JP3828664B2 - Al合金の攪拌連続鋳造法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明はAl合金の攪拌連続鋳造法、特に、Al合金組成の溶湯をスパウト内で攪拌しつつ、そのスパウト直下に配置された筒状鋳型に導入する攪拌連続鋳造法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、攪拌連続鋳造法によるAl合金インゴットは、例えばチクソキャスティング用鋳造材料として用いられている。チクソキャスティング法においては、固相と液相とが共存する半溶融鋳造材料の流動性を利用して成形を行うものであるから、初晶α等の高融点晶出物の微細化は必須要件である。
【0003】
しかしながら、省資源の要請からリサイクル材を原料とした場合、そのリサイクル材におけるCu、Mn、Ti等の含有量が多くなると、高融点の針状金属間化合物が粗大に晶出し、その粗大針状金属間化合物を攪拌力だけでは微細化することができない、という問題を生じた。
【0004】
そこで、本発明者等はAl合金組成の溶湯として、Fe含有量が0.75wt%≦Fe<2wt%であるものを用いることにより初晶αの晶出温度と同一またはそれ以上の高温下で、1次晶出物として硬質のFe系金属間化合物、即ちアルファ金属間化合物(以下、α−IMCと称す)を晶出させ、そのα−IMCを攪拌力によって液相中をアトランダムに動き回らせながら初晶αおよび粗大針状金属間化合物を破砕して微細化する、といった攪拌連続鋳造法を開発した(特願平10−103893号明細書および図面参照)。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明者等は前記攪拌連続鋳造法について、さらに攻究を進めた結果、前記溶湯中のMn含有量によっては、α−IMCの晶出量が増加すると共にそれが成長することによって塊状α−IMCとなり、これにより微細なベータ金属間化合物(以下、β−IMCと称す)の晶出が抑制される、ということが判明した。この塊状α−IMCはAl合金部材の切削性を低下させるだけでなく、メッキ性および疲労強度の低下を招来する。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明はα−IMCの晶出量を不可避量に抑えると共に微細β−IMCの晶出量を上限値まで増加させることを可能にした前記攪拌連続鋳造法を提供することを目的とする。
【0007】
前記目的を達成するため本発明によれば、Al合金組成の溶湯をスパウト内で攪拌しつつ、そのスパウト直下に配置された筒状鋳型に導入する攪拌連続鋳造法において、前記Al合金組成の溶湯として、Fe含有量が0.75wt%≦Fe<2wt%であり、またMn含有量が、0.75wt%≦Fe≦1.5wt%のときMn≦[(Fe/5)+0.2]wt%であり、一方、1.5wt%<Fe<2wt%のときMn≦[−Fe+2]wt%であるものを用い、前記スパウト内周面上の溶湯攪拌領域形成部の上部周縁部分における前記溶湯の冷却速度CRを10℃/s≦CR≦30℃/sに設定するAl合金の攪拌連続鋳造法が提供される。
【0008】
FeおよびMn含有量を前記のように設定すると、α−IMCの晶出量を不可避量に抑制することが可能である。また前記上部周縁部分は溶湯の冷却速度が最も遅い位置であり、この上部周縁部分における溶湯の冷却速度CRを前記のように設定すると、α−IMCの成長を抑制することが可能である。これにより微細β−IMCの晶出量を上限値まで高めることができる。前記冷却速度は、上部周縁部分における冷却曲線を求め、その冷却曲線より算出される。前記α−IMCは、粗大針状金属間化合物および初晶αの破砕微細化に寄与する。
【0009】
ただし、Fe含有量およびMn含有量が前記範囲を逸脱すると、α−IMCの晶出量が増加傾向となる。また前記冷却速度CRがCR<10℃/sではα−IMCの成長が進行して微細β−IMCが晶出しにくくなるか、または晶出しなくなる。一方、CR>30℃/sでは冷却速度が速すぎるため、インゴットにおける初晶αの微細化が不十分となり、またインゴットのレオロジー性も低下する。
【0010】
【発明の実施の形態】
