JP3772581B2 - 合金鋼線材の直接球状化焼なまし方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、合金鋼線材の球状化焼なまし方法、とくに直接球状化焼なまし方法に関し、とりわけ熱間圧延後、直接球状化焼なましを施す場合に、焼なまし時間の有利な短縮化と、材料特性の安定化を図ろうとするものである。
【0002】
【従来の技術】
一般に、合金鋼線材を冷間で鍛造または切削して成形を行う機械部品は、合金鋼線材のスケール除去を目的として一次酸洗後に球状化焼なましを行い、ついで球状化焼なましによる脱炭層とスケール除去を目的として二次酸洗を行い、さらに寸法精度の向上を目的として約10%程度の伸線加工を行ったのち、潤滑処理を施して成形加工される。
上記したような合金鋼線材の球状化焼なましは、成形加工時の材料の硬さを十分に低下させて加工性を確保する上で不可欠のプロセスであり、通常は、コイル状態でポット炉に装入し、所定の熱履歴を付与する。
【0003】
しかしながら、上記の球状化焼なまし法には、以下に述べるような問題があった。
(1) コイル状態で加熱または冷却する熱履歴を付与するため、加熱・冷却に長時間(通常20〜30時間程度)を要することから、生産性が低く、熱処理コストが高い。
(2) コイル内の各部位で熱履歴が大幅に異なるため、品質のばらつきが大きい。
(3) 生産性を向上させるためにコイル重量を大きくしても、大重量のコイルを処理するには、より大型のポット炉が必要となることから、過剰な設備投資が必要になるだけでなく、その維持のためのコストが大幅に増大する。
【0004】
上記の問題を解消するものとして、特開昭63−230821号公報には、 C:0.10〜1.00mass%を含有する鋼片を熱間圧延し、仕上圧延機群の入側における被圧延材の温度を 650〜850 ℃となし、仕上圧延機群の出側における前記被圧延材の最終仕上温度を 750〜900 ℃となして鋼線材を調整し、次いで、前記鋼線材を2℃/秒以上の冷却速度で 650℃以下の温度まで冷却し、次いで、冷却された前記鋼線材を2℃/秒以上の加熱速度でAc1〜Ac1+160 ℃の温度域まで加熱し、そして、前記温度域において5分間以内の時間保持し、次いで前記温度域に加熱、保持された前記鋼線材を、
1) Ar1〜Ar1−160 ℃の温度まで冷却し、そして、前記温度域において5〜60分間の時間保持するか、または
2) 任意の冷却速度でAr1の温度まで冷却し、次いで、前記温度に冷却された前記鋼線材を、 2℃/秒以下の冷却速度でAr1−80℃の温度まで冷却する
ことを特徴とする熱間圧延鋼線材の直接球状化処理方法が開示されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
上記した特開昭63−230821号公報によれば、熱間圧延後、球状化焼なましを行う前組織として低温圧延により微細なフェライトおよびパーライト組織を必要とする。
しかしながら、低温圧延は組織的不均一を生じ易く、そのため球状化組織にバラツキを生じ、ひいては達成硬さにバラツキが生じるという問題があった。
また、この方法を実施するためには、新規な球状化焼なまし設備の他に、既存の設備においても仕上圧延前後の温度をかなり低くする必要があり、仕上圧延前に冷却ゾーンを設置したり、圧延機の能力を増大させるといった新規な設備の設置や改造が不可欠であるため、設備費が嵩むところにも問題を残していた。
さらに、亜共析鋼では、球状化処理中に、セメンタイトがA1 変態点以上では不安定相であることなどを原因として再生パーライトが生じてしまい、冷間鍛造性を著しく劣化させてしまうという問題があった。
【0006】
本発明は、上記した問題点を踏まえ、亜共析合金綱を短時間の直接球状化焼なまし処理にて、通常の長時間球状化焼なまし材並の硬さを確保し、しかもそのバラツキが少なく、また再生パーライトの生成もない、合金鋼線材の有利な直接球状化焼なまし方法を提案することを目的とする。
さらに加えて、本発明の目的は、安価な設備の下で、繁雑な圧延制御を行う必要なしに実施できる直接球状化焼なまし方法を提案することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
すなわち、本発明は、JIS G 4105に規定されるクロムモリブデン鋼鋼材またはJIS G 4104に規定されるクロム鋼鋼材の成分中、CおよびCrについては
C:0.1 〜0.6 mass%
