JP3750057B2 - 平版印刷版用修正液 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、平版印刷版用修正液に関する。さらに詳しくは、金属支持体表面に親水性を付与するために全面に形成された多孔質の酸化被膜の上に、銀を主体とする金属を析出させて親油性の画像部を形成する平版印刷版において、不要画像部分を親水性膜でマスキングして消去する際に使用する水性の修正液に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、印刷用原版の作成の省力化と迅速化のため、従来のフィルム出力後、原版を作成する方式から、フィルムを介さず、直接原版を作成するコンピュータ・ツウ・プレート(以下、「CTP」と略す)方式が採用されはじめている(印刷学会誌33巻、第4号、230〜235頁参照)。
【0003】
CTP方式の場合、原版は、アルミニウム等の金属支持体の表面に、全面に多孔質の酸化被膜を形成させて親水性を付与し、当該酸化被膜の上に銀を主体とする金属を析出させて親油性の画像部を形成する方式である。具体的には、画像部は、上記多孔質の酸化被膜上にハロゲン化銀を含む層を形成し、コンピューターに接続したイメージセッターからレーザ光を照射し、露光して現像することにより得られる。
【0004】
そして、この画像部形成時において、原稿の汚れ、ゴミの付着、さらには傷等が原因で、印刷版面の必要画像形成部以外の箇所で、露光の過不足が発生し、不要画像部が印刷版に形成されることがある。また、製版後、一定の文字、画像等を削除したい場合がある。
【0005】
このような場合、不要画像部の消去(除去)は、従来の印刷業界で用いていた、例えば、塩化第二鉄を含有する修正液(「金属エッチング技術」第39頁、1986年アグネ社刊)や、銀と反応するメルカプト基化合物を含有する修正液(特公昭61−19986号公報)を使用して行うことが考えられる。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、これらの修正液では、銀が酸化被膜の多孔質面に入り込んで析出しているため、不要画像部の消去が困難であった。
【0007】
さらに、消去性向上のために、過酷な処理を施すと、修正後における多孔質酸化被膜の親水性が低下する場合があった。親水性が低下すると、印刷時に印刷インキ(油性)を修正跡が受容しやすくなるため、印刷物に汚れが発生しやすくなる。
【0008】
そのため、本発明者らは、特開平10−186679号で、上記の如くCTP方式における不要画像部の消去を、酸化被膜の親水性を低下させずに容易にできる修正液を提案している。
【0009】
本発明は、不要画像部を、酸化被膜の親水性を低下させずに、即ち、不要画像部を親水性膜でマスキングして、容易に消去することができる、他の平版印刷版用修正液を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明の平版印刷版用修正液は、上記課題を下記構成により解決するものである。
金属支持体表面に親水性を付与するために全面に形成された多孔質の酸化被膜の上に、銀を主体とする金属を析出させて親油性の画像部を形成する平版印刷版において、不要画像部を親水性膜でマスキングして消去する際に使用する水性の修正液であって、
下記成分が水酸基置換炭化水素を含有する水性溶剤に分散されてなることを特徴とする平版印刷版用修正液。
【0011】
(a) 硝酸を必須成分とする強酸成分、
(b) 1,2,3−ベンゾトリアゾールを必須とする一次キレート化助剤、
(c) スルホ基置換炭化水素、クエン酸、マロン酸及び酒石酸の群から選択される二次キレート化助剤、
(d) りん酸及び/又はフィチン酸を必須成分とするキレート化剤
上記構成において、前記一次キレート化助剤における前記1,2,3−ベンゾトリアゾールと併用する化合物をチオ尿素とすることが、耐刷性(修正後の可能印刷枚数;以下同じ)が各段に増大して望ましい。
【0012】
また、二次キレート化助剤をp−トルエンスルホン酸、クエン酸及びマロン酸の組み合わせとすることが、親水性銀キレート膜の形成が容易となり望ましい。
【0013】
上記構成において、水性溶剤を水―エチルアルコール系とすることが、各成分の分散性ないし溶解性が良好となり望ましい。
