JP3793326B2 - ヒートポンプ式自動車用空気調和装置 - Google Patents
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Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、エンジン冷却水(温水)により加熱された冷媒を利用して車室内の暖房を行うようにしたヒートポンプ式自動車用空気調和装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
例えば、最近の一部の高級車や比較的車室内空間が大きいワンボックスカーなどには、室内全体について快適な空調状態が得られるよう、車室内の前方領域(例えば、前席部分)はフロントユニットにより、後方領域(例えば、第2席、第3席などの後席部分)はリヤユニットによりそれぞれ独立に空気調和するデュアルカーエアコンと通称される自動車用空気調和装置が搭載されている。
【0003】
この種の自動車用空気調和装置として、例えば、暖房運転時において、フロントユニットは、ヒータコアを設けて、エンジン冷却水を熱源として利用するが、リヤユニットは、サブコンデンサと称する室内熱交換器を設けて、コンプレッサにより圧縮された高温高圧の冷媒を熱源として利用するようにしたシステムがある。なお、この種の装置は、冷媒の循環過程(冷凍サイクル)において低温の外部空気から熱を汲み上げて車室内を暖房することから、ヒートポンプ式の自動車用空気調和装置と称されている。
【0004】
ところが、この種の装置で暖房運転をする場合、例えば、冬季の朝のように外気温度が低いときには、起動時にエンジン冷却水の温度が低く、また、冷媒の温度の上昇速度も俊敏でないため、運転開始と同時に暖かい空気が吹き出されるような状態になりにくく、いわゆる即暖性が不十分となり、また、暖房性能も不足気味となるおそれがある。特に、ディーゼルエンジンを搭載した車室内空間の大きいワンボックスカーでは、通常のガソリンエンジン車と比べてエンジン冷却水の温度上昇が遅く、しかも広い空間を暖房しなければならないことから、即暖性、暖房性能ともに不足する傾向がある。さらに、最近では、排気ガス対策および省エネルギー対策として効率の良い直噴エンジン(ガソリン、ディーゼル)が開発中で、すでに一部は実用化されているところであるが、このような直噴エンジン搭載車の場合には、放熱量の低下に伴うエンジン冷却水の温度の低下(低水温化)によって、慢性的に暖房不足を来すおそれがある。
【0005】
そこで、本願出願人は、サブエバポレータと称する室外熱交換器を設け、このサブエバポレータにおいてエンジン冷却水の熱を利用してコンプレッサへの帰還冷媒を加熱し、エンタルピーが増加したより高温の冷媒を用いて、より高い暖房性能を発揮するようにしたヒートポンプ式自動車用空気調和装置を提案した(例えば、特願平7−271621号参照)。さらに、この技術を前提として、エンジンの直噴化による低水温化に対応すべく、前後席ともヒートポンプシステムとした自動車用空気調和装置を提案した(例えば、特願平9−90854号参照)。
【0006】
なお、暖房不足といった上記の事情は、デュアルカーエアコンの場合に限られるわけではなく、一つのユニットのみを持った通常のシングルタイプのヒートポンプ式カーエアコンにも当てはまるため、サブエバポレータを備えたシングルタイプのヒートポンプ式自動車用空気調和装置についても現在開発されているところである。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
このようなサブエバポレータを備えたヒートポンプ式自動車用空気調和装置においては、暖房運転安定時あるいは車両走行時にサイクル圧力が十分上昇すると、サブエバポレータへの温水流量を制御して、冷凍サイクルの保護を図るとともに吹出し温度を一定に維持するようにしている。このとき、コンプレッサの能力(仕事量)やエンジン冷却水の温度が上昇し過ぎると、コンプレッサ吐出圧力が上昇することがあり、信頼性の面からこれを防止する必要がある。
【0008】
すなわち、コンプレッサ吐出圧力が上昇したときには、冷凍サイクル(特にコンプレッサ)を保護するため、その吐出圧力に応じてコンプレッサをON−OFFする制御が一般的に行われているところであり、上記したヒートポンプ式自動車用空気調和装置においても、吐出圧力上昇時のコンプレッサ保護の方策を講じておくべきであることは当然である。
【0009】
そこで、この点につき、本願出願人は、従来から一般的に行われているコンプレッサのON−OFF制御に加えて、このコンプレッサON−OFF制御を行う前段階において、サブエバポレータ用のウォータバルブのON−OFF制御を行う技術を提案した(特願平8−236637号参照)。これにより、コンプレッサのON−OFF頻度が減少してドライバビリティーの向上と快適性の維持(吹出し温度の変化の抑制)とを図りつつ圧力上昇からコンプレッサを保護することが可能となる。
【0010】
しかしながら、実験の結果、このようにサブエバポレータへの温水流量調整をウォータバルブのON−OFFのみの制御で行う場合には、サイクル圧力やサイクル温度の上昇が急激であり、瞬間的に所定の制御値そのものを超えてしまう場合(オーバーシュート状態)があることがわかった(図8の流量制限なしの領域参照)。したがって、信頼性のより一層の向上を図るためには、サイクル圧力やサイクル温度の上昇代を緩和してオーバーシュートをなくし、制御値を超えないようにすることが望まれる。
【0011】
本発明は、本願出願人が現在開発中のヒートポンプ式自動車用空気調和装置における上記課題に着目してなされたものであり、信頼性のより一層の向上を図ることができるヒートポンプ式自動車用空気調和装置を提供することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、請求項1記載の発明は、冷凍サイクル内を状態変化しながら循環する冷媒の熱を利用して車室内の暖房を行うもので、前記冷凍サイクルにエンジン冷却水との熱交換によりコンプレッサに帰還する冷媒を加熱する室外エバポレータを設けてなるヒートポンプ式自動車用空気調和装置において、前記室外エバポレータを流れるエンジン冷却水の流量を無段階に調整可能な流量調整手段と、前記コンプレッサから吐出される冷媒の温度を検出する吐出温度検出手段と、前記吐出温度検出手段の出力に応じて前記流量調整手段の開度を制御して前記室外エバポレータを流れるエンジン冷却水の流量を制限する制御手段とを有することを特徴とする。
【0013】
この発明にあっては、吐出温度検出手段はコンプレッサから吐出される冷媒の温度(コンプレッサ吐出温度)を検出し、制御手段は、吐出温度検出手段の出力(コンプレッサ吐出温度)に応じて流量調整手段の開度を制御して、室外エバポレータを流れるエンジン冷却水(温水)の流量を制限する。例えば、コンプレッサ仕事量の増加などによりコンプレッサ吐出温度が上昇してサイクル圧力などが上がると、コンプレッサ吐出温度に応じて流量調整手段の開度が変化し、高温域では室外エバポレータへの温水流量が減少することになる。そして、室外エバポレータへの温水流量が少なくなると冷媒の温水からの吸熱量が減少し、サイクル圧力、サイクル温度の上昇が緩やかになるため、別途コンプレッサ吐出圧力などの制御値に基づく流量制御弁のON−OFF制御があったとしても、これによるオーバーシュートが防止され、サイクル圧力などが制御値を超えないようになる。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下、図面を使って、本発明の実施の形態を説明する。
【0015】
図1は本発明の一実施の形態に係るヒートポンプ式自動車用空気調和装置を示す概略構成図である。なお、ここでは、サブエバポレータと称する室外熱交換器を備えたヒートポンプ式のデュアルカーエアコンのうち、前後席ともに冷媒を利用して暖房を行うヒートポンプシステムを採用し(ただし、後席側については暖房のみ(除湿なし))、かつ、前席側についてはエンジン冷却水(温水)による暖房をも行いうるシステムを例示している。
【0016】
この自動車用空気調和装置は、送風機(ブロア)により選択的に取り入れた車室内外の空気(内外気)を調和して車室内の前席および後席に向かってそれぞれ吹き出すフロントユニット10とリヤユニット20とを有する。
【0017】
