JP3821542B2 - アクチュエータ、変形可能ミラーの組立て方法並びに組立て装置、及び光学装置 - Google Patents
アクチュエータ、変形可能ミラーの組立て方法並びに組立て装置、及び光学装置 Download PDFInfo
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Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、反射面の変形が可能であって、その変形により入射光に各種の変調を与える変形可能ミラー、及びその組立て方法並びに組み立て装置、及び光学装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
光学装置としては、変形可能な反射面を有する変形可能ミラーと、この変形可能ミラーの反射面によって反射された光が通過するレンズとを備えるものがあり、変形可能ミラーの反射面を変形しないとき、変形するときに応じて、レンズを通過した光の焦点を変化させている。これによって、例えば異なる厚さの各光ディスクのいずれに対しても、光の焦点を正確に位置決めすることができ、これらの光ディスクへの記録や再生が可能となる。
【0003】
この種の反射面の変形が可能なミラーとしては、例えば特開平7−49460号公報に記載の焦点可変ミラーがある。図17は、この焦点可変ミラーを示している。同図において、薄膜ダイヤフラム301は、可撓性を有しており、厚さ10μm程度のパイレックスガラス等から形成されたものである。この薄膜ダイヤフラム301の表面には、光反射及び電極として作用する金属層303を形成している。リング状基板302は、円筒状であって、単結晶シリコンから形成されたものである。薄膜ダイヤフラム301の表側周縁は、リング状基板302に陽極接合されていている。また、薄膜ダイヤフラム301の裏側周縁は、絶縁体の台座部材304に接着されている。この台座部材304の内側には、可撓性部材301と距離を隔てて、対向電極層305を設けている。
【0004】
この様な構成において、対向電極305と金属層303間に、直流電圧を印加すると、両者間に静電引力が発生し、薄膜ダイヤフラム301が凹面状に変形する。
【0005】
しかしながら、このような変形可能ミラーでは次のような間題がある。
【0006】
▲1▼印加電圧による静電引力と薄膜ダイヤフラム301の引っ張り応力とのつりあいのみによって、薄膜ダイヤフラム301の変形形状が決定するので、この変形形状が安定しない。
【0007】
▲2▼空間的に離れた対向電極305と金属層303間の静電引力による変形であるため、薄膜ダイヤフラム301を凹形状にしか変形することができない。
【0008】
▲3▼静電引力の大きさは、対向電極305と金属層303間の距離に大きく左右されるため、組立て精度が要求される。
【0009】
▲4▼環境温湿度の影響によって、静電引力と薄膜ダイヤフラム301の引っ張り応力とのつりあい状態が変化するので、薄膜ダイヤフラム301の変形形状の再現性が悪い。
【0010】
そこで、この発明の出願人は、これらの間題を解決し得る変形可能ミラー(特願平7−312917号)を提案した。図18は、この変形可能ミラーを示している。同図において、可撓性部材201は、弾性変形可能であって、反射面201aを有する。基板枠202は、可撓性部材201の周縁を支持している。参照基板203は、平坦部204と参照面205を有しており、平坦部204を可撓性部材201の裏側周縁に接着して、基板枠202との間で該可撓性部材201の周縁を挟持している。参照面205上に、対向電極206を積層し、参照面205及び平坦部204上に、電圧のリークを防止するための絶縁部材207を積層している。
【0011】
この様な構成において、対向電極206と可撓性部材201間に電圧を印加すると、両者間の静電引力によって、可撓性部材201が参照面205へと吸い寄せられ、この可撓性部材201が参照面205に沿った形状に変形する。
【0012】
ここでは、可撓性部材201が参照面205に吸着した状態で変形するため、この可撓性部材201の変形形状が安定し、環境変化による影響を受け難くなる。また、参照面205の表面形状を例えば、凸形状や凹形状、あるいはこの両方を組み合わせた形状とすることにより、可撓性部材201を凹形状のみでなく任意の形状に変形させることが可能となる。
【0013】
次に、この変形可能ミラーについて、より詳細に説明する。基板枠202は、シリコン基板から形成されたものであり、このシリコン基板の一方の面にニッケル膜等を電界メッキ法等によって形成してから、このシリコン基板の中央部を異方性エッチングによって選択的に浸食してなる。このエッチングによって、シリコン基板の残った部分が基板枠202となり、先のニッケル膜が可撓性部材201となる。参照基板203は、ガラスモールド法や樹脂の成形によって形成されたものであり、この参照基板203の参照面205に、アルミニウム等からなる対向電極206と酸化シリコン等からなる絶縁部材207を順次形成している。基板枠202と参照基板203とは、図示しないスペーサーを介在させ、接着材によって相互に固定されている。そして、可撓性部材201と対向電極206間に電圧を印加することにより、静電引力を発生させ、可撓性部材201を参照面205に沿うように変形させている。
【0014】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、可撓性部材201を参照面205に沿って変形させると言う上記変形可能ミラーにおいても以下の様な間題がある。
【0015】
可撓性部材201と対向電極206間に電圧を印加すると、両者間に存在する絶縁部材207に電荷が注入され、この絶縁部材207が帯電してしまう。この状態では、可撓性部材201と絶縁部材207間に斥力が発生するので、可撓性部材201の変形形状が安定しなくなったり、可撓性部材201が参照面205に沿って変形しなくなる。あるいは、電圧印加により発生する静電引力と絶縁部材207の帯電によって発生する静電斥力が相殺されて、実効的な静電引力が低減し、可撓性部材201の大きな変形や複雑な形状への変形が困難となる。
【0016】
また、絶縁部材207が帯電した状態では、可撓性部材201と対向電極206間に電圧を印加せずに、可撓性部材201を変形していない初期状態(平板状態)に保持しようとしても、絶縁部材207と可撓性部材201間の静電引力によって、この初期状態を保特することが困難となる。
【0017】
更に、ニッケル膜等の可撓性部材207とシリコン基板から形成された基板枠202の熱膨張係数の差から、環境温度の変化に伴い、その引っ張り応力が変化したり、座屈するという間題がある。
【0018】
また、基板枠202と参照基板203の組立て時に、可撓性部材207と参照面205の平行度やギャップを高精度に管理する必要がある。このためには、例えば基板枠202をギャップとなるスペーサーを介して参照基板203に押し当て、この状態で、両者を接着することが考えられる。ところが、この場合、基板枠202に余分な応力がかかり、可撓性部材207が変形して、ギャップを高精度に管理することができないという間題がある。
【0019】
従って、従来の変形可能ミラーでは、高精度に各種の変調を行うことができる光学装置に利用することが困難であった。
【0020】
そこで、この発明は、これらの課題を鑑みてなされたものであり、絶縁部材の帯電を防止し、可撓性部材の変形形状を高精度に保持することが可能であり、また複雑な形状や大きな変位を伴う形状に、可撓性部材を変形することが可能であり、更に可撓性部材と参照面の平行度、及び両者間のギャップを高精度に管理することができ、あるいは環境温度の変動の影響を受け難く、小型で簡易な構成であって、安価に製造可能な変形可能ミラー、及びその組立て方法並びに組み立て装置、及びこの変形可能ミラーの適用によって各種の変調を高精度に行うことが可能となった光学装置を提供すことを目的とする。
【0021】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために、請求項1に記載のアクチュエータは、弾性変形可能な可撓性部材と、前記可撓性部材と対向して配置された対向電極と、前記可撓性部材と前記対向電極との間に介在する絶縁部材と、前記可撓性部材と前記対向電極との間に極性の変化する交流電圧を印加する電圧印加手段とを備え、前記可撓性部材と前記対向電極との間の少なくとも一部に前記可撓性部材の弾性変形を許容する空間が設けられており、前記可撓性部材は、前記可撓性部材と前記対向電極との間に印加される交流電圧による静電引力によって変形し、前記電圧印加手段は、前記可撓性部材が前記絶縁部材に吸着するように、前記交流電圧を前記可撓性部材と前記対向電極との間に印加する。
請求項2に記載の様に、前記可撓性部材を支持する支持手段をさらに備えてもよい。
【0022】
この様な構成によれば、可撓性部材と対向電極間に交流電圧を印加するので、可撓性部材と対向電極間に静電引力が加わり、可撓性部材が対向電極側にたわんで、この可撓性部材の反射面が変形する。
【0023】
また、可撓性部材と対向電極間に印加される交流電圧は、その極性が変化するので、可撓性部材と対向電極間にあるリーク防止用の絶縁部材が正負のどちらか一方の極性に帯電することがなく、帯電した絶縁部材と可撓性部材間に斥力が発生せずに済む。これによって、可撓性部材の変形形状が安定すると共に、より大きな静電引力を得ることが可能となる。
【0024】
請求項3に記載の様に、交流電圧は矩形波でも良い。この矩形波は、正弦波等に比べると、その極性が急激に変化するため、静電引力が零近傍となる時間が短く、静電引力の変動を小さくすることができる。
【0025】
請求項4に記載の様に、矩形波の交流電圧は、正電位側の波高値と負電位側の波高値が同一であっても良い。ここで、可撓性部材と対向電極間の静電引力は、両者間の印加電圧の極性の影響を受けず、その強さは可撓性部材と対向電極間の電位差の絶対値によって決定される。このため、正電位側の波高値と負電位側の波高値が同一となる矩形波の交流電圧であれば、絶縁部材の帯電を防止するだけでなく、可撓性部材と対向電極間に働く静電引力を常に一定にすることが可能となり、可撓性部材の変形形状をより安定したものにすることができる。
【0026】
請求項5に記載の様に、交流電圧の極性の変化する周期は、絶縁部材の体積抵抗率をρ、比誘電率をεi、真空の誘電率をεoとした時、時定数τ=ρ・εiεoより短くするのが好ましい。
【0027】
この様に構成することにより、絶縁部材が正負どちらか一方の極性に帯電する以前に、印加電圧の極性が変化することになり、より確実に絶縁部材の帯電を防止することができる。
【0028】
次に、請求項6に記載のアクチュエータは、弾性変形可能な可撓性部材と、前記可撓性部材と対向して配置された対向電極と、前記可撓性部材と前記対向電極との間に介在し、光が照射されると、絶縁体から導電体へと変化する光導電性部材と、前記光導電性部材に光を照射する光照射装置と、前記可撓性部材と前記対向電極との間に、電圧を印加する電圧印加手段とを備え、前記可撓性部材と前記対向電極との間の少なくとも一部に前記可撓性部材の弾性変形を許容する空間が設けられており、前記可撓性部材は、前記可撓性部材と前記対向電極との間に印加される電圧による静電引力によって変形し、前記電圧印加手段が前記電圧の印加を止めると、前記光照射装置は前記光導電性部材に光を照射する。
請求項7に記載の様に、前記可撓性部材を支持する支持手段をさらに備えてもよい。
【0029】
ここでも、可撓性部材と対向電極間に電圧を印加するので、可撓性部材と対向電極間に静電引力が加わり、可撓性部材が対向電極側にたわんで、この可撓性部材の反射面が変形する。
【0030】
また、可撓性部材と対向電極間に光導電性部材を介在させているので、可撓性部材と対向電極間に電圧を印加して、可撓性部材を変形させているときには、光導電性部材に光を照射せず、この光伝導性部材を可撓性部材と対向電極間のリーク防止用の絶縁部材として用いる。また、可撓性部材と対向電極間に電圧を印加せず、可撓性部材を変形させないときには、光導電性部材に光を照射して、この光導電性部材を可撓性部材と対向電極間の余分な静電気を除電する導電部材として用いる。
【0031】
請求項8に記載の様に、対向電極は透明であっても良い。この場合、光導電性部材ヘの光照射を、対向電極を介して行えるようになり、アクチュエータの小型化が可能となると共に、他の光学系への光のもれをなくすことができる。
【0032】
上記請求項1乃至6のいずれに記載のアクチュエータにおいても、請求項9に記載の様に、対向電極側で、可撓性部材の弾性変形を許容する空間を形成する参照面を更に備え、電圧印加手段によって可撓性部材と対向電極間に電圧を印加したときに、可撓性部材と対向電極間の静電引力によって、可撓性部材が変形して参照面に吸い寄せられても良い。
【0033】
このように可撓性部材が変形して沿う参照面を有する場合、可撓性部材の変形形状が参照面の形状で決定されるため、その変形形状が環境温湿度に影響されることなく再現性の良いものとなる。また、参照面を凸面や凹面、あるいはこの両者を含む形状とすることにより、可撓性部材を凹面のみでなく、任意の形状に変形させることができる。
【0034】
請求項10に記載の様に、可撓性部材と参照面の少なくとも一方に、可撓性部材と参照面間に存在する空気を逃がすための空気孔を形成しても良い。
【0035】
この様に構成することにより、、可撓性部材と参照面間の空気を逃がすことができ、可撓性部材が変形し易くなり、かつ可撓性部材がより速やかに変形する。
【0036】
請求項11に記載の様に、参照面の外周に、可撓性部材を該参照面に対して位置決めする平坦部を設けても良い。
【0037】
この場合、参照面の外周の平坦部に、可撓性部材の周縁を当接することによって、可撓性部材と参照面の平行度を調整しつつ、この可撓性部材を容易に配置することができる。
【0038】
請求項12に記載の様に、平坦部が参照面の頂点位置よりも低い位置に形成しても良い。
【0039】
この様に構成することにより、可撓性部材を参照面に接近させて配置するときに、参照面の頂点位置が可撓性部材に最も先に接触するため、参照面と可撓性部材の位置関係を容易に知ることが可能となる。
【0040】
請求項13に記載の様に、アクチュエータは、前記可撓性部材の表面に反射膜が設けられてもよい。
請求項14に記載の様に、アクチュエータは、可撓性部材を支持する支持手段をさらに備え、支持手段は、可撓性部材に引っ張り応力を与えてこの可撓性部材を保持するものであって、単結晶シリコンからなり、可撓性部材は、単結晶シリコンに不純物をドーピングしてなるものでも良い。
【0041】
この場合、支持手段と可撓性部材を同一材料の単結晶シリコンから形成するので、両者の熱膨張係数の差が小さくなり、環境温度の変動による影響を受け難くなる。また、半導体の製造プロセスを応用すれば、支持手段及び可撓性部材を一括して製造することが可能であり、支持手段及び可撓性部材として高精度で安価なものを得ることができる。
【0042】
請求項15に記載の様に、可撓性部材の表面に金属反射膜を形成しても良い。
【0043】
この様な構成にすることにより、任意の波長の光に対して高反射率のミラーを得ることができる。
【0044】
次に、変形可能ミラーを組み立てるための組立て方法は、請求項21または22に記載の様に、参照面外周の平坦部と可撓性部材間の平行状態を光学的に検出しつつ、両者間を平行に調整する。
【0045】
この場合、参照面外周の平坦部と可撓性部材の周縁を圧接して、両者間を平行に調整する場合に比べると、より精度良く、より容易に参照面と可撓性部材間の平行度を調整することができる。また、参照面と可撓性部材間の非接触での調整が可能であり、可撓性部材に余分な応力が加わらずに済み、可撓性部材が変形していないときの該可撓性部材の形状をより高精度に設定することが可能となる。
【0046】
次に、変形可能ミラーを組み立てるための組立て装置は、請求項23または24に記載の様に、変形可能ミラーは、可撓性部材を支持する支持手段をさらに備え、前記組立て装置は、前記支持手段を保持する第1保持手段と、前記参照面を保持する第2保持手段と、前記第1保持手段及び前記第2保持手段の少なくとも一方を移動させる移動手段と、前記参照面の頂点位置と前記可撓性部材の接触による前記可撓性部材の変形を検出する変形検出手段とを備え、前記組立て装置は、前記支持手段を保持する第1保持手段と、前記参照面を保持する第2保持手段と、前記第1保持手段及び前記第2保持手段の少なくとも一方を移動させる移動手段と、前記参照面の頂点位置と前記可撓性部材の接触による前記可撓性部材の変形を検出する変形検出手段とを備え、前記可撓性部材と前記参照面とが接触する方向に前記第1保持手段及び前記第2保持手段の少なくとも一方を前記移動手段にて移動させて、前記変形検出手段により前記可撓性部材の変形が検出された後、前記移動手段により前記参照面と前記可撓性部材とを所定の間隔となるように移動させることを特徴とする。
【0047】
このような装置によれば、参照面の頂点位置と可撓部材の接触を接触させてから、支持手段と参照面を僅かに離間して、両者間の相対位置を高精度に決めることができる。
【0048】
次に、請求項16に記載の光学装置は、請求項1乃至15のいずれかに記載のアクチュエータと、前記アクチュエータに対して光を入出力する光学部材とを備える。
【0049】
この様な光学装置では、可撓性部材と対向電極間にあるリーク防止用の絶縁部材が正負のどちらか一方の極性に帯電することがなく、帯電した絶縁部材と可撓性部材間に斥力が発生せずに済み、可撓性部材の変形形状が安定するので、アクチュエータの動作により、反射方向の異なる複数の光を安定して出射することができる。
【0050】
