JP3837725B2 - 回転位相制御装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、例えば自動車用可変バルブタイミング機構などに適用可能な回転位相制御装置に関し、特に、無段階に位相を変更し得る回転位相制御装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
エンジンの高出力化のためにVVT(可変バルブタイミング装置)が提案されている。
例えば、特開平3−206307号は、透磁率の高いプーリとスリーブとを同軸状に配し、プーリには内側に向いて複数の歯を形成し、スリーブには外側に向いて複数の歯を形成している。プーリの個々の歯には磁気コイルが設けられ、このコイルに通電されると、プーリの歯は磁気を導通する磁気回路となる。別途設けられた制御装置は、これらのコイルに対して異なる位相関係を有する励磁信号を送ることができる。即ち、励磁信号に応じて、2つの異なる磁気回路が形成される。そのために、2つの位置において、プーリとスリーブとは安定した位相関係を保ちながら回転可能になる。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、上記の特開平5−321678号は、2つの位置においてのみ磁気回路が形成されるようになっており、従って、2つの位相関係しか実現できないために、全ての運転状態において、運転状態に即したクランク軸回転とカム軸回転の位相関係を実現できるものではない。
【0004】
そこで、本発明は斯かる従来技術の問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、無段階で位相角度を制御可能な回転位相制御装置を提案することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成すべく、本発明の、位相制御装置は、個々に自転自在な複数のプラネタリギヤの全体が第1の回転軸の周りに公転するように設けられたプラネタリギヤ機構を有し、前記第1の回転軸に回転トルクを入力する入力部と、前記第1の回転軸と同軸の第2の回転軸を有し、前記複数のプラネタリギヤと外側から歯合するところのリングギヤの回転を出力する出力部と、前記プラネタリギヤと内側から歯合し、前記第1の回転軸並びに第2の回転軸と同軸の第3の回転軸を有するサンギヤを有する位相調整部とを具備し、前記位相調整部の前記サンギヤの前記第3の回転軸に負荷トルクを印加することにより、前記第1の回転軸並びに第2の回転軸の回転の角度位相差を制御し、前記位相調整部は、前記第3の回転軸に負荷トルクを伝達する発電機を有することを特徴とする。
上記構成の装置によれば、負荷トルクの量を制御することにより位相差を任意の角度で調整することができる。発電機は負荷トルクを発生するので、外部からエネルギを与えなくて済む。
【0007】
また、上記の目的を達成すべく、本発明の、位相制御装置は、個々に自転自在な複数のプラネタリギヤの全体が第1の回転軸の周りに公転するように設けられたプラネタリギヤ機構を有し、前記第1の回転軸に回転トルクを入力する入力部と、前記第1の回転軸と同軸の第2の回転軸を有し、前記複数のプラネタリギヤと外側から歯合するところのリングギヤの回転を出力する出力部と、前記プラネタリギヤと内側から歯合し、前記第1の回転軸並びに第2の回転軸と同軸の第3の回転軸を有するサンギヤを有する位相調整部とを具備し、前記位相調整部の前記サンギヤの前記第3の回転軸に駆動トルクを印加することにより、前記第1の回転軸並びに第2の回転軸の回転の角度位相差を制御し、前記位相調整部は、前記第3の回転軸に駆動トルクを伝達する同期電動機を有することを特徴とする。
上記構成の装置によれば、駆動トルクの量を制御することにより位相差を任意の角度で調整することができる。同期電動機は、駆動も発電も可能である。
【0009】
本発明の好適な一態様に拠れば、前記位相調整部が負荷トルクか駆動トルクの一方のみを前記第3の回転軸に印加する場合に、その印加トルクと反対方向の回転トルクを付与するために、前記プラネタリギヤと、前記サンギヤもしくは前記リングギヤとの間に設けられた部材をさらに有することを特徴とする。この構成にすることにより、出力部側からの反動トルクが与える影響を小さくすることができる。
【0010】
本発明の好適な一態様に拠れば、前記部材はリターンスプリングである。
本発明の好適な一態様に拠れば、前記リングギヤの第2の回転軸は、複数のリフト期間が設定されたカムのためのカムシャフトに結合されている。
本発明の好適な一態様に拠れば、位相角度の可変範囲をリミットするための機構を、前記リングギヤ、プラネタリギヤ、サンギヤのいずれか2つの間に設けたことを特徴とする。位相角度が不必要に大きく変更されることが防止される。
