JP3758834B2 - 寒天及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、寒天とその製造方法に係り、特にゼリー強度が低く且つ保水力と粘性に優れた寒天とその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
寒天は、オゴノリ,天草,オバクサ等の紅藻類の海藻から熱水により抽出され、濾過,ゲル化,脱水及び乾燥工程を経て乾物化される。寒天の主成分は、アガロースとアガロペクチンであり、これらのうちゲル化力(ゲル形成能及びゼリー強度を含む概念)の主役をなすのはアガロースである。即ち、アガロースとアガロペクチンの比率がゲル化力を決定する一つの要因である。従って大きなゲル化力を得たい場合には、アガロペクチンを除去すればよいことが、従来より知られている。通常、ゲル化力の大きい寒天を作るには、熱水による抽出工程に先だって、原料海藻をアルカリ処理することが行われる。このアルカリ処理により、図1に示すように脱エステル化が起こり、硫酸基が外れて、3.6−アンヒドロ−L−ガラクトースが形成される。この結果アガロース成分の比率が高くなり、これがゲル化力を高めることになる。
【0003】
寒天のゲル化力を決定するもう一つの要因は、分子量である。寒天の製造にあっては、所望とするゲル化力の寒天を得るために抽出し易くする目的を含めて、一般に酸添加により分子を切断して製造している。更に食品その他の用途において、よりゼリー強度の低い寒天(以下、低強度寒天という)を得たい場合には、熱水抽出時或いはその後適当な段階においてかなりの酸処理を行って寒天分子を切断することが有効であることは、既に本出願人が提案している(特願平4−148855号)。また、酸処理を行わず、分子切断せずに抽出すると、高強度で高融点になることが知られている(特許第2560027号)。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、原料海藻の段階でアルカリ処理を行い、酸添加により熱水抽出される一般的な寒天、更に熱水抽出時或いはその後に酸処理を行って分子を切断して得られる低強度寒天は、分子量が小さいために、用途によっては粘性が不十分であり、脆く、また保水力も大きくない。
そこでこの発明は、分子を切断することなく低ゼリー強度を実現し、優れた粘性と保水力を併せもつ寒天とその製造方法を提供することを目的とする。
この発明はまた、原料海藻自身の特性を活かして、分子を切断することなく、所望とするゲル化力の寒天を得ることを可能とした寒天の製造方法を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
この発明に係る寒天は、硫酸根含量が1〜10%の原料海藻から中性の熱水で抽出された寒天成分により作られて、1.5%寒天濃度のゲルにおけるゼリー強度が600g/cm2以下(より好ましくは、400g/cm2以下)であり、かつ、(a)1.5%寒天濃度のゾルにおける粘度が85℃において15cp以上であること、あるいは(b)平均分子量が40万〜200万の範囲にあること、の少なくとも一方を満たすことを特徴としている。但し実用上、1.5%寒天濃度のゲルにおいてゼリー強度は10g/cm2以上、また1.5%寒天濃度のゾルにおける85℃での粘度は200cp以下であることが好ましい。
この発明に係る寒天の製造方法は、原料海藻をその硫酸根含量に応じて度合いが調整されたアルカリ処理を行った後、水洗により十分にアルカリを除去し、より中性付近の熱水で寒天成分を抽出濾過し、ゲル化した後脱水及び乾燥することを特徴としている。
この発明はまた、1.5%寒天濃度のゲルにおけるゼリー強度が600g/cm2以下(より好ましくは、400g/cm2以下)であり、かつ1.5%寒天濃度のゾルにおける粘度が85℃において15cp以上である寒天を製造する方法であって、硫酸根含量が1〜10%の原料海藻を中性の熱水で処理して寒天成分を抽出濾過し、酸処理を行うことなく、ゲル化した後脱水及び乾燥することを特徴としている。
更にこの発明において、前記アルカリ処理は、苛性ソーダ,苛性カリ,消石灰,生石灰及び水酸化アンモニウムから選ばれた処理液により、処理液濃度0.1〜10.0%,処理温度0〜100℃及び処理時間1〜180分の範囲で処理度合いを調整することを特徴とする。
【0006】
この発明は、原料海藻に含まれる硫酸根の含量及び原料海藻のアルカリ処理の度合いと、ゲル化力の間に一定の相関関係があるという、本発明者等の知見に基づいている。図2は、その相関関係を概念的に示している。即ち、原料海藻は種類により硫酸根の含量が異なるが、その含量が少なくなれば(即ち、アガロース含量が高まれば)、ゲル化力は増し、また分子量が大きくなればゲル化力は増す。更にこの二つの因子が合わさると、図2に示すようにより大きなゲル化力が得られる。一方、硫酸根はアルカリ処理により、図1に示すように脱硫酸されるため、硫酸根含量は、図3に示すように、アルカリ処理の度合いと反比例することになる。従ってアルカリ処理の度合いが強い場合には、ゲル化力が増すことになる。
【0007】
以上の知見に基づき、更に実験を行った結果、硫酸根含量が1〜10%の原料海藻の場合、原料海藻のアルカリ処理を行うことなく、また抽出後の酸処理を行うことなく、中性の熱水による抽出により、1.5%寒天濃度のゲルにおけるゼリー強度が600g/cm2以下であり、かつ1.5%寒天濃度のゾルにおける粘度が85℃において15cp以上である寒天、即ち高強度にならずしかも粘性に富んだ寒天を得ることができることが明らかになった。
