JP3765713B2 - ロボットの協調制御方法及び協調制御装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、対象物体を把持し作業を行う複数のロボットに対する協調制御に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来の、複数のロボットにより対象物体を把持して作業を行う協調制御方法として、各ロボットに力センサを装備し、力誤差と位置誤差をフィードバックして手先に任意のインピーダンス特性を保有させる方法が知られている(例えば、小菅一弘、吉田英博、他、”インピーダンス制御に基づく双腕マニピュレータの協調制御、”日本ロボット学会誌、Vol.13、No.3、PP.404−140、1995参照)。この方法では、高価な力センサを必要とするため、制御系を構成するためのコストが高く、また、幾何学的誤差がある場合には位置と内力を正確に制御できないことが広く知られている。
【0003】
また、複数のロボットにより対象物体を把持し作業を行う協調制御方法として、各ロボットに力センサを装着し、力誤差と運動誤差をフィードバックする方法が知られている(例えば、P.R.Pagilla and M.Tomizuka,“Adaptive Control of Two Robot Arms Carrying an Unknown Object,”Proc. IEEE Robotics and Automation,PP.597−602,1995 参照)。この方法でも高価でかつ雑音の影響を受けやすい力センサを必要とするため、制御系を構成するためのコストが高く、制御システムの高信頼度化の妨げの要因となっていた。また、各ロボット毎に制御入力の生成ができないため、制御器を実装するコストを引き上げる要因となる。
【0004】
さらに、二つのロボットのうち、一方のロボットが対象物体を把持し、他方のロボットが把持された対象物体に作業を行う協調制御方式も知られている(例えば、Y. H.Liu,S. Arimoto and K. Kitagaki,“Adaptive Control for holonomically constrained robots:time-invariant and time-variant cases,”Proc. IEEE Robotics and Automation,PP.905−912,1995 参照)が、各ロボットとも力センサの装着を必要とするため、制御系のコストが高く、制御システムの高信頼度化を妨げる要因となっていた。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、複数のロボットにより対象物体を把持し作業を行う協調制御において、各ロボットに力センサを必要としない、目標軌道に漸近安定な、並列処理可能な協調制御を提供することを目的としている。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上述の目的を達成するために、複数のロボットが、協調して対象物体を把持し作業を行う協調制御方法において、前記対象物体の動力学パラメータを推定し、対象物体に、タスク座標系で与えられた対象物体の目標軌道による運動を生じさせる対象物体に加えるべき目標の力を、前記推定された対象物体の動力学パラメータと動力学モデルとを使って求め、求められた対象物体に加えるべき前記目標の力から各ロボットの力の目標軌道を求めるとともに、タスク座標系で与えられた対象物体の目標軌道から各ロボットの運動の目標軌道を求めて、これらの各ロボットに対する力および運動の目標軌道を各ロボットに分配し、各ロボットは、与えられた前記力と運動の目標軌道から動きを制御することを特徴とする。
上記制御方法は、ロボット目標軌道生成部と、前記複数の各ロボットに対応したロボット制御部とで構成され、協調して対象物体を把持し作業を行う協調制御装置に実装することができる。
各ロボットの動きに対する前記制御は、制御対象のロボットの動力学パラメータを推定し、該ロボットの推定した前記動力学パラメータと該ロボットの動力学モデルおよび力の目標軌道とに基づくフィードフォーワード補償と、該ロボットの運動の軌道誤差に基づくフィードバック補償とにより行うことができる。
【0007】
上述の制御を用いることにより、各ロボットの手先に力センサを装備する必要はなく、対象物体を目標とする軌道に漸近的かつ安定に追従させることが可能である。
