腎不全治療などにおける血液浄化療法では、血液中の尿毒素、老廃物を除去する目的で、天然素材であるセルロース、またその誘導体であるセルロースジアセテート、セルローストリアセテート、合成高分子としてはポリスルホン、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリロニトリルなどの高分子を用いた透析膜や限外濾過膜を分離材として用いた血液透析器、血液濾過器あるいは血液透析濾過器などの血液浄化用モジュールが広く使用されている。特に中空糸型の中空糸膜を分離材として用いた血液浄化用モジュールは体外循環血液量の低減、血中の物質除去効率の高さ、さらにモジュール生産時の生産性などの利点から透析器分野での重要度が高い。
このような血液浄化用モジュールは医療用具であるという性格上、滅菌処理が不可欠の工程となる。医療用具を滅菌する方法としては、エチレンオキサイドガス滅菌法、高圧蒸気滅菌法、放射線滅菌法、電子線滅菌法などがあるが、近年は残留毒性の少なさや簡便性の点から、放射線滅菌法が多く用いられている。
しかし、このように膜周囲の酸素を除去する方法では、脱酸素剤を使用し、酸素不透過性の包材で気密に包装する必要がある。また、包材に微小なピンホールがあっても外部から酸素が入り込んでくるため、効果が得られなくなってしまう。さらに、脱酸素剤は外気と触れると発熱することがあり、取り扱いには注意が必要である。このように必要とされる器材の管理を徹底する必要があるため、安価かつ簡便に実施可能な方法とは言えない。また、放射線照射時の包装袋内の酸素濃度に関しては記述されているが、中空糸膜中の水分の重要性に関しては何ら言及されていない。
ところで、近年、透析技術の進歩に最も合致したものとして透過性能が高いポリスルホン系樹脂が注目されている。しかし、ポリスルホン単体で半透膜を作った場合は、ポリスルホン系樹脂が疎水性であるために血液との親和性に乏しく、エアロック現象を起こしてしまうため、そのまま血液処理用などに用いることはできない。
さらに、上述のごとく血液浄化治療に用いられる選択透過性中空糸膜の製造においてポリビニルピロリドンの溶出を抑制したり、滅菌のためにγ線等の放射線を照射する方法において、該照射時の中空糸膜の含水率や照射雰囲気条件に関しては開示されているものもあるが、該放射線を照射する前の中空糸膜の具備すべき特性や放射線照射による中空糸膜のプライミング性に対する影響に関しては言及されていない。
本発明者らは、該溶出成分について詳細な検討をした結果、上記した評価法では定量できていない過酸化水素が存在することを見出した。該過酸化水素の生成機構に関しては、明解にできていないが、おそらく親水性高分子の酸化劣化反応の過程で生成する過酸化物の分解により生成すると推定される。従って、該過酸化水素は親水性高分子の劣化に関与していると推定され、すなわち前記した親水性高分子の溶出量に大きく係っており、かつ該過酸化水素による選択透過性中空糸膜基材、特に親水性高分子の酸化劣化を促進する作用を有しているので、該過酸化水素に関しても厳密な制御をしないと血液浄化用モジュールの長期透析治療における安全性が確保できないことを見出した。特に、本発明者らが明らかにした過酸化水素が、中空糸膜の特定部位に存在した場合、その個所より中空糸膜素材の劣化反応が開始され中空糸膜の全体に伝播していくため、血液浄化用モジュールとして用いられる中空糸膜の長さ方向の存在量が全領域に渡り、一定量以下を確保する必要がある。従って、従来技術では配慮されていない中空糸膜の保存方法に関しても効率的で、かつ経済的な方法の確立が必要である。
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の血液浄化用モジュール包装体とは、より詳細には血液浄化用モジュール滅菌包装体とは次のようなものである。
第1に、包装用パックに収納した不活性ガス飽和水を中空糸膜の自重に対して2質量%以上500質量%以下を含む選択透過性中空糸膜束を充填したモジュールを、放射線照射滅菌処理をしてなる、該中空糸膜束のすべての部位での過酸化水素の発生を最大10ppm以下に抑えたことを特徴とする血液浄化用モジュール包装体というものである。特にその放射線照射滅菌処理をしてなる包装体は、滅菌包装体となっている。不活性ガス飽和水を中空糸膜の自重に対して2質量%以上500質量%以下を含む選択透過性中空糸膜束にする理由は、後述の段落0078、段落0080に示す理由による。
第2には、放射線照射滅菌後の血液浄化用モジュール内の酸素濃度を0.001容量%以上2.0容量%(常温25℃の体積)以下としたことを特徴とする血液浄化用モジュール包装体としたことである。この理由は、後述の段落0087に示す理由によるものである。
第3として、不活性ガス飽和水を中空糸膜の自重に対して5質量%以上300質量%以下を含む選択透過性中空糸膜束を充填したモジュール内の残余空間を、不活性ガスで置換してから滅菌処理をしてなる血液浄化用モジュール包装体というものである。これは不活性ガス飽和水を中空糸膜の自重に対して、一応任意に充填出来るが、中空糸膜の安定性、滅菌効果、および輸送などの流通事情を考慮すれば、5質量%以上300質量%以下を含む選択透過性中空糸膜束が適量であるということである。
第4として、不活性ガス飽和水の溶存酸素を、0.001〜1ppmの範囲にした血液浄化用モジュール包装体というものである。後述の段落0078〜0082の記載に基づく理由による。勿論溶存酸素が、例えば0.0005ppmというような。超微量であることが好ましいが、技術的に限界もあるし、ある一定量以下になれば、操作の負担のわりには作用効果上相応の顕著な違いが生じることが少なくなる為に、結局、品質、生産性および価格などを考慮して決めることができる。そうすれば、0.001〜1ppmの範囲にとどめるのが適切である。
第5として、モジュールの血液および透析液の出入口すべてを密栓してから少なくとも48時間経過させてから放射線を照射した場合における該中空糸膜束のすべての部位での過酸化水素の発生を最大10ppm以下に抑えた特性を有する血液浄化用モジュール包装体というものである。この理由は、後述の段落0092、段落0093に示すような、いわゆるドライタイプ特有の血液浄化用モジュールの課題の一つであった、プライミング処理後の性能発現に長時間を要するという課題の改善に繋がる。この理由の詳細は、多くの要因があり、これ一つと決めることはできないが、包装用パックに収納した不活性ガス飽和水を中空糸膜の自重に対して2質量%以上500質量%以下を含む選択透過性中空糸膜束を充填してからそのモジュールを長時間放置すれば、不活性ガス飽和水内の酸素濃度等が、モジュール内で、中空糸膜束や、空隙部などを拡散移動をして平衡状態になること、いわゆる濃度均一状態になるから、これに、均一放射線照射を行うことにより、より品質の良い滅菌血液浄化用モジュール包装体となるのではないかとも予想される。
さらに、本発明者等は、上記血液浄化用モジュール包装体を適正に提供することが出来る、滅菌方法を知見したものである。
第1として、窒素またはアルゴンのような不活性ガス飽和水を中空糸膜の自重に対して5質量%以上含む選択透過性中空糸膜束を充填したモジュールに、放射線を照射することを特徴とする血液浄化用モジュール包装体の滅菌方法である。
第2として、不活性ガス飽和水の溶存酸素量が0.5ppm以下、好ましくは0.2ppm以下とした血液浄化用モジュール包装体の滅菌方法である。一応可能な不活性ガス飽和水の溶存酸素を、0.001〜1ppmの範囲にした血液浄化用モジュール包装体の滅菌方法であるが、前述のとおり、品質、生産性および価格などを考慮して決めることができる。そうすれば、0.001〜1ppmの範囲にとどめるのが適切である。
第3として、モジュールの血液および透析液の出入口すべてを密栓してなる血液浄化用モジュール包装体の滅菌方法である。密栓をすれば、外部からの気体、ガスの影響を阻止することが出来るので、過酸化水素発生の環境を長期間維持できるばかりでなく、医療現場においてモジュールの出入口を開封まで安定した性質を保つことが出来るとともに、モジュールの取り扱いが容易にできるということになる。
第4として、モジュールの血液および透析液の出入口すべてを密栓してから少なくとも48時間経過させてから放射線を照射することを特徴とする血液浄化用モジュール包装体の滅菌方法である。これは、前記第5として示す血液浄化用モジュール包装体の項で示した同じ理由によるものである。
第5として、選択透過性中空糸膜が親水性高分子を含有するポリスルホン系高分子からなり、親水性高分子がポリビニルピロリドンであることを特徴とする血液浄化用モジュール包装体の滅菌方法というものである。
第6として、滅菌前の血液浄化用モジュール内の酸素濃度が4.0容量%以下であり、滅菌後の血液浄化用モジュール内の酸素濃度が2.0容量%以下であることを特徴とする血液浄化用モジュール包装体の滅菌方法。
第6として、不活性ガス飽和水を中空糸膜の自重に対して2質量%以上500質量%以下、好ましくは5質量%以上300質量%以下を含む選択透過性中空糸膜束を装填したモジュール内に、不活性ガスを注入して不活性ガス飽和水の適量を排出または空隙内の空気を排出することにより、モジュール内の不活性ガス飽和水の量および空隙部分を調整することを特徴とする血液浄化用モジュール包装体の滅菌方法である。
本発明に用いる中空糸膜束の素材は、天然素材であるセルロース、またその誘導体であるセルロースジアセテート、セルローストリアセテート、合成高分子であるポリスルホン、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリロニトリルなど特に限定されないが、透過性能が高く、近年の透析技術の進歩に最も合致しているポリスルホン系樹脂からなることが好ましい。本発明におけるポリスルホン系樹脂とは、スルホン結合を有する樹脂の総称であり特に限定されないが、例を挙げると、下記化1または化2で示される繰り返し単位からなるポリスルホン樹脂やポリエーテルスルホン樹脂がポリスルホン系樹脂として市販されており、入手も容易なため好ましい。
本発明に用いられる親水性高分子としては、ポリスルホン系樹脂とミクロな相分離構造を形成するものが好ましく用いられる。ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン等を挙げる事ができるが、安全性や経済性の面よりポリビニルピロリドンを用いるのが好ましい実施態様である。該ポリビニルピロリドンは、N−ビニルピロリドンをビニル重合させた水溶性の高分子化合物であり、BASF社より「コリドン」、ISP社より「プラスドン」、第一工業製薬社より「ピッツコール」の商品名で市販されており、それぞれ各種の分子量の製品がある。一般には、親水性の付与効率では低分子量のものが、一方、溶出量を低くする点では高分子量のものを用いるのが好適であるが、最終製品の中空糸膜束の要求特性に合わせて適宜選択される。単一の分子量のものを用いても良いし、分子量の異なる製品を2種以上混合して用いても良い。また、市販の製品を精製し、例えば分子量分布をシャープにしたものを用いても良い。
本発明においては、過酸化水素含有量が300ppm以下のポリビニルピロリドンを用いて選択透過性中空糸膜束を製造するのが好ましい。原料として用いるポリビニルピロリドン中の該過酸化水素含有量を300ppm以下にすることで、製膜後の中空糸膜束中の過酸化水素溶出量を容易に5ppm以下に抑えることができ、本発明の中空糸膜束の品質安定化が達成できるので好ましい。原料として用いるポリビニルピロリドン中の過酸化水素含有量は250ppm以下がより好ましく、200ppm以下がさらに好ましく、150ppm以下がよりさらに好ましい。
上記した原料として用いるポリビニルピロリドン中に過酸化水素が存在すると、ポリビニルピロリドンの酸化劣化の引き金となるものと考えられ、酸化劣化の進行に伴い爆発的に増加し、さらにポリビニルピロリドンの酸化劣化を促進するものと考えられる。従って、過酸化水素含有量を300ppm以下にするということは、選択透過性中空糸膜の製造工程でポリビニルピロリドンの酸化劣化を抑える有効な手段の1つである。また、原料段階でのポリビニルピロリドンの搬送や保存時の劣化を抑える手段を取る事も有効であり推奨される。例えば、アルミ箔ラミネート袋を用いて遮光し、かつ窒素等の不活性ガスを封入するとか、脱酸素剤を併せて封入し保存することが好ましい。また、該包装体を開封し小分けする場合の計量や仕込みは、不活性ガス置換をして行い、かつその保存についても上記の対策を取るのが好ましい。また、中空糸膜束の製造工程においても、原料供給系での供給タンク内を不活性ガスに置換する等の手段をとることも好ましい実施態様として推奨される。また、再結晶法や抽出法で過酸化水素量を低下させたポリビニルピロリドンを用いることも排除されない。
本発明の選択透過性中空糸膜の製造方法は何ら限定されるものではないが、例えば特開2000−300663号公報で知られるような方法で製造できる中空糸膜タイプのものが好ましい。例えば、該特許文献に開示されているポリエーテルスルホン(4800P、住友化学社製)16質量部とポリビニルピロリドン(K−90、BASF社製)5質量部、ジメチルアセトアミド74質量部、水5質量部を混合溶解し、脱泡したものを製膜溶液として、50%ジメチルアセトアミド水溶液を芯液として使用し、これを2重管オリフィスの外側、内側より同時に吐出し、50cmの空走部を経て、75℃、水からなる凝固浴中に導き中空糸膜を形成し、水洗後巻き取り、60℃で乾燥する方法が例示できる。
