JP3830553B2 - 巨核球増殖分化剤 - Google Patents

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、神経栄養因子(neurotrophic factor:以下、「NF」という)活性を有する物質および生体内でNFの産生を促進する物質の少なくとも1種を有効成分とする巨核球増殖分化剤に関する。本発明の巨核球増殖分化剤は、巨核球の増殖分化が十分でないために生じる疾患、特に血小板減少症および/または血小板機能低下を伴う疾患の治療薬として有用である。
【0002】
【従来の技術】
血小板は、造血幹細胞から分化した巨核球の細胞質が断片化して生成される、血液中の無核の細胞である。血小板の寿命はヒトで9−10日と短いにもかかわらず、血液中の血小板濃度は定常状態においてほぼ一定に保たれている。また実験動物において種々の方法で血小板を減少させても、数日のうちに血液中の血小板数の回復が認められる。これらのことから血小板減少期において血小板の産生を促進する因子が存在することが想定されていた。
【0003】
血小板は止血機構において重要な役割を果たしている。血小板の減少または機能低下を伴う疾患の場合(Fanconi症候群、無巨核球性血小板減少症、再生不良性貧血、Bernard−Soulier症候群等)は臨床的に危険であり、特に出血した場合にはそれをコントロールできなくなるような状態に陥る。このような危険を回避するためには、血小板を増多する因子の使用が有益である。さらに、血小板増多因子の使用は、血小板減少症等の造血系疾患のみならず、白血病治療のための骨髄移植におけるエリスロポエチン、顆粒球コロニー刺激因子等のサイトカインの治療効果を高めたり、あるいはまた、ガン化学療法や放射線療法の際の血小板減少のコントロールにも有益である。従って、血小板の増多因子が得られれば、そのような治療法の成功率はさらに上昇し、患者の入院期間も短縮できると期待される。
【0004】
血小板増多因子の同定には従来から多くの努力が払われており、現在、造血幹細胞から巨核球をへて血小板が産生される系(巨核球血小板系造血)において血小板の前駆細胞である巨核球の形成に関与すると考えられる種々の調節因子が同定されている。
【0005】
これらの調節因子は、大きく2種類に分類される。第1のグループは単独で巨核球コロニーを形成させるもので巨核球コロニー刺激因子(Meg−CSF)と呼ばれる。第2のグループは単独で巨核球コロニーを形成させる活性はないが、前者を共存させると巨核球のコロニー数を増やしたり、その増殖分化を促進する作用を有するもので巨核球増幅因子(Meg−POT)と呼ばれる。第1のグループに属する例としてインターロイキン−3(IL−3)、顆粒球・マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)が知られている。第2のグループに属する例としてエリスロポエチン(EPO)、マクロファージコロニー刺激因子(M−CSF)、インターロイキン−6(IL−6)、インターロイキン−7(IL−7)、インターロイキン−11(IL−11)、白血球遊走阻止因子(LIF)等が知られている。in vitroでの活性によって同定された因子の中には、実際にin vivoにおいて血小板数の増加や回復時期の短縮等の効果が認められているものもある(溝口秀昭:蛋白質 核酸 酵素,36,1195(1991))。
【0006】
巨核球の増殖分化を促進し、安全性の高いものが見いだされれば、臨床面においても有益である。
【0007】
