JP3828853B2 - 多板クラッチ - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、第1回転部材と一体に回転する第1摩擦板と、第2回転部材と一体に回転する第2摩擦板と、第1、第2回転部材の何れか一方の回転部材と一体に回転し、第1、第2摩擦板の何れか一方の摩擦板に軸方向の押付け力を付与して第1、第2摩擦板を相互に係合させる押付け部材とを備えた多板クラッチに関する。
【0002】
【従来の技術】
自動車の差動制限機構付き差動装置は、例えば下記特許文献により公知である。この差動制限機構付き差動装置は、ディファレンシャルケースを収納するハウジングの内部に多板クラッチおよび油圧アクチュエータを備えており、この油圧アクチュエータで多板クラッチを係合させることにより、ディファレンシャルケースおよび出力軸を一体化して差動機構に任意の差動制限トルクを発生させるようになっている。
【0003】
この種の多板クラッチは、交互に重ね合わせた複数のクラッチプレートと複数クラッチディスクとを備えており、クラッチディスクの表面に貼り付けた摩擦材がクラッチプレートに密着することで、クラッチプレートおよびクラッチディスクを一体化してトルク伝達を行うようになっている。
【0004】
【特許文献】
特公平5−36249号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、長期の使用によりクラッチディスクの摩擦材が次第に摩耗すると、
クラッチプレートおよびクラッチディスク間のギャップが増加するため、多板クラッチを係合させるためのアクチュエータの必要ストローク、つまり油圧アクチュエータであればピストンの必要ストローク、電磁アクチュエータであればアマチュアの必要ストロークが増大してしまい、そのために多板クラッチを係合させる際の応答性が低下してしまう問題がある。
【0006】
特に、電磁アクチュエータを採用した場合には、クラッチプレートおよびクラッチディスク間のギャップが増加した状態でも多板クラッチを確実に係合させるために、アマチュアのストローク、つまりヨークおよびアマチュア間のエアギャップを大きく設定しなければならず、コイルの消費電力が増加したりアマチュアの推力が不安定になったりする問題がある。
【0007】
本発明は前述の事情に鑑みてなされたもので、多板クラッチの摩擦板が摩耗した場合でも、その係合応答性が低下するのを防止することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、請求項1に記載された発明によれば、第1回転部材と一体に回転する第1摩擦板と、第2回転部材と一体に回転する第2摩擦板と、第1、第2回転部材の何れか一方の回転部材と一体に回転し、第1、第2摩擦板の何れか一方の摩擦板に軸方向の押付け力を付与して第1、第2摩擦板を相互に係合させる押付け部材とを備えており、その押付け部材に径方向外側が前記一方の摩擦板に接近するように傾斜する斜面を形成すると共に、その斜面と前記一方の摩擦板との間に転がり部材を配置して、その転がり部材を介して押付け部材から前記一方の摩擦板に押付け力を付与する多板クラッチであって、前記押付け部材が梃子レバーであり、梃子レバーは径方向内側および外側にそれぞれ力点および支点を有するとともに、前記斜面と転がり部材との接触部に作用点を有しており、支点および作用点間の距離を支点および力点間の距離よりも小さく設定したことを特徴とする多板クラッチが提案される。
【0009】
上記構成によれば、多板クラッチの押付け部材に形成した斜面を、その径方向外側が一方の摩擦板に接近するように傾斜させ、斜面と摩擦板との間に配置した転がり部材を介して押付け部材から摩擦板に押付け力を付与することで、摩擦板を相互に密着させて多板クラッチを係合させ、第1、第2回転部材間でトルク伝達を行うことができる。一方の回転部材と一体に回転する押付け部材に支持した転がり部材には遠心力が作用するため、摩擦板が摩耗してギャップが増加しても、その押付け部材に形成した斜面に沿って転がり部材が遠心力で径方向外側に移動することで、前記ギャップを詰めることができる。従って、摩擦板の摩耗量に関わらず、押付け部材が一定のストロークをするだけで多板クラッチを係合させることができ、摩擦板の摩耗による係合応答性の低下を防止することができる。
