JP3765071B2 - 複合焼結摺動材料 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、固体潤滑剤を用いた複合焼結摺動材料に関し、より詳しくは、無電解ニッケルリンめっきを施した固体潤滑剤を用いることにより固体潤滑剤による摺動特性を維持したまま機械的強度を向上させた複合焼結摺動材料に関する。
【0002】
【従来の技術】
銅系基材に黒鉛や二硫化モリブデン等の固体潤滑剤を複合焼結させた複合焼結摺動材料は、低摩擦係数、耐摩耗性、耐熱性等の摺動特性が要求される部品に適用されている。しかしながら、このような複合焼結摺動材料において摺動特性を改善するために固体潤滑剤を増加させようとしても、ある添加量を超えると圧粉成形時の粉末相互の凝着性が急激に低下するため、良好な焼結体を得ることが困難であり、更に、機械的強度が急激に低下するため、実用面から固体潤滑剤の添加量を数重量%以下に制限している。
【0003】
圧粉成形時の粉末相互の凝着性を低下させることなしで銅系基材と多量の固体潤滑剤との複合焼結を可能にするための手段として、特開昭55−44515号公報、特開昭55−134102号公報等に開示されているように、銅めっき処理を施した固体潤滑剤を用いる技術がある。この技術は圧粉成形時の粉末相互の凝着力不足を、固体潤滑剤の表面に銅めっき被膜を施すことにより改善するものである。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
銅系基材と銅めっき処理を施した固体潤滑剤とを用いて複合焼結摺動材料を製造する場合には、固体潤滑剤の表面に存在する銅被膜により圧粉成形性は改善されるが、複合焼結摺動材料の強度向上は達成しにくい。この理由は、複合焼結摺動材料の製造に普通に用いられている銅系基材が銅粉88〜92重量%と錫粉12〜8重量%とからなり、そのような基材の焼結温度は1000K前後であるのに対して、銅めっきで得られる被膜の組成は純銅に近く、そのような被膜の焼結温度は約1200Kと高いため、焼結操作にそのような銅系基材に適した焼結温度(1000K前後)を用いる場合には、銅めっき被膜における拡散は困難で、焼結反応が不十分となるからである。
【0005】
更に、良好な摺動特性を示す固体潤滑剤の中で分解、劣化温度の低いもの(例えば:二硫化モリブデンでは約1000K)を用いる場合、銅系基材と銅めっき処理を施した固体潤滑剤との焼結反応を十分に行わせて複合焼結摺動材料の強度を向上させるために、そのような銅めっき被膜に適した高い焼結温度(約1200K)を用いると、固体潤滑剤の分解、劣化が生じて、複合焼結摺動材料の摺動特性も低下することになる。
【0006】
なお、固体潤滑剤への銅めっき処理として、特開昭55−134102号公報に開示されているような置換めっき法及び特開平2−133549号公報に開示されているような電気めっき法が用いられている。
置換めっき法では、粉末表面に均一な銅被膜を安価に形成できるが、厚付け及び粒径の小さな(350メッシュ以下の)粉末へのめっきが難しく、更に、めっき被膜の密着力が小さいため剥離が生じやすい。
【0007】
一方、電気めっき法では、銅めっき被膜の密着力が良好であり且つ厚付けが可能であるが、膜厚が電流密度によって左右されるため、粉末表面への均一な銅被膜の形成は難しく、更に、粉末形状が複雑である場合には粉末表面に無めっき部が形成されやすい。
このように、複合焼結摺動材料の製造に、置換めっき法又は電気めっき法によって固体潤滑剤表面に銅めっき被膜を形成したものを用いる場合には、上記した剥離や無めっき部に起因して、圧粉成形時に銅系基材と固体潤滑剤の一部表面とが直接接触することになり、圧粉成形時の粉末相互の凝着性の改良効果が小さくなり、良好な焼結体を得ることが困難で、強度向上の効果が小さい。
