JP3740785B2 - 自動操舵装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、車両の転舵輪の舵角を自動的に制御する自動操舵装置に関し、特に、走行路の曲率を予め記憶しておかなくても、良好な曲線路走行が行えるようにしたものである。
【0002】
【従来の技術】
この種の従来の技術としては、例えば「計測自動制御学会論文集,vol.12,No.4,(1976),394」の『カルマンフィルタを用いた自動操舵系の最適設計』(坪井、原島、稲葉)に記載されたものがある。即ち、この論文に記載された従来の技術は、誘導ケーブル方式と称される自動運転装置に関するものであって、走行ラインに沿って配設されたケーブルに数kHzの交流を流して磁界を発生させる一方、その磁界を検知するセンサを車両に搭載しておき、かかるセンサの出力に基づきケーブルに対する車両の位置を認識し、それを目標走行ラインに対する車両の横方向の相対位置として取り込み、その取り込まれた相対位置に基づいて、車両が目標走行ラインに沿って走行するように転舵輪に舵角を発生させるようになっている。
【0003】
そして、上記論文に記載された従来の技術では、目標走行ラインに対する車両の横方向の相対位置に応じて目標操舵角を演算するために、直進走行状態をモデルとしたカルマンフィルタを用いている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ここで、上記論文に記載された従来の技術にあっては、直進走行状態をモデルとしたカルマンフィルタを用いているため、直進走行は特に問題なく行えるが、曲線路を走行する際には問題が生じてしまう。
【0005】
例えば、車速72km/hで、200Rのコーナーを走行する際に車両に発生する横加速度は2m/s2 (約0.2G)であり、そのとき必要な操舵角(ハンドル角)を20degと仮定する。そして、上記カルマンフィルタを用いた自動操舵装置を搭載した車両が、車速72km/hで、直進走行状態から200Rのコーナーに差し掛かったとし、車両に発生している横加速度が1m/s2 であるとカルマンフィルタが推定すると、本来ならば横加速度が2m/s2 になる方向の制御(つまり、ハンドル角を大きくする制御)が実行されなければならないのに対し、横加速度を零にしようとする制御(ハンドル角を戻そうとする制御)が実行されてしまい、結果として曲線路を走行することができないのである。
【0006】
このような不具合は、カルマンフィルタが直線走行状態をモデルとしている(つまり、カルマンフィルタKFの平衡点が直線を仮定している)ために生じるものであるから、カルマンフィルタの平衡点を走行路の曲率を前提として設定すれば解決されるはずである。しかし、実際には、走行路の曲率が事前に判っていなければカルマンフィルタの平衡点の設定ができないため、現実には極めて困難である。
【0007】
なお、これから走行する路面の曲率を事前に知るためには、例えば特開平7−81603号公報に開示されるようなカメラを用いて車両前方の道路形状を推定する技術が有効であるようにも思えるが、カメラで走行路面の曲率を正確に知るためには、車両前方のかなり長い距離を撮影しなければならず、天候状態が悪くて視程が短い場合等にはやはり走行することができない。
【0008】
本発明は、以上のような従来の技術が有する未解決の課題に着目してなされたものであって、曲線路の走行も良好に行える自動操舵装置を提供することを目的としている。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、請求項1に係る発明は、目標走行ラインに対する車両の横方向の相対位置を検出する相対位置検出手段と、この相対位置検出手段の検出結果に応じて目標操舵角を演算する目標操舵角演算手段と、前記目標操舵角に基づいて車両の転舵輪に舵角を発生させる舵角発生手段と、を備えた自動操舵装置において、前記目標操舵角演算手段は、前記目標走行ラインの曲率に応じて発生すべき平衡点操舵角を前記目標操舵角の移動平均値に基づいて推定する平衡点操舵角推定手段と、前記相対位置検出手段の検出結果に基づき前記目標走行ラインに対する実際の走行ラインの偏差を補正するための補正操舵角を演算する補正操舵角演算手段と、前記平衡点操舵角及び前記補正操舵角を加算して前記目標操舵角を求める加算手段と、を有するようにした。
【0011】
上記目的を達成するために、請求項2に係る発明は、目標走行ラインに対する車両の横方向の相対位置を検出する相対位置検出手段と、この相対位置検出手段の検出結果に応じて目標操舵角を演算する目標操舵角演算手段と、前記目標操舵角に基づいて車両の転舵輪に舵角を発生させる舵角発生手段と、を備えた自動操舵装置において、前記目標操舵角演算手段は、前記目標走行ラインの曲率に応じて発生すべき平衡点操舵角を推定する平衡点操舵角推定手段と、前記相対位置検出手段の検出結果に基づき前記目標走行ラインに対する実際の走行ラインの偏差を補正するための補正操舵角を演算する補正操舵角演算手段と、前記平衡点操舵角及び前記補正操舵角を加算して前記目標操舵角を求める加算手段と、を有し、前記補正操舵角演算手段は、直進走行状態をモデルとして構成され且つ従前の前記補正操舵角が入力されて平衡点周りの状態量を予測するオブザーバーを有し、そのオブザーバーが予測した状態量にレギュレータゲインを乗じて新たな補正操舵角を演算するようにした。
また、請求項3に係る発明は、上記請求項2に係る発明である自動操舵装置において、前記平衡点操舵角推定手段は、前記目標操舵角の移動平均値に基づいて前記平衡点操舵角を推定するようにした。
【0012】
さらに、請求項4に係る発明は、請求項2又は請求項3に係る発明である自動操舵装置において、前記オブザーバーを、カルマンフィルタとした。
