JP3834362B2 - インフルエンザウイルス吸着阻止剤 - Google Patents
インフルエンザウイルス吸着阻止剤 Download PDFInfo
- Publication number
- JP3834362B2 JP3834362B2 JP24709696A JP24709696A JP3834362B2 JP 3834362 B2 JP3834362 B2 JP 3834362B2 JP 24709696 A JP24709696 A JP 24709696A JP 24709696 A JP24709696 A JP 24709696A JP 3834362 B2 JP3834362 B2 JP 3834362B2
- Authority
- JP
- Japan
- Prior art keywords
- influenza virus
- sulfatide
- adsorption inhibitor
- solution
- pbs
- Prior art date
- Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
- Expired - Fee Related
Links
Images
Landscapes
- Saccharide Compounds (AREA)
- Medicines That Contain Protein Lipid Enzymes And Other Medicines (AREA)
- Pharmaceuticals Containing Other Organic And Inorganic Compounds (AREA)
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、インフルエンザウイルス吸着阻止剤に関する。
本発明のインフルエンザウイルス吸着阻止剤によるとインフルエンザウイルスの細胞への吸着を阻止し、感染を防御することができる。
【0002】
【従来の技術】
インフルエンザウイルスはオルソミクソウイルス科に属するウイルスで、その粒子は直径80〜100nm の球形状であり、宿主由来の脂質二重膜を有するいわゆるエンベロープウイルスの一種である。そして、インフルエンザウイルスのエンベロープ外側は、三量体を形成したヘマグルチニン (赤血球凝集素) と四量体を形成したノイラミニダーゼの二種類の糖タンパク質がスパイク状に突き出した形状を呈している。また、インフルエンザウイルスの粒子内部は、 (−) 鎖RNA、核タンパク質及び3種のRNAポリメラーゼからなる8本の分節を形成したリボヌクレオプロテインとマトリクスプロテインとが存在しており、主に、このリボヌクレオプロテインとマトリクスプロテインの抗原性の差により、インフルエンザウイルスはA型、B型及びC型に分類されている。さらに、A型は、ヘマグルチニンとノイラミニダーゼの抗原性の差により、多くの亜型(subtype) に分類されている。現在、ヘマグルチニンは14種 (H1〜H14) 、ノイラミニダーゼは9種 (N1〜N9) が知られている。なお、インフルエンザウイルスの細胞への感染は、インフルエンザウイルスが宿主細胞の表面に存在するレセプター糖鎖 (シアロ複合糖鎖) にヘマグルチニンを介して吸着した後、エンドサイトーシスにより細胞内に取り込まれてエンドソームやライソゾームに運搬され、顆粒内の弱酸性条件下でウイルス膜とオルガネラ膜が融合してウイルス粒子内容物を細胞外へ放出するという機構が考えられている。
【0003】
このインフルエンザウイルスは、未だ有効な治療法や感染防御法が見出されていない病原体の一つである。インフルエンザウイルスは、極めて感染性が強く、抗原変異を繰り返し、それまでの抗原性とは大きく異なる新種が出現するため、効果的な防御対策が立て難く、10数年に一度の割合で世界的規模の流行を繰り返している。今世紀に入ってもスペイン風邪をはじめとして、アジア風邪、ホンコン風邪、ソ連風邪等が出現し、多数の人命を脅かしてきている。このような背景から、インフルエンザウイルス感染の予防や治療効果を有する医薬の開発が待たれている現状にある。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明者らは、インフルエンザウイルス感染の予防や治療効果を有する物質を求めて鋭意研究を進めていたところ、インフルエンザウイルスの受容体機能を有することが知られているガングリオシド (GDla等) とは異なるシアロ糖鎖を含まない硫酸化糖脂質のスルファチドが、インフルエンザウイルスとの強い結合活性を有することを見出し、本発明を完成するに至った。したがって、本発明は、新規なインフルエンザウイルス吸着阻止剤を提供することを課題とする。さらに詳細には、スルファチドを有効成分とする新規なインフルエンザウイルス吸着阻止剤を提供することを課題とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明は、スルファチドを有効成分とするインフルエンザウイルス吸着阻止剤に関する。
