JP3829083B2 - 抄紙用フェルト - Google Patents
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Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、抄紙用フェルトに関し、特に、耐久性に優れた抄紙用フェルトに関する。
【0002】
【従来の技術】
抄紙機のプレスパートは、一対のプレスロール、又はプレスロールとシューとで構成されたニップ部からなり、このニップ部において湿紙を加圧して、湿紙から搾水するようにされている。
そして、このような抄紙機のプレスパートでは、湿紙から搾り出された水分を吸収するための抄紙用フェルトが使用されている。
抄紙用フェルトは、基体と、短繊維からなるバット層とで構成されており、基体とバット層は、ニードルパンチングにより絡合一体化されている。
【0003】
基体は、織布、不織布等からなり、抄紙用フェルトの強度を発現させるために設けられている。
抄紙用フェルトのバット層を構成する短繊維としては、耐疲労性、耐摩耗性、及びフェルトの防汚性の面で優れているナイロン6や、ナイロン66が主に使用されている。
【0004】
そして、生産性の向上等の目的により、最近では、フェルトの高速走行や、フェルトに対するニップ圧の高圧化が進んでいる。
また、湿紙の搾水性を向上させるため、湿紙温度を高めて操業することも行なわれている。
このように、抄紙用フェルトが使用される環境は、次第に苛酷なものとなって来ている。
【0005】
従来のナイロン素材からなるフェルトを上記のような苛酷な環境で使用すると、搾水の持続性が次第に低下するとともに、耐摩耗性も十分でなくなるという問題がある。
すなわち、ナイロンは、高分子鎖中にアミド基、アミノ基等の水素結合性を有するため、湿潤条件下でナイロンが吸水してしまう。
その結果、剛性が落ちるばかりではなく、特に高速・高加圧・高温状態において徐々にその繊維形状を維持できなくなり、ついには繊維間の空隙がつぶれ、フェルトの圧縮回復性が低くなる現象(当業者間では「へたり」と称される。)が早期に起きてしまい、フェルトの寿命が短くなってしまう。
【0006】
その対策として、抄紙用フェルトの素材として、殆ど吸水しないポリエステル繊維やコーネックス繊維(メタ系芳香族ポリアミド)等を使用することも考えられている。
しかし、このような繊維は、剛性の持続性は高いが耐摩耗性が著しく悪いという問題があるため、抄紙用フェルトとしての実用化は困難である。
【0007】
ところで、近年、伸張方向に強度、及び弾性を有するポリケトンを繊維化する技術が実現されつつある(特開2000−273720等)。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、本発明者は、ポリケトン繊維を抄紙用フェルトに採用すべく実験を試みたが、従来のポリケトン繊維をそのまま使用しても、抄紙用フェルトには適さないことが判明した。
すなわち、特開2000−273720等に開示されたポリケトン繊維は、伸張方向に垂直な方向の物性が悪く、短繊維が裂ける、いわゆる「フィブリル化現象」が発生したり、湿式紡糸法で紡出されたポリケトン短繊維の繊維表面に存在する脱溶媒傷(微細な孔)が繊維の耐摩耗性を悪化させることが判明した。
そのため、従来のポリケトン繊維で抄紙用フェルトを作製しても、摩滅の問題が顕著となり、ポリケトン繊維の持つ利点を十分に生かすことができない。
【0009】
【問題点を解決するための手段】
本発明は、基体とバット層からなる抄紙用フェルトにおいて、前記バット層の少なくとも一部を、伸張切断エネルギーが10以上のポリケトン短繊維で構成したものが、前記課題を解決することを見出したものである。
【0010】
【作用】
上記構成によれば、耐へたり性、耐摩耗性、及び耐フィブリル化に優れたポリケトン繊維の使用により、抄紙用フェルトが苛酷な環境での使用に耐え得るものとなる。
【0011】
【発明の実施形態】
図1は、本発明の抄紙用フェルト10の断面拡大図である。
本発明の抄紙用フェルト10は、基体20と、短繊維からなるバット層30で構成され、基体20とバット層30は、ニードルパンチングで絡合一体化されている。
