JP3764202B2 - 無機質接着剤組成物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、無機質接着剤組成物に関する。さらに詳細には、安定化したコロイダルシリカをバインダとして用いる安定性に優れた無機質接着剤組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
無機質接着剤は、一般に水ガラス、珪酸リチウム、コロイダルシリカ、燐酸アルミニウム等のバインダに酸化物をフィラーとして混合することにより調製される。
【0003】
ランプを構成するガラス材料と金属、セラミックス等から成る口金材料とを無機質接着剤で固着することはすでに報告されている。たとえば、特公昭55−14820は、コロイダルシリカをバインダとし、耐火物粉末をフィラーとして混合したランプ用無機質接着剤を開示する。
【0004】
しかしながら、コロイダルシリカは、水ガラス、珪酸リチウム、燐酸アルミニウムと比較してゲル化を起こしやすく、特に酸化物(耐火物)と混合して、無機質接着剤を調製するとき、このゲル化が加速され問題となっていた。特に、自動充填性、フィラーの沈降性の2点より、耐火物を微粒化したフィラーを使用した場合、無機質接着剤が増粘、固化し、1週間〜1ケ月以内で使用不能となることが頻繁であった。このため、接着剤を大量に製造し貯蔵することが難しく、受注があってから製造するのが慣行であった。さらに、製品の輸送も保冷庫で運ぶ等の特殊な移送方法が必要であり、使用者側でも製品を使用するまで5〜10℃の保冷庫に保管するなどして、取扱いが煩雑でコストも高くなっている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
コロイダルシリカを安定化する方法は、種々提案されてきたが、それらの方法を接着剤に適用しても期待する安定性が得られない。これは、接着剤組成物中に存在するフィラーが安定化に干渉し悪影響を及ぼすためである。したがって、コロイダルシリカのみを公知の方法で安定化してもそれをフィラーとともに使用する接着剤組成物においてその安定化効果は組成物の安定化に結び付かない。
【0006】
本発明の目的は、上記の問題を解決するため、コロイダルシリカをバインダとし、粉末状酸化物として、ムライトをフィラーとして成る安定化された無機質接着剤組成物を提供することである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、所定粒子径のコロイダルシリカと所定粒子径の粉末状酸化物としてムライトを用いたフィラーとから成る接着剤組成物において、50℃で3日以上前記組成物を保持後、組成物中の水溶性Na2Oの濃度およびpH値が所定範囲内であればコロイダルシリカのゲル化が抑制され、増粘、固化を示さないことを見出し、本発明の組成物を完成した。さらに、水溶性Na2Oの濃度を所定範囲に保つため、予め水溶性Na2Oあるいはその前駆体をバインダであるコロイダルシリカに、またはフィラーに添加することが有効であることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、平均粒子径5〜300mμであって、0.3〜0.4重量%のNa 2 Oで安定化されたコロイダルシリカであるバインダを固形分換算で6〜20重量%と、平均粒子径1〜30μの粉末状ムライトを固形分換算で30〜90重量%と、残部として水とを含んで成る組成物において、前記バインダに、コロイダルシリカの固形分100重量部に対して、NaOHを125/233〜315/424重量部を添加することにより、該組成物を50℃で3日保持した後、組成物中の水溶性Na2Oの濃度が300〜1,500ppmであり、さらに水溶性Na 2 Oの濃度がムライト当たりに換算すると400ppm以上であり、そして組成物のpHが9.5〜11.0の範囲にあるように調整することを特徴とする無機質接着剤組成物を提供する。
さらに本発明は、バインダに添加されるNaOHは、粉末状ムライト100重量部に対して、50/757〜63/779重量部添加されることを特徴とする。
加えて本発明は、コロイダルシリカの固形分濃度は、35〜40重量%であること特徴とする。
本発明に用いるコロイダルシリカとしては、平均粒子径10〜20mμのものが好ましく、特に平均粒子径15〜20mμのものがさらに好ましい。
本発明に用いるムライトとしては、平均粒子径1〜10μのものが好ましい。
【0009】