本発明のインフルエンザウイルス吸着阻止剤の有効成分として使用するスルファチドは、下記の一般式(I)で示される既知の糖脂質であり、脳灰白質に比較的多量に存在することが知られている物質である。
【0006】
【化1】
【0007】
なお、スルファチドの製造方法としては、例えば、牛脳から抽出精製する方法(Lipids, vol.20, pp.588-598,1985; 生化学実験講座「脂質の科学」, vol.3, pp.368-388,東京化学同人発行) や化学合成する方法(Carbohydrate Res., vol.2, pp.371-379, 1966)等が知られている。また、スルファチドは、試薬として市販もされている。
【0008】
以下に、参考例として、スルファチドの調製方法を示す。
【参考例1】
新鮮なウシ脳灰白質1kgに5倍量のアセトンを加えてホモジナイズした後、濾過して抽出液を得た。この抽出液を凍結乾燥した後、5倍量のクロロホルム:メタノール=2:1(v/v) 溶媒で抽出し、さらに、クロロホルム:メタノール=1:1(v/v) 溶媒で抽出して濃縮して濃縮液を得た。次に、この濃縮液を3倍量のアセトンで抽出した後、3倍量のジエチルエーテルで処理してグリセロホスホリピドを除去した。そして、0.5N水酸化ナトリウム/メタノール溶液で37℃、3時間処理し、蒸留水に透析した後、凍結乾燥してスルファチドの粗画分を得た。
このスルファチドの粗画分をフォルチ分配法(Folchs partition)に供して下層を集めた後、クロロホルム:メタノール:水=30:60:8(v/v/v) 溶媒で平衡化したQ−セファロースカラムに供し、酢酸ナトリウム0〜4Mの直線グラジエントで溶出した。そして、各溶出画分を薄層クロマトグラフに供してスルファチド標準物質と比較確認した。その結果、スルファチドは、酢酸ナトリウム1〜1.5Mの溶出画分に溶出されていることが判った。この溶出画分をエバポレートして溶媒を除去した後、残渣に蒸留水を加えて溶解し、蒸留水に対して透析した後、凍結乾燥して純度99%以上のスルファチドの白色粉末を得た。
【0009】
本発明は、このようなスルファチドを有効成分とするインフルエンザウイルス吸着阻止剤を投与することによって組織へのインフルエンザウイルスの吸着を阻止し、インフルエンザウイルスの感染を防御しようとするものである。
【0010】
次に、スルファチドのインフルエンザウイルスに対する効果を確認した試験例を示す。
【試験例1】
参考例1で得られたスルファチドと、インフルエンザウイルスに強く結合することが知られているシアリルパラグロボシドとを使用し、TLC/Virus Binding Assay によりインフルエンザウイルスに対する反応性を調べた。すなわち、シリカゲル薄層板(Polygram Sil G Nagel)上に、0.25〜1.50nmolのスルファチド又はシアリルパラグロボシドをスポットし、クロロホルム:メタノール:水=5:4:1(v/v/v) 溶媒で展開した後、風乾し、1%ウシ血清アルブミン- リン酸緩衝液 (BSA−PBS) 溶液で4℃、一晩処理した。このシリカゲル薄層板をPBS溶液で5回洗浄した後、インフルエンザウイルスA/Aichi/2/68(H3N2)−PBS懸濁液を加えて、4℃、一晩振盪した。その後、PBS溶液で5回洗浄した後、1%BSA−PBS溶液で 250倍に希釈した抗インフルエンザウイルス抗体と、4℃、3時間反応させた。なお、抗インフルエンザウイルス抗体は、インフルエンザウイルスA/Aichi/2/68(H3N2)をウサギに免疫することにより得られたポリクローナル抗体を使用した。このシリカゲル薄層板をPBS溶液で5回洗浄した後、 250倍に希釈した西洋ワサビペルオキシダーゼ標識プロテインAを含む1%BSA−PBS溶液中で、4℃、3時間反応させた。このシリカゲル薄層板をPBS溶液で5回洗浄した後、0.1M酢酸緩衝液(pH 6.0) 10ml に、110mM 4-クロロ-1- ナフトールを含むアセトニトリル溶液 200μl 、 60mM N,N-ジエチル -p-フェニルエジアミン- ジヒドロキシクロライドを含むアセトニトリル溶液 200μl 及び30%過酸化水素水1μl を混和した発色液を加えて、室温で15分間振盪反応させた。このシリカゲル薄層板を精製水で洗浄した後、風乾し、発色をデンシトメーター(CS-9000、島津製作所) により、測定波長 600nm、対照波長 425nmにて定量した。その結果を図1に示す。図1に示すようにスルファチド(○)はシアリルパラグロボシド(●)にくらべてインフルエンザウイルスに対して高い反応性を示している。すなわち、スルファチドは、インフルエンザウイルスに強く結合することが知られているシアリルパラグロボシドよりもさらに強くインフルエンザウイルスと濃度依存的に結合することが判った。
【0011】
【試験例2】