しかし、これらの因子の多くは、巨核球/血小板系の増殖や分化のみではなく、各系統の血球の分化にも関与するなど極めて多様な生物活性を示す。例えば、IL−6およびIL−11には、実際にin vivoにおける血小板の増多作用があるが、急性期蛋白質の産生を促したり、場合によっては悪液質を引き起こすおそれもある。また、IL−6の場合、腎臓のメサンギウム細胞を増殖させ腎不全を起こす可能性がある(松田正ら:蛋白質 核酸 酵素,36,1184(1991))。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、安全性の高いNF活性を有する物質および生体内でNFの産生を促進する物質の少なくとも1種を有効成分とする巨核球増殖分化剤を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、巨核球の増殖分化を促進する作用を有する、新規な巨核球増殖分化因子を見いだすべく鋭意研究を重ねた結果、本発明を完成した。即ち、本発明によれば、NF活性を有する物質および生体内でNFの産生を促進する物質の少なくとも1種を有効成分とする巨核球増殖分化剤、特に、血小板減少症および/または血小板機能低下を伴う疾患の治療に有効な治療薬が提供される。
【0010】
本発明の有効成分である神経栄養因子(NF)活性を有する物質とは、神経細胞(ニューロン)に作用し、その分化、成熟、生存、再生または老化等において重要な役割を担っている物質の総称である。NFの例としては、1940年代後半に発見された神経成長因子(nerve growth factor;NGF)がある。NGFは、アミノ酸118個のポリペプチド鎖(配列番号1)が2本非共有結合した二量体構造をもつ分子量約26,000の蛋白質である。従来知られている機能としては、交感ニューロン、神経冠由来の知覚ニューロン、脳の一部のコリン作動性ニューロンに作用し、その生存や機能の維持、神経突起の伸長、神経伝達物質の合成促進等がある(Meier,R.,ら EMBO J.,, 1489−1493(1986))。またNFの別の例としては、1982年にNGFと相同性の高い蛋白質として発見された、脳由来神経栄養因子(brain−derived neurotrophic factor;BDNF)が挙げられる。さらに、別の例として、NGFやBDNFと相同性が高く、かつNF作用を有する因子が近年新たに3種発見されている(NT−3、NT−4、NT−5)。これらの3種は総称してニューロトロフィン(neurotrophin;NT)ファミリーと呼ばれている。さらに、別の神経栄養因子として、毛様体神経栄養因子(cilially neurotrophic factor;CNTF)、ヘパリン親和性神経栄養因子(heparine−binding neurotrophic factor;HBNF)(pleiotrophin;PTNと同等)等が挙げられる(蛋白質 核酸 酵素,Vol.36, No.7,(1991)249−257頁)。
【0011】
本発明は、NFがヒト巨核球系細胞の増殖分化を促進させるという知見、さらに詳しくは、NFが正常マウス骨髄細胞に対してMeg−POT活性を有するという驚くべき知見に基づいて完成された。NFの巨核球増殖分化因子としての生理活性は従来全く知られておらず、本発明によって初めて明らかにされたものである。
【0012】
NFの巨核球増殖分化因子としての活性の種特異性は、後述の実施例6に示す通り厳密でない。従って、本発明の巨核球増殖分化剤の有効成分としては、NF活性が得られる限り、特定の種由来のNFである必要はない。しかし、ヒトに使用する場合には種々のヒトNFを用いることが好ましい。本明細書においてヒトNFとは、ヒト由来の物質であって、神経細胞に作用し、その分化、成熟、再生または老化等に生理学的影響を及ぼす物質であればよく、これらに限られるわけではないが、例えば、NGF、BDNF、CNTF、HBNFならびに、NT−3、NT−4、NT−5等のNTファミリーが含まれる。NFは、天然に発現しているものから既知の方法により得られたものを使用できる。あるいは、これらの蛋白質のアミノ酸配列および遺伝子配列は既知であり、これらの配列に基づいて確立されている遺伝子工学的手法により産生することもできる。遺伝子組換えの手法によって製造されたNFは市販されており、容易に入手可能である(例えば、Austral Biologicals社)。NFはまた、所望により糖鎖が結合していてもよく、また結合していなくてもよい。
【0013】
