JP3777965B2 - 変速機 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、無段変速機構と差動歯車機構とを併用した変速機に関し、特に動力源から出力したトルクの一部を差動歯車機構に入力すると同時に、動力源から出力したトルクの他の部分を無段変速機構を介して差動歯車機構に入力することにより、いわゆる動力循環を生じさせて変速比を設定することの可能な変速機に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
車両用の変速機に用いられる無段変速機構として、従来、ベルト式のものやトラクション式(トロイダル式)のものなどが知られている。これらの無段変速機構は、ベルトやパワーローラなどの伝動部材とプーリーやディスクなどの回転体との間の摩擦力や油膜のせん断力などによって、トルクを伝達するように構成されている。そのため、伝達できるトルクが制約されたり、また変速比が大きい場合や反対に小さい場合に動力の伝達効率が低下し、さらには実用上設定可能な変速比が制限されるなどの問題がある。
【0003】
そこで従来、無段変速機構の単独で変速機を構成せずに、遊星歯車機構などの歯車機構を併用して変速機を構成することがおこなわれている。その一例が特表平11−504415号公報に記載されている。この公報に記載された変速機の一例を簡単に説明すると、この変速機は、ベルト式の無段変速機構とシングルピニオン型の遊星歯車機構とを備えており、無段変速機構の駆動プーリーが入力軸と同一軸線上に配置されてこれら入力軸と駆動プーリーとが連結され、さらにその入力軸がエンジンの出力軸に連結されている。また、入力軸と平行に中間軸が配置され、無段変速機構の従動プーリーがその中間軸上に配置されている。さらに、これら入力軸および中間軸と平行に出力軸が配置されており、その出力軸と同一軸線上に遊星歯車機構が配置されている。
【0004】
その遊星歯車機構におけるリングギヤが出力軸に一体的に回転するように連結されており、またサンギヤが歯車式の減速機を介して前記中間軸に連結され、従動プーリーからサンギヤに対してトルクを伝達するように構成されている。さらに、キャリヤと入力軸との間にギヤ対が設けられており、入力軸とその入力軸上のギヤとの間にクラッチ機構が設けられ、さらに、そのギヤの回転を選択的に止めるブレーキ機構が入力軸と同軸上に配置されている。なお、遊星歯車機構には、その全体を一体化して回転させるいわゆる一体化クラッチが設けられている。
【0005】
したがって上記の公報に記載された変速機では、一体化クラッチを係合させて遊星歯車機構の全体を一体回転させるとともに、入力軸に対してギヤ対を非連結状態とすれば、無段変速機構によって変速をおこない、その変速比に応じて増減されたトルクが出力軸から出力される。また、一体化クラッチを解放した状態で入力軸に対して前記ギヤ対を連結すれば、入力軸からキャリヤに対してトルクを伝達する一方、無段変速機構によって設定した変速比および減速機の変速比に応じて増減されたトルクがサンギヤに入力されるので、これらのトルクを合成したトルクがリングギヤから出力軸を経て出力される。その結果、設定可能な変速比の幅が広くなるとともに動力の伝達効率が、無段変速機構の単独で変速をおこなう場合に比較して向上する。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
上述した従来の変速機においては、駆動プーリーと同一軸線上に、入力軸およびエンジン、キャリヤに対してトルクを伝達するための歯車、ならびにブレーキ機構が配置されている。これに対して従動プーリーと同一軸線上には、出力軸および遊星歯車機構ならびにクラッチ機構が配置されている。したがって各プーリーと同一軸線上に配置される構成要素の数が、一方のプーリーに偏って多くなることがない。しかしながら、入力軸と出力軸とが互いに平行に配置されている型式の変速機は、一般的に、例えばエンジンを車両の幅方向に向けて配置するいわゆるエンジン横置きタイプの車両に適するが、上述した従来の変速機は、この種の車両に搭載する際のスペースに配慮した構成となっていないので、車載性の点で改善する余地があった。
【0007】
