JP3795228B2 - フリクションダンパ付き転がり軸受の取付構造 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、フリクションダンパ付き転がり軸受の取付構造に関する。このフリクションダンパ付き転がり軸受は、例えば自動車などのトランスミッションや4輪駆動車のトランスファなどの変速機に用いられる。
【0002】
【従来の技術】
例えば自動車などのトランスミッションや4輪駆動車のトランスファなどの変速機では、駆動ギヤと従動ギヤとの噛合部分の衝突などが原因で異音が発生することがある。
【0003】
上記変速機の一例として、4輪駆動車のトランスファを図6に示して説明する。図中、Bはトランスファの全体を示しており、70はケース、71はメインシャフト、72はメインギヤ、73はローギヤ、74はシンクロメッシュ機構、75はカウンターギヤ、76はフロントドライブスプロケット、77はフロントドライブシャフト、78はドライブチェーン、79はオイルシールである。
【0004】
このようなトランスファBにおいて、ケース70とメインシャフト71との間、ケース70とメインギヤ72との間、ケース70とカウンターギヤ75との間、メインシャフト71とメインギヤ72やローギヤ73との間などには、各種の転がり軸受80〜85が介装されている。
【0005】
このようなトランスファBでは、例えばメインシャフト71への入力回転数の変動があると、甚だしい場合には駆動ギヤとしてのメインギヤ72またはローギヤ73と、従動ギヤとしてのカウンターギヤ75とが衝突して、異音が発生することがある。つまり、メインギヤ72やローギヤ73とカウンターギヤ75との間にバックラッシュが存在するために、メインギヤ72またはローギヤ73の回転数が一時的に下がったときにカウンターギヤ75が回転慣性力により前記バックラッシュ分進むことになって、カウンターギヤ75がメインギヤ72またはローギヤ73に対して衝突してしまうことがある。
【0006】
このような異音対策として、本願出願人は、図示しないが、周知のフリクションダンパでカウンターギヤ75に対して回転抵抗を与えることにより、メインシャフト71への入力回転数の変動に伴いメインギヤ72またはローギヤ73の回転数が一時的に下がったときに、カウンターギヤ75を進みにくくさせて、カウンターギヤ75をメインギヤ72またはローギヤ73に対して衝突させないようにすることを考えている。ここで、フリクションダンパの配置が問題になる。というのは、フリクションダンパは、トランスファBの既存の部品でないため、それを設けるとなると、それ専用の設置スペースを確保する必要があり、トランスファBの一部設計変更を余儀なくされる。これに対し、本願出願人は、フリクションダンパを、カウンターギヤ75の支持用軸受82,83の内部に組み込むことを提案している。この場合、フリクションダンパ単品の設置スペースを確保せずに済むので、トランスファBの設計変更が不要になる。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、上記従来のトランスファBにおいて、カウンターギヤ75の組み付けにあたっては、カウンターギヤ75に対して支持用軸受82,83の内輪(符号省略)をタイトフィット状態に嵌合し、支持用軸受82,83の外輪(符号省略)をケース70に対してルーズフィット状態で嵌合することが行われる。というのは、内・外輪の両方をタイトフィット状態にしていると、支持用軸受82,83の組み込み性が著しく悪くなる。
【0008】
しかし、前述の組み付け形態では、支持用軸受82,83の外輪がケース70に対してルーズフィット状態であるために、この外輪がクリープすることが懸念されるので、外輪のクリープ防止のために、外輪とケース70との間にキーを取り付けることを行う必要がある。このために、組み付け作業が結構面倒なものになってしまうなど、改善の余地がある。
【0009】
したがって、本発明は、フリクションダンパ付き転がり軸受の取付構造において、キーなどの別部品を用いずに、軌道輪のクリープを防止できるようにすることを目的としている。
【0013】
【課題を解決するための手段】
請求項1の発明のフリクションダンパ付き転がり軸受の取付構造は、内外2つの環体間に介装されるフリクションダンパ付き転がり軸受の取付構造であって、前記転がり軸受が、少なくとも内外いずれか一方の軌道輪を有するもので、この一方軌道輪が一方環体に対してルーズフィット状態で嵌合されており、前記フリクションダンパが、前記一方軌道輪にルーズフィット状態で嵌合される環状芯金と、この環状芯金に被着されて前記一方軌道輪と対になる軌道輪部材に対して接触させられるとともに軸方向へのオイル通過を許容する切欠きを有する弾性体とからなり、かつ、前記環状芯金に、前記一方軌道輪の端面に設けられる凹溝と、前記一方環体の端面に設けられる凹部との両方に対して、周方向に所要のクリアランスを持つ状態で係入される突片が設けられている。
