JP3765752B2 - 流動体塗布具の組立て方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、流動体塗布液の流出制御機構を具備する流動体塗布具の組立て方法に関し、特に、ボールペンなどの筆記具、修正具、接着剤塗布具、化粧具等に用いられるボールペン用チップを備えた流動体塗布具の組立て方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、ボールペンや修正具等の筆記具および化粧具等の塗布具においては、インクが収納されるインク収納管の一端部に、塗布部の先端に転写ボールが組み込まれたボールペン用チップを取付けて、筆記や塗布を可能にしたものが一般に用いられていた。
近年では、使用するインクや塗布具の改良にともない、塗布部の先端に配置される転写ボールを、ボールペン用チップ先端のボール抱持部の内縁に密接するように該転写ボールの背面をばね圧等で押し付けて、インクの流出を規制するようにしたものが知られている。
このように転写ボールを用いた弁機構を持つ筆記具において、弁開放は筆記面に転写ボールを押し当てることによって行われる。さらに柔軟性のあるインク収納体を備える筆記具の場合には、該インク収納体の本体を押圧してインクを流出するようにしたものが知られている。
【0003】
前述したような構造の塗布具を組み立てる場合には、組立て工程の一工程として、通常、インク収納管へインクを充填した後にインク収納管の一端部にチップ継手を介してボールペン用チップを差し込む方式や、インク収納管とボールペン用チップとを組み立てた後にインクを注入する方式等が採用されている。
【0004】
このような従来の組立て方式によると、ボールペン用チップとチップ継手内に存在していた空気がインクと置換せずに残ってしまうことが多く、組立て後に、さらに遠心分離機により残存空気をインク収納管後部より排出させるなどの工程を必要としていた。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、転写ボールの背面をコイルばね等のばね体で押圧して該転写ボールをチップ先端の開口部に密着させる機構では、ばね体とチップ内部との空隙が狭く、さらに、チップ継手にばね体を係止するためのリブ等が必要となり、空気が逃げづらい構造にならざるを得なかった。特に、粘性の高いゲルインク等を充填した場合には、空気が逃げづらい傾向が著しいものであった。
【0006】
この残存空気は、ボールペン用チップおよびチップ継手の内部で膨張することで占有容積が大きくなると、流路を塞いでインクの出が悪くなるという問題を生じる。特に、揮発性の溶剤を使用したインクを充填した場合、高温下においてボールペン用チップ内部の残留空気中に溶剤が揮発して、空気が占有する容積が膨張するという問題がある。
また、ゲルインクを充填した場合には、離液すなわち離油あるいは離しょう、揮発、膨張を繰り返し、乾燥固化などが生じて筆記不良となるという問題点が生じている。
【0007】
そこで、前述した問題点を回避するために、様々な方式が提案されているが、何れも完全ではなかった。
例えば、遠心分離によりインク収納管より空気を除去する方法が提案されている。しかしながら、この方式によると、顔料インクや粒子の分散したインクでは、遠心力と時間を増大させるとインク粒子がチップ側へ堆積したり、比重と粒子径に応じて濃度勾配が生じるという問題が生じる。
【0008】
また、ボールペン用チップの構造を内部に残留する空気が逃げやすくするための検討もされているが、ボールペン用チップの構造が複雑な構造となり、また、チップの外径が太くなるという問題点が生じる。さらに、チップ内部の空隙を広げるために、ばね体を棒状にすることも提案されているが、転写ボールを付勢する力が弱くなり、チップのシール性が劣る等の問題点が生じる。
