JP3829157B2 - イネ由来のジベレリン2β水酸化酵素遺伝子およびその利用 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ジベレリン生合成に関与する植物遺伝子およびその利用に関する。
【0002】
【従来の技術】
ジベレリン(GA)類は、ent-ジベレランと称される基本構造を有する四員環ジテルペノイドカルボン酸(図1A)の巨大なファミリーを作っており、正常な植物の成長および発育に通常不可欠であるような高等植物の生活環の多くの過程を調節している(Graebe,J.E. (1987) Annu.Rev.Plant Physiol.,38,419-465;Hooley,R.(1994) Plant Mol.Biol.,26,1529-1555)。GA1などの生物学的活性のあるGA類は、色素体中のシクラーゼ、小胞体の膜結合型モノオキシゲナーゼ、および細胞質に局在した可溶性2-オキソグルタル酸-依存型ジオキシゲナーゼの連続作用により、trans-ゲラニルゲラニルニリン酸から生成される(Hedden,P.and Kamiya,Y.(1997) Annu.Rev.Plant Physiol.Plant Mol.Biol.,48,431-460;Lange,T.(1998) Planta,204,409-419において検証)。現在GAの生合成経路は概ね確立されている(図1B)。2-オキソグルタル酸-依存型ジオキシゲナーゼは、この生合成経路の後工程であるGA20-オキシダーゼによるC-20の除去およびGA 3β-ヒドロキシラーゼによる3β-ヒドロキシル基の導入を含む工程を触媒し、生物学的に活性のあるGAを生成する。第三のジオキシゲナーゼであるGA2β-ヒドロキシラーゼは、2β-ヒドロキシル基を導入し、活性型に転換できない生物学的に不活性なGAを生成する。
【0003】
ここ数年間に、GA生合成酵素をコードしているcDNAおよびゲノムクローンが、様々な植物種から単離されている(Hedden,P.and Kamiya,Y.(1997) Annu.Rev.Plant Physiol.Plant Mol.Biol.,48,431-460;Lange,T.(1998) Planta,204,409-419)。これらのクローンの利用可能性は、GA生合成の調節に関する新たな知見をもたらしている。例えば、GA 20-オキシダーゼは植物の発育を通じて示差的に調節されるいくつかの遺伝子によってコードされているということが示された(Phillips,A.L.et al.(1995) Plant Physiol.,108,1049-1057;Garcia-Martinez,J.L.et al.(1997) Plant Mol.Biol.,33,1073-1084)。GA2β-ヒドロキシラーゼは、生理活性GAの内在濃度の決定において重要な役割を果たすにもかかわらず、これらの酵素の遺伝子はごく最近まで単離されていなかった。GA2β-ヒドロキシラーゼ遺伝子は、ベニバナインゲンとシロイヌナズナ(Arabidopsis)の機能的スクリーニング法により最初に単離された(Thomas,S.G.et al.(1999) Proc.Natl.Acad.Sci.USA,96,4698-4703)。
【0004】
GA類は、発芽、茎伸長、花成、果実の成長を含む多くの発育過程に関与している。従って、これらの過程をGA含量を変更するような化学物質を適用することによって修飾することは、農業・園芸の分野において広く行なわれている。例えば、GA3は、種無しブドウの栽培において漿果の成長を刺激するために使用され(Christadoulou,A.J.et al.(1968) Proc.Am.Soc.Hort.Sci.,92,301-310)、GA生合成阻害剤は、か穀類や鑑賞植物の高さを調節するための成長抑制剤として使用されている(Hedden,P.and Hoad,G. (1994) New York: Marcel Dekker, pp.173-198)。化学物質を外来適用する別法は、GAの生合成を遺伝子操作することによりGAの内在含量を変更することである。最近のGA生合成に関連したいくつかの遺伝子クローニングは、この方法の実行可能性を試験する手段となる。特に、GA 2β-ヒドロキシラーゼをコードしている遺伝子の単離は、トランスジェニック植物において生理活性GA含量を制御するための強力な手段になると考えられる。
【0005】
多くのGA-感受性突然変異体が、トウモロコシ、マメ、トマト、シロイヌナズナおよびイネのような様々な植物種から単離されている(Phinney,B.O.(1956) Proc.Natl.Acad.Sci.USA,42,185-189;Koornneef,M.(1978) Arabidopsis Ins.Serv.,15,17-20;Koornneef,M.et al.(1990) Theor.Appl.Genet.,80,852-857;Reid,J.B.and Ross,J.J.(1993) Int.J.Plant Sci.,154,22-34;Murakami,Y.(1972) Plant Growth Substances 1970.(Carr,D.J., ed.). Berlin:Splinger-Verlag,pp.166-174)。シロイヌナズナの自然突然変異におけるGA生成の減少によって引き起こされた表現型は、茎伸長と花成におけるGAの役割を暗示している (Koornneef,M.and van der Veen,J.H.(1980) Theor.Appl.Genet.,58,257-263;Sponsel,V.M.et al.(1997) Plant Physiol.,115,1009-1020)。GA1は、コパリル-ニリン酸シンターゼ(CPS)をコードし、この座のヌル突然変異は、抽だいのない花成を生じるような長日条件において茎伸長を阻害し、かつ短日条件において茎伸長と花成の両方を阻害する(Wilson,R.N.et al.(1992) Plant Physiol.,100,403-408;Sun,T.-P.and Kamiya,Y.(1994) Plant Cell,6,1509-1518)。GA4はGA 3β-ヒドロキシラーゼをコードし(Chiang,H.-H.et al.(1995) Plant Cell,7,195-2015;Williams,J.et al.(1998) Plant Physiol.,117,559-563)、GA5およびGA6は、2個の異なるGA20-オキシダーゼをコードしている(Xu,Y.L.et al.(1995) Proc.Natl.Acad.Sci.USA.,92,6640-6644;Sponsel,V.M.et al.(1997) Plant Physiol.,115,1009-1020)。GA4とGA5の両方のヌル突然変異は、花の発育は正常な半矮性を生じるのに対して、GA6の機能喪失は、短い花序、稔性低下および短い長角果を生じる(Sponsel,V.M.et al.(1997) Plant Physiol.,115,1009-1020)。
【0006】