NFはさらに、天然の蛋白質のアミノ酸配列のうち1つまたは複数のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入等により変異したものであっても、NF活性を有する物質であれば本発明の巨核球増殖分化剤の有効成分に含まれる。変異は自然に生じたものであっても、遺伝子工学的手法によって施したものであってもよい。当業者は、慣用された方法により容易にこのような変異蛋白質を作成することができるであろう。
【0014】
本発明の一態様においては、巨核球増殖分化剤の有効成分として、NF活性を有する物質を直接用いる代わりに、生体内でNFの産生を促進する物質を単独で、またはNF活性を有する物質とともに用いることもできる。生体内でNFの産生を促進する物質としては、これらに限られるわけではないが、例えば、エピネフリン、ノルエピネフリン、ドーパミン等のカテコールアミン類、4−メチルカテコール、プロペントフィリン、1,4−ベンゾキノン類(古川昭栄:HUMAN SCIENCE,October 8,(1992))、ニコチン(特開平5−201860号)、ポリ塩基性アミノ酸、ポリ塩基性アミノ酸を分子内に有するペプチド(特開平5−51325号)、マルホルミンA1、A2、A3およびA4(特開平5−262663号)、式(I):
【化1】
Figure 0003830553
で表されるトリペプチドを有効成分とする物質(特開平5−284992号)、一般式(II):
【化2】
Figure 0003830553
[式中、R1、R2は同一または異なっていて、水素、ハロゲン、アルキル基、アルコキシ基、または置換されていてもよいフェニル基であり、
Arは置換されていてもよいアリール基またはヘテロアリール基であり、
Yは単結合または鎖内に二重結合を有していてもよいアルキレン基であり、そして、
Wは式Wa:
【化3】
Figure 0003830553
(ここで、R3、R4は同一または異なっていて、水素、ハロゲン、アルキル基、アルコキシ基、または置換されていてもよいフェニル基であり、
Xは−O−、−S−または−N(R5)−(R5は水素、アルキル基またはアシル基である)であり、
Zは単結合、−O−、−S−、−N(R6)−(R6は水素、アルキル基またはアシル基である)、または−CON(R7)−(R7は水素、アルキル基またはアシル基である)であり、
Aはアルキレン基であり、
Bはアルコキシカルボニル基、カルボキシル基、水酸基、−N(R8)(R9)(R8、R9は同一または異なっていて、水素、アルキル基、ヒドロキシアルキル基、アシル基、または置換されていてもよいアラルキル基もしくはヘテロアラルキル基であるか、あるいは隣接する窒素原子と結合して複素環を形成する基である)、または−CON(R10)(R11)(R10、R11は同一または異なっていて、水素、アルキル基、ヒドロキシアルキル基、アシル基、または置換されていてもよいアラルキル基もしくはヘテロアラルキル基であるか、あるいは隣接する窒素原子と結合して複素環を形成する基である)である)により表される基であるか、あるいは式Wb:
【化4】
Figure 0003830553
(ここで、R12、R13は同一または異なっていて、水素、アルキル基、ヒドロキシアルキル基、アシル基、置換されていてもよいフェニル基、または置換されていてもよいアラルキル基もしくはヘテロアラルキル基であるか、あるいは隣接する窒素原子と結合して複素環を形成する基であり、
Pは、−O−、−S(O)p−(pは、0〜2の整数を表す)、−N(R14)−(R14は水素、アルキル基またはアシル基である)または−N(R15)CO−(R15は水素、アルキル基またはアシル基である)であり、
Qは、アルキレン基、環状アルキレン基、酸素または硫黄が介在したアルキレン基または末端にカルボニル基を有するアルキレン基である)により表される基であるか、または式Wc:
【化5】
Figure 0003830553
(ここで、nは3〜5の整数を示す)で表される基である]
で示されるピリジン化合物を有効成分とする物質(特開平4−352721号)、一般式(III):
【化6】