以下、本発明の接着剤組成物の様々な側面をいくつかの実施の形態に基づいてさらに詳しく説明する。
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明の無機質接着剤組成物中、使用できるコロイダルシリカとしては、市販のもの(平均粒子径5〜300mμ)でよいが、好ましくは、その粒度を調整する必要がある。好ましい平均粒子径の範囲は、一般的に10〜20mμであり、平均粒子径が10mμ未満であると、コロイダルシリカの安定性が悪く(ゲル化が起こりやすい)高濃度のものが得られにくいため、接着剤として使用すると接着部に亀裂が入りやすくなる。なお、コロイダルシリカは他の珪酸塩系あるいは燐酸塩系バインダに比べ、結合力が小さいため通常の条件下できるだけ高濃度の液、好ましくは35〜40重量%のものが用いられる。一方、平均粒子径が20mμを超えると接着強度が小さくなるので好ましくない。特に好ましい粒子径の範囲は、15〜20mμである。
【0011】
組成物中のコロイダルシリカの割合は、固形分換算で6〜20重量%とされる。割合が6重量%未満となると、バインダとしての作用が不十分となり機械的強度が低下し十分な接着力が得られない。一方、20重量%を超すと一般に接着部の接着力は増加するが、充填剤(フィラー)の割合が減少するため接着部に亀裂が入りやすくなり、加えて接着部の機械的強度が小さくなるという不都合を生じるので好ましくない。
【0012】
組成物中フィラーとして添加される粉末状酸化物としては、ムライトを挙げることができる。
【0013】
粉末状酸化物の平均粒子径は、1〜30μとされる。平均粒子径が1μ未満になると乾燥時における接着剤の乾燥収縮が大きくなり接着層に亀裂を生じ、接着強度も小さくなり、加えて接着剤の可使時間が著しく短くなるという不都合を生じる。一方、30μを超すと接着強度が低下し、加えて接着剤施工の際の作業性が低下するという不都合を生じる。また、自動充填性などの作業性も低下する。特に好ましい平均粒子径の範囲は、1〜10μである。
【0014】
接着剤組成物中の粉末状酸化物の混合割合は、一般的に固形分換算で30〜90重量%、好ましくは50〜90重量%とされる。粉末状酸化物の割合が30重量%未満となると接着剤の強度の低下、あるいは接着部に亀裂が入りやすくなるので好ましくなく、一方90重量%を超すと接着性、機械的強度が著しく低下するので好ましくない。
【0015】
前記の市販コロイダルシリカは、少量のNa2O(0.3〜0.4重量%)で安定化されているが、このNa2Oが粉末状酸化物と混合されると反応しコロイダルシリカを不安定化することがある。その結果、増粘、固化等を生じたりするが、これら増粘、固化の程度は粉末状酸化物の種類、粒度、表面状態等に影響を受けるので、一義的に評価することが困難である。
【0016】
本発明者らは、コロイダルシリカと粉末状酸化物を混合し、接着剤組成物を調製した後に、50℃で3日保持した後、水抽出を行ったときの水溶性のNa2O(Naイオンを酸化物として算出)が接着剤基準で300〜1,500ppmであり、かつ組成物のpHが9.5〜11.0のとき組成物は長期間安定で3ケ月以上を増結、固化を示さないことを見出した。コロイダルシリカおよび粉末状酸化物から成る組成物が前記の条件を満たさない場合、水溶性Na2Oまたはその前駆体を組成物に添加し、50℃3日保持後の水溶性Na2O濃度および組成物のpHを前記の範囲に調節する必要がある。
【0017】
通常、粉末状酸化物はNa2Oを表面に吸着あるいはNa2Oと反応するため水溶性Na2OおよびpHの両方とも前記の範囲に調整することには困難を伴う。そこで本発明に従えば、NaOH(苛性ソーダ)を添加することにより水溶性Na2O、pHを所定範囲になるよう調整することができる。NaOHの添加については、結果として、バインダに添加されていればよく、バインダそのものに予め添加し、粉末状酸化物を混合する方法、あるいはバインダとフィラーを混合した後、接着剤組成物を製造する段階で添加する方法などがあり、添加方法そのものに特に限定はない。
【0019】