基体20としては、糸材を織製して得られた基布、経糸と緯糸を織製せずに得られた布体、細い帯状体を螺旋状に巻回して得られたもの等を使用することができる。
【0012】
バット層30を構成する短繊維としては、伸張切断エネルギー((強度×伸度)の平方根)が10以上のポリケトン繊維32を使用する。
【0013】
伸張切断エネルギーが10以上のポリケトン繊維32を得るためには、まず、公知の湿式紡糸法によりポリケトン未延伸繊維を作製し、その後、この繊維を延伸すればよい。
なお、得られたポリケトン繊維32の切断強度は6g/d以下で、伸度が30%以上でなければならない。
【0014】
ここで、ポリケトン繊維32の全延伸倍率を変えて実験を行なったところ、延伸倍率を高くするにつれてポリケトンの分子配向は発達するが、それと同時に繊維の高次構造である多数のフィブリルが発生するため伸張方向に垂直な方向の物性が弱くなり、フィブリル化現象が顕著になることが分かった。
なお、「フィブリル化現象」とは、1本の繊維が、繊維を構成する微細な繊維状組織、すなわち、フィブリルに分かれることであり、フィブリル化現象が起きると繊維が裂けてしまい、抄紙用フェルトに使用することができなくなる。
実験の結果、ポリケトン繊維にフィブリル化現象が発生しないようにするためには、ポリケトン繊維の全延伸倍率を5倍以下とすればよいことが分かった。
上記ポリケトン繊維の延伸作業は、複数のローラ群の周速差を利用した周知の延伸機(図示せず。)により行なうことができる。例えば、延伸機の第一ローラ群と第二ローラ群との間の周速差を利用した一次延伸工程にて、未延伸繊維を2倍延伸繊維とする。次に、この2倍延伸繊維を第二ローラ群と第三ローラ群とによる二次延伸工程にて2.5倍延伸繊維とする。かくして、全延伸倍率が4.5のものを得ることが可能となる。
なお、上記延伸工程においては、一次延伸工程を湿熱環境下、二次延伸工程を乾熱環境下で行なう、周知の技術を採用することができるのは勿論である。
【0015】
上記のポリケトン繊維32(伸張切断エネルギー:10以上、全延伸倍率:5倍以下、切断強度:6g/d以下、伸度:30%以上)からなるバット層30を具えた抄紙用フェルト10を作製し、実験した結果、この抄紙用フェルト10は、耐へたり性、耐摩耗性、耐フィブリル化に優れていることが確認できた。
【0016】
さらに、ポリケトン繊維に100℃以上の湿熱処理、又は150℃以上の乾熱処理を施すと、湿式紡糸法で紡出されたポリケトン繊維の内部歪が緩和され、更に、繊維内部から表面に到る繊維表面の脱溶媒傷を補修できることが分かった。
そのため、この処理により、ポリケトン繊維を高温度下で使用することができるようになり、また、ポリケトン繊維の耐摩耗性を向上させることができる。
【0017】
なお、バット層30の全てをポリケトン短繊維32で構成すると、耐へたり性、耐摩耗性、及び耐フィブリル化に優れた抄紙用フェルトを得ることができる。しかし、材料コスト等の問題により、ポリケトン短繊維32とナイロン短繊維等を混合してバット層30を構成してもよい。
そして、バット層30にポリケトン短繊維32を含んでいれば、ナイロン短繊維のみからなるバット層30を具えた従来のフェルトよりも、耐へたり性、耐摩耗性において優れたものになる。
【0018】
本発明の抄紙用フェルトの効果を確認すべく、以下に示す実施例、及び実施例のものを作製し、実験を行なった。
なお、実施例、及び比較例では、基体としてナイロンモノフィラメントの撚糸を平織したもの(坪量300g/m2)を使用し、バット層の総坪量は550g /m2であり、これらの基体とバット層を、針打ち密度700回/cm2でニードルパンチングした。
【0019】
実施例1
周知のポリケトン繊維の製造方法、すなわち、湿式紡糸法で、未延伸繊維をトウの状態(フィラメントが束状になったもの)で得た。
これを収束してから短繊維の製造機械に仕掛け、一次延伸、及び二次延伸させた後、捲縮付与し、更に、定長(80mm)にカットして素材1を得た。
なお、この素材1の延伸倍率は4倍であった。
また、素材1の物性を測定したところ、切断強度は5.8g/d、切断伸度は30%であり、伸張切断エネルギーは13であった。
