JP3832373B2 - リグノセルロース物質の蒸解方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、リグノセルロース物質の蒸解方法に関するものである。さらに詳しく述べれば、本発明は、連続蒸解釜を用いてリグノセルロース物質を均一に蒸解する方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
リグノセルロース物質を製紙原料として多くの用途に使用するためには、蒸解処理して化学パルプとするか、あるいはリファイナー等を用いて機械的に処理して機械パルプとする必要がある。これらのパルプは、必要に応じて漂白処理され、所望の白色度に調整された後、製紙原料として使用される。現在、所望の白色度、パルプ特性に調整しやすいことから化学パルプ化法が主として用いられ、特にクラフト法と呼ばれる蒸解法は、薬品の再生が可能であり、使用原料の制限も少ない等の理由から化学パルプ化法の主流となっている。また、クラフトパルプ法は装置の面でも発展してきており、連続蒸解釜と呼ばれる大量生産型でかつ大型のものが主流となってきている。しかしながら、装置が大型化するに伴って、釜内の断面方向及び縦方向において、均一に蒸解反応を進めることが困難となってきている。
【0003】
特許第3126763号明細書(特開平5−132882号公報)には、蒸解時の蒸解液添加に先立ち、抽出黒液による含浸を行うことにより、均一な蒸解反応を行なえることが開示されている。しかしながら、黒液中のアルカリ濃度が不十分な場合には、黒液中の有機成分が木材チップ等のリグノセルロース物質に吸着し、かえって不均一反応を生じてしまうという問題点があった。
【0004】
特表平8−504483号公報には、釜内を完全に向流蒸解にすることにより、より低温でかつ均一な蒸解反応が達成できることが開示されている。しかしながら、容積重が小さく、沈降し難い原料を用いた場合には、釜内で不均一な沈降が生じ、その結果不均一な反応を生じてしまうという問題点があった。
【0005】
特許第2971947号明細書(特表平8−511583号公報)及び特表平10−504614号公報には、クラフト蒸解において、黒液を抽出する工程と、抽出した黒液よりも溶解有機物の少ない液で液補充する工程を組み合わせることにより、蒸解全般を通じて、溶解有機物の少ない状態が保持でき、これによって均一な蒸解反応がなされ、強度の高いパルプを得られることが開示されており、この蒸解方法は、Lo−solids法として広く知られている。しかしながら、液補充する液量によっては、実質的な蒸解液濃度を低下させてしまうことにつながり、場合によって蒸解不良を招く問題点があった。
【0006】
米国特許第6,086,717号明細書、同第6,123,807号明細書、同第6,159,336号明細書には、連続蒸解釜の浸透ゾーンにおいて、100〜160℃、好ましくは130℃以上、より好ましくは130〜160℃の黒液を液比が2〜10、好ましくは3〜8、より好ましくは4〜6になるようにパルプに添加することにより、均一な蒸解反応を達成できることが開示されており、この蒸解方法はCOMPACT蒸解法として広く知られている。しかしながら、浸透ゾーンにおいて、このような高温の黒液を添加するためには、周辺設備を特殊なものにしなければならず、コストが掛かるだけではなく、浸透ゾーンにおいて温度を上げ過ぎてしまうと、薬液が十分に浸透する前に蒸解反応が進み、かえって不均一蒸解を招いてしまうという問題点もあった。
【0007】
特表2001−512795公報には、連続蒸解釜の浸透ゾーン終了後に黒液を抽出し、抽出した黒液を一旦冷却した後、再度浸透ゾーンに添加することにより、浸透ゾーンにおける薬液浸透が充実し、均一な蒸解を達成できることが開示されている。しかしながら、黒液を冷却するためにわざわざ冷却機を新設しなければならないという問題点があった。
【0008】
