JP3747216B2 - 連続鋳造方法及び装置 - Google Patents
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Description
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、連続鋳造システムに係り、とくに偏析およびポロシティのない良質な鋼を得るのに好適な連続鋳造システムに関する。
【0002】
【従来の技術】
炭素鋼、低合金鋼、特殊鋼などいわゆる鋼の連続鋳造において現在の湾曲型連鋳機が稼動し始めて20年以上経過しており技術的に定着したと言われている。その一方、品質に関する要求は年毎に厳しさを増しており同時にコストダウンへの圧力がますます増大している。操業初期にしばしば問題となったブレイクアウト等の問題は別にして、品質上の重要な問題として、(1)中心偏析と(2)中心ミクロポロシティが残されている。
【0003】
中心偏析は肉厚中心の最終凝固部において周期性を有して生成するV字状の偏析であり、V偏析と呼ばれることが多い。
【0004】
中心ミクロポロシティも肉厚中心最終凝固部においてデンドライト間に生ずる微小な空隙である。
【0005】
本明細書では以降これらの欠陥をまとめて中心欠陥と呼ぶこととする。
【0006】
次に製品の品質に及ぼす中心欠陥の影響について簡単に述べる。
【0007】
(1)厚板の場合:
【0008】
中心欠陥に水素が凝集析出し、使用中に水素誘起割れと呼ばれる亀裂が生じる。また、溶接を行った場合には、中心欠陥を起点として溶接割れが生じる。
【0009】
(2)棒線材の場合:
【0010】
伸線加工時、ミクロポロシティが起点となり断線する。
【0011】
(3)薄板の場合:
【0012】
プレス成形時、あるいは冷間圧延時にバンド状の欠陥を生ずる。これは偏析により硬い部分と軟らかい部分が混在し、この硬度ムラによって生ずる。
【0013】
これらは連鋳における凝固過程で生ずる欠陥であり不良品となる。
【0014】
凝固過程で生じた偏析は最終製品まで残り、途中の工程で解消することはできない。一応、熱処理によってマクロ偏析を拡散および解消する方法もあるが、これには高温での長時間処理を必要とするので熱経済及び技術的に好ましくない。
【0015】
また、ミクロポロシティは熱間圧延でつぶすことはできるが、完全に無くせるかどうかはポロシティの量に依存する。さらに、ミクロポロシティは多くの場合偏析を伴っていることにも注意する必要がある。
【0016】
このように中心欠陥は凝固現象の本質に関わる問題であるが、ノウハウの蓄積あるいは試行錯誤的改善手段では解決は難しいというのが現状である。
【0017】
これら中心欠陥は程度の差こそあれ、スラブ、ブルーム、ビレットのすべての鋼種に共通する連鋳開始当初から存在する古くて新しい問題である。
【0018】
次に内部欠陥を改善するために現在まで行われてきた対策について、重要な技術について述べる。
【0019】
(1)バルジングの防止
【0020】
板幅の広いスラブにおいて支持ロールピッチ間の凝固シェル、すなわち鋳片の固体部分が溶鋼圧によって膨らむと中心偏析を生ずると言われている。これは凝固シェルの変形によって固液共存相内の高濃度液相が流動することによって生ずるが、その詳しいメカニズムは充分解明されていない。そこで、バルジングを極力小さくするため支持ロール間隔を短くするかあるいは1本の支持ロールの長さを長手方向に分割する分割ロール方式が採用されている。その他、ロールの不揃いなどもデンドライト間液相の流動の原因となり偏析の原因となると言われている。しかしながら、実際にはバルジングがほとんど問題にならないブルーム、ビレットにおいても中心偏析は生ずるので、これらの機械的外乱を無くしても内部欠陥は無くならない。
【0021】
(2)2次冷却の強化(文献(1)、(2))
【0022】
最終凝固部近傍(クレーターエンド近傍)を強冷して熱応力による収縮作用によって固液共存相における凝固収縮に見合うよう圧縮し、中心部のポロシティの量を軽減する方法である。
【0023】
一方、最終凝固部近傍において凝固シェルを圧下し、中心部固液共存相を圧縮変形させてデンドライト間の液相流動を抑えることにより、内部欠陥を低減しようとする方法が現在の主流であり、圧下量の違いにより軽圧下法と強圧下法とに分けられる。
【0024】
(3)凝固末期軽圧下法(文献(3)、(4))
【0025】
凝固の進行とともに連続的に凝固収縮が生じるが、これに見合った収縮量を補償するよう固液共存相を圧縮変形させ中心偏析を改善しようとするのが本法である。
【0026】
圧下は連続的に生ずる凝固収縮量にできるだけ厳密に対応させる必要があるため圧下量に勾配をつける必要がある。例えば文献(3)では、圧下ロールに丸みをつけたクラウンロールを用いた炭素鋼ブルームの実機試験により中心偏析が改善されることが示されている。また、文献(4)では高炭素鋼(C量0.7〜1mass%)、断面300×500mmのブルームの場合の必要圧下勾配の理論的計算例を示しているが、それによると0.2〜0.5mm/mの圧下勾配が必要になるとの見積りを行っている。
【0027】
しかしながら本法を実機上に実現するためには以下に述べる諸問題を克服しなければならない。
【0028】
▲1▼.通常、圧下は最終凝固部近傍の数mの範囲で行われるが、上記文献(4)のブルームの場合、この範囲では0.3mm/m程度となる。つまり1m当り0.3mmの傾きをつけて凝固シェルを圧下する必要があるが、これには多段式ロール圧下装置等によって圧下量を非常に高精度にコントロールする必要がある。そのため、圧下装置は高価なものにならざるを得ない。
【0029】
▲2▼.圧下量が足りないと効果は期待できず、大きすぎると液相が上流側へ逆流してchannel偏析(逆V偏析)を生じさせるという難しさがある。
【0030】
▲3▼.鋼種、断面寸法及び連鋳速度、冷却条件などの操業条件によって必要圧下量及び勾配が異なる。従って、適用製品種が少ない場合でも適切な条件を見出すためには試行錯誤に多大な労力と費用を必要とする。
【0031】
▲4▼.軽圧下法は内部割れという新たな問題をしばしば引き起こす(文献(5))ので、これを防止する条件も考慮に入れなければならない。
【0032】
以上のように、本法で効果を発揮させることは非常に困難である。
【0033】
(4)連続鍛圧法(文献(7)、(8)を参照)
【0034】
次に強圧下法について述べる。この方法は、凝固末期近傍において、機械的に大圧下変形を与え、固液共存相の溶質濃度の高い液相を上流側に絞り出すことによって中心偏析(V偏析)を防止する方法であり、大口径ロールにより圧下する方法(文献(6))とAnvil(金型)で連続的に圧下する連続鍛圧法(文献(7)、(8))がある。両者は思想的に同じ範疇に属するので、後者についてのみ述べる。
【0035】
図42に示されるように、Anvilは鋳造方向に移動しながら圧下して最終凝固部近傍を押しつぶす。これを周期的に繰り返すことによって固液共存相内の溶質濃度の高い液相を上流側の低固相率領域へ絞り出し、中心偏析及び中心ポロシティを解消することができると報告されている。また適切な鍛圧条件を設定することによって内部割れを無くすこともできるとしている。本法では鍛圧時の固
度)をKe<1にコントロールすることができる。
【0036】
本法による偏析制御において最も重要な点は鍛圧時における固液共存相の流動現象の解明であるが、著者らは溶質元素に関する保存則のみを考慮して圧下によ
献(7))。
【0037】
彼らのモデルでは固液共存相における液相の流れを陽に扱っておらず、従ってデンドライトスケールでの濃化液相の流れが偏析にどんな影響を及ぼすかは解明されていない。
【0038】
従って固液共存相におけるマクロ的な検査領域での平均的なマクロ偏析は制御可能であるが、セミマクロ偏析と呼ばれるより小さい検査領域(デンドライトスケール)での偏析についての情報は得られない。セミマクロ偏析はある程度残存する。
【0039】
従って、セミマクロ偏析が残存する現象の解明は今後の課題であり、そのためには排出される液相の流動現象を明らかにする必要がある。
【0040】
これと関連して、鍛圧する時点ですでにV偏析が形成されている可能性は充分あり、この場合排出液相の流れがどんな影響を生ずるのか。セミマクロ偏析として残存するのか、等の問題が提起される。
【0041】
これらの文献では正方形に近い断面形状を持つブルームを扱っており固液共存相の形が円筒形に近似でき、大略同心円状に圧縮される場合は排出流れパターンは比較的単純なものとなろうが、幅の広いスラブでも単純な上流方向への流れパターンとなるかどうかは問題となる点である。
【0042】
いずれにしても固液共存相を機械的に大変形させる場合、濃化液相の流動を予測しその影響を評価することは容易ではない。
【0043】
(5)電磁撹拌(文献(9)、(10))
【0044】
最終凝固位置近傍において固液共存相を電磁力によって撹拌し、中心偏析を分散させる方法であり、具体的には凝固シェル横断面内を旋回流動させる方法等がある(文献(9))。
【0045】
もう一つの方法は2次冷却帯(鋳型部以外の冷却帯)内、あるいは鋳型内において電磁撹拌を行い、柱状晶を等軸晶へ変化させる方法である(文献(10))。
【0046】
後者の方法は柱状晶よりも等軸晶の方が中心偏析が少ないことが前提となっているが、その理論的根拠は明白でない。
【0047】
これらは本質的な解決策ではなく現在の主流とはなっていない。
【0048】
(6)上記(1)〜(5)の組み合わせによる方法
【0049】
バルジング防止対策は基本的な技術として現在まで一貫して重視されており、これをベースに次のような組み合わせが行われている。
【0050】
例えば文献(10)では0.08〜0.18wt%炭素鋼スラブについて短ロールピッチ及び分割ロールを用い(バルジング防止)、テーパーアライメント法を用い(鋳片の収縮(凝固収縮+温度降下による収縮)に対応して対向するロール間ギャップを下流方向に順次狭めて行く技術が記述されている。
【0051】
しかしながら、精度よく実現するのは困難である。
【0052】
また、文献(11)では等軸晶の発達しにくい炭素鋼ブルーム及び丸ビレットにおいて低温鋳造と電磁撹拌を併用し、等軸晶を発達させると中心ポロシティが低減すると述べられている。さらに鋳型内を電磁撹拌させて等軸晶化し、凝固末期圧下量を適正化することにより中心偏析及び中心ポロシティを低減することが可能であると報告している。
【0053】
(7)薄スラブ連続鋳造におけるCast Rolling法
【0054】
製鋼一貫工程をコンパクトにまとめたいわゆるミニミルは、在来の高炉による重厚長大な工程と比べて、原材料の有効利用(リサイクリング)、省エネ、低建設費、地球環境に優しい等の利点を有し、着実に勢いを増している。ミニミルにおいては在来の200mm、300mmといった大断面ではなく最終製品形状にできるだけ近いnear−net−shape−castingと呼ばれている50mm、60mmといった肉薄スラブの連続鋳造が行われている。
【0055】
ここでは一例としてCasting Rolling法(文献(12))について述べる。本法は、固液共存相及び液相を含む領域をロールによって徐々に圧縮しながら(圧下率:10〜30%)薄くして行く技術である。本来の目的は、鋳込み口部分で肉厚を薄くするには限界があり、凝固中に薄くすればよいという発想から生まれたと思われるが、これによって次のような効果があると報告されている。
▲1▼.デンドライトを機械的に破壊するので粒状の微細結晶を生じる。
▲2▼.その結果マクロ偏析もかなり低減する。
【0056】
しかしながら固液共存相を強加工させるとき、誘起される溶質濃度の高い液相の挙動は予想し難いものがあり逆V偏析など有害な結果を生じないようコントロールすることは非常に難しい。
【0057】
以上、鋼の連続鋳造に関する大量の文献から内部品質改善のための重要な技術について要点を説明した。
【0058】
歴史的に見ると、偏析の原因となるバルジングの抑制を目的としたテーパーアライメント法にさかのぼり、ロールピッチの短縮・分割ロール方式の採用、2次冷却帯の強冷化、電磁撹拌へと進展し、現在は軽/強圧下あるいは電磁撹拌と軽圧下の組み合わせなどが主流となっている。
【0059】
しかしながら、製品品質に対する要求が厳しくなるに従っていつもこの古くて新しい問題が蒸し返され、順次これらの対策がある意味で繰り返し実施されてきた。
【0060】
その間、技術レベルは向上しているものの、本質的な問題の解決には到達していない。
【0061】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来の改善技術はいずれも凝固現象に対する経験的、定性的な洞察をベースにした試行錯誤的改善対策であり、鋼種、断面形状及び寸法、連鋳機プロフィール、操業条件(鋳造速度、温度、冷却方法等)が異なると、新たに適正条件を求めるために膨大な時間と労力を必要としていた。しかも、必ずしも最適条件を見い出すことができるとは限らないケースも数多く見られた。
【0062】
つまり個々の対策はそれぞれ一時的に偏析の若干の低減に成功しているが、凝固の振舞いを凝固理論に基づいて的確に把握していないため、その効果を正しく評価できず、最適条件を見つけることができないという不都合があった。
【0063】
【発明の目的】
本発明の目的は、かかる従来例の有する不都合を改善し、とくに鋼の連続鋳造システムおいて、鋼種、断面形状及び寸法、連鋳機プロフィール、操業条件(鋳造速度、温度、冷却方法等)が変化しても、常に中心偏析および中心ポロシティのない良質な鋼を容易に得ることが可能な連続鋳造システムを提供することにある。
【0064】
【課題を解決するための手段】
そこで、本発明では、連鋳機の種類(プロフィール)、鋼種、断面形状及び寸法及び操業条件(鋳造速度、温度、冷却条件)に基づいて、メニスカス(溶融金属上部表面位置)からクレータエンドまでの全域における凝固状況ならびに固液共存相における鋳造方向の凝固収縮によって誘起されるデンドライト間液相流れ(Darcy流れ)に基因する液相圧力降下に着目し、内部欠陥を発生する条件及び発生位置を算出し、その内部欠陥発生位置近傍において鋳造方向に電磁体積力(Lorentzの力:遠隔力)を印加する電磁ブースタを連続鋳造システムに装備するという構成を採っている。これによって前述した目的を達成しようとするものである。
【0065】
【作用】
内部欠陥の発生位置および発生形態・形状を正確に知るためには、凝固理論に基づいて凝固現象の数値解析を行い、内部欠陥の生成メカニズムを明らかにすることが必要である。本発明における演算手段での数値解析の理論について詳細に説明する。
【0066】
A.凝固現象の数値解析
【0067】
A−1.凝固現象の数値解析に必要な計算式
【0068】
凝固理論に基づいて発明者が案出した凝固現象の数値解析に必要な計算式について説明する。
【0069】
(1).エネルギー保存式
【0070】
固液共存相における、ある体積要素の熱収支に関するエネルギー保存式は(1)式で与えられる。
【0071】
体積要素は図7に示されるように、デンドライト結晶の枝の間隔(デンドライトアームスペーシング)に比べて充分大きく、また物体の温度T、固相率gS等の物理量の変化を調べられる程度に充分小さいものとする。
【0072】
【0073】
各記号の詳細は表1に示す。
【0074】
【表1】
【0075】
ここで、(1)式の左辺第1項は単位体積・単位時間当りの熱量変化、第2項は固液共存の液相の流れ及び固相の変形による発散(単位時間・単位体積当りの流出熱量)、右辺第1項は熱伝導による発散、Sは発熱項である。
【0076】
Sは次の(2)式に示されるように、凝固潜熱による発熱項及び固相変形による影響項ならびに電流によるジュール熱の和から成る。
【0077】
【0078】
gS及び液相体積率(以下単に液相率という)gLを用いて次式(3)で与えられる。
【0079】
【0080】
ここで、gVをポロシティの体積率とすると、(4)式の関係がある。
【0081】
【0082】
また、比熱C、密度ρ、熱伝導率λは液相、固相ごとにすべて温度依存性が考慮されている。
【0083】
なお、(1)、(2)式は固液共存相だけでなく、液相及び固相ならびにポロシティを含む相に対しても適用できる。
【0084】
(2).溶質再分布式
【0085】
溶質原子は固相及び液相中に固溶しているが、その分布状態は平衡状態図及びそれぞれの相における原子の拡散速度によって決まる。例えば炭素原子は液相はもちろん固相中においても速やかに拡散する。一方、シリコン原子の固相中の拡散は非常に遅い。
【0086】
そこで、本発明ではデンドライト間の液相中では、すべての合金元素は完全拡散するが、固相中では炭素のみ完全拡散し、その他の元素は拡散しないとした。すなわち、炭素は図3(b)に示されるように平衡凝固型合金元素であり、その他の元素は図3(c)に示されるように非平衡凝固型合金元素である。
【0087】
図4に示されるように、平衡状態図における液相線及び固相線が曲がっている
式で示される(文献(15))。
【0088】
【0089】
【0090】
【0091】
mL及びmSはそれぞれ液相線及び固相線の傾きであり、他の記号は図4中に示す。
【0092】
液相及び固相中の溶質に関する保存則を誘導するには、濃化液相の流動及び固相の変形を考慮する必要がある。これらを考慮した溶質保存則は次式で表される。
【0093】
【0094】
ここで、(8)式の左辺第1項は合金元素nの固液共存相における平均溶質量の変化、第2項はデンドライト間液相流れ及び固相変形による発散、右辺は液相における拡散項である。記号の詳細な説明は表1に示す。
【0095】
また、質量保存則、すなわち連続条件は次式で与えられる。
【0096】
【0097】
〜(9)を結合すると、平衡凝固型合金元素及び非平衡凝固型合金元素に対して次の一連の式が誘導される。
【0098】
【0099】
【0100】
ここで、平衡凝固型(j型)合金元素に対する係数は、(12)式〜(15)式で求められる。
【0101】
【0102】
【0103】
【0104】
【0105】
また、非平衡凝固型(i型)合金元素に対する係数は、(16)式〜(19)式で求められる。
【0106】
【0107】
【0108】
【0109】
【0110】
なお、βは(20)式で求められる。
【0111】
【0112】
(3).温度と固相率の関係式
【0113】
【0114】
【0115】
ここで、多元系合金の凝固中の液相温度は、母金属と各合金元素との2元平衡状態図における温度降下の重ね合わせで決まる(文献(15))。つまり、(21)式の関係は(22)式および(23)式のように表すことができる。
【0116】
【0117】
【0118】
各記号の詳細は表1に示す。また、Nは合金元素数を表す。
【0119】
次に、(22)式を時間について微分し、前記(10)式を代入すると(24)式のような温度−固相率関係式が得られる。
【0120】
【0121】
ここで、Sは(25)で与えられる。
【0122】
【0123】
また、(25)式におけるAn、Bn、Cn及びDnは、前記(12)〜(20)式で与えられる。
【0124】
(4).Darcyの式
【0125】
デンドライト間の液相の流れは、(26)式で示されるようなDarcyの式によって記述されることが知られている(文献(14)のp.234)。記号の詳細な意味は表1に示す。
【0126】
【0127】
体積力(Lorentz力)が含まれる。
【0128】
なお、Kはデンドライトの幾何学的構造によって決まる定数でありKozney−Carmanの式(文献(17))を適用すると次式で与えられる。
【0129】
【0130】
ここで、Sbはデンドライト結晶の単位体積当りの表面積(比表面積)であり、無次元定数fは多孔質媒体中の流動実験により5の値を持つことが分かっている。Kは本来異方性を有するテンソル量であるが、次に述べる2つの方法によって求めた。
【0131】
▲1▼.方法1:デンドライト凝固モデル
【0132】
K式中のSbを求めるためには具体的なデンドライトの形状と固相及び液相中での溶質の拡散を考慮する必要がある。久保と福迫はデンドライトを図5に示すように円柱形の枝及び幹と半円球の先端部からなるモデル化を行い、固液界面において溶質収支を表す保存式を導き、円柱界面及び半円球界面では曲率効果による過冷が生ずる現象(文献(14)のp.152,266)を用いて、Sbの計算式を誘導し、これを用いて計算したKが実測値とよく一致することを示した(文献(18)))。図5の斜線部は界面から排出される溶質濃度の高い部分を表す。またdはデンドライトセルの径、rは半球状デンドライト先端の半径である。
【0133】
そこで、彼らの方法を非線形多元合金に適用して次式を得た。
【0134】
【0135】
ここで、αは種々の物性値の誤差を補正するために導入した補正係数である。
【0136】
ら時刻t+△tにおけるSbそしてKが計算できる。
【0137】
またSbとデンドライトセルの径dとの関係はStereologyより次式で与えられることが知られている。
【0138】
【0139】
ここで、φは形状係数であり球ではφ=1、円柱ではφ=2/3である(粉体理論の応用、丸善(1961),p.87,p.132)。gSが約0.7になると隣同士のデンドライトセルがぶつかり合うので、gS=0.7の時のdの値を(29)式から算出し、凝固終了時のデンドライトセルの大きさとした。
【0140】
▲2▼.方法2:実験的方法
【0141】
(29)式を(27)式に代入し、f=5とすると、(30)式が得られる。
【0142】
【0142】
デンドライトがずんぐりした形をしている場合にはφ=1とすればよい(文献
決まり、次の実験式によって与えられる(文献(14)のp.146)。
【0143】
【0144】
デンドライトセルの直径dを計算することができる。
【0145】
(30)式は簡便な式であるが、中心部における加速凝固現象を表現できない欠点があるため、方法1と方法2は使い分ける必要がある。
【0146】
(5).運動方程式
【0147】
完全液相領域における液相の流れはNewtonの第2法則、すなわち、(質量)×(加速度)=(物体に作用する力)によって記述される。これは(32)式に示されるように、「運動量(=質量×速度)の時間的変化が物体に作用する力に等しい」という運動量保存則に言い換えることができる。
【0148】
【0149】
(32)式の右辺は圧力、粘性力、体積力等の総和である。
【0150】
そこで、凝固過程における液相流れに関する運動方程式は、(33)式で表すことができる。記号の意味の詳細は表1に示す。
【0151】
【0152】
(33)式は、(9)式の連続条件式を満足するように解かれる。
【0153】
(33)式の添字iは与えられた座標系における各成分を表す(例えば、(x,y,z)直交座標系ではv1=vX,v2=vy,v3=vZ)。
【0154】
きの便宜のために導入した。
【0155】
右辺第1項は粘性力項、第2項は圧力項、第3項は種々の体積力の総和、第4項はDarcy流れ抵抗力項である。
【0156】
これにより、(33)式は液相領域や固液共存領域及び固相領域を区別することな
すれば通常の運動方程式となり、固液共存相ではDarcy抵抗力支配となり(慣性力、粘性力は小さくなり無視してよい)、固相においてはμ=大数にセットする
【0157】
(6).パーライト変態の扱い
【0158】
凝固シェル表面を強冷する場合、表面層の温度降下によってパーライト変態を生じる場合がある。
【0159】
4)で与えられる。
【0160】
【0161】
ここで、Vexはパーライト粒子の拡張体積、tは時間、Tは温度であり関数f(T)は等温変態線図(TTT線図)から求められる(文献(21))。
【0162】
エネルギー式(2)の発熱項に追加される。
【0163】
A−2.方程式の離散化
【0164】
凝固現象を記述する上記各方程式は、式の変形・操作を楽にし、簡潔で、すべての座標系で通用するようスカラー及びベクトルの勾配(▽()あるいはgrad())及び発散(▽・ ()あるいはdiv())等の記号を用いて定式化している。
【0165】
従って、コンピュータで高速計算を行わせるためには、これらの式を直交座標や円筒座標などの各座標系について具体的に表現し、図7に示されるように、体積要素に関して体積積分を実行して具体的な形にする必要がある。これを方程式の離散化と呼ぶ。
【0166】
本発明ではPatankarによる方法を基本にして離散化した(文献(20))。
【0167】
一般的に、スカラーあるいはベクトル物理量をφで表すと、φに関する保存則は(35)式で表すことができる。
【0168】
【0169】
出し項(source term)である。
【0170】
さらに、速度は次式(36)で与えられる連続条件を満足しなければならない。
【0171】
【0172】
(35)式と(36)式は微分形式で表示されているので、3次元直交座標系(x,y
tは時間)を実行するとともに、φについて整理すると次の一連の式(37)〜(46)が得られる(文献(20)のp.101)。図8において、斜線部はcontrol volumeを表し、○印で示した点はgrid pointと呼ばれる。Fe,Fw,Fn,Fs、Ft、Fbはcontrol volumeの各面e,w,n,s、t、b(t、bは紙面に平行な面である)における物理量φの出入りを示す。
【0173】
【0174】
ここで、添字Pは体積要素での物理量φの定義位置(重心でなくてもよい)を示す。nbは隣接する6つの定義点( E、W、N、S、T、B)を指す。これら
(38)で表される。
【0175】
【0176】
【0177】
【0178】
【0179】
(37)式右辺のわき出し項(source term)bは、次式(41)で与えられる。
【0180】
【0181】
上付きの添字oldは時刻tから時刻t+△tへの時間変化における計算ステッ
要素の各面(e,w,n,s,t,b)における物理量φの拡散に関する項(diffusion term)であり、次式(42)で与えられる。
【0182】
【0183】
に関する項(flow term)であり、次式(43)で与えられる。
【0184】
【0185】
(58)式における符号は体積要素に流入する場合を+、流出する場合を−と定義する。
【0186】
い方を採用することを意味する。これにより、例えば、φが温度Tを意味するとき、面wにおいては流入であるからFwは有効となりTpは上流側の温度Twの影響を受ける一方、面eにおいては流出であるから−Feは無効となりTpは下流側の温度TEの影響を受けないという物理的合理性が考慮される(ただし、流
【0187】
Pnbは流れと拡散による相対的影響度を表すPeclet数であり、次式(44)で定義される。
【0188】
【0189】
【0190】
【0191】
わき出し項(source term)Sは一般にφの関数となることを考慮すると次式(46)に示されるように線形化できる。
【0192】
【0193】
ここにSc,Spは具体的な方程式に付随して決まる定数である。
【0194】
以上のようにして、上記A−1で説明した各方程式を離散化した結果を本明細書の最後に記載する。
【0195】
また、座標系に関しては、連鋳鋳片が細長く、途中で曲がっていることなどを考慮し図9に示されるように、鋳片プロフィールにフィットするよう直交性を有する曲がった座標系を採用した。各離散化式は当該座標系で書き下したものである。
【0196】
さらに、直円筒及び直交3次元座標は当該直交曲線座標系の簡単な場合として含まれるので、離散化式から不要な部分を削除するなど最小限の修正で適用できる。すなわち、各離散化式は、種々の鋳片プロフィール及び断面形状に対して適用可能である。
【0197】
A−3.内部欠陥の解析
【0198】
(1).マクロ偏析
【0199】
固液共存相の平均溶質濃度は図3(b)に示されるように、平衡凝固型(j型)
【0200】
【0201】
また図3(c)に示されるように、非平衡凝固型(i型)合金元素では、(48)式で示される。
【0202】
【0203】
【0204】
(2).溶鋼中の固溶ガスの影響
【0204】
溶鋼中に固溶したガスは凝固の進行につれてデンドライト結晶間の液相中に濃化し、ガス基因型ミクロポロシティを形成することは広く知られている。
【0205】
ここではKuboらの扱いに準じてその解析方法について述べる(文献(19))。
【0206】
鋳鋼におけるガスポロシティの主因はCOガスであることから、COガスを唯一のガス源と仮定する。このCOガスは次式の反応により生成する。
【0207】
【0208】
つまりCOガスの平衡圧力は、(50)式で与えられる。
【0209】
【0210】
ここで、CLは液相中の炭素濃度、OLは液相中の酸素濃度、PcoはCOガスの平衡気圧(atm)、Kcoは平衡定数である。
【0211】