参考例1で得られたスルファチドとガングリオシドGM3を使用し、 ELISA法(Enzyme-Linked Immuno Sorbent Assay)によりインフルエンザウイルスに対する反応性を調べた。すなわち、マイクロプレート(96flat-bottom wells, Polysorp Nunc.) の各ウエルに、エタノールに溶解した4〜500pmol 濃度のスルファチド又はガングリオシドGM3を50μl ずつ加え、37℃でエタノールを完全に蒸発させた後、1%BSA−PBSを 200μl ずつ加え、一晩ブロッキングした。各ウエルをPBS溶液で5回洗浄した後、インフルエンザウイルスA/Aichi/2/68を含む 0.5%BSA−PBS懸濁液(32HAU) を各ウエルに50μl ずつ加え、4℃、一晩振盪した。各ウエルをPBS溶液で5回洗浄し、 1,000倍希釈した抗インフルエンザウイルス抗体を含む 0.5%BSA−PBSを各ウエルに50μl ずつ加え、4℃、2時間反応させた。各ウエルをPBS溶液で5回洗浄した後、 0.5%BSA−PBS溶液で 1,000倍希釈した西洋ワサビペルオキシダーゼ標識Protein A を50μl ずつ加え、4℃、2時間反応させた。各ウエルをPBS溶液で4回洗浄した後、発色基質溶液(オルトフェニレンジアミン4mgをクエン酸−リン酸緩衝液(pH5.6) 10mlに溶解し、30%過酸化水素 3.3μl を加えた溶液)100μl を加えて暗所発色させた後、1N塩酸 100μl を加えて反応を停止させて、マイクロプレートリーダー (CORONA、MTP-32) により、測定波長 496nm、対照波長 630nmにて比色定量した。その結果を図2に示す。
図2にみられるようにスルファチド(○)は、ガングリオシドGM3(●)よりも強くインフルエンザウイルスと結合することが判った。
【0012】
【試験例3】
参考例1で得られたスルファチドとガングリオシドGM3を使用し、溶血活性阻害実験によりインフルエンザウイルスに対する反応性を調べた。すなわち、スルファチド又はガングリオシドGM3をPBSに溶解した後、512HAUのインフルエンザウイルスA/Aichi/2/68を加えて、4℃、3時間反応させた溶液50μl を2%ニワトリ赤血球1mlに加え、4℃、30分反応させた。そして、生理的食塩水で3回遠心洗浄(1,200×g)した後、50mM酢酸等張緩衝液(pH5) 1mlを加えて、37℃、30分間反応させた。氷冷して反応を停止し、遠心(1,200×g)した後、波長 540nmにて上清中のヘモグロビン量を測定した。その結果を図3に示す。
図3にみられるようにガングリオシドGM3(●)は、インフルエンザウイルスによる赤血球の溶血作用を阻害する活性を殆ど有さなかったが、スルファチド(○)は、インフルエンザウイルスによる赤血球の溶血作用を阻害する活性を有していることが判った。
【0013】
【発明の実施の形態】
本発明のインフルエンザウイルス吸着阻止剤は、スルファチドを有効成分とするものであり、インフルエンザウイルスの細胞への吸着を阻止する目的で使用される。
スルファチドは、脳のミエリン構成物質であって毒性が殆どないので、投与方法に特に制限はなく、軟カプセル剤、硬カプセル剤、錠剤、丸剤、顆粒剤、懸濁剤、散剤、液剤、シロップ剤、乳濁剤、エリキシル剤等の経口剤、注射剤、ペッサリー、坐剤、軟膏、塗布剤等の非経口剤として投与することができる。なお、一日当たり成人の投与量は、経口投与で約 0.1〜1g、静脈内投与で約10〜100mg 、筋肉内投与で約50〜300mg 、皮下及び皮内投与で約30〜150mg が好ましく、一日一回又は数回に分けて投与すれば良い。
【0014】
本発明の製剤例を実施例として示す。本発明は、これらの実施例にのみ限定して解釈されるべきものではない。
【実施例1】
参考例1で得られたスルファチド10g を精製蒸留水1Lに懸濁し、これを10mLのアンプルに充填し、殺菌を行なって静注用注射剤を得た。
【0015】
【実施例2】
参考例1で得られたスルファチド200gを乳糖15g 、トウモロコシ澱粉15g 、カルボキシメチルセルロースカルシウム10g 及びステアリン酸マグネシウム1 g を混合し、打錠して錠剤1000錠を製造した。
【0016】
【発明の効果】
スルファチドは、インフルエンザウイルスと強く結合するので、インフルエンザウイルスの吸着を阻止することができる。したがって、本発明のスルファチドを有効成分とするインフルエンザウイルス吸着阻止剤を使用することにより、インフルエンザウイルスの感染を予防することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】試験例1におけるスルファチドとシアリルパラグロボシドのインフルエンザウイルスに対する反応性を示す。
【符号の説明】
○:スルファチド
●:シアリルパラグロボシド
【図2】試験例2におけるスルファチドとガングリオシドGM3のインフルエンザウイルスに対する反応性を示す。
【符号の説明】
○:スルファチド
●:ガングリオシドGM3
【図3】試験例3におけるスルファチドとガングリオシドGM3のインフルエンザウイルスによる溶血阻止活性を示す。
