JP3824700B2 - ヒトsim遺伝子 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ヒト及びマウスSIM遺伝子、該遺伝子のクローニング方法並びに該遺伝子の用途に関する。
【0002】
【従来の技術】
ダウン症候群(トリソミー21)は、精神遅滞及び先天的心疾患の主要な原因となる先天性の疾患である。ダウン症候群は、免疫機能及び内分泌系の機能の欠如と関連しており、白血病にり患する割合及び若年期にアルツハイマー病が発症する割合が高い(Epstein,C.(1986), Consequences of Chromosome Imbalance Principles, Mechanisms, and Models(Cambridge Univ. Press, New York))。
【0003】
第21番染色体のトリソミーが正常な発生を妨げる点についての機構はほとんど知られておらず、ダウン症候群の直接の原因となる遺伝子も同定されていない。このため、本発明者は、ダウン症候群の病因となる遺伝子を単離することを目的として、フランスのCEPH(ヒト多型解析センター)で作製された第21番染色体特異的YAC(酵母人工染色体)ライブラリーから選んだD21S55領域の10個のYAC 及びこれらのYAC を用いてヒト第21番染色体特異的コスミドライブラリーから単離したコスミドを用いてマーカーD21S55を取り囲んでいる第21番染色体の約2メガベースの領域について検討を行った(Rhamani,Z. et al.,(1989) Proc.Natl.Acad.Sci.USA,86,5958-5962; Delabar,J.M. et al.,(1993) Eur.J.Hum.Genet.,1,114-124; Korenberg,J.R. et al.,(1994) Proc.Natl.Acad.Sci.USA,91,4997-5001) 。
【0004】
D21S55座の周囲の領域〔CBR(カルボニルリダクターゼ(NADPH) の遺伝子)とERG(v-ets E26 癌遺伝子関連遺伝子) との間に位置する〕は、第21番染色体の部分的トリソミーを有する患者の解析から、ダウン症候群の病因に特に重要であることが示唆されている(Rhamani,Z. et al.,(1989) Proc.Natl.Acad.Sci.USA,86,5958-5962; Delabar,J.M. et al.,(1993) Eur.J.Hum.Genet,.1,114-124; Korenberg,J.R. et al.,(1994) Proc.Natl.Acad.Sci.USA,91,4997-5001)。そこで、本発明者は、D21S55領域から単離したコスミドクローンを用いてエキソントラッピング実験を行った(Church,D.M. et al.,(1994) Nature Genet.6,98-105) 。この領域から、160 を超える推定エキソン配列を単離した(Kudoh,J. et al.,(1995) Cytogenet Cell Genet 70,177-178)。その結果、本発明者は6個のエキソンを見出し、これがショウジョウバエのsim(single-minded)遺伝子と著しいホモロジーを有することを明らかにした (Chen,H. et al.,(1995) Nature Genet.10,9-10) 。
【0005】
ショウジョウバエsim遺伝子は中枢神経系の初期発生において重要な遺伝子の発現を調節する特異なタンパク質をコードするものであることが示唆されている(Thomas,J.B. et al.,(1988) Cell,52,133-141;Crews,S.T. et al.,(1988) Cell,52,143-151; Nambu,J.R. et al.,(1990) Cell,63,63-75; Nambu,J.R. et al.,(1991) Cell,67,1157-1167; Franks,R.G. & Crews,S.T.(1994) Mech.Dev.45,269-277) 。従って、D21S55領域からヒトの相同遺伝子を同定したことはきわめて意義深いものである。また、ショウジョウバエsim遺伝子の欠損は致死的であり、胚発生段階過程において重要な機能を果たすことが示唆されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
従って、上記sim遺伝子と高いホモロジーをもつヒト又はマウス型遺伝子(SIM遺伝子)の発現は、特に精神神経作用と関連するものと考えられ、ヒト又はマウスのSIM遺伝子を単離することは、多くの神経疾患に関する遺伝子診断等に使用し得ることが期待される。
そこで、本発明は、ヒト及びマウスSIM遺伝子を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記課題に基づいて鋭意研究を行った結果、ダウン症として最も注目されているヒト第21番染色体領域からヒトSIM遺伝子を見い出し、さらに、11.5日のマウス胚から調製したcDNAライブラリーをスクリーニングすることによりマウスSIM遺伝子を単離することに成功し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、配列番号1〜4で表されるいずれかのアミノ酸配列を実質的に含み、中枢神経系の初期発生の調節活性を有するポリペプチドである。
【0008】
