JP3775744B2 - ワイヤカット放電加工機のワイヤの張力制御装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ワイヤカット放電加工機の放電加工領域におけるワイヤの張力制御の安定化および高精度化に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、ワイヤカット放電加工機として、所定の張力を付与した状態のワイヤを走行させて、ワイヤとワーク(被加工材)との間に所定の放電加工用電圧を印加し、走行するワイヤに対してワークを移動させることにより、ワークを加工するものが知られている。
このようなワイヤカット放電加工機においては、ワイヤの張力と、ワークの加工精度や面質との間には密接な関係があり、加工精度や面質を向上させるために、様々なワイヤの張力制御が考案されている。
【0003】
例えば、張力付与ローラの回転トルクを変えることによりワイヤに張力を付与する方法や、ワイヤの張力が変動しないように、ワイヤの張力を検出し、検出張力が設定張力と一致するように回転トルクをフィードバックして制御する方法(例えば、特許文献1参照)が考案されている。
【0004】
また、近年、加工形状の微細化に伴い、使用されるワイヤ径が細径化してきており、例えば、ワイヤ径が0.03mm程度の極細ワイヤも使用されている。このようなワイヤ径の細径化に伴い、張力制御範囲も広く、高精度なワイヤカット放電加工機が求められるようになってきている。
極細ワイヤに対応するために、例えば、高低二つの張力付与ローラを備え、これらをクラッチ等の切り替え手段を用いることにより、広い張力設定範囲で極細ワイヤに張力を付与する方法(例えば、特許文献2参照)が考案されている。
【0005】
さらに、テンションアームによりワイヤの送り出し張力を付与する方法(例えば、特許文献3参照)が考案されている。
【0006】
【特許文献1】
特開平3−111129号公報
【特許文献2】
特公平8−336号公報
【特許文献3】
特開2003−89016号公報
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、前記特許文献1および特許文献2のワイヤカット放電加工機においては、ローラに対して慣性力による過大な慣性負荷が作用することにより、ワイヤに正確で安定した張力を付与することが難しく、特に、極細ワイヤ使用時に必要とされる低い張力になるほど張力制御精度が悪化するという問題点があった。
また、前記特許文献3のワイヤカット放電加工機においては、ワイヤにかかる張力の変動分を、テンションアームの回転角度の変化によって吸収することとしているため、張力変動時にはテンションアームの回転にともない発生するテンションアーム自身の慣性によりさらに張力が変動してしまい、また張力フィードバック制御のような、外乱に対して高応答かつ高精度な張力制御を行うことが難しいという問題点があった。
そこで、本発明では、ワイヤカット放電加工機において、広い範囲にわたって必要な張力を正確に付与することが可能なワイヤの張力制御装置を提供することを第1の課題とする。
【0008】
さらに、ワイヤカット放電加工機の放電加工時には、ワイヤとワークと間の放電現象に起因するワイヤの振動現象がしばしば発生する。このようなワイヤの振動現象は、振動状態が一定のものではなく、ワークの厚みや加工速度、放電電圧、放電周波数の変化等によって、振動状態が経時的に変化するものであるため、この影響により加工精度が悪化するという問題点があった。
そこで、本発明では、ワイヤカット放電加工機において、放電加工領域でのワイヤの振動現象に起因する加工精度の悪化を低減させることが可能なワイヤ電極の張力制御装置を提供することを第2の課題とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
すなわち、請求項1においては、引き取り手段と巻出し手段の間にダンサローラとワーク加工部を配置し、該ダンサローラを所定位置に維持するように制御して任意の速度にてワイヤを走行するワイヤカット放電加工機において、前記ダンサローラを支持するアームに、ワイヤに張力を付与するためのアクチュエータを連設して第1の張力付与手段を構成し、前記第1の張力付与手段とワーク加工部の間に張力検出手段を配置するとともに、前記第1の張力付与手段および前記張力検出手段を制御装置と接続し、前記張力検出手段により検出された張力が所定の張力と同じになるように、前記第1の張力付与手段を制御することでワイヤに所定の張力を付与し、前記張力付与手段とワーク加工部の間に、ブレーキ手段を有する第2の張力付与手段を配置したものである。
