JP3751429B2 - アルミニウム合金接合用ろう材及びそれを使用したクラッド材 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、アルミニウム合金を例えば570℃以下の温度でろう付する低温ろう付けに有効なアルミニウム合金接合用ろう材及びそれを使用したクラッド材に関し、特に、加工性及びろう付性が優れ、特に自動車用熱交換器部材等のろう付けに好適であるろう材及び自動車用熱交換器の構成部材自体として好適のクラッド材に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、自動車用アルミニウム合金製熱交換器は、Al−Si系ろう材(JISA4343等)を使用し、このろう材を600℃程度の高温に加熱することによりアルミニウム合金部材をろう付け接合して製造されている。また、600℃よりも低い温度でろう付けする低温ろう付用アルミニウム合金ろう材としては、例えば、Al−Si−Cu−Zn系ろう材があり、このろう材を使用して580℃でろう付加熱する方法が公知である(特開平8−104936号公報)。更に、Zn−Al系ろう材を使用した場合には、450℃程度で加熱ろう付されている(特開平6−79495など)。
【0003】
また、Al−Si−(Zn)系心材とCu−Ni系のクラッド材を箔として使用する方法も公知である(Development of a fluxless, low temperature aluminium brazing process(フラックスレス低温アルミニウムブレージング方法; ALUMINIUM第71巻1995年2月第215乃至219頁)。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来一般的に実施されているAl−Si系ろう材を使用したろう付け方法においては、ろう材を600℃前後に加熱するため、加熱のための電力コストが高いと共に、炉製造費が高く、炉寿命及びジグ寿命等が短いために、熱交換器の製造コストが高くなる。また、ろう材融点からの制約により、適用対象が高融点材料の接合に限定される。
【0005】
また、従来のZn−Al系ろう材を使用する場合は、塩化物系の腐食性フラックスを用いるため、ろう付け後の洗浄が必要となり、公害の問題から廃液処理が必要となるという問題点がある。更に、このZn−Al系ろう材を板材として使用する場合には、板材にするための圧延加工性に問題がある。
【0006】
更にまた、上記ALUMINIUM第71巻1995年2月第215乃至219頁に記載される方法では、ろう材として、Al−Si−(Zn)系合金からなる心材にCu−Ni系合金を積層したクラッド箔を使用するため、製造コストが極めて高くなると共に、大量生産が困難であるという問題がある。
【0007】
Al−Si−Cu−Zn系合金の場合には、Si,Cu,Zn量の調整により、570℃以下でのろう付を可能とするが、低融点となる高Cu及び高Zn組成においては、ろうの濡れ性が不十分であり、十分なろう付けが困難となる。
【0008】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、570℃以下の低温度でろう付け可能であり、ろう付け性及び加工性が優れており、またろう付けの適用対象に制約が少なく、ランニングコスト及び設備コスト等の製造コストが低いアルミニウム合金接合用ろう材及びそれを使用したクラッド材を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明に係るアルミニウム合金接合用ろう材は、Si;5乃至13質量%、Cu;2乃至6質量%、Zn;1乃至5質量%(但し、Cu+Zn=5質量%以上)、Ni;0.5乃至5質量%を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなることを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係るアルミニウム合金接合用ろう材を使用したクラッド材は、Al−Mn系合金からなる心材と、この心材の両面又は片面に積層されたろう材とを有し、このろう材は、Si;5乃至13質量%、Cu;2乃至6質量%、Zn;1乃至5質量%(但し、Cu+Zn=5質量%以上)、Ni;0.5乃至5質量%を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金ろう材であることを特徴とする。
【0011】
更に、本発明に係る他のクラッド材は、Al−Mn系合金からなる心材と、この心材の一方の面に積層されたろう材と、前記心材の他方の面に積層された犠牲材とを有し、前記ろう材は、Si;5乃至13質量%、Cu;2乃至6質量%,Zn;1乃至5質量%、(Cu+Zn=5質量%以上),Ni;0.5乃至5質量%を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金ろう材であり、前記犠牲材はAl−Zn系合金又は又は純アルミニウムからなることを特徴とする。
【0012】
【発明の実施の形態】