【0011】
また特に押付け部材を構成する梃子レバーが力点、支点および作用点を有しており、支点および作用点間の距離を支点および力点間の距離よりも小さく設定したので、力点に推力を加えて梃子レバーを支点回りに揺動させることで作用点が摩擦材に押付け力を付与するとき、推力に対して押付け力を倍力することができる。これにより、多板クラッチを係合させるための推力を小さくしてエネルギーの節減を図ることができる。
【0012】
また請求項2に記載された発明によれば、請求項1の構成に加えて、コイルに通電することでヨークにアマチュアを吸引する電磁アクチュエータを備えており、前記梃子レバーの力点を電磁アクチュエータのアマチュアに接続したことを特徴とする多板クラッチが提案される。
【0013】
上記構成によれば、梃子レバーの力点を電磁アクチュエータのアマチュアに接続したので、小型で小出力の電磁アクチュエータで多板クラッチを係合させることが可能になる。しかも摩擦板の摩耗量が変化しても、転がり部材が半径方向に移動することで梃子レバーの力点の位置が殆ど変化しないため、電磁アクチュエータのヨークおよびアマチュア間のエアギャップを必要最小限に抑えることができる。これにより、コイルの消費電力を一層削減できるだけでなく、アマチュアの推力を安定させて多板クラッチの確実な係合を可能にすることができる。
【0014】
尚、実施例のクラッチアウター38およびクラッチインナー37はそれぞれ本発明の第1回転部材および第2回転部材に対応し、実施例のクラッチプレート45およびクラッチディスク46はそれぞれ本発明の第1摩擦板および第2摩擦板に対応し、実施例の梃子レバー50は本発明の押付け部材に対応し、実施例の鋼球51は本発明の転がり部材に対応する。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を、添付図面に示した本発明の実施例に基づいて説明する。
【0016】
図1〜図6は本発明の一実施例を示すもので、図1は自動車用内燃機関の後面図、図2は差動機構および電磁アクチュエータの拡大断面図、図3は差動機構の構造を示す図2の3部拡大図(図4の3−3線断面図)、図4は図3の4−4線断面図、図5は図3の5−5線断面図、図6は図3の要部拡大図、図7は図6に対応する作用説明図である。
【0017】
図1に示すように、フロントエンジン・フロントドライブの自動車の車体前部に横置きに搭載された内燃機関Eは、その左側面に変速機Tが一体に結合され、変速機Tの後面に差動機構Dが設けられる。車体中心線から左方向にずれて配置された差動機構Dから右方向にハーフシャフト11(インターミディエイトシャフト)が延びており、ハーフシャフト11に右駆動輪(図示せず)を駆動する右車軸12が接続され、また差動機構Dから左方向に延びる左車軸13を介して左駆動輪(図示せず)が駆動される。ハーフシャフト11の右端はエンジンブロック22に固定したステー10に支持される。
【0018】
図2を併せて参照すると明らかなように、差動機構Dを収納するハウジング14は、変速機Tのケーシングと一体に形成されたハウジング本体15と、ハウジング本体15の左端開口部を覆うように複数本のボルト16…で固定されたカバープレート17とを備える。差動機構Dの右側に取り付けられた電磁アクチュエータAは、差動機構Dのハウジング本体15の右端開口部に嵌合するアクチュエータケース18と、アクチュエータケース18の右端開口部を覆うように3本のボルト19…で固定されたアクチュエータカバー20とを備えており、アクチュエータケース18を貫通する2本のボルト21,21でエンジンブロック22に固定される。差動機構Dおよび電磁アクチュエータAは差動装置を構成する。
【0019】