上記目的を達成するために、請求項5に係る発明は、目標走行ラインに対する車両の横方向の相対位置を検出する相対位置検出手段と、この相対位置検出手段の検出結果に応じて目標操舵角を演算する目標操舵角演算手段と、前記目標操舵角に基づいて車両の転舵輪に舵角を発生させる舵角発生手段と、を備えた自動操舵装置において、前記目標操舵角演算手段は、前記目標走行ラインの曲率に応じて発生すべき平衡点操舵角を推定する平衡点操舵角推定手段と、前記相対位置検出手段の検出結果に基づき前記目標走行ラインに対する実際の走行ラインの偏差を補正するための補正操舵角を演算する補正操舵角演算手段と、前記平衡点操舵角及び前記補正操舵角を加算して前記目標操舵角を求める加算手段と、直進走行状態をモデルとして構成され且つ前記補正操舵角が入力されて前記目標走行ラインに対する車両の横方向の相対位置を予測するオブザーバーと、を有し、前記平衡点操舵角推定手段は、前記オブザーバーが予測した前記目標走行ラインに対する車両の横方向の相対位置の予測値と、前記相対位置検出手段が検出した前記目標走行ラインに対する車両の横方向の相対位置の検出値との偏差が零になるような操舵角を、前記平衡点操舵角として推定するようにした。
【0013】
さらに、請求項6に係る発明は、上記請求項5に係る発明である自動操舵装置において、前記オブザーバーを、カルマンフィルタとした。
上記目的を達成するために、請求項7に係る発明は、目標走行ラインに対する車両の横方向の相対位置を検出する相対位置検出手段と、この相対位置検出手段の検出結果に応じて目標操舵角を演算する目標操舵角演算手段と、前記目標操舵角に基づいて車両の転舵輪に舵角を発生させる舵角発生手段と、を備えた自動操舵装置において、前記目標操舵角演算手段は、前記目標走行ラインの曲率に応じて発生すべき平衡点操舵角を推定する平衡点操舵角推定手段と、前記相対位置検出手段の検出結果に基づき前記目標走行ラインに対する実際の走行ラインの偏差を補正するための補正操舵角を演算する補正操舵角演算手段と、前記平衡点操舵角及び前記補正操舵角を加算して前記目標操舵角を求める加算手段と、直進走行状態をモデルとして構成され且つ前記補正操舵角が入力されて平衡点周りの状態量を予測する第1のオブザーバーと、直進走行状態をモデルとして構成され且つ前記車両の操舵角が入力されて前記目標走行ラインに対する車両の横方向の相対位置を予測する第2のオブザーバーと、を有し、前記平衡点操舵角推定手段は、前記相対位置検出手段の検出値と前記第2のオブザーバーの予測値との偏差が零になるような操舵角を、前記平衡点操舵角として推定するようになっており、前記補正操舵角演算手段は、前記第1のオブザーバーが予測した前記状態量に基づいて前記補正操舵角を演算するようにした。
【0014】
そして、請求項8に係る発明は、上記請求項7に係る発明である自動操舵装置において、前記第1のオブザーバー及び前記第2のオブザーバーを、カルマンフィルタとした。
【0015】
さらに、請求項9に係る発明は、上記請求項5〜8に係る発明である自動操舵装置において、前記平衡点操舵角推定手段は、前記予測値と前記検出値との偏差に対する積分演算又は比例演算の少なくとも一方を行うことにより、前記平衡点操舵角を推定するようにした。
【0016】
ここで、請求項1に係る発明にあっては、平衡点操舵角を推定する平衡点操舵角推定手段と、補正操舵角を演算する補正操舵角演算手段と、それら両手段の結果を加算して目標操舵角を求める加算手段と、を設けているが、これは、旋回に必要な大操舵角は平衡点操舵角推定手段で推定し、その大操舵角に対する微小なずれを補正操舵角として演算し、両者を合わせることにより目標走行ラインに沿ったスムーズな走行が可能となる目標操舵角を求める、という思想に基づいたものである。
【0017】
平衡点操舵角の推定は、車両の実際の操舵角に基づいて行うことができるし、或いは、目標走行ラインに対する車両の横方向の相対位置(横変位)に基づいて行うこともできる。
【0018】
つまり、直線路から曲線路に移行する場合を考えると、直進走行中の車両を中心に考えれば、曲線路における目標走行ラインが車両から徐々に離れていくように見えるが、逆に、その目標走行ラインを中心に考えれば、目標走行ラインから車両が徐々に外れていくように見える。すると、車両が直進走行を継続するための制御を実行していたとしても、直線路から曲線路に移行する時点では、車両が目標走行ラインから外れていくことを防止するために、車両の操舵角は、恰も曲線路に進入するために適切な操舵角を追従するように変化することになる。従って、直線路から曲線路に移行する際の操舵角には、曲線路における目標走行ラインの曲率に応じて発生すべき平衡点操舵角を推定するのに役立つ情報が含まれていることになる。同様に、直線路から曲線路に移行する際の車両の横方向位置にも、平衡点操舵角を推定するのに役立つ情報が含まれていることになる。
【0019】
具体的には、平衡点操舵角推定手段が、目標操舵角(車両の実際の操舵角に等しい)の移動平均値(時間移動平均値)を求めると、その移動平均値は、平衡点操舵角の推定値として適した値になる。
【0020】
即ち、相対位置検出手段の検出結果に応じて、補正操舵角演算手段が補正操舵角を演算するため、その演算された補正操舵角は、目標走行ラインに対する車両の横方向の相対位置のずれを小さくするような値になり、その補正操舵角が加算手段によって目標操舵角に含まれるようになる。すると、直線路から曲線路に移行したような場合や曲線路で停車中の車両が発進したような場合のように、曲線路での走行が始まった時点における目標操舵角は、平衡点操舵角そのもの又は平衡点操舵角に極めて近いものとなる。
【0021】
そして、零でない平衡点操舵角が推定されれば、目標操舵角は、平衡点操舵角と補正操舵角とを合わせた値になり、そのような目標操舵角の移動平均値に基づいて次々と平衡点操舵角が推定されるようになる。その結果、良好な曲線路の走行が可能になるのである。なお、平衡点操舵角は目標操舵角の移動平均値に基づいて設定されるため、曲線路から直線路に移行すれば平衡点操舵角は零に戻るようになるから、直線路の走行には支障はない。
【0022】
これに対し、補正操舵角の演算には、直進走行状態をモデルとして構成されたオブザーバー等の推定器を利用することができる。
具体的には、請求項2に係る発明のように、補正操舵角演算手段が有するオブザーバー(推定器)に従前の補正操舵角(例えば、直前に演算されている補正操舵角)を入力して求められた状態量と、レギュレータゲインとを乗算することにより、補正操舵角を演算することができる。つまり、補正操舵角演算手段は、平衡点周りの修正舵角である補正操舵角を演算するための手段であるから、直進走行状態をモデルとしたオブザーバーの出力に基づいても充分に演算できるのである。