より具体的に説明すると、エンジン横置きタイプの車両におけるエンジンルームのうち、エンジンおよび変速機を含むいわゆるパワートレーンを収容する部分の幅寸法は、車両の前後方向で一定ではなく、補機類やバッテリーあるいはステアリング機構などの他の部品との取り合いがあるために、前後いずれかで狭くなっている。これに対して上述した公報に記載されている構成では、エンジンと同一軸線上に配置される部品が占めるスペースと、これと平行な出力軸と同一軸線上に配置される部品が占めるスペースとに大きな相違がなく、そのため既存の一般的なエンジン横置きタイプの車両に搭載するためには、エンジンルームの構造や配置を変更しなければならないなどの不都合があった。
【0008】
また、エンジン横置きタイプの車両では、一般に、エンジンの搭載されている箇所に近い車輪を駆動輪とするから、例えばエンジンを車両の前部に配置した場合には、前輪が駆動輪となり、それに伴ってデファレンシャルが前輪の車軸上に配置される。これに対して上述した公報に記載された変速機では、デファレンシャルに接近した出力軸上に遊星歯車機構を設けているので、デファレンシャルと遊星歯車機構との干渉が生じ、これを避けるために遊星歯車機構を軸線方向にずらして配置する必要が生じ、これが原因となって全体としての軸長が長くなる可能性がある。
【0009】
この発明は、上記の技術的課題に着目してなされたものであり、無段変速機構と差動歯車機構とを有する変速機の車載性を向上させることを目的とするものである。
【0010】
【課題を解決するための手段およびその作用】
この発明は、上記の目的を達成するために、互いに平行に配置されて無段変速機構を構成している駆動部材と従動部材とのいずれか一方の軸線上に、差動歯車機構および係合機構を配置して、軸線方向の寸法すなわち変速機の幅寸法を、駆動部材側と従動部材側とで異ならせることが可能なように構成したことを特徴とするものである。より具体的には、請求項1の発明は、中心軸線を互いに平行にして配置された駆動部材と従動部材との間で伝動部材によって動力を伝達する無段変速機構と、前記駆動部材に対してトルクを入力する入力部材と、その入力部材に選択的に連結される第1回転要素および前記入力部材から前記無段変速機構を介してトルクが入力される第2回転要素ならびに出力部材に対してトルクを出力する第3回転要素を有する差動歯車機構と、前記差動歯車機構のいずれか二つの回転要素の差動回転を選択的に阻止する第1係合機構と、前記入力部材と前記第1回転要素とを選択的に連結する第2係合機構とを備えた変速機であって、前記差動歯車機構と前記第1係合機構および第2係合機構の少なくともいずれか一方とが、前記駆動部材と同一軸線上に配置されるとともに、中間軸と、前記従動部材と前記第2回転要素とを連結する第1伝動機構と、前記第3回転要素と中間軸とを連結する第2伝動機構とを更に備え、 前記第1係合機構が前記中間軸と第1伝動機構とを選択的に連結する位置に設けられ、 前記第1伝動機構が、前記中間軸上に配置されたアイドラーを備え、前記第1係合機構が、前記中間軸と同軸上で該中間軸とアイドラーとを連結するように配置されていることを特徴とする変速機である。
【0015】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記第1係合機構は、前記第2回転要素と前記第3回転要素とを選択的に連結する係合機構であることを特徴とする変速機である。
【0016】
したがって請求項1および2の発明では、第1係合機構を係合状態とすることにより、無段変速機構の従動部材と中間軸とが連結される。またこの中間軸は差動歯車機構における第3回転要素に連結されている。この第3回転要素は、出力要素となっているので、結局、第1係合機構を係合させることにより、無段変速機構の従動部材のトルクが差動歯車機構を介さずに、中間軸を介して出力することが可能になる。そのため、無段変速機構の単独で変速比を設定してトルクを出力する場合、トルクの伝達に関与する歯車などの回転部材の数が少なくなり、その結果、トルクもしくは動力の伝達効率が向上する。
【0017】
【発明の実施の形態】