【0014】
キレート化剤としてリン酸−フィチン酸併用系とするとともに、配合質量比を前者/後者=1/10〜5/10とすることが、印刷時の耐刷性が格段に増大して望ましい。
【0015】
なお、上記各成分の望ましい配合量は、下記のとおりとなる。
【0016】
(a) 硝酸を必須成分とする強酸成分…0.05〜5.0質量%
(b) 1,2,3−ベンゾトリアゾールを必須とする一次キレート化助剤…0.1〜10質量%、
(c) スルホ基置換炭化水素、クエン酸、マロン酸及び酒石酸の群から1種又は二種以上選択される二次キレート化助剤…2〜10質量%、
(d) りん酸及び/又はフィチン酸を必須成分とする親水性銀キレート化剤…5〜20部
(e) 水性溶剤…残部
また、上記各構成において、チオ尿素の代わりにフェロシアン化カリウム、フェロシアン化ナトリウム、フェリシアン化カリウム、フェリシアン化ナトリウム及びハロゲン化カリウムの群の1種又は2種以上から選択しても、本発明の効果は達成できる。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の平版印刷版用修正液(以下、単に「修正液」と略すことがある)について、詳細に説明する。以下の説明において配合単位は、特に断らない限り質量単位とする。
【0018】
A.本願発明の修正液を適用可能な印刷原版は、アルミニウム等の金属支持体の表面に、全面に多孔質の酸化被膜を形成させて親水性を付与し、当該酸化被膜の上に銀を主体とする金属を析出させて親油性の画像部を形成するものである。
【0019】
ここでは、CTPで製版する場合を例に採り説明するが、他の方式で、金属支持体の表面に、全面に多孔質の酸化被膜を形成させて親水性を付与し、当該酸化被膜の上に銀を主体とする金属を析出させて親油性の画像部を形成する場合にも、本発明の修正液は適用可能である。
【0020】
(1) 金属支持体の材質としては、CTPの場合には、一般にアルミニウム(アルミニウム合金を含む)を使用するが、CTP以外の場合、金属箔を紙、プラスチックフィルム等にラミネートしたものであっても使用可能である。
【0021】
(2) 酸化被膜は、砂目立て、種々の塩類による浸漬処理、メッキ処理、陽極酸化処理等により形成する。特に、砂目立て後、陽極酸化処理を行なうことが、十分な親水性及び銀捕獲性を有する酸化被膜が形成できて特に好ましい。
【0022】
ここで親水性とは、平版印刷版で印刷を行った際、湿し水で濡れて、印刷インクに反発する性質をいう。
【0023】
画像部の形成は、通常、前述のCTP方式で行う。
【0024】
B.本発明の水性修正液は、(a) 強酸成分、(b) 一次(キレート化)助剤、(c) 二次(キレート化)助剤、(d)キレート化剤、の各成分が水性溶剤に分散ないし溶解されてなるものである。
【0025】
(1) 強酸成分は、親油性の金属銀を部分溶解させる、一次キレート化剤に悪影響を与えないものなら特に限定されないが、通常、水溶解性の高い硝酸銀を使用し、必要により塩酸を併用してもよい。しかし、塩酸のみないし硫酸では、本発明の効果は奏し得ない。
【0026】
強酸成分(硝酸)の配合量は、修正液組成で0.05〜5%、望ましくは1〜3%とする。強酸成分が過少であると、銀溶解を十分に行い難く、また、過多であると、それ以上の効果を得られず無駄である。
【0027】
(2) 一次キレート化助剤は、溶解した銀化合物(銀塩)を、キレート化しやすくする中間体とする作用を奏するもので、 1,2,3−ベンゾトリアゾールを必須とする。そして、耐刷性を増大させたい場合は、1,2,3−ベンゾトリアゾールとチオ尿素とを併用することが望ましい。
一方が欠けても親水性銀キレート膜を不要画像部に形成することが困難である。
【0028】
一次キレート化助剤の配合量は、修正液組成で2.0〜10.0%、望ましくは3.0〜6.0%とする。また両者の配合比は、前者(ベンゾトリアゾール)/後者(チオ尿素)=1/20〜1/3、望ましくは1/15〜1/5とする。それぞれ単独の配合量は、1,2,3−ベンゾトリアゾール:0.01〜2.0%、望ましくは0.02〜1.0%とする。チオ尿素:1〜8%、望ましくは2〜6%とする。
【0029】