GA-欠失突然変異体も、イネから単離されている(dx:d35およびdy:dl8)。このイネ矮性突然変異体は、農業において重要であると思われる。例えば、sd-1突然変異体は、高い収量、半矮性変種の遺伝的基盤であるため、イネの育種(bleeding)において特に重要である。イネのdl8突然変異体は、GA感受性矮性であり、かつ複数の対立遺伝子が同定されている。例えば、豊雪矮性(dl8h)、秋晴れ矮性(dl8-AD)、小竹玉錦(dl8K)、および矮稲C(dl8-w)が、様々な親生態型から単離されている。dl8突然変異体におけるGA中間体の分析を基に、これらの突然変異体においては、3β-ヒドロキシGA類への転換が阻害され、その結果、内在GA20レベルが上昇し、かつ生理活性のあるGA1含量の劇的低下がもたらされることが実証されている(Kobayashi M. et al., (1989) Plant Cell Physiol. 30(7): 963-969、Kobayashi M. et al., (1994) Plant Physiol. 106: 1367-1372、Choi Y-H. et al., (1995) Plant Cell Physiol.36(6): 997-1001)。これらの知見は、d18遺伝子が、GA3β-ヒドロキシラーゼをコードし、かつ低下したGA1レベルが突然変異体植物における茎伸長を抑制することを強力に示唆している。
【0007】
矮性の草丈(stature)は、高い植栽密度、効率的光摂取、風害の減少および農作業の軽減を可能にすると予想されるため、これは果樹を含む農作物および園芸作物の育種にとって最も価値のある特徴である。トランスジェニック植物において、生理活性のあるGA類の内在含量を減少するいくつかの方法が可能である。例えば、シロイヌナズナGA 20-オキシダーゼ遺伝子およびタバコGA 3β-ヒドロキシラーゼ遺伝子のアンチセンス発現は、生理活性GA類のレベルを低下させ、半-矮性表現型を生じた(Coles et al.,(1999) Plant.J.17,547-556、Itoh et al.,(1999) Plant.J.20,15-24)。しかしながら、この活性型GA生成酵素の遺伝子のアンチセンス発現による矮性植物の作出法は、同一種内に存在するホモログ遺伝子の発現を抑制できない可能性が高く、また不活性化ステップの酵素をコードする2βヒドロキシダーゼ遺伝子のホメオティックな発現制御の効果により活性型ジベレリンの半減期が延伸されるため、GAの内生レベルを予測し調節することが困難であり、かつアンチセンス構築物が導入されるものと同じ植物種から対応するcDNAを単離することが必要であるという2つの大きな欠点がある。
【0008】
これとは対照的に、GA失活酵素の基質である活性型GAの構造は他の植物においても保存されているため、GA2β-ヒドロキシラーゼ遺伝子のようなGA失活酵素の遺伝子の過剰発現は、異種の植物種においておそらく有効であり、更には導入遺伝子発現の修飾により、望ましいレベルの活性GA含量の調節を容易に行うことができると考えられる。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、このように植物のGA含量の調節において、GA失活酵素を標的とすることの利点に鑑みてなされたものであり、その第一の目的は、植物由来の新規なGA2β-ヒドロキシラーゼ遺伝子、特にイネ由来の遺伝子を提供することにある。さらに本発明は、該遺伝子を利用して植物のGA含量を調節することにより植物の草型を改変することをも目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
ジベレリン(GA)類の主要代謝経路は、可溶性2-オキソグルタル酸-依存型ジオキシゲナーゼによって触媒された反応である、2β-ヒドロキシル化により始まる。本発明者等は、GA含量の調節による草型の改変された植物体の作出のために、イネからGA 2β-ヒドロキシラーゼ遺伝子を単離し、その特徴付けを行なった。
【0011】
まず、イネ由来のGA2β-ヒドロキシラーゼ遺伝子を単離するために、イネのGA2βヒドロキシラーゼ遺伝子、Marah macrocarpusジオキシゲナーゼmRNA、イネGA20-オキシダーゼ遺伝子、2種のイネのGA 3β-ヒドロキシラーゼ遺伝子、ならびに他の2-オキソグルタル酸-依存型ジオキシゲナーゼ遺伝子の推定アミノ酸配列を比較して設計した縮重プライマーを用いて、イネのゲノムDNAを鋳型にPCRを行ない、複数のクローンを得た。得られたクローンの中からGA2β-ヒドロキシラーゼをコードすることが予想されるクローンを選択し、その配列情報を利用してデーターベース検索を行ない、1つのイネESTクローンを得た。次いで、このESTクローンの配列情報を基に設計したプライマーを利用してイネゲノムDNAを鋳型にPCRを行ない、さらに、これにより得られた増幅断片をプローブとしてイネのcDNAライブラリーおよびゲノムDNAライブラリーのスクリーニングを行なった。その結果、イネGA2β-ヒドロキシラーゼをコードするゲノムDNAおよびcDNAを単離することに成功した(イネGA2β-ヒドロキシラーゼをコードするクローンを「OsGA2ox1」と命名した)。
次いで、本発明者等は、得られたOsGA2ox1 cDNAを大腸菌において発現させて得た組換えタンパク質の活性の検討を行ない、これら組換えタンパク質が、C19-GAおよびC20-GAを、対応する2β-ヒドロキシ生成物に転換するGA 2β-ヒドロキシラーゼ活性を有することを確認した。
イネにおけるOsGA2ox1の発現を解析した結果、その発現は、分化した葉原基、表皮、および糊粉層の基底領域に局在化していた。
さらに、本発明者等は、OsGA2ox1 cDNAを発現するトランスジェニックイネ植物体の作出を行なった結果、これら植物体が対照の植物体と比較して矮性化することを見出した。
【0012】
即ち、本発明者等は、イネから新規なGA2β-ヒドロキシラーゼ遺伝子を単離することに成功すると共に、これら遺伝子を利用して野生型植物体と比較して草型が改変された植物体を作出することに成功し、本発明を完成するに至った。
【0013】
従って、本発明は、イネ由来の新規なGA2β-ヒドロキシラーゼ遺伝子およびその利用、特に草型が改変された植物体の作出のための該遺伝子の利用に関し、より詳しくは、
(1) ジベレリン2β水酸化酵素活性を有するタンパク質をコードする、下記(a)から(c)のいずれかに記載のDNA、
(a)配列番号:1に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA。
(b)配列番号:2に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA。
(c)配列番号:1に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されたアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA。
(2) 矮性化した植物体を作出するために用いる、(1)に記載のDNA、
(3) 植物細胞内において内因性の(1)に記載のDNAの発現を抑制するために用いる、下記(a)から(c)のいずれかに記載のDNA、