また、本発明による光学装置は、変形可能な反射面を有するアクチュエータと、前記アクチュエータに対して光を入出力する光学部材とを備え、前記アクチュエータの変形に応じて、反射方向の異なる複数の光を生成する光学装置において、前記アクチュエータは、入射光を反射する反射面を表面に有する可撓性部材と、前記可撓性部材を支持する支持手段と、前記可撓性部材と対向して配置された対向電極と、前記対向電極側で、前記可撓性部材の弾性変形を許容する空間を形成する参照面と、前記可撓性部材と前記対向電極との間に介在し、光を照射されると、絶縁体から導電体へと変化する光導電性部材と、前記光導電性部材に光を照射する光照射装置と、前記可撓性部材と前記対向電極との間に、電圧を印加する電圧印加手段とを備え、前記可撓性部材と前記対向電極との間の少なくとも一部に前記可撓性部材の弾性変形を許容する空間が設けられており、前記可撓性部材は、前記可撓性部材と前記対向電極との間に印加される電圧による静電引力によって変形する。
【0051】
この様な光学装置では、可撓性部材と対向電極間に電圧を印加せず、可撓性部材を変形させないときには、光導電性部材に光を照射して、この光導電性部材を可撓性部材と対向電極間の余分な静電気を除電する導電部材として用いることができるので、可撓性部材の変形形状が安定し、アクチュエータの動作により、反射方向の異なる複数の光を出射することができる。また、可撓性部材を変形させないときには、この可撓性部材が高精度のミラーとなる。
【0052】
請求項17に記載の様に、アクチュエータは、その可撓性部材の変形により、入射光に球面収差を与えても良い。
【0053】
この様な光学装置では、アクチュエータの動作により、球面収差の加えられた光を安定して出射することができる。
【0054】
請求項18に記載の様に、光学部材は、アクチュエータの可撓性部材によって反射された光が通過するレンズを有し、アクチュエータは、その可撓性部材の変形により、光学部材のレンズを通過した光の焦点を変化させても良い。
【0055】
この様な光学装置では、アクチュエータの動作により、焦点の異なる光を安定して出射することができる。
【0056】
請求項19に記載の様に、光学部材は、アクチュエータの可撓性部材によって反射された光が通過するレンズを有し、アクチュエータは、その可撓性部材の変形により、光学部材のレンズの開口数を変化させても良い。
【0057】
この様な光学装置では、アクチュエータの動作により、開口数の異なるレンズを通過した光を安定して出射することができる。
【0058】
請求項20に記載の様に、光学部材は、アクチュエータの可撓性部材によって反射された光が通過するレンズを有し、アクチュエータは、その可撓性部材の変形により、この可撓性部材に入射した入射光の球面収差、光学部材のレンズを通過した光の焦点、及び該レンズの開口数のうちの少なくとも2つ以上を同時に変化させても良い。
【0059】
この様な光学装置では、アクチュエータの動作により、入射光の球面収差、レンズの焦点、開口数のいずれか2つ以上を同時に変調してなる光を安定して出射することができる。
【0060】
【発明の実施の形態】
以下、この発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、この発明の変形可能ミラーの第1実施形態を概略的に示す主要断面図である。この変形可能ミラー1は、大きく分けると、ミラー基板2、参照基板3、及び電圧印加部4に分けられ、これらから構成される。
【0061】
ミラー基板2は、弾性変形可能な可撓性部材5と、その表面に形成された反射膜5aと、可撓性部材5に引っ張り応力を与えながら保持する基板枠6とから構成される。
【0062】
参照基板3は、その表面に任意の形状の凹凸面を有する参照面7と、参照面7の表面に形成された対向電極8と、対向電極8の表面に形成された絶縁部材9とから構成される。
【0063】
ミラー基板2と参照基板3は、可撓性部材5と参照面7が対向する位置で接着されている。
【0064】
電圧印加部4は、可撓性部材5と対向電極8間に極性の変化する交流電圧を印加するものである。
【0065】
この様な構成において、変形可能ミラー1を変形させるか、変形させないかの切替えは、電圧印加部4により制御される。電圧印加部4によって、可撓性部材5と対向電極8間に交流電圧が印加されると、両者間に静電引力が発生し、可撓性部材5が参照面7に吸引されて、この参照面7に沿った形状に変形する。電圧印加部4による交流電圧の印加を停止すると、可撓性部材5と対向電極8間には静電引力が働かなくなり、可撓性部材5が初期形状に戻る。
【0066】
次に、この変形可能ミラー1の各構成要素について、より詳細に説明する。 基板枠6は、10mm四方で、厚さ1mm程度の単結晶シリコンからなり、その中央部には、エッチングによって、対角線の長さが6mm程度の八角形の開口部6bを形成している。基板枠6と開口部6bの大きさは、必要な反射面積によって決まるものであり、任意の大きさに形成されるものである。開口部6bの形状は、八角形である必要はないが、円形に近いほど可撓性部材5にかかる応力が均一となる。
【0067】
可撓性部材5は、その厚さが3μから10μm程度であり、基板枠6となる単結晶シリコンの表面にボロン等の不純物を予めドーピングしておき、エッチング液の選択性を利用して、基板枠6の開口部6bにあたる部分のみを該基板6の裏面からエッチングして除去すると共に、不純物をドーピングした部分を可撓性部材5として残して、この可撓性部材5を形成する。これによって、可撓性部材5と基板枠6を接着する必要がなくなり、可撓性部材5を基板枠6によって保持してなるダイヤフラム構造を簡易かつ高精度に得ることができる。また、可撓性部材5と基板枠6の熱膨張率の差を小さくすることができ、環境温度の変化により、可撓性部材5に余分な応力が発生することを防止することができる。
【0068】
可撓性部材5は、薄くなる程、可撓性が高くなり、低電圧(小さな静電引力)で変形させることが可能になるが、薄くなり過ぎると、共振周波数が低くなったり、強度が弱くなるといった間題がある。このため、可撓性部材5は、その大きさにもよるが、その厚さを3μmから10μm程度に形成するのが最も良い。
【0069】
また、可撓性部材5は、10MPa程度の引っ張り応力をもって、基板枠6に保持されている。この引っ張り応力が働くことにより、可撓性部材5と対向電極8間に電圧を印加していないときには、この可撓性部材5を平面状態を維持することができる。
【0070】
可撓性部材5の表面には、蒸着法あるいはスパッタ法等によって、アルミニウム等からなる反射膜5aを形成している。可撓性部材5の表面の反射率が十分高ければ、反射膜5aを必要としない。また、反射膜5aは、光を反射するだけでなく、可撓性部材5を導電性材料で形成しない場合に、この可撓性部材5の代わりに、電極として使用することができる。反射膜5aの厚さは、例えば1μm程度あり、可撓性部材5の可撓性を妨げない程度の厚さに形成される。その材質は、アルミニウム、金、ニッケルやアルミニウムに微量の金属を添加したもの等であり、反射膜5aの入射光の波長(光源の波長)に対する反射率等に応じて選択される。例えば、波長780nmの半導体レーザを光源として使用する場合、シリコンに不純物をドーピングして形成された可撓性部材5表面の反射率が低いので、アルミニウム等の反射膜5aを積層する必要があり、これによって高い反射率を得ることができる。
【0071】
次に、ミラー基板2の製造工程を図2を参照しつつ詳細に説明する。このミラー基板2は、半導体の製造プロセスを応用して作製することができ、ここでは、その一例を述べる。
【0072】
(1)図2(a)に示す様に、シリコン基板11における面方位(100)の表面及び裏面に、熱酸化により、シリコン熱酸化膜11a(裏面側のシリコン熱酸化膜11aを図示せず)を形成する。なお、シリコン基板11の表面は、研磨、ポリシング加工が施されており、その平面度が1nm以下に抑えられている。
【0073】
引き続いて、表面のみにレジストを塗布し、裏面のシリコン熱酸化膜11aをフッ酸を用いたウェットエッチングによって除去する。その後、表面側のレジストを除去する。
【0074】
(2)図2(b)に示す様に、窒化ボロンの個体ソースにより、ボロンイオンをシリコン基板11の裏面から拡散させ、これによって厚さ3μmから10μm程度のボロンドープ層12(後に可撓性部材5となる)を形成する。このボロンドープ層12の表面には、シリコン酸化膜12bを形成する。ドーピングする不純物は、ボロンのみに限らず、ガリウム、インジウム、リン等を使用してもよい。
【0075】
(3)図2(c)に示す様に、熱酸化膜11a上にフォトレジスト(図示しない)を塗布し、フォトリソグラフィを行って、このレジストに基板枠6の開口部6bに対応する開口パターンを形成する。そして、CHF3ガスを用いてドライエッチングを行って、基板枠6の開口部6bを形成するための開口部11bを熱酸化膜11aに形成し、この後にレジストを除去する。
【0076】
(4)図2(d)に示す様に、熱酸化膜11aをマスクとして、基板11の表面側からEDPエッチング液によってウェットエッチングを行い、開口部11bのシリコンを除去して、開口部6bを有する基板枠6を形成すると共に、ボロンドープ層12からなるダイヤフラム、つまり厚さ3μmから10μm程度の可撓性部材5を形成する。
【0077】
EDPエッチング液とは、エチレンジアミン、純水、カテコール、ピラジンから成り、シリコン基板11とボロンドープ層12間のエッチング選択比の高いエッチング液である。また、このEDPエッチング液によりエッチング行うと、異方性エッチングが可能となり、結晶面方位(1,1,1)方向のエッチング速度は早く、(1,1,1)方向のエッチング速度は極端に遅くなる。これによって、図2(d)に示す様なテーパ状の開口部6bが形成され、また開口部6bを熱酸化膜11aのパターンに応じた形状に、精度良く、加工することができる。
【0078】
(5)図2(e)に示す様に、熱酸化膜12aを基板枠6の表面側からフッ酸を用いたウェットェッチングによって除去する。それから、基板枠6の裏面側からCHF3ガスを用いたドライエッチングによって、シリコン酸化膜を除去する。
【0079】
(6)図2(f)に示す様に、基板枠6の表面側からアルミニウムを蒸着あるいスパッタにより製膜し、厚さ1μm程度の反射膜5aを形成する。それから、ダイシングにより任意の大きさに切断する。
【0080】
以上のように、この製造方法では、ミラー基板2を半導体の製造プロセスによって作製しているので、可撓性部材5を高精度に作製することができ、この可撓性部材5の反射面の形状を向上させることができる。また、シリコン基板11上に複数のミラー基板2を同時に一括して作製することができ、低いコストでの作製が可能となる。
なお、上述したミラー基板2の製造方法は一例に過ぎず、一部を変更した方法や他の方法により作製することも可能である。
【0081】
次に、参照基板3について詳細に説明する。
参照基板3は、ガラスモールド法あるいは樹脂の成形等によって作製されたものである。この参照基板3の参照面7は、入射光に所望の変調を与えるための凸面部7aと凹面部7bを有する。また、参照基板3の周縁には、平坦部7cを形成しており、ミラー基板2と参照基板3の組立て時に、可撓性部材5と参照面7の平行度を調整するために、この平坦部7cを利用する。
【0082】
参照面7の凸面部7aの頂点は、ミラー基板2と参照基板3の組立て時の位置調整を考慮して、平坦部7cよりも1μmから3μm程度高くなっている。
【0083】
参照面7の表面には、アルミニウム等からなる対向電極8を蒸着法あるいは、スパッタ法等により形成している。対向電極8の材質としては、アルミニウムの他に金、ニッケルやアルミニウムに微量の金属を添加したもの等を使用することができ、参照面7の形状を損なわないように、この対向電極8の厚さを1μm程度に設定している。また、対向電極8の一部からは、電圧印加部4への配線を導出している。
【0084】
対向電極8の表面には、酸化シリコン等からなる厚さ5μm程度の絶縁部材9をスパッタ法等により形成している。この絶縁部材9は、可撓性部材5と対向電極8間での電圧のリークを防止するものである。この絶縁部材9の材質としては、酸化シリコンの他に窒化シリコンや五酸化タンタル等の絶縁材料を適用することができ、その厚さは、絶縁耐力と静電引力の強さ、そして参照面7の形状への影響を考慮して決定する。すなわち、絶縁部材9が厚い程、絶縁耐力が高くなるものの、対向電極8と可撓性部材5のギャップが大きくなるため、静電引力は弱くなる。また、可撓性部材5が吸引され変形してなる形状は、絶縁部材9に吸引されてなる形状であって、参照面7の形状に対しての誤差を含むため、絶縁部材9の厚さを参照面7の形状を損なわない程度に設定する必要がある。この絶縁部材9は、対向電極8の表面でなく、可撓性部材5の対向電極8側に形成してもよい。
【0085】
次に、この発明の変形可能ミラーの組立て方法並びに組立て装置の一実施形態を図3を参照しつつ説明する。ここでは、ミラー基板2と参照基板3を接合している。
【0086】
(1)参照基板3を参照面支持部材15によって支持する。この参照面支持部材15は、z方向への移動機構16を備え、参照基板3をz方向に移動させることができる。
【0087】
この際、参照基板3の平坦部7cを予め定められた方向に向けて支持する。このためには、ミラー基板2を配置していない状態で、図示しないオートコリメータや光干渉計等の光計測器を参照基板3の平坦部7cの上方に設置してから、平坦部7c上のアルミニウム等からなる対向電極8に光を照射し、その反射光を光計測器によって計測して、参照基板3の平坦部7cの方向を検出し、この検出結果に応じて、参照基板3の平坦部7cの方向を調整する。
【0088】
(2)ミラー基板2をミラー支持部材17によって支持し、このミラー基板2を参照基板3の上方に設置する。このミラー支持部材17は、傾き調整機構18を備え、ミラー基板2の傾きを変更することができる。
【0089】
この際、ミラー基板2の可撓性部材5を参照基板3の平坦部7cと平行にして支持する。このために、先のオートコリメータや光干渉計等の光計測器を可撓性部材5の上方に設置してから、可撓性部材5に光を照射し、その反射光を光計測器によって計測して、可撓性部材5の方向を検出し、この検出結果に応じて、可撓性部材5の方向を傾き調整機構18によって調整しつつ参照基板3の平坦部7cの方向に一致させる。
【0090】
これによって、可撓性部材5と参照面7の平行度を調整することができ、両者の向きを高精度かつ簡易に設定することができる。
【0091】
(3)光干渉計等の変形検出装置19によって、可撓性部材5の反射膜5aからの反射光の変調(干渉縞)を検出し、この可撓性部材5の形状を観察しながら、移動機構16によっで、参照基板3を上昇させてミラー基板2に接近させていく。
【0092】
先に述べた様に、参照面7の凸面部7aの頂点を平坦部7cよりも高く設定しているので、参照面7の凸面部7aの頂点が可撓性部材5に最初に接触する。このとき、可撓性部材5が変形して、この可撓性部材5からの反射光が変化し、変形検出装置19によって検出された干渉縞が変化する。このため、この干渉縞の変化に基づいて、参照基板3と可撓性部材5が接触したとき(ギャップ無し)の該参照基板3の位置を簡易に高精度に検知することができる。
【0093】
(4)移動機構16によっで、参照基板3を僅かに下降させて、参照面7の凸面部7aと可撓性部材5間に1μmから5μm程度のギャップを開け、その状態で、ミラー基板2の周縁と参照基板3の平坦部7cの隙間にエポキシ系接着剤等の接着剤を充填して、両者を接着する。
【0094】
この様に参照面7と可撓性部材5の平行度を光学的に検出しつつ調整すれば、例えば参照基板3とミラー基板2を圧接して、両者の平行度を調整する揚合と比べて、より精度良く、より容易に参照面7と可撓性部材5の平行度を調整するできる。また、参照基板3とミラー基板2を接触させずに、両者の平行度を調整することができるので、可撓性部材5に余分な応力がかかることがなく、可撓性部材5を変形させないときの該可撓性部材5の反射面として、より高精度なものを得ることができる。更に、このような機構により、ギャップ無しの参照基板3の位置を容易に高精度に検出することができ、その後にギャップを設定することにより、高精度にギャップを管理することができる。
【0095】
次に、変形可能ミラー1の駆動原理について詳細に説明する。
まず、簡単化のため、可撓性部材5と対向電極8を図4に示す様な平行な各平板に置き換えて、これらの間に働く静電引力を説明する。ここで、絶縁部材9の厚さをdi、比誘電率をεiとし、ギャップをdg、真空の誘電率をεo、面積をSとすると、可撓性部材5と対向電極8間の静電容量Cは、次式(1)で表される。
C=εi・εo・S/(di+εi・dg) …(1)
また、可撓性部材5と対向電極8間に電圧印加部4によって電圧Vが印加されたとき、両者間に働く静電力Fは、次式(2)で表される。
F=(V2/2)・εi 2・εo・S/(di+εi・dg)2 …(2)
この静電力Fは、電圧Vの極性にかかわらず、この電圧Vの絶対値に対応する引力として常に働く。上式(2)より明らかなように、静電力Fは、絶縁部材9の厚さdi、誘電率εiの影響を受けるものであって、比誘電率の高い絶縁材料を用いれば、より大きな静電引力を得ることができる。
【0096】
上式(2)によって表される静電力Fは、変形していない可撓性部材5と対向電極8間に働く力であり、静電引力によって可撓性部材5が変形すると、両者間のギャップが小さくなり、その結果、より大きな静電引力が働くようになる。そして、可撓性部材5が参照面7上の絶縁部材9に吸着したときに、この可撓性部材5の変形が止まり、安定状態となる。
【0097】
しかしながら、可撓性部材5が絶縁部材9に吸着した状態では、電荷注入や接触帯電によって絶縁部材9に帯電が生じ、可撓性部材5と対向電極8間の静電引力が低下することがある。