対象物体に関する動力学パラメータ推定、および各ロボットの動力学パラメータ推定と制御入力の計算は、すべて独立に行うことができ、複数の制御器や計算機に計算負荷を分配させることができる。これにより、複数のロボットによる協調制御が、高価な制御システムを構成することなく実現が可能となる。このとき、各ロボットは完全に独立して制御でき、各ロボット制御装置間の通信は必要とはしない。
さらに、対象物体の目標軌道は作業座標系で記述されるため、ロボットの関節変位で対象物体の目標軌道を記述する必要がなく、実際の現揚で目標軌道を生成することが容易である。
【0008】
また、ロボットの動力学パラメータが既知の場合は、各ロボットの動きに対する前記制御は、該ロボットの動力学パラメータと該ロボットの動力学モデルおよび力の目標軌道に基づくフィードフォーワード補償と、該ロボットの運動の軌道誤差に基づくフィードバック補償とにより行うこともできる。このように、各ロボットの動力学パラメータが既知のとき、各ロボットの動力学のパラメータ推定を省略し、既知の値を用いてフィードフォーワード補償項を構成することができる。この場合、対象物体の位置姿勢のみでなく、対象物体の内部に生ずる内力を、力センサを用いなくとも目標内力に収束させることができる。
【0009】
対象物体の動力学パラメータとロボットの動力学パラメータが既知の場合は、対象物体に、タスク座標系で与えられた対象物体の目標軌道による運動を生じさせる対象物体に加えるべき目標の力を、対象物体の動力学パラメータと動力学モデルとを使って求め、求められた対象物体に加えるべき前記目標の力から各ロボットの力の目標軌道を求めるとともに、タスク座標系で与えられた対象物体の目標軌道から各ロボットの運動の目標軌道を求めて、これらの各ロボットに対する力および運動の目標軌道を各ロボットに分配し、各ロボットは、該ロボットの動力学パラメータと該ロボットの動力学モデルおよび力の目標軌道に基づくフィードフォーワード補償と、該ロボットの運動の軌道誤差に基づくフィードバック補償とにより、与えられた前記力と運動の目標軌道から動きを制御することもできる。
【0010】
このように、対象物体やロボットの動力学パラメータが既知のとき、ロボットおよび対象物体の動力学パラメータの推定を省略し、既知の値を用いてフィードフォーワード補償項を構成することができる。この場合も、対象物体の位置姿勢とともに、対象物体内部に生ずる内力を、力センサを用いずに、目標内力に漸近的に収束させることができる。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明の実施形態を、図面を参照して詳細に説明する。
図1に示すような複数のロボット(アームまたは指)による物体把持を考える。図1で用いる記号を以下に示す。
【数1】
さて、上述の複数のロボット(アーム)による物体把持に関して、以下の条件を設ける。
(1)物体を把持するアームはk本である。
(2)アームの手先と物体表面の接触は摩擦のある接触、または、ハンドにより堅く把持され、手先に任意の力とモーメントを生じさせることができる。
(3)物体座標系から観測して、接触点は運動をしない。
(4)アームの手先は接触点から離れることはない、すなわち、Pi=Pci
(5)pociは計測できる。
【0012】
<把持物体の運動方程式>
把持物体(対象物体)は、一般に次の運動方程式によって記述される。
【数2】
ここで、Mo,Co,goはそれぞれ、把持物体の質量行列,粘性行列,および重力項であり、
【数3】
は把持物体に設定された、物体座標系をタスク座標系で観測したときの原点位置ベクトルpoと姿勢ベクトルηoからなる位置姿勢ベクトルで、Foはタスク座標系で観測した、把持物体の物体座標系原点に働く外力である。
【0013】
<把持行列>
外力ベクトルFoを、
【数4】
とおく。foは並進力成分で、noはモーメント成分である。また、タスク座標系で観測した、i番目の接触点に働く力とモーメントを、それぞれfi,niとおき、これらからなる接触力ベクトルを
【数5】
とおく。このとき、接触力Fiと把持物体の物体座標系原点に働く力Foの間には以下の関係式が成り立つ。
【数6】
上式を行列を用いて記述すると以下のように書ける。
【数7】
で定義される3×3歪対称行列である。
【0014】
<アームiの運動方程式>
タスク空間で記述したアームiの運動方程式が、
【数8】
として記述されるものとする。ここで、Mi,Ci,giはそれぞれ、アームiの慣性テンソル、粘性行列および重力項であり、riはアームiの手先に設定された手先座標系の位置姿勢ベクトルである。また、Fiはアームiの手先に働く力で、uiは制御入力である。