本発明におけるポリスルホン系高分子に対するポリビニルピロリドンの膜中の比率は、中空糸膜に十分な親水性や、高い含水率を付与できる範囲であれば良く、ポリスルホン系高分子が99〜80質量%、ポリビニルピロリドンが1〜20質量%である事が好ましい。ポリスルホン系高分子に対してポリビニルピロリドンの比率が少なすぎる場合、膜の親水性付与効果が不足する可能性があるため、該比率は、1.5質量%以上がより好ましく、2.0質量%以上がさらに好ましく、2.5質量%以上がよりさらに好ましい。一方、該比率が多すぎると、親水性付与効果が飽和し、かつポリビニルピロリドンおよび/または酸化劣化物の膜からの溶出量が増大し、後述するポリビニルピロリドンの膜からの溶出量が10ppmを超える場合がある。したがって、より好ましくは18質量%以下、さらに好ましくは15質量%以下、よりさらに好ましくは13質量%以下、特に好ましくは10質量%以下である。
本発明においては、上記の選択透過性中空糸膜束において、放射線照射された後の該中空糸膜束からのポリビニルピロリドンの溶出が10ppm以下であることが好ましい。ポリビニルピロリドンの溶出量は8ppm以下がより好ましく、6ppm以下がさらに好ましい。ポリビニルピロリドンの溶出量が10ppmを超えた場合は、この溶出するポリビニルピロリドンによる長期透析時の副作用や合併症が起こる可能性がある。該ポリビニルピロリドンの溶出量は、透析型人工腎臓装置製造承認基準の溶出試験法に準じた方法で抽出された抽出液を用いて定量し求めたものである。すなわち、乾燥状態の中空糸膜束から任意に中空糸膜を取り出し1.0gをはかりとる。これに100mlの純水を加え、70℃で1時間抽出を行うことにより得られた抽出液について定量される。該特性を満足させる方法は限定無く任意であるが、例えば、ポリスルホン系高分子に対するポリビニルピロリドンの比率を上記した範囲にしたり、中空糸膜束の製膜条件を最適化する等により達成できるが、該ポリビニルピロリドンの溶出量を減ずる方策として、ポリビニルピロリドンを架橋し不溶化することも好ましい実施態様である。架橋方法としては、例えば、放射線照射、熱、化学的架橋などが挙げられるが、中でも、開始剤などの残留物が残らず、材料浸透性が高い点で、γ線や電子線による架橋が好ましい。γ線や電子線による架橋の場合、水の共存により架橋が促進されるので、該架橋処理は中空糸膜中に5質量%以上の含水率を有した状態で行うのが好ましい実施態様である。7質量%以上がより好ましい。
本発明におけるポリビニルピロリドンの架橋による不溶化は、架橋後の膜におけるジメチルホルムアミドに対する溶解性で判定される。すなわち、架橋後の膜10gを取り、100mlのジメチルホルムアミドに溶解した溶液の濁度で判定される。肉眼で濁りが観察できることが好ましい。
しかしながら、選択透過性中空糸膜に放射線を照射すると架橋が引き起こされると同時に、ポリビニルピロリドンの劣化反応が起こる。ポリビニルピロリドンが劣化するということは、例えば、ポリスルホン系選択透過性中空糸膜を血液浄化に使用する場合、劣化物が血液中に溶出するとか、膜性能が十分に発揮できないなどの問題が生じることがある。従って、該放射線を照射されてもポリビニルピロリドンの劣化反応が抑制されている必要がある。
本発明者等は透析型人工腎臓装置製造承認基準により定められた試験法で抽出された抽出液中には、従来公知のUV吸光度では測定できない過酸化水素が含まれていることを見出した。過酸化水素が血液浄化用モジュール内および選択透過性中空糸膜内に存在すると、例えばポリビニルピロリドンの酸化劣化を促進し、中空糸膜束を保存した時に該ポリビニルピロリドンの溶出量が増加するという保存安定性が悪化する事を見出した。また、従来技術においては、いずれもが中空糸膜束の特定部位について評価されたものである。現実には、モジュール組み立て等において中空糸膜束を乾燥する等の処理を行うと乾燥条件の変動等の影響により、中空糸膜束内で上記した溶出量が大きく変動することが判明し、上記特定部位のみの評価では高度な安全性の要求には答えられない。特に、本発明者らが明らかにした過酸化水素が、中空糸膜束の特定部位に存在した場合、その個所より中空糸膜束素材の劣化反応が開始され中空糸膜束の全体に伝播していくため、モジュールとして用いられる中空糸膜束の長さ方向の過酸化水素量が全領域に渡り、一定量以下を確保する必要がある。特に、該過酸化水素が存在する状態で放射線および/または電子線を照射すると、ポリビニルピロリドンの劣化反応が該ポリビニルピロリドンにより加速され連鎖的に増大するという課題発生に繋がる。
従って、本発明において用いられる中空糸膜束は、長手方向に10個に分割し、各々について測定した時の過酸化水素の溶出量が全ての部位で5ppm以下であることが好ましい。先述したように、過酸化水素は中空糸膜束の特定部位に存在しても、その個所より中空糸膜束素材の劣化反応が開始され中空糸膜束の全体に伝播していくため、モジュールと用いられる中空糸膜束の長さ方向の存在量が全領域に渡り、一定量以下を確保する必要がある。すなわち、特定部位の過酸化水素により開始されたポリビニルピロリドンの酸化劣化が連鎖的に中空糸膜束の全体に広がって行き、劣化により過酸化水素量がさらに増大すると共に、劣化したポリビニルピロリドンは分子量が低下するために、中空糸膜束より溶出し易くなる。この劣化反応は連鎖的に進行する。従って、該中空糸膜束は長期保存すると、過酸化水素やポリビニルピロリドンの溶出量が増大し血液浄化用として使用する場合の安全性の低下に繋がることがある。過酸化水素の溶出量は、4ppm以下がより好ましく、3ppm以下がさらに好ましい。
過酸化水素の溶出量も透析型人工腎臓装置製造承認基準の溶出試験法に準じた方法で抽出された抽出液を用いて定量したものである。
上記特性を有する中空糸膜束を用いることにより、後述する本発明の滅菌方法を好適に行うことができるので好ましい。
過酸化水素の溶出量を上記の規制された範囲に制御する方法としては、例えば、前記したごとく原料として用いるポリビニルピロリドン中の過酸化水素量を300ppm以下にすることが有効な方法であるが、該過酸化水素は上記した中空糸膜束の製造過程でも生成するので、該中空糸膜束の製造条件を厳密に制御する必要がある。特に、該中空糸膜束を製造する際の紡糸溶液の溶解工程および乾燥工程での生成の寄与が大きいので、乾燥条件の最適化が重要である。特に、この乾燥条件の最適化は、中空糸膜束の長手方向の溶出量変動を小さくすることに関して有効な手段となる。
紡糸溶液の溶解工程に関しては、例えば、ポリスルホン系高分子、ポリビニルピロリドン、溶媒からなる紡糸溶液を撹拌、溶解する際、ポリビニルピロリドン中に過酸化水素が含まれていると、溶解タンク内に存在する酸素の影響および溶解時の加熱の影響により、過酸化水素が爆発的に増加することがわかった。したがって、溶解タンクに原料を投入する際には、予め不活性ガスにて置換された溶解タンク内に原料を投入するのが好ましい。不活性ガスとしては、窒素、アルゴンなどが好適に用いられる。また、溶媒、場合によっては非溶媒を添加することもあるが、これら溶媒、非溶媒中に溶存している酸素を不活性ガスで置換して用いるのも好適な実施態様である。
また、過酸化水素の発生を抑制する他の方法として、製膜溶液を溶解する際、熱履歴の影響を小さくする意味で、短時間に溶解することも重要な要件である。そのためには、通常、溶解温度を高くすることおよび/または撹拌速度を上げればよい。しかしながら、そうすると温度および撹拌線速度、剪断力の影響によりポリビニルピロリドンの劣化・分解が進行してしまう。事実、本発明者らの検討によれば、製膜溶液中のポリビニルピロリドンの分子量は溶解温度の上昇に従い、分子量のピークトップが分解方向に移動(低分子側にシフト)したり、または低分子側に分解物と思われるショルダーが現れる現象が認められた。以上より、原料の溶解速度を向上させる目的で温度を上昇させることは、ポリビニルピロリドンの劣化分解を促進し、ひいては選択透過性中空糸膜中にポリビニルピロリドンの分解物をブレンドしてしまうことから、例えば、得られた中空糸膜を血液浄化に使用する場合、血液中に分解物が溶出するなど、製品の品質安全上、優れたものとはならなかった。そこで、ポリビニルピロリドンの分解を抑制する目的で低温で原料を混合することを試みた。低温溶解とはいっても氷点下となるような極端な条件にするとランニングコストもかかるため、通常5℃以上70℃以下が好ましい。60℃以下がより好ましい。しかし、単純に溶解温度を下げると溶解時間の長時間化によるポリビニルピロリドン劣化分解、操業性の低下や設備の大型化を招くことになり工業的に実施する上では問題がある。特に、ポリビニルピロリドンは低温溶解をしようとするとポリビニルピロリドンが継粉になり、それ以上溶解することが困難となったり、均一溶解に長時間を要するという課題を有する。
低温で時間をかけずに溶解するための溶解条件について検討を行った結果、溶解に先立ち紡糸溶液を構成する成分を混練した後に溶解させることが好ましいことを見出し本発明に到達した。該混練はポリスルホン系高分子、ポリビニルピロリドンおよび溶媒等の構成成分を一括して混練しても良いし、ポリビニルピロリドンとポリスルホン系高分子とを別個に混練しても良い。前述のごとくポリビニルピロリドンは酸素との接触により劣化が促進され過酸化水素の発生につながるので、該混練時においても不活性ガスで置換した雰囲気で行う等、酸素との接触を抑制する配慮が必要であり別ラインで行うのが好ましい。混練はポリビニルピロリドンと溶媒のみとしてポリスルホン系高分子は予備混練をせずに直接溶解タンクに供給する方法も本発明の範疇に含まれる。
該混練は溶解タンクと別に混練ラインを設けて実施し混練したものを溶解タンクに供給してもよいし、混練機能を有する溶解タンクで混練と溶解の両方を実施しても良い。前者の別個の装置で実施する場合の、混練装置の種類や形式は問わない。回分式、連続式のいずれであっても構わない。スタティックミキサー等のスタティックな方法であっても良いし、ニーダーや攪拌式混練機等のダイナミックな方法であっても良い。混練の効率より後者が好ましい。後者の場合の混練方法も限定なく、ピンタイプ、スクリュータイプ、攪拌器タイプ等いずれの形式でもよい。スクリュータイプが好ましい。スクリューの形状や回転数も混練効率と発熱とのバランスより適宜選択すれば良い。一方、混練機能を有する溶解タンクを用いる場合の溶解タンクの形式も限定されないが、例えば、2本の枠型ブレードが自転、公転するいわゆるプラネタリー運動により混練効果を発現する形式の混練溶解機が推奨される。例えば、井上製作所社製のプラネタリュームミキサーやトリミックス等が本方式に該当する。
混練時のポリビニルピロリドンやポリスルホン系高分子等の樹脂成分と溶媒との比率も限定されない。樹脂/溶媒の質量比で0.1〜3が好ましい。0.5〜2がより好ましい。
前述のごとくポリビニルピロリドンの劣化を抑制し、かつ効率的な溶解を行うことが本発明の技術ポイントである。従って、少なくともポリビニルピロリドンが存在する系は窒素雰囲気下、70℃以下の低温で混練および溶解することが好ましい。ポリビニルピロリドンとポリスルホン系高分子を別ラインで混練する場合にポリスルホン系高分子の混練ラインに本要件を適用してもよい。混練や溶解の効率と発熱とは二律背反現象である。該二律背反をできるだけ回避した装置や条件の選択が本発明の重要な要素となる。そういう意味で混練機構における冷却方法が重要であり配慮が必要である。
引き続き前記方法で混練されたものの溶解を行う。該溶解方法も限定されないが、例えば、撹拌式の溶解装置による溶解方法が適用できる。低温・短時間(3時間以内)で溶解するためには、フルード数(Fr=n2d/g)が0.7以上1.3以下、撹拌レイノルズ数(Re=nd2ρ/μ)が50以上250以下であることが好ましい。ここでnは翼の回転数(rps)、ρは密度(Kg/m3)、μは粘度(Pa・s)、gは重力加速度(=9.8m/s2)、dは撹拌翼径(m)である。フルード数が大きすぎると、慣性力が強くなるためタンク内で飛散した原料が壁や天井に付着し、所期の製膜溶液組成が得られないことがある。したがって、フルード数は1.25以下がより好ましく、1.2以下がさらに好ましく、1.15以下がよりさらに好ましい。また、フルード数が小さすぎると、慣性力が弱まるために原料の分散性が低下し、特にポリビニルピロリドンが継粉になり、それ以上溶解することが困難となったり、均一溶解に長時間を要することがある。したがって、フルード数は0.75以上がより好ましく、0.8以上がさらに好ましい。
本願発明における製膜溶液は所謂低粘性流体であるため、撹拌レイノルズ数が大きすぎると、撹拌時、製膜溶液中への気泡のかみこみによる脱泡時間の長時間化や脱泡不足が起こるなどの問題が生ずることがある。そのため、撹拌レイノルズ数はより好ましくは240以下、さらに好ましくは230以下、よりさらに好ましくは220以下である。また、撹拌レイノルズ数が小さすぎると、撹拌力が小さくなるため溶解の不均一化が起こりやすくなることがある。したがって、撹拌レイノルズ数は、35以上がより好ましく、40以上がさらに好ましく、55以上がよりさらに好ましく、60以上が特に好ましい。さらに、このような紡糸溶液で中空糸膜を製膜すると気泡による曳糸性の低下による操業性の低下や品質面でも中空糸膜への気泡の噛み込みによりその部位が欠陥となり、膜の気密性やバースト圧の低下などを引き起こして問題となることがわかった。紡糸溶液の脱泡は効果的な対処策だが、紡糸溶液の粘度コントロールや溶剤の蒸発による紡糸溶液の組成変化を伴うこともありうるので、行う場合には慎重な対応が必要となる。
