JP3796843B2 - 車両のトラクション制御装置 - Google Patents

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  • Electrical Control Of Air Or Fuel Supplied To Internal-Combustion Engine (AREA)

Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は車両のトラクション制御装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
車両のトラクション制御装置は、車輪の各輪に設けられた車輪速センサーの出力に基づいて駆動輪のスピン量を演算し、該スピン量に基づいてその駆動輪に所定量以上のスピンが発生していることを判定したときに、エンジン出力の制御やブレーキの制動力制御などにより該駆動輪に回転に抑制力を与え、過度のスピンを抑制することによって、車両安定性の向上や加速性の向上を図るものとして一般に知られている(特開平60ー43133号公報、特公平7ー106692号公報参照)。なお、車輪に対する外乱等に基づく、スピン発生の誤判定による過剰なトラクション制御の実行を防止するために、上記スピン発生判定がある程度の回数又は時間の間続けて生じないと真のスピン発生とは判定せず、トラクション制御を実行させないという制御も一般的によく行われている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、直進時など車体にかかる横Gが比較的小さい時のように、駆動輪にスピンが生じても、そのスピン量がある程度大きくない限り走行安定性に対する支障は少なく、小さなスピンの発生に対して上記トラクション制御を実行するとかえって駆動力不足(走破性低下)を感じてしまうような場合には、スピン量がある程度大きくないとスピンの発生と判定させない方が良いのに対し、横Gが比較的大きいとき(例えば摩擦係数の高い路面を旋回しているとき)のように、小さな量のスピンでも旋回安定性に大きな悪影響(前輪駆動車の場合はアンダーステアー傾向が強くなり、後輪駆動車の場合はオーバーステアー傾向が強くなる)が出るような走行状態の場合には、スピン量が小さい内からスピンと判定するようにしたほうが良い。しかし、上記従来技術では、スピン発生判定の方法を車両の走行状態(特に横G)に関わらず一義的に決めているので、スピン発生判定及びその判定に基づくトラクション制御の作動を適切に行うことができない。
【0004】
この課題を解決する手段として、車体に係る横Gを検出し、その検出結果に応じてスピン発生判定の方法を変える事が考えられる。例えば、スピン量が所定値以上大きくなった時にスピン発生と判定させることとし、上記所定値を横Gが小さいときは横Gが大きいとき比べて大きくなるように設定するのである。
【0005】
これにより上記の課題は解決するが、この場合、次のような新たな問題が生じてくる。
すなわち、スピン量がある程度大きくならないとスピン発生と判定されない横G小の時にスピン発生判定が生じた場合は、スピン量がかなり大きくなっているので、走行安定性を確保するため即時にトラクション制御を実行する方がよいのに対し、スピン量がある程度大きくならないとスピン発生と判定しない横G中程度の場合、旋回内輪が浮き気味になっているので外乱により瞬間的なスピンが生じやすく、不必要にトラクション制御が実行される恐れが高いため、スピン発生判定が生じてもすぐにトラクション制御を実行させない方が良い。また、スピンが少しでも生じるとスピン発生と判定する横G大の時、例えば横Gが1G程度でているギリギリの旋回状態の場合、過剰駆動力がかかると、前輪駆動車の場合アンダーステアー傾向が非常に強くなり、後輪駆動車の場合オーバーステアー傾向が非常に強くなり、旋回安定性が非常に悪くなる。そのため、スピン発生判定が起こりやすくなってはいても、トラクション制御の実行は(横G中程度の時に比べ)早い方が良いのである。
【0006】
しかし、上記従来技術のようにスピン発生判定時のトラクション制御の実行しやすさ(例えば上記の、真のスピン発生を判定するための所定回数の値)を一義的に決めていては、上記のように横Gに応じて設定したスピン発生判定条件や走行状態に応じた適切なトラクション制御を行うことができない。
【0007】
【課題を解決するための手段】