(a)(1)に記載のDNAまたはその転写産物と相補的なアンチセンスRNAをコードするDNA。
(b)(1)に記載のDNAの転写産物を特異的に開裂するリボザイム活性を有するRNAをコードするDNA。
(c)共抑制効果により、内因性の(1)に記載のDNAの発現を抑制するRNAをコードするDNAであって、配列番号:2に記載の塩基配列からなるDNAと70%以上の相同性を有するDNA。
(4) (1)から(3)のいずれかに記載のDNAを含むベクター、
(5) (1)から(3)のいずれかに記載のDNAを発現可能に保持する形質転換植物細胞、
(6) (5)に記載の形質転換植物細胞を含む形質転換植物体、
(7) (6)に記載の形質転換植物体の繁殖材料、
(8) (1)に記載のDNAによりコードされるタンパク質、
(9) (1)に記載のDNAを発現可能に保持する形質転換細胞を培養し、該細胞またはその培養上清から発現させたタンパク質を回収する工程を含む、(8)に記載のタンパク質の製造方法、
(10) 植物細胞内において(1)に記載のDNAの発現量を調節することを特徴とする、植物の生長を改変する方法、
(11) 植物細胞内において(1)に記載のDNAの発現量を調節することを特徴とする、植物の草型を改変する方法、
(12) 植物細胞内で(1)から(3)のいずれかに記載のDNAを発現させる、(10)または(11)に記載の方法、を提供するものである。
【0014】
【発明の実施の形態】
本発明は、イネから単離された、新規なGA2β-ヒドロキシラーゼおよび該酵素をコードするDNAを提供する。本発明のDNAに含まれる、本発明者らにより単離されたOsGA2ox1 cDNAの塩基配列をぞれぞれ配列番号:2に、OsGA2ox1タンパク質のアミノ酸配列をそれぞれ配列番号:1に示す。
【0015】
OsGA2ox1 cDNAは、アミノ酸382残基からなるタンパク質をコードする1,146bpのオープンリーディングフレームを含む。該cDNAによりコードされるタンパク質は、GA生合成に関与するジオキシゲナーゼに保存されたアミノ酸配列(図2A参照)を有し、また、活性部位でFeに結合しているアミノ酸残基を保持していた。また、他のGA 2β-ヒドロキシラーゼとその配列において有意な相同性を示した。さらに、該cDNAによりコードされるタンパク質は、広範なC19-GA類から2β-ヒドロキシ生成物を生じさせる活性を有していた。従って、本発明者等により単離されたOsGA2ox1 cDNAは、GA2β-ヒドロキシラーゼをコードしていると考えられる。
【0016】
GA2β-ヒドロキシラーゼは、GA1やGA4のような活性のある3β-ヒドロキシル化されたGA類のレベル、およびGA20 やGA9のようなそれらの直前の前駆体のレベルを直接調節して、生物不活性な2β-ヒドロキシ化されたGAを生成する。実際、本発明者等が単離したOsGA2ox1 cDNAがコードする組換えタンパク質は、広範なC19-GA類を対応する2β-ヒドロキシ生成物へ転換する活性を有していた。従って、本発明のGA2β-ヒドロキシラーゼおよび該酵素をコードするDNAは、生物不活性GAの製造に利用することが可能である。
【0017】
また、GA-欠失突然変異体の研究と、植物への外来GAおよび/またはGA生合成阻害剤の適用の作用から、GA類が植物の生長にとって必須かつ強力なレギュレーターであることが明らかとなっている。これらは、比較的草丈の高い植物の生長における広範な事象に影響を及ぼし、茎伸長の刺激にも関与している。実際に、本発明のOsGA2ox1 cDNAを発現させた植物体は、重度に矮小化された。従って、本発明のGA 2β-ヒドロキシラーゼおよび該酵素をコードするDNAは、植物の生長を改変させ、例えば、野生型とは異なる草型の植物体を作出することに利用することも可能である。植物の草型の改変、殊に、矮性化には、高い植栽密度、効率的光摂取、風害の減少、農作業の軽減など様々な利点が存在し、このことは果樹を含む農作物および園芸作物の育種にとって最も価値のある特徴である。
【0018】
本発明のGA2β-ヒドロキシラーゼは、当業者に公知の方法により、組み換えタンパク質として、また天然のタンパク質として調製することができる。組み換えタンパク質は、後述するが、例えば、本発明のGA2β-ヒドロキシラーゼをコードするDNA(例えば、配列番号:2)を適当な発現ベクターに挿入し、該ベクターを適当な細胞に導入し、該形質転換細胞から精製することにより調製することが可能である。また、天然のタンパク質は、例えば、調製した組み換えタンパク質若しくはその部分ペプチドを適当な免疫動物に免疫することにより調製した抗体を結合したアフィニティーカラムに、本発明のタンパク質を発現しているイネの組織などから調製した抽出液を接触させて、該カラムに結合するタンパク質を精製することにより調製することができる。
【0019】
本発明のGA2β-ヒドロキシラーゼには、野生型タンパク質(配列番号:1)の機能を保持したまま、その一部のアミノ酸を改変したタンパク質が含まれる。このようなタンパク質を調製するための当業者によく知られた方法としては、例えば、site-directed mutagenesis法(Kramer, W.and Fritz,H.-J. Methods in Enzymology, 154: 350-367, 1987)が挙げられる。また、アミノ酸の変異は自然界において生じることもある。本発明のGA2β-ヒドロキシラーゼには、このように天然型のタンパク質のGA2β-ヒドロキシラーゼ活性を保持したまま、そのアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されたタンパク質が含まれる。タンパク質におけるアミノ酸の改変部位および改変個数は、改変後のタンパク質がGA2β-ヒドロキシラーゼ活性を有する限り、特に制限はない。アミノ酸の改変は、一般的には、50アミノ酸以内であり、好ましくは30アミノ酸以内であり、さらに好ましくは10アミノ酸以内であり、さらに好ましくは3アミノ酸以内であると考えられる。
【0020】
本発明において「GA2β-ヒドロキシラーゼ活性」とは、反応基質であるC19-GA類(例えば、GA1、GA4、GA9、GA20)を与えた際に、対応する2β-ヒドロキシ生成物を反応生成物として合成する活性を指す。該活性は、一般的には、発現ベクターに得られたcDNAを挿入し、融合タンパク質として大腸菌内で過剰発現させ、その結果得られる細胞抽出液を酵素液として、反応基質であるC19-GA類、および補因子である鉄イオン、2オキソグルタル酸の存在下で反応をin vitroで行なわせ、最終的に反応生成物(2β-ヒドロキシ生成物)をGC-MSによって確認することにより検出することができる。
【0021】
本発明は、また、本発明のGA2β-ヒドロキシラーゼをコードするDNAを提供する。このDNAには、本発明のGA2β-ヒドロキシラーゼをコードしうる限り、cDNAおよびゲノムDNAの双方が含まれる。OsGA2ox1タンパク質をコードするDNAは、cDNAであれば、例えば、配列番号:2に記載の塩基配列情報を基に設計したプライマーを用い、イネから単離した全RNA(例えば、花序由来の全RNA)を鋳型とした逆転写PCRを行なうことにより調製することができる。また、ゲノムDNAは、例えば、配列番号:2に記載の塩基配列情報を基に設計したプライマーを用い、イネのゲノムDNAを鋳型にPCRを行なうことにより調製することができる。