【0011】
本発明の好適な一態様に拠れば、前記リターンスプリングはプラネタリギヤとサンギヤとの間に配設されたことを特徴とする。スプリング力を小さく設定できる。
本発明の好適な一態様に拠れば、前記リターンスプリングは多段スプリングであって、そのバネ定数が入力トルクの回転数が零であるときに中間付勢状態にあるように設定されていることを特徴とする。出力側が所定の回転数状態にあるときに、その反力を利用して、最適な位相角度(例えば、エンジン回転数が低いときの最遅角角度)を得ることができる。
【0012】
本発明の好適な一態様に拠れば、前記位相調整部は負荷トルクもしくは駆動トルクを発生するために、デューティ制御を前記発電機、又は、前記同期電動機に行うことを特徴とする。位相角度を調整するための制御が簡便になる。本発明の好適な一態様に拠れば、前記位相調整部は発電機を有する場合において、デューティ比を所定回転数以上において回転数に応じて小さくする。発電機は負荷トルクを発生するからデューティ比を所定回転数以上において回転数に応じて小さくする。
【0013】
本発明の好適な一態様に拠れば、前記位相調整部は同期電導機を有する場合において、デューティ比を所定回転数以上において回転数に応じて大きくする。同期電導機は駆動トルクを発生するからデューティ比を所定回転数以上において回転数に応じて大きくする。本発明の好適な一態様に拠れば、エンジンのカム機構に外づけ可能に接続する機構を有する。既存のエンジンに適用可能となる。
【0014】
本発明の好適な一態様に拠れば、前記発電機は発電された電力を消費する抵抗に電流を流すためのスイッチング素子を複数有する。
【0015】
【発明の実施の形態】
〈原理〉
以下、添付図面に基づき、本発明を4サイクルDOHCエンジン用の回転位相制御装置に適用した実施形態を3つ(第1実施形態と第2実施形態と第3実施形態)挙げて詳細に説明する。
【0016】
第1図,第2図は、上記3つの実施形態に共通な動作原理を説明する。
第1図において、10は自転自在なリングギヤであり、その内周に歯が形成されている。20a,20b,20cは個々に自転自在なプラネタリギヤであり、フレーム21により支持される。3つプラネタリギヤの各々の外側の歯はリングギヤ10の内周の歯に歯合している。また、3つのプラネタリギヤの各々の内側の歯はサンギヤ30に歯合している。
【0017】
リングギヤ10は半径L1で速度M2で回転し、サンギヤ30の半径はL2で速度M1で回転とするとする。速度M1の符号を反時計回り方向を正とし、速度M2については時計回り方向を正とすると、半径L1,L2と速度M1,M2の間には、第2A図に示したような関係が存在し、プラネタリギヤ20の公転速度は、
M1+M2
となる。換言すれば、リングギヤ10,プラネタリギヤ20,サンギヤ30の内の、いずれか2つを入力及び出力とし、他を制御入力とすると、制御入力の回転速度(トルク)を制御することにより、出力の回転速度を変更することができる。即ち、入力トルクの回転に対して出力トルクの回転の位相を制御するためには、制御入力の回転を制御して出力トルクの回転速度を変更することにより、出力回転トルクの入力回転に対する位相を進め或いは遅らせて、その進め或いは遅らせた位置で入力トルクの回転速度と出力トルクの回転速度を一致させれば、その後は、その進んだ或いは遅れた位相を保って回転を継続することとなる。
【0018】
第2B図は位相調整の動作原理を説明する。
第2B図において、入力回転トルク(プラネタリギヤ20)は周期T1で回転しているとすると、出力トルク(リングギヤ10)は目的の周期T2で(即ち目標の回転速度で)位相遅れδを有して回転している。もし位相遅れが更にεだけ遅らせる必要があるときは、サンギヤ30に制御トルクを入力して、リングギヤ10の回転を遅らせる。これにより位相が更にεだけ遅れたならば、サンギヤ30への入力トルクを元に戻す。すると、リングギヤの出力トルクの回転周期はT2に戻り、こうして、入力トルク(プラネタリギヤ20)と出力トルク(リングギヤ10)とは目標の回転周期で回転するも、位相周期はδ+εと変更されたことになる。
【0019】
尚、入力トルクの回転速度と出力トルクの回転速度は半径L1,L2を適当に設定することにより、目標の回転速度を得ることができる。本明細書は本発明を自動車の4サイクルエンジンのカムシャフトの位相調整に適用した実施形態を説明するものであるから、
2T1 = T2
となるように半径L1,L2を設定した。
【0020】
後に説明する3つの実施形態では、プラネタリギヤ20に入力トルク(エンジンの出力)を入力し、リングギヤ10から出力トルク(カムシャフトの回転)を取り出すように構成し、サンギヤ30に制御トルクを入力することにより、プラネタリギヤ20の回転に対するリングギヤ10の回転速度を制御する。