そこで本発明では、直進時の走破性の確保と旋回安定性の確保のため、スピン発生判定条件を横Gに応じて設定している車両のトラクション制御装置において、横Gに応じて設定したスピン発生判定条件や走行状態に応じた適切なトラクション制御を行うため、適切なトラクション制御実行条件を設定するようにしたものである。
【0008】
すなわち、本出願の請求項1に記載の発明(以下、第1発明という)は、車両のトラクション制御装置において、各車輪の速度に関する値を検出する車輪速検出手段と、該車輪速検出手段の検出結果に基づき駆動輪のスピン量を演算し、該スピン量が所定値を超えたとき、スピンが発生したと判定するスピン発生判定手段と、車体に生じている横Gに関する値を検出する横G検出手段と、該横G検出手段の検出結果に基づき、横Gが大きいときの上記所定値が横Gが小さいときの上記所定値に比べて小さくなるように、上記所定値を変更するスピン判定所定値変更手段と、上記スピン発生判定手段がスピン発生を判定しているときで且つ、所定の条件が成立しているときに、駆動輪の回転を抑制する抑制手段と、横Gが小さいときは、横Gが大きいときに比べて上記抑制手段による駆動輪の回転抑制を実行するための所定の条件が成立しやすくなるように、上記所定の条件を変更する抑制実行条件変更手段とを備えることを特徴とする。
【0009】
また、本出願の請求項2に記載の発明(以下、第2発明という)は、車両のトラクション制御装置において、各車輪の速度に関する値を検出する車輪速検出手段と、該車輪速検出手段の検出結果に基づき駆動輪のスピン量を演算し、該スピン量が所定値を超えたとき、スピンが発生したと判定するスピン発生判定手段と、車体に生じている横Gに関する値を検出する横G検出手段と、該横G検出手段の検出結果に基づき、横Gが大きいときの上記所定値が横Gが小さいときの上記所定値に比べて小さくなるように、上記所定値を変更するスピン判定所定値変更手段と、上記スピン発生判定手段がスピン発生を判定しているときで且つ、所定の条件が成立しているときに、駆動輪の回転を抑制する抑制手段と、横Gが小さいときは横Gが大きいときに比べて上記抑制手段による駆動輪の回転抑制を実行するための所定の条件が成立しやすくなるように、且つ、横Gが中程度の時は横Gが大きいときよりも上記条件が成立しにくくなるように、上記所定の条件を変更する抑制実行条件変更手段とを備えることを特徴とする。
【0010】
また、本出願の請求項3に記載の発明(以下、第3発明という)は、車両のトラクション制御装置において、各車輪の速度に関する値を検出する車輪速検出手段と、該車輪速検出手段の検出結果に基づき駆動輪のスピン量を演算し、該スピン量が第一所定値を超えたとき、スピンが発生したと判定するスピン発生判定手段と、車体に生じている横Gに関する値を検出する横G検出手段と、該横G検出手段の検出結果に基づき、横Gが大きいときの上記第一所定値が横Gが小さいときの第一所定値に比べて小さくなるように、上記第一所定値を変更するスピン判定所定値変更手段と、上記スピン発生判定手段によるスピン発生判定の回数が第二所定値を超えたことを判定したときに、駆動輪の回転を抑制する抑制手段と、横Gが小さいときは、横Gが大きいときに比べて上記第二所定値が小さくなるように、上記第二所定値を変更する第二所定値変更手段とを備えることを特徴とする。
【0011】
また、本出願の請求項4に記載の発明(以下、第4発明という)は、車両のトラクション制御装置において、各車輪の速度に関する値を検出する車輪速検出手段と、該車輪速検出手段の検出結果に基づき駆動輪のスピン量を演算し、該スピン量が第一所定値を超えたとき、スピンが発生したと判定するスピン発生判定手段と、車体に生じている横Gに関する値を検出する横G検出手段と、該横G検出手段の検出結果に基づき、横Gが大きいときの上記第一所定値が横Gが小さいときの第一所定値に比べて小さくなるように、上記第一所定値を変更するスピン判定所定値変更手段と、上記スピン発生判定手段によるスピン発生判定の回数が第二所定値を超えたことを判定したときに、駆動輪の回転を抑制する抑制手段と、横Gが小さいときは、横Gが大きいときに比べて上記第二所定値が小さくなるように、且つ、横Gが中程度の時は横Gが大きいときに比べて上記第二所定値が大きくなるように、上記第二所定値を変更する第二所定値変更手段とを備えることを特徴とする。
【0014】
【発明の効果】
