JP3833502B2 - 複合焼結機械部品の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、自動車の自動変速機に組み込まれる“ATキャリア”と呼ばれる部品を、粉末冶金法によって製造する方法に関するものである。
【0002】
ATキャリアは、変速機の機種ごとに設計上の違いはあるが、大まかには円筒状の胴部の両端または中間にフランジのある形状で、その中を変速機のシャフトが通る。そして胴部には数箇所の、遊星歯車を収納するための窓が明いている。図1はATキャリアの形状の一例を示したもので、胴部の窓(3箇所)にはそれぞれ遊星歯車が回転自在に装着され、遊星歯車は胴部の内側ではシャフトの太陽歯車と,外側ではリングギアと噛み合う。なお窓の上のフランジ部には回転力を伝達するための角歯が設けられ、また、その上のボス部にはクラッチ機構と係合するためのスプラインが設けられているが、この辺は変速機の設計次第で様々に変化する。
【0003】
この様にATキャリアは極めて複雑な形状をしているので、これを切削などの機械加工で量産するには多大の加工工数を要し、経済性や形状・寸法精度などに問題がある。この様な場合の対策としては均一な製品の量産に適する粉末冶金法を用いることが多いが、ATキャリアの場合にはその胴部に設けられている窓部などが所謂アンダーカットに該当し、この形状のままでは一体に型出し成形することが出来ない。
【0004】
【従来の技術】
この様な場合に先ず考えられるのは、対象品を成形可能な幾つかの部分に分割して個々に成形・焼結後、これらを接合して所要の形状に仕上げることである。以下、説明の便宜上図1のATキャリアからフランジ部の角歯とボス部を省き、図2に示すように円筒状の胴部の上下両端にフランジがあり、胴部には3箇所の窓がある形状に抽象化して説明する。即ちこの場合、この部品を何れかのフランジの内側端面で胴部と切り離した2部材,即ち図3に示すような円板状部材30と、他の一方の胴部が残っている部材40に分割して個別に成形・焼結後、得られた焼結体30,40を分割面で突き合わせてろう接(Brazing)により接合する手段がある。
【0005】
ただし部材40に残った胴部といっても、窓の部分3箇所が抜けているので、残る胴部の断片個々は、視覚的には(扇面状の)柱と呼ぶのがむしろ相応しい。そこで以後、これを柱42と呼ぶこととする。ここに図の(イ)は部材30の平面図,(ロ)はその縦断面図、(ハ)は部材40の平面図,(ニ)はその縦断面図、(ホ)は部材30と部材40を接合した状態の平面図,(ヘ)はその縦断面図である。しかし、この方法では円板状の焼結体30と,焼結体40の扇面状の柱42の端面とを突き合わせてろう接する際、接合部位で生成する液相のために両部材の心ずれや位相ずれが起こり、その結果として製品の精度低下を招き易いという問題がある。また、両部材の接合強度は使用するろう材自体の材料強度によって決まるため、所要の高強度を得にくいという問題もある。
【0006】
そこでこの改善策として次に考えられるのが、圧粉体の一方には孔部を,他方には軸部を設けておき、両者を孔部と軸部で嵌め合わせた状態で焼結して一体に接合する技術(例えば特公平 1− 40082号,特公昭62− 35442号参照。)を応用することである。即ちこの場合については、図4に示すように一方の部材30は相手部材の扇面状の柱42に対応する形状の孔32を軸孔31と一体に形成した形状の圧粉体とし、この孔32と未焼結の圧粉体である相手部材40の柱42とを嵌め合わせて焼結すれば、所望の形状の焼結部品が得られる訳である。なお、図の(イ)〜(ニ)までは図3の場合と同様なのでその説明は省略し、(ホ)は一方の部材30の孔32と相手部材40の柱42を嵌め合わせた状態の平面図,(ヘ)はその縦断面図である。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、この方法によれば両部材の心ずれや位相ずれといった問題は解消するものの、両部材の嵌め合わせ箇所における接合・一体化が不充分で、所要の接合強度が得られなかった。その理由は、二つの圧粉体の孔部(嵌め合わせで外側にくる。)と軸部(嵌め合わせで内側にくる。)を嵌め合わせて焼結する前記方法の場合は両者の接触面が閉じた円筒面で、従って焼結中における軸側(内側)の熱膨脹量が孔側よりも大きければ両部材が容易に密着するのに対して、図4の場合には両者(孔32と柱42)の接触面が閉じていないために、焼結により拡散接合を図る際の各部材の挙動が前記の場合とは異なるためと考えられる。