図5は、この状態を模式的に表している。例えば、可撓性部材5を正極として電圧を印加した場合、図5に示すように絶縁部材9は、電荷注入等によって、可撓性部材5と同じ正極に帯電する。この結果、可撓性部材5と絶縁部材9間に静電的斥力が働いて、電圧印加による静電引力を打ち消し、可撓性部材5が絶縁部材9から離れると言う事態を招く。あるいは、絶縁部材9の帯電は、この絶縁部材9の全体に均一に生じるものではないため、部分的に斥力の大きさが異なり、可撓性部材5が参照面7とは全く異なる形状に変形する。更には、電圧を切った後も、絶縁部材9の帯電が残り、可撓性部材5と絶縁部材9間で引力が働いて、可撓性部材5がもとの無変形の状態に戻らなくなった。
【0098】
そこで、この第1実施形態の変形可能ミラーでは、絶縁部材9の帯電を防止するために、可撓性部材5と対向電極8間に印加する電圧を直流電圧ではなく、極性の変化する交流電圧にしている。すなわち、絶縁部材9が正あるいは負のどちらかの極性に帯電する以前に、電圧の極性を切替えることにより、絶縁部材9が一方の極性に帯電することを防いでいる。
【0099】
また、交流電圧の波形として、矩形波を適用した場合は、静電引力の変動を小さく抑えることができる。更に、矩形波の正電位側の波高値と負電位側の波高値を同一に、つまり正の最高電位の絶対値と負の最低電位の絶対値を同一にした場合は、可撓性部材5に働く静電引力を常に一定に維持することができ、安定な変形状態を得ることができる。
【0100】
この様な交流電圧について、図6を参照して説明する。
まず、電圧Vと静電力Fは、上式(2)によって表され、電圧Vの極性によらず、この静電力Fが常に引力となる。また、交流電圧の波形の種類に応じて、静電力Fは、図6、図7及び図8に示す様なものとなる。
【0101】
図6(a)及び(b)は、正弦波の交流電圧と、この交流電圧を可撓性部材5と対向電極8間に印加したときの静電引力を示している。この交流電圧は、可撓性部材5と対向電極8間の電位差であり、この電位差の極性にかかわらず、この電位差の絶対値に応じて、静電引力が変化するので、この静電引力が交流電圧の2倍の周期で変化している。
【0102】
図7(a)及び(b)は、矩形波の交流電圧と、この交流電圧を可撓性部材5と対向電極8間に印加したときの静電引力を示している。ここでも、交流電圧、つまり可撓性部材5と対向電極8間の電位差の絶対値に応じて、静電引力が変化している。
【0103】
図8(a)及び(b)も、図7と同様に、矩形波の交流電圧と、この交流電圧を可撓性部材5と対向電極8間に印加したときの静電引力を示している。ただし、ここでは、矩形波の正電位側の波高値と負電位側の波高値を同一に設定している。このため、可撓性部材5と対向電極8間の電位差の絶対値が常に一定となり、一定の静電引力が保たれる。
【0104】
実際には、矩形波の極性の切り替わりのために、有限の時間(slew rate)が費やされるものの、可撓性部材5の応答速度を考えると、この時間が無視できる程度に小さく、可撓性部材5の振動も生じない。
【0105】
したがって、可撓性部材5と対向電極8間の交流電圧として、矩形波の正電位側の波高値と負電位側の波高値を同一となる矩形波とすれば、絶縁部材9の帯電を防止することができるばかりでなく、静電引力を一定に保つことができるため、可撓性部材5の変形形状を安定化させることができる。
【0106】
一方、可撓性部材5と対向電極8間の交流電圧の周期は、先に述べた様に絶縁部材9が一方の極性に帯電しない程度に短くする必要があり、これによって効果的に絶縁部材9の帯電を防止することができる。
【0107】
絶縁部材9の帯電は、その導電率に関係する現象であり、図9に示す等価回路モデルによって明らかにされる。同図において、Ci,Riは、それぞれ絶縁部材9の静電容量と抵抗を表す。この等価回路において、電圧Vを絶縁部材9に印加し始めてから時間t後に、絶縁部材9が電位Viに帯電したならば、この電位Viは次式(3)によって表される。
【0108】
Vi=V(1−exp(−t/Ci,Ri) …(3)
また、絶縁部材9の比抵抗をρ、比誘電率をεiとすると、時定数τ=Ri,Ciは次式で表される。
【0109】
τ=ρ・εi・εoo …(4)
ここで、t=τ/10のときに、ViがVの約10%に達し、t=τのときに、ViがVの約63%に達する。このため、交流電圧の極性の切替わる周期(交流電圧の周期の1/2)を時定数τ以下、好ましくは1/10以下に設定すれば、より効率的に絶縁部材9の帯電を防止することができる。
【0110】
例えば、絶縁部材9として窒化シリコンを適用し、その比抵抗ρが6x1010Ω・cmで、その誘電率εiが6である場合、上式(4)から時定数τが32msecとなるので、交流電圧の極性の切替わる周期を1/30秒以下(周波数約30Hz以上)、好ましくは1/300秒以下(300Hz以上)に設定すれば、絶縁部材9の帯電を確実に防止することができる。
【0111】
なお、この発明は、この第1実施形態に限定されるものではなく、静電力によて物体を変位させる一般的なアクチュエータにも適用することができ、これによって第1実施形態における可撓性部材5と対向電極8間に交流電圧を印加したことによる効果を期待することができる。
【0112】
例えば、図10に示す様なカンチレバーにおいて、可撓性部材21と対向電極22間に直流電圧を印加して、可撓性部材21を絶縁部材23に接する位置まで変形させるにしても、絶縁部材23が帯電すると、可撓性部材21と絶縁部材23間に静電斥力が働き、可撓性部材21の変形形状が安定しなくなる。ここでも、この発明と同様に、可撓性部材21と対向電極22間に交流電圧を印加すれば、絶縁部材23の帯電を防止することができ、可撓性部材21の変形形状が安定したものとなる。
【0113】
すなわち、第1実施形態では、可撓性部材5を参照面7に吸引しているが、これに限定されることはなく、可撓性部材(変形あるいは移動可能な部材)と対向電極を対向配置し、これらの間に絶縁部材を介在させ、可撓性部材と対向電極間の静電引力によって可撓性部材を変形させると言うアクチュエータであれば、どのようなものであっても、この発明を適用することができる。
【0114】
次に、第1実施形態の変形可能ミラー1を変形させない状態、及び変形させた状態についての測定結果を述べる。
【0115】
まず、この測定のために使用した参照面7の形状を図11を参照して説明する。参照基板3は、φ8mm、厚さ3mmのものである。また、参照面7においては、中央部の|半径r(mm)|<1.075の領域が凸面部7aであって、曲率96.412mmの凸状球面となり、その周囲の1.075≦|(半径rmm)|≦2.6の領域が凹面部7bであって、次式(5)のf(r)(μm)で表される凹状非球面となっている。
【0116】
更に、参照面7の外周の|半径r(mm)|<7.5の領域が平坦部7cとなっており、この領域の外周で面取りをおこなっている。
【0117】
この参照面7の形状は、可撓性部材5の変形時に、この可撓性部材5の入射光に球面収差を与え、同時に、この可撓性部材5の反射光が通過するレンズの開口数を変調できるように設計されたものである。
【0118】
この変形可能ミラー1の可撓性部材5を変形させないときの該可撓性部材5の形状、及び変形させたときの形状を顕微鏡型レーザー干渉計(zygo maxim・3D5700)を用いて測定した。
【0119】
可撓性部材5を変形させないときには、この可撓性部材5の反射面が平面に保たれている。その面精度の指標として、RMS(根2乗平均)の測定を行ったところ、RMSは約4nmであった。
【0120】
次に、電圧印加部4により、正電位側の波高値と負電位側の波高値がそれぞれ50Vで、周波数300Hzの矩形波の交流電圧を可撓性部材5と対向電極8間に印加し、変形時の可撓性部材5の形状を測定した。その結果、可撓性部材5は、参照面7に沿って変形した。このとき、参照面7の中央部の凸面部7aに相当する位置で、RMSが曲率96.412mmに対して約12nmであった。
【0121】
この後、電圧を切ると、可撓性部材5はもとの形状に復帰した。
【0122】
一方、交流電圧と比較するために、直流電圧(50V)を可撓性部材5と対向電極8間に印加して、同様に変形時の可撓性鋼材5の形状を測定したところ、参照面7の中央部の凸面部7aに相当する位置で、RMSが曲率96.412mmに対して約250mmとなった。しかも、このときの可撓性部材5には、参照面7には見られない、微少な凹凸が多数現れた。したがって、可撓性部材5は、参照面7に沿って変形したとは言い難い。
【0123】
以上の様に、第1実施形態の変形可能ミラー1では、可撓性部材5が参照面7に沿って安定して変形し、入射光に任意の変調を与えて反射することができ、また無変形時には、高精度の平面ミラーとして利用することができる。
【0124】
図12は、この発明の変形可能ミラーの第2実施形態を示す断面図である。但し、ここでは、図1と同一部分については同一符号を付し、説明を省略する。
【0125】
参照基板3は、ガラスモールド法等によって作製されており、透明体である。また、参照面7の表面には、透明なITO膜等からなる1μm程度の厚さの対向電極38を蒸着法等により積層している。この対向電極38の上には、5μm程度の光導電性部材39を形成している。また、参照面7の裏面には、半導体レーザー、LED、EL等の光照射装置20を配置している。
【0126】
光導電性部材39としては、例えば、フタロシアニン等からなる有機光導電性物質やCdS、ZnO等の無機光導電性物質を適用する。
【0127】
光照射装置20は、光導電性部材39の光吸収効率の高い波長を有する光源を使用し、例えば、半導体レーザー、LED,EL等を適用する。
【0128】
この様な構成の変形可能ミラー1において、電圧印加部4によって、可撓性部材5と対向電極路との間に交流電圧を印加すると、静電引力が働き、可撓性部材5が参照面7に沿って変形する。このとき、光導電性部材39が絶縁部材として作用し、可撓性部材5と対向電極8間での電圧のリークを防止する。
【0129】
また、電圧印加部4による交流電圧の印加を止めると、可撓性部材5が平面状態に戻る。このとき、光照射装置20によって、光導電性部材39に光を照射すると、この光導電性部材39が絶縁部材から導電部材へと切り替わり、この光導電性部材39に帯電していた電荷が除去される。
【0130】
この様に光導電性部材39を除電すれば、不要な電荷による静電力が可撓性部材5に作用せずに済み、無変形時の可撓性部材5の形状を高精度に維持することが可能となり、高精度のミラーとして使用することができる。
【0131】
また、ここでは、対向電極38を透明なITO膜等によって形成しているので、参照面7の裏面からの光照射が可能となり、変形可能ミラーの小型化が容易である。この対向電極38として、不透明なものを適用した場合は、参照面7の裏面からの光照射が不可能なため、光源を対向電極38と光導電性部材39間に配置する等の工夫が必要となる。
【0132】
図13は、この発明の変形可能ミラーの第3実施形態を示す断面図である。但し、ここでは、図1と同一部分については同一符号を付し、説明を省略する。
【0133】
図13において、参照基板3は、例えばガラスモールド法あるいは樹脂の成形等により作製されたものであり、参照面7と可撓性部材5間の空間から外部に通じる貫通穴16を有する。この貫通穴16が大き過ぎると、可撓性部材5を参照面7に吸引したときに、この貫通穴16の部分で、この可撓性部材7が参照面7とは異なる形状で変形してしまうため、この貫通穴16の径を例えば30μm以下に設定するのが望ましい。
【0134】
図14は、図13の変形可能ミラー1の変形例である。ここでは、参照基板3に貫通穴16を設ける代わりに、参照面7に対向する可撓性部材5の部分に空気穴17を設けている。この空気穴17が大き過ぎると、可撓性部材5で反射する光に悪影響を及ぼすため、この空気穴17の径を例えば10μm以下に設定するのが望ましい。
【0135】
この様に貫通穴16や空気穴17を設けておけば、可撓性部材5の変形に際し、参照面7と可撓性部材5間の空気が貫通穴16又は空気穴17を通じて外部に抜けるため、可撓性部材5を参照面7に確実に吸引することができる。
【0136】
また、可撓性部材5が変形しない状態においては、例えば環境温度が上昇して、参照面7と可撓性部材5間の空気が膨張しても、この空気を貫通穴16又は空気穴17を通じて外部に逃すことができるので、可撓性部材5の不要な変形を避けることができる。これに対して、貫通穴16又は空気穴17が無ければ、膨張した空気によって、可撓性部材5が不要に変形するおそれがある。
【0137】
もちろん、貫通穴16と空気穴17を共に設けてもよいし、それぞれを複数個設けてもよい。また、その形状は、円形である必要がなく、可撓性部材5の変形を妨げないものであれば、任意の形状や大きさを設定しても良い。
【0138】
図15は、この発明の光学装置の一実施形態を示すブロック図である。この光学装置では、上記各実施形態の変形可能ミラーのいずれであっても適用することができ、変形可能ミラーを光学系の一要素として用いている。
【0139】
図15において、半導体レーザー101から出射された光は、コリメーターレンズ102によって平行な光ビーム103に変換される。この光ビーム103は、ビームスプリッター104に入射して直進し、4分の1波長板105を透過して、変形可能ミラー1に達する。そして、この変形可能ミラー1で反射された光ビーム103は、再び4分の1波長板105を透過し、ビームスプリッター104で反射されて、対物レンズ106を透過し、この対物レンズ106によって、集光される。
【0140】
第1実施形態で示した様に、正の最高電位の絶対値と負の最低電位の絶対値を同一にした矩形波である交流電圧を印加すれば、変形可能ミラー1の可撓性部材5は、参照面7に沿って安定して変形し、ビーム103に所定の変調を与えることが可能となる。
【0141】
あるいは、第2実施形態で示した様に、絶縁部材5の代わりとなる光導電性部材39を適用すると共に、光照射装置20を設け、可撓性部材5の無変形時には、光照射装置20によって、光導電性部材39に光を照射して、この光導電性部材39を除電すれば、高精度の安定した変形可能ミラー1を得ることができる。
【0142】
次に、参照基板3の参照面7の形状と光変調の関係を説明する。
図16(a)は、入射光に球面収差を与える参照面7の一例を示す断面図である。この参照面7の断面形状は、その中心軸に対して対称であって、その中央部には、球面収差を与えるための凸面部7aを形成している。この凸面部7aは、光ビーム103の径以上の大きさとなっており、この凸面部7aに沿って変形した可撓性部材5の反射面によって、光ビーム103が反射されると、球面収差を含む光ビーム103が形成される。参照面7の凸面部7aの周りには、凸面部7aと平坦部7cを滑らかにつなぐ凹面部7bを形成している。凸面部7aと凹面部7bの境界は、可撓性部材5が変形し易い様に、連続的に滑らかにつながっていることが望ましい。
【0143】
このような変形可能ミラー1を適用すれば、2種類の厚みの異なる対象物の両方に焦点を結び得る光学装置を簡易な構成で成し得ることができる。
【0144】
図16(b)は、対物レンズ106の光学的焦点を変化させる参照面7の一例を示す断面図である。この参照面7の断面形状は、その中心軸に対して対称であって、焦点を変化させるための凹面部7bを有し、この凹面部7bの周りには、平坦部7cを形成している。この凹面部7bに沿って変形した可撓性部材5の反射面によって、光ビーム103が反射されると、対物レンズ106を透過した光ビーム103の焦点が近い位置に変化する。逆に、参照面7の凹面部7bを凸面とすることにより、対物レンズ106の焦点を遠い位置に変化させることもできる。
【0145】
このような変形可能ミラー1を適用すれば、光学系の焦点距離を2種類に変化させることが可能な光学装置を簡易な構成で成し得ることができる。
【0146】
図16(c)は、対物レンズ106の開口数を変化させる参照面7の一例を示す断面図である。この参照面7の断面形状は、その中心軸に対して対称であって、その中央部には、光ビーム103に変調を与えずに、この光ビーム103を反射するための平面部7dを形成し、その周りには、開口数を変化させるために、光ビーム103を対物レンズ106の開口部以外に反射する凹面部7bを形成し、その周りに平坦部7cを形成している。この平面部7dは、対物レンズ106の開口数によって決まる径を有する。すなわち、対物レンズ106の開口数は、光ビーム103の有効径に比例するため、この有効径を平面部7dの径で変化させることによって、光ビーム103の開口数を変化させる。
【0147】
このような変形可能ミラー1を適用すれば、対物レンズ106の開口数を変化させて、光ビーム103の集光スポット径を2種類に変化させることが可能な光学装置を簡易な構成で成し得ることができる。
【0148】
図16(d)は、光ビーム103に球面収差を与えると同時に、対物レンズ106の開口数を変化させる参照面7の一例を示す断面図である。この参照面7の断面形状は、その中心軸に対して対称であって、その中央部には、光ビーム103に球面収差を与えるための凸面部7aを形成し、その周りには、光ビーム103を対物レンズ106の開口部以外に反射させるための凹面部7bを形成し、その周りに平坦部7cを形成している。凸面部7aに沿って変形した可撓性部材5の反射面よって、光ビーム103が反射されると、球面収差を含む光ビーム103が形成され、この光ビーム103が対物レンズ106を透過して集光される。また、凹面部7bに沿って変形した可撓性部材5の反射面で反射した光ビーム103は、対物レンズ106の開口部に集光されないので、対物レンズ106の開口数が変化する。
【0149】
次に、図16(d)に示した参照面7に沿って変形した可撓性部材5の反射面によって反射された光ビーム103の変調状態を実際に測定したので、その結果を示す。この参照面7の形状は、第1実施形態の図11に示すものと同一である。