一方、特開昭53−58003号公報には、針葉樹を蒸解する際に、広葉樹を蒸解して発生する黒液を添加することにより、パルプ収率を向上させる方法が開示されている。しかしながら、広葉樹由来の黒液を添加して針葉樹の蒸解をスタートさせ、浸透ゾーン終了後、直ちに黒液を抽出した場合の効果については述べられていない。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明者らは、かかる現状に鑑み、浸透ゾーン、蒸解ゾーン、洗浄ゾーンを順に有する連続蒸解釜を用いてリグノセルロース物質を均一に蒸解する方法について種々検討を重ねた結果、浸透ゾーンにおいてリグノセルロース物質に十分に薬液を浸透させ、かつ浸透ゾーンで発生した汚物を除去すれば、蒸解ゾーン及び洗浄ゾーンにおいて比較的マイルドな条件で蒸解することができ、その結果、均一な蒸解を行えることを見出した。さらに、検討を続けた結果、抽出した黒液を99℃以下に冷却した後、浸透ゾーンの開始時に蒸解液と同時にリグノセルロース物質へ添加処理すれば、上記事項が実行でき、さらに、エバポレータに通常送られる前の黒液、つまりフラッシュタンクで蒸気を回収した後、99℃以下に冷却された既存の黒液を利用すれば、簡単に実施できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明の目的は、連続蒸解釜を用いてリグノセルロース物質を均一に蒸解する方法を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明は、JAPAN TAPPI 紙パルプ試験方法No.3に従って測定した容積重が450kg/m 3 以下であるリグノセルロース物質を浸透ゾーン(A)、蒸解ゾーン(B)、洗浄ゾーン(C)を順に有する1塔式連続蒸解釜を用いて蒸解する方法であって、前記各ゾーン毎に蒸解液を少なくとも1ヶ所添加し、かつ少なくとも前記浸透ゾーン(A)及び蒸解ゾーン(B)の終了時に黒液を抽出する蒸解方法において、前記浸透ゾーン(A)の抽出黒液を蒸解ゾーン(B)の抽出黒液と一緒にしてフラッシュ蒸気を回収した後、99℃以下に冷却した回収黒液を浸透ゾーンの開始時に蒸解液と同時にリグノセルロース物質へ添加し、かつ浸透ゾーンでの液比を3〜7にすることを特徴とするリグノセルロース物質の蒸解方法である。
【0012】
本発明は、前記蒸解ゾーン(B)が上部蒸解ゾーン(B1)と下部蒸解ゾーン(B2)の2つのゾーンからなることを特徴とするリグノセルロース物質の蒸解方法である。
【0013】
本発明は、前記下部蒸解ゾーン(B2)からの抽出黒液を冷却することなく、蒸解液と共に、上部蒸解ゾーン(B1)へ添加することを特徴とするリグノセルロース物質の蒸解方法である。
【0014】
本発明は、洗浄ゾーン(C)の終了時に黒液抽出工程が設けられ、かつ該黒液抽出工程から抽出した黒液を冷却することなく、白液と共に上部蒸解ゾーン(B1)及び/又は下部蒸解ゾーン(B2)へ添加することを特徴とするリグノセルロース物質の蒸解方法である。
【0016】
本発明は、前記回収黒液が、同一の連続蒸解釜で又は別の連続蒸解釜で、同一種類又は異なる種類のリグノセルロース物質を蒸解して得られた回収黒液であることを特徴とするリグノセルロース物質の蒸解方法である。
【0017】
本発明は、前記浸透ゾーン(A)、蒸解ゾーン(B)及び洗浄ゾーン(C)を順に有する連続蒸解釜を用いて針葉樹由来のリグノセルロース物質を蒸解する方法であって、前記99℃以下に冷却した回収黒液として、同一の連続蒸解釜で又は異なる連続蒸解釜で広葉樹由来のリグノセルロース物質を蒸解して得られた回収黒液あることを特徴とするリグノセルロース物質の蒸解方法である。
【0018】
【発明の実施の形態】
本発明で用いられるリグノセルロース物質は、好適には広葉樹材及び針葉樹材であるが、非木材と呼ばれるものでも良く、特に限定するものではない。
本発明に使用される蒸解法としては、クラフト蒸解(ポリサルファイド法を含む)、ソーダ蒸解、アルカリサルファイト蒸解等の公知の蒸解法を用いることができるが、パルプ品質、エネルギー効率等を考慮すると、クラフト蒸解法が好適に用いられる。
