JP3835205B2 - 熱光学効果型光アテネータ - Google Patents

熱光学効果型光アテネータ Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、光情報処理、光通信システムに有用な、低損失で微調整可能な熱光学効果型光アテネータに係り、特に、温度分布を不要にして素子の小型化を図った熱光学効果型光アテネータに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
波長多重光信号伝送には光増幅器が不可欠である。現在最も盛んに使用される光増幅器としてはエルビウムドープ光ファイバがある。しかし光増幅器は、波長により、増幅利得に特性を持つため、信号の安定、均一な伝送のためには利得を調整、平坦化する機構、例えば、光アテネータがシステム中に必要となる。
【0003】
光アテネータは、WDM(Wavelength Division Multiplexing)フィルタによって波長ごとに分けられた信号を、それぞれ独立に強度調整するもので、熱光学効果型、機械型、磁気光学型などさまざまな方式がある。特に、熱光学効果型光アテネータは、可動部分がないため高い信頼性を期待できる。
【0004】
図3に示すような従来の熱光学効果型光アテネータ30は、石英基板31上にクラッド層32を形成し、そのクラッド層32にコアとなる光導波路33を形成して光回路とし、この光導波路33上に金属薄膜ヒータ34a,34bを形成したものである。コアとなる光導波路33は、オーバクラッド層32uで覆われている。光導波路33の一端が入力ポート33iであり、光導波路33の他端が出力ポート33oである。
【0005】
コアとなる光導波路33は石英系の材料からなり、TiあるいはGeが添加されている。クラッド層32は石英系の材料からなり、純粋SiO2 あるいはB及びPが添加されている。コアとクラッド層32の屈折率差は0.3%である。光導波路33は、Y分岐部35、アーム36a,36b、Y結合部37からなる対称マッハツェンダ干渉計回路とし、左右対称の形をしている。アーム36a,36b間ギャップgは約100μmである。
【0006】
分岐された二つのアーム36a,36b上には、オーバクラッド層32uをはさみ、幅が20〜50μmの一定値、光の伝搬方向に平行に所定長さを持つ直線状の金属薄膜ヒータ34a,34bが形成されている。各金属薄膜ヒータ34a,34bの両端には、外部電源との接続用電極38が形成されている。
【0007】
従来の熱光学効果型光アテネータ30では、ヒータ34a,34bが両方ともOFFの場合、入力光liはY分岐部35で約3dBずつ分岐され、アーム36a,36bを通過した後、Y結合部37で再び結合する。Y結合部37で合流する光に位相差がないため、光の出力が理論的に無損失となり、比較的波長依存性のない出力を得ることが出来る。
【0008】
一方のヒータ34aがONされている場合、光導波路33のアーム36aが加熱され、加熱されたアーム36aの屈折率が熱光学効果によって変化する。このとき、加熱されたアーム36aを通過する光laは、加熱されない側のアーム36bを通過する光lbに対して位相ずれを生じる。Y結合部37に入射する光laは、奇モードに近づき、Y結合部37で光を放射するようになる。すなわち、ヒータ34aの加熱温度の調整により、出力光loの強度を調整することが可能である。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
従来の熱光学効果型光アテネータ30は、その構成要素であるマッハツェンダ回路のアーム36a,36bを加熱して、温度差を得る事によって光信号減衰動作をしている。
【0010】
しかしながら、アーム36a,36bは同じ材料で形成されているので、アーム36a,36bに温度差を与えるためには、ヒータ34a,34bの消費電力を大きくする必要があり、温度効率が悪いという問題がある。
【0011】