またOは脱酸元素として通常添加されるSiと結合してSiO2(固体)を生成するものとする(Mnの影響は無視した)。
【0212】
これによりC及びOに関する質量保存則は次式(51)、(52)で与えられる。
【0213】
【0214】
【0215】
【0216】
固相中の炭素及び酸素の固溶量は平衡分配係数を用いて次式(53)で表される。
【0217】
【0218】
【0219】
SiとOの反応に関しても同様に
【0220】
【0221】
【0222】
【0223】
【0224】
以上(50)、(52)〜(58)式から成る連立方程式を解いて凝固進行中のPco及び
【0225】
(3).ポロシティの有効空隙半径及び成長則
【0226】
図6に示されるように、ミクロポロシティを生ずる場所は局部的な自由エネルギーを最少にするような場所、すなわち、デンドライトの根元の部分であると考えられ(文献(19))、このときの空隙の有効半径rを次のようにモデル化した。
【0227】
いま、一対のデンドライトアームの間に1ケの液相空間が存在すると仮定し、図6(b)に示されるように、これらの微小空間が3次元的に分布している状況を考える。
【0228】
デンドライト間隔の3次元的平均値をD、液相空間の数をnとすると、液相率
【0229】
【0230】
また図6(c)に示されるように、r,D及びデンドライトセルサイズdの関係は(60)式で示される。
【0231】
【0232】
そこで(59)、(60)式よりrに関する次式(61)が得られる。
【0233】
【0234】
しかしながら、複雑な形態を有する実際のデンドライト組織においてrを正し
。
【0235】
とdが小さくなり、そしてrが小さくなることがわかる。
【0236】
また、固溶ガスを考慮しない場合には、ガス平衡圧は0となる。このような場合でも液圧が臨界圧以下になると収縮に基因するポロシティは生成する。このような場合、一度生成した内部ポロシティの成長に関する式は連続条件式(9)より次のように与えられる(ただし固相変形の影響は無視した)。
【0237】
【0238】
右辺第1項は、凝固収縮による寄与、第2項は液相の発散による寄与を表す。
【0239】
A−4.数値解析の方法
【0240】
上記エネルギー式では、固相率とポロシティの体積率と液相の密度と液相の流れ速度ベクトルとから温度を算出できる。
【0241】
上記溶質再分布式では、固相率とポロシティの体積率と液相の密度と液相の流れ速度ベクトルとから液相の溶質濃度を算出できる。
【0242】
上記温度−固相率式では、固相率とポロシティの体積率と液相の溶質濃度と液相の流れ速度ベクトルとから固液共存相での液相温度を算出できる。
【0243】
上記運動方程式では、液相の密度と固相の密度と液相の圧力と透過率とから液相の流れ速度ベクトルを算出できる。
【0244】
上記圧力式では、液相の密度と固相率と液相の流れ速度ベクトルとから液相の圧力を算出できる。
【0245】
しかしながら、上記各式における変数は互いに連成(リンク)しているため、連成解がえられるまで繰り返し計算が必要となる。
【0246】
ここで、固相速度は、応力解析等による理論値あるいは実測値を用いる。
【0247】
次に、解析方法について図10のフローチャートを用いて具体的に説明する。
【0248】
▲1▼.境界条件や初期条件を変数にセットする(図10(a)のステップS1)。
【0249】
▲2▼.固相、液相、固液共存相の領域形状と透過率と液相の密度分布に対して、液相の流れ速度分布と液相の圧力分布を求める(図10(a)のステップS2)。
【0250】
ここでは、運動方程式かDarcy式かを用いて液相の流れ速度分布を演算し、その結果を用いて圧力式から液相の圧力分布を算出する。
【0251】
▲3▼.算出された液相の圧力分布からミクロポロシティ生成条件を満足するか否かを判定し(図10(a)のステップS3)、満足する場合には、ポロシティの体積率と大きさを算出する(図10(a)のステップS4)。
【0252】
▲4▼.算出された液相の流れ速度分布とポロシティの体積率と鋳片表面からの抜熱速度に基づいて、温度と固相率と液相の溶質濃度を求める(図10(a)のステップS5)。
【0253】
ここでは、エネルギー式と溶質再分布式と温度−固相率式との連成解を算出する。
【0254】
▲5▼.算出された温度と固相率と液相の溶質濃度に基づいて、デンドライト凝固モデルを適用して比表面積Sbとデンドライトセルの径dを算出する(図10(a)のステップS6)。
【0255】
▲6▼.比表面積Sbとデンドライトセルの径dの計算結果に基づいて透過率Kを算出する(図10(a)のステップS7)。
【0256】
▲7▼.温度と液相の密度を算出する(図10(a)のステップS8)。
【0257】
▲8▼.液相の圧力が収束したかどうかの判定を行い(図10(a)のステップS9)、収束していれば(34)式と(35)式からマクロ偏析の計算を行うが(図10(a)のステップS10)、収束していなければ再度▲2▼からの演算処理を繰り返す。ここで演算処理を繰り返す理由は、方程式の数と未知変数の数が同じであるために、連立方程式の解が一義的に定まらないためである。
【0258】
すなわち、▲6▼で算出された透過率や▲7▼で算出された液相の密度は、液相の流れ速度分布に影響を与えるために、それらの値を用いて、再度▲2▼から計算を行う必要がある。
【0259】
ここで、上記▲2▼において、運動方程式を用いて液相の流れ速度分布と液相の圧力分布を求める方法の詳細を説明する。
【0260】
▲1▼.初期設定として、時刻tにおける速度を初期値にセットする(図10(b)のステップS1)。
【0261】
▲2▼.速度離散化式の係数ap、aN、aS、aT、aB、aW、aE、bを算出し、v1、v2、v3を算出する(図10(b)のステップS2)。
【0262】
▲3▼.圧力離散化式(E.86)の係数を算出する(図10(b)のステップS3)
【0263】
▲4▼.圧力に対する境界条件を導入する(図10(b)のステップS4)。
【0264】
▲5▼.圧力離散化式から液相の圧力分布を算出する(図10(b)のステップS5)。
【0265】
▲6▼.算出した液相の圧力分布に基づいて、速度離散化式から速度場を算出する(図10(b)のステップS6)。
【0266】
▲7▼.算出した速度場が連続条件を満足するかどうかを判定し(図10(b)のステップS7)、満足していなければ、圧力修正式(E.118)から圧力分布を修正し、この修正圧力分布を用いて速度場を修正する(図10(b)のステップS8)。そして、▲2▼の処理に戻る。
【0267】
このように、液相の流れ速度分布と液相の圧力分布を求める際に運動方程式を用いる場合の解法は、本発明者が独自に、熱・流体解析の解法の1つであるSIMPLER法を基本に種々の修正・拡張を行ったものである。すなわち、固液共存相にまで拡張したという意味で、本解析法を拡張SIMPLER法(Extended SIMPLERmethod)と名付ける。
【0268】
なお、最後に記載した各種離散化式の数値解法にはコンピュータでの繰り返し収束計算に適したTDMA法(Tridiagonal−matrix algorithm,文献(20)のp.52)を用いている。
【0269】
上記数値解析は、種々の鋳片断面形状及び鋳片プロフィール(垂直型、垂直曲げ型、曲げ型等)に対して適用可能であるとともに、解析機能の選択ができる。すなわち、温度と固相率のみの最も単純なレベルから、鋳片の変形や電磁体積力(Lorentz力)の印加の影響等を考慮し、上記のすべての方程式を含む最高レベルまでの計算を行うことができる。従って、目的によって計算レベルを指定すればよく、必ずしも最高レベルの計算が必要とは限らない。
【0270】
本明細書で定義した数値解析機能のレベルは次の通りである。
【0271】
【0272】
【0273】
レベル3:レベル2にポロシティ解析を追加。
【0274】
【0275】
レベル5:レベル4にポロシティ解析を追加。
【0276】
さらに連鋳プロセスに対して電磁力ならびに鋳片の変形を扱う機能を備えている。また、温度計算(エネルギー式)にはパーライト変態及び通電によるジュール熱の影響が考慮されている。出力情報は温度、固相率、液相の圧力及び流速、等のマクロ的な現象の他にマクロ偏析、ミクロポロシティ等のミクロスケールでの冶金的情報が含まれる。
【0277】
上記数値解析での計算はdummy bar boxへ溶鋼を注入する最初の段階から、注湯を打切り、凝固終了させるまでの全過程を通して行う非定常解法を採用している。これによって注湯開始から定常状態に達するまでの間及び注湯を停止し凝固終了までの間の非定常過程を解析できる。また、この間の鋳造速度や冷却条件等の経時変化による影響も解析可能である。定常状態に到達したかどうかの判定は温度変化などの定点観測により行っている。
【0278】
従来、この種の問題に対しては空間座標系による定常解法(すなわち空間に固定した座標系を用いて方程式を記述し、くり返し計算によって定常解を求める方法であり、計算領域は空間に固定される)がよく用いられるが、これらの方法では連鋳の重要な部分である非定常部の解析はできないという欠点を有する。これに対して当該非定常解法は種々の物理現象の状況変化に的確に応答できる優位性を有している。
【0279】
垂直−曲げ型連鋳等においては鋳片は曲げ変形を受けるので、図9(b)に示されるように解析対象物のトポロジー(距離、面積、体積等)及び図9(a)に示されるように鋳片に固定したうめ込み座標から見た重力の方向が変化する。従って、タイムステップの都度これら値の再計算が必要となる。
【0280】
また、鋳片表面の境界条件は表面における熱伝達率hで与える方法(以後h法と呼ぶ)または表面温度Tbそのものを与える方法(以後Tb法と呼ぶ)のいずれかで与えるようにした。h法ではTbの応答が求まり、Tb法ではhの応答が求まる。例えば、表面温度を目的によってある特定の分布に設定したいときは、Tb法を用いてhを求め、hと冷却条件(噴霧量等)の関係から具体的な冷却条件を決定すればよい。
【0281】
固液共存相の液圧降下を生ずる領域では液相流れは大略鋳造方向への一次元的な流れと見なすことができる。そこでDarcy式(26)より、Z方向(鋳造方向)のみの一次元と近似してZ方向の体積力Xzについて求めると、(63)式が得られる。
【0282】
【0283】
従って、圧力及び速度場が求まった後(ポロシティは発生しないとして計算する)、ポロシティを生じさせないために必要なP分布を任意に与え(例えばPが
)式よりXz(=重力のZ方向成分+Lorentz力)を求め、続いて所要電磁体積力(Lorentz力)分布を求めることができる。
【0284】
また、大量の入力データは外部関数として付加される。例えば、通常の操業条件(鋳造温度、速度、表面冷却能等)は、時間、位置などの関数として与えられる。
【0285】
本発明で採用している非線形多元合金モデルのメリットは、実際の合金状態図における非線形性にフィットさせることによって鉄、非鉄、ステンレス等を問わず実用金属材料に対する当該数値解析の適用範囲を大巾に拡大できることであり、多くの重要な工業金属材料への適用が可能である。例えば、包晶反応を含む炭素鋼(C=0.1〜0.51%)に対しては、包晶反応を無視しδ固相線及びγ固相線をなめらかに線形連続近似することによって温度と固相率の関係を求めることができる。C<0.1%の低炭素鋼への適用はもちろん可能である。
【0286】
A−5.数値解析の計算例
【0287】
図11(a)に示されるように、直径1m、高さ3mの鋳型に注入された溶鋼の凝固過程について、数値解析を行った。
【0288】
特に、凝固中にデンドライト間液相溶質の濃化とともに液相密度が小さくなる傾向が顕著に現れる鋼種(0.72%C−0.57%Si−0.70%Mn−0.02%P−0.01%S−残Fe(wt%))を選択した。
【0289】
初期温度は1475℃、凝固開始温度からの過熱度13℃とした。また、計算に用いた諸物性値は表2及び表3に示す0.55wt%炭素鋼の値を採用した。
【0290】
【表2】
【表3】
【0291】
溶鋼が鋳型を満たした状態を初期状態として計算を開始した。計算開始後、鋳型壁からの本格的な凝固が始まる約10分までの間、液相流れは基本的に側面で下降流、中心部で上昇流のパターンとなるが、乱流的である。すなわち、▲1▼流速は早い部分で約10cm/sである、▲2▼中心部の温度が側面より低くなる温度逆転層が生じる、等の乱流的な流れによって液相領域内の温度は速やかに均一化され(温度差は2℃以下)、大部分の過熱度を失う。
【0292】
その後、このような状況は液相領域がなくなり、全域が固液共存相となる約2時間後まで続く。この間流速は徐々に小さくなる。
【0293】
凝固は底部から始まり続いて側面、そして最終的にはインゴット中心部の中央部より若干上の部分で終了する(凝固時間は20.9hr)。
【0294】
図11(b)に示されるように、11.5時間後の温度分布図では、等温度線が大きく曲がっており、実際の場合とよく一致している。なお、Cは収縮部、Mは固液共存部、Sは固相部を示す。
【0295】
また、図11(c)に示されるように、11.5時間後の固相率分布図では、等固相率線が大きく曲がっており、これも実際の場合とよく一致している。
【0296】
図11(d),(e)に示されるように、デンドライト間の液相流れは、中心部温度が外側に比べて高いにもかかわらず、デンドライト間の液相溶質濃度は外側より低いため、両者のバランスで中心部の液相は相対的に重くなり、中心部で下降、外側で上昇の流れを生ずる。この液相流れのパターンは凝固の後半まで続き、Flemingsらの凝固理論によって明らかにされているように(文献(14)のp.244〜252)、低温部すなわち高液相濃度部から高温部すなわち低液相濃度部への液相流れによって正偏析部が生じるとともに、高温部すなわち低液相濃度部から低温部すなわち高液相濃度部への流れによって負偏析部が生じる。
【0297】
図11(f)にCの偏析状態を、図11(g)にPの偏析状態を示すが、実際の場合とよく一致している。なお、他の合金元素(Si、Mn、S)も同様の偏析パターンを生し、実際の場合とよく一致している。
【0298】
計算誤差に関しては、インゴットからの抜熱量Qoutとインゴットの失った熱量Qlostの差、| (Qout−Qlost)/Qoutx100|%によって評価したが、温度計算のみの場合には、凝固完了までの誤差総計は0.1%以下であった。
【0299】
B.内部欠陥の生成メカニズム
【0300】
鋼鋳物の内部欠陥については多くの文献が発表されている。
【0301】
図43は棒状の長尺鋼鋳物に生ずる中心欠陥を模式的に示したものである。図中の領域AおよびCはデンドライト間液相補給により欠陥のない健全領域であり、領域Bは液相補給ができず、肉厚中心近傍にデンドライト間ミクロポロシティを発生する。これらミクロポロシティは、通常、図43に示されるように液相補給方向を向いたVパターンを呈し、多くの場合、V状のマクロ偏析(いわゆるV偏析)を伴うことが知られている(例えば文献(34))。
【0302】
過去の多くの文献ではV状のミクロポロシティと偏析を明確に区別して記述したものは少ない。例えば、Pellini(文献(35))はこれらを区別せずcenterline shrinkageと呼んでいる。鋼の連鋳品に生ずる中心欠陥も上述の鋼鋳物のそれと本質的に同じであり、すでに述べた如く本明細書においては、V状ポロシティおよび偏析をまとめて(偏析の有無あるいは程度にかかわらず)中心欠陥と呼ぶこととする。
【0303】
中心欠陥はデンドライト間液相補給が不十分な場合に発生するものであり、従って、固液共存相における液相の流動が内部欠陥の生成に決定的な役割を演ずるものと言える。この液相流れを生じさせる駆動力として次の要因が考えられる。
【0304】
(1)凝固時の固体と液体の密度差によって誘起される凝固収縮流れ。
【0305】
(2)液相の密度差によって生ずる流れ(自然対流)。液相密度ρLは次式(64)で示されるように温度のみならず、液相中の溶質濃度にも依存する。
【0306】
【0307】
(3)外部からの力学的変形によって生ずる強制流れ。バルジング、曲げ戻し、圧下などの変形がある。これは水を含んだスポンジを絞ったり、曲げたりしたときに内部の水が流動することを連想するとわかりやすい。なお、鋳片を強冷して熱収縮を生じさせることも、この分類に入る。
【0308】
発明者は、中心欠陥に及ぼす上記(1)と(2)の要因の影響を調べるため、一連の予備的数値解析を行った。その結果を要約すると次の通りである。
【0309】
▲1▼.大型鋼塊の場合、マクロ偏析が顕著に現れるが、これはデンドライト間液相流れが長期間広範囲に生ずるためである。同じ合金に対してインゴットのサイズを小さくすると固液共存相の幅は狭くなるが、流動パターンは図11(d)、(e)と同様の傾向を示す。しかしながら、凝固時間が短いため流れは極く小さい範囲に限定され、偏析は実質的に生じない。これは経験的な事実と一致する。
【0310】
すなわち、凝固速度が大きくなると液相密度差に基因する自然対流型の偏析は生じにくい。
【0311】
▲2▼.連鋳においては、流動パターンは後述の解析例で見られるように液相密度差に起因する自然対流型の流れはなく、鋳造方向への単純な凝固収縮流であった。
【0312】
スラブでは幅方向にしばしば冷却能の不均一を生ずるが、このような場合でも「正常な凝固」すなわち中心欠陥を生じない限り板面内流れによって生ずるマクロ偏析(V偏析ではない)の程度は小さく、実用上問題とはならない程度である。これも凝固速度が大きいことによる。正常凝固におけるDarcy流れパターンは図12(a)に示されるように、ごくわずか外に広がる形となる(図では広がりを強調するため幾分過大表示している)。また中心欠陥を生じる中心部付近では鋳造方向の流速は肉厚方向に比べて圧倒的に大きく、肉厚方向の流速は無視できるほど小さい。
【0313】
以上の数値解析は、メニスカスから最終凝固位置までを含む鋳片全体についてレベル3の機能を用いた。全体のDarcy流れの観点から見るとノズルからの溶鋼吐出流の影響は小さい。
【0314】
以上より、連鋳品に生じる主たる内部欠陥は、横断面最終凝固部に発生するV状欠陥であり、その要因として凝固収縮流が最も深く係わっていると言える。
【0315】
次に、V状欠陥が発生するメカニズムについて説明する。
【0316】
鋳造方向に長くのびた固液共存相の液相の主流れは鋳造方向に生じるため、Darcy流れによって生じる液相の圧力降下はほとんど鋳造方向に生じ、特に肉厚中心及びその近傍での圧力降下が最も大きい。
【0317】
そして液相の圧力Pが次式(65)で与えられる臨界条件に達するとポロシティを生ずる(文献(14)のp.239)。
【0318】
【0319】
ここで、Pgasは液相中に固溶しているガスと平衡するポロシティ内の平衡ガス分圧、σLGは液相とポロシティの界面における表面張力、rはポロシティの曲率半径であり、(61)式で与えられる。
【0320】
ポロシティは図12(b)に示されるように、V字型に並ぶ。
【0321】
V偏析が発達する場合は、このポロシティの生成がきっかけとなって、鋳造方向へ向かうDarcy流れは図12(a)に示されるような正常なパターンから図12(b)に示されるような流れに変化するものと考えられる。すなわち、液相が低温側(高溶質濃度側)から肉厚中心の高温側(低溶質濃度側)へV字状の空隙に沿って流れ込み、平均濃度より高い局所的な正偏析バンド、すなわちV偏析を形成する。
【0322】
このような液相の流れはポロシティの形成がきっかけとなり、ポロシティの形成と同時進行的に生じるものと考えられる。
【0323】
ここでもし、この低温側から高温側へ向かう流速が増大し次式(66)で与えられる条件に合致するようになると、その部分の固相が局所的に再溶解するという現象を生じる(文献(14)のp.249)。
【0324】
【0325】
局部的にこのような再溶解を生じるとその部分は周囲に比べてDarcy流れに対する抵抗が小さくなり、ますます流れは大きくなり再溶解が増大する。その結果、V偏析はもっと厳しく現れる。偏析の程度はこのチャンネル現象の規模の程度によって決まる((66)式左辺第2項の値が関与する)。
【0326】
中心欠陥生成に関する上記の議論を検証するため、炭素鋼を高周波大気溶解し、図44に示されるように直径32mm〜30mm×長さ350mmのテーパ付き鋳型に鋳造した。また、デンドライト間への液相の補給能を増すための手段として図44に示されるように乾燥型を圧力容器内に設置し、乾燥型への注湯後、アルゴンガスにて加圧した。
【0327】
鋳造試料の化学成分を表4に示す。鋳造温度は1560℃〜1580℃、注湯時間はいずれも約10秒であった。また、酸素及び窒素の分析値は50〜120ppmの範囲であった。試料No.1の大気鋳造材(アルゴンガスによる加圧なし)について、図44に示されるように試料中心部に3カ所熱電対を挿入し、凝固中の温度変化を測定した。その測定データを図45に示す。
【0328】
また、これらの実験に加え、注湯開始から凝固終了までを通しての本発明による数値解析を行い、内部欠陥の形成過程を追跡し、実験との比較検討を行った。数値解析に用いた鋼の物性値は表2及び表3に示す値を用いた。化学成分値は表4の値を用いた。乾燥型の熱伝導率は0.0036cal/cmS℃、比熱は0.257cal/g℃、密度は1.5g/cm3とした。押湯部断熱材についてはそれぞれ熱伝導率は0.0003cal/cmS℃、比熱は0.26cal/g℃、密度は0.35g/cm3とした。
【0329】
【表4】
【0330】
試料No.1の各温度測定位置における温度履歴の計算値は、図45中の破線で示されるように実測値とよく一致している。
【0331】
試料No.1の中心断面を研磨し、4%ナイタル液にてエッチングしたマクロ組織を図46に示す。 図46(a)は目視観察により得られたVパターンの状態を模式的に図示したものであり、図46(b)はその一部を示す。エッチングにより暗く腐食されており、V状の中心欠陥が顕著に現れている。マクロ組織は極く表面層の柱状晶および微細な粒状晶からなっている。図46(c)に顕微鏡組織の採取位置およびビッカース硬度測定位置を示す。
【0332】
また、図47に顕微鏡組織を、図48にビッカース硬度測定結果を示す。図47において、針状の白い部分はフェライト、暗くエッチングされた素地はパーライトである。図47の左上から右下に流れる暗色部(Vバンドの一部)はフェライトが少なく、従って炭素量が周辺部よりも高いことを示すものである。図46(c)に示されるように、この流れを横切るようにビッカース硬度を測定したところ、図48に示されるようにパーライトが大部分を占めるVバンド部で硬度が周辺部より高くなっていた。また、図48に示されるようにVバンド近傍で硬度が一旦減少し、その後、右上がりに増加しているのはVバンドの形成時に周辺(この場合左側から)の高溶質濃度の液相がVバンドに沿って流れ込んだためと考えられる。
【0333】
また、中心断面の探傷カラーチェック検査を行い、ミクロポロシティ分布を調べたところ、Vパターンに沿ってミクロポロシティが分布していることを確認した。押湯部収縮孔(図46(a))の鋳物全体に占める体積は約1%であり、鋳物の凝固収縮4%に比べて小さく、欠陥の大部分はVパターン中にミクロポロシティとして存在している。
【0334】
以上より、V状中心欠陥はV状に配列したミクロポロシティとV偏析(正偏析)バンドからなることを確認した。
【0335】
図49に当該No.1の試料についてレベル の数値解析を行い、ミクロポロシティの形成過程を検討した結果を示す。図49(b)に示されるように凝固完了後のポロシティ分布状態は、実際のVパターン(図46(a))と良く一致している。
【0336】
数値解析の結果より、内部ポロシティを生じ始める時刻は注湯開始55秒後であり、このときの固相率分布を図49(a)に示す。またポロシティを生じた位置を図中の斜線で示す。ポロシティを発生しないものとして計算したところ(レベル )、注湯開始63秒後に底面より75mmの位置においてDarcy流れによる圧力降下が最大となり、そのときの負圧は−20.5atmであった。これを参考に雰囲気圧を10atmから25atmの範囲で変化させて計算した結果、ポロシティ発生の臨界圧力は20atmであることが判明した。すなわち、加圧力を増すにつれてポロシティの体積率は減少し、20atm以上ではポロシティは完全に消失すると考えられる。
【0337】
そこで、以上の検討結果を参考に、鋳込20秒後(中心部の固相率約0.3の時)から加圧を開始し、鋳込30秒後から凝固終了まで10atmに加圧保持して鋳造した試料No.2のマクロ組織を図50に示す。大気鋳造した試料No.1と比べると、ポロシティ体積率は減少していたが、V欠陥は顕著に認められる。
【0338】
22atm加圧したNo.3のマクロ組織は図51に示すごとくV偏析及ぴポロシティのない健全部が30mmから130mmへ拡大しており、加圧が有効に働いたことを示している。これら試料No.2及びNo.3についてレベル3の数値解析(化学成分は表4による)を行ったところ図52に示すごとく10atmでポロシティは若干減少し20atmで消滅する。試料No.3の押湯から下の部分で欠陥を生じているが(図51)、これは押湯量が少なく引けが深くなったためである。一方、数値解析では押湯における収縮孔の形成を厳密に扱っていない(これを厳密に扱うには押湯部の要素分割をかなり細かくする必要があるが、結果の表示上の問題があるため行っていない)。
【0339】
以上より加圧によって中心欠陥を無くせることは明らかであり、過去に発表された実験結果を再確認するものである。ただし、これら従来の実験では加圧効果について理論的、定量的に扱われておらず不充分であった。例えば文献(34)では押湯部を加圧した場合中心偏析が逆により顕著に現れるなど加圧の実用的効果について否定的な見解が述べられている。当該文献では具体的な鋳物のサイズ(3インチ角断面、長さ24インチ)、化学成分値、鋳込温度、加圧条件、凝固中の測温データならびに内部欠陥観察結果が与えられており、数値解析との比較検討が可能である。
【0340】
そこで、本発明者が当該鋼鋳物について数値解析を行ったところ、図53に示すように当該文献の加圧力4.2atmでは効果は小さく、中心欠陥を無くすには少なくとも20atmの加圧力が必要であることがわかった。これと関連して、ポロシティ発生臨界条件式(69)について液相圧力降下とポロシティ発生の関係を模式的に説明したのが図54である。図中、固相率が臨界固相率gs*以上の領域でポロシティを発生する。以上のことから、中心偏析が逆に顕著に現れるのは加圧による押湯効果が不充分な場合、Vポロシティの発生がきっかけとなりポロシティのまわりの高溶質濃度の液相が流れ込んだ結果であると考えられる。いずれにしてもデンドライトスケールでの詳細な考察は別にして押湯効果が充分あれば中心欠陥は生じないと言える。
【0341】
以上のことから、凝固過程において固液共存領域での液圧が臨界圧力以下となる領域が内部欠陥の発生領域であり、凝固理論に基づく本発明による数値解析によって欠陥発生臨界液圧を算出することができる。
【0342】
さらに「ミクロポロシティを無くせば偏析も同時に無くなる」ということがいえる。すなわち、ミクロポシティを完全に無くすというよりも、正確に言えば発生の機会を与えないことが重要であり、このためには肉厚中心近傍(最終凝固部)の鋳造方向におけるDarcy流れに伴う液圧降下を最小限に抑え、(65)式で与えられる臨界圧力以上に保持すればよい。
【0343】
C.印加電磁力の算出
【0344】
電磁体積力(Lorentz力)を印加する方法には、種々の方法が考えられる。例えば、直流磁場と直流電流を印加する方法、リニアモーター型の遠隔推力を利用する方法などがあり、鋳片の断面形状、印加する位置、所要力の大きさ、設備費用等を考慮して適切な方法を選ぶことができる。
【0345】
ここでは前者についてその算出方法を述べる。図2に示されるように、鋳造方
【0346】
【0347】
【0348】
【0349】
分布φは次式(69)によって与えられる(文献(22)のp.8,(2.13)式において物体内の電荷は存在しないとすればよい)。
【0350】
【0351】
φは電極に印加される電位を境界条件として(69)式を解いて求められる。鉄はキュリー点(約770℃)以上では非磁性であり、近似的に空気と同じと見なすことができる。
【0352】
従って、固液共存相に一様な静磁場を印加することは比較的容易である。
【0353】
らかじめ行うことができる。。
【0354】
れている。
【0355】
【0356】
【発明の実施例】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0357】
A.丸ビレット材の垂直型連続鋳造の場合:
【0358】
