JP3785652B2 - ヘキサフルオロプロピレンオキシドとヘキサフルオロプロピレンの分離方法 - Google Patents

ヘキサフルオロプロピレンオキシドとヘキサフルオロプロピレンの分離方法 Download PDF

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【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、本質的にヘキサフルオロプロピレンオキシド(以下、HFPOと記す。)とヘキサフルオロプロピレン(以下、HFPと記す)からなる混合物から高純度のHFPOを分離する方法に関する。また、本発明は、HFPを分離する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
HFPOは、各種フッ素化合物、たとえばフッ素系樹脂やエラストマーの中間体であるヘキサフルオロアセトン、パーフルオロアルキルビニルエーテルなどの原料として重要な化合物である。またそのオリゴマーは潤滑油や熱媒油等に、広く使用されている。
【0003】
HFPOの製造法としては、従来より種々の方法が知られており、一般には、HFPを酸化して製造する方法が用いられている。酸化方法としては、分子状酸素、次亜塩素酸塩、有機過酸化物などの酸化剤を使用する方法や、電解酸化法等が知られている。
【0004】
しかし、従来の酸化方法では、いずれの方法においても未反応のHFPが残存する問題があり、生成物はHFPOとHFPの混合物として得られる。したがって、高純度のHFPOを得るには、該混合物からHFPOを分離することが必要である。また、HFPOを効率良く製造するためには、未反応のHFPを再利用するために分離回収して酸化工程へ再循環することが必要である。
【0005】
しかしHFPOとHFPの各々を蒸留分離しようとする場合、HFPとHFPOの沸点は、それぞれ、−29.4℃と−27.4℃と近接しているために蒸留分離は困難である問題がある。また、混合物中に存在するHFPに臭素を付加して二臭化物とし、これを蒸留分離することも試みられたが、この方法では、未反応HFPの再利用はできない問題がある。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、上記の問題を解決する方法として、本質的にHFPとHFPOからなる混合物を抽出蒸留により分離する方法が提案されている。
【0007】
抽出蒸留の抽出媒体としては、特公昭42−14933に、置換基が炭素数1〜4のアルキル基またはアルコキシ基である1〜3置換のベンゼン化合物、エーテルのアルキル基が炭素数1〜2個であるエチレングリコールまたはジエチレングリコールのジアルキルエーテル、アルキル基の炭素数が1〜4のジアルキルカーボネート、四塩化炭素、クロロホルムが提案されている。
【0008】
また、特開昭53−21109には、2個以上の炭素原子を含む塩素化炭化水素、または1個以上のアルキル基(3個以上の炭素を含み、分岐している)を含むジアルキルエーテルが、特公昭54−29485には1,2−ジクロロエタンが、特開昭57−158773には塩化メチレンが、提案されている。
【0009】
しかしこれらの抽出媒体は、可燃性物質(ジメトキエタン、トルエン、ジアルキルエーテル、1,2−ジクロロエタン等)であったり、オゾン層保護法に基づく規制物質(四塩化炭素等)として1996年以降使用できなくなる物質であるという問題がある。また、塩化メチレン、クロロホルム等は、抽出媒体としてリサイクル使用ができるほど安定性が高くない問題がある。
【0010】
本発明者は、抽出蒸留によって高純度のHFPOとHFPを得るための抽出媒体として、以下の(1)〜(8)の条件について検討した。
【0011】
(1)抽出媒体として充分な相対揮発度を有する物質であること。
(2)HFP、HFPOと共沸混合物を形成しない物質であること。
(3)環境への影響が小さく、特にオゾン層破壊を起こす可能性が低い物質であること。