ハウジング14の内部に収納された差動機構Dは、ハウジング本体15にボールベアリング23で支持された右側の第1ケース24と、カバープレート17にボールベアリング25で支持された左側の第2ケース26とを複数本のボルト27…で結合したディファレンシャルケース28を備えており、第1ケース24の外周に変速機Tにより駆動されるアクスルドライブギヤ29が複数本のボルト30で固定される。
【0020】
次に、図3〜図6を参照して差動機構Dの構造を説明する。
【0021】
ハウジング14内に収納される差動機構Dは、十字状に交差する4本のピニオンシャフト31…を備える。全体として円形断面を有するピニオンシャフト31…は端部に面取31a…が形成されており、その面取31a…が第1ケース24の内周面に差動機構Dの軸線L方向に形成された4本の支持溝24a…に嵌合する。4本のピニオンシャフト31…の交差部には円形の開口31bが形成されており、その開口31bをハーフシャフト11が緩く貫通する。4本のピニオンシャフト31…には4個のディファレンシャルピニオン32…が回転自在に支持される。ディファレンシャルピニオン32…と第1ケース24の内周面との間にスペーサ33…が配置されており、これらのスペーサ33…によってディファレンシャルピニオン32…の径方向の位置が規制される。
【0022】
第1ケース24の内部に挿入されたハーフシャフト11の外周に右側のディファレンシャルサイドギヤ34Rがスプライン結合され、またハーフシャフト11の左端にスプライン結合されてストッパプレート35と一体のボルト36で係止されたクラッチインナー37の外周に、左側のディファレンシャルサイドギヤ34Lが相対回転可能に支持される。左右のディファレンシャルサイドギヤ34L,34Rは4個のディファレンシャルピニオン32…に噛み合っている。
【0023】
第2ケース26を貫通して第1ケース24の内部に挿入された左車軸13の右端にスプライン結合されたクラッチアウター38は、第2ケース26の右側面に沿う円板状の第1部材39と、第1部材39の右側面外周部に固定された短円筒状の第2部材40と、左側のディファレンシャルサイドギヤ34Lの外周に固定されて第2部材40の右端にスプライン嵌合する環状の第3部材41とから成る。
【0024】
第3部材41をクリップ42で第2部材40に係止することで、第1部材39および第3部材41の軸線L方向の距離が規制される。また右側のディファレンシャルサイドギヤ34Rの右側面と第1ケース24の内面との間にスラストワッシャ43が配置される。更に、クラッチアウター38の第2部材40の右端と第1ケース24の内面との間にシム44が配置されており、このシム44の厚さの調整によってクラッチアウター38の軸線L方向のガタが規制される。
【0025】
クラッチアウター38の第2部材40の内周面に複数枚(実施例では4枚)のクラッチプレート45…の外周部がスプライン嵌合するとともに、クラッチインナー37の外周面に複数枚(実施例では3枚)のクラッチディスク46…の内周部がスプライン嵌合する。クラッチディスク46…の両面に貼り付けたカーボン製の摩擦材47…がクラッチプレート45…に接触するように、クラッチプレート45…およびクラッチディスク46…は交互に配置される。右端のクラッチプレート45を第2部材40に係止するクリップ48と、第3部材41の左側面との間にシム49が配置されており、このシム49の厚さの調整によって第3部材41の軸線L方向のガタが規制される。
【0026】
クラッチインナー37の外周に環状溝37aが形成されており、この環状溝37aに板状を成す3個の梃子レバー50…の径方向内端が係合する。3個の梃子レバー50…はクラッチアウター38の第1部材39の右側面に120°間隔で放射状に形成された3本の梃子レバー収納凹部39a…に嵌合し、第1部材39と一体に回転する。各々の梃子レバー50の径方向外端は、クラッチアウター38の第1部材39、第2部材40および左端のクラッチプレート45に囲まれた空間に延びており、左端のクラッチプレート45に対向する右側面に複数個(実施例では7個)の鋼球51…を保持する保持溝50aが形成される。
