JP3750440B2 - 単結晶引上方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、MCZ法(磁場印加チョクラルスキー法)を用いて、ルツボに貯留された半導体融液より半導体単結晶を引き上げる単結晶引上方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、シリコン(Si)やガリウムヒ素(GaAs)等の半導体単結晶を成長する方法の一つとして、MCZ法(磁場印加チョクラルスキー法)を用いた単結晶引上方法が知られている。
この単結晶引上方法は、チャンバ内部に配設した石英ルツボ内に加熱された半導体融液を貯留し、チャンバ外側にかつ石英ルツボの上下に配した一対の電磁石によって半導体融液にカスプ磁場を印加して、該半導体融液の対流を抑制しつつ、半導体融液から半導体単結晶を引き上げる方法である。
【0003】
この方法では、単結晶の引上中に、石英ルツボの内壁面と半導体融液が反応して、半導体融液内に酸素が溶出するが、電磁石によってカスプ磁場が印加されると、石英ルツボの底面及び側面の両方に直角な磁界成分が加わるため、石英ルツボの内壁付近の対流が抑制される。言い換えれば、溶解した酸素が石英ルツボの壁面付近に滞留するため、さらなる酸素の溶解が起こり難くなる。また、酸素を比較的高濃度に含む融液の結晶直下への流入を抑制する。
【0004】
このように、カスプ磁場を印加することで、単結晶中の酸素濃度を低減することができる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記の単結晶引上方法には、以下のような課題が残されている。
従来、上下方向の磁場中心を固液界面に位置させた状態で単結晶の引上を行うと、酸素濃度を低減させる利点がある反面、融液対流による温度振動(半導体融液温度の時間的な変動)の顕著化を抑制できない不都合があった。すなわち、同じ石英ルツボに横磁場を印加した場合に比較して径制御が困難になり(特にシード工程)、単結晶化率が低下するという問題がある。そのため、成長は磁場中心を固液界面から下方にずらして開始するが、その位置差を一定のまま結晶成長を行うと特にボトム工程において単結晶化率が低下する現象が発生していた。
【0006】
本発明は、前述の課題に鑑みてなされたもので、結晶全般にわたり融液対流による温度振動を防止して単結晶化率を向上させることができる単結晶引上方法を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、磁場中心の移動(位置)が半導体融液の温度振動および単結晶化率に与える影響についての研究を進めた結果、以下の知見を得ることができた。
まず、半導体融液の温度振動の標準偏差(すなわち、半導体融液温度の時間的な変動ばらつき)に対する結晶無転位化率を調べると、図3に示すように、温度振動の標準偏差が小さい程、結晶無転位化率が高くなることがわかる。なお、温度振動の標準偏差は、図3中に示す式および条件によって求めた。
【0008】
また、液面位置と磁場強度0G(磁場中心)位置との距離に対する半導体融液の温度振動の標準偏差(すなわち、融液表面温度振動の磁場中心位置依存性)を固化率0%の場合と固化率85%の場合とで調べた。この結果、図4に示すように、固化率0%(すなわち、単結晶引上開始時)の場合では、磁場強度0G位置が液面位置より低い位置から液面位置に近づくほど温度振動の標準偏差が大きくなるのに対し、固化率85%(すなわち、ボトム形成途中)の場合では、磁場強度0G位置が液面位置より低い位置から液面位置に近づくほど温度振動の標準偏差が小さくなることがわかった。
【0009】
結果として成長開始時とボトム工程時とでは逆の傾向が確認された。これは融液量減少に伴い石英ルツボ底面と磁力線方向との角度が変わり、融液全体に対する対流抑制効果が変化した結果と考えられる。
これらの結果から、ボトム工程で単結晶化率が低下する現象は、温度振動の固液界面と磁場中心の位置差依存性のみではなく、温度振動の融液深さ依存性(石英ルツボと磁場中心の位置差依存性)との重なり合いと考えられる。