【0150】
ここでは、図15に示した光学装置において、半導体レーザー101として波長635nmのものを用い、コリメータレンズ102として焦点距離21mm、開口数0.131のものを用い、対物レンズ106として焦点距灘3.3mm、開口数0.6のものを用いており、変形可能ミラー1の可撓性部材5から対物レンズ106に至るまでの光ビーム103の光路長を13mmとした。
【0151】
この光学装置では、変形可能ミラー1の可撓性部材5が変形しておらず、この可撓性部材5の反射面が平面ミラーとなっているときに、光ビーム103が該反射面で反射され、対物レンズ106を透過し、更に図示しない厚さ0.6mmのポリカーボネートを通過して集光させる。また、可撓性部材5が参照面7に沿って変形しているときに、光ビーム103が該反射面で反射され、対物レンズ106を透過し、更に図示しない厚さ1.2mmのポリカーボネートを通過して集光させる。これは、この光学装置によって、厚さ0.6mmのDVDと厚さ1.2mmのCDの記録再生を行うことを想定しているためである。
【0152】
この様な光学装置において、光ビーム103の集光スポットでのビーム径(1/e2径)とサイドロープ強度(ピーク強度に対する)の測定を行った。その結果、可撓性部材5の無変形時に、光ビーム103を厚さ0.6mmのポリカーボネートを通して集光させると、ビーム径が0.81μmで、サイドロープ強度が0.7%となった。また、変形可能ミラー1の変形時に、光ビーム103を1.2mmのポリカーボネートを通して集光させると、ビーム径が1.40μmで、サイドロープ強度が1.0%となった。
【0153】
すなわち、参照面7の形状で光ビーム103を反射させると、この光ビーム103に球面収差が与えられて、この光ビーム103が厚さの異なるポリカーボネートを通しても集光し、また同時に、対物レンズ106の開口数が変化して、光ビーム103の集光スポットでのビーム径が変化する。このような光学装置を用いれば、DVDとCD両方の記録再生を共に高精度に行うことが可能である。
【0154】
以上の様に、変形時、無変形時の可撓性部材5の形状を高精度に維持することができ、また複雑な形状や大きな変位を伴う参照面7であっても、この参照面7に沿って可撓性部材5を変形させることができるから、上記各実施形態のいずれの変形可能ミラー1を適用するにしても、多様な光変調を行うことが可能な光学装置を提供することができる。
【0155】
なお、この発明の変形可能ミラーや光学装置は、上記各実施形態に限定されるものではない。例えば、変形可能ミラーの参照面7の形状を適宜に変更して、光ビーム103に他の種類の変調を与えても良い。また、構成の一部を変更した光学装置や、全く異なる他の構成の光学装置においても、変形可能ミラー1を適用用すれば、簡易な構成で入射光に変調を与えることができる。
【0156】
【発明の効果】
以上説明した様に、請求項1に記載のアクチュエータによれば、可撓性部材と対向電極間に交流電圧を印加するので、可撓性部材と対向電極間に静電引力が加わり、可撓性部材が対向電極側にたわんで、この可撓性部材の反射面が変形する。
【0157】
また、可撓性部材と対向電極間に印加される交流電圧は、その極性が変化するので、可撓性部材と対向電極間にあるリーク防止用の絶縁部材が正負のどちらか一方の極性に帯電することがなく、帯電した絶縁部材と可撓性部材間に斥力が発生することが防止される。これによって、可撓性部材の変形形状が安定すると共に、より大きな静電引力を得ることが可能となる。
【0158】
請求項3に記載の様に、交流電圧は矩形波でも良い。この矩形波は、正弦波等に比べると、その極性が急激に変化するため、静電引力が零近傍となる時間が短く、静電引力の変動を小さくすることができる。
【0159】
請求項4に記載の様に、矩形波の交流電圧は、正電位側の波高値と負電位側の波高値が同一であるものが好ましい。可撓性部材と対向電極間の静電引力は、両者間の印加電圧の極性の影響を受けず、その強さは可撓性部材と対向電極間の電位差の絶対値によって決定される。このため、正電位側の波高値と負電位側の波高値が同一となる矩形波の交流電圧であれば、絶縁部材の帯電を防止するだけでなく、可撓性部材と対向電極間に働く静電引力を常に一定にすることが可能となり、可撓性部材の変形形状をより安定したものにすることができる。
【0160】
請求項5に記載の様に、交流電圧の極性の変化する周期を時定数τ=ρ・εiεoより短くすれば、絶縁部材が正負どちらか一方の極性に帯電する以前に、印加電圧の極性が変化することになり、より確実に絶縁部材の帯電を防止することができる。
【0161】
次に、請求項6に記載のアクチュエータでは、可撓性部材と対向電極間に光導電性部材を介在させているので、可撓性部材と対向電極間に電圧を印加して、可撓性部材を変形させているときには、光導電性部材に光を照射せずに、この光伝導性部材を可撓性部材と対向電極間のリーク防止用の絶縁部材として用いることができ、また、可撓性部材と対向電極間に電圧を印加せず、可撓性部材を変形させないときには、光導電性部材に光を照射して、この光導電性部材を可撓性部材と対向電極間の余分な静電気を除電する導電部材として用いることができる。
【0162】
請求項8に記載の様に、対向電極は透明であっても良い。この場合、光導電性部材ヘの光照射を対向電極を介して行えるようになり、アクチュエータの小型化が可能となると共に、他の光学系への光のもれをなくすことができる。
【0163】
請求項9に記載の様に、対向電極側で、可撓性部材の弾性変形を許容する空間を形成する参照面を更に備えていれば、可撓性部材の変形形状が参照面の形状で決定されるため、その変形形状が環境温湿度に影響されることなく再現性の良いものとなる。また、参照面を凸面や凹面、あるいはこの両者を含む形状とすることにより、可撓性部材を凹面のみでなく、任意の形状に変形させることができる。
【0164】
請求項10に記載の様に、可撓性部材と参照面の少なくとも一方に、可撓性部材と参照面間に存在する空気を逃がすための空気孔を形成すれば、可撓性部材と参照面間の空気を逃がすことができ、可撓性部材が変形し易くなり、かつ可撓性部材がより速やかに変形する。
【0165】
請求項11に記載の様に、参照面の外周に、可撓性部材を該参照面に対して位置決めする平坦部を設ければ、参照面の外周の平坦部に、可撓性部材の周縁を当接することによって、可撓性部材と参照面の平行性を調整しつつ、この可撓性部材を容易に配置することができる。
【0166】
請求項12に記載の様に、平坦部が参照面の頂点位置よりも低い位置に形成すれば、可撓性部材を参照面に接近させて配置するときに、参照面の頂点位置が可撓性部材に最も先に接触するため、参照面と可撓性部材の位置関係を容易に知ることが可能となる。
【0167】
請求項14に記載の様に、支持手段が単結晶シリコンからなり、可撓性部材が、単結晶シリコンに不純物をドーピングしてなるものであれば、支持手段と可撓性部材同一材料の単結晶シリコンから形成するので、両者の熱膨張係数の差が小さくなり、環境温度の変動による影響を受け難くなる。また、半導体の製造プロセスを応用すれば、支持手段及び可撓性部材を一括して製造することが可能であり、支持手段及び可撓性部材として高精度で安価なものを得ることができる。
【0168】
請求項15に記載の様に、可撓性部材の表面に金属反射膜を形成すれば、任意の波長の光に対して高反射率のミラーを得ることができる。
【0169】
次に、請求項21または22に記載の変形可能ミラーの組立て方法では、参照面外周の平坦部と可撓性部材間の平行状態を光学的に検出しつつ、両者間を平行に調整しているので、参照面外周の平坦部と可撓性部材の周縁を圧接して、両者間を平行に調整する場合に比べると、より精度良く、より容易に参照面と可撓性部材間の平行度を調整することができる。また、参照面と可撓性部材間の非接触での調整が可能であり、可撓性部材に余分な応力が加わらずに済み、可撓性部材が変形させないときの該可撓性部材の形状をより高精度に設定することが可能となる。
【0170】
次に、請求項23または24に記載の変形可能ミラーの組立て装置では、参照面の頂点位置と可撓部材の接触を接触させてから、支持手段と参照面を僅かに離間しているので、両者間の相対位置を高精度に決めることができる。
【0171】
次に、本発明による記載の光学装置では、可撓性部材と対向電極間にあるリーク防止用の絶縁部材が正負のどちらか一方の極性に帯電することがなく、帯電した絶縁部材と可撓性部材間に斥力が発生せずに済み、可撓性部材の変形形状が安定するので、アクチュエータの動作により、反射方向の異なる複数の光を安定して出射することができる。
【0172】
また、本発明による光学装置では、可撓性部材と対向電極間に電圧を印加せず、可撓性部材を変形させないときには、光導電性部材に光を照射して、この光導電性部材を可撓性部材と対向電極間の余分な静電気を除電する導電部材として用いることができるので、可撓性部材の変形形状が安定し、アクチュエータの動作により、反射方向の異なる複数の光を出射することができる。また、特に可撓性部材の無変形時には、この可撓性部材を高精度のミラーとして作用させることができる。
【0173】
請求項17に記載の様に、アクチュエータの可撓性部材の変形により、入射光に球面収差を与えれば、アクチュエータの動作により、球面収差の加えられた光を安定して出射することができる。
【0174】
請求項18に記載の様に、アクチュエータの可撓性部材の変形により、光学部材のレンズを通過した光の焦点を変化させれば、アクチュエータの動作により、焦点の異なる光を安定して出射することができる。
【0175】
請求項19に記載の様に、アクチュエータの可撓性部材の変形により、光学部材のレンズの開口数を変化させれば、アクチュエータの動作により、開口数の異なるレンズを通過した光を安定して出射することができる。
【0176】
請求項20に記載の様に、アクチュエータの可撓性部材の変形により、この可撓性部材に入射した入射光の球面収差、光学部材のレンズを通過した光の焦点、及び該レンズの開口数のうちの少なくとも2つ以上を同時に変化させれば、アクチュエータの動作により、入射光の球面収差、レンズの焦点、開口数のいずれか2つ以上を同時に変調してなる光を安定して出射することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の変形可能ミラーの第1実施形態を概略的に示す主要断面図
【図2】図1の変形可能ミラーにおけるミラー基板の製造工程を示しており、(a)はシリコン基板にシリコン熱酸化膜を形成する工程を示し、(b)はボロンドープ層を形成する工程を示し、(c)はシリコン熱酸化膜をパターニングする工程を示し、(d)はシリコン基板のエッチング工程を示し、(e)はシリコン熱酸化膜の除去工程を示し、(f)は反射膜の形成工程を示す
【図3】この発明の変形可能ミラーの組立装置の一実施形態を概略的に示す図
【図4】図1の変形可能ミラーにおける可撓性部材と対向電極間の作用を説明するために用いた図
【図5】変形可能ミラーに起こり得る問題点を説明するために用いた図
【図6】(a)は交流電圧波形の一例を示すグラフ、(b)は静電引力を示すグラフ
【図7】(a)は交流電圧波形の他の例を示すグラフ、(b)は静電引力を示すグラフ
【図8】(a)は交流電圧波形の別の例を示すグラフ、(b)は静電引力を示すグラフ
【図9】図1の変形可能ミラーにおける可撓性部材と対向電極を含む回路を等価的に表す等価回路
【図10】この発明を適用しうるカンチレバーを示す斜視図
【図11】(a)は図1の変形可能ミラーにおける参照基板を例示する平面図、(b)は断面図
【図12】この発明の変形可能ミラーの第2実施形態を示す断面図
【図13】この発明の変形可能ミラーの第3実施形態を示す断面図
【図14】図13の変形可能ミラーの変形例を示す断面図
【図15】この発明の光学装置の一実施形態を示すブロック図
【図16】(a)は入射光に球面収差を与える参照面の一例を示す断面図、(b)は対物レンズの光学的焦点を変化させる参照面の一例を示す断面図、(c)は対物レンズの開口数を変化させる参照面の一例を示す断面図、(d)は光ビームに球面収差を与えると同時に、対物レンズの開口数を変化させる参照面の一例を示す断面図
【図17】(a)は従来の焦点可変ミラーを示す断面図、(b)は断面図
【図18】従来の変形可能ミラーを示す断面図
【符号の説明】
1 変形可能ミラー
2 ミラー基板
3 参照基板
4 電圧印加部
5 可撓性部材
6 基板枠
7 参照面
8 対向電極
9 絶縁部材
11 シリコン基板
12 ボロンドープ層
15 参照面支持部材
16 移動機構
17 ミラー支持部材
18 傾き調整機構
19 変形検出装置
101 半導体レーザー
102 コリメータレンズ
104 ビームスプリッター
105 4分の1波長板
106 対物レンズ
【発明の属する技術分野】
この発明は、反射面の変形が可能であって、その変形により入射光に各種の変調を与える変形可能ミラー、及びその組立て方法並びに組み立て装置、及び光学装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
光学装置としては、変形可能な反射面を有する変形可能ミラーと、この変形可能ミラーの反射面によって反射された光が通過するレンズとを備えるものがあり、変形可能ミラーの反射面を変形しないとき、変形するときに応じて、レンズを通過した光の焦点を変化させている。これによって、例えば異なる厚さの各光ディスクのいずれに対しても、光の焦点を正確に位置決めすることができ、これらの光ディスクへの記録や再生が可能となる。
【0003】
この種の反射面の変形が可能なミラーとしては、例えば特開平7−49460号公報に記載の焦点可変ミラーがある。図17は、この焦点可変ミラーを示している。同図において、薄膜ダイヤフラム301は、可撓性を有しており、厚さ10μm程度のパイレックスガラス等から形成されたものである。この薄膜ダイヤフラム301の表面には、光反射及び電極として作用する金属層303を形成している。リング状基板302は、円筒状であって、単結晶シリコンから形成されたものである。薄膜ダイヤフラム301の表側周縁は、リング状基板302に陽極接合されていている。また、薄膜ダイヤフラム301の裏側周縁は、絶縁体の台座部材304に接着されている。この台座部材304の内側には、可撓性部材301と距離を隔てて、対向電極層305を設けている。
【0004】
この様な構成において、対向電極305と金属層303間に、直流電圧を印加すると、両者間に静電引力が発生し、薄膜ダイヤフラム301が凹面状に変形する。
【0005】
しかしながら、このような変形可能ミラーでは次のような間題がある。
【0006】
▲1▼印加電圧による静電引力と薄膜ダイヤフラム301の引っ張り応力とのつりあいのみによって、薄膜ダイヤフラム301の変形形状が決定するので、この変形形状が安定しない。
【0007】
▲2▼空間的に離れた対向電極305と金属層303間の静電引力による変形であるため、薄膜ダイヤフラム301を凹形状にしか変形することができない。
【0008】
▲3▼静電引力の大きさは、対向電極305と金属層303間の距離に大きく左右されるため、組立て精度が要求される。
【0009】
▲4▼環境温湿度の影響によって、静電引力と薄膜ダイヤフラム301の引っ張り応力とのつりあい状態が変化するので、薄膜ダイヤフラム301の変形形状の再現性が悪い。
【0010】
そこで、この発明の出願人は、これらの間題を解決し得る変形可能ミラー(特願平7−312917号)を提案した。図18は、この変形可能ミラーを示している。同図において、可撓性部材201は、弾性変形可能であって、反射面201aを有する。基板枠202は、可撓性部材201の周縁を支持している。参照基板203は、平坦部204と参照面205を有しており、平坦部204を可撓性部材201の裏側周縁に接着して、基板枠202との間で該可撓性部材201の周縁を挟持している。参照面205上に、対向電極206を積層し、参照面205及び平坦部204上に、電圧のリークを防止するための絶縁部材207を積層している。
【0011】
この様な構成において、対向電極206と可撓性部材201間に電圧を印加すると、両者間の静電引力によって、可撓性部材201が参照面205へと吸い寄せられ、この可撓性部材201が参照面205に沿った形状に変形する。
【0012】
ここでは、可撓性部材201が参照面205に吸着した状態で変形するため、この可撓性部材201の変形形状が安定し、環境変化による影響を受け難くなる。また、参照面205の表面形状を例えば、凸形状や凹形状、あるいはこの両方を組み合わせた形状とすることにより、可撓性部材201を凹形状のみでなく任意の形状に変形させることが可能となる。
【0013】
次に、この変形可能ミラーについて、より詳細に説明する。基板枠202は、シリコン基板から形成されたものであり、このシリコン基板の一方の面にニッケル膜等を電界メッキ法等によって形成してから、このシリコン基板の中央部を異方性エッチングによって選択的に浸食してなる。このエッチングによって、シリコン基板の残った部分が基板枠202となり、先のニッケル膜が可撓性部材201となる。参照基板203は、ガラスモールド法や樹脂の成形によって形成されたものであり、この参照基板203の参照面205に、アルミニウム等からなる対向電極206と酸化シリコン等からなる絶縁部材207を順次形成している。基板枠202と参照基板203とは、図示しないスペーサーを介在させ、接着材によって相互に固定されている。そして、可撓性部材201と対向電極206間に電圧を印加することにより、静電引力を発生させ、可撓性部材201を参照面205に沿うように変形させている。
【0014】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、可撓性部材201を参照面205に沿って変形させると言う上記変形可能ミラーにおいても以下の様な間題がある。
