JP3837794B2 - ディーゼルエンジンの燃料噴射制御装置 - Google Patents
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Description
【0001】
【発明が属する技術分野】
本発明は、ディーゼルエンジンの燃料噴射制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
例えば実開昭61−36125号公報に記載されているように、先端にピン状部を有するニードル弁がノズルボディ内に摺動自在に嵌挿され、そのニードル弁の着座部がノズルボディの座部から離反した後の所定リフト期間はピン状部がノズルボディの噴孔内に位置することによって噴孔内面との間に所定の間隙を形成し、その該間隙から燃料を噴射する構造のスロットル型燃料噴射ノズルを備えた副室式ディーゼルエンジンが従来から知られている。また、このようなスロットル型燃料噴射ノズルを備えたディーゼルエンジンでは、燃料噴射ノズル先端のピン状部が単に断面略円形のものであると、そのノズル先端のピン状部およびノズルボディの噴孔内面に付着するカーボン量が増大するにつれて、ピン状部と噴孔内面との間隙が小さくなり、ついには、ニードルリフトが小さい領域で燃料の流通が阻害されて、エンジンが止まってしまったり、止まらないまでも、燃料の残圧が上昇することによって噴射開始タイミングが早まり、ノッキングが生じ易くなるという問題が生ずる。
【0003】
そのため、例えば自動車用のディーゼルエンジンでは、ピン状部の略円形断面部の2方にフラットカット面(2面幅部ともいう)を設け、カーボン付着量が飽和したときに少なくとも2方のフラットカット面の部分に間隙が残って、所定の噴射特性が得られるようにすることが従来から行われている。そして、その場合、自動車が完成し、組み立てラインから出たときには、燃料噴射ノズルにカーボンはまだ殆ど付着していなくて、ラインオフ後、運転とともに徐々にカーボンが付着し、溜まっていって、運転条件によっても異なるが、通常は、ユーザーに渡る前までにはカーボン付着量がほぼ飽和するものであった。そのため、燃料噴射の制御では、そのようにカーボン付着量がほぼ飽和した状態を想定し、その状態を基準として燃料噴射タイミング等の噴射特性を設定している。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
従来、スロットル型燃料噴射ノズル、特に2方にフラットカット面(2面幅部)を有するノズルを備えたディーゼルエンジンの燃料噴射制御は、上述のようにノズルへのカーボン付着量が飽和した状態を基準として燃料噴射タイミング等を設定するものであったが、近年のように、亜流酸ガス排出による環境悪化を抑制するためディーゼル燃料の低イオン化が進み、また、ノッキングによるエミッション性能の悪化を防止するため噴射タイミングのリタード(遅角)化が進み、あるいは、ディーゼル車にも自動変速機(AT)を搭載したものが増えるというように状況が変化すると、カーボン付着量が飽和し安定した後の状態を基準として燃料噴射タイミング等を設定するという従来の制御だけでは問題が生じてきた。
【0005】
すなわち、低イオウ燃料というのは潤滑性維持のためイオウ分に代えてオイルを添加したものであるため、燃料噴射ノズルに付着するカーボンが飽和状態となって安定するまでの時間(走行距離)が長くなり、従来はユーザーに渡るまでにほぼ飽和状態となることを前提として燃料噴射タイミング等を設定していたものが、低イオウ燃料の場合は、ユーザーに渡ったときにはまだカーボン付着量が飽和していないということになり、燃料残圧が想定よりも低いために実際の噴射タイミングが設定よりも遅れる。そして、ノッキング防止のため噴射タイミングがもともと失火限界に近いところまで遅角側に設定されていると、このような低イオウ燃料の場合の初期の噴射タイミングの遅れを許容する余裕がなくて、ユーザーに渡った後もしばらくは失火が生じやすい状態が続き、出力性能およびエミッション性能が悪化する。また、その間は、失火とともに燃料噴射量にもずれが生じ、出力トルクが変化するので、エンジンの出力トルクによって制御するAT搭載車の変速マップの設定にずれが生じ、変速ショックが発生する。
【0006】
したがって、スロットル型燃料噴射ノズルを備えたディーゼルエンジンにおいて、ノズルへのカーボン付着量が飽和し安定するまでの燃料噴射タイミングの遅れを補正して、エミッション性能向上のための噴射タイミングの失火限界に近い大幅な遅角化,自動変速機付車両の変速ショックの防止等を、燃料性状にかかわらず達成できるようにすることが課題である。本発明はこのような課題を解決することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記課題は、エンジン製造後ラインオフしてから燃料噴射ノズルへのカーボン付着量が飽和状態となって安定するまでの過渡期間あるいはそれに近い運転初期期間と、その後とで、前記運転初期間の噴射開始タイミングの方がその後の噴射開始タイミングより進角側の噴射開始タイミングとなるよう噴射開始タイミングを補正することにより解決することができる。図1は本発明の全体構成を示している。
【0008】
運転初期期間の噴射開始タイミングの方がその後の噴射開始タイミングより進角側の噴射開始タイミングとなるよう噴射開始タイミングが補正されることにより、前記運転初期期間においてカーボン付着量が少なく燃料残圧が低いことによる噴射タイミングの遅れが是正される。したがって、低イオウ燃料で燃料噴射ノズルに付着するカーボンが飽和状態となって安定するまでが長い場合でも、また、噴射タイミングを失火限界ぎりぎりまで遅角した場合でも、噴射タイミングが実際に失火限界以上に遅れないようにして、出力性能およびエミッション性能の悪化を防止することができ、また、AT車の場合の変速ショックの発生を防止することができる。
【0009】