【0014】
請求項2の発明のフリクションダンパ付き転がり軸受の取付構造は、上記請求項1において、前記一方軌道輪に、フリクションダンパの軸方向抜け出しを阻止する止め輪が取り付けられている。
【0015】
以上、本発明では、組み込み性を向上させるために、フリクションダンパが取り付けられる転がり軸受の一方軌道輪を、一方環体に対してルーズフィット状態つまり相対回転可能な状態に取り付けるようにしているとともに、この安定組み込みに関連して起こり得る一方軌道輪のクリープ対策として、前記一方軌道輪に取り付けるフリクションダンパの一部でもって当該一方軌道輪を一方環体に対して回り止めさせるようにしている。これにより、従来のようなキーの使用を廃止できるようになる。
【0017】
さらに、フリクションダンパを一方軌道輪に対してルーズフィット状態とし、このフリクションダンパの突片を一方環体の凹部に対して周方向に所要のクリアランスを持たせた状態で係入させれば、フリクションダンパと、一方軌道輪および一方環体とが所要角度だけ相対回転可能になり、これにより、一方環体が回転方向遊びを持つことになる。
【0018】
さらに、請求項2のように、請求項1の構成において一方軌道輪に止め輪を付けることにより、一方軌道輪からのフリクションダンパの軸方向抜け出しを防止できるようになる。
【0019】
このような本発明のフリクションダンパ付き転がり軸受を、変速機の異音対策のために、変速機の従動ギヤの支持用軸受として利用すると、当該転がり軸受の組み込み性を向上させながら、転がり軸受の軌道輪のクリープを防止できるようになる。そして、本発明のフリクションダンパ付き転がり軸受では、小さな回転方向遊びを持たせることができるので、上述した異音対策をした上で、変速機のシンクロメッシュ機構の切り換え操作の円滑化に貢献できるようになる。
【0020】
【発明の実施の形態】
本発明の詳細を図4,図5に示す実施形態に基づいて説明する。その前に本発明の参考となる参考例の実施形態を図1ないし図3に基づいて説明する。
【0021】
図1ないし図3は参考例の実施形態(以下実施形態1とする)にかかり、図1は、フリクションダンパ付き転がり軸受の縦断側面図、図2は、図1のフリクションダンパ付き転がり軸受の正面図、図3は、図1中のフリクションダンパ単体の正面図である。
【0022】
図中、Aは転がり軸受の全体を示しており、ここでは深溝玉軸受を例示している。この転がり軸受Aは、内輪1、外輪2、複数の転動体3、保持器4ならびにフリクションダンパ5を備えている。
【0023】
フリクションダンパ5は、外輪2の一方軸端の肩部内周面に取り付けられる断面ほぼL字形の環状芯金6と、環状芯金6に被着されかつ内輪1の外周面に接触させられる弾性体7とを有している。環状芯金6は、外輪2の一方軸端の肩部内周面にタイトフィット状態で嵌合される円筒部6aと、その一方軸端から径方向内向きに延びる環状板部6bとからなり、これらの内面に弾性体7が被着されている。前述の円筒部6aの軸端の円周数カ所には径方向外向きに突出する突片6cが設けられている。そして、弾性体7の内周の円周数カ所には、軸方向でのオイル通過を許容する半円形状の切欠き7aが設けられている。
【0024】
このフリクションダンパ5は、その弾性体7が内輪1の外周面に対し所要の反発弾性力をもって径方向より当接されることで、適度の回転抵抗を付与するようになっている。
【0025】
このようなフリクションダンパ5付きの転がり軸受Aは、例えば図6に示したような4輪駆動車のトランスファBの内部に使用される。具体的に、メインギヤ72またはローギヤ73とカウンターギヤ75との衝突による異音発生を防止するために、ケース70とカウンターギヤ75との間の転がり軸受82,83を、上述した本発明のフリクションダンパ5付きの転がり軸受Aとする。
【0026】
ここで、異音発生を防止できるようになる理由を説明する。つまり、転がり軸受Aに内蔵してあるフリクションダンパ5が、内輪1と一体化されたカウンターギヤ75に所要の回転抵抗を付与するので、メインシャフト71への入力回転数が変動してメインギヤ72またはローギヤ73の回転数が一時的に下がったときでも、カウンターギヤ75が進みにくくなり、そのため、カウンターギヤ75がメインギヤ72またはローギヤ73に対して衝突することを防止できて異音発生を防止できるようになる。なお、この場合のフリクションダンパ1としては、カウンターギヤ75の慣性モーメント以上の回転抵抗を与えるものとすることが望ましい。
