JP3758784B2 - 交流カロリメトリによる熱拡散率測定方法及び装置 - Google Patents

交流カロリメトリによる熱拡散率測定方法及び装置 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、薄膜試料の厚さ方向の熱拡散率測定方法及び装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、薄膜試料の厚さ方向の熱拡散率の測定は種々試みられており、例えば、熱拡散率が未知の薄膜試料を既知の第1及び第2の薄膜試料で挟み、未知の薄膜試料の一方の表面に付着した金属膜抵抗に交流電力を加えて該薄膜試料を加熱し、他方の表面に付着した温度計用金属膜抵抗の抵抗変化から得られた交流温度信号から未知の薄膜試料の熱拡散率を算出する交流カロリメトリによる測定方法が提案されている(特開平6−273361号)。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
上記の従来技術では、熱拡散率が既知の第1又は第2の薄膜試料は、未知の薄膜試料と同じλ・k[λ:熱伝導率、k(交流温度減衰係数):(πf/a)1/2 ]の値でなければならない。したがって、2層、3層と多層の場合には測定不能で、単層しか測定できないという不具合があり、また、試料は電気的に不良導体に限られ、金属及び半導体の薄膜試料は測定できないという不具合があった。
本発明は、上記した従来の熱拡散率の測定方法の不具合を解決し、複数層膜や電気的導体膜、半導体膜の熱拡散率を測定することができる交流カロリメトリによる熱拡散率測定方法及び装置を提供することを課題とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記の課題を解決するために、請求項1に記載のように、熱拡散率が未知で厚さが既知の薄膜試料が、熱拡散率、熱伝導率及び厚さがそれぞれ既知の、少なくとも1枚の第1及び第2の絶縁薄膜試料で挟まれた層状薄膜試料を、一対の試料ホルダで挟み、第1の絶縁薄膜試料と試料ホルダとの間に密着して挟み込まれた金属薄膜に種々の周波数fの一定の交流電力を順次与え、前記層状薄膜試料に伝搬する温度波の位相差ΔΦt を第2の絶縁薄膜試料と試料ホルダとの間に挟まれた金属薄膜を用いた電気抵抗温度計及びロックイン増幅器により測定し、
ΔΦt =ΔΦ2 +ΔΦ3 +ΔΦ4 (6)
ΔΦi =−li (πf/ai 1/2 (i=2,3,4) (7)
但し、ΔΦ2 は、第1の絶縁薄膜試料の温度波の位相差
ΔΦ3 は、熱拡散率が未知の薄膜試料の温度波の位相差
ΔΦ4 は、第2の絶縁薄膜試料の温度波の位相差
i は、第1及び第2の絶縁薄膜試料並びに熱拡散率が未知の薄膜試料の厚さ
i は、第1及び第2の絶縁薄膜試料並びに熱拡散率が未知の薄膜試料の熱拡散率
上記位相差ΔΦt を用いて上記式(6)及び(7)から熱拡散率が未知の薄膜試料の熱拡散率a3 を算出することを特徴とする交流カロリメトリによる熱拡散率測定方法にあり、また、請求項2に記載のように、熱拡散率が未知で厚さが既知の薄膜試料が熱拡散率、熱伝導率及び厚さがそれぞれ既知の、少なくとも1枚の第1及び第2の絶縁薄膜試料で挟まれた層状薄膜試料における前記薄膜試料の熱拡散率測定装置であって、交流発振器、金属薄膜を用いた電気抵抗温度計、直流増幅器及びロックイン増幅器から成る前記層状薄膜試料の温度波の位相差ΔΦtを測定する計測用装置と、
ΔΦt =ΔΦ2 +ΔΦ3 +ΔΦ4 (6)
ΔΦi =−li (πf/ai 1/2 (i=2,3,4) (7)
上記位相差ΔΦt を用いて上記式(6)及び(7)から熱拡散率が未知の薄膜試料の熱拡散率を算出する手段とから構成されることを特徴とする交流カロリメトリによる熱拡散率測定装置にある。
【0005】