【0023】
また、請求項4に係る発明のように、オブザーバーとしてカルマンフィルタを用いれば、より好適な演算が実行される。この場合、カルマンフィルタに相対変位検出手段が検出した相対位置(横変位)を供給し、その供給された実際の横変位とカルマンフィルタ内で推定される横変位との偏差に所定のゲインを乗じた値を、カルマンフィルタ内においてフィードバックするようにしてもよい。
【0024】
一方、請求項5に係る発明にあっては、直進走行状態をモデルとして構成されたオブザーバー(推定器)によって、目標走行ラインに対する車両の横方向の相対位置(図13の横変位yc 参照)が予測される。そして、平衡点操舵角推定手段によって、その予測値yc ^(^は推定の意である。以下、同様)と、相対位置検出手段が検出した相対位置(図13のΔyc 参照)との偏差η(=Δyc −yc ^)が零になるような操舵角が、平衡点操舵角として推定される。
【0025】
かかる構成であっても、直進走行時には、オブザーバーが直進走行状態をモデルとしているため、オブザーバーの推定が正しく行われていれば、偏差ηは零になる。よって、平衡点操舵角は、直進走行状態を維持する操舵角(つまり、零)であると推定される。
【0026】
これに対し、直線路から曲線路に移行すると、偏差ηは徐々に大きくなり、推定される平衡点操舵角も徐々に大きくなる。つまり、直線路から曲線路に移行した直後は、直進走行状態をモデルとしたオブザーバーはそのまま直進走行が継続されることを前提として横変位yc を推定するが、実際の目標走行ラインは曲線路に沿って直線路の延長線から外れていくため、偏差ηは大きくなるのである。なお、偏差ηの極性は、車両の左右方向のいずれを正方向とするかで決まってくる。
【0027】
例えば、直線路から曲線路に移行した直後にη=Δyc −yc ^>0になったとすると、その偏差ηを零にするように平衡点操舵角が推定される。つまり、偏差ηに見合っただけの平衡点操舵角が求められ、それが旋回に必要な大舵角として加算手段が演算する目標操舵角に含まれるようになる。偏差η<0の場合にはそれとは反対方向の平衡点操舵角が演算される。
【0028】
そして、そのような平衡点操舵角が求められれば、車両の進路方向自体が曲線路に沿った方向を追従するようになる。よって、平衡点操舵角が極短い時間間隔で実質的に連続的に求められると、オブザーバーが基準とする直進走行ラインと実際の走行路に沿っている目標走行ラインとが一致するようになり、その結果、良好な曲線路の走行が可能になるのである。なお、曲線路から直線路に移行するような場合にも、直線路から曲線路に移行する場合とは逆に平衡点操舵角が徐々に小さくなるから、直線路の走行には支障はない。
【0029】
また、請求項6に係る発明では、この請求項5に係る発明におけるオブザーバーとしてカルマンフィルタを用いているため、より好適な制御が実行される。
一方、請求項7に係る発明にあっては、第2のオブザーバーが上記請求項2記載の発明におけるオブザーバーと同じ機能を有するから、平衡点操舵角推定手段が、相対位置検出手段の検出値と第2のオブザーバーの予測値との偏差が零になるような操舵角を平衡点操舵角として推定すれば、上記請求項2に係る発明と同様の作用が発揮される。また、第2のオブザーバーとは別に第1のオブザーバーを設け、その第1のオブザーバーの推定量に基づいて、補正操舵角演算手段が補正操舵角を演算する。
【0030】
つまり、補正操舵角を演算するための第1のオブザーバーと、平衡点操舵角を推定するための第2のオブザーバーとが互いに独立になるから、それぞれのオブザーバーに求められる要求に応じて各オブザーバーの行列式やゲイン等を個別に設定することができる。
【0031】
また、請求項8に係る発明では、この請求項7に係る発明における第1及び第2のオブザーバーとしてカルマンフィルタを用いているため、より好適な制御が実行される。
【0032】
そして、請求項9に係る発明にあっては、請求項5に係る発明におけるオブザーバー(請求項6に係る発明におけるカルマンフィルタ、請求項7に係る発明における第2のオブザーバー、請求項8に係る発明における第2のカルマンフィルタ)の予測値と、相対位置検出手段の検出値との偏差について積分演算又は比例演算の少なくとも一方が行われて平衡点操舵角が推定されるから、特に複雑な演算を行わなくても適切な平衡点操舵角の推定が可能になる。なお、応答性を重視して微分制御を加えてもよいが、微分制御は平衡点操舵角のノイズを強調するため、あまり望ましくはない。
【0033】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明に係る自動操舵装置によれば、旋回に必要な大操舵角は平衡点操舵角推定手段で推定する一方、その大操舵角に対する微小なずれを補正操舵角として演算し、両者を合わせることにより目標走行ラインに沿ったスムーズな走行が可能となる目標操舵角を求めるような構成としたため、良好な曲線路走行が行えるという効果がある。
【0034】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1乃至図6は本発明の第1の実施の形態を示す図であって、図1は自動操舵装置が搭載された車両1の概略構成を示す平面図である。
【0035】
先ず、構成を説明すると、この車両1にあっても、基本的には通常の車両と同様に運転者がステアリングホイール2を操舵することにより転舵輪としての前輪3L,3Rに舵角が発生するようになっている。つまり、図2に拡大図示するように、ステアリングホイール2には、回転方向に一体にアッパステアリングシャフト4Uの上端部が連結され、そのアッパステアリングシャフト4Uの下端にはユニバーサルジョイント5を介してロアステアリングシャフト4Lが連結され、そのロアステアリングシャフト4Lのステアリングギアボックス6内に挿入された図示しない下端部にはピニオン軸が一体に形成され、そのピニオン軸がステアリングギアボックス6内で車両横方向に進退するラック軸7に噛み合っている。なお、図2には図示しないが、この操舵機構には、例えばアッパステアリングシャフト4Uの下端部に配設され操舵系に発生するトルクを検出するトルクセンサや、そのトルクセンサが検出した操舵トルクが軽減するように操舵補助トルクをラック軸7に付与する油圧アクチュエータ等から構成される公知の油圧式パワーステアリング装置が設けられている。