上記第1発明によれば、横Gが小さいときにはある程度大きな量のスピンが生じないとスピン発生判定しない一方で、横Gが大きな時はスピン量が小さくてもスピンが発生したと判定するので、横Gが小さい時の走破性の確保と、横Gが大きい時の旋回安定性確保との両立ができる。さらに、横Gが小さいときは駆動輪回転抑制制御が開始されやすく、且つ、横Gが大きいときは該制御が開始されにくくなっているので、横Gが小さいときの走行安定性と、横Gが大きいときの過剰な駆動輪回転抑制制御の防止とを両立させることができ、車両のトラクション制御が適正に行われるのである。
【0015】
また、上記第2発明によれば、横Gが小さいときにはある程度大きな量のスピンが生じないとスピン発生判定しない一方で、横Gが大きな時はスピン量が小さくてもスピンが発生したと判定するので、横Gが小さい時の走破性の確保と、横Gが大きい時の旋回安定性確保との両立ができる。さらに、横Gが小さいときは駆動輪回転抑制制御が開始されやすく、且つ、横Gが中程度の時は該制御の開始がされにくく、且つ、横Gが大きいときは該制御が横Gが小さいときよりも開始されにくく、横Gが中程度の時よりも開始されやすくなっているので、横Gが小さいときの走行安定性と、横Gが中程度のときの旋回安定性、及び横Gが大きいときの過剰な駆動輪回転抑制制御の防止とをすべて成立させることができ、車両のトラクション制御が適正に行われるのである。
【0016】
また、上記第3発明によっても、上記第1発明と同様の作用効果を得ることができる。
また、上記第4発明によっても、上記第2発明と同様の作用効果を得ることができる。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
<全体のシステム構成>
当該車両のトラクション制御装置の全体的な構成は図1に示されており、これは入力系1、制御量演算系2及び出力系3に分かれている。入力系1は、車両の四輪の速度を検出する車速センサー、エンジン回転数を検出するエンジン回転センサー、及びアンチスキッドブレーキシステム(以下、ABSという)の作動状態をみるABS制御中センサーによって構成されている。この入力系1の信号に基づいて制御量演算系2において制御量が演算され、エンジン出力の制御パターンが決定されて出力系3(エンジン出力制御装置)に出力される。
<制御量演算系>
制御量演算系2は、車輪即入力/演算処理部5から要求制御量信号出力処理部15に至る11の処理部で構成されている。以下、各処理について具体的に説明する。
【0019】
―車輪速演算〜スピン判定の処理部―
これらの各処理部5〜11の相互関係をブロック図で表すと図2に示す通りになる。
【0020】
車両の四輪の速度は、車輪速入力/演算処理部5において、各輪に設けられている車輪速センサーからの入力データーに基づいて計算される。エンジン回転センサーとしては、エンジンのクランクアングルセンサーが用いられており、該センサーからの入力値に基づいて、エンジン回転入力/演算処理部6においてエンジン回転数が計算される。車体速度は、車体速演算処理部7において、上記四輪の速度に基づいて推定されるものであり、非ABS制御中は左右の従動輪の速度のうち高い方の車輪速が車体速とされ,ABS制御中は四輪の内の最高速度を示す車輪速が車体速とされる。
(スピン量の演算について)
左右の駆動輪のスピン量は、スピン量演算処理部8において、上記四輪の速度に基づいて演算される。すなわち、原則として、左右の駆動輪の各スピン量は次式で演算される。
【0021】
右駆動輪のスピン量=右駆動輪速度―右従動輪速度
左駆動輪のスピン量=左駆動輪速度―左従動輪速度
しかし、左右の従動輪の速度差が所定値C以上であるときは左右の各駆動輪のスピン量は次式で演算される。Cは当該車両が最小回転半径で旋回するときに生ずる最大内外輪速度差である。
【0022】
駆動輪のスピン量=駆動輪速度―高速側の従動輪の速度
但し、左右の駆動輪のうち左従動輪の速度の方が高いときは、右従動輪のスピン量は上記演算値にCが加算して求められ、右従動輪の速度の方が高いときには左駆動輪のスピン量は上記演算値にCが加算して求められる。
【0023】
また、従動輪がロックしている時(ABS制御により当該ブレーキ圧の減圧制御等が行われているとき)、また、該ロックから回復して所定時間Aを経過しておらずそのときのエンジン回転数が所定値b以下の時は、駆動輪のスピン量はゼロとされる。このロックからの回復は、ABS制御中の従動輪の速度と車体速度との差が所定の制御閾値以下になったときをもって判定される。
【0024】
従って、上記スピン量の演算に当たっては、左右の従動輪差を算出し、ロックの有無等の条件に基づいてスピン量の演算方法を選択し、それに基づいてスピン量の演算を行うことになる。当該制御のフローチャートは図3に示されている。