図1において、層2、3及び4は、それぞれ第1の絶縁薄膜試料、熱拡散率[a=λ/(C・ρ) ρ:密度]が未知の薄膜試料及び第2の絶縁薄膜試料で、それぞれの厚さ、熱拡散率、熱伝導率及び交流温度減衰係数は、l2 、a2 、λ2 及びk2 ,l3 、a3 、λ3 及びk3 並びにl4 、a4 、λ4 及びk4 とする。この層2、3及び4の3層から成る層状薄膜試料が、層1及び層5の試料ホルダによって挟まれた状態において、3層から成る層状薄膜試料の表面(x=0)が周波数f、単位面積当りの熱量Q(最大値)で周期的に加熱されたときの該層状薄膜試料の裏面(x=d4 )における温度応答及び位相差を測定する。前記試料ホルダの層1及び層5は3層から成る層状薄膜試料に比較して十分厚いものとし、この層1及び層5の厚さ、熱拡散率、熱伝導率及び交流温度減衰係数はそれぞれl1 、a1 、λ1 及びk1 並びにl5 、a5 、λ5 及びk5 とする。また、各層間の接触熱抵抗はないとして一次元熱伝導方程式を解くと、x=d4 における温度応答は式(1)となる。
【0006】
【数1】
Figure 0003758784
【0007】
ここで、添字は層の番号であり、Y、W、Vは次式で表される。
【0008】
【数2】
Figure 0003758784
【0009】
もしも、λ1 1 =λ2 2 であれば、層2と層3の位相差(層2及び層3のそれぞれの表面温度と裏面温度の位相差、以上及び以下同様)はそれぞれ式(2)、(3)となる。
【0010】
ΔΦ2 =−k2 2 (2)
【0011】
【数3】
Figure 0003758784
【0012】
式(3)の第2項は第1項に比較して非常に小さく、無視できる大きさである。つまり、
ΔΦ3 =−k3 3 (4)
と近似できる。図2は式(4)で近似したことによる誤差を種々のパラメータを変化させて表示したものである。実用的範囲においてその誤差は±1%以下であることが分かる[図2において、Fo3 はフーリエ数(at/l2 )、Λは熱浸透率(effusivity)、αは例えば層4のΛと層3のΛとの比Λ4/3 である。Λ=(λ・C・ρ)1/2=(λ・λ/a)1/2=λ/ 1/2]。層4の位相差は、λ4 4 =λ5 5 とすると、
ΔΦ4 =−k4 4 (5)
となる。式(2)は層2の物性値(熱伝導率、熱拡散率)が層1と同じであるとして導かれたものであるが、たとえ両者の物性値が異なっていても、層3に対する解析と同様な手法を適用すると、近似的に式(2)が成立することが分かる。式(5)も同じ観点から層4と層5の物性値が異なっても近似的に成立する。
【0013】
結局、層状薄膜試料全体の位相差(加熱面と温度測定点)ΔΦt は次式で表される。 ΔΦt =ΔΦ2 +ΔΦ3 +ΔΦ4 (6)
ここで、 ΔΦi =−li (πf/ai 1/2 (i=2、3、4) (7)
尚、(7)式が、薄膜試料の一方の面に交流熱を加えて、一方の面の温度と他方の面の温度との間に温度波の位相差を生じたときに成立することは、例えば、前記特開平6−273361号公報に詳細に述べられている。
【0014】
層状薄膜試料全体の位相差ΔΦt を測定し、式(6)及び(7)を用いることによって、層状薄膜試料全体の実効的熱拡散率が計算することができる。層3である薄膜試料の物性値が未知であり、他の層である絶縁薄膜試料の物性値及び厚さが既知であれば、未知の薄膜試料の熱拡散率a3 は、層状薄膜試料全体の位相差ΔΦt を測定することによって、式(6)及び(7)から容易に求めることができる。 以上の説明では、薄膜試料の上下の絶縁薄膜試料は夫々1層で、総計3層を例として説明したが、3層以上であっても、各位相差の和で表される近似は実用的な範囲で成立する。
【0015】
請求項2に記載の測定装置において、交流発振器、金属薄膜を用いた電気抵抗温度計、直流増幅器及びロックイン増幅器から成る前記層状薄膜試料の温度波の位相差Φt を測定する計測用装置は、交流発振器から出力する交流電流で層状薄膜試料を加熱して前記層状薄膜試料の温度波の位相差を測定し、前記手段は、測定した前記層状薄膜試料の温度波の位相差と前記式(6)及び(7)とから熱拡散率が未知の薄膜試料の熱拡散率を算出する。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下に本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