さらに、ポリビニルピロリドンは空気中の酸素の影響により酸化分解を起こす傾向にあることから、紡糸溶液の溶解は不活性気体封入下で行うのが好ましい。不活性気体としては、窒素、アルゴンなどが上げられるが、窒素を用いるのが好ましい。このとき、溶解タンク内の残存酸素濃度は3%以下であることが好ましい。窒素封入圧力を高めてやれば溶解時間短縮が望めるが、高圧にするには設備費用が嵩む点と、作業安全性の面から大気圧以上2kgf/cm2以下が好ましい。
その他、本願発明に用いるような低粘性製膜溶液の溶解に用いられる撹拌翼形状としては、ディスクタービン型、パドル型、湾曲羽根ファンタービン型、矢羽根タービン型などの放射流型翼、プロペラ型、傾斜パドル型、ファウドラー型などの軸流型翼が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
以上のような低温溶解方法を用いることにより、親水性高分子(ポリビニルピロリドンなど)の劣化分解が抑制された安全性の高い中空糸膜を得ることが可能となる。さらに付言すれば、製膜には原料溶解後の滞留時間が24時間以内の紡糸溶液を使用することが好ましい。なぜなら製膜溶液が保温されている間に熱エネルギーを蓄積し、原料劣化を起こす傾向が認められたためである。
上記方法で得られた選択透過性中空糸膜束を用いて血液浄化用モジュールを組立てる場合は、モジュール用ハウジングに挿入した選択透過性中空糸膜束を例えば、ウレタン系接着剤やエポキシ系接着剤で両端を固定する必要がある。選択透過性中空糸膜中の含水率が多いと該接着処理において接着阻害が起こるために、モジュールに装填された選択透過性中空糸膜は乾燥状態である必要がある。一方、前述したごとく、放射線照射によりポリビニルピロリドンを架橋するためには選択透過性中空糸膜中の含水率が高い事が好ましい。従って、上記方法で得られた選択透過性中空糸膜を乾燥して、乾燥状態の選択透過性中空糸膜をハウジングに装填し、接着処理をしてから選択透過性中空糸膜の含水率調整をするのが好ましい実施態様である。勿論、本発明の好ましい範囲の含水率の選択透過性中空糸膜をハウジングに装填し、例えば、接着する部分に乾燥空気等を流通させて、選択透過性中空糸膜中の接着部分のみの含水率を低下させて接着する方法で行っても構わない。
過酸化水素の溶出量を上記の規制された範囲に制御する方法としては、乾燥工程においても酸素との接触を低減することが重要である。例えば、不活性ガスで置換した雰囲気で乾燥することが挙げられるが、経済性の点で不利である。経済性のある乾燥方法として、減圧下でマイクロ波を照射して乾燥する方法が有効であり推奨される。被乾燥物から液体を除去して所謂乾燥を行うことにおいて、減圧およびマイクロ波を照射することはそれぞれ単独では公知である。しかし、減圧することとマイクロ波を照射することを同時に行うことは、マイクロ波の特性を勘案すると通常併用しがたい組合せである。本願発明者らは、ポリビニルピロリドンの酸化劣化の防止と中空糸膜からの溶出物量の低減による安全性の向上、生産性の向上を達成するべく、この困難性を伴う組み合わせを採用し、乾燥条件の最適化により課題解決可能であることを見出した。
該乾燥方法の乾燥条件としては、20kPa以下の減圧下で出力0.1〜100kWのマイクロ波を照射することが好ましい。また、該マイクロ波の周波数は1,000〜5,000MHzであり、乾燥処理中の中空糸膜束の最高到達温度が90℃以下であることが好ましい。減圧という手段を併設すれば、それだけで水分の乾燥が促進されるので、マイクロ波の照射出力を低く抑え、照射時間も短縮できる利点もあるが、温度の上昇も比較的低くすることができるので、全体的には中空糸膜束の性能低下に与える影響が少ない。さらに、減圧という手段を伴う乾燥は、乾燥温度を比較的下げることができるという利点があり、特に親水性高分子の劣化分解を著しく抑えることができるという有意な点がある。適正な乾燥温度は20〜80℃で十分足りるということになる。より好ましくは20〜60℃、さらに好ましくは20〜55℃、よりさらに好ましくは30〜50℃である。
減圧を伴うということは、中空糸膜束の中心部および外周部に均等に減圧が作用することになり、水分の蒸発が均一に促進され、中空糸膜の乾燥が均一になされるために、乾燥の不均一に起因する中空糸膜束の障害を是正することになる。それに、マイクロ波による加熱も、中空糸膜束の中心および外周全体にほぼ等しく作用することになるから、均一な加熱と減圧が相乗的に機能することになり、中空糸膜束の乾燥において特有の効果を奏することになる。減圧度についてはマイクロ波の出力、中空糸膜束の有する総水分含量および中空糸膜束の本数により適宜設定すれば良いが、乾燥中の中空糸膜束の温度上昇を防ぐため、減圧度は20kPa以下、より好ましくは15kPa以下、さらに好ましくは10kPa以下で行う。20kPa超では水分蒸発効率が低下するばかりでなく、中空糸膜束を構成するポリマーの温度が上昇して劣化してしまう可能性がある。また、減圧度は高い方が温度上昇抑制と乾燥効率を高める意味で好ましいが、装置の密閉度を維持するためにかかるコストが高くなるので0.1kPa以上が好ましい。より好ましくは0.25kPa以上、さらに好ましくは0.4kPa以上である。
乾燥時間短縮を考慮すると、マイクロ波の出力は高い方が好ましいが、例えばポリビニルピロリドンを含有する中空糸膜束では過乾燥や過加熱によるポリビニルピロリドンの劣化・分解が起こったり、使用時の濡れ性低下が起こるなどの問題があるため、出力はあまり上げないのが好ましい。また0.1kW未満の出力でも中空糸膜束を乾燥することは可能であるが、乾燥時間が伸びることによる処理量低下の問題が起こる可能性がある。減圧度とマイクロ波出力の組合せの最適値は、中空糸膜束の保有水分量および中空糸膜束の処理本数により異なるものであって、試行錯誤のうえ適宜設定値を求めるのが好ましい。
例えば、本発明の乾燥条件を実施する一応の目安として、中空糸膜束1本当たり50gの水分を有する中空糸膜束を20本乾燥した場合、総水分含量は50g×20本=1,000gとなり、この時のマイクロ波の出力は1.5kW、減圧度は5kPaが適当である。
より好ましいマイクロ波出力は0.1〜80kW、さらに好ましいマイクロ波出力は0.1〜60kWである。マイクロ波の出力は、例えば、中空糸膜束の総数と総含水量により決まるが、いきなり高出力のマイクロ波を照射すると、短時間で乾燥が終了するが、中空糸膜が部分的に変性することがあり、縮れのような変形を起こすことがある。マイクロ波を使用して乾燥するという場合に、例えば、中空糸膜に保水剤のようなものを用いた場合に、高出力のマイクロ波を用いて過激に乾燥することは保水剤の飛散による消失の原因にもなる。それに特に減圧の条件を伴うと、中空糸膜への影響を考えれば、従来においては減圧下でマイクロ波を照射することは意図されていなかった。本発明の減圧下でマイクロ波を照射するということは、水性液体の蒸発が比較的温度が低い状態において活発になるため、高出力マイクロ波および高温によるポリビニルピロリドンの劣化や中空糸膜の変形等の中空糸膜の損傷を防ぐという二重の効果を奏することになる。
本発明は、減圧下におけるマイクロ波により乾燥をするという、マイクロ波の出力を一定にした一段乾燥を可能としているが、別の実施態様として、乾燥の進行に応じて、マイクロ波の出力を順次段階的に下げる、いわゆる多段乾燥を好ましい態様として包含している。そこで、多段乾燥の意義を説明すると次のようになる。
減圧下で、しかも30〜90℃程度の比較的低い温度で、マイクロ波で乾燥する場合に、中空糸膜束の乾燥の進み具合に合わせて、マイクロ波の出力を順次下げていくという多段乾燥方法が優れている。乾燥する中空糸膜の総量、工業的に許容できる適正な乾燥時間などを考慮して、減圧の程度、温度、マイクロ波の出力および照射時間を決めればよい。多段乾燥は、例えば、2〜6段という任意に何段も可能であるが、生産性を考慮して工業的に適正と許容できるのは、2〜3段乾燥にするのが適当である。中空糸膜束に含まれる水分の総量にもよるが、比較的多い場合に、多段乾燥は、例えば、90℃以下の温度における、5〜20kPa程度の減圧下で、一段目は30〜100kWの範囲で、二段目は10〜30kWの範囲で、三段目は0.1〜10kWというように、マイクロ波照射時間を加味して決めることができる。マイクロ波の出力を、例えば、高い部分で90kW、低い段で0.1kWのように、出力の較差が大きい場合には、その出力を下げる段数を例えば4〜8段と多くすればよい。本発明の場合に、減圧というマイクロ波照射に技術的な配慮をしているから、比較的マイクロ波の出力を下げた状態でもできるという有利な点がある。例えば、一段目は10〜20kWのマイクロ波により10〜100分程度、二段目は3〜10kW程度で5〜80分程度、三段目は0.1〜3kW程度で1〜60分程度という段階で乾燥する。各段のマイクロ波の出力および照射時間は、中空糸膜に含まれる水分の総量の減り具合に連動して下げていくことが好ましい。この乾燥方法は、中空糸膜束に非常に温和な乾燥方法であり、先行技術においては期待できないことから、本発明の作用効果を有意にしている。
別の態様を説明すると、中空糸膜束の含水率が400質量%以下の場合には、12kW以下の低出力マイクロ波による照射が優れている場合がある。例えば、中空糸膜束総量の水分量が1〜7kg程度の場合には、80℃以下、好ましくは60℃以下の温度における、3〜10kPa程度の減圧下において、12kW以下の出力の、例えば1〜5kW程度のマイクロ波で10〜240分、0.5〜1kW未満のマイクロ波で1〜240分程度、より好ましくは3〜240分程度、0.1〜0.5kW未満のマイクロ波で1〜240分程度照射するという、乾燥の程度に応じてマイク口波の照射出力および照射時間を調整すれば乾燥が均一に行われる。減圧度は各段において、一応0.1〜20kPaという条件を設定しているが、中空糸膜の水分含量の比較的多い一段目を例えば0.1〜5kPaと減圧を高め、マイクロ波の出力を10〜30kWと高める、二段目、三段目を5〜20kPaの減圧下で0.1〜5kWによる一段よりやや高い圧力下でマイクロ波を照射するという、いわゆる各段の減圧度を状況に応じて適正に調整して変えることなどは、中空糸膜束の水分総量および含水率の低下の推移を考慮して任意に設定することが可能である。各段において、減圧度を変える操作は、本発明の減圧下でマイクロ波を照射するという意義をさらに大きくする。勿論、マイクロ波照射装置内におけるマイクロ波の均一な照射および排気には常時配慮する必要がある。
中空糸膜束の乾燥を、減圧下でマイクロ波を照射して乾燥することと、通風向きを交互に逆転する乾燥方法を併用することも乾燥において工程が煩雑にはなるが、有効な乾燥方法である。マイクロ波照射方法および通風交互逆転方法も、一長一短があり、高度の品質が求められる場合に、これらを併用することができる。最初の段階で、通風交互逆転方法を採用して、含水率が20〜60質量%程度に進行したら、次の段階で減圧下でマイクロ波を照射して乾燥することができる。この場合に、マイクロ波を照射して乾燥してから、次に通風向きを交互に逆転する通風乾燥方法を併用することもできる。これらは、得られる中空糸膜の品質、特に中空糸膜における長さ方向において部分固着がない選択透過性中空糸膜束の品質を考慮して決めることができる。これらの乾燥方法を同時に行うこともできるが、装置の煩雑さ、複雑さ、価格の高騰などの不利な点があるため実用的ではない。しかし、遠赤外線等の有効な加熱方法を併用することは本発明の乾燥方法の範囲からは排除しない。
乾燥中の中空糸膜束の最高到達温度は、不可逆性のサーモラベルを中空糸膜束を保護するフィルム側面に貼り付けて乾燥を行い、乾燥後に取り出し表示を確認することで測定することができる。この時、乾燥中の中空糸膜束の最高到達温度は90℃以下が好ましく、より好ましくは80℃以下に抑える。さらに好ましくは70℃以下である。最高到達温度が90℃を超えると、膜構造が変化しやすくなり性能低下や酸化劣化を起こしてしまう場合がある。特にポリビニルピロリドンを含有する中空糸膜束では、熱によるポリビニルピロリドンの分解等が起こりやすいので温度上昇をできるだけ防ぐ必要がある。減圧度とマイクロ波出力の最適化と断続的に照射することで温度上昇を防ぐことができる。また、乾燥温度は低い方が好ましいが、減圧度の維持コスト、乾燥時間短縮の面より20℃以上が好ましい。
マイクロ波の照射周波数は、中空糸膜束への照射斑の抑制や、細孔内の水を細孔より押出す効果などを考慮すると1,000〜5,000MHzが好ましい。より好ましくは1,500〜4,000MHz、さらに好ましくは2,000〜3,000MHzである。
該マイクロ波照射による乾燥は中空糸膜束を均一に加熱し乾燥することが重要である。上記したマイクロ波乾燥においては、マイクロ波の発生時に付随発生する反射波による不均一加熱が発生するので、該反射波による不均一加熱を低減する手段を取る事が重要である。該方策は限定されず任意であるが、例えば、特開2000−340356号公報において開示されているオーブン中に反射板を設けて反射波を反射させ加熱の均一化を行う方法が好ましい実施態様の一つである。