Figure 0003830553
[式中、Rは水素、または所望により水酸基、カルボキシル基、メルカプト基、カルバモイル基、ヒドロキシフェニル基、グアニジノ基、イミダゾリル基もしくはメチルメルカプト基によって置換されていてもよいC1−C4アルキル基であり、R1、R2およびR3はそれぞれ独立して、水素、アルキル基、アルケニル基またはベンジル基である]
で示されるオキサゾピロロキノリン類および/またはそのエステルを有効成分とする物質(特開平6−9396号)、一般式(IV):
【化7】
Figure 0003830553
[式中、Rは水素原子またはC1−C4のアルキル基である]
で表されるチオフェン化合物(特開平6−157512号)、一般式(V):
【化8】
Figure 0003830553
[式中、R1およびR2は同一または異なっていて、C8−C30のアシル基であり、Xは、水素原子、または置換もしくは無置換の低級アルキル基、C3−C8のシクロアルキル基または3−8員複素環であり、Yは水素原子または対カチオン基を表す。ただし、X中に対アニオンを持たないカチオン基を有する場合には、OYは酸素アニオンである]
で示されるジアシル型グリセロリン脂質(特開平6−157338号)等が含まれる。これらの生体内でNFの産生を促進する物質は、前記各文献に基づいて合成等により産生することができる。また、あるものは市販として、容易に入手可能である。
【0015】
本発明のNF活性を有する物質および生体内でNFの産生を促進する物質の少なくとも1種を有効成分として含有する巨核球増殖分化剤は、Meg−POT活性を有し、体内に投与された時、存在するMeg−CSFと協力して巨核球系細胞の増殖分化を促進させる。従って、本発明の巨核球増殖分化剤は血小板減少および/または血小板機能低下を伴う疾患の治療に有効である。血小板減少による疾患の例としては、Fanconi症候群、再生不良性貧血、悪性リンパ腫瘍もしくは急性白血病等の癌、慢性肝障害、腎不全、手術時若しくは保存血の大量輸血患者、重症感染症、骨髄障害性血小板減少症、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)、STE、蛇咬症、溶血性尿毒症性症候群、脾機能亢進症、出血等がある。血小板機能異常による疾患の例としては、Bernard−Soulier症候群、Glanzmann’s血小板無力症、尿毒症、抗血小板抗体、骨髄増殖性疾患等がある。
【0016】
本発明の巨核球増殖分化剤の投与は、限定するわけではないが、一般に非経口的に行われ、例えば注射投与することにより好ましく実施できる。本発明の巨核球増殖分化剤の治療または改善薬としての使用量は、その使用方法、使用目的等により異なるが、例えば、ヒトNGFの蛋白質量として、注射投与して用いる場合には、例えば、1日量約0.002μg/kg−20mg/kgを投与するのが好ましく、より好ましくは、1日量約0.2μg/kg−2mg/kgである。
【0017】
本発明の巨核球増殖分化剤を液剤として調製する場合は、NF活性を有する物質および/または生体内でNFの産生を促進する物質を水性溶剤(例えば、蒸留水)、水溶性溶剤(例えば、生理食塩水、リンゲル液)、油性溶剤(例えば、ゴマ油、オリーブ油)等の溶剤に溶解して、慣用の方法により調製できる。さらに所望により溶解補助剤(例えば、サリチル酸ナトリウム、酢酸ナトリウム)、緩衝剤(例えば、クエン酸ナトリウム、グリシン)、等張化剤(例えば、ブドウ糖、転化糖)、安定剤(例えば、ヒト血清アルブミン、ポリエチレングリコール)、保存剤(例えば、ベンジルアルコール、フェノール)、無痛化剤(例えば、塩化ベンザルコニウム、塩酸プロカイン)等の添加剤を加えることもできる。また、該水溶液におけるpHは、約3−8に、さらに好ましくは約5−7に調整される。上記pH範囲に調整するためには、例えば希酸(例えば、希塩酸)や希アルカリ(例えば、希水酸化ナトリウム、希炭酸水素ナトリウム)等を添加することにより行える。
【0018】