(4)抽出媒体がHFP、HFPOと反応しにく、安定剤を必要としないこと。
(5)加熱・冷却を含む条件下で、液体として存在し、リサイクル使用に耐えられる安定性を有すること。
(6)安価であり、入手が容易なこと。
(7)人体への安全性が確認されていること。
(8)不燃性である(または、引火点をもたない)こと。
【0012】
すなわち、本発明の目的は、抽出媒体として安価に入手でき、従来の抽出媒体と同等の分離効果を有するという経済的な条件だけでなく、使用条件下で安定かつ難燃性であり、かつ、環境に対しての影響が小さく、人体に対しても安全であるという経済的・実用的な条件および環境上の条件において優れた抽出媒体を探索・選定することにある。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明は、本質的にヘキサフルオロプロピレンオキシドとヘキサフルオロプロピレンからなる混合物に、下記一般式(1)で表される含水素ハロゲン化炭化水素の少なくとも1種を接触させて抽出蒸留を行うことにより、ヘキサフルオロプロピレンオキシドを分離回収し、つぎにヘキサフルオロプロピレンを含む含水素ハロゲン化炭化水素を加熱してヘキサフルオロプロピレンを発生させ回収することを特徴とする、ヘキサフルオロプロピレンオキシドとヘキサフルオロプロピレンの分離方法である。
【0014】
【化3】
na Clbc (1)
【0015】
ただし、式(1)において、nは2〜6の整数、aは1≦a≦n+1を満たす整数、bは1≦b≦2nを満たす整数、cは1≦c≦2nを満たす整数であり、a+b+c=2n+2である。
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
本質的にHFPOとHFPからなる混合物の入手経路については、特に限定されない。通常の場合は、HFPを、分子状酸素、次亜塩素酸塩、有機過酸化物などの酸化剤によって酸化して、または、電解酸化法によって酸化してHFPOを製造する際の生成物が挙げられる。
【0017】
該混合物におけるHFPOとHFPの割合についても、特に限定されず、いずれの割合であってもよい。たとえば、HFPを酸化してHFPOを製造する際の生成物を用いる場合の割合は、HFPOの1重量部に対しHFPの0.1〜10重量部程度である。本質的にHFPOとHFPからなる混合物は、HFPOおよびHFPのみからなるのが好ましいが、少量の他の化合物を含んでいてもよい。
【0018】
本発明においては、本質的にHFPOとHFPからなる混合物に、一般式(1)で表される含水素ハロゲン化炭化水素(以下、含水素ハロゲン化炭化水素(1)と記す。)の少なくとも1種を接触させる。
【0019】
本発明の、含水素ハロゲン化炭化水素(1)は、実用性に優れた抽出媒体である。すなわち、含水素ハロゲン化炭化水素(1)は、分子中に1個以上の水素原子を含む構造を有することから、1996年以降に使用が規制される特定フロン等には含まれない化合物である。また、オゾン層破壊を起こす可能性が低いため、環境への影響が小さい化合物であり、分子中の水素数が炭素数+1以下であることから、不燃性または燃焼範囲を有していても引火点をもたない化合物である。さらに、含水素ハロゲン化炭化水素(1)は、抽出媒体としても充分な相対揮発度を有する化合物である。
【0020】
本発明の含水素ハロゲン化炭化水素(1)としては、ジクロロフルオロエタン類、ジクロロトリフルオロエタン類、またはジクロロペンタフルオロプロパン類が好ましい。また、含水素ハロゲン化炭化水素(1)は、1種または2種以上を使用でき、通常の場合は1種が好ましい。
【0021】
含水素ハロゲン化炭化水素(1)の特に好ましい具体例を以下に挙げるがこれらに限定されない。
1,1−ジクロロ−1−フルオロエタン(R−141b)、2,2−ジクロロ−1,1,1−トリフルオロエタン(R−123)、1,2−ジクロロ−1,1,2−トリフルオロエタン(R−123a)、3,3−ジクロロ−1,1,1,2,2−ペンタフルオロプロパン(R−225ca)、1,3−ジクロロ−1,1,2,2,3−ペンタフルオロプロパン(R−225cb)など。