さらに、中空糸膜は絶乾しないのが好ましい。絶乾してしまうと、詳細な理由はわからないがポリビニルピロリドンの劣化が増大し、過酸化水素の生成が大幅に増大することがある。また、滅菌時および血液浄化使用時の再湿潤化において濡れ性が低下したり、ポリビニルピロリドンが吸水、膨潤しにくくなるため中空糸膜から溶出しやすくなる可能性がある。乾燥終了後の中空糸膜の含水率は1質量%以上7質量%以下が好ましい。1.5質量%以上がより好ましい。中空糸膜の含水率が高すぎると、モジュール組立て前の保存時、菌が増殖しやすくなったり、中空糸膜の自重により糸折れ、糸潰れが発生したり、モジュール組み立て時に接着障害が発生する可能性があるため、中空糸膜の含水率は6質量%以下がより好ましく、さらに好ましくは5質量%以下である。
さらに、中空糸膜束の含水率が10〜20質量%まで低下した後は、遠赤外線照射により中空糸膜束を乾燥するのが好ましい。マイクロ波や近赤外線を照射したり、加熱乾燥を行う方が被乾燥物を速く乾燥するという意味では好ましいが、親水性高分子としてポリビニルピロリドンを含む分離膜の場合、ポリビニルピロリドンが乾燥の進行、すなわち中空糸膜中の水分含量の低下に伴い、熱による劣化分解を受けやすくなる問題がある。したがって、乾燥の最終段階(低含水率)においては、より低いエネルギーでマイルドに乾燥するのが好ましい実施態様である。また、遠赤外線は、電磁波の一種であり、マイクロ波と同様に被乾燥物の内部まで浸透するため、低エネルギーでも被乾燥物を均一に斑なく乾燥できるという特徴を有するため好ましい。
本発明において、遠赤外線の照射波長は1〜30μmであることが好ましい。遠赤外線の波長が短すぎると、被乾燥物の温度が上がらなくなるため、乾燥時間が延びるなど乾燥にかかるコストが増大することがある。したがって、照射する遠赤外線の波長は1.5μm以上がより好ましく、2μm以上がさらに好ましく、2.5μm以上がよりさらに好ましい。また、照射する遠赤外線の波長が長すぎると、被乾燥物の温度が上がりすぎ、中空糸膜素材の劣化分解が起こりやすくなる。したがって、遠赤外線の照射波長は28μm以下がより好ましく、26μm以下がさらに好ましく、24μm以下がよりさらに好ましい。
本発明において、遠赤外線を照射するための媒体としてセラミックを使用するのが好ましい実施態様である。本発明の遠赤外線を得るためには、例えば、タングステン、ニクロム、ステンレス、炭化ケイ素、セラミック、カーボンを素材とした遠赤外線照射媒体が挙げられるが、中でも炭化ケイ素、ステンレス、アルミナ系やジルコニウム系のファインセラミックを媒体として用いるのが好ましい。
一方、マイクロ波乾燥終了後に遠赤外線照射による乾燥を行なう場合は、マイクロ波乾燥の場合と異なり、減圧下で照射しても放電現象は発生しないので、マイクロ波乾燥の場合より減圧度を高めて行うことができる。乾燥効率の点より5kPa以下が好ましく、4kPa以下がより好ましく、3kPa以下がさらに好ましく、2kPa以下がよりさらに好ましい。遠赤外線照射の照射エネルギーは、オーブンの中心部に設けた熱電対で検出される温度で80℃以下になるように制御するのが好ましい。70℃以下で制御するのがより好ましい。
前記の遠赤外線照射はマイクロ波照射終了後に照射を開始してもよいし、マイクロ波照射時にも照射し、マイクロ波乾燥と遠赤外線乾燥とを同時進行で実施してもよい。マイクロ波と遠赤外線照射を同時に行うことにより、マイクロ波照射により励起され中空糸膜表面に移動してきた水の蒸発が遠赤外線照射により加速され乾燥効率向上に繋がる。また、この表面水分の効率的な蒸発により、表面水分により誘導されるポリビニルピロリドンの中空糸膜表面の濃度変動が抑制され、部分固着発生抑制に繋げられるので好ましい。上述のごとくマイクロ波乾燥についても減圧下で実施するのが好ましいので、減圧下でマイクロ波乾燥と遠赤外線乾燥とを同時進行で実施して、前記の含水率になった時点でマイクロ波照射を中止し、減圧状態を維持したまま遠赤外線照射を続行し、さらなる乾燥を続ける方法が好ましい。この際に、マイクロ波の照射終了後に系の減圧度を下げて、コンディショニングを行った後に再度減圧度を上げて遠赤外線照射を開始してもよい。従って、本発明においては、加熱オーブン内に遠赤外線ヒーターが取り付けられており、かつ加熱オーブン内を減圧にできる排気系が取り付けられたマイクロ波乾燥機を用いて乾燥することが好ましい実施態様である。
本発明においては、乾燥終了後に乾燥庫内を常圧に戻す際に窒素ガス等の不活性ガスを用いることが好ましい。該対応により中空糸膜中のポリビニルピロリドンの酸化劣化が抑制される。
また、上記のごとく原料ポリビニルピロリドンより混入したり、中空糸膜束の製造工程において生成した過酸化水素を、洗浄により除去する方法も前記した特性値を規制された範囲に制御する方法として有効である。
本発明においては、窒素等の不活性ガス飽和水を中空糸膜の自重に対して5質量%以上含む選択透過性中空糸膜束を充填した血液浄化用モジュールに、放射線を照射することが好ましい。通常、水の中には1m3あたり20l程度の空気が溶け込んでおり、通常の水道水には8mg/(水1L)の酸素ガスが含まれている。このような水で中空糸膜を湿潤状態にして放射線照射を行った場合、溶存する酸素の影響で中空糸膜素材の劣化が進行し、中空糸膜の強度低下や溶出物の増加、さらに前述のような過酸化水素の生成の増大を招くために好ましくない。このような悪影響を避けるために、脱酸素水を使用する手法が考えられる。しかしながら、単に使用する水を脱酸素水にしたのみでは、放射線照射までの滞留時間中に周囲の空気中に含まれる酸素が水に再度溶解してしまい、上記のような好ましくない劣化反応を完全に抑制するのは困難である。本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、窒素等の不活性ガス飽和水を使用することによってこの問題を解決するに至った。すなわち、不活性ガスを飽和状態で含有させた水を中空糸膜に含浸させることにより、周囲に酸素が存在する環境で放射線照射を行っても、中空糸膜素材等の劣化反応を効果的に抑制可能となった。水に不活性ガスが飽和しているため、周囲に酸素が存在しても水への溶解が抑制され、中空糸膜が酸素濃度の低い状態に保たれるためであると推定される。
不活性ガス飽和水の調製方法は特に限定されず、窒素などの不活性ガスをバブリングする方法が好適に用いられ得る。水の溶存酸素を除去する方法として不活性ガスのバブリング法が知られているように、不活性ガスの導入によって溶存酸素は結果的に除去されるが、積極的に酸素を除去した上で不活性ガスを溶存させることも好ましい。具体的には、加熱脱気法、真空脱気法、膜脱気法、還元剤添加法などによってあらかじめ酸素を除去した水に不活性ガスをバブリングすることで酸素の除去、不活性ガスの溶解が効率的に行われる。ここで、不活性ガス飽和水の溶存酸素量は、0.5ppm以下であることが好ましく、0.2ppm以下がより好ましく、0.1ppm以下がさらに好ましい。なお、ここで使用される水はRO処理されたものを用いるのが好ましい。
本発明において、血液浄化用モジュール内に不活性ガス飽和水を充填し、中空糸膜を完全に水没した状態で放射線照射してもよいが、過度に水分が存在すると血液浄化用モジュールの重量が増大する、バクテリアが発生し易い、寒冷地で凍結するなどの問題が生じるため、中空糸膜の含水率として500質量%以下が好ましく、400質量%以下がより好ましく、300質量%以下がさらに好ましい。しかし、含水率が少なすぎると、ポリビニルピロリドンの架橋反応の進行が抑制されると共に放射線照射による中空糸膜の劣化、特にポリビニルピロリドンの劣化が促進され、前述のような過酸化水素の生成の増大や透析型人工腎臓装置製造承認基準により定められた試験を実施した時の中空糸膜の抽出液におけるUV(220〜350nm)吸光度の増大、長期保存安定性の低下等を引き起こす好ましくない劣化反応が増大する可能性がある。したがって、中空糸膜の含水率は2.5質量%以上が好ましく、3質量%以上がより好ましく、3.5質量%以上がさらに好ましい。該含水率の調整方法は限定されないが、例えば、中空糸膜内側に不活性ガス飽和水を流し、中空糸膜内側から外側に向かってろ過を生じさせながら血液浄化用モジュール内に不活性ガス飽和水を充填する。その後、中空糸膜の内側、外側に不活性ガスを流して余分な水をモジュール外に排出する。また、必要に応じて遠心脱水等を組み合わせて含水率の調整を行ってもよい。
ここで、中空糸膜に含まれる水について、特に溶存酸素の影響を定性的に分析すれば、次のようなことが考えられる。溶存酸素が例えば0.05ppmある場合と、0.5ppmの場合について、放射線照射前(時)の溶存酸素と放射線照射後の中空糸膜から溶出する過酸化水素最大溶出量との関係を見れば、図4に示されるような傾向が予測される。溶存酸素が例えば0.5ppmと比較的多い場合に、放射線照射量を比較的多くすれば、滅菌効果は高まるが、活性酸素の発現性に起因する過酸化水素溶出量も増加することが考えられるからである。一方、照射量が少ないと活性酸素の発現が抑制されるが滅菌効果において障害となることも考えられる。勿論、中空糸膜の材料および親水性高分子材料の種類、その含有量、照射温度、照射量(時間、放射線強度)などの多くの要因が微妙に影響することが考えられるが、溶存酸素と過酸化水素最大溶出量との関係だけに限ってみれば、図4に示す傾向になることが推察できる。しかし、放射線照射量という点から考察すれば、放射線照射装置の標準的な、能率的適正照射条件や、単位時間あたりの生産性、および滅菌効果の諸条件を考慮して決めなければならないものである。図5は、中空糸膜の過酸化水素最大溶出量が一定値を超えると溶出量のばらつき度が大きくなるという一般的な傾向を示すものである。過酸化水素溶出量のばらつきを比較的低く抑えるために、過酸化水素最大溶出量を5ppm程度に抑えることが非常に有利であるということであり、この値は中空糸膜を高品質に、安定に、しかも長時間保つための臨界性のある目標値である。これは本発明者等の知見に基づくものである。
溶存酸素量は、例えば0.001ppm以下というような、より少ない方が推奨されるが、技術的に困難な事情もあり、この過度の操作が血液浄化用モジュールの生産性、価格などにも跳ね返る恐れがあり、自ずと限界がある。通常は、溶存酸素が0.001〜0.5ppm程度まで減らす配慮をすれば、放射線照射処理において、過酸化水素最大溶出量を5ppm以下に抑えることができるという一応の目安でもある。ここで、水中の溶存酸素は、例えば、HORIBA製作所社製溶存酸素計OM−51−L1を用いて測定することができる。
この過酸化水素最大溶出量5ppmは、図2に示すような溶出量バラツキを比較的低く抑え、高品質な血液浄化用モジュールを提供するという一応の目標値として設定できる値である。モジュール内の中空糸膜から溶出する過酸化水素最大溶出量と溶出量のバラツキ度との関係は、図2に示す実施例、比較例の分布に見るとおり、鮮明にその技術的意味のある境界を表しており、特に過酸化水素最大溶出量が5ppmという点までが許容できる限界値ともいえる。この過酸化水素最大溶出量と溶出量バラツキ度との関係を解析すれば、図5に示すような傾向にあることが一応推測される。中空糸膜束からの過酸化水素の溶出量バラツキ度を非常に低く抑えて品質のよいモジュールを提供する為には、過酸化水素最大溶出量5ppm以下を目標とするのが好ましい。過酸化水素最大溶出量が増えるに従い、溶出量バラツキ度が単調に増加する傾向にあるといえる。ということは、滅菌前の中空糸膜束に含ませる水の溶存酸素を低く抑えて、その酸素浸入を抑制する為に、不活性ガス飽和水を使用することは、高品質の血液浄化用モジュールを提供するという課題を達成するとともに、生産現場においても非常に安定した生産工程が達成できること、および血液浄化用モジュールの流通における長時間高品質の安定な状態を保証できるという多くの有利な点があるということである。
本発明においては、充填された不活性ガス飽和水の流出や水分の揮散、外部からの酸素の混入や雑菌の混入を防ぐために、選択透過性中空糸膜束を充填したモジュールの血液および透析液の出入り口すべてを密栓した状態にすることが好ましい。ここで用いられる密栓方法は、該目的を満たす方式であればその形式や素材は限定されない。例えば、ねじ込み式の密栓方式やはめ込み式のキャップシール方式が挙げられる。ねじ込み式の密栓方式の場合は、モジュール容器と同じ素材のポリマーであってもよいし、異種ポリマーであっても構わない。また、金属やセラミックス製であっても構わない。また、キャップシール方式の場合は、該キャップでシールする部分は、密栓するモジュールの出入口の内側および外側のいずれか、あるいはその両方を用いるいずれの方式であっても構わない。該キャップシール方式の場合は、モジュール出入口との密着度により気密性が支配されるので、フィット性の優れた柔軟性ポリマーよりなるものが好ましい。該柔軟性ポリマーの材質は限定されず、ゴム、エラストマーおよびプラストマーおよびこれらの配合物より選択すればよい。水分の揮散防止の点で水蒸気透過率の低い素材の使用が好ましい。また、安全性の点より溶出物等の少ない素材が好ましい。例えば、エチレンープロピレン系ゴム、シリコーンゴム、ポリエステル系やポリオレフィン系のエラストマー等の使用が好ましい。さらに、該密栓においては、密栓部分にОリング等を使用して気密性を向上させてもよい。
本発明者らは、高度な滅菌効果を得ることができ、長時間保存しても血液浄化モジュールに品質の低下や品質にバラツキのない、最高品質の血液浄化モジュールを提供する為に多観点からその原因や対策を追求した結果、血液浄化モジュール中に含まれる水の量、および水の溶存酸素に対する技術的配慮が微妙に影響するということを知見した。特に、出荷前の血液浄化モジュールの滅菌工程において、放射線照射による活性酸素の生成に対して技術的な配慮をすることにより、最高品質の血液浄化モジュールを医療現場に提供することができるということは本発明者らの知見に基づくものである。活性酸素生成の原因となる水中の溶存酸素を少なくすることは簡単な水処理で達成できるが、それを血液浄化モジュールに含ませるという過程において、大気中の酸素の拡散、浸透というような進入経路に対して非常に注意を要する為に、むしろ予め不活性ガスを飽和させた水を使用することが酸素の浸入を効果的に抑制し、水の取り扱いを簡便にすることができるという利点を有する。
