JP3795091B2 - ブレーキ摺動部およびこれを用いたカーボンブレーキ - Google Patents

Description

【０００１】
【産業上の利用分野】
本発明は炭素繊維強化炭素複合材製のディスク及びパッドで形成されたブレーキ摺動部に関する。
【０００２】
【従来の技術】
近年、車両用ディスクブレーキでは軽量化と性能向上の観点から、Ｃ／Ｃをディスクやパッドのブレーキ摺動部に用いており、その用途によって要求特性は大きく異なる。例えば、鉄道車両用、航空機用などのブレーキでは運転者のブレーキングにたいしてなめらかに停止することが望まれる。一方レース用では速度、圧力、温度等の使用条件の異なるコーナーで、短時間に高速から低速までの減速を行うため摩擦係数が高くて、且つ応答速度が速いブレーキ材が求められている。さらに、過酷な条件下においても、少なくともレースを完走できる低摩耗性が要求される。従来はディスクとパッドは、基本的には同質のＣ／Ｃを組み合わせていたが、その特性は摩擦係数、応答性、摩耗量とも充分なものではなかった。
【０００３】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は摩擦係数が高く、応答速度が速く且つ摩耗量の小さいＣ／Ｃブレーキを製造することを目的とし、発明者等は、Ｃ／Ｃ製ブレーキ摺動部のかかる問題について鋭意検討を重ねた結果、ディスクとパッドを形成するＣ／Ｃとして、Ｖｆと熱処理温度がそれぞれ特定のものを組み合わせることによって解決した。
【０００４】
【課題を解決するための手段】
すなわち、本発明の要旨は、炭素繊維強化炭素複合材（以下Ｃ／Ｃという）で形成されたディスクおよびパッドからなるブレーキ摺動部において、(1)ディスクを形成するＣ／ＣのＶｆ（炭素繊維体積含有率）とパッドを形成するＣ／ＣのＶｆとの比が１：１．２〜２であって、且つ、(2)ディスクを形成するＣ／Ｃとパッドを形成するＣ／Ｃは少なくとも１４００℃以上の温度で、しかも前者は後者よりも１００℃以上高い温度で最終熱処理されたものであることを特徴とするブレーキ摺動部にある。
【０００５】
以下、本発明につき詳細に説明する。本発明で用いるＣ／Ｃの炭素繊維としては、ピッチ系、ＰＡＮ系あるいはレーヨン系炭素繊維等の公知のいずれのものも使用できる。特にピッチ系の炭素繊維を使用した場合に摩擦特性の優れたＣ／Ｃが得られるので好ましい。これら炭素繊維の形態は２０００〜８０００の短繊維の束からなるトウ、ストランド、ロービング、ヤーン等で、これらをカッティングすることによって得られる短繊維状のものを用いる。本発明においては、通常３〜１００ｍｍ、好ましくは５〜５０ｍｍ程度の短繊維を使用する。炭素繊維自体の径や弾性率は、一般に複合材として用いられる範囲で特に限定はされない。次にこれらの炭素繊維束を解繊し、２次元ランダムのシートを作製する。その際、必要に応じてＳｉＣ、Ａｌ₂ Ｏ₃ 、カーボンブラックなどの無機繊維、無機物などを添加しても良い。これらにフェノール樹脂、フラン樹脂或いは石油系、石炭系ピッチ等のマトリックス材を含浸して金型に充填し、１００〜５００℃の温度で加圧成形して、ディスク及びパッド材の成形体を得る。その後、Ｎ₂ ガスなどの不活性ガス雰囲気中、１〜２００℃／ｈｒの昇温速度で８００〜２８００℃まで昇温し、Ｃ／Ｃとする。
【０００６】
さらに用途に応じてフェノール樹脂、フラン樹脂或いは石油系、石炭系ピッチ等のマトリックスを含浸、再度炭化を行う含浸法、例えばメタン、プロパンなどの炭化水素類のガスを熱分解して炭素を得るＣＶＤ法などにより緻密化を繰り返し行い、高強度のＣ／Ｃを得る。このとき緻密化処理時の繰り返し熱処理温度は最終熱処理温度以下とし、最終熱処理温度はディスクを形成するＣ／Ｃとパッドを形成するＣ／Ｃは少なくとも１４００℃以上の温度で、かつ前者は後者よりも１００℃以上、好ましくは、３００〜１０００℃、特に好ましくは、４００〜８００℃高い温度で１時間以上最終熱処理を行う。好ましくはディスク材が１５００℃〜２８００℃、パッド材が１４００℃〜２７００℃の温度範囲で１時間以上、さらに好ましくはディスク材が１８００℃〜２６００℃、パッド材が１７００℃〜２５００℃の範囲で１時間以上熱処理を行い、ディスク材のＶｆとパッド材のＶｆとの比が１：１．２〜２．５、好ましくは、１：１．５〜２とする。好ましくは、ディスク材のＶｆが４〜５５％、パッド材のＶｆが５〜６５％、さらに好ましくはディスク材のＶｆ１５〜３０％、パッド材３５〜５０％のＣ／Ｃを使用する。
【０００７】
そしてかかる上述の方法で得られた、本発明のブレーキ摺動部を組み込むことにより、耐摩擦特性、制動トルク、摩擦係数等の優れたカーボンブレーキを得ることができる。
【０００８】
【実施例】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、下記実施例によって限定されるものではない。
〔実施例１〕
３０ｍｍ長のピッチ系炭素繊維束を解繊し、二次元ランダムに配向したシートを得る。このシートへエタノールで希釈したフェノール樹脂を含浸させた後乾燥し、フェノール樹脂を含浸したシートを作製した。このシートを金型内へ積層し、２５０℃にて加圧成形し、ディスク及びパッド材の成形体を得た。この成形体を加熱炉で２０００℃まで焼成した後、ピッチを含浸した後、加熱炉で１０００℃で焼成した。さらに同様の含浸−焼成の操作を再度繰り返し、その後にディスク材は２０００℃の熱処理、パッド材は１８００℃の熱処理を行って、それぞれＶｆ≒２０％、パッド材としてＶｆ≒４０％のＣ／Ｃを得た。
【０００９】
慣性式摩擦試験機によって摺動面速度１０〜２５ｍ／ｓ、面圧はいずれも２４ｋｇ／ｃｍ² で試験を行い、摩擦係数、０．０５秒における制動トルク（ｋｇ・ｍ）、摩耗量（×１０^-4ｍｍ／ｓｔｏｐ／ｓｕｒｆａｃｅ）を測定した。その結果を表１に示す。実施例１は表中の比較例１に比べて優れた摩擦特性を示した。
【００１０】
〔比較例１〕
Ｖｆ≒４０％の同質のＣ／Ｃをディスク材とパッド材として用いて、実施例１と同様の試験を行った結果を表１に示す。実施例１に比べていずれの条件においても摩擦係数、制動トルクが低く、また摩耗量も摺動面速度１８ｍ／ｓの条件におけるパッド材を除いて多くなった。
【００１１】
【表１】