【0008】
即ち、柱42の形状は部材40の軸心に近い側の内周面43,遠い側の外周面44とも円弧面であり、内周面43は、部材30との接合後は軸孔31の内面の一部を形成する。そこで見方を変えれば、柱42は内周面43で軸孔31に開放している訳である。また、柱42の側面45は両面とも、ほぼ半径方向の平面をなしている。従って、前述した常法に従い部材40の焼結中における熱膨張量が部材30より相対的に大きいように設定しても、柱42の膨張による圧力が軸孔31側に逃げるなどのため、両部材の接触面が必ずしも密着するとは限らない。
【0009】
また両部材間の熱膨張量の差が大きい場合、側面45の部分では両部材の接触面に歪みを生じたり接合面に沿って互いにずれることもあり、その影響は側面の寸法(横幅)が長いほど大きくなる。これらの現象が、接合面が単純な円筒状の場合に比べて接合強度が低くなる原因と考えられる。この様な次第でこの発明の課題は、高精度の接合が可能な図4の方式を基としつつ更に接合強度を改良し、充分に実用可能な焼結ATキャリアを提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
そこでこの発明にあっては、一方の円板状部材40に設ける柱42の輪郭を、その両側面45,45それぞれに稲妻様の段差(屈折)のある形状に変更するとともに、他方の部材30に設ける孔32の輪郭も、柱42の輪郭に対応する屈折部のある形状に変更した。この屈折部の一態様を図5に例示する。図の(イ)〜(ヘ)はそれぞれ図4の(イ)〜(ヘ)に対応するもので、図4との違いは、柱の両側面45が屈折部46の前後でちょうど正断層のようにずれ、その分だけ、柱の幅が内周面43側で細くなっている。この屈折部46は、相手部材30の孔32との嵌め合い部分,即ち柱42の先端から部材30の厚さの分だけ設ければ必要かつ充分で、側面に屈折部のない従来の場合に比べて接合強度が著しく向上する。ただしこの屈折部は製品の用途上支障がなければ、柱42の先端から根本まで一様に設けることが粉末成形金型の製作および耐久性の点で望ましい。以下この発明を、その一実施例に基づいて詳細に説明する。
【0011】
【発明の実施の形態】
(実施例) 図5において、柱42のある円板状部材40は外径40mm,軸孔直径11mm,厚さ6mmで、軸孔の縁から柱42が3本、等間隔で放射状に立っている。この柱は高さ18mm,外周面44の半径14mm,内周面43の半径5.5mm,両側面(45,45)の開き36度の扇面状で、屈折部46の前後における側面45のずれは片側0.8mmであり、このずれの分だけ、柱の太さは内周面43側が細くなっている。他方の円板状部材30は外径34mm,軸孔直径11mm,厚さ6mmで、軸孔と一体に、部材40の柱42に対応する3箇の扇面状の孔32が明けてある。
【0012】
これらの部材30,40の圧粉成形に際して、柱付きの円板状部材40は配合組成が重量比で銅粉1.5%,黒鉛0.7%および鉄粉残部に粉末潤滑剤としてステアリン酸亜鉛を0.7%添加した混合粉を圧粉密度6.7g/cm3 に圧縮成形し、他の一方の円板状部材30はこれと同じ配合組成で粉末潤滑剤のみステアリン酸リチウム0.7%に変更した混合粉を圧粉密度6.7g/cm3 に成形し、それぞれ上述した寸法形状の圧粉体を作成した。次いでこれらの圧粉体を、部材40の柱42と部材30の孔32とを合致させた状態で締め代20μmの圧入により嵌め合わせ、浸炭性のブタン変成ガス雰囲気中、1130℃で40分間焼結して一体化させた。
【0013】
原料粉と焼結雰囲気をこの様に選択したのは、亜鉛を含む鉄系の圧粉体を浸炭性雰囲気中で焼結すると圧粉体中の鉄と雰囲気中の炭素との反応に対して亜鉛が微量で触媒作用を示し、亜鉛を含まない場合に比べて焼結中の寸法変化が大きくなる現象を利用して部材40の柱42(内側部材に相当)と部材30(外側部材に相当)とを密着状態で焼結するためである。次にかくして得られた焼結部品を材料試験機に掛け、部材40を架台上に固定して部材30に負荷する破壊試験を行なった結果、両部材の接合強度は120MPaであった。なお部材40(内側部材)の焼結中における膨脹量を部材30(外側部材)より相対的に大きくする手段としては上記のほかに種々の手段、例えばそれぞれの合金成分を異ならせる方法,内側部材に銅を配合して焼結する際の銅膨脹現象を用いる方法,内側部材に炭素(黒鉛)を外側部材より0.2%以上多く添加しておく方法などがあり、場合に応じて適宜に選択することができる。