第1の実施例は、図13に示されるように、溶鋼表面を所定の形状で凝固させて凝固シェルを得るための水冷銅鋳型5と、溶鋼を流入するためのレードル出口2と、レードル出口2からの溶鋼をノズル4を介して水冷銅鋳型5に一定速度で供給するためのタンディッシュ3と、水冷銅鋳型5を通過した鋳片6内部の固液共存部に電磁体積力を印加するための電磁ブースター1とから構成されている。ここで、電磁ブースター1は、図23に示されるように、直流磁場を発生させるための超電導コイルあるいは電磁石と直流電流を通電する電極から成り、鋳造方向に電磁体積力を発生させる装置である。
【0359】
軸受は高速度下での繰り返し荷重を受けるので、軸受材料はすぐれた耐疲労強度及び耐磨耗性が要求される。すなわち軸受鋼は素材の清浄度、組織の均一性など、特殊鋼の中でも特に厳しい品質が要求される鋼の一つである。
【0360】
1%C−1%Cr軸受鋼は、凝固温度範囲が広く、中心偏析を生じやすい。これが巨大炭化物生成の原因となり使用寿命の低下等の品質劣化を起こす。
【0361】
そこで、本実施例では、1%C−1%Cr軸受鋼の丸ビレット材を垂直型の連続鋳造機で鋳造する場合について説明する。なお、ここでの1%C−1%Cr軸受鋼には、0.2%Si、0.5%Mn、0.1%Ni、0.01%P、0.01%Sを含んでいるものとする。また、物性値を表2に示す。
【0362】
A−1.凝固過程の数値解析
【0363】
Fe−C二元状態図において、図14に示されるように、1100℃から1500℃における固相線と液相線を線形化する。
【0364】
図15(a)に示されるように、各合金元素の影響を考慮するために非線形多元合金モデルによって温度Tと固相率gSの関係を求めた。但し、非線形多元合金
づく。この計算上の不都合を避けるためgS=0.95で凝固完了と見なした(文献(16))。
【0365】
また、固液共存相が鋳造方向に長く伸びていることに鑑み、潜熱を均一に発生させるようにした。すなわち、潜熱値65(cal/g)をgS(0.95)で割った値68.4(cal/g)を見かけの潜熱値として用いた。
【0366】
次に、液相中の固溶酸素が凝固の進行に従ってデンドライト間の液相中に濃縮し、平衡COガス圧(COガス気泡が存在しないときの平衡圧)が変化する様子について(36)式〜(45)式を用いて数値解析を行った。計算に用いた物性値を表3に示す。図16(a)に示されるように、酸素含有量が減少するにつれて平衡COガス圧Pcoは低下する。またSi量を増すと、SiO2が生成することによって液相中のO濃度が減少し、平衡COガス圧Pcoが緩和される。
【0367】
数値解析を行う領域の要素分割は図13に示されるように、半径方向に10等分(半径方向分割長さは△r=1.75cm)、鋳造方向分割長さは△z=5cmとした。ここでは、数値解折に先立って、温度変化の大きい半径方向の分割数について検討した結果、分割数が8以上では計算結果に実質的な差異は認められないことから要素分割は10とした。鋳造方向についても同様の検討を行い上記の如く決めた。レベル3の円筒座標系2次元解析を行った。
【0368】
デンドライト間の液相流れを支配する透過率を求めるための(28)式におけるデンドライト比表面積Sbに関する補正係数αについては、計算から求めた凝固温度区間(1453−1327=126℃)の平均冷却速度(℃/min)を用いて、(71)式で示されるように、合金成分が近似している1C−1.5Cr鋼のデンドライトアームスペーシング(das)の測定値(文献(23))と一致するようα=1.2とした。
【0369】
【0370】
タンディッシュからは一定温度の溶鋼が連続して注湯されているため、メニスカス表面からの放熱は無視した。
【0371】
通常、上部の溶鋼プールにおける液相の流れはノズルからの吐出流、溶鋼プール内の温度差による対流などの影響を受け、複雑な流動パターンを生ずる。しかし流れは乱流的であり、溶鋼プール内の温度差も小さくなる。また、鋳造方向に長く伸びた固液共存相における液圧降下の挙動に対して液相プール内の流れの影響は無視してさしつかえない程度に小さいものである。そこで、本発明の目的である内部欠陥の問題に焦点を絞れば、必ずしも溶鋼プール内の流れを詳しく解析する必要はない。以上の諸点から、溶鋼プール内については、計算時間が長くなる運動方程式を用いずに、Darcy式による解法を用いた。
【0372】
しかし、Darcy式による解では溶鋼プール内の流動は極めて小さく、対流による温度拡散は小さくなる。そこで、これを修正するため液相領域及び固相率が0.05より小さい固液共存範囲について熱伝導率を見かけ上、液体の熱伝導率の5倍とした。この方法は連続鋳造の温度計算の際によく用いられている方法である(文献(24))。
【0373】
図17に示されるように、Darcy流れを考慮することによりした中心部における凝固開始点が早まり、上流からのより高温のDarcy流れの影響を受けて固液共存相が長くなっているのが判る。これは、実際の凝固現象と一致するものであり、巨視的スケールにおいてもDarcy流れ解析が必要であることが明白である。
【0374】
数値解析の境界条件としては、図18(b)に示されるように、鋳型部の熱伝達係数hを0.02から0.01へ階段状に変化させブレークアウトを防ぐよう設定した。
【0375】
また、水噴霧(ミスト)を行う2次冷却帯においては、凝固シェルの表面温度をなるべく均一にするよう1125℃に設定した。このときhは応答として求めることができる。
【0376】
さらに、図18(b)、(d)に示されるように、輻射による冷却能がミスト冷却能を上回る位置で、境界条件をミスト冷却から自然輻射冷却へ切り変える。
【0377】
図18(a)に示されるように、Gsが0.2以下の低固相率では液圧Pはほぼ直線的(すなわち静圧分布)に増加している。これは、固相率が低い場合には液相の圧力降下は極めて小さく、上流側にある固液共存相の始点がある程度変化しても高固相率側での液相の圧力降下に影響を及ぼさないことを意味している。
【0378】
このことから、溶鋼プールでの運動方程式による厳密な流動解析は行わなくてもよいことが判る。
【0379】
Darcy流れは最大−2.8mm/sの下降流であり、上流に行くにつれて流れの巾が広がるので速度は減少する(川の流れと同様)。
【0380】
上部溶鋼プールで上昇流が見られるのは側面より中心部の温度が高いために生じた自然対流である。
【0381】
体積力(重力による自重)Xの変化を図18(c)に示す。クレーターエンド側で自重が小さくなっているのは、液相中のFeより軽い溶質元素(Ni以外の全元素)の濃化の影響が温度降下の影響よりも大きくなり液相密度ρLが小さくなるためである。
【0382】
連続鋳造において、Darcy流れを生ぜしめる駆動力は凝固に伴う収縮であり、図12(a)に示した如くほぼ一様に下流方向に向く。
【0383】
図21に示されるように、クレータエンドに近いほど流路は狭くなり半径方向の流速は鋳造方向の速度に比べて次第に小さくなる。
【0384】
各合金元素の偏析は計算誤差以内(数パーセント)であり、実質的に偏析は無いとみなすことができる。
【0385】
Darcy流れに関する透過率Kは液圧降下を評価するに際して重要な要因の一つである((27)あるいは(30)式)。K式中のデンドライトセル径dについて本発明では(29)及び(31)式によって与えられる2つの式を示した。図22にこれらの式より求めたデンドライトアームスペーシングを示す。(28)及び(29)式を用いた図22中の(a)では表面で最も小さく内側に行くに従って大きくなるが中心部では逆転して小さくなっている。これはクレータエンドに近づくとシェル厚が急速に厚くなることから判るように(図18(b)参照)、凝固末期に凝固が加速されるためである。このことは、(28)及び(29)式より偏析がない場合、dはgS
よって最終的に中心要素のdが小さくなることが判る。一方、(31)式を用いた図22中の(b)では局所凝固時間tfは中心部で最大となるのでデンドライトアームスペーシングも中心で最大となる。
【0386】
凝固後半から末期にかけての加速凝固は大型鋼塊ではより明瞭に現れるが鋼の連続鋳造(文献(25))においても認められる一般的な現象である。肉厚方向のデンドライトアームスペーシングの分布に関して、直径203mm、鋳造速度0.11m/minの6063アルミニウム合金の連続鋳造においても、中心部のデンドライトアームスペーシングが小さくなっていることが報告されている(文献(26))
【0387】
A−2.内部欠陥の発生領域
【0388】
ガス圧Pcoは、図16(a)に示されるように、固相率の増加と共に最大0.9atmまで増大する。一方、(69)式における「−2σLG/r」は本実施例の場合、約−1.2atmまで(負の値が)増大している。従って、圧力降下の大きい高固相率側での液圧がP(絶対圧)=0.9−1.2=−0.3atm以下にならなければポロシティは発生しない。
【0389】
ポロシティ生成後の液圧P,ガス圧Pco及びポロシティ体積率gVの関係は、(69)式ならびに(36)〜(45)式の一連の関係を満足するように調節される。また、ポロシティが存在する状況でもDarcy流れを考慮している。
【0390】
このようにして中心部約6cmの範囲(直径の20%)にわたって5〜10体積%のポロシティを生じることが予測できる。
【0391】
以上より、内部欠陥発生の有無を判定する臨界圧力としては、安全側へ見積もって1atmという値が得られる。そして、メニスカス表面を0とした相対値で考えると、固液共存領域での液相の圧力が0atm以上ならば内部欠陥を生じないと予測できる。すなわち、図19に示されるように、メニスカスからの距離が20m付近でポロシティが発生すると予想できる。
【0392】
A−3.印加電磁体積力の算出
【0393】
垂直型の丸ビレット連鋳における電磁ブースターの概略図を図23に示す。
【0394】
電磁体積力(Lorentz力)は(51)式よりX方向の一様な直流磁束密度Bxと中心部の固液共存相を通るy方向の直流電流密度Jyの積として、(72)式で与えられる。
【0395】
【0396】
図18(a)のP分布及び所要電磁体積力(Lorentz力)の計算値((67)式)を参考にしてPが0となる位置より上流側の近傍からクレータエンド、すなわち、
力の8倍)の電磁体積力(Lorentz力)を印加した。
【0397】
数値解析の結果、固液共存領域の長さ16.05m、Zmaxが21.0m、Pmaxが−0.03atmであった。
【0398】
すなわち、図24に示されるように、クレータエンド近くの液圧降下が緩和されて正圧(絶対圧約1atm)に保持されており、ポロシティは発生しない。
【0399】
このことから、上記の値以上の電磁体積力(Lorentz力)を印加することによって内部欠陥のない連鋳品を製造できる。
【0400】
電気抵抗ρが断面内で一定のときは、電極間の最短距離、すなわち、両極を結ぶ中心線近傍において電流密度は最大となる。しかしながら、電気抵抗ρは温度の関数であることから、電極は図2(c)に示されるような機構を用いるのが最適である。
【0401】
垂直型ビレットあるいはブルームの連鋳においては、幅の広いスラブ連鋳で必要とされる多数の支持ロールは一般に用いられない。しかしながら、鋳片に軽微な圧下勾配を付与することによって液圧降下を緩和し、これによって所要電磁体積力(Lorentz力)を軽減することができるので、図2(d)に示されるように、丸ビレットと剛性フレーム1との間にロールを配置して軽圧下勾配を付けるのも効果的である。
【0402】
B.厚板スラブの垂直曲げ型連続鋳造の場合:
【0403】
第2の実施例は、図1に示されるように、溶鋼表面を所定の形状で凝固させて凝固シェルを得るための水冷銅鋳型5と、溶鋼を流入するためのレードル出口2と、レードル出口2からの溶鋼をノズル4を介して水冷銅鋳型5に一定速度で供給するためのタンディッシュ3と、水冷銅鋳型5を通過した鋳片6を曲げるための複数の曲げロール7と、曲げロール7を通過した中編6を水平にするための複数の矯正ロール8と、矯正ロール8を通過した鋳片6内部の固液共存部に電磁体積力を印加するための電磁ブースター1とから構成されている。また、電磁ブースター1は、操業データ等に基づいて、印加する電磁体積力の大きさと位置を算出する演算手段を具備している。さらに、この演算手段は、リアルタイムで変化する操業データに基づいて演算手段での数値解析データを補正するとともに、オぺレータルームに設置されている表示手段12に連鋳品の凝固過程をリアルタイムで表示する補正手段を具備している。すなわち、検出部9は操業パラメータの入力信号を取り込む装置、コンピュータシステム10は検出部からの操業データに基づいて凝固過程の数値演算処理を行い操作部11を介して制御対象である連鋳機本体に操作量をフィードバックする機能を有している。また、表示装置12により凝固状況を随時監視することができる。
【0404】
図2(a)において、ベクトルBは直流磁場の磁束密度(Tesla)を示し、ベクトルJは直流電流密度(A/m2)を示し、ベクトルfは電磁体積力(Lorentz力)(N/m3)を示す。
【0405】
図2(b)及び(c)は、直流磁場と直流電流を用いる場合の電極及び電極機構の1例を示しており、直流回転電極1cは鋳片1b側面に対してバネによって軽く押付けられ引抜き速度に合わせて回転する。あるいは電極をバネで固定し鋳片に対して摺動させる方法を用いてもよい。
【0406】
また図2(d)は、直流磁場と直流電流による電磁体積力(Lorentz力)を印加すると同時に、固定軸1eのまわりに軽く圧下することにより軽圧下勾配を与える機構を示している。
【0407】
さらに図2(e)に示されるように、図2(d)に示した装置を1ユニットとし、当該ユニットを複数個配置することも可能である。
【0408】
海洋構造物用鋼などの厚板高級鋼の中心欠陥は割れの起点となり、しかも品質劣化の原因となるので、品質を左右する重要な問題として従来から精力的に研究されている。
【0409】
中心偏析は凝固温度範囲の大きい炭素量の高い鋼ほど顕著に現れる。そこで本実施例では炭素濃度0.55(wt%)のJIS S55c (AISI 1055)を選んだ。この鋼には、他に0.2%Si、0.75%Mn、0.02%P、0.01%Sを含んでいる。
【0410】
B−1.凝固過程の数値解析
【0411】
2元平衡状態図に基づいて、非線形多元合金モデルによって求めた温度と固相率の関係を図15(b)に示す。
【0412】
物性値を表2及び表3に示す。0.55%炭素鋼の比熱C(ca1/g℃)と熱伝導率λ(cal/cms℃)の温度変化を図25に示す。
【0413】
脱酸剤はSiとした。また、表3に示されるように酸素含有量は0.003wt%とした。
【0414】
垂直曲げ型連鋳機の仕様と操業条件は図26(b)に示されるように、鋳型長さ1.2m、鋳型を含む垂直部の長さ3m、曲げ半径8m、スラブ寸法として厚さ220mm幅1500mm、鋳造速度1m/min)鋳造時の溶鋼過熱度15℃とした。
【0415】
連鋳機の各寸法及び操業条件は世界的に見て大きな差はなく、本明細書における設定値及び繰業条件は典型的な値である。
【0416】
スラブは曲げロール部及び矯正ロール部を通過する際に曲げ変形を受けるが、スラブ厚さに比べて曲率半径は充分大きいので単純曲げ変形と見なすことができる。すなわち、中立軸の位置は不変と見なすことができ、鋳造方向の歪みεzの最大値は表面においてεz=110/8000=1.375%となる。
【0417】
そこで、曲げロール部においては、図26(b)に示されるように、5段にわたって徐々に曲げていき、合計で1.375%(すなわち約0.275%/1段)の歪みとなるよう曲率半径を設定した。矯正ロール部における曲げ戻しについても同様である。
【0418】
数値解析の領域は図26(c)に示されるように、曲げによる非対称性を考慮して全肉厚を19等分した(分割幅△x=22cm/19)。また鋳造方向の要素分割長さは△z=10cmとした。レベル2及び3の直交曲線座標2次元解析を行った。
【0419】
(28)式におけるデンドライト比表面積Sbに関する補正係数αは1、すなわち補正なしとした。
【0420】
表面熱伝達率H(cal/cm2s℃)は、図27(b)に示されるように、メニスカ
で0.015、Z≧3mで0.010と設定した。
【0421】
図27(b)にシェル厚の変化を、図27(d)にスラブ表面温度を示す。
【0422】
固相率gSが0.2で早くも液圧降下を生じており、0.6以上になると液圧降下は急激に大きくなり、クレータエンドで−4.7atmの負圧になっている。これは図27(c)に示されるように透過率Kが急速に小さくなるためである。重力の鋳造方向成分XもZが16m以上では0であり自重による押湯効果はない(図27(c))。
【0423】
B−2.内部欠陥の発生領域
【0424】
図28に示されるように、Zmaxが18.4mの時は、固液共存領域の長さは8.5mであり、Pmaxは−0.3atmとなる。ここでは、中心部約11mmの範囲(肉厚の5.2%)にわたって8vo1%のポロシティを生じている。ポロシティの大きさは50μmである。この中心部においてポロシティを伴った偏析が生じる。
【0425】
B−3.印加電磁体積力の算出
【0426】
ポロシティが発生しないものとして算出した圧力と速度場に基づいて、ポロシティを生じさせないための圧力分布を任意に与え、(67)式からXz(重力のZ方向成分+Lorentz力)を算出し、電磁体積力(Lorentz力)分布を求めた。
【0427】
電磁体積力(Lorentz力)分布に基づいて、圧力降下が急激に大きくなるメニスカスからの距離Zが18m以上の範囲で次のように設定した。
【0428】
Z=18.0〜18.6m間において、スラブ厚さ方向の直流磁束密度をB=0.7(T)、及びスラブ幅方向の直流電流密度をJ=1.47x106(A/m2)とし、鋳造方向にf=JxB=1.029x106(N/m3)(15G,重力の15倍)の電磁体積力(Lorentz力)を印加する。
【0429】
このために必要なスラブの解析幅方向(0.01m)の両端電位差を次式から求める。
【0430】
E=Jx0.01/σ=1.47x106x0.01/7.0x105=0.021(V)
【0431】
ここで、電導率σは固液共存相における平均値である。通常、図32に示されるようにσは温度によって変化するが、温度差の小さい中心部固液共存相内では変化は小さい。
【0432】
電磁ブースターは、図26(a)に示されるように、矯正ロール後方の水平部に設置する。
【0433】
また、電磁体積力(Lorentz力)の印加範囲を大きくして電磁体積力(Lorentz力)を小さくしてもよい。
【0434】
上記電磁体積力(Lorentz力)を印加した場合について数値解析を行った。
【0435】
図29(a)に示されるように、クレータエンドでの液圧は−0.11atm(絶対値で0.89atm)に緩和され、ポロシティは生じない。中心偏析も数%と計算誤差のレベルであり実質的にないとみなすことができる。
【0436】
全体の凝固プロフィール及びクレータエンド近傍のDarcy流れ分布を図30に示す。図30に示されるように、電磁力を印加した領域及び矯正曲げ領域においても流れパターンは正常である。
【0437】
通常、矯正帯では肉厚中心を境にして自由側(曲率の内側)で引張り、固定側(曲率の外側)で圧縮変形となり、自由側では肉厚減少によって液相が絞り出される結果(固定側ではこの逆)、液相は自由側から固定側へ流れる。
【0438】
しかしながら、本実施例では、曲げ戻しによるこのような外乱は見られなかった。これは曲げ歪み量が1.4%(表面におけるεzmax)と小さいことに加えて、中心部ではさらに小さくなるためである。
【0439】
以上から矯正ロール部での変形が単純曲げに近いとすると偏析に対する影響はないと言ってよい。
【0440】
図29(c)に示されるように、電磁体積力(Lorentz力)印加ゾーンでジュール熱の発生が若干認められる。クレータエンド長さZmaxが18.6mから19.0mへ40cm長くなっているのはこのためである。
【0441】
電流密度Jと磁束密度Bの積(正確には両ベクトルの外積)が一定のとき電磁体積力(Lorentz力)fも一定になる。しかしながら電流密度Jが大きすぎるとジュール熱によってスラブ中心近傍が再溶解するので、操業上、磁束密度Bを大きくし電流密度Jをできるだけ小さくすることが望ましい。一方、磁束密度Bを大きくするためにはコイルの巻数Nとコイル電流Iの積NI(起磁力)を大きくしなければならない。この両者の影響を勘案して電流密度Jと磁束密度Bを決めればよい。通常の電磁石ではB=1テスラ程度が限界であるので、これより大きくなる場合は超電導磁石を用いるのがよい。
【0442】
そこで磁束密度Bを0.5(T)まで下げ、電流密度Jを1.029x106(A/m2)へ増加して電磁体積力を等しくし、ジュール熱の影響を検討した。
【0443】
数値計算の結果、固液共存領域の長さ9.4m、Zmaxが19.3m、Pmaxが0.78atmであった。
【0444】
図31に示されるように、磁束密度Bが0.7(T)の場合に比べてジュール熱の影響がさらに大きくなりZmaxが18.6mから19.3mへ70cm長くなっている。また、クレータエンドでは0.78atmの正圧に保持されており欠陥は生じておらず、この程度のジュール熱の発生では問題ないことがわかる。しかしながら、さらに電流密度Jを増加させ、中心部が再溶解してしまうような極端な場合は、再び凝固するまでに時間がかかり、固液共存相も長くなるので圧力降下が再度生じ電磁力を印加する意味がなくなってしまう。
【0445】
以上より、磁束密度を大きくし、電流密度は低めにするのがよい。そして、高磁束密度を発生できる超電導磁石を用いるほうが、スペースの節約、経済性等の観点からも有利といえるだろう。
【0446】
また、本実施例ではスラブ側面の肉厚方向全断面に直流電流を印加したが、実際には電磁体積力(Lorentz力)を必要とする肉厚中心部近傍にのみ通電してやればよい。これによって全電流を小さくしジュール熱の発生を小さくすることができる。
【0447】
以上より厚板スラブに対しても内部欠陥を解消することができる。また、演算手段と補正手段は、連鋳機に設置されている各種センサーや計測装置からの操業データに基づいて連鋳品の凝固状態を算出し、表示手段にリアルタイムでグラフイック表示を行う。これによりオペレータは、視覚的に操業状態を正確に把握することが可能となる。
【0448】
C.厚板スラブの垂直曲げ型連続高速鋳造の場合:
【0449】
一般に、連鋳機当りの月間生産量(トン)で表される連鋳機の生産性は非稼働時間、鋳造準備時間、断面寸法、鋳造速度等によって決まる。これらのうち、生産性の向上においては、連鋳品の品質と密接に係っている断面寸法及び鋳造速度が重要項目である。
【0450】
断面寸法を大きくするのは冶金的観点から問題が多く、あまり得策とは言えないため、鋳造速度を上げることに大きな努力が払われている。
【0451】
そこで最近ますます高速化が志向されるスラブ連鋳に対して本発明を適用した場合について述べる。
【0452】
C−1.凝固過程の数値解析
【0453】
連鋳機の仕様及び繰業条件は、鋳造速度を2m/minとしたことに対応して冷却条件を変更する以外はすべて第2の実施例と同じとする。
【0454】
数値解析を行った結果、固液共存領域の長さ12.6m、Zmaxが31.2m、Pmaxが−1.15atmであった。
【0455】
C−2.内部欠陥の発生領域
【0456】
図34に示されるように、中心部35mmの範囲(肉厚の16%)で約5から15vol%のポロシティを生じている。そして、ポロシティの大きさは約60から65μmである。
【0457】
C−3.印加電磁体積力の算出
【0458】
数値解析の結果から、ポロシティを無くすためにはZ=30.2〜33.1m範囲で平均22G相当の電磁体積力(Lorentz力)を必要とすることが判明した。
【0459】
そこで負圧になる領域で以下のように2つのゾーンに分けて電磁体積力(Lorentz力)を印加した。
【0460】
(1)第1ゾーン:
【0461】
メニスカスからの距離Z=30.2〜31.7mの間に15G相当の電磁体積力(Lorentz力)を印加する。このため、直流磁束密度Bは1.33(T)、直流電流密度Jは7.775x105(A/m2)、スラブ解析幅方向電位差EはJx0.01/σ=0.0111(V)と設定した。
【0462】
(2)第2ゾーン:
【0463】
Z=31.7〜33.1m間に34G相当の電磁体積力(Lorentz力)を印加する。このため、直流磁束密度Bは3.0(T)、直流電流密度Jは7.775x105(A/m2)、スラブ解析幅方向電位差Eは0.0111(V)に設定した。
【0464】
数値解析の結果、図35に示されるように、固液共存領域の長さ14.8m、Zmaxが33.4m、Pmaxが−0.16atmであった。
【0465】
クレータエンドにて液圧P=−0.16(atm) (絶対圧0.84atm)の正圧に保持されておりポロシティの発生はない。
【0466】
クレータエンド長が33.1mから33.4mへ30cm長くなっているのはジュール熱の影響によって凝固が少し遅れたためである。
【0467】
本実施例では鋳造方向2.8mの範囲に亘り、平均22Gの電磁体積力(Lorentz力)を必要としたが、設備上あるいは経済上の観点から適用範囲及び所要電磁体積力(Lorentz力)を小さくすることが望ましい。
【0468】
そこで次に考えられる論理的な手段として、図7(d)に示されるように、磁気引力を利用した軽圧下を補助的に用いて液圧降下を緩和し、所要電磁体積力(Lorentz力)を軽減することを試みた。
【0469】
準備として、軽圧下の効果を調べるための数値解析を行った。
【0470】
(1)圧下量分布δの算出
【0471】
凝固収縮を完全補償するに必要な圧下量分布δを求めるに当たって、肉厚中心要素の固相率gsが0.1(任意でよい)となる位置(この場合Z=25m)を基準として(δ=0とする)、固液共存相における凝固収縮体積量を求め、これがスラブ肉厚方向の圧下量δに等しいとして求めた。すなわち、△t間における圧下量増分△δは(73)式で求めることができる。
【0472】
【0473】
要素の体積であり、添字iはある横断面の肉厚方向における固液共存要素を示す
【0474】
図36(a)に示されるように、Z=25mの位置を基準とすると、メニスカスから33.1mの位置では、δ=1.06mmとなる。
【0475】
(2)圧力降下の算出
【0476】
次に、当該圧下量分布を参考にして実際の圧下勾配を決定した。
【0477】
すなわち、図36(b)に示されるように、メニスカスから31mの位置での圧下量を0、クレーターエンドでの圧下量を0. 1mmとする軽圧下を印加した場合と、メニスカスから32mの位置での圧下量を0、クレーターエンドでの圧下量を0.06mmとする軽圧下を印加した場合とについて数値解析を行った。
【0478】
図36(c)に示されるように、軽圧下を印加することによりクレータエンド近傍の圧力降下が緩和されている。
【0479】
(3)電磁体積力に及ぼす軽圧下の効果
【0480】
メニスカスから30.8mの位置での圧下量を0、クレーターエンドでの圧下量を0. 1mmとする軽圧下を印加するとともに、当該範囲に8G相当の電磁体積力(Lorentz力)を印加した場合について数値解析を行った。
【0481】
図37に示されるように、固液共存領域の長さ14.6m、Zmaxが33.2m、Pmaxが5.1atmであった。欠陥が発生しない条件を満足している。
【0482】
電磁体積力(Lorentz力)のみを印加した場合に比べて適用範囲(鋳造方向)は50cm短くなり、必要とする電磁体積力(Lorentz力)も約1/3へ減少しており、極く軽くスラブに圧下勾配を付与するだけで効果の大きいことがわかる。
【0483】
従来の軽圧下法による圧下勾配は凝固収縮を完全に補償することをねらっているため、固液共存相における歪みがある限界以上になるとデンドライト結晶が機械的に破壊され高溶質濃度の液相が吸引され内部割れを生ずる可能性が指摘されている(文献(27))。
【0484】
一方、本発明では、圧下量が小さく(従って上記限界歪み以下であり)、あくまで圧力降下を緩和するための補助的な手段として用いるものであり、電磁体積力(Lorentz力)の印加によるデンドライト間液相補給が主役を演ずるものであるため、内部割れの心配はない。
【0485】
また、石油及び天然ガスの輸送に用いられる大口径輸送管(ラインパイプ)は地中、海底、寒冷地など苛酷な環境で使用されるので強度はもちろん靭性及び種々の破壊特性に優れた性能が要求される。
【0486】
侵入し、連続鋳造時に形成された中心欠陥(最終製品に残留する)にトラップされるといわゆるHIC(水素誘起割れ)を発生する。
【0487】
海底輸送管のHICによる事故をきっかけにして特に重要視されるようになった(文献(28))。
【0488】