【符号の説明】
○:スルファチド
●:ガングリオシドGM3
【発明の属する技術分野】
本発明は、インフルエンザウイルス吸着阻止剤に関する。
本発明のインフルエンザウイルス吸着阻止剤によるとインフルエンザウイルスの細胞への吸着を阻止し、感染を防御することができる。
【0002】
【従来の技術】
インフルエンザウイルスはオルソミクソウイルス科に属するウイルスで、その粒子は直径80〜100nm の球形状であり、宿主由来の脂質二重膜を有するいわゆるエンベロープウイルスの一種である。そして、インフルエンザウイルスのエンベロープ外側は、三量体を形成したヘマグルチニン (赤血球凝集素) と四量体を形成したノイラミニダーゼの二種類の糖タンパク質がスパイク状に突き出した形状を呈している。また、インフルエンザウイルスの粒子内部は、 (−) 鎖RNA、核タンパク質及び3種のRNAポリメラーゼからなる8本の分節を形成したリボヌクレオプロテインとマトリクスプロテインとが存在しており、主に、このリボヌクレオプロテインとマトリクスプロテインの抗原性の差により、インフルエンザウイルスはA型、B型及びC型に分類されている。さらに、A型は、ヘマグルチニンとノイラミニダーゼの抗原性の差により、多くの亜型(subtype) に分類されている。現在、ヘマグルチニンは14種 (H1〜H14) 、ノイラミニダーゼは9種 (N1〜N9) が知られている。なお、インフルエンザウイルスの細胞への感染は、インフルエンザウイルスが宿主細胞の表面に存在するレセプター糖鎖 (シアロ複合糖鎖) にヘマグルチニンを介して吸着した後、エンドサイトーシスにより細胞内に取り込まれてエンドソームやライソゾームに運搬され、顆粒内の弱酸性条件下でウイルス膜とオルガネラ膜が融合してウイルス粒子内容物を細胞外へ放出するという機構が考えられている。
【0003】
このインフルエンザウイルスは、未だ有効な治療法や感染防御法が見出されていない病原体の一つである。インフルエンザウイルスは、極めて感染性が強く、抗原変異を繰り返し、それまでの抗原性とは大きく異なる新種が出現するため、効果的な防御対策が立て難く、10数年に一度の割合で世界的規模の流行を繰り返している。今世紀に入ってもスペイン風邪をはじめとして、アジア風邪、ホンコン風邪、ソ連風邪等が出現し、多数の人命を脅かしてきている。このような背景から、インフルエンザウイルス感染の予防や治療効果を有する医薬の開発が待たれている現状にある。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明者らは、インフルエンザウイルス感染の予防や治療効果を有する物質を求めて鋭意研究を進めていたところ、インフルエンザウイルスの受容体機能を有することが知られているガングリオシド (GDla等) とは異なるシアロ糖鎖を含まない硫酸化糖脂質のスルファチドが、インフルエンザウイルスとの強い結合活性を有することを見出し、本発明を完成するに至った。したがって、本発明は、新規なインフルエンザウイルス吸着阻止剤を提供することを課題とする。さらに詳細には、スルファチドを有効成分とする新規なインフルエンザウイルス吸着阻止剤を提供することを課題とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明は、スルファチドを有効成分とするインフルエンザウイルス吸着阻止剤に関する。
本発明のインフルエンザウイルス吸着阻止剤の有効成分として使用するスルファチドは、下記の一般式(I)で示される既知の糖脂質であり、脳灰白質に比較的多量に存在することが知られている物質である。
【0006】
【化1】
【0007】
なお、スルファチドの製造方法としては、例えば、牛脳から抽出精製する方法(Lipids, vol.20, pp.588-598,1985; 生化学実験講座「脂質の科学」, vol.3, pp.368-388,東京化学同人発行) や化学合成する方法(Carbohydrate Res., vol.2, pp.371-379, 1966)等が知られている。また、スルファチドは、試薬として市販もされている。
【0008】
以下に、参考例として、スルファチドの調製方法を示す。
【参考例1】
新鮮なウシ脳灰白質1kgに5倍量のアセトンを加えてホモジナイズした後、濾過して抽出液を得た。この抽出液を凍結乾燥した後、5倍量のクロロホルム:メタノール=2:1(v/v) 溶媒で抽出し、さらに、クロロホルム:メタノール=1:1(v/v) 溶媒で抽出して濃縮して濃縮液を得た。次に、この濃縮液を3倍量のアセトンで抽出した後、3倍量のジエチルエーテルで処理してグリセロホスホリピドを除去した。そして、0.5N水酸化ナトリウム/メタノール溶液で37℃、3時間処理し、蒸留水に透析した後、凍結乾燥してスルファチドの粗画分を得た。