第1図に示した原理形態の位相制御装置は、リングギヤ10、プラネタリギヤ20、サンギヤ30を有する。第3図は、それらギヤへのトルクの入出力関係を模式的に示す。即ち、リングギヤ10からは出力を取り出し、プラネタリギヤ20にはエンジン出力トルクを入力し、サンギヤ30には制御トルクを入力する。
【0021】
〈第1実施形態〉
第4図は本発明の第1実施形態の原理を説明する。この実施形態は、サンギヤ30に入力する制御トルクとして、外部に設けたオルタネータにおいて発生する負荷トルクを利用するものである。
第4図において、リングギヤ10は、その自転軸にカムシャフトが接続されている。入力トルクとしては、不図示のエンジンの出力軸(不図示)に設けられた歯車に巻回されたベルト42によって伝達されるエンジン出力トルクがプラネタリギヤ20に入力される。一方、プラネタリギヤ20と歯合するサンギヤ30の自転軸はプーリ40に接続され、プーリ40はベルト41によってオルタネータに接続される。
【0022】
オルタネータはコントローラによって制御され、換言すれば、オルタネータによって発電される電力に消費される回転トルクがサンギヤ30に対する負荷トルクとなる。従って、オルタネータにおいて発電される電力を制御すれば、リングギヤ10の回転速度、つまりカムシャフトの回転速度は制御される。
即ち、オルタネータが発電を行えば、電気エネルギに変換されるトルクはサンギヤ30に対して負荷トルクとして機能するから、発電量が増加すればするほど、サンギヤ30の回転速度は減少する。すると、リングギヤ10の回転速度は早くなり、カムシャフトの進角はより進む。即ち、オルタネータを負荷に用いれば、
発電量増加 → 進角化
発電量減少 → 遅角化
となる。
【0023】
尚、オルタネータによって発電された電力は図示のバッテリに充電しても良い。
第5図は、第4図のオルタネータをベルト駆動ではなく、サンギヤ30の自転軸に直結した構成を示す。
第4図のベルト駆動に比して第5図の直結タイプの優れている点は、第7図に示すように、後付けでエンジンに(即ち、車両に既に組み込まれた既存のエンジンに)本制御装置を取り付けることが可能になる点である。
【0024】
尚、オルタネータの代わりに、第6図に示すように、DCモータを用いても良い。DCモータを用いれば、サンギヤ30への入力トルクとして、負荷トルクではなく駆動トルクとなる。即ち、
モータへの電力大 → サンギヤ高回転化 → 遅角化
モータへの電力小 → サンギヤ低回転化 → 進角化
となる。
【0025】
〈第2実施形態〉
第4図,第5図に示した実施形態は、プラネタリギヤ20に入力トルクを入力し、リングギヤ10から出力トルクを取り出し、サンギヤ30へは制御トルクを入力するものであった。これらの図に示された実施形態では、オルタネータ内の界磁電流を制御すれば、原理的に、カムシャフトの位相角を任意に設定することができ、また、任意の位相角度に保持することも可能である。しかしこのような制御は制御手順が複雑で、コストの増大を招く。
【0026】
第2実施形態の位相制御装置1000は、出力回転トルク(即ち、リングギヤ10の回転速度)を、入力回転トルクの回転速度(即ち、プラネタリギヤ20の回転速度)に一致させる動作をスプリングの反発力を利用するというものである。
第8図に、第2実施形態の位相制御装置1000の構成を示す。即ち、第2実施形態の位相制御装置はより実際の実施形態に近い構成を有し、更に、第7図に示すように、エンジンに外づけ可能になっている。
【0027】
図中、500はカバーであり、エンジン本体にこの制御装置1000を取り付け固定する。1001はカムシャフトであり、制御装置1000のメインシャフト1002に直結している。カバー500とメインシャフト1002との間はボールベアリング501が介在し、シャフト1002の自在な回転を許す。
カバー500には複数のヨーク601a,601b…が配設され、第10図に示すように、個々のヨークにはコイル600a,600b…が巻回されている。ヨーク601とコイル600と後述のマグネット304とにより発電機(オルタネータ)が構成される。
【0028】
第8図において、複数の(ヨーク601a,601b…の個数の同数の)マグネット304a,304b…は、円形のプレート300上にヨーク601a,601b…のピッチと同じピッチで配列されている。円形プレート300は、メインシャフト1002に対して不図示のベアリングによってサポートされ、従って、カムシャフト1001の回転と独立して回転自在である。プレート300の回転軸近傍にはシャフト1002の軸方向に沿って伸びる柱状のリッジ301が設けられ、このリッジ301の周囲には複数のギヤ歯303が設けられている。
【0029】