つぎにこの発明を具体例に基づいて説明する。図1は無段変速機構としてベルト式の無段変速機構1を使用し、かつ差動歯車機構としてシングルピニオン型の遊星歯車機構2を使用した例を示している。すなわち、動力源であるエンジン(内燃機関)3の出力軸と同一軸線上に入力軸(入力部材)4が配置され、その入力軸4とエンジン3とがダンパー5を介して連結されている。したがってエンジン3の出力軸と入力軸4とは、常時、共に回転するように構成されている。
【0018】
その入力軸4に無段変速機構1における駆動部材である駆動プーリー6が取り付けられている。この駆動プーリー6は、固定シーブに対して可動シーブを軸線方向に移動させて両者の間隔すなわち溝幅を大小に変化させるように構成されている。なお、その可動シーブは、固定シーブに対してエンジン3とは反対側(すなわち図1での左側)に配置されている。それに伴って可動シーブを軸線方向に前後動させるためのアクチュエータ7が、可動シーブの背面側(図1での左側)に配置されている。
【0019】
また、無段変速機構1における従動部材である従動プーリー8が、上記の駆動プーリー6と平行に配置されている。この従動プーリー8は、上記の駆動プーリー6と同様の構成であって、固定シーブと可動シーブとを有し、その可動シーブをアクチュエータ9によって前後動させて溝幅を変更するように構成されている。なお、各プーリー6,8の溝幅は、一方が増大することに伴って他方が減少するように制御され、その際にそれぞれのプーリー6,8の軸線方向での中心位置が変化しないようにするために、従動プーリー8におけるアクチュエータ9は、駆動プーリー6におけるアクチュエータ7とは軸線方向で反対側すなわち図1での右側に配置されている。
【0020】
そして、これらのプーリー6,8に伝動部材であるベルト10が巻き掛けられている。したがって、各プーリー6,8の溝幅を互いに反対方向に変化させることにより、これらのプーリー6,8に対するベルト10の巻き掛け有効径が変化して変速比が連続的に変化するようになっている。また、従動プーリー8に対してトルクを入出力するために、その従動プーリー8に従動軸11が取り付けられている。
【0021】
つぎに、遊星歯車機構2について説明すると、図1に示す遊星歯車機構2は、外歯歯車であるサンギヤ12と、そのサンギヤ12に対して同心円上に配置された内歯歯車であるリングギヤ13と、これらのサンギヤ12とリングギヤ13とに噛合したピニオンギヤを自転および公転自在に保持したキャリヤ14とを回転要素とするものであって、上記の入力軸4の外周側に入力軸4と同軸上に配置されている。より具体的には、入力軸4の外周に、サンギヤ軸15が回転自在に嵌合されており、前記サンギヤ12がこのサンギヤ軸15に一体化されている。
【0022】
この遊星歯車機構2におけるサンギヤ12とリングギヤ13とを選択的に連結する第1のクラッチ d 、入力軸4とキャリヤ14とを選択的に連結する第2のクラッチCH とが設けられている。前者の第1のクラッチ d 、遊星歯車機構2の全体を一体回転させる(換言すれば、遊星歯車機構2の回転要素の相対回転を阻止する)ためのものであって、いわゆる直結クラッチもしくは低速モード用クラッチである。また後者の第2のクラッチCH は、遊星歯車機構2に増速作用を生じさせるためのものであって、いわゆる高速モード用クラッチである。さらに、キャリヤ14を選択的に固定するブレーキBR が設けられている。これは、遊星歯車機構2に反転減速作用を生じさせるためのものであって、リバースブレーキとなっている。
【0023】
前記の入力軸4を含む平面と該平面に平行でかつ前記従動軸11を含む平面との間に、これらの軸4,11と平行に中間軸16が回転自在に配置されている。この中間軸16と前記リングギヤ13とが、この発明の第2伝動機構に相当する一対のギヤ17,18によって連結されている。また、この中間軸16とフロントデファレンシャル19とが、他の一対のギヤ20,21によって連結されている。そして、このフロントデファレンシャル19から左右の車輪(図示せず)にトルクを出力するようになっている。したがって上記のリングギヤ13が出力要素となっている。
【0024】
