで、本発明が適用される厚肉の筒状体の境界をt/D>0.09のものとした。
【0011】
また、本発明における外層部3の厚さt0 (図1)は従来の厚肉の筒状体において剥離の生じ易い肉厚を参考として実験的に決定したものである。すなわち、織布の全層数を28層又は31層とした場合、圧潰時には外周から約4層目の部分が剥離した。このことからt0 は肉厚tの10乃至15[%]の範囲が適当であるとした。勿論、その範囲はそれに限定するものではない。
【0012】
本発明のエネルギー吸収体1の外層部3および内層部4はいずれもFRPからなる。本発明では、FRPは0°配向と90°配向の繊維を有する織布を樹脂材と結合したものからなり、外層部3と内層部4の織布の構造が相異する。本例では、厚さt0 に相当する外層部3は図2(a)に示すように90°配向の繊維配向量が0°配向の繊維配向量よりも多く配設されるタイプの織布を積層(例えば4層分だけ)したものからなる。その具体的な繊維配向量はエネルギー吸収体1の形状,大きさ等により適宜設定される。
【0013】
一方、図2(b)に示すように、エネルギー吸収体1の内層部4は0°配向の繊維配向量が90°配向の繊維配向量よりも多く配設されるものからなる。なお、外層部3の90°配向の繊維配向量と内層部4の0°配向の繊維配向率の量は必ずしも同量でなくてもよいが、一例として同一ピッチ間隔で配列されるものでもよい。また、外層部3の0°配向の繊維配向量と内層部4の90°配向の繊維配向量も同一でなくてもよいが、一例として同一ピッチで配向されるものでもよい。
【0014】
図3は本発明に係るエネルギー吸収体1に圧縮力が作用し、圧潰した状態を示す。図示のように、トリガー2の部分が大きく圧潰変形するが、従来技術のように大きな破片6(図10)が発生せず細い破片5のみが発生し、この状態でエネルギーが大幅に吸収される。以上により、安定したエネルギー吸収が行なわれる。
【0015】
図4は本発明に係るエネルギー吸収体1と従来のエネルギー吸収体1b(図10)とのエネルギー吸収状態を示す荷重−変位曲線である。なお、エネルギー吸収体1およびエネルギー吸収体1bは内径Dが35[mm]で肉厚tが7.5[mm]のt/D=0.22の厚肉の筒状体からなる。また、エネルギー吸収体1の外層部3は28層からなる肉厚tのうちの外周から4層目までに相当する。従って、t0 は肉厚tの14[%]である。また、図4において曲線Aが本発明のエネルギー吸収体1であり、曲線Bが従来のエネルギー吸収体1bである。また、表1は本発明のエネルギー吸収体1と従来のエネルギー吸収体1bのPmaxおよびPmeanと両者間の増加率[%]を示すものである。
【0016】
【表1】
【0017】
図4に示すように、曲線Bでは前記したように荷重低下点7が複数回発生するのに対し、曲線Aは荷重低下点7がなく、円滑なエネルギー吸収が行なわれていることがわかる。また、表1に示すように、本発明のエネルギー吸収体1のPmaxは26.84[ton]であり、従来のエネルギー吸収体1bのPmaxの25.32[ton]よりも6.0[%]しか大きくなく、Pmeanは本発明のエネルギー吸収体1が22.02[ton]であるのに対し従来のエネルギー吸収体1bは17.07[ton]であり、本発明のものが29.0[%]高い。以上より、エネルギー吸収量Eの値は本発明のエネルギー吸収体1がはるかに大きいことがわかる。
【0018】
本発明のエネルギー吸収体1は前記したように厚肉の筒状体からなり、比較的大きな圧縮荷重の作用する場合に使用される。例えば、本発明のエネルギー吸収体1は車両の衝突時等において衝撃力が負荷される部材の支持部に適用される。このエネルギー吸収体1を用いることにより衝突時等におけるキャブの変形等が防止され、乗員に作用する減速度の低減や、乗員空間を確保し乗員の保護を図ることができる。
【0019】
【発明の効果】
1)本発明の請求項1に記載のFRP厚肉エネルギー吸収体によれば、剥離し易い厚肉の筒状体の外層部の90°配向の繊維配向量を0°配向の繊維配向量よりも多くすることにより圧潰時における剥離方向の繊維強度が向上し、大きな破片が発生せず、エネルギー吸収量の増大と安定化が図れる。また、内層部の0°配向の繊維配向量を90°配向の繊維配向量よりも多くすることにより、大きなエネルギー吸収が安定して行われる効果が上げられる。また、外層部の厚さtoを肉厚tの10乃至15[%]とすることにより、t/D>0.09のすべて厚肉筒状体において大きなエネルギー吸収を安定して行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のFRP厚肉エネルギー吸収体の軸断面図。
【図2】図1のFRP厚肉エネルギー吸収体の外層部および内層部の繊維配向量の構成を示す模式図。
【図3】図1のFRP厚肉エネルギー吸収体の圧縮力作用時の圧潰状態を示す模式図。
【図4】本発明のFRP厚肉エネルギー吸収体と従来の厚肉のエネルギー吸収体の圧潰時の荷重−変位線図。
【図5】従来の比較的薄肉のエネルギー吸収体の軸断面図。
【図6】図1のエネルギー吸収体の圧縮力作用時における圧潰状態を示す模式図。
【図7】従来の薄肉のエネルギー吸収体の圧潰時の荷重−変位曲線。
【図8】繊維配向量の異なる従来の薄肉のエネルギー吸収体における圧潰時の荷重−変位線図。
【図9】図8におけるエネルギー吸収体の繊維配向量の形態を示す模式図。
【図10】従来の厚肉のエネルギー吸収体の圧潰時の問題点を説明するための模式図。
【図11】従来の厚肉のエネルギー吸収体の圧潰時の荷重−変位線図。
【符号の説明】
1 エネルギー吸収体
2 トリガー
3 外層部
4 内層部
5 細い破片
6 大きな破片
7 荷重低下点
8 圧潰
Claims (1)
- 荷重作用方向(0°配向,又は軸方向という)とこれに直交する方向(90°配向,又は周方向という)にそれぞれ繊維を配列する繊維複合材料(FRPという)から形成される厚肉筒状体からなり、その肉厚tと内径Dとの比t/Dが0.09以上であるエネルギー吸収体であって、該エネルギー吸収体は、内層部と外層部とからなり、該外層部における90°配向の繊維配向量が0°配向の繊維配向量よりも多く、前記内層部における0°配向の繊維配向量が90°配向の繊維配向量よりも多く、前記外層部の厚さtoが肉厚tの10乃至15%であることを特徴とするFRP厚肉エネルギー吸収体。
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