【0019】
本発明においては、例えば、図1に示すように、上部から底部にかけて、浸透ゾーン(A)、蒸解ゾーン(B)、洗浄ゾーン(C)を順に有する連続蒸解釜、好ましくは、さらに蒸解ゾーン(B)が上部蒸解ゾーン(B1)と下部蒸解ゾーン(B2)に別れた連続蒸解釜が用いられる。各々のゾーンは、ストレーナーにより区切られる。例えば、図1の場合には、リグノセルロース物質に白液導入管1から蒸解液及び回収黒液導入管27から回収黒液が添加された後、ストレーナー5までの工程が浸透ゾーン(A)、ストレーナー5からストレーナ−6までの工程が上部蒸解ゾーン(B1)、ストレーナー6からストレーナー7までの工程が下部蒸解ゾーン(B2)、ストレーナー7からストレーナー8までの工程が洗浄ゾーン(C)である。
【0020】
図1には1塔式の連続蒸解釜の例を示しているが、本発明においては、1塔式、2塔式のどちらの形式の連続蒸解釜でも良く、特に限定されるものではない。しかしながら、本発明では、1塔式連続蒸解釜の大きな欠点である浸透ゾーンでの反応不足を補えることから、設置スペースが小さく、設備が簡略化できる1塔式のものの方がむしろ好適に用いられる。
【0021】
本発明においては、必ず蒸解液が前記各ゾーン毎に1ヶ所以上添加される。例えば、図1の場合、蒸解液は白液導入管1によって浸透ゾーン(A)、白液導入管2によって蒸解ゾーン(B1)、及び白液導入管4によって洗浄ゾーン(C)に分割添加される。また、図1の場合、白液導入管2によって上部蒸解ゾーン(B1)、白液導入管3によって下部蒸解ゾーン(B2)に蒸解液をさらに分割添加することも可能である。蒸解液の添加比率としては特に限定されるものではないが、洗浄ゾーンに比べ、浸透ゾーン及び蒸解ゾーンへの添加比率を高くすることが好適である。
【0022】
分割添加される蒸解液は、図1のように、同一のものを用いても良く、硫化度の異なるもの、ポリサルファイド含量の異なるもの等、性状の異なる蒸解液を用いても良い。例えば、木材をクラフト蒸解する場合、蒸解液の硫化度は5〜75%、好ましくは15〜45%であり、有効アルカリ添加率は総計で、絶乾木材重量当たり5〜30重量%、好ましくは10〜25重量%である。
【0023】
また、蒸解補助剤として公知の環状ケト化合物、例えば、ベンゾキノン、ナフトキノン、アントラキノン、アントロン、フェナントロキノン及び前記キノン系化合物のアルキル、アミノ等の核置換体、あるいは前記キノン系化合物の還元型であるアントラヒドロキノンのようなヒドロキノン系化合物、さらには、ディールスアルダー法によるアントラキノン合成法の中間体として得られる安定な化合物である9,10−ジケトヒドロアントラセン化合物等から選ばれた1種あるいは2種以上が添加されてもよく、その添加率は通常の添加率であり、例えば、木材チップの絶乾重量当たり0.001〜1.0重量%である。また、その他使用できる蒸解助剤としては、エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミンペンタ酢酸(DTPA)等のキレート剤や、各種界面活性剤等が挙げられ、また緑液も利用でき、特に限定されるものではない。これらの蒸解助剤は、蒸解液同様、分割添加することが可能であるり、添加場所も限定されるものではない。
【0024】
本発明の蒸解法では、少なくとも浸透ゾーン及び蒸解ゾーンの終了時の2ヶ所から黒液が抽出される。例えば、図1の場合には、少なくとも黒液抽出管23及び黒液抽出管25から黒液が抽出され、フラッシュタンク21に送られる。しかしながら、図1に示すように、黒液抽出管24や黒液抽出管26から黒液を抽出し、フラッシュタンク21に送ることも可能であり、特に限定されるものではない。各抽出黒液中の残アルカリ濃度は、原料となるリグノセルロース物質の種類、製造するパルプの目標カッパー価や白色度、黒液のその後の使用方法、等によって計画的に設定され、運用される。
