JP3778529B2 - 帯電防止性アクリル系合成繊維及びその製造法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、衣料用、インテリア用、産業用の用途に供して十分な帯電防止性を有しており、しかもこの効果を永続して有する帯電防止性に優れたアクリル系合成繊維及びその製造法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
アクリル系合成繊維は、柔軟な肌触り、保温性、高収縮性、形態安定性、耐候性、高染色性等の優れた特徴を有しており衣料、インテリア等の分野に大量に使用されている。しかし、この繊維は、天然繊維の有する吸湿性や、特に帯電防止性に乏しく、衣服の着用時には静電気が帯電しやすくその放電により不快感を与えている。特に乾燥した雰囲気では静電気の帯電は激しく、該繊維の衣料品の着脱時に、静電気の放電により著しい不快感を与えることが欠点となっており、この改善が望まれている。この欠点を改良することは、アクリル系合成繊維の他の特徴を助長し、快適な衣料用、インテリア用のアクリル系合成繊維を提供することになる。
【0003】
この静電気の帯電を防止するために、従来より多くの努力がなされてきた。例えば、特公昭34−4292号公報には、エチレンオキサイド鎖を分子中に有する単量体1〜15モル%とアクリロニトリルとの共重合体からなるアクリル系合成繊維が開示されている。このアクリル系合成繊維は、繊維を構成する重合体の主鎖にエチレングリコール鎖がグラフトされた構造の重合体であり、該重合体の溶剤に対する溶解性が必ずしも十分ではなく、この点で繊維の製造に問題がある。また、帯電防止性に寄与するエチレングリコール鎖が繊維を構成する主鎖に対して分散して存在しており、帯電防止性が十分なものでない、という問題点があり、また、この帯電防止性は水による洗濯により徐々に失われ、その耐久性に劣るものである。
【0004】
特公昭46−7214号公報には、アクリロニトリルを70モル%以上含有するアクリロニトリル系重合体(A)と、ポリアルキレングリコールアクリレートまたはメタクリレートとアクリロニトリルとの共重合体(B)とを混合し、ポリアルキレングリコールまたはメタクリレート成分が0.3〜10重量%になるように混合した重合体からなるアクリル系合成繊維が開示されている。このアクリル系合成繊維は、帯電防止性能を発現する(B)重合体が繊維成分中に不均一に分散して存在しているため、帯電防止性能が十分なものではない。また、重合体(A)と(B)との混合による繊維は、その製造工程の延伸で繊維が切断したり、ローラへの巻き付き、或いは繊維の接着、膠着等をおこし易く、繊維製造上問題がある。更に、上記(A)と(B)との重合体を混合すると、(A)重合体からなるアクリル系合成繊維が本来有している基本的性質が変化し、アクリル系合成繊維の好ましい性質を失ってしまう欠点もある。
【0005】
特公昭38−17898号公報には、ポリエチレングリコールアミド誘導体とポリエチレングリコールエポキシ誘導体とを反応させた水溶性化合物をアクリル系合成繊維に浸漬し、乾燥後熱処理してなるアクリル系合成繊維が開示されている。このアクリル系合成繊維は、ポリエチレングリコールアミド誘導体の有するアミノ基とポリエチレングリコールエポキシ誘導体の有するエポキシ基との反応が不十分なため、架橋した樹脂の機械的強度が低く、洗濯したときにこの樹脂が繊維から脱落し、帯電防止性能の耐久性に劣る。また、アミノ基を有しているために繊維が着色する、という問題点を有している。
【0006】
更に、特公昭46−42076号公報には、ポリアルキレングリコールアクリレートまたはメタクリレート、ジビニル化合物及び重合性不飽和ビニル化合物との共重合体からなる三次元構造を有する水その他の多くの有機溶剤に不溶性の制電性処理剤及び該処理剤で処理したアクリル系合成繊維が開示されている。このアクリル系合成繊維は三次元構造を有する水不溶性の制電処理剤を繊維に付着したものであり、この帯電防止性物質は繊維の表面上にミクロな粒子として存在している。ミクロな粒子状の帯電防止性物質は繊維との結合が弱く、また該粒子相互の結合も弱いので、洗濯耐久性に乏しいという問題点を有している。