この素材1を短繊維としてバット層を構成し、実施例1の抄紙用フェルトを得た。
【0020】
実施例2
実施例1で得た素材1を、オーバーマイヤー染色機械に浴比10倍で詰め綿して、密閉状態で100℃30分の湿熱処理を施して、素材2を得た。
湿熱処理が施されたこの素材2は、高度に収縮して内部歪が緩和されており、また、繊維内部から表面に到る繊維表面の脱溶媒傷が補修されている。
この素材2の物性を測定したところ、切断強度は5.2g/d、切断伸度は50%であり、伸張切断エネルギーは16であった。
この素材2を短繊維としてバット層を構成し、実施例2の抄紙用フェルトを得た。
【0021】
比較例1
周知のポリケトン繊維の製造方法、すなわち、湿式紡糸法で未延伸繊維をトウの状態で得た。
これらを収束させてから短繊維の製造機械に仕掛け、一次延伸、及び二次延伸させた後、捲縮付与し、更に定長(80mm)にカットして素材3を得た。
なお、この素材3の延伸倍率は8倍であった。
また、素材3の物性を測定したところ、切断強度は9.0g/d、切断伸度は5%であり、伸張切断エネルギーは7であった。
この素材3を短繊維としてバット層を構成し、比較例1の抄紙用フェルトを得た。
【0022】
比較例2
一般的な抄紙用フェルトに使用されているナイロン66短繊維からなる素材4でバット層を構成し、比較例2の抄紙用フェルトを得た。
【0023】
比較例3
一般的に、工業用繊維素材として使用されているコーネックス繊維(メタ系芳香族ポリアミド)からなる素材5でバット層を構成し、比較例3の抄紙用フェルトを得た。
【0024】
上記の実施例、及び比較例の抄紙用フェルトを使用して、以下の実験1乃至3を行った。
実験1
実施例、及び比較例の各抄紙用フェルトに、湿潤80℃、パルス荷重150kg/cm2、10Hzで、繰返し20万回の圧縮・回復を与えて、耐へたり性実 験を行った。
耐へたり性を示す指標として、実験前後における密度変化が1.5倍以下のものを優秀、2倍以上のものを不良と規定した。
【0025】
実験2
JIS 1023−1992に基づくテーバー研磨試験機により、抄紙用フェルトから脱落した繊維量を測ることにより、耐摩耗性実験を行った。
この試験機は、回転するターンテーブル上に円盤状の試験片を載置し、さらに試験片上に抵抗の大きい回転ロールを当接させて、繊維の脱落量を測るものである。
この実験では、ターンテーブルを5000回回転させた後の、脱落繊維量を計測した。
【0026】
実験3
上記耐へたり性実験の終了後(20万回の圧縮・回復後)に、試験片表面のバット層繊維を抽出し、繊維のフィブリル発生度合いを確認した。
確認作業にあたっては、30倍の光学顕微鏡を使用した。
なお、評価の指標として、短繊維10本に対し、5本以上がフィブリル化している場合を「不良」、2〜4本以上がフィブリル化している場合を「普通」、1本以下の場合を「優秀」とした。
【0027】
実験1〜3の結果を、図2に示す。
図2に示す通り、本発明の抄紙用フェルトは、全ての実験において優れた効果を発揮することが確認できた。
また、実施例2のように、ポリケトン繊維に熱処理を施すと、耐摩耗性をさらに向上させることができる。
一方、比較例1及び比較例3のものは、耐へたり性は優れているが、多くのフィブリルが発生しており、比較例2のものは、フィブリルの発生は普通であるが、耐へたり性に劣っている。
【0028】
【発明の効果】
本発明の抄紙用フェルトは、耐へたり性、耐摩耗性、及び耐フィブリル化に優れているという効果を奏する。
そのため、苛酷な環境で使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の抄紙用フェルトの断面拡大図。
【図2】 本発明の実施例、及び比較例について、耐へたり性、耐摩耗性、及び耐フィブリル化実験の結果を示す図。
【符号の説明】
10:抄紙用フェルト
20:基体
30:バット層
32:ポリケトン短繊維
【発明の属する技術分野】
本発明は、抄紙用フェルトに関し、特に、耐久性に優れた抄紙用フェルトに関する。
【0002】
【従来の技術】