【0015】
可撓性部材201と対向電極206間に電圧を印加すると、両者間に存在する絶縁部材207に電荷が注入され、この絶縁部材207が帯電してしまう。この状態では、可撓性部材201と絶縁部材207間に斥力が発生するので、可撓性部材201の変形形状が安定しなくなったり、可撓性部材201が参照面205に沿って変形しなくなる。あるいは、電圧印加により発生する静電引力と絶縁部材207の帯電によって発生する静電斥力が相殺されて、実効的な静電引力が低減し、可撓性部材201の大きな変形や複雑な形状への変形が困難となる。
【0016】
また、絶縁部材207が帯電した状態では、可撓性部材201と対向電極206間に電圧を印加せずに、可撓性部材201を変形していない初期状態(平板状態)に保持しようとしても、絶縁部材207と可撓性部材201間の静電引力によって、この初期状態を保特することが困難となる。
【0017】
更に、ニッケル膜等の可撓性部材207とシリコン基板から形成された基板枠202の熱膨張係数の差から、環境温度の変化に伴い、その引っ張り応力が変化したり、座屈するという間題がある。
【0018】
また、基板枠202と参照基板203の組立て時に、可撓性部材207と参照面205の平行度やギャップを高精度に管理する必要がある。このためには、例えば基板枠202をギャップとなるスペーサーを介して参照基板203に押し当て、この状態で、両者を接着することが考えられる。ところが、この場合、基板枠202に余分な応力がかかり、可撓性部材207が変形して、ギャップを高精度に管理することができないという間題がある。
【0019】
従って、従来の変形可能ミラーでは、高精度に各種の変調を行うことができる光学装置に利用することが困難であった。
【0020】
そこで、この発明は、これらの課題を鑑みてなされたものであり、絶縁部材の帯電を防止し、可撓性部材の変形形状を高精度に保持することが可能であり、また複雑な形状や大きな変位を伴う形状に、可撓性部材を変形することが可能であり、更に可撓性部材と参照面の平行度、及び両者間のギャップを高精度に管理することができ、あるいは環境温度の変動の影響を受け難く、小型で簡易な構成であって、安価に製造可能な変形可能ミラー、及びその組立て方法並びに組み立て装置、及びこの変形可能ミラーの適用によって各種の変調を高精度に行うことが可能となった光学装置を提供すことを目的とする。
【0021】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために、請求項1に記載のアクチュエータは、弾性変形可能な可撓性部材と、前記可撓性部材と対向して配置された対向電極と、前記可撓性部材と前記対向電極との間に介在する絶縁部材と、前記可撓性部材と前記対向電極との間に極性の変化する交流電圧を印加する電圧印加手段とを備え、前記可撓性部材と前記対向電極との間の少なくとも一部に前記可撓性部材の弾性変形を許容する空間が設けられており、前記可撓性部材は、前記可撓性部材と前記対向電極との間に印加される交流電圧による静電引力によって変形し、前記電圧印加手段は、前記可撓性部材が前記絶縁部材に吸着するように、前記交流電圧を前記可撓性部材と前記対向電極との間に印加する。
請求項2に記載の様に、前記可撓性部材を支持する支持手段をさらに備えてもよい。
【0022】
この様な構成によれば、可撓性部材と対向電極間に交流電圧を印加するので、可撓性部材と対向電極間に静電引力が加わり、可撓性部材が対向電極側にたわんで、この可撓性部材の反射面が変形する。
【0023】
また、可撓性部材と対向電極間に印加される交流電圧は、その極性が変化するので、可撓性部材と対向電極間にあるリーク防止用の絶縁部材が正負のどちらか一方の極性に帯電することがなく、帯電した絶縁部材と可撓性部材間に斥力が発生せずに済む。これによって、可撓性部材の変形形状が安定すると共に、より大きな静電引力を得ることが可能となる。
【0024】
請求項3に記載の様に、交流電圧は矩形波でも良い。この矩形波は、正弦波等に比べると、その極性が急激に変化するため、静電引力が零近傍となる時間が短く、静電引力の変動を小さくすることができる。
【0025】
請求項4に記載の様に、矩形波の交流電圧は、正電位側の波高値と負電位側の波高値が同一であっても良い。ここで、可撓性部材と対向電極間の静電引力は、両者間の印加電圧の極性の影響を受けず、その強さは可撓性部材と対向電極間の電位差の絶対値によって決定される。このため、正電位側の波高値と負電位側の波高値が同一となる矩形波の交流電圧であれば、絶縁部材の帯電を防止するだけでなく、可撓性部材と対向電極間に働く静電引力を常に一定にすることが可能となり、可撓性部材の変形形状をより安定したものにすることができる。
【0026】
請求項5に記載の様に、交流電圧の極性の変化する周期は、絶縁部材の体積抵抗率をρ、比誘電率をεi、真空の誘電率をεoとした時、時定数τ=ρ・εiεoより短くするのが好ましい。
【0027】
この様に構成することにより、絶縁部材が正負どちらか一方の極性に帯電する以前に、印加電圧の極性が変化することになり、より確実に絶縁部材の帯電を防止することができる。
【0028】
次に、請求項6に記載のアクチュエータは、弾性変形可能な可撓性部材と、前記可撓性部材と対向して配置された対向電極と、前記可撓性部材と前記対向電極との間に介在し、光が照射されると、絶縁体から導電体へと変化する光導電性部材と、前記光導電性部材に光を照射する光照射装置と、前記可撓性部材と前記対向電極との間に、電圧を印加する電圧印加手段とを備え、前記可撓性部材と前記対向電極との間の少なくとも一部に前記可撓性部材の弾性変形を許容する空間が設けられており、前記可撓性部材は、前記可撓性部材と前記対向電極との間に印加される電圧による静電引力によって変形し、前記電圧印加手段が前記電圧の印加を止めると、前記光照射装置は前記光導電性部材に光を照射する。
請求項7に記載の様に、前記可撓性部材を支持する支持手段をさらに備えてもよい。
【0029】
ここでも、可撓性部材と対向電極間に電圧を印加するので、可撓性部材と対向電極間に静電引力が加わり、可撓性部材が対向電極側にたわんで、この可撓性部材の反射面が変形する。
【0030】
また、可撓性部材と対向電極間に光導電性部材を介在させているので、可撓性部材と対向電極間に電圧を印加して、可撓性部材を変形させているときには、光導電性部材に光を照射せず、この光伝導性部材を可撓性部材と対向電極間のリーク防止用の絶縁部材として用いる。また、可撓性部材と対向電極間に電圧を印加せず、可撓性部材を変形させないときには、光導電性部材に光を照射して、この光導電性部材を可撓性部材と対向電極間の余分な静電気を除電する導電部材として用いる。
【0031】
請求項8に記載の様に、対向電極は透明であっても良い。この場合、光導電性部材ヘの光照射を、対向電極を介して行えるようになり、アクチュエータの小型化が可能となると共に、他の光学系への光のもれをなくすことができる。
【0032】
上記請求項1乃至6のいずれに記載のアクチュエータにおいても、請求項9に記載の様に、対向電極側で、可撓性部材の弾性変形を許容する空間を形成する参照面を更に備え、電圧印加手段によって可撓性部材と対向電極間に電圧を印加したときに、可撓性部材と対向電極間の静電引力によって、可撓性部材が変形して参照面に吸い寄せられても良い。
【0033】
このように可撓性部材が変形して沿う参照面を有する場合、可撓性部材の変形形状が参照面の形状で決定されるため、その変形形状が環境温湿度に影響されることなく再現性の良いものとなる。また、参照面を凸面や凹面、あるいはこの両者を含む形状とすることにより、可撓性部材を凹面のみでなく、任意の形状に変形させることができる。
【0034】
請求項10に記載の様に、可撓性部材と参照面の少なくとも一方に、可撓性部材と参照面間に存在する空気を逃がすための空気孔を形成しても良い。
【0035】
この様に構成することにより、、可撓性部材と参照面間の空気を逃がすことができ、可撓性部材が変形し易くなり、かつ可撓性部材がより速やかに変形する。
【0036】
請求項11に記載の様に、参照面の外周に、可撓性部材を該参照面に対して位置決めする平坦部を設けても良い。
【0037】
この場合、参照面の外周の平坦部に、可撓性部材の周縁を当接することによって、可撓性部材と参照面の平行度を調整しつつ、この可撓性部材を容易に配置することができる。
【0038】
請求項12に記載の様に、平坦部が参照面の頂点位置よりも低い位置に形成しても良い。
【0039】
この様に構成することにより、可撓性部材を参照面に接近させて配置するときに、参照面の頂点位置が可撓性部材に最も先に接触するため、参照面と可撓性部材の位置関係を容易に知ることが可能となる。
【0040】
請求項13に記載の様に、アクチュエータは、前記可撓性部材の表面に反射膜が設けられてもよい。
請求項14に記載の様に、アクチュエータは、可撓性部材を支持する支持手段をさらに備え、支持手段は、可撓性部材に引っ張り応力を与えてこの可撓性部材を保持するものであって、単結晶シリコンからなり、可撓性部材は、単結晶シリコンに不純物をドーピングしてなるものでも良い。
【0041】
この場合、支持手段と可撓性部材を同一材料の単結晶シリコンから形成するので、両者の熱膨張係数の差が小さくなり、環境温度の変動による影響を受け難くなる。また、半導体の製造プロセスを応用すれば、支持手段及び可撓性部材を一括して製造することが可能であり、支持手段及び可撓性部材として高精度で安価なものを得ることができる。
【0042】
請求項15に記載の様に、可撓性部材の表面に金属反射膜を形成しても良い。
【0043】
この様な構成にすることにより、任意の波長の光に対して高反射率のミラーを得ることができる。
【0044】
次に、変形可能ミラーを組み立てるための組立て方法は、請求項21または22に記載の様に、参照面外周の平坦部と可撓性部材間の平行状態を光学的に検出しつつ、両者間を平行に調整する。
【0045】
この場合、参照面外周の平坦部と可撓性部材の周縁を圧接して、両者間を平行に調整する場合に比べると、より精度良く、より容易に参照面と可撓性部材間の平行度を調整することができる。また、参照面と可撓性部材間の非接触での調整が可能であり、可撓性部材に余分な応力が加わらずに済み、可撓性部材が変形していないときの該可撓性部材の形状をより高精度に設定することが可能となる。
【0046】
次に、変形可能ミラーを組み立てるための組立て装置は、請求項23または24に記載の様に、変形可能ミラーは、可撓性部材を支持する支持手段をさらに備え、前記組立て装置は、前記支持手段を保持する第1保持手段と、前記参照面を保持する第2保持手段と、前記第1保持手段及び前記第2保持手段の少なくとも一方を移動させる移動手段と、前記参照面の頂点位置と前記可撓性部材の接触による前記可撓性部材の変形を検出する変形検出手段とを備え、前記組立て装置は、前記支持手段を保持する第1保持手段と、前記参照面を保持する第2保持手段と、前記第1保持手段及び前記第2保持手段の少なくとも一方を移動させる移動手段と、前記参照面の頂点位置と前記可撓性部材の接触による前記可撓性部材の変形を検出する変形検出手段とを備え、前記可撓性部材と前記参照面とが接触する方向に前記第1保持手段及び前記第2保持手段の少なくとも一方を前記移動手段にて移動させて、前記変形検出手段により前記可撓性部材の変形が検出された後、前記移動手段により前記参照面と前記可撓性部材とを所定の間隔となるように移動させることを特徴とする。
【0047】
このような装置によれば、参照面の頂点位置と可撓部材の接触を接触させてから、支持手段と参照面を僅かに離間して、両者間の相対位置を高精度に決めることができる。
【0048】
次に、請求項16に記載の光学装置は、請求項1乃至15のいずれかに記載のアクチュエータと、前記アクチュエータに対して光を入出力する光学部材とを備える。
【0049】
この様な光学装置では、可撓性部材と対向電極間にあるリーク防止用の絶縁部材が正負のどちらか一方の極性に帯電することがなく、帯電した絶縁部材と可撓性部材間に斥力が発生せずに済み、可撓性部材の変形形状が安定するので、アクチュエータの動作により、反射方向の異なる複数の光を安定して出射することができる。
【0050】
また、本発明による光学装置は、変形可能な反射面を有するアクチュエータと、前記アクチュエータに対して光を入出力する光学部材とを備え、前記アクチュエータの変形に応じて、反射方向の異なる複数の光を生成する光学装置において、前記アクチュエータは、入射光を反射する反射面を表面に有する可撓性部材と、前記可撓性部材を支持する支持手段と、前記可撓性部材と対向して配置された対向電極と、前記対向電極側で、前記可撓性部材の弾性変形を許容する空間を形成する参照面と、前記可撓性部材と前記対向電極との間に介在し、光を照射されると、絶縁体から導電体へと変化する光導電性部材と、前記光導電性部材に光を照射する光照射装置と、前記可撓性部材と前記対向電極との間に、電圧を印加する電圧印加手段とを備え、前記可撓性部材と前記対向電極との間の少なくとも一部に前記可撓性部材の弾性変形を許容する空間が設けられており、前記可撓性部材は、前記可撓性部材と前記対向電極との間に印加される電圧による静電引力によって変形する。
【0051】
この様な光学装置では、可撓性部材と対向電極間に電圧を印加せず、可撓性部材を変形させないときには、光導電性部材に光を照射して、この光導電性部材を可撓性部材と対向電極間の余分な静電気を除電する導電部材として用いることができるので、可撓性部材の変形形状が安定し、アクチュエータの動作により、反射方向の異なる複数の光を出射することができる。また、可撓性部材を変形させないときには、この可撓性部材が高精度のミラーとなる。
【0052】
請求項17に記載の様に、アクチュエータは、その可撓性部材の変形により、入射光に球面収差を与えても良い。
【0053】
この様な光学装置では、アクチュエータの動作により、球面収差の加えられた光を安定して出射することができる。
【0054】
請求項18に記載の様に、光学部材は、アクチュエータの可撓性部材によって反射された光が通過するレンズを有し、アクチュエータは、その可撓性部材の変形により、光学部材のレンズを通過した光の焦点を変化させても良い。
【0055】
この様な光学装置では、アクチュエータの動作により、焦点の異なる光を安定して出射することができる。
【0056】
請求項19に記載の様に、光学部材は、アクチュエータの可撓性部材によって反射された光が通過するレンズを有し、アクチュエータは、その可撓性部材の変形により、光学部材のレンズの開口数を変化させても良い。
【0057】
この様な光学装置では、アクチュエータの動作により、開口数の異なるレンズを通過した光を安定して出射することができる。
【0058】
請求項20に記載の様に、光学部材は、アクチュエータの可撓性部材によって反射された光が通過するレンズを有し、アクチュエータは、その可撓性部材の変形により、この可撓性部材に入射した入射光の球面収差、光学部材のレンズを通過した光の焦点、及び該レンズの開口数のうちの少なくとも2つ以上を同時に変化させても良い。
【0059】
この様な光学装置では、アクチュエータの動作により、入射光の球面収差、レンズの焦点、開口数のいずれか2つ以上を同時に変調してなる光を安定して出射することができる。
【0060】
【発明の実施の形態】
以下、この発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、この発明の変形可能ミラーの第1実施形態を概略的に示す主要断面図である。この変形可能ミラー1は、大きく分けると、ミラー基板2、参照基板3、及び電圧印加部4に分けられ、これらから構成される。
【0061】
ミラー基板2は、弾性変形可能な可撓性部材5と、その表面に形成された反射膜5aと、可撓性部材5に引っ張り応力を与えながら保持する基板枠6とから構成される。
【0062】
参照基板3は、その表面に任意の形状の凹凸面を有する参照面7と、参照面7の表面に形成された対向電極8と、対向電極8の表面に形成された絶縁部材9とから構成される。
【0063】
ミラー基板2と参照基板3は、可撓性部材5と参照面7が対向する位置で接着されている。
【0064】
電圧印加部4は、可撓性部材5と対向電極8間に極性の変化する交流電圧を印加するものである。
【0065】
この様な構成において、変形可能ミラー1を変形させるか、変形させないかの切替えは、電圧印加部4により制御される。電圧印加部4によって、可撓性部材5と対向電極8間に交流電圧が印加されると、両者間に静電引力が発生し、可撓性部材5が参照面7に吸引されて、この参照面7に沿った形状に変形する。電圧印加部4による交流電圧の印加を停止すると、可撓性部材5と対向電極8間には静電引力が働かなくなり、可撓性部材5が初期形状に戻る。
【0066】
次に、この変形可能ミラー1の各構成要素について、より詳細に説明する。 基板枠6は、10mm四方で、厚さ1mm程度の単結晶シリコンからなり、その中央部には、エッチングによって、対角線の長さが6mm程度の八角形の開口部6bを形成している。基板枠6と開口部6bの大きさは、必要な反射面積によって決まるものであり、任意の大きさに形成されるものである。開口部6bの形状は、八角形である必要はないが、円形に近いほど可撓性部材5にかかる応力が均一となる。
【0067】
可撓性部材5は、その厚さが3μから10μm程度であり、基板枠6となる単結晶シリコンの表面にボロン等の不純物を予めドーピングしておき、エッチング液の選択性を利用して、基板枠6の開口部6bにあたる部分のみを該基板6の裏面からエッチングして除去すると共に、不純物をドーピングした部分を可撓性部材5として残して、この可撓性部材5を形成する。これによって、可撓性部材5と基板枠6を接着する必要がなくなり、可撓性部材5を基板枠6によって保持してなるダイヤフラム構造を簡易かつ高精度に得ることができる。また、可撓性部材5と基板枠6の熱膨張率の差を小さくすることができ、環境温度の変化により、可撓性部材5に余分な応力が発生することを防止することができる。
