JP3802628B2 - 導電性ペイント組成物を塗布した発電機用固定子バー - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の分野】
本発明は、小さい誘電正接チップアップ(tip−up)値が一貫して得られるように発電機用の高電圧固定子バーに内部勾配(internal grading)を付与する(すなわち、導体から絶縁体への段階的変化を生み出す)技術に関するものである。好適な実施の態様に従えば、本発明は熱可塑性結合剤を含有する導電性ペイントを裸の固定子バーの上部縁端及び下部縁端並びにかど部周辺に塗布した後に対地絶縁を施して成るような発電機の絶縁固定子バーにおいて実現される。
【0002】
【従来の技術】
発電機のごとき回転電機において使用される絶縁固定子バーにとって望ましい性質である。誘電正接チップアップ値が小さいことは、相異なる電気応力下での誘電正接の差が比較的小さいことを表し、それによって絶縁効果の間接的な尺度を与えるので、誘電正接チップアップ値が小さいことが望ましい。
【0003】
発電機用固定子バーの誘電正接は、たとえば10、20、40、60、80及び100ボルト/ミル(VPM)のごとき様々な電気応力の下で測定される。本明細書中で「チップアップ値」という用語は、10VPMと100VPMにおいて測定された%誘電正接の差を意味している。このように、電気応力倍率10に対応するチップアップ値は、より小さい差のVPM値で〔たとえば、10VPMと20VPM(電気応力倍率2)又は20VPMと80VPM(電気応力倍率4)において〕測定されたチップアップ値よりも大きいはずである。
【0004】
小さいチップアップ値を有する絶縁固定子バーが市場において要求されている結果、雲母を基材とする対地絶縁を施す前に裸の固定子バーの上部縁端及び下部縁端を被覆するため、通例は炭素入りの熱硬化性エポキシ樹脂結合剤から成る低抵抗ペイントが使用されるようになった。導電性ペイントがチップアップ値を低下させるとは言え、その成績は一貫していなかった。また、多くの場合、熱硬化性エポキシ樹脂ペイントの使用はチップアップ値を十分に低くできなかった。
【0005】
熱硬化性エポキシ樹脂ペイントのもう1つの欠点は、硬化速度が遅いか、あるいは熱硬化を必要とすることであった。エポキシ樹脂ペイントは一液型又は二液型のものである。一液型ペイントはエポキシ樹脂成分及び硬化剤成分を含有しているが、最適の性能を得るためには熱硬化を必要とするのが通例である。二液型ペイントは、エポキシ樹脂成分(第1液)及び硬化剤(第2液)を使用の直前に混合するものである。二液型ペイント中の硬化剤は高い反応性を有するのが通例であって、ペイントを硬化させるために加熱は不要であるが、最適の性能を得るためには室温下で8〜16時間にわたり放置する必要がある。それ故、内部勾配を付与するために熱硬化性エポキシ樹脂ペイントを使用する場合には、対地絶縁を施す前に高温下でベーキングを施すか、あるいは室温下で長時間にわたり乾燥することが必要である。
【0006】
【発明の課題】
本発明の目的は、ペイントを十分に硬化させるためのベーキングを必要とすることなしに絶縁固定子バーにおいて一貫して小さいチップアップ値を得ること、及び室温下において(たとえば30分以下という)短い時間で十分に硬化するペイント組成物を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
小さい誘電正接チップアップ値を一貫して得るため、熱可塑性樹脂結合剤を溶媒中に溶解し且つ該溶液中に炭素粒子を分散させて成る低抵抗ペイントで、裸の固定子バーを被覆することによって、高電圧固定子バーに内部勾配を付与する。図1は、本発明に係わる固定子バーの端面図である。図1を見ると、本発明の一般原理の一部を示すと共に本発明に基づく導電性の熱可塑性樹脂ペイントの適当な使用例を示す発電機用の固定子バー1が図示されている。
【0008】
図示のごとく、固定子バー1は従来通りに素線絶縁材3によって互いに絶縁された複数の導電性銅素線2から成っている。更にまた、素線2は2つの列を成して配列されていて、それらの列は素線列隔離板4によって隔離されている。両方の列を包囲するようにして、雲母紙テープ6を多数回にわたり巻付けることによって形成された対地絶縁材5が設置されている。裸の固定子バーの上部縁端及び下部縁端並びにかど部周辺においては、固定子バーの素線2と対地絶縁材5との間に本発明に基づく導電性の熱可塑性樹脂ペイント7の被膜が配置されている。それ故、導電性の熱可塑性樹脂ペイント7は固定子バーの素線2と対地絶縁材5との間に内部勾配を生み出す。導電性の熱可塑性樹脂ペイント7は裸の固定子バーの上部縁端及び下部縁端並びにかど部周辺のみに示されているが、別の方法に従えば、側面を含む全ての表面が被覆されるように裸の固定子バー全体を被覆することも可能である。