【0025】
すなわち、従動輪がロックから回復して所定時間Aを経過しておらず(従動輪がロック傾向にあって、ABS制御によりブレーキ液圧の制御がなされているときを含む)且つ、エンジン回転数が所定値b以下であるときには、従動輪のスピン量はゼロとなる(ステップS1〜S3)。
【0026】
上記エンジン回転数が所定値bを越える場合、又は従動輪がロックから回復して上記所定時間を経過している場合は、左右の従動輪の速度差がCよりも大きく且つ左従動輪の速度の方が高いとき、左駆動輪のスピン量はこの左側の駆動輪と従動輪との速度差となり、右駆動輪のスピン量は該右駆動輪の速度から左駆動輪の速度を差し引いた値にCを加算した値となる(ステップS1→S4→S5)。
【0027】
一方、左右の従動輪の速度差がCよりも大きく且つ右従動輪の速度の方が高いとき、左駆動輪のスピン量はこの左側の駆動輪の速度から右駆動輪の速度を差し引いた値にCを加算した値となり、右駆動輪のスピン量は右側の駆動輪と従動輪との速度差となる(ステップS6→S7)。そして、左右の従動輪の速度差がC以下であれば、左駆動輪のスピン量はこの左側の駆動輪と従動輪との速度差となり、右駆動輪のスピン量はこの右側の駆動輪と従動輪との速度差となる(ステップS8)。
【0028】
従って、ABS制御中でエンジン回転数が所定値b以下であれば、スピン量の演算は行われず、このためトラクション制御に入ることはない。しかし、図4に示すように、従動輪がロックから回復して所定時間を経過する前でも、エンジン回転数が高くなっている場合には、スピン量が演算され、その後に後述する所定の開始条件が成立すれば、トラクション制御を実行して駆動輪のスピンを抑えることができるようになる。
【0029】
また、左右の従動輪の速度差が最大内外輪速度差C以下であるときには、左駆動輪のスピン量は左従動輪の速度との関係で、右駆動輪のスピン量は右従動輪の速度との関係で、それぞれ独立して演算されるから、たとえば、旋回走行が行われているとき駆動輪のスピン量を的確に求めることができる。
【0030】
これに対して、左右の従動輪の速度差が最大内外輪速度差Cよりも大きいときは、各駆動輪のスピン量は左右の従動輪の速度のうち高い方の速度との関係で演算されるから、たとえば従動輪の一方がロック気味で低速になっているときに、該低速の従動輪の速度に基づいて駆動輪のスピン量が過大に演算されることはなく、過剰なトラクション制御が避けられる。さらに、その場合でも、左従動輪の速度の方が高いときの右駆動輪のスピン量には上記速度差Cが加算され、右従動輪の速度の方が高いときの左駆動輪のスピン量には上記速度差Cが加算されるため、例えば、その駆動輪が旋回走行の内輪側になっているときに、そのスピン量が過小評価されることを避けることができる。
【0031】
(横Gについて)
横G(車両の横加速度)は、スピン判定スレッシュ(閾値)の決定に用いられるものであり、旋回半径/横G計算処理部9において、車両が旋回走行をしりときの旋回半径Rと、そのときの車体速度Vとに基づいて次式により求められる。
【0032】
横G(G) =(V/3.6 )2/9.8 R
上記旋回半径Rは、左右の従動輪の速度のうち低速側のものV(L)km /h と、左右の従動輪の速度差V(S)km /h とに基づいて次式によって求められる。fは定数である。
【0033】
R(m) =10000 ×V(L) /(|V(S) ×f|)
(スピン判定について)
上記スピン量とスピン判定スレッシュS1とに基づいて、スピン量≧S1、のときにトラクション制御を開始すべきスピンと判定される。
【0034】
スピン判定スレッシュS1は、スピン判定補正値決定処理部10において、基本スレッシュS0と判定補正値Hとの積(小数点以下切り下げ)によって求められる。基本スレッシュS0は車体速度Vに基づいて表2から演算され、判定補正値Hは横Gに基づいて表1から演算される。表3はS1の一例を示す。
【0035】
【表1】
Figure 0003796843
【0036】
【表2】
Figure 0003796843
【0037】
【表3】
Figure 0003796843
【0038】
(TCSの開始判定について)
