JP3795391B2 - 鋳鉄系焼結摺動部材及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、成長ねずみ鋳鉄鋳物を切削して得られた切粉を使用した鋳鉄系焼結摺動部材及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来から、炭素が片状黒鉛の形で存在しているねずみ鋳鉄が知られている。このねずみ鋳鉄から作製された鋳物(ねずみ鋳鉄鋳物)は、大きな振動吸収能と高い熱伝導性を有するので内燃機関用材料として広く用いられている。また、ねずみ鋳鉄は鋳造性が良いので、流体機械やバルブなど形状が複雑なものが多い産業機械器具用材料としても広く用いられている。さらに、ねずみ鋳鉄鋳物を長時間加熱したり加熱冷却を繰り返したりすることによってこの鋳物を成長させ、この成長によって生じた多孔質部(ポーラス部)に潤滑油を含浸させる(含油処理を施す)ことにより摺動性に優れた含油摺動部材が得られる、ことが知られている。この含油摺動部材は、軸受や滑り板などとして使用される。
【0003】
上述した各種用途に使用されるねずみ鋳鉄鋳物は、荒引き加工、中引き加工、仕上げ加工、場合によっては研削加工などの機械加工を経て最終製品となる。ねずみ鋳鉄鋳物にこれらの機械加工を施す際には、各加工工程で鋳鉄の切粉が生じる。このようにして生じた切粉の大部分は、通常、廃棄処分されている。
【0004】
廃棄処分されるねずみ鋳鉄鋳物の切粉に着目し、この切粉を積極的に利用した技術として、例えば特公昭58−21002号公報、特公昭58−21003号公報に開示された技術が知られている。この技術は、ねずみ鋳鉄の粉末(切屑)を4トン/cm2以上の成型圧力で成型して成型品を得、その後、鋳鉄に対して弱脱炭性雰囲気もしくは中性雰囲気であるアンモニア分解ガス雰囲気又はドライ水素雰囲気において上記の成型品を少なくとも1010℃以上の温度で焼結し、10kg/mm2以上の引張り強さを有する焼結成型体を製造する技術である。
【0005】
また、上記の切粉を使用して軸受などの摺動用途の焼結成型体を製造する技術としては、例えば特公昭58−12321号公報に関示された技術が知られている。この技術は、鋳造品を切削又は研削して得られた切屑を粉砕することによりねずみ鋳鉄粉末を生成し、このねずみ鋳鉄粉末90重量%乃至99.5重量%に炭素粉末0.5重量%乃至10重量%を混合して混合粉末を作製し、この混合粉末を圧縮成型した後に焼結して焼結成型体を製造する技術である。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
上述したように特公昭58−21002号公報等に開示された技術によれば10kg/mm2以上の引張り強さを有する焼結成型体が製造されるので、この技術(製造方法)で製造した焼結成型体は機械部品としては有効に利用され得る。しかし、この焼結成型体には、潤滑性に寄与する遊離黒鉛の含有量が少ないので、このため摩擦・摩耗等の摺動特性に劣る。従って、この焼結成型体を軸受などの摺動用部品として使用するに当たっては潤滑条件や使用条件などを十分に注意しなければならない、という問題がある。
【0007】