【0025】
本発明においては、浸透ゾーンの条件設定は特に重要である。本発明の浸透ゾーンにおいては、以下の実施を行なうことを特徴としている。一つ目は、十分に液比を高くすることであり、二つ目は、十分なアルカリを添加することであり、三つ目は、温度を上げ過ぎないことである。温度を高くし過ぎると、薬液がリグノセルロース物質に十分に浸透する前に反応が起こってしまい、不均一な蒸解を誘因するためである。本発明では、99℃以下に冷却した残アルカリの多い黒液を蒸解液と共に浸透ゾーンの開始時に添加することにより、上記事項を達成している。
【0026】
本発明の方法において、浸透ゾーンに添加される黒液は、エバポレータに通常送られる直前の黒液、つまりフラッシュタンクで蒸気を回収した後、99℃以下に冷却された既存の回収黒液を使用する。例えば、図1では、回収黒液導入管27の回収黒液に相当する。本発明において、回収黒液を使用する利点としては、99℃以下に冷却されていて浸透ゾーンの温度設定に合致していること、十分なアルカリ度、硫化度を有していること、量的に豊富であり十分な液比にすることが可能であること、メチルメルカプタン、硫化水素等の有害ガスが除去されており、万一、トラブルが生じた場合でも比較的安全であること、等を挙げることができ、これらも大きな特徴である。
【0027】
本発明に使用される回収黒液は、好適には、同一の連続蒸解釜から発生したものであり、同一のリグノセルロース物質を原料としたものであるが、特に限定されるものではない。同一の連続蒸解釜を用いて、複数の原料を交互に蒸解する場合や、複数の専用連続蒸解釜を使って複数の原料を個別に蒸解する場合には、原料が異なる回収黒液を混合して使用しても良く、また、個別に回収した回収黒液を故意に原料の異なる蒸解に使用しても良い。例えば、広葉樹由来の回収黒液は、針葉樹由来のものに比べて発泡成分が少なく、取り扱いが容易であるため、針葉樹の蒸解に際してはむしろ積極的に使用される。また、本発明では、99℃以下に冷却した黒液を用いるため、原料の供給設備等の周辺設備を簡略化できたり、あるいは既存の設備で対応可能といった特徴も同時に有している。
【0028】
本発明において、浸透ゾーンにおける液比は3〜7である。液比を3未満にすると、原料に薬液が十分に浸透しない場合がある上に、容積重が小さい原料を用いた場合には、原料が釜内を沈降し難くくなり、原料の釜内移動が不均一になり、結果として不均一蒸解となるため適さない。特に、JAPAN TAPPI 紙パルプ試験方法No.3に従って測定した容積重が450kg/m3以下の原料を使用した場合には、この傾向が強くなるため有効である。容積重が450kg/m3以下の原料としては、ラジアータ松、カラ松、トド松、エゾ松等の針葉樹や、E.degluptaやE.grandisのような一部のユーカリ(例えば、紙パ技協誌、48巻、2号P294、表5)やアカシアを挙げることができる。また、液相釜と呼ばれるタイプの蒸解釜は、気相釜と呼ばれるタイプの蒸解釜に比べて原料が沈降し難くいため、液比はより高めに設定するのが好ましい。一方、液比が7より大きくなると、ストレーナーの負荷が大きくなり過ぎるため適さない。
【0029】
本発明の方法における浸透ゾーンでは、浸透ゾーン終了後に抽出される黒液中の残アルカリ量が2〜20g/l、好ましくは6〜12g/lになるような条件で設定される。残アルカリ濃度が2g/lより低い場合には、液比を高くしても原料にアルカリ分が十分に浸透しない可能性があるため適さない。一方、20g/lよりも高くなると、その後黒液回収負荷が高くなるため適さない。
【0030】
また、本発明の浸透ゾーンにおける温度は、70〜140℃、好ましくは90〜120℃であり、リグノセルロース物質の滞留時間は10〜90分、好ましくは20〜60分である。70℃より低い場合や滞留時間が10分より少ない場合には、浸透ゾーンにおける薬液の浸透及び反応が不十分になり、その後の蒸解ゾーンで急激に加温し、かつ高温にて蒸解しなければならず、不均一な蒸解となる可能性が高いため適さない。一方、140℃よりも高い温度の場合や滞留時間が90分より長い場合には、十分に薬液が原料にに浸透する前に蒸解反応が始まることにより均一な蒸解が出来なくなったり、黒液中の有機物による副反応により均一な蒸解が出来なくなる可能性があるため適さない。