【0027】
保持溝50aは軸線Lを中心として周方向に延びており、そこに収納された7個の鋼球51…は周方向に整列する。また保持溝50aの底面は軸線Lに直交する平面に対して、径方向外側が左端のクラッチプレート45に接近する方向に所定角度(実施例では15°)傾斜した斜面Rとされる。斜面Rの径方向の幅は鋼球51…の直径の約1.5倍であり、その範囲で鋼球51…は径方向に移動可能である。
【0028】
図6から明らかなように、梃子レバー50の左側面の径方向内端がクラッチインナー37の環状溝37aと当接する点が力点P1となり、梃子レバー50の左側面の径方向外端がクラッチアウター38の第1部材39の右側面と当接する点が支点P2となり、鋼球51…が梃子レバー50の斜面Rと当接する点が作用点P3となる。支点P2と作用点P3との距離aは、支点P2と力点P1との距離bよりも小さく設定されている。
【0029】
このようにして、クラッチインナー37、クラッチアウター38、クラッチプレート45…、クラッチディスク46…、梃子レバー50…および鋼球51…により多板クラッチ52が構成される。
【0030】
多板クラッチ52を組み立ては、次のような順序で行われる。
▲1▼予めクラッチインナー37に3個の梃子レバー50…を組み付ける
▲2▼クラッチインナー37および梃子レバー50…をクラッチアウター38の内部に組み付ける
▲3▼梃子レバー50…の保持溝50a…に鋼球51…を保持させる
▲4▼クラッチインナー37およびクラッチアウター38の第2部材40にクラッチプレート45…およびクラッチディスク46…を交互に組み付ける
▲5▼クラッチアウター38の第2部材40にクリップ48を組み付ける
▲6▼クリップ48の側面にシム49を組み付ける
▲7▼クラッチアウター38の第2部材40に、左側のディファレンシャルサイドギヤ37Lと一体の第3部材41を組み付ける
▲8▼クラッチアウター38の第2部材40にクリップ42を組み付ける
このようにしてサブアセンブリ化された多板クラッチ52を一括して第1ケース24に組み付けることで、組付作業性を高めることができる。
【0031】
次に、図2に基づいて電磁アクチュエータAの構造を説明する。
【0032】
アクチュエータケース18およびアクチュエータカバー20の内部にヨーク61が収納されており、ボビン62に巻き付けられたコイル63がヨーク61に形成された凹部に収納される。ヨーク61およびボビン62はノックピン64でアクチュエータカバー20に対して回り止めされる。径方向内外に分割された2個のヨークプレート65,65がヨーク61の左端面に複数本のボルト66…で固定されており、これらのヨークプレート65,65の左端面に微小なエアギャップ(例えば0.5mm)を介して対向するアマチュア67は、ハーフシャフト11の段部11aに当接してクリップ68で固定される。アクチュエータケース18の内部に塵埃が侵入しないように、アクチュエータカバー20とハーフシャフト11との間にシール部材69が配置される。各々のヨークプレート65,65には、コイル63の励磁によりヨーク61に発生した磁束密度を検出する磁束密度センサ70,70が設けられる。電磁アクチュエータAの外部からエアギャップの大きさを確認できるようにアクチュエータケース18に覗き窓18aが形成されており、この覗き窓18aは着脱自在なカバー71で覆われる。
【0033】
次に、上記構成を備えた本発明の実施例の作用について説明する。
【0034】
差動機構Dは通常の差動機能に加えて差動制限機能を発揮するもので、その差動制限機能により発生する差動制限トルクは電磁アクチュエータAの作動により発生する。
【0035】
先ず、差動機構Dの通常の差動機能について説明する。
【0036】
内燃機関Eの出力トルクが変速機Tを介して差動機構Dのアクスルドライブギヤ29に入力されると、アクスルドライブギヤ29にボルト30…で結合されたディファレンシャルケース28が回転する。車両が直進状態にあるとき、4個のディファレンシャルピニオン32…はピニオンシャフト31…に対して回転せず、ディファレンシャルピニオン32…に噛み合う左側のディファレンシャルサイドギヤ34Lと一体の左車軸13と、ディファレンシャルピニオン32…に噛み合う右側のディファレンシャルサイドギヤ34Rと一体のハーフシャフト11とは同速で回転し、左右の駆動輪にトルクが均等に配分される。