また、特公昭58−12321号公報に関示された技術では、焼結成型体に潤滑性を付与する目的で炭素粉末を含有している。しかし、この炭素粉末は焼結性を阻害する原因となり、焼結成型体の強度が弱くなる。従って、この焼結成型体も摺動用部品としては使用し適用し難い、という間題がある。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑み、摺動特性に優れた鋳鉄系焼結摺動部材及びその製造方法を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記の問題を解決するために本発明者らは、上述した摺動用途に広く用いられている成長ねずみ鋳鉄に着目した。そこで先ず、成長ねずみ鋳鉄を切削して得られた切粉を観察した。この観察により、この切粉の素地中には、肥大化した片状黒鉛が多く含まれて露出していること、及び片状黒鉛の周囲が多孔質化されていることが判明した。この結果、成長ねずみ鋳鉄の切粉を成型して得た圧粉体を焼結することにより得られた焼結成型体は、成型加工性に優れるばかりでなく、黒鉛等の固体潤滑剤を別途に加えなくても優れた摺動特性を発揮する、との知見を得た。
【0010】
この知見に基づいて、本発明者らは上記目的を達成する鋳鉄系焼結摺動部材及びその製造方法を見出した。
【0011】
上記目的を達成するための本発明の鋳鉄系焼結摺動部材の製造方法は、
(1)成長ねずみ鋳鉄鋳物を得、
(2)この成長ねずみ鋳鉄鋳物を切削し、
(3)この切削によって得られた切粉を所定の金型内に装填し、
(4)この装填した切粉を3トン/cm2以上5トン/cm2以下の範囲内の成型圧力で圧縮成型して圧粉体を形成し、
(5)中性雰囲気または還元性雰囲気において1100℃以上1150℃以下の範囲内の温度で30分間以上90分間以下の範囲内の時間だけ上記圧粉体を焼結して鋳鉄系焼結摺動部材を製造することを特徴とするものである。
【0012】
ここで、上記成長ねずみ鋳鉄鋳物を得るに当たり、
(6) ねずみ鋳鉄鋳物のA1変態点よりも高い温度と低い温度との間で加熱冷却を繰り返す反復加熱冷却処理をねずみ鋳鉄鋳物に施すことにより上記成長ねずみ鋳鉄鋳物を得てもよい。
【0013】
また、上記切粉を所定の金型内に装填するに当たり、
(7)20メッシュの篩を通過するが55メッシュの篩を通過しない切粉を総重量の85重量%以上97重量%以下の範囲内で装填すると共に、
(8)55メッシュの篩を通遇する切粉を総重量の3重量%以上15重量%以下の範囲内で装填してもよい。
【0014】
さらに、20メッシュの篩を通過するが55メッシュの篩を通過しない切粉を装填するに当たり、この切粉の総重量のうち、
(9)10重量%以上90重量%以下の範囲内であって、20メッシュの篩を通過するが36メッシュの篩を通過しない切粉と、
(10)10重量%以上90重量%以下の範囲内であって、36メッシュの篩を通過するが55メッシュの篩を通過しない切粉とを混合して装填してもよい。
【0015】
さらにまた、
(11)上記圧粉体を焼結した後にこの圧粉体に含油処理を施してもよい。
【0016】
さらにまた、上記圧粉体に含油処理を施すに当たり、
(12)含油率が、この圧粉体の総体積のうち10体積%以上20体積%以下の範囲内になるようにこの圧粉体に含油処理を施してもよい。
【0017】
また、上記目的を達成するための本発明の鋳鉄系焼結摺動部材は、
(13)上記した鋳鉄系焼結摺動部材の製造方法によって製造することにより得られる。
【0018】
なお、成長ねずみ鋳鉄鋳物としては、素地がオールフェライト組織のものが好ましい。ここで、素地がオールフェライト組織とは、素地がフェライト組織だけからなることをいう。ただし、フェライト組織以外にパーライト組織など他の組織が僅かに存在する素地も、ここでいうオールフェライト組織に含まれる。
【0019】
ところで、上述したように、成長ねずみ鋳鉄鋳物を切削して得られた切粉の素地中には、成長によって肥大化した片状黒鉛が多く含まれて露出している。この片状黒鉛について、切粉表面の顕微鏡写真を参照して説明する。