なお、耐刷性増大作用は、チオ尿素に比して若干劣るが、上記チオ尿素の代わりに、フェロシアン化カリウム、フェロシアン化ナトリウム、フェリシアン化カリウム、フェリシアン化ナトリウム及びハロゲン化カリウムの群の1種又は2種以上から選択して使用することもできる。
【0030】
(3) 二次キレート化助剤は、親水性銀キレート膜の形成を容易にする作用を奏するもので、クエン酸、マロン酸及び酒石酸の群から1種又は二種以上選択して使用する。
【0031】
上記以外の多価酸ないしヒドロキシ多価酸では親水性銀キレート膜を不要画像部に形成することが困難となる。これらの内で、p−トルエンスルホン酸、クエン酸及びマロン酸の組み合わせが助剤作用が顕著であり望ましい。二次助剤の配合量は、修正液組成で1〜10%、望ましくは、3〜8%とする。そして、各成分の配合量は、上記望ましい組み合わせの場合、例えば、p−トルエンスルホン酸:0.1〜3%、望ましくは0.5〜1.5%、クエン酸:1〜6%、望ましくは2〜5%、マロン酸:0.1〜3%、望ましくは0.5〜1.5%とする。
【0032】
上記トルエンスルホン酸以外のスルホ置換炭化水素(スルホン酸類)としては、オキシエチルスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、メチルスルホン酸、エチルスルホン酸、プロピルスルホン酸等、を挙げることができる。
【0033】
(4) キレート化剤は、不要画像部に親水性膜を親水性銀キレートで形成するものであり、本発明では、りん酸及び/又はフィチン酸を必須成分とするものであり、両者の併用が望ましい。併用した場合は、それぞれ一方だけの場合より、格段に耐刷性が増大する。
【0034】
そして、両者の配合量は、合計量で5〜20%、望ましくは8〜15%とする。両者の配合比は、前者(りん酸)/後者(フィチン酸)=1/10〜1/2、望ましくは1/7〜1/3とする。
【0035】
(5) 上記水性溶剤は、水酸基(ヒドロキシル基)置換炭化水素を含有するものとする。水酸基置換炭化炭化水素は、無機酸の存在下においても加水分解せず、かなり安定に存在することが可能であり、修正液中に存在させることにより、修正液全体の表面張力を低下させて、浸透性を向上させ、消去性を向上させる作用を奏する。
【0036】
ここで、水酸基置換炭化水素(アルコール類及びそのエーテル類)としては、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコール等の低級アルコール類;エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノtブチルエーテル等のセロソルブ;グリセリン等の多価アルコール類;ポリエチレングリコール類等を上げることができる。
【0037】
ここで、水性溶剤は、上記各成分の残部となり、約60〜90%、望ましくは70〜80%とする。その中での、水酸基置換炭化水素の水に対する配合比率は、前者/後者=1/10〜1/1、望ましくは、1/4〜1/1.5とする。このときの水酸基置換炭化水素の修正液組成としては、10〜40%、望ましくは15〜35%とする。
【0038】
C.上記修正液は、平版印刷版に汚れが発生したとき、従来と同様の方法で行う。例えば、印刷原版の画像不要部に、図1に示すようなフェルトペン型の修正器具10のフェルトチップ部14からしみ出してくる修正液を付着させて行う。
【0039】
修正器具10は、例えば、修正液をポリプロピレン繊維16にしみ込ませ、フェルトチップ固定部18を有するプラスチック円筒(修正器具本体)12に充填し、後端を閉じ栓20で封をして、フェルトチップ固定部18にフェルトチップ14を取り付けて調製する。なお、図例中、22はキャップである。
【0040】
【発明の作用・効果】
本発明の平版印刷版用修正液は、上記各成分を含有させることにより、後述の実施例で示す如く、各成分が協奏して印刷原版の画像不要部における、銀を主体とする金属に作用して、画像不要部に親水性膜(親水性銀キレート膜)を形成させる。このため、不要画像部を容易に消去することができる。特に、CTPにより作成された印刷原版に最適である。
【0041】
【実施例】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。
【0042】
(1) 印刷版の調製