HICに対して現在行われている対策例は、連鋳品に生ずる中心偏析及びポロシティを不可避的な現実として容認し、合金成分を調整することによってHICをなくそうとするものである。例えば文献(29)では、HIC発生に顕著な影響を及ぼすC,Mn,Pに着目し、次式(74)で与えられるHIC感受性パラメータPHICが0.6以下になるように成分調整を行っている。
【0489】
【0490】
であり、SMは合金元素Mの偏析度(>1)を表す。
【0491】
【0492】
この判定基準によって、例えば、API(アメリカ石油協会)規格X65級(65は耐力65000psi(448MPa)以上の意味)の強度要求を満足するための一手段として、C=0.03、P=0.004(wt%)とごく低めに抑えるとともにCu、Ni等他の元素についても厳しく成分管理を行い、さらに加工熱処理技術に特別の工夫を凝らしている。この時のHIC受性パラメータはPHIC
【0493】
ちなみに実施例2及び実施例3で用いた0.55%炭素鋼の場合、本発明によって偏析はないものとすると、PHIC=0.715となる。C量のみ0.20%とすると、PHIC=0.365へ減少する。(ただしこれらの評価にはCu、Ni、Cr、Mo、Vの微量添加元素は含まれていない)。このことは、偏析がなくなれば、上述のような厳しい成分管理等は不要となり合金成分バランスについて取り得る自由度が大巾に拡大することを意味する。
【0494】
当該輸送用鋼管に対してはX70級(耐力70000PSIまたは482MPa以上)やX80級(耐力80000PSIまたは551MPa以上)を越える強度の要求が高まり、同時に耐HIC性だけでなく耐SSC性(硫化物応力割れ)や溶接性に対する要求も年々厳しくなっている状況を考えると、成分バランスに対する自由度が拡大することの意味は大きい。次々に高強度材料が開発されている現在の技術レベルから判断して、上記の品質要求に応えることは容易に達成できると言ってよい。
【0495】
つまり、本発明を適用し中心欠陥を完全に無くすことによってこのような厳しい要求に充分応えることができる。
【0496】
温変態線図(TTT図)より次のように定めた。
【0497】
【0498】
図38に示されるように、(50)式及び(76)式を用いて得られたTTT図は測定値と概略一致している。本実施例の場合、表面温度は540℃まで低下しており、メニスカスからの距離Z=18.7〜22.5m間の表面要素(厚さ11.6mm)では、100%パーライト変態を生じた。図33(d)に示されるように、表面温度Tsの再上昇はパーライト変態潜熱によるものである。
【0499】
パーライト変態を生ずると鋳片表面層は磁性を有するようになるので静磁場によって磁気を帯びる。従って超電導磁石等の設計の際、これによる種々の相互作用、例えばスラブ中心における磁束密度への影響等を考慮に入れる必要がある。
【0500】
ここで、空心型の超電導磁石を用いる場合にコイル間に働く引力について検討した結果について述べる。
【0501】
図39(a)に示されるように、コイルは円形とし、それぞれのコイルを流れる全電流I(=コイル電流×巻数)は1本の点電流と仮定した(実際は有限の断面積を持つ)。鋳片は両コイル間に存在するが、簡単のため空気と同じと見なした。このとき、中心軸のZ=b/2の位置におけるZ方向の磁束密度BZは次式(77)で与えられる。
【0502】
【0503】
ここにμoは真空の透磁率であり、4πx10−7(H/m)という値を持つ。一方、コイル1の作る磁界によってコイル2の電流が受けるZ方向の力は次式(78)で与えられる。
【0504】
【0505】
ここにBrはコイル2上の磁束密度のr方向成分であり、ベクトルポテンシャルAθ(θ方向成分)を用いて次式で与えられる。
【0506】
【0507】
(Aθに関しては例えば、山田直平他2名:電磁気学例題演習(1970)、P.159〔コロナ社〕を参照されたい。)
【0508】
図39(b)に示されるように、コイル間距離が大きくなるにつれてコイル間圧力P(FZをコイル断面積で割った値)は低下するが、Bzが大きいほど顕著に低下する。但し、ここでは、a=0.8mに固定して計算している。
【0509】
以上の計算では、実際の操業を想定したパラメータを用いており磁束密度すなわちコイル電流とコイル間距離を制御することによって鋳片にかかる圧力を広範囲にコントロールすることが可能であることを示すものである。
【0510】
固液共存相におけるデンドライトスケルトンの強度が概略数Kg/cm2から50Kg/cm2程度(文献(27)のp.72)であることを考慮すれば、コイル間引力を利用して極く小さい圧下勾配を付与することが可能であることがわかる。例えば本実施例の場合、軽圧下範囲Z=30.8〜33.1mにおいて中心部の固相率gSは0.65以上でありデンドライトスケルトン強度から判断して、コイル間距離を0.6mとしB=1〜2(テスラ)程度で所定の軽圧下勾配を付与することは可能である。
【0511】
また、実際の適用に際しては、図40に示されるように、電磁ブースターを実装した実機において、あらかじめ磁気引力と圧下勾配の関係を実験的に求めておき、必要圧下勾配に対する磁気引力を付与すればよい。当該軽圧下は液圧降下を緩和する補助的手段として用いるものであるため、厳密に制御する必要はなく、ある程度の範囲内に入るように磁気力を制御すればよい。
【0512】
以上の説明から、本発明では、実施例にて取り挙げた垂直丸ブルーム及び垂直曲げスラブ連鋳以外のすべての連鋳法、すなわち、垂直曲げブルーム及びビレットならびに曲げ型スラブ、ブルーム及びビレットなどの従来の連鋳の他に、最近注目されている50mmあるいは60mm程度の肉厚を有する薄スラブ連鋳、さらにH型等異形断面形状を有するいわゆるnear−net−shape連鋳法、さらに異鋼種複合連鋳法などにも適用できる。
【0513】
その理由は、鋳片横断面における最終凝固部固液共存相における鋳造方向のデンドライト間の液相圧力降下に着眼し、ポロシティ発生の臨界圧力以上に当該液圧を保持することによって中心欠陥(偏析及びミクロポロシティ)を完全に無くすことが可能であるという本発明の原理がこれらすべての連鋳プロセスに対して普遍性を有するからである。
【0514】
また、凝固収縮によって誘起される中心部の鋳造方向へのデンドライト間液相流れは合金一般に共通する物理現象であるため、本発明は鋼の種類を問わずすべての鋼種、すなわち、炭素鋼、低合金鋼、ステンレス鋼等々に適用できる。アルミニウム、銅等の非鉄合金の連鋳についても同様である。
【0515】
本発明は、電磁体積力(Lorentz力)のみ単独で印加する方法、及び電磁体積力(Lorentz力)と磁気引力を利用した軽圧下を組み合わせる方法によって構成されるが、いずれを適用する場合でも、凝固のタイミング、すなわち、適用すべき位置(メニスカスからの距離)を誤ると効果は期待できない。
【0516】
例えば、ポロシティ発生臨界圧に達する位置よりも下流側(メニスカスから遠ざかる位置)で電磁体積力(Lorentz力)を印加しても、V状ポロシティはすでに発生しており、図12(b)に示されるように、V偏析を形成する流れ(周囲の低温部から中心高温部への流れ)をさらに助長することになるので、電磁体積力(Lorentz力)の程度によっては逆にもっとV偏析を生成するか又は全く効果が得られない場合がある。
【0517】
逆に臨界圧位置より上流側すぎると圧力上昇を必要としない部分での液圧を無駄に上昇させ、最も液相補給を必要とするクレータエンド近傍への効果が小さくなるので好ましくない。
【0518】
また、位置が適切であっても電磁体積力(Lorentz力)が小さすぎて、臨界圧力以下になると、欠陥の生成を助長させる恐れがある。
【0519】
従って、臨界圧位置及び必要な電磁体積力(Lorentz力)を定量的に正確に知ることが極めて重要である。しかしながら、当該臨界位置を物理的計測によって直接知ることは不可能であり、まして所要電磁体積力(Lorentz力)分布を実験的手段によって知ることは不可能である。これが発明を構成する要素として本発明者が開発した数値解析を必要とする理由である。
【0520】
電磁体積力(Lorentz力)を印加する方法として本明細書の実施例で述べたように、直流磁場と直流電流を用いる方法とリニアモーター型電磁推進力を用いる方法がある。どちらの方法を採用するかは、図7および図23に示されるように、鋳片の横断面形状(スラブ、ブルーム、ビレットあるいは異形断面)、連鋳機プロフィール、必要とする電磁体積力(Lorentz力)の大きさ等を考慮して最もふさわしい方法を採用すればよい。
【0521】
また、電磁ブースターによって発生する電磁体積力(Lorentz力)は鋳片の引抜き力として利用することができる。通常、曲げ型あるいは垂直曲げ型連鋳においては鋳片の矯正曲げによる引抜き抵抗、鋳片と鋳型壁間の摩擦抵抗等によって引抜き抵抗を受ける。例えば文献(31)では190mm×1490mm、鋳造速度1.5m/minのスラブ連鋳において約60tonの引抜き抵抗力を実機計測している。このような大きい引抜き抵抗力に対して充分な引抜き力を得るためには、ロールによる駆動トルクを鋳片に有効に作用させる必要があり、一般にマルチドライブ方式が採用されている。
【0522】
しかしながら、押付けによる摩擦力を鋳片に作用させる方式では、品質に対して何等かの影響を与えることが考えられる。例えばロールの押付力が大きいと凝固シェルを変形させ、内部クラックや偏析の原因となるのはその1つである(文献(31))。
【0523】
一方、本実施例で用いた電磁ブースターの能力を引抜き力の最大値Fmaxとして計算(Lorentz力の印加体積×密度×G倍率)すると、第2の実施例ではFmax=20.88ton、第3の実施例の電磁体積力のみの場合でFm ax=154ton(2zoneの合計)、第3の実施例の軽圧下を組み合わせた場合でFmax=5tonであり、所要引抜き力に概略匹敵する。
【0524】
従って、電流断面積を調節したり、磁束密度を大きくする等によって電磁体積力(Lorentz力)を調節し、引抜き抵抗力に匹敵する引抜き力を得ることができる。
【0525】
電磁体積力(Lorentz力)は静かに鋳片に作用し、これによってメニスカスからクレータエンドまでの品質上の重要な範囲では駆動ロールは不要となる。この間のロールは純粋に鋳片を支持するためだけに用いられるので、多くの駆動ロール装置を必要最低限の数まで大巾に減らすことができ、設備コストの削減に貢献すると共に品質に悪影響を及ぼす要因を減少できるという効果を生む。
【0526】
実際の連続鋳造に本発明を導入する場合の運用方法は次の通りである。
【0527】
(1) 当該数値解析による凝固シミュレーションと実連鋳機試験のすり合わせ(matching)を行う。本実施例で示した数値解析結果は当然のことながら誤差を伴うものである。
【0528】
誤差の原因の第一は計算に用いた鋳片表面の熱伝達率ならびに各種物性値データに関する精度である。本実施例で用いた物性値データは種々の文献を参照し妥当な値であるが多くのデータについて正確さを期することは難しい。
【0529】
第二はデンドライト結晶の形態に関するモデリングとこれによって決まる透過率Kに関する精度である。複雑なデンドライト形態のモデリングの妥当性については文献(18)において検証されているが、デンドライト結晶の成長方向と平行(Kpとする)及び垂直方向(KVとする)の透過率は異なることが知られている(文献(32))。KpとKVは冷却速度に依存するようである。しかしながら実用鋼のKpとKVの大小関係について信頼できるデータがないのが実情である。
【0530】
従って数値解析と実機試験とのマッチングに際しては上記二点のみを考慮すればよい。
【0531】
凝固シェル表面(あるいは内部)温度変化を実測することによって(例えば文献(33))、上記第一原因による誤差の補正ができる。現在、水噴霧などの冷却条件と表面熱伝達率の関係についてかなりのデータが蓄積されている。また、凝固シェル厚さ、クレータエンドの測定が可能となっているので正確な補正ができる。1例として、温度拡散度λ/cρによって補正する。
【0532】
第二の原因による誤差については、透過率K式(27)中のデンドライト比表面積Sb((28)式)に導入した補正係数αの他、当該K式に柱状デンドライトの異方性による影響を補正するパラメータαKを導入し、ポロシティ発生臨界位置について計算値と一致するよう、これらの補正係数を決めればよい。すなわち、凝固完了後の内部欠陥の状態(生成範囲、ポロシティの大きさなど)を観察し数値解析の結果と比較検討しながら臨界位置を絞り込んでいけばよい。
【0533】
各種の補正係数が決定されると、数値解析により内部欠陥を無くすための最適条件(即ち、電磁体積力(Lorentz力)を印加する位置、範囲、大きさならびに必要に応じて磁気引力による軽圧下条件等)を見出だすことができる。
【0534】
このようにして決定された最適条件は補正を行っているので、充分信頼できるものであり、また実際の操業の際には、安全側に設定値を取ることは言うまでもない。
【0535】
以上、連鋳品の内部欠陥問題に関して、本発明による解決方法を述べてきたが、内部欠陥はここで取り挙げた実施例に限らず、程度の差こそあれ、ほとんどすべての鋼種に生ずる問題であることを考えると、本発明はすべての連鋳プロセスに対して極めて広範囲の鋼種に適用される。
【0536】
最後に、本発明の効果を簡単にまとめると次の通りである。
【0537】
(1)内部欠陥(中心偏析及びポロシティ)を完全に無くすことができる。
【0538】
(2)高速鋳造を可能にする。
【0539】
(3)化学成分バランスの自由度が拡大する。
【0540】
(4)連鋳鋼種が拡大できる。
【0541】
(5)引抜き装置が省力化できる。
【0542】
特に、上記(2)項に関しては鋳造速度を2倍あるいは3倍に高速化することによって連鋳プラント数を半分に削減でき、その経済的効果は極めて大きい。磁場発生装置として建設費及び省スペースの観点から、通常の電磁石よりも超電導磁石が望ましい。また、ブルームに対してはレーストラック型のコイルを用いるなど鋳片の形状に適合した形を採用すればばよい。さらに操業条件の変化に対応してブースターの位置を移動できるようにしておくと便利である。
【0543】
以上より本発明による連続鋳造プロセスは、品質はもちろん、生産性、経済性に優れた新規なプロセスであると言える。
【0544】
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施例を示す構成図である。
【図2】図1の電磁ブースターの詳細を説明するための詳細説明図である。
【図3】溶質元素の再分布を説明するための説明図である。図3(a)はFeとある合金元素との平衡状態図を示し、図3(b)は平衡凝固型合金元素の場合の溶質濃度分布を示し、図3(c)は非平衡凝固型合金元素の場合の溶質濃度分布を示す。
【図4】非線形2元状態図の区分線形モデル化を説明するための説明図である。
【図5】デンドライト凝固モデルを説明するための説明図である。
【図6】ミクロポロシティの発生場所及びデンドライト間液相空間の大きさをを説明するための説明図である。図6(a)はポロシティの発生場所を示す。図6(b)及び(c)は液相空間の大きさを計算するためのモデルである。
【図7】数値解析で用いられる体積要素を説明するための説明図である。デンドライトは大きく拡大されている。VLはデンドライト間液相流速ベクトル、VSはデンドライト結晶の変形速度ベクトルを表す。
【図8】離散化の説明のために文献(20)のp.97より引用した説明図である。斜線部はcontrol volumeを表し、〇印で示した点はgrid pointと呼ばれる。controlvolumeの面e,w,n,sにおけるFe,Fw,Fn,Fsは物理量φの出入りを示す。
【図9】数値解析で用いた座標系を図9(a)に、離散化に関するトポロジーを図9(b)に示す。図9(b)における記号の意味は図8と同様である。
【図10(a)】数値解析における計算の流れを示すメインプログラムの概要フローチャートである。
【図10(b)】数値解析における運動方程式による解法の概要フローチャートである。
【図11】数値解析結果の妥当性を検証するための例として選んだ大型鋼塊(直径1m×高さ3m)の解析結果を説明するための説明図である。図11(a)は鋳造方案である。図11(b)は凝固の途中における等温度線の1例を示す(11.5時間後)。符号Sは固体、Mは固液共存相(Mushy zone)、Cは収縮孔(cavity)を意味し、破線はこれらの相の境界を表す。図11(c)は(b)と同時刻における等固相率線である。図中の数字は固相率(0〜1)を示す。図11(d)は全域が固液共存状態(M)になった4.28時間後の液相流れパターンを示す。流線密度の高い部分(中心部)は流速が大きいことを示す。流速の早い中心中央部で約3.5mm/sである。図11(e)は同じく、11.5時間後のデンドライト間液相流れパターンである。中心中央部流速は約0.1mm/sである。図11(f)及び(g)は凝固完了
以上、上部外周寄り(A偏析が現れる部分)で約5%の正偏析を生ずる。負偏析は下部中心近傍でもっとも大きく、外側及び上部に行くほど小さくなる(約−10%)。図11(g)は燐の場合であり、炭素と同じ傾向を示すが正負の偏析はもっと強く現れる。
【図12】数値解析により確認されたデンドライト間凝固収縮流れパターンを図12(a)に、V欠陥の模式図を図12(b)を示す。図12(a)において、流線密度の高い中心部は流速の大きいことを表す。鋳造方向への流れに比べて横方向への流れは極めて小さい。図12(b)はV字に沿って局所的(デンドライトスケール)に強い正の偏析(+)を有すると同時にミクロポロシティを伴うV状欠陥を示す。矢印は当該V欠陥に沿って流入するデンドライト間液相流れを表す。
【図13】現行の典型的な垂直型ビレット連鋳機の概略図である。Lは液相領域、Mは固液共存相、Sは固体部分を表す。
【図14】Fe−C状態図の線形化データを説明するための説明図である。
【図15】非線形多元合金モデルを用いて計算した温度と固相率との関係を示す説明図である。図15(a)はIC−1Cr軸受鋼(成分は表2参照)の場合であり、図15(b)は0.55%炭素鋼(成分は表6参照)の場合である。
【図16】デンドライト間液相中の平衡COガス圧に及ぼす酸素含有量の影響を説明するための説明図である。ただし、COガス気泡が存在しない場合である((49)〜(58)式参照)。図16(a)はIC−1Cr軸受鋼(成分は表2参照)の場合であり、図16(b)は0.55%炭素鋼(AISI1055、成分は表6参照)の場合である。
【図17】第1の実施例において、図17(a)は中心要素の温度T及び固相率gSの分布を示し、図17(b)は凝固シェル肉厚分布を示す(いずれも定常状態)。図中の(a)は単なる温度計算の場合であり、(b)はDarcy流れを考慮して、液相熱伝導率を見かけ上5倍にした場合を示す。
【図18】第1の実施例において、図18(a)は中心部の温度T,固相率gS、液圧P及びDarcy流速Vを示し、図18(b)は表面熱伝達率H及び凝固シェル厚を示し、図18(c)は中心部の透過率K及び体積力(自重あるいはLorentz力)Xを示し、図18(d)は表面温度TSを示す。
【図19】第1の実施例における数値解析の結果を説明するための説明図である。
【図20】第1の実施例における相分布を説明するための説明図である。Lは溶鋼プール、Mは固液共存相及びSは固相を示す。固相率1%以上をMとした。
【図21】第1の実施例における垂直型連鋳のクレータエンド近傍でのデンドライト間液相流れを説明するための説明図である。
【図22】第1の実施例における垂直型連鋳のデンドライトアームスペーシングを説明するための説明図である。図22(a)は(28)及び(29)式による理論式を、図22(b)は(71)式による実験式を用いた場合である。表面要素で両者が一致するように(28)式中の補正係数α=1.2とした。
【図23】第1の実施例における電磁ブースターを説明するための説明図である。図23(a)は概念構成図であり、図23(b)は水平断面構成図を示す。電磁体積力(Lorentz力)は垂直方向下向きに印加する。
【図24】第1の実施例において電磁体積力(Lorentz力)の効果を説明するための説明図である。
【図25】0.55%炭素鋼の比熱C(cal/g℃)及び熱伝導率λ(cal/cms℃)に関するデータを説明するための説明図である。
【図26】本発明の第2の実施例に用いた典型的な垂直曲げ連鋳機の概要を示す図である。曲げロール及び矯正ロール以外の支持ロールは図示しない。
【図27】第2の実施例において図27(a)は肉厚中心要素の温度T、固相率gS、液圧P及びDarcy流速Vを示し、図27(b)は表面熱伝達率H及び凝固シェル厚を示し、図27(c)は肉厚中心要素の透過率K及び自重あるいは電磁体積力の鋳造方向成分Xを示し、図27(d)は表面温度TSを示す。
【図28】第2の実施例における数値解析の結果を説明するための説明図である。
【図29】第2の実施例において電磁体積力(Lorentz力)の効果を説明するための説明図である。
【図30】第2の実施例において図30(a)に凝固のプロフィールを示し、図30(b)にクレータエンド付近のDarcy流れ分布を示す。符号Lは液相、Mは固液共存相、Sは固相を示す。メニスカスからの距離はスラブ肉厚中心軸に沿った値である。スラブは実際には曲がっているが表示の簡単のため長く伸びた長方形で示した。矯正ゾーンにおけるロールの位置を○印で示す。
【図31】第2の実施例において電磁体積力(Lorentz力)の効果を説明するための説明図である。
【図32】炭素鋼の導電率σ(1/Ωm)を示すための説明図である(日本鉄鋼協会編:鉄鋼便覧第3版、p.311より)。
【図33】第3の実施例における数値解析結果を説明するための説明図である。
【図34】第3の実施例における数値解析結果を説明するための説明図である。
【図35】第3の実施例において電磁体積力(Lorentz力)の効果を説明するための説明図である。
【図36】第3の実施例3において軽圧下効果を検討するために行った予備的計算結果を説明するための説明図である。図36(a)は正味の凝固収縮を補償するに必要な圧下量分布(中心部の固相率が0.1となる位置(25m)から下流側へ向かって計算した)を示し、図36(b)はクレータエンド近傍における直線圧下勾配を示し、図36(c)はこれらの圧下勾配に対して液圧降下の緩和を示す計算結果を示す。
【図37】第3の実施例において電磁体積力(Lorentz力)と軽圧下の効果を説明するための説明図である。
【図38】0.55%炭素鋼の等温変態線図を示す。図中の符号Aはオーステナイト、Pはパーライトを示す。実線は実験データ(文献(30))、破線は本明細書中の式(34)及び(76)による計算値である(文献(21)参照)。フェライト、パーライト及びベーナイトはCの拡散によって生ずるのでこれらをすべてC拡散型のパーライト変態と見なした。変態開始はPの体積率gP=0.01,終了はgP=0.99とした。
【図39】直流静磁場発生装置として超電導空心コイルを用いる場合、両コイル間に作用する引力を説明するための説明図である。図39(a)は円筒座標系(r,θ,z)の場合を示し、図39(b)は両コイル間の中心z=b/2における磁束密度Bzを1,2及び3(Tesla)に設定した場合の計算結果を示す(ただしa=0.8mに固定した)。Iはコイル電流、圧力P(Kgf/cm2)はコイル間引力をコイル断面積で割った値である。
【図40】第3の実施例において磁気力(引力)と圧下勾配(mm/m)との関係を説明するための説明図。変形は固体に比べ極端に強度の小さい中心部固液共存相のデンドライトスケルトンに集中的に生じ、力と勾配(即ち変位)の関係はわずかに非線形となる。
【図41】運動方程式の離散化(付録E参照)に用いられるstaggered gridを説明するための説明図である。図41(a)はX1(r)方向の、図41(b)はX2(Z)方向の、図41(c)はX3(Y)方向のstaggeredgridを示す。
【図42】従来技術による連続鍛圧法の概略図である。Anvilの圧下により固液共存相における液相が上流側へ排出される様子を示す。δは圧下量である。
【図43】鋳鋼の中心引け巣の形成を説明するための説明図である(文献14のp242)。
【図44】加圧鋳造実験装置を説明するための説明図である。
【図45】大気鋳造における温度履歴の実測値と計算値を示した説明図である。
【図46】大気鋳造品のマクロ組織を説明するための説明図である。
【図47】大気鋳造品におけるVパターンの顕微鏡観察組織である。
【図48】大気鋳造品におけるVパターン近傍のビッカース硬度変化を説明するための説明図である。
【図49】大気鋳造における数値解析によるポロシティの発生過程を説明するための説明図である。図49(a)は内部ポロシティを生じ始める注湯開始55秒後の固相率分布であり、図49(b)は凝固完了後のポロシティ分布を示す。
【図50】10atmの加圧鋳造品のマクロ組織を説明するための説明図である。
【図51】22atmの加圧鋳造品のマクロ組織を説明するための説明図である。
【図52】加圧鋳造の効果を数値解析により予測した結果を示す説明図である。図52(a)は大気鋳造(加圧なし)、図52(b)は10atm加圧及び図52(c)は20atm加圧鋳造した時の内部欠陥の体積率を示す。
【図53】文献(34)の鋼鋳物について加圧鋳造の効果を数値計算により予測した結果を示す説明図である。図53(a)は加圧しない場合、図53(b)は4.2atm加圧した場合のポロシティ体積率を示す。
【図54】内部欠陥が生ずるメカニズムを説明するための説明図である。
【符号の説明】
1 電磁ブースター
1a 高剛性フレーム
1b 鋳片
1c 直流回転電極
1d スプリング
1e 固定軸
1f 非磁性ロール
2 レードル
3 タンディッシュ
4 ノズル
5 水冷鋳型
6 鋳片
7 曲げロール
8 矯正ロール
9 表示手段
【産業上の利用分野】
本発明は、連続鋳造システムに係り、とくに偏析およびポロシティのない良質な鋼を得るのに好適な連続鋳造システムに関する。
【0002】
【従来の技術】
炭素鋼、低合金鋼、特殊鋼などいわゆる鋼の連続鋳造において現在の湾曲型連鋳機が稼動し始めて20年以上経過しており技術的に定着したと言われている。その一方、品質に関する要求は年毎に厳しさを増しており同時にコストダウンへの圧力がますます増大している。操業初期にしばしば問題となったブレイクアウト等の問題は別にして、品質上の重要な問題として、(1)中心偏析と(2)中心ミクロポロシティが残されている。
【0003】
中心偏析は肉厚中心の最終凝固部において周期性を有して生成するV字状の偏析であり、V偏析と呼ばれることが多い。
【0004】
中心ミクロポロシティも肉厚中心最終凝固部においてデンドライト間に生ずる微小な空隙である。
【0005】
本明細書では以降これらの欠陥をまとめて中心欠陥と呼ぶこととする。
【0006】
次に製品の品質に及ぼす中心欠陥の影響について簡単に述べる。
【0007】
(1)厚板の場合:
【0008】
中心欠陥に水素が凝集析出し、使用中に水素誘起割れと呼ばれる亀裂が生じる。また、溶接を行った場合には、中心欠陥を起点として溶接割れが生じる。
【0009】
(2)棒線材の場合:
【0010】
伸線加工時、ミクロポロシティが起点となり断線する。
【0011】
(3)薄板の場合:
【0012】
プレス成形時、あるいは冷間圧延時にバンド状の欠陥を生ずる。これは偏析により硬い部分と軟らかい部分が混在し、この硬度ムラによって生ずる。
【0013】
これらは連鋳における凝固過程で生ずる欠陥であり不良品となる。
【0014】
凝固過程で生じた偏析は最終製品まで残り、途中の工程で解消することはできない。一応、熱処理によってマクロ偏析を拡散および解消する方法もあるが、これには高温での長時間処理を必要とするので熱経済及び技術的に好ましくない。
【0015】
また、ミクロポロシティは熱間圧延でつぶすことはできるが、完全に無くせるかどうかはポロシティの量に依存する。さらに、ミクロポロシティは多くの場合偏析を伴っていることにも注意する必要がある。
【0016】
このように中心欠陥は凝固現象の本質に関わる問題であるが、ノウハウの蓄積あるいは試行錯誤的改善手段では解決は難しいというのが現状である。
【0017】
これら中心欠陥は程度の差こそあれ、スラブ、ブルーム、ビレットのすべての鋼種に共通する連鋳開始当初から存在する古くて新しい問題である。
【0018】
次に内部欠陥を改善するために現在まで行われてきた対策について、重要な技術について述べる。
【0019】
(1)バルジングの防止
【0020】
板幅の広いスラブにおいて支持ロールピッチ間の凝固シェル、すなわち鋳片の固体部分が溶鋼圧によって膨らむと中心偏析を生ずると言われている。これは凝固シェルの変形によって固液共存相内の高濃度液相が流動することによって生ずるが、その詳しいメカニズムは充分解明されていない。そこで、バルジングを極力小さくするため支持ロール間隔を短くするかあるいは1本の支持ロールの長さを長手方向に分割する分割ロール方式が採用されている。その他、ロールの不揃いなどもデンドライト間液相の流動の原因となり偏析の原因となると言われている。しかしながら、実際にはバルジングがほとんど問題にならないブルーム、ビレットにおいても中心偏析は生ずるので、これらの機械的外乱を無くしても内部欠陥は無くならない。