【0009】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みてなされたものであり、ボールペン用チップおよびチップ継手内部に残存空気の残らない簡便な組立て方法により、筆記性に優れた流動体塗布具を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明は、流動体塗布具の組立て方法に係り、直接インクが充填されたインク収納管を備え、前記インク収納管の端部に転写ボールを先端方向に付勢するボール押しピンを備えたボールペン用チップを取付けた流動体塗布具における、前記ボールペン用チップの内部の空気を熱膨張させる工程と、前記ボールペン用チップの内部の空気を遠心分離により取り除く工程とを有する流動体塗布具の組立て方法において、遠心分離によりボールペン用チップの内部の空気を取り除く工程の前に、前記ボールペンチップ先端よりインクあるいはインク溶媒を流出させ、該ボールペン用チップ内をインクあるいはインク溶媒で満たした後に、該ボールペン用チップの内部の空気を熱膨張させことを特徴とするものである。
【0012】
本発明によれば、以下のような作用が得られる。
すなわち、直接インクが充填されたインク収納管を備え、前記インク収納管の端部にボールペン用チップを取付けた流動体塗布具において、前記ボールペン用チップの内部の空気を熱膨張させることで、インク内の気泡の体積が大きくなり、インクとの比重差が拡大するので弱い遠心力で効果的に気泡を排除できる。したがって、前記ボールペン用チップ内部の残存空気を無くし、残存空気によるインク流路の閉塞を防止して、インクの流出が良好で筆記性に優れた流動体塗布具を実現できる。
【0013】
以上のように、インク内の空気を膨張させるには、加温による行う方法が最も簡便で確実である。また、インク内の空気を膨張させる際の温度と滞留時間については、特に限定されるものではないが、インクの劣化を考慮し、温度は低くかつ時間は短いほど良いが、インクの粘性による空気の膨張速度から、また、ボールペン用チップの構造などから最適な条件を実験から見出すことができる。
【0014】
尚、空気を膨張させる方式として、減圧により気体を膨張させることも可能である(特開平11−180088号)が、この場合は、次工程の遠心分離も減圧下で行うことが要求されるため、工程上の簡便さでは、本発明に係る加温により膨張させる方が優れている。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して詳細に説明する。
図1は発明の実施形態の一例を示すものであり、流動体塗布具のボールペン用チップの取付け部の構成を示す側面断面図、図2は前記ボールペン用チップの先端部の構成を示す部分詳細断面図である。
【0016】
本実施形態は、図1に示すように、インク収納管4に直接インクが充填され、該インク収納管4の端部にボールペン用チップ3を取付けた流動体塗布具1に、本発明に係る流動体塗布具の組立て方法を採用したものである。
【0017】
詳しく説明すると、前記流動体塗布具1は、転写ボール2を採用したボールペン用チップ3とインク収納管4とをチップ継手5により連結して筆記部を構成したものである(全体図示は省略)。
【0018】
前記ボールペン用チップ3は、図1に示すように、略円筒形状の外形を呈し、その先端部が尖塔状に形成されている。その先端部には平面視円状の開口部3aが形成され、該開口部3aは内蔵される転写ボール2の外径よりも小さい寸法で開口されている。また、前記先端部の内部には転写ボール2を抱持するボール抱持部3bが形成され、該ボール抱持部3bは先端側を前記開口部3aと連通するとともに後端側がインク通路3cと連通されている。
前記ボール抱持部3bの後方には該ボール抱持部3bと連通するとともにボールペン用チップ3の後端部に亘りインク通路3cが貫通形成されている。
前記ボール抱持部3bに配置された転写ボール2の後方には、該転写ボール2の背面より先端方向に付勢するボール押しピン6とコイルばね7が配置されている。
【0019】
前記チップ継手5は、一方端側が先細りテーパ状に形成され、その先端部には前記ボールペン用チップ3が嵌着される嵌合部5aが開口形成されるとともに、後端部に亘りインク通路5bが貫通形成されている。また、他方端側外周部には前記インク収納管4を嵌着固定するためのインク収納管係止部5cが後方側を小径にして段付き形成されている。
【0020】
前記インク通路5bの内壁部には、前記コイルばね7を係止するためのリブ8が内側に向かい突設されている。前記リブ8の軸心方向に沿って略中央部に、コイルばね7をガイドするとともに係止するためのばねストッパ部5dが段付き形成されている。
【0021】
前記インク収納管4は、略円筒状の透明チューブであって、インクとインクの一方端に該インクと追随するフォロア(図示省略)が充填されている。