また、本発明の巨核球増殖分化剤を固形状のものとして調製する場合は、例えば、NF活性を有する物質および/または生体内でNFの産生を促進する物質を凍結乾燥するか、または、固形状(例えば、粉末状)のNF活性を有する物質および/または生体内でNFの産生を促進する物質に希釈剤(例えば、蒸留水、生理食塩水、ブドウ糖)、賦形剤(例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、アルギン酸ナトリウム)、保存剤(例えば、ベンジルアルコール、塩化ベンザルコニウム、フェノール)、無痛化剤(ブドウ糖、グルコン酸カルシウム、塩酸プロカイン)等を混合し、凍結乾燥等の慣用手段により、固形状筋肉内注射用製剤に製造することができる。この製剤は、用時適当な溶剤に溶解して使用することができる。
【0019】
本発明の巨核球増殖分化剤の製剤化にあたり、例えば、NF活性を有する物質および/または生体内でNFの産生を促進する物質を含有する液剤に、安定剤としてヒト血清アルブミン(HSA)を配合すると、溶液状態でpH3−8を示すように調整することができる。このようにすると、保存中および凍結や凍結乾燥操作におけるNF活性を有する物質および/または生体内でNFの産生を促進する物質の活性低下が少なく、また凍結品においてはその再溶解時の溶状が透明であるので好ましい。HSAとしては、いかなるものでもよいが、本組成物を臨床応用するためには、非経口投与に用いる程度の品質のものが好ましい。例えば、健康人血漿を原料としてCohnのエタノール分画第6法によって分画精製したものが用いられる。また、安定剤として、アセチルトリプトファンナトリウムや、カプリル酸ナトリウムを含むものであってもよい。HSAは、各成分を水溶液とした場合に、水溶液1mlあたり約0.1mg−約50mg、特に、約0.5mg−約20mg含有させることが好ましい。
【0020】
本発明の巨核球増殖分化剤の製剤化にあたっては、前記HSAに加えさらに、例えば、グリシン、グルタミン酸、アスパラギン酸、アラニン、プロリン等のアミノ酸、特にモノアミノ脂肪酸アミノ酸、もしくは環状アミノ酸、ブドウ糖、マンノース等の単糖類、ソルビット、マンニット等の糖アルコール類、およびこれらの生理学的に許容される塩、ならびにこれらの誘導体からなるグループから選択される化合物の1種類または2種類以上を配合してもよい。上記配合剤は、例えば、NF活性を有する物質および/または生体内でNFの産生を促進する物質を水溶液とした場合に、水溶液1ml当たり、単糖類または糖アルコール類の場合は約10−100mg、アミノ酸の場合は約5−50mg配合することが好ましい。上記の製剤化にあたっては、水溶液を溶液状態でpH約3−8、好ましくはpH約5−7を示すように調整する。グルタミン酸等の酸性アミノ酸を配合する場合は該物質を上記所定量加えることにより、所定のpHに調整できる。あるいは、所望により、または上記酸性アミノ酸を配合しない場合は塩酸、リン酸等の鉱酸、もしくはコハク酸、酒石酸、クエン酸等の緩衝剤で所定のpHに調整できる。
【0021】
本発明の巨核球増殖分化剤は、水溶液、凍結品または凍結乾燥品の形態が好ましく、特に、取り扱いや貯蔵の安定性の面から凍結乾燥品が好ましい。凍結品としての本発明の巨核球増殖分化剤は、水溶液として調製した巨核球増殖分化剤を原料として用い、これを通常約−80℃〜−20℃で凍結することにより製造できる。該凍結組成物は約−80℃〜−10℃で保管することが好ましい。凍結乾燥品としての本発明の巨核球増殖分化剤は、例えば上記凍結組成物を常法により減圧乾燥するか、または、上記水溶液もしくは上記凍結組成物の融解により得られる水溶液を、所望により小分けし、上述のように凍結した後、常法により減圧乾燥することにより製造することができる。あるいは、上記方法により製造した凍結乾燥品を、例えば前記した単糖類、糖アルコール類、アミノ酸等を含有し、所望により塩酸等でpH調整された溶解液に再溶解することによって、本発明の巨核球増殖分化剤を溶解状態として使用してもよい。
【0022】