【0027】
ところで、トランスファBに対するフリクションダンパ5付きの転がり軸受Aの取り付け形態を説明する。
【0028】
つまり、図1に示すように、転がり軸受Aの組み付け状態において無理な力がかからないように、転がり軸受Aの内輪1が、カウンターギヤ75の軸端外周面にタイトフィット状態で嵌合され、外輪2がケース70の内周面に対してルーズフィット状態で嵌合される。
【0029】
この場合、外輪2がケース70に対して相対回転しうる状態になっているので、外輪2のクリープが発生するおそれがある。これに対しては、ケース70における軸受装着面の軸端に凹部70aを設け、この凹部70aに対して、転がり軸受Aのフリクションダンパ5の突片6cを係入させることにより、外輪2をケース70に対して回転方向に不動とするようになっているので、外輪2のクリープを確実に防止できる。
【0030】
さらに、ケース70の軸受装着面の軸方向一端縁には、フリクションダンパ5の軸方向抜け出しを防止するために、止め輪(スナップリング)10が取り付けられている。
【0031】
以上説明したように、実施形態1では、転がり軸受Aの安定取付に関連する不具合つまり外輪12のクリープを、キーなどの別部品を用いずに確実に防止することができる。
【0032】
図4および図5は本発明の実施形態(以下、実施形態2とする)にかかり、図4は、フリクションダンパ付き転がり軸受の縦断側面図、図5は、図4のフリクションダンパ付き転がり軸受の正面図である。
【0033】
この実施形態2では、外輪2をケース70に対して回り止めしながらも、ケース70に対してカウンターギヤ75を所要角度の相対回転を許容する状態にさせている。
【0034】
具体的に、外輪2の端面の円周数カ所に、径方向に沿う凹溝2aを設け、この凹溝2aとケース70の凹部70aとの両方に対して、フリクションダンパ5の突片6cを周方向前後に所要のクリアランスΔwを持つ状態で係入させている。これにより、フリクションダンパ5が、外輪2とケース70とに対してクリアランスΔwに対応する回転角度分について相対回転しうることになるが、フリクションダンパ5が前記クリアランスΔw分回転してクリアランスΔwが詰まると、フリクションダンパ5が回転方向に不動となる。
【0035】
このような構成の必要性を説明する。上述した実施形態1で説明したように、トランスファBの異音対策のために、本発明のフリクションダンパ5付きの転がり軸受Aをカウンターギヤ75の支持用軸受82,83とする場合、シンクロメッシュ機構74のシフティングキー74aとメインギヤ72やローギヤ73との噛み合わせ動作の円滑性が損なわれる傾向になり、シフトフィーリングの低下をもたらすおそれがある。
【0036】
そもそも、シンクロメッシュ機構74の切り換え操作時に、シフティングキー74aとメインギヤ72またはローギヤ73との噛み合わせ動作が円滑になるように、メインギヤ72またはローギヤ73に適度な遊びを持たせることが必要になっている。
【0037】
ところが、異音発生防止としては、上述しているようにフリクションダンパ5でカウンターギヤ75に回転抵抗を与えてカウンターギヤ75とメインギヤ72やローギヤ73との間の遊びを無くすようにするので、当然ながら、シンクロメッシュ機構74の切り換え操作時の円滑性が損なわれる傾向になってしまう。
【0038】
つまり、この実施形態2では、異音発生を防止しながら、シフトフィーリングを改善するために、上述したように構成しているのである。
【0039】
なお、この実施形態2では、フリクションダンパ5の軸方向抜け出しを防止するための止め輪10が、外輪2に取り付けられている。そのために、外輪2については、軸方向一端側を延長している。
【0040】
次に、この実施形態2の動作を説明する。フリクションダンパ5を転がり軸受Aの外輪2とケース70とに対して所要角度の相対回転を許容する状態にしているから、カウンターギヤ75がケース70に対して若干の回転方向遊びを持つ状態で支持されることになる。このようにカウンターギヤ75が若干の回転方向遊びを持てば、このカウンターギヤ75と噛合するメインギヤ72またはローギヤ73も、若干の回転方向遊びを持つことになり、それにより、シンクロメッシュ機構74の切り換え操作に伴い、シンクロメッシュ機構74のシフティングキー74aを、メインギヤ72またはローギヤ73に対して噛み合わせるときに、メインギヤ72またはローギヤ73が前記遊び分について軽く動くことになり、それにより噛み合わせ動作が円滑に行えるようになる。これにより、トランスファBのシンクロメッシュ機構74のシフトフィーリングが良好となる。