フロントユニット10は、そのケーシング内に通風路11が形成され、この通風路11内には、白抜き矢印で示す空気の流れ方向の下流側から順に、エンジン1の冷却水(温水)を利用して取り入れ空気を加熱するヒータコア12と、後述する冷凍サイクルを構成する室内コンデンサとしてのフロントサブコンデンサ13と、同じく冷凍サイクルを構成する通常のエバポレータ14と、前記送風機15とが配設されている。なお、図示しないが、より詳細には、フロントユニット10は、上流側から順に、インテークユニット、クーリングユニット、およびヒータユニットからなり、インテークユニットにはインテークドアと送風機15が配置され、クーリングユニットにはエバポレータ14が配置され、ヒータユニットにはフロントサブコンデンサ13とエアミックスドア16とヒータコア12が配置されている。エアミックスドア16は、ヒータコア12の前面に回動自在に設けられ、ヒータコア12を通過する空気とこれを迂回する空気との割合を調節してヒータコア12の下流域で所望温度の空気を作ったり、あるいはヒータコア12に空気が流通しないようにしている。また、ヒータユニットのヒータコア12下流側には、エアミックス後の温度調節された空気を車室内の前席に向かって吹き出すための各種吹出口が形成されている。
【0018】
一方、リヤユニット20は、そのケーシング内に通風路21が形成され、この通風路21内には、白抜き矢印で示す空気の流れ方向の下流側から順に、冷凍サイクルを構成するリヤサブコンデンサ22と、前記送風機23とが配設されている。リヤサブコンデンサ22は、当該冷凍サイクルの回路において、直列に接続されたフロントサブコンデンサ13およびエバポレータ14と並列に接続されている。なお、図示しないが、より詳細には、リヤユニット20は、上流側から順に、インテークユニットおよびヒータユニットからなり、インテークユニットにはインテークドアと送風機23が配置され、ヒータユニットにはリヤサブコンデンサ22が配置されている。ヒータユニットのサブコンデンサ22下流側には、加熱された空気を車室内の後席に向かって吹き出すための所定の吹出口が形成されている。本実施の形態では、リヤユニット20は前述のごとく暖房のみ(除湿なし)のシステムであるため、エバポレータやエアミックスドアは削除されている。
【0019】
これら両ユニット10、20の外部には、エンジン1により図示しないベルトを介して回転駆動されるコンプレッサ2と、メインコンデンサ3とが配設されている。冷凍サイクルは、これらコンプレッサ2とメインコンデンサ3、ならびに上記のフロントサブコンデンサ13、エバポレータ14、およびリヤサブコンデンサ22を、配管により、フロント用のオリフィス付き電磁弁16、ならびにリヤ用のリキッドタンク24およびオリフィス付き電磁弁25と連結し、その中に冷媒を封入して構成されている。オリフィス付き電磁弁16、25は、開閉弁としての電磁弁に冷媒膨脹用のオリフィス(例えば、 φ1.45)を内蔵したものである。
【0020】
メインコンデンサ3の入口側には回路切換弁としての四方弁4が設けられている。この四方弁4は、密閉ケースに一つの入口ポートと三つの出口ポートを設けるとともに、同ケース内に前記三つの出口ポートのうち二つの出口ポートを連通するスライド部材を設け、このスライド部材によって選択された出口ポート以外の出口ポートが入口ポートと連通するように構成されている。したがって、スライド部材の位置によって入口ポートと連通される出口ポートが選択されることになる。ここでは、四方弁4の入口ポートはコンプレッサ2の吐出側と接続され、四方弁4の三つの出力ポートは、それぞれ、メインコンデンサ3の入口、コンプレッサ2の吸入側(冷媒回収通路5)、メインコンデンサ3の出口(バイパス通路6)と接続されている。この四方弁4により、フロント側に関しては、コンプレッサ2から吐出された冷媒をメインコンデンサ3に導く冷房運転用冷媒回路(以下単に「冷房用回路」という)と、コンプレッサ2から吐出された冷媒をメインコンデンサ3のバイパス通路6に導く暖房運転用冷媒回路(以下単に「暖房用回路」という)とが切り換えられる。なお、図1では、暖房運転時の四方弁4の状態を示している。
【0021】
また、前記両ユニット10、20の外部には、ヒートポンプによる暖房性能を高めるため、コンプレッサ2の吸入側と、フロント側とリヤ側との合流点7との間の低圧側冷媒通路に、室外エバポレータ(室外熱交換器)として機能するサブエバポレータ8を設けている。このサブエバポレータ8は、内部を流通する冷媒をエンジン冷却水(温水)との熱交換により加熱する機能を有しており、いわば温水−冷媒熱交換器ともいうべきものである。
【0022】
このようなサブエバポレータ8を設けることで、たとえ低温のため空気と熱交換してもただちに暖房用として使用できないエンジン冷却水であっても、当該サブエバポレータ8において流入した冷媒と熱交換させることにより、その冷媒はエンジン冷却水が保有する熱を有効に取り込んで加熱された(つまり、エンタルピーが増加した)後、コンプレッサ2に帰還し、再度コンプレッサ2で圧縮、加圧されることになるので、コンプレッサ2から吐出される冷媒はより高温の冷媒となって、サブコンデンサ13、22に供給されることになる。その結果、サブコンデンサ13、22の放熱性能が高まり、そこで熱交換された空気はより高温となるため、より高い暖房性能が発揮され、即暖性も向上することになる。
【0023】
また、サブエバポレータ8とコンプレッサ2との間には、上記のごとく通常の温度式膨脹弁に代えて冷媒流量調整機能を持たないオリフィス付き電磁弁16を採用した関係で、余剰冷媒の貯溜と気液の分離を行いガス冷媒のみをコンプレッサ2に戻すためのアキュムレータ9が設けられている。アキュムレータ9は、冷媒を貯溜する比較的容量のある容器であるため、仮に冷媒が液状態で帰還してきても、これを気化してコンプレッサ2に戻すことができ、液圧縮によるコンプレッサ2の破損を防止することができる。
【0024】
暖房運転時、コンプレッサ2から吐出された冷媒は、通常、次の暖房用回路を通ってフロントユニット10側とリヤユニット20側の双方に流れる。このとき、フロントユニット10側とリヤユニット20側にそれぞれ冷媒を導くための二つの電磁弁16、25はどちらも開いた状態にある。すなわち、暖房運転時、コンプレッサ2から出た冷媒は、四方弁4→バイパス通路6と流れてここからフロントユニット10側とリヤユニット20側とに分岐して流れた後、サブエバポレータ8の入口(合流点7)で合流して、コンプレッサ2に帰還する。より具体的には、前者においては、バイパス通路6を流れた冷媒は、フロントサブコンデンサ13→オリフィス(付き電磁弁)16→エバポレータ14と流れた後、サブエバポレータ8→アキュムレータ9と流れて、コンプレッサ2に帰還する。また、後者においては、バイパス通路6を流れた冷媒は、リヤサブコンデンサ22→リキッドタンク24→オリフィス(付き電磁弁)25と流れた後、サブエバポレータ8→アキュムレータ9と流れて、コンプレッサ2に帰還する。なお、後席を暖房しない場合には、電磁弁25は閉じておく。
【0025】
一方、冷房運転時、コンプレッサ2から吐出された冷媒は、通常、次の冷房用回路を通ってフロントユニット10側のみに流れる。このとき、リヤユニット20側の電磁弁25は閉じた状態にある。すなわち、冷房運転時、コンプレッサ2から出た冷媒は、四方弁4→メインコンデンサ3→フロントサブコンデンサ13→オリフィス(付き電磁弁)16→エバポレータ14→サブエバポレータ8→アキュムレータ9と流れて、コンプレッサ2に帰還する。
【0026】
また、ヒータコア12の温水入口には、電磁操作式の温水バルブ31が設けられ、この温水バルブ31を開くことによって、エンジン1から流出した温水がヒータコア12へ導入されるようになっている。
【0027】
一方、図2にも示すように、サブエバポレータ8の温水入口には、流量調整手段として機能する流量制御アクチュエータ32が設けられている。この流量制御アクチュエータ32は、例えば、電気信号により開度調節可能なウォータバルブであって、サブエバポレータ8を流れる温水流量を無段階に調整しうるものである。暖房運転時においてサブエバポレータ8を作動させる場合には、流量制御アクチュエータ32を開いて、エンジン1から流出した温水をサブエバポレータ8に導入する。その際、サブエバポレータ8を流れる温水流量は、流量制御アクチュエータ32の開度を制御することによって調整される。本発明では、流量制御アクチュエータ32の開度は、コンプレッサ吐出温度(Td )に応じて制御されるようになっている。
【0028】