TCS(トラクション)制御は、上記スピン判定が所定時間継続したときに、具体的には、スピン判定カウンタがI回以上になったときに、スピン判定処理部11においてスピン判定成立と判定されて開始される。スピン判定カウンタは、車両が直進走行中であるか旋回走行中であるかによって、具体的には横Gの大きさによって上乗せ値が異なり、横Gが小の時はHmsec、中の時はGmsec、大の時はEmsecとなる。ただし、H>E>Gである。また、スピンが判定されないときは上記カウンタが所定量減算され、また、スピン判定カウンタが所定時間を経過してもI回に達しないときはTCS終了が判定される。
【0039】
図5はTCS開始判定処理のフローチャートを示す。すなわち、左右の駆動輪のいずれかのスピン量がスピン判定スレッシュS1以上であることが判定されると、横GがD以上(横Gが大)のときにはスピン判定カウンタにE値が加算され、D>横G≧Fのとき(横Gが中の時)は同じくG値が加算され、横GがF未満(横G小、すなわち、略直進走行時)であれば、同じくHが加算される(ステップS11〜S16)。なお、D>Fである。そして、このスピン判定カウンタがI以上になれば、スピン判定が成立したとして、TCS制御が開始される。(ステップS17、S18)。
【0040】
従って、車両がほぼ直進走行中である(横G小の)時には、車両の走行安定性が高いため、表2、3からわかるようにスピン判定スレッシュS1を高くしてスピンが判定されにくくなるようにしているが、スピンが判定された場合には、スピン量がかなり大きいというから、駆動輪のスピンを速やかの収束させる必要があるところ、スピン判定カウンタに大きな値Hが加算されるため、スピン判定成立が早くなり、TCS制御を速やかに開始させることができることになる。
【0041】
横Gが中の時には、すこしのスピンでも旋回安定性に支障をきたす可能性があるため、車両の安定性を確保すべく、スピン判定スレッシュS1を低くしてスピンが判定されやすくなっている。ところが、この場合、悪路走行時などの外乱に基づく瞬間的に発生するスピンも判定しやすくなっているため、スピン判定カウンタに対する加算値Gを小として、スピン判定成立を遅らせ、過剰なトラクション制御を防止するようにしているものである。
【0042】
但し、横Gが大の時も旋回安定性確保のため、横Gが中程度の時と同じく、スピンが判定されやすくなっているが、スピン判定成立が遅れると車両の旋回安定性が大きく悪化する事、ギリギリの旋回を行っているため上記外乱によるスピンでトラクション制御が作動しても、運転者が違和感を感じにくいことから、スピン判定カウンタに対する加算値EをGよりも大として、TCS制御に比較的早く入ることができるようにしている。
【0043】
また、スピンが判定されないときには、上記スピン判定カウンタが減算されるから、悪路走行等によって駆動輪のスピン量が瞬間的にスレッシュS1をオーバーしても、TCSの制御開始が回避されることになる(ステップ19a、19b、19c)。なお、この時、カウンターを一気に零にリセットしないのは、スピン中、路面状況によりたまたまスピンが判定されなかった時のバックアップのためである。
―制御要求量演算処理―
上記スピン判定が成立し、TCS制御開始判定が行われたとき場合の、エンジン出力制御装置に対する制御要求量Kの演算処理については、制御要求量演算処理部12で行われるのであり、図6にブロック図で示されている。
【0044】
(初回制御要求量について)
初回の制御要求量Kはスピン量の大小にかかわり無く車速と横Gとに基づいて表4に示すマップから演算されるX1値のみとなる(初回以外はX1=0)。この場合、加速性の向上の観点から、車速が低いほどX1は大きく、また、横Gが大きいほどTCSが作動しやすいのでX1は小さくなるように設定されている。
【0045】
【表4】
Figure 0003796843
(スピン状況によるフィードバック制御要求量について)
制御要求量Kは次式で決定される。
【0046】
K=K1×K2+K(前回値)+X1
ここに、K1はフィードバック演算量であり、K2はフィードバック制御ゲインである。
【0047】
K1は、スピン量から目標スピン量を差し引いた値とスピン加減速度とに基づいて表5に示すマップから演算される。この場合、当該スピン量差がプラス側に大きくなるほど、また、スピン量の下限速度がプラス側に大きくなるほど、K1がプラス側に大きくなるように設定されている。
【0048】
【表5】
Figure 0003796843
【0049】
制御ゲインK2は、車速と、変速機のギア位置と、初回スピンかその後の定常スピンかスピン収束後かのファクターとによって決定され、また、変速機が自動変速機か手動変速機かによって異なる設定にされている。表6は自動変速機の場合のK2の例を示す。