上記手段は、特に、燃料噴射ノズル先端のピン状部が、断面略円形で、2方にフラットカット面を有するものである場合に有効である。すなわち、燃料噴射ノズル先端のピン状部がこのように2方にフラットカット面を有するものであると、該ピン状部およびノズルボディの噴孔内面にカーボンが付着しても、カーボン付着量が飽和したときに少なくとも2方のフラットカット面の部分に間隙が残り、所定の噴射特性が得られるようにできるため、少なくとも、カーボン付着量が飽和状態となり安定した後は、エンジンが止まってしまったり、燃料残圧の上昇により噴射開始タイミングが早まるということがなくなる。そして、そのように少なくともカーボン付着量が安定した後はカーボン付着量の影響を受けない噴射特性が得られるのに加えて、カーボン付着量の安定しない運転初期期間に噴射開始タイミングが進角側に補正されることにより、この間の燃料残圧が低いことによる噴射タイミングの遅れが是正されて、低イオウ燃料で燃料噴射ノズルに付着するカーボンが飽和状態となって安定するまでが長い場合でも、また、噴射タイミングを失火限界ぎりぎりまで遅角した場合でも、噴射タイミングが実際に失火限界以上に遅れないようにして、出力性能およびエミッション性能の悪化を防止でき、AT車の変速ショックを防止できる。
【0010】
また、噴射開始タイミングは、運転初期期間を過ぎた後の噴射開始タイミングを基準値とし、運転初期期間の噴射開始タイミングは基準値に対し進角側に設定するのがよい。
【0011】
また、運転初期期間の噴射開始タイミングは、期間の経過と共に徐々に遅角させるのがよい。
【0012】
また、上記手段は、少なくとも前記運転初期期間において、失火状態を生じないよう、失火状態を検出し、噴射開始タイミングをフィードバック補正するよう構成してもよい。その場合、エンジンの失火状態は、例えばエンジン回転の角速度変動に基づいて検出することができる。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
【0014】
図2は、本発明の実施の形態の一例に係るディーゼルエンジンの燃料噴射制御装置の全体システムを示している。
【0015】
図2において1は渦流式ディーゼルエンジンのエンジン本体であり、2は吸気通路、3は排気通路である。エンジン本体1は、主燃焼室4と該主燃焼室4に噴孔を介して連通する渦流室5を備えている。
【0016】
主燃焼室4には、上記吸気通路2につながる吸気ポート6と、排気通路3につながる排気ポート7が設けられ、吸気ポート6の開口部には吸気弁8が、また、排気ポート7の開口部には排気弁9がそれぞれ設けられている。また、渦流室5には、燃料噴射ノズル10が設けられ、また、グロープラグ11が設けられている。
【0017】
吸気通路2は、先端がエアクリーナ12に接続されている。そして、吸気通路の途中には、上流にターボチャージャ13のタービン13aとインタークーラ14が配置され、下流にスロットルバルブ15が配置されている。
【0018】
排気通路3には、上記ターボチャージャー13のブロア13bが配置され、また、ブロア13bをバイパスするバイパス通路16と該通路を開閉するウエストゲートバルブ17が設けられている。また、排気通路3の下流には触媒コンバータ18が接続されている。
【0019】
燃料噴射ノズル10は、スロットル型であり、図3(b)に示すように、先端にピン状部21aを有するニードル弁21がノズルボディ22内に摺動自在に嵌挿されている。また、ニードル弁21の先端の上記ピン状部21aは、断面略円形断面で、2方にフラットカット面21bを有するものとされている。この燃料噴射ノズル10は、ノズルボディ22に形成された燃料通路23から油溜り部23aに導入される燃料の圧力によりニードル弁21が軸方向にリフトされ、該ニードル弁21の先端の着座部21cがノズルボディ22の座部22aから離反し、燃料がノズルボディ22の噴孔24から噴射されるようになっている。この場合、ニードル弁21の着座部21cがノズルボディ22の座部22aから離反した後の所定リフト期間(スロットル期間)においては、ニードル弁21の先端のピン状部21aがノズルボディ22の噴孔24内に位置し、そのとき、噴孔24の内面とピン部21aとの間には、図3(b)に示すように特にフラットカット面21bの部分で拡大された形の間隙が形成され、その間隙から燃料が噴射される。
【0020】
燃料噴射ノズル10は、燃料噴射ポンプ30に噴射管31を介して連結されている。そして、燃料噴射ポンプ30で計量加圧され吐出された燃料が燃料噴射ノズル10に送り込まれ、上記燃料通路23に導入される。そして、燃料噴射ノズル10内部の圧力(ノズル内圧)がノズル開弁圧を越えるとニードル弁21がリフトする。そして、そのノズル内圧は燃料噴射ポンプ30の吐出圧によって規定される。
【0021】
燃料噴射ポンプ30は、所謂分配型噴射ポンプであって、駆動ギヤ32を介してエンジンのクランクシャフトにより回転駆動されるドライブシャフト33と、ドライブシャフト33により回転駆動されるカムプレート34と、カムプレート34のドライブシャフト33側端面外周に気筒数に対応して設けられたフェイスカム34aと、カムプレート34のフェイスカム34aとは反対の端面中央に連結されたプランジャ35と、フェイスカム34に当接することによって、回転するカムプレート34をプランジャ35と共に持ち上げるローラ36と、カムプレート34をローラ36に押し付ける方向にプランジャ35を付勢するプランジャスプリング37と、ドライブシャフト33により駆動されるベーンタイプの燃料供給ポンプ38と、燃料供給ポンプ38から供給された燃料をプランジャ室39に導入するインレットポート40と、プランジャ35の回転によりプランジャ35の吐出ポート41と順次出会うよう設けられた気筒数だけのアウトレットポート42と、各アウトレットポート42の先端に設けられたデリバリバルブ43と、プランジャ室39に開口するスピル通路44と、該スピル通路44の途中に設けられ、基準信号に対する通電タイミングによって噴射量を変えるソレノイド式のスピル弁45と、上記ローラ36を保持するローラリング46と連結したタイマーピストン47に加わる燃料圧を調節することにより噴射期間を変えるデューティソレノイド式のタイミングコントロールバルブ(TCV)48を備えている。燃料噴射ポンプ30には、そのほか、回転センサ49がローラリング46上に取り付けられ、ケーシング部に燃料温度センサ50が取り付けられ、駆動ギヤ32に付設されたピックアップを拾ってクランク角を検出するようクランク角センサ51が取り付けられている。
【0022】