さらに、本発明は、配列番号1〜3で表されるいずれかのアミノ酸配列を実質的にコードするDNA若しくはこれに相補的なDNAを含むヒトSIM遺伝子、配列番号6〜11で表されるいずれかの塩基配列若しくはこれに相補的な塩基配列のうちの少なくとも10個の塩基配列を含むヒトSIM遺伝子、又は配列番号6〜11で表されるいずれかの塩基配列若しくはこれに相補的な塩基配列のDNAを少なくとも1つ含むヒトSIM遺伝子である。
さらに、本発明は、配列番号4で表されるアミノ酸配列を実質的にコードするDNA又はこれに相補的なDNAを含むマウスSIM遺伝子、又は配列番号5で表される塩基配列を実質的に含むマウスSIM遺伝子である。
【0009】
ここで、「実質的に」とあるのは、本発明のポリペプチド又は遺伝子が中枢神経系の初期発生の調節活性を有する限り、アミノ酸又は塩基配列のいくつかについて欠失、置換、付加等の変異が生じてもよいことを示すものである。従って、例えば配列番号1に示したアミノ酸配列をコードする塩基配列をもつもののほか、縮重コドンにおいてのみ異なる同一のポリペプチドをコードする縮重異性体も本発明の遺伝子に包含される。また、配列番号1で表されるアミノ酸配列の第1番目のメチオニン(Met) が欠失しているもの、配列番号3で表されるアミノ酸配列のN末端側にアルギニン(Arg)及びイソロイシン(Ile) が付加しているもの(配列番号2)なども、このアミノ酸配列の変化によるポリペプチドに包含される。
【0010】
さらに、本発明は、前記ヒト又はマウスSIM遺伝子が組み込まれた組換え体DNAである。
さらに、本発明は、前記ヒト又はマウスSIM遺伝子を含む神経系疾患の診断剤である。
さらに、本発明は、前記ヒト又はマウスSIM遺伝子を用いて神経系疾患に関連する染色体を検出する方法である。神経系疾患としては、アルツハイマー病、ダウン症候群又はてんかんが挙げられる。
【0011】
さらに、本発明は、ヒト由来の細胞から染色体ソーティングにより得られる染色体を制限酵素処理してDNA断片を得、該DNA断片をベクターに組み込んでコスミドライブラリーを作成し、得られるコスミドライブラリーからエキソントラッピングによりエキソンを単離し、該エキソンの塩基配列を決定することを特徴とするヒト型遺伝子のクローニング方法である。ヒト型遺伝子としては、例えばヒトSIM遺伝子が挙げられる。
【0012】
ここで、「SIM遺伝子」とは、ショウジョウバエのsim(single-minded )遺伝子と高いホモロジーを有する遺伝子の意味であり、ショウジョウバエの遺伝子を「sim」、哺乳動物の遺伝子を「SIM」とすることにより両者を区別している。
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
I.ヒトSIM遺伝子のクローニング
本発明のヒトSIM遺伝子は、ヒトリンパ芽球由来細胞から染色体ソーティングにより染色体を単離した後、コスミドライブラリーの作成及びコスミドクローンの分離を行い、さらにエキソントラッピングと呼ばれる手法によりエキソンを単離し、塩基配列を決定することにより得られる。このように、本発明のクローニング法における各要素技術としては公知のものであるが、かかる公知技術を有効に組み合わせることにより所期の目的を達成することができる。
【0014】
(1) 染色体ソーティング
本発明のSIM遺伝子を含む第21番染色体を単離するため、染色体ソーティングを行う。ヒト第21番染色体は、FACSソーターを用いて単離することができる。手法は以下のとおりである。
原料となるヒト由来の細胞は、正常の染色体核型を示し、容易に培養でき、コルセミドなどで分裂中期の状態に停止させ易い特徴を有していれば特に限定されず、例えば、ヒトリンパ芽球由来のGM130B細胞を用いることができる。
【0015】
ヒトリンパ芽球由来のGM130B細胞に30ng/ml のコルセミドを加え、10〜12時間培養を続けた後に遠心し、細胞を回収する。分裂中期の染色体は、ポリアミン・ジギトニン法で調製することができる(Sillar & Young, Histochem.Cytochem. 29: 74-78,1981)。
上記のようにして得られた染色体を、FACSソーター(Becton-Dickinson社製)にかけ、21番染色体を単離することができる(Minoshima, S. et al., Cytometry, 11: 539-546, 1990) 。
【0016】
(2) コスミドライブラリーの作成
上記(1)で単離された第21番染色体は、純粋、無傷、無菌的であり、通常1,000
万本を目標に集める。
これを適当な制限酵素、例えば、MboI等で部分分解し、得られるDNA断片をベクターに組み込んでコスミドライブラリーを作成する。ここで用いるベクターとしては、平均40kb程のDNA断片をゲノム全体から均一に組み込める点で大腸菌のコスミドベクターが好ましい。コスミドベクターとしては、例えばSuperCos1 ベクターが挙げられる(Evans, G.A., Gene, 79: 9-20, 1989)。
【0017】
通常は、コスミドクローンをマイクロタイタープレートに収納する。また、ライブラリーを効率よくスクリーニングするためにナイロンフィルターにコスミドクローンをコロニー状に増殖させた高密度レプリカフィルターを作製する。
また、λファージ又はP1、PAC若しくはBACベクター等もライブラリー作成に利用することができる(Sternberg,N.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,87:103-107,1990; Ioannou,A.P.,et al.,Nature Genetics,6:84-89,1994; Shizuya,H.,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA.,89:8794-8797,1992) 。