【0009】
本発明において使用されるペイント組成物は、熱可塑性樹脂から成る結合剤又は結合剤系を基材とするものである。多くの使用可能な材料のうち、ビスフェノールAとエピクロロヒドリンとの線状共重合体が好適であるが、本発明はそれらのみに制限されるわけではない。これらの好適な共重合体は、メチルエチルケトン、グリコールエーテル又はグリコールエーテルエステルのごとき溶媒と共に使用することが最も好ましい。一般に、エピクロロヒドリンとビスフェノールAとの好適な共重合体は15000より大きい重量平均分子量(より好ましくは40000〜200000の重量平均分子量)、100g当り約0.40当量未満のヒドロキシル基含量、及び100g当り約0.025当量未満のエポキシド含量を有するものである。このようなエピクロロヒドリンとビスフェノールAとの好適な線状共重合体は、幾つかの供給源から商業的に入手可能である。その実例としては、ライクホルド・ケミカル社(Reichhold Chemical,Inc.)製の商品名エポタフ(EPOTUF)38−525樹脂、シェル・ケミカル社(Shell Chemical Co.)製の商品名エポノール(EPONOL)樹脂53及び55、並びにチバ・ガイギー社(Ciba Geigy Co.)製の商品名GZ−488が挙げられる。
【0010】
エピクロロヒドリンとビスフェノールAとの線状共重合体の代りに、ポリイミド、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン、ネオプレン、ポリアミド−イミド、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリジメチルシロキサン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエーテル、ポリスルホン及びポリウレタンのごとき他の熱可塑性高分子材料を使用することもできる。
【0011】
内部勾配を付与するために熱硬化性樹脂結合剤よりも熱可塑性樹脂結合剤の方が有効である理由は、熱可塑性樹脂結合剤が固有の大きい伸びを示すため、絶縁固定子バーを構成する各種の部材間に熱膨張率の差があっても電気的接触が維持されることにあると考えられる。
かかる熱可塑性樹脂結合剤は、有機溶剤溶液として使用するのが便利である。とは言え、水性の熱可塑性樹脂結合剤系においては水性ビヒクルを使用することも可能である。
【0012】
ペイント組成物中における第2の必須成分は、低抵抗の導電性充填剤である。本発明の実施例において使用した導電性の熱可塑性樹脂ペイント中では、カーボンブラックであるカボット社(Cabot Corp.)製の商品名バルカン(Vulcan)XC−72Rが使用された。その他のカーボンブラックも使用可能であって、その実例としてはカボット社製の商品名バルカンXC−72、バルカンSC、バルカンP、バルカンC及びブラックパールズ(BLACK PEARLS)2000、コロンビアン・カーボン社(Columbian Carbon Co.)製の商品名コンダクテックス(CONDUCTEX)SC、バッテリーブラック(BATTERY BLACK)、ピアレスアーク(PEERLESS ARK)II及びエクセルショール(EXCELSIOR)、アルマーク社(Armak Co.)製の商品名ケッチェンブラック(KETJENBLACK)EC、並びにデグッサ社(Degussa Co.)製の商品名プリンテックス(PRINTEX)XE2、プリンテックスL6、プリンテックスL及びプリンテックス3が挙げられる。また、カーボンブラックの代りに、ディクソン・チコンデローガ(Dixon Ticonderoga Co.)社製の商品名HPN−2、#200−39、#057及びマイクロファイントリプルバルブ(MICROFYNE−TRIPLE VALVE)を使用することもできるし、更にはUCARカーボン社(UCAR Carbon Co.)、ロンザ社(Lonza Inc.)、スペリオル・グラファイト社(Superior Graphite Co.)、アズベリー・グラファイト・ミルズ(Asbury Graphite Mills)及びその他の供給業者から入手可能なその他の天然又は合成黒鉛粉末を使用することもできる。
【0013】