【0068】
可撓性部材5は、薄くなる程、可撓性が高くなり、低電圧(小さな静電引力)で変形させることが可能になるが、薄くなり過ぎると、共振周波数が低くなったり、強度が弱くなるといった間題がある。このため、可撓性部材5は、その大きさにもよるが、その厚さを3μmから10μm程度に形成するのが最も良い。
【0069】
また、可撓性部材5は、10MPa程度の引っ張り応力をもって、基板枠6に保持されている。この引っ張り応力が働くことにより、可撓性部材5と対向電極8間に電圧を印加していないときには、この可撓性部材5を平面状態を維持することができる。
【0070】
可撓性部材5の表面には、蒸着法あるいはスパッタ法等によって、アルミニウム等からなる反射膜5aを形成している。可撓性部材5の表面の反射率が十分高ければ、反射膜5aを必要としない。また、反射膜5aは、光を反射するだけでなく、可撓性部材5を導電性材料で形成しない場合に、この可撓性部材5の代わりに、電極として使用することができる。反射膜5aの厚さは、例えば1μm程度あり、可撓性部材5の可撓性を妨げない程度の厚さに形成される。その材質は、アルミニウム、金、ニッケルやアルミニウムに微量の金属を添加したもの等であり、反射膜5aの入射光の波長(光源の波長)に対する反射率等に応じて選択される。例えば、波長780nmの半導体レーザを光源として使用する場合、シリコンに不純物をドーピングして形成された可撓性部材5表面の反射率が低いので、アルミニウム等の反射膜5aを積層する必要があり、これによって高い反射率を得ることができる。
【0071】
次に、ミラー基板2の製造工程を図2を参照しつつ詳細に説明する。このミラー基板2は、半導体の製造プロセスを応用して作製することができ、ここでは、その一例を述べる。
【0072】
(1)図2(a)に示す様に、シリコン基板11における面方位(100)の表面及び裏面に、熱酸化により、シリコン熱酸化膜11a(裏面側のシリコン熱酸化膜11aを図示せず)を形成する。なお、シリコン基板11の表面は、研磨、ポリシング加工が施されており、その平面度が1nm以下に抑えられている。
【0073】
引き続いて、表面のみにレジストを塗布し、裏面のシリコン熱酸化膜11aをフッ酸を用いたウェットエッチングによって除去する。その後、表面側のレジストを除去する。
【0074】
(2)図2(b)に示す様に、窒化ボロンの個体ソースにより、ボロンイオンをシリコン基板11の裏面から拡散させ、これによって厚さ3μmから10μm程度のボロンドープ層12(後に可撓性部材5となる)を形成する。このボロンドープ層12の表面には、シリコン酸化膜12bを形成する。ドーピングする不純物は、ボロンのみに限らず、ガリウム、インジウム、リン等を使用してもよい。
【0075】
(3)図2(c)に示す様に、熱酸化膜11a上にフォトレジスト(図示しない)を塗布し、フォトリソグラフィを行って、このレジストに基板枠6の開口部6bに対応する開口パターンを形成する。そして、CHF3ガスを用いてドライエッチングを行って、基板枠6の開口部6bを形成するための開口部11bを熱酸化膜11aに形成し、この後にレジストを除去する。
【0076】
(4)図2(d)に示す様に、熱酸化膜11aをマスクとして、基板11の表面側からEDPエッチング液によってウェットエッチングを行い、開口部11bのシリコンを除去して、開口部6bを有する基板枠6を形成すると共に、ボロンドープ層12からなるダイヤフラム、つまり厚さ3μmから10μm程度の可撓性部材5を形成する。
【0077】
EDPエッチング液とは、エチレンジアミン、純水、カテコール、ピラジンから成り、シリコン基板11とボロンドープ層12間のエッチング選択比の高いエッチング液である。また、このEDPエッチング液によりエッチング行うと、異方性エッチングが可能となり、結晶面方位(1,1,1)方向のエッチング速度は早く、(1,1,1)方向のエッチング速度は極端に遅くなる。これによって、図2(d)に示す様なテーパ状の開口部6bが形成され、また開口部6bを熱酸化膜11aのパターンに応じた形状に、精度良く、加工することができる。
【0078】
(5)図2(e)に示す様に、熱酸化膜12aを基板枠6の表面側からフッ酸を用いたウェットェッチングによって除去する。それから、基板枠6の裏面側からCHF3ガスを用いたドライエッチングによって、シリコン酸化膜を除去する。
【0079】
(6)図2(f)に示す様に、基板枠6の表面側からアルミニウムを蒸着あるいスパッタにより製膜し、厚さ1μm程度の反射膜5aを形成する。それから、ダイシングにより任意の大きさに切断する。
【0080】
以上のように、この製造方法では、ミラー基板2を半導体の製造プロセスによって作製しているので、可撓性部材5を高精度に作製することができ、この可撓性部材5の反射面の形状を向上させることができる。また、シリコン基板11上に複数のミラー基板2を同時に一括して作製することができ、低いコストでの作製が可能となる。
なお、上述したミラー基板2の製造方法は一例に過ぎず、一部を変更した方法や他の方法により作製することも可能である。
【0081】
次に、参照基板3について詳細に説明する。
参照基板3は、ガラスモールド法あるいは樹脂の成形等によって作製されたものである。この参照基板3の参照面7は、入射光に所望の変調を与えるための凸面部7aと凹面部7bを有する。また、参照基板3の周縁には、平坦部7cを形成しており、ミラー基板2と参照基板3の組立て時に、可撓性部材5と参照面7の平行度を調整するために、この平坦部7cを利用する。
【0082】
参照面7の凸面部7aの頂点は、ミラー基板2と参照基板3の組立て時の位置調整を考慮して、平坦部7cよりも1μmから3μm程度高くなっている。
【0083】
参照面7の表面には、アルミニウム等からなる対向電極8を蒸着法あるいは、スパッタ法等により形成している。対向電極8の材質としては、アルミニウムの他に金、ニッケルやアルミニウムに微量の金属を添加したもの等を使用することができ、参照面7の形状を損なわないように、この対向電極8の厚さを1μm程度に設定している。また、対向電極8の一部からは、電圧印加部4への配線を導出している。
【0084】
対向電極8の表面には、酸化シリコン等からなる厚さ5μm程度の絶縁部材9をスパッタ法等により形成している。この絶縁部材9は、可撓性部材5と対向電極8間での電圧のリークを防止するものである。この絶縁部材9の材質としては、酸化シリコンの他に窒化シリコンや五酸化タンタル等の絶縁材料を適用することができ、その厚さは、絶縁耐力と静電引力の強さ、そして参照面7の形状への影響を考慮して決定する。すなわち、絶縁部材9が厚い程、絶縁耐力が高くなるものの、対向電極8と可撓性部材5のギャップが大きくなるため、静電引力は弱くなる。また、可撓性部材5が吸引され変形してなる形状は、絶縁部材9に吸引されてなる形状であって、参照面7の形状に対しての誤差を含むため、絶縁部材9の厚さを参照面7の形状を損なわない程度に設定する必要がある。この絶縁部材9は、対向電極8の表面でなく、可撓性部材5の対向電極8側に形成してもよい。
【0085】
次に、この発明の変形可能ミラーの組立て方法並びに組立て装置の一実施形態を図3を参照しつつ説明する。ここでは、ミラー基板2と参照基板3を接合している。
【0086】
(1)参照基板3を参照面支持部材15によって支持する。この参照面支持部材15は、z方向への移動機構16を備え、参照基板3をz方向に移動させることができる。
【0087】
この際、参照基板3の平坦部7cを予め定められた方向に向けて支持する。このためには、ミラー基板2を配置していない状態で、図示しないオートコリメータや光干渉計等の光計測器を参照基板3の平坦部7cの上方に設置してから、平坦部7c上のアルミニウム等からなる対向電極8に光を照射し、その反射光を光計測器によって計測して、参照基板3の平坦部7cの方向を検出し、この検出結果に応じて、参照基板3の平坦部7cの方向を調整する。
【0088】
(2)ミラー基板2をミラー支持部材17によって支持し、このミラー基板2を参照基板3の上方に設置する。このミラー支持部材17は、傾き調整機構18を備え、ミラー基板2の傾きを変更することができる。
【0089】
この際、ミラー基板2の可撓性部材5を参照基板3の平坦部7cと平行にして支持する。このために、先のオートコリメータや光干渉計等の光計測器を可撓性部材5の上方に設置してから、可撓性部材5に光を照射し、その反射光を光計測器によって計測して、可撓性部材5の方向を検出し、この検出結果に応じて、可撓性部材5の方向を傾き調整機構18によって調整しつつ参照基板3の平坦部7cの方向に一致させる。
【0090】
これによって、可撓性部材5と参照面7の平行度を調整することができ、両者の向きを高精度かつ簡易に設定することができる。
【0091】
(3)光干渉計等の変形検出装置19によって、可撓性部材5の反射膜5aからの反射光の変調(干渉縞)を検出し、この可撓性部材5の形状を観察しながら、移動機構16によっで、参照基板3を上昇させてミラー基板2に接近させていく。
【0092】
先に述べた様に、参照面7の凸面部7aの頂点を平坦部7cよりも高く設定しているので、参照面7の凸面部7aの頂点が可撓性部材5に最初に接触する。このとき、可撓性部材5が変形して、この可撓性部材5からの反射光が変化し、変形検出装置19によって検出された干渉縞が変化する。このため、この干渉縞の変化に基づいて、参照基板3と可撓性部材5が接触したとき(ギャップ無し)の該参照基板3の位置を簡易に高精度に検知することができる。
【0093】
(4)移動機構16によっで、参照基板3を僅かに下降させて、参照面7の凸面部7aと可撓性部材5間に1μmから5μm程度のギャップを開け、その状態で、ミラー基板2の周縁と参照基板3の平坦部7cの隙間にエポキシ系接着剤等の接着剤を充填して、両者を接着する。
【0094】
この様に参照面7と可撓性部材5の平行度を光学的に検出しつつ調整すれば、例えば参照基板3とミラー基板2を圧接して、両者の平行度を調整する揚合と比べて、より精度良く、より容易に参照面7と可撓性部材5の平行度を調整するできる。また、参照基板3とミラー基板2を接触させずに、両者の平行度を調整することができるので、可撓性部材5に余分な応力がかかることがなく、可撓性部材5を変形させないときの該可撓性部材5の反射面として、より高精度なものを得ることができる。更に、このような機構により、ギャップ無しの参照基板3の位置を容易に高精度に検出することができ、その後にギャップを設定することにより、高精度にギャップを管理することができる。
【0095】
次に、変形可能ミラー1の駆動原理について詳細に説明する。
まず、簡単化のため、可撓性部材5と対向電極8を図4に示す様な平行な各平板に置き換えて、これらの間に働く静電引力を説明する。ここで、絶縁部材9の厚さをdi、比誘電率をεiとし、ギャップをdg、真空の誘電率をεo、面積をSとすると、可撓性部材5と対向電極8間の静電容量Cは、次式(1)で表される。
C=εi・εo・S/(di+εi・dg) …(1)
また、可撓性部材5と対向電極8間に電圧印加部4によって電圧Vが印加されたとき、両者間に働く静電力Fは、次式(2)で表される。
F=(V2/2)・εi 2・εo・S/(di+εi・dg)2 …(2)
この静電力Fは、電圧Vの極性にかかわらず、この電圧Vの絶対値に対応する引力として常に働く。上式(2)より明らかなように、静電力Fは、絶縁部材9の厚さdi、誘電率εiの影響を受けるものであって、比誘電率の高い絶縁材料を用いれば、より大きな静電引力を得ることができる。
【0096】
上式(2)によって表される静電力Fは、変形していない可撓性部材5と対向電極8間に働く力であり、静電引力によって可撓性部材5が変形すると、両者間のギャップが小さくなり、その結果、より大きな静電引力が働くようになる。そして、可撓性部材5が参照面7上の絶縁部材9に吸着したときに、この可撓性部材5の変形が止まり、安定状態となる。
【0097】
しかしながら、可撓性部材5が絶縁部材9に吸着した状態では、電荷注入や接触帯電によって絶縁部材9に帯電が生じ、可撓性部材5と対向電極8間の静電引力が低下することがある。
図5は、この状態を模式的に表している。例えば、可撓性部材5を正極として電圧を印加した場合、図5に示すように絶縁部材9は、電荷注入等によって、可撓性部材5と同じ正極に帯電する。この結果、可撓性部材5と絶縁部材9間に静電的斥力が働いて、電圧印加による静電引力を打ち消し、可撓性部材5が絶縁部材9から離れると言う事態を招く。あるいは、絶縁部材9の帯電は、この絶縁部材9の全体に均一に生じるものではないため、部分的に斥力の大きさが異なり、可撓性部材5が参照面7とは全く異なる形状に変形する。更には、電圧を切った後も、絶縁部材9の帯電が残り、可撓性部材5と絶縁部材9間で引力が働いて、可撓性部材5がもとの無変形の状態に戻らなくなった。
【0098】
そこで、この第1実施形態の変形可能ミラーでは、絶縁部材9の帯電を防止するために、可撓性部材5と対向電極8間に印加する電圧を直流電圧ではなく、極性の変化する交流電圧にしている。すなわち、絶縁部材9が正あるいは負のどちらかの極性に帯電する以前に、電圧の極性を切替えることにより、絶縁部材9が一方の極性に帯電することを防いでいる。
【0099】
また、交流電圧の波形として、矩形波を適用した場合は、静電引力の変動を小さく抑えることができる。更に、矩形波の正電位側の波高値と負電位側の波高値を同一に、つまり正の最高電位の絶対値と負の最低電位の絶対値を同一にした場合は、可撓性部材5に働く静電引力を常に一定に維持することができ、安定な変形状態を得ることができる。
【0100】
この様な交流電圧について、図6を参照して説明する。
まず、電圧Vと静電力Fは、上式(2)によって表され、電圧Vの極性によらず、この静電力Fが常に引力となる。また、交流電圧の波形の種類に応じて、静電力Fは、図6、図7及び図8に示す様なものとなる。
【0101】
図6(a)及び(b)は、正弦波の交流電圧と、この交流電圧を可撓性部材5と対向電極8間に印加したときの静電引力を示している。この交流電圧は、可撓性部材5と対向電極8間の電位差であり、この電位差の極性にかかわらず、この電位差の絶対値に応じて、静電引力が変化するので、この静電引力が交流電圧の2倍の周期で変化している。
【0102】
図7(a)及び(b)は、矩形波の交流電圧と、この交流電圧を可撓性部材5と対向電極8間に印加したときの静電引力を示している。ここでも、交流電圧、つまり可撓性部材5と対向電極8間の電位差の絶対値に応じて、静電引力が変化している。
【0103】
図8(a)及び(b)も、図7と同様に、矩形波の交流電圧と、この交流電圧を可撓性部材5と対向電極8間に印加したときの静電引力を示している。ただし、ここでは、矩形波の正電位側の波高値と負電位側の波高値を同一に設定している。このため、可撓性部材5と対向電極8間の電位差の絶対値が常に一定となり、一定の静電引力が保たれる。
【0104】
実際には、矩形波の極性の切り替わりのために、有限の時間(slew rate)が費やされるものの、可撓性部材5の応答速度を考えると、この時間が無視できる程度に小さく、可撓性部材5の振動も生じない。
【0105】
したがって、可撓性部材5と対向電極8間の交流電圧として、矩形波の正電位側の波高値と負電位側の波高値を同一となる矩形波とすれば、絶縁部材9の帯電を防止することができるばかりでなく、静電引力を一定に保つことができるため、可撓性部材5の変形形状を安定化させることができる。
【0106】
一方、可撓性部材5と対向電極8間の交流電圧の周期は、先に述べた様に絶縁部材9が一方の極性に帯電しない程度に短くする必要があり、これによって効果的に絶縁部材9の帯電を防止することができる。
【0107】
絶縁部材9の帯電は、その導電率に関係する現象であり、図9に示す等価回路モデルによって明らかにされる。同図において、Ci,Riは、それぞれ絶縁部材9の静電容量と抵抗を表す。この等価回路において、電圧Vを絶縁部材9に印加し始めてから時間t後に、絶縁部材9が電位Viに帯電したならば、この電位Viは次式(3)によって表される。
【0108】
Vi=V(1−exp(−t/Ci,Ri) …(3)
また、絶縁部材9の比抵抗をρ、比誘電率をεiとすると、時定数τ=Ri,Ciは次式で表される。
【0109】
τ=ρ・εi・εoo …(4)
ここで、t=τ/10のときに、ViがVの約10%に達し、t=τのときに、ViがVの約63%に達する。このため、交流電圧の極性の切替わる周期(交流電圧の周期の1/2)を時定数τ以下、好ましくは1/10以下に設定すれば、より効率的に絶縁部材9の帯電を防止することができる。
【0110】
例えば、絶縁部材9として窒化シリコンを適用し、その比抵抗ρが6x1010Ω・cmで、その誘電率εiが6である場合、上式(4)から時定数τが32msecとなるので、交流電圧の極性の切替わる周期を1/30秒以下(周波数約30Hz以上)、好ましくは1/300秒以下(300Hz以上)に設定すれば、絶縁部材9の帯電を確実に防止することができる。
【0111】
なお、この発明は、この第1実施形態に限定されるものではなく、静電力によて物体を変位させる一般的なアクチュエータにも適用することができ、これによって第1実施形態における可撓性部材5と対向電極8間に交流電圧を印加したことによる効果を期待することができる。
【0112】
例えば、図10に示す様なカンチレバーにおいて、可撓性部材21と対向電極22間に直流電圧を印加して、可撓性部材21を絶縁部材23に接する位置まで変形させるにしても、絶縁部材23が帯電すると、可撓性部材21と絶縁部材23間に静電斥力が働き、可撓性部材21の変形形状が安定しなくなる。ここでも、この発明と同様に、可撓性部材21と対向電極22間に交流電圧を印加すれば、絶縁部材23の帯電を防止することができ、可撓性部材21の変形形状が安定したものとなる。