【0007】
特公昭45−40702号公報には、アクリロニトリルと0.5〜15モル%のグリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレートまたは重合性ビニル化合物の共重合体を湿式紡糸した湿潤繊維にポリエチレングリコールモノグリシジルエーテルまたはポリエチレングリコールジグリシジルエーテルを浸漬し、その後熱処理して、繊維に含まれる反応性基と浸漬された物質のエポキシ基とを反応させ、アクリル系合成繊維に永久帯電防止性を付与したアクリル系合成繊維が開示されている。ここに開示されている発明の技術上の問題点は、アクリロニトリルとグリシジルアクリレートまたはグリシジルメタクリレートとの共重合体を製造する際、エポキシ基の開環によるゲル化が起こりやすく、安定して該共重合体を製造することが困難なことである。また、この共重合体から繊維を製造する場合、延伸工程で熱の作用によりエポキシ基が開環する問題がある。更に、この発明では、帯電防止剤を膨潤している繊維に付着しているため該帯電防止剤が繊維の内部にもぐり込み、そのため帯電防止効果が十分に発揮されない等の問題点を有している。
【0008】
特公昭57−29587号公報には、アクリル系繊維製品に、アクリロニトリル2〜50重量%、ポリエチレングリコールアクリレート等のポリオキシアルキレン鎖を有する不飽和単量体30〜95重量%、分子内に重合性ビニル基とエポキシ基を有する不飽和単量体0〜20重量%およびエチレン性不飽和単量体0〜10重量%からなる共重合体を特定の塩を使用し、pH1〜8で浸漬処理するアクリル系繊維製品の帯電防止加工法が記載されている。この帯電防止加工法によれば、繊維の黄変、風合い硬化等が防止でき、帯電防止性アクリル系繊維製品が得られるが、塩析力のある無機塩によって強制的に付与させる方法であるため、繊維上での重合体の形成が十分でなく、帯電防止性が洗濯によって徐々に失われ、帯電防止性の耐久性に劣る欠点があった。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、アクリル系合成繊維の優れた物理的性質を損なうことなく、従来の帯電防止性アクリル系合成繊維の有する前記問題点を解決し、実用的に十分な帯電防止能を有し、かつ耐久性に優れた帯電防止性アクリル系合成繊維とその製造法を提供するものである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するため本発明のアクリル系合成繊維及びその製造方法は、次の通りである。
(1)アクリル系合成繊維に、アクリロニトリル15〜35重量%(以下、%は特に断らない限り重量%を表す)、一般式(1)で表される化合物50〜80%及び一般式(2)で表される化合物5〜20%を必須成分とする単量体を炭素数8以下の低級アルコールの存在下に水系媒体中で重合して得られた平均分子量5万〜60万の共重合体の水溶液を付与して、それを熱処理によって三次元構造にした重合体が付着していることを特徴とする帯電防止性アクリル系合成繊維:
【0011】
【化5】
【0012】
(ただし、R1 は水素原子またはメチル基、R2 は水素原子またはメチル基、nは15〜100の数、R3 は水素、炭素数1〜12のアルキル基及びアリール基から選ばれる一種を表す)
【0013】
【化6】
【0014】
(ただし、R4は水素原子または炭素数1〜3のアルキル基から選ばれる一種、mは1〜5の数を表す)。
(2)アクリル系合成繊維に、アクリロニトリル15〜35%、一般式(1)で表される化合物50〜80%及び一般式(2)で表される化合物5〜20%を必須成分とする単量体を炭素数8以下の低級アルコールの存在下に水系媒体中で重合して得られた平均分子量5万〜60万の共重合体を含有する溶液を浸漬し、次いで100〜200℃で熱処理し、上記共重合体のエポキシ基が開環した三次元構造を有する重合体を該繊維に付着することを特徴とする帯電防止性アクリル系合成繊維の製造法:
【0015】
【化7】
【0016】
(ただし、R1 は水素原子またはメチル基、R2 は水素原子またはメチル基、nは15〜100の数、R3 は水素、炭素数1〜12のアルキル基及びアリール基から選ばれる一種を表す)
【0017】
【化8】
【0018】
(ただし、R4 は水素原子または炭素数1〜3のアルキル基から選ばれる一種、mは1〜5の数を表す)。
以下、本発明の帯電防止性アクリル系合成繊維及びその製造法を更に詳細に説明する。
本発明のアクリル系合成繊維は、アクリロニトリル(以下、ANという)を少なくとも35%と、65%までのANと共重合可能な不飽和ビニル化合物との共重合体からなる繊維である。ANと共重合可能な他の不飽和ビニル単量体としてはアクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル類(アクリル酸メチル、アクリル酸エチル等)、メタクリル酸エステル類(メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等)、アクリルアミドまたはメタクリルアミド及びそれらのモノアルキル置換体、スチレン、ビニルアセテート、ビニルクロライド、ビニリデンクロライド、ビニルピリジン、そしてスチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、メタリルスルホン酸、及びこれらのスルホン酸の塩類、等である。
【0019】
本発明の帯電防止性アクリル系合成繊維は、上記繊維にAN15〜35%、一般式(1)で表される化合物(以下、化合物1、という)50〜80%及び一般式(2)で表される化合物(以下、化合物2、という)5〜20%を必須成分とする単量体を炭素数8以下の低級アルコールの存在下に水系媒体中で重合して得られた平均分子量5万〜60万の共重合体(以下、帯電防止剤、という)を付着し、それを熱処理によって三次元構造にした重合体を付着させた繊維である。
【0020】
【化9】
【0021】
(ただし、R1 は水素原子またはメチル基、R2 は水素原子またはメチル基、nは15〜100の数、R3 は水素、炭素数1〜12のアルキル基及びアリール基から選ばれる一種を表す)
【0022】
【化10】
【0023】
(ただし、R4 は水素原子または炭素数1〜3のアルキル基から選ばれる一種、mは1〜5の数を表す)。
該帯電防止剤において、ANはこの帯電防止剤のアクリル系合成繊維に対する親和性を改良するために必要であり、その含有量は15%〜35%が必要である。ANの含有量が15%より少なくなると繊維との親和性が低下し、さらに該帯電防止剤の繊維表面上における被膜形成能が低下し、被膜強度が劣る。そのために、帯電防止性能の洗濯耐久性が劣るようになる。一方、ANの含有量が35%より多くなると帯電防止剤に含まれる一般式(1)で表わされる化合物および一般式(2)で表わされる化合物の量が少なくなり、帯電防止性能が低下する。
【0024】
一般式(1)で表される化合物は、ポリオキシエチレン鎖をその分子内に有する化合物であり、該化合物の含有量が50%より少なくなると十分な帯電防止性能が発現されなくなり、さらに該帯電防止剤の水安定性が失われやすく、繊維への付着処理が困難となる。一方一般式(1)で表わされる化合物の含有量が80%より多くなるとAN及び化合物2の含有量が相対的に少なくなり、洗濯耐久性が低下する。
【0025】
一般式(1)で表される化合物のnは、15〜100であり、nが15より少なくなると十分な帯電防止性能が得られず、100より多くなると安定して該帯電防止剤を製造することが困難となる。一般式(1)で表わされる化合物のnは30〜100が帯電防止性能が良好であり、好ましい範囲である。