本発明は上記の諸問題を解決するためになされたものであり、本発明の目的は固体潤滑剤による摺動特性を維持したまま機械的強度を向上させた複合焼結摺動材料を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、上記目的を達成するために鋭意検討の結果、銅系基材粒子と固体潤滑剤粒子との焼結体において、固体潤滑剤粒子として無電解ニッケルリンめっきを施した固体潤滑剤を用いることにより、銅系基材との焼結反応を促進して固体潤滑剤による摺動特性を維持したまま機械的強度を向上させた複合焼結摺動材料が得られることを見出し、本発明を完成した。
即ち、本発明の複合焼結摺動材料は、銅系基材粒子と無電解ニッケルリンめっきを施した固体潤滑剤粒子との焼結体からなることを特徴とする。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明においては、銅系基材粒子は複合焼結摺動材料の製造に一般に用いられている如何なるものでもよく、例えば、銅粉88〜92重量%と錫粉12〜8重量%とからなる基材粒子を用いることができる。このような基材粒子は、銅粉と錫粉とがそれぞれ独立に粉体として存在していて、焼結に先立って銅粉と錫粉と無電解ニッケルリンめっきを施した固体潤滑剤粒子とを混合する形態で用いられるものであってもよく、或いは銅粉と錫粉との微細凝集体として存在していて、焼結に先立ってこのような微細凝集体と無電解ニッケルリンめっきを施した固体潤滑剤粒子とを混合する形態で用いられるものであってもよい。
【0010】
本発明においては、固体潤滑剤粒子は複合焼結摺動材料の製造に一般に用いられている如何なるものでもよく、例えば、二硫化モリブデン、黒鉛を用いることができる。
本発明においては、これらの固体潤滑剤粒子の表面に無電解ニッケルリンめっきを施したものを用いる。このような無電解ニッケルリンめっきを施した固体潤滑剤粒子は、例えば、親水処理の前処理を行った固体潤滑剤を無電解めっき液(例えば、金属塩として硫酸ニッケル又は塩化ニッケル、還元剤として次亜リン酸ナトリウムを主成分とする水溶液)に浸漬することにより得られる。
【0011】
このような無電解ニッケルリンめっき法は周知であり、そのめっき浴組成、pH、温度等のめっき条件は、例えば、電気化学協会編「第4版 電気化学便覧」(平成5年4月30日第2刷発行)丸善 384〜385頁、電気鍍金研究会編「めっき教本」(1989年7月20日初版4刷発行)日刊工業新聞社 219〜224頁に具体的に記載されている。
【0012】
無電解ニッケルリンめっき被膜においてはリン含有量が増加するにつれて耐磨耗性、耐食性が向上するが、反面、被膜が脆くなる欠点があるので、本発明で用いる無電解ニッケルリンめっきを施した固体潤滑剤粒子においては、無電解ニッケルリンめっき被膜は、その組成がニッケル約88〜97重量%、リン約12〜3重量%で、固体潤滑剤表面に均一に形成されていることが好ましい。
【0013】
本発明で用いる無電解ニッケルリンめっきを施した固体潤滑剤粒子において、固体潤滑剤成分:無電解ニッケルリンめっき被膜成分の重量比が1:0.2〜1.5であることが好ましい。無電解ニッケルリンめっき被膜成分の量が固体潤滑剤成分1重量部に対して0.2重量部未満である場合には、圧粉成形時の粉末相互の凝着性が低下する傾向があり、その結果として良好な焼結体を得ることが困難となる傾向があり、更に、機械的強度が低下する傾向がある。また、無電解ニッケルリンめっき被膜成分の量が固体潤滑剤成分1重量部に対して1.5重量部を超える場合には、複合焼結摺動材料の使用時の固体潤滑剤粒子の露出度が低くなるために複合焼結摺動材料の摺動特性が低下する傾向がある。
【0014】
本発明の複合焼結摺動材料は、銅粉と錫粉と無電解ニッケルリンめっきを施した固体潤滑剤粒子とを混合するか、又は銅粉と錫粉との微細凝集体と無電解ニッケルリンめっきを施した固体潤滑剤粒子とを混合し、これらの混合物を冷間又は熱間で圧粉成形し、この圧粉成形物を還元性雰囲気中で約800K〜約1150Kの焼結温度で焼結処理を行うことによって得られる。この焼結処理によって、機械的強度が向上しており且つ良好な摺動特性を有する複合焼結摺動材料が得られる。その後、使用目的に応じた加工(再圧縮、サイジング等)を行う。