【0037】
例えば、車両が左旋回状態にあるとき、左側の駆動輪に連なる左車軸13が減速されて右側の駆動輪に連なるハーフシャフト11が増速されるため、左右のディファレンシャルサイドギヤ34L,34Rに差回転が発生するが、その差回転は左右のディファレンシャルサイドギヤ34L,34Rに噛み合うディファレンシャルピニオン32…の回転により吸収される。同様に、車両が右旋回状態にあるとき、左側の駆動輪に連なる左車軸13が増速されて右側の駆動輪に連なるハーフシャフト11が減速されるため、左右のディファレンシャルサイドギヤ34L,34Rに差回転が発生するが、その差回転は左右のディファレンシャルサイドギヤ34L,34Rに噛み合うディファレンシャルピニオン32…の回転により吸収される。
【0038】
次に、電磁アクチュエータAの作動により発生する差動制限機能について説明する。
【0039】
電磁アクチュエータAのコイル63に通電すると0.5mmのエアギャップの範囲内でアマチュア67がヨーク61に吸引され、アマチュア67に段部11aが係合するハーフシャフト11が右方向に付勢される。ハーフシャフト11の右端はステー10に支持されており、サスペンションに支持された右駆動輪の移動に伴って右車軸12が傾斜しても、ハーフシャフト11の軸線の方向は変化しないため、電磁アクチュエータAによるハーフシャフト11の駆動を確実に行うことができる。
【0040】
ハーフシャフト11が右方向に付勢されると、このハーフシャフト11の左端に固定されクラッチインナー37の環状溝37aに力点P1を介して係合する梃子レバー50…の下端が右方向に移動し、梃子レバー50…はその上端の支点P2を中心にして、図6の状態から図7の状態へと反時計方向に揺動する。その結果、梃子レバー50…の保持溝50a…に作用点P3を介して当接する鋼球51…が右向きに付勢され、これらの鋼球51…に左端のクラッチプレート45が押圧されることで、鋼球51…およびクリップ48間に配置されたクラッチプレート45…およびクラッチディスク46…が相互に密着し、クラッチインナー37およびクラッチアウター38が一体化される。
【0041】
このようにしてクラッチインナー37およびクラッチアウター38が一体化されると、クラッチインナー37にハーフシャフト11を介して接続された右車軸12と、クラッチアウター38の接続された左車軸13とが相対回転不能に一体化されるため、差動機構Dの作動機能が制限されてぬかるみ等の軟弱地からの脱出を可能にしたり、高速直線走行時の安定性を高めたりすることができる。このとき、電磁アクチュエータAのコイル63に供給する電流の大きさを制御して多板クラッチ52をスリップさせることで、差動機構Dに任意の大きさの差動制限トルクを発揮させることができる。
【0042】
以上のように、差動機構Dの外部に設けた電磁アクチュエータAが発生する推力Fiをハーフシャフト11を介して多板クラッチ52に伝達するので、既存の差動機構Dをそのまま利用して、あるいは僅かな設計変更を施すだけで、差動機構Dに任意の大きさの差動制限トルクを発揮させることができ、新たな差動機構Dを新規に設計する場合に比べてコストの削減に寄与することができる。
【0043】
また梃子レバー50…の支点P2と作用点P3との距離aは、支点P2と力点P1との距離bよりも小さく設定されている(a<b)ので、電磁アクチュエータAが発生する推力Fiをb/a倍に倍力した押付け力Fo=Fi×(b/a)でクラッチプレート45…およびクラッチディスク46…を係合させることができ、電磁アクチュエータAの小型化および消費電力の節減に寄与することができる。
【0044】