燃料供給ポンプ38から供給された燃料は、インレットポート40からプランジャ室39に導かれる。そして、ドライブシャフト33が駆動され、カムプレート34が回転と同時に往復移動することにより、プランジャ室39の燃料が加圧され、プランジャ35の吐出ポート41が各アウトレットポート42と連通することによって、デリバリバルブ43を介し各気筒の燃料噴射ノズル10へ分配される。また、スピル弁45の制御によりスピル量が調整されて噴射量が制御され、また、デューティ制御でTCV48の開度が調節され、ローラリング46が動かされることによってフェイスカム34aのリフト時期が変えられ、噴射タイミング(噴射開始タイミング)が制御される。
【0023】
上記スピル弁45による噴射量の制御およびTCV48による噴射タイミングの制御は、コントロールユニット(コンピュータ)52によって行われる。そのため、コントロールユニット52には、上記回転センサ41から回転信号が入力され、燃料温度センサ50から燃料温度信号が入力され、クランク角センサ51からクランク角信号が入力され、その他、吸気温信号,吸気圧信号,アクセル開度信号,車速信号,走行距離信号,スタータ信号等が入力される。
【0024】
燃料噴射量の制御では、アクセル開度と回転数により予め設定されたマップにより基本噴射量が演算され、それに各種信号による補正が加えられる。そして、スピル弁45のソレノイドコイルへの通電タイミングが調整される。
【0025】
また、噴射タイミングの制御では、図4に示すエンジン回転数とスロットル開度により設定されたマップによって、基本噴射タイミングが演算される。また、アイドルを含む低負荷・低回転の運転域においては、基本噴射タイミングに走行距離に対応した補正が加えられる。そして、TCV48へ通電される電流のON・OFF時間の比(デューティ比)が調整される。
【0026】
燃料噴射タイミングに対する上記補正のため、車両の走行距離が演算される。噴射タイミングは、走行距離が、燃料噴射ノズル10の噴孔24およびニードル弁21先端のピン状部21aへのカーボン付着量が飽和状態となり安定するに十分な走行距離に達した後は、上記基本噴射タイミングに固定されるが、カーボン付着量が飽和状態となって安定するまでの運転初期期間においては、上記基本噴射タイミングを基準値として、進角側に設定され、かつ、図5に示すように、走行距離が増すにつれて基準値まで徐々に遅角される。
【0027】
上記補正により噴射タイミングが基本噴射タイミングに対して進角側に設定される補正されることにより、燃料噴射ノズル10の噴孔24およびニードル弁21先端のピン状部21aへのカーボン付着量が安定するまでの運転初期期間において、カーボン付着量が少なくて噴孔流量が多いために燃料残圧が低くなって噴射タイミングが遅角側にずれてしまうのが是正される。
【0028】
図6は、カーボン付着量が安定するまでの運転初期期間と、その後との、ニードルリフトに対する噴孔流量の特性を示している。図において、実線はカーボン付着量が安定するまでの運転初期期間の噴孔流量特性であり、破線はカーボン付着量が安定した後の噴孔流量特性である。図に示すように、カーボン付着量が安定するまでの運転初期期間においては、特に、ニードルリフトの小さいスロットル期間において噴孔流量が大である。そして、このようにスロットル期間において噴孔流量に差があるため、比較的噴射量が少なくて燃料流速の小さい低速低負荷の運転領域等において運転初期期間の噴射タイミングの遅れが問題となる。上記補正はこれを是正するものである。
【0029】
このように、運転初期期間の噴射開始タイミングの方がその後の噴射開始タイミングより進角側の噴射開始タイミングとなるよう噴射開始タイミングが補正され、それにより、運転初期期間においてカーボン付着量が少なく燃料残圧が低いことによる噴射タイミングの遅れが是正される。したがって、低イオウ燃料で燃料噴射ノズルに付着するカーボンが飽和状態となって安定するまでが長い場合でも、また、噴射タイミングを失火限界ぎりぎりまで遅角した場合でも、噴射タイミングが実際に失火限界以上に遅れないようにして、出力性能およびエミッション性能の悪化を防止することができる。また、AT車の場合の変速マップは、例えば図7に示すようなものであって、車速とスロットル開度により設定されるが、その本質はトルクによる設定であり、燃料噴射ノズルへのカーボン付着量が安定しない過渡状態におけるトルク変動が上記噴射タイミングの補正により防止されることで、変速ショックの発生が防止される。
【0030】
図8は、上記実施の形態における噴射タイミング制御のルーチンを示している。このルーチンは、ステップS101で、エンジン回転数(Ne),アクセル開度(TVO),水温(T1),燃料温(T2),吸気温(T3),吸気圧(P),走行距離(L)等の各種センサ出力値を読み込む。そして、ステップS102で、始動が完了したかどうかを判定する。ここでは、エンジン回転数(Ne)が例えば600rpmより高いときに始動完了と判定する。
【0031】
そして、始動完了でないというときは、始動中ということで、ステップS103で、噴射タイミング(噴射開始タイミング)を始動時噴射タイミング(TS)に設定し、その設定を始動完了まで繰り返す。
【0032】
そして、始動完了となったら、ステップS104へ進んで、走行距離(L)が、燃料噴射ノズルへのカーボン付着量が安定状態に達する所定走行距離(L0)を越えたかどうかを判定する。
【0033】
そして、LがL0を越えない運転初期期間であるというときは、ステップS105へ進み、アイドルを含む低負荷・低回転領域かどうかを判定する。
【0034】
そして、低負荷・低回転領域であれば、ステップS106へ進んで、走行距離(L)に対応した遅角側への補正係数(y)をマップによって算出し、ステップS108へ進む。また、低負荷・低回転領域でないときは、ステップS107へ進んで、補正係数(y)を0(ゼロ)に設定し、ステップS108へ進む。
【0035】
そして、ステップS108で、次の式1によって噴射タイミング(TN)を設定する。
【0036】
【数1】
TN=Tij+Xij×(1+y)………………………………………式1
ここで、Tijは、エンジン回転数(Ne)とスロットル開度(TVO)から演算した基本噴射タイミング(マップ値)であり、Xijは、水温(T1),燃料温(T2),吸気温(T3),吸気圧(P)等に対しての補正値(マップ値)である。
【0037】