図3はコンプレッサ吐出温度に対する流量制御アクチュエータ32の開度の制御特性図であり、図4はコンプレッサ吐出温度に対するサブエバポレータ8への温水流量の制御特性図である。ここでは、コンプレッサ吐出温度が所定値T1 (例えば、90℃)以下のときには、流量制御アクチュエータ32の開度を全開状態にして(図3参照)、サブエバポレータ8を流れる温水の流量を制限せず(図4参照)、その状態からコンプレッサ吐出温度が上昇するにつれて流量制御アクチュエータ32の開度を小さくして(図3参照)、サブエバポレータ8を流れる温水の流量を制限する(図4参照)。そして、コンプレッサ吐出温度が所定値T2 (例えば、110℃)以上になると、流量制御アクチュエータ32の開度を全閉状態にして(図3参照)、サブエバポレータ8に温水が流れないようにしている。
【0029】
なお、参考までに従来のコンプレッサ吐出温度に対するサブエバポレータ8への温水流量特性を示すと、図9のとおりである。これによると、従来は、コンプレッサ吐出温度が高くなるほどサブエバポレータ8への温水流量が多くなっている。これは、サブエバポレータ8用のウォータバルブがON−OFFのみの制御であり、ウォータバルブをON(全開)した状態では、コンプレッサ吐出温度が高くなるほど(つまり、コンプレッサ仕事量が大きくなるほど)コンプレッサ回転数、つまりエンジン回転数が高い傾向にあるため、エンジン1から流出する温水流量が増大するからである。
【0030】
また、上記構成の冷媒回路の高圧側には、コンプレッサ2の吐出圧力(Pd )と吐出温度(Td )を検出するための吐出圧力検出手段と吐出温度検出手段がそれぞれ設けられている。吐出圧力検出手段は、例えば、ダイヤフラムを内蔵した圧力スイッチ、または、検出した圧力を電圧値に変換する圧力トランスデューサ(圧力センサ)で構成され(以下「吐出圧力センサ」という)、吐出温度検出手段は、検出した温度を電圧値に変換する温度センサなどで構成されている(以下「吐出温度センサ」という)。この吐出温度センサは、例えば、コンプレッサ2に設置されている。なお、後述するように、コンプレッサ2の吐出圧力や吐出温度が上昇すると、コンプレッサ2を保護するため、各検出値に応じて、コンプレッサ2の吐出圧力や吐出温度を下げるための各種制御が行われるようになっている。
【0031】
なお、上記したように四方弁4の出口側(出口ポートの1つ)とコンプレッサ2の吸入側との間には冷媒回収通路5が設けられているが、この冷媒回収通路5は、外気温度が低く、エンジン冷却水をただちに暖房用熱源として使用できない場合に、メインコンデンサ3などに滞留しているいわゆる寝込み冷媒をコンプレッサ2に戻し、多量の冷媒を用いて性能の高い暖房ができるようにするためのものである。
【0032】
また、図1中、40はメインコンデンサ3を冷却するための電動ファンであり、41、42、43、44、45はそれぞれ反対方向の流れを阻止するための逆止弁である。
【0033】
次に、作用を説明する。なお、ここでは、本発明が適用される暖房運転時の作用についてのみ説明する。
【0034】
暖房運転初期
暖房運転開始時に外気温度が低い場合には、エンジン冷却水の温度も低く、これをただちに暖房用として使用することはできない(ヒータコア12の場合)。また、冷媒もメインコンデンサ3などの内部に寝込んでおり、コンプレッサ2にはあまり存在していない。この状態で前後席を暖房する場合には、例えば、温水バルブ31をOFF状態、流量制御アクチュエータ32を全開状態、二つの電磁弁16、25をともに開状態、四方弁4を図1に示す状態にそれぞれ設定する。また、エアミックスドア16は、空気がヒータコア12を通過しないよう、全閉位置Aに設定する。
【0035】
この状態でコンプレッサ2をONすると、主としてメインコンデンサ3の内部に寝込んでいる冷媒が、四方弁4および冷媒回収通路5を通ってコンプレッサ2の吸入側に導かれ、回収される。
【0036】
これにより、コンプレッサ2は多量の冷媒を吐出しうる運転状態となり、コンプレッサ2から吐出された高温高圧の冷媒は、四方弁4→バイパス通路6と流れた後、分岐して、一部はフロントサブコンデンサ13→オリフィス(付き電磁弁)16→エバポレータ14とフロントユニット10側を流れ、一部はリヤサブコンデンサ22→リキッドタンク24→オリフィス(付き電磁弁)25とリヤユニット20側を流れて、合流点7で合流して、サブエバポレータ8→アキュムレータ9と流れて、コンプレッサ2に帰還する。この循環過程において、サブエバポレータ8に流入した低温低圧の冷媒は、エンジン冷却水との熱交換により加熱され、より高温となってコンプレッサ2に吸入され、再度圧縮される。これにより、コンプレッサ2に帰還し再度圧縮された冷媒は、エンタルピーが増加して(つまり、サイクルバランスが上昇して)より高温高圧となって吐出されることになる。サブコンデンサ13、22の暖房能力(放熱性能)は冷媒の温度に関係するため、このように吐出冷媒の温度が上昇することで、より高い暖房性能が発揮されることになる。また、このような傾向は時間の経過につれて増幅されることから、このようにエンジン冷却水からの熱の回収をいわばトリガーとすることで冷媒温度の迅速かつ効率的な上昇が可能となり、いわゆる即暖性も大幅に向上することになる。
【0037】
このとき、フロントユニット10内に取り込まれた空気は、エバポレータ14で除湿(冷房)され、さらにフロントサブコンデンサ13で加熱された後、流下し、所定の吹出口から車室内に吹き出される。これにより、除湿した空気を加熱する除湿暖房が実現される。また、リヤユニット20内に取り込まれた空気は、リヤサブコンデンサ22で加熱された後、流下し、所定の吹出口から車室内に吹き出され、暖房(除湿なし)が実現される。
【0038】
なお、暖房運転初期においても、例えば、急加速時などにアクセルを踏み込むなどしてエンジン1の回数数、したがってコンプレッサ2の回転数が急激に増大し、コンプレッサ1の吐出圧力が急上昇することがありうるので、コンプレッサ2保護のため、コンプレッサ2の吐出圧力を下げるための制御を行う必要があるが、このことは安定時においても同様であるため、次でまとめて説明することにする。
【0039】
暖房運転安定時
エンジン冷却水の温度がある程度上昇し、車室内の温度もある程度上昇すると、吹出し温度を一定に保つよう、サブエバポレータ8への温水流量を制御する。本案では、上記のように、流量制御アクチュエータ32の開度を制御することで、サブエバポレータ8を流れる温水流量を制御する。
【0040】
すなわち、温水安定時には、サブエバポレータ8を流れる温水流量が増大すると、コンプレッサ2の吐出圧力・温度が上昇して、吹出し温度が高くなる。この原理はすでに説明したとおりであって、サブエバポレータ8に流れる温水流量が増大すると、冷媒との熱交換量が増加するため、サブエバポレータ8出口の冷媒温度が上昇して、コンプレッサ2に吸入される冷媒温度が上昇し、この吸入冷媒温度の上昇に伴ってコンプレッサ2の吐出圧力・温度が増大する。これにより、サブコンデンサ13、22での放熱能力が高まり、吹出し温度が上昇する。逆に、サブエバポレータ8を流れる温水流量が減少すると、冷媒との熱交換量が減少するため、コンプレッサ2の吐出圧力・温度が下がり、吹出し温度が低下する。したがって、サブエバポレータ8への温水流量を制御することにより、具体的には、吹出し温度が低過ぎる場合にはサブエバポレータ8への温水流量を増加させ、吹出し温度が高過ぎる場合にはサブエバポレータ8への温水流量を減少させることにより、吹出し温度を一定(の範囲内)に維持することができる。
【0041】
また、コンプレッサ2の吐出圧力(温度)が上昇したときの保護対策として、本案では、コンプレッサ2の吐出圧力・温度に応じてコンプレッサ2のON−OFF制御と流量制御アクチュエータ32のON−OFF制御を行う。
【0042】
コンプレッサ2のON−OFF制御は、例えば、図5に示す制御特性に基づいて行われる。すなわち、コンプレッサ2は、ON状態において吐出圧力(Pd )が23kg/cm2G以上に上昇するか(同図(A)参照)または吐出温度(Td )が120℃以上に上がると(同図(B)参照)、OFFされ、OFF状態において吐出圧力が20kg/cm2G以下に下降するか(同図(A)参照)または吐出温度が90℃以下に下がると(同図(B)参照)、ON状態に戻る。
【0043】