【0010】
請求項2においては、前記張力検出手段により検出されたワイヤの張力の変動からワイヤの振動状態を検出し、該振動状態に基づいて前記第1の張力付与手段及び第2の張力付与手段によりワイヤの張力を制御するものである。
【0011】
【発明の実施の形態】
次に、発明の実施の形態を添付の図面を用いて説明する。
図1は本発明を適用するワイヤカット放電加工機の一実施例を示す模式図、図2はワイヤカット放電加工機における張力制御を示すブロック図である。
【0012】
図1、図2を用いて、ワイヤカット放電加工機1の全体的な構成について説明する。
ワイヤカット放電加工機1には、ワイヤ2の走行経路の上流側から下流側へ順に、送出部10、ダンサ部20、張力付与部30、張力検出部40、ワーク加工部50、引取部60が配置されている。
【0013】
また、ワイヤカット放電加工機1には、制御手段としてのコントローラ70が備えられている。コントローラ70は、後述するように、送出モータ12、トルクモータ24、角度センサ28、パウダーブレーキ33、歪みゲージ45、回転数センサ46、テーブル駆動用のアクチュエータ54、引取モータ63とそれぞれ接続されている。
【0014】
送出部10には、送出リール11、送出モータ12が備えられており、該送出モータ12の駆動により送出リール11が回転し、該送出リール11に巻かれているワイヤ2が下流側へ送り出される(巻き出される)。送出モータ12は、コントローラ70と接続されており、該コントローラ70の指令(回転速度指令)により駆動される。そして、送出部10は、本実施例において、ワイヤ2の巻出し手段として機能する。
【0015】
引取部60には、引取ローラ61、ピンチローラ62、引取モータ63が備えられている。ピンチローラ62は引取ローラ61に向けて付勢して取り付けられており、該引取ローラ61とピンチローラ62との間にワイヤ2が挟持されている。そして、引取モータ63が駆動すると引取ローラ61が回転し、これにより、ワイヤ2が下流側に引き取られる(または、巻き取られる)。引取モータ63は、コントローラ70と接続されており、該コントローラ70の指令(回転速度指令)により駆動される。そして、引取部60は、本実施例において、引き取り手段として機能する。
【0016】
このように、ワイヤカット放電加工機1において、送出リール11および引取ローラ61が回転することによって、ワイヤ2が所定の走行速度で、送出部10から引取部60へ、走行経路に沿って走行する。ワイヤ2の走行速度は、送出リール11および引取ローラ61の回転速度によって定まり、コントローラ70によって送出モータ12および引取モータ63を制御することにより、ワイヤ2の走行速度を調節できる。そして、後述するように、ワイヤ2の走行速度が略一定となるような制御が行われている。なお、引取部60の下流側では、ワイヤ2をスタッカ等に排出するようにしている。
【0017】
ダンサ部20は第1の張力付与手段として機能し、該ダンサ部20には、ダンサローラ21、連結部材であるダンサアーム22、トルクモータ24、支持ローラ26・27、角度センサ28が備えられている。ダンサローラ21は、棒状に形成されるダンサアーム22の一端側に回転自在に支持されており、該ダンサアーム22の他端(基部)側は、トルクモータ24の駆動軸25に固定して支持されている。支持ローラ26・27が略水平に配置され、該支持ローラ26・27より下方にダンサローラ21が位置している。そして、ワイヤ2が上流側から支持ローラ26、ダンサローラ21、支持ローラ27の順に張架され、ワイヤ2と当接するダンサローラ21によってワイヤ2が所定の張力で下方に押し付けられている。
【0018】
ダンサアーム22は略水平に配置されており(図1)、この水平に位置する状態をダンサアーム22の基準位置としている。トルクモータ24の駆動軸25がダンサアーム22の回動軸となっており、ダンサアーム22の回動角を、駆動軸25に取り付けられる角度センサ28によって検出するようにしている。角度センサ28はコントローラ70と接続されており、該コントローラ70に角度センサ28により検出された回動角が入力される。