また、前記従動プーリー8から前記サンギヤ12(サンギヤ軸15)にトルクを伝達するためのギヤ対が設けられている。このギヤ対は、この発明の第1伝動機構に相当し、図1に示すように、従動軸11に取り付けられた第1ギヤ22と、中間軸16に回転自在に保持されているアイドルギヤ(アイドラー)23と、前記サンギヤ軸15に取り付けられた第2ギヤ24とによって構成されている。この第1ギヤ22と第2ギヤ24とのギヤ比は、前記無段変速機構1で設定される最も小さい回転数比(駆動プーリー6と従動プーリー8との回転数の比率)γmin の逆数(1/γmin )とほぼ等しい値に設定されている。したがって無段変速機構1での回転数比をほぼ最小の値に設定した状態では、サンギヤ12が入力軸4と同速度で回転し、その結果、いずれのクラッチ d CH の係合・解放の状態に関わらず、遊星歯車機構2の全体が一体となって回転するようになっている。
【0025】
つぎに、上述した構成の変速機の作用について説明する。上述した無段変速機構1および遊星歯車機構2を有する変速機では、無段変速機構1のみの変速作用で変速比を設定する変速モード(仮にダイレクトモードあるいはLモードという)と、無段変速機構1の変速作用と遊星歯車機構2の変速作用との両方で変速比を設定する変速モード(仮に動力循環モードあるいはHモードという)との2つのモードでの変速をおこなうことができる。
【0026】
先ず、エンジン3を始動する場合、各クラッチ d CH およびブレーキBR を解放状態(すなわち非結合状態)としておく。これらの係合機構 d CH ,BR が油圧式であって、かつエンジン3によって油圧ポンプ(図示せず)を駆動する構造の場合には、特に制御をおこなうことなくこれらの係合機構が解放状態になるが、蓄圧手段を有する場合や他の動力源で油圧ポンプを駆動するように構成されている場合には、これらの係合機構から排圧して解放状態とする。したがって、入力軸4とキャリヤ14とが遮断され、かつブレーキBR が解放していることにより、キャリヤ14が反力要素および入力要素のいずれとしても機能せず、さらに直結クラッチ d 解放されて遊星歯車機構2が一体化されていないので、出力要素であるリングギヤ13にはトルクが現れない。すなわち、変速機をニュートラル状態にしてエンジン3の始動がおこなわれる。
【0027】
ついで前進方向への発進は、変速比を可及的に大きくする必要があるので、無段変速機構1における駆動プーリー6の溝幅を最大にしてベルト10を巻き掛ける有効径を最小とし、かつ従動プーリー8の溝幅を最小にしてその有効径を最大にすることにより、その入出力回転数比の値を最も大きく(γmax )する。その状態で、直結クラッチ d 次第に係合させる。すなわち係合油圧を次第に増大させて、解放状態からスリップ状態を経て最終的には完全に係合させる。こうすることにより、そのトルク伝達容量が次第に増大するので、リングギヤ13に現れるトルクの変化が滑らかになり、車両がスムースに発進する。
【0028】
その状態を遊星歯車機構2についての共線図で示せば、図2のとおりである。すなわち直結クラッチ d 係合することにより、遊星歯車機構2の全体が一体となって回転し、したがってエンジン(Eng)3から無段変速機構(CVT)1を介してサンギヤ12にトルクを伝達すると、出力要素であるリングギヤ13が入力要素であるサンギヤ12と同速度で同方向に回転するので、この場合の運転状態は直線Aで表される。
【0029】
この状態から無段変速機構1による回転数比を小さくすれば、すなわち駆動プーリー6の溝幅を次第に小さくして有効径を増大させ、同時に従動プーリー8の溝幅を次第に大きくして有効径を減少させれば、遊星歯車機構2に対する入力回転数が相対的に次第に大きくなるとともに、遊星歯車機構2の全体が一体的に回転するので、エンジン3の回転数に対する出力軸15の回転数が、無段変速機構1での回転数比の変化に応じて増大する。言い換えれば、車速の変化がない場合、エンジン回転数が、変速比の減少に応じて低下する。このような動作状態の変化は、図2において前記の直線Aを回転数の増大方向である上側に平行移動させることにより表される。そして、遊星歯車機構2をいわゆる直結状態に設定して無段変速機構1の回転数比を最低値(最も高速側の値:γmin )とした状態は、図2の直線Bで表される。
【0030】
このように、直結クラッチ d 係合させ、かつ高速モード用クラッチCH を解放した状態がダイレクトモード(Lモード)であって、無段変速機構1の回転数比の変化がそのまま変速機全体の変速比の変化として現れる。