抄紙機のプレスパートは、一対のプレスロール、又はプレスロールとシューとで構成されたニップ部からなり、このニップ部において湿紙を加圧して、湿紙から搾水するようにされている。
そして、このような抄紙機のプレスパートでは、湿紙から搾り出された水分を吸収するための抄紙用フェルトが使用されている。
抄紙用フェルトは、基体と、短繊維からなるバット層とで構成されており、基体とバット層は、ニードルパンチングにより絡合一体化されている。
【0003】
基体は、織布、不織布等からなり、抄紙用フェルトの強度を発現させるために設けられている。
抄紙用フェルトのバット層を構成する短繊維としては、耐疲労性、耐摩耗性、及びフェルトの防汚性の面で優れているナイロン6や、ナイロン66が主に使用されている。
【0004】
そして、生産性の向上等の目的により、最近では、フェルトの高速走行や、フェルトに対するニップ圧の高圧化が進んでいる。
また、湿紙の搾水性を向上させるため、湿紙温度を高めて操業することも行なわれている。
このように、抄紙用フェルトが使用される環境は、次第に苛酷なものとなって来ている。
【0005】
従来のナイロン素材からなるフェルトを上記のような苛酷な環境で使用すると、搾水の持続性が次第に低下するとともに、耐摩耗性も十分でなくなるという問題がある。
すなわち、ナイロンは、高分子鎖中にアミド基、アミノ基等の水素結合性を有するため、湿潤条件下でナイロンが吸水してしまう。
その結果、剛性が落ちるばかりではなく、特に高速・高加圧・高温状態において徐々にその繊維形状を維持できなくなり、ついには繊維間の空隙がつぶれ、フェルトの圧縮回復性が低くなる現象(当業者間では「へたり」と称される。)が早期に起きてしまい、フェルトの寿命が短くなってしまう。
【0006】
その対策として、抄紙用フェルトの素材として、殆ど吸水しないポリエステル繊維やコーネックス繊維(メタ系芳香族ポリアミド)等を使用することも考えられている。
しかし、このような繊維は、剛性の持続性は高いが耐摩耗性が著しく悪いという問題があるため、抄紙用フェルトとしての実用化は困難である。
【0007】
ところで、近年、伸張方向に強度、及び弾性を有するポリケトンを繊維化する技術が実現されつつある(特開2000−273720等)。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、本発明者は、ポリケトン繊維を抄紙用フェルトに採用すべく実験を試みたが、従来のポリケトン繊維をそのまま使用しても、抄紙用フェルトには適さないことが判明した。
すなわち、特開2000−273720等に開示されたポリケトン繊維は、伸張方向に垂直な方向の物性が悪く、短繊維が裂ける、いわゆる「フィブリル化現象」が発生したり、湿式紡糸法で紡出されたポリケトン短繊維の繊維表面に存在する脱溶媒傷(微細な孔)が繊維の耐摩耗性を悪化させることが判明した。
そのため、従来のポリケトン繊維で抄紙用フェルトを作製しても、摩滅の問題が顕著となり、ポリケトン繊維の持つ利点を十分に生かすことができない。
【0009】
【問題点を解決するための手段】
本発明は、基体とバット層からなる抄紙用フェルトにおいて、前記バット層の少なくとも一部を、伸張切断エネルギーが10以上のポリケトン短繊維で構成したものが、前記課題を解決することを見出したものである。
【0010】
【作用】
上記構成によれば、耐へたり性、耐摩耗性、及び耐フィブリル化に優れたポリケトン繊維の使用により、抄紙用フェルトが苛酷な環境での使用に耐え得るものとなる。
【0011】
【発明の実施形態】
図1は、本発明の抄紙用フェルト10の断面拡大図である。
本発明の抄紙用フェルト10は、基体20と、短繊維からなるバット層30で構成され、基体20とバット層30は、ニードルパンチングで絡合一体化されている。
基体20としては、糸材を織製して得られた基布、経糸と緯糸を織製せずに得られた布体、細い帯状体を螺旋状に巻回して得られたもの等を使用することができる。
【0012】
バット層30を構成する短繊維としては、伸張切断エネルギー((強度×伸度)の平方根)が10以上のポリケトン繊維32を使用する。
【0013】
伸張切断エネルギーが10以上のポリケトン繊維32を得るためには、まず、公知の湿式紡糸法によりポリケトン未延伸繊維を作製し、その後、この繊維を延伸すればよい。