【0020】
図1は、成長ねずみ鋳鉄鋳物を切削して得られた切粉を示す顕微鏡写真であり、この切粉の粒度は、20メッシュの篩を通過する粒度である。図2は、ねずみ鋳鉄鋳物(JIS−G−5501で規定されているねずみ鋳鉄鋳物(FC150))を切削して得られた切粉を示す顕微鏡写真であり、この切粉の粒度は、20メッシュの篩を通過する粒度である。
【0021】
図1の顕微鏡写真において、白く見える複数の塊がそれぞれ切粉である。各切粉において白く見えるものがフェライト組織の素地であり、この素地中に黒く見えるもの又は帯状に見えるものが片状黒鉛である。また、図2の顕微鏡写真においても、白く見える複数の塊がそれぞれ切粉である。各切粉において白く見えるものがパーライト組織の素地であり、この素地中に黒く線状に見えるものが片状黒鉛である。
【0022】
図1と図2を比較した場合、成長ねずみ鋳鉄鋳物を切削して得られた切粉の表面に露出している片状黒鉛の量のほうが、ねずみ鋳鉄鋳物(FC150)を切削して得られた切粉の表面に露出している片状黒鉛の量よりも非常に多いことが判る。
【0023】
このように成長ねずみ鋳鉄鋳物を切削して得られた切粉には多量の片状黒鉛が含有されている。これらの切粉のうち、20メッシュの篩を通過するが55メッシュの篩を通過しない切粉は、主として焼結体の骨格を形成する。また、55メッシュの篩を通過する切粉では、この切粉中に占める黒鉛量が多い。従って、このサイズの切粉を焼結体全体に分散して含有させることにより、この焼結体は、黒鉛等の潤滑性成分を別途に含有させなくても、潤滑作用を発揮する。本発明の製造方法において、この55メッシュの篩を通週する切粉を3重量%以上15重量%以下の範囲内で含有させることは、潤滑作用をいっそう向上させるためには重要な要件となる。
【0024】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態を説明する。しかし、本発明はこれらの例に何等限定されるものではない。
[実施例1]
【0025】
3.65重量%のC、2.22重量%のSi、0.45重量%のMn、0.045重量%のP、0.084重量%のS、残部Feからなり、内径33mm、外径54mm、長さ203mmの円筒状ねずみ鋳鉄鋳物(FC150)を作製した。このねずみ鋳鉄鋳物のA1変態点よりも高い温度と低い温度との間で加熱冷却を繰り返す(A1変態点をはさんで上下する)反復加熱冷却処理をこのねずみ鋳鉄鋳物に施した。この反復加熱冷却処理によって、ねずみ鋳鉄素地中の片状黒鉛を肥大成長させると共に、この成長に伴い片状黒鉛の周囲を多孔質化させた。このようにして成長ねずみ鋳鉄鋳物を得た。
【0026】
上記の成長ねずみ鋳鉄鋳物の表面に生成した酸化スケールを除去し、その後、この成長ねずみ鋳鉄鋳物に荒引き、中引き及び仕上げの切削加工を施し、内径40mm、外径50mm、長さ40mmの軸受ブッシュを作製した。このようにして成長ねずみ鋳鉄鋳物を切削加工して軸受ブッシュを作製する際には多量の切粉が生じた。これら多量の切粉を、20メッシュの篩を通過するが55メッシュの篩を通週しない切粉と、55メッシュの篩を通過する切粉とに選別した。
【0027】
さらに、20メッシュの篩を通過するが55メッシュの篩を通過しない切粉を、20メッシュの篩を通過するが36メッシュの篩を通過しない切粉と、36メッシュの篩を通過するが55メッシュの篩を通過しない切粉とに選別した。
【0028】
上記のように選別した各粒度の切粉のなかから、20メッシュの篩を通過するが36メッシュの篩を通遇しない切粉を総重量の56重量%、36メッシュの篩を通過するが55メッシュの篩を通過しない切粉を総重量の36重量%、55メツシュの篩を通過する切粉を総重量の8重量%、それぞれ計量した。各切粉の組成を表1に示す。