【0019】
トルクモータ24は、ダンサアーム22およびダンサローラ21を介して、ワイヤ2に張力を付与するためのアクチュエータとして設けられている。トルクモータ24を駆動することによりトルクモータ24の回転トルクを、ダンサアーム22およびダンサローラ21を介して、ワイヤ2に伝達することによって、ワイヤ2に張力が付与される。トルクモータ24はコントローラ70と接続されており、該コントローラ70の指令(トルク指令)により作動する。コントローラ70によりトルクモータ24は、予め設定されている張力(目標値(図2の設定値設定手段により設定され、コントローラ70に記憶されている))と、ワイヤ2の張力との偏差をフィードバック信号として、例えば、P制御、PI制御、PID制御のような制御によって制御されている。なお、トルクモータ24に替えて、アクチュエータをロータリーソレノイド、DCモータ、サーボモータ等として構成してもよい。
【0020】
張力付与部30は第2の張力付与手段として機能し、該張力付与部30には、ブレーキローラ31、ピンチローラ32、ブレーキ手段であるパウダーブレーキ33が備えられている。ピンチローラ32はブレーキローラ31に向けて付勢して取り付けられており、該ブレーキローラ31とピンチローラ32との間にワイヤ2が挟持されている。パウダーブレーキ33はブレーキローラ31に接続されており、該パウダーブレーキ33の作動によりブレーキローラ31が制動される。パウダーブレーキ33は、コントローラ70と接続されており、該コントローラ70の指令(トルク指令)により駆動される。なお、パウダーブレーキ33に替えて、ブレーキローラ31にサーボモータを接続したり、摩擦板式のクラッチ等を接続したりする構成としてもよい。
【0021】
パウダーブレーキ33を作動させない状態では、ブレーキローラ31はワイヤ2の走行に連動して回転する。これに対して、パウダーブレーキ33を作動させた状態では、パウダーブレーキ33による制動トルクによってブレーキローラ31の回転が制動される。これにより、ワイヤ2に対して張力が付与される。そして、後述するように、この張力付与部30では、パウダーブレーキ33を作動させて、ブレーキローラ31の回転を制動することにより、ワイヤ2に付与される張力を制御している。なお、後述するように、電磁クラッチ34を備える構成としてもよい。そして、電磁クラッチ34を、コントローラ70と接続し、該コントローラ70の指令(断接指令)により作動させるようにしておく。この場合、電磁クラッチ34が「接」の状態ではパウダーブレーキ33の制動トルクをブレーキローラ31に伝達し、また、電磁クラッチ34が「断」の状態ではパウダーブレーキ33の制動トルクをブレーキローラ31に伝達しないようにする。
【0022】
張力検出部40には、張力検出ローラ41、ガイドローラ43・44、歪みゲージ45、回転数センサ46が備えられている。
ワイヤ2は、上流側からガイドローラ43、張力検出ローラ41、ガイドローラ44の順に張架され、ワイヤ2にかかる張力によって、張力検出ローラ41が下方に押し付けられている。この場合、張力検出ローラ41を下方に押し付ける力を、張力検出ローラ41の軸部42に配置される張力検出手段となる歪みゲージ45によって検出することにより、ワイヤ2にかかる張力を検出するようにしている。歪みゲージ45はコントローラ70と接続されており、該コントローラ70に歪みゲージ45により検出された張力が入力される。そして、後述するように、この張力検出部40で検出されたワイヤ2の張力に基づいて、ワイヤ2の張力制御が行われている。なお、張力検出手段は歪みゲージ45に替えて、差動トランス等を用いる構成としてもよい。
【0023】
また、張力検出ローラ41には回転数センサ46が取り付けられており、該回転数センサ46によって張力検出ローラ41の回転数を検出することとしている。回転数センサ46はコントローラ70と接続されており、該コントローラ70に回転数センサ46により検出された回転数が入力される。このように、回転数センサ46により張力検出ローラ41の回転数を検出することによって、ワイヤ2の走行速度を測定するようにしている。
【0024】