【0018】
(3) エキソントラッピング及び塩基配列の決定
エキソントラッピングとは、ヒト遺伝子のエキソン−イントロン構造からエキソンに相当する塩基配列のみを単離するクローニングの方法のことをいう。
エキソントラッピングの方法は、基本的にはLIFE Technologies 社のExon Trapping Systemのマニュアルに基づいて行う。概略は以下に記載する通りである。
上記コスミドライブラリーのDNAを制限酵素処理し、プラスミドDNAにサブクローニングする。これを適当な宿主に形質転換してDNAを単離する。ここで用いることができるプラスミドとしては、pSPL3等が挙げられ、宿主としては大腸菌(例えばDH10B(GIBCO-BRL))等が挙げられる。
【0019】
次に、得られるプラスミドDNAを哺乳動物細胞等にトランスフェクトする。トランスフェクションの際には例えばLIPOFECT-AMINE試薬(LIFE Technologies 社) 等を用いる。哺乳動物細胞としてはCOS-7細胞等が挙げられる。
得られた細胞から、cDNAを合成する。合成方法としては、トランスフェクトしたCOS-7細胞からRNAを抽出し、逆転写酵素を用いて行う。
【0020】
得られたcDNAを、ユニークなプライマーSA2(配列番号12)及びSD6(配列番号13)を用いて、例えばPCR(polymerase chain reaction)反応により増幅する。
さらに、得られたcDNAを制限酵素BstXIで処理し、ユニークなプライマーdUSA4(配列番号14)及びdUSD2(配列番号15)を用いて、PCR反応により増幅する。次いで、プラスミドpAMP10へのクローニングを行う。クローニング後の大腸菌コロニーを、SD2(配列番号16)及びSA4(配列番号17)をプライマーとしてPCR処理し、得られる産物について適当なプライマー(例えばSD2又はSA4)を利用して塩基配列決定を行う。塩基配列の決定は、通常の方法により行うことができる。例えば、サンガーのジデオキシ法などが挙げられる。本発明では、ABI社製の自動シークエンサー等を用いることができる。
【0021】
解析したDNAの塩基配列から、その塩基配列と相補的な配列を決定することができ、さらに、前記配列又はこれに相補的な配列がコードするアミノ酸配列を予測することもできる。
尚、本発明のDNAは、その一部又は全部を化学合成によって得ることも可能である。
【0022】
(4) ポリペプチドの精製
次に、得られたクローンから本発明のポリペプチドをコードする遺伝子の全部又は一部を切り出し、これを適当なプラスミドにつないだ後、適当な宿主に導入して形質転換を行う。プラスミドとしてはpSE420(Invitrogen)、pGEX-2T(Pharmacia)等が挙げられ、宿主としては、大腸菌JM109等が挙げられる。
本発明のポリペプチドを得るには、前記形質転換体を一般に使用されている培地で培養し、通常行われている方法によって精製すればよい。
【0023】
培地としては、例えばアンピシリン等の薬剤を含むLB培地等が挙げられる。
培養は通常20〜37℃で6〜72時間行い、必要によりIPTG(イソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド)で発現の誘導を行う。
培養後菌体を集め、例えば可溶性の発現産物の場合は、緩衝液に懸濁させた後、凍結、融解処理、煮沸処理等を行った後、遠心分離により上清液を得る。
得られた上清液からの本発明のポリペプチドの分離、精製は、通常知られている蛋白質の精製方法に従えばよい。例えば、塩析法、遠心分離法、各種クロマトグラフィー、電気泳動等を適当に組み合わせて精製を行う。
【0024】
各種クロマトグラフィーとしては、ゲルろ過、イオン交換クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等が挙げられる。また、必要があれば融合蛋白をトロンビン、エンテロキナーゼ等のプロテアーゼにて除去する。また、精製品の純度及びおよその分子量の確認はSDS(ドデシル硫酸ナトリウム)ポリアクリルアミドゲル電気泳動法、ウエスタンブロット法等を用いて行う。
なお、精製された蛋白質のアミノ酸配列の解析は、気相プロテインシークエンサーを用いた自動エドマン分解法等によって行うこともできる。
【0025】
(5) 塩基配列のホモロジー検索
上記のようにして塩基配列を決定したエキソンについて、GenBank データベースにより、既知の遺伝子塩基配列とのホモロジー検索を行い、ショウジョウバエsim(single-minded)遺伝子との相同性を調べる。
【0026】
(6) ヒトSIM遺伝子の合成
次に、前記(3)で決定された塩基配列に基づいて通常の方法、例えばフォスフォアミダイト法によりヒトSIM遺伝子(核酸化合物)の合成を行うことができる。
核酸化合物の合成は、一般に公知技術により合成することができ、例えば、ミリジェン/バイオサーチ社製のサイクロン8000を用いて行うことができる。
【0027】
次に、合成した核酸化合物について、所定のカラム(例えば逆相HPLCカラム等)で精製する。
また、前記(3)で決定された塩基配列又は(5)のホモロジー検索により相同であることがわかった部位の塩基配列から、少なくとも10塩基からなる塩基配列を選択し、該当する塩基配列を含む核酸化合物をカスタム合成することもできる。 上記合成された核酸化合物は、染色体検出試験に用いられる。
【0028】
II. マウスSIM遺伝子の単離及び間脳特異的発現
(1) マウスSIMcDNAクローニング