次に、実施の形態の他の例を図9に示すフローチャートによって説明する。この例は、エンジンの失火状態を検出し、アイドル時に失火が起きないよう噴射タイミング(噴射開始タイミング)をフィードバック補正するようにしたものである。半失火,失火程度,半失火あるいは失火の気筒数等の失火状態は、エンジン回転の角速度変動の変化に現れることから、ここでは、角速度変動に基づいて失火状態を検出している。そして、その場合の噴射タイミング制御を図9のルーチンによって実行する。
【0038】
図9のルーチンは、スタートすると、ステップS201で、エンジン回転数(Ne),アクセル開度(TVO),水温(T1),燃料温(T2),吸気温(T3),吸気圧(P),走行距離(L)等の各種センサ出力値を読み込む。そして、ステップS202で、始動が完了したかどうかを判定する。この判定は、エンジン回転数(Ne)が例えば600rpmより高いときに始動完了とするものである。
【0039】
そして、始動完了でないというときは、始動中ということで、ステップS203で、噴射タイミング(噴射開始タイミング)を始動時噴射タイミング(TS)に設定し、その設定を始動完了まで繰り返す。
【0040】
そして、始動完了となったら、ステップS204へ進んで、走行距離(L)が、燃料噴射ノズルへのカーボン付着量が安定状態に達する所定走行距離(L0)を越えたかどうかを判定する。
【0041】
そして、LがL0を越えない運転初期期間であるというときは、ステップS205へ進む。そして、ステップS205で、アイドル領域かどうかを見て、アイドル領域のときは、ステップS206で角速度(ω)を算出し、次いで、ステップS207で角速度変動(dω)を算出する。
【0042】
つぎに、ステップS208で、角速度変動(dω)が第1の値(dωL)よりも大きいかどうかを見る。そして、dωがdωLより大きいときは、次いで、ステップS209で、角速度変動(dω)が、上記第1の値(dωL)より大きい第2の値(dωH)よりも大きいかどうかを見る。そしてdωがdωHより大きいときは、ステップS210へ進み、噴射タイミング制御の補正係数(y)が上限値(yH)未満かどうかを見て、yがyH未満であれば、ステップS211で補正係数(y)を所定値(0.1)だけ拡大する。そして、後述のステップS217へ進む。
【0043】
また、ステップS210でyがyH以上の場合は、ステップS215に進み、yを前回値に設定する。そして、ステップS217へ進む。
【0044】
また、ステップS209でdωがdωH以下の場合も、同様にステップS215に進み、yを前回値に設定する。そして、ステップS217へ進む。
【0045】
また、ステップS208の判定でdωがdωL以下というときは、ステップS212へ進んで、補正係数(y)が0(ゼロ)を越えているかどうかを見て、Oを越えているときは、ステップS213で補正係数(y)を所定値(0.1)だけ縮小する。そして、ステップS217へ進む。
【0046】
また、ステップS205でアイドル領域でないというときは、ステップS214へ進み、所定の低負荷・低回転領域かどうかを見て、低負荷・低回転領域であれば、ステップS215で補正係数(y)を前回値に設定する。そして、ステップS217へ進む。
【0047】
また、ステップS214で低負荷・低回転領域でないというときは、ステップS216へ進み、補正係数(y)を0(ゼロ)に設定し、ステップS217へ進む。
【0048】
そして、ステップS217で先の式1によって噴射タイミング(TN)を設定する。
【0049】
【発明の効果】
本発明によれば、スロットル型燃料噴射ノズルを備えたディーゼルエンジンにおいて、運転初期期間の噴射開始タイミングがその後の噴射開始タイミングより進角側となるよう噴射開始タイミングの設定を補正することにより、前記運転初期期間においてカーボン付着量が少なく燃料残圧が低いことによる噴射タイミングの遅れを是正し、低イオウ燃料で燃料噴射ノズルに付着するカーボンが飽和状態となって安定するまでが長い場合でも、また、噴射タイミングを失火限界ぎりぎりまで遅角した場合でも、噴射タイミングが失火限界以上に遅れないようにして、出力性能およびエミッション性能の悪化を防止し、また、AT車の場合の変速ショックの発生を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の全体構成図である。
【図2】実施の形態の一例に係るディーゼルエンジンの燃料噴射制御装置の全体システム図である。
【図3】実施の形態の一例に係る燃料噴射ノズルの先端部構造図(a)およびそのA−A断面図(b)である。
【図4】実施の形態の一例に係る基本噴射タイミングマップである。
【図5】実施の形態の一例に係る噴射タイミングの制御特性図である。
【図6】実施の形態の一例に係る噴孔流量特性図である。
【図7】実施の形態の一例に係る変速マップである。
【図8】実施の形態の一例に係る噴射タイミング制御のフローチャートである。
【図9】実施の形態の他の例に係る噴射タイミング制御のフローチャートである。
【符号の説明】
1 エンジン本体
10 燃料噴射ノズル
21 ニードル弁
21a ピン状部
21b フラットカット面
22 ノズルボディ
24 噴孔
30 燃料噴射ポンプ
48 タイミングコントロールバルブ(TCV)
52 ンコントロールユニット
【発明が属する技術分野】
本発明は、ディーゼルエンジンの燃料噴射制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
例えば実開昭61−36125号公報に記載されているように、先端にピン状部を有するニードル弁がノズルボディ内に摺動自在に嵌挿され、そのニードル弁の着座部がノズルボディの座部から離反した後の所定リフト期間はピン状部がノズルボディの噴孔内に位置することによって噴孔内面との間に所定の間隙を形成し、その該間隙から燃料を噴射する構造のスロットル型燃料噴射ノズルを備えた副室式ディーゼルエンジンが従来から知られている。また、このようなスロットル型燃料噴射ノズルを備えたディーゼルエンジンでは、燃料噴射ノズル先端のピン状部が単に断面略円形のものであると、そのノズル先端のピン状部およびノズルボディの噴孔内面に付着するカーボン量が増大するにつれて、ピン状部と噴孔内面との間隙が小さくなり、ついには、ニードルリフトが小さい領域で燃料の流通が阻害されて、エンジンが止まってしまったり、止まらないまでも、燃料の残圧が上昇することによって噴射開始タイミングが早まり、ノッキングが生じ易くなるという問題が生ずる。
【0003】