【００１２】
【発明の効果】
以上述べたように、本発明にかかるブレーキ摺動部は、従来のブレーキ摺動部に比べて摩擦係数、制動トルク、耐摩耗性に優れたブレーキ摺動部である。

Claims (7)

1. 炭素繊維強化炭素複合材（以下Ｃ／Ｃという）で形成されたディスクおよびパッドからなるブレーキ摺動部において、(1)ディスクを形成するＣ／ＣのＶｆ（炭素繊維体積含有率）とパッドを形成するＣ／ＣのＶｆとの比が１：１．２〜２であって、且つ、(2)ディスクを形成するＣ／Ｃとパッドを形成するＣ／Ｃは少なくとも１４００℃以上の温度で、かつ前者は後者よりも１００℃以上高い温度で最終熱処理されたものであることを特徴とするブレーキ摺動部。
2. ディスクを形成するＣ／ＣのＶｆが４〜５５％、パッドを形成するＣ／ＣのＶｆが５〜６５％であって、且つディスク材が１５００℃〜２８００℃、パッド材が１４００℃〜２７００℃の範囲で最終熱処理されたものである請求項１記載のブレーキ摺動部。
3. ディスクを形成するＣ／ＣのＶｆが１５〜３０％、パッドを形成するＣ／ＣのＶｆが３５〜５０％であって、且つディスク材が１８００℃〜２６００℃、パッド材が１７００℃〜２５００℃の範囲で最終熱処理されたものである請求項１記載のブレーキ摺動部。
4. ディスクを形成するＣ／Ｃがパッドを形成するＣ／Ｃよりも４００〜８００℃高い温度で最終熱処理されたものであることを特徴とする請求項１ないし３のいずれかに記載のブレーキ摺動部。
5. 最終熱処理温度で１時間以上の熱処理を経たものであることを特徴とする請求項１ないし４のいずれかに記載のブレーキ摺動部。
6. Ｃ／Ｃが、多数本の単繊維からなる長さ３〜１００ｍｍの炭素繊維束を開繊して２次元ランダムのシートとし、これにマトリックス材を含浸して１００〜５００℃の温度で加圧成形したものを、８００〜２８００℃で焼成する工程を経て製作されたものであることを特徴とする請求項１ないし５のいずれかに記載のブレーキ摺動部。
7. 請求項１ないし６のいずれかに記載のブレーキ摺動部を組み込んだカーボンブレーキ。