図1,2に示す連続鋳造装置1は、軸線を上下方向に向けた胴状本体2を有する。その胴状本体2は、内周壁3と、その外周側に所定の間隔をとって配置された外周壁4と、両壁3,4の上端側に存する環状上端壁5と、両壁3,4の下端側に存する環状下端壁6とより構成される。
【0011】
内周壁3は上部筒体7と下部筒体8とよりなり、上部筒体7の下部外周面に嵌着した環状ゴムシール9の内向き環状部10が両筒体7,8間に挟まれてそれらの間をシールする。上部筒体7において、その下半部は、内側に環状段部11が形成されるように、上半部12よりも厚肉に形成されて筒状水冷鋳型13を構成する。この水冷鋳型13はAl合金(例えば、A5052)よりなる。
【0012】
上半部12内に、薄肉の筒体14を介してスパウト15が、水冷鋳型13と同軸上に位置するように嵌合され、その下向きの溶湯出口16を形成する環状下端面17が環状段部11に当接する。またスパウト15の、上端壁5から突出する部分に環状抜止め板18が嵌合され、その抜止め板18は上端壁5に固定される。スパウト15は、断熱耐火性を有するケイ酸カルシウムより構成される。スパウト構成材料としてはアルミナ、シリカ等も用いられる。スパウト15の上方に、水平注湯を行うための溶湯供給樋19が配置され、その下向きの給湯口20がスパウト15の上向きの溶湯受入れ口21に連通する。
【0013】
胴状本体2において、その内、外周壁3,4間の筒状密閉空間22に、電磁誘導式攪拌機23が配設され、その攪拌機23はスパウト15内の溶湯mに電磁攪拌力を付与する。攪拌機23は筒状をなす成層鉄心24と、その成層鉄心24に巻装された複数のコイル25とよりなる。成層鉄心24は、図3に明示するように、筒状部26と、その内周面に円周上等間隔に配置されて母線方向に延びる複数の凸条27とよりなる。各コイル25は、1つの凸条27において2つのコイル25の一部分が重なり合うように、相隣る両凸条27に巻装される。
【0014】
成層鉄心24の内側に、各凸条27の先端面が密着するように薄肉のコイル外止め用筒体28が嵌合され、その筒体28は内周面の一部を環状ゴムシール9に密着させて筒状密閉空間22内に固定される。また成層鉄心24は、下端壁6の環状支持部材29上に載せられてその部材29に複数のボルト30およびナット31により固定される。1つのコイル25に対して2つの割合で複数の接続具32が用意され、各接続具32は水密手段を以て下端壁6を貫通してそれに取付けられている。
【0015】
外周壁4に複数の給水口33が形成され、各給水口33を通じて密閉空間22内に冷却水wが供給される。成層鉄心24内側の筒体28に、その上端部近傍に位置させて複数の通孔34が形成され、これにより環状ゴムシール9の上方に冷却水溜り35が存する。水冷鋳型13は冷却水溜り35により冷却されると共にその冷却水溜り35の冷却水wを斜め下向きに噴出する複数の噴出孔36を有する。通孔34は筒体28の下部側にも形成されている。
【0016】
水冷鋳型13と溶湯mとの間に潤滑油を供給すべく、スパウト15周りには次のような潤滑油通路が存在する。内周壁3において、その上部筒体7の上端部には上端壁5の下部板37が一体に設けられている。上端壁5の上部板38および下部板37間に、スパウト15を囲繞する環状路39と、その環状路39から放射方向に延びる複数の直線路40とが設けられる。各直線路40の端部に、上部板38に形成された入口41が連通し、その入口41は給油ポンプに接続される。図2に明示するように、上部筒体7の上半部12内周面と筒体14外周面間に筒状路42が形成され、その筒状路42および環状路39間を連通する複数の斜め下向きの通孔43が上半部12と下部板37との連設部に形成されている。また筒状路42の下端は、環状段部11およびスパウト15の環状下端面17間に放射状に配列された複数のV字状出口44に連通する。
【0017】
スパウト15内における溶湯攪拌領域Aは、略筒状をなす一群のコイル25によって囲繞される空間部、したがって一群のコイル25の上端面と同一高さ位置に在るスパウト15内の中間部から溶湯出口16までであり、またスパウト内周面a上の溶湯攪拌領域形成部bは湾曲面をなす。さらに、スパウト15の溶湯出口16の内半径をr1 とし、一方、水冷鋳型13の内半径をr2 としたとき、両内半径r1 ,r2 の間に、r1 <r2 およびr2 −r1 =Δr(但し、Δrはスパウト15の張出し量)の関係が成立する。即ち、スパウト15は、その溶湯出口16回りに環状張出し部15aを有する。