マウスSIMcDNAクローニングは、マウス胚cDNAライブラリー(Clontech社: ML1027a)から行う。該cDNAライブラリーは、ICRマウスの雌とスイス・ウェブスターマウスの雄との交配後、11.5日目の胚のmRNAからλgt10ベクターを用いて作製されたものである。
【0029】
まず、上記cDNAライブラリーから32P標識したヒトSIMエキソンのうちの一つ(simex 1; 配列番号6,図1参照) を用いてスクリーニングする。また、cDNAインサートはさらにpBluescript IIKS+ ベクター(Stratagene 社)にサブクローニングする。
ヒトSIMエキソン(Simex 1)DNAをランダムプライミング法(Feimberg, A.P. & Vogelstein, B.(1984) Anal.Biochem.,137,266-267)により〔α-32P〕dCTPで標識し、これをプローブとしてプラークハイブリダイゼーション法によりSIMcDNAを含むλgt10ファージをスクリーニングする。得られたファージクローンを増殖させ、精製したファージDNAから制限酵素EcoRI を用いてcDNA断片を切り出し、pBluescript IIKS+ ベクターにサブクローニングする。
【0030】
(2) 次に、マウスSIMcDNAインサートからHenikoffの方法(Henikoff,S.(1987) in Methods in Enzymology (Academic Press, San Diego),Vol.155,156-165)に従ってNested Deletion クローンを調製し、Sangerら(1977)のジデオキシターミネーション法とPharmacia 社製のALFred DNAシーケンサーを用いて塩基配列を決定する。
塩基配列が決定された後は、任意の2箇所を選び、それぞれの塩基配列からオリゴヌクレオチドを化学合成し、これらをプライマーとして用いることによるPCRによって、マウスmRNA又はcDNAライブラリーから同じcDNAを増幅することもできる。
【0031】
(3) マウスSIMタンパク質の構造
マウスSIMタンパク質のアミノ酸配列は、TFASTAプログラム(Pearson,W.R. and Lipman,D.J.(1988) Proc.Natl.Acad.Sci.USA)により検索することができる。そして、ショウジョウバエの中枢神経系の発生に重要な機能を果たすSIMタンパク質とのホモロジー検索を行う。
【0032】
(4) マウスSIM遺伝子の間脳特異的発現
ICR、Swissなどの各種系統マウスの8〜9.5日胚を用いてホールマウントin situ ハイブリダイゼーションを行う(Conlon,R.A. & Herrmann,B.G.(1993)in Methods in Enzymology(Academic Press, San Diego), Vol.225, 373-383)。「ホールマウントin situ ハイブリダイゼーション」とは、胎仔そのものをハイブリダイゼーション溶液の中でプローブと反応させた後、mRNAと特異的に結合したプローブを検出することにより、遺伝子の発現する臓器・組織を特定する手法をいう。
【0033】
摘出した胎仔は、4%パラホルムアルデヒド溶液中で固定する。さらに、プロテイナーゼK処理等の前処理を施した後、0.2 %グルタルアルデヒド/4%のパラホルムアルデヒド中で再固定する。ハイブリダイゼーションは、50%のホルムアミドを含む溶液中にジゴキシゲニンで標識したアンチセンスRNAを加えて行う。ハイブリダイゼーション後プローブを洗浄する。
【0034】
上記ハイブリダイゼーションを行うための、マウスSIM遺伝子のmRNAを特異的に認識するプローブは、T7RNA ポリメラーゼとジゴキシゲニン−11−UTPを用いてマウスSIMcDNAの2.9kb EcoRI 断片を含むプラスミドDNAのXhoI消化物から作製する。ハイブリダイゼーションのシグナルはアルカリホスファターゼ結合抗ジゴキシゲニン抗体で検出する。
【0035】
(5) マウスSIM遺伝子の合成
マウスSIM遺伝子の合成については、前記I(6)のヒトSIM遺伝子の合成手法に準じて合成することができる。
合成された核酸化合物は、染色体検出試験に用いられる。
【0036】
III. 診断剤(染色体検出試験)
核酸化合物による染色体検出試験は、スロット・ブロットハイブリダイゼーション又は蛍光in situ ハイブリダイゼーション(FISH)により行うことができる。
(1) スロット・ブロットハイブリダイゼーションによる染色体検出
スロット・ブロットハイブリダイゼーションの場合は、前記I(6)又はII(5) で合成された核酸化合物のうちの少なくとも10個の塩基配列を含むものを32Pで標識後、染色体遺伝子のプローブとして用い、羊水細胞又は絨毛細胞からのDNAをメンブレンフィルター(Immobilon filter:Milipore)にスロット状に添付したものに対してハイブリダイゼーション反応を行い、次いで、オートラジオグラフィーをとり、バンドの濃さを指標として染色体数の増加の検出を行う。
【0037】
オートラジオグラムの結果、バンドの濃さが正常の1.5倍であればダウン症であると判断することができる。ここで、本発明の遺伝子は、21番染色体とハイブリッドを形成することができる限り、正常ヒト染色体からの遺伝子であると、ダウン症染色体からの遺伝子であるとを問わない。
以上より、本発明のヒト又はマウスSIM遺伝子は、第21番染色体のダウン症関連領域から分離されたものであり、他の染色体には結合しないことから、ダウン症候群等の疾患の診断等に有用である。