流量制御アクチュエータ32のON−OFF制御は、例えば、図6に示す制御特性に基づいて行われる。すなわち、流量制御アクチュエータ32は、吐出圧力(Pd )が20kg/cm2G以上に上昇するか(同図(A)参照)または吐出温度(Td )が110℃以上に上がると(同図(B)参照)、全閉状態となり(OFF)、このOFF状態において吐出圧力が17kg/cm2G以下に下降するか(同図(A)参照)または吐出温度が90℃以下に下がると(同図(B)参照)、開いた(ON)状態に戻る。このON状態において流量制御アクチュエータ32がどの程度開いているかは、吐出温度による。流量制御アクチュエータ32を閉じるとサブエバポレータ8での熱交換がなくなるため、コンプレッサ2に吸入される冷媒の温度が下がり、コンプレッサ2の吐出圧力と吐出温度が低下することになる。なお、ここでは、流量制御アクチュエータ32のON−OFF制御をコンプレッサ2のON−OFF制御を行う前の段階でするようにしているが、これは、前述のように、コンプレッサ2のON−OFFの頻度を少なくしてコンプレッサ2のON−OFFによるドライバビリティーの低下などを防止するためである。
【0044】
さらに、本発明では、流量制御アクチュエータ32のON−OFF制御に伴う不具合、具体的には、前述したごとく、流量制御アクチュエータ32のON−OFF制御のみではサイクル圧力・温度の上昇が急激であり、瞬間的に制御値を超えてしまう場合(オーバーシュート)があるという不具合を解消するため、車速度に応じてサブエバポレータ8への温水流量を制限するようにしている。
【0045】
図7はかかるシステムのブロック図である。なお、ここでは、上記したコンプレッサ2および流量制御アクチュエータ32のON−OFF制御の回路も示してある。
【0046】
制御手段として機能するオートアンプ50はマイコンを内蔵しており、その入力側にはシステムスイッチ51、エアコンスイッチ52、吐出圧力検出手段としての吐出圧力センサ53、および吐出温度検出手段としての吐出温度センサ54が接続され、その出力側にはコンプレッサ2(のマグネットクラッチ)および流量制御アクチュエータ32が接続されている。システムスイッチ51は、サブエバポレータ8を用いた暖房システムを作動させるための操作スイッチであり、エアコンスイッチ52は、サブエバポレータ8を使用しない通常の冷暖房システムとして作動させるための操作スイッチである。オートアンプ50は、システムスイッチ51がONでかつエアコンスイッチ52がOFFであるとき、サブエバポレータ8を用いた暖房システムを作動させ、その中で、コンプレッサ2および流量制御アクチュエータ32のON−OFF制御、ならびに本発明に係るコンプレッサ吐出温度によるサブエバポレータ8への温水流量制限を行う。なお、サブエバポレータ8を用いた暖房システム、ならびにコンプレッサ2および流量制御アクチュエータ32のON−OFF制御についてはすでに説明してあるので、以下では、コンプレッサ吐出温度によるサブエバポレータ8への温水流量制限についてのみ説明する。
【0047】
オートアンプ50の内蔵メモリ55には、図3に示すような制御特性データが記憶されている。この制御特性データは、コンプレッサ吐出温度に対する流量制御アクチュエータ32の開度の指令データである。この場合、上記のように、コンプレッサ吐出温度が所定値T1 (90℃)以下のときには、流量制御アクチュエータ32を全開にしてサブエバポレータ8への温水流量を最大にし、所定値T2 (110℃)以上のときには、流量制御アクチュエータ32を全閉にしてサブエバポレータ8への温水流量をゼロにし、T1 以上T2 以下のときには、コンプレッサ吐出温度に応じて流量制御アクチュエータ32の開度を小さくしていきサブエバポレータ8への温水流量を徐々に減少させる(図4参照)。
【0048】
すなわち、コンプレッサ吐出温度が所定値T1 (90℃)以下のときにはサブエバポレータ8への温水流量を制限せず(つまり、最大)、流量制御アクチュエータ32のON−OFF制御によってサイクル圧力・温度などを制御する。そして、コンプレッサ回転数(エンジン回転数)の増加などによりコンプレッサ2の仕事量が増大するなどしてコンプレッサ吐出温度が上昇してサイクル圧力・温度が上がると、コンプレッサ吐出温度に応じて流量制御アクチュエータ32の開度が変化し、高温域ではサブエバポレータ8への温水流量が減少することになる。このようにサブエバポレータ8への温水流量が少なくなると冷媒の温水からの吸熱量が減少し、図8の流量制限ありの部分に示すように、サイクル圧力、サイクル温度の上昇が緩やかになるため、流量制御アクチュエータ32のON−OFF制御によるオーバーシュートが防止され、サイクル圧力などが制御値pを超えないようになる。よって、信頼性が向上する。また、図8の同部分に示すように、サイクル圧力・温度の変動が上下の制御値pとqの間に収まるようになり、吹出し温度の変動幅(ディファレンシャル)の最適化が可能となる。
【0049】
なお、図8において、例えば、サイクル圧力をコンプレッサ吐出圧力(Pd )とすれば、上限の制御値pの値は20kg/cm2Gで、下限の制御値qの値は17kg/cm2Gとなる(図6(A)参照)。また、サイクル温度をコンプレッサ吐出温度(Td )とすれば、上限の制御値pの値は100℃で、下限の制御値qの値は80℃となる(図6(B)参照)。また、これら以外に、サイクル温度としてコンプレッサ2入口での過熱度(スーパーヒート)などを考慮することも可能である。
【0050】
なお、上記した実施の形態では、後席側について暖房のみ(除湿なし)としたシステムを示したが、これに限定されるわけではなく、フロントユニット10と同様リヤユニット20内にもエバポレータを設けて除湿暖房を可能としたシステムでもよい。
【0051】
また、上記した実施の形態では、前後席をともに暖房しうるデュアルカーエアコンを例にとって説明したが、これに限定されるわけではなく、本発明は、サブエバポレータを備えたヒートポンプ式の自動車用空気調和装置であれば、シングルタイプのヒートポンプシステムを含むどのようなタイプのものにでも適用可能である。したがって、上記した実施の形態のように一つのユニット内に暖房熱源としてサブコンデンサとヒータコアの両方を備えることは、必ずしも必要ではない。
【0052】
【発明の効果】
以上述べたように、請求項1記載の発明によれば、コンプレッサ吐出温度が高くなると室外エバポレータへの温水流量を制限するので、サイクル圧力、サイクル温度の上昇が緩やかになり、オーバーシュートをしなくなるため、サイクル圧力などが制御値を超えないようになり、信頼性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の一実施の形態に係るヒートポンプ式自動車用空気調和装置を示す概略構成図である。
【図2】 サブエバポレータの回路構成を示す概略図である。
【図3】 コンプレッサ吐出温度に対する流量制御アクチュエータの開度の制御特性図である。
【図4】 コンプレッサ吐出温度に対するサブエバポレータを流れる温水流量の制御特性図である。
【図5】 コンプレッサON−OFF制御の制御特性図である。
【図6】 流量制御アクチュエータON−OFF制御の制御特性図である。
【図7】 コンプレッサ吐出温度に応じてサブエバポレータへの温水流量制限を行うシステムの制御ブロック図である。
【図8】 図6のシステムの作用効果の説明に供する図である。
【図9】 従来のコンプレッサ吐出温度に対するサブエバポレータを流れる温水流量の特性図である。
【符号の説明】
1…エンジン
2…コンプレッサ
8…サブエバポレータ(室外エバポレータ)
10…フロントユニット
12…ヒータコア
13…フロントサブコンデンサ(室内コンデンサ)
14…エバポレータ
20…リヤユニット
22…リヤサブコンデンサ
32…流量制御アクチュエータ(流量調整手段)
50…オートアンプ(制御手段)
54…吐出温度センサ(吐出温度検出手段)
【発明の属する技術分野】
本発明は、エンジン冷却水(温水)により加熱された冷媒を利用して車室内の暖房を行うようにしたヒートポンプ式自動車用空気調和装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
例えば、最近の一部の高級車や比較的車室内空間が大きいワンボックスカーなどには、室内全体について快適な空調状態が得られるよう、車室内の前方領域(例えば、前席部分)はフロントユニットにより、後方領域(例えば、第2席、第3席などの後席部分)はリヤユニットによりそれぞれ独立に空気調和するデュアルカーエアコンと通称される自動車用空気調和装置が搭載されている。
【0003】