【0017】
図3は、試料薄膜の熱拡散率を測定するときの試料系の模式図である。
【0018】
同図において、1は、前記層3に対応する、例えばステンレス鋼(SUS304)である熱拡散率が未知の薄膜試料、21 及び22 は、前記層2及び層4に対応する例えばポリイミドフィルムである絶縁薄膜試料、31 及び32 は前記層1及び層5に対応する例えばポリイミドフィルムである試料ホルダであり、試料ホルダ31 には、加熱用の金膜4(抵抗値2〜3Ω)がスパッタリングにより蒸着されており、試料ホルダ32 には電気抵抗温度計として使用する金膜5(抵抗値10〜20Ω)が蒸着されている。これらの薄膜試料1、21 及び22 から成る層状薄膜試料LA及び試料ホルダ31 及び32 等は、例えばガラスプレートの基台6に載せられ、層間の接触熱抵抗を減らすために例えばガラスプレートである押板7により上からしっかりと押さえられる。
【0019】
図4は熱拡散率測定装置の概略を示すブロック図を示す。
【0020】
同図において、10は前記加熱用の金膜4に電力増幅器11を介して接続された例えば関数発生器である交流発振器、12は前記金膜5に可変抵抗13を介して接続された電気抵抗温度計用直流電源、14は前記金膜5に補償装置15を介して接続された直流増幅器、16は該直流増幅器14に接続されたロックイン増幅器で、以上の交流発振器10、電力増幅器11、抵抗温度計用直流電源12、直流増幅器14及びロックイン増幅器16等は層状薄膜試料LAの温度波の位相差を測定する計測用装置を構成する。この装置には、図示しないが、ロックイン増幅器16に接続され、前記式(6)及び(7)から未知の試料薄膜1の熱拡散率を計算する例えば、コンピュータなどの手段を有する。
【0021】
以上の装置を用いて未知の試料薄膜1の熱拡散率測定方法を説明すると、試料ホルダ31 の表面(x=0)に蒸着された金膜4に交流発振器10から交流電流を流して層状薄膜試料を周期的に加熱する。最大加熱量は3W程度で、加熱周波数は、0.5 〜5.0 Hzの範囲で変化させた。層2である第1の絶縁薄膜試料31 の加熱面と層4である第2の絶縁薄膜試料32 の温度応答面との間の温度波の位相差を前記金膜5を用いた電気抵抗温度計の出力を補償装置15、直流増幅器14を介してロックイン増幅器16に入力することにより測定し、この出力を前記手段例えばコンピュータに入力し、コンピュータにおいて、前記式(6)及び(7)により薄膜試料1の熱拡散率を計算した。
【0022】
前記未知の薄膜試料1として、先ず、ステンレス鋼(SUS304)の薄板を用い、厚さの異なる薄膜試料(100 、200 、300 μm)に対して測定を行なった。 図5は、周波数を0.5 〜5.0 Hzの範囲で変化したときの前記位相差ΔΦt を測定した結果を示す。位相差ΔΦt は周波数fの平方根に対し直線的に変化しており、前記式(7)が成立していることが分かる。
【0023】
この傾きより求められたステンレス鋼の熱拡散率を表1に示す。
【0024】
表 1
Figure 0003758784
測定されたステンレス鋼の熱拡散率は、Thermophysical Properties Handbook [Jpn.Soc.Thermophys. Prop.,Tokyo.Yokendo , (1990) 26 ]に示された参照デ−タと比較して4%以内で一致している。
【0025】
この測定方法の適用例として、液晶温度計がどの程度の非定常温度応答性を持つのかを知るのに極めて大切な、表面温度測定用液晶シ−トの熱拡散率を測定した。
【0026】