【0038】
(2) FISHによる染色体検出
FISHによる場合は、以下の通り行う。
SIM遺伝子の塩基配列(前記I(6)又はII(5)で合成された核酸化合物のうちの少なくとも10個の塩基配列を含むもの)を利用してこの遺伝子領域を含むコスミドクローンをスクリーニングする。これらのクローンは既に同定されているのでそれを用いる。コスミドからDNAを抽出して、ニックトランスレーション法でジゴキシゲニン標識されたプローブを調製する。次に、スライドグラス上の間期細胞に所定の方法でハイブリダイゼーションを行い、蛍光標識した抗ジゴキシゲニン抗体を結合させて、蛍光顕微鏡で観察する。一般に、スポット状の蛍光シグナルが正常細胞では2個であるのに対し、ダウン症患者の細胞では3個であることから、3個検出されればダウン症と判定することができる。
【0039】
【発明の実施の形態】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明する。但し、本発明はこれら実施例に限定されない。
【0040】
〔実施例1〕ヒトSIM遺伝子のクローニング
(1) 分裂中期染色体の調製
Bリンパ芽球細胞GM130BをRPMI培地(10〜15%のウシ胎仔血清、0.3mg/ml グルタミン、100μg/mlカナマイシン、1μg/mlファンギゾンを含む)で飽和密度まで培養する。3〜6倍に希釈して、4〜6×105 細胞/mlの濃度で約100mlを培養する。24〜30時間培養後、コルセミドを30ng/ml になるように加える。さらに10〜12時間培養後、細胞を遠心で回収する。沈澱(細胞)に10〜20mlの75mM-KClを加え、ピペッティングによってよく撹拌する。一部の細胞懸濁液(20μl)について、死細胞を区別するためのトリパンブルー(0.1%)を80μl 加えて生細胞数を数える。別にエッペンドルフ試験管に細胞懸濁液を80μl 取り、室温で10分間放置後、カルノア液で固定し、スライドグラスに広げて全視野の分裂染色体数及び核を数え、分裂指数(MI)を算定する。残りの懸濁液は直ちに恒温槽(37℃)に入れ15分間保温する。遠心して細胞を集め、10〜20mlのポリアミン緩衝液(15mM-トリス塩酸緩衝液、pH7.2/2mM-EDTA/0.5mM-EGTA/80mM-KCl/20mM-NaCl/0.2mM-スペルミン/0.5mM-スペルミジン/14mM-2-メルカプトエタノール)に懸濁し、目盛り付きプラスチック遠心管(15ml)に移して時々撹拌しながら40分間氷中に立てておく。5分間冷却遠心(4℃、120×g)して細胞を集める。沈澱の体積(V)を読み取り、上清を除去し、式〔0.45×MI×V〕により算出された量(ml)のポリアミン緩衝液を加えて穏やかにピペッティングする。ジギトニン(10mg/ml)・ポリアミン緩衝液をポリアミン緩衝液の1/9量加え、速やかにミキサーで30秒間撹拌する。氷上で30秒間冷却した後、再度ミキサーにかける。5分間冷却遠心(4℃、70×g)し、静止期細胞由来の核を沈澱させる。シリコン処理したパスツールピペットで上清を集め、1/9量のトリトンX-100(10%)・ポリアミン緩衝液を加え、ミキサーで軽く撹拌して染色体標品として4℃で保存する。
【0041】
(2) 21番染色体のソーティング
上記の方法で調製した分裂中期染色体をヘキスト(Hoechst)33258(2μg/ml)又はヨウ化プロピジウム(35〜50μg/ml)で染色後、FACS 440ソーターを用いて1,000万本の21番染色体を無傷、無菌的に単離した(Minoshima. S. et al,. Cytometry, 11:539-546, 1990; 清水・蓑島,日本生化学会編:新生化学実験講座,2, 221-230, 1993,(東京化学同人))。
【0042】
(3) コスミドライブラリーの作成
ソーティングした1,000万本の純粋なヒト21番染色体からSDS/プロティナーゼK処理、フェノール抽出、エタノール沈澱を行って約500ng の高分子量DNAを精製した。次いで制限酵素MboI (0.0075ユニット/μg DNA)で部分分解し、アルカリホスファターゼ(ウシの腸由来)を用いて5’末端のリン酸を除いた後、T4リガーゼを用いてコスミドベクターSuperCos1 (Evans, G. A. et al., Gene, 79:9-20, 1989)DNAと結合した。さらに、λファージin vitroパッケージングシステム(Gigapack II Gold : Stratagene)を用いてコスミドのパッケージングを行ない、大腸菌 DH5αMCR(mcrA、mcrCB、mrr)を宿主として大量のコロニーを得た。
【0043】
約33,000のコスミドクローンを個別に96穴マイクロタイタープレート345枚に収納した。さらに、96穴プレート16枚分(1,536クローン:21番染色体約1本分のDNA)をナイロンフィルターに2mm間隔でスポットした高密度レプリカ(HDR)フィルターを、7枚(染色体6本分に相当)1組として作製した。
【0044】
(4) ダウン症候群関連領域からのコスミドクローンの分離