かくして、円形プレート300、リッジ301、ギヤ歯303は、第4図,第5図で説明したサンギヤ30に相当する。尚、プレート300とリッジ301の概略を第9図に示す。
サンギヤ30に相当するプレートアッセンブリ300のリッジ301に設けられたギヤ歯303は、プラネタリギヤ201a,201bに設けられたギヤ歯203a,203bそれぞれと歯合する。プラネタリギヤ201a,201bは第9図に示すように円形プレート210に支持され、支持された位置において自転自在である。プラネタリギヤ201a,201bの各々に円周上に設けられたギヤ歯203a,203bは、前述したように、リッジ301に設けられたギヤ歯303を挟むようにしてギヤ歯303と歯合する。かくして、プレート210,プラネタリギヤ201a,201b、ギヤ歯203a,203bは、第5図などで説明したプラネタリギヤ20に相当する。
【0030】
尚、プレート210の背面はプレート300の背面と摺動自在となるように離間されるべく、プラネタリギヤ201a,201bは、それらがシャフト1002回りに公転自在となるものの、シャフト1002の軸方向には移動しないように不図示のストッパで固定されている。
プラネタリギヤ201a,201bのギヤ歯203a,203bは、それぞれ、円形プレート100の周囲に設けられた円柱状リッジ102の内周に設けられたギヤ歯101と歯合する。ここで、円形プレート100はカムシャフト1001に固定され、従って、円形プレート100が回転すればカムシャフト1002が同速度、同位相で回転する。かくして、円形プレート100、円柱リッジ102、ギヤ歯101は、第5図などで説明したリングギヤ10を構成する。
【0031】
第8図において、円形プレート210には、柱状のリッジ200がメインシャフト方向に設けられている。そして、リッジ200の外周に、タイミングベルト(不図示)の歯と歯合する歯220が設けられている。
従って、エンジンが回転すると、第7図に示すように、第8図では不図示のベルトが回転してプレート210(第4図のプラネタリギヤ20に相当)を回転させる。プレート210がシャフト1012の回りに回転すると、ギヤ歯101と歯合するギギヤ歯203a,203bを有するプラネタリギヤ201a,201bが公転する。プラネタリギヤ201a,201bの公転によって、ギヤ歯203a,203bとギヤ歯101によって歯合するプレート100が回転する。
【0032】
プレート100の回転速度は、前述したように、サンギヤとして機能するプレート300の回転速度、換言すれば、ギヤ歯303に伝達される負荷トルクによって制御される。
第8図において、サンギヤとして動作するプレート300の外周に多段スプリング302が巻回されている。この多段スプリング302は更にプレート210の外周上をも巻回する。第11A図は、スプリング302の、プレート300及びプレート210上への巻回の様子を説明する。即ち、一本の多段コイルスプリング302は、プレート300とプレート210の外周上を巻回し、一方の端部はサンギヤとして機能するプレート300に固定され、他方の端部はプラネタリギヤとして機能するプレート200と一緒に回転するリッジ200に固定されている。
【0033】
一本のスプリング302で2つのプレートを張設することにより、プラネタリギヤとして機能するプレート210とリングギヤとして機能するプレート100とが、オルタネータが発電機能を発揮しないときにおいて、同一回転速度で回転しようとする保持機能を発揮するようにしている。
第11B図は、プレート210の外周に設けられたリッジ210がストッパとして機能する様子を説明する。即ち、同図に示すように、リッジ210の一部は切り欠き211が設けられ、この切り欠き部211の間を、サンギヤ側のプレート300の一部が第11B図に示すように移動可能に設けられている。即ち、サンギヤとして機能するプレート300とリングギヤとして機能するプレート210とは互いに独立してシャフト1002回りに回動自在に設けられているけれども、両プレートの回転位相のズレ限界は上記切り欠き211の移動可能範囲内に抑えられているということである。その理由は、本位相制御装置がエンジンのカムシャフト軸の位相切換に用いられるのであるならば、位相角度の進角量及び遅角量に自ずと限界を課すべきであるからである。
【0034】
従って、この切り欠き211及び上記スプリング302を設けたことによるプレート210,300の動作を模式的に表すと、第12図のようになる。即ち、プレート300は、プレート210に対して、エンジンが停止している状態(即ち、プレート210にトルクが入力されていない状態)で、プレート300がプレート210に設けられた切り欠き部211の中間位置にあるように、多段スプリング302のバネ係数、巻き線数等が調整されている。