【表1】
【0029】
表1において、例えば−20メッシュは、20メッシュの篩を通過することを表し、例えば+55メッシュは、55メッシュの篩を通過しないことを表す。なお、以下の各表においても同様である。
【0030】
上記のようにして選別し計量した各切粉を混合して混合粉末を形成した。ついで、この混合粉末を直方体状の金型内に装填し、成型圧カ4トン/cm2で圧縮成型して圧粉体を作製した。その後、水素ガス雰囲気(本発明にいう中性雰囲気または還元性雰囲気の一例である)に調整した加熱炉において、この圧粉体を1130℃の温度で60分間焼結し、直方体の焼結体を得た。このようにして得た焼結体を切削加工して、一辺が30mm、厚さ5mmの正方形状摺動部材(本発明にいう鋳鉄系焼結摺動部材の一例である)を製造した。
[実施例2]
【0031】
上記した実施例1と同様にして、成長ねずみ鋳鉄鋳物を切削加工して軸受ブッシュを作製する際に生じた切粉を、20メッシュの篩を通過するが55メッシュの篩を通過しない切粉と、55メッシュの篩を通過する切粉とに選別した。
【0032】
さらに、20メッシュの篩を通過するが55メッシュの篩を通過しない切粉を、20メッシュの篩を通過するが36メッシュの篩を通過しない切粉と、36メッシュの篩を通過するが55メッシュの篩を通過しない切粉とに選別した。このようにして選別した各粒度の切粉のなかから、20メッシュの篩を通過するが36メッシュの篩を通過しない切粉を総重量の30重量%、36メッシュの篩を通過するが55メッシュの篩を通過しない切粉を総重量の60重量%、55メッシュの篩を通過する切粉を総重量の10重量%、それぞれ計量した。各切粉の組成を表2に示す。
【表2】
【0033】
上記のようにして選別し計量した各切粉を混合して混合粉末を形成した。ついで、この混合粉末を直方体状の金型内に装填し、成型圧カ4トン/cm2で圧縮成型して圧粉体を作製した。その後、実施例1と同様に、水素ガス雰囲気に調整した加熱炉において、この圧粉体を1130℃の温度で60分間焼結し、直方体の焼結体を得た。このようにして得た焼結体を切削加工して、一辺が30mm、厚さ5mmの正方形状摺動部材(本発明にいう鋳鉄系焼結摺動部材の一例である)を製造した。
[比較例1]
【0034】
3.65重量%のC、2.22重量%のSi、0.45重量%のMn、0.045重量%のP、0.084重量%のS、残部Feからなり、内径33mm、外径54mm、長さ203mmの円筒状ねずみ鋳鉄鋳物(FC150)を作製した。このねずみ鋳鉄鋳物に荒引き、中引き及び仕上げの各切削加工を施し、内径40mm、外径50mm、長さ40mmの軸受ブッシュを作製した。このようにしてねずみ鋳鉄鋳物を切削加工して軸受ブッシュを作製する際には多量の切粉が生じた。これら多量の切粉を、20メッシュの篩を通過するが55メッシュの篩を通週しない切粉と、55メッシュの篩を通過する切粉とに選別した。
【0035】
さらに、20メッシュの篩を通過するが55メッシュの篩を通過しない切粉を、20メッシュの篩を通過するが36メッシュの篩を通過しない切粉と、36メッシュの篩を通過するが55メッシュの篩を通過しない切粉とに選別した。
【0036】
上記のように選別した各粒度の切粉のなかから、20メッシュの篩を通過するが36メッシュの篩を通遇しない切粉を総重量の56重量%、36メッシュの篩を通過するが55メッシュの篩を通過しない切粉を総重量の36重量%、55メツシュの篩を通過する切粉を総重量の8重量%、それぞれ計量した。各切粉の組成を表3に示す。