【0113】
すなわち、第1実施形態では、可撓性部材5を参照面7に吸引しているが、これに限定されることはなく、可撓性部材(変形あるいは移動可能な部材)と対向電極を対向配置し、これらの間に絶縁部材を介在させ、可撓性部材と対向電極間の静電引力によって可撓性部材を変形させると言うアクチュエータであれば、どのようなものであっても、この発明を適用することができる。
【0114】
次に、第1実施形態の変形可能ミラー1を変形させない状態、及び変形させた状態についての測定結果を述べる。
【0115】
まず、この測定のために使用した参照面7の形状を図11を参照して説明する。参照基板3は、φ8mm、厚さ3mmのものである。また、参照面7においては、中央部の|半径r(mm)|<1.075の領域が凸面部7aであって、曲率96.412mmの凸状球面となり、その周囲の1.075≦|(半径rmm)|≦2.6の領域が凹面部7bであって、次式(5)のf(r)(μm)で表される凹状非球面となっている。
【0116】
更に、参照面7の外周の|半径r(mm)|<7.5の領域が平坦部7cとなっており、この領域の外周で面取りをおこなっている。
【0117】
この参照面7の形状は、可撓性部材5の変形時に、この可撓性部材5の入射光に球面収差を与え、同時に、この可撓性部材5の反射光が通過するレンズの開口数を変調できるように設計されたものである。
【0118】
この変形可能ミラー1の可撓性部材5を変形させないときの該可撓性部材5の形状、及び変形させたときの形状を顕微鏡型レーザー干渉計(zygo maxim・3D5700)を用いて測定した。
【0119】
可撓性部材5を変形させないときには、この可撓性部材5の反射面が平面に保たれている。その面精度の指標として、RMS(根2乗平均)の測定を行ったところ、RMSは約4nmであった。
【0120】
次に、電圧印加部4により、正電位側の波高値と負電位側の波高値がそれぞれ50Vで、周波数300Hzの矩形波の交流電圧を可撓性部材5と対向電極8間に印加し、変形時の可撓性部材5の形状を測定した。その結果、可撓性部材5は、参照面7に沿って変形した。このとき、参照面7の中央部の凸面部7aに相当する位置で、RMSが曲率96.412mmに対して約12nmであった。
【0121】
この後、電圧を切ると、可撓性部材5はもとの形状に復帰した。
【0122】
一方、交流電圧と比較するために、直流電圧(50V)を可撓性部材5と対向電極8間に印加して、同様に変形時の可撓性鋼材5の形状を測定したところ、参照面7の中央部の凸面部7aに相当する位置で、RMSが曲率96.412mmに対して約250mmとなった。しかも、このときの可撓性部材5には、参照面7には見られない、微少な凹凸が多数現れた。したがって、可撓性部材5は、参照面7に沿って変形したとは言い難い。
【0123】
以上の様に、第1実施形態の変形可能ミラー1では、可撓性部材5が参照面7に沿って安定して変形し、入射光に任意の変調を与えて反射することができ、また無変形時には、高精度の平面ミラーとして利用することができる。
【0124】
図12は、この発明の変形可能ミラーの第2実施形態を示す断面図である。但し、ここでは、図1と同一部分については同一符号を付し、説明を省略する。
【0125】
参照基板3は、ガラスモールド法等によって作製されており、透明体である。また、参照面7の表面には、透明なITO膜等からなる1μm程度の厚さの対向電極38を蒸着法等により積層している。この対向電極38の上には、5μm程度の光導電性部材39を形成している。また、参照面7の裏面には、半導体レーザー、LED、EL等の光照射装置20を配置している。
【0126】
光導電性部材39としては、例えば、フタロシアニン等からなる有機光導電性物質やCdS、ZnO等の無機光導電性物質を適用する。
【0127】
光照射装置20は、光導電性部材39の光吸収効率の高い波長を有する光源を使用し、例えば、半導体レーザー、LED,EL等を適用する。
【0128】
この様な構成の変形可能ミラー1において、電圧印加部4によって、可撓性部材5と対向電極路との間に交流電圧を印加すると、静電引力が働き、可撓性部材5が参照面7に沿って変形する。このとき、光導電性部材39が絶縁部材として作用し、可撓性部材5と対向電極8間での電圧のリークを防止する。
【0129】
また、電圧印加部4による交流電圧の印加を止めると、可撓性部材5が平面状態に戻る。このとき、光照射装置20によって、光導電性部材39に光を照射すると、この光導電性部材39が絶縁部材から導電部材へと切り替わり、この光導電性部材39に帯電していた電荷が除去される。
【0130】
この様に光導電性部材39を除電すれば、不要な電荷による静電力が可撓性部材5に作用せずに済み、無変形時の可撓性部材5の形状を高精度に維持することが可能となり、高精度のミラーとして使用することができる。
【0131】
また、ここでは、対向電極38を透明なITO膜等によって形成しているので、参照面7の裏面からの光照射が可能となり、変形可能ミラーの小型化が容易である。この対向電極38として、不透明なものを適用した場合は、参照面7の裏面からの光照射が不可能なため、光源を対向電極38と光導電性部材39間に配置する等の工夫が必要となる。
【0132】
図13は、この発明の変形可能ミラーの第3実施形態を示す断面図である。但し、ここでは、図1と同一部分については同一符号を付し、説明を省略する。
【0133】
図13において、参照基板3は、例えばガラスモールド法あるいは樹脂の成形等により作製されたものであり、参照面7と可撓性部材5間の空間から外部に通じる貫通穴16を有する。この貫通穴16が大き過ぎると、可撓性部材5を参照面7に吸引したときに、この貫通穴16の部分で、この可撓性部材7が参照面7とは異なる形状で変形してしまうため、この貫通穴16の径を例えば30μm以下に設定するのが望ましい。
【0134】
図14は、図13の変形可能ミラー1の変形例である。ここでは、参照基板3に貫通穴16を設ける代わりに、参照面7に対向する可撓性部材5の部分に空気穴17を設けている。この空気穴17が大き過ぎると、可撓性部材5で反射する光に悪影響を及ぼすため、この空気穴17の径を例えば10μm以下に設定するのが望ましい。
【0135】
この様に貫通穴16や空気穴17を設けておけば、可撓性部材5の変形に際し、参照面7と可撓性部材5間の空気が貫通穴16又は空気穴17を通じて外部に抜けるため、可撓性部材5を参照面7に確実に吸引することができる。
【0136】
また、可撓性部材5が変形しない状態においては、例えば環境温度が上昇して、参照面7と可撓性部材5間の空気が膨張しても、この空気を貫通穴16又は空気穴17を通じて外部に逃すことができるので、可撓性部材5の不要な変形を避けることができる。これに対して、貫通穴16又は空気穴17が無ければ、膨張した空気によって、可撓性部材5が不要に変形するおそれがある。
【0137】
もちろん、貫通穴16と空気穴17を共に設けてもよいし、それぞれを複数個設けてもよい。また、その形状は、円形である必要がなく、可撓性部材5の変形を妨げないものであれば、任意の形状や大きさを設定しても良い。
【0138】
図15は、この発明の光学装置の一実施形態を示すブロック図である。この光学装置では、上記各実施形態の変形可能ミラーのいずれであっても適用することができ、変形可能ミラーを光学系の一要素として用いている。
【0139】
図15において、半導体レーザー101から出射された光は、コリメーターレンズ102によって平行な光ビーム103に変換される。この光ビーム103は、ビームスプリッター104に入射して直進し、4分の1波長板105を透過して、変形可能ミラー1に達する。そして、この変形可能ミラー1で反射された光ビーム103は、再び4分の1波長板105を透過し、ビームスプリッター104で反射されて、対物レンズ106を透過し、この対物レンズ106によって、集光される。
【0140】
第1実施形態で示した様に、正の最高電位の絶対値と負の最低電位の絶対値を同一にした矩形波である交流電圧を印加すれば、変形可能ミラー1の可撓性部材5は、参照面7に沿って安定して変形し、ビーム103に所定の変調を与えることが可能となる。
【0141】
あるいは、第2実施形態で示した様に、絶縁部材5の代わりとなる光導電性部材39を適用すると共に、光照射装置20を設け、可撓性部材5の無変形時には、光照射装置20によって、光導電性部材39に光を照射して、この光導電性部材39を除電すれば、高精度の安定した変形可能ミラー1を得ることができる。
【0142】
次に、参照基板3の参照面7の形状と光変調の関係を説明する。
図16(a)は、入射光に球面収差を与える参照面7の一例を示す断面図である。この参照面7の断面形状は、その中心軸に対して対称であって、その中央部には、球面収差を与えるための凸面部7aを形成している。この凸面部7aは、光ビーム103の径以上の大きさとなっており、この凸面部7aに沿って変形した可撓性部材5の反射面によって、光ビーム103が反射されると、球面収差を含む光ビーム103が形成される。参照面7の凸面部7aの周りには、凸面部7aと平坦部7cを滑らかにつなぐ凹面部7bを形成している。凸面部7aと凹面部7bの境界は、可撓性部材5が変形し易い様に、連続的に滑らかにつながっていることが望ましい。
【0143】
このような変形可能ミラー1を適用すれば、2種類の厚みの異なる対象物の両方に焦点を結び得る光学装置を簡易な構成で成し得ることができる。
【0144】
図16(b)は、対物レンズ106の光学的焦点を変化させる参照面7の一例を示す断面図である。この参照面7の断面形状は、その中心軸に対して対称であって、焦点を変化させるための凹面部7bを有し、この凹面部7bの周りには、平坦部7cを形成している。この凹面部7bに沿って変形した可撓性部材5の反射面によって、光ビーム103が反射されると、対物レンズ106を透過した光ビーム103の焦点が近い位置に変化する。逆に、参照面7の凹面部7bを凸面とすることにより、対物レンズ106の焦点を遠い位置に変化させることもできる。
【0145】
このような変形可能ミラー1を適用すれば、光学系の焦点距離を2種類に変化させることが可能な光学装置を簡易な構成で成し得ることができる。
【0146】
図16(c)は、対物レンズ106の開口数を変化させる参照面7の一例を示す断面図である。この参照面7の断面形状は、その中心軸に対して対称であって、その中央部には、光ビーム103に変調を与えずに、この光ビーム103を反射するための平面部7dを形成し、その周りには、開口数を変化させるために、光ビーム103を対物レンズ106の開口部以外に反射する凹面部7bを形成し、その周りに平坦部7cを形成している。この平面部7dは、対物レンズ106の開口数によって決まる径を有する。すなわち、対物レンズ106の開口数は、光ビーム103の有効径に比例するため、この有効径を平面部7dの径で変化させることによって、光ビーム103の開口数を変化させる。
【0147】
このような変形可能ミラー1を適用すれば、対物レンズ106の開口数を変化させて、光ビーム103の集光スポット径を2種類に変化させることが可能な光学装置を簡易な構成で成し得ることができる。
【0148】
図16(d)は、光ビーム103に球面収差を与えると同時に、対物レンズ106の開口数を変化させる参照面7の一例を示す断面図である。この参照面7の断面形状は、その中心軸に対して対称であって、その中央部には、光ビーム103に球面収差を与えるための凸面部7aを形成し、その周りには、光ビーム103を対物レンズ106の開口部以外に反射させるための凹面部7bを形成し、その周りに平坦部7cを形成している。凸面部7aに沿って変形した可撓性部材5の反射面よって、光ビーム103が反射されると、球面収差を含む光ビーム103が形成され、この光ビーム103が対物レンズ106を透過して集光される。また、凹面部7bに沿って変形した可撓性部材5の反射面で反射した光ビーム103は、対物レンズ106の開口部に集光されないので、対物レンズ106の開口数が変化する。
【0149】
次に、図16(d)に示した参照面7に沿って変形した可撓性部材5の反射面によって反射された光ビーム103の変調状態を実際に測定したので、その結果を示す。この参照面7の形状は、第1実施形態の図11に示すものと同一である。
【0150】
ここでは、図15に示した光学装置において、半導体レーザー101として波長635nmのものを用い、コリメータレンズ102として焦点距離21mm、開口数0.131のものを用い、対物レンズ106として焦点距灘3.3mm、開口数0.6のものを用いており、変形可能ミラー1の可撓性部材5から対物レンズ106に至るまでの光ビーム103の光路長を13mmとした。
【0151】
この光学装置では、変形可能ミラー1の可撓性部材5が変形しておらず、この可撓性部材5の反射面が平面ミラーとなっているときに、光ビーム103が該反射面で反射され、対物レンズ106を透過し、更に図示しない厚さ0.6mmのポリカーボネートを通過して集光させる。また、可撓性部材5が参照面7に沿って変形しているときに、光ビーム103が該反射面で反射され、対物レンズ106を透過し、更に図示しない厚さ1.2mmのポリカーボネートを通過して集光させる。これは、この光学装置によって、厚さ0.6mmのDVDと厚さ1.2mmのCDの記録再生を行うことを想定しているためである。
【0152】
この様な光学装置において、光ビーム103の集光スポットでのビーム径(1/e2径)とサイドロープ強度(ピーク強度に対する)の測定を行った。その結果、可撓性部材5の無変形時に、光ビーム103を厚さ0.6mmのポリカーボネートを通して集光させると、ビーム径が0.81μmで、サイドロープ強度が0.7%となった。また、変形可能ミラー1の変形時に、光ビーム103を1.2mmのポリカーボネートを通して集光させると、ビーム径が1.40μmで、サイドロープ強度が1.0%となった。
【0153】
すなわち、参照面7の形状で光ビーム103を反射させると、この光ビーム103に球面収差が与えられて、この光ビーム103が厚さの異なるポリカーボネートを通しても集光し、また同時に、対物レンズ106の開口数が変化して、光ビーム103の集光スポットでのビーム径が変化する。このような光学装置を用いれば、DVDとCD両方の記録再生を共に高精度に行うことが可能である。
【0154】
以上の様に、変形時、無変形時の可撓性部材5の形状を高精度に維持することができ、また複雑な形状や大きな変位を伴う参照面7であっても、この参照面7に沿って可撓性部材5を変形させることができるから、上記各実施形態のいずれの変形可能ミラー1を適用するにしても、多様な光変調を行うことが可能な光学装置を提供することができる。
【0155】
なお、この発明の変形可能ミラーや光学装置は、上記各実施形態に限定されるものではない。例えば、変形可能ミラーの参照面7の形状を適宜に変更して、光ビーム103に他の種類の変調を与えても良い。また、構成の一部を変更した光学装置や、全く異なる他の構成の光学装置においても、変形可能ミラー1を適用用すれば、簡易な構成で入射光に変調を与えることができる。
【0156】
【発明の効果】
以上説明した様に、請求項1に記載のアクチュエータによれば、可撓性部材と対向電極間に交流電圧を印加するので、可撓性部材と対向電極間に静電引力が加わり、可撓性部材が対向電極側にたわんで、この可撓性部材の反射面が変形する。
【0157】
また、可撓性部材と対向電極間に印加される交流電圧は、その極性が変化するので、可撓性部材と対向電極間にあるリーク防止用の絶縁部材が正負のどちらか一方の極性に帯電することがなく、帯電した絶縁部材と可撓性部材間に斥力が発生することが防止される。これによって、可撓性部材の変形形状が安定すると共に、より大きな静電引力を得ることが可能となる。
【0158】
請求項3に記載の様に、交流電圧は矩形波でも良い。この矩形波は、正弦波等に比べると、その極性が急激に変化するため、静電引力が零近傍となる時間が短く、静電引力の変動を小さくすることができる。
【0159】
請求項4に記載の様に、矩形波の交流電圧は、正電位側の波高値と負電位側の波高値が同一であるものが好ましい。可撓性部材と対向電極間の静電引力は、両者間の印加電圧の極性の影響を受けず、その強さは可撓性部材と対向電極間の電位差の絶対値によって決定される。このため、正電位側の波高値と負電位側の波高値が同一となる矩形波の交流電圧であれば、絶縁部材の帯電を防止するだけでなく、可撓性部材と対向電極間に働く静電引力を常に一定にすることが可能となり、可撓性部材の変形形状をより安定したものにすることができる。
【0160】
請求項5に記載の様に、交流電圧の極性の変化する周期を時定数τ=ρ・εiεoより短くすれば、絶縁部材が正負どちらか一方の極性に帯電する以前に、印加電圧の極性が変化することになり、より確実に絶縁部材の帯電を防止することができる。
【0161】
次に、請求項6に記載のアクチュエータでは、可撓性部材と対向電極間に光導電性部材を介在させているので、可撓性部材と対向電極間に電圧を印加して、可撓性部材を変形させているときには、光導電性部材に光を照射せずに、この光伝導性部材を可撓性部材と対向電極間のリーク防止用の絶縁部材として用いることができ、また、可撓性部材と対向電極間に電圧を印加せず、可撓性部材を変形させないときには、光導電性部材に光を照射して、この光導電性部材を可撓性部材と対向電極間の余分な静電気を除電する導電部材として用いることができる。
【0162】
請求項8に記載の様に、対向電極は透明であっても良い。この場合、光導電性部材ヘの光照射を対向電極を介して行えるようになり、アクチュエータの小型化が可能となると共に、他の光学系への光のもれをなくすことができる。
【0163】
