JP3750472B2 - 電動パワーステアリング装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、車両に搭載されるパワーステアリング装置に関し、特に、路面より車両の前輪を介してステアリング・ホイールに伝達されるセルフ・アライニング・トルク(即ち、ステアリング・ホイールを中立位置に戻そうとする路面からの力)の過剰或いは急激な伝播を相殺、緩和、又は抑制するステアリング・ダンパーの作用を補償するダンパー補償制御手段を備えた電動パワーステアリング装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
操舵系に連結されたモータの出力トルクを制御する電動パワーステアリング装置としては、例えば、「特開平8−175404:電動パワーステアリング装置」や「特開平10−147249:電動パワーステアリング装置の制御装置」等に記載されているものなどが一般に知られている。
これらの従来技術においては、モータの出力トルクを制御することにより、操舵系へのアシストトルクの補償やステアリングダンパーの機能の補償等の「操舵トルクに関する補償制御」を行っている。
【0003】
また、通常、これらのダンパー補償制御における補償トルク(ダンパー・トルク)の大きさは、操舵機構の角速度ωや車速vに応じて制御されている。
また、これらのダンパー補償制御は、ステアリングダンパー等の油圧機構や弾性機構から得られる緩衝作用が十分ではない場合や、或いは、これらの緩衝機構が具備されていない場合等に特に大きな効果を奏する。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、セルフ・アライニング・トルクの操舵感に対する影響の度合いは、操舵機構の角速度ωや車速vだけではなく、更に車両の加速度aにも大きく依存することがある。例えば、一般に車両の急加速時などでは、車体重量は相対的に後輪側に傾き易く、前輪側への加重が比較的軽くなる傾向があるため、前輪の接地面積や前輪の左右回動方向(操舵角方向)の路面との摩擦力が小さくなる。このため、特に、車両の加速度aが大きい場合には、前輪は左右に回動し易くなり、セルフ・アライニング・トルクが急激又は過剰にステアリング・ホイールへ伝播されて、操舵感に悪影響を及ぼす恐れがある。
【0005】
即ち、低速走行時でも加速状況に依っては、前輪が左右に回動し易くなる場合が有るため、上記の制御パラメータ(操舵機構の角速度ω、車速v)だけではダンパー・トルクを的確に制御することはできず、例えばステアリング・ホイールが戻り過ぎる等して、操舵感や操作性が悪くなる場合がある。
【0006】
本発明は、上記の課題を解決するために成されたものであり、その目的は、車両の加速時における操舵感や操作性を向上させることである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記の課題を解決するためには、以下の手段が有効である。
即ち、車両のステアリング・シャフト又はステアリング・ギヤに対してアシスト・トルクTA 又はダンパー・トルクTD を与えるモータを備えた操舵機構と、このモータを駆動制御する制御装置とを有する電動パワーステアリング装置において、車両の速度v、加速度a、及び、操舵機構の角速度ωに基づいて、ダンパー・トルクTD の出力値を制御するダンパー補償制御手段を設け、当該ダンパー補償制御手段が、ダンパー・トルクTD の加速度aによる偏微分値が、角速度ωに比例する様に、且つ加速度aの増加に応じてダンパー・トルクT D を増加させる様に、ダンパー・トルクTD の値を決定することである。
【0010】
【作用及び発明の効果】
一般に、車両の加速度aが大きい場合には、上記の様に前輪は比較的左右に回動し易くなり、セルフ・アライニング・トルクの操舵感への影響は増大するが、上記の本発明の手段により、従来の制御パラメータ(操舵機構の角速度ω、車速v)に加えて、更に車両の加速度aの増減にも応じた適度のダンパー・トルクTD を操舵系に出力する様にすれば、セルフ・アライニング・トルクの過剰或いは急激な伝播は、このダンパー・トルクTD によって相殺、緩和、又は抑制されることになる。
【0011】
上記のダンパー補償制御手段において、この様な車両の加速度aの増減にも応じた適度のダンパートルクTD の値を具体的に決定するためには、例えば、ダンパー・トルクTD の加速度aによる偏微分値が、操舵機構の角速度ωに略比例する様に制御すれば良い。この時、ダンパートルクTD は、勿論従来と同様に加速度aには直接依存しない項、即ち、従来と同様に車速vや操舵機構の角速度ωにのみ依存する項を有していても良い。
【0012】
これらの手段によれば、前輪が比較的左右に切れ易くなっている時程、セルフ・アライニング・トルクの過剰或いは急激な伝播に相反するトルクを付加的に生成することができる様になるため、例えばステアリング・ホイールが急激に戻り過ぎる等の不具合を解消することができ、車両の加速時における操舵感や操作性を向上させることが可能となる。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を具体的な実施例に基づいて説明する。ただし、本発明は以下に示す実施例に限定されるものではない。