アルカリ処理や酸処理を行うと、アルカリ処理による脱硫酸、酸処理による分子切断の結果、寒天ゲルは白濁して透明度が低くなるが、アルカリ処理も酸処理も行わないと、透明なゲルが得られる。
【0008】
更に、図2及び図3から理解されるように、原料海藻をその硫酸根含量に応じて度合いが調整されたアルカリ処理を行った後、より中性付近の熱水で寒天成分を抽出して濾過すれば、原料海藻の種類に依らず一定のゲル化力の寒天を得ることができる。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照して、この発明の実施例を説明する。
図4は、この発明の一実施例による寒天製造工程である。図示のように原料海藻を、先ず必要に応じてアルカリ処理する。アルカリ処理の度合いは、原料海藻の硫酸根含量により決定するが、その詳細は後述する。その後、中性の熱水による抽出を行い、以下通常の工程に従って、濾過,ゲル化,冷凍脱水及び乾燥工程を経て、寒天乾物を作る。
【0010】
アルカリ処理の度合いは、用いるアルカリ水溶液の種類と濃度、処理温度及び処理時間により調整される。具体的に、図5は、処理温度を50℃一定とし、処理時間をファクターとして、アルカリ処理の度合いを変えたときの海藻(オゴノリCと天草C)の硫酸根含量の変化を示したものである。図6は、処理時間を60分一定とし、処理温度をファクターとしてアルカリ処理の度合いを変えたときの同様のデータである。
原料の硫酸根含量が4以下の場合には、海藻のアルカリ処理をしないでも、ゼリー強度が200g/cm2以上で、かつゾル粘度が15cp以上のものを得ることができる。
【0011】
実際に原料海藻として、天草A(南アフリカ産)、天草B(チリ産)、オゴノリA(アルゼンチン産)、オゴノリB(チリ産)について、図4のフローに従い、アルカリ処理を行わない場合、及びアルカリ処理(40℃,1時間及び80℃,1時間)を行った場合に得られた寒天の物性を下記表1に示す。
【0012】
【表1】
【0013】
表1から、天草Aは無処理で、天草Bは無処理及び40℃処理で、オゴノリAは無処理及び40℃処理で、オゴノリBは40℃処理でそれぞれ目標とする物性が得られる。
実施例の場合、それぞれの条件で物性が変化し、目標とする物性を得るには海藻の硫酸根の含量によりアルカリ処理の度合いを変えること、更に中性付近で抽出することにより分子を切断することなく分子量を大きくする事により可能となる。結果として、1.5%寒天濃度でゼリー強度600g/cm2以下であり、かつゾルにおける粘度が85℃で15cp以上である物性が得られる。
【0014】
表2には、表1と同様に、天草C(地中海産)とオゴノリC(ブラジル産)について、無処理と、40℃,1時間のアルカリ処理を行った後、中性の熱水で抽出した実施例のものと、従来よりある市販の寒天の条件でアルカリ処理し抽出したもの、及び同程度のゼリー強度になるように抽出pHを下げた寒天について、分子量とゾル粘度を比較したものである。
【0015】
【表2】
【0016】
表2から明らかなように、この発明による寒天は、従来のものと同程度のゼリー強度にも拘わらず、分子量が大きくゾル粘度が高いことが分かる。
また表1に示すように、この発明による寒天は、離水量の点でも、600g/cm2以上のゼリー強度のものに比べて低く、保水力が優れていることが確認された。
図7は、更に多くの海藻より抽出された種々の寒天について得られたゼリー強度と分子量の関係をまとめたものである。図7から、低ゼリー強度でしかも、優れた粘性と保水性を示すこの発明に係る寒天の特異性が理解できる。
【0017】
【発明の効果】
以上述べたようにこの発明によれば、硫酸根含量が1〜10%の原料海藻を、アルカリ処理を行うことなく、中性の熱水で処理して寒天成分を抽出して濾過し、酸処理を行うことなく、ゲル化,脱水及び乾燥工程を経て乾物化することにより、ゼリー強度が低くしかも、粘性と保水力に優れた寒天を得ることができる。また、原料海藻の硫酸根含量に応じて度合いが調整されたアルカリ処理を行うことにより、一定のゼリー強度をもつ寒天を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 寒天のアルカリ処理による脱エステル化を示す図である。
【図2】 原料海藻の硫酸根含量とゲル化力の関係を示す図である。
【図3】 アルカリ処理の度合いと硫酸根含量の関係を示す図である。
【図4】 実施例の処理工程を示す図である。
【図5】 アルカリ処理時間と硫酸根含量の関係を示すデータである。
【図6】 アルカリ処理温度と硫酸根含量の関係を示すデータである。
【図7】 種々の寒天のゼリー強度と分子量の関係を示す。
Claims (3)
- 天草又はオゴノリから中性の熱水で抽出された寒天成分により作られて、1.5%寒天濃度のゲルにおけるゼリー強度が600g/cm2以下であり、かつ1.5%寒天濃度のゾルにおける粘度が85℃において15cp以上であることを特徴とする寒天。
- 天草又はオゴノリから中性の熱水で抽出された寒天成分により作られて、1.5%寒天濃度のゲルにおけるゼリー強度が600g/cm2以下であり、かつ寒天成分の平均分子量が40万〜200万の範囲にあることを特徴とする寒天。
- 1.5%寒天濃度のゲルにおけるゼリー強度が600g/cm2以下であり、かつ1.5%寒天濃度のゾルにおける粘度が85℃において15cp以上である寒天を製造する方法であって、天草又はオゴノリを中性の熱水で処理して寒天成分を抽出濾過し、酸処理を行うことなく、ゲル化した後脱水及び乾燥することを特徴とする寒天の製造方法。
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