内部勾配を付与するために使用することによって小さいチップアップ値をもたらした導電性の熱可塑性樹脂ペイントは、5000000Ω/□未満、好ましくは250000Ω/□未満の抵抗を有するものである。あるいはまた、かかる抵抗は2500Ω/□から5000000Ω/□未満までの範囲内にあり、好ましくは50000Ω/□から500000Ω/□未満までの範囲内にあると述べることもできる。なお、抵抗範囲はペイントの炭素含量を変化させることによって制御することができる。
【0014】
【発明の詳しい説明】
下記の実施例及び比較例は、本発明を例示するために役立つものである。特に記載の無い限り、全ての部及び百分率は重量基準の値であり、また全ての温度は摂氏温度である。
本発明の主題を成す内部勾配付与系を用いて得られる優れたチップアップ値と比較するため、従来の製品を代表する25個のバーを作製した。これらの具体例において使用されたバーは、雲母紙、テーピング強度を得るためのガラス繊維織物テープ裏材、不織布ポリエステルマット裏材、及びエポキシ樹脂結合剤を基材とする絶縁系Aを使用するものであった。また、別の絶縁系Bを用いて作製した更に2個のバーは本発明の広範な有用性を実証している。
【0015】
これらのバーに関し、10VPM及び100VPMにおける%誘電正接を測定した。一部のバーについては、2つの位置で試験を行うことによって2組の読みが得られた。なお、表中では、2つの独立した電極を用いて得られた2組の読みはバー番号の後にA及びBを付けて示した。
具体例1〜5は、同じ絶縁系及び同じ構造を有する25個のバーに関する10及び100VPM間のチップアップ値を示している。内部勾配を有しない7個のバーは具体例1に記載されており、従来の内部付与用ペイントを代表する導電性の熱硬化性エポキシ樹脂ペイントを用いて内部勾配を付与したものは具体例2に記載されており、また本発明に基づく導電性の熱可塑性樹脂ペイントを用いて内部勾配を付与したものは具体例3〜5に記載されている。具体例6には、本発明の熱可塑性樹脂ペイントを用いて別の絶縁系Bに内部勾配を付与した場合にも10及び100VPM間のチップアップ値の同様な改善が得られたことが示されている。なお、絶縁系Bは絶縁系Aと同様な構成を有するものであるが、結合剤の組成の点で異なっている。
【0016】
【具体例1(比較例)】
エポキシ樹脂結合剤を使用した雲母テープ絶縁系Aによって7個のバーを絶縁した。これらのバーに対しては内部勾配を付与しなかった。%誘電正接及びチップアップ値の測定結果を表1中にまとめて示すが、平均チップアップ値は1.055(範囲0.706〜1.466)であった。
【0017】
【表1】
Figure 0003802628
【0018】
【具体例2(比較例)】
13.8KV型の構造を有する13個のバーを雲母テープ絶縁系Aで絶縁すると共に、7種の導電性ペイントを用いて内部勾配を付与した。これらのペイントは、熱硬化性エポキシ樹脂結合剤及び導電性充填剤としての炭素の含量の点で異なっていた。具体例2におけるバーは、具体例2において使用された内部勾配付与用ペイントを別にすれば、具体例1におけるものと同じであった。詳しく述べれば、具体例2において使用された導電性ペイントは表2の通りであった。
【0019】
【表2】
Figure 0003802628
Figure 0003802628
【0020】
具体例2において使用したエポキシ樹脂ペイントをゲル化させるためには、熱硬化を施すか、又は室温下で8〜16時間にわたり放置することが必要であった。これらのペイントは、表3に示すように、平均チップアップ値を1.055から0.741(範囲0.280〜1.243)にまで減少させたが、それでもチップアップ値はなお高かった。
【0021】
【表3】
Figure 0003802628
【0022】
【具体例3(本発明実施例)】
43.13重量部のメチルエチルケトン(MEK)中に53.13重量部のチバ・ガイギー社製GZ488−N40を溶解し、次いで高剪断混合を用いて3.74重量部のカーボンブラック(バルカンXC−72R)を分散させることにより、15.0%(固形分基準)のカーボンブラックXC−72R及び25.0%の固形分を含有する熱可塑性樹脂ペイントを調製した。チバ・ガイギー社製のGZ488−N40は、3570の最小エポキシ基当量及びU−Yのガードナー−ホルト(Gardner−Holdt)粘度を有するエピクロロヒドリンとビスフェノールAとの高分子量線状共重合体をMEK中に溶解して成る固形分40%の溶液である。室温下で15〜30分間にわたりペイントを乾燥させた後、対地絶縁を施した。ペイントの表面抵抗は60000〜190000Ω/□であった。
【0023】
このペイントを用いて内部勾配を付与したバー番号21は、0.237及び0.174のチップアップ値を示した。
【0024】
【表4】
Figure 0003802628