そのため、例えば自動車用のディーゼルエンジンでは、ピン状部の略円形断面部の2方にフラットカット面(2面幅部ともいう)を設け、カーボン付着量が飽和したときに少なくとも2方のフラットカット面の部分に間隙が残って、所定の噴射特性が得られるようにすることが従来から行われている。そして、その場合、自動車が完成し、組み立てラインから出たときには、燃料噴射ノズルにカーボンはまだ殆ど付着していなくて、ラインオフ後、運転とともに徐々にカーボンが付着し、溜まっていって、運転条件によっても異なるが、通常は、ユーザーに渡る前までにはカーボン付着量がほぼ飽和するものであった。そのため、燃料噴射の制御では、そのようにカーボン付着量がほぼ飽和した状態を想定し、その状態を基準として燃料噴射タイミング等の噴射特性を設定している。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
従来、スロットル型燃料噴射ノズル、特に2方にフラットカット面(2面幅部)を有するノズルを備えたディーゼルエンジンの燃料噴射制御は、上述のようにノズルへのカーボン付着量が飽和した状態を基準として燃料噴射タイミング等を設定するものであったが、近年のように、亜流酸ガス排出による環境悪化を抑制するためディーゼル燃料の低イオン化が進み、また、ノッキングによるエミッション性能の悪化を防止するため噴射タイミングのリタード(遅角)化が進み、あるいは、ディーゼル車にも自動変速機(AT)を搭載したものが増えるというように状況が変化すると、カーボン付着量が飽和し安定した後の状態を基準として燃料噴射タイミング等を設定するという従来の制御だけでは問題が生じてきた。
【0005】
すなわち、低イオウ燃料というのは潤滑性維持のためイオウ分に代えてオイルを添加したものであるため、燃料噴射ノズルに付着するカーボンが飽和状態となって安定するまでの時間(走行距離)が長くなり、従来はユーザーに渡るまでにほぼ飽和状態となることを前提として燃料噴射タイミング等を設定していたものが、低イオウ燃料の場合は、ユーザーに渡ったときにはまだカーボン付着量が飽和していないということになり、燃料残圧が想定よりも低いために実際の噴射タイミングが設定よりも遅れる。そして、ノッキング防止のため噴射タイミングがもともと失火限界に近いところまで遅角側に設定されていると、このような低イオウ燃料の場合の初期の噴射タイミングの遅れを許容する余裕がなくて、ユーザーに渡った後もしばらくは失火が生じやすい状態が続き、出力性能およびエミッション性能が悪化する。また、その間は、失火とともに燃料噴射量にもずれが生じ、出力トルクが変化するので、エンジンの出力トルクによって制御するAT搭載車の変速マップの設定にずれが生じ、変速ショックが発生する。
【0006】
したがって、スロットル型燃料噴射ノズルを備えたディーゼルエンジンにおいて、ノズルへのカーボン付着量が飽和し安定するまでの燃料噴射タイミングの遅れを補正して、エミッション性能向上のための噴射タイミングの失火限界に近い大幅な遅角化,自動変速機付車両の変速ショックの防止等を、燃料性状にかかわらず達成できるようにすることが課題である。本発明はこのような課題を解決することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記課題は、エンジン製造後ラインオフしてから燃料噴射ノズルへのカーボン付着量が飽和状態となって安定するまでの過渡期間あるいはそれに近い運転初期期間と、その後とで、前記運転初期間の噴射開始タイミングの方がその後の噴射開始タイミングより進角側の噴射開始タイミングとなるよう噴射開始タイミングを補正することにより解決することができる。図1は本発明の全体構成を示している。
【0008】
運転初期期間の噴射開始タイミングの方がその後の噴射開始タイミングより進角側の噴射開始タイミングとなるよう噴射開始タイミングが補正されることにより、前記運転初期期間においてカーボン付着量が少なく燃料残圧が低いことによる噴射タイミングの遅れが是正される。したがって、低イオウ燃料で燃料噴射ノズルに付着するカーボンが飽和状態となって安定するまでが長い場合でも、また、噴射タイミングを失火限界ぎりぎりまで遅角した場合でも、噴射タイミングが実際に失火限界以上に遅れないようにして、出力性能およびエミッション性能の悪化を防止することができ、また、AT車の場合の変速ショックの発生を防止することができる。
【0009】
上記手段は、特に、燃料噴射ノズル先端のピン状部が、断面略円形で、2方にフラットカット面を有するものである場合に有効である。すなわち、燃料噴射ノズル先端のピン状部がこのように2方にフラットカット面を有するものであると、該ピン状部およびノズルボディの噴孔内面にカーボンが付着しても、カーボン付着量が飽和したときに少なくとも2方のフラットカット面の部分に間隙が残り、所定の噴射特性が得られるようにできるため、少なくとも、カーボン付着量が飽和状態となり安定した後は、エンジンが止まってしまったり、燃料残圧の上昇により噴射開始タイミングが早まるということがなくなる。そして、そのように少なくともカーボン付着量が安定した後はカーボン付着量の影響を受けない噴射特性が得られるのに加えて、カーボン付着量の安定しない運転初期期間に噴射開始タイミングが進角側に補正されることにより、この間の燃料残圧が低いことによる噴射タイミングの遅れが是正されて、低イオウ燃料で燃料噴射ノズルに付着するカーボンが飽和状態となって安定するまでが長い場合でも、また、噴射タイミングを失火限界ぎりぎりまで遅角した場合でも、噴射タイミングが実際に失火限界以上に遅れないようにして、出力性能およびエミッション性能の悪化を防止でき、AT車の変速ショックを防止できる。
【0010】
また、噴射開始タイミングは、運転初期期間を過ぎた後の噴射開始タイミングを基準値とし、運転初期期間の噴射開始タイミングは基準値に対し進角側に設定するのがよい。
【0011】
また、運転初期期間の噴射開始タイミングは、期間の経過と共に徐々に遅角させるのがよい。
【0012】
また、上記手段は、少なくとも前記運転初期期間において、失火状態を生じないよう、失火状態を検出し、噴射開始タイミングをフィードバック補正するよう構成してもよい。その場合、エンジンの失火状態は、例えばエンジン回転の角速度変動に基づいて検出することができる。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