【0036】
そして、ラック軸7の図示しない両端部にはタイロッドが連結され、それらタイロッドの外端側は、前輪3L,3Rを回転自在に支持するナックルに結合されている。従って、ステアリングホイール2を運転者が操舵すると、その操舵力はアッパステアリングシャフト4U及びユニバーサルジョイント5を介してロアステアリングシャフト4Lに伝達され、そのロアステアリングシャフト4Lの回転力がステアリングギアボックス6内でラック軸の7の進退力に変換されるから、両タイロッドに転舵力が入力されて前輪3L,3Rに舵角が発生する。また、操舵系に発生した操舵トルクを軽減するように油圧式パワーステアリング装置によって操舵補助トルクが発生するようになっているから、運転者の負担が軽減されるようになっている。
【0037】
さらに、アッパステアリングシャフト4Uには、自動的に前輪3L,3Rに舵角を発生させることができる自動操舵機構10が設けられている。即ち、この自動操舵機構10は、電動モータ11と、この電動モータ11の回転力を減速しつつアッパステアリングシャフト4Uに伝達する伝達機構12とから構成されていて、この実施の形態では、伝達機構12を、電動モータ11の出力軸と一体に回転する入力ギア12aと、アッパステアリングシャフト4Uと同軸に回転する出力ギア12bと、これら入力ギア12a及び出力ギア12b間に掛け渡された無端ベルト12cと、出力ギア12b及びアッパステアリングシャフト4U間を断続可能な電磁クラッチ12dと、で構成している。電磁クラッチ12dは運転者が手動操舵を選択した場合には非接続状態となって、電動モータ11が操舵系の負荷にならないようになっている。
【0038】
つまり、自動操舵が選択された場合には、電磁クラッチ12dが接続状態となり、電動モータ11の回転力が伝達機構12を介してアッパステアリングシャフト4Uに伝達されるようになるから、手動操舵時と同様に前輪3L,3Rに舵角が発生するようになっている。なお、この実施の形態では、アッパステアリングシャフト4Uの伝達機構12の連結位置よりもラック軸7に近い側に、油圧式パワーステアリング装置のトルクセンサを配設しているため、電動モータ11の回転力が小さくても、前輪3L,3Rに舵角を発生させることができるようになっている。
【0039】
そして、自動操舵機構10には、車両1に搭載されたコントローラ20から舵角制御信号δc が供給されるようになっていて、その舵角制御信号δc に応じた方向及び大きさの回転力が電動モータ11に発生し、これにより自動的に前輪3L,3Rが転舵されるようになっている。
【0040】
また、アッパステアリングシャフト4Uには、その回転変位を計測して前輪3L,3Rの実際の操舵角を検出する舵角センサ14が配設されている。舵角センサ14は、ロータリエンコーダ15と、アッパステアリングシャフト4Uの回転をそのロータリエンコーダ15の回転軸に伝達する伝達機構16と、から構成されていて、この実施の形態では、伝達機構16を、アッパステアリングシャフト4Uと同軸に回転する入力ギア16aと、ロータリエンコーダ15の回転軸と一体に回転する出力ギア16bと、これら入力ギア16a及び出力ギア16b間に掛け渡された無端ベルト16cと、で構成している。そして、舵角センサ14のロータリエンコーダ15の出力が、舵角検出信号δd としてコントローラ20に供給されるようになっている。
【0041】
さらに、この車両1には、車両1前方の走行路を撮影するCCDカメラ17が搭載されている。即ち、CCDカメラ17は、車両1前方の数m先の路面を撮影するカメラであり、その撮影された画像がコントローラ20に供給されるようになっている。そして、コントローラ20は、CCDカメラ17が撮影した画像に基づいて、走行路に沿った目標走行ラインに対する車両1の横方向の相対位置を検出するようになっている。具体的には、コントローラ20は、CCDカメラが撮影した画像から、目標走行ラインとして適用できる情報(例えば、路面に描かれたセンターラインやサイドライン、或いはガイドレール等)を抽出し、その抽出された情報に基づいて目標走行ラインyc0を想定(例えば、サイドラインを抽出した場合であれば、そのサイドラインを右側に走行路幅の半分だけ平行にずらした線が目標走行ラインとして好適である。)し、その目標走行ラインと、車両1の重心を通って車両前後方向に延びる基準線の所定位置(例えば、車両前方1mの位置)との間隔を、目標走行ラインに対する車両1の横方向の相対位置(横変位Δyc )として検出するようになっている。
【0042】
また、車両1には、例えば変速機の出力側の回転数を検出することにより車速を検出する車速センサ19が配設されていて、その車速センサ19が検出した車速検出信号Vもコントローラ20に供給されるようになっている。
【0043】
コントローラ20は、図示はしないがA/D変換器,D/A変換器等のインタフェース回路、ROM,RAM等のメモリ装置、マイクロコンピュータ等を含んで構成されていて、供給される各検出信号δd 及びV並びにCCDカメラ17が撮影した画像に基づき、所定の演算を実行して車両1が走行路面の目標走行ラインに沿って走行するための目標操舵角δf を求め、その目標操舵角δf が前輪3L,3Rに発生するような舵角制御信号δc を自動操舵機構10に供給するようになっている。
【0044】
ここで、本実施の形態の理解を容易にするために、直進走行状態をモデルとするカルマンフィルタを用いた自動操舵系について説明する。
即ち、かかる自動操舵系の制御系の構成は、例えば図10に示すようになる。つまり、車両1の操舵角δf が、カルマンフィルタKF及びレギュレータゲインKrを含むコントローラ20によって制御されるようになっており、そのカルマンフィルタKFには、操舵角δf と、目標走行ラインに対する車両1の横方向の相対位置である横変位yc とが供給されていて、カルマンフィルタKFは、それら操舵角δf 及び横変位yc に基づいて、状態量x^を推定する。ここでの状態量xは、ヨーレートφ' 、ヨー角φ、横変位速度yc ' 、横変位yc である。