【0025】
【具体例4(本発明実施例)】
20.37重量部のMEK中に74.38重量部のチバ・ガイギー社製GZ488−N40を溶解し、次いで高剪断混合を用いて5.25重量部のカーボンブラック(バルカンXC−72R)を分散させることにより、15.0%(固形分基準)のカーボンブラックXC−72R及び35.0%の固形分を含有する熱可塑性樹脂ペイントを調製した。室温下で15〜30分間にわたりペイントを乾燥させた後、対地絶縁を施した。ペイント皮膜の表面抵抗は140000〜240000Ω/□であった。
【0026】
このペイントを用いて内部勾配を付与したバー番号22及び23は、小さいチップアップ値を示した。
【0027】
【表5】
Figure 0003802628
【0028】
【具体例5(本発明実施例)】
20.37重量部のMEK中に74.31重量部のライクホルド社製エポタフ38−525を溶解し、次いで高剪断混合を用いて5.25重量部のカーボンブラック(バルカンXC−72R)を分散させることにより、15.0%(固形分基準)のカーボンブラックXC−72R及び35.0%の固形分を含有する熱可塑性樹脂ペイントを調製した。ライクホルド社製のエポタフ38−525は、4000の最小エポキシ基当量及びV−Yのガードナー−ホルト(Gardner−Holdt)粘度を有するエピクロロヒドリンとビスフェノールAとの高分子量線状共重合体をMEK中に溶解して成る固形分40%の溶液である。室温下で15〜30分間にわたりペイントを乾燥させた後、対地絶縁を施した。ペイント皮膜の表面抵抗は50000〜500000Ω/□であった。
【0029】
このペイントを用いて内部勾配を付与したバー番号24及び25は、小さいチップアップ値を示した。
【0030】
【表6】
Figure 0003802628
【0031】
【具体例6(比較例及び本発明実施例)】
バー番号26には、テープ絶縁系Bを用いて絶縁を施した。内部勾配の付与は行わなかった。
バー番号27はバー番号26と同一のものあったが、具体例5の場合と同じペイントを用いて内部勾配を付与した点で異なっていた。室温下で15〜30分間にわたりペイントを乾燥させた後、テープ絶縁系Bによる絶縁を施した。
【0032】
導電性の熱可塑性樹脂ペイントを使用した場合、チップアップ値は0.598から0.172にまで減少した。
【0033】
【表7】
Figure 0003802628
【0034】
以上、現時点において最も実際的かつ好適であると考えられる実施の態様に関連して本発明を記載したが、本発明が開示された実施の態様のみに制限されないことは言うまでもない。それどころか、本発明は特許請求の範囲によって示された精神及び範囲内に含まれる種々の変更及び等価な態様をも包括することを理解すべきである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係わる固定子バーの端面を示す斜視図である。
【符号の説明】
1 固定子バー
2 導電性銅素線
3 素線絶縁材
4 素線列隔離板
5 対地絶縁材
6 雲母紙テープ
7 導電性の熱可塑性ペイント

Claims (8)

  1. 黒鉛またはカーボンブラックを含む炭素充填剤及び熱可塑性樹脂結合剤から成る導電性ペイント組成物を発電機用固定子バーに塗布することを特徴とする、発電機用固定子バーにおける誘電正接のチップアップ値を低下させるための方法。
  2. 前記ペイント組成物が約2500Ω/□から5000000Ω/□未満までの範囲内の抵抗を有する請求項1記載の方法。
  3. 前記ペイント組成物が約25000〜約500000Ω/□の範囲内の抵抗を有する請求項2記載の方法。
  4. 前記導電性ペイント組成物が裸の固定子バーの上部縁端及び下部縁端に塗布される請求項1記載の方法。
  5. 前記熱可塑性樹脂結合剤がビスフェノールAとエピクロロヒドリンとの線状共重合体である請求項1記載の方法。
  6. 導電性の熱可塑性樹脂ペイント組成物で被覆されていて、その被膜が約2500Ω/□から5000000Ω/□未満までの範囲内の抵抗を有し、
    前記導電性の熱可塑性樹脂ペイント組成物は、黒鉛またはカーボンブラックを含む炭素充填剤及び熱可塑性樹脂結合剤から成る
    ことを特徴とする発電機用固定子バー。
  7. 前記被膜が約25000〜約500000Ω/□の範囲内の抵抗を有する請求項6記載の発電機用固定子バー。
  8. 熱可塑性樹脂結合剤がビスフェノールAとエピクロロヒドリンとの線状共重合体である請求項6記載の発電機用固定子バー。
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