【0014】
図2は、本発明の実施の形態の一例に係るディーゼルエンジンの燃料噴射制御装置の全体システムを示している。
【0015】
図2において1は渦流式ディーゼルエンジンのエンジン本体であり、2は吸気通路、3は排気通路である。エンジン本体1は、主燃焼室4と該主燃焼室4に噴孔を介して連通する渦流室5を備えている。
【0016】
主燃焼室4には、上記吸気通路2につながる吸気ポート6と、排気通路3につながる排気ポート7が設けられ、吸気ポート6の開口部には吸気弁8が、また、排気ポート7の開口部には排気弁9がそれぞれ設けられている。また、渦流室5には、燃料噴射ノズル10が設けられ、また、グロープラグ11が設けられている。
【0017】
吸気通路2は、先端がエアクリーナ12に接続されている。そして、吸気通路の途中には、上流にターボチャージャ13のタービン13aとインタークーラ14が配置され、下流にスロットルバルブ15が配置されている。
【0018】
排気通路3には、上記ターボチャージャー13のブロア13bが配置され、また、ブロア13bをバイパスするバイパス通路16と該通路を開閉するウエストゲートバルブ17が設けられている。また、排気通路3の下流には触媒コンバータ18が接続されている。
【0019】
燃料噴射ノズル10は、スロットル型であり、図3(b)に示すように、先端にピン状部21aを有するニードル弁21がノズルボディ22内に摺動自在に嵌挿されている。また、ニードル弁21の先端の上記ピン状部21aは、断面略円形断面で、2方にフラットカット面21bを有するものとされている。この燃料噴射ノズル10は、ノズルボディ22に形成された燃料通路23から油溜り部23aに導入される燃料の圧力によりニードル弁21が軸方向にリフトされ、該ニードル弁21の先端の着座部21cがノズルボディ22の座部22aから離反し、燃料がノズルボディ22の噴孔24から噴射されるようになっている。この場合、ニードル弁21の着座部21cがノズルボディ22の座部22aから離反した後の所定リフト期間(スロットル期間)においては、ニードル弁21の先端のピン状部21aがノズルボディ22の噴孔24内に位置し、そのとき、噴孔24の内面とピン部21aとの間には、図3(b)に示すように特にフラットカット面21bの部分で拡大された形の間隙が形成され、その間隙から燃料が噴射される。
【0020】
燃料噴射ノズル10は、燃料噴射ポンプ30に噴射管31を介して連結されている。そして、燃料噴射ポンプ30で計量加圧され吐出された燃料が燃料噴射ノズル10に送り込まれ、上記燃料通路23に導入される。そして、燃料噴射ノズル10内部の圧力(ノズル内圧)がノズル開弁圧を越えるとニードル弁21がリフトする。そして、そのノズル内圧は燃料噴射ポンプ30の吐出圧によって規定される。
【0021】
燃料噴射ポンプ30は、所謂分配型噴射ポンプであって、駆動ギヤ32を介してエンジンのクランクシャフトにより回転駆動されるドライブシャフト33と、ドライブシャフト33により回転駆動されるカムプレート34と、カムプレート34のドライブシャフト33側端面外周に気筒数に対応して設けられたフェイスカム34aと、カムプレート34のフェイスカム34aとは反対の端面中央に連結されたプランジャ35と、フェイスカム34に当接することによって、回転するカムプレート34をプランジャ35と共に持ち上げるローラ36と、カムプレート34をローラ36に押し付ける方向にプランジャ35を付勢するプランジャスプリング37と、ドライブシャフト33により駆動されるベーンタイプの燃料供給ポンプ38と、燃料供給ポンプ38から供給された燃料をプランジャ室39に導入するインレットポート40と、プランジャ35の回転によりプランジャ35の吐出ポート41と順次出会うよう設けられた気筒数だけのアウトレットポート42と、各アウトレットポート42の先端に設けられたデリバリバルブ43と、プランジャ室39に開口するスピル通路44と、該スピル通路44の途中に設けられ、基準信号に対する通電タイミングによって噴射量を変えるソレノイド式のスピル弁45と、上記ローラ36を保持するローラリング46と連結したタイマーピストン47に加わる燃料圧を調節することにより噴射期間を変えるデューティソレノイド式のタイミングコントロールバルブ(TCV)48を備えている。燃料噴射ポンプ30には、そのほか、回転センサ49がローラリング46上に取り付けられ、ケーシング部に燃料温度センサ50が取り付けられ、駆動ギヤ32に付設されたピックアップを拾ってクランク角を検出するようクランク角センサ51が取り付けられている。
【0022】
燃料供給ポンプ38から供給された燃料は、インレットポート40からプランジャ室39に導かれる。そして、ドライブシャフト33が駆動され、カムプレート34が回転と同時に往復移動することにより、プランジャ室39の燃料が加圧され、プランジャ35の吐出ポート41が各アウトレットポート42と連通することによって、デリバリバルブ43を介し各気筒の燃料噴射ノズル10へ分配される。また、スピル弁45の制御によりスピル量が調整されて噴射量が制御され、また、デューティ制御でTCV48の開度が調節され、ローラリング46が動かされることによってフェイスカム34aのリフト時期が変えられ、噴射タイミング(噴射開始タイミング)が制御される。
【0023】
上記スピル弁45による噴射量の制御およびTCV48による噴射タイミングの制御は、コントロールユニット(コンピュータ)52によって行われる。そのため、コントロールユニット52には、上記回転センサ41から回転信号が入力され、燃料温度センサ50から燃料温度信号が入力され、クランク角センサ51からクランク角信号が入力され、その他、吸気温信号,吸気圧信号,アクセル開度信号,車速信号,走行距離信号,スタータ信号等が入力される。
【0024】
燃料噴射量の制御では、アクセル開度と回転数により予め設定されたマップにより基本噴射量が演算され、それに各種信号による補正が加えられる。そして、スピル弁45のソレノイドコイルへの通電タイミングが調整される。
【0025】
また、噴射タイミングの制御では、図4に示すエンジン回転数とスロットル開度により設定されたマップによって、基本噴射タイミングが演算される。また、アイドルを含む低負荷・低回転の運転域においては、基本噴射タイミングに走行距離に対応した補正が加えられる。そして、TCV48へ通電される電流のON・OFF時間の比(デューティ比)が調整される。