ダウン症候群の発症は、21番染色体の特定の領域(21q22.2-q22.3; D21S17-D21S55-ETS2 )に存在する遺伝子群に関連しているとされている(Delabar. J.M. et al., Eur. J. Hum. Genet., 1:114-124, 1993)。この領域(約5Mb:21番染色体の1/10の大きさ)に相当するYACクローンはすでにフランスのCEPH(DNA多型研究所)のグループによって調製され、複数のクローンが整列されている(Chumakov, I. et al., Nature, 359:380-387. 1992)。本発明者は、これらのYACクローン10個から抽出したDNAをそれぞれプローブに用いて、先に調製した21番染色体に特異的なコスミドクローンのHDRフィルターをスクリーニングし、この領域に由来する1,003個のコスミドクローンを分離した。さらにYACクローンの重なりを利用して884個のコスミドクローンを19のサブ領域に分類した。すなわち、ダウン症関連領域(5Mb)を平均260kbの区画に区切り、その中に平均46個のコスミドクローンを集積した。
【0045】
(5) エキソントラッピング
サブ領域に分類されたコスミドクローン10個ずつをプールしてDNAを調製し、Life Technologies 社のエキソントラッピングシステムを用いて同社のマニュアルに準じてエキソンの単離を行った(Church, D. M. et al., Nature Genet., 6:98-105, 1994; Instruction Manual for Exon Trapping System, Cat. No. 18449-017, Life Technologies)。
150以上のエキソンを単離して塩基配列を決定した結果、5個がSIM遺伝子由来であった。
【0046】
コスミドDNA及びベクターpSPL3 DNAを制限酵素PstIなどで切断した後、アルカリホスファターゼで脱リン酸化し、互いにライゲーションした。次いで大腸菌DH10Bのコンピテント細胞に標準法でトランスフェクションし、組換えpSPL3プラスミドを得た。
組換えpSPL3プラスミドをアフリカミドリザルの腎臓由来細胞(COS-7) にマニュアル(Exon Trapping System;LIFE Technologies 社,16ページ) に従ってトランスフェクトした。この際LipofectACE(3μL)の代わりにLipofectAMINE(6μL)を使用し、DNA量は0.5μgに減らし、感染させた後の培養は40時間と長くした。感染細胞からのRNA抽出はTRIZOL試薬を用いてマニュアル(17ページ)に準じて行なった。RNAからcDNAの合成はマニュアル(19ページ)の1/2 スケールで行った。
【0047】
1回目のPCR、BstXI 処理、さらに2回目のPCRは全てマニュアル(19-20ページ)に従って行なった。2回目のPCR産物のクローニングはpAMP10ベクター及びUDG(ウラシルDNAグリコシラーゼ) を用いてマニュアル(22ページ)に準じて行なった。大腸菌への感染はDH10B株を用いた。形質転換体は、コロニーPCR (30サイクル)産物をアガロースゲル電気泳動にかけ、サイズ分布でチェックした。
【0048】
クローン化したエキソンの塩基配列決定は、シーケンシングプライマーSD2及びPerkin-Elmer Dye-Terminator Cycle Sequencing System で行った。
その結果、配列番号6〜11で表される塩基配列が得られ、これらはヒトSIM遺伝子の一部を構成するものである。また、配列番号6〜11で表される塩基配列を基に推定したアミノ酸配列のうち、配列番号6及び9で表される塩基配列を基に推定したものを、それぞれ配列番号1、2に示す。
【0049】
なお、配列番号9で表される塩基配列には、その第1〜第6番目に塩基が人工的に付加されており(修飾型)、かかる塩基配列の遺伝子はこれらの塩基を含まない配列(天然型;配列番号10)の遺伝子と同様に中枢神経系の初期発生の調節活性を有する。また、配列番号2に示すアミノ酸配列には、その第1〜第2番目にアミノ酸が人工的に付加されており(修飾型)、これらのアミノ酸配列を含まないポリペプチド(天然型;配列番号3)と同様に中枢神経系の初期発生の調節活性を有する。
【0050】
(6) 塩基配列のホモロジー検索によるヒトSIM遺伝子の発見
得られた塩基配列は、GenBankデータベースによるホモロジー検索の結果ほとんどが未知の塩基配列であったが、5個のエキソンがショウジョウバエの中枢神経系の発生に重要な機能を果たす遺伝子sim(Thomas, J.B. et al., Cell. 52:133-141. 1988: Crews, S.T. et al., Cell. 52:143-151. 1988; Chen. H. et al., Nature Genet., submitted)と高いホモロジーを示した。このヒト型SIM遺伝子は、ダウン症の精神遅滞との関連で注目に値する。
【0051】
〔実施例2〕マウスSIM遺伝子の単離及び間脳特異的発現
(1) マウスSIMcDNAクローニング
マウスSIMcDNAクローンは、マウスの11.5日胚から作製したλgt10 cDNA ライブラリー(Clontech 社)から32P 標識したヒトSIMエキソンのうちの一つ(simex 1;配列番号6) を用いてスクリーニングした。すなわち、ヒトSIMエキソン(simex 1) のDNA30ngをランダムプライミング法により、30μCiの〔α-32P〕dCTPで標識した。一方、λgt10cDNAライブラリーは、2×105 プラークをナイロンメンブレンに移し取り、ファージDNAを固定した。プラークハイブリダイゼーション後、オートラジオグラフィーを行い、1個のcDNAクローンを得た(図1のmSIM1)。得られたSIMcDNA(0.85kb)をプローブとして、さらに5×105 プラークをスクリーニングし、2.9 kbのSIMcDNA(図1のmSIM4)が得られた。さらに、2.9 kbのcDNAをプローブとして3.1 kbのSIMcDNA(図1のmSIM45)が得られた。
【0052】