この種の自動車用空気調和装置として、例えば、暖房運転時において、フロントユニットは、ヒータコアを設けて、エンジン冷却水を熱源として利用するが、リヤユニットは、サブコンデンサと称する室内熱交換器を設けて、コンプレッサにより圧縮された高温高圧の冷媒を熱源として利用するようにしたシステムがある。なお、この種の装置は、冷媒の循環過程(冷凍サイクル)において低温の外部空気から熱を汲み上げて車室内を暖房することから、ヒートポンプ式の自動車用空気調和装置と称されている。
【0004】
ところが、この種の装置で暖房運転をする場合、例えば、冬季の朝のように外気温度が低いときには、起動時にエンジン冷却水の温度が低く、また、冷媒の温度の上昇速度も俊敏でないため、運転開始と同時に暖かい空気が吹き出されるような状態になりにくく、いわゆる即暖性が不十分となり、また、暖房性能も不足気味となるおそれがある。特に、ディーゼルエンジンを搭載した車室内空間の大きいワンボックスカーでは、通常のガソリンエンジン車と比べてエンジン冷却水の温度上昇が遅く、しかも広い空間を暖房しなければならないことから、即暖性、暖房性能ともに不足する傾向がある。さらに、最近では、排気ガス対策および省エネルギー対策として効率の良い直噴エンジン(ガソリン、ディーゼル)が開発中で、すでに一部は実用化されているところであるが、このような直噴エンジン搭載車の場合には、放熱量の低下に伴うエンジン冷却水の温度の低下(低水温化)によって、慢性的に暖房不足を来すおそれがある。
【0005】
そこで、本願出願人は、サブエバポレータと称する室外熱交換器を設け、このサブエバポレータにおいてエンジン冷却水の熱を利用してコンプレッサへの帰還冷媒を加熱し、エンタルピーが増加したより高温の冷媒を用いて、より高い暖房性能を発揮するようにしたヒートポンプ式自動車用空気調和装置を提案した(例えば、特願平7−271621号参照)。さらに、この技術を前提として、エンジンの直噴化による低水温化に対応すべく、前後席ともヒートポンプシステムとした自動車用空気調和装置を提案した(例えば、特願平9−90854号参照)。
【0006】
なお、暖房不足といった上記の事情は、デュアルカーエアコンの場合に限られるわけではなく、一つのユニットのみを持った通常のシングルタイプのヒートポンプ式カーエアコンにも当てはまるため、サブエバポレータを備えたシングルタイプのヒートポンプ式自動車用空気調和装置についても現在開発されているところである。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
このようなサブエバポレータを備えたヒートポンプ式自動車用空気調和装置においては、暖房運転安定時あるいは車両走行時にサイクル圧力が十分上昇すると、サブエバポレータへの温水流量を制御して、冷凍サイクルの保護を図るとともに吹出し温度を一定に維持するようにしている。このとき、コンプレッサの能力(仕事量)やエンジン冷却水の温度が上昇し過ぎると、コンプレッサ吐出圧力が上昇することがあり、信頼性の面からこれを防止する必要がある。
【0008】
すなわち、コンプレッサ吐出圧力が上昇したときには、冷凍サイクル(特にコンプレッサ)を保護するため、その吐出圧力に応じてコンプレッサをON−OFFする制御が一般的に行われているところであり、上記したヒートポンプ式自動車用空気調和装置においても、吐出圧力上昇時のコンプレッサ保護の方策を講じておくべきであることは当然である。
【0009】
そこで、この点につき、本願出願人は、従来から一般的に行われているコンプレッサのON−OFF制御に加えて、このコンプレッサON−OFF制御を行う前段階において、サブエバポレータ用のウォータバルブのON−OFF制御を行う技術を提案した(特願平8−236637号参照)。これにより、コンプレッサのON−OFF頻度が減少してドライバビリティーの向上と快適性の維持(吹出し温度の変化の抑制)とを図りつつ圧力上昇からコンプレッサを保護することが可能となる。
【0010】
しかしながら、実験の結果、このようにサブエバポレータへの温水流量調整をウォータバルブのON−OFFのみの制御で行う場合には、サイクル圧力やサイクル温度の上昇が急激であり、瞬間的に所定の制御値そのものを超えてしまう場合(オーバーシュート状態)があることがわかった(図8の流量制限なしの領域参照)。したがって、信頼性のより一層の向上を図るためには、サイクル圧力やサイクル温度の上昇代を緩和してオーバーシュートをなくし、制御値を超えないようにすることが望まれる。
【0011】
本発明は、本願出願人が現在開発中のヒートポンプ式自動車用空気調和装置における上記課題に着目してなされたものであり、信頼性のより一層の向上を図ることができるヒートポンプ式自動車用空気調和装置を提供することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、請求項1記載の発明は、冷凍サイクル内を状態変化しながら循環する冷媒の熱を利用して車室内の暖房を行うもので、前記冷凍サイクルにエンジン冷却水との熱交換によりコンプレッサに帰還する冷媒を加熱する室外エバポレータを設けてなるヒートポンプ式自動車用空気調和装置において、前記室外エバポレータを流れるエンジン冷却水の流量を無段階に調整可能な流量調整手段と、前記コンプレッサから吐出される冷媒の温度を検出する吐出温度検出手段と、前記吐出温度検出手段の出力に応じて前記流量調整手段の開度を制御して前記室外エバポレータを流れるエンジン冷却水の流量を制限する制御手段とを有することを特徴とする。
【0013】
この発明にあっては、吐出温度検出手段はコンプレッサから吐出される冷媒の温度(コンプレッサ吐出温度)を検出し、制御手段は、吐出温度検出手段の出力(コンプレッサ吐出温度)に応じて流量調整手段の開度を制御して、室外エバポレータを流れるエンジン冷却水(温水)の流量を制限する。例えば、コンプレッサ仕事量の増加などによりコンプレッサ吐出温度が上昇してサイクル圧力などが上がると、コンプレッサ吐出温度に応じて流量調整手段の開度が変化し、高温域では室外エバポレータへの温水流量が減少することになる。そして、室外エバポレータへの温水流量が少なくなると冷媒の温水からの吸熱量が減少し、サイクル圧力、サイクル温度の上昇が緩やかになるため、別途コンプレッサ吐出圧力などの制御値に基づく流量制御弁のON−OFF制御があったとしても、これによるオーバーシュートが防止され、サイクル圧力などが制御値を超えないようになる。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下、図面を使って、本発明の実施の形態を説明する。
【0015】
図1は本発明の一実施の形態に係るヒートポンプ式自動車用空気調和装置を示す概略構成図である。なお、ここでは、サブエバポレータと称する室外熱交換器を備えたヒートポンプ式のデュアルカーエアコンのうち、前後席ともに冷媒を利用して暖房を行うヒートポンプシステムを採用し(ただし、後席側については暖房のみ(除湿なし))、かつ、前席側についてはエンジン冷却水(温水)による暖房をも行いうるシステムを例示している。
【0016】
この自動車用空気調和装置は、送風機(ブロア)により選択的に取り入れた車室内外の空気(内外気)を調和して車室内の前席および後席に向かってそれぞれ吹き出すフロントユニット10とリヤユニット20とを有する。
【0017】
フロントユニット10は、そのケーシング内に通風路11が形成され、この通風路11内には、白抜き矢印で示す空気の流れ方向の下流側から順に、エンジン1の冷却水(温水)を利用して取り入れ空気を加熱するヒータコア12と、後述する冷凍サイクルを構成する室内コンデンサとしてのフロントサブコンデンサ13と、同じく冷凍サイクルを構成する通常のエバポレータ14と、前記送風機15とが配設されている。なお、図示しないが、より詳細には、フロントユニット10は、上流側から順に、インテークユニット、クーリングユニット、およびヒータユニットからなり、インテークユニットにはインテークドアと送風機15が配置され、クーリングユニットにはエバポレータ14が配置され、ヒータユニットにはフロントサブコンデンサ13とエアミックスドア16とヒータコア12が配置されている。エアミックスドア16は、ヒータコア12の前面に回動自在に設けられ、ヒータコア12を通過する空気とこれを迂回する空気との割合を調節してヒータコア12の下流域で所望温度の空気を作ったり、あるいはヒータコア12に空気が流通しないようにしている。また、ヒータユニットのヒータコア12下流側には、エアミックス後の温度調節された空気を車室内の前席に向かって吹き出すための各種吹出口が形成されている。