また、通常どちらかのアーム36a,36bの近傍に、ヒータ34a,34bとして金属薄膜の微細なパターンを堆積させるので、光回路に応力分布が生じる可能性があるという問題もある。光回路に応力分布を生む構造はPDLの発生、また信頼性の問題を複雑化する。
【0012】
二つのアーム36a,36bの温度差は特に断熱構造を有しなくても、各ヒータ34a,34bと各アーム36a,36b間の距離に差をつけたり、アーム36a,36b間のギャップgを変えたりして付与することができるが、その距離によって必要な減衰量を得るヒータ34a,34bの駆動電力は著しく異なる。
【0013】
図4は、従来の熱光学効果型光アテネータ30の消光比20dBにおけるアーム間ギャップg(μm)に対する消費電力(W)と応答時間(ms)を示した図である。図4では、消費電力変化曲線をx、応答時間変化曲線をyとしている。
【0014】
図4に示すように、ギャップgが100μmの場合、アーム36a,36b間の距離が近いので、温度差を得るためにはどちらかのアーム36a,36bを強く加熱しなければならない。このとき、ヒータの消費電力は約0.27Wも必要になる。応答時間は約9msである。
【0015】
ギャップgを広げるにつれてアーム36a,36b間の距離が離れるので、温度差を得るために必要なヒータの消費電力は少なくなり、逆に応答時間は長くなる。ギャップgが800μmの場合、ヒータの消費電力は約0.09Wと少なくなるが、応答時間が約63msと長くなる。しかもこの場合、素子全体が大きくなってしまうという問題がある。
【0016】
そこで、本発明の目的は、温度効率の良い絶対温度駆動であり、小型で回路全体に応力分布のない熱光学効果型光アテネータを提供することにある。
【0017】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記目的を達成するために創案されたものであり、請求項1の発明は、石英基板上に、入力される光を分岐させ再結合させる対称マッハツェンダ回路を少なくとも1段形成して光回路とし、各マッハツェンダ回路の二つのアームをヒータで加熱して光出力を調整する熱光学効果型光アテネータにおいて、上記二つのアームは、それぞれ屈折率の増減が温度に対して逆となる異なる材料で形成されていると共に、上記ヒータが上記石英基板の下面の全面に形成され、上記光回路の全体を加熱する熱光学効果型光アテネータである。
【0019】
請求項の発明は、上記二つのアームの光路長差が0となる温度が、動作環境の周囲温度以上である請求項1記載の熱光学効果型光アテネータである。
【0020】
請求項の発明は、上記二つのアームの一方が石英からなり、他方がシリコーン樹脂からなる請求項1または2に記載の熱光学効果型光アテネータである。
【0021】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明の好適実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0022】
図1は、本発明の好適実施の形態である熱光学効果型光アテネータの斜視図を示したものである。
【0023】
図1に示すように、本発明の熱光学効果型光アテネータ1は、入力光Liの強度を調整して出力光Loとして出力するものであり、石英基板2上にクラッド層3を形成し、そのクラッド層3にコアとなる光導波路4を形成して光回路としたものである。コアとなる光導波路4は、オーバクラッド層3uで覆われている。光導波路4の一端が入力ポート4iであり、光導波路4の他端が出力ポート4oである。この熱光学型光アテネータ1は、入力光Liの波長が1.53μm〜1.6μmであり、消光比が20dB以上である。
【0024】
光導波路4は、入力光Liを分岐光La,Lbに分岐するY分岐部5と、分岐光La,Lbがそれぞれ導かれ、光路長差付与部であるアーム6a,6bと、分岐光La,Lbが結合するY結合部7とからなる1×1の対称型マッハツェンダ干渉計回路Cとし、左右対称の形をしている。Y分岐部5およびY結合部7の各先端部間のギャップgは、約100μmである。これは、アーム6a,6b間のギャップgでもある。
【0025】