【0022】
これら本発明のGA2β-ヒドロキシラーゼをコードするDNAは、例えば、組換えタンパク質の製造に用いることができる。組換えタンパク質の製造は、例えば、下記のようにして行なうことができる。まず、pMAL-c2発現ベクター(NEB社)のマルチクローニングサイトに対し、予め制限酵素サイトを設けたプライマーを用いてRT-PCRにより合成した全長cDNAをサブクローニングする。この構築物を、定法により、BL21(プロテアーゼ欠失株)に形質転換する。これにより得られる形質転換体を用いてタンパク質の誘導を行う。大腸菌は、2xYT、0.2%グルコースの培地で37℃振とう培養する。OD600が0.6前後になったところで、IPTGを最終濃度1mMとなるように加え、更に18℃で24時間培養する。酵素液の抽出に関しては、培養後、集菌し、これをsuspend buffer(50mM Tris-HCl, pH8.0, 10%グリセロール, 2mM DTT, 1mg/ml リゾチーム)に溶かす。懸濁液を4℃にて30分放置後、-80℃にて、凍結するまでインキュベートする。凍結した懸濁液を解凍し、SONICATOR(HEAT SYSTEMS-ULTRASONICS,INC.MODEL W-225R)を用いて、MAXレベルにて、30秒間、5分のインターバルをおき、2回超音波処理を行う。処理した懸濁液を遠心(15,000rpm, 4℃, 20分)し、その上清を粗酵素液とすることができる。
【0023】
また、精製タンパク質の調製は、例えば、本発明のGA2β-ヒドロキシラーゼをヒスチジンタグ、マルトース結合タンパク質、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)と融合した形態で大腸菌などで発現させ、これをそれぞれニッケルカラム、アミロースカラム、GST-グルタチオンカラムにて精製することにより行なうことができる。さらに、精製後は、必要に応じて、スロンビンやファクターXaなどの制限プロテアーゼを利用して上記タグを切り離すこともできる。
【0024】
上記したように、本発明者等により単離された遺伝子は、生物不活性GAの生産を通じて植物の生長に関係していると考えられ、従って、これら遺伝子の発現を調節することにより、植物の生長を制御することができると言える。特に、これら遺伝子は、植物の節間の生長に関与していると考えられるため、植物の草丈の制御などに利用することができる。植物の草丈を制御することには、産業上の種々の利点が存在する。例えば、植物体内における本発明の遺伝子の発現を増加させて、草丈を減少させることにより、植物を倒れにくくすることができ、その結果、子実重量を増加させることが可能となる。また、草丈を減少させ、1株あたりの植物体の形をよりコンパクトにすることにより、単位面積あたりに作付できる植物体の個体数を増加させることができる。このことは、特に、イネをはじめ、ムギ、トウモロコシなどの農作物の生産において大きな意義を有する。また本発明のGA2β-ヒドロキシラーゼをコードするDNAは、矮性花卉などへの応用、矮性果樹などへの応用も考えられる。一方、植物体内における本発明の遺伝子の発現を抑制させて、草丈を増加させることにより、植物体全体の収量を増加させることも考えられる。このことは、例えば、飼料用作物全体の収穫量を向上させる上で有意義である。
【0025】
本発明において、植物の生長を制御するために、本発明の遺伝子の発現を抑制する方法としては、当業者に公知の種々の方法を用いることができる。ここで「遺伝子の発現の抑制」には、遺伝子の転写の抑制、タンパク質への翻訳の抑制が含まれる。また、遺伝子発現の完全な停止のみならず発現の減少も含まれる。
【0026】
植物における特定の内在性遺伝子の発現を抑制する方法としては、アンチセンス技術を利用する方法が当業者に最もよく利用されている。植物細胞におけるアンチセンス効果は、エッカーらが一時的遺伝子発現法を用いて、電気穿孔法で導入したアンチセンスRNAが植物においてアンチセンス効果を発揮することで初めて実証した(J.R.EckerおよびR.W.Davis, Proc.Natl.Acad.USA.83:5372,1986)。その後、タバコやペチュニアにおいても、アンチセンスRNAの発現によって標的遺伝子の発現を低下させる例が報告されており(A.R.van der Krolら Nature 333:866,1988)、現在では植物における遺伝子発現を抑制させる手段として確立している。
【0027】
アンチセンス核酸が標的遺伝子の発現を抑制する作用としては、以下のような複数の要因が存在する。すなわち、三重鎖形成による転写開始阻害、RNAポリメラーゼによって局部的に開状ループ構造がつくられた部位とのハイブリッド形成による転写抑制、合成の進みつつあるRNAとのハイブリッド形成による転写阻害、イントロンとエキソンとの接合点でのハイブリッド形成によるスプライシング抑制、スプライソソーム形成部位とのハイブリッド形成によるスプライシング抑制、mRNAとのハイブリッド形成による核から細胞質への移行抑制、キャッピング部位やポリ(A)付加部位とのハイブリッド形成によるスプライシング抑制、翻訳開始因子結合部位とのハイブリッド形成による翻訳開始抑制、開始コドン近傍のリボソーム結合部位とのハイブリッド形成による翻訳抑制、mRNAの翻訳領域やポリソーム結合部位とのハイブリッド形成によるペプチド鎖の伸長阻止、および核酸とタンパク質との相互作用部位とのハイブリッド形成による遺伝子発現抑制などである。これらは、転写、スプライシング、または翻訳の過程を阻害して、標的遺伝子の発現を抑制する(平島および井上「新生化学実験講座2 核酸IV 遺伝子の複製と発現」,日本生化学会編,東京化学同人,pp.319-347,1993)。
【0028】
本発明で用いられるアンチセンス配列は、上記のいずれの作用で標的遺伝子の発現を抑制してもよい。一つの態様としては、遺伝子のmRNAの5'端近傍の非翻訳領域に相補的なアンチセンス配列を設計すれば、遺伝子の翻訳阻害に効果的であろう。しかし、コード領域もしくは3'側の非翻訳領域に相補的な配列も使用し得る。このように、遺伝子の翻訳領域だけでなく非翻訳領域の配列のアンチセンス配列を含むDNAも、本発明で利用されるアンチセンスDNAに含まれる。使用されるアンチセンスDNAは、適当なプロモーターの下流に連結され、好ましくは3'側に転写終結シグナルを含む配列が連結される。このようにして調製されたDNAは、公知の方法で、所望の植物へ形質転換できる。アンチセンスDNAの配列は、形質転換する植物が持つ内在性遺伝子(若しくはその相同遺伝子)またはその一部と相補的な配列であることが好ましいが、遺伝子の発現を有効に阻害できる限り、完全に相補的でなくてもよい。転写されたRNAは、標的とする遺伝子の転写産物に対して好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の相補性を有する。アンチセンス配列を用いて、効果的に標的遺伝子の発現を阻害するには、アンチセンスDNA の長さは、少なくとも15塩基以上であり、好ましくは100塩基以上であり、さらに好ましくは500塩基以上である。通常、用いられるアンチセンスDNAの長さは5kbよりも短く、好ましくは2.5kbよりも短い。