【0050】
【表6】
Figure 0003796843
【0051】
この場合、K2は、初回スピンの時にはスピンを速やかに収束させるために大きく設定され、定常スピンの時にはスピンの収束性を高めるために小さく設定され、また、スピン収束後はK1がマイナスの時にはスピンの増大を予定して大きく、K1がプラスの時には小さくなるように設定されている。
【0052】
初回スピンから定常スピンへの移行は、初回リセットカウンタが初回リセットタイマーで設定された所定値に達したか否かによって決定される。初回リセットカウンタは、TCS制御開始後、最初にスピン量がピークに達した時点からカウントが開始され、スピン量が減少し且つその時の制御要求量Kが所定のmax 制限値P以上であるときにカウントを進め、スピン量に変化がないか該スピン量が増大しているとき、又は制御要求量KがP未満であるときカウントを戻すようにされている。
【0053】
図7は制御ゲインK2を大きくする初回スピンから定常スピンへ移行するための処理フローチャートを示す。すなわち、スピン判定が成立すると、初回フラグがセットされるが、このスピン判定が成立していないと期は初回スピン状態を示す初回フラグはリセットされ、初回リセットカウンタもゼロである(ステップS21、S22)。
【0054】
スピン判定が成立し初回フラグがセットされた場合、車両の変速機が自動変速機であれば初回リセットタイマーMがセットされ、手動変速機であれば初回リセットタイマーNがセットされる(ステップs21→S23〜S26)。そして、スピン変化量(今回のスピン量から前回のスピン量を差し引いた値)がマイナスで且つ制御要求量Kがmax 制限値P以上であるときには、初回リセットカウンタの前回値に所定値Qが加えられ、そうでないときには初回リセットカウンタの前回値からRが減じられる(ステップS27〜S29)。但し、この場合、Q>Rである。
【0055】
そうして、初回リセットカウンタが初回リセットタイマー以上の値になると、初回フラグがリセットされる(ステップS30,S31)。よって、その後はスピン判定が成立しても、初回フラグがリセットされているから、初回リセットカウンタはゼロとされて定常スピンの判定が成立し(、ステップS21→S23→S32)、スピン判定が成立しなくなれば、スピン収束判定が成立する(ステップS21→S22)。
【0056】
従って、スピン判定の成立によって初回フラグがセットされ、その後、スピン量が減少していっても、制御要求量Kが少なければ、初回リセットカウンタはカウントが進まず、逆に戻されるから、図8に示しように,TCS制御の開始当初に軽いスピンを断続的に生じても、初回フラグはセットされたままとなる。よって、その後に程度の大きなスピンが発生したときには、大きな制御ゲインK2で制御要求量Kを演算することができ、そのようなスピンの早期収束に有利になる。また、スピン量の減少が少なく、該スピン量が増大に転じた場合には、初回リセットカウンタのカウント値が戻されて制御ゲインK2大の状態が維持されるから、スピンがそれほど収まっていないにも関わらず制御ゲインK2が小さくなってスピンの収まりが悪くなることを避けることができる。
―許容制御量決定処理〜要求制御量信号出力処理―
上記制御要求量Kに対しては許容制御量決定処理部13及び実制御量決定処理部14において所定の制限が加えられて、要求制御信号出力処理部15からエンジン出力制御装置に制御信号が出力されるものであり、そのための処理については、図9にブロック図で示されている。
(許容制御量決定処理について)
上記制御要求量Kの最大値には、許容制御量決定処理部13においてエンジン回転数に基づく制限が加えられる。手動変速機の場合のmax 制限値Pを表7に示す。なお、max 制限値Pについては、当該車両の変速機の変速段が大きくなるほど該P値が小さくなるように変速段に応じて設定しても良い。
【0057】
【表7】
Figure 0003796843
【0058】
この場合、エンジンストップ防止のために、エンジン回転数が低くなるほどmax 制限値Pが小さくなっている。図10は許容制御量決定フローチャートを示すものであり、AT車(自動変速機を有する車両)であれば、max 制限値PがATガード(AT車用のエンジン回転数に基づく制限値であり、表7に類似のもの)から演算され、MT車(手動変速機を有する車両)であれば、MTガード(MT車用のエンジン回転数に基づく制限(表7))から演算される(ステップS41〜S43)。そして、制御要求量Kが上記ガードによるmax 制限値P以上であればK=Pとされる(ステップS44,S45)。