(第1実施例)
図1は、本第1実施例における電動パワーステアリング装置100の制御方式を表すブロック図である。
ただし、図中の各変数の定義は、以下の通りである。
【0014】
(変数)
Vn : 電圧指令値
In : 電流指令値
Ia : 電流測定値(フィード・バック電流値)
Tn : トルク指令値
TA : アシスト・トルク
TD : 全ダンパー・トルク(TD1+TD2)
TD1 : 第1のダンパー・トルク
TD2 : 第2のダンパー・トルク
τ : 操舵トルク
v : 車両の速度
a : 車両の加速度
ω : 操舵機構の角速度
【0015】
アシスト制御、及びダンパー制御の各機能の概要は、以下の通りである。
〔アシスト制御〕
ハンドルの切り込み方向にモータトルク(所謂アシストトルク)を与える。
〔ダンパー制御〕
セルフアライニングトルクによりハンドルを中立方向に戻す力が働くが、この力が強過ぎるとオーバーシュートしてしまう。これを防止するため、モータ(ハンドル)回転と反対方向に補償トルク(所謂ダンパートルク)を与える。
【0016】
これらの機能を組み合わせることにより、所望のトルクが操舵系に与えられ、所望のパワーステアリングが実現される。
以下、これらの機能を実現する各部の動作を各ブロック毎に説明する。
【0017】
直流モータMには、図略の電流計が接続されており、この直流モータMに流れる直流電流の値(電流測定値)Ia は随時、電流ループ演算部2に帰還される。電流ループ演算部2は、入力された電流指令値In と電流測定値Ia とに基づいて、PI制御等の公知の制御理論に基づいて、PWM回路1に指令すべき指令電圧Vn の値を演算する。
【0018】
PWM回路1は、図略の電源回路、パワーMOS・FET、PMOS駆動回路、PWM変換器等から構成されており、チョッパ制御等の公知の制御手段により、直流モータMに印加される電圧が上記の指令電圧Vn に成る様に作動する。
また、電流指令値算出部3は、入力されたトルク指令値Tn に基づいて、このトルク値Tn を直流モータMにて出力するのに必要十分な直流電流の値(上記の電流指令値)In を求める。
【0019】
本第1実施例においては、上記のトルク指令値Tn は、次式(1)により、求められる。
【数1】
ただし、ここで、アシストトルクTA 、ダンパートルクTD1、及び、ダンパートルクTD2は、それぞれ、本図1のアシスト制御部4、第1ダンパー制御部10、及び、第2ダンパー制御部20により算出されるトルク値である。
【0020】
これらのトルク値TA 、TD1、TD2は、随時検知・入力されるトルク信号6(操舵トルクτ)、車速信号7(車両の速度v)、及び、ハンドル回転速度8(操舵機構の角速度ω)に基づいて、例えば以下の様に決定することができる。
【0021】
即ち、アシスト制御部4は、位相補償フィルタ5によって位相が補償された操舵トルクτ′と車速vとを引数(入力値)とする、次式(2)の関数fに基づいてアシストトルクTA を算出する。
【数2】
TA =f(v,τ′) …(2)
ただし、この関数fは、予め多項式又はデータマップ等により定義された、例えば図2に示す様なアシスト特性を有するもので良い。
【0022】
また、第1ダンパー制御部10では、例えば、次式(3)の関数gに基づいてダンパートルクTD1を算出する。
【数3】
ただし、ここで、関数MIN(A,B)はAとBの内から大きくない方を選択する関数であり、ωは上記の操舵機構の角速度、TD1max 、c1 、v1 は所定の定数である。
【0023】
また、以上の構成に対して更に、本発明により新規に追加される第2ダンパー制御部20では、例えば、次式(4)の関数hに基づいてダンパートルクTD2を算出する。
【数4】
ただし、ここで、TD2max 、c2 は所定の定数であり、aは本発明において新規に追加された微分演算部Sにて算出された車両の加速度である。
【0024】
即ち、本第1実施例における全ダンパー・トルクTD (=TD1+TD2)は、上限値「TD1max +TD2max 」を有して飽和し、第2ダンパー・トルクTD2は、上限値「TD2max 」を有して飽和する。
また、全ダンパー・トルクTD (或いは、第2ダンパー・トルクTD2)の加速度aによる偏微分値∂TD /∂a(=∂TD2/∂a=c2 ω)は、所定区間内において操舵機構の角速度ωに対して比例する。
【0025】
また、上記の式(4)の代わりに、例えば、上限値TD2max に対して漸近的に飽和したり、所定の領域で近似的にTD2がaωに対し略比例、又は略単調増加する様な式(4)を適当に近似的した任意の関数を用いて上記の第2ダンパー・トルクTD2の値を決定しても良い。この様な関数としては、例えば、次式(5)或いは次式(6)等の様な関数を例示することができる。ただし、ここで、α1,A1,A2,B1,B2はそれぞれ適当な定数である。
【数5】
TD2=α1(aω−A1 )5/2 (A1 <(aω)<A2 ),
TD2=TD2max =α1(A2 −A1 )5/2 (A2 ≦(aω)),
TD2=0 ((aω)≦A1 ) …(5)
【数6】
TD2=TD2max {1−exp[−(aω−B1)/B2] }(B1 <(aω)),