【0029】
内在性遺伝子の発現の抑制は、また、リボザイムをコードするDNAを利用して行うことも可能である。リボザイムとは触媒活性を有するRNA分子のことをいう。リボザイムには種々の活性を有するものがあるが、中でもRNAを切断する酵素としてのリボザイムの研究により、RNAの部位特異的な切断を目的とするリボザイムの設計が可能となった。リボザイムには、グループIイントロン型や、RNasePに含まれるM1RNAのように400ヌクレオチド以上の大きさのものもあるが、ハンマーヘッド型やヘアピン型と呼ばれる40ヌクレオチド程度の活性ドメインを有するものもある(小泉誠および大塚栄子,タンパク質核酸酵素,35:2191,1990)。
【0030】
例えば、ハンマーヘッド型リボザイムの自己切断ドメインは、G13U14C15のC15の3'側を切断するが、活性にはU14が9位のAと塩基対を形成することが重要とされ、15位の塩基はCの他にAまたはUでも切断されることが示されている(M.Koizumiら,FEBS Lett.228:225,1988)。リボザイムの基質結合部を標的部位近傍のRNA配列と相補的になるように設計すれば、標的RNA中のUC、UUまたはUAという配列を認識する制限酵素的なRNA切断リボザイムを作出することが可能である(M.Koizumiら,FEBS Lett. 239:285,1988, 小泉誠および大塚栄子,タンパク質核酸酵素,35:2191,1990, M.Koizumiら, Nucleic Acids Res. 17:7059,1989)。本発明者等により単離されたOsGA2ox1遺伝子(配列番号:2)中にはリボザイムの標的となりうる部位が多数存在する。
【0031】
また、ヘアピン型リボザイムも、本発明の目的のために有用である。ヘアピン型リボザイムは、例えばタバコリングスポットウイルスのサテライトRNAのマイナス鎖に見出される(J.M.Buzayan Nature 323:349,1986)。このリボザイムも、標的特異的なRNA切断を起こすように設計できることが示されている(Y.Kikuchi およびN.Sasaki Nucleic Acids Res. 19:6751,1992, 菊池洋,化学と生物 30:112,1992)。
【0032】
標的を切断できるよう設計されたリボザイムは、植物細胞中で転写されるようにカリフラワーモザイクウイルスの35Sプロモーターなどのプロモーターおよび転写終結配列に連結される。しかし、その際、転写されたRNAの5'末端や3'末端 に余分な配列が付加されているとリボザイムの活性が失われてしまうことがある。このようなとき、転写されたリボザイムを含むRNAからリボザイム部分だけを正確に切り出すために、リボザイム部分の5'側や3'側に、トリミングを行うためのシスに働く別のトリミングリボザイムを配置させることも可能である(K.Tairaら, Protein Eng. 3:733,1990, A.M.DzianottおよびJ.J.Bujarski Proc.Natl.Acad.Sci.USA. 86:4823,1989, C.A.GrosshansおよびR.T.Cech Nucleic Acids Res. 19:3875, 1991, K.Tairaら Nucleic Acids Res. 19:5125, 1991)。また、このような構成単位をタンデムに並べ、標的遺伝子内の複数の部位を切断できるようにして、より効果を高めることもできる(N.Yuyamaら Biochem.Biophys.Res.Commun.186:1271,1992)。このようなリボザイムを用いて本発明で標的となる遺伝子の転写産物を特異的に切断し、該遺伝子の発現を抑制することができる。
【0033】
内在性遺伝子の発現の抑制は、さらに、標的遺伝子配列と同一もしくは類似した配列を有するDNAの形質転換によってもたらされる共抑制によっても達成されうる。「共抑制」とは、植物に標的内在性遺伝子と同一若しくは類似した配列を有する遺伝子を形質転換により導入すると、導入する外来遺伝子および標的内在性遺伝子の両方の発現が抑制される現象のことをいう。共抑制の機構の詳細は明らかではないが、植物においてはしばしば観察される(Curr.Biol.7:R793,1997, Curr.Biol.6:810,1996)。例えば、本発明の遺伝子が共抑制された植物体を得るためには、本発明の遺伝子若しくはこれと類似した配列を有するDNAを発現できるように作製したベクターDNAを目的の植物へ形質転換すればよい。共抑制に用いる遺伝子は、標的遺伝子と完全に同一である必要はないが、好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上(例えば、95%以上)の配列の同一性を有する。配列の相同性は、FASTA検索 (Pearson W.R. and D.J. Lipman (1988)Proc. Natl. Acad. Sci.USA. 85:2444-2448)やBLAST検索により決定することができる。
【0034】
本発明のGA2β-ヒドロキシラーゼをコードするDNAまたはその発現を抑制する機能を有するDNAを利用して、植物の生長を改変するためには、該DNAを適当なベクターに挿入して、これを植物細胞に導入し、これにより得られた形質転換植物細胞を再生させればよい。用いられるベクターとしては、植物細胞内で挿入遺伝子を発現させることが可能なものであれば特に制限はない。植物細胞内での恒常的な遺伝子発現を行うためのプロモーター(例えば、カリフラワーモザイクウイルスの35Sプロモーター)を有するベクターを用いることが可能である。また、植物の組織特異的なプロモーターを用いれば、植物の特定の組織、例えば、葉や花、実などを特異的に改変させることが可能であるかもしれない。組織特異的プロモーターとしては、種子特異的プロモーターとしてインゲンマメのβーファセオリン(Bustosら (1991) EMBO J. 10:1469-1479)やダイズのグリシニン(Lelievreら (1992) Plant Physiol. 98:387-391)、葉特異的プロモーターとしてはエンドウのRbcS遺伝子(Lam and Chua (1990) Science 248:471-474)やコムギのCab1遺伝子(Gotornら (1993) Plant J. 3:509-518)、根特異的 なプロモーターとしてはタバコのTobRB7遺伝子(Yamamotoら (1991) Plant Cell 3:371-382)やアグロバクテリウム・リゾゲネスのrolD遺伝子(Elmayan and Tepfer (1995) Transgenic Res 4:388-396)が挙げられる。また、外的な刺激により誘導的に活性化されるプロモーターを有するベクターを用いることも可能である。ベクターを挿入する植物細胞としては、導入する遺伝子の由来と同一の植物であることが好ましいが、それに制限されない。実際、本発明者等は、シロイヌナズナ由来の遺伝子を導入したタバコ植物体が矮性化することを実証している。なお、ここでいう「植物細胞」には、種々の形態の植物細胞、例えば、懸濁培養細胞、プロトプラスト、葉の切片、カルスなどが含まれる。植物細胞へのベクターの導入は、ポリエチレングリコール法、電気穿孔法(エレクトロポーレーション)、アグロバクテリウムを介する方法、パーティクルガン法など当業者に公知の種々の方法を用いることができる。形質転換植物細胞からの植物体の再生は公知の方法により行なうことが可能である。これにより形質転換植物体が作出されれば、該植物体からその繁殖媒体(例えば、種子、塊茎、切穂など)を得て、これを基に本発明の形質転換植物体を量産することも可能である。