【0010】
したがって、本発明は、上記磁場中心の移動(位置)と半導体融液の温度振動および単結晶化率との関係を利用した技術であり、前記課題を解決するために以下の構成を採用した。すなわち、本発明に係る単結晶引上方法では、ルツボ内の半導体融液にカスプ磁場を印加しながら該半導体融液より半導体単結晶を引き上げる単結晶引上方法であって、前記半導体単結晶の引き上げ開始時には、上下方向の磁場中心を半導体単結晶と前記半導体融液との固液界面から下方にずらして500ガウス以上の磁場強度で磁場を印加し、さらに、前記半導体融液の減少に応じて前記上下方向の磁場中心を、予め求めておいた前記半導体融液表面の温度振動が最小になる位置に移動させる技術が採用される。
【0011】
この単結晶引上方法では、半導体単結晶の引き上げ開始時には、上下方向の磁場中心を半導体単結晶と半導体融液との固液界面から下方にずらして該固液界面に500ガウス以上の磁場強度で磁場を印加するので、引上開始時であっても固液界面に印加された磁場によって固液界面における半導体融液の対流が抑制されて、温度振動を防止し単結晶化率を防止する条件で引上を開始することができる。
さらに、半導体融液の減少に応じて上下方向の磁場中心を、予め求めておいた半導体融液表面の温度振動が最小になる位置に移動させるので、固化率の小さい引上開始時から固化率の大きいボトム部形成時に至るまで、固化率の増加に応じて転位による結晶欠陥の発生(有転位化)を抑えることが可能になる。
【0012】
また、前記磁場中心を、前記固液界面の上方に向けて移動させることが好ましい。すなわち、温度振動を最小にする磁場中心位置は、固化率が大きくなるにつれて固液界面の下方位置から徐々に上方向に移動していくためである。さらに、前記磁場中心を、少なくとも前記半導体単結晶のボトム部の形成途中で前記温度振動が最小になる位置に達するように移動させることが好ましい。すなわち、この単結晶引上方法では、温度振動が顕著になり易く固化率の大きいボトム部においても転位による結晶欠陥の発生(有転位化)を抑えることができる。
本発明の単結晶引上方法は、ルツボ内の半導体融液にカスプ磁場を印加しながら該半導体融液より半導体単結晶を引き上げる単結晶引上方法であって、
前記半導体単結晶の引き上げ開始時には、上下方向の磁場中心を半導体単結晶と前記半導体融液との固液界面から下方にずらして500ガウス以上の磁場強度で磁場を印加し、
さらに、前記半導体融液の減少に応じて前記上下方向の磁場中心を、予め求めておいた前記半導体融液表面の温度振動が最小になる位置となるように、前記固液界面の上方に向けて移動させるとともに、
前記磁場中心を、前記半導体単結晶のボトム部の形成途中において、前記半導体単結晶の結晶径が、定径部の結晶径の約半分となる位置で磁場中心位置が固液界面と一致するように移動させることを特徴とする単結晶引上方法。
上記の単結晶引上方法において、
前記磁場中心を、前記引上開始時から徐々に上方向に移動させることを特徴とする。
上記の単結晶引上方法において、
前記磁場中心を、前記引き上げ開始時から前記半導体単結晶における定径部の途中までは前記半導体融液面に対する前記磁場中心の位置を一定にするとともに、
前記定径部の途中から少なくとも前記半導体単結晶のボトム部の形成途中で前記磁場中心の位置を徐々に上方向に移動させることを特徴とする。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の一実施形態を図1および図2を参照しながら説明する。
これらの図にあって、符号1はシリコンの単結晶引上装置、2はシャフト、3はサセプタ、4はルツボ、5A、5Bは電磁石を示している。
【0014】
図1は、本実施形態の単結晶引上方法を実施するための単結晶引上装置1を示すものであって、該単結晶引上装置1は、中空の気密容器であるチャンバ(図示せず)内に、該チャンバの中央下部に垂直に立設され上下動可能なシャフト2と、該シャフト2上に載置されたグラファイト製のサセプタ3と、該サセプタ3に支持されシリコンの融液である半導体融液(加熱融解された半導体単結晶の原料)Lを貯留する石英(SiO2)製のルツボ4と、該ルツボ4の外周に所定距離離間して配されたヒーター(図示せず)とがそれぞれ配置されている。