このスルファチドの粗画分をフォルチ分配法(Folchs partition)に供して下層を集めた後、クロロホルム:メタノール:水=30:60:8(v/v/v) 溶媒で平衡化したQ−セファロースカラムに供し、酢酸ナトリウム0〜4Mの直線グラジエントで溶出した。そして、各溶出画分を薄層クロマトグラフに供してスルファチド標準物質と比較確認した。その結果、スルファチドは、酢酸ナトリウム1〜1.5Mの溶出画分に溶出されていることが判った。この溶出画分をエバポレートして溶媒を除去した後、残渣に蒸留水を加えて溶解し、蒸留水に対して透析した後、凍結乾燥して純度99%以上のスルファチドの白色粉末を得た。
【0009】
本発明は、このようなスルファチドを有効成分とするインフルエンザウイルス吸着阻止剤を投与することによって組織へのインフルエンザウイルスの吸着を阻止し、インフルエンザウイルスの感染を防御しようとするものである。
【0010】
次に、スルファチドのインフルエンザウイルスに対する効果を確認した試験例を示す。
【試験例1】
参考例1で得られたスルファチドと、インフルエンザウイルスに強く結合することが知られているシアリルパラグロボシドとを使用し、TLC/Virus Binding Assay によりインフルエンザウイルスに対する反応性を調べた。すなわち、シリカゲル薄層板(Polygram Sil G Nagel)上に、0.25〜1.50nmolのスルファチド又はシアリルパラグロボシドをスポットし、クロロホルム:メタノール:水=5:4:1(v/v/v) 溶媒で展開した後、風乾し、1%ウシ血清アルブミン- リン酸緩衝液 (BSA−PBS) 溶液で4℃、一晩処理した。このシリカゲル薄層板をPBS溶液で5回洗浄した後、インフルエンザウイルスA/Aichi/2/68(H3N2)−PBS懸濁液を加えて、4℃、一晩振盪した。その後、PBS溶液で5回洗浄した後、1%BSA−PBS溶液で 250倍に希釈した抗インフルエンザウイルス抗体と、4℃、3時間反応させた。なお、抗インフルエンザウイルス抗体は、インフルエンザウイルスA/Aichi/2/68(H3N2)をウサギに免疫することにより得られたポリクローナル抗体を使用した。このシリカゲル薄層板をPBS溶液で5回洗浄した後、 250倍に希釈した西洋ワサビペルオキシダーゼ標識プロテインAを含む1%BSA−PBS溶液中で、4℃、3時間反応させた。このシリカゲル薄層板をPBS溶液で5回洗浄した後、0.1M酢酸緩衝液(pH 6.0) 10ml に、110mM 4-クロロ-1- ナフトールを含むアセトニトリル溶液 200μl 、 60mM N,N-ジエチル -p-フェニルエジアミン- ジヒドロキシクロライドを含むアセトニトリル溶液 200μl 及び30%過酸化水素水1μl を混和した発色液を加えて、室温で15分間振盪反応させた。このシリカゲル薄層板を精製水で洗浄した後、風乾し、発色をデンシトメーター(CS-9000、島津製作所) により、測定波長 600nm、対照波長 425nmにて定量した。その結果を図1に示す。図1に示すようにスルファチド(○)はシアリルパラグロボシド(●)にくらべてインフルエンザウイルスに対して高い反応性を示している。すなわち、スルファチドは、インフルエンザウイルスに強く結合することが知られているシアリルパラグロボシドよりもさらに強くインフルエンザウイルスと濃度依存的に結合することが判った。
【0011】
【試験例2】
参考例1で得られたスルファチドとガングリオシドGM3を使用し、 ELISA法(Enzyme-Linked Immuno Sorbent Assay)によりインフルエンザウイルスに対する反応性を調べた。すなわち、マイクロプレート(96flat-bottom wells, Polysorp Nunc.) の各ウエルに、エタノールに溶解した4〜500pmol 濃度のスルファチド又はガングリオシドGM3を50μl ずつ加え、37℃でエタノールを完全に蒸発させた後、1%BSA−PBSを 200μl ずつ加え、一晩ブロッキングした。各ウエルをPBS溶液で5回洗浄した後、インフルエンザウイルスA/Aichi/2/68を含む 0.5%BSA−PBS懸濁液(32HAU) を各ウエルに50μl ずつ加え、4℃、一晩振盪した。各ウエルをPBS溶液で5回洗浄し、 1,000倍希釈した抗インフルエンザウイルス抗体を含む 0.5%BSA−PBSを各ウエルに50μl ずつ加え、4℃、2時間反応させた。各ウエルをPBS溶液で5回洗浄した後、 0.5%BSA−PBS溶液で 1,000倍希釈した西洋ワサビペルオキシダーゼ標識Protein A を50μl ずつ加え、4℃、2時間反応させた。各ウエルをPBS溶液で4回洗浄した後、発色基質溶液(オルトフェニレンジアミン4mgをクエン酸−リン酸緩衝液(pH5.6) 10mlに溶解し、30%過酸化水素 3.3μl を加えた溶液)100μl を加えて暗所発色させた後、1N塩酸 100μl を加えて反応を停止させて、マイクロプレートリーダー (CORONA、MTP-32) により、測定波長 496nm、対照波長 630nmにて比色定量した。その結果を図2に示す。
図2にみられるようにスルファチド(○)は、ガングリオシドGM3(●)よりも強くインフルエンザウイルスと結合することが判った。