【0018】
図1において、Al合金組成の溶湯mを溶湯供給樋19の給湯口20からスパウト15内に供給すると、その溶湯mはスパウト15内において攪拌機23により電磁攪拌されつつ、スパウト15直下に配置された水冷鋳型13に導入され、そこで冷却されてインゴットIが得られる。
【0019】
Al合金組成の溶湯mとしては、Fe含有量が0.75wt%≦Fe<2wt%であり、またMn含有量が、0.75wt%≦Fe≦1.5wt%のときMn≦[(Fe/5)+0.2]wt%であり、一方、1.5wt%<Fe<2wt%のときMn≦[−Fe+2]wt%であるものが用いられる。またスパウト内周面a上の溶湯攪拌領域形成部bの上部周縁部分cにおける溶湯mの冷却速度CRは10℃/s≦CR≦30℃/sに設定される。
【0020】
FeおよびMn含有量を前記のように設定すると、α−IMCの晶出量を不可避量に抑制することが可能である。また前記上部周縁部分cは溶湯mの冷却速度が最も遅い位置であり、この上部周縁部分cにおける溶湯mの冷却速度CRを前記のように設定すると、α−IMCの成長を抑制することが可能である。これにより微細β−IMCの晶出量を上限値まで高めることができる。晶出したα−IMCは、粗大針状金属間化合物および初晶αの破砕微細化に寄与する。
〔実施例1〕
表1はAl合金(1)〜(12)の組成およびMnの上限値を示す。その上限値は、0.75wt%≦Fe≦1.5wt%のときMn=[(Fe/5)+0.2]wt%であり、一方、1.5wt%<Fe<2wt%のときMn=[−Fe+2]wt%である。
【0021】
【表1】
Figure 0003828664
【0022】
各Al合金(1)〜(12)を用いて前記攪拌連続鋳造装置1によりインゴットIを鋳造した。鋳造条件は、溶解温度:730℃;スパウト15直上の溶湯温度:650℃;鋳造引出し速度:150mm/min ;スパウト15の張出し量Δr:2mm;インゴットIの直径:152.4mm;溶湯攪拌領域形成部bにおける磁束密度:360Gs(4極コイル、50Hz);上部周縁部分cにおける溶湯mの冷却速度CR:15.5℃/s;に設定された。
【0023】
各インゴットIについて、α−IMCおよび微細β−IMCの存在を調べたところ、Al合金(1),(3),(4),(7),(10),(11)よりなる各インゴットIにおいては多量の微細β−IMCの存在が認められたが、Al合金(2),(5),(6),(8),(9),(12)よりなる各インゴットIにおいては多量のα−IMCの存在が認められた。
【0024】
図4は、Fe含有量を横軸に、またMn含有量を縦軸にそれぞれとって、各Al合金(1)〜(12)を、そのFeおよびMn含有量で表示したものである。図中、点(1)〜(12)がAl合金(1)〜(12)にそれぞれ該当する。
【0025】
前記鋳造結果より、図4において点(0.75,0)、点(1)、点(3)、点(7)、点(10)、点(11)、点(2.0,0)を結んで得られる四辺形の内側が微細β−IMCを多量に晶出させ得る領域であると言える。この場合、前記領域には、線Fe=0.75、線Mn=(Fe/5)+0.2および線Mn=−Fe+2は含まれるが、線Mn=0は含まれない。
〔実施例2〕
表2はAl合金の組成およびMnの上限値を示す。その上限値は、0.75wt%≦Fe≦1.5wt%であるからMn=[(Fe/5)+0.2]wt%である。
【0026】
【表2】
Figure 0003828664
【0027】
Al合金を用いて前記攪拌連続鋳造装置1によりインゴットIを鋳造した。鋳造条件は、溶解温度:730℃;スパウト15直上の溶湯温度:650℃;鋳造引出し速度:150〜270mm/min ;スパウト15の張出し量Δr:2〜36mm;インゴットIの直径:152.4mm;溶湯攪拌領域形成部bにおける磁束密度:360Gs(4極コイル、50Hz);に設定され、上部周縁部分cにおける溶湯mの冷却速度CRを、鋳造引出し速度およびスパウト15の張出し量Δrを前記範囲においてそれぞれ変更することによって変化させた。