温度測定用液晶シートは層状になっていることが多く、図6に示すように、例えばコレステロール誘導形の液晶シートは、厚さが102 μmの透明なPET(ポリエチレンテレフタラート)17の基材に下塗り層を介して液晶(LC)層18(下塗り層及び黒色層を含めて厚さが 64 μm)が、該液晶層18に黒色層を介して厚さが 100μmの粘着層19が大略3層の層状に形成されている。この液晶シートについて測定した。その測定結果を表2に示す。
【0027】
表 2
Figure 0003758784
表2のNO.1は液晶シート全体に対する測定値、NO.2は、粘着層を溶剤により溶かして除去した試料に対する測定値である。基材のPET17の熱拡散率として、Polymer Handbook(J.Brandrup,E.H.Immergut, John Wiley & Sons (1989), V104)に掲載されたデータ(a2 =0.929×10-72 /s)を使用すると、液晶層18の熱拡散率は、a3 =0.72×10-72 /sと求められる。NO.4の粘着層19のデータは上記データと全体の位相差から求めた値である。
【0028】
【発明の効果】
本発明は、複数層薄膜や電気的導体膜、半導体膜の熱拡散率を測定することができるという効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【図1】 層状薄膜試料の模式図
【図2】 (A)及び(B)は、それぞれフーリエ数を変数とし、熱浸透率比をパラメータとしたときの近似による誤差及び熱浸透率比を変数とし、フーリエ数をパラメータとしたときの近似による誤差を示す図。
【図3】 試料薄膜の熱拡散率を測定するときの試料系の模式図。
【図4】 熱拡散率測定装置の概略を示すブロック図。
【図5】 周波数を0.5〜5.0Hzの範囲で変化したときの前記位相差を測定した結果を示す図。
【図6】 温度測定用液晶シートの構成を示す模式図。

Claims (2)

  1. 熱拡散率が未知で厚さが既知の薄膜試料が、熱拡散率、熱伝導率及び厚さがそれぞれ既知の、少なくとも1枚の第1及び第2の絶縁薄膜試料で挟まれた層状薄膜試料を、一対の試料ホルダで挟み、第1の絶縁薄膜試料と試料ホルダとの間に密着して挟み込まれた金属薄膜に種々の周波数fの一定の交流電力を順次与え、前記層状薄膜試料に伝搬する温度波の位相差ΔΦt を第2の絶縁薄膜試料と試料ホルダとの間に挟まれた金属薄膜を用いた電気抵抗温度計及びロックイン増幅器により測定し、
    ΔΦt =ΔΦ2 +ΔΦ3 +ΔΦ4 (6)
    ΔΦi =−li (πf/ai 1/2 (i=2,3,4) (7)
    但し、ΔΦ2 は、第1の絶縁薄膜試料の温度波の位相差
    ΔΦ3 は、熱拡散率が未知の薄膜試料の温度波の位相差
    ΔΦ4 は、第2の絶縁薄膜試料の温度波の位相差
    i は、第1及び第2の絶縁薄膜試料並びに熱拡散率が未知の薄膜試料の厚さ
    i は、第1及び第2の絶縁薄膜試料並びに熱拡散率が未知の薄膜試料の熱拡 散率
    上記位相差ΔΦt を用いて上記式(6)及び(7)から熱拡散率が未知の薄膜試料の熱拡散率a3 を算出することを特徴とする交流カロリメトリによる熱拡散率測定方法。
  2. 熱拡散率が未知で厚さが既知の薄膜試料が熱拡散率、熱伝導率及び厚さがそれぞれ既知の、少なくとも1枚の第1及び第2の絶縁薄膜試料で挟まれた層状薄膜試料における前記薄膜試料の熱拡散率測定装置であって、交流発振器、金属薄膜を用いた電気抵抗温度計、直流増幅器及びロックイン増幅器から成る前記層状薄膜試料の温度波の位相差ΔΦtを測定する計測用装置と、
    ΔΦt =ΔΦ2 +ΔΦ3 +ΔΦ4 (6)
    ΔΦi =−li (πf/ai 1/2 (i=2,3,4) (7)
    上記位相差ΔΦt を用いて上記式(6)及び(7)から熱拡散率が未知の薄膜試料の熱拡散率を算出する手段とから構成されることを特徴とする交流カロリメトリによる熱拡散率測定装置。
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