請求項9に記載の様に、対向電極側で、可撓性部材の弾性変形を許容する空間を形成する参照面を更に備えていれば、可撓性部材の変形形状が参照面の形状で決定されるため、その変形形状が環境温湿度に影響されることなく再現性の良いものとなる。また、参照面を凸面や凹面、あるいはこの両者を含む形状とすることにより、可撓性部材を凹面のみでなく、任意の形状に変形させることができる。
【0164】
請求項10に記載の様に、可撓性部材と参照面の少なくとも一方に、可撓性部材と参照面間に存在する空気を逃がすための空気孔を形成すれば、可撓性部材と参照面間の空気を逃がすことができ、可撓性部材が変形し易くなり、かつ可撓性部材がより速やかに変形する。
【0165】
請求項11に記載の様に、参照面の外周に、可撓性部材を該参照面に対して位置決めする平坦部を設ければ、参照面の外周の平坦部に、可撓性部材の周縁を当接することによって、可撓性部材と参照面の平行性を調整しつつ、この可撓性部材を容易に配置することができる。
【0166】
請求項12に記載の様に、平坦部が参照面の頂点位置よりも低い位置に形成すれば、可撓性部材を参照面に接近させて配置するときに、参照面の頂点位置が可撓性部材に最も先に接触するため、参照面と可撓性部材の位置関係を容易に知ることが可能となる。
【0167】
請求項14に記載の様に、支持手段が単結晶シリコンからなり、可撓性部材が、単結晶シリコンに不純物をドーピングしてなるものであれば、支持手段と可撓性部材同一材料の単結晶シリコンから形成するので、両者の熱膨張係数の差が小さくなり、環境温度の変動による影響を受け難くなる。また、半導体の製造プロセスを応用すれば、支持手段及び可撓性部材を一括して製造することが可能であり、支持手段及び可撓性部材として高精度で安価なものを得ることができる。
【0168】
請求項15に記載の様に、可撓性部材の表面に金属反射膜を形成すれば、任意の波長の光に対して高反射率のミラーを得ることができる。
【0169】
次に、請求項21または22に記載の変形可能ミラーの組立て方法では、参照面外周の平坦部と可撓性部材間の平行状態を光学的に検出しつつ、両者間を平行に調整しているので、参照面外周の平坦部と可撓性部材の周縁を圧接して、両者間を平行に調整する場合に比べると、より精度良く、より容易に参照面と可撓性部材間の平行度を調整することができる。また、参照面と可撓性部材間の非接触での調整が可能であり、可撓性部材に余分な応力が加わらずに済み、可撓性部材が変形させないときの該可撓性部材の形状をより高精度に設定することが可能となる。
【0170】
次に、請求項23または24に記載の変形可能ミラーの組立て装置では、参照面の頂点位置と可撓部材の接触を接触させてから、支持手段と参照面を僅かに離間しているので、両者間の相対位置を高精度に決めることができる。
【0171】
次に、本発明による記載の光学装置では、可撓性部材と対向電極間にあるリーク防止用の絶縁部材が正負のどちらか一方の極性に帯電することがなく、帯電した絶縁部材と可撓性部材間に斥力が発生せずに済み、可撓性部材の変形形状が安定するので、アクチュエータの動作により、反射方向の異なる複数の光を安定して出射することができる。
【0172】
また、本発明による光学装置では、可撓性部材と対向電極間に電圧を印加せず、可撓性部材を変形させないときには、光導電性部材に光を照射して、この光導電性部材を可撓性部材と対向電極間の余分な静電気を除電する導電部材として用いることができるので、可撓性部材の変形形状が安定し、アクチュエータの動作により、反射方向の異なる複数の光を出射することができる。また、特に可撓性部材の無変形時には、この可撓性部材を高精度のミラーとして作用させることができる。
【0173】
請求項17に記載の様に、アクチュエータの可撓性部材の変形により、入射光に球面収差を与えれば、アクチュエータの動作により、球面収差の加えられた光を安定して出射することができる。
【0174】
請求項18に記載の様に、アクチュエータの可撓性部材の変形により、光学部材のレンズを通過した光の焦点を変化させれば、アクチュエータの動作により、焦点の異なる光を安定して出射することができる。
【0175】
請求項19に記載の様に、アクチュエータの可撓性部材の変形により、光学部材のレンズの開口数を変化させれば、アクチュエータの動作により、開口数の異なるレンズを通過した光を安定して出射することができる。
【0176】
請求項20に記載の様に、アクチュエータの可撓性部材の変形により、この可撓性部材に入射した入射光の球面収差、光学部材のレンズを通過した光の焦点、及び該レンズの開口数のうちの少なくとも2つ以上を同時に変化させれば、アクチュエータの動作により、入射光の球面収差、レンズの焦点、開口数のいずれか2つ以上を同時に変調してなる光を安定して出射することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の変形可能ミラーの第1実施形態を概略的に示す主要断面図
【図2】図1の変形可能ミラーにおけるミラー基板の製造工程を示しており、(a)はシリコン基板にシリコン熱酸化膜を形成する工程を示し、(b)はボロンドープ層を形成する工程を示し、(c)はシリコン熱酸化膜をパターニングする工程を示し、(d)はシリコン基板のエッチング工程を示し、(e)はシリコン熱酸化膜の除去工程を示し、(f)は反射膜の形成工程を示す
【図3】この発明の変形可能ミラーの組立装置の一実施形態を概略的に示す図
【図4】図1の変形可能ミラーにおける可撓性部材と対向電極間の作用を説明するために用いた図
【図5】変形可能ミラーに起こり得る問題点を説明するために用いた図
【図6】(a)は交流電圧波形の一例を示すグラフ、(b)は静電引力を示すグラフ
【図7】(a)は交流電圧波形の他の例を示すグラフ、(b)は静電引力を示すグラフ
【図8】(a)は交流電圧波形の別の例を示すグラフ、(b)は静電引力を示すグラフ
【図9】図1の変形可能ミラーにおける可撓性部材と対向電極を含む回路を等価的に表す等価回路
【図10】この発明を適用しうるカンチレバーを示す斜視図
【図11】(a)は図1の変形可能ミラーにおける参照基板を例示する平面図、(b)は断面図
【図12】この発明の変形可能ミラーの第2実施形態を示す断面図
【図13】この発明の変形可能ミラーの第3実施形態を示す断面図
【図14】図13の変形可能ミラーの変形例を示す断面図
【図15】この発明の光学装置の一実施形態を示すブロック図
【図16】(a)は入射光に球面収差を与える参照面の一例を示す断面図、(b)は対物レンズの光学的焦点を変化させる参照面の一例を示す断面図、(c)は対物レンズの開口数を変化させる参照面の一例を示す断面図、(d)は光ビームに球面収差を与えると同時に、対物レンズの開口数を変化させる参照面の一例を示す断面図
【図17】(a)は従来の焦点可変ミラーを示す断面図、(b)は断面図
【図18】従来の変形可能ミラーを示す断面図
【符号の説明】
1 変形可能ミラー
2 ミラー基板
3 参照基板
4 電圧印加部
5 可撓性部材
6 基板枠
7 参照面
8 対向電極
9 絶縁部材
11 シリコン基板
12 ボロンドープ層
15 参照面支持部材
16 移動機構
17 ミラー支持部材
18 傾き調整機構
19 変形検出装置
101 半導体レーザー
102 コリメータレンズ
104 ビームスプリッター
105 4分の1波長板
106 対物レンズ
Claims (24)
- 弾性変形可能な可撓性部材と、
前記可撓性部材と対向して配置された対向電極と、
前記可撓性部材と前記対向電極との間に介在する絶縁部材と、
前記可撓性部材と前記対向電極との間に極性の変化する交流電圧を印加する電圧印加手段とを備え、
前記可撓性部材と前記絶縁部材との間の少なくとも一部に前記可撓性部材の弾性変形を許容する空間が設けられており、前記可撓性部材は、前記可撓性部材と前記対向電極との間に印加される交流電圧による静電引力によって変形し、前記電圧印加手段は、前記可撓性部材が前記絶縁部材に吸着するように、前記交流電圧を前記可撓性部材と前記対向電極との間に印加し、前記可撓性部材が前記絶縁部材に吸着している間、前記交流電圧の極性は、前記可撓性部材の吸着する前記絶縁部材が帯電しないように切替られる、アクチュエータ。 - 請求項1に記載のアクチュエータにおいて、前記可撓性部材を支持する支持手段をさらに備えるアクチュエータ。
- 請求項1に記載のアクチュエータにおいて、前記交流電圧は矩形波であるアクチュエータ。
- 請求項3に記載のアクチュエータにおいて、前記矩形波の交流電圧は、正電位側の波高値と負電位側の波高値が同一であるアクチュエータ。
- 請求項1乃至4のいずれかに記載のアクチュエータにおいて、前記交流電圧の極性の変化する周期は、前記絶縁部材の体積抵抗率をρ、比誘電率をεi、真空の誘電率をεoとした時、時定数τ=ρ・εiεoより短いアクチュエータ。
- 弾性変形可能な可撓性部材と、
前記可撓性部材と対向して配置された対向電極と、
前記可撓性部材と前記対向電極との間に介在し、光が照射されると、絶縁体から導電体へと変化する光導電性部材と、
前記光導電性部材に光を照射する光照射装置と、
前記可撓性部材と前記対向電極との間に、電圧を印加する電圧印加手段とを備え、
前記可撓性部材と前記光導電性部材との間の少なくとも一部に前記可撓性部材の弾性変形を許容する空間が設けられており、
前記可撓性部材は、前記可撓性部材と前記対向電極との間に印加される電圧による静電引力によって変形し、
前記電圧印加手段は、前記可撓性部材が前記光導電性部材に吸着するように、電圧を前記可撓性部材と前記対向電極との間に印加し、前記電圧の印加を止めると、前記光照射装置は前記光導電性部材に光を照射する、アクチュエータ。 - 請求項6に記載のアクチュエータにおいて、前記可撓性部材を支持する支持手段をさらに備えるアクチュエータ。
- 請求項6に記載のアクチュエータにおいて、前記対向電極は透明であるアクチュエータ。
- 請求項1または6に記載のアクチュエータにおいて、前記対向電極が参照基板の表面に設けられており、該表面が凹凸面を有する参照面である、アクチュエータ。
- 請求項9に記載のアクチュエータにおいて、前記可撓性部材と前記絶縁部材又は前記光導電性部材との少なくとも一方に前記可撓性部材と前記絶縁部材又は前記光導電性部材との間に存在する空気を逃がすための空気孔を有するアクチュエータ。
- 請求項9又は10に記載のアクチュエータにおいて、前記参照面の外周に、前記可撓性部材を前記参照面に対して位置決めする平坦部を設けたアクチュエータ。
- 請求項11に記載のアクチュエータにおいて、前記平坦部が前記参照面の頂点位置よりも低い位置に形成されたアクチュエータ。
- 請求項11に記載のアクチュエータにおいて、前記可撓性部材の表面に反射膜が設けられるアクチュエータ。
- 請求項2又は7に記載のアクチュエータにおいて、前記支持手段は、前記可撓性部材に引っ張り応力を与えて前記可撓性部材を保持するものであって、単結晶シリコンからなり、
前記可撓性部材は、単結晶シリコンに不純物をドーピングしてなるアクチュエータ。 - 請求項13に記載のアクチュエータにおいて、前記反射膜が金属反射膜であるアクチュエータ。
- 請求項13に記載のアクチュエータと、前記アクチュエータに対して光を入出力する光学部材とを備える、光学装置。
- 請求項16に記載の光学装置において、前記アクチュエータは、前記可撓性部材の変形により、入射光に球面収差を与える光学装置。
- 請求項16に記載の光学装置において、前記光学部材は、前記アクチュエータの前記反射膜によって反射された光が通過するレンズを有し、
前記アクチュエータは、前記可撓性部材の変形により、前記光学部材のレンズを通過した光の焦点を変化させる光学装置。 - 請求項16に記載の光学装置において、前記光学部材は、前記アクチュエータの前記反射膜によって反射された光が通過するレンズを有し、
前記アクチュエータは、前記可撓性部材の変形により、前記光学部材のレンズの開口数を変化させる光学装置。 - 請求項16に記載の光学装置において、前記光学部材は、前記アクチュエータの前記反射膜によって反射された光が通過するレンズを有し、
前記アクチュエータは、前記可撓性部材の変形により、前記反射膜に入射した入射光の球面収差、前記光学部材のレンズを通過した光の焦点、及び前記レンズの開口数のうちの少なくとも2つ以上を同時に変化させる光学装置。 - 変形可能ミラーを組み立てるための組立て方法であって、
前記変形可能ミラーは、
弾性変形可能な可撓性部材と、
前記可撓性部材と対向して配置された対向電極と、
前記可撓性部材と前記対向電極との間に介在する絶縁部材と、
前記可撓性部材と前記対向電極との間に極性の変化する交流電圧を印加する電圧印加手段とを備え、
前記絶縁部材の外周に、前記可撓性部材を前記絶縁部材に対して位置決めする平坦部が設けられており、
前記可撓性部材と前記絶縁部材との間の少なくとも一部に前記可撓性部材の弾性変形を許容する空間が設けられており、前記可撓性部材は、前記可撓性部材と前記対向電極との間に印加される交流電圧による静電引力によって変形し、前記電圧印加手段は、前記可撓性部材が前記絶縁部材に吸着するように、前記交流電圧を前記可撓性部材と前記対向電極との間に印加する、変形可能ミラーを組み立てるための組立て方法において、
前記絶縁部材外周の平坦部と前記可撓性部材との間の平行状態を光学的に検出しつつ、前記絶縁部材外周の平坦部と前記可撓性部材との間を平行に調整する変形可能ミラーの組立て方法。 - 変形可能ミラーを組み立てるための組立て方法であって、
前記変形可能ミラーは、
弾性変形可能な可撓性部材と、
前記可撓性部材と対向して配置された対向電極と、
前記可撓性部材と前記対向電極との間に介在し、光が照射されると、絶縁体から導電体へと変化する光導電性部材と、
前記光導電性部材に光を照射する光照射装置と、
前記可撓性部材と前記光導電性部材との間に、電圧を印加する電圧印加手段とを備え 、
前記光導電性部材の外周に、前記可撓性部材を前記光導電性部材に対して位置決めする平坦部が設けられており、
前記可撓性部材と前記対向電極との間の少なくとも一部に前記可撓性部材の弾性変形を許容する空間が設けられており、前記可撓性部材は、前記電圧印加手段によって前記可撓性部材と前記対向電極との間に印加される電圧による静電引力によって変形して前記光導電性部材に吸着し、前記電圧印加手段が前記電圧の印加を止めると、前記光照射装置は前記光導電性部材に光を照射する、変形可能ミラーを組み立てるための組立て方法において、
前記光導電性部材外周の平坦部と前記可撓性部材との間の平行状態を光学的に検出しつつ、前記光導電性部材外周の平坦部と前記可撓性部材との間を平行に調整する変形可能ミラーの組立て方法。 - 変形可能ミラーの組立て装置であって、
前記変形可能ミラーは、
弾性変形可能な可撓性部材と、
参照基板と、
該参照基板の表面に設けられ、前記可撓性部材と対向して配置された対向電極と、
前記可撓性部材と前記対向電極との間に介在し、該対向電極上に配置された絶縁部材と、
前記可撓性部材と前記対向電極との間に極性の変化する交流電圧を印加する電圧印加手段と、
前記可撓性部材を支持する支持手段とを備え、
前記可撓性部材と前記絶縁部材との間の少なくとも一部に前記可撓性部材の弾性変形を許容する空間が設けられており、前記可撓性部材は、前記可撓性部材と前記対向電極との間に印加される交流電圧による静電引力によって変形し、前記電圧印加手段は、前記可撓性部材が前記絶縁部材に吸着するように、前記交流電圧を前記可撓性部材と前記対向電極との間に印加する、前記変形可能ミラーを組み立てるための組立て装置において、
前記支持手段を保持する第1保持手段と、
前記参照基板を保持する第2保持手段と、
前記第1保持手段及び前記第2保持手段の少なくとも一方を移動させる移動手段と、
前記絶縁部材の頂点位置と前記可撓性部材の接触による前記可撓性部材の変形を検出する変形検出手段とを備え、
前記可撓性部材と前記絶縁部材とが接触する方向に前記第1保持手段及び前記第2保持手段の少なくとも一方を前記移動手段にて移動させて、前記変形検出手段により前記可撓性部材の変形が検出された後、前記移動手段により前記絶縁部材と前記可撓性部材とを所定の間隔となるように移動させる、変形可能ミラーの組立て装置。 - 変形可能ミラーの組立て装置であって、
前記変形可能ミラーは、
弾性変形可能な可撓性部材と、
参照基板と、
該参照基板の表面に設けられ、前記可撓性部材と対向して配置された対向電極と、
前記可撓性部材と前記対向電極との間に介在して該対向電極上に配置され、光が照射されると、絶縁体から導電体へと変化する光導電性部材と、
前記光導電性部材に光を照射する光照射装置と、
前記可撓性部材と前記対向電極との間に、電圧を印加する電圧印加手段と、
前記可撓性部材を支持する支持手段とを備え、
前記可撓性部材と前記光導電性部材との間の少なくとも一部に前記可撓性部材の弾性変形を許容する空間が設けられており、前記可撓性部材は、前記電圧印加手段によって前記可撓性部材と前記対向電極との間に印加される電圧による静電引力によって変形して前記光導電性部材に吸着し、前記電圧印加手段が前記電圧の印加を止めると、前記光照射装置は前記光導電性部材に光を照射する、前記変形可能ミラーを組み立てるための組立て装置において、
前記支持手段を保持する第1保持手段と、
前記参照基板を保持する第2保持手段と、
前記第1保持手段及び前記第2保持手段の少なくとも一方を移動させる移動手段と、
前記光導電性部材の頂点位置と前記可撓性部材の接触による前記可撓性部材の変形を検出する変形検出手段とを備え、
前記可撓性部材と前記光導電性部材とが接触する方向に前記第1保持手段及び前記第2保持手段の少なくとも一方を前記移動手段にて移動させて、前記変形検出手段により前記可撓性部材の変形が検出された後、前記移動手段により前記光導電性部材と前記可撓性部材とを所定の間隔となるように移動させる、変形可能ミラーの組立て装置。
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