【0015】
【実施例】
以下に実施例及び比較例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。
実施例1
無電解ニッケルリンめっきを施した黒鉛粒子であって、無電解ニッケルリンめっき被膜の組成がニッケル95重量%及びリン5重量%であり、黒鉛成分:無電解ニッケルリンめっき被膜成分の重量比が1:1である、ニッケルリンめっき被膜付き黒鉛粒子を表1に示す種々の添加量(全組成に占める重量%)となる量で銅粉9重量部及び錫粉1重量部と混合した。この混合物をJIS Z 2507の試験方法に準じて試験できるように軸受の形状に冷間で圧粉成形し、この圧粉成形物を還元性雰囲気中で1000Kの焼結温度で焼結処理を行った。得られた焼結軸受の圧環強さ(MPa)をJIS Z 2507の試験方法に準じて求めたところ、表1に示す通りであった。
【0016】
比較例1
無電解銅めっきを施した黒鉛粒子であって、黒鉛成分:無電解銅めっき被膜成分の重量比が1:1である、銅めっき被膜付き黒鉛粒子を表1に示す種々の添加量(全組成に占める重量%)となる量で銅粉9重量部及び錫粉1重量部と混合した。この混合物を用いて実施例1と同様にして焼結軸受を製造し、実施例1と同様にして圧環強さ(MPa)を求めたところ、表1に示す通りであった。
【0017】
比較例2
未処理の黒鉛粒子を表1に示す種々の添加量(全組成に占める重量%)となる量で銅粉9重量部及び錫粉1重量部と混合した。この混合物を用いて実施例1と同様にして焼結軸受を製造し、実施例1と同様にして圧環強さ(MPa)を求めたところ、表1に示す通りであった。
【0018】
【0019】
表1に示すデータをグラフで表すと図1に示す通りである。
表1及び図1から明らかなように、未処理の黒鉛粒子を用いた場合(比較例2)には、添加量の増加と共に圧環強さが急激に低下し、添加量が10重量%の場合の圧環強さは無添加の場合の約1/2になることが認められる。一方、無電解銅めっきを施した黒鉛粒子を用いた場合(比較例1)には、未処理の黒鉛粒子を用いた場合と同様の圧環強さであり、強度改善は見られないが、無電解ニッケルリンめっきを施した黒鉛粒子を用いた場合(実施例1)には、圧環強さが著しく高く、強度向上の効果が得られている。
【0020】
実施例2
無電解ニッケルリンめっきを施した二硫化モリブデン粒子であって、無電解ニッケルリンめっき被膜の組成がニッケル95重量%及びリン5重量%であり、二硫化モリブデン成分:無電解ニッケルリンめっき被膜成分の重量比が1:1である、ニッケルリンめっき被膜付き二硫化モリブデン粒子を表2に示す種々の添加量(全組成に占める重量%)となる量で銅粉9重量部及び錫粉1重量部と混合した。この混合物を用いて実施例1と同様にして焼結軸受を製造し、実施例1と同様にして圧環強さ(MPa)を求めたところ、表2に示す通りであった。
【0021】
比較例3
無電解銅めっきを施した二硫化モリブデン粒子であって、二硫化モリブデン成分:無電解銅めっき被膜成分の重量比が1:1である、銅めっき被膜付き二硫化モリブデン粒子を表2に示す種々の添加量(全組成に占める重量%)となる量で銅粉9重量部及び錫粉1重量部と混合した。この混合物を用いて実施例1と同様にして焼結軸受を製造し、実施例1と同様にして圧環強さ(MPa)を求めたところ、表2に示す通りであった。
【0022】
比較例4
未処理の二硫化モリブデン粒子を表2に示す種々の添加量(全組成に占める重量%)となる量で銅粉9重量部及び錫粉1重量部と混合した。この混合物を用いて実施例1と同様にして焼結軸受を製造し、実施例1と同様にして圧環強さ(MPa)を求めたところ、表2に示す通りであった。
【0023】
【0024】
表2に示すデータをグラフで表すと図2に示す通りである。