【0021】
(2)2次冷却の強化(文献(1)、(2))
【0022】
最終凝固部近傍(クレーターエンド近傍)を強冷して熱応力による収縮作用によって固液共存相における凝固収縮に見合うよう圧縮し、中心部のポロシティの量を軽減する方法である。
【0023】
一方、最終凝固部近傍において凝固シェルを圧下し、中心部固液共存相を圧縮変形させてデンドライト間の液相流動を抑えることにより、内部欠陥を低減しようとする方法が現在の主流であり、圧下量の違いにより軽圧下法と強圧下法とに分けられる。
【0024】
(3)凝固末期軽圧下法(文献(3)、(4))
【0025】
凝固の進行とともに連続的に凝固収縮が生じるが、これに見合った収縮量を補償するよう固液共存相を圧縮変形させ中心偏析を改善しようとするのが本法である。
【0026】
圧下は連続的に生ずる凝固収縮量にできるだけ厳密に対応させる必要があるため圧下量に勾配をつける必要がある。例えば文献(3)では、圧下ロールに丸みをつけたクラウンロールを用いた炭素鋼ブルームの実機試験により中心偏析が改善されることが示されている。また、文献(4)では高炭素鋼(C量0.7〜1mass%)、断面300×500mmのブルームの場合の必要圧下勾配の理論的計算例を示しているが、それによると0.2〜0.5mm/mの圧下勾配が必要になるとの見積りを行っている。
【0027】
しかしながら本法を実機上に実現するためには以下に述べる諸問題を克服しなければならない。
【0028】
▲1▼.通常、圧下は最終凝固部近傍の数mの範囲で行われるが、上記文献(4)のブルームの場合、この範囲では0.3mm/m程度となる。つまり1m当り0.3mmの傾きをつけて凝固シェルを圧下する必要があるが、これには多段式ロール圧下装置等によって圧下量を非常に高精度にコントロールする必要がある。そのため、圧下装置は高価なものにならざるを得ない。
【0029】
▲2▼.圧下量が足りないと効果は期待できず、大きすぎると液相が上流側へ逆流してchannel偏析(逆V偏析)を生じさせるという難しさがある。
【0030】
▲3▼.鋼種、断面寸法及び連鋳速度、冷却条件などの操業条件によって必要圧下量及び勾配が異なる。従って、適用製品種が少ない場合でも適切な条件を見出すためには試行錯誤に多大な労力と費用を必要とする。
【0031】
▲4▼.軽圧下法は内部割れという新たな問題をしばしば引き起こす(文献(5))ので、これを防止する条件も考慮に入れなければならない。
【0032】
以上のように、本法で効果を発揮させることは非常に困難である。
【0033】
(4)連続鍛圧法(文献(7)、(8)を参照)
【0034】
次に強圧下法について述べる。この方法は、凝固末期近傍において、機械的に大圧下変形を与え、固液共存相の溶質濃度の高い液相を上流側に絞り出すことによって中心偏析(V偏析)を防止する方法であり、大口径ロールにより圧下する方法(文献(6))とAnvil(金型)で連続的に圧下する連続鍛圧法(文献(7)、(8))がある。両者は思想的に同じ範疇に属するので、後者についてのみ述べる。
【0035】
図42に示されるように、Anvilは鋳造方向に移動しながら圧下して最終凝固部近傍を押しつぶす。これを周期的に繰り返すことによって固液共存相内の溶質濃度の高い液相を上流側の低固相率領域へ絞り出し、中心偏析及び中心ポロシティを解消することができると報告されている。また適切な鍛圧条件を設定することによって内部割れを無くすこともできるとしている。本法では鍛圧時の固
度)をKe<1にコントロールすることができる。
【0036】
本法による偏析制御において最も重要な点は鍛圧時における固液共存相の流動現象の解明であるが、著者らは溶質元素に関する保存則のみを考慮して圧下によ
献(7))。
【0037】
彼らのモデルでは固液共存相における液相の流れを陽に扱っておらず、従ってデンドライトスケールでの濃化液相の流れが偏析にどんな影響を及ぼすかは解明されていない。
【0038】
従って固液共存相におけるマクロ的な検査領域での平均的なマクロ偏析は制御可能であるが、セミマクロ偏析と呼ばれるより小さい検査領域(デンドライトスケール)での偏析についての情報は得られない。セミマクロ偏析はある程度残存する。
【0039】
従って、セミマクロ偏析が残存する現象の解明は今後の課題であり、そのためには排出される液相の流動現象を明らかにする必要がある。
【0040】
これと関連して、鍛圧する時点ですでにV偏析が形成されている可能性は充分あり、この場合排出液相の流れがどんな影響を生ずるのか。セミマクロ偏析として残存するのか、等の問題が提起される。
【0041】
これらの文献では正方形に近い断面形状を持つブルームを扱っており固液共存相の形が円筒形に近似でき、大略同心円状に圧縮される場合は排出流れパターンは比較的単純なものとなろうが、幅の広いスラブでも単純な上流方向への流れパターンとなるかどうかは問題となる点である。
【0042】
いずれにしても固液共存相を機械的に大変形させる場合、濃化液相の流動を予測しその影響を評価することは容易ではない。
【0043】
(5)電磁撹拌(文献(9)、(10))
【0044】
最終凝固位置近傍において固液共存相を電磁力によって撹拌し、中心偏析を分散させる方法であり、具体的には凝固シェル横断面内を旋回流動させる方法等がある(文献(9))。
【0045】
もう一つの方法は2次冷却帯(鋳型部以外の冷却帯)内、あるいは鋳型内において電磁撹拌を行い、柱状晶を等軸晶へ変化させる方法である(文献(10))。
【0046】
後者の方法は柱状晶よりも等軸晶の方が中心偏析が少ないことが前提となっているが、その理論的根拠は明白でない。
【0047】
これらは本質的な解決策ではなく現在の主流とはなっていない。
【0048】
(6)上記(1)〜(5)の組み合わせによる方法
【0049】
バルジング防止対策は基本的な技術として現在まで一貫して重視されており、これをベースに次のような組み合わせが行われている。
【0050】
例えば文献(10)では0.08〜0.18wt%炭素鋼スラブについて短ロールピッチ及び分割ロールを用い(バルジング防止)、テーパーアライメント法を用い(鋳片の収縮(凝固収縮+温度降下による収縮)に対応して対向するロール間ギャップを下流方向に順次狭めて行く技術が記述されている。
【0051】
しかしながら、精度よく実現するのは困難である。
【0052】
また、文献(11)では等軸晶の発達しにくい炭素鋼ブルーム及び丸ビレットにおいて低温鋳造と電磁撹拌を併用し、等軸晶を発達させると中心ポロシティが低減すると述べられている。さらに鋳型内を電磁撹拌させて等軸晶化し、凝固末期圧下量を適正化することにより中心偏析及び中心ポロシティを低減することが可能であると報告している。
【0053】
(7)薄スラブ連続鋳造におけるCast Rolling法
【0054】
製鋼一貫工程をコンパクトにまとめたいわゆるミニミルは、在来の高炉による重厚長大な工程と比べて、原材料の有効利用(リサイクリング)、省エネ、低建設費、地球環境に優しい等の利点を有し、着実に勢いを増している。ミニミルにおいては在来の200mm、300mmといった大断面ではなく最終製品形状にできるだけ近いnear−net−shape−castingと呼ばれている50mm、60mmといった肉薄スラブの連続鋳造が行われている。
【0055】
ここでは一例としてCasting Rolling法(文献(12))について述べる。本法は、固液共存相及び液相を含む領域をロールによって徐々に圧縮しながら(圧下率:10〜30%)薄くして行く技術である。本来の目的は、鋳込み口部分で肉厚を薄くするには限界があり、凝固中に薄くすればよいという発想から生まれたと思われるが、これによって次のような効果があると報告されている。
▲1▼.デンドライトを機械的に破壊するので粒状の微細結晶を生じる。
▲2▼.その結果マクロ偏析もかなり低減する。
【0056】
しかしながら固液共存相を強加工させるとき、誘起される溶質濃度の高い液相の挙動は予想し難いものがあり逆V偏析など有害な結果を生じないようコントロールすることは非常に難しい。
【0057】
以上、鋼の連続鋳造に関する大量の文献から内部品質改善のための重要な技術について要点を説明した。
【0058】
歴史的に見ると、偏析の原因となるバルジングの抑制を目的としたテーパーアライメント法にさかのぼり、ロールピッチの短縮・分割ロール方式の採用、2次冷却帯の強冷化、電磁撹拌へと進展し、現在は軽/強圧下あるいは電磁撹拌と軽圧下の組み合わせなどが主流となっている。
【0059】
しかしながら、製品品質に対する要求が厳しくなるに従っていつもこの古くて新しい問題が蒸し返され、順次これらの対策がある意味で繰り返し実施されてきた。
【0060】
その間、技術レベルは向上しているものの、本質的な問題の解決には到達していない。
【0061】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来の改善技術はいずれも凝固現象に対する経験的、定性的な洞察をベースにした試行錯誤的改善対策であり、鋼種、断面形状及び寸法、連鋳機プロフィール、操業条件(鋳造速度、温度、冷却方法等)が異なると、新たに適正条件を求めるために膨大な時間と労力を必要としていた。しかも、必ずしも最適条件を見い出すことができるとは限らないケースも数多く見られた。
【0062】
つまり個々の対策はそれぞれ一時的に偏析の若干の低減に成功しているが、凝固の振舞いを凝固理論に基づいて的確に把握していないため、その効果を正しく評価できず、最適条件を見つけることができないという不都合があった。
【0063】
【発明の目的】
本発明の目的は、かかる従来例の有する不都合を改善し、とくに鋼の連続鋳造システムおいて、鋼種、断面形状及び寸法、連鋳機プロフィール、操業条件(鋳造速度、温度、冷却方法等)が変化しても、常に中心偏析および中心ポロシティのない良質な鋼を容易に得ることが可能な連続鋳造システムを提供することにある。
【0064】
【課題を解決するための手段】
そこで、本発明では、連鋳機の種類(プロフィール)、鋼種、断面形状及び寸法及び操業条件(鋳造速度、温度、冷却条件)に基づいて、メニスカス(溶融金属上部表面位置)からクレータエンドまでの全域における凝固状況ならびに固液共存相における鋳造方向の凝固収縮によって誘起されるデンドライト間液相流れ(Darcy流れ)に基因する液相圧力降下に着目し、内部欠陥を発生する条件及び発生位置を算出し、その内部欠陥発生位置近傍において鋳造方向に電磁体積力(Lorentzの力:遠隔力)を印加する電磁ブースタを連続鋳造システムに装備するという構成を採っている。これによって前述した目的を達成しようとするものである。
【0065】
【作用】
内部欠陥の発生位置および発生形態・形状を正確に知るためには、凝固理論に基づいて凝固現象の数値解析を行い、内部欠陥の生成メカニズムを明らかにすることが必要である。本発明における演算手段での数値解析の理論について詳細に説明する。
【0066】
A.凝固現象の数値解析
【0067】
A−1.凝固現象の数値解析に必要な計算式
【0068】
凝固理論に基づいて発明者が案出した凝固現象の数値解析に必要な計算式について説明する。
【0069】
(1).エネルギー保存式
【0070】
固液共存相における、ある体積要素の熱収支に関するエネルギー保存式は(1)式で与えられる。
【0071】
体積要素は図7に示されるように、デンドライト結晶の枝の間隔(デンドライトアームスペーシング)に比べて充分大きく、また物体の温度T、固相率gS等の物理量の変化を調べられる程度に充分小さいものとする。
【0072】
【0073】
各記号の詳細は表1に示す。
【0074】
【表1】
【0075】
ここで、(1)式の左辺第1項は単位体積・単位時間当りの熱量変化、第2項は固液共存の液相の流れ及び固相の変形による発散(単位時間・単位体積当りの流出熱量)、右辺第1項は熱伝導による発散、Sは発熱項である。
【0076】
Sは次の(2)式に示されるように、凝固潜熱による発熱項及び固相変形による影響項ならびに電流によるジュール熱の和から成る。
【0077】
【0078】
gS及び液相体積率(以下単に液相率という)gLを用いて次式(3)で与えられる。
【0079】
【0080】
ここで、gVをポロシティの体積率とすると、(4)式の関係がある。
【0081】
【0082】
また、比熱C、密度ρ、熱伝導率λは液相、固相ごとにすべて温度依存性が考慮されている。
【0083】
なお、(1)、(2)式は固液共存相だけでなく、液相及び固相ならびにポロシティを含む相に対しても適用できる。
【0084】
(2).溶質再分布式
【0085】
溶質原子は固相及び液相中に固溶しているが、その分布状態は平衡状態図及びそれぞれの相における原子の拡散速度によって決まる。例えば炭素原子は液相はもちろん固相中においても速やかに拡散する。一方、シリコン原子の固相中の拡散は非常に遅い。
【0086】
そこで、本発明ではデンドライト間の液相中では、すべての合金元素は完全拡散するが、固相中では炭素のみ完全拡散し、その他の元素は拡散しないとした。すなわち、炭素は図3(b)に示されるように平衡凝固型合金元素であり、その他の元素は図3(c)に示されるように非平衡凝固型合金元素である。
【0087】
図4に示されるように、平衡状態図における液相線及び固相線が曲がっている
式で示される(文献(15))。
【0088】
【0089】
【0090】
【0091】
mL及びmSはそれぞれ液相線及び固相線の傾きであり、他の記号は図4中に示す。
【0092】
液相及び固相中の溶質に関する保存則を誘導するには、濃化液相の流動及び固相の変形を考慮する必要がある。これらを考慮した溶質保存則は次式で表される。
【0093】
【0094】
ここで、(8)式の左辺第1項は合金元素nの固液共存相における平均溶質量の変化、第2項はデンドライト間液相流れ及び固相変形による発散、右辺は液相における拡散項である。記号の詳細な説明は表1に示す。
【0095】
また、質量保存則、すなわち連続条件は次式で与えられる。
【0096】
【0097】
〜(9)を結合すると、平衡凝固型合金元素及び非平衡凝固型合金元素に対して次の一連の式が誘導される。
【0098】
【0099】
【0100】
ここで、平衡凝固型(j型)合金元素に対する係数は、(12)式〜(15)式で求められる。
【0101】
【0102】
【0103】
【0104】
【0105】
また、非平衡凝固型(i型)合金元素に対する係数は、(16)式〜(19)式で求められる。
【0106】
【0107】
【0108】
【0109】
【0110】
なお、βは(20)式で求められる。
【0111】
【0112】
(3).温度と固相率の関係式
【0113】
【0114】
【0115】
ここで、多元系合金の凝固中の液相温度は、母金属と各合金元素との2元平衡状態図における温度降下の重ね合わせで決まる(文献(15))。つまり、(21)式の関係は(22)式および(23)式のように表すことができる。
【0116】
【0117】
【0118】
各記号の詳細は表1に示す。また、Nは合金元素数を表す。
【0119】
次に、(22)式を時間について微分し、前記(10)式を代入すると(24)式のような温度−固相率関係式が得られる。
【0120】
【0121】
ここで、Sは(25)で与えられる。
【0122】
【0123】
また、(25)式におけるAn、Bn、Cn及びDnは、前記(12)〜(20)式で与えられる。
【0124】
(4).Darcyの式
【0125】
デンドライト間の液相の流れは、(26)式で示されるようなDarcyの式によって記述されることが知られている(文献(14)のp.234)。記号の詳細な意味は表1に示す。
【0126】
【0127】
体積力(Lorentz力)が含まれる。
【0128】
なお、Kはデンドライトの幾何学的構造によって決まる定数でありKozney−Carmanの式(文献(17))を適用すると次式で与えられる。
【0129】
【0130】
ここで、Sbはデンドライト結晶の単位体積当りの表面積(比表面積)であり、無次元定数fは多孔質媒体中の流動実験により5の値を持つことが分かっている。Kは本来異方性を有するテンソル量であるが、次に述べる2つの方法によって求めた。
【0131】
▲1▼.方法1:デンドライト凝固モデル
【0132】
K式中のSbを求めるためには具体的なデンドライトの形状と固相及び液相中での溶質の拡散を考慮する必要がある。久保と福迫はデンドライトを図5に示すように円柱形の枝及び幹と半円球の先端部からなるモデル化を行い、固液界面において溶質収支を表す保存式を導き、円柱界面及び半円球界面では曲率効果による過冷が生ずる現象(文献(14)のp.152,266)を用いて、Sbの計算式を誘導し、これを用いて計算したKが実測値とよく一致することを示した(文献(18)))。図5の斜線部は界面から排出される溶質濃度の高い部分を表す。またdはデンドライトセルの径、rは半球状デンドライト先端の半径である。
【0133】
そこで、彼らの方法を非線形多元合金に適用して次式を得た。
【0134】
【0135】
ここで、αは種々の物性値の誤差を補正するために導入した補正係数である。
【0136】
ら時刻t+△tにおけるSbそしてKが計算できる。
【0137】
またSbとデンドライトセルの径dとの関係はStereologyより次式で与えられることが知られている。
【0138】
【0139】
ここで、φは形状係数であり球ではφ=1、円柱ではφ=2/3である(粉体理論の応用、丸善(1961),p.87,p.132)。gSが約0.7になると隣同士のデンドライトセルがぶつかり合うので、gS=0.7の時のdの値を(29)式から算出し、凝固終了時のデンドライトセルの大きさとした。
【0140】
▲2▼.方法2:実験的方法
【0141】
(29)式を(27)式に代入し、f=5とすると、(30)式が得られる。
【0142】
【0142】
デンドライトがずんぐりした形をしている場合にはφ=1とすればよい(文献
決まり、次の実験式によって与えられる(文献(14)のp.146)。
【0143】
【0144】
デンドライトセルの直径dを計算することができる。
【0145】
(30)式は簡便な式であるが、中心部における加速凝固現象を表現できない欠点があるため、方法1と方法2は使い分ける必要がある。
【0146】
(5).運動方程式
【0147】
完全液相領域における液相の流れはNewtonの第2法則、すなわち、(質量)×(加速度)=(物体に作用する力)によって記述される。これは(32)式に示されるように、「運動量(=質量×速度)の時間的変化が物体に作用する力に等しい」という運動量保存則に言い換えることができる。
【0148】
【0149】
(32)式の右辺は圧力、粘性力、体積力等の総和である。
【0150】
そこで、凝固過程における液相流れに関する運動方程式は、(33)式で表すことができる。記号の意味の詳細は表1に示す。
【0151】
【0152】
(33)式は、(9)式の連続条件式を満足するように解かれる。
【0153】
(33)式の添字iは与えられた座標系における各成分を表す(例えば、(x,y,z)直交座標系ではv1=vX,v2=vy,v3=vZ)。
【0154】
きの便宜のために導入した。
【0155】
右辺第1項は粘性力項、第2項は圧力項、第3項は種々の体積力の総和、第4項はDarcy流れ抵抗力項である。
【0156】
これにより、(33)式は液相領域や固液共存領域及び固相領域を区別することな
すれば通常の運動方程式となり、固液共存相ではDarcy抵抗力支配となり(慣性力、粘性力は小さくなり無視してよい)、固相においてはμ=大数にセットする
【0157】
(6).パーライト変態の扱い
【0158】
凝固シェル表面を強冷する場合、表面層の温度降下によってパーライト変態を生じる場合がある。
【0159】
4)で与えられる。
【0160】
【0161】
ここで、Vexはパーライト粒子の拡張体積、tは時間、Tは温度であり関数f(T)は等温変態線図(TTT線図)から求められる(文献(21))。
【0162】
エネルギー式(2)の発熱項に追加される。
【0163】
A−2.方程式の離散化
【0164】
凝固現象を記述する上記各方程式は、式の変形・操作を楽にし、簡潔で、すべての座標系で通用するようスカラー及びベクトルの勾配(▽()あるいはgrad())及び発散(▽・ ()あるいはdiv())等の記号を用いて定式化している。
【0165】
従って、コンピュータで高速計算を行わせるためには、これらの式を直交座標や円筒座標などの各座標系について具体的に表現し、図7に示されるように、体積要素に関して体積積分を実行して具体的な形にする必要がある。これを方程式の離散化と呼ぶ。
【0166】
本発明ではPatankarによる方法を基本にして離散化した(文献(20))。
【0167】
一般的に、スカラーあるいはベクトル物理量をφで表すと、φに関する保存則は(35)式で表すことができる。
【0168】
【0169】
出し項(source term)である。
【0170】
さらに、速度は次式(36)で与えられる連続条件を満足しなければならない。
【0171】
【0172】
(35)式と(36)式は微分形式で表示されているので、3次元直交座標系(x,y
tは時間)を実行するとともに、φについて整理すると次の一連の式(37)〜(46)が得られる(文献(20)のp.101)。図8において、斜線部はcontrol volumeを表し、○印で示した点はgrid pointと呼ばれる。Fe,Fw,Fn,Fs、Ft、Fbはcontrol volumeの各面e,w,n,s、t、b(t、bは紙面に平行な面である)における物理量φの出入りを示す。
【0173】
【0174】
ここで、添字Pは体積要素での物理量φの定義位置(重心でなくてもよい)を示す。nbは隣接する6つの定義点( E、W、N、S、T、B)を指す。これら
(38)で表される。
【0175】
【0176】
【0177】
【0178】
【0179】
(37)式右辺のわき出し項(source term)bは、次式(41)で与えられる。
【0180】
【0181】
上付きの添字oldは時刻tから時刻t+△tへの時間変化における計算ステッ
要素の各面(e,w,n,s,t,b)における物理量φの拡散に関する項(diffusion term)であり、次式(42)で与えられる。
【0182】
【0183】
に関する項(flow term)であり、次式(43)で与えられる。
【0184】
【0185】
(58)式における符号は体積要素に流入する場合を+、流出する場合を−と定義する。
【0186】
い方を採用することを意味する。これにより、例えば、φが温度Tを意味するとき、面wにおいては流入であるからFwは有効となりTpは上流側の温度Twの影響を受ける一方、面eにおいては流出であるから−Feは無効となりTpは下流側の温度TEの影響を受けないという物理的合理性が考慮される(ただし、流
【0187】
Pnbは流れと拡散による相対的影響度を表すPeclet数であり、次式(44)で定義される。
【0188】
【0189】
【0190】
【0191】
わき出し項(source term)Sは一般にφの関数となることを考慮すると次式(46)に示されるように線形化できる。
【0192】
【0193】
ここにSc,Spは具体的な方程式に付随して決まる定数である。
【0194】
以上のようにして、上記A−1で説明した各方程式を離散化した結果を本明細書の最後に記載する。
【0195】
また、座標系に関しては、連鋳鋳片が細長く、途中で曲がっていることなどを考慮し図9に示されるように、鋳片プロフィールにフィットするよう直交性を有する曲がった座標系を採用した。各離散化式は当該座標系で書き下したものである。
【0196】
さらに、直円筒及び直交3次元座標は当該直交曲線座標系の簡単な場合として含まれるので、離散化式から不要な部分を削除するなど最小限の修正で適用できる。すなわち、各離散化式は、種々の鋳片プロフィール及び断面形状に対して適用可能である。
【0197】
A−3.内部欠陥の解析
【0198】
(1).マクロ偏析
【0199】
固液共存相の平均溶質濃度は図3(b)に示されるように、平衡凝固型(j型)
【0200】
【0201】
また図3(c)に示されるように、非平衡凝固型(i型)合金元素では、(48)式で示される。
【0202】
【0203】
【0204】
(2).溶鋼中の固溶ガスの影響
【0204】
溶鋼中に固溶したガスは凝固の進行につれてデンドライト結晶間の液相中に濃化し、ガス基因型ミクロポロシティを形成することは広く知られている。
【0205】
ここではKuboらの扱いに準じてその解析方法について述べる(文献(19))。
【0206】
鋳鋼におけるガスポロシティの主因はCOガスであることから、COガスを唯一のガス源と仮定する。このCOガスは次式の反応により生成する。
【0207】
【0208】
つまりCOガスの平衡圧力は、(50)式で与えられる。
【0209】
【0210】
ここで、CLは液相中の炭素濃度、OLは液相中の酸素濃度、PcoはCOガスの平衡気圧(atm)、Kcoは平衡定数である。
【0211】
またOは脱酸元素として通常添加されるSiと結合してSiO2(固体)を生成するものとする(Mnの影響は無視した)。
【0212】
これによりC及びOに関する質量保存則は次式(51)、(52)で与えられる。
【0213】
【0214】
【0215】
【0216】
固相中の炭素及び酸素の固溶量は平衡分配係数を用いて次式(53)で表される。
【0217】
【0218】
【0219】
SiとOの反応に関しても同様に
【0220】
【0221】
【0222】
【0223】
【0224】
以上(50)、(52)〜(58)式から成る連立方程式を解いて凝固進行中のPco及び
【0225】
(3).ポロシティの有効空隙半径及び成長則
【0226】
図6に示されるように、ミクロポロシティを生ずる場所は局部的な自由エネルギーを最少にするような場所、すなわち、デンドライトの根元の部分であると考えられ(文献(19))、このときの空隙の有効半径rを次のようにモデル化した。
【0227】
いま、一対のデンドライトアームの間に1ケの液相空間が存在すると仮定し、図6(b)に示されるように、これらの微小空間が3次元的に分布している状況を考える。
【0228】
デンドライト間隔の3次元的平均値をD、液相空間の数をnとすると、液相率
【0229】
【0230】
また図6(c)に示されるように、r,D及びデンドライトセルサイズdの関係は(60)式で示される。
【0231】
【0232】
そこで(59)、(60)式よりrに関する次式(61)が得られる。
【0233】
【0234】
しかしながら、複雑な形態を有する実際のデンドライト組織においてrを正し
。
【0235】
とdが小さくなり、そしてrが小さくなることがわかる。
【0236】
また、固溶ガスを考慮しない場合には、ガス平衡圧は0となる。このような場合でも液圧が臨界圧以下になると収縮に基因するポロシティは生成する。このような場合、一度生成した内部ポロシティの成長に関する式は連続条件式(9)より次のように与えられる(ただし固相変形の影響は無視した)。
【0237】
【0238】
右辺第1項は、凝固収縮による寄与、第2項は液相の発散による寄与を表す。
【0239】
A−4.数値解析の方法
【0240】
上記エネルギー式では、固相率とポロシティの体積率と液相の密度と液相の流れ速度ベクトルとから温度を算出できる。
【0241】
上記溶質再分布式では、固相率とポロシティの体積率と液相の密度と液相の流れ速度ベクトルとから液相の溶質濃度を算出できる。
【0242】
上記温度−固相率式では、固相率とポロシティの体積率と液相の溶質濃度と液相の流れ速度ベクトルとから固液共存相での液相温度を算出できる。
【0243】
上記運動方程式では、液相の密度と固相の密度と液相の圧力と透過率とから液相の流れ速度ベクトルを算出できる。
【0244】
上記圧力式では、液相の密度と固相率と液相の流れ速度ベクトルとから液相の圧力を算出できる。
【0245】
しかしながら、上記各式における変数は互いに連成(リンク)しているため、連成解がえられるまで繰り返し計算が必要となる。
【0246】
ここで、固相速度は、応力解析等による理論値あるいは実測値を用いる。
【0247】
次に、解析方法について図10のフローチャートを用いて具体的に説明する。
【0248】
▲1▼.境界条件や初期条件を変数にセットする(図10(a)のステップS1)。
【0249】
▲2▼.固相、液相、固液共存相の領域形状と透過率と液相の密度分布に対して、液相の流れ速度分布と液相の圧力分布を求める(図10(a)のステップS2)。