ところで、クラッチディスク46…の摩擦材47…は長期の使用に伴って摩耗するため、クラッチプレート45…およびクラッチディスク46…間のギャップが次第に増加する。従って、摩擦材47…の摩耗が進行して前記ギャップが増加した状態では、電磁アクチュエータAに通電してから多板クラッチ52が係合するまでの応答時間が次第に増加して応答性が低下する問題がある。また摩擦材47…が摩耗して前記ギャップが増加した状態で多板クラッチ52を確実に係合させるのは、電磁アクチュエータAのヨーク61(厳密にはヨークプレート65,5)およびアマチュア67間のエアギャップを充分に大きく設定する必要があり、そのために電磁アクチュエータAの消費電力が増加してしまう問題がある。
【0045】
それに対して、本実施例によれば、梃子レバー50…の保持溝50a…に収納した鋼球51…によって上記問題を解決することができる。即ち、作動機構Dの作動中に、クラッチアウター38と共に軸線Lまわりに回転する鋼球51…に径方向外側に向かう遠心力が作用する。しかしながら、摩擦材47…の摩耗が小さい状態、つまりクラッチプレート45…およびクラッチディスク46…間のギャップが小さい状態では、図6および図7に実線で示すように、保持溝50a…の斜面Rの傾斜により、鋼球51…は遠心力を受けても保持溝50a…の径方向内側に保持されており、梃子レバー50…が揺動すると同時に押付け力Foを発生させることができる。
【0046】
一方、摩擦材47…の摩耗が大きい状態、つまりクラッチプレート45…およびクラッチディスク46…間のギャップが大きい状態では、仮に鋼球51…が図6および図7に実線で示す位置にあるとすると、多板クラッチ52の係合応答性が低下してしまうが、図6および図7に鎖線で示すように、実際には遠心力を受けた鋼球51…が保持溝50a…の斜面Rに沿って径方向外側に移動して前記ギャップを詰めることにより、摩擦材47…の非摩耗時と何ら変わらない係合応答性を得ることができる。
【0047】
しかも、摩擦材47…の摩耗が進行しても、遠心力によって鋼球51…が径方向外側に移動することで、力点P1の軸線L方向の位置は殆ど変化しないため、電磁アクチュエータAのヨーク61およびアマチュア67間のエアギャップも一定に保持される。従って、将来の摩擦材47…の摩耗を考慮して前記エアギャップを大きめに設定する必要がなくなり、電磁アクチュエータAの消費電力を節減できるだけでなく、電磁アクチュエータAのコイル63に流す電流と発生する推力Fiの相関関係の変化を最小限に抑えて安定した推力Fiを発生させることができる。
【0048】
また摩擦材47…の摩耗状態に関わらず、遠心力で斜面Rに沿って径方向外側に付勢された鋼球51…は、クラッチプレート45…およびクラッチディスク46…を係合させる軸線L方向の押付け力Foを発生するので、多板クラッチ52の係合トルクは電磁アクチュエータAが発生する推力Fiによる係合トルクと、鋼球51…に作用する遠心力による係合トルクとの和となる。そして鋼球51…に作用する遠心力による係合トルクはクラッチアウター38の回転数、つまり車速に応じて変化するため、差動機構Dの差動制限機能にいわゆる車速感応型の特性を与えることができる。
【0049】
以上、本発明の実施例を詳述したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
【0050】
例えば、実施例では差動機構Dに使用される多板クラッチ52を例示したが、本発明は他の任意の用途の多板クラッチに対して適用することができる。
【0051】
また本発明の転がり部材は実施例の鋼球51…に限定されず、径方向に転がり可能なローラであっても良い。
【0052】
また電磁アクチュエータAに代えて油圧アクチュエータを採用することも可能である。
【0053】
【発明の効果】