表2及び図2から明らかなように、未処理の二硫化モリブデン粒子を用いた場合(比較例4)には、添加量の増加と共に圧環強さが(比較例2との比較から明らかなように)急激に低下し、添加量が10重量%の場合の圧環強さは無添加の場合の約1/6になることが認められる。一方、無電解銅めっきを施した二硫化モリブデン粒子を用いた場合(比較例3)には、未処理の二硫化モリブデン粒子を用いた場合よりも改善されているが、無電解ニッケルリンめっきを施した二硫化モリブデン粒子を用いた場合(実施例2)には、圧環強さが著しく高く、強度向上の効果が得られている。
【0025】
実施例3
無電解ニッケルリンめっきを施した二硫化モリブデン粒子であって、無電解ニッケルリンめっき被膜の組成がニッケル95重量%及びリン5重量%であり、二硫化モリブデン成分:無電解ニッケルリンめっき被膜成分の重量比が1:1である、ニッケルリンめっき被膜付き二硫化モリブデン粒子を表3に示す種々の添加量(全組成に占める重量%)となる量で銅粉9重量部及び錫粉1重量部と混合した。この混合物を摩擦係数測定用試験片の形状に冷間で圧粉成形し、この圧粉成形物を還元性雰囲気中で1000Kの焼結温度で焼結処理を行った。得られた焼結試験片を用い、摩擦速度0.36m/s、面圧0.98MPa、無潤滑、大気中で摩擦試験を行ない、摩擦係数(μ)を求めたところ、表3に示す通りであった。
【0026】
比較例5
無電解銅めっきを施した二硫化モリブデン粒子であって、二硫化モリブデン成分:無電解銅めっき被膜成分の重量比が1:1である、銅めっき被膜付き二硫化モリブデン粒子を表3に示す種々の添加量(全組成に占める重量%)となる量で銅粉9重量部及び錫粉1重量部と混合した。この混合物を用いて実施例3と同様にして焼結試験片を製造し、実施例3と同様にして摩擦係数(μ)を求めたところ、表3に示す通りであった。
【0027】
比較例6
未処理の二硫化モリブデン粒子を表3に示す種々の添加量(全組成に占める重量%)となる量で銅粉9重量部及び錫粉1重量部と混合した。この混合物を用いて実施例3と同様にして焼結試験片を製造し、実施例3と同様にして摩擦係数(μ)を求めたところ、表3に示す通りであった。
【0028】
【0029】
表3に示すデータをグラフで表すと図3に示す通りである。
表3及び図3から明らかなように、無電解ニッケルリンめっきを施した二硫化モリブデン粒子を用いた場合(実施例3)の摩擦係数(μ)は、未処理の二硫化モリブデン粒子を用いた場合(比較例6)の摩擦係数(μ)と同等もしくはより小さい摩擦係数が得られ、良好な摺動特性を示す。
【0030】
【発明の効果】
本発明の複合焼結摺動材料は、固体潤滑剤による摺動特性を維持したまま機械的強度を向上させており、摺動材料として好適なものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】 実施例1、比較例1及び比較例2で得られた複合焼結摺動材料の圧環強さの測定結果を示すグラフである。
【図2】 実施例2、比較例3及び比較例4で得られた複合焼結摺動材料の圧環強さの測定結果を示すグラフである。
【図3】 実施例3、比較例5及び比較例6で得られた複合焼結摺動材料の摩擦係数の測定結果を示すグラフである。
Claims (4)
- 銅系基材粒子と無電解ニッケルリンめっきを施した固体潤滑剤粒子との焼結体からなることを特徴とする複合焼結摺動材料。
- 無電解ニッケルリンめっき被膜の組成がニッケル88〜97重量%及びリン12〜3重量%である、請求項1記載の複合焼結摺動材料。
- 無電解ニッケルリンめっきを施した固体潤滑剤粒子において、該固体潤滑剤成分:該無電解ニッケルリンめっき被膜成分の重量比が1:0.2〜1.5である、請求項1又は2記載の複合焼結摺動材料。
- 銅系基材粒子が銅粒子と錫粒子とからなる、請求項1、2又は3記載の複合焼結摺動材料。
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