注射用製剤としての本発明の凍結乾燥した巨核球増殖分化剤を製造する場合は、例えば、NF活性を有する物質および/または生体内でNFの産生を促進する物質の水溶液ならびに配合剤含有水溶液をそれぞれ除菌濾過して混合するか、これらの混合液を小分けする前に除菌濾過等により精製し、無菌操作によりバイアル瓶等に分注小分けした後上記凍結乾燥処理に付すことが好ましい。この場合、容器の空間部を真空にするか、窒素ガス置換することにより、該組成物の安定性を高めることができる。また、アミノ酸や単糖類あるいは糖アルコール類を含有する水溶液で、凍結乾燥品を溶解する場合には、その水溶液は除菌濾過し、無菌操作によりアンプル等に分注小分け後、常法により蒸気滅菌したものを用いることが好ましい。
【0023】
本発明の巨核球増殖分化剤を投与するには、該組成物が水溶液のものである場合には、そのまま注射用溶解液として用いる。該組成物が凍結乾燥により固形状のものである場合には、蒸留水もしくは生理食塩水等を用いて溶解し注射用溶解液として用いる。なお、所望により前記の単糖類、糖アルコール類、アミノ酸等を含有し、前記と同様にpH調整された溶解液で溶解した後使用することもできる。
【0024】
さらに、本発明の巨核球増殖分化剤にはNF活性を有する物質および/または生体内でNFの産生を促進する物質以外に、種々のサイトカインを1種類以上含有させることもできる。これらの例としては、これらに限られるわけではないが、インターロイキン−1、インターロイキン−2、インターロイキン−3(以下、「IL−3」という)、インターロイキン−4、インターロイキン−5、インターロイキン−6、インターロイキン−7、インターロイキン−10、インターロイキン−11、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、顆粒球・マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、マクロファージコロニー刺激因子(M−CSF)、エリスロポエチン(EPO)、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、酸性線維芽細胞増殖因子(aFGF)、インスリン様増殖因子、上皮増殖因子(EGF)、肝細胞増殖因子(HGF)、トランスフォーミング成長因子−α(TGF−α)、プロテアーゼネキシンI、プロテアーゼネキシンII、血小板由来成長因子(PDGF)、コリン作動性分化因子(CDF)、白血球遊走阻止因子(LIF)等がある。これらのサイトカインを含有させると巨核球増殖分化剤としての効果は相乗的に増加する。これらの添加量は特に限定しないが、例えば、ヒトNGFを100とした場合にそれぞれ0.0001〜200000重量%添加すればよい。これらの補助的有効成分の添加量は上述の値に限定されるものでなく、症状、患者の年齢等により適宜決定すればよい。
【0025】
なお、これらのサイトカインは必ずしもNF活性を有する物質および生体内でNFの産生を促進する物質と同時に同じ薬剤として投与しなくてもよい。即ち、NF活性を有する物質および生体内でNFの産生を促進する物質の少なくとも1種を有効成分として含有する巨核球増殖分化剤の投与前、または後の適当な時期にこれらの補助的有効成分を投与しても構わない。
【0026】
本明細書において、塩基、アミノ酸等を略号で表示する場合、IUPAC−IUB Commission on Biochemical Nomenclatureによる略号または当該分野における慣用略号に基づく。
【0027】
【実施例】
実施例1
ヒト巨核球系細胞株S10細胞(特開平6−269284号)の増殖に及ぼすNGFの影響を3H−TdRの取り込み法により検討した。96穴マイクロプレートにて2%または10%FCS存在下、5×103個の細胞にマウス顎下腺由来2.5S NGF(mNGF、純度95%以上、Biomedical Technologies Inc.社製)を10pg/ml〜1μg/mlまでの濃度で加え、48時間培養後、0.5μCiの3H−TdRを添加し、4時間後のアイソトープの取り込みを測定した。
【0028】