【0018】
一方、リヤユニット20は、そのケーシング内に通風路21が形成され、この通風路21内には、白抜き矢印で示す空気の流れ方向の下流側から順に、冷凍サイクルを構成するリヤサブコンデンサ22と、前記送風機23とが配設されている。リヤサブコンデンサ22は、当該冷凍サイクルの回路において、直列に接続されたフロントサブコンデンサ13およびエバポレータ14と並列に接続されている。なお、図示しないが、より詳細には、リヤユニット20は、上流側から順に、インテークユニットおよびヒータユニットからなり、インテークユニットにはインテークドアと送風機23が配置され、ヒータユニットにはリヤサブコンデンサ22が配置されている。ヒータユニットのサブコンデンサ22下流側には、加熱された空気を車室内の後席に向かって吹き出すための所定の吹出口が形成されている。本実施の形態では、リヤユニット20は前述のごとく暖房のみ(除湿なし)のシステムであるため、エバポレータやエアミックスドアは削除されている。
【0019】
これら両ユニット10、20の外部には、エンジン1により図示しないベルトを介して回転駆動されるコンプレッサ2と、メインコンデンサ3とが配設されている。冷凍サイクルは、これらコンプレッサ2とメインコンデンサ3、ならびに上記のフロントサブコンデンサ13、エバポレータ14、およびリヤサブコンデンサ22を、配管により、フロント用のオリフィス付き電磁弁16、ならびにリヤ用のリキッドタンク24およびオリフィス付き電磁弁25と連結し、その中に冷媒を封入して構成されている。オリフィス付き電磁弁16、25は、開閉弁としての電磁弁に冷媒膨脹用のオリフィス(例えば、 φ1.45)を内蔵したものである。
【0020】
メインコンデンサ3の入口側には回路切換弁としての四方弁4が設けられている。この四方弁4は、密閉ケースに一つの入口ポートと三つの出口ポートを設けるとともに、同ケース内に前記三つの出口ポートのうち二つの出口ポートを連通するスライド部材を設け、このスライド部材によって選択された出口ポート以外の出口ポートが入口ポートと連通するように構成されている。したがって、スライド部材の位置によって入口ポートと連通される出口ポートが選択されることになる。ここでは、四方弁4の入口ポートはコンプレッサ2の吐出側と接続され、四方弁4の三つの出力ポートは、それぞれ、メインコンデンサ3の入口、コンプレッサ2の吸入側(冷媒回収通路5)、メインコンデンサ3の出口(バイパス通路6)と接続されている。この四方弁4により、フロント側に関しては、コンプレッサ2から吐出された冷媒をメインコンデンサ3に導く冷房運転用冷媒回路(以下単に「冷房用回路」という)と、コンプレッサ2から吐出された冷媒をメインコンデンサ3のバイパス通路6に導く暖房運転用冷媒回路(以下単に「暖房用回路」という)とが切り換えられる。なお、図1では、暖房運転時の四方弁4の状態を示している。
【0021】
また、前記両ユニット10、20の外部には、ヒートポンプによる暖房性能を高めるため、コンプレッサ2の吸入側と、フロント側とリヤ側との合流点7との間の低圧側冷媒通路に、室外エバポレータ(室外熱交換器)として機能するサブエバポレータ8を設けている。このサブエバポレータ8は、内部を流通する冷媒をエンジン冷却水(温水)との熱交換により加熱する機能を有しており、いわば温水−冷媒熱交換器ともいうべきものである。
【0022】
このようなサブエバポレータ8を設けることで、たとえ低温のため空気と熱交換してもただちに暖房用として使用できないエンジン冷却水であっても、当該サブエバポレータ8において流入した冷媒と熱交換させることにより、その冷媒はエンジン冷却水が保有する熱を有効に取り込んで加熱された(つまり、エンタルピーが増加した)後、コンプレッサ2に帰還し、再度コンプレッサ2で圧縮、加圧されることになるので、コンプレッサ2から吐出される冷媒はより高温の冷媒となって、サブコンデンサ13、22に供給されることになる。その結果、サブコンデンサ13、22の放熱性能が高まり、そこで熱交換された空気はより高温となるため、より高い暖房性能が発揮され、即暖性も向上することになる。
【0023】
また、サブエバポレータ8とコンプレッサ2との間には、上記のごとく通常の温度式膨脹弁に代えて冷媒流量調整機能を持たないオリフィス付き電磁弁16を採用した関係で、余剰冷媒の貯溜と気液の分離を行いガス冷媒のみをコンプレッサ2に戻すためのアキュムレータ9が設けられている。アキュムレータ9は、冷媒を貯溜する比較的容量のある容器であるため、仮に冷媒が液状態で帰還してきても、これを気化してコンプレッサ2に戻すことができ、液圧縮によるコンプレッサ2の破損を防止することができる。
【0024】
暖房運転時、コンプレッサ2から吐出された冷媒は、通常、次の暖房用回路を通ってフロントユニット10側とリヤユニット20側の双方に流れる。このとき、フロントユニット10側とリヤユニット20側にそれぞれ冷媒を導くための二つの電磁弁16、25はどちらも開いた状態にある。すなわち、暖房運転時、コンプレッサ2から出た冷媒は、四方弁4→バイパス通路6と流れてここからフロントユニット10側とリヤユニット20側とに分岐して流れた後、サブエバポレータ8の入口(合流点7)で合流して、コンプレッサ2に帰還する。より具体的には、前者においては、バイパス通路6を流れた冷媒は、フロントサブコンデンサ13→オリフィス(付き電磁弁)16→エバポレータ14と流れた後、サブエバポレータ8→アキュムレータ9と流れて、コンプレッサ2に帰還する。また、後者においては、バイパス通路6を流れた冷媒は、リヤサブコンデンサ22→リキッドタンク24→オリフィス(付き電磁弁)25と流れた後、サブエバポレータ8→アキュムレータ9と流れて、コンプレッサ2に帰還する。なお、後席を暖房しない場合には、電磁弁25は閉じておく。
【0025】
一方、冷房運転時、コンプレッサ2から吐出された冷媒は、通常、次の冷房用回路を通ってフロントユニット10側のみに流れる。このとき、リヤユニット20側の電磁弁25は閉じた状態にある。すなわち、冷房運転時、コンプレッサ2から出た冷媒は、四方弁4→メインコンデンサ3→フロントサブコンデンサ13→オリフィス(付き電磁弁)16→エバポレータ14→サブエバポレータ8→アキュムレータ9と流れて、コンプレッサ2に帰還する。
【0026】
また、ヒータコア12の温水入口には、電磁操作式の温水バルブ31が設けられ、この温水バルブ31を開くことによって、エンジン1から流出した温水がヒータコア12へ導入されるようになっている。
【0027】
一方、図2にも示すように、サブエバポレータ8の温水入口には、流量調整手段として機能する流量制御アクチュエータ32が設けられている。この流量制御アクチュエータ32は、例えば、電気信号により開度調節可能なウォータバルブであって、サブエバポレータ8を流れる温水流量を無段階に調整しうるものである。暖房運転時においてサブエバポレータ8を作動させる場合には、流量制御アクチュエータ32を開いて、エンジン1から流出した温水をサブエバポレータ8に導入する。その際、サブエバポレータ8を流れる温水流量は、流量制御アクチュエータ32の開度を制御することによって調整される。本発明では、流量制御アクチュエータ32の開度は、コンプレッサ吐出温度(Td )に応じて制御されるようになっている。
【0028】
図3はコンプレッサ吐出温度に対する流量制御アクチュエータ32の開度の制御特性図であり、図4はコンプレッサ吐出温度に対するサブエバポレータ8への温水流量の制御特性図である。ここでは、コンプレッサ吐出温度が所定値T1 (例えば、90℃)以下のときには、流量制御アクチュエータ32の開度を全開状態にして(図3参照)、サブエバポレータ8を流れる温水の流量を制限せず(図4参照)、その状態からコンプレッサ吐出温度が上昇するにつれて流量制御アクチュエータ32の開度を小さくして(図3参照)、サブエバポレータ8を流れる温水の流量を制限する(図4参照)。そして、コンプレッサ吐出温度が所定値T2 (例えば、110℃)以上になると、流量制御アクチュエータ32の開度を全閉状態にして(図3参照)、サブエバポレータ8に温水が流れないようにしている。
【0029】