【0031】
無段変速機構1における回転数比をほぼ最小値γmin とした状態では、従動軸11とサンギヤ軸15との間のギヤ対22,23,24のギヤ比が(1/γmin )であるから、直結クラッチ d 解放してもサンギヤ12とキャリヤ14(入力軸4)との回転数とが一致する。したがっていずれの回転部材においても回転変動を生じさせることなく、高速モード用クラッチCH を係合させ、かつ直結クラッチ d 解放させることができる。このようにしてクラッチのいわゆるつかみ替えをおこない、キャリヤ14をエンジン3の回転数に応じた回転数とするとともに、無段変速機構1によってサンギヤ12の回転数を変化させることにより、無段変速機構1のみで設定できる変速比より小さい変速比となるいわゆるオーバードライブ状態を設定することができる。
【0032】
その状態を図2に直線Cで示してあり、キャリヤ14の回転数をエンジン3の回転数に応じた回転数に維持した状態で、無段変速機構1の回転数比γを増大させてサンギヤ12の回転数を低下させると、それに従って、出力要素であるリングギヤ13の回転数が増大する。すなわち変速機の全体としての変速比が更に小さくなり、車速が変化しないとすれば、エンジン回転数が低下する。これは、動力循環(リサーキュレーション)の状態である。
【0033】
このように、直結クラッチ d 解放させ、かつ高速モード用クラッチCH を係合した状態が動力循環モード(Hモード)であって、無段変速機構1の回転数比の変化方向とは反対方向に変速機全体の変速比が変化する。より具体的には、無段変速機構1の回転数比を増大させることにより、無段変速機構1の単独で設定できる変速比より小さい変速比が設定される。
【0034】
なお、上述したように、無段変速機構1の回転数比を最も小さい値γmin に設定した状態では、直結クラッチ d 解放しても、変速機の全体が一体回転する。この状態は、ダイレクトモード(Lモード)での最も高速側の状態であり、かつ動力循環モード(Hモード)での最も低速側の状態であり、各変速モードに共通の変速状態である。言い換えれば、回転数比の最小値γmin が、一方の変速モードから他方の変速モードへの移行点(切替点)となっている。
【0035】
また、各クラッチ d CH を解放し、かつブレーキBR を係合させることにより、後進走行することが可能になる。すなわち、遊星歯車機構2において、ブレーキBR を係合させることによりキャリヤ14が固定され、その状態で無段変速機構1を介してサンギヤ12にトルクが入力されるから、出力要素であるリングギヤ13が、サンギヤ12とは反対方向に回転する。この状態を図2に直線Dで示してある。
【0036】
なお、上述したダイレクトモード(Lモード)および動力循環モード(Hモード)ならびに後進状態を設定するための各係合機構の係合・解放状態をまとめて示すと、図3のとおりである。この図3において、レンジとは、手動操作によって選択される走行の形態であって、Rは後進走行のためのレンジ、Pは停車状態を維持するためのレンジ、Nはニュートラル状態を設定するためのレンジ、Dは前進走行のためのレンジをそれぞれ示す。さらに、図3において空欄は解放状態を示し、〇印は係合状態を示す。その係合状態での伝達トルク容量は、例えば油圧を電磁弁(図示せず)によって高低に調整することにより、任意に設定できるようになっている。
【0037】
上述したように、図1に示す変速機によれば、無段変速機構1のみが変速作用をおこなってその回転数比γに応じた変速比を設定するダイレクトモードと遊星歯車機構2に対してエンジン3からトルクを入力する一方、無段変速機構1を介してトルクを入力することにより無段変速機構1の回転数比の変化とは反対に変速比を変化させて、より小さい変速比を設定する高速モードとを設定することができる。したがって、変速比の幅が広くなるうえに、高速走行時には無段変速機構1と遊星歯車機構2とを介してトルクが伝達されるので、トルクの伝達効率が向上する。
【0038】