【表3】
【0037】
上記のようにして選別し計量した各切粉を混合して混合粉末を形成した。ついで、この混合粉末を金型内に装填し、成型圧カ4トン/cm2で圧縮成型して圧粉体を作製した。その後、加熱炉において、この圧粉体を1130℃の温度で60分間焼結して焼結体を得た。この焼結体を切削加工して、一辺が30mm、厚さ5mmの正方形状摺動部材を製造した。
[比較例2]
【0038】
上記した比較例1と同様にして、ねずみ鋳鉄鋳物を切削加工して軸受ブッシュを作製する際に生じた切粉を、20メッシュの篩を通過するが36メッシュの篩を通過しない切粉と、36メッシュの篩を通過するが55メッシュの篩を通過しない切粉と、55メッシュの篩を通過する切粉とに選別した。
【0039】
このようにして選別した各粒度の切粉のなかから、20メッシュの篩を通過するが36メッシュの篩を通過しない切粉を総重量の56重量%、36メッシュの篩を通過するが55メッシュの篩を通過しない切粉を総重量の36重量%、55メッシュの篩を通過する切粉を総重量の8重量%、それぞれ計量した。このようにして混合した切粉95重量%に対して5重量%の黒鉛粉末を配合して混合し、混合粉末を形成した。この混合粉末における各切粉の組成を表4に示す。
【表4】
【0040】
上記の混合粉末を直方体状の金型内に装填し、成型圧カ4トン/cm2で圧縮成型して圧粉体を作製した。その後、加熱炉において、この圧粉体を1130℃の温度で60分間焼結して焼結体を得た。この焼結体を切削加工して、一辺が30mm、厚さ5mmの正方形状摺動部材を製造した。
【0041】
上述した実施例1、実施例2、比較例1、及び比較例2における各圧粉体及び焼結体の物性値を表5に示す。
【表5】
【0042】
表5における含油率は、各実施例及び比較例で製造された焼結体にそれぞれ含油処理を施し、その含油率を測定したときの値である。
【0043】
上記した実施例1、実施例2、比較例1、及び比較例2で得た焼結摺動部材について、下記に示す試験条件により摩擦摩耗特性を試験した。試験1として耐久試験を行い、試験2として耐荷重試験を行った。これらの試験の結果を表6と図3に示す。
【0044】
[試験1:耐久試験]
試験条件
すべり速度 5m/分
荷重(面圧) 100kg/cm2
試験時間 10時間
相手材 機械構造用炭素鋼(S45C)
試験方法 スラスト試験
潤滑方法 試験開始時に摺動面にグリースを塗布した
【0045】
上記した条件で行った耐久試験の結果を表6に示す。
【表6】
【0046】
表6における実施例1及び実施例2の摺動部材の摩耗量とは、各実施例で製造した厚さ5mmの摺動部材の厚さが耐久試験によって減少したときの減少量をいう。相手材の摩耗量も同様である。
【0047】
また、この耐久試験において、比較例1の摺動部材は試験開始後35分で異常摩耗を起こした。また、比較例2の摺動部材は試験開始後20分で異常摩耗を起こした。このため、異常摩耗を起こした時点で試験を中止した。従って、表6には比較例1と比較例2の摩耗量が記載されていない。
【0048】
一方、実施例1及び実施例2で製造した摺動部材を用いた耐久試験では、表6に示すように、摺動部材も相手材もほとんど摩耗しなかった。そこで、耐久試験後に相手材の表面を観察した。この観察の結果、各実施例の摺動部材中に含有されている遊離黒鉛の潤滑被膜が相手材の表面に形成されていることが確認された。この潤滑被膜によって各実施例の摺動部材もその相手材もほとんど摩耗しなかったと推察される。
【0049】
[試験2:耐荷重試験]
試験条件
すべり速度 3m/分