【0012】
【試験例3】
参考例1で得られたスルファチドとガングリオシドGM3を使用し、溶血活性阻害実験によりインフルエンザウイルスに対する反応性を調べた。すなわち、スルファチド又はガングリオシドGM3をPBSに溶解した後、512HAUのインフルエンザウイルスA/Aichi/2/68を加えて、4℃、3時間反応させた溶液50μl を2%ニワトリ赤血球1mlに加え、4℃、30分反応させた。そして、生理的食塩水で3回遠心洗浄(1,200×g)した後、50mM酢酸等張緩衝液(pH5) 1mlを加えて、37℃、30分間反応させた。氷冷して反応を停止し、遠心(1,200×g)した後、波長 540nmにて上清中のヘモグロビン量を測定した。その結果を図3に示す。
図3にみられるようにガングリオシドGM3(●)は、インフルエンザウイルスによる赤血球の溶血作用を阻害する活性を殆ど有さなかったが、スルファチド(○)は、インフルエンザウイルスによる赤血球の溶血作用を阻害する活性を有していることが判った。
【0013】
【発明の実施の形態】
本発明のインフルエンザウイルス吸着阻止剤は、スルファチドを有効成分とするものであり、インフルエンザウイルスの細胞への吸着を阻止する目的で使用される。
スルファチドは、脳のミエリン構成物質であって毒性が殆どないので、投与方法に特に制限はなく、軟カプセル剤、硬カプセル剤、錠剤、丸剤、顆粒剤、懸濁剤、散剤、液剤、シロップ剤、乳濁剤、エリキシル剤等の経口剤、注射剤、ペッサリー、坐剤、軟膏、塗布剤等の非経口剤として投与することができる。なお、一日当たり成人の投与量は、経口投与で約 0.1〜1g、静脈内投与で約10〜100mg 、筋肉内投与で約50〜300mg 、皮下及び皮内投与で約30〜150mg が好ましく、一日一回又は数回に分けて投与すれば良い。
【0014】
本発明の製剤例を実施例として示す。本発明は、これらの実施例にのみ限定して解釈されるべきものではない。
【実施例1】
参考例1で得られたスルファチド10g を精製蒸留水1Lに懸濁し、これを10mLのアンプルに充填し、殺菌を行なって静注用注射剤を得た。
【0015】
【実施例2】
参考例1で得られたスルファチド200gを乳糖15g 、トウモロコシ澱粉15g 、カルボキシメチルセルロースカルシウム10g 及びステアリン酸マグネシウム1 g を混合し、打錠して錠剤1000錠を製造した。
【0016】
【発明の効果】
スルファチドは、インフルエンザウイルスと強く結合するので、インフルエンザウイルスの吸着を阻止することができる。したがって、本発明のスルファチドを有効成分とするインフルエンザウイルス吸着阻止剤を使用することにより、インフルエンザウイルスの感染を予防することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】試験例1におけるスルファチドとシアリルパラグロボシドのインフルエンザウイルスに対する反応性を示す。
【符号の説明】
○:スルファチド
●:シアリルパラグロボシド
【図2】試験例2におけるスルファチドとガングリオシドGM3のインフルエンザウイルスに対する反応性を示す。
【符号の説明】
○:スルファチド
●:ガングリオシドGM3
【図3】試験例3におけるスルファチドとガングリオシドGM3のインフルエンザウイルスによる溶血阻止活性を示す。
【符号の説明】
○:スルファチド
●:ガングリオシドGM3
Claims (1)
- スルファチドを有効成分とするインフルエンザウイルス吸着阻止剤。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP24709696A JP3834362B2 (ja) | 1996-08-29 | 1996-08-29 | インフルエンザウイルス吸着阻止剤 |
Applications Claiming Priority (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP24709696A JP3834362B2 (ja) | 1996-08-29 | 1996-08-29 | インフルエンザウイルス吸着阻止剤 |
Publications (2)
Publication Number | Publication Date |
---|---|
JPH1072355A JPH1072355A (ja) | 1998-03-17 |
JP3834362B2 true JP3834362B2 (ja) | 2006-10-18 |
Family
ID=17158376
Family Applications (1)
Application Number | Title | Priority Date | Filing Date |
---|---|---|---|
JP24709696A Expired - Fee Related JP3834362B2 (ja) | 1996-08-29 | 1996-08-29 | インフルエンザウイルス吸着阻止剤 |