本発明の実施の形態として、粉末状酸化物にムライトを使用できる。ムライトは、熱膨張係数がランプ用のガラスに近く、またコロイダルシリカとの適合性が良く、接着強度が強いため、ランプの口金用の接着剤のフィラーとして使用されてきた。市販のムライト粉末は、ソーダアルミナと同程度のNa2Oを含有している。しかしながら、ムライトの場合水溶性Na2Oを放出することなく、むしろ組成物中でNa2Oを取込むことが見出された。このような取込み効果を補償するために、水溶性Na2OおよびpHに関して前記の所定範囲にある接着剤組成物を調製するためには、NaOHをフィラーであるムライト粉末に添加する必要がある。この場合、50℃、3日間組成物を保持した後、水溶性Na2Oが組成物中で濃度300〜1,500ppmであり、かつムライト当たりに換算すると400ppm以上になるように水溶性Na2Oの前駆体(たとえば、NaOH)を添加すればよい。添加量がこのような範囲を超える量で使用すると、前記と同様ガラスに対して耐食性が劣化するなどの悪影響がある。
【0020】
本発明において、水溶性Na2Oの濃度を接着剤組成物が50℃で3日間保持された後、評価した理由は、保持時間が少なくとも3日間であれば評価が可能であるからである。すなわち、通常、接着剤組成物中で水溶性Na2Oの溶出、吸収は(粉末状酸化物に対する吸収)約3日間で平衡状態に近くなり、それ以後の溶出、吸収は緩慢となる。もちろん、3日以上の期間、接着剤組成物を前記条件で保持することも可能であるが、実用上は接着剤組成物を調製後、寝かせる期間が短いほど好ましいのでそれ以上長期に亘って保持する利点は少ない。水溶性Na2OおよびpHの評価方法については、以下の実施例中に詳しく述べる。
【0021】
本発明の接着剤組成物には、必要に応じ他の補助剤を添加することができる。このような添加可能な補助剤としては、増粘剤、沈降防止剤としてベントナイト等の粘土類、亀裂防止剤として、無機質繊維、または熱膨張係数調整剤としてペタライト、スポテュメン等の低熱膨張係数を有する充填剤等を用いることができる。さらに、本発明の接着剤組成物は水の添加により任意の粘度とすることができる。組成物の粘度は用途に応じて調整するが、通常はB型粘度計で5,000〜200,000cpsの範囲が好ましい。
【0022】
本発明の接着剤組成物を製造するに際して、バインダとフィラーおよびその他の補助剤の混合方法としては公知の方法を用いることができ、通常の羽根撹拌、ライカイ器などによる混合、ボールミルなどによる混合等が使用できる。
【0023】
本発明の接着剤組成物により接着された接着部は、常温で乾燥することにより充分な硬化を起こすが、硬化時間を短縮するのが望まれる場合には、加熱硬化を行ってもよく、そのような加熱温度は任意に設定することができる。本発明の接着剤組成物は、特にランプを構成するガラス材料と口金金属部の接着に利用すると、接着強度の優れたランプを得ることができる。この場合、従来の有機質バインダを含む接着剤、シリコン樹脂、セメントまたは低融点ガラスを使用した従来のランプ接着部に比較して、本発明を利用すると、耐熱性、耐熱衝撃性についても顕著に優れた接着部を形成することができる。
【0024】
以下に実施例により本発明をさらに詳細に説明するが本発明はこれらによって制限されるものではない。なお、実施例中の部および%は全て重量基準を示す。
【0025】
実施例1
平均粒子径17.5mμで、固形分濃度40%のコロイダルシリカを23.3部と、5%のNaOH水溶液の1部とを混合した。この混合液を平均粒子径6.2μのムライト粉末75.7部に加え混合し、本発明の無機質接着剤組成物を製造した。得られた組成物の粘度は、約30,000cps、pHは10.5であった。
製造直後の組成物をガラス容器に入れ、50℃で3日間保持した。保持後の粘度は29,000cpsでpHは9.8であった。さらに、組成物1部に対し、水を9部加え、充分に混合した後、遠心沈降分離し、上澄み液を濾過し、Na2Oを分析した(分析方法については後述)。Na2Oは組成物全体を基準にして520ppm、使用したムライト粉末を基準にして690ppmであった。
本例の組成物は、室温で4ケ月放置したところ、粘度は32,000cpsと安定で、特に使用に際しての問題はなかった。
【0026】
実施例2
コロイダルシリカ、ムライトの使用量を表1に示す量とした以外、実施例1と同様にして本発明の無機質接着剤組成物を製造した。組成物中の水溶性Na2Oの濃度、組成物の粘度およびpHを測定した。それらの結果を表1に併記する。
【0030】
比較例1
平均粒子径17.5mμで、固形分濃度40%のコロイダルシリカを23.1部と、平均粒子径6.2μのムライト粉末75.9部とを混合し、無機質接着剤組成物を製造した。
得られた本例の組成物の粘度は、約28,000cps、pHは9.8であった。