なお、得られたポリケトン繊維32の切断強度は6g/d以下で、伸度が30%以上でなければならない。
【0014】
ここで、ポリケトン繊維32の全延伸倍率を変えて実験を行なったところ、延伸倍率を高くするにつれてポリケトンの分子配向は発達するが、それと同時に繊維の高次構造である多数のフィブリルが発生するため伸張方向に垂直な方向の物性が弱くなり、フィブリル化現象が顕著になることが分かった。
なお、「フィブリル化現象」とは、1本の繊維が、繊維を構成する微細な繊維状組織、すなわち、フィブリルに分かれることであり、フィブリル化現象が起きると繊維が裂けてしまい、抄紙用フェルトに使用することができなくなる。
実験の結果、ポリケトン繊維にフィブリル化現象が発生しないようにするためには、ポリケトン繊維の全延伸倍率を5倍以下とすればよいことが分かった。
上記ポリケトン繊維の延伸作業は、複数のローラ群の周速差を利用した周知の延伸機(図示せず。)により行なうことができる。例えば、延伸機の第一ローラ群と第二ローラ群との間の周速差を利用した一次延伸工程にて、未延伸繊維を2倍延伸繊維とする。次に、この2倍延伸繊維を第二ローラ群と第三ローラ群とによる二次延伸工程にて2.5倍延伸繊維とする。かくして、全延伸倍率が4.5のものを得ることが可能となる。
なお、上記延伸工程においては、一次延伸工程を湿熱環境下、二次延伸工程を乾熱環境下で行なう、周知の技術を採用することができるのは勿論である。
【0015】
上記のポリケトン繊維32(伸張切断エネルギー:10以上、全延伸倍率:5倍以下、切断強度:6g/d以下、伸度:30%以上)からなるバット層30を具えた抄紙用フェルト10を作製し、実験した結果、この抄紙用フェルト10は、耐へたり性、耐摩耗性、耐フィブリル化に優れていることが確認できた。
【0016】
さらに、ポリケトン繊維に100℃以上の湿熱処理、又は150℃以上の乾熱処理を施すと、湿式紡糸法で紡出されたポリケトン繊維の内部歪が緩和され、更に、繊維内部から表面に到る繊維表面の脱溶媒傷を補修できることが分かった。
そのため、この処理により、ポリケトン繊維を高温度下で使用することができるようになり、また、ポリケトン繊維の耐摩耗性を向上させることができる。
【0017】
なお、バット層30の全てをポリケトン短繊維32で構成すると、耐へたり性、耐摩耗性、及び耐フィブリル化に優れた抄紙用フェルトを得ることができる。しかし、材料コスト等の問題により、ポリケトン短繊維32とナイロン短繊維等を混合してバット層30を構成してもよい。
そして、バット層30にポリケトン短繊維32を含んでいれば、ナイロン短繊維のみからなるバット層30を具えた従来のフェルトよりも、耐へたり性、耐摩耗性において優れたものになる。
【0018】
本発明の抄紙用フェルトの効果を確認すべく、以下に示す実施例、及び実施例のものを作製し、実験を行なった。
なお、実施例、及び比較例では、基体としてナイロンモノフィラメントの撚糸を平織したもの(坪量300g/m2)を使用し、バット層の総坪量は550g /m2であり、これらの基体とバット層を、針打ち密度700回/cm2でニードルパンチングした。
【0019】
実施例1
周知のポリケトン繊維の製造方法、すなわち、湿式紡糸法で、未延伸繊維をトウの状態(フィラメントが束状になったもの)で得た。
これを収束してから短繊維の製造機械に仕掛け、一次延伸、及び二次延伸させた後、捲縮付与し、更に、定長(80mm)にカットして素材1を得た。
なお、この素材1の延伸倍率は4倍であった。
また、素材1の物性を測定したところ、切断強度は5.8g/d、切断伸度は30%であり、伸張切断エネルギーは13であった。
この素材1を短繊維としてバット層を構成し、実施例1の抄紙用フェルトを得た。
【0020】
実施例2
実施例1で得た素材1を、オーバーマイヤー染色機械に浴比10倍で詰め綿して、密閉状態で100℃30分の湿熱処理を施して、素材2を得た。
湿熱処理が施されたこの素材2は、高度に収縮して内部歪が緩和されており、また、繊維内部から表面に到る繊維表面の脱溶媒傷が補修されている。