Cr:0.25〜1.6 mass%
の範囲で含有する組成になる合金鋼線を製造するに当たり、最終仕上温度:900 〜1150℃の条件で熱間圧延して線材とし、ついで体積率で80%以上がベイナイトまたはマルテンサイトの低温変態組織となる冷却を施した後、 600℃から(Ac1点+10℃)〜(Ac1点+80℃)まで平均加熱速度:1〜20℃/sで加熱し、加熱後直ちにまたは同温度で60s以内保持してから、(Ar1点+50℃)〜 (Ar1点+10℃)まで1℃/s以上の速度で冷却し、さらにAr1点〜 (Ar1点−30℃)まで 0.5℃/s以下の速度で冷却し、その温度に 120s以上保持することを特徴とする合金鋼線の直接球状化焼なまし方法である。
【0008】
ここに、鋼線材の圧延後の球状化焼なましは、1本通しあるいは数ループ単位で行う方が、加熱および冷却が短時間で済むだけでなく、温度の制御も容易である。しかしながら、コイル状態あるいは棒鋼でもこの発明を適用すれば球状化処理時間の短縮が図れることは言うまでもない。
【0009】
【発明の実施の形態】
まず、この発明の基礎となった実験結果について述べる。
発明者らは、代表的な亜共析合金鋼であるクロムモリブデン鋼SCM435(JIS G 4105)を用いて、硬さとそのばらつきにおよぼす初期組織の影響、並びに引き続いて行われる球状化焼なましのヒートサイクルの影響を、加工フォーマスターを用いて詳細に検討した。
なお、処理条件は、図1または図2に示すヒートサイクルとした。
【0010】
まず、初期組織を変化させるため、図1のヒートサイクルにおいて圧延仕上温度T1 を低温圧延である 820℃とした場合(処理A)と、通常の 950℃とした場合(処理B)で、圧延後の冷却終了温度T2 を種々変化させた場合の影響について調査した。この時、球状化焼なまし条件はS2 :8℃/s,T3 :790 ℃, t3 :10s,S3 :5℃/s,T4 :720 ℃, S4 :0.2 ℃/s,T5 : 690 ℃, t5 : 600 sとした。
また、球状化焼なましヒートサイクルの影響として、処理B材の球状化焼なましヒートサイクルを図2のサイクル(処理C)とした場合と比較した。この時の球状化焼なまし条件は、処理Bの徐冷部分を省いたもの、すなわちS2 : 8 ℃/s,T3 :790 ℃, t3 :10s,S3 : 5℃/s,T4 : 690 ℃,t4 : 600 sとした。
【0011】
これらの処理を同一条件にて4回行い、さらに各試験片より5点硬さを測定し、そのバラツキと平均値を測定した。またT2 での低温変態相の相分率は、T2 まで処理したサンプルを急冷し、その変態曲線と組織観察より求めた。
得られた結果を図3に示す。
図3に示したとおり、処理Aの低温仕上圧延では、T2 が高温からフェライト−パーライト変態が生じるため軟化が起こるが、そのバラツキは大きく、通常球状化焼なまし材のHv ≦175 をバラツキを含め達成することができないことが分かる。
この原因の詳細は明らかではないが、初期組織のフェライト−パーライト組織のバラツキが影響したものと考えられる。
【0012】
また、処理Cでは、低温変態相が80%以上とほぼ均一な組織になっているにも関わらず、バラツキを含め十分な軟化組織が達成できなかった。
詳細は明らかでないが、成分的バラツキがAr1点のバラツキとなり、同一条件でも部分的に軟化が達成できなかったものと推察される。
【0013】
これに対し、処理Bでは、T2 が 500℃以下の範囲において、低温変態相の相分率が80%以上になると共に、球状化焼なまし材の硬さをバラツキを含めてHv ≦175 の範囲に制御することができた。
【0014】
なお、この他にも、球状化焼なまし条件として加熱から冷却までの処理条件を厳密に制御しないと、残留炭化物の核が消失してしまい、再生パーライトが発生して、冷間鍛造性が著しく劣化することが判明した。
【0015】
次に、本発明において、鋼材の成分組成や製造条件を前記の範囲に限定した理由について説明する。
まず、本発明で対象とする鋼材は、製造工程において球状化焼なましが不可欠な機械部品用鋼材、中でもC量が亜共晶鋼範囲である鋼材全てに適用可能である。たとえばその代表鋼として、クロムモリブデン鋼鋼材(JIS G 4105)やクロム鋼鋼材 (JIS G 4104) などが挙げられる。かかる鋼種において、特にC,Crを前記の範囲に限定した理由は次のとおりである。
【0016】
C:0.1 〜0.6 mass%(以下、単に%で示す)