本発明は、ろう材組成をAl−Si−Cu−Zn−Ni系とし、その組成を適切に規定し、特にNiの添加及びその含有量を適切に規定することにより、本発明の目的を達成した。即ち、本発明の特許請求の範囲に規定する組成のろう材は、570℃以下の温度でろう付け可能であると共に、加工性及びろう付け性が優れている。
【0013】
先ず、本発明におけるろう材合金組成の限定理由について説明する。
【0014】
Si:5乃至13重量%
Siはアルミニウム合金の融点を低下させる作用を有するために添加元素である。Siが5重量%未満では、それらの効果が不十分となり、Si添加量が13重量%を超える場合には、融点が570℃を超えるため、570℃以下でのろう付ができなくなる。このため、Si含有量は5乃至13重量%とするが、好ましくは、Si含有量は7乃至12%とする。
【0015】
Cu:2乃至6重量、Zn:1乃至5重量%、Cu+Zn=5重量%以上
Cu及びZnはアルミニウム合金ろう材を低融点化する作用を有する。Cu+Zn=5重量%未満では、融点が570℃を超えるため、570℃以下でのろう付ができなくなる。このため、Cu+Znは5重量%以上とする。
【0016】
また、Cuが6重量%を超え、又はZnが5重量%を超えて添加されると、アルミニウム合金材の加工性が低下し、圧延加工によりアルミニウム合金板材を得る場合に、耳割れ及び表面割れ等の欠陥が生じやすくなり、工業的な利用ができなくなる。一方、Cuが2重量%未満、又はZnが1重量%未満の場合には、融点が570℃を超えるため、570℃以下でのろう付ができなくなるという不都合がある。このため、Cuは2乃至6重量%、Znは1乃至5重量%とする。
【0017】
Ni:0.5乃至5重量%
Niは、ろう付時においてアルミニウム合金ろう材の濡れ性を向上させる作用を有し、このためNiは良好なフィレットを形成させるために必須の添加元素である。Ni含有量が0.5重量%未満では、その効果は不十分であり、上限を超えてNiを添加すると、逆に濡れ性が低下する。更に、Ni添加量が上限の5重量%を超えると、アルミニウム合金ろう材の加工性が劣化し、工業的な製造が困難となる。このため、Ni含有量は0.5乃至5重量%とする。なお、好ましくは、Ni含有量は1乃至3%とする。
【0018】
上述の組成を有する本発明のアルミニウム合金接合用ろう材によれば、570℃以下の低温度でアルミニウム合金をろう付することができ、また工業的に板材としての使用が可能である。
【0019】
次に、上述のアルミニウム合金ろう材を使用して構成されるクラッド材について説明する。このろう材は、Al−Mn合金からなる心材の片面又は両面にクラッドされる。このように、心材としてAl−Mn系合金を使用するのは、Mnが心材の強度を向上させると共に、心材の電位を貴として耐食性を向上させる元素であり、Al−Mn合金の使用により、高い部材強度を得ることができるからである。
【0020】
また、本発明のアルミニウム合金ろう材をAl−Mn系合金からなる心材の片面にクラッドした場合は、心材の他方の面、即ち、ろう材をクラッドした方の面とは反対側の心材の面に犠牲材をクラッドすることもできる。このように、Al−Mn系合金からなる心材を挟むようにして、本発明のアルミニウム合金ろう材と、犠牲材とをクラッドすることにより、Znによる犠牲陽極効果を高めることができ、ブレージングシート表面の腐食がその表面に平行な方向に広がるので、シートの厚さ方向への浸食が抑制されて、耐食性を向上させることができる。このような犠牲材としては、Al−Zn系(JIS 7072)合金材等がある。
【0021】
【実施例】
以下、本発明の実施例について比較例と対比してその効果について説明する。下記表1に示す化学組成を有するアルミニウム合金ろう材を常法により溶解し、鋳造した後、500℃に6時間加熱するの均質化処理を実施し、その後、所定の板厚まで熱間圧延した。また、JIS A3003合金の鋳魂を590℃に6時間加熱して均質化処理することにより、心材を得た。次に、上述の心材と、種々のろう材とを組み合わせて重ね合わせ、450℃で熱間合わせ圧延を行い、更に冷間圧延、中間焼鈍及び仕上げ冷間圧延を経て、クラッド材を作成した。図1はこのクラッド材を示す断面図である。このクラッド材3は、JIS A3003合金からなる心材2の両面に、表1に示す組成のろう材1がクラッドされたものである。このクラッド材3の厚さは0.6mm、両面のろう材2のクラッド率は、夫々全体の厚さの10%である。
【0022】
図2はすき間充填性試験方法を示す図であり、(a)は正面図、(b)は右側面図、(c)は斜視図である。クラッド材3を幅25mm、長さ55mmに切断し、図2に示すように、水平に配置した母材5上でクラッド材3を垂直に立て、クラッド材3の一端から50mmの位置に直径が1mm、2mm、3mm、又は4mmのステンレス製のスペーサーロッド4を挟み、その面内で持ち上げて固定した。母材5には幅25mm、長さ60mm、板厚2mmのJIS A3003合金を使用し、クラッド材3と母材5はステンレス製細線6により固定した。試験片は融点530℃のフッ化物系フラックスを塗布した後、窒素ガス雰囲気炉中で570℃に5分間加熱して、ろう付け加熱試験した。
【0023】