ワーク加工部50において、ワイヤ2は上ガイド51と下ガイド52との間に張架されており、上下方向に走行する。ワーク加工部50には、ワーク3を載置して固定するためのテーブル53が水平に備えられている。テーブル53は、平面視で「コ」字状または「ロ」字状に形成され、該テーブル53が水平移動した場合であっても、テーブル53とワイヤ2とが干渉しないようにしている。そして、テーブル駆動用のアクチュエータ54を作動させることにより、ワイヤ2に対してテーブル53を水平移動可能としている。ワーク3はテーブル53上に固定されており、テーブル53の水平移動に伴い、テーブル53上のワーク3もワイヤ2に対して水平移動する。テーブル駆動用のアクチュエータ54は、コントローラ70と接続されており、該コントローラ70の指令により作動する。
このように、上下に走行するワイヤ2に対して、ワーク3が水平方向に移動することにより、ワーク3への加工が行われる。この場合、ワイヤ2とワーク3との間には、所定の放電加工用電圧が印加されている。
【0025】
ワーク加工部50において、ワーク3の加工時には、例えば、ワイヤ2の振動現象のような外乱が発生する場合(図1の2点鎖線で示すような場合)があり、この場合には、ワイヤ2の振動(外乱)の影響により、ワーク3の加工精度や面質を損なうことがある。このため、ワーク加工部50におけるワイヤ2の張力を一定に保って、ワイヤ2の振動の影響をできる限り抑制して、ワイヤ2の振動に起因するの加工精度の悪化を低減させる必要がある。したがって、本実施例では、以下に述べるような、ワイヤ2の張力制御を行うこととしている。
【0026】
以上のように構成されるワイヤカット放電加工機1におけるワイヤ2の張力制御について、図1、図2を用いて説明する。
ダンサ部20では、トルクモータ24の駆動によるトルクモータ24の回転トルクを、ダンサアーム22およびダンサローラ21を介して、ワイヤ2に伝達することによって、ワイヤ2に張力を付与している。そして、ワイヤ2に付与される張力は、トルクモータ24の回転トルクに応じて定まる。
【0027】
本実施例では、走行するワイヤ2に所定の張力が付与された状態でワイヤ2の走行速度を略一定に維持するように、次のような制御を行っている。例えば、引取モータ63が一定の回転数で駆動している場合には、送出モータ12の回転数を制御することにより、ダンサアーム22が基準位置(水平位置)にあるように制御することによって(言い換えれば、ダンサローラ21を所定位置に維持するように制御することによって)、ワイヤ2の走行速度を略一定に維持することとしている。このために、送出モータ12の回転速度は、ダンサアーム22の回動角をフィードバック信号として制御するようにしている。
【0028】
送出モータ12の制御方法について説明する。ダンサアーム22の回動角は、角度センサ28によって検出され、コントローラ70に入力される。コントローラ70は、入力されたダンサアーム22の回動角と、基準位置(水平位置)にある場合のダンサアーム22の回動角との回動角偏差を演算する。そして、コントローラ70は、該回動角偏差を0に近づけるように、送出モータ12へ指令を送って、送出モータ12の回転速度を決定する。この場合、回動角偏差をフィードバック信号として、例えば、P制御、PI制御、PID制御のような制御によって送出モータ12は回転速度制御されている。
このように、ダンサアーム22が基準位置(水平位置)にあるようにフィードバック制御している。この結果、ワイヤ2に所定の張力が付与された状態で、ワイヤ2の走行速度が、引取モータ63の回転速度により決定された引取速度と略一定に維持されるように制御される。
【0029】
なお、より簡単な送出モータ12の制御方法として、例えば、ダンサローラ21の可動範囲の上限に上限センサを、また、ダンサローラ21の可動範囲の下限に下限センサを設けて、ダンサローラ21が上限センサの位置に達した場合には送出モータ12の回転速度を一定量速くし、逆に、ダンサローラ21が下限センサの位置に達した場合には送出モータ12の回転速度を一定量遅くすることにより、ダンサローラ21が上限センサと下限センサとの間を行ったり来たりするようなリミットサイクル制御等を用いてもよい。この場合には、ダンサローラ21の移動時に生じるダンサローラ21やダンサアーム22の慣性が送出部10のワイヤ2の張力に対して外乱となり得る。このような外乱を回避するためには、送出モータ12の回転速度制御は、ダンサローラ21の位置が一定位置に保持されるような制御が好ましい。