【0014】
(比較例) 柱に設ける屈折部の効果を見るため、屈折部の有無以外は実施例のものと同一の試料、即ち図4に示す従来型の形状で各部の寸法,原料粉の配合組成,圧粉密度ともにそれぞれ実施例の場合と同一にした部材30,40を圧粉成形し、実施例の場合と同じく締め代20μmの圧入により嵌め合わせ、浸炭性のブタン変成ガス雰囲気中、1130℃で40分間焼結して一体化させた。この焼結部品について実施例の場合と同様にして破壊試験を行なった結果、両部材の接合強度は60MPaであった。従って、この従来型の場合のデータを基準に取ると、実施例の場合は接合強度が2倍に向上していることになる。
【0015】
実施例,比較例それぞれの試料は材質や成形・焼結条件などが相等しいので、両者の接合強度の差違が柱の側面に設ける屈折部の有無に基づくことは明らかである。そして屈折部がある場合の外観上の差違は、屈折部の前後で側面がずれていることと、ずれの分だけ柱の輪郭が、換言すれば接合面積が増していることである。しかし両者の接合面積の差は接合強度の差に比べて微差に過ぎないので、接合強度が向上する主な理由は側面のずれ自体にあると考えられる。
【0016】
即ち、焼結中における部材40(柱42)と部材30との接合面(側面)には両部材の熱膨張量差に基づく歪みが生じて両部材の拡散接合に対してマイナスに作用し、その影響は側面の寸法が大きいほど大きくなることは前述の通りであるが、この発明によれば屈折部の所で側面が前後に分断されるために歪みの影響が減少することと,屈折部の所で柱42が細くなり、柱の膨張圧力が軸孔31側に逃げるのを妨げる作用効果とが相俟って、その結果として高い接合強度が得られるものと考えられる。
【0017】
【発明の効果】
軸孔に接して放射状に並ぶ柱を持つ圧粉体と、この柱に対応する孔を軸孔に連続して形成した圧粉体とを嵌め合わせた状態で焼結・接合して一体の複合部品を製造するに際し、この発明による改良点は柱の側面に屈折部(段差部)を設けるというものであり、それにより両部材の接合強度が著しく向上し、信頼性の高い焼結ATキャリアを得ることができた。この様に、従来との構成上の違いは一見僅かであるにも拘らず、この発明による利益は極めて大きいといえる。
【図面の簡単な説明】
【図1】自動変速機の部品(ATキャリア)の形状の一例を示す斜視図である。
【図2】ATキャリアの機能を抽象化した部品の形状を示す斜視図である。
【図3】図2の部品を、二つの焼結体のろう接によって製造する従来法を説明する図面である。
【図4】図2の部品を、二つの圧粉体の嵌め合わせおよび焼結によって製造する従来法を説明する図面である。
【図5】この発明の一実施例を説明する図面である。
Claims (5)
- 鉄系の合金粉末または混合粉を用いて軸孔に接して放射状に並ぶ柱を持つ圧粉体と、この柱に対応する孔が軸孔に連続して形成された圧粉体とを圧縮成形し、それぞれの孔部と柱部とを嵌め合わせた状態で焼結して一体に接合する方法において、一方の圧粉体の柱の側面に屈折部(段差部)を設けるとともに、他方の圧粉体に形成する孔の形状をこの屈折部(段差部)に対応させたことを特徴とする複合焼結機械部品の製造方法。
- 圧粉体の柱の輪郭が扇面状である請求項1に記載の複合焼結機械部品の製造方法。
- 柱を持つ圧粉体の焼結中における熱膨脹量を孔を持つ圧粉体よりも相対的に大きく設定した、請求項1または請求項2に記載の複合焼結機械部品の製造方法。
- 柱の内周側の幅が屈折部で段差の分だけ外周側よりも細い、請求項1,請求項2または請求項3に記載の複合焼結機械部品の製造方法。
- 製品の用途が自動変速機のATキャリアである、請求項1,請求項2,請求項3または請求項4に記載の複合焼結機械部品の製造方法。
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