【0015】
本発明における適応協調制御は、タスク座標系で与えられた把持物体の目標軌道と、物体内部に発生させる目標内力fint dに対して、
(1)把持物体に目標となる運動を生じさせ、また目標内力を生じさせるための、把持物体に加えるべき目標外力を把持物体の参照モデルを使って計算し、
(2)得られた把持物体の目標外力から各アームの手先の力目標値と目標軌道を計算し、それらを各アームのコントローラに分配し、
(3)アームのコントローラによって、把持物体に目標とする運動を生じさせるように、手先の運動と手先力を適応制御を使って各アームを制御する。
というものである。この適応制御の特徴は、力制御は力のフィードフォーワードのみで、力フィードバックを用いないため、力の計測が不要であること、および把持物体とロボットの動力学パラメータが未知であっても、把持物体を目標軌道に漸近的、かつ安定に追従させることができることにある。以下に詳しく述べる。
【0016】
<把持物体に対する適応則>
把持物体の参照モデルを以下のように定義する。
【数9】
ここでYoは把持物体のリグレッサで、σoは把持物体の動力学パラメータベクトルである。dror/dtは、参照速度とよばれ、次式で定義される。
【数10】
ここで、把持物体の参照モデルを利用して、把持物体に与える目標力Fo d(これはアームによって発生される)を次式で与えるものとする。
【数11】
把持物体のパラメータ適応則には次式を用いる。
【数12】
ここで、Γoは正定行列である。
<内力の目標値とアームの目標手先力>
各アームが発生する手先力Fiからなる手先力ベクトルを、
【数13】
として定義する。ただし、物体はk本のアームによって把持されるものとし、Fiはi番目のアームの手先力である。また、i番目のアームの把持行列を要素とする全体の把持行列
【数14】
を定義する。このとき、(6)式より、把持物体に働く力は、次式のように与えられる。
【数15】
上式を手先力ベクトルについて解くことにより、把持物体の目標力Fo dに対応する各アームの目標接触力Fi dを求めることができる。しかし、複数のアームによって把持物体を把持する場合には、把持行列は正方行列とならないので、一般には無限個の解が存在し、その一般解は次式で与えられる。
【数16】
ここで、fint dは物体内部に生じさせる内力の目標値、W+はWの疑似逆行列で、
【数17】
で与えられる。また、Iは単位行列である。このようにして得られたFi dをアームiの手先力の目標値とする。
【0017】
<アームの制御則>
力と速度の双対性により、i番目のアームの手先速度(dri/dt)と、把持物体の速度(dro/dt)との間には次式が成立する。
【数18】
これより、i番目のアームの目標軌道では把持物体の目標軌道を用いて、次式のように与えられる。
【数19】
このとき、アームの速度誤差は把持物体の速度誤差を使って次式のように書き表される。
【数20】
また、参照速度を次式によって定義する。
【数21】
ここでρ>0である。また、剰余誤差siを
【数22】
として定義する。また、i番目のアームの参照モデルを以下のように定義する。
【数23】
ここでσiはi番目のアーム動力学パラメータベクトルである。さらに、アームiの制御則とパラメータ適応則をそれぞれ、以下のようにする。
【数24】
また、アームiの関節トルクτiは
【数25】
とする。ここでJiはアームiのヤコビ行列である。(25)式で与えられる制御入力uiの右辺は、第1項目が参照モデルによるフィードフォーワード補償項、第2項目が手先力に対するフィードフォーワード補償項、そして第3項目がフィードバック補償項である。制御入力uiには力のフィードバックが含まれないので、力制御のために力センサを必要としない。
【0018】
図2,図3,図4は、上述の把持物体(対象物体)とアーム(ロボット)の動力学のパラメータが未知の場合の、図1のような複数のロボットによる協調制御システムの構成を示す図である。図2は、図1に示すようなk台のロボットを用いて対象物体を操作している場合の概略構成例であり、100はロボット目標軌道生成器で、200はk台のロボット制御器からなるロボット制御器群、300は実際に作業を遂行する例えば図1に示すアーム等のk台のロボットからなるロボット群で、400はk台のロボット群の作業の対象となる対象物体(把持物体)である。
【0019】
図2に表れる記号は、以下のような意味を有している。
【数26】