前記インクの組成は、重量部(以下「部」で示す。)で、
・メチルシクロへキサン 40部
・アクリル樹脂 10部
・二酸化チタン 49部
・粉末シリカ 1部
また、以下のものを混合分散して可動栓として構成されている。
・グリセリン 98部
・微粉末シリカ 2部
【0022】
次に、本実施形態の流動体塗布具の組立て方法による作用について説明する。
実施例1は、まず、(1)ボールペン用チップ3をチップ継手5に挿入する。次に、(2)インク収納管4にインクと可動栓を充填してチップ継手5を差込み嵌合する。次に、(3)前記インク収納管4の後部より圧縮空気で加圧しつつ、先端部の転写ボール2を紙面に押し当ててインクをチップ内に充満させ、先端よりインクを流出させる。そして(4)50°Cの恒温槽に2時間放置する。その後(5)遠心分離により残存空気を排除する。
こうして、ボールペン用チップ3および継手5の内部の空気が排除されてインクで満たされる。
【0023】
次に、実施例2は、前記実施例1と同様に、まず、(1)ボールペン用チップ3をチップ継手5に挿入する。次に、(2)インク収納管4にインクと可動栓を充填してチップ継手5を差込み嵌合する。ここで、実施例1とは異なり、(3)吸引機(図示省略)を用いて、ボールペン用チップ3の弁開放とともに、その先端部からインク溶媒を吸引により排出させる。そして(4)50°Cの恒温槽に2時間放置する。その後(5)遠心分離により残存空気を排除する。
こうして、ボールペン用チップ3および継手5の内部の空気が排除されてインクで満たされる。
【0024】
次に、本実施形態に係る実施例1と実施例2の効果を比較例と対比して説明する。
実施例1及び実施例2は、前述したようにボールペン用チップ5とインク収納管4を組立て、インクを充填して50°Cの恒温槽に2時間放置した後に遠心分離により残存空気を排除したものである。
一方、比較例1は、後部加圧によりチップ先端からインクを排出させてチップ先端までインクを充満して、常温で放置した後に遠心分離により残存空気を排除したもので、比較例2は、吸引によりチップ先端からインクを排出させてチップ先端までインクを充満して、常温で放置した後に遠心分離により残存空気を排除したものである。
【0025】
評価方法は、実施例1、実施例2、比較例1、比較例2のそれぞれの方法で組み立てたペンを、50°Cのオーブンに1週間保管して、その外観と筆記性を評価したものである。
その結果を表1に示す。
【0026】
【表1】
Figure 0003765752
【0027】
表1に示すように、本実施形態に係る実施例1および実施例2は、何れも外観上は良好で、筆記性においても良好である。これに対し、比較例1および比較例2は、何れも外観上でインクに割れが確認され、筆記性においてもカスレが生じた。
【0028】
上記結果から分るように、実施例1及び実施例2の何れにおいても、インク内に空気が残存していないので、インク割れが生じることなく良好な筆記性を実現できた。
これに対し、比較例1及び比較例2においては、インク内に空気が残存していたので、50°Cのオーブンに放置されることで残存空気が膨張してインクに割れが生じた。そのインク割れの空間に離液した溶媒が入り込むことでインクの連続性が断たれ筆記不良の原因となった。
【0029】
以上、本実施形態による流動体塗布具の組立て方法によれば、従来のものと比較して、外部環境の変化に対して外観上の損傷もなく、しかも筆記性に優れた流動体塗布具を構成することができる。
【0030】
また、本実施形態によれば、塗布具1を加熱してインク内の残存空気を熱膨張させ、これを排除するようにしたのでインクに悪影響を及ぼすことがない。
【0031】
また、本実施形態によれば、ボール押しピン6を介してコイルばね7により転写ボール2を先端方向に付勢するようにしたので、該転写ボール2を確実に先端の開口部3aに密着させることができる。
【0032】
さらに、本実施形態によれば、インク通路5bの内壁部にコイルばね7を係止するためのリブ8を軸心方向に沿って、且つ内側に向かい一体的に形成したので、簡単な構成で、インク通路5bを塞ぐこと無くコイルばね7をガイドするとともに係止することができる。
【0033】