【0035】
〈発電機の動作〉
第10図は、カバー500上に設けられたヨーク601a,601b…の配置を示す。第8図,第10図を参照しながら、本位相制御装置1000に設けられた発電機の動作を説明する。
第11B図及び第12図を用いて説明したように、プレート210,300との間のズレは一定角度以内に限定されているから、プラネタリギヤとして機能するプレート210がエンジン回転によって回転されると、プレート300も強制的に回転せしめられる。
【0036】
カバー500に設けられたヨーク601及びコイル600は固定されているので、サンギヤとして機能するプレート300が回転すると、プレート300に固定されたマグネット304a,304bが発生する磁力線はヨーク601内を通過するときに、変化する磁界をコイル600内に生成する。この磁界変化がコイル600内に誘起電圧を発生せしめて、その電圧はコイル600の両端に現れる。第10図に示すように、各コイルの両端は、一方はアースに、他方はスイッチング回路に入力されている。従って、このスイッチング回路がONすると、誘起電力は抵抗Rによって消費される。一方、回路がOFFであれば、誘起電力は熱として消費されない。
【0037】
コイル600に発電された誘起電力が消費されないと、ヨーク601とマグネット304との間の磁気エネルギーは飽和するので、固定されているヨーク601はマグネット304に対する吸引力は低下し、従って、ヨーク601は、サンギヤとして機能するプレート300に対して負荷トルクを発生するものとはならない。
【0038】
反対に誘起電力が抵抗Rによって熱として放散されると、ヨーク601とマグネット304a,304bとの間に吸引力が働き、サンギヤとして機能するプレート300には負荷トルクが印加されることになる。
〈スプリングの機能〉
第13図は、スプリング302に設定されたバネ係数と、出力を産むプレート100に対して、カムシャフト1002から伝わってくるカム反力との関係を示す。ここで、カム反力とは、カムシャフトが回転することによりカム(不図示)が吸気バルブ(及び排気バルブ)のタペットを叩くことによって、それらバルブのスプリングから反力として伝達されてくる力のことであり、この反力は、プレート100,210,300に対して負荷として機能する。
【0039】
第13図において、このカム反力は当然のことながらカムシャフト回転数によって変化する。即ち、カム反力はカムシャフト回転数が低いほど(即ち、エンジン回転数が低いほど)大きい。第2実施形態のスプリング302のバネ係数は、エンジン回転数が極低回点数のとき(第13図の例ではエンジン回転数で700rpm(カムシャフト回転数で350rpm)以下)において、スプリング302がカム反力に負けるように設定する。スプリング302がカム反力に負けるエンジン回転数領域では、このカム反力が、リングギヤとして機能するプレート100に負荷として働き、その結果、プレート100の回転位相がプラネタリギヤとして機能するプレート210(エンジン回転に同期する)の回転よりも大きく遅れるようになり、即ち、最大遅角となることが予想される。
【0040】
エンジン回転数が極低い領域(700rpm以下)でとはエンジンの始動時にあることから、着火性や燃焼性を向上させることが要求されるが、そのような運転領域では前述したように、スプリング302がカム反力に負けるために、カムの位相角がクランク軸の回転に対して最大遅れとなるので、良好な着火性や燃焼性が維持されるのである。
【0041】
第2実施形態では、スプリング302をサンギヤとして機能するプレート300とプラネタリギヤとして機能するプレート210との間に介在させていた。この理由は以下による。
即ち、サンギヤのギヤ歯として機能するリッジ301の内径とプラネタリギヤとして機能するプラネタリギヤ201a,201bの内径とを適当に設定すると、例えば減速比5:1が得られ、サンギヤとして機能するプレート300に働く反力が極めて小さくなる。このために、スプリング302のバネ係数を小さなものに設定できるので、スプリング302のコイル線の太さを細くすることができる。即ち、カムシャフト側で発生したトルク変動は1/5に減衰されて、サンギヤとして機能するプレート300に伝達され、さらには発電機に伝達される。換言すれば、スプリング302をプレート300とプレート210との間に介在させることにより、
▲1▼: 出力(リングギヤ)としてのプレート100の回転を、入力(即ちプラネタリギヤ)としてのプレート210の回転に同期させるのに必要となる発電機に発生させるべき電力を少なくすることができるという効果と、
▲2▼: 出力(リングギヤ)としてのプレート100の回転の、入力(即ちプラネタリギヤ)として機能するプレート210の回転に対する位相を所望の角度だけ進め或いは遅らせるのに必要となる発電機に発生させるべき電力を少なくすることができるという効果を生む。