一般式(1)で表される化合物の具体例は、ポリエチレングリコールアクリレート、ポリエチレングリコールメタアクリレート等のポリアルキレングリコールアクリレート及びポリアルキレングリコールメタアクリレート、メトキシポリエチレングリコールアクリレート、メトキシポリエチレングリコールメタアクリレート、エトキシポリエチレングリコールアクリレート、エトキシポリエチレングリコールメタアクリレート、ラウロキシポリエチレングリコールアクリレート、ラウロキシポリエチレングリコールメタアクリレート等のアルコキシポリアルキレングリコールアクリレート及びアルコキシポリアルキレングリコールメタアクリレートが挙げられ、単独または2種以上組み合わせて用いる。
【0026】
一般式(1)で表される化合物は、分子内にエポキシ基を有する化合物であり、該化合物の含有量が5%より少なくなると、繊維上での該帯電防止剤の反応が不十分となり耐洗濯性に劣るようになる。また該化合物の含有量が20%より多くなると帯電防止剤の製造時にエポキシ基の反応が生じやすくなり、その製造が困難になる、取扱い性が劣る、帯電防止剤の洗濯耐久性に劣る等の問題が発生する。この化合物においてmは1〜5であり、5より大きくなると帯電防止剤の水溶性が失われ、その製造が困難となる。
【0027】
本発明の帯電防止剤に含まれるエポキシ基は、該帯電防止剤をアクリル系繊維に含浸した後乾熱処理することによりこのエポキシ基が開環し、繊維上でこの帯電防止剤が反応して三次元構造を有する重合体を形成し、繊維に強固に付着するために必要である。
本発明の帯電防止性アクリル系合成繊維は、その繊維表面に強固に付着した上記帯電防止剤の三次元構造を有する重合体の被膜によって優れた帯電防止性能と耐久性能が得られるのである。繊維の表面に強固に固着した帯電防止剤の三次元構造を有する重合体を生成せしめ、もって帯電防止性および耐洗濯耐久性に優れた効果を発現させるためには、エポキシ基を含有した化合物が必須成分である。
【0028】
本発明のエポキシ基を分子内に有する一般式(2)で表される化合物の具体例は、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、及びヒドロキシエチルアクリレートのグリシジルエーテルなどが挙げられる。
さらに、本発明の上記帯電防止剤は、他の共重合性単量体を共重合することもでき、これらの単量体としては、アクリル酸、アクリル酸エステル類(アクリル酸メチル、アクリル酸エチル等)、メタクリル酸、メタクリル酸エステル類(メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等)酢酸ビニル、塩化ビニル、アクリルアミド、メタクリルアミド、スチレン等である。これらの単量体は10%以下が好ましい。
【0029】
本発明の上記帯電防止剤の平均分子量は5万より少ないと帯電防止性能の洗濯耐久性が劣るようになり、一方その分子量が60万を越えると水溶性が徐々に失われるようになるので好ましくない。この帯電防止剤は乾燥したアクリル系合成繊維に付着したとき、その表面に均一に付着し、その後の乾熱処理により繊維の表面に耐洗濯性に優れた帯電防止剤の被膜を形成することができる。
【0030】
次に、本発明の前記帯電防止剤の製造法を説明する。
本発明の帯電防止剤は、ANを15〜35%、一般式(1)で表される化合物を50〜80%、一般式(2)で表される化合物を5〜20%および必要に応じてさらに他の共重合性単量体を炭素数8以下の水溶性低級アルコールを上記単量体の総計量に対して5〜20%含有する水性媒体中で重合して製造することができる。
【0031】
本発明においては、上記単量体を重合する際、水溶性低級アルコールの存在下に行うことが不可欠の要件である。上記単量体を水溶性低級アルコールの存在下に重合して得られた帯電防止剤は、該帯電防止剤を繊維に付着し、その後熱処理したとき該帯電防止剤が水に対して不溶性となり、非常に優れた洗濯耐久性のある帯電防止作用を発現することができる。もし、水溶性低級アルコールの不存在下に前記単量体を重合した場合には、反応の制御が困難になり、一部が水不溶化し、繊維への処理を困難とすると同時に製造後の帯電防止剤の安定性も著しく損なわれる。