【0031】
本発明の浸透ゾーンでは、チャンネリング回避という観点から、必ず並流蒸解が行われる。また、浸透ゾーンにおいては、図1の循環ポンプ9やヒーター10のように、必要に応じて循環ポンプやヒーターが設置され、ゾーン内の液循環や加温を行うことも可能である。
【0032】
本発明の方法の蒸解ゾーンにおける条件としては、少なくとも1ヶ所で蒸解液を添加し、かつ蒸解ゾーン終了時に黒液を抽出する以外、特に限定されるものではない。しかしながら、蒸解ゾーンを上部蒸解ゾーンと下部蒸解ゾーンに分け、さらに蒸解液の分割添加と液循環を行なうのが好適である。
例えば、図1のように、ストレーナー6から抽出した黒液(黒液抽出管24)に蒸解液(白液導入管2)を添加しながら循環ポンプ11及びヒーター12を用いて液循環や加温を行い、同時にストレーナー7から抽出した黒液(黒液抽出管25)の一部をフラッシュタンク(21)に送り、残りの黒液に蒸解液(白液導入管3)を添加しながら循環ポンプ13及びヒーター14を用いて液循環や加温を行うのが好ましい実施形態である。
【0033】
さらに、好ましい実施形態としては、黒液抽出管24の黒液の一部をフラッシュタンク(21)に送る方法も挙げることができる。また、図1の上部蒸解ゾーン(B1)及び下部蒸解ゾーン(B2)の液循環に際し、補充液として蒸解後の未晒パルプの洗浄濾液である、洗浄濾液(洗浄濾液導入管17及び18)を添加することも可能である。同様の補充液として、黒液(黒液抽出管25及び26)を使用することも可能である。補充液として、洗浄濾液を添加した場合には、反応液中の有機固形分濃度が低下し、反応性が高まるという利点があり、一方、抽出黒液を添加した場合には、熱源及び添加白液量を節減できる利点があり、状況や目的に応じて使い分けられる。
【0034】
本発明の方法の蒸解ゾーンにおいては、向流蒸解及び並流蒸解に関して、特に限定するものではなく、状況に応じて向流蒸解及び並流蒸解が適宜選択される。例えば、蒸解ゾーンを上部蒸解ゾーンと下部蒸解に分けた場合には、向流蒸解+向流蒸解、向流蒸解+並流蒸解、並流蒸解+並流蒸解、並流蒸解+向流蒸解の4つの組み合わせが可能である。これらの選択は、原料となるリグノセルロース物質の性状や、操業性、経済性、パルプ品質等を考慮して行われる。
【0035】
本発明の方法の蒸解ゾーンにおける最高温度は、例えば、広葉樹を原料とした場合、120〜150℃であり、好ましくは130〜140℃であり、針葉樹を原料とした場合には、145〜170℃であり、好ましくは150〜160℃である。蒸解ゾーンにおけるリグノセルロース物質の滞留時間は特に限定されるものではないが、前記最高温度をできるだけ低く抑えるためにも、できる限り長くする方が好ましい。蒸解ゾーン終了時に抽出される黒液中の残アルカリ量は、5〜20g/l、好ましくは8〜12g/lである。残アルカリ濃度が5g/lより低い場合には、蒸解ゾーンでの脱リグニン反応が十分に進まず、20g/lよりも高くなると、セルロースの損傷が大きくなり、蒸解パルプ収率が低くなるため適さない。
【0036】
本発明の方法の洗浄ゾーンにおける条件としては、少なくとも1ヶ所で蒸解液を添加する以外、特に限定されるものではない。しかしながら、洗浄ゾーンにおいて液循環が行われ、かつ洗浄ゾーン終了時に黒液が抽出されるのが好ましい実施形態である。例えば、図1の場合、洗浄ゾーンの終了点となるストレーナー8からの黒液(黒液抽出管26)の一部をフラッシュタンクに送り、残りの黒液に蒸解液を補充し、循環ポンプ15及びヒーター16を用いて液循環や加温を行なうのが好ましい実施形態である。さらに、場合によっては、黒液(黒液抽出管26)の一部を上部蒸解ゾーン(B1)及び下部蒸解ゾーン(B2)の液循環時の補充液として使用することも可能である。