【0042】
〈位相角の制御〉
第14図は、本位相制御装置1000の位相角制御を行うコントローラの構成を示す。即ち、CPUは、同図に示すクランク角センサからクランク軸の回転位置を示す信号Naと、カム角度センサ(シャフト1002に設けられ、シャフト1002の回転位置を検出する)からの信号CAを入力する。CPUは、信号Naに基づいてエンジン回転数を演算する。また、Caに基づいてカムシャフト回転数を演算する。これらの回転数に基づいてスイッチング回路に入力すべき信号DUTYのデューティ比を演算する。この信号DUTYの特性を第15図に示す。信号DUTYは、スイッチング回路をONさせる時間とOFFさせる時間との比を規定する。デューティ比が大きくなればなるほどスイッチング回路をオンさせる時間が長くなり、従って、サンギヤとして機能するプレート300にはより大きな負荷トルクがかかり、結果的に、カムシャフトの位相角は進角方向により進む。反対に、デューティ比が小さくなればなるほどスイッチング回路をOFFさせる時間が長くなり、従って、サンギヤとして機能するプレート300にかかる負荷トルクはより小さくなり、結果的に、カムシャフトの位相角は遅角方向により進む。
【0043】
第2実施形態の位相制御装置のコントローラに設定された信号DUTYの特性は同図に示すように、カムシャフト回転数が350rpm以上の領域においては、エンジン回転数が高くなればなるほど、デューティ比を下げる、即ち、位相角をより遅らせる方向にする。また、前述したように、エンジン回転数が700rpm以下(カムシャフト回転数が350rpm以下)の領域では遅角量を最大にする必要があるからデューティ比を零、即ち、スイッチング回路は全くオンさせないこととする。従って、同特性は、
DUTY=0 (0rpm<Ca<350rpm)
DUTY=−k・Ca + m (Ca≧350rpm)
とする。ここで、kは正の定数、mも所定の定数である。
【0044】
第16図は上記制御を実行したときに、進角方向性に制御した場合と遅角方向に制御した場合の実験結果の例を示す。進角方向の制御では、進角量零の状態から目標進角量10度に設定して制御したときに、約0.3秒後に進角量20度に達し、その後目標量10度に収束していった。
一方、遅角方向の制御では、遅角量零の状態から目標着目量10度に設定して制御したときに、約0.3秒後に遅角量が10度強に達し、その後、目標量10度に収束していった。
【0045】
尚、実際のエンジンでは、アクセルの操作によってエンジン回転数が大きく変化する場合があり、本位相制御装置もその変化に追随してカムシャフトの進角量をダイナミックに制御しなければならない。前述の第15図に示したような回転数Caに基づいたオープン制御による制御信号DUTYの決定では実際のエンジン回転数の回転数変化に追随できなくなる場合があるかも知れないが、その場合には、信号DUTYの演算をフィードバック制御に変更する必要がある。この場合、クランク軸角度に対するカムシャフト軸1002の位相角度δを実際に演算し、そのときの回転数に対する目標位相角度との偏差に基づいて信号DUTYをフィードバック制御を行うようにする。このフィードバック制御(信号をDUTY-FDとする)は従であり、前述の第15図の特性に基づいたオープン制御によるDUTYの決定(信号量をDUTY-OPENとする)を主とする。即ち、
DUTY=p1・DUTY-OPEN + p2・DUTY-FD
とする。ここで、p1,p2はp1>p2である定数である。
【0046】
〈第3実施形態〉
第2実施形態にかかる位相制御装置1000はオルタネータを用いてオルタネータを付勢したときにサンギヤに負荷トルクがかかる構成とした。従って、オルタネータを積極的に制御するといっても、進角量のみを積極的に制御できるだけのこととなり、遅角量を積極的に制御することは難しい。一方、第1実施形態に関連して説明した第6図のDCモータを用いた例では逆に積極的に進角制御を行うことが難しくなる。第3実施形態は、進角方向制御も遅角方向制御も積極的に行うことのできる位相制御装置2000を開示する。したがって、第3実施形態はこの目的のために正逆両方向に回転可能なステッピングモータ(或いは多極DCモータあるいは多極ブラシレスDCモータ)を用いる。
【0047】
第17図に第3実施形態の原理形態を示す。
この第3実施形態は、回転可能なコイルとマグネットとを有するモータを用いる。そして、第1実施形態,第2実施形態と同じように、リングギヤ10,プラネタリギヤ20,サンギヤ30の構成を有する。第3実施形態に特徴的な構成は、コイルはプラネタリギヤ20に同期して回転し、マグネットはサンギヤ30の回転に同期するということである。そして、コイルに流す電流の方向及び電流値を制御することにより、サンギヤ30に正トルク又は負のトルクを印加することにより、リングギヤの回転位相角度を進角方向又は遅角方向に積極的に制御するものである。