そして、遊星歯車機構2および各係合機構 d CH ,BR が駆動プーリー6と同一軸線上に配置されているので、変速機における駆動プーリー6側の幅に対して従動軸11側の幅が小さくなり、その結果、いわゆるエンジン横置きタイプの車両のエンジンルームへの収容性が良好になる。特にエンジンルームが前部に設けられているエンジン横置きタイプの車両に対する車載性が良好になる。また、遊星歯車機構2が入力軸4と同軸上に配置されているので、遊星歯車機構2とフロントデファレンシャル19との干渉が生じにくく、この点でも車載性が良好である。
【0039】
この発明の変速機は、駆動部材と従動部材とのいずれか一方と同一軸線上に差動歯車機構が設けられるとともに、いずれかの係合機構がこれらと同一軸線上に配置されていれば、上述したように車載性を向上させることができる。したがってこの発明では、図1に示す構成以外の構成とすることができ、その例を図4に示してある。
【0040】
図4に示す変速機は、図1に示す構成の変速機に発進用のクラッチCS を追加して設けるとともに、直結クラッチ d 位置を変更したものである。すなわち、入力軸4は駆動プーリー6に連結されていずに、駆動プーリー6と一体の駆動軸6Aが入力軸4の先端側にかつ同一軸線上に配置されており、これらの軸4,6Aの間に発進クラッチCS が設けられている。すなわち駆動プーリー6と高速モード用クラッチCH との間に発進クラッチCS が配置されている。この発進クラッチCS は、摩擦クラッチであって摩擦板の接触圧が増大するのに従って伝達トルクが増大するように構成されている。したがってその発進クラッチCS としては湿式クラッチに替えて乾式クラッチを採用することができる。
【0041】
この発進クラッチCS が入力軸4と同一軸線上に配置されていることに伴って、直結クラッチ d 中間軸16上に配置され、アイドルギヤ23と中間軸16とを選択的に連結するようになっている。すなわち、中間軸16がギヤ対17,18を介してリングギヤ13に連結されているのに対して、アイドルギヤ23が第2ギヤ24を介してサンギヤ12に連結されているから、直結クラッチ d 係合させることにより、サンギヤ12とリングギヤ13とが連結され、両者の相対回転が阻止され、その結果、遊星歯車機構2の全体が一体回転するようになっている。
【0042】
この図4に示す変速機では、発進時に発進クラッチCS が次第に係合させられて駆動トルクが徐々に増大することによりショックのない発進がおこなわれる。発進した後の変速制御および変速モードの変更は、上述した図1に示す変速機と同様にして実行される。したがって図4に示す構成では、車載性が良好であることに加え、直結クラッチ d ブレーキBR をスリップ状態から次第に係合させるいわゆるフリクションスタート制御をおこなう必要がないので、これらの直結クラッチ d ブレーキBR の制御が容易になり、かつその耐久性が良好になる。
【0043】
また、図4に示す構成では、直結クラッチ d 係合させることにより、遊星歯車機構2の全体が一体化され、したがって無段変速機構1のみで変速比を設定することになる。すなわちLモードである。その場合、従動プーリー8が第1ギヤ22とアイドルギヤ23および直結クラッチ d 介して中間軸16に連結され、ここからギヤ対20,21を介してフロントデファレンシャル19にトルクが出力される。したがって無段変速機構1のみで変速比を設定するLモードでは、遊星歯車機構2を介さずにトルクを出力することができるので、トルクもしくは動力の伝達効率が向上する。
【0044】
さらに、図4に示す構成では、発進クラッチCS を解放することにより、駆動プーリー6をエンジン3から切り離すことができる。またその状態で、直結クラッチ d 高速モード用クラッチCH とを係合させれば、無段変速機構1や遊星歯車機構2による増減速のない状態で走行することができる。したがって、無段変速機構1に何らかの異常が生じた場合には、無段変速機構1に対してエンジン3からトルクを入力することなく、いわゆるリンプホーム走行が可能になり、その結果、無段変速機構1のいわゆる二次損傷を防止することが可能になる。
【0045】
この発明の更に他の例を図5に示してある。ここに示す例は、前述した図4に示す発進クラッチCS をダンパー5の直後に配置し、それに伴って駆動軸6Aを遊星歯車機構2の中心軸線に沿って発進クラッチCS まで延ばし、他の構成は、図4に示す構成と同様に構成したものである。