なお、参考までに従来のコンプレッサ吐出温度に対するサブエバポレータ8への温水流量特性を示すと、図9のとおりである。これによると、従来は、コンプレッサ吐出温度が高くなるほどサブエバポレータ8への温水流量が多くなっている。これは、サブエバポレータ8用のウォータバルブがON−OFFのみの制御であり、ウォータバルブをON(全開)した状態では、コンプレッサ吐出温度が高くなるほど(つまり、コンプレッサ仕事量が大きくなるほど)コンプレッサ回転数、つまりエンジン回転数が高い傾向にあるため、エンジン1から流出する温水流量が増大するからである。
【0030】
また、上記構成の冷媒回路の高圧側には、コンプレッサ2の吐出圧力(Pd )と吐出温度(Td )を検出するための吐出圧力検出手段と吐出温度検出手段がそれぞれ設けられている。吐出圧力検出手段は、例えば、ダイヤフラムを内蔵した圧力スイッチ、または、検出した圧力を電圧値に変換する圧力トランスデューサ(圧力センサ)で構成され(以下「吐出圧力センサ」という)、吐出温度検出手段は、検出した温度を電圧値に変換する温度センサなどで構成されている(以下「吐出温度センサ」という)。この吐出温度センサは、例えば、コンプレッサ2に設置されている。なお、後述するように、コンプレッサ2の吐出圧力や吐出温度が上昇すると、コンプレッサ2を保護するため、各検出値に応じて、コンプレッサ2の吐出圧力や吐出温度を下げるための各種制御が行われるようになっている。
【0031】
なお、上記したように四方弁4の出口側(出口ポートの1つ)とコンプレッサ2の吸入側との間には冷媒回収通路5が設けられているが、この冷媒回収通路5は、外気温度が低く、エンジン冷却水をただちに暖房用熱源として使用できない場合に、メインコンデンサ3などに滞留しているいわゆる寝込み冷媒をコンプレッサ2に戻し、多量の冷媒を用いて性能の高い暖房ができるようにするためのものである。
【0032】
また、図1中、40はメインコンデンサ3を冷却するための電動ファンであり、41、42、43、44、45はそれぞれ反対方向の流れを阻止するための逆止弁である。
【0033】
次に、作用を説明する。なお、ここでは、本発明が適用される暖房運転時の作用についてのみ説明する。
【0034】
暖房運転初期
暖房運転開始時に外気温度が低い場合には、エンジン冷却水の温度も低く、これをただちに暖房用として使用することはできない(ヒータコア12の場合)。また、冷媒もメインコンデンサ3などの内部に寝込んでおり、コンプレッサ2にはあまり存在していない。この状態で前後席を暖房する場合には、例えば、温水バルブ31をOFF状態、流量制御アクチュエータ32を全開状態、二つの電磁弁16、25をともに開状態、四方弁4を図1に示す状態にそれぞれ設定する。また、エアミックスドア16は、空気がヒータコア12を通過しないよう、全閉位置Aに設定する。
【0035】
この状態でコンプレッサ2をONすると、主としてメインコンデンサ3の内部に寝込んでいる冷媒が、四方弁4および冷媒回収通路5を通ってコンプレッサ2の吸入側に導かれ、回収される。
【0036】
これにより、コンプレッサ2は多量の冷媒を吐出しうる運転状態となり、コンプレッサ2から吐出された高温高圧の冷媒は、四方弁4→バイパス通路6と流れた後、分岐して、一部はフロントサブコンデンサ13→オリフィス(付き電磁弁)16→エバポレータ14とフロントユニット10側を流れ、一部はリヤサブコンデンサ22→リキッドタンク24→オリフィス(付き電磁弁)25とリヤユニット20側を流れて、合流点7で合流して、サブエバポレータ8→アキュムレータ9と流れて、コンプレッサ2に帰還する。この循環過程において、サブエバポレータ8に流入した低温低圧の冷媒は、エンジン冷却水との熱交換により加熱され、より高温となってコンプレッサ2に吸入され、再度圧縮される。これにより、コンプレッサ2に帰還し再度圧縮された冷媒は、エンタルピーが増加して(つまり、サイクルバランスが上昇して)より高温高圧となって吐出されることになる。サブコンデンサ13、22の暖房能力(放熱性能)は冷媒の温度に関係するため、このように吐出冷媒の温度が上昇することで、より高い暖房性能が発揮されることになる。また、このような傾向は時間の経過につれて増幅されることから、このようにエンジン冷却水からの熱の回収をいわばトリガーとすることで冷媒温度の迅速かつ効率的な上昇が可能となり、いわゆる即暖性も大幅に向上することになる。
【0037】
このとき、フロントユニット10内に取り込まれた空気は、エバポレータ14で除湿(冷房)され、さらにフロントサブコンデンサ13で加熱された後、流下し、所定の吹出口から車室内に吹き出される。これにより、除湿した空気を加熱する除湿暖房が実現される。また、リヤユニット20内に取り込まれた空気は、リヤサブコンデンサ22で加熱された後、流下し、所定の吹出口から車室内に吹き出され、暖房(除湿なし)が実現される。
【0038】
なお、暖房運転初期においても、例えば、急加速時などにアクセルを踏み込むなどしてエンジン1の回数数、したがってコンプレッサ2の回転数が急激に増大し、コンプレッサ1の吐出圧力が急上昇することがありうるので、コンプレッサ2保護のため、コンプレッサ2の吐出圧力を下げるための制御を行う必要があるが、このことは安定時においても同様であるため、次でまとめて説明することにする。
【0039】
暖房運転安定時
エンジン冷却水の温度がある程度上昇し、車室内の温度もある程度上昇すると、吹出し温度を一定に保つよう、サブエバポレータ8への温水流量を制御する。本案では、上記のように、流量制御アクチュエータ32の開度を制御することで、サブエバポレータ8を流れる温水流量を制御する。
【0040】
すなわち、温水安定時には、サブエバポレータ8を流れる温水流量が増大すると、コンプレッサ2の吐出圧力・温度が上昇して、吹出し温度が高くなる。この原理はすでに説明したとおりであって、サブエバポレータ8に流れる温水流量が増大すると、冷媒との熱交換量が増加するため、サブエバポレータ8出口の冷媒温度が上昇して、コンプレッサ2に吸入される冷媒温度が上昇し、この吸入冷媒温度の上昇に伴ってコンプレッサ2の吐出圧力・温度が増大する。これにより、サブコンデンサ13、22での放熱能力が高まり、吹出し温度が上昇する。逆に、サブエバポレータ8を流れる温水流量が減少すると、冷媒との熱交換量が減少するため、コンプレッサ2の吐出圧力・温度が下がり、吹出し温度が低下する。したがって、サブエバポレータ8への温水流量を制御することにより、具体的には、吹出し温度が低過ぎる場合にはサブエバポレータ8への温水流量を増加させ、吹出し温度が高過ぎる場合にはサブエバポレータ8への温水流量を減少させることにより、吹出し温度を一定(の範囲内)に維持することができる。
【0041】
また、コンプレッサ2の吐出圧力(温度)が上昇したときの保護対策として、本案では、コンプレッサ2の吐出圧力・温度に応じてコンプレッサ2のON−OFF制御と流量制御アクチュエータ32のON−OFF制御を行う。
【0042】
コンプレッサ2のON−OFF制御は、例えば、図5に示す制御特性に基づいて行われる。すなわち、コンプレッサ2は、ON状態において吐出圧力(Pd )が23kg/cm2G以上に上昇するか(同図(A)参照)または吐出温度(Td )が120℃以上に上がると(同図(B)参照)、OFFされ、OFF状態において吐出圧力が20kg/cm2G以下に下降するか(同図(A)参照)または吐出温度が90℃以下に下がると(同図(B)参照)、ON状態に戻る。
【0043】
流量制御アクチュエータ32のON−OFF制御は、例えば、図6に示す制御特性に基づいて行われる。すなわち、流量制御アクチュエータ32は、吐出圧力(Pd )が20kg/cm2G以上に上昇するか(同図(A)参照)または吐出温度(Td )が110℃以上に上がると(同図(B)参照)、全閉状態となり(OFF)、このOFF状態において吐出圧力が17kg/cm2G以下に下降するか(同図(A)参照)または吐出温度が90℃以下に下がると(同図(B)参照)、開いた(ON)状態に戻る。このON状態において流量制御アクチュエータ32がどの程度開いているかは、吐出温度による。流量制御アクチュエータ32を閉じるとサブエバポレータ8での熱交換がなくなるため、コンプレッサ2に吸入される冷媒の温度が下がり、コンプレッサ2の吐出圧力と吐出温度が低下することになる。なお、ここでは、流量制御アクチュエータ32のON−OFF制御をコンプレッサ2のON−OFF制御を行う前の段階でするようにしているが、これは、前述のように、コンプレッサ2のON−OFFの頻度を少なくしてコンプレッサ2のON−OFFによるドライバビリティーの低下などを防止するためである。
【0044】