荷重(面圧) 10分間毎に30kgf/cm2の荷重(面圧)を累積負荷した
相手材 機械構造用炭素鋼(S45C)
試験方法 スラスト試験で行い、摩擦係数が0.3に達した時点で試験を中止した
潤滑方法 試験開始時に摺動面にグリースを塗布した
【0050】
この耐荷重試験の結果を図3に示す。図3は、累積荷重と摩擦係数の推移を示したグラフであり、縦軸は摩擦係数を表し、横軸は累積荷重を表す。
【0051】
図3に示すように、比較例2の摺動部材では、試験開始直後においては低い摩擦係数を示したが、累積荷重が120kgf/cm2で摩擦係数が0.3に達したので試験を中止した。この比較例2の摺動部材は潤滑性物質として黒鉛を5重量%含有しているにも拘わらず、このような結果を示した。この理由は、上記の表5に示した物性値のうちの焼結密度が低く、換言すれば焼結強度が低いことに起因しており、累積負荷に耐えられずに異常摩耗に移行したからである、と推察される。
【0052】
また、比較例1の摺動部材は、試験開始から比較的安定した摩擦係数で推移したが、累積荷重が90kgf/cm2を超えると摩擦係数が徐々に上昇し、累積荷重180kgf/cm2で摩擦係数が0.3に達したので試験を中止した。比較例1の摺動部材が累積荷重180kgf/cm2異常摩耗に移行した理由は、この摺動部材に含有されている潤滑油が摺動面で枯渇したからであると推察される。
【0053】
一方、実施例1の摺動部材は、試験開始から徐々に摩擦係数が低下し、累積荷重が210kgf/cm2を超えるあたりから摩擦係数が徐々に上昇し始めた。しかし、累積荷重が330kgf/cm2まで摩擦係数は0.3以下であった。試験後、相手材の表面を観察したところ、実施例1の摺動部材に含有されている遊離黒鉛の潤滑被膜が相手材表面に形成されていることが確認された。実施例1の摺動部材を用いた試験では、この摺動部材に含有されている遊離黒鉛の潤滑作用と、この摺動部材に含浸された潤滑油の潤滑作用が相俟って、このような結果をもたらしたものと推察される。
【0054】
【発明の効果】
以上説明したように本発明の鋳鉄系焼結摺動部材の製造方法では、成長ねずみ鋳鉄の切粉は比較的柔らかいので、この切粉から圧粉体を成型する際の成型性は極めて良好となる。従って、3トン/cm2以上5トン/cm2以下の範囲内の成型圧力で圧縮成型しても十分な強度を有する圧粉体を形成できる。また、1100℃以上1150℃以下の範囲内の温度で30分間以上90分間以下の範囲内の時間だけ圧粉体を焼結することにより、フェライトとパーライトの混在した素地組織が得られ、焼結体の硬さが高められると共に強度が向上するので、摺動特性に優れた焼結摺動部材が製造される。また、中性雰囲気または還元性雰囲気で焼結するので焼結体の酸化を防止できる。
【0055】
ここで、上記成長ねずみ鋳鉄鋳物を得るに当たり、ねずみ鋳鉄鋳物のA1変態点よりも高い温度と低い温度との間で加熱冷却を繰り返す反復加熱冷却処理をねずみ鋳鉄鋳物に施すことにより成長ねずみ鋳鉄が容易に得られる。
【0056】
また、上記切粉を所定の金型内に装填するに当たり、20メッシュの篩を通過するが55メッシュの篩を通過しない切粉を総重量の85重量%以上97重量%以下の範囲内で装填すると共に、55メッシュの篩を通遇する切粉を総重量の3重量%以上15重量%以下の範囲内で装填する場合は、20メッシュの篩を通過するが55メッシュの篩を通過しない切粉が主として焼結体の骨格を形成し、55メッシュの篩を通過する切粉に多量に含有された黒鉛が潤滑作用を発揮するので、強度がいっそう高く、摺動特性にいっそう優れた鋳鉄系焼結摺動部材が製造される。
【0057】