本発明において、滅菌前(時)のモジュール内の酸素濃度の制御は必須ではないが、酸素の共存は中空糸膜の強度低下や中空糸膜構成材料およびポッティング剤の劣化などを引き起こす要因となり得るので、4.0容量%以下であることが好ましく、3.0容量%以下がより好ましく、2.0容量%以下がさらに好ましい。上記酸素濃度にすることで本発明の効果の発現性がより安定化される。また、滅菌前の血液浄化器内の酸素濃度が低過ぎると、中空糸膜構成材料およびポッティング材の劣化は抑制されるが、放射線照射による滅菌効果が十分に発現しない可能性がある。従って、滅菌前の血液浄化器内の酸素濃度は0.1容量%以上が好ましく、0.2容量%以上がより好ましく、0.3容量%以上がさらに好ましい。
上記モジュール内の酸素濃度を低下させる方法は限定されないが、モジュール内に不活性ガスを充填して行うのが好ましい。前記した方法で乾燥された中空糸膜束を用いて血液浄化用モジュールを組立て、該モジュールに不活性ガス飽和水を注入、充填し、モジュール中に存在していた空気を追い出すと共に、中空糸膜中の水分および中空糸膜周りを不活性ガス飽和水で満たした後に、不活性ガスをモジュール内に注入、充填する方法が好ましい。不活性ガスとしては経済性の点より窒素ガスを使用するのが好ましい。酸素濃度を調整した不活性ガスを用いて置換するのが好ましい。
滅菌後の血液浄化用モジュール内の酸素濃度は、2.0容量%以下であることが好ましい。滅菌後の血液浄化用モジュール内の酸素濃度が高すぎると、長期保存中に中空糸膜の構成材料およびポッティング材が徐々に酸化劣化し、血液浄化使用時に劣化分解物が血液中に溶出する可能性がある。したがって、滅菌後の血液浄化器内の酸素濃度は1.8容量%以下がより好ましく、1.5容量%以下がさらに好ましい。また、滅菌後の血液浄化器内の酸素濃度は0.001容量%以上が好ましい。滅菌後の血液浄化器内の酸素濃度が低すぎる場合は、滅菌処理前に既に系内の酸素が消費されてしまっており、十分な滅菌効果が得られていない可能性がある。したがって、滅菌後の血液浄化器内の酸素濃度は0.005容量%以上がより好ましく、0.01容量%以上がさらに好ましい。
本発明者等は、中空糸膜構成材料およびポッティング材の劣化防止と滅菌作用の両立をはかるために、滅菌条件について鋭意検討した結果、ついに本発明に到達した。すなわち、中空糸膜構成材料およびポッティング材の酸化劣化を抑制するためには、放射線照射時、中空糸膜と酸素との接触を避ける必要がある。一方、滅菌の作用効果を発現するためには、放射線照射時に酸素ラジカルを発生させることが必要である。本発明においては、予め不活性ガスを飽和させた水を中空糸膜に含浸させることにより、放射線照射時に発生する酸素ラジカルの中空糸膜へのアタックを防止するとともに、血液浄化用モジュール内の中空糸膜と接触しない部分の雰囲気中には酸素をある程度残すことにより、放射線照射による滅菌作用を得るという相反する効果を両立させることに成功した。
上記方法あるいは前述の方法でモジュール内の含水率を調整した後にモジュールの血液および透析液の出入り口すべてを密栓するのが好ましい。該方法によりモジュールに充填されている中空糸膜からの水分の揮散が抑制されると共に、モジュール内への外気中に含まれる酸素ガスの混入が抑制されることにより本発明の効果が効果的に発現される。また、モジュール内への雑菌の浸入が阻止できる。また、長期に中空糸膜からの水分の揮散が抑制されるために、中空糸膜の経時による中空糸膜の乾燥による収縮や膜特性の低下が抑制される。そのために、モジュールを長期保存した場合の欠陥の発生や膜特性の低下等が抑制されるという効果が発現する。例えば、中空糸膜の収縮が起こると中空糸膜の接着剤によるモジュールへの固定部分の中空糸膜と接着剤界面の剥離が起こり、該部分での液漏れ発生に繋がる。また、中空糸膜にクリンプを付与して透析液の偏流を抑制する方式の場合は、該中空糸膜の乾燥によりクリンプの緩和が起こり透析液の偏流の増大が起こることがある。
本発明においては、上記方法で密栓された血液浄化用モジュールを、外気および水蒸気を遮断する包装袋で密封して放射線を照射するのが好ましい。該包装袋の素材や形状は特に限定されない。例えば、血液浄化用モジュール等の医療器具の滅菌方法として脱酸素剤と共に包材で密封して放射線照射をする方法が知られており、該方法においては、脱酸素剤の効果発現やその持続のために、アルミ箔やガスバリアー性の優れたフィルムを構成素材として用いられているが、本発明においては、脱酸素剤の使用は必須でなく、かつ上記目的で使用するものであるので高度のガスバリアー性を有する素材であることは必須でない。一方、該包材による密封は、包材の出入口をヒートシール法でシールするのが好ましいので、ヒートシール性を有した素材よりなることが好ましい。ポリエチレンやポリプロピレンよりなるシーラントフィルムとポリエステルやポリアミドの延伸フィルムよりなる基材フィルムの積層体よりなる積層フィルムの使用が好ましい。該積層フィルムはガスバリアー性処理されたものや、アルミ箔等を積層し、ガスバリアーや透湿性をより向上させた素材を用いてもよい。この包装用パックの材料は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、特にポリエチレンテレフタレート、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニリデン、ポリアミド、などの汎用の各種プラスチック材料からなる単一フイルム、積層フイルム、または、それらのアルミのような金属蒸着フイルムなどからなる二層、三層の積層体包装用フイルムが推奨される。プラスチックパックを加工する場合には、フイルムパックの底側シール、口を閉じる便宜を考慮すれば、ヒートシール層が必須になる。例えば、内面にポリエチレンのようなヒートシール性のよい樹脂層を積層した、ポリエチレンテレフタレートのような積層フイルム、さらに、必要により、ポリビニルアルコール層のようなガスバリヤー層を積層することができる。場合によっては、血液浄化用モジュール包装体の輸送上の取り扱い注意事項、保管の注意事項、および医療現場における使用上の注意事項などを明示するために、袋の内又は表面側に印刷層を積層することが出来る。袋口に口閉ファスナーを設けるとか、シュリンクフイルムを用いるのも一つの工夫であって、市販の汎用の包装用フイルムを任意に使用することができる。該包装袋により密封することにより、モジュール外面の汚染や雑菌の付着等が阻止される。該方法において、包装袋内の雰囲気ガスは特に限定されない。空気であっても構わないが窒素ガス等の不活性ガス雰囲気にするのが滅菌後に混入する雑菌の成長を抑制したり、前記の密栓の効果が補完されることより好ましい。さらに、本発明においては、後述のごとく密栓してから経時させて放射線を照射するのが好ましいことより、この間における外気からのモジュール内への酸素ガスの浸入を抑制できる利点もある。不活性ガス雰囲気にする方法としては、上記血液浄化用モジュールと共に脱酸素剤を密封して行うのが好ましい。
脱酸素剤は、脱酸素機能を有するものであれば限定されない。例えば、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、亜二チオン酸塩、ヒドロキノン、カテコール、レゾルシン、ピロガロール、没食子酸、ロンガリット、アスコルビン酸および/またはその塩、ソルボース、グルコース、リグニン、ジブチルヒドロキシトルエン、ジブチルヒドロキシアニソール、第一鉄塩、鉄粉等の金属粉等を酸素吸収主剤とする脱酸素剤があげられ、適宜選択できる。また、金属紛主剤の脱酸素剤には、酸化触媒として、必要に応じ、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化アルミニウム、塩化第一鉄、塩化第二鉄、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化マグネシウム、臭化カルシウム、臭化鉄、臭化ニッケル、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化マグネシウム、ヨウ化カルシウム、ヨウ化鉄等の金属ハロゲン化合物等の1種または2種以上を加えても良い。また、脱臭、消臭剤、その他の機能性フィラーを加えることも何ら制限を受けない。また、脱酸素剤の形状は特に限定されず、例えば、粉状、粒状、塊状、シート状等の何れでも良く、また、各種の酸素吸収剤組成物を熱可塑性樹脂に分散させたシート状またはフイルム状脱酸素剤であっても良い。
本発明においては、上記密栓をしてから少なくとも48時間経過させてから放射線を照射するのが好ましい。72時間以上がより好ましい。ただし、密栓後、放射線照射までの時間が長すぎると、雑菌が増殖することがあるので、密栓後10日以内に該照射を行うのが好ましい。より好ましくは7日以内、さらに好ましくは5日以内である。密栓をしてから放射線を照射するまでの経過時の温度は限定はなく、例えば、室温で行えばよい。48時間未満の状態で放射線照射処理を行うとプライミング処理後の透水性能の発現性が低下することがある。該方法によりドライタイプの血液浄化用モジュールの課題の一つであった、プライミング処理後に本来の膜性能が発現するまでに長時間を要するという課題の改善に繋がる。
該密栓してから照射処理をするまでの経過時間によりプライミング後の透水性能の発現性が変化する理由は不明であるが、中空糸膜表面に吸着されている極微量の酸素がその周りに局在している不活性ガス飽和水に移行することで、放射線照射により引き起こされる膜表面と水との親和性を阻害する劣化反応が抑制されるために引き起こされているものと推察している。
本発明で用いる放射線としては、α線、β線、γ線、中性子線、X線、電子線、紫外線、イオンビームが用いられるが、滅菌効率および取り扱い易さ等から、γ線又は電子線が好適に用いられる。放射線の照射線量は殺菌および架橋が可能な線量であれば特に限定はないが、一般には10〜30kGyが好適である。
本発明においては、前述したポリビニルピロリドンの溶出量と内毒素であるエンドトキシンの血液側への浸入を阻止したり、中空糸膜束を乾燥する際の中空糸膜束同士の固着を阻止する等の特性をバランスするために中空糸膜束の外表面におけるポリビニルピロリドンの含有量を特定範囲にすることが好ましい。該要求に答える方法として、例えば、ポリスルホン系高分子に対するポリビニルピロリドンの比率を前記した範囲にしたり、中空糸膜束の製膜条件を最適化する等により達成できる。また、製膜された中空糸膜束を洗浄することも有効な方法である。製膜条件としては、ノズル出口のエアギャップ部の湿度調整、延伸条件、凝固浴の温度、凝固液中の溶媒と非溶媒との組成比等の最適化が、また、洗浄工程の導入が有効である。
内部凝固液としては、0〜80質量%のジメチルアセトアミド(DMAc)水溶液が好ましい。より好ましくは、15〜70質量%、さらに好ましくは25〜60質量%、よりさらに好ましくは30〜50質量%である。内部凝固液濃度が低すぎると、血液接触面の緻密層が厚くなるため、溶質透過性が低下する可能性がある。また内部凝固液濃度が高すぎると、緻密層の形成が不完全になりやすく、分画特性が低下する可能性がある。
外部凝固液は0〜50質量%のDMAc水溶液を使用するのが好ましい。外部凝固液濃度が高すぎる場合は、外表面開孔率および外表面平均孔面積が大きくなりすぎ、透析使用時エンドトキシンの血液側への逆流入の増大や、バースト圧の低下を起こす可能性がある。したがって、外部凝固液濃度は、より好ましくは40質量%以下、さらに好ましくは30質量%以下、よりさらに好ましくは25質量%以下である。また、外部凝固液濃度が低すぎる場合には、紡糸溶液から持ち込まれる溶媒を希釈するために大量の水を使用する必要があり、また廃液処理のためのコストが増大する。そのため、外部凝固液濃度の下限はより好ましくは5質量%以上、さらに好ましくは10質量%以上、よりさらに好ましくは15質量%以上である。
本発明の中空糸膜束の製造において、完全に中空糸膜構造が固定される以前に実質的に延伸をかけないことが好ましい。実質的に延伸を掛けないとは、ノズルから吐出された紡糸溶液に弛みや過度の緊張が生じないように、紡糸工程中のローラー速度をコントロールすることを意味する。吐出線速度/凝固浴第一ローラー速度比(ドラフト比)は0.7〜1.8が好ましい範囲である。前記比が0.7未満では、走行する中空糸膜束に弛みが生じ生産性の低下に繋がることがあるので、ドラフト比は0.8以上がより好ましく、0.9以上がさらに好ましく、0.95以上がよりさらに好ましい。逆にドラフト比が1.8を超える場合には中空糸膜束の緻密層が裂けるなど膜構造が破壊されることがある。そのため、ドラフト比は、より好ましくは1.7以下、さらに好ましくは1.6以下、よりさらに好ましくは1.5以下、特に好ましくは1.4以下である。ドラフト比をこの範囲に調整することにより細孔の変形や破壊を防ぐことができ、膜孔への血中タンパクの目詰まりを防ぎ経時的な性能安定性やシャープな分画特性を発現することが可能となる。