Cは、固溶して基地を強化し、機械部品としての十分な強度、耐摩耗性を向上させる有用な元素である。しかしながら、含有量が 0.1%未満では、冷間加工前に球状化焼なましを行う必要がないことから、Cの下限は 0.1%とした。一方、本発明の特徴である球状化焼なましに厳密な熱処理が必要となる亜共析鋼のC量の上限として一般的な値である 0.6%を上限とした。
【0017】
Cr:0.25〜1.6 %
Crは、鋼材の焼入性の改善ならびに炭化物の球状化および安定化に有効な成分であり、本発明では特にA1 点以上に加熱時の炭化物の安定化のために重要な役割をはたす。しかしながら、含有量が0.25%未満ではA1 変態点以上で炭化物が安定せず急速に分解してしまうため、再生パーライトが生じてしまい良好な球状化組織が得られず、軟化を困難にするばかりか、冷間鍛造性をも著しく劣化させる。一方 1.6%を超えると切削性の低下および化学組成からみてコストアップとなるので、Cr量は0.25〜1.6 %の範囲で含有させるものとした。
【0018】
以上、重要成分であるC, Crについて説明したが、この発明では、これら2成分が上記の範囲を満足していれば、その他の成分についてはJIS G 4105 に規定されるクロムモリブデン鋼鋼材または JIS G 4104 に規定されるクロム鋼鋼材の組成範囲を満足していればよい。
【0019】
次に、この発明において、圧延条件および球状化焼なまし条件を前記の範囲に限定した理由について説明する。
(1) 最終仕上温度:900 〜1150℃
最終仕上温度が 900℃に満たないと、圧延後の冷却中に鋼全体に均一な低温変態相が形成されず、フェライトやパーライトが不均一に形成されるため、安定した球状化焼きなまし組織を得ることが難しくなる。また、熱間圧延時の変形抵抗が増大し、圧延機の増強や冷却能力の増強が必要になるなど、設備投資が必要となることから、最終仕上温度の下限は 900℃とした。一方、仕上圧延温度が1150℃を超えると脱炭量が多くなり、また表面欠陥が急増するため、1150℃を上限とした。
【0020】
(2) 熱延後冷却処理:低温変態組織体積率≧80%
安定して球状化焼なまし組織を得るためには、熱延後、球状化焼なまし処理を行う前に、組織をオーステナイトから一旦変態させる必要がある。このとき均一な球状化焼なまし組織を得るためにはベイナイトやマルテンサイトを主とする低温変態組織としなければならない。そのためには、冷却速度もさることながら、熱延後の冷却停止温度を適正温度とすることが重要で、この温度制御によって、低温変態組織の体積率を80%以上とする必要がある。
この冷却停止温度は、線材の成分組成によって幾分変化するけれども、500 ℃以下程度とするのが好適である。
【0021】
(3) 600℃から(Ac1点+10℃)〜(Ac1点+80℃)まで平均加熱速度:1〜20℃/sで加熱、その後直ちにまたは同温度で60s以内保持し、同温度から(Ar1点+50℃)〜 (Ar1点+10℃)まで1℃/s以上の速度で冷却
球状化焼なまし後の硬さは、残留炭化物の数に依存し、数が少なくなるにつれて軟らかくなる傾向にある。このため硬さを低下するためには、加熱の段階から炭化物の個数を減らす必要がある。すなわち、炭化物の不安定なAc1点以上に加熱して変態させ、炭化物の分解を十分に行う必要がある。
一方、A1 変態点以上の高温に長時間加熱すると、亜共析鋼では炭化物が不安定となるため、残留炭化物が完全に分解してしまい、その結果、冷却時に炭化物の核が無くなって、球状化自体が達成されず、再生パーライトが析出することになる。
【0022】
確実な変態による残留炭化物の減少と、再生パーライトの析出の抑制には、加熱から冷却まで密接に関係しているため、総合的に評価し厳密に制御する必要がある。そのため、加熱速度と加熱温度範囲、およびその温度での保持時間、さらには冷却速度と冷却温度範囲を種々変化させて、硬さ変化および再生パーライト析出の有無を調査した。
その結果、少なくとも 600℃から(Ac1点+10℃)〜(Ac1点+80℃)まで平均加熱速度:1〜20℃/sで加熱し、加熱後直ちにまたは同温度で60s以内保持したのち、(Ar1点+50℃)〜 (Ar1点+10℃)まで1℃/s 以上の速度で冷却する必要があることが究明された。
【0023】
(4) (Ar1点+50℃)〜 (Ar1点+10℃)から(Ar1点) 〜 (Ar1点−30℃)まで 0.5℃/s 以下の速度で冷却し、その温度に 120s以上保持する