コアとなる光導波路4の高さは、入力側の光導波路、出力側の光導波路共に8μmである。コア幅はシングルモード条件を崩さないように設定しており、Y分岐部5、Y結合部7を除いて8μmである。
【0026】
さて、本発明の熱光学効果型光アテネータ1は、マッハツェンダ回路Cのアーム6aを、例えばシリコーン樹脂で形成し、アーム6bを、例えばTiあるいはGeが添加されたSiO2 (石英)で形成している。シリコーン樹脂は、素子温度80℃における屈折率が石英と等しく、温度に対する屈折率の増減が石英と逆となる材料である。
【0027】
アーム6aの材料の選択としては、温度は高温側から低温側に流れる特性があるので、動作環境の周囲温度の影響を受けないようにするために、動作環境の周囲温度の条件(−5℃〜70℃程度)の最高値より高温で石英からなるアーム6bと屈折率が等しくなるような材料を選ぶとよい。
【0028】
すなわち、アーム6aの材料としてシリコーン樹脂を、アーム6bの材料として石英を選び、素子を動作させる温度範囲の最小値を80℃とすればよい。この場合、後述するように、熱光学効果型光アテネータ1の光出力量は80℃で最大となり、80℃より高温になるにつれてアーム6a,6bの屈折率差が大きくなるので、消光比(減衰量)がヒータ印加電力(温度)に応じて増加する。これにより、熱光学効果型光アテネータ1を動作環境の周囲温度の条件に左右されることなく使用することができる。
【0029】
要するに、コアとなる光導波路4は、アーム6aを除き、石英系の材料、例えば、TiあるいはGeが添加されたSiO2 からなっている。このアーム6aをクラッド層3に形成する際には、Y分岐部5の分岐地点5aとY結合部7の結合地点7aから充分離れた箇所となるように注意する。クラッド層3は石英系の材料、例えば、純粋SiO2 あるいはB及びPが添加されたSiO2 からなる。アーム6aを除いたコアとクラッド層3の屈折率差は0.3%である。
【0030】
石英基板2の下面2dの全面には、素子全体の温度分布が均一となるように薄膜状のヒータ8が貼り付けられている。ヒータ8としては、熱伝導性が良く、また石英ガラスに応力等がかからないように、例えば、石英との熱の線膨張係数差の比較的小さい窒化アルミニウムを材料としている。ヒータ8下面の端部には、外部電源との接続用電極9a,9bが形成されている。
【0031】
ここで両アーム9a,9bの光路長差が0になるときの温度を中心温度と呼ぶことにする。本実施の形態における中心温度は80℃である。光の減衰量、すなわち光路長差は、中心温度からの温度差に比例する。
【0032】
本発明の熱光学効果型光アテネータ1では、中心温度からの温度差を正確に測定するために、オーバクラッド層3u上面のアーム6a,6b間に測温体抵抗10を設けている。この測温体抵抗10からの信号に基づき、別に設けた制御手段により、素子全体の温度をフィードバック制御して光減衰量を調整している。
【0033】
本発明の作用を説明する。
【0034】
図2は、図1に示した熱光学効果型光アテネータの特性曲線aを、横軸をヒータ印加電力(mW)にとり、縦軸を消光比(dB)にとって示した図である。
【0035】
図1および図2に示すように、まず、ヒータ8を通電し、熱光学効果型光アテネータ1の素子全体の温度を動作環境の周囲温度以上、例えば、80℃均一に保つ。このときのヒータ印加電力は約80mWである。
【0036】
素子を動作させる温度範囲の最小値を、約80℃とする。このとき、アーム6a,6bの屈折率は等しいので、入力ポート4iから入力される入力光は、出力ポート4oから出力光としてそのまま出力され、光出力量が最大となる。消光比(光減衰量)は0dBである。このようにすると、熱光学効果型光アテネータ1を動作環境の周囲温度の条件に左右されることなく使用することができる。
【0037】
ヒータ8の印加電力を徐々に増加させ、素子全体の温度を80℃から徐々に上げる。素子全体が80℃より高温になるにつれてアーム6a,6bの屈折率差が大きくなるので、消光比が素子全体の温度の絶対量に応じて増加する。このとき、入力光Liは特性曲線aに応じて強度が調整された出力光Loとなる。特性曲線aは、ヒータ印加電力が約104mWで消光比が約30dBの極大値となるので、熱光学効果型光アテネータ1を動作させるヒータ8の印加電力範囲は、約80mW〜約104mWである。