【0030】
そして、ワイヤ2の走行速度が、引取部60により決定されたワイヤ速度と略一定の状態において、トルクモータ24の回転トルクを変更することにより、ダンサアーム22を基準位置に位置させたまま(ダンサアーム22を回動させることなく)、つまり、ダンサローラ21を所定位置に維持させたまま、ワイヤ2に付与される張力が変更される。したがって、トルクモータ24の回転トルクを任意に変更することにより、ワイヤ2に対して任意の張力を付与することができる。このため、ワイヤカット放電加工機1において、広い範囲にわたってワイヤ2に正確で安定した張力を付与でき、ワイヤ2の張力を一定に保つことができる。
また、制動トルク制御のローラとは異なり、慣性力による慣性負荷を極力小さくでき、これにより、高精度の張力制御を行うことができる。また、応答性の速い張力制御を可能としている。
【0031】
そして、ワーク3の放電加工時に、ワーク加工部50でのワイヤ2の振動現象が発生した場合であっても、ダンサ部20における張力制御により、ワイヤ2の振動による張力の変動分を吸収して、ワイヤ2の振動の影響をできる限り抑制することができる。これにより、ワイヤカット放電加工機1において、ワーク加工部50でのワイヤ2の振動に起因するの加工精度の悪化を低減させることができる。
【0032】
張力付与部30では、次のように、パウダーブレーキ33を作動させ、ブレーキローラ31の回転を制動することによって、ワイヤ2の張力制御を行っている。前述したように、張力付与部30では、パウダーブレーキ33を作動させ、該パウダーブレーキ33の制動トルクによってブレーキローラ31の回転を制動することにより、ワイヤ2に対して張力が付与される。ワイヤ2に付与される張力は、パウダーブレーキ33の制動トルクに応じて定まる。したがって、パウダーブレーキ33の制動トルクを決定することにより、張力付与部30におけるワイヤ2に対する張力を決定することができる。つまり、パウダーブレーキ33の制動トルクを増加すれば、このトルクの増加量に応じて、ワイヤ2に付与される張力が増加し、逆に、パウダーブレーキ33の制動トルクを減少すれば、このトルクの減少に応じて、ワイヤ2に付与される張力が減少する。
そして、パウダーブレーキ33の制動トルクは、コントローラ70のトルク指令により決定される。なお、張力付与部30における張力制御は、主として、ワイヤ2に対して大きな張力を付与する場合に行うようにしている。
【0033】
ダンサ部20および張力付与部30でワイヤ2に付与された張力は、張力検出部40で検出されて、コントローラ70に入力される。このとき検出される張力は、ダンサ部20で付与される張力と、張力付与部30で付与される張力とを加算したものとなる。
張力検出部40で検出されるワイヤ2の張力に基づく張力制御について説明する。この張力制御は、張力検出部40により検出されたワイヤ2の張力に基づいて、ダンサ部20のトルクモータ24の回転トルクを決定し、この決定された回転トルクを用いて、トルクモータ24を駆動することによって、ワイヤ2に付与する張力を決定するとともに、張力検出部40により検出されたワイヤ2の張力に基づいて、張力付与部30のパウダーブレーキ33の制動トルクを決定し、この決定された制動トルクを用いて、パウダーブレーキ33を作動させることによって、ブレーキローラ31の回転を制動してワイヤ2に付与する張力を決定することにより、張力検出部40により検出されたワイヤ2の張力と、予め設定されたワイヤ2の張力(図2の設定値設定手段により設定され、コントローラ70に記憶されている)とを一致させるように行われている。
【0034】
コントローラ70は、入力されたワイヤ2の張力と、予め設定されている張力(目標値)とを比較して、その偏差を演算する。ここで、予め設定されている張力とは、トルクモータ24へのトルク指令に基づいてワイヤ2に付与されるべき張力と、パウダーブレーキ33へのトルク指令に基づいてワイヤ2に付与されるべき張力とを加算した張力である。そして、コントローラ70は、この張力の偏差を0に近づけるように、ダンサ部20および張力付与部30においてワイヤ2の張力制御を行う。言い換えれば、コントローラ70は、ワイヤ2の張力についてフィードバック制御を行う張力制御手段として機能して、実際に張力検出部40で検出された張力と、予めコントローラ70に設定されている張力とを、一致させるようにしている。つまり、張力の偏差をフィードバック信号として、例えば、P制御、PI制御、PID制御のような制御によってトルクモータ24およびパウダーブレーキ33はトルク制御されている。