cDNAインサートはさらにpBluescript IIKS+ ベクター(Stratagene 社)にサブクローニングした。すなわち、SIMcDNAを含むλファージDNAを培養後、10μg のDNAを10単位の制限酵素EcoRIで消化し、低融点アガロースゲルを用いて電気泳動を行った。cDNA断片を含むゲルを切り出し、65℃でアガロースを融解後、フェノール抽出・エタノール沈殿法にてcDNA断片を精製した。一方、pBluescript IIKS+ ベクターDNA(1μg)は、2単位のEcoRIで消化後、牛小腸アルカリホスファターゼ(0.1 単位)処理を行って脱リン酸化した。cDNAをpBluescript IIKS+ ベクターにT4DNAリガーゼ(0.1 単位)で連結後、大腸菌XL1-Blue (Stratagene社)に導入した。
【0053】
(2) マウスSIMcDNAを持つプラスミドからHenikoff(1987)の方法に従ってNested Deletion クローンを調製した。すなわち、5μgのプラスミドDNAを制限酵素XhoI(10単位)、KpnI(10単位)で切断後、大腸菌のエキソヌクレアーゼIII(90単位)を加えてcDNAの末端から消化した。2、5、8、12、16分後に反応液の一部を取り出し、反応を停止した。続けてMungbeanヌクレアーゼ(3単位)を加えてDNAの末端を平滑化した後、T4DNAリガーゼ(0.1 単位)を加えて自己環状化させ、大腸菌XL1-Blue(Stratagene社)に導入した。得られたプラスミド保持菌からプラスミドDNAを精製した。
【0054】
次に、得られたクローンについて、Sangerら(1977)のジデオキシターミネーション法とPharmacia 社製のALFred DNAシーケンサーを用いて塩基配列を決定した。
その結果、3.6kb におよぶ塩基配列が得られた(配列番号5)。オープンリーディングフレーム(ORF;配列番号4)は、1971bp(配列番号5で表される配列中、塩基番号504〜2474)であった。そして、該ORF(配列番号4)により657個のアミノ酸からなる分子量72,430のタンパク質が産生されることが判明した。また、塩基配列の比較から、マウスSIM遺伝子は、すでに単離したヒトSIM遺伝子の6個のエキソンと高いホモロジー(塩基配列レベルで90%、アミノ酸レベルで98.4%)を有していた。
【0055】
(3) マウスSIMタンパク質の構造
1マウスSIMタンパク質のアミノ酸配列をTFASTAプログラム(Pearson,W.R. and Lipman,D.J.(1988) Proc.Natl.Acad.Sci.USA)で検索した結果、やはりショウジョウバエの中枢神経系の発生に重要な機能を果たすSIMタンパク質と最もホモロジーが高かった。そのホモロジーは配列番号1で表されるアミノ酸配列のN末端(配列番号5の配列中、塩基番号504 )から342 番目のアミノ酸領域に限局されており、いわゆるbHLH(basic-helix-loop-helix:塩基性アミノ酸に富む配列に続いてヘリックス−ループ−ヘリックス構造を有するアミノ酸配列が並んだ領域。ダイマー形成能およびDNA結合能を有する。)ドメインとPAS(Per-Arnt-Sim:ショウジョウバエのPer タンパク質、マウス及びヒトのArnt(及びAhr)タンパク質、ショウジョウバエのsimタンパク質の3者間で相同なアミノ酸配列。ダイマー形成能を有する。)ドメインとを含んでいた。
【0056】
一方、C末端側のアミノ酸配列(配列番号5の配列中、塩基番号1530〜2474の配列によりコードされるアミノ酸配列)はショウジョウバエのsimタンパク質だけでなく既知のどのタンパク質ともホモロジーを示さなかった。このC末端側領域はプロリン含量が極めて高く、既知の転写調節因子に共通の特徴があった。
【0057】
(4) マウスSIM遺伝子の間脳特異的発現
ICRマウスの8〜9.5日胚を用いてホールマウントin situ ハイブリダイゼーションを行った(Conlon,R.A. & Herrmann,B.G.(1993)in Methods in Enzymology(Academic Press, San Diego), Vol.225, 373-383)。マウスSIM遺伝子のmRNAを特異的に認識するプローブは、T7RNAポリメラーゼ(50単位とジゴキシゲニン-11-UTP(7nmole)を用いてマウスSIMcDNAの2.9kb EcoRI 断片を含むプラスミドDNAのXhoI消化物からRNAを転写することにより作製した。ハイブリダイゼーションのシグナルはアルカリホスファターゼ結合抗ジゴキシゲニン抗体で検出した。即ち、mRNAと特異的に結合したジゴキシゲニン標識アンチセンスRNAプローブに対し抗体を結合させた後、発色溶液(NBT:ニトロブルーテトラゾリウム塩、BCIP:5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリルホスフェートトルイジン塩、レバミゾールを含む)中で発色させた後、実体顕微鏡で観察した。
【0058】
マウスSIM遺伝子の発現は、8.0〜8.5日胚の間脳原基(図2a,c)及び9.0〜9.5日胚の間脳(図3a,b,d,e)で特異的に検出された。
図2cは、図2aの「*」印を付した段階の胚における間脳原基の断面図である。また、図3d、図3eは、図3aの胚をそれぞれm−m’方向、n−n’方向にスライスした際の断面図であり、図3fは、図3bの胚を正面から観察したものである。
【0059】
さらに、走査電子顕微鏡による観察から、間脳でも特に将来視床や視床下部に発達するD1及びD2神経片節に発現が限局されていることが判明した(図3cのD1,D2)。