【0032】
これに対して、本発明では水溶性低級アルコールは前記単量体の重合反応を制御し、5万〜60万の分子量の帯電防止剤を製造することができる。そして、帯電防止剤を繊維に付着した後、熱処理によって繊維に強固に接着すると同時に、非常に優れた洗濯耐久性のある帯電防止性能を有する繊維を容易に得ることができるのである。
【0033】
この水溶性低級アルコールは重合反応の制御と同時に、各単量体の可溶化剤としての役割を果たすために、可溶化性に優れた炭素数8以下のアルコールが望ましく、例えば飽和脂肪族アルコール(メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール等)、及びエチレングリコールモノブチルエーテル等の水溶性エーテル類である。
【0034】
上記水溶性低級アルコールは単量体の総量に対して5〜20%が好ましく、5%より少ないと、前記単量体の重合の際に重合反応の制御が困難となり、20%より多くなると初期の重合反応が十分でないため、繊維に付着した後の熱処理では洗濯耐久性のある強固な皮膜を得ることができないので好ましくない。
前記単量体を重合させる際の重合開始剤は、比較的低温で容易にラジカルを発生する過酸化物、過硫酸塩、水溶性レドックス系開始剤、アゾビス系開始剤が好ましく、これらの開始剤は単量体の総計量に対して0.05〜5.0%存在させ、平均分子量が5万以上になるように重合温度、重合時間等を調節して重合する。
【0035】
上記開始剤の具体例としては、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、アゾビスイソブチロニトリル、2,2−アゾビス(2−アミジノプロパン)ハイドロクロライド等である。
次に、本発明のアクリル系合成繊維は、乾燥したアクリル系合成繊維を上記帯電防止剤を含有する溶液に浸漬し、乾燥後乾熱処理して上記帯電防止剤のエポキシ基を開環させ、三次元構造を有する重合体を繊維上に形成させることにより製造することができる。
【0036】
上記帯電防止剤は、水溶液で使用すると処理が容易であり好ましいが、有機溶剤に溶解した溶液も使用することができる。この溶液に含まれる帯電防止剤の濃度は0.1%〜10.0%、好ましくは1.0%〜3.0%であり、繊維に対する付着量は0.05〜5.0%、好ましくは0.2〜1.0%、より好ましくは0.3〜0.8%である。また、この帯電防止剤に他の紡績油剤などを混合して用いることもできる。この場合、紡績油剤等の他の成分は0〜5.0%までが好ましい。
【0037】
アクリル系合成繊維に上記帯電防止剤溶液を付着する方法は、該溶液の浴にアクリル系合成繊維を浸漬する、該溶液をアクリル系合成繊維に霧状にして噴霧する等がある。また、該帯電防止剤溶液をアクリル系合成繊維に付着する際の帯電防止剤溶液の温度は5℃〜45℃が好ましい。次に、アクリル系合成繊維を該帯電防止剤溶液に浸漬した後、過剰の帯電防止剤溶液はローラ等により絞り除去する。その後、帯電防止剤付着アクリル系合成繊維は乾燥し、100〜200℃、好ましくは130〜180℃の温度で10秒以上、好ましくは15秒〜1分熱処理する。この熱処理は、水蒸気による湿熱処理、空気或いは窒素等の不活性雰囲気による乾熱処理である。この熱処理は帯電防止剤に含まれるエポキシ基を反応し、三次元構造を有する重合体を形成させるために必要な処理である。100℃より低い温度では三次元構造を有する重合体の形成が不十分であり、一方200℃より高い温度になると繊維が着色するので好ましくない。また、熱処理時間は10秒より短いときは三次元構造を有する重合体の形成が十分に進行せず、洗濯耐久性に劣るようになるので好ましくない。
【0038】