【0045】
カルマンフィルタKFに含まれる行列A、B及びCは、車両1のモデルから決まる行列であり、先ず、車両モデルを図11に示すように一般的な2輪モデルで表す。なお、図11中の各記号の意味は、下記の通りである。
【0046】
φ' …ヨーレート y' …横速度 β…横すべり角(β=y' /V)
Cf …前輪のコーナリングパワー Cr …後輪のコーナリングパワー
m…車両質量 I…車両ヨー慣性モーメント δf …前輪の舵角
V…車速 a…前輪及び重心点間距離 b…後輪及び重心点間距離
Ff …前輪のコーナリングフォース Fr …後輪のコーナリングフォース
このモデルの運動方程式は、下記のようになる。
【0047】
【数1】
【0048】
【0049】
【数2】
【0050】
車両の横方向への移動速度yc ' は、
yc ' =V(φ+β) ……(3)
であるから、これら(1)〜(3)式を行列表現すると、
【0051】
【数3】
【0052】
となる。但し、
D1 =(aCf −bCr )/I
D2 =(a2 Cf +b2 Cr )/IV
D3 =(bCr −aCf )/IV
D4 =(bCr −aCf )/mV
D5 =(Cf +Cr )/m
D6 =−(Cf +Cr )/mV
である。
【0053】
そして、ベクトルA、B及びxのそれぞれを、
【0054】
【数4】
【0055】
【0056】
【数5】
【0057】
【0058】
【数6】
【0059】
とすれば、上記(4)式は、
x' =Ax+Bδf ……(8)
となり、カルマンフィルタKFの行列A及びBが求まったことになる。
【0060】
また、目標走行ラインに対する車両1の横方向の相対位置を上記のようなセンサで検出しているものとすると、
【0061】
【数7】
【0062】
となるから、センサの特性に関連する行列Cは、
C=[0 0 0 1] ……(9)
として求まる。
【0063】
ここで、カルマンフィルタKFの出力である状態量x^と、実際の状態量xとの偏差をεとすると、上記(8)式より、
となるから、
ε(t)=e(A-KeC)tε(0) ……(11)
となり、時間tの経過に伴ってε(t)→0となることが判る。つまり、上記のようなカルマンフィルタKFを用いれば、偏差のない状態量x^の推定が可能になるのである。
【0064】
しかし、そのような偏差のない推定が可能なのは、走行路が直線である場合に限ってのことであり、曲線路を走行する際には次のような不具合があることが判った。
【0065】
つまり、図10に示した構成は直線路を走行する場合のものであって、車両1が曲線路を走行する場合には、図12のような構成となる。即ち、コントローラ20の構成は変わらないものの、センサの出力は曲線路に沿って配設された目標走行ラインの横変位yc0分が差し引かれた値Δyc (=yc −yc0)となる。その結果、図13に示すように、カルマンフィルタKFが推定した横変位yc ^とセンサ出力Δyc とが大きく相違してしまうのである。
【0066】
かかる問題点を数式で表現する。図13に示すような曲線路における真の目標走行ラインL1 に沿って走行するために必要な前輪の操舵角をδf0、目標走行ラインL1 に沿って走行した時の状態量(平衡点状態量)をx0 、それぞれの偏差をΔx(=x−x0 )、Δδf (=δf −δf0)とすると、
となる。この(12)式において、右辺第1項及び第2項は、時間tの経過と共に小さくなって消滅するが、第3項は、定常推定誤差として残ってしまう。その結果、偏差εが零になることはないのである。そして、このように曲線路における推定が正しく行われないから、曲線路における走行自体が現実的には不可能になってしまうのである。
【0067】
これに対し、本実施の形態におけるコントローラ20の機能構成を含む系全体をブロック図で表すと、図3に示すようになる。即ち、コントローラ20は、図10に示した装置と同様に、直進走行状態をモデルとして構成されたカルマンフィルタKFと、レギュレータゲインKrとを含んでおり、カルマンフィルタKFは、公知の手法で決定される行列A、B、C及びゲインKeを有するとともに、加算器21及び22を含んで構成されている。なお、Sはラプラス演算子であり、x^は状態量の推定値、yc ^は横変位の推定値である。
【0068】
また、コントローラ20は、車両1の目標操舵角δf に基づいて目標走行ラインの曲率に応じて車両1に発生すべき平衡点操舵角δf0を推定する平衡点操舵角推定器23を有している。この平衡点操舵角推定器23は、具体的には図4に示すように、目標操舵角δf の過去n個分の平均値(時間移動平均値)を演算しそれを平衡点操舵角δf0として出力する演算器である。なお、平衡点操舵角推定器23が演算に用いる目標操舵角δf の個数nは、小さくすると平衡点操舵角δf0の追従性は高くなるが、補正操舵角Δδf の影響が大きくなり、その補正操舵角Δδf の変化を目標走行ラインの曲率変化と認識して平衡点操舵角δf0が細かく変化してしまう可能性がある。これに対し、個数nを大きくすると、平衡点操舵角δf0が細かく変化してしまうことは防止できるが、追従性は低くなるから、平衡点操舵角δf0の精度が落ちてしまう。従って、個数nは、車両1に対して自動操舵制御を実行した状態での動特性を実験やシミュレーションで充分に確認し、その動特性を考慮しつつ適宜選定する必要がある。
【0069】
一方、カルマンフィルタKFが推定する状態量x^の内容は図10に示したカルマンフィルタKFと同様であり、その状態量x^にレギュレータゲインKrが乗じられることにより、平衡点操舵角δf0周りの微小なずれを補正するための補正操舵角Δδf が演算されるようになっている。
【0070】
そして、コントローラ20は、平衡点操舵角δf0と補正操舵角Δδf とを加算して目標操舵角δf を演算する加算器24を有している。
次に、本実施の形態の動作を説明する。
【0071】
図5は、コントローラ20内で実行される処理の概要を示したフローチャートであり、コントローラ20における処理は所定のサンプリング・クロックに同期して実行されるようになっている。