さらに、チャンバ外側には、ルツボ4の上下に配され半導体融液の対流を抑制するカスプ磁場を印加する一対の電磁石5A、5Bが配置されている。
【0015】
前記ルツボ4は、シャフト2の軸線を中心として水平面上で所定の角速度で回転するとともに上下動可能な構成になっている。
前記ヒーターは、シリコン原料をルツボ4内で加熱・融解するとともに生じた半導体融液Lを保温するもので、通常、抵抗加熱が用いられる。
また、チャンバ上部からは、引上ワイヤ6が昇降自在にかつ回転自在に吊り下げられ、該引上ワイヤ6の下端部には、シリコンの種結晶が固定されている。
【0016】
次に、本発明に係る単結晶成長方法について、図1および図2を参照して説明する。
【0017】
〔初期原料融解工程〕
まず、多結晶シリコン塊の多結晶原料をルツボ4内に入れ、チャンバ内を真空ポンプ等で排気し真空状態とする。また、該チャンバ内に不活性ガスを導入し、シャフト2を軸線を中心として所定の角速度で水平面上で回転させることでルツボ4を所定の角速度で回転させながら、ヒーターに通電しルツボ4内の多結晶原料を加熱し、この原料を完全に融解する。
【0018】
〔無転位化工程〕
ヒーターの電力を調整して半導体融液Lの中央液面付近を単結晶成長温度に保ち、引上ワイヤ6により吊り下げられた種結晶を下降させて半導体融液Lに浸してなじませ、いわゆるネッキングにより無転位化を行う。
【0019】
〔単結晶成長工程〕
種結晶を無転位化後、半導体単結晶C0を成長させるとともに、所定の結晶径まで結晶径を徐々に増大させて肩部C1を形成する。
肩部C1を形成した後、所定の結晶径を維持して半導体単結晶C0の定径部C2を所定長さ引き上げる。
【0020】
上記単結晶成長工程において、電磁石5A、5Bには、互いに相反する方向に励磁電流が供給され、ルツボ4にカスプ磁場Mが印加される。該カスプ磁場Mは、単結晶引上開始時において、半導体融液Lと半導体単結晶C0との固液界面Sに所定の磁場強度(500ガウス以上)で磁場を印加するように設定されている。すなわち、カスプ磁場Mにおけるゼロガウスとなる部分(磁場中心)を、固液界面Sより所定距離だけ下方に配して、固液界面Sに磁場を加えている。
これによって、引き上げ開始時であっても固液界面Sに印加された磁場によって、固液界面Sにおける半導体融液Lの対流が抑制されて酸素の取り込みが抑制される。また、温度振動を防止でき、単結晶化率を向上させることができる。
【0021】
さらに、引き上げとともに固液界面Sにおける磁場強度を徐々に低下させる。すなわち、マグネット(電磁石5A、5B)を上昇させて磁場中心位置を上方に徐々に移動させ、図1の(a)および図2の実線に示すように、カスプ磁場Mのゼロガウス部分(磁場中心)を固液界面Sに徐々に近づけていく。このとき、CCDによる光温度計(図示略)によって半導体融液Lの温度振動を測定しながら引き上げを行い、溶湯量の減少による融液温度振動の標準偏差の増加に対応させて磁場中心位置移動の度合いが決定される。
【0022】
所定の結晶径を維持して半導体単結晶C0を所定長さ引き上げた後、図1の(b)に示すように、引上速度を上げて徐々に結晶径を狭めてボトム部C3を形成し、結晶成長を終了する。
このボトム部C3形成の途中で、予め求めておいた融液温度振動の標準偏差を最小にする位置にゼロガウス部分が達するように、すなわち磁場中心が固液界面Sに接近するようにマグネット(電磁石5A、5B)位置が制御され、好適には、結晶径が、定径部C2の結晶径の約半分となる位置で磁場中心位置が固液界面Sと一致するように設定され、その後、この位置関係を保ってボトム部C3が形成される。
【0023】
なお、上記実施形態では、引上開始時から磁場中心の位置を徐々に上方向に移動させて、最終的にボトム部C3の途中で融液温度振動が最小になる位置に磁場中心を移動させたのに対し、他の実施形態として、図2の点線に示すように、定径部C2の途中までは半導体融液Lの表面に対する磁場中心の位置を一定にして、定径部C2の途中から磁場中心の位置を徐々に上方向に移動させてもよい。これらの実施形態では、いずれもボトム部C3の途中で、磁場中心が融液温度振動が最小になる位置に達しているので、半導体融液Lの温度振動が顕著になり易く固化率の大きいボトム部C3においても転位による結晶欠陥の発生(有転位化)を抑えることができる。