【0250】
ここでは、運動方程式かDarcy式かを用いて液相の流れ速度分布を演算し、その結果を用いて圧力式から液相の圧力分布を算出する。
【0251】
▲3▼.算出された液相の圧力分布からミクロポロシティ生成条件を満足するか否かを判定し(図10(a)のステップS3)、満足する場合には、ポロシティの体積率と大きさを算出する(図10(a)のステップS4)。
【0252】
▲4▼.算出された液相の流れ速度分布とポロシティの体積率と鋳片表面からの抜熱速度に基づいて、温度と固相率と液相の溶質濃度を求める(図10(a)のステップS5)。
【0253】
ここでは、エネルギー式と溶質再分布式と温度−固相率式との連成解を算出する。
【0254】
▲5▼.算出された温度と固相率と液相の溶質濃度に基づいて、デンドライト凝固モデルを適用して比表面積Sbとデンドライトセルの径dを算出する(図10(a)のステップS6)。
【0255】
▲6▼.比表面積Sbとデンドライトセルの径dの計算結果に基づいて透過率Kを算出する(図10(a)のステップS7)。
【0256】
▲7▼.温度と液相の密度を算出する(図10(a)のステップS8)。
【0257】
▲8▼.液相の圧力が収束したかどうかの判定を行い(図10(a)のステップS9)、収束していれば(34)式と(35)式からマクロ偏析の計算を行うが(図10(a)のステップS10)、収束していなければ再度▲2▼からの演算処理を繰り返す。ここで演算処理を繰り返す理由は、方程式の数と未知変数の数が同じであるために、連立方程式の解が一義的に定まらないためである。
【0258】
すなわち、▲6▼で算出された透過率や▲7▼で算出された液相の密度は、液相の流れ速度分布に影響を与えるために、それらの値を用いて、再度▲2▼から計算を行う必要がある。
【0259】
ここで、上記▲2▼において、運動方程式を用いて液相の流れ速度分布と液相の圧力分布を求める方法の詳細を説明する。
【0260】
▲1▼.初期設定として、時刻tにおける速度を初期値にセットする(図10(b)のステップS1)。
【0261】
▲2▼.速度離散化式の係数ap、aN、aS、aT、aB、aW、aE、bを算出し、v1、v2、v3を算出する(図10(b)のステップS2)。
【0262】
▲3▼.圧力離散化式(E.86)の係数を算出する(図10(b)のステップS3)
【0263】
▲4▼.圧力に対する境界条件を導入する(図10(b)のステップS4)。
【0264】
▲5▼.圧力離散化式から液相の圧力分布を算出する(図10(b)のステップS5)。
【0265】
▲6▼.算出した液相の圧力分布に基づいて、速度離散化式から速度場を算出する(図10(b)のステップS6)。
【0266】
▲7▼.算出した速度場が連続条件を満足するかどうかを判定し(図10(b)のステップS7)、満足していなければ、圧力修正式(E.118)から圧力分布を修正し、この修正圧力分布を用いて速度場を修正する(図10(b)のステップS8)。そして、▲2▼の処理に戻る。
【0267】
このように、液相の流れ速度分布と液相の圧力分布を求める際に運動方程式を用いる場合の解法は、本発明者が独自に、熱・流体解析の解法の1つであるSIMPLER法を基本に種々の修正・拡張を行ったものである。すなわち、固液共存相にまで拡張したという意味で、本解析法を拡張SIMPLER法(Extended SIMPLERmethod)と名付ける。
【0268】
なお、最後に記載した各種離散化式の数値解法にはコンピュータでの繰り返し収束計算に適したTDMA法(Tridiagonal−matrix algorithm,文献(20)のp.52)を用いている。
【0269】
上記数値解析は、種々の鋳片断面形状及び鋳片プロフィール(垂直型、垂直曲げ型、曲げ型等)に対して適用可能であるとともに、解析機能の選択ができる。すなわち、温度と固相率のみの最も単純なレベルから、鋳片の変形や電磁体積力(Lorentz力)の印加の影響等を考慮し、上記のすべての方程式を含む最高レベルまでの計算を行うことができる。従って、目的によって計算レベルを指定すればよく、必ずしも最高レベルの計算が必要とは限らない。
【0270】
本明細書で定義した数値解析機能のレベルは次の通りである。
【0271】
【0272】
【0273】
レベル3:レベル2にポロシティ解析を追加。
【0274】
【0275】
レベル5:レベル4にポロシティ解析を追加。
【0276】
さらに連鋳プロセスに対して電磁力ならびに鋳片の変形を扱う機能を備えている。また、温度計算(エネルギー式)にはパーライト変態及び通電によるジュール熱の影響が考慮されている。出力情報は温度、固相率、液相の圧力及び流速、等のマクロ的な現象の他にマクロ偏析、ミクロポロシティ等のミクロスケールでの冶金的情報が含まれる。
【0277】
上記数値解析での計算はdummy bar boxへ溶鋼を注入する最初の段階から、注湯を打切り、凝固終了させるまでの全過程を通して行う非定常解法を採用している。これによって注湯開始から定常状態に達するまでの間及び注湯を停止し凝固終了までの間の非定常過程を解析できる。また、この間の鋳造速度や冷却条件等の経時変化による影響も解析可能である。定常状態に到達したかどうかの判定は温度変化などの定点観測により行っている。
【0278】
従来、この種の問題に対しては空間座標系による定常解法(すなわち空間に固定した座標系を用いて方程式を記述し、くり返し計算によって定常解を求める方法であり、計算領域は空間に固定される)がよく用いられるが、これらの方法では連鋳の重要な部分である非定常部の解析はできないという欠点を有する。これに対して当該非定常解法は種々の物理現象の状況変化に的確に応答できる優位性を有している。
【0279】
垂直−曲げ型連鋳等においては鋳片は曲げ変形を受けるので、図9(b)に示されるように解析対象物のトポロジー(距離、面積、体積等)及び図9(a)に示されるように鋳片に固定したうめ込み座標から見た重力の方向が変化する。従って、タイムステップの都度これら値の再計算が必要となる。
【0280】
また、鋳片表面の境界条件は表面における熱伝達率hで与える方法(以後h法と呼ぶ)または表面温度Tbそのものを与える方法(以後Tb法と呼ぶ)のいずれかで与えるようにした。h法ではTbの応答が求まり、Tb法ではhの応答が求まる。例えば、表面温度を目的によってある特定の分布に設定したいときは、Tb法を用いてhを求め、hと冷却条件(噴霧量等)の関係から具体的な冷却条件を決定すればよい。
【0281】
固液共存相の液圧降下を生ずる領域では液相流れは大略鋳造方向への一次元的な流れと見なすことができる。そこでDarcy式(26)より、Z方向(鋳造方向)のみの一次元と近似してZ方向の体積力Xzについて求めると、(63)式が得られる。
【0282】
【0283】
従って、圧力及び速度場が求まった後(ポロシティは発生しないとして計算する)、ポロシティを生じさせないために必要なP分布を任意に与え(例えばPが
)式よりXz(=重力のZ方向成分+Lorentz力)を求め、続いて所要電磁体積力(Lorentz力)分布を求めることができる。
【0284】
また、大量の入力データは外部関数として付加される。例えば、通常の操業条件(鋳造温度、速度、表面冷却能等)は、時間、位置などの関数として与えられる。
【0285】
本発明で採用している非線形多元合金モデルのメリットは、実際の合金状態図における非線形性にフィットさせることによって鉄、非鉄、ステンレス等を問わず実用金属材料に対する当該数値解析の適用範囲を大巾に拡大できることであり、多くの重要な工業金属材料への適用が可能である。例えば、包晶反応を含む炭素鋼(C=0.1〜0.51%)に対しては、包晶反応を無視しδ固相線及びγ固相線をなめらかに線形連続近似することによって温度と固相率の関係を求めることができる。C<0.1%の低炭素鋼への適用はもちろん可能である。
【0286】
A−5.数値解析の計算例
【0287】
図11(a)に示されるように、直径1m、高さ3mの鋳型に注入された溶鋼の凝固過程について、数値解析を行った。
【0288】
特に、凝固中にデンドライト間液相溶質の濃化とともに液相密度が小さくなる傾向が顕著に現れる鋼種(0.72%C−0.57%Si−0.70%Mn−0.02%P−0.01%S−残Fe(wt%))を選択した。
【0289】
初期温度は1475℃、凝固開始温度からの過熱度13℃とした。また、計算に用いた諸物性値は表2及び表3に示す0.55wt%炭素鋼の値を採用した。
【0290】
【表2】
【表3】
【0291】
溶鋼が鋳型を満たした状態を初期状態として計算を開始した。計算開始後、鋳型壁からの本格的な凝固が始まる約10分までの間、液相流れは基本的に側面で下降流、中心部で上昇流のパターンとなるが、乱流的である。すなわち、▲1▼流速は早い部分で約10cm/sである、▲2▼中心部の温度が側面より低くなる温度逆転層が生じる、等の乱流的な流れによって液相領域内の温度は速やかに均一化され(温度差は2℃以下)、大部分の過熱度を失う。
【0292】
その後、このような状況は液相領域がなくなり、全域が固液共存相となる約2時間後まで続く。この間流速は徐々に小さくなる。
【0293】
凝固は底部から始まり続いて側面、そして最終的にはインゴット中心部の中央部より若干上の部分で終了する(凝固時間は20.9hr)。
【0294】
図11(b)に示されるように、11.5時間後の温度分布図では、等温度線が大きく曲がっており、実際の場合とよく一致している。なお、Cは収縮部、Mは固液共存部、Sは固相部を示す。
【0295】
また、図11(c)に示されるように、11.5時間後の固相率分布図では、等固相率線が大きく曲がっており、これも実際の場合とよく一致している。
【0296】
図11(d),(e)に示されるように、デンドライト間の液相流れは、中心部温度が外側に比べて高いにもかかわらず、デンドライト間の液相溶質濃度は外側より低いため、両者のバランスで中心部の液相は相対的に重くなり、中心部で下降、外側で上昇の流れを生ずる。この液相流れのパターンは凝固の後半まで続き、Flemingsらの凝固理論によって明らかにされているように(文献(14)のp.244〜252)、低温部すなわち高液相濃度部から高温部すなわち低液相濃度部への液相流れによって正偏析部が生じるとともに、高温部すなわち低液相濃度部から低温部すなわち高液相濃度部への流れによって負偏析部が生じる。
【0297】
図11(f)にCの偏析状態を、図11(g)にPの偏析状態を示すが、実際の場合とよく一致している。なお、他の合金元素(Si、Mn、S)も同様の偏析パターンを生し、実際の場合とよく一致している。
【0298】
計算誤差に関しては、インゴットからの抜熱量Qoutとインゴットの失った熱量Qlostの差、| (Qout−Qlost)/Qoutx100|%によって評価したが、温度計算のみの場合には、凝固完了までの誤差総計は0.1%以下であった。
【0299】
B.内部欠陥の生成メカニズム
【0300】
鋼鋳物の内部欠陥については多くの文献が発表されている。
【0301】
図43は棒状の長尺鋼鋳物に生ずる中心欠陥を模式的に示したものである。図中の領域AおよびCはデンドライト間液相補給により欠陥のない健全領域であり、領域Bは液相補給ができず、肉厚中心近傍にデンドライト間ミクロポロシティを発生する。これらミクロポロシティは、通常、図43に示されるように液相補給方向を向いたVパターンを呈し、多くの場合、V状のマクロ偏析(いわゆるV偏析)を伴うことが知られている(例えば文献(34))。
【0302】
過去の多くの文献ではV状のミクロポロシティと偏析を明確に区別して記述したものは少ない。例えば、Pellini(文献(35))はこれらを区別せずcenterline shrinkageと呼んでいる。鋼の連鋳品に生ずる中心欠陥も上述の鋼鋳物のそれと本質的に同じであり、すでに述べた如く本明細書においては、V状ポロシティおよび偏析をまとめて(偏析の有無あるいは程度にかかわらず)中心欠陥と呼ぶこととする。
【0303】
中心欠陥はデンドライト間液相補給が不十分な場合に発生するものであり、従って、固液共存相における液相の流動が内部欠陥の生成に決定的な役割を演ずるものと言える。この液相流れを生じさせる駆動力として次の要因が考えられる。
【0304】
(1)凝固時の固体と液体の密度差によって誘起される凝固収縮流れ。
【0305】
(2)液相の密度差によって生ずる流れ(自然対流)。液相密度ρLは次式(64)で示されるように温度のみならず、液相中の溶質濃度にも依存する。
【0306】
【0307】
(3)外部からの力学的変形によって生ずる強制流れ。バルジング、曲げ戻し、圧下などの変形がある。これは水を含んだスポンジを絞ったり、曲げたりしたときに内部の水が流動することを連想するとわかりやすい。なお、鋳片を強冷して熱収縮を生じさせることも、この分類に入る。
【0308】
発明者は、中心欠陥に及ぼす上記(1)と(2)の要因の影響を調べるため、一連の予備的数値解析を行った。その結果を要約すると次の通りである。
【0309】
▲1▼.大型鋼塊の場合、マクロ偏析が顕著に現れるが、これはデンドライト間液相流れが長期間広範囲に生ずるためである。同じ合金に対してインゴットのサイズを小さくすると固液共存相の幅は狭くなるが、流動パターンは図11(d)、(e)と同様の傾向を示す。しかしながら、凝固時間が短いため流れは極く小さい範囲に限定され、偏析は実質的に生じない。これは経験的な事実と一致する。
【0310】
すなわち、凝固速度が大きくなると液相密度差に基因する自然対流型の偏析は生じにくい。
【0311】
▲2▼.連鋳においては、流動パターンは後述の解析例で見られるように液相密度差に起因する自然対流型の流れはなく、鋳造方向への単純な凝固収縮流であった。
【0312】
スラブでは幅方向にしばしば冷却能の不均一を生ずるが、このような場合でも「正常な凝固」すなわち中心欠陥を生じない限り板面内流れによって生ずるマクロ偏析(V偏析ではない)の程度は小さく、実用上問題とはならない程度である。これも凝固速度が大きいことによる。正常凝固におけるDarcy流れパターンは図12(a)に示されるように、ごくわずか外に広がる形となる(図では広がりを強調するため幾分過大表示している)。また中心欠陥を生じる中心部付近では鋳造方向の流速は肉厚方向に比べて圧倒的に大きく、肉厚方向の流速は無視できるほど小さい。
【0313】
以上の数値解析は、メニスカスから最終凝固位置までを含む鋳片全体についてレベル3の機能を用いた。全体のDarcy流れの観点から見るとノズルからの溶鋼吐出流の影響は小さい。
【0314】
以上より、連鋳品に生じる主たる内部欠陥は、横断面最終凝固部に発生するV状欠陥であり、その要因として凝固収縮流が最も深く係わっていると言える。
【0315】
次に、V状欠陥が発生するメカニズムについて説明する。
【0316】
鋳造方向に長くのびた固液共存相の液相の主流れは鋳造方向に生じるため、Darcy流れによって生じる液相の圧力降下はほとんど鋳造方向に生じ、特に肉厚中心及びその近傍での圧力降下が最も大きい。
【0317】
そして液相の圧力Pが次式(65)で与えられる臨界条件に達するとポロシティを生ずる(文献(14)のp.239)。
【0318】
【0319】
ここで、Pgasは液相中に固溶しているガスと平衡するポロシティ内の平衡ガス分圧、σLGは液相とポロシティの界面における表面張力、rはポロシティの曲率半径であり、(61)式で与えられる。
【0320】
ポロシティは図12(b)に示されるように、V字型に並ぶ。
【0321】
V偏析が発達する場合は、このポロシティの生成がきっかけとなって、鋳造方向へ向かうDarcy流れは図12(a)に示されるような正常なパターンから図12(b)に示されるような流れに変化するものと考えられる。すなわち、液相が低温側(高溶質濃度側)から肉厚中心の高温側(低溶質濃度側)へV字状の空隙に沿って流れ込み、平均濃度より高い局所的な正偏析バンド、すなわちV偏析を形成する。
【0322】
このような液相の流れはポロシティの形成がきっかけとなり、ポロシティの形成と同時進行的に生じるものと考えられる。
【0323】
ここでもし、この低温側から高温側へ向かう流速が増大し次式(66)で与えられる条件に合致するようになると、その部分の固相が局所的に再溶解するという現象を生じる(文献(14)のp.249)。
【0324】
【0325】
局部的にこのような再溶解を生じるとその部分は周囲に比べてDarcy流れに対する抵抗が小さくなり、ますます流れは大きくなり再溶解が増大する。その結果、V偏析はもっと厳しく現れる。偏析の程度はこのチャンネル現象の規模の程度によって決まる((66)式左辺第2項の値が関与する)。
【0326】
中心欠陥生成に関する上記の議論を検証するため、炭素鋼を高周波大気溶解し、図44に示されるように直径32mm〜30mm×長さ350mmのテーパ付き鋳型に鋳造した。また、デンドライト間への液相の補給能を増すための手段として図44に示されるように乾燥型を圧力容器内に設置し、乾燥型への注湯後、アルゴンガスにて加圧した。
【0327】
鋳造試料の化学成分を表4に示す。鋳造温度は1560℃〜1580℃、注湯時間はいずれも約10秒であった。また、酸素及び窒素の分析値は50〜120ppmの範囲であった。試料No.1の大気鋳造材(アルゴンガスによる加圧なし)について、図44に示されるように試料中心部に3カ所熱電対を挿入し、凝固中の温度変化を測定した。その測定データを図45に示す。
【0328】
また、これらの実験に加え、注湯開始から凝固終了までを通しての本発明による数値解析を行い、内部欠陥の形成過程を追跡し、実験との比較検討を行った。数値解析に用いた鋼の物性値は表2及び表3に示す値を用いた。化学成分値は表4の値を用いた。乾燥型の熱伝導率は0.0036cal/cmS℃、比熱は0.257cal/g℃、密度は1.5g/cm3とした。押湯部断熱材についてはそれぞれ熱伝導率は0.0003cal/cmS℃、比熱は0.26cal/g℃、密度は0.35g/cm3とした。
【0329】
【表4】
【0330】
試料No.1の各温度測定位置における温度履歴の計算値は、図45中の破線で示されるように実測値とよく一致している。
【0331】
試料No.1の中心断面を研磨し、4%ナイタル液にてエッチングしたマクロ組織を図46に示す。 図46(a)は目視観察により得られたVパターンの状態を模式的に図示したものであり、図46(b)はその一部を示す。エッチングにより暗く腐食されており、V状の中心欠陥が顕著に現れている。マクロ組織は極く表面層の柱状晶および微細な粒状晶からなっている。図46(c)に顕微鏡組織の採取位置およびビッカース硬度測定位置を示す。
【0332】
また、図47に顕微鏡組織を、図48にビッカース硬度測定結果を示す。図47において、針状の白い部分はフェライト、暗くエッチングされた素地はパーライトである。図47の左上から右下に流れる暗色部(Vバンドの一部)はフェライトが少なく、従って炭素量が周辺部よりも高いことを示すものである。図46(c)に示されるように、この流れを横切るようにビッカース硬度を測定したところ、図48に示されるようにパーライトが大部分を占めるVバンド部で硬度が周辺部より高くなっていた。また、図48に示されるようにVバンド近傍で硬度が一旦減少し、その後、右上がりに増加しているのはVバンドの形成時に周辺(この場合左側から)の高溶質濃度の液相がVバンドに沿って流れ込んだためと考えられる。
【0333】
また、中心断面の探傷カラーチェック検査を行い、ミクロポロシティ分布を調べたところ、Vパターンに沿ってミクロポロシティが分布していることを確認した。押湯部収縮孔(図46(a))の鋳物全体に占める体積は約1%であり、鋳物の凝固収縮4%に比べて小さく、欠陥の大部分はVパターン中にミクロポロシティとして存在している。
【0334】
以上より、V状中心欠陥はV状に配列したミクロポロシティとV偏析(正偏析)バンドからなることを確認した。
【0335】
図49に当該No.1の試料についてレベル の数値解析を行い、ミクロポロシティの形成過程を検討した結果を示す。図49(b)に示されるように凝固完了後のポロシティ分布状態は、実際のVパターン(図46(a))と良く一致している。
【0336】
数値解析の結果より、内部ポロシティを生じ始める時刻は注湯開始55秒後であり、このときの固相率分布を図49(a)に示す。またポロシティを生じた位置を図中の斜線で示す。ポロシティを発生しないものとして計算したところ(レベル )、注湯開始63秒後に底面より75mmの位置においてDarcy流れによる圧力降下が最大となり、そのときの負圧は−20.5atmであった。これを参考に雰囲気圧を10atmから25atmの範囲で変化させて計算した結果、ポロシティ発生の臨界圧力は20atmであることが判明した。すなわち、加圧力を増すにつれてポロシティの体積率は減少し、20atm以上ではポロシティは完全に消失すると考えられる。
【0337】
そこで、以上の検討結果を参考に、鋳込20秒後(中心部の固相率約0.3の時)から加圧を開始し、鋳込30秒後から凝固終了まで10atmに加圧保持して鋳造した試料No.2のマクロ組織を図50に示す。大気鋳造した試料No.1と比べると、ポロシティ体積率は減少していたが、V欠陥は顕著に認められる。
【0338】
22atm加圧したNo.3のマクロ組織は図51に示すごとくV偏析及ぴポロシティのない健全部が30mmから130mmへ拡大しており、加圧が有効に働いたことを示している。これら試料No.2及びNo.3についてレベル3の数値解析(化学成分は表4による)を行ったところ図52に示すごとく10atmでポロシティは若干減少し20atmで消滅する。試料No.3の押湯から下の部分で欠陥を生じているが(図51)、これは押湯量が少なく引けが深くなったためである。一方、数値解析では押湯における収縮孔の形成を厳密に扱っていない(これを厳密に扱うには押湯部の要素分割をかなり細かくする必要があるが、結果の表示上の問題があるため行っていない)。
【0339】
以上より加圧によって中心欠陥を無くせることは明らかであり、過去に発表された実験結果を再確認するものである。ただし、これら従来の実験では加圧効果について理論的、定量的に扱われておらず不充分であった。例えば文献(34)では押湯部を加圧した場合中心偏析が逆により顕著に現れるなど加圧の実用的効果について否定的な見解が述べられている。当該文献では具体的な鋳物のサイズ(3インチ角断面、長さ24インチ)、化学成分値、鋳込温度、加圧条件、凝固中の測温データならびに内部欠陥観察結果が与えられており、数値解析との比較検討が可能である。
【0340】
そこで、本発明者が当該鋼鋳物について数値解析を行ったところ、図53に示すように当該文献の加圧力4.2atmでは効果は小さく、中心欠陥を無くすには少なくとも20atmの加圧力が必要であることがわかった。これと関連して、ポロシティ発生臨界条件式(69)について液相圧力降下とポロシティ発生の関係を模式的に説明したのが図54である。図中、固相率が臨界固相率gs*以上の領域でポロシティを発生する。以上のことから、中心偏析が逆に顕著に現れるのは加圧による押湯効果が不充分な場合、Vポロシティの発生がきっかけとなりポロシティのまわりの高溶質濃度の液相が流れ込んだ結果であると考えられる。いずれにしてもデンドライトスケールでの詳細な考察は別にして押湯効果が充分あれば中心欠陥は生じないと言える。
【0341】
以上のことから、凝固過程において固液共存領域での液圧が臨界圧力以下となる領域が内部欠陥の発生領域であり、凝固理論に基づく本発明による数値解析によって欠陥発生臨界液圧を算出することができる。
【0342】
さらに「ミクロポロシティを無くせば偏析も同時に無くなる」ということがいえる。すなわち、ミクロポシティを完全に無くすというよりも、正確に言えば発生の機会を与えないことが重要であり、このためには肉厚中心近傍(最終凝固部)の鋳造方向におけるDarcy流れに伴う液圧降下を最小限に抑え、(65)式で与えられる臨界圧力以上に保持すればよい。
【0343】
C.印加電磁力の算出
【0344】
電磁体積力(Lorentz力)を印加する方法には、種々の方法が考えられる。例えば、直流磁場と直流電流を印加する方法、リニアモーター型の遠隔推力を利用する方法などがあり、鋳片の断面形状、印加する位置、所要力の大きさ、設備費用等を考慮して適切な方法を選ぶことができる。
【0345】
ここでは前者についてその算出方法を述べる。図2に示されるように、鋳造方
【0346】
【0347】
【0348】
【0349】
分布φは次式(69)によって与えられる(文献(22)のp.8,(2.13)式において物体内の電荷は存在しないとすればよい)。
【0350】
【0351】
φは電極に印加される電位を境界条件として(69)式を解いて求められる。鉄はキュリー点(約770℃)以上では非磁性であり、近似的に空気と同じと見なすことができる。
【0352】
従って、固液共存相に一様な静磁場を印加することは比較的容易である。
【0353】
らかじめ行うことができる。。
【0354】
れている。
【0355】
【0356】
【発明の実施例】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0357】
A.丸ビレット材の垂直型連続鋳造の場合:
【0358】
第1の実施例は、図13に示されるように、溶鋼表面を所定の形状で凝固させて凝固シェルを得るための水冷銅鋳型5と、溶鋼を流入するためのレードル出口2と、レードル出口2からの溶鋼をノズル4を介して水冷銅鋳型5に一定速度で供給するためのタンディッシュ3と、水冷銅鋳型5を通過した鋳片6内部の固液共存部に電磁体積力を印加するための電磁ブースター1とから構成されている。ここで、電磁ブースター1は、図23に示されるように、直流磁場を発生させるための超電導コイルあるいは電磁石と直流電流を通電する電極から成り、鋳造方向に電磁体積力を発生させる装置である。
【0359】
軸受は高速度下での繰り返し荷重を受けるので、軸受材料はすぐれた耐疲労強度及び耐磨耗性が要求される。すなわち軸受鋼は素材の清浄度、組織の均一性など、特殊鋼の中でも特に厳しい品質が要求される鋼の一つである。
【0360】
1%C−1%Cr軸受鋼は、凝固温度範囲が広く、中心偏析を生じやすい。これが巨大炭化物生成の原因となり使用寿命の低下等の品質劣化を起こす。
【0361】
そこで、本実施例では、1%C−1%Cr軸受鋼の丸ビレット材を垂直型の連続鋳造機で鋳造する場合について説明する。なお、ここでの1%C−1%Cr軸受鋼には、0.2%Si、0.5%Mn、0.1%Ni、0.01%P、0.01%Sを含んでいるものとする。また、物性値を表2に示す。
【0362】
A−1.凝固過程の数値解析
【0363】
Fe−C二元状態図において、図14に示されるように、1100℃から1500℃における固相線と液相線を線形化する。
【0364】
図15(a)に示されるように、各合金元素の影響を考慮するために非線形多元合金モデルによって温度Tと固相率gSの関係を求めた。但し、非線形多元合金
づく。この計算上の不都合を避けるためgS=0.95で凝固完了と見なした(文献(16))。
【0365】
また、固液共存相が鋳造方向に長く伸びていることに鑑み、潜熱を均一に発生させるようにした。すなわち、潜熱値65(cal/g)をgS(0.95)で割った値68.4(cal/g)を見かけの潜熱値として用いた。
【0366】
次に、液相中の固溶酸素が凝固の進行に従ってデンドライト間の液相中に濃縮し、平衡COガス圧(COガス気泡が存在しないときの平衡圧)が変化する様子について(36)式〜(45)式を用いて数値解析を行った。計算に用いた物性値を表3に示す。図16(a)に示されるように、酸素含有量が減少するにつれて平衡COガス圧Pcoは低下する。またSi量を増すと、SiO2が生成することによって液相中のO濃度が減少し、平衡COガス圧Pcoが緩和される。
【0367】
数値解析を行う領域の要素分割は図13に示されるように、半径方向に10等分(半径方向分割長さは△r=1.75cm)、鋳造方向分割長さは△z=5cmとした。ここでは、数値解折に先立って、温度変化の大きい半径方向の分割数について検討した結果、分割数が8以上では計算結果に実質的な差異は認められないことから要素分割は10とした。鋳造方向についても同様の検討を行い上記の如く決めた。レベル3の円筒座標系2次元解析を行った。
【0368】
デンドライト間の液相流れを支配する透過率を求めるための(28)式におけるデンドライト比表面積Sbに関する補正係数αについては、計算から求めた凝固温度区間(1453−1327=126℃)の平均冷却速度(℃/min)を用いて、(71)式で示されるように、合金成分が近似している1C−1.5Cr鋼のデンドライトアームスペーシング(das)の測定値(文献(23))と一致するようα=1.2とした。
【0369】
【0370】
タンディッシュからは一定温度の溶鋼が連続して注湯されているため、メニスカス表面からの放熱は無視した。