ロボット目標軌道生成器100は、タスク座標系で記述された有界な対象物体の目標位置軌道(ro d),目標速度軌道(dro d/dt)および内力の目標値fint dと観測された対象物体の位置(ro)と速度(dro/dt)を入力として、各ロボットの目標手先力(Fi d:i=1,2,.‥,k)と目標手先軌道である位置軌道(ri d:i=1,2,…,k)と速度軌道(dri d/dt:i=1,2,…,k)を生成する。このロボット目標軌道生成器100の構成は、後で図3を用いて詳しく説明する。
【0020】
ロボット制御器群200はk台のロボットに対応するk台のロボット制御器210より構成される。i番目のロボット制御器はロボット目標軌道生成器100によって生成された目標手先力(Fi d)、目標手先軌道(ri d,dri d/dt)および観測されたi番目のロボットの手先位置(ri)と手先速度(dri/dt)入力として、i番目のロボットの制御入力(τi)を生成する。このロボット制御器に関して、後で図4を用いて詳しく説明する。
【0021】
ロボット群300は、例えば図1に示すようなk台の回転関節のみからなるロボットである。i番目のロボットは、ロボット制御器群200のi番目のロボット制御器によって生成された関節トルク(τi)が入力されることで、ロボットの手先に運動(ri,dri/dt)が生じ、同時に対象物体400に接触力(Fi)をおよぼす。タスク座標系におけるi番目のロボットの手先位置は、i番目のロボットの手先に設定する手先座標系の原点の位置とし、手先の姿勢は、例えばZ−Y−Zオイラー角を用いて記述する。
【0022】
対象物体400は任意の形状を持つ物体で、各ロボットより与えられる接触力(Fi:i=1,2,…,k)により運動(ro,dro/dt)を生じる。タスク座標系における対象物体400の位置は、対象物体400に物体座標系を設定し、タスク座標系で観測した物体座標系原点の位置を用いて記述する。対象物体400の姿勢は、例えばZ−Y−Zオイラー角を用いて記述することができる。
【0023】
このような制御システムの構成により、対象物体の目標軌道と実際の軌道の観測値、及びロボットに把持されたときに生ずる内力の目標値から、各ロボットの目標軌道と目標手先力が生成される。各ロボットは、対応のロボット制御器により個別に与えられる目標軌道と目標手先力に追従する制御により制御される。これにより、全体としての協調制御を実現している。この様に構成したため、各ロボット制御器の間では制御のための相互通信を必要としておらず、独立に制御が行える。
【0024】
<対象物体の動力学パラメータが未知の場合のロボット目標軌道生成器>
図3は、対象物体の動力学パラメータが未知のときの、ロボット目標軌道生成器100の構成である。110は外力成分生成器で、120は内力成分生成器、130はロボット目標運動生成器、111は関数であるYoを計算する計算部、112は微分フィルター、113は対象物体動力学パラメータ推定器、120は内力成分生成器、131はロボット目標位置軌道生成器、132はロボット目標速度軌道生成器である。
図3で用いられている記号を以下のように定義する。
【数27】
対象物体の動力学モデルは、上記式(9)に示すように、動力学パラメータとその係数行列の積で表すことができる。Yo計算部111で、対象物体の動力学パラメータの係数行列(以降、リグレッサと呼ぶ)を計算することで、対象物体の動力学モデルを推定することができる。ρはゲイン定数で正のスカラである。Wは式(15)で定義した把持行列で、各ロボットの把持点位置より計算される。
【0025】
外力成分生成器110は、まず、対象物体目標位置ro dと対象物体位置roとの差をとり対象物体位置誤差eoを求める。次に、式(10)により、対象物体位置誤差eoにゲイン定数pを掛けたものと、対象物体目標速度(dror/dt)との和をとることで、対象物体参照速度を求める。次に、式(13)により、対象物体速度と対象物体参照速度との差をとり対象物体剰余誤差soを求める。一方、微分フィルター112は対象物体参照速度(dror/dt)より対象物体参照加速度(d2ror/dt2)を計算する。Yo計算部111は、対象物体参照速度と参照加速度および対象物体位置と速度を用いて対象物体のリグレッサYoを計算する(計算に関しては、例えば、発明者らの「拘束を受けるロボットの力・位置ハイブリッド適用制御」日本機械学会第2回ロボティクスシンポジア講演予稿集(1997年8月)等参照)。対象物体動力学パラメータ推定器113は計算された対象物体のリグレッサYoと対象物体剰余誤差soより対象物体の動力学パラメータの推定値を、