【0037】
本発明の方法の洗浄ゾーンにおいては、向流蒸解、並流蒸解のいずれでもよく、特に限定されるものではないが、釜内での洗浄の効率化を考慮すると、向流蒸解とするのが好ましい実施形態である。
【0038】
本発明において、複数の箇所から抽出された黒液はフラッシュタンク(21)に送られ、フラッシュ蒸気を回収した後、クーラー(22)にて99℃以下に冷却される。冷却された回収黒液は、一部が浸透ゾーン(A)に添加され、残りはエバポレーターに送られる。エバポレーターで濃縮された後、燃焼により、有機物質は熱エネルギーとして回収され、無機物質は最終的に蒸解液に再生される。
【0039】
本発明において、浸透ゾーン、蒸解ゾーン、洗浄ゾーンを順に有する連続蒸解釜を用いて、各ゾーン毎に蒸解液を少なくとも1ヶ所添加し、かつ少なくとも前記浸透ゾーン及び蒸解ゾーンの終了時に黒液を抽出し、さらにフラッシュ蒸気を回収した後、99℃以下に冷却した回収黒液を、浸透ゾーンの開始時に蒸解液と同時にリグノセルロース物質へ添加し、かつ浸透ゾーンでの液比を3〜7にすれば、リグノセルロース物質を均一に蒸解できる理由については今後の研究を待たなければよくわからないが、以下のように推測している。
【0040】
まず、黒液を浸透ゾーンの開始時に蒸解液と同時に添加することにより、十分なアルカリ量、硫化度及び液量で初期の浸透、蒸解反応を進めることが出来る一方で、浸透ゾーン終了後、黒液を抽出することにより、黒液添加によるデメリット、つまり黒液中の有機物による蒸解妨害反応を回避することが出来る。また、浸透ゾーン終了後黒液を抽出することで、蒸解初期に生じる汚染物質を除去できるためにその後の蒸解を効率的に行なうことができ、その結果、蒸解後期には失速する脱リグニン反応も比較的順調に進むため、均一な蒸解が達成できるものと推測している。
【0041】
【実施例】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、勿論、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
以下に示す実施例1〜4及び比較例1〜3において、未晒パルプのカッパー価、白色度、粘度の測定は以下の方法を用いた。
【0042】
1.カッパー価の測定
カッパー価の測定は、JIS P 8211に準じて行った。
【0043】
2.白色度の測定
パルプを離解した後、Tappi試験法T205os−71(JIS P 8209)に従って坪量60g/m2のシートを作製し、JIS P 8123に従ってパルプの白色度を測定した。
【0044】
3.粘度の測定
パルプ粘度の測定は、J.TAPPI 44に準じて行った。
【0045】
実施例1
図1の1塔式連続蒸解釜を用い、ラジアータ松100%からなる針葉樹チップ(容積重410kg/m3)を以下の手順に従って蒸解した。
まず、浸透ゾーン(A)において、針葉樹チップ絶乾1トンに対し、有効アルカリとして8.3%、硫化度28%に相当する蒸解液を図1の白液導入管1から0.8m3と、回収黒液(90℃)を回収黒液導入管27から3.0m3添加して蒸解をスタートさせた(液比は4.7)。その後、循環ポンプ9を使って90m3/Hの流速で液循環させながら、黒液抽出管23を介して、チップ絶乾1トン当たり4.4m3の黒液を抜き取り、、フラッシュタンク21に送った。浸透ゾーン(A)においては並流蒸解が行われ、浸透ゾーン)A)におけるチップの滞留時間は40分、抽出した黒液の温度は115℃であった。
【0046】