【0035】
【実施例】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
【0036】
なお、下記実施例における植物材料の調製においては、イネ種子(Oryza sativa、ジャポニカ型栽培品種:日本晴)を、1%NaClO中で1時間不稔化し、寒天培地に移植した。実生苗は、温室で、30℃(明期)および24℃(暗期)で生育させた。
また、下記実施例におけるヌクレオチド配列の決定は、自動シークエンシングシステム(ABI377)を用い、ジデオキシヌクレオチド・チェーン・ターミネーション法により行なった。cDNAおよびゲノムクローンは、大きいイントロンを含む両方の鎖において完全に配列決定した。cDNAとアミノ酸配列の分析は、コンピュータソフトウェアLASERGENE(DNASTAR, Inc., Madison, WI)を用いて実施した。
【0037】
[実施例1] イネからのGA 2β-ヒドロキシラーゼ遺伝子の単離
イネ(Oryza sativa 、ジャポニカ型栽培品種:日本晴)由来のゲノムDNAを増幅するために、推定上のシロイヌナズナ GA 2β-ヒドロキシラーゼ遺伝子(AtGA2ox3)(DDBJアクセション番号C72618に対するcDNA)、Marah macrocarpaのジオキシゲナーゼのmRNA(寄託番号Y09113;MacMillan,J.et al.(1997) Plant Physiol.,113,1369-1377)、イネGA 20-オキシダーゼ遺伝子(寄託番号U50333;Toyomasu,T.et al.(1997) Physiol.Plant.,99,111-118)、イネGA 3β-ヒドロキシラーゼ遺伝子、および別の2-オキソグルタル酸-依存型ジオキシゲナーゼ遺伝子の保存領域から設計された2個の縮重オリゴヌクレオチドプライマーを作製した(フォワードプライマー、5'-GGNTTYGGNGARCAYWCNGAYCC-3'/配列番号:3;およびリバースプライマー、5'-GGISHISCRAARTADATIRTISWIA-3'/配列番号:4)。イネのゲノムDNAを鋳型としてPCR反応を行ない、これにより増幅された断片(約80bp)を、pCRII(Invitrogen, Carlsbad, CA)にクローニングし、かつそれらの配列を確認した。64種の個別のクローン中の1種は、新規の2-オキソグルタル酸-依存型ジオキシゲナーゼ-様アミノ酸を含み、イネのGA 2β-ヒドロキシラーゼ遺伝子をコードしていると予想された。この部分的アミノ酸配列を用いて、DDBJヌクレオチド配列データベースを検索し、イネのGA 2β-ヒドロキシラーゼ遺伝子をコードしていると予想され、かつ花成段階の穂に由来する1種のイネESTクローンを得た(寄託番号C72618)。このESTクローン配列を基にオリゴヌクレオチドプライマーを設計し(フォワードプライマー、5'-GCGGCGTTCTTCGCG-3'/配列番号:5;および、リバースプライマー、5'-CTATTGTGAATGAGTACATT-3'/配列番号:6)、かつ鋳型としてイネゲノムDNAと共にPCRにおいて使用した。増幅した断片をpCRII(Invitrogen, Carlsbad, CA)にクローニングし、かつその配列を確認した。この230bp断片をプローブとして用い、更にcDNAとゲノムクローンをスクリーニングした。
【0038】
具体的には、イネの未成熟種子のmRNAから構築されたcDNAライブラリーおよびSau3AIにより部分消化されたイネゲノムDNAから構築されたゲノムライブラリーを、前述のように調製したプローブを用いてスクリーニングした。ハイブリダイゼーションを、5×SSC(1×SSCは0.15M NaCl、15mMクエン酸ナトリウム)、5×デンハート液(1×デンハート液は、0.02%Ficoll、0.02%PVP、0.02%BSAを含む。)、0.5%[w/v]SDS、および20mg/Lサケ精巣DNA中で、65℃で14時間行い、かつフィルターを2×SSC、O.1%[w/v]SDSにより室温で洗浄した。
【0039】
これにより得られたcDNAを「OsGA2oxl」と命名した。このcDNAは、アミノ酸382残基からなるタンパク質をコードする1,146bpのオープンリーディングフレームを含んでいた(配列番号:2)。これは、GA生合成のジオキシゲナーゼにおいて保存された配列を有し、前述のようにHis-241、Asp-243、およびHis-302(番号はOsGA2ox1アミノ酸配列上の位置である)を含んでいる。このアミノ酸配列をベニバナインゲンおよびシロイヌナズナ(Thomas,S.G.et al.(1999) Proc.Natl.Acad.Sci.USA,96,4698-4703)、およびエンドウ(Lester et al.,(1999) Plant J.19:65-73)から得られたGA 2β-ヒドロキシラーゼcDNAのアミノ酸配列と並置したところ、OsGA2ox1がGA 2β-ヒドロキシラーゼの一員に属すことが示された(図2A)。しかしながら、これらのジオキシゲナーゼ間の系統的関係は、双子葉植物由来のGA 2β-ヒドロキシラーゼcDNA類は、互いのアミノ酸同一性が比較的高い(49-68%)が、OsGA2ox1とは相同性が有意に低い(36%未満)ことが明らかになった(図2B)。
【0040】
さらにOsGA2ox1コード領域を完全にカバーしている対応するゲノムDNAもクローニングした。このゲノムDNA配列とcDNA配列を比較することによって、OsGA2ox1は、3個のエクソンと2個のイントロンからなることが明らかにされた。このエクソン/イントロン構造も、AtGA2ox3コード配列において保存されている。
【0041】
[実施例2] 組換えGA 2β-ヒドロキシラーゼの機能
イネのGA 2β-ヒドロキシラーゼの完全な長さのcDNAを、pMAL-c2発現ベクター(New England Biolabs, Beverly, MA)へと翻訳融合体としてセンス方向で挿入した。得られた構築物pMAL- OsGA2ox1を、大腸菌株JM109内で発現させた。細菌細胞を、0.2%[w/v]グルコースおよび100mg/Lアンピシリンを含有する2×YT培地上で一晩37℃で培養した。一晩培養した後、培養物を新鮮な培地で500倍希釈し、30℃で振盪培養した。増殖がCD600で0.7に達した時点で、IPTGを最終濃度1mMとなるように添加し、17℃で更に24時間再度培養した。これらの細菌細胞を収集し、洗浄バッファー(50mM Tris、pH 8.0、10%[w/v]グリセロール、2mM DTT)で洗浄し、1g/Lリゾチームを含有する洗浄バッファー中に再懸濁し、かつ氷上で30分間静置した。