【0072】
即ち、自動操舵制御が実行されると、先ず、そのステップ101において、舵角センサ14から供給される舵角検出信号δd 、車速センサ19から供給される車速検出信号V及びCCDカメラ17から供給される画像を読み込む。なお、車速検出信号Vは、カルマンフィルタKFの行列Aの要素を決定するのに必要な情報であるため、車速Vとして行列Aに取り込まれることになる。
【0073】
次いで、ステップ102に移行し、ステップ101で読み込んだ画像に基づいて目標走行ラインに対する車両1の横方向の相対位置としての横変位yc を検出する。
【0074】
そして、ステップ103に移行し、目標操舵角δf の過去n個分の平均値を求めることにより、平衡点操舵角δf0を演算する。この処理は、平衡点操舵角推定器23の機能に相当する。なお、目標操舵角δf の代わりに、舵角検出信号δd を用いてもよい。
【0075】
次いで、ステップ104に移行し、カルマンフィルタKF及びレギュレータゲインKeに基づいた演算を実行することにより、補正操舵角Δδf を演算する。なお、演算された補正操舵角Δδf は、次回以降の処理にて補正操舵角Δδf を演算するためにカルマンフィルタKFに入力されることになる。
【0076】
ステップ103及びステップ104において、平衡点操舵角δf0と補正操舵角Δδf とが演算されたら、ステップ105に移行し、それら平衡点操舵角δf0と補正操舵角Δδf と加算することにより、目標操舵角δf を演算する。この処理は、加算器24の機能に相当する。
【0077】
このステップ105で目標操舵角δf が求まったら、ステップ106に移行して、目標操舵角δf と実際の操舵角を表す舵角検出信号δd との差が零となるような舵角制御信号δc を演算し、その舵角制御信号δc を自動操舵機構10に出力する。このステップ106の処理を終えたら、今回の処理が終了する。その後は、所定サンプリング・クロックが経過するまで待機した後に、ステップ101に戻って上述した処理が繰り返し実行される。
【0078】
今、車両1が直線路を直進走行しているものとすると、コントローラ20内のカルマンフィルタKFは、そもそも直進走行状態をモデルとしているため、推定される状態量x^は車両が直進走行状態を継続するという前提で推定される。すると、車両1が直進走行状態を維持するために必要な舵角が、補正操舵角Δδf として求められることになる。
【0079】
求められた補正操舵角Δδf は、加算器24に供給され、目標操舵角δf に取り込まれて車両1の操舵角となる。この場合、車両1が直進走行状態を継続している状況であるから、目標操舵角δf の時間移動平均値は実質的に零である。よって、加算器24の出力である目標操舵角δf は、補正操舵角Δδf そのものである。このため、平衡点操舵角δf0が零の状態が継続するから、車両1は直進走行状態を継続するのである。
【0080】
このような直線路を直進走行している状態で曲線路に差し掛かったとすると、カルマンフィルタKFの基準となっている直線に対して目標走行ラインがずれることになるから、実際の横変位Δyc が徐々に大きくなる。すると、カルマンフィルタKF内のゲインKeを含むフィードバックループがモデルに与える影響が大きくなり、カルマンフィルタKFは、直進走行状態から外れてしまったような車両1の状態量x^を推定するようになる。その結果、新たな補正操舵角Δδf は、車両1を直進走行状態に戻そうとする操舵角になるが、かかる操舵角は、実際には車両1の進行方向を、曲線路に沿った目標走行ラインに向けるような操舵角となる。
【0081】
つまり、平衡点操舵角推定器23を仮に有さなかったとしても、直線路から曲線路に移行した直後の極短い時間の間は、車両1は目標走行ラインに沿って走行しようとするのであるが、それ以降は上記(12)式を用いて説明したように的確な走行は行えなくなる。
【0082】
しかし、本実施の形態にあっては、直線路から曲線路に移行した際に上記のような補正操舵角Δδf が演算され、それが目標操舵角δf として車両1の操舵角となる結果、曲線路に進入した直後には、補正操舵角Δδf の平均値が平衡点操舵角δf0として加算器24に供給されるようになる。そして、平衡点操舵角δf0が有限の値になった後には、その平衡点操舵角δf0と補正操舵角Δδf とを加算した値の時間移動平均値が、平衡点操舵角δf0となる。
【0083】
よって、時間移動平均値を演算する際の個数nを適切に設定することにより、車両1を曲線路に沿って滑らかに走行させることができるのである。
以上の挙動を定性的に示すと、図6のようになる。即ち、本実施の形態であれば、図6に線aで示すように、直線路から曲線路に移行する際だけではなく、完全に曲線路に移行した後にも的確な目標操舵角δf を車両1に発生させることができる。これに対し、平衡点操舵角推定器23や加算器24を有しない構成では、図6に線bで示すように、直線路から曲線路に移行する際には本実施の形態と同様の操舵角が発生するが、それ以降は充分な操舵角を発生させることができず、従って曲線路の走行が実質的に不可能になってしまうのである。
【0084】
ここで、本実施の形態にあっては、CCDカメラ17及びステップ102の処理が相対位置検出手段に対応し、カルマンフィルタKF,平衡点操舵角推定器23,加算器24及びステップ103〜105の処理が目標操舵角演算手段に対応し、自動操舵機構10及びアッパステアリングシャフト4U,ユニバーサルジョイント5,ロアステアリングシャフト4L,図示しないピニオン軸,ラック軸7及び図示しないタイロッド,ナックルが舵角発生手段に対応し、平衡点操舵角推定器23及びステップ103の処理が平衡点操舵角推定手段に対応し、カルマンフィルタKF,レギュレータゲインKe及びステップ104の処理が補正操舵角演算手段に対応し、加算器24及びステップ105の処理が加算手段に対応し、カルマンフィルタKFがオブザーバーに対応する。
【0085】