さらに、20メッシュの篩を通過するが55メッシュの篩を通過しない切粉を上記金型内に装填するに当たり、この切粉の総重量のうち、10重量%以上90重量%以下の範囲内であって、20メッシュの篩を通過するが36メッシュの篩を通過しない切粉と、10重量%以上90重量%以下の範囲内であって、36メッシュの篩を通過するが55メッシュの篩を通過しない切粉とを混合して装填する場合は、さらに強い骨格とさらに高い潤滑作用を発揮する鋳鉄系焼結摺動部材が製造される。
【0058】
さらにまた、上記圧粉体を焼結した後にこの圧粉体に含油処理を施す場合は、黒鉛の潤滑作用ばかりでなく潤滑油による潤滑作用も加わるので摺動特性がいっそう向上する。
【0059】
さらにまた、上記圧粉体に含油処理を施すに当たり、含油率が上記圧粉体の総体積の10体積%以上20体積%以下の範囲内になるように上記圧粉体に含油処理を施す場合は、十分な強度と適切な潤滑性を有する鋳鉄系焼結摺動部材が製造される。
【0060】
上記した鋳鉄系焼結摺動部材の製造方法で製造された鋳鉄系焼結摺動部材は、十分な強度と十分な潤滑性を有するので、摺動部材として種々の分野で広く使用できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】成長ねずみ鋳鉄鋳物を切削して得られた切粉を示す顕微鏡写真である。
【図2】ねずみ鋳鉄鋳物(FC150)を切削して得られた切粉を示す顕微鏡写真である。
【図3】耐荷重性の試験結果を示すグラフである。
Claims (6)
- ねずみ鋳鉄鋳物のA1変態点よりも高い温度と低い温度との間で加熱冷却を繰り返す反復加熱冷却処理をねずみ鋳鉄鋳物に施した成長ねずみ鋳鉄鋳物を切削し、
この切削によって得られた切粉を所定の金型内に装填し、
この装填した切粉を3トン/cm2以上5トン/cm2以下の範囲内の成型圧力で圧縮成型して圧粉体を形成し、
中性雰囲気または還元性雰囲気において1100℃以上1150℃以下の範囲内の温度で30分間以上90分間以下の範囲内の時間だけ前記圧粉体を焼結して鋳鉄系焼結摺動部材を製造することを特徴とする鋳鉄系焼結摺動部材の製造方法。 - 前記切粉を所定の金型内に装填するに当たり、
20メッシュの篩を通過するが55メッシュの篩を通過しない切粉を総重量の85重量%以上97重量%以下の範囲内で装填すると共に、
55メッシュの篩を通遇する切粉を総重量の3重量%以上15重量%以下の範囲内で装填することを特徴とする請求項1に記載の鋳鉄系焼結摺動部材の製造方法。 - 20メッシュの篩を通過するが55メッシュの篩を通過しない切粉を前記金型内に装填するに当たり、該切粉の総重量のうち、
10重量%以上90重量%以下の範囲内であって、20メッシュの篩を通過するが36メッシュの篩を通過しない切粉と、
10重量%以上90重量%以下の範囲内であって、36メッシュの篩を通過するが55メッシュの篩を通過しない切粉とを混合して装填することを特徴とする請求項2に記載の鋳鉄系焼結摺動部材の製造方法。 - 前記圧粉体を焼結した後に該圧粉体に含油処理を施すことを特徴とする請求項1から3までのうちのいずれか一項に記載の鋳鉄系焼結摺動部材の製造方法。
- 前記圧粉体に含油処理を施すに当たり、
含油率が前記圧粉体の総体積の10体積%以上20体積%以下の範囲内になるように前記圧粉体に含油処理を施すことを特徴とする請求項4に記載の鋳鉄系焼結摺動部材の製造方法。 - 請求項1から5までのうちのいずれか一項に記載された鋳鉄系焼結摺動部材の製造方法によって製造されたことを特徴とする鋳鉄系焼結摺動部材。
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