【0026】
燃料噴射タイミングに対する上記補正のため、車両の走行距離が演算される。噴射タイミングは、走行距離が、燃料噴射ノズル10の噴孔24およびニードル弁21先端のピン状部21aへのカーボン付着量が飽和状態となり安定するに十分な走行距離に達した後は、上記基本噴射タイミングに固定されるが、カーボン付着量が飽和状態となって安定するまでの運転初期期間においては、上記基本噴射タイミングを基準値として、進角側に設定され、かつ、図5に示すように、走行距離が増すにつれて基準値まで徐々に遅角される。
【0027】
上記補正により噴射タイミングが基本噴射タイミングに対して進角側に設定される補正されることにより、燃料噴射ノズル10の噴孔24およびニードル弁21先端のピン状部21aへのカーボン付着量が安定するまでの運転初期期間において、カーボン付着量が少なくて噴孔流量が多いために燃料残圧が低くなって噴射タイミングが遅角側にずれてしまうのが是正される。
【0028】
図6は、カーボン付着量が安定するまでの運転初期期間と、その後との、ニードルリフトに対する噴孔流量の特性を示している。図において、実線はカーボン付着量が安定するまでの運転初期期間の噴孔流量特性であり、破線はカーボン付着量が安定した後の噴孔流量特性である。図に示すように、カーボン付着量が安定するまでの運転初期期間においては、特に、ニードルリフトの小さいスロットル期間において噴孔流量が大である。そして、このようにスロットル期間において噴孔流量に差があるため、比較的噴射量が少なくて燃料流速の小さい低速低負荷の運転領域等において運転初期期間の噴射タイミングの遅れが問題となる。上記補正はこれを是正するものである。
【0029】
このように、運転初期期間の噴射開始タイミングの方がその後の噴射開始タイミングより進角側の噴射開始タイミングとなるよう噴射開始タイミングが補正され、それにより、運転初期期間においてカーボン付着量が少なく燃料残圧が低いことによる噴射タイミングの遅れが是正される。したがって、低イオウ燃料で燃料噴射ノズルに付着するカーボンが飽和状態となって安定するまでが長い場合でも、また、噴射タイミングを失火限界ぎりぎりまで遅角した場合でも、噴射タイミングが実際に失火限界以上に遅れないようにして、出力性能およびエミッション性能の悪化を防止することができる。また、AT車の場合の変速マップは、例えば図7に示すようなものであって、車速とスロットル開度により設定されるが、その本質はトルクによる設定であり、燃料噴射ノズルへのカーボン付着量が安定しない過渡状態におけるトルク変動が上記噴射タイミングの補正により防止されることで、変速ショックの発生が防止される。
【0030】
図8は、上記実施の形態における噴射タイミング制御のルーチンを示している。このルーチンは、ステップS101で、エンジン回転数(Ne),アクセル開度(TVO),水温(T1),燃料温(T2),吸気温(T3),吸気圧(P),走行距離(L)等の各種センサ出力値を読み込む。そして、ステップS102で、始動が完了したかどうかを判定する。ここでは、エンジン回転数(Ne)が例えば600rpmより高いときに始動完了と判定する。
【0031】
そして、始動完了でないというときは、始動中ということで、ステップS103で、噴射タイミング(噴射開始タイミング)を始動時噴射タイミング(TS)に設定し、その設定を始動完了まで繰り返す。
【0032】
そして、始動完了となったら、ステップS104へ進んで、走行距離(L)が、燃料噴射ノズルへのカーボン付着量が安定状態に達する所定走行距離(L0)を越えたかどうかを判定する。
【0033】
そして、LがL0を越えない運転初期期間であるというときは、ステップS105へ進み、アイドルを含む低負荷・低回転領域かどうかを判定する。
【0034】
そして、低負荷・低回転領域であれば、ステップS106へ進んで、走行距離(L)に対応した遅角側への補正係数(y)をマップによって算出し、ステップS108へ進む。また、低負荷・低回転領域でないときは、ステップS107へ進んで、補正係数(y)を0(ゼロ)に設定し、ステップS108へ進む。
【0035】
そして、ステップS108で、次の式1によって噴射タイミング(TN)を設定する。
【0036】
【数1】
TN=Tij+Xij×(1+y)………………………………………式1
ここで、Tijは、エンジン回転数(Ne)とスロットル開度(TVO)から演算した基本噴射タイミング(マップ値)であり、Xijは、水温(T1),燃料温(T2),吸気温(T3),吸気圧(P)等に対しての補正値(マップ値)である。
【0037】
次に、実施の形態の他の例を図9に示すフローチャートによって説明する。この例は、エンジンの失火状態を検出し、アイドル時に失火が起きないよう噴射タイミング(噴射開始タイミング)をフィードバック補正するようにしたものである。半失火,失火程度,半失火あるいは失火の気筒数等の失火状態は、エンジン回転の角速度変動の変化に現れることから、ここでは、角速度変動に基づいて失火状態を検出している。そして、その場合の噴射タイミング制御を図9のルーチンによって実行する。
【0038】
図9のルーチンは、スタートすると、ステップS201で、エンジン回転数(Ne),アクセル開度(TVO),水温(T1),燃料温(T2),吸気温(T3),吸気圧(P),走行距離(L)等の各種センサ出力値を読み込む。そして、ステップS202で、始動が完了したかどうかを判定する。この判定は、エンジン回転数(Ne)が例えば600rpmより高いときに始動完了とするものである。
【0039】
そして、始動完了でないというときは、始動中ということで、ステップS203で、噴射タイミング(噴射開始タイミング)を始動時噴射タイミング(TS)に設定し、その設定を始動完了まで繰り返す。
【0040】
そして、始動完了となったら、ステップS204へ進んで、走行距離(L)が、燃料噴射ノズルへのカーボン付着量が安定状態に達する所定走行距離(L0)を越えたかどうかを判定する。
【0041】
そして、LがL0を越えない運転初期期間であるというときは、ステップS205へ進む。そして、ステップS205で、アイドル領域かどうかを見て、アイドル領域のときは、ステップS206で角速度(ω)を算出し、次いで、ステップS207で角速度変動(dω)を算出する。
【0042】