銀錯塩平版印刷版(三菱製紙(株)製、シルバーデジプレートシステムで用いるプレート)をレーザ光で露光した後、指定現像液で現像処理を行い、印刷版上に画像を形成し、印刷原版を作成した。
【0043】
(2) 修正液の調製
各実施例・比較例の修正液は、表1に示す配合処方に基づいて、それぞれ調製した。
【0044】
(3) 印刷試験(耐刷性)
上記で調製した平版印刷版について、画像部の一部に上記修正器具を用いて修正液を塗布し、修正作業を行った。修正処理後の印刷版を、印刷機(リスロン26、小森印刷機械(株)製)に装着して印刷を行い、印刷物における修正後の汚れの有無を観察した。
【0045】
各実施例については、いずれも、塗布と同時に、不要画像部の表面に透明な銀キレート膜が形成された。このようにして修正を行なった印刷原版を用い印刷試験したところ、修正液で修正した部分には、印刷インキは付着せず、画像部の修正が可能であることが確認された。また、本発明の望ましい範囲では、耐刷性も格段に増大していることが分かる。また、各比較例は、全く効果がないか、又は、親水性膜が形成されたとしても実用レベルの耐刷性が得られないことが分かる。
【0046】
【表1】
【0047】
【表2】
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の修正液に使用するフェルトペン型の修正器具の断面図
【符号の説明】
10 修正器具
12 修正器具本体
14 フェルトチップ
Claims (8)
- 金属支持体表面に親水性を付与するために全面に形成された多孔質の酸化被膜の上に、銀を主体とする金属を析出させて親油性の画像部を形成する平版印刷版において、不要画像部を親水性膜でマスキングして消去する際に使用する水性の修正液であって、
下記成分が水酸基置換炭化水素を含有する水性溶剤に分散されてなることを特徴とする平版印刷版用修正液。
(a) 硝酸を必須成分とする強酸成分
(b) 1,2,3−ベンゾトリアゾールを必須成分とする一次キレート化助剤、
(c) スルホ基置換炭化水素、クエン酸、マロン酸及び酒石酸の群から1種又は二種以上選択される二次キレート化助剤、
(d) りん酸及び/又はフィチン酸を必須成分とする親水性銀キレート化剤 - 前記一次キレート化助剤における前記1,2,3−ベンゾトリアゾールと併用する化合物がチオ尿素であることを特徴とする請求項1記載の平版印刷版用修正液。
- 前記二次キレート化助剤がp−トルエンスルホン酸、クエン酸及びマロン酸の組み合わせであることを特徴とする請求項1記載の平版印刷版用修正液。
- 前記水性溶剤が水―エチルアルコール系であることを特徴とする請求項1記載の平版印刷版用修正液。
- 前記キレート化剤がりん酸−フィチン酸併用系であるとともに、配合質量比が前者/後者=1/10〜5/10であることを特徴とする請求項1記載の平版印刷版用修正液。
- 金属支持体表面に親水性を付与するために全面に形成された多孔質の酸化被膜の上に、銀を主体とする金属を析出させて親油性の画像部を形成する平版印刷版において、不要画像部を親水性膜でマスキングして消去する際に使用する水性の修正液であって、
下記成分が下記配合量で水酸基置換炭化水素を含有する水性溶剤に分散されてなることを特徴とする平版印刷版用修正液。
(a) 硝酸を必須成分とする強酸成分…0.05〜5.0質量%
(b) 1,2,3−ベンゾトリアゾールを必須とする一次キレート化助剤…0.1〜10質量%、
(c) スルホ基置換炭化水素、クエン酸、マロン酸及び酒石酸の群から1種又は二種以上選択される二次キレート化助剤…2〜10質量%、
(d) りん酸及び/又はフィチン酸を必須成分とする親水性銀キレート化剤…5〜20部
(e) 水性溶剤…残部 - 前記一次キレート化助剤における前記1,2,3−ベンゾトリアゾールと併用する化合物がチオ尿素であることを特徴とする請求項6記載の平版印刷版用修正液。
- 前記一次キレート化剤における前記1,2,3−ベンゾトリアゾールと併用する化合物がフェロシアン化カリウム、フェロシアン化ナトリウム、フェリシアン化カリウム、フェリシアン化ナトリウム及びハロゲン化カリウムの群の1種又は2種以上から選択されることを特徴とする請求項1、2、3、4、5又は6記載の平版印刷版用修正液。
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