【0041】
以上説明したように、実施形態2では、外輪2のクリープ対策のための突片6cを利用して、シンクロメッシュ機構74の切り換え操作を円滑とするようにできる。
【0042】
なお、本発明は上記実施形態のみに限定されるものではなく、種々な応用や変形が考えられる。
【0043】
(1) 上記実施形態で説明したフリクションダンパ5そのものの形状や、弾性体3に設ける切欠き3aの形状や個数については特に限定されない。また、フリクションダンパ5の環状芯金6に設ける突片6cおよびケース70の凹部70aの形状や個数についても特に限定されない。
【0044】
(2) 上記実施形態では、フリクションダンパ5を転がり軸受Aの外輪2に取り付けた例を挙げているが、フリクションダンパ5を転がり軸受Aの内輪1に取り付けて、フリクションダンパ5の弾性体7を外輪2あるいはケース70に対して接触させるようにしてもよい。
【0045】
(3) また、本発明のフリクションダンパ5付きの転がり軸受Aは、図6に示したような4輪駆動車のトランスファBに使用するものに限定されず、例えば自動車などのトランスミッションや、その他の機器にも使用することができる。
【0046】
【発明の効果】
請求項1および2の発明では、フリクションダンパ付きの転がり軸受を、異音対策が必要な内外2つの環体間に対して無理な力がかからない安定な状態で組み込むことができて、この安定組み込みに関連する不具合つまり軌道輪のクリープを、従来のようにキーなどの別部品を用いることなく、確実に防止することができる。
【0048】
また、フリクションダンパを一方軌道輪に対してルーズフィット状態とし、このフリクションダンパの突片を一方環体の凹部に対して遊びを持つ状態で係入させることによって、フリクションダンパと、一方軌道輪および一方環体とが所要角度だけ相対回転可能になり、これにより、一方環体が回転方向遊びを持つことになる。
【0049】
また、請求項2のように、請求項1の構成において一方軌道輪に止め輪を付けることにより、一方軌道輪からのフリクションダンパの軸方向抜けだしを防止できるようになる。
【0050】
したがって、本発明のフリクションダンパ付き転がり軸受を、例えば4輪駆動車のトランスファや自動車のマニュアルトランスミッションなどの変速機におけるギヤ衝突による異音対策やシフトフィーリング対策として、当該変速機の従動ギヤ支持用軸受などとして組み込んだ場合、転がり軸受そのものを無理な力のかからない安定な状態で取り付けたうえで、転がり軸受の軌道輪のクリープを確実に防止できる取付構造とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】参考例の実施形態のフリクションダンパ付き転がり軸受の縦断側面図
【図2】図1のフリクションダンパ付き転がり軸受の正面図
【図3】図1中のフリクションダンパ単体の正面図
【図4】本発明の実施形態のフリクションダンパ付き転がり軸受の縦断側面図
【図5】図4のフリクションダンパ付き転がり軸受の正面図
【図6】一般的な4輪駆動車のトランスファを示す一部断面図
【符号の説明】
A 転がり軸受
1 内輪
2 外輪
2a 外輪の凹溝
5 フリクションダンパ
6 フリクションダンパの環状芯金
6c 環状芯金の突片
Claims (2)
- 内外2つの環体間に介装されるフリクションダンパ付き転がり軸受の取付構造であって、
前記転がり軸受が、少なくとも内外いずれか一方の軌道輪を有するもので、この一方軌道輪が一方環体に対してルーズフィット状態で嵌合されており、前記フリクションダンパが、前記一方軌道輪にルーズフィット状態で嵌合される環状芯金と、この環状芯金に被着されて前記一方軌道輪と対になる軌道輪部材に対して接触させられるとともに軸方向へのオイル通過を許容する切欠きを有する弾性体とからなり、
かつ、前記環状芯金に、前記一方軌道輪の端面に設けられる凹溝と、前記一方環体の端面に設けられる凹部との両方に対して、周方向に所要のクリアランスを持つ状態で係入される突片が設けられている、ことを特徴とするフリクションダンパ付き転がり軸受の取付構造。 - 請求項1に記載のフリクションダンパ付き転がり軸受の取付構造において、前記一方軌道輪に、フリクションダンパの軸方向抜け出しを阻止する止め輪が取り付けられている、ことを特徴とする転がり軸受の取付構造。
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