【0022】
本発明においては、本質的にHFPOとHFPからなる混合物に、含水素ハロゲン化炭化水素(1)の少なくとも1種を接触させることによって、HFPOを分離し回収する。つぎにHFPを含む含水素ハロゲン化炭化水素(1)を加熱することにより、HFPを発生させ回収する。
【0023】
本質的にHFPOとHFPからなる混合物に、含水素ハロゲン化炭化水素(1)の少なくとも一種を接触させる操作方法としては、特に限定されない。しかし、工業的に実施する場合には、以下の方法で連続的に実施するのが好ましい。
【0024】
すなわち、20〜80段の理論段数を有する蒸留塔を準備し、該蒸留塔の中段に本質的にHFPOとHFPからなる混合物を供給する。そして、蒸留塔頂付近に含水素ハロゲン化炭化水素(1)を供給し、上部から下部へ流す。含水素ハロゲン化炭化水素(1)により少なく溶解するHFPOは、濃縮された状態で蒸留塔頂部より除かれる。一方、HFPに富んだ含水素ハロゲン化炭化水素(1)は、理論段数が通常10〜50段の別の蒸留塔に導かれ、HFPと抽出媒体とに分離される。
【0025】
別の蒸留塔で分離した含水素ハロゲン化炭化水素(1)は、再び冷却されて、吸収塔の頂部に再循環する。蒸留塔の形式は、充填塔型または泡鐘塔型が好ましい。
【0026】
HFPとHFPOの混合物に接触させる含水素ハロゲン化炭化水素(1)の量は、HFPとHFPOの混合物の1重量部に対して1〜1000重量部程度が好ましく、特に5〜50重量部程度が好ましい。
【0027】
本質的にHFPOとHFPからなる混合物に、含水素ハロゲン化炭化水素(1)を接触させる際の圧力は特に限定されず、最大圧力がHFPとHFPOの液化圧力未満であればよく、通常は、0.5〜10気圧程度(絶対圧) が好ましい。また、温度も特に限定されず、使用する含水素ハロゲン化炭化水素(1)によって異なるものであり、通常は−20〜150℃程度である。
【0028】
また、含水素ハロゲン化炭化水素(1)を加熱してHFPを発生させる際の圧力および温度も特に限定されず、温度は、含水素ハロゲン化炭化水素(1)の還流温度程度が好ましい。
【0029】
【実施例】
以下に、本発明の実施例(例1〜4)および比較例(例5〜10)を挙げて具体的に説明するが、これらによって本発明は限定されない。なお、以下の例においては、抽出溶媒としての有効性をHFPとHFPOの相対揮発度、リサイクル時の安定性をpH試験紙による溶媒酸分発生の有無、安全性を引火点を用いて評価した。
【0030】
[相対揮発度の測定方法]
オスマー型の加圧平衡蒸留装置を用いて、表1に示す量のHFP、HFPO、およびR−141bなどの抽出媒体を仕込み、釜を加熱し、3〜6時間循環させた。その後、気相部の凝縮液と釜の液相部分の液を採取し、ガスクロマトグラフにより、HFPOとHFPのモル比を測定し、HFPに対するHFPOの相対揮発度を求めた。
【0031】
[例1]
オスマー型の加圧平衡蒸留装置を用いて、R−141bの存在下に、HFPおよびHFPOの気液平衡を液相中のHFPOモル分率0.35で求めた結果、相対揮発度は1.29であった。
【0032】
抽出蒸留システムは、図1に示すように、抽出蒸留塔と溶剤回収塔の2塔から構成されるものを用いた。抽出蒸留塔はさらに、溶剤回収部、濃縮部、回収部の3つに分割される。
【0033】
溶剤回収部の段数約5段、濃縮部の段数約11段、回収部約9段の蒸留塔に、HFPOとHFPの1:1モル比混合物を濃縮部下部から毎時150gで連続的に供給し、また、溶剤回収部下部よりR−141bを毎時5800g送り込み、塔底より毎時5872g、塔頂より毎時78gで連続的に抜き出し、還流比10に制御しつつ抽出蒸留を行った。このときの系内の圧力は2.7kgG/cm2 であり、塔頂温度は7℃、塔底温度は75℃であった。
【0034】
塔頂と塔底から試料を採取して分析した結果、抽出媒体を除くHFPOとHFPのモル分率で、塔頂からは89%のHFPOが得られ、塔底からは90%のHFPが得られた。