【0042】
これにより得られた溶解液を超音波処理して遠心し、その上清をSDS-PAGEにかけ、融合タンパク質の発現を確認した。この上清を用いて、広範なC19-GA類、GA1、GA4、GA9およびGA20からなるGA基質の2H-標識物と共にインキュベーションし、GC/MSによって同定した。その結果、C19-GA類の各々は、OsGA2ox1タンパク質によって、対応する2β-ヒドロキシ生成物に転換された(図3)。GA19とGA53の転換はOsGA2ox1タンパク質によって生じず、これらは両方共開環したラクトン型を有することが判明した。
【0043】
[実施例3] イネにおけるGA 2β-ヒドロキシラーゼ遺伝子の発現
(1)RNAゲルブロット分析
RNAゲルブロット分析のために、イネ由来の全RNAを様々な組織(栄養期の茎頂、幼若葉、茎、葉身、葉鞘、根、花序茎頂、苞穎、および花軸)から個別に調製した。各RNA調製物10μgを、1.2%アガロースゲル上で電気泳動し、その後Hybond N+メンブレン(Amersham, Buckinghamshire, England)上に転写し、プローブとしてHindIII-EcoRV断片(OsGA2ox1 cDNAの230bp断片)を用い、ハイブリダイゼーションを行なった。ハイブリダイゼーションは、5×SSC、5×デンハート液、0.5%[w/v]SDS、および20mg/Lサケ精子DNA中で、65℃で14時間実施した。このフィルターを、2×SSC、0.1%[w/v]SDS中で65℃で洗浄し、更に0.2×SSC、0.1%[w/v]SDSで65℃で洗浄した。
その結果、全ての器官から得たRNAにおいて、1本の濃いバンドが検出された(図4)。バンドのサイズは、約1.6kbであり、cDNAクローンとほぼ同じサイズであった。
【0044】
(2)in situハイブリダイゼーション
イネにおけるOsGA2ox1の発現の場所的パターンをより詳細に決定するために、プローブとしてジゴキシゲニンで標識したOSGA2ox1アンチセンス鎖RNAを用いて、in situハイブリダイゼーション実験を行った。植物材料は、0.1Mリン酸ナトリウムバッファー(pH7.4)を溶媒とした4%[w/v]パラホルムアルデヒドおよび0.25%[w/v]グルタルアルデヒド中で、4℃で一晩固定し、段階的エタノールシリーズおよびt-ブタノールシリーズを用いて脱水し(Sass,A.E.(1958) Botanical Micro Technique,3rd ed.Iowa State University Press.)、かつ最終的にParaplast Plus(Sherwood Medical)中に包埋した。ミクロトーム切片(厚さ7-10μm)を、スライドガラスに載せ、Vectabond(Vector Laboratory,)で処理した。ジゴキシゲニンで標識したセンスおよびアンチセンスRNAによるハイブリダイゼーション、およびハイブリダイゼーションされたプローブの免疫学的検出は、 KouchiおよびHataの方法(Kouchi,H.and Hata,S.(1993) Mol.Gen.Genet.,238,106-119)に従って行った。
これにより検出された発芽中のイネ種子におけるOsGA2ox1の発現パターンを図5に示した。OsGA2ox1 mRNAの存在を示す紫色の染色が、茎頂端分裂組織の葉の着生点、表皮、および糊粉層に、輪状に認められた。
【0045】
図5Aは、発芽しているイネ種子の茎頂を通るほぼ中央の縦方向の切片を示している。OsGA2ox1の発現は、茎頂端分裂組織の反対側隣接部上のシグナル対のようにも見える(図5B)。点状の発現も、分化した葉原基の基底領域に認められた。別の胚の領域において、OsGA2ox1発現は、胚盤の最外層、表皮および糊粉層に認められた(図5C)。しかしながら、センス鎖RNAプローブでハイブリダイゼーションした対照切片は、バックグラウンド染色以上のシグナルは示さなかった(図5D)。
【0046】
図5Eは、イネの栄養期の茎頂の縦方向切片を示している。パネルEの線1、2、3、および4は、各々、図5F、4G、4Hおよび4Iに示された横断面のおおよその面を示している。一連の断面(図5F、4G、4Hおよび4I)において認められたOsGA2ox1発現を重ねることによって、縦方向の切片において茎頂端分裂組織と第一葉原基の境界に局在したOsGA2ox1の点状の発現(図5Bおよび4E)が輪の形状であることが明らかになった。同様に、分化した葉原基の基底領域における点状の発現も、太い維管束系の周囲に局在化したシグナルに対応していた(図5F、5G、5Hおよび5I)。
【0047】
茎頂端分裂組織の葉の着生点、表皮、および糊粉層は、それぞれ、葉の成長および広がり(expantion)のため、および発芽時に胚乳の貯蔵デンプンを加水分解するα-アミラーゼ遺伝子発現の誘発のためには、高レベルの生理活性のあるGA1を必要とする。その結果、分化した葉原基の基底領域、表皮および糊粉層におけるOsGA2ox1の発現は、これらの組織における急激なGA1の蓄積を調節する際に重要な役割を果たすと考えられる。OsGA2ox1は、この部位でGA1を失活し、過剰なGA1が発育プログラムの混乱を引き起こすような外側組織へと生理活性GAが外部流出することを防ぐと考えられる。
【0048】
さらにOsGA2ox1は、茎頂端分裂組織と第一葉原基の境界領域で、輪状の発現パターンとして発現される。このような発現パターンは、生理活性GA含量の調節を通じて、OsGA2ox1が、植物のホメオボックス遺伝子の可能性のある機能において提唱されているフィトマー(phytomer)と称される植物体の分節単位(segmental unit)を規定する事象形成の初期パターンに関与するか、もしくは、応答することを示している(Schneeberger,R.G.et al.(1995) Genes Devel.,9,2292-2304;Sato,Y.et al.(1998) Plant Mol.Biol.,38,983-998)。あるいは、OsGA2ox1発現とその結果生じるGA1含量の減少は、後胚発生段階において将来の節間に印をつける。このことは、OsGA2ox1の輪状発現が、茎頂端分裂組織の周囲の葉の着生点の直下に認められ、ここではあらゆる可視できる節または節間の分化が認められるようになる前は、節間は遅れて発育するという事実を示唆している。
【0049】
[実施例4] トランスジェニック植物におけるイネGA 2β-ヒドロキシラーゼ遺伝子の過剰発現
OsGA2ox1遺伝子産物のin vivo活性、およびGA 2β-ヒドロキシラーゼ遺伝子発現の遺伝子操作によるトランスジェニック植物中のGA内在含量を変更する可能性を評価するために、そのcDNAクローンをトランスジェニックイネ植物において過剰発現した。