【数28】
により計算する(式(12)参照)。ここで、Γoは対象物体の適応ゲイン行列である。次に、動力学パラメータ推定値σoと対象物体リグレッサYoとの積をとり対象物体の目標外力Fdを計算する。最後に、把持行列Wの擬似逆行列W+との積を計算し、ロボットの目標手先力の外力成分を求める。
内力成分生成器120は、内力の目標値fint dと(I−W+W)との積を計算してロボットの目標手先力の内力成分を計算する。
【0026】
目標運動生成器130は、ロボット目標位置軌道生成器131とロボット目標速度軌道生成器132から構成される。目標位置軌道生成器131は、対象物体の目標位置軌道ro dより、式(19)に従って、ロボットの手先の目標位置軌道rdを計算する。また、目標速度軌道生成器132は、式(20)に従って、対象物体の目標速度軌道に把持行列の転置行列WTを掛けることにより、ロボットの手先の目標速度軌道を計算する。
【0027】
目標軌道生成器100は、最終的に式(17)により、外力成分生成器110で計算された外力成分と、内力成分生成器120で生成された内力成分の和として、ロボットの目標手先力Fdを求める。さらに、ロボットの目標手先力Fdと、目標運動生成器130で計算されたロボットの目標手先位置軌道rdおよび目標速度軌道(drd/dt)とを各ロボット制御器に分配する。
【0028】
以上の構成により、対象物体の参照軌道と目標内力を実現する各ロボットの目標手先力と目標軌道が生成される。対象物体の動力学パラメータが未知であっても、対象物体の動力学パラメータを推定しているので、各ロボットの目標手先力と目標軌道の生成が可能となっている。
【0029】
<各ロボットの動力学パラメータが未知の場合のロボット制御器>
図4は、各ロボットの動力学パラメータが未知である場合のロボット制御器群200におけるi番目のロボット制御器の構成例である。210はYi計算部で、220は微分フィルター、230は動力学パラメータ推定器である。図4で用いられている記号の意味を以下に示す。
【数29】
さて、ロボットの動力学モデルは、動力学パラメータとその係数行列(以下、ロボットのリグレッサと呼ぶ)の積で表すことができる。Yiはi番目のロボットのリグレッサである。Kiはi番目のロボットのフィードバック・ゲインで正定行列であり、Jiはi番目のロボットのヤコビ行列である。また、ρiはゲイン定数で正のスカラである。
【0030】
図4において、i番目のロボット制御器では、まず、i番目のロボットの目標手先位置ri dと手先位置riとの差をとり、i番目のロボットの手先位置誤差eiを求める。次に、式(22)に従って、i番目のロボットの手先位置誤差eiにゲイン定数ρiを掛けたものとi番目のロボットの手先目標速度との和をとり、i番目のロボットの手先参照速度を求める。式(23)により、i番目のロボットの手先速度と手先参照速度との差をとり、i番目のロボットの手先剰余誤差siを求める。一方、微分フィルター220は、i番目のロボットの手先参照速度よりi番目のロボットの手先参照加速度を計算する。Yi計算部210は、i番目のロボットの手先参照速度と参照加速度、および、i番目のロボットの手先位置と速度により、i番目のロボットのリグレッサYiを計算する。動力学パラメータ推定器230は、計算されたロボットのリグレッサYiと手先剰余誤差siよりi番目のロボットの動力学パラメータの推定値を
【数30】
により計算する(式(26)参照)。ここで、Γiはロボット動力学パラメータの適応ゲイン行列である。
【0031】
i番目のロボット制御器は、計算された動力学パラメータ推定値σiとi番目のロボットのリグレッサYiとの積をとり、i番目のロボットの規範モデルによるフィードフォーワード項を計算し、i番目のロボットの手先剰余誤差siにゲイン行列Kiを掛けてフィードバック項を計算するとともに、i番目のロボットの目標手先力Fi dを手先力のフィードフォーワード項とする。
i番目のロボット制御器は、式(25)に従って、規範モデルによるフィードフォーワード項、手先力のフィードフォーワード項およびフィードバック項を加え合わせることでi番目のロボットの制御入力uiを計算する。また、式(27)に従って、ロボットのヤコビ行列Jiの転置行列Ji Tをuiにかけてi番目のロボットの関節トルクに変換する。
【0032】
以上の構成により、ロボットの動力学パラメータが未知であっても、ロボット目標軌道生成器から与えられる目標軌道と目標手先力に安定に追従させるロボット制御器となっている。各ロボット制御器は、他のロボット制御器との通信を必要としていない。また、力センサも必要としていない。