本発明においては、上述のごとく、過酸化水素の溶出量を低減したり、中空糸膜束の外表面におけるポリビニルピロリドンの含有量を特定範囲にするための手段として中空糸膜束の製造過程において、前記の乾燥工程の前に洗浄工程を導入することが重要である。例えば、水洗浴を通過した中空糸膜束は、湿潤状態のまま綛に巻き取り、3,000〜20,000本の束にする。ついで、得られた中空糸膜束を洗浄し、過剰の溶媒、ポリビニルピロリドンを除去する。中空糸膜束の洗浄方法として、本発明では、70〜130℃の熱水、または室温〜50℃、10〜40vol%のエタノールまたはイソプロパノール水溶液に中空糸膜束を浸漬して処理するのが好ましい。
(1)熱水洗浄の場合は、中空糸膜束を過剰のRO水に浸漬し70〜90℃で15〜60分処理した後、中空糸膜束を取り出し遠心脱水を行う。この操作をRO水を更新しながら数回繰り返して洗浄処理を行う。
(2)加圧容器内の過剰のRO水に浸漬した中空糸膜束を121℃で2時間程度処理する方法をとることもできる。
(3)エタノールまたはイソプロパノール水溶液を使用する場合も、(1)と同様の操作を繰り返すのが好ましい。
(4)遠心洗浄器に中空糸膜束を放射状に配列し、回転中心から40℃〜90℃の洗浄水をシャワー状に吹きつけながら30分〜5時間遠心洗浄することも好ましい洗浄方法である。
前記洗浄方法を2つ以上組み合わせて行ってもよい。いずれの方法においても、処理温度が低すぎる場合には、洗浄回数を増やす等必要になりコストアップに繋がることがある。また、処理温度が高すぎるとポリビニルピロリドンの分解が加速し、逆に洗浄効率が低下することがある。上記洗浄を行うことにより、外表面ポリビニルピロリドンの存在率の適正化を行い、固着抑制や溶出物の量を減ずることが可能となるとともに、過酸化水素溶出量の低減にも繋がる。
本発明においては、前記方法で滅菌処理された血液浄化用モジュールに充填されている選択透過性中空糸膜についても、該中空糸膜束を長手方向に10個に分割して、各部位について透析型人工腎臓装置製造承認基準により定められた試験を実施したとき、抽出液の過酸化水素溶出量が全ての部位で5ppm以下であることが好ましい。このことにより、血液浄化用モジュールを長期保存した場合の保存安定性が向上する。
また、本発明においては、前記方法で滅菌処理された血液浄化用モジュールを室温で1年間保存した後に透析型人工腎臓装置製造承認基準により定められた試験を実施した時の中空糸膜の抽出液におけるUV(220〜350nm)吸光度が0.10以下であることが好ましい実施態様である。UV(220〜350nm)吸光度が0.08以下に保たれていることがより好ましい。
さらに、本発明においては、前記方法で滅菌処理された血液浄化用モジュールは、血液浄化用モジュールのプライミング処理後10分時点の透水率がプライミング処理後24時間経過時の透水率の90%以上であることが好ましい。92%以上であることがより好ましく、94%以上がさらに好ましい。このことにより、本発明の血液浄化用モジュールを使用した場合にプライミング処理が短時間で行えると共に血液浄化用モジュールの信頼性が向上する。
血液浄化用モジュールは、使用に当って生理食塩水で、充填、洗浄および気泡の追い出し等を行う、いわゆるプライミング処理が実施される。ポリスルホン系選択透過性中空糸膜は、水との馴染み性が必ずしも充分でない場合があり、該プライミング処理に時間を要する場合があるという課題を有する。特に、本発明のようなドライタイプの血液浄化用モジュールの場合は、該プライミング処理時における透水率等の中空糸膜の性能が所定レベルに到達する時間が変動する場合があり、短時間で所定レベルの膜性能が発現する中空糸膜束の開発が嘱望されている。本発明は、該要求に答えるものである。
以上の特性を付与する方法は限定されないが、例えば、前記方法により滅菌処理することが好ましい。
また、血液浄化用として用いる場合は、中空糸膜のバースト圧が0.5MPa以上であること、および血液浄化用モジュールの透水率が150ml/m2/hr/mmHg以上であることが好ましい。バースト圧が0.5MPa未満では後述するような血液リークに繋がる潜在的な欠陥を検知することができない可能性がある。また、透水率が150ml/m2/hr/mmHg未満では透析効率が低下することがある。透析効率を上げるためには細孔径を大きくしたり、細孔数を増やしたりするが、そうすると膜強度が低下したり欠陥ができるといった問題が生じやすくなる。従って、外表面の孔径を最適化することにより支持層部分の空隙率を最適化し、溶質透過抵抗と膜強度をバランスさせることが好ましい。より好ましい透水率の範囲は200ml/m2/hr/mmHg以上、さらに好ましくは250ml/m2/hr/mmHg以上、よりさらに好ましくは300ml/m2/hr/mmHg以上である。また、透水率が高すぎる場合、血液透析時の除水コントロールがしにくくなるため、2000ml/m2/hr/mmHg以下が好ましい。より好ましくは1800ml/m2/hr/mmHg以下、さらに好ましくは1500ml/m2/hr/mmHg以下、よりさらに好ましくは1300ml/m2/hr/mmHg以下である。
通常、血液浄化に用いるモジュールは、製品となる最終段階で、中空糸膜やモジュールの欠陥を確認するため、中空糸膜内部あるいは外部をエアによって加圧するリークテストを行う。加圧エアによってリークが検出されたときには、モジュールは不良品として廃棄、あるいは欠陥を修復する作業がなされる。このリークテストのエア圧力は血液浄化用モジュールの保証耐圧(通常500mmHg(0.067MPa))の数倍であることが多い。しかしながら、特に高い透水性を持つ血液浄化用モジュールの場合、通常の加圧リークテストで検出できない中空糸膜の微小な傷、つぶれ、裂け目などが、リークテスト後の製造工程(主に滅菌や梱包)、輸送工程、あるいは臨床現場での取り扱い(開梱や、プライミングなど)時に、中空糸膜の切断やピンホールの発生につながり、ひいては治療時に血液がリークするトラブルの元になるので改善が必要である。該トラブルはバースト圧を前記特性にすることで回避ができる。
また中空糸膜の偏肉度が、上記した潜在的な欠陥の発生抑制に対して有効である。
本発明におけるバースト圧とは、中空糸膜をモジュールにしてからの中空糸膜の耐圧性能の指標で、中空糸膜内側を気体で加圧し、加圧圧力を徐々に上げていき、中空糸膜が内部圧に耐えきれずに破裂(バースト)したときの圧力である。バースト圧は高いほど使用時の中空糸膜の切断やピンホールの発生が少なくなるので0.5MPa以上が好ましく、0.55MPa以上がさらに好ましく、0.6MPa以上がよりさらに好ましい。バースト圧が0.5MPa未満では潜在的な欠陥を有している可能性がある。また、バースト圧は高いほど好ましいが、バースト圧を高めることに主眼に置き、膜厚を上げたり、空隙率を下げすぎると所望の膜性能を得ることができなくなることがある。したがって、血液透析膜として仕上げる場合には、バースト圧は2.0MPa未満が好ましい。より好ましくは、1.7MPa未満、さらに好ましくは1.5MPa未満、よりさらに好ましくは1.3MPa未満、特に好ましくは1.0MPa未満である。
本発明における偏肉度とは、血液浄化用モジュール中の100本の中空糸膜断面を観察した際の膜厚の偏りのことであり、最大値と最小値の比で示す。100本の中空糸膜の最小の偏肉度は0.6以上であることが好ましい。100本の中空糸膜に1本でも偏肉度0.6未満の中空糸膜が含まれると、その中空糸膜が臨床使用時のリーク発生となることがあるので、該偏肉度は平均値でなく、100本の最小値を表す。偏肉度は高い方が、膜の均一性が増し、潜在欠陥の顕在化が抑えられバースト圧が向上するので、より好ましくは0.7以上、さらに好ましくは0.8以上、よりさらに好ましくは0.85以上である。偏肉度が低すぎると、潜在欠陥が顕在化しやすく、前記バースト圧が低くなり、血液リークが起こりやすくなる。
該偏肉度を0.6以上にするための達成手段は、例えば、製膜溶液の吐出口であるノズルのスリット幅を厳密に均一にすることが好ましい。中空糸膜の紡糸ノズルは、一般的に、紡糸溶液を吐出する環状部と、その内側に中空形成剤となる芯液吐出孔を有するチューブインオリフィス型ノズルが用いられるが、スリット幅とは、前記紡糸溶液を吐出する外側環状部の幅をさす。このスリット幅のばらつきを小さくすることで、紡糸された中空糸膜の偏肉を減らすことができる。具体的にはスリット幅の最大値と最小値の比が1.00以上1.11以下とし、最大値と最小値の差を10μm以下とすることが好ましく、7μm以下とすることがより好ましく、さらに好ましくは5μm以下、よりさらに好ましくは3μm以下である。
また、ノズル温度を最適化するのが好ましい実施態様である。ノズル温度は20〜100℃が好ましい。20℃未満では室温の影響を受けやすくなりノズル温度が安定せず、紡糸溶液の吐出斑が起こることがある。そのため、ノズル温度は30℃以上がより好ましく、35℃以上がさらに好ましく、40℃以上がよりさらに好ましい。また100℃を超えると紡糸溶液の粘度が下がりすぎ吐出が安定しなくなることがあるし、ポリビニルピロリドンの熱劣化・分解が進行する可能性がある。よって、ノズル温度は、より好ましくは90℃以下、さらに好ましくは80℃以下、よりさらに好ましくは70℃以下である。
さらに、バースト圧を高くする方策として、中空糸膜表面の傷や異物および気泡の混入を少なくし潜在的な欠陥を低減するのも有効な方法である。傷発生を低減させる方法としては、中空糸膜の製造工程のローラーやガイドの材質や表面粗度を最適化する、モジュールの組み立て時に中空糸膜束をモジュール容器に挿入する時に容器と中空糸膜束との接触あるいは中空糸膜同士のこすれが少なくなるような工夫をする等が有効である。本発明では、使用するローラーは中空糸膜がスリップして中空糸膜表面に傷が付くのを防止するため、表面が鏡面加工されたものを使用するのが好ましい。また、ガイドは中空糸膜束との接触抵抗をできるだけ避ける意味で、表面が梨地加工されたものやローレット加工されたものを使用するのが好ましい。中空糸膜束をモジュール容器に挿入する際には、中空糸膜束を直接モジュール容器に挿入するのではなく、中空糸膜束との接触面が例えば梨地加工されたフィルムを中空糸膜束に巻いたものをモジュール容器に挿入し、挿入した後、フィルムのみモジュール容器から抜き取る方法を用いるのが好ましい。
中空糸膜への異物の混入を抑える方法としては、異物の少ない原料を用いる、製膜用の紡糸溶液をろ過し異物を低減する方法等が有効である。本発明では、中空糸膜の膜厚よりも小さな孔径のフィルターを用いて紡糸溶液をろ過してからノズルより吐出するのが好ましく、具体的には均一溶解した紡糸溶液を溶解タンクからノズルまで導く間に設けられた孔径10〜50μmの焼結フィルターを通過させる。ろ過処理は少なくとも1回行えば良いが、ろ過処理を何段階かにわけて行うのがろ過効率およびフィルター寿命を延ばす意味で好ましい。フィルターの孔径は10〜45μmがより好ましく、10〜40μmがさらに好ましい。フィルター孔径が小さすぎると背圧が上昇し、定量性が落ちることがある。
また、気泡混入を抑える方法としては、製膜用のポリマー溶液の脱泡を行うのが有効である。紡糸溶液の粘度にもよるが、静置脱泡や減圧脱泡を用いることができる。例えば、溶解タンク内を−100〜−750mmHgに減圧した後、タンク内を密閉し5分〜30分間静置する。この操作を数回繰り返し脱泡処理を行う。減圧度が低すぎる場合には、脱泡の回数を増やす必要があるため処理に長時間を要することがある。また減圧度が高すぎると、系の密閉度を上げるためのコストが高くなることがある。トータルの処理時間は5分〜5時間とするのが好ましい。処理時間が長すぎると、ポリビニルピロリドンが分解、劣化することがある。処理時間が短すぎると脱泡の効果が不十分になることがある。
以下、本発明の有効性を実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、以下の実施例における物性の評価方法は以下の通りである。
1.透水率の測定
透析器の血液出口部回路(圧力測定点よりも出口側)を鉗子で挟んで封止し、全ろ過とする。37℃に保温した純水を加圧タンクに入れ、レギュレーターにより圧力を制御しながら、37℃恒温槽で保温した透析器へ純水を送り、透析液側から流出した濾液量をメスシリンダーで測定する。膜間圧力差(TMP)は
TMP=(Pi+Po)/2
とする。ここでPiは透析器入り口側圧力、Poは透析器出口側圧力である。TMPを4点変化させ濾過流量を測定し、それらの関係の傾きから透水率(mL/hr/mmHg)を算出する。このときTMPと濾過流量の相関係数は0.999以上でなくてはならない。また回路による圧力損失誤差を少なくするために、TMPは100mmHg以下の範囲で測定する。中空糸膜束の透水率は膜面積と透析器の透水率から算出する。
UFR(H)=UFR(D)/A
ここでUFR(H)は中空糸膜束の透水率(mL/m2/hr/mmHg)、UFR(D)は透析器の透水率(mL/hr/mmHg)、Aは透析器の膜面積(m2)である。
2.膜面積の計算
透析器の膜面積は中空糸の内径基準として求める。
A=n×π×d×L
ここで、nは透析器内の中空糸本数、πは円周率、dは中空糸の内径(m)、Lは透析器内の中空糸の有効長(m)である。
3.バースト圧
約10,000本の中空糸膜束よりなるモジュールの透析液側を水で満たし栓をする。血液側から室温で乾燥空気または窒素を送り込み1分間に0.5MPaの割合で加圧していく。圧力を上昇させ、中空糸膜束が加圧空気によって破裂(バースト)し、透析液側に満たした液に気泡が発生した時点の空気圧をバースト圧とする。