つぎに、ステップS208で、角速度変動(dω)が第1の値(dωL)よりも大きいかどうかを見る。そして、dωがdωLより大きいときは、次いで、ステップS209で、角速度変動(dω)が、上記第1の値(dωL)より大きい第2の値(dωH)よりも大きいかどうかを見る。そしてdωがdωHより大きいときは、ステップS210へ進み、噴射タイミング制御の補正係数(y)が上限値(yH)未満かどうかを見て、yがyH未満であれば、ステップS211で補正係数(y)を所定値(0.1)だけ拡大する。そして、後述のステップS217へ進む。
【0043】
また、ステップS210でyがyH以上の場合は、ステップS215に進み、yを前回値に設定する。そして、ステップS217へ進む。
【0044】
また、ステップS209でdωがdωH以下の場合も、同様にステップS215に進み、yを前回値に設定する。そして、ステップS217へ進む。
【0045】
また、ステップS208の判定でdωがdωL以下というときは、ステップS212へ進んで、補正係数(y)が0(ゼロ)を越えているかどうかを見て、Oを越えているときは、ステップS213で補正係数(y)を所定値(0.1)だけ縮小する。そして、ステップS217へ進む。
【0046】
また、ステップS205でアイドル領域でないというときは、ステップS214へ進み、所定の低負荷・低回転領域かどうかを見て、低負荷・低回転領域であれば、ステップS215で補正係数(y)を前回値に設定する。そして、ステップS217へ進む。
【0047】
また、ステップS214で低負荷・低回転領域でないというときは、ステップS216へ進み、補正係数(y)を0(ゼロ)に設定し、ステップS217へ進む。
【0048】
そして、ステップS217で先の式1によって噴射タイミング(TN)を設定する。
【0049】
【発明の効果】
本発明によれば、スロットル型燃料噴射ノズルを備えたディーゼルエンジンにおいて、運転初期期間の噴射開始タイミングがその後の噴射開始タイミングより進角側となるよう噴射開始タイミングの設定を補正することにより、前記運転初期期間においてカーボン付着量が少なく燃料残圧が低いことによる噴射タイミングの遅れを是正し、低イオウ燃料で燃料噴射ノズルに付着するカーボンが飽和状態となって安定するまでが長い場合でも、また、噴射タイミングを失火限界ぎりぎりまで遅角した場合でも、噴射タイミングが失火限界以上に遅れないようにして、出力性能およびエミッション性能の悪化を防止し、また、AT車の場合の変速ショックの発生を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の全体構成図である。
【図2】実施の形態の一例に係るディーゼルエンジンの燃料噴射制御装置の全体システム図である。
【図3】実施の形態の一例に係る燃料噴射ノズルの先端部構造図(a)およびそのA−A断面図(b)である。
【図4】実施の形態の一例に係る基本噴射タイミングマップである。
【図5】実施の形態の一例に係る噴射タイミングの制御特性図である。
【図6】実施の形態の一例に係る噴孔流量特性図である。
【図7】実施の形態の一例に係る変速マップである。
【図8】実施の形態の一例に係る噴射タイミング制御のフローチャートである。
【図9】実施の形態の他の例に係る噴射タイミング制御のフローチャートである。
【符号の説明】
1 エンジン本体
10 燃料噴射ノズル
21 ニードル弁
21a ピン状部
21b フラットカット面
22 ノズルボディ
24 噴孔
30 燃料噴射ポンプ
48 タイミングコントロールバルブ(TCV)
52 ンコントロールユニット
Claims (8)
- 先端にピン状部を有するニードル弁がノズルボディ内に摺動自在に嵌挿され該ニードル弁の着座部が前記ノズルボディの座部から離反した後の所定リフト期間は前記ピン状部が前記ノズルボディの噴孔内に位置し該噴孔内面との間に所定の間隙を形成して該間隙から燃料を噴射するスロットル型燃料噴射ノズルを備えたディーゼルエンジンの燃料噴射制御装置であって、
エンジンの運転状態を検出する運転状態検出手段と、
該運転状態検出手段の出力を受け、前記運転状態に応じて前記燃料噴射ノズルによる燃料噴射の噴射開始タイミングを含む噴射特性を設定する噴射特性設定手段と、
製造後ラインオフしてからのエンジンの運転経歴を検出する運転経歴検出手段と、
該運転経歴検出手段の出力を受け、また、前記運転状態検出手段の出力を受けて、少なくともエンジンの低速低負荷運転領域においては、前記運転経歴が所定の運転初期期間にあるときと該運転初期期間を過ぎた後とで、前記運転初期期間内にあるときの方が進角側となるよう前記噴射開始タイミングの補正量を設定し、該補正量により前記噴射開始タイミングを補正する噴射開始タイミング補正手段を備えたことを特徴とするディーゼルエンジンの燃料噴射制御装置。 - 前記燃料噴射ノズル先端のピン状部は、断面略円形で、2方にフラットカット面を有する請求項1記載のディーゼルエンジンの燃料噴射制御装置。
- 前記運転初期期間は、噴射特性が安定するまでの過渡期間である請求項1または2記載のディーゼルエンジンの燃料噴射制御装置。
- 前記噴射開始タイミングは、前記運転初期期間を過ぎた後の噴射開始タイミングを基準値とし、前記運転初期期間の噴射開始タイミングは前記基準値に対し進角側に設定する請求項1,2または3記載のディーゼルエンジンの燃料噴射制御装置。
- 前記運転初期期間の噴射開始タイミングは、期間の経過と共に徐々に遅角させる請求項4記載のディーゼルエンジンの燃料噴射制御装置。
- エンジンの失火状態を検出する失火状態検出手段と、該失火状態検出手段の出力を受け、また、前記運転経歴検出手段の出力を受けて、少なくとも前記運転初期期間は失火状態を生じないよう、前記失火状態検出手段の出力に応じて前記噴射開始タイミングをフィードバック補正する噴射タイミング補正手段を備えた請求項1,2,3または4記載のディーゼルエンジンの燃料噴射制御装置。
- 前記失火状態検出手段は、エンジン回転の角速度変動に基づいて失火状態を検出するものである請求項6記載のディーゼルエンジンの燃料噴射制御装置。
- 該エンジンは自動変速機付車両に搭載されるものである請求項1,2,3,4,5,6または7記載のディーゼルエンジンの燃料噴射制御装置。
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