【0048】
第17図の「モータ」は種々のモータを使用することが可能である。「モータ」として、第18A図はステッピングモータの使用例を、第18B図は多極DCモータの使用例を、第18C図は多極ブラシレスモータの使用例を示している。第19図は、第3実施形態の位相制御装置2000に、ステッピングモータを用いたものである。尚、第19図中の要素番号について、第8図の(第2実施形態)の要素番号と同じものは同じ形状の同じ部品或いは類似機能を発揮する部品を表す。
【0049】
第19図の第3実施形態に特徴的なことは、ステップモータの一部であるコイル350a,350bが、プラネタリギヤとして機能するプレート210に固定され、ステッピングモータの一部であるマグネット701a,710bが、サンギヤとして機能するプレート300に固定されているということである。このために、コイル350して,350bはプラネタリギヤと一緒に回り、マグネット701a,701bはサンギヤと一緒に回る。
【0050】
コイル350a,350bに流すべき制御信号は、通常のステッピングモータと同様に、時計回り方向に1ステップ進行させる(或いは反時計回り方向に1ステップ進行させる)ものである。換言すれば、ステッピングモータの1つの回転方向(例えば時計回り方向)はサンギヤに駆動力を与える回転方向であり、他の回転方向(反時計回り方向)はサンギヤに負荷トルクを与えることになる。
【0051】
このような制御信号をコイル350a,350bに流すことにより、第3実施形態の位相制御装置2000では、位相角を積極的に進角化し、或いは遅角化することができる。そのために、第2実施形態では必要であったスプリングは第3実施形態では不要となる。
〈変形〉
本発明は上記実施形態に限られることなく色々と修正が可能である。
【0052】
例えば、本発明の位相制御装置はカムシャフトの位相機構のみに適用されるのではなく、およそ位相角度の調整が必要なものであるならば適用可能である。それは本発明が本質的に無段階で位相角度を調整できるためである。
また、本発明はDOHCエンジンのみならず、SOHCエンジンなどのエンジンにも適用可能である。
【0053】
また、プラネタリギヤ機構20は、プラネタリギヤが2つのものと3つのものを説明したが、これらの限られず、用途に応じて、装置の大きさ、入力トルクの容量等を勘案して、これ以上の数のギヤを使うことを考えるべきである。
また、発電機と電動機の機能を合わせ持つ同期電動機を用いることも可能である。
【0054】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の位相制御装置によれば、位相角度を任意に調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明を3ギヤ構成のプラネタリギヤを有する実施形態(第1実施形態)の原理を説明する図。
【図2A】 第1図の実施形態の動作原理を説明する図。
【図2B】 第1図の実施形態の動作を説明するタイミングチャート。
【図3】 第1実施形態における入力されるトルクと出力されるトルクとの関係を説明する図。
【図4】 第1実施形態の具体例を説明する図。
【図5】 第1実施形態の具体例を説明する図。
【図6】 第5図装置の変形例を説明する図。
【図7】 本発明の位相制御装置が特に自動車のエンジンに外づけ或いは後付けが可能であることを示す図。
【図8】 第2実施形態の位相制御装置1000の構成を示す図。
【図9】 第2実施形態の構成を示す分解図。
【図10】 第2実施形態の装置に用いられている発電機の一部を示す図。
【図11A】 第2実施形態に用いられるスプリングの巻回の様子を説明する図。
【図11B】 第2実施形態の制御装置における位相角度リミット機構を説明する図。
【図12】 第2実施形態におけるスプリング302の動作を説明する図。
【図13】 第2実施形態におけるスプリング302の動作を説明する図。
【図14】 第2実施形態等に用いられる位相制御のためのコントローラの構成を説明するブロック図。
【図15】 図14の制御動作を説明する図。
【図16】 図15の制御の実験結果を示すタイミングチャート。
【図17】 第3実施形態の構成を説明する図。
【図18A】 第3実施形態の変形例を説明する図。
【図18B】 第3実施形態の変形例を説明する図。
【図18C】 第3実施形態の変形例を説明する図。
【図19】 第3実施形態の具体的構成を示す図。
【符号の説明】
10…リングギヤ
20,20a,20b,20c…プラネタリギヤ
21…支持フレーム