次いで、上部蒸解ゾーン(B1)において、ストレーナー6からの黒液(黒液抽出管24)にチップ絶乾1トンに対し有効アルカリとして9.5%、硫化度28%に相当する蒸解液(白液導入管2)0.9m3と、未晒パルプの洗浄濾液(洗浄濾液導入管17)1.0m3を添加し、ヒーター12で加温しながら循環ポンプ11を使用して150m3/Hの流速で液循環を行った。その後、ストレーナー7から、黒液抽出管25を介して、チップ絶乾1トンに対し3.0m3の黒液を抽出し、フラッシュタンク21に送った。上部蒸解ゾーン(B1)は向流蒸解、下部蒸解ゾーン(B2)は並流蒸解とした。蒸解ゾーンにおけるチップの滞留時間は2時間20分であり、フラッシュタンク21に送った黒液の温度は155℃であった。
【0047】
その後、洗浄ゾーン(C)において、ストレーナー8からの黒液(黒液抽出管26)にチップ絶乾1トンに対し有効アルカリとして2.0%、硫化度28%に相当する蒸解液(白液導入管4)0.2m3を添加し、ヒーター16で加温しながら循環ポンプ15を使用して95m3/Hの流速で液循環を行った。洗浄ゾーン(C)においては向流蒸解が行われ、釜内におけるチップの滞留時間の総計は5時間であった。蒸解終了後、洗浄濾液導入管19及び20を介して、希釈洗浄水として未晒パルプの洗浄濾液4.0m3を釜底部から添加した。得られた未晒パルプの白色度は29.0%、カッパー価は27.0、粘度は40.2mPa・sであった。
【0048】
実施例2
浸透ゾーンにおいて、針葉樹チップに蒸解液と共に添加する回収黒液を広葉樹由来の回収黒液(別の蒸解釜にて発生)に替えた以外は、実施例1と同様の操作を行なった。得られた未晒パルプの白色度は29.5%、カッパー価は26.8、粘度は41.3mPa・sであった。
【0049】
実施例3
黒液抽出管23を介してフラッシュタンク21に送る黒液量をチップ絶乾1トン当たり5.2m3に替え、黒液抽出管25を介してフラッシュタンク21に送る黒液量及び温度を1.0m3、154℃に替え、新たに黒液抽出管24を介して黒液1.4m3をフラッシュタンク21に送り、上部蒸解ゾーン(B1)において蒸解液添加量を0.4m3(有効アルカリとして3.8%、硫化度28%に相当)に替え、洗浄濾液(洗浄濾液導入管17)の替わりに黒液(黒液抽出管25)0.4m3を添加し、下部蒸解ゾーン(B2)において、新たに白液導入管3を介して蒸解液0.6m3(有効アルカリとして5.7%、硫化度28%に相当)と洗浄濾液導入管18を介して未晒パルプの洗浄濾液0.6m3を添加し、かつヒーター14で加温しながら循環ポンプ13を使用して90m3/Hの流速で液循環を行った以外は、実施例1と同様の操作を行った。ただし、下部蒸解ゾーン(B2)は向流蒸解とした。得られた未晒パルプの白色度は29.1%、カッパー価は26.8、粘度は43.6mPa・sであった。
【0050】
実施例4
下部蒸解ゾーン(B2)において、洗浄濾液(洗浄濾液導入管18)の替わりに黒液(黒液抽出管26)を添加し、フラッシュタンク21へ送る黒液(黒液抽出管25)の温度を153℃に替えた以外は、実施例3と同様の操作を行った。得られた未晒パルプの白色度は29.5%、カッパー価は27.0、粘度は44.3mPa・sであった。
【0051】
比較例1
浸透ゾーン(A)において、針葉樹チップに白液と共に添加する回収黒液を未晒パルプの洗浄濾液(80℃)に替え、さらに黒液抽出管25を介してフラッシュタンク21に送る黒液の温度が162℃になるように蒸解ゾーンでの蒸解温度を替えた以外は、実施例1と同様の操作を行った。得られた未晒パルプの白色度は27.1%、カッパー価は27.0、粘度は32.4mPa・sであった。
【0052】
比較例2
浸透ゾーン(A)において、針葉樹チップに蒸解液と共に添加する回収黒液の添加量を0.5m3(液比2.2)に替え、黒液抽出管23を介してフラッシュタンク21に送る黒液量を1.9m3に替え、さらに黒液抽出管25を介してフラッシュタンク21に送る黒液の温度が165℃になるように蒸解ゾーンにおける蒸解温度を替えた以外は、実施例1と同様の操作を行った。得られた未晒パルプの白色度は26.6%、カッパー価は27.0、粘度は30.4mPa・sであった。
【0053】
比較例3