4.偏肉度
中空糸100本の断面を200倍の投影機で観察する。一視野中、最も膜厚差がある一本の糸断面について、最も厚い部分と最も薄い部分の厚みを測定する。
偏肉度=最薄部/最厚部
偏肉度=1で膜厚が完璧に均一となる。
5.ポリビニルピロリドンの溶出量
透析型人工腎臓装置製造基準に定められた方法で抽出し、該抽出液中のポリビニルピロリドンを比色法で定量する。
乾燥中空糸膜モジュールの場合には、中空糸膜束1gに純水100mlを加え、70℃で1時間抽出する。得られた抽出液2.5ml、0.2モルクエン酸水溶液1.25ml、0.006規定のヨウ素水溶液0.5mlをよく混合し、室温で10分間放置した、後に470nmでの吸光度を測定する。定量は標品のポリビニルピロリドンを用いて上記方法に従い測定する事により求めた検量線にて行う。
6.UV(220−350nm)吸光度
ポリビニルピロリドンの溶出量測定法において記載した方法で抽出した抽出液を分光光度計(日立製作所製、U−3000)を用いて波長範囲200〜350nmの吸光度を測定し、この波長範囲での最大の吸光度を求める。
該測定は、中空糸膜束を長手方向に2.7cmずつ10個に等分し、各々の部位から乾燥状態の中空糸膜束1gをはかりとり全サンプルについて測定する。
7.過酸化水素の定量
前記した方法で抽出した抽出液2.6mlに塩化アンモニウム緩衝液(PH8.6)0.2mlとモル比で当量混合したTiCl4の塩化水素溶液と4−(2−ピリジルアゾ)レゾルシノールのNa塩水溶液との混合液を加え、さらに0.4mMに調製した発色試薬0.2mlを加え、50℃で5分間加温後、室温に冷却し508nmの吸光度を測定する。標品を用いて同様に測定して求めた検量線を利用して定量値を求める。
該測定は、中空糸膜束を長手方向に2.7cmずつ10個に等分し、各々の部位から乾燥状態の中空糸膜束1gをはかりとり全サンプルについて測定する。
湿潤中空糸膜モジュールの場合は、ポリビニルピロリドン溶出量の測定と同様に処理することにより得た乾燥膜を用いて測定する。また、湿潤状態の中空糸膜束について定量する場合は、フリーズドライ法で乾燥して得た乾燥膜について測定する。
8.血液リークテスト
クエン酸を添加し、凝固を抑制した37℃の牛血液を、血液浄化用モジュールに200mL/minで送液し、20mL/minの割合で血液をろ過する。このとき、ろ液は血液に戻し、循環系とする。60分間後に血液浄化用モジュールのろ液を採取し、赤血球のリークに起因する赤色を目視で観察する。この血液リーク試験を各実施例、比較例ともに各30本の血液浄化用モジュールを用い、血液リークしたモジュール本数を調べる。
9.血液浄化用モジュールの保存安定性
放射線および/または電子線照射した血液浄化用モジュールを、該照射時の状態で、室温で一年間保存した後、前記した方法でUV(220−350nm)吸光度を測定する。該保存によるUV(220−350nm)吸光度の増加度で安定性を判定する。該増加度は中空糸膜束を長手方向に10個に等分し、それぞれのサンプルについて測定し、その最大値で判定する。最大値が0.10を超えないものを合格とする。
10.架橋の有無の確認
放射線照射後の膜10gを取り、100mlのジメチルホルムアミドに溶解し、該溶液の濁度で判定した。肉眼で濁りが観察できるものを架橋ありとし、観察できないものを架橋無しとした。
11.含水率
選択透過性分離膜の質量(g)を測定し、その後減圧下(−750mmHg以下)で真空乾燥を12時間実施し、乾燥後の質量(g)を測定する。乾燥前後の差を減量(g)として乾燥後質量(g)を基準にして%で求めた。下式で算出した。
(減量/乾燥後質量)×100=含水率(質量%)
12.酸素濃度の測定
測定はガスクロマトグラフィーにて行う。カラムとしてモレキュラーシーヴ(GLサイエンス社製 モレキュラーシーヴ 13X−S メッシュ60/80)を充填したものを使用し、キャリアガスはアルゴンガスを、検出器は熱伝導方式を用い、カラム温度60℃で分析する。包装袋内および血液浄化用モジュール内ガスは、シリンジのニードルを直接未開封の包装袋およびモジュールの栓に突き刺して採取する。
また、水中の酸素濃度は、HORIBA製作所社製溶存酸素計OM−51−L1を用いて測定する。
13.プライミング時の性能発現性
血液浄化用モジュールの血液側入口ポートより生理食塩水を流した(プライミング処理した)後、10分時点および24時間経過時の透水率を上記評価法により評価し、24時間経過時の透水率に対する10分時点の透水率の割合を求め、以下の基準で判定した。なお、10分時点の透水率を測定した後、24時間までは血液浄化用モジュール内に水を充填した状態で、室温で保持した。
90%以上:○
90%未満:×
14.親水性高分子の内外表面の最表層における含有量
親水性高分子の含有量は、X線光電子分光法(ESCA法)で求めた。親水性高分子としてポリビニルピロリドン(PVP)を用いた場合の測定法を例示する。
中空糸膜1本を内表面が露出するようにカミソリで斜めにカットしたものを試料台に貼り付けてESCAで測定を行った。測定条件は次に示す通りである。
測定装置:アルバック・ファイ ESCA5800
励起X線:MgKα線
X線出力:14kV,25mA
光電子脱出角度:45°
分析径:400μmφ
パスエネルギー:29.35eV
分解能:0.125eV/step
真空度:約10−7Pa以下
窒素の測定値(N)と硫黄の測定値(S)から、次の式により表面でのPVP含有量を算出した。
<PVP添加PES(ポリエーテルスルホン)膜の場合>
PVP含有量(Hpvp)[質量%]
=100×(N×111)/(N×111+S×232)
<PVP添加PSf(ポリスルホン)膜の場合>
PVP含有量(Hpvp)[質量%]
=100×(N×111)/(N×111+S×442)
15.中空糸膜全体での親水性高分子の含有量
親水性高分子としてPVPを用いた場合の測定法を例示する。サンプルを、真空乾燥器を用いて、80℃で48時間乾燥させ、その10mgをCHNコーダー(ヤナコ分析工業社製、MT−6型)で分析し、窒素含有量からPVPの含有量を下記式で計算し求めた。
PVPの含有量(質量%)=窒素含有量(質量%)×111/14
(実施例1)
2本の枠型ブレードが自転、公転するいわゆるプラネタリー運動により混練効果を発現する形式の混練溶解機に、ポリエーテルスルホン(住化ケムテックス社製、スミカエクセル(登録商標)4800P)1000質量部、ポリビニルピロリドン(BASF社製コリドン(登録商標)K90)144質量部およびジメチルアセトアミド(DMAc)1000質量部を仕込み、2時間攪拌し混練をおこなった。引き続き3000質量部のDMAcとRO水160重量部の混合液を1時間を要して添加した。攪拌機の回転数を上げてさらに1時間攪拌を続行し均一に溶解した。このとき、混練および溶解は窒素雰囲気下で行なった。混練および溶解時の温度は40℃を超えないように冷却した。最終溶解時の攪拌のフルード数および撹拌レイノルズ数はそれぞれ1.0および100であった。ついで真空ポンプを用いて系内を−500mmHgまで減圧した後、溶媒等が蒸発して製膜溶液の組成が変化しないように、直ぐに系内を密閉し15分間放置した。この操作を3回繰り返して製膜溶液の脱泡を行った。脱泡が完了した後、系内は再度窒素置換を行い弱加圧状態で維持した。なお、上記ポリビニルピロリドンは、過酸化水素含有量が125ppmのものを用いた。得られた製膜溶液を30μm、15μmの2段の焼結フィルターに順に通した後、75℃に加温したチューブインオリフィスノズルから中空形成剤として予め−700mmHgで30分間脱気処理した50℃の52質量%DMAc水溶液とともに吐出、紡糸管により外気と遮断された400mmの乾式部を通過後、60℃の20質量%DMAc水溶液中で凝固させ、湿潤状態のまま綛に捲き上げた。使用したチューブインオリフィスノズルのノズルスリット幅は、平均60μmであり、最大61μm、最小59μm、スリット幅の最大値、最小値の比は1.03、ドラフト比は1.1であった。紡糸工程中、中空糸膜が接触するローラーは全て表面が鏡面加工されたもの、ガイドは全て表面が梨地加工されたものを使用した。
該中空糸膜約10,000本の束の周りに中空糸束側表面が梨地加工されたポリエチレン製のフィルムを巻きつけた後、27cmの長さに切断し、80℃の熱水中で30分間×4回洗浄した。洗浄後の中空糸膜束は、遠心脱水機を用いて600rpmで10分間脱水処理を行った。
得られた湿潤中空糸膜束をオーブン中に反射板を設置し均一加熱ができるような構造を有したマイクロ波照射方式の乾燥器に導入し、以下の条件で乾燥した。7kPaの減圧下、1.5kWの出力で30分間中空糸膜束を加熱した後、マイクロ波照射を停止すると同時に減圧度1.5kPaに上げ3分間維持した。つづいて減圧度を7kPaに戻し、かつマイクロ波を照射し0.5kWの出力で10分間中空糸膜束を加熱した後、マイクロ波を切断し減圧度を上げ0.7kPaを3分間維持した。さらに減圧度を7kPaに戻し、0.2kWの出力で8分間マイクロ波の照射を行い中空糸膜束を加熱した。マイクロ波切断後、減圧度を0.5kPaに上げ5分間維持することにより中空糸膜束のコンディショニングを行い乾燥を終了した。この時の中空糸膜束表面の最高到達温度は65℃であった。乾燥前の中空糸膜束の含水率は330質量%、1段目終了後の中空糸膜束の含水率は32質量%、2段目終了後の中空糸膜束の含水率は16質量%、3段目終了後の中空糸膜束の含水率は1.5質量%であった。
得られた中空糸膜束を長手方向に2.7cmずつ10個に等分し、各々の部位から乾燥状態の中空糸膜束1gをはかりとり、透析型人工腎臓装置製造承認基準に定められた試験により抽出液を得、抽出液中の過酸化水素溶出量およびUV(220−350nm)吸光度を測定した。両測定値とも全部位において低レベルで安定していた。そのため、中空糸膜束の部分固着は見られなかった。測定結果を表1および2にまとめた。
上記方法で調製した中空糸膜束をポリカーボネート製のモジュールケースに挿入し、両端部をウレタン樹脂で固定した後、樹脂端部を切断し中空糸膜中空部を開口させ、流入口を有するキャップを装着して選択透過性中空糸膜の有効長215mm、膜面積1.35m2のモジュールを作製した。一方、RO水を中空糸膜脱気モジュールに通すことで脱酸素した水に窒素をバブリングし、窒素飽和水を調製した。得られた窒素飽和水の溶存酸素濃度は0.03ppmであった。この窒素飽和水をモジュールの血液側に200ml/分で5分間充填した後、血液側を止めて、0.1MPaの圧力で、60℃の酸素濃度3容量%の窒素ガスで充填水を追い出し、さらに該通気を続けることにより中空糸膜中の含水率を10質量%に調整した。該条件により乾燥されたモジュールの血液および透析液の出入口すべてをエチレン−プロピレン系合成ゴムよりなるキャップで密栓し、外層が厚み25μmの2軸延伸ポリアミドフィルムと内層が厚み50μmの未延伸ポリエチレンフィルムの積層体よりなる包装袋に密封することにより包装体とする。密封状態で室温下、72時間保存した後に、25kGyのγ線を照射した。
上記方法で得られたモジュールの特性および該モジュール中の中空糸膜の特性を表3に示す。本実施例で得られた中空糸膜(ポリスルホン系選択透過性中空糸膜)はγ線照射後も過酸化水素溶出量が少なく、かつUV(220−350nm)吸光度が低く高品質が維持されていた。その他の特性も良好であった。また、血液浄化用モジュールのポリビニルピロリドン溶出量が低く、プライミング時の透水性発現性や長期保存安定性も良好であり血液浄化用モジュールとして実用性の高いものであった。
(比較例1)
実施例1において、過酸化水素含有量が500ppmのポリビニルピロリドンを原料とし、混練および溶解温度を85℃とし、原料供給系や溶解槽の窒素ガス置換を取り止め、かつ中空糸膜束の乾燥を常圧下でマイクロ波を照射して乾燥するように変更した以外は、実施例1と同様にして中空糸膜束を得た。マイクロ波の照射は中空糸膜束中の含水率が65質量%になるまでは2kW、それ以降は0.8kWとし含水率が0.5質量%になるまで乾燥した。また、乾燥開始から乾燥終了までの間、各中空糸膜束の下部から8m/秒の風速にて除湿空気(湿度10%以下)を糸束の下部から上部へと通風した。該乾燥時の中空糸膜束の最高到達温度は65℃であった。得られた中空糸膜の特性を表1および2に示す。本比較例で得られた中空糸膜の過酸化水素溶出量はレベルが高く、かつ過酸化水素溶出量のサンプリング個所による変動が大きく低品質であった。また、UV(220−350nm)吸光度のレベルが高く、かつその変動が大きく中空糸膜の部分固着が見られた。
上記方法で得られた中空糸膜を用いて、不活性ガス飽和水に変えて脱気処理していないRO水を用いた以外は実施例1と同様にしてモジュールを組立て、50時間保存した後、滅菌処理を行った。
上記方法で得られたモジュールの特性および該モジュール中の中空糸膜の特性を表3に示す。本比較例で得られた中空糸膜(ポリスルホン系選択透過性中空糸膜)はγ線照射により過酸化水素溶出量が増大し、長期保存安定性に劣っており、血液浄化用モジュールとして低品質であった。
(比較例2)