一般に工程的な製造においては、偏析などによる局所的な成分のバラツキや製造上の温度のバラツキをなどが生じる。本発明においても、Ar1変態点まで1℃以上の速度で冷却すると、得られる硬さに局所的なバラツキが生じることが判明した。
この問題を解消するには、変態点近傍を徐冷することが有効で、これにより均一に軟化可能であることが判明した。
そこで、本発明では、(Ar1点+50℃)〜 (Ar1点+10℃)から(Ar1点) 〜(Ar1点−30℃)まで 0.5℃/s 以下の速度で徐冷し、その温度に 120s以上保持することにしたのである。
【0024】
ここに、冷却速度が 0.5℃/s 超では十分な不均一の解消が望めないので、冷却速度は 0.5℃/s 以下に限定した。より好ましくは 0.2℃/s 以下の速度である。
また、(Ar1点−30℃)以下まで徐冷すると、球状化が進行しないばかりか、再生パーライトを析出する問題を生じるため、徐冷処理を施すべき温度範囲の下限は(Ar1点−30℃)とした。
また、徐冷の終了温度がAr1点近傍では、その温度に達しても直ぐには変態が完了しないため、球状化を完了させるためにはある程度の時間保持する必要がある。この場合、変態の完了には少なくとも 120sを必要とするので、保持時間は120 s以上とした。
【0025】
【実施例】
表1に示す種々の化学組成になる鋼を、転炉で溶製し、連続鋳造法にて 400×560 mmのブルームとした。ついで、表2に示す製造条件(図1のヒートサイクル)で 8.0mmφの線材とした。
なお、ブルームの一部は、通常の熱間圧延により 8.0mmφの線材とし、コイルに巻き取って室温まで放冷したのち、通常条件の長時間徐冷法で球状化焼なましを行った(従来法)。
上記した 8.0mmφの線材のD/4における硬さを測定した。また、顕微鏡観察試料を採取し、ピクラールにて腐食後にミクロ組織の観察を行い、再生パーライトの有無を調査した。さらに、T2 での組織状態は、圧延途中で試験片を一部抜き取り、その変態挙動と組織より、低温変態相の相分率を求めた。
得られた結果を表3に示す。
【0026】
【表1】
【0027】
【表2】
【0028】
【表3】
【0029】
表3に示したとおり、圧延仕上温度T1 が1250℃とこの発明範囲より高い(No.17, 25, 32)場合には、脱炭量が大きく、表面疵が発生した。また、T1 が低すぎたり(No.16) 、T2 が高くオーステナイトのままだった場合(No.18) は、低温変態相の相比率が低く、十分な軟化が達成できなかった。
さらに、前組織が適正であっても、製造条件がこの発明範囲外では、硬さが従来材より高いか、再生パーライトの析出が見られ、いずれも十分な特性が得られていない。
これに対し、本発明に処理した場合はいずれも、低温変態相の相比率が90%以上で、再生パーライトの析出もなく、しかも安定してHv ≦175 が達成されている。
【0030】
【発明の効果】
かくして、この発明によれば、圧延温度を低下させる必要なく、また短時間で球状化組織を安定して得ることができ、その結果、設備の増大等を招くことなしに、生産性を格段に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の球状化焼なましにおけるヒートサイクルを示した図である。
【図2】比較のための球状化焼なましにおけるヒートサイクルを示した図である。
【図3】圧延仕上温度と球状化焼なまし条件が、硬さとそのばらつきにおよぼす影響を示したグラフである。
Claims (1)
- JIS G 4105に規定されるクロムモリブデン鋼鋼材またはJIS G 4104に規定されるクロム鋼鋼材の成分中、CおよびCrについては
C:0.1 〜0.6 mass%
Cr:0.25〜1.6 mass%
の範囲で含有する組成になる合金鋼線を製造するに当たり、最終仕上温度:900 〜1150℃の条件で熱間圧延して線材とし、ついで体積率で80%以上がベイナイトまたはマルテンサイトの低温変態組織となる冷却を施した後、 600℃から(Ac1点+10℃)〜(Ac1点+80℃)まで平均加熱速度:1〜20℃/sで加熱し、加熱後直ちにまたは同温度で60s以内保持してから、(Ar1点+50℃)〜 (Ar1点+10℃)まで1℃/s以上の速度で冷却し、さらにAr1点〜 (Ar1点−30℃)まで 0.5℃/s以下の速度で冷却し、その温度に 120s以上保持することを特徴とする合金鋼線の直接球状化焼なまし方法。
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