この熱処理は、上述の湿熱処理、乾熱処理のいずれの処理であってもよいが、該帯電防止剤の反応を短時間で行わせることができる点で乾熱処理が好ましい。蒸気のような湿熱処理は、乾熱処理よりエポキシ基の開環による三次元構造を有する重合体の形成の進行が遅いために熱処理時間が長くなる傾向がある。
上記帯電防止剤溶液で処理するアクリル系合成繊維は、湿式紡糸後水洗した膨潤繊維では該処理剤が繊維の内部にもぐり込んで十分な帯電防止効果が発現されず、また帯電防止性の洗濯耐久性が劣り好ましくない。本発明においては、上記帯電防止剤溶液を浸漬するアクリル系合成繊維は、乾燥緻密化した繊維であることが必要である。乾燥緻密化したアクリル系合成繊維に上記帯電防止剤を付着する場合には、該帯電防止剤を繊維の内部に浸透させず、繊維の表面に該帯電防止剤が均一に付着して被膜を形成するため、実用上十分な帯電防止性能を有すると同時に洗濯耐久性のある帯電防止性アクリル系合成繊維が得られるのである。
【0039】
本発明のアクリル系合成繊維は、上記帯電防止剤の三次元構造を有する重合体がアクリル系合成繊維の表面に強固に付着しており、しかも該重合体は水不溶性であるために、通常の洗濯では脱落することがない。
従って、本発明のアクリル系合成繊維は、極めて優れた耐久性のある帯電防止性を有しているアクリル系合成繊維である。
【0040】
【実施例】
以下、実施例により本発明を説明する。
(1)静電気の測定法
摩擦帯電圧の測定は、JIS L1094−B法により行う。
半減期の測定は、JIS L1094−A法により行う。
(2)洗濯の方法
洗濯方法は、JIS L0217−105法により行う。
【0041】
分子量の測定法
機種:日本分光製高速液体クロマトグラフィー
カラム:JASCO PO−3000K,PO−700K,PO−150K
カラム温度:40℃
カラム長:30cm
移動相:(50mM NaCl)/(MeOH)=70/30
溶離液流量:0.5ml/min
MWSTD:ポリエチレンオキサイド
実施例1
撹拌器、温度計、コンデンサー、窒素ガス挿入管付き1リットル、4口フラスコに、AN30%、一般式(1)で表される化合物としてメトキシポリエチレングリコールメタアクリレート60%、一般式(2)で表される化合物としてグリシジルメタクリレート10%を、メチルアルコール10%含有する水性媒体と混合して仕込み、V−50(和光純薬製;2,2−アゾビス(2−アミジノプロパン)ハイドロクロライド)を開始剤として、窒素ガスを吹き込み、撹拌しながら70℃に加熱し、内容物が次第に粘度を増し、乳濁液状になるまで4時間重合した。得られた共重合体の平均分子量は30万であった。
【0042】
次に、上記反応液に水を加え溶解して1.5%の帯電防止剤を含有する25℃の水溶液を調製した。
この帯電防止剤水溶液に、AN93%、アクリル酸メチル6%及びメタリルスルホン酸ナトリウム1%を共重合した共重合体を硝酸水溶液に溶解して湿式紡糸し、その後水洗、延伸、乾燥して製造した繊維を浸漬し、上記帯電防止剤を乾燥繊維に対して0.5%付着するように浸漬後、150℃の熱風で乾燥した。その後、この繊維を180℃に加熱した鉄板上で、20秒間乾熱処理し、湿熱セットおよび捲縮の付与を行った。この繊維の摩擦帯電圧、半減期、洗濯5回後の摩擦帯電圧をそれぞれ測定した。その結果を表1に示した。
【0043】
また、ブランク(比較例)は帯電防止剤による処理を行わないアクリル系合成繊維を対象繊維として上記と同様の試験をおこない、その結果を示した。
【0044】
【表1】
【0045】
【発明の効果】
本発明のアクリル系合成繊維は、前記帯電防止剤のエポキシ基の反応による三次元構造を有する重合体がアクリル系合成繊維の表面に被膜を形成して強固に付着しており、しかも該重合体は水不溶性であるため、通常の洗濯では脱落することがない。
【0046】
このために、本発明のアクリル系合成繊維は、極めて優れた耐久性のある帯電防止性を有しているアクリル系合成繊維である。
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