実施例1の方法において、中空糸膜の湿潤処理に使用する水を窒素飽和水から脱気処理していないRO水に変え、モジュール内の雰囲気を空気とし、滅菌までの保存期間を120時間とした以外は、実施例1と同様にしてモジュールを組立ておよび滅菌処理を行った。結果を表1〜3に示す。本比較例では、γ線照射により過酸化水素溶出量が増大し、UV(220−350nm)吸光度が悪化した。従って、長期保存安定性が悪化した。また、プライミング時の透水性能の発現性が劣っており、血液浄化用モジュールとして低品質であった。中空糸膜中に存在する水が窒素飽和状態になっていないため、滅菌までの保存期間中に中空糸膜中の水に雰囲気中の酸素ガスが溶解し、中空糸膜中の水分によるγ線照射によるポリビニルピロリドンの劣化抑制効果が低下したことが原因と考えられる。
(比較例3)
比較例2の方法において、血液浄化用モジュールの血液および透析液出入口すべての密栓をしないよう変更し、滅菌までの保存期間を216時間とした以外は、比較例2と同様にしてモジュールを組立ておよび滅菌処理を行った。結果を表1〜3に示す。本比較例では、中空糸膜中に存在する水が窒素飽和状態になっていない上、血液、透析液の出入口が密封されていないため、モジュール内に大量の空気が浸入し、γ線照射時に中空糸膜束の周りが空気で満たされ、比較例2より、さらに中空糸膜の劣化が増大した。
(比較例4)
実施例1の方法において、選択透過性中空糸膜の含水率調整をせずに、滅菌までの保存時間を168時間とし、含水率が1.5質量%の状態のままでγ線照射を行うように変更する以外は、実施例1と同様の方法で選択透過性中空糸膜束および血液浄化用モジュールを得た。本比較例で得られた血液浄化用モジュールに装填されている選択透過性中空糸膜中のポリビニルピロリドンは中空糸膜中の含水率が低いために、ポリビニルピロリドンの架橋が進行しなかった。そのために、ポリビニルピロリドン溶出量が多く低品質であった。また、γ線照射において、窒素飽和水による中空糸膜の劣化反応の抑制効果が低下するために、ポリビニルピロリドンの劣化反応が増大し、γ線照射により過酸化水素溶出量が増大し、かつUV(220−350nm)吸光度が悪化した。当然のことであるが保存安定性もよく無かった。さらに、プライミング時の透水性能の発現性が劣っていた。
(参考例1および2)
実施例1の方法において、それぞれ密栓後、室温で24時間および40時間放置後に実施例1と同様の条件でγ線照射をするように変更する以外は、実施例1と同様して選択透過性中空糸膜および血液浄化用モジュールを得た。これらの特性を表1〜3に示す。本比較例では密栓をしてからγ線処理までの時間が短いために、実施例1で得られた血液浄化用モジュールに対して、プライミング時の透水性能の発現性が劣っていた。従って、本比較例の血液浄化用モジュールは実用性の低いものであった。また、プライミング時の透水性能の発現性に対する密栓をしてからγ線照射までの経過時間が影響することが示された。
(実施例2)
ポリエーテルスルホン(住化ケムテックス社製、スミカエクセル(登録商標)4800P)1000質量部、ポリビニルピロリドン(BASF社製コリドン(登録商標)K−90)200質量部、DMAc1500質量部を2軸のスクリュータイプの混練機で混練した。得られた混練物をDMAc2500質量部および水280質量部を仕込んだ攪拌式の溶解タンク内に投入し、3時間攪拌し溶解した。混練および溶解は内温が30℃以上に上がらないように冷却した。ついで真空ポンプを用いて系内を−700mmHgまで減圧した後、溶媒等が揮発して製膜溶液組成が変化しないように直ぐに溶解タンクを密閉し10分間放置した。この操作を3回繰り返して製膜溶液の脱泡を行った。なお、上記ポリビニルピロリドンとしては、過酸化水素含有量100ppmのものを用い、原料供給系での供給タンクや前記の溶解タンクを窒素ガス置換した。また、溶解時のフルード数および撹拌レイノルズ数はそれぞれ1.1および120であった。得られた製膜溶液を15μm、15μmの2段のフィルターに通した後、70℃に加温したチューブインオリフィスノズルから中空形成剤として予め−700mmHgで2時間脱気処理した50℃の50質量%DMAc水溶液と同時に吐出し、紡糸管により外気と遮断された350mmのエアギャップ部を通過後、60℃の水中で凝固させた。使用したチューブインオリフィスノズルのノズルスリット幅は、平均45μmであり、最大45.5μm、最小44.5μm、スリット幅の最大値、最小値の比は1.02、ドラフト比は1.2であった。凝固浴から引き揚げられた中空糸膜束は85℃の水洗槽を45秒間通過させ溶媒と過剰のポリビニルピロリドンを除去した後巻き上げた。該中空糸膜約10,000本の束の周りに実施例1と同様のポリエチレン製のフィルムを巻きつけた後、30℃の40vol%イソプロパノール水溶液で30分×2回浸漬洗浄した。
得られた湿潤中空糸膜束をオーブン中に反射板を設置し均一加熱ができるような構造を有したマイクロ波照射方式の乾燥器に導入し、以下の条件で乾燥した。7kPaの減圧下、1.5kWの出力で30分間中空糸膜束を加熱した後、マイクロ波照射を停止すると同時に減圧度1.5kPaに上げ3分間維持した。つづいて減圧度を7kPaに戻し、かつマイクロ波を照射し0.5kWの出力で10分間中空糸膜束を加熱した後、マイクロ波を切断し減圧度を上げ0.7kPaを3分間維持した。さらに減圧度を7kPaに戻し、0.2kWの出力で8分間マイクロ波の照射を行い中空糸膜束を加熱した。マイクロ波切断後、減圧度を0.5kPaに上げ5分間維持することにより中空糸膜束のコンディショニングを行い乾燥を終了した。この際の中空糸膜束表面の最高到達温度は65℃であった。乾燥前の中空糸膜束の含水率は318質量%、1段目終了後の中空糸膜束の含水率は30質量%、2段目終了後の中空糸膜束の含水率は15質量%、3段目終了後の中空糸膜束の含水率は2.7質量%であった。紡糸工程中の糸道変更のためのローラーは表面が鏡面加工されたものを使用し、固定ガイドは表面が梨地処理されたものを使用した。得られた中空糸膜束の内径は200μm、膜厚は27μmであった。
得られた乾燥中空糸膜束を長手方向に2.7cmずつ10個に等分し、各々の部位から乾燥状態の中空糸膜束1gをはかりとり、過酸化水素溶出量を定量した。該過酸化水素溶出量は全部位において低レベルで安定していた。該定量値を表1、2に示した。
このようにして得られた中空糸膜束を用いて、実施例1と同様にして血液浄化用モジュールを組み立てた。該血液浄化用モジュールを実施例1と同様の方法で、選択透過性中空糸膜の含水率を50質量%に調整、密栓し、滅菌までの保存時間を216時間とし実施例1と同様の方法でγ線照射を行った。
本実施例で得られた選択透過性中空糸膜束および血液浄化用モジュールは、実施例1で得られたものと同様に高品質であった。結果を表3に示した。
(実施例3)
実施例2と同様の方法で、ポリスルホン(アモコ社製P−3500)900質量部、ポリビニルピロリドン(BASF社製コリドン(登録商標)K−60)450質量部、ジメチルアセトアミド(DMAc)3500質量部、水250質量部よりなる製膜溶液を調製した。なお、上記ポリビニルピロリドンとしては、過酸化水素含有量100ppmのものを用いた。得られた製膜溶液を15μm、15μmの2段のフィルターに通した後、40℃に加温したチューブインオリフィスノズルから中空形成剤として予め減圧脱気した60℃の55質量%DMAc水溶液と同時に吐出し、紡糸管により外気と遮断された600mmのエアギャップ部を通過後、50℃の水中で凝固させた。使用したチューブインオリフィスノズルのノズルスリット幅は、平均60μmであり、最大61μm、最小59μm、スリット幅の最大値、最小値の比は1.03、ドラフト比は1.1であった。凝固浴から引き揚げられた中空糸膜束は85℃の水洗槽を45秒間通過させ溶媒と過剰のポリビニルピロリドンを除去した後巻き上げた。該中空糸膜約10,000本の束を純水に浸漬し、121℃×1時間オートクレーブにて洗浄処理を行った。洗浄後の中空糸膜束の周りに実施例1と同様のポリエチレン製のフィルムを巻きつけた後、容器にいれて窒素置換をした状態で25kGyのγ線を照射し架橋処理を行った。架橋処理前の中空糸膜束中の過酸化水素溶出量は最大値で2ppmであった。引き続き実施例1と同様にして乾燥した。紡糸工程中の糸道変更のためのローラーは表面が鏡面加工されたものを使用し、固定ガイドは表面が梨地処理されたものを使用した。得られた中空糸膜束の内径は201μm、膜厚は43μmであった。表1、2より明らかなごとく、過酸化水素溶出量は全部位において低レベルで安定していた。
このようにして得られた中空糸膜束を用いて、実施例1と同様の方法で血液浄化用モジュールを組み立てた。実施例1と同様にして水分調整および密栓を行った。さらに、血液浄化用モジュールを汎用タイプの脱酸素剤(王子タック株式会社製 タモツ(登録商標))1個とともに実施例1と同じ包装袋で密封して120時間室温で放置後、実施例1と同様の条件でγ線照射を行った。本実施例で得られた選択透過性中空糸膜束および血液浄化用モジュールは、実施例1で得られたものと同様に高品質であった。結果を表3に示した。
(実施例4)
実施例2と同様の方法で、ポリスルホン(アモコ社製P−1700)850質量部、ポリビニルピロリドン(BASF社製コリドン(登録商標)K−60)250質量部、ジメチルアセトアミド(DMAc)3700質量部、水250質量部よりなる製膜溶液を調製した。なお、上記ポリビニルピロリドンとしては、過酸化水素含有量120ppmのものを用いた。得られた製膜溶液を15μm、15μmの2段のフィルターに通した後、40℃に加温したチューブインオリフィスノズルから中空形成剤として減圧脱気された60℃の35質量%DMAc水溶液と同時に吐出し、紡糸管により外気と遮断された600mmのエアギャップ部を通過後、50℃の水中で凝固させた。使用したチューブインオリフィスノズルのノズルスリット幅は、平均60μmであり、最大61μm、最小59μm、スリット幅の最大値、最小値の比は1.03、ドラフト比は1.1であった。凝固浴から引き揚げられた中空糸膜束は85℃の水洗槽を45秒間通過させ溶媒と過剰のポリビニルピロリドンを除去した後巻き上げた。該中空糸膜約10,000本の束を純水に浸漬し、121℃×1時間オートクレーブにて洗浄処理を行った。
洗浄後の中空糸膜束の周りにポリエチレン製のフィルムを巻きつけた後フイルムで包装された湿潤状態の中空糸膜束を乾燥装置内の回転テーブルに48本×2段にセットし、12kWのマイクロ波を照射するとともに乾燥装置内を7kPaに減圧し15分間加熱処理を行った。つづいてマイクロ波照射を停止するとともに減圧度を1kPaに上げ3分間維持することにより水分を蒸発させた。次に減圧度を7kPaに戻すとともにマイクロ波を照射し、出力を3.5kWにて7分問加熱処理を行った。加熱後、マイクロ波照射を停止し減圧度を0.8kPaに上げて3分間維持した。さらに減圧度を7kPaに戻してマイクロ波照射を再開し、出力を2.5kWにて5分間再加熱したのち、マイクロ波照射を停止し減圧度を0.5kPaに上げて7分間乾燥処理を行った。さらに、該中空糸膜束を通風乾燥器において35℃にて3時間含水率均一化処理を行った。マイクロ波乾燥前の中空糸膜束の含水率は335質量%、1段目終了後の含水率は26質量%、2段目終了後の含水率は13質量%、3段目終了後の含水率は5.3質量%、通風乾燥終了後の含水率は1.5質量%であった。乾燥処理中の中空糸膜束の最高到達温度は56℃であった。紡糸工程中の糸道変更のためのローラーは表面が鏡面加工されたものを使用し、固定ガイドは表面が梨地処理されたものを使用した。得られた中空糸膜束の内径は200μm、膜厚は43μmであった。表1、2より明らかなごとく、過酸化水素溶出量は全部位において低レベルで安定していた。
このようにして得られた中空糸膜束を用いて、実施例1と同様の方法で血液浄化用モジュールを組み立て、密栓してから50時間後にγ線に変え加速電圧が5000KVである電子線照射機を用いて電子線を照射するように変更する以外は、実施例1と同様にして血液浄化用モジュールを得た。本実施例で得られた選択透過性中空糸膜束および血液浄化用モジュールは、実施例1で得られたものと同様に高品質であった。結果を表3に示した。
従来、中空糸膜束において、過酸化水素の挙動に着目した品質管理の手法は全く知られていない。中空糸膜束の品質の良さという点については多くの観点から検討することができるが、本発明においては次の方法を採った。中空糸膜束を長手方向に27cmに切断し、それを2.7cmずつ10等分して、それぞれの部位で過酸化水素の溶出量を測定した。この値を平均することにより平均溶出量を算出した。最大溶出量と最小溶出量の差を、溶出量較差と定義した。また、最大溶出量と平均溶出量の差の絶対値、最小溶出量と、平均溶出量の差の絶対値、のふたつの値のうち大きいほうを溶出量バラつき度と定義した。これら溶出量較差、溶出量バラつき度の数値は表1に示した。また、図1に実施例1、比較例1の過酸化水素溶出量のバラつき状態を示した。
過酸化水素最大溶出量と溶出量バラツキ度をプロットすると図2のようになる。過酸化水素溶出量が多くなり5ppmを超えると、中空糸膜束の10等分における各部位の過酸化水素溶出量にアンバランスが生じるため、各部位の溶出量の較差が大きくなる。そうすると、同じ材料で、過酸化水素の溶出に違いがあるということは、その分、中空糸膜の性能、機能にも影響するから、品質の管理上好ましくない。中空糸膜束の各部位にアンバランスがないということは、中空糸膜の品質においても優れていることが理解できる。そして、5ppm程度の範囲は、バラつき度を抑制するという点で、臨界的な範囲であることが理解できる。
また、モジュールの出入り口を密栓してからγ線照射するまでの経過時間とプライミング時の透水性能発現率との関係を調べると図3のようになる。該経過時間がプライミング処理時の透水性能発現性に対して臨界的に影響していることが理解できる。