図7及び図8は本発明の第2の実施の形態を示す図であり、図7は、上記第1の実施の形態における図3と同様に、コントローラ20の機能構成を含む系全体のブロック図であり、図8は、平衡点操舵角23の構成を示す図である。なお、その他の構成は、上記第1の実施の形態と同様であるため、その図示及び説明は省略するとともに、上記第1の実施の形態と同様の構成には同じ符号を付し、その重複する説明も省略する。
【0086】
即ち、本実施の形態にあっては、平衡点操舵角推定器23には、カルマンフィルタKF内の加算器22の出力である偏差η(=Δyc −yc ^)を供給していて、平衡点操舵角推定器23は、その偏差ηに対してPI(比例+積分)演算を実行することにより、平衡点操舵角δf0を推定するようになっている。
【0087】
加算器22の出力である偏差ηは、カルマンフィルタKF内ではゲインKeが乗じられてから加算器21にフィードバックされる値であり、この偏差ηが実質的に零であるということは、行列A〜Cで構成される車両1のモデルが、正確な推定を行っているということになる。
【0088】
そして、直線路から曲線路に移行するような場合に偏差ηがある程度の大きさになると、カルマンフィルタKFは車両1が直進走行状態から外れているような状態量x^を推定するから、そのような状態量x^に応じた補正操舵角Δδf が発生するため、車両1の進行方向は曲線路に沿った方向を向こうとするが、それだけでは従来の装置と同様に、曲線路を的確に走行することはできない。
【0089】
しかし、本実施の形態では、偏差ηが平衡点操舵角推定器23に供給され、その偏差ηがPI演算されて平衡点操舵角δf0が推定されるため、その平衡点操舵角δf0は、偏差ηを零にするような値になる。つまり、平衡点操舵角δf0が加算器24によって目標操舵角δf に含まれる結果、車両1の進行方向が、曲線路に沿った目標走行ラインの接線方向に一致するように変化するのである。よって、本実施の形態の構成であっても、上記第1の実施の形態と同様に、車両1を曲線路に沿って滑らかに走行させることができるのである。
【0090】
また、平衡点操舵角推定器23においては、比例演算及び積分演算は行われるが、微分演算は行わないようにしたため、平衡点操舵角δf0に含まれるノイズ成分が強調されずに済むという利点もある。なお、場合によっては、平衡点操舵角推定器23では、比例演算及び積分演算の一方のみを行うようにしてもよい。
【0091】
図9は、本発明の第3の実施の形態を示す図であり、上記第1の実施の形態における図3と同様に、コントローラ20の機能構成を含む系全体のブロック図である。なお、全体的な構成は上記第1の実施の形態と同様であり、平衡点操舵角推定器23の構成は上記第2の実施の形態と同様であるため、その図示及び説明は省略するとともに、上記第1,2の実施の形態と同様の構成には同じ符号を付し、その重複する説明も省略する。
【0092】
即ち、本実施の形態にあっては、二つのカルマンフィルタKF1及びKF2を設けていて、一方のカルマンフィルタKF1は、上記第1,2の実施の形態におけるカルマンフィルタKFと同様に、補正操舵角Δδf を演算するために設けたものである。これに対し、他方のカルマンフィルタKF2は、平衡点操舵角推定器23に供給される偏差ηを求めるためのものである。なお、カルマンフィルタKF2の入力には、目標操舵角δf を供給している。
【0093】
つまり、上記第2の実施の形態におけるカルマンフィルタKFを、補正操舵角Δδf の演算用と、平衡点操舵角δf0の推定用とに分けて設けたものである。このような構成であれば、上記第2の実施の形態と同様の作用効果が得られるとともに、補正操舵角Δδf に応じた平衡点周りの制御特性と、平衡点操舵角δf0の真の平衡点への収束性とを独立に設定することができるから、きめ細かなカルマンフィルタKF1,KF2の設計が可能となって、制御特性や演算特性がより向上するという利点がある。
【0094】
ここで、本実施の形態では、カルマンフィルタKF1が第1のオブザーバーに相当し、カルマンフィルタKF2が第2のオブザーバーに相当する。
なお、上記各実施の形態では、オブザーバーとしてカルマンフィルタKF,KF1,KF2を用いた場合を示しているが、これに限定されるものではなく、カルマンフィルタ以外のオブザーバーであってもよい。
【0095】
また、上記実施の形態では、目標操舵角δf や偏差ηに基づいて平衡点操舵角δf0を推定するようにしているが、これに限定されるものではなく、それ以外の状態量、例えばヨーレートやヨー角等に基づいて平衡点操舵角δf0を推定するようにしてもよい。
【0096】
さらに、上記実施の形態では、CCDカメラ17が撮影した画像に基づいて、車両1の目標走行ラインに対する相対位置(横変位)を検出するようにしているが、これに限定されるものではなく、上記論文に開示されるような誘導ケーブル方式や、公知の磁気マーカ方式によって横変位を検出するようにしてもよいし、或いは、本出願人が先に提案した特開平3−293411号公報に開示されるように走行路に沿って設置されたガードレールと車両との間の距離を超音波を利用して測定しその距離から目標走行ラインに対する車両の横方向位置を検出してもよいし、或いは、複数の方式を組み合わせてもよい。
【0097】
そして、上記実施の形態では、前輪3L,3Rを操舵するようにしているが、後輪を操舵するようにしてもよいし、或いは、前輪及び後輪の両方を操舵するようにしてもよい。
【0098】
また、上記実施の形態では、操舵角のみが自動制御できるようになっているが、例えば、ブレーキの状態やアクセルの状態を制御するアクチュエータを設け、そのアクチュエータの状態をコントローラ20から供給する制御信号によって制御可能とすることにより、車速をも自動制御できるような車両としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施の形態における車両の平面図である。
【図2】操舵系の一部を拡大した斜視図である。
【図3】コントローラの機能構成を含む系全体のブロック図である。
【図4】平衡点操舵角推定器の構成を示す図である。
【図5】コントローラ内で実行される処理の概要を示すフローチャートである。
【図6】実施の形態の動作を説明する波形図である。
【図7】第2の実施の形態におけるコントローラの機能構成を含む系全体のブロック図である。