【0059】
(実制御量決定処理について)
実制御量決定処理部14では、実際にエンジン出力制御装置に出力すべきトルクダウン量FCが決定されるが、該FCに対してエンジン回転数及びエンジン回転の加減速度に基づく制限が加えられる。
【0060】
まず、上限許容制御量決定処理部13で決定された要求制御量Kは、実制御量決定処理部14において、次式に基づいて、エンジン側に出力する要求レベルFCに変換される。
【0061】
FC=要求制御量K/100
この要求レベルFCに対応するトルクダウンのパターン例を表8に示す。ここに、「リタード」はエンジンの点火時期のリタードのことであり、気筒Cutは気筒への燃料の供給を停止することであり、2気筒Cutはは2つの気筒に対する燃料の供給停止を意味する。
【0062】
【表8】
Figure 0003796843
【0063】
そして、上記FCと、エンジン回転数及びエンジン回転の加減速度に基づいて決定されるFCガードレベルLとが比較されてトルクダウン量FCが最終的に決定される。すなわち、FC>Lの時にはFC=Lとされ、FC≦Lの時にはFC=FCとされる。表9はFCガードのレベルLの例を示すものであり、エンジン回転数が低くなるほど、また、エンジン回転加減速度がマイナス側に大きくなるほど、レベルLは小さくなっている。
なお、このレベルLについては、当該車両の変速機の変速段が大きくなるほど該L値が小さくなるように、変速段に応じて設定しても良い。
【0064】
【表9】
Figure 0003796843
【0065】
すなわち、図11に当該処理のフローチャートを示すように、要求制御量に基づいてトルクダウン量FCが求められる一方、エンジン回転数及び、エンジン回転の加減速度に基づいて表9のFCガードからLが演算される(ステップS51、S52)。そして、FC≧lであればFC=Lとされ、そうでなければFC=FCとされる(ステップS53、S54)。
【0066】
そうして、以上のようにして決定されたトルクダウン量FCが要求制御量信号出力部15からPWM(アナログパルス幅変調)信号でエンジン出力制御装置に出力される。
【0067】
従って、制御要求量Kのエンジン回転数に基づくmax 制限によって、エンジン回転数が低いにも関わらず制御量について過大な要求が出ることが避けられて、エンジンストップが防止される。また、エンジン出力制御装置に実際に出力すべきトルクダウン量FCのエンジン回転数及びエンジン回転加減度に基づく制限によって、エンジン回転数が低下しつつあるにも関わらず、トルクダウン量FCが大きくなってエンジンストップを生じることが避けられる。また、このようなFCガードがあるから、制御要求量Kのmax 制限を緩やかにしてもエンジンストップの防止には支障がない。つまり、該max 制限値を大きくすることができるから、制御量Kが大きい場合でも、エンジン回転加減速度がプラス側にあるような場合にはその要求通りの制御を行ってスピンを速やかに収めることができる事になる。
【0068】
なお、上記実施の形態のおいては、上記スピン判定に基づく所定の条件を、「スピン判定が生じるごとに加算されたカウンター値が、所定値を超える事」とし、横Gに応じてスピン判定ごとに加算するカウンター値の値を変えているが、本発明は本実施の形態に限定されず、本発明の主旨に沿った実施の形態を含む事はいうまでもない。(例えば、上記のスピン判定時のカウンター加算値を横Gの応じて変える代わりに、上記所定値を横Gに応じて変更するようにしてもよい。)
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態に係るトラクション制御装置の全体構成を示すブロック図
【図2】車輪速演算〜スピン判定の各処理部の相互関係を示すブロック図
【図3】スピン量演算処理のフローチャート図
【図4】ABS制御の終わりごろの車体速及び従動輪速度の一例を示すタイムチャート図
【図5】TCS開始判定処理のフローチャート図
【図6】制御要求量演算処理部に係るブロック図
【図7】初回スピンから定常スピンへ移行するための処理を示すフローチャート図
【図8】トラクション制御開始時に軽度のスピンを生じ、その後に程度の大きなスピンを生じた場合について車体速及び駆動輪速度の一例を示すタイムチャート図
【図9】制御量決定処理に係るブロック図
【図10】許容制御量決定処理のフローチャート図