上記の図2、図3、図4で構成されるロボットの協調制御は、対象物体と各ロボットの動力学バラメータが未知であっても、対象物体を目標軌道に漸近的に追従させることができることをLiapunov-Like Lemmaにより理論的に証明できる。
【0033】
<各ロボットの動力学パラメータが既知>
アームのパラメータが既知である場合には、アームの参照モデル(24)式において、アームの動力学パラメータを推定する必要がなくなる。したがって、この場合、アームの制御則(25)式は以下のように書き換えることができる。
【数31】
これで分かるように、対象物体の適応則はそのまま用いることができる。
【0034】
図5は、各ロボットの動力学パラメータが既知である場合のロボット制御器群200のi番目のロボット制御器構成である。240はリグレッサYi計算部で、250は微分フィルターである。図5における記号の意味は、図4と同様である。図4と比較すると、ロボットi動力学パラメータ推定器230が必要がなくなったことが分かる。
図5において、i番目のロボット制御器は、i番目のロボットの目標手先位置ri dと手先位置riとの差をとりi番目のロボットの手先位置誤差eiを求める。次に、i番目のロボットの手先位置誤差eiにゲイン定数ρiを掛けたものと、i番目のロボットの手先目標速度との和をとり、手先参照速度を求める。次に、i番目のロボットの手先速度と手先参照速度との差をとりi番目のロボットの手先剰余誤差siを求める。一方、微分フィルター250はi番目のロボットの手先参照速度よりi番目のロボットの手先参照加速度を計算する。Yi計算部240はi番目のロボットの手先参照速度と参照加速度および手先位置と速度を用いてi番目のロボットのリグレッサYiを計算する。
【0035】
i番目のロボット制御器は、既知であるi番目のロボットの動力学パラメータσiとi番目のロボットのリグレッサYiとの積をとり、i番目のロボットの規範モデルによるフィードフォーワード項を計算し、i番目のロボットの手先剰余誤差siにゲイン行列Kiを掛けてフィードバック項を計算するとともに、i番目のロボットの目標手先力Fi dを手先力のフィードフォーワード項とする。
図5に示したi番目のロボット制御器は、上述の説明で分かるように、式(28)に従って、規範モデルによるフィードフォーワード項、手先力のフィードフォーワード項およびフィードバック項を加え合わせることでi番目のロボットの制御入力uiを計算し、ロボットのヤコビ行列Jiの転置行列Ji Tをuiにかけてi番目のロボットの関節トルクを計算する。
【0036】
以上の構成により、ロボットの動力学パラメータが既知のとき、ロボット目標軌道生成器から与えられる目標軌道と目標手先力に安定に追従させるロボット制御器となっている。各ロボット制御器は、他のロボット制御器との通信を必要としていない。また、力センサも必要としていない。
【0037】
上記の図2、図3、図5で構成されるロボットの協調制御は、対象物体の動力学パラメータが未知で各ロボットの動力学パラメータが既知のとき、対象物体を目標軌道に漸近的に追従させることができることをLiapunov-Like Lemmaにより理論的に証明できる。
【0038】
<把持物体とアームのパラメータがともに既知である場合>
把持物体のパラメータも既知である場合には、把持物体の参照モデル(9)式において、把持物体の動力学パラメータさえも堆定する必要がなくなる。したがって、この場合、把持物体の適応則(11)式は以下のように書き換えることができる。
【数32】
また、アームの適応制御則は、上述で導かれたものをそのまま用いることができる。
図6は、対象物体の動力学パラメータが既知である場合のロボット目標軌道生成器100の構成を示す。140は外力成分生成器で、150は内力成分生成器、130は目標運動生成器、141はYo計算部、142は微分フィルターである。記号の意味は、図2と同様である。ρはゲイン定数で正のスカラである。Wは把持行列で、各ロボットの把持点位置より計算される。
【0039】
外力成分生成器140は、対象物体目標位置ro dと対象物体位置roとの差をとり対象物体位置誤差eoを求める。次に、対象物体位置誤差eoにゲイン定数ρを掛けたものと対象物体目標速度との和をとり対象物体参照速度を求める。次に、対象物体速度と対象物体参照速度との差をとり対象物体剰余誤差soを求める。一方、微分フィルター142は対象物体参照速度より対象物体参照加速度を計算する。Yo計算部141は、対象物体の参照速度と参照加速度、対象物体の位置と速度、及び既知のロボットの動力学パラメータσoを用いて、対象物体リグレッサと動力学パラメータとの積Yoσoを計算する。