【0035】
塔底より得られる高濃度のHFPをモル分率で1%溶解しているR−141bを約8段の段数をもつ溶剤回収塔の下から第3段目に供給し、還流比を10に制御しながら回収蒸留を行った。このとき系内の圧力は1.5kgG/cm2 であり、塔頂温度は−8℃、塔底温度は62℃であった。
【0036】
塔頂と塔底から試料を採取してガスクロマトグラフで分析した結果、塔頂からはモル分率で99.999%以上の純度でHFPとHFPOの混合物が毎時72gで得られ、塔底からはモル分率で99.9%以上のR−141bが毎時5800gで得られた。このR−141bに酸分の発生は認められなかった。得られたR−141bを抽出蒸留塔へ再循環させた。
【0037】
[例2〜4]
表1に示す抽出媒体をそれぞれ用いて相対揮発度を求めた。また、例1と同一の装置および方法で抽出蒸留を行った。結果を表1に示す。抽出媒体は、いずれも引火点を持たないものである。
【0038】
[例5〜10]
表1に示す抽出媒体をそれぞれ用いて相対揮発度を求めた。また、例1と同一の装置および方法で抽出蒸留を行った。結果を表1に示す。四塩化炭素は、オゾン層破壊の疑いがある化合物として、使用が規制されている。また1,2−ジクロロエタン、トルエン、ジイソプロピルエーテルは、いずれも引火点を有する化合物である。
【0039】
【表1】
Figure 0003785652
【0040】
【発明の効果】
本発明によれば、従来の抽出媒体と同様の相対揮発度を有する抽出媒体によりHFPOおよびHFPの抽出蒸留ができる。本発明の抽出媒体は安定剤を添加しなくても安定であり、HFPOおよびHFPと反応するおそれもなく、分離効果にも優れ、引火点の問題もない。また、容易に入手でき、かつ環境に対しての影響の少ない化合物であり、規制を受けていないものである。したがって、本発明は実用的であり、操作が容易で、分離効果にも優れた方法である。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例の抽出蒸留システムのプロセスフローチャート

Claims (4)

  1. 本質的にヘキサフルオロプロピレンオキシドとヘキサフルオロプロピレンからなる混合物に、下記一般式(1)で表される含水素ハロゲン化炭化水素の少なくとも1種を接触させて抽出蒸留を行うことにより、ヘキサフルオロプロピレンオキシドを分離回収し、つぎにヘキサフルオロプロピレンを含む含水素ハロゲン化炭化水素を加熱してヘキサフルオロプロピレンを発生させ回収することを特徴とする、ヘキサフルオロプロピレンオキシドとヘキサフルオロプロピレンの分離方法。
    Figure 0003785652
    ただし、式(1)において、nは2〜6の整数、aは1≦a≦n+1を満たす整数、bは1≦b≦2nを満たす整数、cは1≦c≦2nを満たす整数であり、a+b+c=2n+2である。
  2. 本質的にヘキサフルオロプロピレンオキシドとヘキサフルオロプロピレンからなる混合物に、下記一般式(1)で表される含水素ハロゲン化炭化水素の少なくとも1種を接触させて抽出蒸留を行うことにより、ヘキサフルオロプロピレンオキシドを分離回収することを特徴とする、ヘキサフルオロプロピレンオキシドの分離方法。
    Figure 0003785652
    ただし、式(1)において、nは2〜6の整数、aは1≦a≦n+1を満たす整数、bは1≦b≦2nを満たす整数、cは1≦c≦2nを満たす整数であり、a+b+c=2n+2である。
  3. 一般式(1)で表される含水素ハロゲン化炭化水素が、ジクロロフルオロエタン類、ジクロロトリフルオロエタン類、または、ジクロロペンタフルオロプロパン類である請求項1または2に記載の分離方法。
  4. 一般式(1)で表される含水素ハロゲン化炭化水素が、1,1−ジクロロ−1−フルオロエタンである請求項1または2に記載の分離方法。
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