【0371】
通常、上部の溶鋼プールにおける液相の流れはノズルからの吐出流、溶鋼プール内の温度差による対流などの影響を受け、複雑な流動パターンを生ずる。しかし流れは乱流的であり、溶鋼プール内の温度差も小さくなる。また、鋳造方向に長く伸びた固液共存相における液圧降下の挙動に対して液相プール内の流れの影響は無視してさしつかえない程度に小さいものである。そこで、本発明の目的である内部欠陥の問題に焦点を絞れば、必ずしも溶鋼プール内の流れを詳しく解析する必要はない。以上の諸点から、溶鋼プール内については、計算時間が長くなる運動方程式を用いずに、Darcy式による解法を用いた。
【0372】
しかし、Darcy式による解では溶鋼プール内の流動は極めて小さく、対流による温度拡散は小さくなる。そこで、これを修正するため液相領域及び固相率が0.05より小さい固液共存範囲について熱伝導率を見かけ上、液体の熱伝導率の5倍とした。この方法は連続鋳造の温度計算の際によく用いられている方法である(文献(24))。
【0373】
図17に示されるように、Darcy流れを考慮することによりした中心部における凝固開始点が早まり、上流からのより高温のDarcy流れの影響を受けて固液共存相が長くなっているのが判る。これは、実際の凝固現象と一致するものであり、巨視的スケールにおいてもDarcy流れ解析が必要であることが明白である。
【0374】
数値解析の境界条件としては、図18(b)に示されるように、鋳型部の熱伝達係数hを0.02から0.01へ階段状に変化させブレークアウトを防ぐよう設定した。
【0375】
また、水噴霧(ミスト)を行う2次冷却帯においては、凝固シェルの表面温度をなるべく均一にするよう1125℃に設定した。このときhは応答として求めることができる。
【0376】
さらに、図18(b)、(d)に示されるように、輻射による冷却能がミスト冷却能を上回る位置で、境界条件をミスト冷却から自然輻射冷却へ切り変える。
【0377】
図18(a)に示されるように、Gsが0.2以下の低固相率では液圧Pはほぼ直線的(すなわち静圧分布)に増加している。これは、固相率が低い場合には液相の圧力降下は極めて小さく、上流側にある固液共存相の始点がある程度変化しても高固相率側での液相の圧力降下に影響を及ぼさないことを意味している。
【0378】
このことから、溶鋼プールでの運動方程式による厳密な流動解析は行わなくてもよいことが判る。
【0379】
Darcy流れは最大−2.8mm/sの下降流であり、上流に行くにつれて流れの巾が広がるので速度は減少する(川の流れと同様)。
【0380】
上部溶鋼プールで上昇流が見られるのは側面より中心部の温度が高いために生じた自然対流である。
【0381】
体積力(重力による自重)Xの変化を図18(c)に示す。クレーターエンド側で自重が小さくなっているのは、液相中のFeより軽い溶質元素(Ni以外の全元素)の濃化の影響が温度降下の影響よりも大きくなり液相密度ρLが小さくなるためである。
【0382】
連続鋳造において、Darcy流れを生ぜしめる駆動力は凝固に伴う収縮であり、図12(a)に示した如くほぼ一様に下流方向に向く。
【0383】
図21に示されるように、クレータエンドに近いほど流路は狭くなり半径方向の流速は鋳造方向の速度に比べて次第に小さくなる。
【0384】
各合金元素の偏析は計算誤差以内(数パーセント)であり、実質的に偏析は無いとみなすことができる。
【0385】
Darcy流れに関する透過率Kは液圧降下を評価するに際して重要な要因の一つである((27)あるいは(30)式)。K式中のデンドライトセル径dについて本発明では(29)及び(31)式によって与えられる2つの式を示した。図22にこれらの式より求めたデンドライトアームスペーシングを示す。(28)及び(29)式を用いた図22中の(a)では表面で最も小さく内側に行くに従って大きくなるが中心部では逆転して小さくなっている。これはクレータエンドに近づくとシェル厚が急速に厚くなることから判るように(図18(b)参照)、凝固末期に凝固が加速されるためである。このことは、(28)及び(29)式より偏析がない場合、dはgS
よって最終的に中心要素のdが小さくなることが判る。一方、(31)式を用いた図22中の(b)では局所凝固時間tfは中心部で最大となるのでデンドライトアームスペーシングも中心で最大となる。
【0386】
凝固後半から末期にかけての加速凝固は大型鋼塊ではより明瞭に現れるが鋼の連続鋳造(文献(25))においても認められる一般的な現象である。肉厚方向のデンドライトアームスペーシングの分布に関して、直径203mm、鋳造速度0.11m/minの6063アルミニウム合金の連続鋳造においても、中心部のデンドライトアームスペーシングが小さくなっていることが報告されている(文献(26))
【0387】
A−2.内部欠陥の発生領域
【0388】
ガス圧Pcoは、図16(a)に示されるように、固相率の増加と共に最大0.9atmまで増大する。一方、(69)式における「−2σLG/r」は本実施例の場合、約−1.2atmまで(負の値が)増大している。従って、圧力降下の大きい高固相率側での液圧がP(絶対圧)=0.9−1.2=−0.3atm以下にならなければポロシティは発生しない。
【0389】
ポロシティ生成後の液圧P,ガス圧Pco及びポロシティ体積率gVの関係は、(69)式ならびに(36)〜(45)式の一連の関係を満足するように調節される。また、ポロシティが存在する状況でもDarcy流れを考慮している。
【0390】
このようにして中心部約6cmの範囲(直径の20%)にわたって5〜10体積%のポロシティを生じることが予測できる。
【0391】
以上より、内部欠陥発生の有無を判定する臨界圧力としては、安全側へ見積もって1atmという値が得られる。そして、メニスカス表面を0とした相対値で考えると、固液共存領域での液相の圧力が0atm以上ならば内部欠陥を生じないと予測できる。すなわち、図19に示されるように、メニスカスからの距離が20m付近でポロシティが発生すると予想できる。
【0392】
A−3.印加電磁体積力の算出
【0393】
垂直型の丸ビレット連鋳における電磁ブースターの概略図を図23に示す。
【0394】
電磁体積力(Lorentz力)は(51)式よりX方向の一様な直流磁束密度Bxと中心部の固液共存相を通るy方向の直流電流密度Jyの積として、(72)式で与えられる。
【0395】
【0396】
図18(a)のP分布及び所要電磁体積力(Lorentz力)の計算値((67)式)を参考にしてPが0となる位置より上流側の近傍からクレータエンド、すなわち、
力の8倍)の電磁体積力(Lorentz力)を印加した。
【0397】
数値解析の結果、固液共存領域の長さ16.05m、Zmaxが21.0m、Pmaxが−0.03atmであった。
【0398】
すなわち、図24に示されるように、クレータエンド近くの液圧降下が緩和されて正圧(絶対圧約1atm)に保持されており、ポロシティは発生しない。
【0399】
このことから、上記の値以上の電磁体積力(Lorentz力)を印加することによって内部欠陥のない連鋳品を製造できる。
【0400】
電気抵抗ρが断面内で一定のときは、電極間の最短距離、すなわち、両極を結ぶ中心線近傍において電流密度は最大となる。しかしながら、電気抵抗ρは温度の関数であることから、電極は図2(c)に示されるような機構を用いるのが最適である。
【0401】
垂直型ビレットあるいはブルームの連鋳においては、幅の広いスラブ連鋳で必要とされる多数の支持ロールは一般に用いられない。しかしながら、鋳片に軽微な圧下勾配を付与することによって液圧降下を緩和し、これによって所要電磁体積力(Lorentz力)を軽減することができるので、図2(d)に示されるように、丸ビレットと剛性フレーム1との間にロールを配置して軽圧下勾配を付けるのも効果的である。
【0402】
B.厚板スラブの垂直曲げ型連続鋳造の場合:
【0403】
第2の実施例は、図1に示されるように、溶鋼表面を所定の形状で凝固させて凝固シェルを得るための水冷銅鋳型5と、溶鋼を流入するためのレードル出口2と、レードル出口2からの溶鋼をノズル4を介して水冷銅鋳型5に一定速度で供給するためのタンディッシュ3と、水冷銅鋳型5を通過した鋳片6を曲げるための複数の曲げロール7と、曲げロール7を通過した中編6を水平にするための複数の矯正ロール8と、矯正ロール8を通過した鋳片6内部の固液共存部に電磁体積力を印加するための電磁ブースター1とから構成されている。また、電磁ブースター1は、操業データ等に基づいて、印加する電磁体積力の大きさと位置を算出する演算手段を具備している。さらに、この演算手段は、リアルタイムで変化する操業データに基づいて演算手段での数値解析データを補正するとともに、オぺレータルームに設置されている表示手段12に連鋳品の凝固過程をリアルタイムで表示する補正手段を具備している。すなわち、検出部9は操業パラメータの入力信号を取り込む装置、コンピュータシステム10は検出部からの操業データに基づいて凝固過程の数値演算処理を行い操作部11を介して制御対象である連鋳機本体に操作量をフィードバックする機能を有している。また、表示装置12により凝固状況を随時監視することができる。
【0404】
図2(a)において、ベクトルBは直流磁場の磁束密度(Tesla)を示し、ベクトルJは直流電流密度(A/m2)を示し、ベクトルfは電磁体積力(Lorentz力)(N/m3)を示す。
【0405】
図2(b)及び(c)は、直流磁場と直流電流を用いる場合の電極及び電極機構の1例を示しており、直流回転電極1cは鋳片1b側面に対してバネによって軽く押付けられ引抜き速度に合わせて回転する。あるいは電極をバネで固定し鋳片に対して摺動させる方法を用いてもよい。
【0406】
また図2(d)は、直流磁場と直流電流による電磁体積力(Lorentz力)を印加すると同時に、固定軸1eのまわりに軽く圧下することにより軽圧下勾配を与える機構を示している。
【0407】
さらに図2(e)に示されるように、図2(d)に示した装置を1ユニットとし、当該ユニットを複数個配置することも可能である。
【0408】
海洋構造物用鋼などの厚板高級鋼の中心欠陥は割れの起点となり、しかも品質劣化の原因となるので、品質を左右する重要な問題として従来から精力的に研究されている。
【0409】
中心偏析は凝固温度範囲の大きい炭素量の高い鋼ほど顕著に現れる。そこで本実施例では炭素濃度0.55(wt%)のJIS S55c (AISI 1055)を選んだ。この鋼には、他に0.2%Si、0.75%Mn、0.02%P、0.01%Sを含んでいる。
【0410】
B−1.凝固過程の数値解析
【0411】
2元平衡状態図に基づいて、非線形多元合金モデルによって求めた温度と固相率の関係を図15(b)に示す。
【0412】
物性値を表2及び表3に示す。0.55%炭素鋼の比熱C(ca1/g℃)と熱伝導率λ(cal/cms℃)の温度変化を図25に示す。
【0413】
脱酸剤はSiとした。また、表3に示されるように酸素含有量は0.003wt%とした。
【0414】
垂直曲げ型連鋳機の仕様と操業条件は図26(b)に示されるように、鋳型長さ1.2m、鋳型を含む垂直部の長さ3m、曲げ半径8m、スラブ寸法として厚さ220mm幅1500mm、鋳造速度1m/min)鋳造時の溶鋼過熱度15℃とした。
【0415】
連鋳機の各寸法及び操業条件は世界的に見て大きな差はなく、本明細書における設定値及び繰業条件は典型的な値である。
【0416】
スラブは曲げロール部及び矯正ロール部を通過する際に曲げ変形を受けるが、スラブ厚さに比べて曲率半径は充分大きいので単純曲げ変形と見なすことができる。すなわち、中立軸の位置は不変と見なすことができ、鋳造方向の歪みεzの最大値は表面においてεz=110/8000=1.375%となる。
【0417】
そこで、曲げロール部においては、図26(b)に示されるように、5段にわたって徐々に曲げていき、合計で1.375%(すなわち約0.275%/1段)の歪みとなるよう曲率半径を設定した。矯正ロール部における曲げ戻しについても同様である。
【0418】
数値解析の領域は図26(c)に示されるように、曲げによる非対称性を考慮して全肉厚を19等分した(分割幅△x=22cm/19)。また鋳造方向の要素分割長さは△z=10cmとした。レベル2及び3の直交曲線座標2次元解析を行った。
【0419】
(28)式におけるデンドライト比表面積Sbに関する補正係数αは1、すなわち補正なしとした。
【0420】
表面熱伝達率H(cal/cm2s℃)は、図27(b)に示されるように、メニスカ
で0.015、Z≧3mで0.010と設定した。
【0421】
図27(b)にシェル厚の変化を、図27(d)にスラブ表面温度を示す。
【0422】
固相率gSが0.2で早くも液圧降下を生じており、0.6以上になると液圧降下は急激に大きくなり、クレータエンドで−4.7atmの負圧になっている。これは図27(c)に示されるように透過率Kが急速に小さくなるためである。重力の鋳造方向成分XもZが16m以上では0であり自重による押湯効果はない(図27(c))。
【0423】
B−2.内部欠陥の発生領域
【0424】
図28に示されるように、Zmaxが18.4mの時は、固液共存領域の長さは8.5mであり、Pmaxは−0.3atmとなる。ここでは、中心部約11mmの範囲(肉厚の5.2%)にわたって8vo1%のポロシティを生じている。ポロシティの大きさは50μmである。この中心部においてポロシティを伴った偏析が生じる。
【0425】
B−3.印加電磁体積力の算出
【0426】
ポロシティが発生しないものとして算出した圧力と速度場に基づいて、ポロシティを生じさせないための圧力分布を任意に与え、(67)式からXz(重力のZ方向成分+Lorentz力)を算出し、電磁体積力(Lorentz力)分布を求めた。
【0427】
電磁体積力(Lorentz力)分布に基づいて、圧力降下が急激に大きくなるメニスカスからの距離Zが18m以上の範囲で次のように設定した。
【0428】
Z=18.0〜18.6m間において、スラブ厚さ方向の直流磁束密度をB=0.7(T)、及びスラブ幅方向の直流電流密度をJ=1.47x106(A/m2)とし、鋳造方向にf=JxB=1.029x106(N/m3)(15G,重力の15倍)の電磁体積力(Lorentz力)を印加する。
【0429】
このために必要なスラブの解析幅方向(0.01m)の両端電位差を次式から求める。
【0430】
E=Jx0.01/σ=1.47x106x0.01/7.0x105=0.021(V)
【0431】
ここで、電導率σは固液共存相における平均値である。通常、図32に示されるようにσは温度によって変化するが、温度差の小さい中心部固液共存相内では変化は小さい。
【0432】
電磁ブースターは、図26(a)に示されるように、矯正ロール後方の水平部に設置する。
【0433】
また、電磁体積力(Lorentz力)の印加範囲を大きくして電磁体積力(Lorentz力)を小さくしてもよい。
【0434】
上記電磁体積力(Lorentz力)を印加した場合について数値解析を行った。
【0435】
図29(a)に示されるように、クレータエンドでの液圧は−0.11atm(絶対値で0.89atm)に緩和され、ポロシティは生じない。中心偏析も数%と計算誤差のレベルであり実質的にないとみなすことができる。
【0436】
全体の凝固プロフィール及びクレータエンド近傍のDarcy流れ分布を図30に示す。図30に示されるように、電磁力を印加した領域及び矯正曲げ領域においても流れパターンは正常である。
【0437】
通常、矯正帯では肉厚中心を境にして自由側(曲率の内側)で引張り、固定側(曲率の外側)で圧縮変形となり、自由側では肉厚減少によって液相が絞り出される結果(固定側ではこの逆)、液相は自由側から固定側へ流れる。
【0438】
しかしながら、本実施例では、曲げ戻しによるこのような外乱は見られなかった。これは曲げ歪み量が1.4%(表面におけるεzmax)と小さいことに加えて、中心部ではさらに小さくなるためである。
【0439】
以上から矯正ロール部での変形が単純曲げに近いとすると偏析に対する影響はないと言ってよい。
【0440】
図29(c)に示されるように、電磁体積力(Lorentz力)印加ゾーンでジュール熱の発生が若干認められる。クレータエンド長さZmaxが18.6mから19.0mへ40cm長くなっているのはこのためである。
【0441】
電流密度Jと磁束密度Bの積(正確には両ベクトルの外積)が一定のとき電磁体積力(Lorentz力)fも一定になる。しかしながら電流密度Jが大きすぎるとジュール熱によってスラブ中心近傍が再溶解するので、操業上、磁束密度Bを大きくし電流密度Jをできるだけ小さくすることが望ましい。一方、磁束密度Bを大きくするためにはコイルの巻数Nとコイル電流Iの積NI(起磁力)を大きくしなければならない。この両者の影響を勘案して電流密度Jと磁束密度Bを決めればよい。通常の電磁石ではB=1テスラ程度が限界であるので、これより大きくなる場合は超電導磁石を用いるのがよい。
【0442】
そこで磁束密度Bを0.5(T)まで下げ、電流密度Jを1.029x106(A/m2)へ増加して電磁体積力を等しくし、ジュール熱の影響を検討した。
【0443】
数値計算の結果、固液共存領域の長さ9.4m、Zmaxが19.3m、Pmaxが0.78atmであった。
【0444】
図31に示されるように、磁束密度Bが0.7(T)の場合に比べてジュール熱の影響がさらに大きくなりZmaxが18.6mから19.3mへ70cm長くなっている。また、クレータエンドでは0.78atmの正圧に保持されており欠陥は生じておらず、この程度のジュール熱の発生では問題ないことがわかる。しかしながら、さらに電流密度Jを増加させ、中心部が再溶解してしまうような極端な場合は、再び凝固するまでに時間がかかり、固液共存相も長くなるので圧力降下が再度生じ電磁力を印加する意味がなくなってしまう。
【0445】
以上より、磁束密度を大きくし、電流密度は低めにするのがよい。そして、高磁束密度を発生できる超電導磁石を用いるほうが、スペースの節約、経済性等の観点からも有利といえるだろう。
【0446】
また、本実施例ではスラブ側面の肉厚方向全断面に直流電流を印加したが、実際には電磁体積力(Lorentz力)を必要とする肉厚中心部近傍にのみ通電してやればよい。これによって全電流を小さくしジュール熱の発生を小さくすることができる。
【0447】
以上より厚板スラブに対しても内部欠陥を解消することができる。また、演算手段と補正手段は、連鋳機に設置されている各種センサーや計測装置からの操業データに基づいて連鋳品の凝固状態を算出し、表示手段にリアルタイムでグラフイック表示を行う。これによりオペレータは、視覚的に操業状態を正確に把握することが可能となる。
【0448】
C.厚板スラブの垂直曲げ型連続高速鋳造の場合:
【0449】
一般に、連鋳機当りの月間生産量(トン)で表される連鋳機の生産性は非稼働時間、鋳造準備時間、断面寸法、鋳造速度等によって決まる。これらのうち、生産性の向上においては、連鋳品の品質と密接に係っている断面寸法及び鋳造速度が重要項目である。
【0450】
断面寸法を大きくするのは冶金的観点から問題が多く、あまり得策とは言えないため、鋳造速度を上げることに大きな努力が払われている。
【0451】
そこで最近ますます高速化が志向されるスラブ連鋳に対して本発明を適用した場合について述べる。
【0452】
C−1.凝固過程の数値解析
【0453】
連鋳機の仕様及び繰業条件は、鋳造速度を2m/minとしたことに対応して冷却条件を変更する以外はすべて第2の実施例と同じとする。
【0454】
数値解析を行った結果、固液共存領域の長さ12.6m、Zmaxが31.2m、Pmaxが−1.15atmであった。
【0455】
C−2.内部欠陥の発生領域
【0456】
図34に示されるように、中心部35mmの範囲(肉厚の16%)で約5から15vol%のポロシティを生じている。そして、ポロシティの大きさは約60から65μmである。
【0457】
C−3.印加電磁体積力の算出
【0458】
数値解析の結果から、ポロシティを無くすためにはZ=30.2〜33.1m範囲で平均22G相当の電磁体積力(Lorentz力)を必要とすることが判明した。
【0459】
そこで負圧になる領域で以下のように2つのゾーンに分けて電磁体積力(Lorentz力)を印加した。
【0460】
(1)第1ゾーン:
【0461】
メニスカスからの距離Z=30.2〜31.7mの間に15G相当の電磁体積力(Lorentz力)を印加する。このため、直流磁束密度Bは1.33(T)、直流電流密度Jは7.775x105(A/m2)、スラブ解析幅方向電位差EはJx0.01/σ=0.0111(V)と設定した。
【0462】
(2)第2ゾーン:
【0463】
Z=31.7〜33.1m間に34G相当の電磁体積力(Lorentz力)を印加する。このため、直流磁束密度Bは3.0(T)、直流電流密度Jは7.775x105(A/m2)、スラブ解析幅方向電位差Eは0.0111(V)に設定した。
【0464】
数値解析の結果、図35に示されるように、固液共存領域の長さ14.8m、Zmaxが33.4m、Pmaxが−0.16atmであった。
【0465】
クレータエンドにて液圧P=−0.16(atm) (絶対圧0.84atm)の正圧に保持されておりポロシティの発生はない。
【0466】
クレータエンド長が33.1mから33.4mへ30cm長くなっているのはジュール熱の影響によって凝固が少し遅れたためである。
【0467】
本実施例では鋳造方向2.8mの範囲に亘り、平均22Gの電磁体積力(Lorentz力)を必要としたが、設備上あるいは経済上の観点から適用範囲及び所要電磁体積力(Lorentz力)を小さくすることが望ましい。
【0468】
そこで次に考えられる論理的な手段として、図7(d)に示されるように、磁気引力を利用した軽圧下を補助的に用いて液圧降下を緩和し、所要電磁体積力(Lorentz力)を軽減することを試みた。
【0469】
準備として、軽圧下の効果を調べるための数値解析を行った。
【0470】
(1)圧下量分布δの算出
【0471】
凝固収縮を完全補償するに必要な圧下量分布δを求めるに当たって、肉厚中心要素の固相率gsが0.1(任意でよい)となる位置(この場合Z=25m)を基準として(δ=0とする)、固液共存相における凝固収縮体積量を求め、これがスラブ肉厚方向の圧下量δに等しいとして求めた。すなわち、△t間における圧下量増分△δは(73)式で求めることができる。
【0472】
【0473】
要素の体積であり、添字iはある横断面の肉厚方向における固液共存要素を示す
【0474】
図36(a)に示されるように、Z=25mの位置を基準とすると、メニスカスから33.1mの位置では、δ=1.06mmとなる。
【0475】
(2)圧力降下の算出
【0476】
次に、当該圧下量分布を参考にして実際の圧下勾配を決定した。
【0477】
すなわち、図36(b)に示されるように、メニスカスから31mの位置での圧下量を0、クレーターエンドでの圧下量を0. 1mmとする軽圧下を印加した場合と、メニスカスから32mの位置での圧下量を0、クレーターエンドでの圧下量を0.06mmとする軽圧下を印加した場合とについて数値解析を行った。
【0478】
図36(c)に示されるように、軽圧下を印加することによりクレータエンド近傍の圧力降下が緩和されている。
【0479】
(3)電磁体積力に及ぼす軽圧下の効果
【0480】
メニスカスから30.8mの位置での圧下量を0、クレーターエンドでの圧下量を0. 1mmとする軽圧下を印加するとともに、当該範囲に8G相当の電磁体積力(Lorentz力)を印加した場合について数値解析を行った。
【0481】
図37に示されるように、固液共存領域の長さ14.6m、Zmaxが33.2m、Pmaxが5.1atmであった。欠陥が発生しない条件を満足している。
【0482】
電磁体積力(Lorentz力)のみを印加した場合に比べて適用範囲(鋳造方向)は50cm短くなり、必要とする電磁体積力(Lorentz力)も約1/3へ減少しており、極く軽くスラブに圧下勾配を付与するだけで効果の大きいことがわかる。
【0483】
従来の軽圧下法による圧下勾配は凝固収縮を完全に補償することをねらっているため、固液共存相における歪みがある限界以上になるとデンドライト結晶が機械的に破壊され高溶質濃度の液相が吸引され内部割れを生ずる可能性が指摘されている(文献(27))。
【0484】
一方、本発明では、圧下量が小さく(従って上記限界歪み以下であり)、あくまで圧力降下を緩和するための補助的な手段として用いるものであり、電磁体積力(Lorentz力)の印加によるデンドライト間液相補給が主役を演ずるものであるため、内部割れの心配はない。
【0485】
また、石油及び天然ガスの輸送に用いられる大口径輸送管(ラインパイプ)は地中、海底、寒冷地など苛酷な環境で使用されるので強度はもちろん靭性及び種々の破壊特性に優れた性能が要求される。
【0486】
侵入し、連続鋳造時に形成された中心欠陥(最終製品に残留する)にトラップされるといわゆるHIC(水素誘起割れ)を発生する。
【0487】
海底輸送管のHICによる事故をきっかけにして特に重要視されるようになった(文献(28))。
【0488】
HICに対して現在行われている対策例は、連鋳品に生ずる中心偏析及びポロシティを不可避的な現実として容認し、合金成分を調整することによってHICをなくそうとするものである。例えば文献(29)では、HIC発生に顕著な影響を及ぼすC,Mn,Pに着目し、次式(74)で与えられるHIC感受性パラメータPHICが0.6以下になるように成分調整を行っている。
【0489】
【0490】
であり、SMは合金元素Mの偏析度(>1)を表す。
【0491】
【0492】
この判定基準によって、例えば、API(アメリカ石油協会)規格X65級(65は耐力65000psi(448MPa)以上の意味)の強度要求を満足するための一手段として、C=0.03、P=0.004(wt%)とごく低めに抑えるとともにCu、Ni等他の元素についても厳しく成分管理を行い、さらに加工熱処理技術に特別の工夫を凝らしている。この時のHIC受性パラメータはPHIC
【0493】
ちなみに実施例2及び実施例3で用いた0.55%炭素鋼の場合、本発明によって偏析はないものとすると、PHIC=0.715となる。C量のみ0.20%とすると、PHIC=0.365へ減少する。(ただしこれらの評価にはCu、Ni、Cr、Mo、Vの微量添加元素は含まれていない)。このことは、偏析がなくなれば、上述のような厳しい成分管理等は不要となり合金成分バランスについて取り得る自由度が大巾に拡大することを意味する。
【0494】
当該輸送用鋼管に対してはX70級(耐力70000PSIまたは482MPa以上)やX80級(耐力80000PSIまたは551MPa以上)を越える強度の要求が高まり、同時に耐HIC性だけでなく耐SSC性(硫化物応力割れ)や溶接性に対する要求も年々厳しくなっている状況を考えると、成分バランスに対する自由度が拡大することの意味は大きい。次々に高強度材料が開発されている現在の技術レベルから判断して、上記の品質要求に応えることは容易に達成できると言ってよい。
【0495】
つまり、本発明を適用し中心欠陥を完全に無くすことによってこのような厳しい要求に充分応えることができる。
【0496】
温変態線図(TTT図)より次のように定めた。
【0497】
【0498】
図38に示されるように、(50)式及び(76)式を用いて得られたTTT図は測定値と概略一致している。本実施例の場合、表面温度は540℃まで低下しており、メニスカスからの距離Z=18.7〜22.5m間の表面要素(厚さ11.6mm)では、100%パーライト変態を生じた。図33(d)に示されるように、表面温度Tsの再上昇はパーライト変態潜熱によるものである。
【0499】
パーライト変態を生ずると鋳片表面層は磁性を有するようになるので静磁場によって磁気を帯びる。従って超電導磁石等の設計の際、これによる種々の相互作用、例えばスラブ中心における磁束密度への影響等を考慮に入れる必要がある。
【0500】
ここで、空心型の超電導磁石を用いる場合にコイル間に働く引力について検討した結果について述べる。
【0501】
図39(a)に示されるように、コイルは円形とし、それぞれのコイルを流れる全電流I(=コイル電流×巻数)は1本の点電流と仮定した(実際は有限の断面積を持つ)。鋳片は両コイル間に存在するが、簡単のため空気と同じと見なした。このとき、中心軸のZ=b/2の位置におけるZ方向の磁束密度BZは次式(77)で与えられる。
【0502】
【0503】
ここにμoは真空の透磁率であり、4πx10−7(H/m)という値を持つ。一方、コイル1の作る磁界によってコイル2の電流が受けるZ方向の力は次式(78)で与えられる。
【0504】
【0505】