内力成分生成器150は内力の目標値fint dと(I−W+W)との積を計算して各ロボットの目標手先力の内力成分を計算する。
【0040】
目標運動生成器130は、目標位置軌道生成器131と目標速度軌道生成器から構成される。目標位置軌道生成器131は、対象物体の目標位置ro dよりロボットの手先の目標位置軌道rdを計算する。また、目標速度軌道生成器132は対象物体の目標速度軌道ro dに把持行列の転置行列WTを掛けてロボットの手先の目標速度軌道rdを計算する。
【0041】
図6に示した目標軌道生成器は、最終的に、上述の説明のように式(29)に従って、外力成分生成器140で計算した外力成分と内力成分生成器150で生成した内力成分の和をとり、ロボットの目標手先力Fdを求める。そして、ロボットの目標手先力Fdと、目標運動生成器130で計算したロボットの目標手先位置軌道および目標速度軌道とを各ロボット制御器に分配する。
【0042】
以上の構成により、対象物体の動力学パラメータが既知のとき、対象物体の参照軌道と目標内力を実現する各ロボットの目標手先力と目標軌道が生成される。上記の図2、図5、図6で構成されるロボットの協調制御は、対象物体と各ロボットの動力学パラメータが既知のとき、対象物体を目標軌道に漸近的に追従させることができることをLiapunov-Like Lemmaにより理論的に証明できる。
【0043】
【発明の効果】
このような構成により、対象物体を複数のロボットで把持し作業を行なう制御装置において、対象物体の目標軌道を実現する目標力から各ロボットの運動と力の目標軌道が生成され、ロボットに目標運動を生じさせるフィードフォーワード補償と軌道誤差のフィードバック補償により、ロボットは運動の目標軌道に漸近的に収束し、その結果、対象物体の軌道も目標軌道に漸近的に収束する。対象物体の動力学パラメータが未知のときは、対象物体動力学パラメータ推定器により得る推定値を用いて、目標軌道が生成され、ロボットの動力学パラメータが未知のときは、ロボット動力学パラメータ推定器により得る推定値を用いて、フィードフォーワード補償項が生成され、いずれの実施例も、対象物体の軌道を目標軌道に漸近的、かつ安定に収束させることがLiapunov-Like Lemmaによって証明される。これらの実施例では、ロボットに高価でかつ脆弱な力センサが不要であるため、ロボット制御システムの低価格化と高信頼度化に役立つ。また、協調制御は、通常各ロボットの干渉を考慮して大掛かりな制御システムとなるが、この実施例での各ロボットの制御はロボット単体の制御として取り扱われ、ロボットの目標軌道生成器のみが追加されるため、制御システムの大規模化を避けることができる。
【0044】
上述の説明では、ロボットの関節部に摩擦がある場合について述べていないが、動力学モデルに摩擦を含め、動力学パラメータに摩擦パラメータを加え、それに対応したリグレッサを構成することにより、同様な制御が構成できることは言うまでもない。また、各ロボットの目標軌道をタスク座標系で与えたが、このタスク座標系の目標軌道を等価な関節座標系の目標軌道として与えることにより、同様なロボット制御器が構成できることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【図1】複数のロボットによる物体の把持を示す図である。
【図2】実施形態の制御装置の構成を示す図である。
【図3】ロボット目標軌道生成のための装置構成例を示す図である。
【図4】ロボット制御のための装置構成例を示す図である。
【図5】ロボット制御のための他の構成例を示す図である。
【図6】ロボット目標軌道生成のための他の装置構成例を示す図である。
Claims (8)
- 複数のロボットが、協調して対象物体を把持し作業を行う協調制御方法において、
前記対象物体の動力学パラメータを推定し、
対象物体に、タスク座標系で与えられた対象物体の目標軌道による運動を生じさせる対象物体に加えるべき目標の力を、前記推定された対象物体の動力学パラメータと動力学モデルとを使って求め、
求められた対象物体に加えるべき前記目標の力から各ロボットの力の目標軌道を求めるとともに、タスク座標系で与えられた対象物体の目標軌道から各ロボットの運動の目標軌道を求めて、これらの各ロボットに対する力および運動の目標軌道を各ロボットに分配し、