イネGA 2β-ヒドロキシラーゼの完全長cDNAを、XbaI-EcoRV断片として切断し、かつイネアクチンプロモーターとハイグロマイシン耐性バイナリーベクターpAct-Hm2のノパリンシンターゼ(NOS)ポリアデニル化シグナルの間に挿入した。このベクターは、pBI-H1の変形であり(Ohta,S.et al.(1990) Plant Cell Physiol.,31,805-813)、アクチンプロモーターを含んでいる。得られた構築物を「pAct-OsGA2ox1」と称した。対照ベクターとして使用した「pAct-GUS」は、アクチンプロモーターとpAct-Hm2のNOSターミネーターの間へβ−グルクロニダーゼ(GUS)遺伝子を導入することにより作製した。
「pAct-OsGA2ox1」および「pAct-GUS」を、電気穿孔法により、Agrobacterium tumefaciens株EHA101に導入した。Agrobacteriumを媒介したイネ(Oryza sativa L. cv. Nippon-bare)の形質転換を、Tanakaらの方法(特願平11-206922)に従い、カルスを用いて行った。トランスジェニックイネ植物を、50mg/Lハイグロマイシン含有培地上で選択した。ハイグロマイシン耐性植物を、土壌に移植し、30℃(昼間)および24℃(夜間)の16時間明期/8時間暗期のサイクルで成長させた。
【0050】
この実験の結果、40種以上の個別のトランスジェニックイネ植物が作製された。予想されたように、OsGA2ox1 cDNAを過剰発現している全ての形質転換体は、矮性表現型を示した(図6)。p35S::AtGA2ox3トランスジェニックタバコ植物とは対照的に、pAct::OsGA2ox1で形質転換された複数のイネ植物は、同じ表現型を示さなかったが、異なる形質転換体における様々な導入遺伝子発現レベルによって主に引き起こされた現象である茎伸長の阻害の幅を有した(図6A)。軽度に矮小化された植物は約50cmに成長したが(図6C)、極度に矮小化された植物は最終的な高さが15cm未満であり(図6E)、これは野生型イネの高さのほぼ半分であった(図6B)。他のトランスジェニックイネ植物の草丈は、この範囲で変化した(図6D)。葉身の長さも、矮性の草丈に相関して短くなった。
【0051】
【発明の効果】
本発明により、植物のジベレリンの不活性化に関与する新規な酵素および遺伝子、並びに該遺伝子の発現を調節することにより植物体内におけるジベレリン活性が改変された植物が提供された。本発明により、植物体内のジベレリン活性化を改変させ、植物の草型を人為的に改変することが可能となった。植物体内のジベレリンの不活性化により、特に伸長生長の抑制によって引き起こされる植物の矮性を誘起できる。このため、例えば、イネにおいては多肥料によって生育を促しても背丈が伸びすぎて倒伏してしまうこともなくなる。また、葉の受光量の効率が上昇するため収量の大幅な増加が期待できる。さらに収穫や生育管理の作業の効率化も図ることが可能である。また、植物体内における本発明の遺伝子の発現を抑制して、植物体内のジベレリン活性化を促進することにより、植物体全体の収量を増加させることも考えられる。このことは、特に、飼料用作物全体の収穫量を向上させる上で有意義である。
【0052】
【配列表】
【図面の簡単な説明】
【図1】 a:ジベレリン(エント・ジベレラン)の一般構造を示す。
b:高等植物における主要なGA生合成経路を示す。
【図2】 OsGA2ox1の配列の解析結果を示す図である。
A:イネ(OsGA2ox1)、シロイヌナズナ(AtGA2ox1, AtGA2ox2及びAtGA2ox3)、ベニバナインゲン(PcGA2ox1)、及びエンドウ(PsGA2ox1及びPsGA2ox2)の推定アミノ酸配列を整列した図である。
B:GA 2β-ヒドロキシラーゼに関する系統学的な関係を示した図である。
【図3】組換えOsGA2ox1タンパク質による代謝を示す図である。組換えOsGA2ox1タンパク質を、3Hで標識したGA1,GA4,GA9,GA20,GA44及びGA53とインキュベーションした。産物はHPLCにより分離し、GC/MSにより同定した。
【図4】 RNAゲルブロット分析による野生イネの様々な器官におけるOsGA2ox1の発現を示す図である。栄養期の茎頂(レーン1)、幼若葉(レーン2)、茎(レーン3)、葉身(レーン4)、葉鞘(レーン5)、根(レーン6)、花序茎頂(レーン7)、苞穎(レーン8)、及び花軸(レーン9)から全RNAを抽出し、OsGA2ox1 cDNA断片を用いてハイブリダイズした。
【図5】発芽中のイネ種子および栄養期の茎頂端分裂組織におけるin situ mRNAの局在性を示す図である。紫色の染色は、OsGA2ox1 mRNAの存在を示している。
(A)播種3日目のイネ胚を中央縦方向に切断
(B)茎頂端分裂組織隣接部を拡大
(C)表皮細胞及び糊粉層隣接部を拡大
(D)対照としてセンス鎖RNAプローブを用いて、イネ胚を中央縦方向に切断
(E)イネの栄養期の茎頂端分裂組織を縦方向に切断。線1、2、3及び4は、それぞれパネルF、G、H及びIに示された横断面のおおよその面を示す。
(F)(G)(H)及び(I)は、パネル(E)のイネ栄養期の茎頂端分裂組織を順に切断したものである。
【図6】 OsGA2ox1 cDNAを過剰発現しているトランスジェニックイネ植物の表現型を示す図である。
(A)栄養期の野生型イネ(c)及びAct::OsGA2ox1(1〜5)トランスジェニックイネの全形態
(B)花成期の野生型イネ
(C)軽度に矮小化されたAct::OsGA2ox1トランスジェニックイネの表現型
(D)中間的な矮小性を示すAct::OsGA2ox1トランスジェニックイネの表現型
(E)極度に矮小化されたAct::OsGA2ox1トランスジェニックイネの表現型
(B)から(E)に表示されているバーの大きさは、10cmである。
Claims (11)
- 下記(a)から(c)のいずれかに記載のDNA:
(a)配列番号:1に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA;
(b)配列番号:2に記載の塩基配列のコード領域を含むDNA;または
(c)配列番号:1に記載のアミノ酸配列において1乃至3のアミノ酸が置換、欠失、付加および/または挿入されたアミノ酸配列からなり、ジベレリン2β水酸化酵素活性を有するタンパク質をコードするDNA。 - 矮性化したイネ植物体を作出するために用いる、請求項1に記載のDNA。
- 請求項1または2に記載のDNAを含むベクター。
- 請求項1または2に記載のDNAを発現可能に保持する形質転換植物細胞。
- 請求項4に記載の形質転換植物細胞を含む形質転換イネ植物体。
- 請求項5に記載の形質転換イネ植物体の種子、切穂、葉の切片、細胞、カルスまたはプロトプラスト。
- 請求項1に記載のDNAによりコードされるタンパク質。
- 請求項1に記載のDNAを発現可能に保持する形質転換細胞を培養し、該細胞またはその培養上清から発現させたタンパク質を回収する工程を含む、請求項7に記載のタンパク質の製造方法。
- 植物細胞内において請求項1に記載のDNAの発現量を調節することを特徴とする、イネ植物の生長を改変する方法。
- 植物細胞内において請求項1に記載のDNAの発現量を調節することを特徴とする、イネ植物の草型を改変する方法。
- 植物細胞内で請求項1または2に記載のDNAを発現させる、請求項9または10に記載の方法。
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