【0035】
具体的には、目標値の方が大きい場合には、トルクモータ24の回転トルクの増加、およびパウダーブレーキ33の制動トルクの増加のうち少なくとも一方を行うことにより、ワイヤ2の張力を増加するように制御する。逆に、目標値の方が小さい場合には、トルクモータ24の回転トルクの減少、およびパウダーブレーキ33の制動トルクの減少のうち少なくとも一方を行うことにより、ワイヤ2の張力が減少するように制御する。このように、ダンサ部20による張力制御、および張力付与部30による張力制御のうち少なくとも一方を行うことにより、ワイヤ2に正確で安定した張力を付与でき、ワイヤ2の張力を一定に保つことができる。
なお、ダンサ部20で付与可能な張力を大きくすると、付与可能な張力に応じて機構的にも堅牢な構造にてダンサ部20を製作することが必要になり、必然的にダンサローラ21やダンサアーム22の質量が大きく、つまり慣性が大きくなり、張力制御応答性が悪くなる。このため、ダンサ部20では付与可能な張力を小さくする代わりに応答性の速い張力制御を可能とし、設定張力が大きい場合には張力付与部30による張力付与を主たる張力付与方法とすることで、設定張力が大きくても応答性の速い張力制御が可能となる。
また、極細径のワイヤを使用するような、設定張力が小さい場合には張力付与部30のパウダーブレーキ33への制動トルク指令を小さくすることにより、あるいは電磁クラッチ34等を用いてパウダーブレーキ33とブレーキローラ31を切り離すことにより、ダンサ部20のみでの張力制御も可能となるため、設定張力が大きい場合よりもさらに応答性の速い張力制御が可能となる。
加えて、ワイヤカット放電加工機1において異なる径のワイヤを用いる場合であっても、ワイヤ径に対応した張力制御を行うことが可能となり、特に、極細径のワイヤにも容易に対応でき、この極細径ワイヤを用いる場合には、極細径ワイヤを破断させることなく、ワイヤカット放電加工機1において、加工形状の微細化を実現できる。
【0036】
また、張力の偏差が予め設定された範囲(図2の設定値設定手段により設定され、コントローラ70に記憶されている)にある場合には、ダンサ部20における張力制御のみを行うようにし、偏差が所定の範囲を超えた場合には、ダンサ部20および張力付与部30における張力制御を行うようにしてもよい。つまり、ワイヤ2の張力制御を分担して、ワイヤ2の張力の微調節に対してはダンサ部20による張力制御、ワイヤ2の張力の大きな変動に対しては張力付与部30による張力制御とすることにより、ワイヤカット放電加工機1において、広い範囲にわたってワイヤ2の張力制御を行うことができ、さらに、この広範囲にわたって、高精度かつ高応答の張力制御を行うことができる。
【0037】
そして、ワーク3の放電加工時に、ワーク加工部50でのワイヤ2の外乱による張力変動が発生した場合であっても、ダンサ部20および張力付与部30における張力制御により、ワイヤ2の外乱による張力の変動分を素早く吸収して、ワイヤ2の振動の影響を応答性よくできる限り抑制することができる。これにより、ワイヤカット放電加工機1において、ワーク加工部50でのワイヤ2の張力の変動に起因するの加工精度の悪化を低減させることができる。
【0038】
また、張力検出部40においてワイヤ2の張力の検出することにより、ワイヤ2の張力の変動が分かる。コントローラ70は、ワイヤ2の張力の変動からワイヤ2の振動状態を検出して、検出されたワイヤ2の振動状態に基づき、トルクモータ24およびパウダーブレーキ33に対してトルク指令を出力し、ダンサ部20および張力付与部30におけるワイヤ2の張力制御を行うこととしている。例えば、ワーク3に対する放電加工時に、ワーク加工部50でのワイヤ2の振動現象が発生すると、その振動が張力検出部40に伝わり、張力検出部において、ワイヤ2の張力の変動として検出される。このワイヤ2の振動の振幅が小さくなるようにあるいは一定の振動状態となるようにワイヤ2の張力制御を行う。これにより、ワーク加工部50でのワイヤ2の振動に起因する加工精度の悪化を防止できる。
【0039】
【発明の効果】
本発明は、以上のように構成したので、以下に示すような効果を奏する。