この素材2の物性を測定したところ、切断強度は5.2g/d、切断伸度は50%であり、伸張切断エネルギーは16であった。
この素材2を短繊維としてバット層を構成し、実施例2の抄紙用フェルトを得た。
【0021】
比較例1
周知のポリケトン繊維の製造方法、すなわち、湿式紡糸法で未延伸繊維をトウの状態で得た。
これらを収束させてから短繊維の製造機械に仕掛け、一次延伸、及び二次延伸させた後、捲縮付与し、更に定長(80mm)にカットして素材3を得た。
なお、この素材3の延伸倍率は8倍であった。
また、素材3の物性を測定したところ、切断強度は9.0g/d、切断伸度は5%であり、伸張切断エネルギーは7であった。
この素材3を短繊維としてバット層を構成し、比較例1の抄紙用フェルトを得た。
【0022】
比較例2
一般的な抄紙用フェルトに使用されているナイロン66短繊維からなる素材4でバット層を構成し、比較例2の抄紙用フェルトを得た。
【0023】
比較例3
一般的に、工業用繊維素材として使用されているコーネックス繊維(メタ系芳香族ポリアミド)からなる素材5でバット層を構成し、比較例3の抄紙用フェルトを得た。
【0024】
上記の実施例、及び比較例の抄紙用フェルトを使用して、以下の実験1乃至3を行った。
実験1
実施例、及び比較例の各抄紙用フェルトに、湿潤80℃、パルス荷重150kg/cm2、10Hzで、繰返し20万回の圧縮・回復を与えて、耐へたり性実 験を行った。
耐へたり性を示す指標として、実験前後における密度変化が1.5倍以下のものを優秀、2倍以上のものを不良と規定した。
【0025】
実験2
JIS 1023−1992に基づくテーバー研磨試験機により、抄紙用フェルトから脱落した繊維量を測ることにより、耐摩耗性実験を行った。
この試験機は、回転するターンテーブル上に円盤状の試験片を載置し、さらに試験片上に抵抗の大きい回転ロールを当接させて、繊維の脱落量を測るものである。
この実験では、ターンテーブルを5000回回転させた後の、脱落繊維量を計測した。
【0026】
実験3
上記耐へたり性実験の終了後(20万回の圧縮・回復後)に、試験片表面のバット層繊維を抽出し、繊維のフィブリル発生度合いを確認した。
確認作業にあたっては、30倍の光学顕微鏡を使用した。
なお、評価の指標として、短繊維10本に対し、5本以上がフィブリル化している場合を「不良」、2〜4本以上がフィブリル化している場合を「普通」、1本以下の場合を「優秀」とした。
【0027】
実験1〜3の結果を、図2に示す。
図2に示す通り、本発明の抄紙用フェルトは、全ての実験において優れた効果を発揮することが確認できた。
また、実施例2のように、ポリケトン繊維に熱処理を施すと、耐摩耗性をさらに向上させることができる。
一方、比較例1及び比較例3のものは、耐へたり性は優れているが、多くのフィブリルが発生しており、比較例2のものは、フィブリルの発生は普通であるが、耐へたり性に劣っている。
【0028】
【発明の効果】
本発明の抄紙用フェルトは、耐へたり性、耐摩耗性、及び耐フィブリル化に優れているという効果を奏する。
そのため、苛酷な環境で使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の抄紙用フェルトの断面拡大図。
【図2】 本発明の実施例、及び比較例について、耐へたり性、耐摩耗性、及び耐フィブリル化実験の結果を示す図。
【符号の説明】
10:抄紙用フェルト
20:基体
30:バット層
32:ポリケトン短繊維
Claims (3)
- 基体とバット層からなる抄紙用フェルトにおいて、
前記バット層の少なくとも一部が、伸張切断エネルギーが10以上のポリケトン短繊維からなることを特徴とする、
抄紙用フェルト。 - 前記ポリケトン短繊維が、湿式紡糸法で紡出されたポリケトン未延伸繊維を基準として、全延伸倍率が5倍以下で延伸されたものであり、切断強度が6g/d以下、伸度が30%以上である、請求項1の抄紙用フェルト。
- 前記ポリケトン短繊維が、100℃以上の湿熱処理、又は150℃以上の乾熱処理を施されたものである、請求項1の抄紙用フェルト。
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