【図8】第2の実施の形態における平衡点操舵角推定器の構成を示す図である。
【図9】第3の実施の形態におけるコントローラの機能構成を含む系全体のブロック図である。
【図10】直進走行状態をモデルとするカルマンフィルタを用いた自動操舵系の制御系の構成を示すブロック図である。
【図11】車両の2輪モデル図である。
【図12】直進走行状態をモデルとするカルマンフィルタを用いた自動操舵系が曲線路を操向する場合の制御系の構成を示すブロック図である。
【図13】直進走行状態をモデルとするカルマンフィルタを用いた自動操舵系の問題点の説明図である。
【符号の説明】
1 車両
2 ステアリングホイール
3L,3R 前輪(操舵輪)
10 自動操舵機構
14 舵角センサ
17 CCDカメラ
19 車速センサ
20 コントローラ
23 平衡点操舵角推定器
24 加算器
KF カルマンフィルタ(オブザーバー)
KF1 カルマンフィルタ(第1のオブザーバー)
KF2 カルマンフィルタ(第2のオブザーバー)
Claims (9)
- 目標走行ラインに対する車両の横方向の相対位置を検出する相対位置検出手段と、この相対位置検出手段の検出結果に応じて目標操舵角を演算する目標操舵角演算手段と、前記目標操舵角に基づいて車両の転舵輪に舵角を発生させる舵角発生手段と、を備えた自動操舵装置において、
前記目標操舵角演算手段は、前記目標走行ラインの曲率に応じて発生すべき平衡点操舵角を前記目標操舵角の移動平均値に基づいて推定する平衡点操舵角推定手段と、前記相対位置検出手段の検出結果に基づき前記目標走行ラインに対する実際の走行ラインの偏差を補正するための補正操舵角を演算する補正操舵角演算手段と、前記平衡点操舵角及び前記補正操舵角を加算して前記目標操舵角を求める加算手段と、を有することを特徴とする自動操舵装置。 - 目標走行ラインに対する車両の横方向の相対位置を検出する相対位置検出手段と、この相対位置検出手段の検出結果に応じて目標操舵角を演算する目標操舵角演算手段と、前記目標操舵角に基づいて車両の転舵輪に舵角を発生させる舵角発生手段と、を備えた自動操舵装置において、
前記目標操舵角演算手段は、前記目標走行ラインの曲率に応じて発生すべき平衡点操舵角を推定する平衡点操舵角推定手段と、前記相対位置検出手段の検出結果に基づき前記目標走行ラインに対する実際の走行ラインの偏差を補正するための補正操舵角を演算する補正操舵角演算手段と、前記平衡点操舵角及び前記補正操舵角を加算して前記目標操舵角を求める加算手段と、を有し、
前記補正操舵角演算手段は、直進走行状態をモデルとして構成され且つ従前の前記補正操舵角が入力されて平衡点周りの状態量を予測するオブザーバーを有し、そのオブザーバーが予測した状態量にレギュレータゲインを乗じて新たな補正操舵角を演算するようになっていることを特徴とする自動操舵装置。 - 前記平衡点操舵角推定手段は、前記目標操舵角の移動平均値に基づいて前記平衡点操舵角を推定するようになっている請求項2記載の自動操舵装置。
- 前記オブザーバーは、カルマンフィルタである請求項2又は請求項3記載の自動操舵装置。
- 目標走行ラインに対する車両の横方向の相対位置を検出する相対位置検出手段と、この相対位置検出手段の検出結果に応じて目標操舵角を演算する目標操舵角演算手段と、前記目標操舵角に基づいて車両の転舵輪に舵角を発生させる舵角発生手段と、を備えた自動操舵装置において、
前記目標操舵角演算手段は、前記目標走行ラインの曲率に応じて発生すべき平衡点操舵角を推定する平衡点操舵角推定手段と、前記相対位置検出手段の検出結果に基づき前記目標走行ラインに対する実際の走行ラインの偏差を補正するための補正操舵角を演算する補正操舵角演算手段と、前記平衡点操舵角及び前記補正操舵角を加算して前記目標操舵角を求める加算手段と、直進走行状態をモデルとして構成され且つ前記補正操舵角が入力されて前記目標走行ラインに対する車両の横方向の相対位置を予測するオブザーバーと、を有し、
前記平衡点操舵角推定手段は、前記オブザーバーが予測した前記目標走行ラインに対する車両の横方向の相対位置の予測値と、前記相対位置検出手段が検出した前記目標走行ラインに対する車両の横方向の相対位置の検出値との偏差が零になるような操舵角を、前記平衡点操舵角として推定するようになっていることを特徴とする自動操舵装置。 - 前記オブザーバーは、カルマンフィルタである請求項5記載の自動操舵装置。
- 目標走行ラインに対する車両の横方向の相対位置を検出する相対位置検出手段と、この相対位置検出手段の検出結果に応じて目標操舵角を演算する目標操舵角演算手段と、前記目標操舵角に基づいて車両の転舵輪に舵角を発生させる舵角発生手段と、を備えた自動操舵装置において、
前記目標操舵角演算手段は、前記目標走行ラインの曲率に応じて発生すべき平衡点操舵 角を推定する平衡点操舵角推定手段と、前記相対位置検出手段の検出結果に基づき前記目標走行ラインに対する実際の走行ラインの偏差を補正するための補正操舵角を演算する補正操舵角演算手段と、前記平衡点操舵角及び前記補正操舵角を加算して前記目標操舵角を求める加算手段と、直進走行状態をモデルとして構成され且つ前記補正操舵角が入力されて平衡点周りの状態量を予測する第1のオブザーバーと、直進走行状態をモデルとして構成され且つ前記車両の操舵角が入力されて前記目標走行ラインに対する車両の横方向の相対位置を予測する第2のオブザーバーと、を有し、
前記平衡点操舵角推定手段は、前記相対位置検出手段の検出値と前記第2のオブザーバーの予測値との偏差が零になるような操舵角を、前記平衡点操舵角として推定するようになっており、前記補正操舵角演算手段は、前記第1のオブザーバーが予測した前記状態量に基づいて前記補正操舵角を演算するようになっていることを特徴とする自動操舵装置。 - 前記第1のオブザーバー及び前記第2のオブザーバーは、カルマンフィルタである請求項7記載の自動操舵装置。
- 前記平衡点操舵角推定手段は、前記予測値と前記検出値との偏差に対する積分演算又は比例演算の少なくとも一方を行うことにより、前記平衡点操舵角を推定するようになっている請求項5乃至請求項8のいずれかに記載の自動操舵装置。
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