mNGFはいずれの濃度のFCS存在下においても、濃度依存的にS10細胞の増殖を促進させた。結果を図1に示す。
【0029】
実施例2
実施例1で使用したmNGFはマウス顎下腺由来の精製品であるため夾雑物の混入が避けられない。そこで、S10細胞に対する増殖促進が真にmNGFによるものであることを確認するために、抗NGF抗体を添加した場合の影響を検討した。即ち、mNGFに抗マウスNGF IgG画分(CIDtech Research Inc.社製)を加え、室温にて2時間反応させた後に、S10細胞に添加し、増殖に及ぼす影響を3H−TdRの取り込み法により検討した。なお、mNGFと抗マウスNGF IgG画分の最終濃度については、それぞれ10ng/mlおよび10μg/mlとなるようにした。
【0030】
抗マウスNGF IgG画分のみを加えた場合はS10細胞の増殖には影響を及ぼさなかったが、mNGFによるS10細胞の増殖促進活性は抗マウスNGFIgG画分によって完全に抑えられた。従って、mNGFそれ自体がS10細胞の増殖を促進させたことが明らかとなった。結果を図2に示す。
【0031】
実施例3
マウス無血清培養系におけるmNGFの巨核球コロニー形成に及ぼす影響を、溝口らの方法(Acta Hematol Jpn.,48:1780,(1985))に準じた方法により検討した。BALB/c 雌性マウス(6〜8週齢)の骨髄細胞2×105個に組換えマウスIL−3(rmIL−3,Genzyme Corporation社製)100ng/mlの存在あるいは非存在下、mNGFを1ng/ml〜100ng/mlの濃度になるように添加し、軟寒天中にて、5%CO2、5%O2、100%湿度のインキュベーターで7日間培養した。0.1%グルタルアルデヒドで固定後、アセチルコリンエステラーゼ染色により巨核球を同定し、3個以上の細胞からなる集塊をコロニーとして計数した。
【0032】
mNGF単独では、巨核球コロニーの形成はほとんど認められなかったが、rmIL−3存在下では濃度依存的にコロニー形成が促進された。従って、mNGFはMeg−CSF活性は無いものの、Meg−POT活性を有することが示された。結果を図3に示す。
【0033】
実施例4
mNGFのMeg−POT活性についても抗NGF抗体による影響を検討した。mNGFに抗NGF IgG画分を加えて室温にて2時間反応させた後、マウス骨髄細胞に添加し無血清培養に付した。mNGFと抗マウスNGF IgG画分の最終濃度は、それぞれ50ng/mlおよび50μg/mlとなるようにした。
【0034】
抗マウスNGF IgG画分自体は巨核球コロニー形成には影響を及ぼさなかったが、mNGFのMeg−POT活性をほぼ完全に抑制した。従って、mNGF自体がMeg−POT活性を有することが明らかとなった。結果を図4に示す。
【0035】
実施例5
mNGFのMeg−POT活性が直接作用か間接作用かを検討するため、非付着性骨髄細胞を用いて巨核球コロニー形成を試みた。即ち、10%FCSを含む培地にマウス骨髄細胞を5×106個/mlになるように懸濁させ、組織培養用シャーレに入れ37℃、100%湿度のCO2インキュベーターにて静置した。1時間後、ピペットで洗い流しながら浮遊細胞を回収し、同様の操作をさらに2回繰り返し付着細胞を除去し、血清無添加の培地で洗浄した。このようにして調製した非付着性骨髄細胞を巨核球コロニー形成法に付した。
【0036】
rmIL−3非存在下ではコロニー形成は認められなかったが、rmIL−3存在下(25または100ng/ml)では、mNGFは濃度依存的にコロニー形成を促進させた。従って、mNGFのMeg−POT活性は少なくとも単球・マクロファージ系の細胞を介さず巨核球に直接作用することが示唆された。結果を図5に示す。
【0037】
実施例6
NGFは動物種間でアミノ酸配列が極めて良く保存されており、立体構造も極めて類似しているものと考えられる。実際、mNGFはヒト巨核球系細胞株S10の増殖を促進させた(実施例1、実施例2)。従って、ヒトNGFがマウス巨核球コロニー形成を促進させることが予想される。そこでヒトNGFとしてヒトNGF cDNAをトランスフェクトしたCHO細胞より精製した組換えヒトNGF(rhNGF,Austral Biologicals社製)を用いてマウス巨核球コロニー形成を試みた。