すなわち、請求項1に示す如く、引き取り手段と巻出し手段の間にダンサローラとワーク加工部を配置し、該ダンサローラを所定位置に維持するように制御して、一定速度でワイヤを走行するようにしたワイヤカット放電加工機において、ダンサローラを支持するアームに、ワイヤに張力を付与するためのアクチュエータを連設して第1の張力付与手段を構成し、ワイヤに所定張力を付与するように制御したので、アクチュエータの回転トルクを任意に変更することにより、ワイヤに対して任意の張力を付与することができ、前記第1の張力付与手段とワーク加工部の間に張力検出手段を配置したのでワーク加工部でのワイヤ張力が検出可能となり、前記第1の張力付与手段および前記張力検出手段を制御装置と接続したので、ワイヤに正確で安定した張力を付与でき、ワイヤの張力を一定に保つことができる。これにより、外乱による張力変動に起因する加工精度の悪化を低減させる事ができる。
また、制動トルク制御のローラとは異なり、加減速時に発生する慣性力による慣性負荷を極力小さくでき、これにより、高精度かつ高応答な張力制御を行うことができる。
【0040】
また、前記第1の張力付与手段とワーク加工部の間に、ブレーキ手段を有する第2の張力付与手段を配置したので、ワイヤの張力制御を分担して、ワイヤの張力の微調節に対しては第1の張力付与手段による張力制御、ワイヤの張力の大きな変動に対しては第2の張力付与手段による張力制御とすることにより、ワイヤカット放電加工機において、広い範囲にわたってワイヤに正確で安定した張力を付与できる。また、前記張力検出手段によりワーク加工部での張力検出が可能な為、ワイヤ速度の加減速時などあらゆる状況でワイヤの張力を一定に保つことができ、高精度かつ高応答の張力制御を行うことができることから、放電加工領域でのワイヤの張力変動に起因するの加工精度の悪化を低減させることができる。
さらに、ワイヤカット放電加工機において異なる径のワイヤを用いる場合であっても、低い張力での張力一定制御が必要な極細ワイヤを用いる場合には前記第1の張力付与手段のみを単独で用いて、あるいは高い張力での張力一定制御が必要な太いワイヤを用いる場合には前記第1の張力付与手段と前記第2の張力付与手段を併用して用いることにより、ワイヤ径に対応した幅広い張力制御を高精度かつ高応答に行うことができる。
【0041】
請求項2に示す如く、前記張力検出手段により検出されたワイヤの張力の変動からワイヤの振動状態を検出し、検出されたワイヤの振動状態に基づいて、第1の張力付与手段及び第2の張力付与手段によりワイヤの張力を制御するので、ワイヤの振動の影響を応答性よく、できる限り抑制してワイヤの振動状態を良好に保つことができる。また、放電加工領域でのワイヤの振動に起因するの加工精度の悪化を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明を適用するワイヤカット放電加工機の一実施例を示す模式図。
【図2】 ワイヤカット放電加工機における張力制御を示すブロック図。
【符号の説明】
1 ワイヤカット放電加工機
2 ワイヤ
10 送出部
20 ダンサ部
21 ダンサローラ
22 ダンサアーム
24 トルクモータ
45 歪みゲージ
60 引取部
70 コントローラ
Claims (2)
- 引き取り手段と巻出し手段の間にダンサローラとワーク加工部を配置し、該ダンサローラを所定位置に維持するように制御して、任意の速度でワイヤを走行するようにしたワイヤカット放電加工機において、前記ダンサローラとワーク加工部の間に張力検出手段を配置するとともに、ダンサローラを支持するアームに、ワイヤに張力を付与するためのアクチュエータを連設して第1の張力付与手段を構成し、前記張力検出手段および前記アクチュエータを制御装置と接続し、ワイヤに所定張力を付与するように制御し、前記第1の張力付与手段とワーク加工部の間に、ブレーキ手段を有する第2の張力付与手段を配置したことを特徴とするワイヤカット放電加工機のワイヤの張力制御装置。
- 前記張力検出手段によりワイヤの振動状態を検出し、該振動状態に基づいて前記第1の張力付与手段及び第2の張力付与手段によりワイヤの張力を制御することを特徴とする請求項1に記載のワイヤカット放電加工機のワイヤの張力制御装置。
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