30…サンギヤ
40…プーリ
41,42…ベルト
100,210,300…プレート
101…ギヤ歯
102,301…リッジ
201a,201b…プラネタリギヤ、
202,203a,203b,303…ギヤ歯
211…切り欠き
302…スプリング
304a,304b,701a,701b…マグネット
500…カバー
600,350a,350b…コイル
601a,601b…ヨーク
Claims (14)
- 個々に自転自在な複数のプラネタリギヤの全体が第1の回転軸の周りに公転するように設けられたプラネタリギヤ機構を有し、前記第1の回転軸に回転トルクを入力する入力部と、
前記第1の回転軸と同軸の第2の回転軸を有し、前記複数のプラネタリギヤと外側から歯合するところのリングギヤの回転を出力する出力部と、
前記プラネタリギヤと内側から歯合し、前記第1の回転軸並びに第2の回転軸と同軸の第3の回転軸を有するサンギヤを有する位相調整部とを具備し、
前記位相調整部の前記サンギヤの前記第3の回転軸に負荷トルクを印加することにより、前記第1の回転軸並びに第2の回転軸の回転の角度位相差を制御し、
前記位相調整部は、前記第3の回転軸に負荷トルクを伝達する発電機を有することを特徴とする回転位相制御装置。 - 個々に自転自在な複数のプラネタリギヤの全体が第1の回転軸の周りに公転するように設けられたプラネタリギヤ機構を有し、前記第1の回転軸に回転トルクを入力する入力部と、
前記第1の回転軸と同軸の第2の回転軸を有し、前記複数のプラネタリギヤと外側から歯合するところのリングギヤの回転を出力する出力部と、
前記プラネタリギヤと内側から歯合し、前記第1の回転軸並びに第2の回転軸と同軸の第3の回転軸を有するサンギヤを有する位相調整部とを具備し、
前記位相調整部の前記サンギヤの前記第3の回転軸に駆動トルクを印加することにより、前記第1の回転軸並びに第2の回転軸の回転の角度位相差を制御し、
前記位相調整部は、前記第3の回転軸に駆動トルクを伝達する同期電動機を有することを特徴とする回転位相制御装置。 - 前記位相調整部が負荷トルクを前記第3の回転軸に印加する場合に、その印加トルクと反対方向の回転トルクを付与するために、前記プラネタリギヤと、前記サンギヤもしくは前記リングギヤとの間に設けられた部材をさらに有することを特徴とする請求項1に記載の回転位相制御装置。
- 前記位相調整部が駆動トルクを前記第3の回転軸に印加する場合に、その印加トルクと反対方向の回転トルクを付与するために、前記プラネタリギヤと、前記サンギヤもしくは前記リングギヤとの間に設けられた部材をさらに有することを特徴とする請求項2に記載の回転位相制御装置。
- 前記部材はリターンスプリングであることを特徴とする請求項3又は4に記載の回転位相制御装置。
- 前記リングギヤの第2の回転軸は、複数のリフト期間が設定されたカムのためのカムシャフトに結合されていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の回転位相制御装置。
- 位相角度の可変範囲をリミットするための機構を、前記リングギヤ、プラネタリギヤ、サンギヤのいずれか2つの間に設けたことを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の回転位相制御装置。
- 前記リターンスプリングはプラネタリギヤとサンギヤとの間に配設されたことを特徴とする請求項5に記載の回転位相制御装置。
- 前記リターンスプリングは多段スプリングであって、そのバネ定数が入力トルクの回転数が零であるときに中間付勢状態にあるように設定されていることを特徴とする請求項8に記載の回転位相制御装置。
- 前記位相調整部は負荷トルクを発生するために、デューティ制御を前記発電機に行い、デューティ比を所定回転数以上において回転数に応じて小さくすることを特徴とする請求項1に記載の回転位相制御装置。
- 前記位相調整部は駆動トルクを発生するために、デューティ制御を前記同期電動機に行い、デューティ比を所定回転数以上において回転数に応じて大きくすることを特徴とする請求項2に記載の回転位相制御装置。
- 前記位相調整部は、前記第3の回転軸に直結する前記発電機を有し、エンジンのカム機構に外づけ可能に接続する機構を有することを特徴とする請求項1に記載の回転位相制御装置。
- 前記位相調整部は、前記第3の回転軸に直結する前記同期電動機を有し、エンジンのカム機構に外づけ可能に接続する機構を有することを特徴とする請求項2に記載の回転位相制御装置。
- 前記発電機は発電された電力を消費する抵抗に電流を流すためのスイッチング素子を複数有することを特徴とする請求項1に記載の回転位相制御装置。
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