Country Status (1)
Country | Link |
---|---|
JP (1) | JP3834362B2 (ja) |
Cited By (1)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
WO2021236389A3 (en) * | 2020-05-16 | 2022-01-20 | Viratides, Llc | Treatment of known and unknown viral infection with lipid agents |
Families Citing this family (2)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JP2001233773A (ja) * | 2000-02-22 | 2001-08-28 | Toko Yakuhin Kogyo Kk | 抗ウイルス剤 |
EP1728515A4 (en) * | 2004-03-09 | 2009-03-18 | Glycomedics Inc | INHIBITOR OF INFLUENZA VIRUS INFECTION |
-
1996
- 1996-08-29 JP JP24709696A patent/JP3834362B2/ja not_active Expired - Fee Related
Cited By (1)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
WO2021236389A3 (en) * | 2020-05-16 | 2022-01-20 | Viratides, Llc | Treatment of known and unknown viral infection with lipid agents |
Also Published As
Publication number | Publication date |
---|---|
JPH1072355A (ja) | 1998-03-17 |
Similar Documents
Publication | Publication Date | Title |
---|---|---|
EP0207984B1 (en) | Antiviral agents | |
Springer et al. | Isolation and properties of human blood-group NN and meconium-Vg antigens | |
Galili et al. | Human natural anti-alpha-galactosyl IgG. II. The specific recognition of alpha (1----3)-linked galactose residues. | |
Andersson et al. | Identification of an active disaccharide unit of a glycoconjugate receptor for pneumococci attaching to human pharyngeal epithelial cells. | |
Hirabayashi et al. | A new method for purification of anti-glycosphingolipid antibody. Avian anti-hematoside (NeuGc) antibody | |
Springer et al. | Endotoxin-binding substances from human leukocytes and platelets | |
Sato et al. | High mannose-binding lectin with preference for the cluster of α1–2-mannose from the green alga Boodlea coacta is a potent entry inhibitor of HIV-1 and influenza viruses | |
EP3690041A1 (en) | Tim protein-bound carrier, methods for obtaining, removing and detecting extracellular membrane vesicles and viruses using said carrier, and kit including said carrier | |
Ando et al. | Separation of Polar Glycolipids from Human Red Blood Cells with Special Reference to Blood Group-A Activit | |