【0046】
したがって図5に示す構成の変速機であっても、図4に示す変速機と同様に車載性が良好であり、かつ直結クラッチ d ブレーキBR の制御が容易でかつその耐久性が良好になり、さらには遊星歯車機構2を一体回転させる変速モードでのトルクもしくは動力の伝達効率が向上するなどの作用・効果を奏する。これに加え、図5に示す構成であれば、摩耗が進行しやすい発進クラッチCS がエンジン3側に配置されているので、その点検・交換が容易になり、いわゆるサービス性が良好になる。
【0047】
なお、この発明は上述した各具体例で示した構成に限定されない。したがって無段変速機構はベルト式のもの以外の無段変速機構であってもよく、また遊星歯車機構はダブルピニオン型のものであってもよく、その配置位置は駆動プーリーと同一軸線上ではなく従動部材と同一軸線上であってもよい。さらに、この発明における係合機構は、摩擦式のものに限定されないのであって、シンクロナイザーなどの同期連結機構などの他の機構を採用することもできる。そしてまた、この発明は、動力源として電動機を使用した電気自動車や、内燃機関と電動機もしくは電動・発電機とを動力源として搭載したハイブリッド車にも適用することができる。
【0048】
【発明の効果】
以上説明したように、この発明によれば、第1係合機構を係合状態とすることにより、無段変速機構の従動部材と中間軸とが連結され、またこの中間軸が差動歯車機構における第3回転要素に連結されていてこの第3回転要素が、出力要素となっているので、結局、第1係合機構を係合させることにより、無段変速機構の従動部材のトルクが差動歯車機構を介さずに、中間軸を介して出力することが可能になる。そのため、無段変速機構の単独で変速比を設定してトルクを出力する場合、トルクの伝達に関与する歯車などの回転部材の数が少なくなり、その結果、トルクもしくは動力の伝達効率を向上させ、ひいては燃費を改善することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 この発明に係る変速機の一例を示すスケルトン図である。
【図2】 その遊星歯車機構についての共線図である。
【図3】 この係合機構の係合・解放状態を各レンジごとにまとめて示す図表である。
【図4】 この発明の他の例を模式的に示すスケルトン図である。
【図5】 この発明の更に他の例を模式的に示すスケルトン図である。
【符号の説明】
1…無段変速機構、 2…遊星歯車機構、 3…エンジン、 4…入力軸、 6…駆動プーリー、 8…従動プーリー、 10…ベルト、 12…サンギヤ、 13…リングギヤ、 14…キャリヤ、 d 直結クラッチ、 CH …高速モード用クラッチ。

Claims (2)

  1. 中心軸線を互いに平行にして配置された駆動部材と従動部材との間で伝動部材によって動力を伝達する無段変速機構と、前記駆動部材に対してトルクを入力する入力部材と、その入力部材に選択的に連結される第1回転要素および前記入力部材から前記無段変速機構を介してトルクが入力される第2回転要素ならびに出力部材に対してトルクを出力する第3回転要素を有する差動歯車機構と、前記差動歯車機構のいずれか二つの回転要素の差動回転を選択的に阻止する第1係合機構と、前記入力部材と前記第1回転要素とを選択的に連結する第2係合機構とを備えた変速機において、
    前記差動歯車機構と前記第1係合機構および第2係合機構の少なくともいずれか一方とが、前記駆動部材と同一軸線上に配置されるとともに、
    中間軸と、前記従動部材と前記第2回転要素とを連結する第1伝動機構と、前記第3回転要素と中間軸とを連結する第2伝動機構とを更に備え、
    前記第1係合機構が前記中間軸と第1伝動機構とを選択的に連結する位置に設けられ、
    前記第1伝動機構が、前記中間軸上に配置されたアイドラーを備え、
    前記第1係合機構が、前記中間軸と同軸上で該中間軸とアイドラーとを連結するように配置されていることを特徴とする変速機。
  2. 前記第1係合機構は、前記第2回転要素と前記第3回転要素とを選択的に連結する係合機構であることを特徴とする請求項1に記載の変速機。
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