【0038】
ここで、本発明と従来例とを、それぞれのアーム間ギャップgが100μmの場合について比較してみる。
【0039】
本発明の熱光学効果型光アテネータ1は、図2に示すように、消光比20dBにおけるヒータ印加電力が約102mWと非常に少ない。従来の熱光学効果型光アテネータ30は、図4に示すように、ヒータ消費電力が約0.27Wと本発明の2倍以上である。また、従来の光アテネータ30では、アーム間ギャップgを約700μmにすれば、ヒータ消費電力が本発明とほぼ同じとなるが、この場合素子全体が非常に大きくなってしまう。
【0040】
このように本発明では、光導波路4を構成する光回路であるマッハツェンダ回路Cの二つのアーム6a,6bを、それぞれ屈折率が温度によって互いに逆向きに変化する異なる材料で形成しているので、二つのアーム6a,6bの双方がヒータ8で加熱されたとき、光路長に差が生じる。アーム6a,6bに互いに異なる材料を用いた事によって、等しい材料を加えた場合に比べ、同じ加熱温度に対するアーム6a,6bの光路長差変化を大きくできる。これにより、石英導波路型で、アテネーションによって温度効率の良い絶対温度駆動の光アテネータを実現できる。
【0041】
温度の絶対値で制御することにより、従来例のような応力を増加させる金属薄膜ヒータ34a.34bが不要となるので、光回路に応力分布が生じることがない。温度差をつける必要がないので、素子全体をヒータ8で加熱することができる。
【0042】
また、二つの光路長差付与部であるアーム6a,6bの距離を広げる必要がなく、素子サイズを小形化でき、光回路全体に応力分布のない光アテネータを実現できる。
【0043】
本発明の熱光学効果型光アテネータ1を用いることによって光波長多重伝送に有用な広い波長帯域にわたって使用することが可能となる。
【0044】
なお、本実施の形態では、石英基板2上に、対称マッハツェンダ回路Cを1段形成して光回路とした例で説明したが、石英基板2上に、対称マッハツェンダ回路Cを2段、3段と複数段形成して光回路としてもよい。アーム6bをシリコーン樹脂で形成し、アーム6aを石英で形成してもよい。
【0045】
【発明の効果】
以上説明したことから明らかなように、本発明によれば次のごとき優れた効果を発揮する。
【0046】
(1)温度効率の良い絶対温度駆動の光アテネータを実現できる。
【0047】
(2)小型で回路全体に応力分布のない光アテネータを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の好適実施の形態を示す斜視図である。
【図2】図1に示した熱光学効果型光アテネータの特性を示す図である。
【図3】従来の熱光学効果型光アテネータの斜視図である。
【図4】図3に示した熱光学効果型光アテネータの消光比20dBにおけるアーム間ギャップに対する消費電力と応答時間を示す図である。
【符号の説明】
1 熱光学効果型光アテネータ
2 石英基板
6a,6b アーム
8 ヒータ
C 対称マッハツェンダ回路

Claims (3)

  1. 石英基板上に、入力される光を分岐させ再結合させる対称マッハツェンダ回路を少なくとも1段形成して光回路とし、各マッハツェンダ回路の二つのアームをヒータで加熱して光出力を調整する熱光学効果型光アテネータにおいて、上記二つのアームは、それぞれ屈折率の増減が温度に対して逆となる異なる材料で形成されていると共に、上記ヒータが上記石英基板の下面の全面に形成され、上記光回路の全体を加熱することを特徴とする熱光学効果型光アテネータ。
  2. 上記二つのアームの光路長差が0となる温度が、動作環境の周囲温度以上である請求項1記載の熱光学効果型光アテネータ。
  3. 上記二つのアームの一方が石英からなり、他方がシリコーン樹脂からなる請求項1または2に記載の熱光学効果型光アテネータ。
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