以上のように請求項1に記載された発明によれば、多板クラッチの押付け部材に形成した斜面を、その径方向外側が一方の摩擦板に接近するように傾斜させ、斜面と摩擦板との間に配置した転がり部材を介して押付け部材から摩擦板に押付け力を付与することで、摩擦板を相互に密着させて多板クラッチを係合させ、第1、第2回転部材間でトルク伝達を行うことができる。一方の回転部材と一体に回転する押付け部材に支持した転がり部材には遠心力が作用するため、摩擦板が摩耗してギャップが増加しても、その押付け部材に形成した斜面に沿って転がり部材が遠心力で径方向外側に移動することで、前記ギャップを詰めることができる。従って、摩擦板の摩耗量に関わらず、押付け部材が一定のストロークをするだけで多板クラッチを係合させることができ、摩擦板の摩耗による係合応答性の低下を防止することができる。
【0054】
また特に押付け部材を構成する梃子レバーが力点、支点および作用点を有しており、支点および作用点間の距離を支点および力点間の距離よりも小さく設定したので、力点に推力を加えて梃子レバーを支点回りに揺動させることで作用点が摩擦材に押付け力を付与するとき、推力に対して押付け力を倍力することができる。これにより、多板クラッチを係合させるための推力を小さくしてエネルギーの節減を図ることができる。
【0055】
また請求項2に記載された発明によれば、梃子レバーの力点を電磁アクチュエータのアマチュアに接続したので、小型で小出力の電磁アクチュエータで多板クラッチを係合させることが可能になる。しかも摩擦板の摩耗量が変化しても、転がり部材が半径方向に移動することで梃子レバーの力点の位置が殆ど変化しないため、電磁アクチュエータのヨークおよびアマチュア間のエアギャップを必要最小限に抑えることができる。これにより、コイルの消費電力を一層削減できるだけでなく、アマチュアの推力を安定させて多板クラッチの確実な係合を可能にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】自動車用内燃機関の後面図
【図2】差動機構および電磁アクチュエータの拡大断面図
【図3】差動機構の構造を示す図2の3部拡大図(図4の3−3線断面図)
【図4】図3の4−4線断面図
【図5】図3の5−5線断面図
【図6】図3の要部拡大図
【図7】図6に対応する作用説明図
【符号の説明】
37 クラッチインナー(第2回転部材)
38 クラッチアウター(第1回転部材)
45 クラッチプレート(第1摩擦板)
46 クラッチディスク(第2摩擦板)
50 梃子レバー(押付け部材)
51 鋼球(転がり部材)
61 ヨーク
63 コイル
67 アマチュア
A 電磁アクチュエータ
Fo 押付け力
P1 力点
P2 支点
P3 作用点
R 斜面
a 支点および作用点間の距離
b 支点および力点間の距離
Claims (2)
- 第1回転部材(38)と一体に回転する第1摩擦板(45)と、
第2回転部材(37)と一体に回転する第2摩擦板(46)と、
第1、第2回転部材(38,37)の何れか一方の回転部材(38)と一体に回転し、第1、第2摩擦板(45,46)の何れか一方の摩擦板(45)に軸方向の押付け力(Fo)を付与して第1、第2摩擦板(45,46)を相互に係合させる押付け部材(50)とを備えており、
その押付け部材(50)に径方向外側が前記一方の摩擦板(45)に接近するように傾斜する斜面(R)を形成すると共に、その斜面(R)と前記一方の摩擦板(45)との間に転がり部材(51)を配置して、その転がり部材(51)を介して押付け部材(50)から前記一方の摩擦板(45)に押付け力(Fo)を付与する多板クラッチであって、
前記押付け部材(50)が梃子レバーであり、梃子レバーは径方向内側および外側にそれぞれ力点(P1)および支点(P2)を有するとともに、前記斜面(R)と転がり部材(51)との接触部に作用点(P3)を有しており、支点(P2)および作用点(P3)間の距離(a)を支点(P2)および力点(P1)間の距離(b)よりも小さく設定したことを特徴とする、多板クラッチ。 - コイル(63)に通電することでヨーク(61)にアマチュア(67)を吸引する電磁アクチュエータ(A)を備えており、前記梃子レバーの力点(P1)を電磁アクチュエータ(A)のアマチュア(67)に接続したことを特徴とする、請求項1に記載の多板クラッチ。
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