【0028】
各インゴットIについて、α−IMCおよび微細β−IMCの存在率およびレオロジー性を調べたところ、表3の結果を得た。
【0029】
α−IMCの存在率D1 および微細β−IMCの存在率D2 は、金属顕微鏡100倍視野におけるα−IMCの面積率をd1 とし、β−IMCの面積率をd2 としたとき、D1 ={d1 /(d1 +d2 )}×100、D2 ={d2 /(d1 +d2 )}×100の式によって求められた。
【0030】
レオロジー性については、各インゴットIからそれぞれ直径3mm、厚さ2mmの試験片を切出し、図5に示すように天秤45の一方の皿46に20gの分胴47を載せ、また他方の容器48に試験片49を嵌め込み、そして試験片49をヒータ50により加熱すると共に直径1mm、長さ2mmのピン51を試験片49に押し付け、20gの分胴47と釣合った押圧力でピン51が試験片49に刺さっていくときの温度、つまりTMA温度を測定した。
【0031】
【表3】
Figure 0003828664
【0032】
表3から明らかなように、冷却速度CRを10℃/s≦CR≦30℃/sに設定すると、例8〜12のごとくα−IMCの存在率を5%、つまりその晶出量を不可避量に抑制して、微細β−IMCの存在率を95%、つまりその晶出量を上限値まで高めることができる。
【0033】
表2と同一組成のAl合金を用い無攪拌にて得られたインゴットに関するTMA温度は600℃であり、これはレオロジー性が劣り、チクソキャスティング用鋳造材料として用いることはできない。前記冷却速度CRの範囲内で鋳造された例8〜12のTMA温度は600℃未満であり、したがって良好なレオロジー性を有する。
【0034】
次に例5および例8を用いてチクソキャスティング法を行い2種のAl合金部材を鋳造した。鋳造条件は、鋳造材料の温度580℃、射出速度2.0m/s、金型温度250℃に設定された。
【0035】
各Al合金部材から試験片を作製し、それらについて、引張圧縮疲労試験を行ったところ、図6の結果を得た。図中、例5,8はそれぞれ前記インゴットの例5,8にそれぞれ対応する。図6から明らかなように、多量の微細β−IMCを有する例8を用いると、α−IMCのみを有する例5を用いた場合に比べて、優れた疲労強度を有するAl合金部材を得ることができる。
【0036】
【発明の効果】
本発明によれば前記のような手段を採用することにより、Al合金部材の機械的特性向上の点において、有害なα−IMCの晶出量を不可避量に抑制すると同時に有益な微細β−IMCの晶出量を上限値まで高めることが可能な、Al合金の攪拌連続鋳造法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】連続鋳造装置の縦断面図である。
【図2】図1の要部拡大図である。
【図3】成層鉄心とコイルの関係を示す要部平面図である。
【図4】各種Al合金をFe含有量およびMn含有量で表示したグラフである。
【図5】TMA温度測定法を示す説明図である。
【図6】疲労試験結果を示すグラフである。
【符号の説明】
13 水冷鋳型
15 スパウト
a スパウト内周面
b 溶湯攪拌領域形成部
c 上部周縁部分
m 溶湯
A 溶湯攪拌領域

Claims (1)

  1. Al合金組成の溶湯(m)をスパウト(15)内で攪拌しつつ、そのスパウト(15)直下に配置された筒状鋳型(13)に導入する攪拌連続鋳造法において、前記Al合金組成の溶湯(m)として、Fe含有量が0.75wt%≦Fe<2wt%であり、またMn含有量が、0.75wt%≦Fe≦1.5wt%のときMn≦[(Fe/5)+0.2]wt%であり、一方、1.5wt%<Fe<2wt%のときMn≦[−Fe+2]wt%であるものを用い、前記スパウト内周面(a)上の溶湯攪拌領域形成部(b)の上部周縁部分(c)における前記溶湯(m)の冷却速度CRを10℃/s≦CR≦30℃/sに設定することを特徴とするAl合金の攪拌連続鋳造法。
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