その後、図3に示すように、ろう付後の試験片による流動係数Kとすきま充填長さLを測定し、フィレット7の形成状況を調べた。但し、流動係数Kは、ろう付前の板厚t(図3(a))、ろう付後の板厚T(図3(b))並びにろう付け前のろう材1のクラッド厚C1及びC2を使用して、下記数式1により求めることができる。
【0024】
【数1】
K=(t−T)/(C1+C2)
【0025】
また、すき間充填長さLは、図3(c)に示すようにして、ノギスにより、フィレット7がクラッド材3と母材5との双方に接触している長さを測定することにより求めた。また、L/2の位置でクラッド材3と母材5を切断して、図3(b)に示すフィレット性状を評価した。流動係数K及びすき間充填長さLがいずれも大きいほど、ろうの流動性が良好であり、ろう付性が優れていることを示す。
【0026】
量産加工性は、クラッド3の最終冷間圧延加工の際の割れ発生状況により評価し、JIS Z 3263(1980)に規定されるBA12PCと比較して、同等程度のものをA、若干劣るものの加工可能なものをB、耳割れ及び表面割れにより加工不可であったものをCとした。
【0027】
また、隙間充填試験後のフィレット性状は、上記BA12PCを605℃でろう付した場合と比較して、同等程度のものをA、若干劣るものの良好なフィレット形状をなすものをB、ろう付は可能であるがフィレット形成が不安定なものをCとした。
【0028】
以上の評価結果を下記表2にまとめて示す。表2から明らかなように、本発明によるアルミニウム合金ろう材は、従来のものと比べてろう付性及び加工性が優れたものであり、本発明の実施例のろう材は、570℃以下の低温で工業的にろう付を可能とするものである。
【0029】
【表1】
Figure 0003751429
【0030】
【表2】
Figure 0003751429
【0031】
比較例7は、Si含有量が本発明より低いため、流動係数が低く、フィレット性状も低かった。比較例8はNiを含有しないため、すき間充填長さが短く、フィレット性状が低かった。比較例9はNi含有量が多すぎたため、加工性が低く、量産加工性の評価が低かった。比較例10はZn含有量が多すぎたため、量産加工性が低かった。比較例11はCu含有量が多すぎたため、量産加工性が低かった。比較例12はSi含有量が多すぎたため、フィレット性状が低く、流動係数も低いものであった。
【0032】
これに対し、本発明の実施例1乃至6は各成分の組成がいずれも本発明にて規定する範囲に入るため、流動係数が十分に高く、すき間充填長さが長く、フィレット性状が優れたものであった。更に、実施例1乃至6は量産加工性も優れていた。
【0033】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、Si、Cu、Zn及びNiの各成分の組成を適切に規定したので、570℃以下でろう付けした場合でも、ろう材の濡れ性及び流動性が優れており、また加工性も優れていて、工業的な低温ろう付けが可能となり、また本発明のろう材は製造コストも低いという効果を奏する。このろう材を使用したクラッド材も、ろう付け作業性が良好で、自動車用熱交換器用の部材として極めて有益である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係るアルミニウム合金接合用ろう材を使用したクラッド材を示す断面図である。
【図2】本発明の実施例及び比較例のすき間充填性試験方法を示す図である。
【図3】本発明の流動係数とすき間充填長さ測定方法を示す図である。
【符号の説明】
1:ろう材
2:心材
3:クラッド材
4:スペーサロッド
5:母材
6:固定用細線
7:フィレット

Claims (3)

  1. Si;5乃至13質量%、Cu;2乃至6質量%、Zn;1乃至5質量%(但し、Cu+Zn=5質量%以上)、Ni;0.5乃至5質量%を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなることを特徴とするアルミニウム合金接合用ろう材。
  2. Al−Mn系合金からなる心材と、この心材の両面又は片面に積層されたろう材とを有し、このろう材は、Si;5乃至13質量%、Cu;2乃至6質量%、Zn;1乃至5質量%(但し、Cu+Zn=5質量%以上)、Ni;0.5乃至5質量%を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金ろう材であることを特徴とするクラッド材。
  3. Al−Mn系合金からなる心材と、この心材の一方の面に積層されたろう材と、前記心材の他方の面に積層された犠牲材とを有し、前記ろう材は、Si;5乃至13質量%、Cu;2乃至6質量%,Zn;1乃至5質量%、(Cu+Zn=5質量%以上),Ni;0.5乃至5質量%を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金ろう材であり、前記犠牲材はAl−Zn系合金又は又は純アルミニウムからなることを特徴とするクラッド材。
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