浸透ゾーン(A)において、針葉樹チップに蒸解液と共に添加する回収黒液をフラッシュタンク21直前のもの(142℃)に替え、黒液抽出管25を介してフラッシュタンク21に送る黒液の温度が157℃になるように蒸解ゾーンにおける蒸解温度を替えた以外は、実施例1と同様の操作を行った。得られた未晒パルプの白色度は28.1%、カッパー価は27.0、粘度は35.4mPa・sであった。
【0054】
【表1】
【0055】
【表2】
【0056】
【発明の効果】
表1、表2から明らかなように、リグノセルロース物質を浸透ゾーン(A)、蒸解ゾーン(B)、洗浄ゾーン(C)を順に有する連続蒸解釜を用いて蒸解する際に、前記各ゾーン毎に蒸解液を少なくとも1ヶ所添加し、かつ少なくとも前記浸透ゾーン(A)及び蒸解ゾーン(B)の終了時に黒液を抽出する蒸解方法において、抽出黒液よりフラッシュ蒸気を回収した後、99℃以下に冷却した回収黒液を浸透ゾーン(A)の開始時に蒸解液と同時にリグノセルロース物質へ添加し、かつ浸透ゾーン(A)での液比を3〜7にすることにより、未晒パルプの白色度及び粘度が向上することがわかる。
【0057】
さらに、他のリグノセルロース物質を蒸解した際に得られる回収黒液を使用したり、蒸解ゾーン(B)を上部蒸解ゾーン(B1)及び下部蒸解ゾーン(B2)に分け、下部蒸解ゾーン(B2)終了後に抽出される熱黒液及び洗浄ゾーン(C)終了時に抽出される熱黒液を、上部蒸解ゾーン(B1)及び下部蒸解ゾーン(B2)の補充液として使用することにより、上記効果が増大することがわかる。つまり、上記蒸解方法を実施することにより、リグノセルロース物質を均一に蒸解することができ、その結果、蒸解後のパルプ品質を向上させることができた。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の蒸解を実施する為の蒸解フローの一例を示す模式図である。
【符号の説明】
1,2,3,4…白液導入管
5,6,7,8…ストレーナー
9,11,13,15…循環ポンプ
10,12,14,16…ヒーター
17,18,19,20…洗浄濾液導入管
21…フラッシュタンク,
22…クーラー
23,24,25,26…黒液抽出管
27…回収黒液導入管
28…1塔式連続蒸解釜
Claims (5)
- JAPAN TAPPI 紙パルプ試験方法No.3に従って測定した容積重が450kg/m 3 以下であるリグノセルロース物質を浸透ゾーン(A)、蒸解ゾーン(B)、洗浄ゾーン(C)を順に有する1 塔式連続蒸解釜を用いて蒸解する方法であって、前記各ゾーン毎に蒸解液を少なくとも1ヶ所添加し、かつ少なくとも前記浸透ゾーン(A)及び蒸解ゾーン(B)の終了時に黒液を抽出する蒸解方法において、前記浸透ゾーン(A)の抽出黒液を蒸解ゾーン(B)の抽出黒液と一緒にしてフラッシュ蒸気を回収した後、99℃以下に冷却した回収黒液を浸透ゾーンの開始時に蒸解液と同時にリグノセルロース物質へ添加し、かつ浸透ゾーンでの液比を3〜7にすることを特徴とするリグノセルロース物質の蒸解方法。
- 前記蒸解ゾーン(B)が上部蒸解ゾーン(B1)と下部蒸解ゾーン(B2)の2つのゾーンからなることを特徴とする請求項1記載のリグノセルロース物質の蒸解方法。
- 前記下部蒸解ゾーン(B2)からの抽出黒液を冷却することなく、蒸解液と共に、上部蒸解ゾーン(B1)へ添加することを特徴とする請求項2記載のリグノセルロース物質の蒸解方法。
- 洗浄ゾーン(C)の終了時に黒液抽出工程が設けられ、かつ該黒液抽出工程から抽出した黒液を冷却することなく、蒸解液と共に上部蒸解ゾーン(B1)及び/又は下部蒸解ゾーン(B2)へ添加することを特徴とする請求項2又は3記載のリグノセルロース物質の蒸解方法。
- 前記回収黒液が、同一の連続蒸解釜で又は別の連続蒸解釜で、同一種類又は異なる種類のリグノセルロース物質を蒸解して得られた回収黒液であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のリグノセルロース物質の蒸解方法。
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