製造直後の組成物をガラス容器に入れ、50℃で3日間保持した。保持後の粘度は90,000cpsでpHは8.2であった。さらに、組成物1部に対し、水を9部加え、充分に混合した後、遠心沈降分離し、上澄み液を濾過し、Na2Oを分析した。Na2Oは組成物を基準にして170ppm、ムライト粉末を基準にして220ppmであった。
本例の組成物は、室温で2週間放置したところ、粘度は100,000cps以上であり固結寸前で、使用できなかった。
【0031】
比較例2
コロイダルシリカ、ムライトの使用量を表1に示す量とした以外、比較例1と同様にして無機質接着剤組成物を製造した。組成物中の水溶性Na2Oの濃度、組成物の粘度およびpHを測定した。それらの結果を表1に併記する。
【0032】
【表1】
【0033】
物性試験
実施例、比較例、表1に示す接着剤組成物の各物性については、以下の要領で測定した。
a)粘度
B型粘度計を使用して測定した。
b)粉末状酸化物の粒子径
レーザ回折型粘度計(島津製作所製)を使用して測定した。
c)コロイダルシリカの粒子径
コロイダルシリカを酸でpH2〜3に下げ、蒸発乾固(110〜130℃)後、洗浄、乾燥したものの比表面積を測定し、その値より粒子径を逆算した。
d)50℃保持後の水溶性Na2O
組成物試料をポリ容器に入れ、密封した上で50℃で3日間保持した。保持後、一定量試料をサンプリングし、10倍量の水で希釈し、充分に撹拌した後、遠心沈降分離にかけ、固液を分離し、上澄み液を採取した。上澄み液中のNa2O量を原子吸光法により測定した。
e)50℃保持後のpH
d)に記載のようにして50℃で3日間保持した試料を室温まで冷却し、pHメータで測定した。
【0034】
【発明の効果】
以上のように本発明によれば、無機質接着剤組成物中のバインダであるコロイダルシリカが安定化され、ゲル化(増粘、固化等)が起こらないため、組成物が長期間にわたり、保存、かつ使用可能である。
【0035】
さらに本発明によれば、無機質接着剤組成物を冷却保存する必要がなく、保管コスト、輸送コストを従来技術の接着剤組成物より大幅に下げることができる。
Claims (6)
- 平均粒子径5〜300mμであって、0.3〜0.4重量%のNa 2 Oで安定化されたコロイダルシリカであるバインダを固形分換算で6〜20重量%と、平均粒子径1〜30μの粉末状ムライトを固形分換算で30〜90重量%と、残部として水とを含んで成る組成物において、前記バインダに、コロイダルシリカの固形分100重量部に対して、NaOHを125/233〜315/424重量部を添加することにより、該組成物を50℃で3日保持した後、組成物中の水溶性Na2Oの濃度が300〜1,500ppmであり、さらに水溶性Na 2 Oの濃度がムライト当たりに換算すると400ppm以上であり、そして組成物のpHが9.5〜11.0の範囲にあるように調整することを特徴とする無機質接着剤組成物。
- バインダに添加されるNaOHは、粉末状ムライト100重量部に対して、50/757〜63/779重量部添加されることを特徴とする請求項1に記載の無機質接着剤組成物。
- コロイダルシリカの固形分濃度は、35〜40重量%であることを特徴とする請求項1または2に記載の無機質接着剤組成物。
- コロイダルシリカは、平均粒子径10〜20mμであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の無機質接着剤組成物。
- コロイダルシリカは、平均粒子径15〜20mμであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の無機質接着剤組成物。
- 粉末状ムライトの平均粒子径は、1〜10μであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つに記載の無機質接着剤組成物。
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JP2001329231A (ja) * | 2000-05-22 | 2001-11-27 | Asahi Kagaku Kogyo Co Ltd | 無機質接着剤組成物、その製造方法および接着方法 |
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- 1996-03-28 JP JP07439296A patent/JP3764202B2/ja not_active Expired - Lifetime
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