TD2=0 ((aω)≦B1 ) …(6)
【0026】
以上の様に、従来の制御パラメータ(操舵機構の角速度ω、車速v)から算出されるダンパートルクTD1に加えて、更に車両の加速度aの増減に応じてダンパートルクTD2を決定し、この両者の和を全ダンパー・トルクとして、アシストトルクTA と共に操舵系に出力する様にすれば、セルフ・アライニング・トルクの過剰或いは急激な伝播は、この加速度aの影響をも加味した適度のダンパー・トルクによって相殺、緩和、又は抑制されることになる。
【0027】
従って、例えば、車両の加速時におけるステアリング・ホイール(ハンドル)が急激に戻り過ぎる等の不具合を解消することができ、操舵感や操作性を向上させることが可能となる。
【0028】
尚、全ダンパー・トルクTD 、或いは、第2ダンパー・トルクTD2は、より一般には、ある上限値をもって飽和する様に設定し、また、その上限値に達するまでの間は、概ね車両の加速度aやステアリング・ホイールの操舵機構の角速度ωに対して略比例する様にダンパー・トルクを決定すれば良い。
【0029】
(第2実施例)
図3は、本第2実施例における電動パワーステアリング装置200の制御方式を表すブロック図である。本第2実施例の電動パワーステアリング装置200は、本図3に示す様に、上記の第1実施例と略同様のダンパー・トルクの制御を行っている。
【0030】
しかしながら、より詳細には、本電動パワーステアリング装置200では、トルク指令値Tn 、及び、全ダンパー・トルクTD を、以下の式(7)、式(8)、及び、前記式(2)に従って算出している。
【0031】
【数7】
Tn =TA +TD …(7)
【数8】
ただし、ここで、TDmax 、及び、cは所定の定数である。
例えば、この様なダンパー・トルクTD の算出によっても、前記の第1実施例と略同等の作用・効果を得ることができる。
【0032】
また、上記の式(8)の代わりに次式(9)を用いて全ダンパー・トルクTD を決定しても良い。
【数9】
【0033】
尚、上記の各実施例では、ダンパトルク制御部(20,30)の外部で車速vの微分計算(S)を行なっているが、車両の加速度aの算出は、これらのダンパトルク制御部の内部にて行っても良い。一般には、車両の加速度aは、これらのダンパトルク制御部を含めそれ以前の処理過程において、車速vの微分演算にて求めれば良い。これらの構成の問題は、どこまでの処理を「ダンパトルク制御部」と名付けるかの定義の問題でしかない。
【0034】
また、上記の各実施例においては、車速vを微分することにより車両の加速度aを求めたが、例えば、重量計等の直截的な加速度計を用いて物理的に直接車両の加速度aを求めても良い。この様な加速度検出手段によれば、平坦路での車両の加速や減速の場合と同様に、坂道等の斜面を昇降する際にも、車体重量の相対的な前輪側又は後輪側への加重の移動が検出できる様になる。これにより、例えば略等速度で斜面を登ったり下ったりしている場合にも、前輪の左右方向への回動のし易さの変化が検出できる様になる。従って、この様な加速度検出手段によれば、坂道の昇降等の場合にも、ステアリング・ホイール(ハンドル)が急激に戻り過ぎる等の不具合を解消でき、操舵感や操作性を向上させることが可能となる。
【0035】
また、上記各実施例では、ダンパトルクTD を算出するための制御パラメータとしての操舵機構の角速度ωをハンドル回転速度としていたが、これに代えてモータ回転速度としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1実施例における電動パワーステアリング装置100の制御方式を表すブロック図。
【図2】本発明の第1実施例における関数fの定義例を示すグラフ。
【図3】本発明の第2実施例における電動パワーステアリング装置200の制御方式を表すブロック図。
【符号の説明】
100,200 … 電動パワーステアリング装置
1 … PWM回路
2 … 電流ループ制御部
3 … 電流指令値算出部
4 … アシストトルク制御部
5 … 位相補償フィルタ
6 … 操舵トルクセンサ
7 … 車速センサ
8 … 操舵機構の角速度センサ
10,20,30 … ダンパトルク制御部
TD1,TD2,TD … ダンパー・トルク
TA … アシスト・トルク
v … 車両の速度
a … 車両の加速度
τ … 操舵トルク
ω … 操舵機構の角速度
Claims (1)
- 車両のステアリング・シャフト又はステアリング・ギヤに対してアシスト・トルクTA 又はダンパー・トルクTD を与えるモータを備えた操舵機構と、前記モータを駆動制御する制御装置とを有する電動パワーステアリング装置において、
前記車両の速度v、加速度a、及び、前記操舵機構の角速度ωに基づいて、前記ダンパー・トルクTD の出力値を制御するダンパー補償制御手段を備え、
当該ダンパー補償制御手段は、前記ダンパー・トルクTD の前記加速度aによる偏微分値が、前記角速度ωに比例する様に、且つ前記加速度aの増加に応じて前記ダンパー・トルクT D を増加させる様に、前記ダンパー・トルクTD の値を決定することを特徴とする電動パワーステアリング装置。
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