【0038】
rhNGFは、IL−3非存在下ではコロニー形成には影響を及ぼさなかったが、IL−3存在下では濃度依存的に巨核球コロニー形成を促進させた。従って、ヒトNGFもMeg−POT活性を有していることが明らかとなった。結果を図6に示す。
【0039】
【発明の効果】
本発明の、NF活性を有する物質および生体内でNFの産生を促進する物質の少なくとも1種を有効成分とする新たな巨核球増殖分化剤は、巨核球の増殖分化を促進し、末梢血液中の血小板数を増加させる作用により、血小板減少症および/または血小板機能低下を伴う疾患の治療に有効な治療薬となる。
【0040】
【配列表】
配列表
配列番号:1
配列の長さ:118
配列の型:アミノ酸
配列の種類:蛋白質
起源:
生物名:Homo sapiens
配列:
Figure 0003830553

【図面の簡単な説明】
【図1】 図1は、mNGFのS10細胞の増殖に対する効果を示す。
【図2】 図2は、mNGFによるS10細胞の増殖に対する抗NGF抗体の効果を示す。
【図3】 図3は、マウス骨髄細胞無血清培養系におけるmNGFの巨核球コロニー形成に及ぼす効果を示す。
【図4】 図4は、mNGFによる巨核球コロニー形成に対する抗NGF抗体の効果を示す。
【図5】 図5は、マウス非付着性骨髄細胞無血清培養系における、mNGFの巨核球コロニー形成に及ぼす効果を示す。
【図6】 図6は、マウス骨髄細胞無血清培養系におけるrhNGFの巨核球コロニー形成に及ぼす効果を示す。

Claims (9)

  1. 神経成長因子(以下、「NGF」という)を有効成分とする、巨核球増殖分化剤。
  2. NGFが天然由来のヒトNGFである、請求項1に記載の巨核球増殖分化剤。
  3. NGFが遺伝子組み換えの手法により産生されたヒトNGFである、請求項1に記載の巨核球増殖分化剤。
  4. NGFが、以下のa)又はb)から選択される蛋白質である、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の巨核球増殖分化剤:
    a)配列番号1のアミノ酸配列を有する蛋白質;又は
    b)配列番号1のアミノ酸配列のうち1つまたは複数のアミノ酸残基が置換、欠失または挿入により変異しているアミノ酸配列を有し、かつNGF蛋白質の有する神経栄養因子(以下、「NF」という)活性を保持している蛋白質
    である、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の巨核球増殖分化剤。
  5. NGF蛋白質が配列番号1のアミノ酸配列を有する、請求項4に記載の巨核球増殖分化剤。
  6. NGF蛋白質が糖鎖を有するものである、請求項1−5のいずれか1項に記載の巨核球増殖分化剤。
  7. インターロイキン−1、インターロイキン−2、インターロイキン−3、インターロイキン−4、インターロイキン−5、インターロイキン−6、インターロイキン−7、インターロイキン−10、インターロイキン−11、顆粒球コロニー刺激因子、顆粒球・マクロファージコロニー刺激因子、マクロファージコロニー刺激因子、エリスロポエチン、塩基性線維芽細胞増殖因子、酸性線維芽細胞増殖因子、インスリン様増殖因子、上皮増殖因子、肝細胞増殖因子、トランスフォーミング成長因子−α、プロテアーゼネキシンI、プロテアーゼネキシンII、血小板由来成長因子、コリン作動性分化因子または白血球遊走阻止因子の少なくとも1種をさらに含有してなる、請求項1に記載の巨核球増殖分化剤。
  8. インターロイキン−3をさらに含有してなる、請求項1に記載の巨核球増殖分化剤。
  9. 血小板減少症および/または血小板機能低下を伴う疾患の治療用の組成物である、請求項1−8のいずれか1項に記載の巨核球増殖分化剤。
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