さらに、本発明では、流量制御アクチュエータ32のON−OFF制御に伴う不具合、具体的には、前述したごとく、流量制御アクチュエータ32のON−OFF制御のみではサイクル圧力・温度の上昇が急激であり、瞬間的に制御値を超えてしまう場合(オーバーシュート)があるという不具合を解消するため、車速度に応じてサブエバポレータ8への温水流量を制限するようにしている。
【0045】
図7はかかるシステムのブロック図である。なお、ここでは、上記したコンプレッサ2および流量制御アクチュエータ32のON−OFF制御の回路も示してある。
【0046】
制御手段として機能するオートアンプ50はマイコンを内蔵しており、その入力側にはシステムスイッチ51、エアコンスイッチ52、吐出圧力検出手段としての吐出圧力センサ53、および吐出温度検出手段としての吐出温度センサ54が接続され、その出力側にはコンプレッサ2(のマグネットクラッチ)および流量制御アクチュエータ32が接続されている。システムスイッチ51は、サブエバポレータ8を用いた暖房システムを作動させるための操作スイッチであり、エアコンスイッチ52は、サブエバポレータ8を使用しない通常の冷暖房システムとして作動させるための操作スイッチである。オートアンプ50は、システムスイッチ51がONでかつエアコンスイッチ52がOFFであるとき、サブエバポレータ8を用いた暖房システムを作動させ、その中で、コンプレッサ2および流量制御アクチュエータ32のON−OFF制御、ならびに本発明に係るコンプレッサ吐出温度によるサブエバポレータ8への温水流量制限を行う。なお、サブエバポレータ8を用いた暖房システム、ならびにコンプレッサ2および流量制御アクチュエータ32のON−OFF制御についてはすでに説明してあるので、以下では、コンプレッサ吐出温度によるサブエバポレータ8への温水流量制限についてのみ説明する。
【0047】
オートアンプ50の内蔵メモリ55には、図3に示すような制御特性データが記憶されている。この制御特性データは、コンプレッサ吐出温度に対する流量制御アクチュエータ32の開度の指令データである。この場合、上記のように、コンプレッサ吐出温度が所定値T1 (90℃)以下のときには、流量制御アクチュエータ32を全開にしてサブエバポレータ8への温水流量を最大にし、所定値T2 (110℃)以上のときには、流量制御アクチュエータ32を全閉にしてサブエバポレータ8への温水流量をゼロにし、T1 以上T2 以下のときには、コンプレッサ吐出温度に応じて流量制御アクチュエータ32の開度を小さくしていきサブエバポレータ8への温水流量を徐々に減少させる(図4参照)。
【0048】
すなわち、コンプレッサ吐出温度が所定値T1 (90℃)以下のときにはサブエバポレータ8への温水流量を制限せず(つまり、最大)、流量制御アクチュエータ32のON−OFF制御によってサイクル圧力・温度などを制御する。そして、コンプレッサ回転数(エンジン回転数)の増加などによりコンプレッサ2の仕事量が増大するなどしてコンプレッサ吐出温度が上昇してサイクル圧力・温度が上がると、コンプレッサ吐出温度に応じて流量制御アクチュエータ32の開度が変化し、高温域ではサブエバポレータ8への温水流量が減少することになる。このようにサブエバポレータ8への温水流量が少なくなると冷媒の温水からの吸熱量が減少し、図8の流量制限ありの部分に示すように、サイクル圧力、サイクル温度の上昇が緩やかになるため、流量制御アクチュエータ32のON−OFF制御によるオーバーシュートが防止され、サイクル圧力などが制御値pを超えないようになる。よって、信頼性が向上する。また、図8の同部分に示すように、サイクル圧力・温度の変動が上下の制御値pとqの間に収まるようになり、吹出し温度の変動幅(ディファレンシャル)の最適化が可能となる。
【0049】
なお、図8において、例えば、サイクル圧力をコンプレッサ吐出圧力(Pd )とすれば、上限の制御値pの値は20kg/cm2Gで、下限の制御値qの値は17kg/cm2Gとなる(図6(A)参照)。また、サイクル温度をコンプレッサ吐出温度(Td )とすれば、上限の制御値pの値は100℃で、下限の制御値qの値は80℃となる(図6(B)参照)。また、これら以外に、サイクル温度としてコンプレッサ2入口での過熱度(スーパーヒート)などを考慮することも可能である。
【0050】
なお、上記した実施の形態では、後席側について暖房のみ(除湿なし)としたシステムを示したが、これに限定されるわけではなく、フロントユニット10と同様リヤユニット20内にもエバポレータを設けて除湿暖房を可能としたシステムでもよい。
【0051】
また、上記した実施の形態では、前後席をともに暖房しうるデュアルカーエアコンを例にとって説明したが、これに限定されるわけではなく、本発明は、サブエバポレータを備えたヒートポンプ式の自動車用空気調和装置であれば、シングルタイプのヒートポンプシステムを含むどのようなタイプのものにでも適用可能である。したがって、上記した実施の形態のように一つのユニット内に暖房熱源としてサブコンデンサとヒータコアの両方を備えることは、必ずしも必要ではない。
【0052】
【発明の効果】
以上述べたように、請求項1記載の発明によれば、コンプレッサ吐出温度が高くなると室外エバポレータへの温水流量を制限するので、サイクル圧力、サイクル温度の上昇が緩やかになり、オーバーシュートをしなくなるため、サイクル圧力などが制御値を超えないようになり、信頼性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の一実施の形態に係るヒートポンプ式自動車用空気調和装置を示す概略構成図である。
【図2】 サブエバポレータの回路構成を示す概略図である。
【図3】 コンプレッサ吐出温度に対する流量制御アクチュエータの開度の制御特性図である。
【図4】 コンプレッサ吐出温度に対するサブエバポレータを流れる温水流量の制御特性図である。
【図5】 コンプレッサON−OFF制御の制御特性図である。
【図6】 流量制御アクチュエータON−OFF制御の制御特性図である。
【図7】 コンプレッサ吐出温度に応じてサブエバポレータへの温水流量制限を行うシステムの制御ブロック図である。
【図8】 図6のシステムの作用効果の説明に供する図である。
【図9】 従来のコンプレッサ吐出温度に対するサブエバポレータを流れる温水流量の特性図である。
【符号の説明】
1…エンジン
2…コンプレッサ
8…サブエバポレータ(室外エバポレータ)
10…フロントユニット
12…ヒータコア
13…フロントサブコンデンサ(室内コンデンサ)
14…エバポレータ
20…リヤユニット
22…リヤサブコンデンサ
32…流量制御アクチュエータ(流量調整手段)
50…オートアンプ(制御手段)
54…吐出温度センサ(吐出温度検出手段)
Claims (1)
- 冷凍サイクル内を状態変化しながら循環する冷媒の熱を利用して車室内の暖房を行うもので、前記冷凍サイクルにエンジン冷却水との熱交換によりコンプレッサ(2) に帰還する冷媒を加熱する室外エバポレータ(8) を設けてなるヒートポンプ式自動車用空気調和装置において、
前記室外エバポレータ(8) を流れるエンジン冷却水の流量を無段階に調整可能な流量調整手段(32)と、
前記コンプレッサ(2) から吐出される冷媒の温度を検出する吐出温度検出手段(54)と、
前記吐出温度検出手段(54)の出力に応じて前記流量調整手段(32)の開度を制御して前記室外エバポレータ(8) を流れるエンジン冷却水の流量を制限する制御手段(50)と、
を有することを特徴とするヒートポンプ式自動車用空気調和装置。
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JP19589297A JP3793326B2 (ja) | 1997-07-22 | 1997-07-22 | ヒートポンプ式自動車用空気調和装置 |
Applications Claiming Priority (1)
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-
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- 1997-07-22 JP JP19589297A patent/JP3793326B2/ja not_active Expired - Fee Related
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