CA2247388C (en) | Pharmaceutical composition comprising serum amyloid p component for prophylactic or therapeutic treatment of virus infections and a kit for detecting binding of compositions to virus components | |
JPH08511865A (ja) | パルボウイルスレセプターおよび使用方法 | |
JPH04502153A (ja) | マイコプラズマ ニューモニエ及びマイコプラズマホミヌスのスルファチドへの接着 | |
Springer et al. | Functional aspects and nature of the lipopolysaccharide-receptor of human erythrocytes | |
JPS63316730A (ja) | 抗ウイルス剤 | |
Fujita et al. | Isolation and partial characterization of two minor glycoproteins from human erythrocyte membranes | |
CA2819642A1 (en) | Histone inhibition | |
JP3834362B2 (ja) | インフルエンザウイルス吸着阻止剤 | |
Cheng et al. | Inhibition of influenza virus infection with chitosan–sialyloligosaccharides ionic complex | |
Roelcke et al. | I-, MN-and Pr (1)/Pr (2)-Activity of Human Erythrocyte Glycoprotein Fractions Obtained by Ficin Treatment | |
WO2002094869A1 (en) | Lectin protein prepared from maackia fauriei, process for preparing the same and the use thereof | |
Deo et al. | Upregulation of oxidative stress markers in human microvascular endothelial cells by complexes of serum albumin and digestion products of glycated casein | |
US7902170B2 (en) | Influenza virus binding, sialylated oligosaccharide substance and use thereof | |
EP1112495B1 (en) | Disaccharide derivatives | |
SU1730144A1 (ru) | Способ подавлени репродукции вирусов | |
JP2002539266A (ja) | 細菌接着を阻止するためのフコシル化シアリル化n−アセチルラクトサミン炭水化物構造物の使用 |
Legal Events
Date | Code | Title | Description |
---|---|---|---|
TRDD | Decision of grant or rejection written | ||
A01 | Written decision to grant a patent or to grant a registration (utility model) |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A01 Effective date: 20060718 |
|
A61 | First payment of annual fees (during grant procedure) |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A61 Effective date: 20060724 |
|
R150 | Certificate of patent or registration of utility model |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R150 |
|
FPAY | Renewal fee payment (event date is renewal date of database) |
Free format text: PAYMENT UNTIL: 20100728 Year of fee payment: 4 |
|
LAPS | Cancellation because of no payment of annual fees |