また、本実施形態によれば、ボールペン用チップ3およびチップ継手5の内部空間に残留した空気を、転写ボール2による弁開放とともに後端より加圧して外部に流出することでインク通路内をインクで満たし、インクが途切れること無く優れた筆記性を発揮することができる。
【0034】
また、本実施形態によれば、ボールペン用チップ3およびチップ継手5の内部空間に残留した空気を、転写ボール2による弁開放とともに先端部から吸引により外部に排出することでインク通路内をインクで満たし、インクが途切れること無く優れた筆記性を発揮することができる。
【0035】
また、本実施形態によれば、インク収納管4にインクとインクの一方端に該インクと追随するフォロアを充填しているので、インクの乾燥を防止するとともに逆流を防止することができる。
【0036】
尚、本発明の流動体塗布具の組立て方法は、上述の図示例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【0037】
本実施形態では、ボールペン用チップ3は、チップ継手5を別体で構成し、該チップ継手を介してインク収納管4に取付けることで、該インク収納管4との取付けを容易にしているが、本発明に係るボールペン用チップの構成は、これに限定されるものではなく、例えば、ボールペン用チップとチップ継手とを連続的且つ一体的に構成したものを、インク収納管に直接取付けるようにしたものであっても良い。この構成によると、部品点数の削減を図り、さらにボールペン用チップの組立て工数の削減を図ることができるので、低コストな流動体塗布具を実現できる。
【0038】
また、本実施形態では、二酸化チタンを色材とした白色流動体を例に掲げているが、本発明は、流動体の成分構成に限定されるものではなく、例えば、カーボンブラック、赤・青等の染顔料で着色した流動体であっても同様な効果を奏することができる。
【0039】
【発明の効果】
以上、説明したように本発明の請求項1〜2に記載の流動体塗布具の組立て方法によれば、ボールペン用チップおよびインク収納管を組み立てる際に、熱膨張により残存空気を膨張させて除去するという簡便な方法により、ボールペン用チップやインク収納管内に空気の残らないようにして、筆記性に優れた塗布具を提供することができるという優れた効果を奏し得る。
【0040】
詳しくは、本発明は、インク収納管に直接インクが充填されたインク収納管の端部にボールペン用チップを取付けた流動体塗布具において、流動体塗布具を組み立てる際に、前記ボールペン用チップの内部の空気を熱膨張させてから遠心分離により取り除くことで、容易にボールペン用チップの内部の残存空気を取り除くことができ、残存空気によるインク流路の閉塞を防止して、インクの流出が良好で筆記性に優れた流動体塗布具を提供することができる。
【0041】
また、前記ボールペン用チップ内の空気を加温することによって容易に膨張させることができ、従来のように減圧させる必要がないので簡単な装置構成で行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態に係る流動体塗布具のボールペン用チップの取付け部の構成を示す側面断面図である。
【図2】前記ボールペン用チップの先端部の構成を示す部分詳細断面図である。
【符号の説明】
1 流動体塗布具
2 転写ボール
3 ボールペン用チップ
3a 開口部
3b ボール抱持部
3c インク通路
4 インク収納管
5 チップ継手
5a 嵌合部
5b インク通路
5c インク収納管係止部
5d ストッパ部
6 ボール押しピン
7 コイルばね
8 リブ

Claims (1)

  1. 直接インクが充填されたインク収納管を備え、前記インク収納管の端部に転写ボールを先端方向に付勢するボール押しピンを備えたボールペン用チップを取付けた流動体塗布具における、前記ボールペン用チップの内部の空気を熱膨張させる工程と、前記ボールペン用チップの内部の空気を遠心分離により取り除く工程とを有する流動体塗布具の組立て方法において、
    遠心分離によりボールペン用チップの内部の空気を取り除く工程の前に、前記ボールペンチップ先端よりインクあるいはインク溶媒を流出させ、該ボールペン用チップ内をインクあるいはインク溶媒で満たした後に、該ボールペン用チップの内部の空気を熱膨張させことを特徴とする流動体塗布具の組立て方法。
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