よって、これらの図から本発明のマウスSIM遺伝子は8.0〜9.5日胚の間脳又は間脳原基において特異的に発現することがわかった。
【0060】
以上の結果、マウスSIMcDNA全構造が解明され、マウスSIMタンパク質が中枢神経系発生の重要な転写調節因子であることが判明した。従って、同じ哺乳類のヒトSIM遺伝子とSIMタンパク質の構造と機能の関係もより明確に類推できるようになった。また、マウスSIM遺伝子の発現は受精後8.0日から9.5 日の間に、脳、特に間脳で特異的に発現されることが示された。従って、ヒトにおいても胎児の初期発生段階で同様の特異的発現が起こっていると推定され、中枢神経系発生段階での役割、さらにはダウン症における精神遅滞との関連が強く示唆された。
【0061】
〔実施例3〕ダウン症関連染色体の検出
(1) 検出用DNAプローブの調製
ヒトSIM遺伝子の5個のエキソンはすでにプラスミドpAMP10にクローニングされている。従って、これらのプラスミド内のエキソンをPCRなどにより大量に増幅し、Quiagen カラムで精製後、ランダムプライミング法で32P標識し、放射性プローブとする。
配列表(配列番号6〜11)に示したヒトSIM遺伝子エキソンの塩基配列の化学合成は、DNA自動合成機による合成等、通常の方法により行うことができる。
【0062】
(2) SIM遺伝子と染色体の検出
i)スロットブロットハイブリダイゼーションによる検出
羊水細胞又は絨毛組織から標準法でDNAを抽出し、DNA濃度を測定する。正確に10μg のDNAを125mM-NaOH/0.125×SSCに取り、TE緩衝液で200μlにする。37℃で10分間保温した後、Immobilon N(Millipore)フィルターにスロットブロット用の鋳型を使って吸収させる。フィルターをバキュームオーブンに入れ、80℃で2時間ベークする。このようにしてDNAを吸着したフィルターを、5×Denhardt溶液/50%ホルムアミド/6×SSC/0.5%SDS/熱変性したサケ精子DNA(150μg/ml)と42℃で2時間保温してプレハイブリダイズする。次いで同じ溶液(但し10mM−EDTA添加)中で32P標識したSIMDNAプローブ(配列番号6〜11で表されるもの)とともに42℃、12時間保温する。フィルターは0.5×SSC/1%SDSで58℃、2時間洗浄後、乾燥してFujiバイオイメージアナライザーでオートラジオグラムを撮る。DNAバンドのシグナルの強さをアナライザーで定量する。
その結果、正常人のDNAをコントロールとしたときに1.5倍の値を示し、SIM遺伝子のコピー数が2から3になっていること、すなわち21番染色体のトリソミー(ダウン症)を検出した。
【0063】
ii) FISH法による検出
FISH法による検出は、公知の方法に準拠して行った(Shimizu et al., J. Cancer Res., 85: 567-571, 1994)。すなわち、羊水細胞又は絨毛細胞をスライドグラス上に塗沫し、カルノア液で固定した標品を用いた。プローブDNA(配列番号6〜11で表されるもの)についてはニックトランスレーション法を用いてジゴキシゲニンで標識した。この反応液は50μl中に1μgのDNA、各20μMのdCTP、dATP、dGTPおよびジゴキシゲニン-11-dUTP、DNAポリメラーゼI(2ユニット)、DNアーゼI (2μg)を含む。1枚のスライドグラス当たり、約100ngのプローブDNAを10μlのハイブリダイゼーション液に混ぜて添加し、反応させた。検出は、FITC標識抗ジゴキシゲニン抗体(IgG) 及びFITC標識ロバ抗ヒツジIgGを用いた。細胞は、ヨウ化プロピジウム(10ng/ml)でカウンター染色した。蛍光の検出はレーザー走査顕微鏡(MRC600/BIO-Rad社) で行った。
【0064】
シグナルは、健常人で2個、ダウン症で3個観察された。
以上の結果より、本発明の遺伝子によって21番染色体の検出が可能であるため、ダウン症候群の検出薬・診断剤として有用である。
【0065】
【発明の効果】
本発明により、ヒト及びマウスSIM遺伝子が提供される。本発明のヒト及びマウスSIM遺伝子は、ダウン症の診断用試薬等として有用である。
【0066】
【配列表】
【0067】
【0068】
【0069】
【0070】
【0071】
【0072】
【0073】
【0074】
【0075】
【0076】
【0077】
【0078】
【0079】
【0080】
【0081】
【0082】
【図面の簡単な説明】
【図1】マウスSIM遺伝子由来cDNAの制限酵素地図である。
【図2】マウス胚における本発明の遺伝子発現を示す写真である(生物の形態)。
【図3】マウス胚における本発明の遺伝子発現を示す写真である(生物の形態)。
Claims (4)
- 配列番号1〜3で表されるいずれかのアミノ酸配列をコードするDNA又はこれに相補的なDNAを含むヒトSIM遺伝子。
- 配列番号6〜11で表されるいずれかの塩基配列又はこれに相補的な塩基配列からなるDNAを少なくとも1つ含むヒトSIM遺伝子。
- 以下の(1)または(2)のいずれかのDNAを含むプローブを少なくとも1種以上含有することを特徴とする、ダウン症候群の診断剤。
(1) 配列番号1〜3で表わされるいずれかのアミノ酸配列をコードするDNA又はこれに相補的なDNA
(2) 配列番号6〜11で表されるいずれかの塩基配列又はこれに相補的な塩基配列からなるDNA - 請求項3に記載の診断剤を用いてダウン症候群に関連する染色体を検出する方法。
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