ここにBrはコイル2上の磁束密度のr方向成分であり、ベクトルポテンシャルAθ(θ方向成分)を用いて次式で与えられる。
【0506】
【0507】
(Aθに関しては例えば、山田直平他2名:電磁気学例題演習(1970)、P.159〔コロナ社〕を参照されたい。)
【0508】
図39(b)に示されるように、コイル間距離が大きくなるにつれてコイル間圧力P(FZをコイル断面積で割った値)は低下するが、Bzが大きいほど顕著に低下する。但し、ここでは、a=0.8mに固定して計算している。
【0509】
以上の計算では、実際の操業を想定したパラメータを用いており磁束密度すなわちコイル電流とコイル間距離を制御することによって鋳片にかかる圧力を広範囲にコントロールすることが可能であることを示すものである。
【0510】
固液共存相におけるデンドライトスケルトンの強度が概略数Kg/cm2から50Kg/cm2程度(文献(27)のp.72)であることを考慮すれば、コイル間引力を利用して極く小さい圧下勾配を付与することが可能であることがわかる。例えば本実施例の場合、軽圧下範囲Z=30.8〜33.1mにおいて中心部の固相率gSは0.65以上でありデンドライトスケルトン強度から判断して、コイル間距離を0.6mとしB=1〜2(テスラ)程度で所定の軽圧下勾配を付与することは可能である。
【0511】
また、実際の適用に際しては、図40に示されるように、電磁ブースターを実装した実機において、あらかじめ磁気引力と圧下勾配の関係を実験的に求めておき、必要圧下勾配に対する磁気引力を付与すればよい。当該軽圧下は液圧降下を緩和する補助的手段として用いるものであるため、厳密に制御する必要はなく、ある程度の範囲内に入るように磁気力を制御すればよい。
【0512】
以上の説明から、本発明では、実施例にて取り挙げた垂直丸ブルーム及び垂直曲げスラブ連鋳以外のすべての連鋳法、すなわち、垂直曲げブルーム及びビレットならびに曲げ型スラブ、ブルーム及びビレットなどの従来の連鋳の他に、最近注目されている50mmあるいは60mm程度の肉厚を有する薄スラブ連鋳、さらにH型等異形断面形状を有するいわゆるnear−net−shape連鋳法、さらに異鋼種複合連鋳法などにも適用できる。
【0513】
その理由は、鋳片横断面における最終凝固部固液共存相における鋳造方向のデンドライト間の液相圧力降下に着眼し、ポロシティ発生の臨界圧力以上に当該液圧を保持することによって中心欠陥(偏析及びミクロポロシティ)を完全に無くすことが可能であるという本発明の原理がこれらすべての連鋳プロセスに対して普遍性を有するからである。
【0514】
また、凝固収縮によって誘起される中心部の鋳造方向へのデンドライト間液相流れは合金一般に共通する物理現象であるため、本発明は鋼の種類を問わずすべての鋼種、すなわち、炭素鋼、低合金鋼、ステンレス鋼等々に適用できる。アルミニウム、銅等の非鉄合金の連鋳についても同様である。
【0515】
本発明は、電磁体積力(Lorentz力)のみ単独で印加する方法、及び電磁体積力(Lorentz力)と磁気引力を利用した軽圧下を組み合わせる方法によって構成されるが、いずれを適用する場合でも、凝固のタイミング、すなわち、適用すべき位置(メニスカスからの距離)を誤ると効果は期待できない。
【0516】
例えば、ポロシティ発生臨界圧に達する位置よりも下流側(メニスカスから遠ざかる位置)で電磁体積力(Lorentz力)を印加しても、V状ポロシティはすでに発生しており、図12(b)に示されるように、V偏析を形成する流れ(周囲の低温部から中心高温部への流れ)をさらに助長することになるので、電磁体積力(Lorentz力)の程度によっては逆にもっとV偏析を生成するか又は全く効果が得られない場合がある。
【0517】
逆に臨界圧位置より上流側すぎると圧力上昇を必要としない部分での液圧を無駄に上昇させ、最も液相補給を必要とするクレータエンド近傍への効果が小さくなるので好ましくない。
【0518】
また、位置が適切であっても電磁体積力(Lorentz力)が小さすぎて、臨界圧力以下になると、欠陥の生成を助長させる恐れがある。
【0519】
従って、臨界圧位置及び必要な電磁体積力(Lorentz力)を定量的に正確に知ることが極めて重要である。しかしながら、当該臨界位置を物理的計測によって直接知ることは不可能であり、まして所要電磁体積力(Lorentz力)分布を実験的手段によって知ることは不可能である。これが発明を構成する要素として本発明者が開発した数値解析を必要とする理由である。
【0520】
電磁体積力(Lorentz力)を印加する方法として本明細書の実施例で述べたように、直流磁場と直流電流を用いる方法とリニアモーター型電磁推進力を用いる方法がある。どちらの方法を採用するかは、図7および図23に示されるように、鋳片の横断面形状(スラブ、ブルーム、ビレットあるいは異形断面)、連鋳機プロフィール、必要とする電磁体積力(Lorentz力)の大きさ等を考慮して最もふさわしい方法を採用すればよい。
【0521】
また、電磁ブースターによって発生する電磁体積力(Lorentz力)は鋳片の引抜き力として利用することができる。通常、曲げ型あるいは垂直曲げ型連鋳においては鋳片の矯正曲げによる引抜き抵抗、鋳片と鋳型壁間の摩擦抵抗等によって引抜き抵抗を受ける。例えば文献(31)では190mm×1490mm、鋳造速度1.5m/minのスラブ連鋳において約60tonの引抜き抵抗力を実機計測している。このような大きい引抜き抵抗力に対して充分な引抜き力を得るためには、ロールによる駆動トルクを鋳片に有効に作用させる必要があり、一般にマルチドライブ方式が採用されている。
【0522】
しかしながら、押付けによる摩擦力を鋳片に作用させる方式では、品質に対して何等かの影響を与えることが考えられる。例えばロールの押付力が大きいと凝固シェルを変形させ、内部クラックや偏析の原因となるのはその1つである(文献(31))。
【0523】
一方、本実施例で用いた電磁ブースターの能力を引抜き力の最大値Fmaxとして計算(Lorentz力の印加体積×密度×G倍率)すると、第2の実施例ではFmax=20.88ton、第3の実施例の電磁体積力のみの場合でFm ax=154ton(2zoneの合計)、第3の実施例の軽圧下を組み合わせた場合でFmax=5tonであり、所要引抜き力に概略匹敵する。
【0524】
従って、電流断面積を調節したり、磁束密度を大きくする等によって電磁体積力(Lorentz力)を調節し、引抜き抵抗力に匹敵する引抜き力を得ることができる。
【0525】
電磁体積力(Lorentz力)は静かに鋳片に作用し、これによってメニスカスからクレータエンドまでの品質上の重要な範囲では駆動ロールは不要となる。この間のロールは純粋に鋳片を支持するためだけに用いられるので、多くの駆動ロール装置を必要最低限の数まで大巾に減らすことができ、設備コストの削減に貢献すると共に品質に悪影響を及ぼす要因を減少できるという効果を生む。
【0526】
実際の連続鋳造に本発明を導入する場合の運用方法は次の通りである。
【0527】
(1) 当該数値解析による凝固シミュレーションと実連鋳機試験のすり合わせ(matching)を行う。本実施例で示した数値解析結果は当然のことながら誤差を伴うものである。
【0528】
誤差の原因の第一は計算に用いた鋳片表面の熱伝達率ならびに各種物性値データに関する精度である。本実施例で用いた物性値データは種々の文献を参照し妥当な値であるが多くのデータについて正確さを期することは難しい。
【0529】
第二はデンドライト結晶の形態に関するモデリングとこれによって決まる透過率Kに関する精度である。複雑なデンドライト形態のモデリングの妥当性については文献(18)において検証されているが、デンドライト結晶の成長方向と平行(Kpとする)及び垂直方向(KVとする)の透過率は異なることが知られている(文献(32))。KpとKVは冷却速度に依存するようである。しかしながら実用鋼のKpとKVの大小関係について信頼できるデータがないのが実情である。
【0530】
従って数値解析と実機試験とのマッチングに際しては上記二点のみを考慮すればよい。
【0531】
凝固シェル表面(あるいは内部)温度変化を実測することによって(例えば文献(33))、上記第一原因による誤差の補正ができる。現在、水噴霧などの冷却条件と表面熱伝達率の関係についてかなりのデータが蓄積されている。また、凝固シェル厚さ、クレータエンドの測定が可能となっているので正確な補正ができる。1例として、温度拡散度λ/cρによって補正する。
【0532】
第二の原因による誤差については、透過率K式(27)中のデンドライト比表面積Sb((28)式)に導入した補正係数αの他、当該K式に柱状デンドライトの異方性による影響を補正するパラメータαKを導入し、ポロシティ発生臨界位置について計算値と一致するよう、これらの補正係数を決めればよい。すなわち、凝固完了後の内部欠陥の状態(生成範囲、ポロシティの大きさなど)を観察し数値解析の結果と比較検討しながら臨界位置を絞り込んでいけばよい。
【0533】
各種の補正係数が決定されると、数値解析により内部欠陥を無くすための最適条件(即ち、電磁体積力(Lorentz力)を印加する位置、範囲、大きさならびに必要に応じて磁気引力による軽圧下条件等)を見出だすことができる。
【0534】
このようにして決定された最適条件は補正を行っているので、充分信頼できるものであり、また実際の操業の際には、安全側に設定値を取ることは言うまでもない。
【0535】
以上、連鋳品の内部欠陥問題に関して、本発明による解決方法を述べてきたが、内部欠陥はここで取り挙げた実施例に限らず、程度の差こそあれ、ほとんどすべての鋼種に生ずる問題であることを考えると、本発明はすべての連鋳プロセスに対して極めて広範囲の鋼種に適用される。
【0536】
最後に、本発明の効果を簡単にまとめると次の通りである。
【0537】
(1)内部欠陥(中心偏析及びポロシティ)を完全に無くすことができる。
【0538】
(2)高速鋳造を可能にする。
【0539】
(3)化学成分バランスの自由度が拡大する。
【0540】
(4)連鋳鋼種が拡大できる。
【0541】
(5)引抜き装置が省力化できる。
【0542】
特に、上記(2)項に関しては鋳造速度を2倍あるいは3倍に高速化することによって連鋳プラント数を半分に削減でき、その経済的効果は極めて大きい。磁場発生装置として建設費及び省スペースの観点から、通常の電磁石よりも超電導磁石が望ましい。また、ブルームに対してはレーストラック型のコイルを用いるなど鋳片の形状に適合した形を採用すればばよい。さらに操業条件の変化に対応してブースターの位置を移動できるようにしておくと便利である。
【0543】
以上より本発明による連続鋳造プロセスは、品質はもちろん、生産性、経済性に優れた新規なプロセスであると言える。
【0544】
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施例を示す構成図である。
【図2】図1の電磁ブースターの詳細を説明するための詳細説明図である。
【図3】溶質元素の再分布を説明するための説明図である。図3(a)はFeとある合金元素との平衡状態図を示し、図3(b)は平衡凝固型合金元素の場合の溶質濃度分布を示し、図3(c)は非平衡凝固型合金元素の場合の溶質濃度分布を示す。
【図4】非線形2元状態図の区分線形モデル化を説明するための説明図である。
【図5】デンドライト凝固モデルを説明するための説明図である。
【図6】ミクロポロシティの発生場所及びデンドライト間液相空間の大きさをを説明するための説明図である。図6(a)はポロシティの発生場所を示す。図6(b)及び(c)は液相空間の大きさを計算するためのモデルである。
【図7】数値解析で用いられる体積要素を説明するための説明図である。デンドライトは大きく拡大されている。VLはデンドライト間液相流速ベクトル、VSはデンドライト結晶の変形速度ベクトルを表す。
【図8】離散化の説明のために文献(20)のp.97より引用した説明図である。斜線部はcontrol volumeを表し、〇印で示した点はgrid pointと呼ばれる。controlvolumeの面e,w,n,sにおけるFe,Fw,Fn,Fsは物理量φの出入りを示す。
【図9】数値解析で用いた座標系を図9(a)に、離散化に関するトポロジーを図9(b)に示す。図9(b)における記号の意味は図8と同様である。
【図10(a)】数値解析における計算の流れを示すメインプログラムの概要フローチャートである。
【図10(b)】数値解析における運動方程式による解法の概要フローチャートである。
【図11】数値解析結果の妥当性を検証するための例として選んだ大型鋼塊(直径1m×高さ3m)の解析結果を説明するための説明図である。図11(a)は鋳造方案である。図11(b)は凝固の途中における等温度線の1例を示す(11.5時間後)。符号Sは固体、Mは固液共存相(Mushy zone)、Cは収縮孔(cavity)を意味し、破線はこれらの相の境界を表す。図11(c)は(b)と同時刻における等固相率線である。図中の数字は固相率(0〜1)を示す。図11(d)は全域が固液共存状態(M)になった4.28時間後の液相流れパターンを示す。流線密度の高い部分(中心部)は流速が大きいことを示す。流速の早い中心中央部で約3.5mm/sである。図11(e)は同じく、11.5時間後のデンドライト間液相流れパターンである。中心中央部流速は約0.1mm/sである。図11(f)及び(g)は凝固完了
以上、上部外周寄り(A偏析が現れる部分)で約5%の正偏析を生ずる。負偏析は下部中心近傍でもっとも大きく、外側及び上部に行くほど小さくなる(約−10%)。図11(g)は燐の場合であり、炭素と同じ傾向を示すが正負の偏析はもっと強く現れる。
【図12】数値解析により確認されたデンドライト間凝固収縮流れパターンを図12(a)に、V欠陥の模式図を図12(b)を示す。図12(a)において、流線密度の高い中心部は流速の大きいことを表す。鋳造方向への流れに比べて横方向への流れは極めて小さい。図12(b)はV字に沿って局所的(デンドライトスケール)に強い正の偏析(+)を有すると同時にミクロポロシティを伴うV状欠陥を示す。矢印は当該V欠陥に沿って流入するデンドライト間液相流れを表す。
【図13】現行の典型的な垂直型ビレット連鋳機の概略図である。Lは液相領域、Mは固液共存相、Sは固体部分を表す。
【図14】Fe−C状態図の線形化データを説明するための説明図である。
【図15】非線形多元合金モデルを用いて計算した温度と固相率との関係を示す説明図である。図15(a)はIC−1Cr軸受鋼(成分は表2参照)の場合であり、図15(b)は0.55%炭素鋼(成分は表6参照)の場合である。
【図16】デンドライト間液相中の平衡COガス圧に及ぼす酸素含有量の影響を説明するための説明図である。ただし、COガス気泡が存在しない場合である((49)〜(58)式参照)。図16(a)はIC−1Cr軸受鋼(成分は表2参照)の場合であり、図16(b)は0.55%炭素鋼(AISI1055、成分は表6参照)の場合である。
【図17】第1の実施例において、図17(a)は中心要素の温度T及び固相率gSの分布を示し、図17(b)は凝固シェル肉厚分布を示す(いずれも定常状態)。図中の(a)は単なる温度計算の場合であり、(b)はDarcy流れを考慮して、液相熱伝導率を見かけ上5倍にした場合を示す。
【図18】第1の実施例において、図18(a)は中心部の温度T,固相率gS、液圧P及びDarcy流速Vを示し、図18(b)は表面熱伝達率H及び凝固シェル厚を示し、図18(c)は中心部の透過率K及び体積力(自重あるいはLorentz力)Xを示し、図18(d)は表面温度TSを示す。
【図19】第1の実施例における数値解析の結果を説明するための説明図である。
【図20】第1の実施例における相分布を説明するための説明図である。Lは溶鋼プール、Mは固液共存相及びSは固相を示す。固相率1%以上をMとした。
【図21】第1の実施例における垂直型連鋳のクレータエンド近傍でのデンドライト間液相流れを説明するための説明図である。
【図22】第1の実施例における垂直型連鋳のデンドライトアームスペーシングを説明するための説明図である。図22(a)は(28)及び(29)式による理論式を、図22(b)は(71)式による実験式を用いた場合である。表面要素で両者が一致するように(28)式中の補正係数α=1.2とした。
【図23】第1の実施例における電磁ブースターを説明するための説明図である。図23(a)は概念構成図であり、図23(b)は水平断面構成図を示す。電磁体積力(Lorentz力)は垂直方向下向きに印加する。
【図24】第1の実施例において電磁体積力(Lorentz力)の効果を説明するための説明図である。
【図25】0.55%炭素鋼の比熱C(cal/g℃)及び熱伝導率λ(cal/cms℃)に関するデータを説明するための説明図である。
【図26】本発明の第2の実施例に用いた典型的な垂直曲げ連鋳機の概要を示す図である。曲げロール及び矯正ロール以外の支持ロールは図示しない。
【図27】第2の実施例において図27(a)は肉厚中心要素の温度T、固相率gS、液圧P及びDarcy流速Vを示し、図27(b)は表面熱伝達率H及び凝固シェル厚を示し、図27(c)は肉厚中心要素の透過率K及び自重あるいは電磁体積力の鋳造方向成分Xを示し、図27(d)は表面温度TSを示す。
【図28】第2の実施例における数値解析の結果を説明するための説明図である。
【図29】第2の実施例において電磁体積力(Lorentz力)の効果を説明するための説明図である。
【図30】第2の実施例において図30(a)に凝固のプロフィールを示し、図30(b)にクレータエンド付近のDarcy流れ分布を示す。符号Lは液相、Mは固液共存相、Sは固相を示す。メニスカスからの距離はスラブ肉厚中心軸に沿った値である。スラブは実際には曲がっているが表示の簡単のため長く伸びた長方形で示した。矯正ゾーンにおけるロールの位置を○印で示す。
【図31】第2の実施例において電磁体積力(Lorentz力)の効果を説明するための説明図である。
【図32】炭素鋼の導電率σ(1/Ωm)を示すための説明図である(日本鉄鋼協会編:鉄鋼便覧第3版、p.311より)。
【図33】第3の実施例における数値解析結果を説明するための説明図である。
【図34】第3の実施例における数値解析結果を説明するための説明図である。
【図35】第3の実施例において電磁体積力(Lorentz力)の効果を説明するための説明図である。
【図36】第3の実施例3において軽圧下効果を検討するために行った予備的計算結果を説明するための説明図である。図36(a)は正味の凝固収縮を補償するに必要な圧下量分布(中心部の固相率が0.1となる位置(25m)から下流側へ向かって計算した)を示し、図36(b)はクレータエンド近傍における直線圧下勾配を示し、図36(c)はこれらの圧下勾配に対して液圧降下の緩和を示す計算結果を示す。
【図37】第3の実施例において電磁体積力(Lorentz力)と軽圧下の効果を説明するための説明図である。
【図38】0.55%炭素鋼の等温変態線図を示す。図中の符号Aはオーステナイト、Pはパーライトを示す。実線は実験データ(文献(30))、破線は本明細書中の式(34)及び(76)による計算値である(文献(21)参照)。フェライト、パーライト及びベーナイトはCの拡散によって生ずるのでこれらをすべてC拡散型のパーライト変態と見なした。変態開始はPの体積率gP=0.01,終了はgP=0.99とした。
【図39】直流静磁場発生装置として超電導空心コイルを用いる場合、両コイル間に作用する引力を説明するための説明図である。図39(a)は円筒座標系(r,θ,z)の場合を示し、図39(b)は両コイル間の中心z=b/2における磁束密度Bzを1,2及び3(Tesla)に設定した場合の計算結果を示す(ただしa=0.8mに固定した)。Iはコイル電流、圧力P(Kgf/cm2)はコイル間引力をコイル断面積で割った値である。
【図40】第3の実施例において磁気力(引力)と圧下勾配(mm/m)との関係を説明するための説明図。変形は固体に比べ極端に強度の小さい中心部固液共存相のデンドライトスケルトンに集中的に生じ、力と勾配(即ち変位)の関係はわずかに非線形となる。
【図41】運動方程式の離散化(付録E参照)に用いられるstaggered gridを説明するための説明図である。図41(a)はX1(r)方向の、図41(b)はX2(Z)方向の、図41(c)はX3(Y)方向のstaggeredgridを示す。
【図42】従来技術による連続鍛圧法の概略図である。Anvilの圧下により固液共存相における液相が上流側へ排出される様子を示す。δは圧下量である。
【図43】鋳鋼の中心引け巣の形成を説明するための説明図である(文献14のp242)。
【図44】加圧鋳造実験装置を説明するための説明図である。
【図45】大気鋳造における温度履歴の実測値と計算値を示した説明図である。
【図46】大気鋳造品のマクロ組織を説明するための説明図である。
【図47】大気鋳造品におけるVパターンの顕微鏡観察組織である。
【図48】大気鋳造品におけるVパターン近傍のビッカース硬度変化を説明するための説明図である。
【図49】大気鋳造における数値解析によるポロシティの発生過程を説明するための説明図である。図49(a)は内部ポロシティを生じ始める注湯開始55秒後の固相率分布であり、図49(b)は凝固完了後のポロシティ分布を示す。
【図50】10atmの加圧鋳造品のマクロ組織を説明するための説明図である。
【図51】22atmの加圧鋳造品のマクロ組織を説明するための説明図である。
【図52】加圧鋳造の効果を数値解析により予測した結果を示す説明図である。図52(a)は大気鋳造(加圧なし)、図52(b)は10atm加圧及び図52(c)は20atm加圧鋳造した時の内部欠陥の体積率を示す。
【図53】文献(34)の鋼鋳物について加圧鋳造の効果を数値計算により予測した結果を示す説明図である。図53(a)は加圧しない場合、図53(b)は4.2atm加圧した場合のポロシティ体積率を示す。
【図54】内部欠陥が生ずるメカニズムを説明するための説明図である。
【符号の説明】
1 電磁ブースター
1a 高剛性フレーム
1b 鋳片
1c 直流回転電極
1d スプリング
1e 固定軸
1f 非磁性ロール
2 レードル
3 タンディッシュ
4 ノズル
5 水冷鋳型
6 鋳片
7 曲げロール
8 矯正ロール
9 表示手段
Claims (24)
- 連続鋳造において、鋳片の固液共存相に対してミクロポロシティ及び中心偏析(V偏析)のうち少なくとも一方の内部欠陥の生成を抑制するために、鋳造方向に電磁体積力(Lorentz力)を印加するための電磁体積力印加手段を備えていることを特徴とする連続鋳造装置。
- 前記電磁体積力印加手段は、前記鋳片の最終凝固部近傍の固液共存相に対して鋳造方向に電磁体積力(Lorentz力)を印加することを特徴とする請求項1記載の連続鋳造装置。
- 前記電磁体積力印加手段は、前記鋳片の固液共存相において、デンドライト間の液相圧力をミクロポロシティ発生臨界圧力以上の圧力に保持させるに必要な大きさの電磁体積力(Lorentz力)を印加することを特徴とする請求項1記載の連続鋳造装置。
- 前記電磁体積力印加手段は、少なくとも連鋳機のプロフィール、前記鋳片の合金成分、鋳片の断面形状・寸法、鋳造温度、鋳造速度及び鋳片表面における冷却条件から成る操業パラメータに基づいて、前記電磁体積力(Lorentz力)の大きさと前記鋳片の固液共存相における内部欠陥発生領域を算出する演算手段を具備し、前記演算手段で求めた前記内部欠陥発生領域またはそれより上流側において前記電磁体積力を印加することを特徴とする請求項3記載の連続鋳造装置。
- 前記電磁体積力印加手段は、少なくとも連鋳機のプロフィール、前記鋳片の合金成分、鋳片の断面形状・寸法、鋳造温度、鋳造速度、鋳片表面における冷却条件、液相中の固溶ガス量及び鋳片の曲げ、矯正、圧下による変形速度から成る操業パラメータに基づいて、前記電磁体積力(Lorentz力)の大きさと前記鋳片の固液共存相における内部欠陥発生領域を算出する演算手段を具備し、前記演算手段で求めた前記内部欠陥発生領域またはそれより上流側において前記電磁体積力を印加することを特徴とする請求項3記載の連続鋳造装置。
- 前記演算手段は、前記鋳片の固液共存相においてデンドライト間に生じる液相の流れに基因する液相の圧力降下に基づき、ミクロポロシティ発生位置を算出し、これに基づいて前記電磁体積力印加領域を決定することを特徴とする請求項4または5いずれか1項記載の連続鋳造装置。
- 前記演算手段は、実測値に基づいて前記電磁体積力(Lorentz力)の大きさと前記内部欠陥発生領域の補正を行うための補正手段を具備していることを特徴とする請求項4または5いずれか1項記載の連続鋳造装置。
- 前記補正手段は実験による実測データに基づいて演算処理を行うことを特徴とする請求項7記載の連続鋳造装置。
- 前記補正手段は、操業パラメータの実測データに基づいて前記電磁体積力の大きさ及び前記内部欠陥発生領域ならびに操業パラメータに対してリアルタイムでフィードバック制御を行う機能を具備することを特徴とする請求項7記載の連続鋳造装置。
- 前記演算手段は、実測値に基づいて前記鋳片の凝固過程をリアルタイムで表示するための表示手段を具備していることを特徴とする請求項4または5いずれか1項記載の連続鋳造装置。
- 前記鋳片に圧下勾配を付与するための圧下手段を、前記電磁体積力印加手段に併設することを特徴とする請求項1記載の連続鋳造装置。
- 前記圧下手段は、前記鋳片の最終凝固部またはその近傍の固液共存相において、凝固収縮量勾配以下の圧下勾配を前記鋳片の表面を介して付与することを特徴とする請求項11記載の連続鋳造装置。
- 前記圧下手段は、鋳片を挟む少なくとも一対の対向ロールを具備することを特徴とする請求項11記載の連続鋳造装置。
- 前記圧下手段は、前記電磁体積力印加手段の磁気引力作用により圧下力を付与する構成とすることを特徴とする請求項11記載の連続鋳造装置。
- 連続鋳造において、鋳片の固液共存相に対して、ミクロポロシティ及び中心偏析(V偏析)のうち少なくとも一方の内部欠陥の生成を抑制するために、鋳片の鋳造方向に電磁体積力(Lorentz力)を印加することを特徴とする連続鋳造方法。
- 請求項15記載の連続鋳造方法において、前記電磁体積力を印加する領域は、前記鋳片の最終凝固部近傍の固液共存相とすることを特徴とする連続鋳造方法。
- 請求項15記載の連続鋳造方法において、前記電磁体積力を印加する領域は、前記鋳片の固液共存相とするとともに、前記電磁体積力(Lorentz力)は前記固液共存相におけるデンドライト間の液相圧力をミクロポロシティ発生臨界圧力以上の圧力に保持させるに必要な大きさとすることを特徴とする連続鋳造方法。
- 請求項17記載の連続鋳造方法において、前記保持させるに必要な前記電磁体積力の大きさは少なくとも連鋳機のプロフィール、前記鋳片の合金成分、鋳片の断面形状・寸法、鋳造温度、鋳造速度及び鋳片表面における冷却条件から成る操業パラメータに基づいて算出した大きさとし、前記電磁体積力を印加する領域は前記操業パラメータに基づいて算出した固液共存相における内部欠陥発生領域またはそれより上流側とすることを特徴とする連続鋳造方法。
- 請求項17記載の連続鋳造方法において、前記保持させるに必要な前記電磁体積力の大きさは少なくとも連鋳機のプロフィール、前記鋳片の合金成分、鋳片の断面形状・寸法、鋳造温度、鋳造速度及び鋳片表面における冷却条件、液相中の固溶ガス量及び鋳片の曲げ、矯正、圧下による変形速度から成る操業パラメータに基づいて算出した大きさとし、前記電磁体積力を印加する領域は前記操業パラメータに基づいて算出した固液共存相における内部欠陥発生領域またはそれより上流側とすることを特徴とする連続鋳造方法。
- 請求項18または19いずれか1項記載の連続鋳造方法において、前記電磁体積力(Lorentz力)の印加領域の算出は、前記鋳片の固液共存相において、デンドライト間に生じる液相の流れに基因する液相の圧力降下に基づいて求められるミクロポロシティ発生位置から得ることを特徴とする連続鋳造方法。
- 請求項18または19いずれか1項記載の連続鋳造方法において、前記電磁体積力(Lorentz力)の大きさと前記固液共存相における内部欠陥発生領域は実測値に基づいて得た補正値にて補正することを特徴とする連続鋳造方法。
- 請求項21記載の連続鋳造方法において、前記補正値は、実験による実測データに基づいて得ることを特徴とする連続鋳造方法。
- 請求項15記載の連続鋳造方法において、前記鋳片の前記電磁体積力を印加する領域もしくはその近傍に圧下勾配を付与することを特徴とする連続鋳造方法。
- 請求項23記載の連続鋳造方法において、前記圧下勾配は前記鋳片の固液共存相における凝固収縮量勾配以下とするとともにこの圧下勾配を前記鋳片表面を介して付与することを特徴とする連続鋳造方法。
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