各ロボットは、与えられた前記力と運動の目標軌道から動きを制御する
ことを特徴とする協調制御方法。 - 請求項1に記載のロボットの協調制御方法において、
各ロボットの動きに対する前記制御は、
制御対象のロボットの動力学パラメータを推定し、
該ロボットの推定した前記動力学パラメータと該ロボットの動力学モデルおよび力の目標軌道とに基づくフィードフォーワード補償と、
該ロボットの運動の軌道誤差に基づくフィードバック補償と
により行うことを特徴とする協調制御方法。 - 請求項1に記載のロボットの協調制御方法において、
各ロボットの動きに対する前記制御は、
制御対象のロボットの動力学パラメータと該ロボットの動力学モデルおよび力の目標軌道に基づくフィードフォーワード補償と、
該ロボットの運動の軌道誤差に基づくフィードバック補償と
により行うことを特徴とする協調制御方法。 - 複数のロボットが、協調して対象物体を把持し作業を行う協調制御方法において、
対象物体に、タスク座標系で与えられた対象物体の目標軌道による運動を生じさせる対象物体に加えるべき目標の力を、対象物体の動力学パラメータと動力学モデルとを使って求め、
求められた対象物体に加えるべき前記目標の力から各ロボットの力の目標軌道を求めるとともに、タスク座標系で与えられた対象物体の目標軌道から各ロボットの運動の目標軌道を求めて、これらの各ロボットに対する力および運動の目標軌道を各ロボットに分配し、
各ロボットは、
制御対象ロボットの動力学パラメータと
該ロボットの動力学モデルおよび力の目標軌道に基づくフィードフォーワード補償と、
該ロボットの運動の軌道誤差に基づくフィードバック補償と
により、与えられた前記力と運動の目標軌道から動きを制御することを特徴とする協調制御方法。 - 複数のロボットが、協調して対象物体を把持し作業を行う協調制御装置において、
ロボット目標軌道生成部と、前記複数の各ロボットに対応したロボット制御部とで構成され、
前記ロボット目標軌道生成部は、前記対象物体の動力学パラメータを推定し、対象物体に、タスク座標系で与えられた対象物体の目標軌道による運動を生じさせる対象物体に加えるべき目標の力を、前記推定された対象物体の動力学パラメータと動力学モデルとを使って求め、求められた対象物体に加えるべき前記目標の力から各ロボットの力の目標軌道を求めるとともに、タスク座標系で与えられた対象物体の目標軌道から各ロボットの運動の目標軌道を求めて、これらの各ロボットに対する力および運動の目標軌道を各ロボットに分配し、
前記ロボット制御部は、与えられた前記力と運動の目標軌道から、各ロボットの動きを制御する
ことを特徴とする協調制御装置。 - 請求項5に記載のロボットの協調制御装置において、
前記ロボット制御部は、
制御対象のロボットの動力学パラメータを推定し、
該ロボットの推定した前記動力学パラメータと該ロボットの動力学モデルおよび力の目標軌道とに基づくフィードフォーワード補償と、該ロボットの運動の軌道誤差に基づくフィードバック補償とにより、
各ロボットの動きに対する制御を行うことを特徴とする協調制御装置。 - 請求項5に記載のロボットの協調制御装置において、
前記ロボット制御部は、
制御対象のロボットの動力学パラメータと該ロボットの動力学モデルおよび力の目標軌道に基づくフィードフォーワード補償と、
該ロボットの運動の軌道誤差に基づくフィードバック補償とにより、
各ロボットの動きに対する制御を行うことを特徴とする協調制御装置。 - 複数のロボットが、協調して対象物体を把持し作業を行う協調制御装置において、
ロボット目標軌道生成部と、前記複数の各ロボットに対応したロボット制御部とで構成され、
前記ロボット目標軌道生成部は、対象物体に、タスク座標系で与えられた対象物体の目標軌道による運動を生じさせる対象物体に加えるべき目標の力を、対象物体の動力学パラメータと動力学モデルとを使って求め、求められた対象物体に加えるべき前記目標の力から各ロボットの力の目標軌道を求めるとともに、タスク座標系で与えられた対象物体の目標軌道から各ロボットの運動の目標軌道を求めて、これらの各ロボットに対する力および運動の目標軌道を各ロボットに分配し、
前記ロボット制御部は、
制御対象のロボットの動力学パラメータと該ロボットの動力学モデルおよび力の目標軌道に基づくフィードフォーワード補償と、
該ロボットの運動の軌道誤差に基づくフィードバック補償とにより、与えられた前記力と運動の目標軌道から動きを制御することを特徴とする協調制御装置。
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