【0024】
また、上記実施形態では、本発明を一重ルツボを使用したMCZ法による単結晶引上方法に適用した場合について説明したが、二重ルツボを使用した単結晶の製造にも適用できることはいうまでもない。
さらに、本発明は、カスプ磁場Mにおいて、固液界面Sに磁場を加えるとともに、磁場中心を固液界面Sより下方にずらすとともに電磁石5A、5Bをルツボ4に対して移動させたが、他の手段で磁場中心を移動させても構わない。例えば、電磁石5A、5Bの励磁電流の強さを互いに相対的に変えることによって、調整してもよい。すなわち、電磁石5Aの励磁電流の強さを電磁石5Bより大きくして、磁場中心を固液界面Sより下方にひずむようにしてずらし、徐々に強度差を少なくして磁場中心を移動させてもよい。この場合、電磁石を上下させる場合に比較して装置の複雑化を回避できる。
【0025】
【発明の効果】
本発明によれば、以下の効果を奏する。すなわち、本発明に係る単結晶引上方法によれば、半導体単結晶の引き上げ開始時には、上下方向の磁場中心を半導体単結晶と半導体融液との固液界面から下方にずらして500ガウス以上の磁場強度で磁場を印加し、さらに、半導体融液の減少に応じて上下方向の磁場中心を、予め求めておいた半導体融液表面の温度振動が最小になる位置に移動させるので、結晶全般にわたり転位による結晶欠陥の発生を抑えることが可能になる。特に、固化率の大きいボトム部形成中でも温度振動を効果的に抑制して単結晶化率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る単結晶引上方法の一実施形態における単結晶引上装置であって、定径部およびボトム部の成長工程を示す概略断面図である。
【図2】本発明に係る単結晶引上方法の一実施形態における固化率に対する液面位置と磁場強度0G位置との距離を示すグラフ図である。
【図3】本発明に係る単結晶引上方法の一実施形態における融液温度振動の標準偏差に対する結晶無転位化率を示すグラフ図である。
【図4】本発明に係る単結晶引上方法の一実施形態における液面位置と磁場強度0G位置との距離に対する融液温度振動の標準偏差を示すグラフ図である。
【符号の説明】
1 単結晶引上装置
4 ルツボ
5A、5B 電磁石
C0 半導体単結晶
C3 ボトム部
L 半導体融液
M カスプ磁場
S 固液界面

Claims (3)

  1. ルツボ内の半導体融液にカスプ磁場を印加しながら該半導体融液より半導体単結晶を引き上げる単結晶引上方法であって、
    前記半導体単結晶の引き上げ開始時には、上下方向の磁場中心を半導体単結晶と前記半導体融液との固液界面から下方にずらして500ガウス以上の磁場強度で磁場を印加し、
    さらに、前記半導体融液の減少に応じて前記上下方向の磁場中心を、予め求めておいた前記半導体融液表面の温度振動が最小になる位置となるように、前記固液界面の上方に向けて移動させるとともに、
    前記磁場中心を、前記半導体単結晶のボトム部の形成途中において、前記半導体単結晶の結晶径が、定径部の結晶径の約半分となる位置で磁場中心位置が固液界面と一致するように移動させることを特徴とする単結晶引上方法。
  2. 請求項1記載の単結晶引上方法において、
    前記磁場中心を、前記引上開始時から徐々に上方向に移動させることを特徴とする単結晶引上方法。
  3. 請求項1記載の単結晶引上方法において、
    前記磁場中心を、前記引き上げ開始時から前記半導体単結晶における定径部の途中までは前記半導体融液面に対する前記磁場中心の位置を一定にするとともに、
    前記定径部の途中から少なくとも前記半導体単結晶のボトム部の形成途中で前記磁場中心の位置を徐々に上方向に移動させることを特徴とする単結晶引上方法。
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