【図11】トルクダウン量についての制限処理を示すフローチャート図
【符号の説明】
1 入力系
2 制御量演算系
3 出力系
5 車輪速入力/演算処理
6 エンジン回転入力/演算処理部
7 車体速演算処理部
8 スピン量演算処理部
9 旋回半径/横G計算処理部
10 スピン判定補正値決定処理部
11 スピン判定処理部
12 制御要求量演算処理部
13 許容制御量演算処理部
14 実制御量決定処理部
15 要求制御量信号出力処理部

Claims (4)

  1. 各車輪の速度に関する値を検出する車輪速検出手段と、
    該車輪速検出手段の検出結果に基づき駆動輪のスピン量を演算し、該スピン量が所定値を超えたとき、スピンが発生したと判定するスピン発生判定手段と、
    車体に生じている横Gに関する値を検出する横G検出手段と、
    該横G検出手段の検出結果に基づき、横Gが大きいときの上記所定値が横Gが小さいときの上記所定値に比べて小さくなるように、上記所定値を変更するスピン判定所定値変更手段と、
    上記スピン発生判定手段がスピン発生を判定しているときで且つ、所定の条件が成立しているときに、駆動輪の回転を抑制する抑制手段と、
    横Gが小さいときは、横Gが大きいときに比べて上記抑制手段による駆動輪の回転抑制を実行するための所定の条件が成立しやすくなるように、上記所定の条件を変更する抑制実行条件変更手段とを備えていることを特徴とする車両のトラクション制御装置。
  2. 各車輪の速度に関する値を検出する車輪速検出手段と、
    該車輪速検出手段の検出結果に基づき駆動輪のスピン量を演算し、該スピン量が所定値を超えたとき、スピンが発生したと判定するスピン発生判定手段と、
    車体に生じている横Gに関する値を検出する横G検出手段と、
    該横G検出手段の検出結果に基づき、横Gが大きいときの上記所定値が横Gが小さいときの上記所定値に比べて小さくなるように、上記所定値を変更するスピン判定所定値変更手段と、
    上記スピン発生判定手段がスピン発生を判定しているときで且つ、所定の条件が成立しているときに、駆動輪の回転を抑制する抑制手段と、
    横Gが小さいときは横Gが大きいときに比べて上記抑制手段による駆動輪の回転抑制を実行するための所定の条件が成立しやすくなるように、且つ、横Gが中程度の時は横Gが大きいときよりも上記条件が成立しにくくなるように、上記所定の条件を変更する抑制実行条件変更手段とを備えていることを特徴とする車両のトラクション制御装置。
  3. 各車輪の速度に関する値を検出する車輪速検出手段と、
    該車輪速検出手段の検出結果に基づき駆動輪のスピン量を演算し、該スピン量が第一所定値を超えたとき、スピンが発生したと判定するスピン発生判定手段と、
    車体に生じている横Gに関する値を検出する横G検出手段と、
    該横G検出手段の検出結果に基づき、横Gが大きいときの上記第一所定値が横Gが小さいときの第一所定値に比べて小さくなるように、上記第一所定値を変更するスピン判定所定値変更手段と、
    上記スピン発生判定手段によるスピン発生判定の回数が第二所定値を超えたことを判定したときに、駆動輪の回転を抑制する抑制手段と、
    横Gが小さいときは、横Gが大きいときに比べて上記第二所定値が小さくなるように、上記第二所定値を変更する第二所定値変更手段とを備えていることを特徴とする車両のトラクション制御装置。
  4. 各車輪の速度に関する値を検出する車輪速検出手段と、
    該車輪速検出手段の検出結果に基づき駆動輪のスピン量を演算し、該スピン量が第一所定値を超えたとき、スピンが発生したと判定するスピン発生判定手段と、
    車体に生じている横Gに関する値を検出する横G検出手段と、
    該横G検出手段の検出結果に基づき、横Gが大きいときの上記第一所定値が横Gが小さいときの第一所定値に比べて小さくなるように、上記第一所定値を変更するスピン判定所定値変更手段と、
    上記スピン発生判定手段によるスピン発生判定の回数が第二所定値を超えたことを判定したときに、駆動輪の回転を抑制する抑制手段と、
    横Gが小さいときは、横Gが大きいときに比べて上記第二所定値が小さくなるように、且つ、横Gが中程度の時は横Gが大きいときに比べて上記第二所定値が大きくなるように、上記第二所定値を変更する第二所定値変更手段とを備えていることを特徴とする車両のトラクション制御装置。
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